発明の詳細な説明
[関連出願の相互参照]
[0001]本出願は、2010年10月18日に出願の米国特許仮出願第61/394,269号に対する優先権を主張し、その全体の開示が、全ての目的で参照により本明細書に組み込まれる。
[発明の背景]
[0002]自己免疫障害は、重要かつ広範な医学的問題である。例えば、関節リウマチ(RA)は、米国内で200万人超が罹患している自己免疫疾患である。RAは、関節の慢性炎症を引き起こし、典型的には、関節の破壊及び機能的身体障害を引き起こす可能性を有する進行性の疾病である。関節リウマチの原因は不明であるが、遺伝的素因、感染性病原体及び環境要因が全て、疾患の病因に関係があるとされている。活動性RAの場合、症状は、疲労、食欲の欠如、軽度の発熱、筋肉及び関節の痛み及び硬直を含む場合がある。また、疾患の再燃の間には、滑膜の炎症に起因して、関節が頻繁に赤くなり、腫れ、痛み及び圧痛を伴うこともある。さらに、RAは全身性疾患であることから、炎症が、眼及び口の腺、肺の内壁、心膜、並びに血管を含めた、関節以外の臓器及び身体領域に影響を及ぼす可能性もある。
[0003]RA及び他の自己免疫障害の管理のための従来の治療は、即効性の「第一選択薬」及びより遅効性の「第二選択薬」を含む。第一選択薬は、疼痛及び炎症を低下させる。そのような第一選択薬の例として、アスピリン、ナプロキセン、イブプロフェン エトドラク及び他の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、並びに副腎皮質ステロイドが挙げられ、これらの薬物は、経口投与するか又は組織及び関節内に直接注射する。第二選択薬は、疾患の寛解を促し、進行性の関節の破壊を予防し、また、疾患修飾性抗リウマチ薬又はDMARDとも呼ばれる。第二選択薬の例として、金、ヒドロクロロキン(hydrochloroquine)、アザルフィジン、並びに免疫抑制剤、例として、メトトレキサート、アザチオプリン、シクロホスファミド、クロラムブシル及びシクロスポリンが挙げられる。しかし、これらの薬物のうちの多くが、有害な副作用を有する可能性がある。したがって、関節リウマチ及び他の自己免疫障害のための追加の療法が求められている。
[0004]腫瘍壊死因子α(TNFα)は、単核球及びマクロファージを含めた、多数の細胞型が産生するサイトカインであり、特定のマウス腫瘍の壊死を誘導する能力に基づいて当初同定された。続いて、悪液質と関連がある、カケクチンと呼ばれている因子が、TNFαと同一であることが示された。TNFαは、ショック、敗血症、感染、自己免疫疾患、RA、クローン病、移植片拒絶及び移植片対宿主病を含めた、多様な他のヒトの疾患及び障害の病態生理に関係があるとされている。
[0005]多様なヒト障害におけるヒトTNFα(hTNFα)の有害な役割に起因して、hTNFα活性を阻害又は相殺するための治療戦略が設計されている。特に、hTNFαに結合し、hTNFαを中和する抗体が、hTNFα活性を阻害するための手段として探求されている。そのような抗体の最早期のもののいくつかは、hTNFαを用いて免疫化したマウスのリンパ球から調製したハイブリドーマが分泌したマウスモノクローナル抗体(mAbs)であった(例えば、米国特許第5,231,024号を参照されたい)。これらのマウス抗hTNFα抗体はしばしば、hTNFαに対して高い親和性を示し、hTNFα活性を中和することが可能であったが、これらのマウス抗hTNFα抗体のin vivoにおける使用は、マウス抗体のヒトへの投与と関連がある問題、例として、短い血清半減期、特定のヒトエフェクター機能を誘発し得ないこと、及びヒトにおけるマウス抗体に対する望まれない免疫応答の惹起(「ヒト抗マウス抗体」(HAMA)反応)によって制限されてきた。
[0006]より最近になって、生物学的療法が、自己免疫障害、例として、関節リウマチの治療に適用されるようになった。例えば、4つのTNFα阻害剤、すなわち、キメラ抗TNFα mAbのレミケード(REMICADE)(商標)(インフリキシマブ)、TNFR−Ig Fc融合タンパク質のエンブレル(ENBREL)(商標)(エタネルセプト)、ヒト抗TNFα mAbのヒュミラ(HUMIRA)(商標)(アダリムマブ)、及びペグ化Fab断片のシムジア(CIMZIA)(登録商標)(セルトリズマブペゴル)、が、関節リウマチの治療のためにFDAの承認を得ている。また、シムジア(登録商標)は、中等度から重度のクローン病(CD)の治療のためにも使用される。そのような生物学的製剤療法が、関節リウマチ、及び他の自己免疫障害、例として、CDの治療における成功を実証しているが、そのような療法に対して、治療する対象が全て、応答する又は良好に応答するとは限らない。
[0007]さらに、TNFα阻害剤の投与は、薬物に対する免疫応答を誘導し、抗薬物抗体(ADA)、例として、ヒト抗キメラ抗体(HACA)、ヒト抗ヒト化抗体(HAHA)及びヒト抗マウス抗体(HAMA)の産生をもたらす可能性もある。そのようなHACA、HAHA又はHAMAの免疫応答は、過敏性反応、並びに免疫療法剤のTNFα阻害剤の薬物動態及び体内分布の劇的な変化と関連がある可能性があり、薬物を用いたさらなる治療を妨げる。さらに、HACA、HAHA又はHAMAの特定のアイソタイプの存在は、抗TNFα療法を投与している対象における異なる臨床転帰とも関連がある。
[0008]したがって、当技術分野では、試料中の特異的なADAアイソタイプ又はADAアイソタイプの特定の組合せの存在又はレベルを検出するためのアッセイが求められている。また、当技術分野では、抗TNFα療法の適切なコースを選択するための方法、抗TNFα療法をモニターするための方法、及び/又は治療の決定を導くための方法も求められている。本発明は、これらの必要性を満たし、その上、関連がある利点ももたらす。
[発明の概要]
[0009]本発明は、試料中の1つ又は複数の抗薬物抗体(ADA)アイソタイプの決定のためのアッセイ方法を提供する。非限定的な例として、本発明のアッセイは、抗TNFα薬、例として、レミケード(商標)(インフリキシマブ)又はヒュミラ(商標)(アダリムマブ)を投与しているADA陽性患者から得られた試料中の異なるADAアイソタイプを決定するのに特に有用である。また、本発明は、TNFα媒介型の疾患又は障害の治療のためにTNFα阻害剤を投与している対象において、療法を最適化するための方法、及び/又は毒性を低下させるための方法も提供する。
[0010]一態様では、本発明は、試料中の抗TNFα薬に対する自己抗体の少なくとも1つのアイソタイプ(例えば、複数のアイソタイプ)の存在(若しくは不在)又はレベルを検出するための方法であって、
(a)標識化抗TNFα薬を、抗TNFα薬に対する自己抗体の少なくとも1つのアイソタイプを有する又は有すると推測される試料と接触させて、標識化抗TNFα薬とそれぞれの自己抗体アイソタイプとの間で標識化複合体を形成させるステップと、
(b)標識化複合体をサイズ排除クロマトグラフィーに供して、異なる自己抗体アイソタイプを有する標識化複合体を、互いに、及び/又は遊離の標識化抗TNFα薬から分離するステップと、
(c)標識化複合体を検出し、それにより、抗TNFα薬に対する自己抗体の少なくとも1つのアイソタイプの存在(若しくは不在)又はレベルを検出するステップと
を含む方法を提供する。
[0011]いくつかの実施形態では、抗TNFα薬は、レミケード(商標)(インフリキシマブ)、ヒュミラ(商標)(アダリムマブ)、エンブレル(商標)(エタネルセプト)、シムジア(登録商標)(セルトリズマブペゴル)及びそれらの組合せからなる群から選択される。他の実施形態では、抗TNFα薬に対する自己抗体(例えば、抗薬物抗体又は「ADA」)は、ヒト抗キメラ抗体(HACA)、ヒト抗ヒト化抗体(HAHA)、ヒト抗マウス抗体(HAMA)及びそれらの組合せからなる群から選択される。
[0012]特定の実施形態では、少なくとも1つのアイソタイプは、少なくとも2、3、4又は5つ以上の複数のアイソタイプを含む。他の実施形態では、少なくとも1つのアイソタイプは、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMのアイソタイプ、それらのサブクラス、並びにそれらの組合せからなる群から選択される。場合によっては、試料は、全血、血清又は血漿である。
[0013]いくつかの実施形態では、抗TNFα薬に対する自己抗体は、HACAであり、試料を、レミケード(商標)(インフリキシマブ)療法を受けている対象から得る。特定の他の実施形態では、抗TNFα薬に対する自己抗体は、HAHAであり、試料を、ヒュミラ(商標)(アダリムマブ)療法を受けている対象から得る。
[0014]場合によっては、標識化抗TNFα薬は、蛍光物質標識化抗TNFα薬である。特定の実施形態では、標識化複合体を、蛍光標識の検出を使用して検出する。特定の実施形態では、それぞれの自己抗体アイソタイプを、その保持時間により、特徴付け、又は同定し、又は検出する。他の実施形態では、サイズ排除クロマトグラフィーは、サイズ排除−高速液体クロマトグラフィー(SE−HPLC)である。
[0015]関連の一態様では、本発明は、試料中の抗TNFα薬に対する自己抗体の少なくとも1つのアイソタイプ(例えば、複数のアイソタイプ)の存在(若しくは不在)又はレベルを検出するための方法であって、
(a)標識化抗TNFα薬、及び1つ又は複数の、異なる抗体アイソタイプに特異的な標識化抗Ig抗体を、抗TNFα薬に対する自己抗体の少なくとも1つのアイソタイプを有する又は有すると推測される試料と接触させて、標識化抗TNFα薬と標識化抗Ig抗体とそれぞれの自己抗体アイソタイプとの間で標識化複合体を形成させるステップであり、標識化抗TNFα薬と標識化抗Ig抗体とが異なる標識を含むステップと、
(b)標識化複合体をサイズ排除クロマトグラフィーに供して、異なる自己抗体アイソタイプを有する標識化複合体を、互いに、遊離の標識化抗TNFα薬から、及び/又は遊離の標識化抗Ig抗体から分離するステップと、
(c)標識化複合体を検出し、それにより、抗TNFα薬に対する自己抗体の少なくとも1つのアイソタイプの存在(若しくは不在)又はレベルを検出するステップと
を含む方法を提供する。
[0016]いくつかの実施形態では、抗TNFα薬は、レミケード(商標)(インフリキシマブ)、ヒュミラ(商標)(アダリムマブ)、エンブレル(商標)(エタネルセプト)、シムジア(登録商標)(セルトリズマブペゴル)及びそれらの組合せからなる群から選択される。他の実施形態では、抗TNFα薬に対する自己抗体(例えば、抗薬物抗体又は「ADA」)は、ヒト抗キメラ抗体(HACA)、ヒト抗ヒト化抗体(HAHA)、ヒト抗マウス抗体(HAMA)及びそれらの組合せからなる群から選択される。
[0017]特定の実施形態では、標識化抗TNFα薬と1つ又は複数の標識化抗Ig抗体とは、少なくとも1つのアイソタイプの異なるエピトープに結合する。1つの非限定的な例として、標識化抗TNFα薬と標識化抗Igアイソタイプ特異的抗体とは、特定の自己抗体アイソタイプの異なるエピトープに結合する。
[0018]特定の実施形態では、少なくとも1つのアイソタイプは、少なくとも2、3、4又は5つ以上の複数のアイソタイプを含む。他の実施形態では、少なくとも1つのアイソタイプは、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMのアイソタイプ、それらのサブクラス、並びにそれらの組合せからなる群から選択される。
[0019]いくつかの実施形態では、複数の標識化抗Ig抗体は、少なくとも2、3、4又は5つ以上の、異なる抗体アイソタイプに特異的な標識化抗Ig抗体を含む。他の実施形態では、1つ又は複数の標識化抗Ig抗体は、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMのアイソタイプ、それらのサブクラス、並びにそれらの組合せのうちの1つ又は複数に特異的な抗体からなる群から選択される。場合によっては、試料は、全血、血清又は血漿である。
[0020]いくつかの実施形態では、抗TNFα薬に対する自己抗体は、HACAであり、試料を、レミケード(商標)(インフリキシマブ)療法を受けている対象から得る。特定の他の実施形態では、抗TNFα薬に対する自己抗体は、HAHAであり、試料を、ヒュミラ(商標)(アダリムマブ)療法を受けている対象から得る。
[0021]場合によっては、標識化抗TNFα薬は、蛍光物質標識化抗TNFα薬である。特定の他の場合には、標識化抗Ig抗体は、蛍光物質標識化抗Ig抗体である。複数の、異なる抗体アイソタイプに特異的な標識化抗Ig抗体はそれぞれ、同じ標識を含んでもよく、又は異なる標識を含んでもよい。1つの非限定的な例では、複数の標識化抗Igアイソタイプ特異的抗体をそれぞれ、アレクサ−532を用いて標識し、標識化抗TNFα薬を、アレクサ−488を用いて標識する。
[0022]いくつかの実施形態では、標識化複合体を、蛍光標識の検出を使用して検出する。特定の実施形態では、標識化複合体を、標識化抗TNFα薬及び標識化抗Ig抗体の両方の、自己抗体アイソタイプに対する近接性結合(proximity binding)により発生するシグナルに基づいて検出する。特定の場合には、シグナルは、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)により検出される蛍光シグナルを含む。他の実施形態では、サイズ排除クロマトグラフィーは、サイズ排除−高速液体クロマトグラフィー(SE−HPLC)である。特定の実施形態では、それぞれの自己抗体アイソタイプを、その保持時間により、特徴付け、又は同定し、又は検出する。
[0023]さらに別の態様では、本発明は、TNFα媒介型の疾患又は障害の治療のための療法のコースを投与している対象において、療法を最適化するための方法、及び/又は毒性を低下させるための方法であって、
(a)対象から得られた試料を分析して、試料中の1つ又は複数のマーカーの存在、レベル又は遺伝子型を決定するステップと、
(b)統計学的アルゴリズムを、ステップ(a)において決定した1つ又は複数のマーカーの存在、レベル又は遺伝子型に適用するステップと、
(c)ステップ(b)において適用した統計学的アルゴリズムに基づいて、対象のための療法のコースの今後の用量を決定するステップ、又は異なる療法のコースを対象に投与すべきであるかどうかを決定するステップと
を含む方法を提供する。
[0024]非限定的な例として、患者試料(例えば、抗TNF薬物療法を受けている患者から得られた血清試料)中の、以下のクラスの生化学的マーカー、血清学的マーカー及び/又は遺伝学的マーカーのうちの1、2、3、4、5又は全6つの存在、レベル又は遺伝子型を、検出、測定又は決定することができる:
(1)抗TNF薬のレベル(例えば、遊離の抗TNFα治療用抗体のレベル)、
(2)抗薬物抗体(ADA)のレベル(例えば、抗TNF薬に対する自己抗体のレベル)、
(3)TNFαのレベル、
(4)1、2、3、4、5、6又は7つ以上の追加のサイトカイン(例えば、IL−6、IL−1β、IFN−γ、IL−10等)並びに/又は炎症の他の機構についてのマーカー(例えば、炎症性マーカー、例として、CRP、SAA、ICAM−1及び/若しくはVCAM−1)のレベル、
(5)炎症経路遺伝子等の1つ又は複数の遺伝学的マーカー中の1つ又は複数の突然変異の存在又は不在、例えば、1つ又は複数の炎症性マーカー中の変異体対立遺伝子(例えば、SNP)、例えば、NOD2/CARD15(例えば、米国特許第7,592,437号に記載されているSNP8、SNP12及び/若しくはSNP13)、ATG16L1(例えば、Lakatosら、Digestive and Liver Disease、40(2008)867〜873頁に記載されているrs2241880(T300A)SNP)、IL23R(例えば、Lakatosらに記載されているrs11209026(R381Q)SNP)、例えば、Gascheら(Eur.J.Gastroenterology & Hepatology(2003)15:599〜606頁)に記載されているヒト白血球抗原(HLA)遺伝子並びに/又はサイトカイン遺伝子、さらに、IBD5遺伝子座に属するDLG5及び/又はOCTN遺伝子等の存在又は不在、
(6)複数の時点における(例えば、第28週時、第60週時等の)上記の生化学的マーカー及び/又は血清学的マーカーのうちの1つ又は複数のレベル、さらに、
(7)それらの組合せ。
[0025]特定の実施形態では、次いで、単一の統計学的アルゴリズム又は2つ以上の統計学的アルゴリズムの組合せを、試料中の検出、測定又は決定した1つ又は複数(例えば、2、3、4、5、6又は7つ以上の組合せ)のマーカーの存在、レベル(濃度レベル)又は遺伝子型に適用し、それにより、抗TNF薬に関して、療法を最適化すること、毒性を低下させること、及び/又は治療処置の有効性をモニターすることができる。したがって、本発明の方法は、患者の免疫状態を決定することによって、患者の管理を決定する場合に有用性を見出す。
[0026]抗TNF薬(例えば、抗TNFα抗体)、並びに抗薬物抗体(ADA)、例として、HACA及びHAHAを検出するための方法は、国際公開第2011/056590号パンフレットにさらに記載されており、その全体の開示が、全ての目的で参照により本明細書に組み込まれる。
[0027]以下の詳細な説明及び図から、本発明の他の目的、特徴及び利点が当業者には明らかであろう。
[図面の簡単な説明]
[0028]図1は、サイズ排除HPLCを使用して、TNFα−アレクサ647とヒュミラ(商標)との間の結合を検出する、本発明のアッセイの例示的な実施形態を示す図である。
[0029]図2は、TNFα−アレクサ647に対するヒュミラ(商標)の結合の用量反応曲線を示すグラフである。
[0030]図3は、細胞架橋アッセイとして知られている、HACAのレベルを測定するための、ELISAに基づく現在の方法を示す図である。
[0031]図4は、レミケード(商標)に対して生成したHACA/HAHAの濃度を測定するための、本発明の自己抗体の検出アッセイの例示的な概要を示す図である。
[0032]図5は、レミケード(商標)−アレクサ647に対する抗ヒトIgG抗体の結合の用量反応分析を示す図である。
[0033]図6は、レミケード(商標)−アレクサ647に対する抗ヒトIgG抗体の結合の第2の用量反応分析を示す図である。
[0034]図7は、レミケード(商標)−アレクサ647に対する抗ヒトIgG抗体の結合の用量反応曲線を示すグラフである。
[0035]図8は、正常ヒト血清及びHACA陽性血清中におけるレミケード(商標)−アレクサ647の免疫複合体形成を示す図である。
[0036]図9は、本発明の細胞架橋アッセイ又は移動度シフトアッセイを使用して実施した、20人の患者の血清試料から得られたHACAの測定の概要を示す表である。
[0037]図10は、HACAの血清濃度を測定するための現在の方法及び本発明の新規のHACAアッセイの概要及び比較を示す表である。
[0038]図11は、正常な(NHS)又はHACA陽性(HPS)の血清と共にインキュベートした蛍光物質(Fl)標識化IFXのSE−HPLCプロファイルを示す図である。HACA陽性血清の量を増加させて、インキュベーション混合物に添加すると、IFX−Flのピークが、より高い分子質量が溶出する位置、すなわち、C1及びC2に用量依存的にシフトした。
[0039]図12は、移動度シフトアッセイにより決定した場合の、HACA陽性血清の希釈度を増加させて生成した結合している及び遊離のIFX−Flの用量反応曲線を示すグラフである。(A)HACA陽性血清の希釈度を増加させて、37.5ngのIFX−Flと共にインキュベートした。希釈度がより高い(HACAがより少ない)ほど、より多くの遊離のIFX−Flが、SE−HPLC分析において見出された。(B)HACA陽性血清の希釈度を増加させて、37.5ngのIFX−Flと共にインキュベートした。希釈度がより高い(HACAがより少ない)ほど、より少ない、HACAに結合しているIFX−Flが、SE−HPLC分析において見出された。
[0040]図13は、正常血清(NHS)又はIFXを加えた血清と共にインキュベートしたTNFα−FlのSE−HPLCプロファイルを示す図である。IFXを加えた血清の量を増加させて、インキュベーション混合物に添加すると、TNFαの蛍光ピークが、より高い分子質量が溶出する位置に用量依存的にシフトした。
[0041]図14は、移動度シフトアッセイにより決定した場合の、IFXを加えた血清の希釈度を増加させて生成した結合している及び遊離のTNFαの用量反応曲線を示す図である。IFXの濃度を増加させて、インキュベーション混合物に添加すると、遊離のTNFαのパーセントが減少し、一方、結合しているTNFαのパーセントは増加した。
[0042]図15は、移動度シフトアッセイによる、IFXを用いて治療するIBD患者における相対的なHACAレベル及びIFX濃度の異なる時点の測定を示すグラフである。
[0043]図16は、患者の管理、すなわち、IFXを用いて治療するIBD患者の血清中のHACAレベル及びIFX濃度の異なる時点の測定を示すグラフである。
[0044]図17は、(A)非中和自己抗体の存在、又は(B)中和自己抗体、例として、HACAの存在を検出するための、本発明のアッセイの例示的な実施形態を示す図である。
[0045]図18は、中和自己抗体、例として、HACAの存在を検出するための、本発明のアッセイの代替の実施形態を示す図である。
[0046]図19は、異なる量の抗ヒトIgGの存在下で正常ヒト血清(NHS)と共にインキュベートしたFl標識化ADLの移動度シフトのプロファイルを示す図である。抗ヒトIgGの量を増加させて、インキュベーション混合物に添加すると、遊離Fl−ADLのピーク(FA)が、より高い分子質量が溶出する位置、すなわち、C1及びC2に用量依存的にシフトし、一方、内部対照(IC)は変化しなかった。
[0047]図20は、抗ヒトIgGの、遊離Fl−ADLのシフトに対する用量反応曲線を示すグラフである。抗ヒトIgGの量を増加させて、37.5ngのFl−ADL及び内部対照と共にインキュベートした。より多くの抗体を反応混合物に添加するほど、遊離Fl−ADL対内部対照の比が低下した。
[0048]図21は、異なる量のADLの存在下で正常ヒト血清(NHS)と共にインキュベートしたFl標識化TNF−αの移動度シフトのプロファイルを示す図である。Ex=494nm;Em=519nm。ADLの量を増加させて、インキュベーション混合物に添加すると、遊離TNF−Flのピーク(FT)が、より高い分子質量が溶出する位置に用量依存的にシフトし、一方、内部対照(IC)のピークは変化しなかった。
[0049]図22は、ADLの、遊離TNF−α−Flのシフトに対する用量反応曲線を示すグラフである。ADLの量を増加させて、100ngのTNF−α−Fl及び内部対照と共にインキュベートした。より多くの抗体ADLを反応混合物に添加するほど、遊離TNF−α−Fl対内部対照の比が低下した。
[0050]図23は、HACA陽性患者の血清中の異なるADAアイソタイプの溶出時間を示すグラフである。
[0051]図24は、実施例8に記載の研究において使用した100個の対照試料の平均のプロットを示す図である。
[0052]図25は、実施例8に記載の研究において使用した100個のHACA陽性試料の平均のプロットを示す図である。
[0053]図26は、実施例8に記載の研究において使用した100個の対照試料及び100個のHACA陽性試料について、主要ピークの(すなわち、標識化レミケードのシグナル強度に対応する)シグナルを並べて比較するグラフである。
[0054]図27は、図26から得られた主要ピークのデータについての受信者操作特性(ROC)曲線を示すグラフである。曲線下面積(AUC)は、0.986であった。
[0055]図28は、実施例8に記載の研究において使用した100個のHACA陽性試料について、X軸上の非主要ピーク(これらは、IgGピーク、IgAピーク及びIgMピークの和に相当する)対Y軸上の主要ピークのプロットを示すグラフである。
[0056]図29は、実施例8に記載の研究において使用した200個の試料全てについての、IgGピーク対IgAピーク対IgMピークのプロットを示すグラフである。
[0057]図30は、本発明の蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)による自己抗体アイソタイピングアッセイのフォーマットを示す概略図である。
[0058]図31は、FRETに基づく、本発明の自己抗体アイソタイピングアッセイの結果を示すグラフである。
[発明の詳細な説明]
I.序論
[0059]TNFαは、炎症性疾患、自己免疫疾患、ウイルス、細菌及び寄生生物の感染、悪性腫瘍、並びに/又は神経変性疾患に関係があるとされており、関節リウマチ(RA)及びクローン病(CD)等の疾患における特定の生物学的療法に有用な標的である。TNFα阻害剤、例として、抗TNFα抗体は、重要なクラスの治療剤である。しかし、TNFα阻害剤の投与は、薬物に対する免疫応答を誘導し、抗薬物抗体(ADA)の産生をもたらす可能性があり、それにより薬物を用いたさらなる治療を妨げる。さらに、特定のADAアイソタイプの存在は、抗TNFα療法を投与している対象における異なる臨床転帰と関連がある場合もある。
[0060]本発明は、サイズ排除クロマトグラフィーを使用する均一移動度シフトアッセイが、試料中の1つ又は複数のADAアイソタイプの存在又はレベルを測定するのに特に好都合であるという発見に一部基づいている。非限定的な例として、本発明のアッセイは、抗TNFα薬、例として、レミケード(商標)(インフリキシマブ)又はヒュミラ(商標)(アダリムマブ)を投与しているADA陽性患者から得られた試料中の異なるADAアイソタイプを決定するのに特に有用である。
[0061]特に、本発明は、洗浄のステップを必要としない、「混合し、読み取る」ADAアイソタイピングアッセイを提供する。結果として、複合体を形成した試薬と複合体を形成しなかった試薬とが互いに容易に分離される。さらに、本発明のアッセイを使用すれば、遊離の抗TNFα薬からの潜在的な干渉はいずれも最小限に留まる。対照的に、自己抗体レベルを測定するための典型的なELISAは、TNFα阻害剤が身体から排除されるまで実施することができず、排除は3ヶ月かかり得る。さらに、本発明は一般に、抗TNFα抗体に加えて、多種多様な抗TNFα治療剤にも適用できる。また、本発明のアッセイは、抗原の固体表面への付着を回避し、無関係のIgGの非特異的結合を排除し、弱い親和性を有する抗体を検出し、現時点で利用可能な検出方法、例として、酵素イムノアッセイを上回る感度及び特異性の増加も示すので好都合である。
[0062]抗TNFα生物学的製剤(例えば、抗TNFα抗体)及び抗TNFα生物学的製剤に対して生成された自己抗体(例えば、ADAアイソタイプ)の血清濃度を測定することの重要性は、FDAが、薬物動態学的研究及び耐容性(例えば、免疫応答)研究を臨床治験の間に実施することを要求しているという事実により示される。また、本発明は、これらの薬物を投与している患者をモニターして、患者が正当な用量を与えられており、薬物が身体から急速に除かれ過ぎておらず、患者が薬物に対する免疫応答を発生させていないことを確かめる場合にも有用性を見出す。さらに、本発明は、最初の薬物に関する不成功に起因する異なる薬物間の切換えを導くのにも有用である。
[0063]また、本発明は、TNFα媒介型の疾患又は障害の治療のためにTNFα阻害剤を投与している対象において、療法を最適化するための方法、及び/又は毒性を低下させるための方法も提供する。さらに、本発明は、一つには、抗TNF薬物療法を投与している又は投与しようとしている患者のために治療の決定を導くのに有用な情報をもたらすことによって、抗TNF薬、例として、インフリキシマブ又はアダリムマブの投与と関連がある現在の制限に対処し、そうした制限も克服するので、特に好都合である。
II.定義
[0064]本明細書で使用する場合、別段の特定がない限り、以下の用語は、それらの用語に与えた意味を有する。
[0065]用語「TNFα」は、本明細書で使用する場合、17キロダルトンの分泌型及び26キロダルトンの膜結合型として存在するヒトサイトカインを含むことを意図し、TNFαの生物学的に活性な形態が、非共有結合性の17キロダルトンの分子の三量体から構成される。TNFαの構造は、例えば、Jonesら(1989)Nature、338:225〜228頁にさらに記載されている。用語TNFαは、ヒトTNFα、組換えヒトTNFα(rhTNFα)、又はヒトTNFαタンパク質に対して少なくとも約80%の同一性を有するポリペプチドを含むことを意図する。ヒトTNFαは、35個のアミノ酸(aa)の細胞質ドメイン、21個のaaの膜貫通セグメント、及び177個のaaの細胞外ドメイン(ECD)からなる(Pennicaら(1984)Nature 312:724)。ECD内で、ヒトTNFαは、アカゲザルのTNFαと97%のaa配列同一性を共有し、ウシ、イヌ、コットンラット、ウマ、ネコ、マウス、ブタ及びラットのTNFαと71%〜92%のaa配列同一性を共有する。TNFαは、標準的な組換え発現の方法により調製するか、又は商業的に購入する(例えば、R&D Systems、カタログ番号210−TA、Minneapolis、Minn.)ことができる。
[0066]用語「TNFα阻害剤」又は「TNFα薬」は、タンパク質、抗体、抗体断片、融合タンパク質(例えば、Ig融合タンパク質又はFc融合タンパク質)、多価結合性タンパク質(例えば、DVD Ig)、小型分子TNFαアンタゴニスト、並びにそれらの類似の天然若しくは非天然に存在する分子及び/又は組換えの形態及び/又は工学的に作製された形態を含めた作用剤であって、例として、TNFαの、TNFαについての細胞表面受容体との相互作用を阻害すること、TNFαタンパク質の産生を阻害すること、TNFα遺伝子の発現を阻害すること、細胞からのTNFαの分泌を阻害すること、TNFα受容体のシグナル伝達を阻害すること、又は結果として、対象においてTNFα活性の減少をもたらす任意の他の手段によって、TNFα活性を直接的又は間接的に阻害する作用剤を包含することを意図する。用語「TNFα阻害剤」又は「TNFα薬」は、好ましくは、TNFα活性を妨げる作用剤を含む。TNFα薬の例として、エタネルセプト(エンブレル(商標)、Amgen)、インフリキシマブ(レミケード(商標)、Johnson and Johnson)、ヒト抗TNFモノクローナル抗体のアダリムマブ(D2E7/ヒュミラ(商標)、Abbott Laboratories)、CDP571(Celltech)及びCDP870(Celltech)、並びにTNFα活性を阻害し、したがって、TNFα活性が有害である障害(例えば、RA)に罹患している又は罹患しているリスクがある対象に投与する場合、障害が治療される、他の化合物が挙げられる。
[0067]用語「免疫グロブリンアイソタイプ」又は「抗体アイソタイプ」は、重鎖及び/又は軽鎖の定常領域中に遺伝子の変動及び/又は差を含む関連がある抗体のファミリーの任意のメンバーを含む。抗体アイソタイプの非限定的な例として、(1)重鎖アイソタイプ、例として、α(例えば、IgA、又はそのサブクラス、例として、IgA1及び/若しくはIgA2)、δ(例えば、IgD)、γ(例えば、IgG、又はそのサブクラス、例として、IgG1、IgG2、IgG3及び/若しくはIgG4)、ε(例えば、IgE)、μ(例えば、IgM)、並びに(2)軽鎖アイソタイプ、例として、κ及びλが挙げられる。
[0068]用語「サイズ排除クロマトグラフィー」(SEC)は、溶液中の分子を、分子のサイズ及び/又は流体力学的体積に基づいて分離するクロマトグラフィーの方法を含むことを意図する。サイズ排除クロマトグラフィーは、大型分子又は巨大分子複合体、例として、タンパク質及びタンパク質のコンジュゲートに適用される。典型的には、水溶液を使用して、試料を、カラムを通して移動させる場合、当該技法は、ゲルろ過クロマトグラフィーとして知られている。
[0069]用語「複合体」、「免疫複合体」、「コンジュゲート」及び「イムノコンジュゲート」として、これらに限定されないが、抗TNFα薬に(例えば、非共有結合性手段により)結合しているTNFα、抗TNFα薬に対する自己抗体に(例えば、非共有結合性手段により)結合している抗TNFα薬、TNFα及び抗TNFα薬に対する自己抗体の両方に(例えば、非共有結合性手段により)結合している抗TNFα薬、抗TNFα薬に対する自己抗体のアイソタイプに(例えば、非共有結合性手段により)結合している抗TNFα薬、並びに抗TNFα薬に対する自己抗体のアイソタイプに(例えば、非共有結合性手段により)結合している抗TNFα薬と抗Igアイソタイプ特異的抗体が挙げられる。
[0070]本明細書で使用する場合、用語「標識化」により修飾されている実体は、実験的に検出可能である別の分子又は化学的実体とコンジュゲートしている任意の実体、分子、タンパク質、酵素、抗体、抗体断片、サイトカイン又は関連の種を含む。標識化実体のための標識として適切な化学種として、これらに限定されないが、蛍光染料(例えば、アレクサフルオール(Alexa Fluor)(登録商標)染料、例として、アレクサフルオール(登録商標)488、532又は647)、量子ドット、光学染料、発光染料、及び放射性核種、例えば、125Iが挙げられる。
[0071]句「蛍光標識の検出」は、蛍光標識を検出するための手段を含む。検出のための手段として、これらに限定されないが、クロマトグラフィー機器、例として、これらに限定されないが、サイズ排除−高速液体クロマトグラフィー、例として、これらに限定されないが、Agilent−1200HPLCシステムと共に一般に組み込まれる分光計、蛍光光度計、光度計、検出デバイスが挙げられる。
[0072]用語「療法を最適化すること」又は「療法を最適化する」は、特定の療法の用量(例えば、有効な量若しくはレベル)及び/又はタイプを最適化することを含む。例えば、抗TNFα薬の用量を最適化することは、対象に今後投与する抗TNFα薬の量を増加又は減少させることを含む。特定の場合には、抗TNFα薬のタイプを最適化することは、投与する抗TNFα薬を、1つの薬物から異なる薬物(例えば、異なる抗TNFα薬)に変化させることを含む。特定の他の場合には、療法を最適化することは、免疫抑制薬と組み合わせて、抗TNFα薬の用量を(例えば、以前の用量より増加させた、減少させた用量、又は以前の用量と同じ用量で)同時投与することを含むことができる。
[0073]用語「療法のコース」は、TNFα媒介型の疾患又は障害と関連がある1つ又は複数の症状を和らげる又は予防するために行う任意の治療のためのアプローチを含む。この用語は、TNFα媒介型の疾患又は障害を有する個体の健康状態を改善するのに有用な任意の化合物、薬物、手順及び/又はレジメンを投与することを網羅し、本明細書に記載する治療剤のうちのいずれかを含む。当業者であれば、本発明の方法を使用して、TNFα、抗TNFα薬及び/又は抗薬物抗体の存在又は濃度レベルに基づいて、療法のコース又は現在の療法のコースの用量のいずれかを変化させる(例えば、増加又は減少させる)ことができることを理解するであろう。
[0074]用語「免疫抑制剤」は、免疫抑制作用、例えば、照射、又は薬物、例として、抗代謝剤、抗リンパ球血清、抗体等の投与による場合の免疫応答の阻止又は減少を発生させることが可能である任意の物質を含む。適切な免疫抑制剤の例として、非限定的に、チオプリン系薬物、例として、アザチオプリン(AZA)及びその代謝産物;抗代謝剤、例として、メトトレキサート(MTX);シロリムス(ラパマイシン);テムシロリムス;エベロリムス;タクロリムス(FK−506);FK−778;抗リンパ球グロブリン抗体、抗胸腺細胞グロブリン抗体、抗CD3抗体、抗CD4抗体、並びに抗体−毒素のコンジュゲート;シクロスポリン;ミコフェノール酸;ミゾリビンモノホスファート;スコパロン;酢酸グラチラマー;それらの代謝産物;それらの薬学的に許容できる塩;それらの誘導体;それらのプロドラッグ;並びにそれらの組合せが挙げられる。
[0075]用語「チオプリン系薬物」は、アザチオプリン(AZA)、6−メルカプトプリン(6−MP)又は治療有効性を有する任意のそれらの代謝産物を含み、非限定的に、6−チオグアニン(6−TG)、6−メチルメルカプトプリンリボシド、6−チオイノシンヌクレオチド(例えば、6−チオイノシン一リン酸、6−チオイノシン二リン酸、6−チオイノシン三リン酸)、6−チオグアニンヌクレオチド(例えば、6−チオグアノシン一リン酸、6−チオグアノシン二リン酸、6−チオグアノシン三リン酸)、6−チオキサントシンヌクレオチド(例えば、6−チオキサントシン一リン酸、6−チオキサントシン二リン酸、6−チオキサントシン三リン酸)、それらの誘導体、それらの類似体、及びそれらの組合せを含む。
[0076]用語「試料」は、個体から得られた任意の生物学的標本を含む。本発明において使用するのに適切な試料として、非限定的に、全血、血漿、血清、唾液、尿、便、涙、任意の他の体液、組織試料(例えば、生検)、及びそれらの細胞抽出物(例えば、赤血球抽出物)が挙げられる。好ましい実施形態では、試料は、血清試料である。当業者であれば、試料、例として、血清試料を、分析の前に希釈することができることを理解するであろう。特定の場合には、用語「試料」は、これらに限定されないが、血液、身体組織、血清、リンパ液、リンパ節組織、脾臓組織、骨髄、又はこれらの組織のうちの1つ若しくは複数から得られた免疫グロブリン濃縮画分を含む。特定の他の場合には、用語「試料」は、血清を含むか、又は血清若しくは血液から得られた免疫グロブリン濃縮画分である。特定の場合には、用語「試料」は、体液を含む。
[0077]用語「TNFα阻害剤に対する応答性を予測すること」は、TNFα阻害剤を用いた対象の治療が、対象において有効である(例えば、測定可能な利益を対象にもたらす)か又はそうでない可能性を評価する能力を指すことを意図する。特に、治療が有効であるか又は有効でない可能性を評価するそのような能力は典型的には、治療を開始し、有効性の指標(例えば、測定可能な利益の指標)が対象内において観察されるようになってから発揮される。特に好ましいTNFα阻害剤は、関節リウマチ(RA)の治療の場合にヒトにおいて使用するためにFDAの承認を得ている生物学的薬剤であり、それらの薬剤は、本明細書に記載され、これらに限定されないが、アダリムマブ(ヒュミラ(商標))、インフリキシマブ(レミケード(商標))及びエタネルセプト(エンブレル(商標))を含む。
[0078]用語「対象」、「患者」又は「個体」は、典型的にはヒトを指すが、また、例えば、他の霊長類、げっ歯類、イヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、ブタ等を含めて、他の動物も指す。
III.実施形態の記載
[0079]本発明は、試料中の1つ又は複数の抗薬物抗体(ADA)アイソタイプの決定のためのアッセイ方法を提供する。非限定的な例として、本発明のアッセイは、抗TNFα薬、例として、レミケード(商標)(インフリキシマブ)又はヒュミラ(商標)(アダリムマブ)を投与しているADA陽性患者から得られた試料中の異なるADAアイソタイプを決定するのに特に有用である。また、本発明は、TNFα媒介型の疾患又は障害の治療のためにTNFα阻害剤を投与している対象において、療法を最適化するための方法、及び/又は毒性を低下させるための方法も提供する。
[0080]一態様では、本発明は、試料中の抗TNFα薬に対する自己抗体の少なくとも1つのアイソタイプ(例えば、複数のアイソタイプ)の存在(若しくは不在)又はレベルを検出するための方法であって、
(a)標識化抗TNFα薬(例えば、標識化抗TNFα抗体)を、抗TNFα薬に対する自己抗体の少なくとも1つのアイソタイプ(例えば、IgA、IgD、IgE、IgG及び/又はIgM)を有する又は有すると推測される試料と接触させて、標識化抗TNFα薬とそれぞれの自己抗体アイソタイプとの間で標識化複合体(すなわち、免疫複合体又はコンジュゲート)を形成させる(すなわち、標識化抗TNFα薬と自己抗体アイソタイプとを互いに非共有結合性につなぐ)ステップと、
(b)標識化複合体をサイズ排除クロマトグラフィーに供して、異なる自己抗体アイソタイプを有する標識化複合体を、互いに、及び/又は遊離の標識化抗TNFα薬から分離するステップと、
(c)標識化複合体を検出し、それにより、抗TNFα薬に対する自己抗体の少なくとも1つのアイソタイプの存在(若しくは不在)又はレベルを検出するステップと
を含む方法を提供する。
[0081]関連の一態様では、本発明は、試料中の抗TNFα薬に対する自己抗体の少なくとも1つのアイソタイプ(例えば、複数のアイソタイプ)の存在(若しくは不在)又はレベルを検出するための方法であって、
(a)標識化抗TNFα薬(例えば、標識化抗TNFα抗体)、及び異なる抗体アイソタイプ(例えば、IgA、IgD、IgE、IgG及び/又はIgMのアイソタイプ)に特異的な標識化抗Ig抗体の1つ又は複数を、抗TNFα薬に対する自己抗体の少なくとも1つのアイソタイプを有する又は有すると推測される試料と接触させて、標識化抗TNFα薬と標識化抗Ig抗体とそれぞれの自己抗体アイソタイプとの間で標識化複合体(すなわち、免疫複合体又はコンジュゲート)を形成させる(すなわち、標識化複合体の構成成分を互いに非共有結合性につなぐ)ステップであり、標識化抗TNFα薬と標識化抗Ig抗体とが異なる標識を含むステップと、
(b)標識化複合体をサイズ排除クロマトグラフィーに供して、異なる自己抗体アイソタイプを有する標識化複合体を、互いに、遊離の標識化抗TNFα薬から、及び/又は遊離の標識化抗Ig抗体から分離するステップと、
(c)標識化複合体を検出し、それにより、抗TNFα薬に対する自己抗体の少なくとも1つのアイソタイプの存在(若しくは不在)又はレベルを検出するステップと
を含む方法を提供する。
[0082]いくつかの実施形態では、抗TNFα薬は、レミケード(商標)(インフリキシマブ)、ヒュミラ(商標)(アダリムマブ)、エンブレル(商標)(エタネルセプト)、シムジア(登録商標)(セルトリズマブペゴル)及びそれらの組合せからなる群から選択される。
[0083]特定の実施形態では、方法は、抗TNFα薬物療法を投与している対象から得られた試料、例として、全血、血清又は血漿の試料中の少なくとも1、2、3、4又は5つ以上の抗体アイソタイプの(濃度)レベルを測定するのに有用である。場合によっては、方法は、抗TNFα薬物療法、例として、インフリキシマブ(IFX)を投与しているADA陽性患者中の異なる抗薬物抗体(ADA)アイソタイプ、例として、ATI(すなわち、IFXに対する抗体;「HACA」)の異なるアイソタイプを決定するのに有用である。他の場合には、方法は、抗TNFα薬物療法、例として、アダリムマブを投与しているADA陽性患者中の異なるADAアイソタイプ、例として、ATA(すなわち、アダリムマブに対する抗体;「HAHA」)の異なるアイソタイプを決定するのに有用である。抗体アイソタイプの非限定的な例として、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMが挙げられる。特定の実施形態では、本発明の方法は、特異的なADAアイソタイプ又はADAアイソタイプの特定の組合せの存在又はレベルに基づいて、抗TNFα薬物療法を投与している患者における異なる臨床転帰を関連付けるのを援助又は支援する。
[0084]抗TNFα薬、又は抗体アイソタイプに特異的な抗Ig抗体を、多様な検出可能な基(複数可)を用いて標識することができる。特定の実施形態では、抗TNFα薬及び/又は抗Igアイソタイプ特異的抗体を、蛍光物質又は蛍光染料を用いて標識する。本明細書に記載する抗TNFα薬及び抗Igアイソタイプ特異的抗体に結合させることができる、標識として使用するのに適している蛍光物質の非限定的な例として、全体が、全ての目的で参照により本明細書に組み込まれるMolecular Probes Catalogueに列挙されているものが挙げられる(R.Haugland、The Handbook−A Guide to Fluorescent Probes and Labeling Technologies、10版、Molecular probes,Inc.(2005)を参照されたい)。そのような例示的な蛍光物質として、これらに限定されないが、アレクサフルオール(登録商標)染料、例として、アレクサフルオール(登録商標)350、アレクサフルオール(登録商標)405、アレクサフルオール(登録商標)430、アレクサフルオール(登録商標)488、アレクサフルオール(登録商標)514、アレクサフルオール(登録商標)532、アレクサフルオール(登録商標)546、アレクサフルオール(登録商標)555、アレクサフルオール(登録商標)568、アレクサフルオール(登録商標)594、アレクサフルオール(登録商標)610、アレクサフルオール(登録商標)633、アレクサフルオール(登録商標)635、アレクサフルオール(登録商標)647、アレクサフルオール(登録商標)660、アレクサフルオール(登録商標)680、アレクサフルオール(登録商標)700、アレクサフルオール(登録商標)750及び/又はアレクサフルオール(登録商標)790、並びに他の蛍光物質が挙げられ、他の蛍光物質には、非限定的に、ダンシルクロリド(DNS−Cl)、5−(ヨードアセトアミド)フルオロセイン(fluoroscein)(5−IAF)、フルオロセイン(fluoroscein)5−イソチオシアナート(FITC)、テトラメチルローダミン5−(及び6−)イソチオシアナート(TRITC)、6−アクリロイル−2−ジメチルアミノナフタレン(アクリロダン)、7−ニトロベンゾ−2−オキサ−1,3,−ジアゾール−4−イルクロリド(NBD−Cl)、臭化エチジウム、ルシファーイエロー、5−カルボキシローダミン6G塩酸塩、リサミンローダミンBスルホニルクロリド、テキサスレッド(Texas Red)(商標)スルホニルクロリド、BODIPY(商標)、ナフタルアミン(naphthalamine)スルホン酸(例えば、1−アニリノナフタレン−8−スルホン酸(ANS)、6−(p−トルイジニル)ナフタレン−2−スルホン酸(TNS)等)、アントロイル脂肪酸、DPH、パリナリン酸、TMA−DPH、フルオレニル脂肪酸、フルオレセイン−ホスファチジルエタノールアミン、テキサスレッド−ホスファチジルエタノールアミン、ピレニル−ホファチジルコリン(phophatidylcholine)、フルオレニル−ホスフォチジルコリン(phosphotidylcholine)、メロシアニン540、1−(3−スルホナトプロピル)−4−[β−[2[(ジ−n−ブチルアミノ)−6ナフチル]ビニル]ピリジニウムベタイン(ナフチルスチリル)、3,3’ジプロピルチアジカルボシアニン(diS−C3−(5))、4−(p−ジペンチルアミノスチリル)−1−メチルピリジニウム(di−5−ASP)、Cy−3ヨードアセトアミド、Cy−5−N−ヒドロキシスクシンイミド、Cy−7−イソチオシアナート、ローダミン800、IR−125、チアゾールオレンジ、アズールB、ナイルブルー、フタロシアニンAl、Oxaxine 1,4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)、Hoechst33342、TOTO、アクリジンオレンジ、エチジウムホモダイマー、N(エトキシカルボニルメチル)−6−メトキシキノリニウム(MQAE)、Fura−2、カルシウムグリーン、カルボキシSNARF−6、BAPTA、クマリン、植物性蛍光物質(phytofluor)、コロネン、金属−配位子の錯体、IRDye(登録商標)700DX、IRDye(登録商標)700、IRDye(登録商標)800RS、IRDye(登録商標)800CW、IRDye(登録商標)800、Cy5、Cy5.5、Cy7、DY676、DY680、DY682、DY780、及びそれらの混合物がある。追加の適切な蛍光物質として、酵素−補助因子、ランタニド、緑色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、又はそれらの突然変異体及び派生体が挙げられる。1つの非限定的な例では、複数の抗Igアイソタイプ特異的抗体をそれぞれ、アレクサ−532を用いて標識し、抗TNFα薬を、アレクサ−488を用いて標識する。
[0085]典型的には、蛍光基は、ポリメチン、フタロシアニン、シアニン、キサンテン、フルオレン、ローダミン、クマリン、フルオレセイン及びBODIPY(商標)を含む染料のカテゴリーから選択される蛍光物質である。
[0086]一実施形態では、蛍光基が、約650〜約900nmの間の範囲において発光する近赤外(NIR)蛍光物質である。近赤外蛍光技術の使用は、生物学的アッセイにおいて好都合である。その理由は、生体基質の自発蛍光に由来するバックグラウンドを実質的に排除する又は低下させるからである。近IR蛍光技術の別の利益は、散乱強度が波長の逆数の四乗に比例するので、励起源からの散乱光が大幅に低下することである。低いバックグラウンドの蛍光及び低い散乱から、高いシグナル対ノイズの比が得られ、この高い比は、極めて感度の高い検出に不可欠である。さらに、生物学的組織が、近IR領域(650nm〜900nm)において光学的に透明なウィンドウであることも、NIR蛍光を、光が生物学的構成成分を通って伝達することを必要とするin vivoにおける画像法及び細胞内の検出に適用する場合の貴重な技術にする。この実施形態の態様内では、近赤外(NIR)蛍光物質は、好ましくは、IRDye(登録商標)700DX、IRDye(登録商標)700、IRDye(登録商標)800RS、IRDye(登録商標)800CW、IRDye(登録商標)800、アレクサフルオール(登録商標)660、アレクサフルオール(登録商標)680、アレクサフルオール(登録商標)700、アレクサフルオール(登録商標)750、アレクサフルオール(登録商標)790、Cy5、Cy5.5、Cy7、DY676、DY680、DY682及びDY780からなる群から選択される。特定の実施形態では、近赤外基は、IRDye(登録商標)800CW、IRDye(登録商標)800、IRDye(登録商標)700DX、IRDye(登録商標)700又はDynomic DY676である。
[0087]蛍光標識化を、蛍光物質の化学反応性誘導体を使用して達成する。一般的な反応性基として、アミン反応性イソチオシアナート誘導体、例として、FITC及びTRITC(フルオレセイン及びローダミンの誘導体)、アミン反応性サクシニミジルエステル、例として、NHS−フルオレセイン、並びにスルフヒドリル反応性マレイミド活性化フルオール、例として、フルオレセイン−5−マレイミドを含み、これらの誘導体のうちの多くが市販されている。これらの反応性染料のうちのいずれかが抗TNFα薬又は抗Igアイソタイプ特異的抗体と反応すると、蛍光物質と抗TNFα薬又は抗Igアイソタイプ特異的抗体との間で形成された安定な共有結合が得られる。
[0088]特定の場合には、蛍光標識化反応に続いてしばしば、標識化標的分子から未反応の蛍光物質を全て除去することが必要になる。この除去はしばしば、蛍光物質と標識化タンパク質との間のサイズの差を生かして、サイズ排除クロマトグラフィーにより達成する。
[0089]反応性蛍光染料は、多くの供給元から入手可能である。それらの色素は、標的分子内の種々の官能基につなぐために、異なる反応性基を有する状態で得ることができる。また、それらの色素は、標識化反応を実施するための全ての構成成分を含有する標識化キットとしても入手可能である。1つの特定の実施形態では、Invitrogen製のアレクサフルオール(登録商標)647C2マレイミド(Cat.番号A−20347)を使用する。
[0090]自己抗体アイソタイプに対する抗TNFα薬の、又は自己抗体アイソタイプに対する抗TNFα薬及び抗Ig抗体の特異的な免疫学的結合を、直接的又は間接的に検出することができる。直接的な標識は、抗体につなげた蛍光性又は発光性のタグ、金属、染料、放射性核種等を含む。特定の場合には、ヨウ素−125(125I)を用いて標識した抗TNFα薬又は抗Ig抗体を使用して、試料中の1つ又は複数のADAアイソタイプの存在又は濃度レベルを決定することができる。他の場合には、化学発光性の抗TNFα薬又は抗Ig抗体を使用する化学発光アッセイが、試料中のADAアイソタイプの敏感な、放射性によらない検出に適している。また、特定の場合には、蛍光色素を用いて標識した抗TNFα薬及び/又は抗Ig抗体も、試料中の1つ又は複数のADAアイソタイプの濃度レベルを決定するのに適している。蛍光色素の例として、非限定的に、アレクサフルオール(登録商標)染料、DAPI、フルオレセイン、Hoechst33258、R−フィコシアニン、B−フィコエリトリン、R−フィコエリトリン、ローダミン、テキサスレッド及びリサミンが挙げられる。蛍光色素に連結させる二次抗体を商業的に得ることができる。非限定的な例として、ヤギF(ab’)2抗ヒトIgG−FITCが、Tago Immunologicals(Burlingame、CA)から入手可能である。
[0091]間接的な標識として、当技術分野でよく知られている種々の酵素、例として、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ(AP)、β−ガラクトシダーゼ、ウレアーゼ等が挙げられる。西洋ワサビ−ペルオキシダーゼ検出系は、例えば、発色基質のテトラメチルベンジジン(TMB)と共に使用することができ、この検出系は、過酸化水素の存在下で可溶性の生成物をもたらし、この生成物は450nmにおいて検出可能である。アルカリホスファターゼ検出系は、例えば、発色基質のリン酸p−ニトロフェニルと共に使用することができ、この検出系は、405nmにおいて容易に検出可能な可溶性の生成物をもたらす。同様に、β−ガラクトシダーゼ検出系は、発色基質のo−ニトロフェニル−β−D−ガラクトピラノシド(ONPG)と共に使用することができ、この検出系は、410nmにおいて検出可能な可溶性の生成物をもたらす。ウレアーゼ検出系は、基質、例として、尿素−ブロモクレゾールパープル(Sigma Immunochemicals;St.Louis、MO)と共に使用することができる。酵素に連結させる有用な二次抗体を、いくつかの商業的供給元から得ることができ、例えば、ヤギF(ab’)2抗ヒトIgG−アルカリホスファターゼを、Jackson ImmunoResearch(West Grove、PA.)から購入することができる。
[0092]例えば、発色基質からの色を検出するための分光光度計、放射線を検出するための放射線カウンター、例として、125Iの検出のためのガンマカウンター、又は特定の波長の光の存在下で蛍光を検出するための蛍光光度計を使用して直接的又は間接的な標識からのシグナルを分析することができる。酵素連結抗体の検出のために、分光光度計、例として、EMAXマイクロプレートリーダー(Molecular Devices;Menlo Park、CA)を使用して製造元の指示に従って、1つ又は複数のADAアイソタイプの量の定量分析を行うことができる。所望により、本発明のアッセイは、自動化しても又はロボットにより実施してもよく、複数の試料からのシグナルを同時に検出することができる。
[0093]特定の実施形態では、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を、本発明のアッセイにおいて使用する。SECの基礎をなす原理は、異なるサイズの粒子が固定相を異なる速度で通って溶出する(ろ過される)ことである。こうした溶出の結果、粒子の溶液がサイズに基づいて分離される。全ての粒子が同時又はほぼ同時に充填されるならば、同じサイズの粒子は一緒に溶出する。サイズ排除カラムはそれぞれ、分離することができるある範囲の分子量を有する。排除限界は、こうした分離可能な範囲の上限の分子量と定義され、排除限界では、分子が大き過ぎて固定相中に捕捉されない。浸透限界は、分離の範囲の下限の分子量と定義され、浸透限界では、十分に小さなサイズの分子は、固定相のポア中を完全に貫通することができ、この分子質量未満の分子は全て、非常に小さいので単一のバンドとして溶出する。
[0094]特定の実施形態では、溶出液を、一定体積又は画分として収集する。粒子のサイズが類似するほど、粒子が、同じ画分中にあり、別個には検出されない可能性が高まる。好ましい実施形態では、収集した画分を分光学的技法により調べて、溶出した粒子の濃度を決定する。典型的には、本発明に有用な、分光法による検出技法として、これらに限定されないが、蛍光光度法、屈折率(RI)及び紫外(UV)が挙げられる。特定の場合には、溶出体積は、分子の流体力学的体積の対数に関しておおよそ線形に減少する(すなわち、より重い部分が最初に出現する)。
[0095]場合によっては、試料、例として、血清試料中に存在するADAアイソタイプの(濃度)レベルを、検量線、及び/又は1つ若しくは複数の対照と比較することができる。特定の場合には、標識化抗TNFα薬を、液相反応中で、既知の量の抗Igアイソタイプ特異的抗体と共にインキュベートして、検量線を作成することができる。
[0096]特定の場合には、本発明の自己抗体アイソタイピングの方法は、近接性に基づき、したがって、標識化抗TNFα薬及び標識化抗Igアイソタイプ特異的抗体の両方の、自己抗体アイソタイプに対する近接性結合により発生するシグナルを利用する。特定の実施形態では、近接アッセイにより発生したシグナルは、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)により検出することができる蛍光シグナルである。他の実施形態では、本明細書に記載するか又は当業者に知られている別の近接性に基づく方法により、シグナルを検出する。
[0097]場合によっては、複数の、異なる抗体アイソタイプに特異的な標識化抗Ig抗体がそれぞれ、同じ標識を含む。他の場合には、複数の、異なる抗体アイソタイプに特異的な標識化抗Ig抗体がそれぞれ、異なる標識を含む。当業者であれば、抗体の特異的なクラス又はサブクラス(例えば、IgA、IgD、IgE、IgG若しくはIgMのアイソタイプ、又はそれらのIgサブクラス、例として、IgG1、IgG2、IgG3及び/若しくはIgG4)に結合する抗Ig抗体が、例えば、Miltenyi Biotec GmbH、Jackson ImmunoResearch Laboratories,Inc.、Santa Cruz Biotechnology,Inc.、Abcam plc等の供給元、及び他から市販されていることを理解するであろう。特定の場合には、抗Ig抗体は、特異的なIgサブクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4)を検出する。特定の他の場合には、抗Ig抗体は、全てのIgサブクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4)を検出する。例えば、(例えば、ヒトIgAの両方のサブクラスを検出する、クローンIS11−8E10に由来する)抗IgA抗体、(例えば、ヒトIgGアイソタイプの全てのサブクラスを検出する、クローンIS11−3B2.2.3に由来する)抗IgG抗体、及び(例えば、IgMアイソタイプを検出する、クローンPJ2−22H3に由来する)抗IgM抗体を、Miltenyi Biotec GmbHから得、本明細書に記載する方法及び当業者に知られている方法を使用して、それらの抗体に、検出可能な標識、例として、蛍光物質を結合させることによって標識することができる。場合によっては、Life Technologies製のMolecular Probesキット、例として、アレクサフルオールタンパク質標識化キット及びアレクサフルオールモノクローナル標識化キット(これらは、アミン反応性アレクサフルオール色素(例えば、アレクサフルオールサクシニミジル(NHS)エステル及び/又はアレクサフルオールテトラフルオロフェニル(TFP)エステル)を含む)を使用して、アレクサフルオール色素を抗体上の接近可能な一級アミン基に選択的に連結させることができる。
[0098]用語「近接性」は、本明細書で使用する場合、抗TNFα薬が、抗Igアイソタイプ特異的抗体に対して、空間的に付近にあること又は近いことへの言及を含み、この場合、両方が、同じ自己抗体アイソタイプ(すなわち、抗薬物抗体アイソタイプ、例として、IgA ATI)に結合する。特定の実施形態では、自己抗体アイソタイプに対する抗TNFα薬の結合が、同じ自己抗体アイソタイプに対する抗Igアイソタイプ特異的抗体の結合の付近の距離又はそうした結合に近い距離において生じる場合、検出可能なシグナルを発生させるのに十分である。いくつかの実施形態では、用語「近接性」は、標識化抗体が同じ自己抗体アイソタイプに結合する場合、検出可能なシグナルを発生させるのに十分である、標識化抗体間の距離を含む。特定の他の実施形態では、用語「近接性」は、検出可能なシグナルを発生させるのに十分である、同じ自己抗体アイソタイプに結合している抗体につながる検出可能な標識(例えば、蛍光標識)間の距離を含む。
[0099]FRETは、2つの蛍光分子間のエネルギー移動機構を記載する。蛍光ドナーを、特異的な蛍光励起波長で励起すると、この励起状態が、長距離双極子間カップリング機構により、第2の分子、すなわち、アクセプターに非放射性に移動する。次いで、ドナーは、電子基底状態に戻る。例えば、Lakowicz、Principles of Fluorescence Spectroscopy、Plenum Publishing Corp.、2版(1999)を参照されたい。本発明の状況においては、抗TNFα薬(例えば、IFX)を、第1の蛍光染料を含むドナーを用いて標識することができ、抗Igアイソタイプ特異的抗体(例えば、抗IgA、抗IgG)を、第1の蛍光染料とは異なる励起及び放射のスペクトルを有する第2の蛍光染料を含むアクセプターを用いて標識することができる。検出可能な標識として使用するのに適している蛍光染料の非限定的な例を上記に記載し、それらとして、蛍光物質、例として、アレクサフルオール(登録商標)染料(例えば、アレクサフルオール(登録商標)350、アレクサフルオール(登録商標)405、アレクサフルオール(登録商標)430、アレクサフルオール(登録商標)488、アレクサフルオール(登録商標)514、アレクサフルオール(登録商標)532、アレクサフルオール(登録商標)546、アレクサフルオール(登録商標)555、アレクサフルオール(登録商標)568、アレクサフルオール(登録商標)594、アレクサフルオール(登録商標)610、アレクサフルオール(登録商標)633、アレクサフルオール(登録商標)635、アレクサフルオール(登録商標)647、アレクサフルオール(登録商標)660、アレクサフルオール(登録商標)680、アレクサフルオール(登録商標)700、アレクサフルオール(登録商標)750及び/又はアレクサフルオール(登録商標)790)、並びに他の蛍光物質、例えば、フルオレセイン、FITC、ローダミン、テキサスレッド、TRITC、Cy3、Cy5、Cy5.5、Cy7等、それらの誘導体、並びにそれらの組合せが挙げられる。
[0100]いくつかの実施形態では、自己抗体アイソタイプ(すなわち、抗TNFα薬に対する自己抗体のアイソタイプ)の存在(若しくは不在)又はレベルについて取り調べようとする試料、例として、血清試料を、標識化抗TNFα薬及び標識化抗Igアイソタイプ特異的抗体の両方と共にインキュベートする。特定の抗Igアイソタイプ特異的抗体(例えば、抗IgA)により検出される自己抗体アイソタイプ(例えば、IgA ADA)が試料中に存在しない場合には、ドナーの発光を、ドナーの励起時に検出する。他方、特定の抗Igアイソタイプ特異的抗体(例えば、抗IgA)により検出される自己抗体アイソタイプ(例えば、IgA ADA)が試料中に存在する場合には、標識化抗TNFα薬及び特定の標識化抗Igアイソタイプ特異的抗体の両方と、自己抗体アイソタイプ(例えば、IgA ATI)との相互作用に起因して、ドナー及びアクセプターの蛍光物質が近接するようになる(例えば、互いに約1〜約300nm又は約1〜約200nm、例えば、約1、5、10、25、50、75、100、125、150、175、200、225、250、275、300nm又はそれらの任意の範囲等、あるいは約1〜約10nm、例えば、約1、2、3、4、5、6、7、8、9若しくは10nm又はそれらの任意の範囲にある)。ドナー蛍光物質からアクセプター蛍光物質への分子間FRETの結果、アクセプターの発光が圧倒的に観察されるようになる。例えば、抗TNFα薬上の、ドナー蛍光物質としてのアレクサ−488が、480nmにおいて励起されると、一重項酸素分子の形成が誘発され、これらの分子は、チオキセン誘導体と反応して、化学発光を発生させ、この発光に続いて、抗Igアイソタイプ特異的抗体上のアクセプター蛍光物質のアレクサ−532が励起され、575nmにおいて発光する。
[0101]実施例29は、FRETを使用して、少なくとも1、2、3、4又は5つ以上のATIアイソタイプ、例えば、IgA ATI、IgD ATI、IgE ATI、IgG ATI及び/又はIgM ATIのアイソタイプ等の存在(若しくは不在)又はレベルを決定するための本発明の例示的な近接性に基づくアイソタイピングアッセイを記載する。非限定的な例として、第1の蛍光物質(「F1」)を用いて標識したIFX及び第2の蛍光物質(「F2」)を用いて標識した抗IgA抗体を、1つ又は複数のATIアイソタイプ、例として、IgA ATIを含有する試料、例として、血清試料と共にインキュベートする。いくつかの実施形態では、F1及びF2の両方の蛍光物質が密接に近接している場合のみに、F2が、F1により励起され、F1−IFXとF2−抗IgAとIgA ATIとの三成分複合体の存在及び/又はレベルが、試料中に存在するIgA ATIアイソタイプの存在及び/又はレベルの指標となる。
[0102]他の実施形態では、自己抗体アイソタイピング近接アッセイにより発生するシグナルは、電気泳動の技法、例として、キャピラリー電気泳動(CE)を使用して検出することができる蛍光シグナルである。CE分析は一般に、高い(キロボルトのレベルの)分離電圧の存在下の小さな直径の石英製キャピラリーの内部で生じ、分離時間は数分である。本発明の状況においては、抗TNFα薬(例えば、IFX)を、光活性化可能な酵素的ハサミを用いて標識することができ、抗Igアイソタイプ特異的抗体(例えば、抗IgA、抗IgD、抗IgE、抗IgG及び/又は抗IgM)を、電気泳動タグレポーターを用いて標識することができる。光活性化可能な酵素的ハサミ及び小型の蛍光レポーター分子のeTag(商標)ファミリー等の電気泳動タグレポーターの非限定的な例が、米国特許第6,673,550号に記載されている。自己抗体アイソタイプ(例えば、IgA ATI)に対する標識化抗TNFα薬の結合が、同じ自己抗体アイソタイプに対する標識化抗Igアイソタイプ特異的抗体の結合に近接している(例えば、互いに約1〜約300nm又は約1〜約200nm、例えば、約1、5、10、25、50、75、100、125、150、175、200、225、250、275、300nm又はそれらの任意の範囲等、あるいは約1〜約10nm、例えば、約1、2、3、4、5、6、7、8、9若しくは10nm又はそれらの任意の範囲にある)場合に、光活性化可能な酵素的ハサミによる電気泳動タグレポーターの切断が誘発される。光活性による切断に続いて、放出された電気泳動タグレポーター分子を、例えば、Chan−Huiら、Clin.Immun.、111:162〜174頁(2004)の記載に従って、CE分離により分析する。それに代わって、抗TNFα薬を、電気泳動タグレポーターを用いて標識することができ、抗Igアイソタイプ特異的抗体を、光活性化可能な酵素的ハサミを用いて標識することもできる。いくつかの実施形態では、複数の電気泳動タグレポーターを、複数の明確に異なる抗Igアイソタイプ特異的抗体につなぎ、マルチプレックスアッセイにおいて使用して、複数の、目的の自己抗体アイソタイプの存在(若しくは不在)又はレベルを決定することができる。
[0103]さらに他の実施形態では、自己抗体アイソタイピング近接アッセイにより発生するシグナルは、核酸増幅の技法、例として、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用して検出することができるDNA増幅シグナルである。核酸の増幅のためのPCRの使用は、当技術分野でよく知られており、例えば、Mullisら、The Polymerase Chain Reaction、Birkhauser、Boston(1994);及びInnisら、PCR Applications:Protocols for Functional Genomics、初版、Academic Press(1999)に記載されている。本発明の状況においては、抗TNFα薬(例えば、IFX)を、第1のオリゴヌクレオチド伸長部を用いて標識することができ、抗Igアイソタイプ特異的抗体(例えば、抗IgA、抗IgD、抗IgE、抗IgG及び/又は抗IgM)を、第2のオリゴヌクレオチド伸長部を用いて標識することができる。特定の抗Igアイソタイプ特異的抗体(例えば、抗IgA)により検出される自己抗体アイソタイプ(例えば、IgA ATI)が試料中に存在しない場合には、接続部のオリゴヌクレオチドが、それぞれのオリゴヌクレオチド伸長部に独立にハイブリダイズし、この場合は、ライゲーションを促さない。他方、特定の抗Igアイソタイプ特異的抗体(例えば、抗IgA)により検出される自己抗体アイソタイプ(例えば、IgA ATI)が試料中に存在する場合には、自己抗体アイソタイプ(例えば、IgA ATI)に対する標識化抗TNFα薬の結合が、同じ自己抗体アイソタイプに対する標識化抗Igアイソタイプ特異的抗体の結合に近接し(例えば、互いに約1〜約300nm又は約1〜約200nm、例えば、約1、5、10、25、50、75、100、125、150、175、200、225、250、275、300nm又はそれらの任意の範囲等、あるいは約1〜約10nm、例えば、約1、2、3、4、5、6、7、8、9若しくは10nm又はそれらの任意の範囲にある)、接続部のオリゴヌクレオチドが、両方のオリゴヌクレオチド伸長部に同時にハイブリダイズするのが可能になり、それによりDNAリガーゼによるオリゴヌクレオチド伸長部のライゲーションが誘発される。当業者であれば、抗Igアイソタイプ特異的抗体に対する抗TNFα薬の近接性は、オリゴヌクレオチド伸長部の長さに応じて変化し得ることを理解するであろう。したがって、反応中に、以前には存在しなかったDNA配列の新しい種が生み出され、こうしたDNA配列を、標準的なDNA増幅の技法、例として、PCRを使用して増幅することができる。オリゴヌクレオチド伸長部及び接続部のオリゴヌクレオチドは典型的には、当技術分野で知られている任意の方法により化学的に合成され、独立に、少なくとも約10、15、20、25、30、35、40、45、50、55又は60ヌクレオチド長のヌクレオチド配列を含む。
[0104]さらなる実施形態では、自己抗体アイソタイピング近接アッセイにより発生するシグナルは、シグナルの増幅、例として、チラミドシグナルの増幅を使用して検出することができる化学発光シグナル又は蛍光シグナルである。本発明の状況においては、抗TNFα薬(例えば、IFX)を、グルコースオキシダーゼ(GO)、又は分子酸素(O2)が電子アクセプターとして関与する酸化/還元反応を触媒する任意の他の酵素を用いて標識することができる。抗Igアイソタイプ特異的抗体(例えば、抗IgA、抗IgD、抗IgE、抗IgG及び/又は抗IgM)を、ペルオキシダーゼ、例として、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を用いて、例えば、直接的に、又は結合対メンバー、例として、ビオチン/ストレプトアビジンを介して間接的に標識することができる。ペルオキシダーゼの他の例として、これらに限定されないが、カタラーゼ、クロロペルオキシダーゼ、チトクロームcペルオキシダーゼ、好酸球ペルオキシダーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ、ラクトペルオキシダーゼ、ミエロペルオキシダーゼ、甲状腺ペルオキシダーゼ、デヨードナーゼ等が挙げられる。GOが、基質、例として、グルコースと接触すると、GOにより、酸化剤(すなわち、過酸化水素(H2O2))が発生する。特定の抗Igアイソタイプ特異的抗体(例えば、抗IgA)により検出される自己抗体アイソタイプ(例えば、IgA ATI)が試料中に存在する場合には、自己抗体アイソタイプ(例えば、IgA ATI)に対する標識化抗TNFα薬の結合が、同じ自己抗体アイソタイプに対する標識化抗Igアイソタイプ特異的抗体の結合に近接し(例えば、互いに約1〜約300nm又は約1〜約200nm、例えば、約1、5、10、25、50、75、100、125、150、175、200、225、250、275、300nm又はそれらの任意の範囲等、あるいは約1〜約10nm、例えば、約1、2、3、4、5、6、7、8、9若しくは10nm又はそれらの任意の範囲にある)、GOにより発生したH2O2が、HRPに向かい、HRPと複合体を形成して、HRP−H2O2の複合体を形成するのが可能になり、この複合体により、化学発光基質(例えば、ルミノール、イソルミノール)又は蛍光発光基質(例えば、チラミド、ビオチン−チラミド、ホモバニリン酸、酢酸4−ヒドロキシフェニル)の存在下で、増幅されたシグナルが発生する。
[0105]近接アッセイにおいてGO及びHRPを使用する方法は、例えば、国際公開第2008/036802号パンフレットに記載されており、その全体の開示が、全ての目的で参照により本明細書に組み込まれる。ビオチン−チラミドを、蛍光発光基質として使用する場合には、HRP−H2O2の複合体が、チラミドを酸化して、反応性のチラミドラジカルを発生させ、このラジカルは、付近の求核性残基に共有結合する。活性化されたチラミドは、直接検出するか、又はシグナル検出試薬、例えば、ストレプトアビジン標識化蛍光物質、若しくはストレプトアビジン標識化ペルオキシダーゼと発色性試薬との組合せ等を添加して検出する。本発明において使用するのに適している蛍光物質の例として、これらに限定されないが、アレクサフルオール(Alexa Fluor)(登録商標)色素(例えば、アレクサフルオール(登録商標)350、アレクサフルオール(登録商標)405、アレクサフルオール(登録商標)430、アレクサフルオール(登録商標)488、アレクサフルオール(登録商標)514、アレクサフルオール(登録商標)532、アレクサフルオール(登録商標)546、アレクサフルオール(登録商標)555、アレクサフルオール(登録商標)568、アレクサフルオール(登録商標)594、アレクサフルオール(登録商標)610、アレクサフルオール(登録商標)633、アレクサフルオール(登録商標)635、アレクサフルオール(登録商標)647、アレクサフルオール(登録商標)660、アレクサフルオール(登録商標)680、アレクサフルオール(登録商標)700、アレクサフルオール(登録商標)750及び/又はアレクサフルオール(登録商標)790)、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアナート(FITC)、オレゴングリーン(Oregon Green)(商標)、ローダミン、テキサスレッド、テトラローダミンイソチオシナート(isothiocynate)(TRITC)、CyDye(商標)フルオール(例えば、Cy2、Cy3、Cy5)等を含めた、本明細書に記載する蛍光物質のうちのいずれかが挙げられる。ストレプトアビジン標識を、当技術分野でよく知られている方法を使用して、蛍光物質又はペルオキシダーゼに直接的又は間接的にカップリングすることができる。発色性試薬の非限定的な例として、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMB)、3,3’−ジアミノベンジジン(DAB)、2,2’−アジノ−ビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)(ABTS)、4−クロロ−1−ナフトール(4CN)、及び/又はポルフィリノーゲンが挙げられる。
[0106]自己抗体アイソタイピングのための本発明のアッセイの方法において使用するのに適している追加の近接性に基づく技法が、国際公開第2008/036802号パンフレットに記載されており、その全体の開示が、全ての目的で参照により本明細書に組み込まれる。
[0107]抗TNF抗体、並びに抗薬物抗体、例として、HACA及びHAHAを検出するための方法が、国際公開第2011/056590号パンフレットにさらに記載されており、その全体の開示が、全ての目的で参照により本明細書に組み込まれる。
[0108]別の態様では、本発明は、TNFα媒介型の疾患又は障害の治療のための療法のコースを投与している対象において、療法を最適化するための方法、及び/又は毒性を低下させるための方法であって、
(a)対象から得られた試料を分析して、試料中の1つ又は複数のマーカーの存在、レベル又は遺伝子型を決定するステップと、
(b)統計学的アルゴリズムを、ステップ(a)において決定した1つ又は複数のマーカーの存在、レベル又は遺伝子型に適用するステップと、
(c)ステップ(b)において適用した統計学的アルゴリズムに基づいて、対象のための療法のコースの今後の用量を決定するステップ、又は異なる療法のコースを対象に投与すべきであるかどうかを決定するステップと
を含む方法を提供する。
[0109]いくつかの実施形態では、療法のコースは、抗TNFα薬、例として、抗TNFα抗体を含む。特定の場合には、抗TNFα抗体は、レミケード(商標)(インフリキシマブ)、エンブレル(商標)(エタネルセプト)、ヒュミラ(商標)(アダリムマブ)、シムジア(登録商標)(セルトリズマブペゴル)、及びそれらの組合せからなる群から選択される。
[0110]特定の実施形態では、1つ又は複数(例えば、複数)のマーカーは、抗TNFα薬(例えば、抗TNFα抗体)、抗TNFα薬に対する自己抗体、例として、抗TNFα抗体(例えば、HACA、HAHA、HAMA及び/若しくはそれらのアイソタイプ)、サイトカイン、遺伝学的マーカー、又はそれらの組合せを含む。特定の場合には、サイトカインは、TNFα、IL−6、IL−1β、IFN−γ、IL−10、及びそれらの組合せからなる群から選択されるメンバーである。特定の他の場合には、遺伝学的マーカーは、炎症経路遺伝子中の突然変異である。特定の実施形態では、遺伝学的マーカーは、NOD2/CARD15、ATG16L1、IL23R、ヒト白血球抗原(HLA)遺伝子、サイトカイン遺伝子、DLG5、OCTN、及びそれらの組合せからなる群から選択される遺伝子中の突然変異である。
[0111]他の実施形態では、療法を最適化するための方法、及び/又は毒性を低下させるための方法のステップ(a)は、前記試料中の2、3、4、5、6、7、8、9又は10個以上のマーカーの存在、レベル又は遺伝子型を決定するサブステップを含む。特定の実施形態では、試料は、血清、血漿、全血及び便からなる群から選択される。
[0112]さらに他の実施形態では、統計学的アルゴリズムは、統計学的学習分類子システムを含む。特定の場合には、統計学的学習分類子システムは、ランダムフォレスト、分類−回帰ツリー(classification and regression tree)、ブーステッドツリー(boosted tree)、神経ネットワーク、サポートベクターマシン、一般的な、カイ二乗に基づく自動相互作用検出モデル、相互作用ツリー、多適応的回帰スプライン(multiadaptive regression spline)、機械学習分類子、及びそれらの組合せからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、統計学的アルゴリズムは、単一の統計学的学習分類子システムを含む。他の実施形態では、統計学的アルゴリズムは、少なくとも2つの統計学的学習分類子システムの組合せを含む。場合によっては、少なくとも2つの統計学的学習分類子システムを並行して適用する。
[0113]いくつかの実施形態では、療法を最適化するための方法、及び/又は毒性を低下させるための方法は、ステップ(c)の前記決定から得られた結果を臨床医に送るステップをさらに含む。他の実施形態では、療法を最適化するための方法、及び/又は毒性を低下させるための方法のステップ(b)は、統計学的アルゴリズムを、療法のコースの間のより早期に決定した1つ又は複数のマーカーの存在、レベル又は遺伝子型に適用するサブステップをさらに含む。
[0114]さらなる実施形態では、療法のコースの今後の用量を、ステップ(b)において適用した統計学的アルゴリズムに基づいて増加させる、減少させる、又は維持する。特定の場合には、異なる療法のコースは、異なる抗TNFα薬(例えば、抗TNFα抗体)を含む。他の場合には、異なる療法のコースは、現在の療法のコースを、免疫抑制剤と併せて含む。
[0115]いくつかの実施形態では、抗TNFα薬(例えば、抗TNFα抗体)を、
(a)標識化TNFαを試料と接触させて、抗TNFα薬と標識化複合体を形成させるステップと、
(b)標識化複合体をサイズ排除クロマトグラフィーに供して、標識化複合体を分離するステップと、
(c)標識化複合体を検出し、それにより、抗TNFα薬を検出するステップと
を含むアッセイを用いて検出する。
[0116]特定の場合には、抗TNFα薬(例えば、抗TNFα抗体)は、レミケード(商標)(インフリキシマブ)、エンブレル(商標)(エタネルセプト)、ヒュミラ(商標)(アダリムマブ)、シムジア(登録商標)(セルトリズマブペゴル)、及びそれらの組合せからなる群から選択されるメンバーである。場合によっては、標識化TNFαは、蛍光物質標識化TNFαである。他の場合には、検出される抗TNFα薬(例えば、抗TNFα抗体)を定量化する。いくつかの実施形態では、最初に、標識化複合体が溶出し、続いて、遊離の標識化TNFαが溶出する。他の実施形態では、サイズ排除クロマトグラフィーは、サイズ排除−高速液体クロマトグラフィー(SE−HPLC)である。
[0117]他の実施形態では、抗TNFα薬に対する自己抗体(例えば、抗TNFα抗体)を、
(a)標識化抗TNFα薬を試料と接触させて、自己抗体と標識化複合体を形成させるステップと、
(b)標識化複合体をサイズ排除クロマトグラフィーに供して、標識化複合体を分離するステップと、
(c)標識化複合体を検出し、それにより、自己抗体を検出するステップと
を含むアッセイを用いて検出する。
[0118]特定の場合には、自己抗体は、ヒト抗マウス抗体(HAMA)、ヒト抗キメラ抗体(HACA)、ヒト抗ヒト化抗体(HAHA)、及びそれらの組合せからなる群から選択される。特定の他の場合には、標識化抗TNFα薬(例えば、抗TNFα抗体)は、レミケード(商標)(インフリキシマブ)、エンブレル(商標)(エタネルセプト)、ヒュミラ(商標)(アダリムマブ)、シムジア(登録商標)(セルトリズマブペゴル)、及びそれらの組合せからなる群から選択される。
[0119]いくつかの実施形態では、標識化抗TNFα薬(例えば、抗TNFα抗体)は、蛍光物質標識化抗TNFα薬(例えば、抗TNFα抗体)である。他の実施形態では、検出される自己抗体を定量化する。さらなる実施形態では、最初に、標識化複合体が溶出し、続いて、遊離の標識化抗TNFα薬(例えば、抗TNFα抗体)が溶出する。特定の実施形態では、サイズ排除クロマトグラフィーは、サイズ排除−高速液体クロマトグラフィー(SE−HPLC)である。
[0120]特定の実施形態では、抗TNFα薬に対する自己抗体(例えば、抗TNFα抗体)を、抗TNFα薬に対する自己抗体の少なくとも1つのアイソタイプ(例えば、複数のアイソタイプ)の存在(若しくは不在)又はレベルを検出するための、本明細書に記載するアッセイのうちのいずれかを用いて検出する。
[0121]他の実施形態では、国際公開第2011/056590号パンフレット(その全体の開示が、全ての目的で参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている、抗TNFα薬(例えば、抗TNFα抗体)、及び抗TNFα薬に対する自己抗体(例えば、HACA、HAHA、HAMA等)を検出するためのアッセイの方法を、療法を最適化するため及び/又は毒性を低下させるための、本明細書に記載する方法において使用することができる。
[0122]特定の実施形態では、本発明の方法は、例えば、抗TNF薬の今後の用量を調節若しくは改変する(例えば、増加若しくは減少させる)時期若しくは方法を決定すること、抗TNF薬を、(例えば、増加させた、減少させた、若しくは同じ用量で)、1つ若しくは複数の免疫抑制剤、例として、メトトレキサート(MTX)若しくはアザチオプリン(AZA)と組み合わせる時期若しくは方法を決定すること、及び/又は現在の療法のコースを変化させる(例えば、異なる抗TNF薬に切り換える)時期又は方法を決定することによって、抗TNF薬物療法を投与している患者ための治療の決定を導くのに有用な情報を提供する。したがって、本発明は、患者の免疫状態を決定することによって、患者の管理を援助又は支援する場合に有用性を見出す。
[0123]他の実施形態では、本明細書に記載するアッセイの方法を使用して、自己免疫障害(例えば、関節リウマチ、クローン病等)を有する対象における抗TNF薬、とりわけ、抗TNFα抗体に対する許容性(例えば、毒性)を予測することができる。この方法では、対象を、1つ又は複数のADAアイソタイプの存在(若しくは不在)又はレベルについてアッセイすることによって、対象が抗TNF薬物療法を許容する(例えば、副作用、例として、抗TNF薬に対する免疫応答を発生させることも経験することもない)かどうかを予測することが可能になる。
[0124]さらに他の実施形態では、本明細書に記載するアッセイの方法を使用して、自己免疫障害を有する対象において、自己免疫障害をモニターすることができ、これらの方法は、対象を、1つ又は複数のADAアイソタイプの存在(若しくは不在)又はレベルについて経時的にアッセイするステップを含む。この方法では、対象が抗TNF薬物療法を許容するかどうかを所与の期間にわたりモニターすることが可能である。
IV.統計学的解析
[0125]いくつかの態様では、本発明は、統計学的アルゴリズムを、1つ又は複数(例えば、2、3、4、5、6又は7つ以上の組合せ)の生化学的マーカー、血清学的マーカー及び/又は遺伝学的マーカーに適用することによって、抗TNF薬物療法を最適化するための方法、抗TNF薬物療法と関連がある毒性を低下させるための方法、及び/又は抗TNF薬による治療の有効性をモニターするための方法を提供する。特定の実施形態では、抗TNF薬物療法を投与している患者のための治療の決定を導くために、変位値解析を、1つ又は複数のマーカーの存在、レベル及び/又は遺伝子型に適用する。他の実施形態では、抗TNF薬物療法を投与している患者のための治療の決定を導くために、より多くの統計学的学習分類子システムの1つ又は2つの組合せを、1つ又は複数のマーカーの存在、レベル及び/又は遺伝子型に適用する。本発明の方法の統計学的解析は、抗TNF薬の今後の用量を調節若しくは改変する(例えば、増加若しくは減少させる)時期若しくは方法、抗TNF薬を、(例えば、増加させた、減少させた、若しくは同じ用量で)、1つ若しくは複数の免疫抑制剤、例として、メトトレキサート(MTX)若しくはアザチオプリン(AZA)と組み合わせる時期若しくは方法、及び/又は現在の療法のコースを変化させる(例えば、異なる抗TNF薬に切り換える)時期若しくは方法を決定するために、感度、特異性、陰性予測値、陽性予測値及び/又は全体的な精度を好都合に改善する。
[0126]用語「統計学的解析」又は「統計学的アルゴリズム」又は「統計学的プロセス」は、変数間の関係を決定するために使用する多様な統計学的な方法及びモデルをいずれも含む。本発明において、変数は、少なくとも1つの、目的のマーカーの存在、レベル又は遺伝子型である。任意の数のマーカーを、本明細書に記載する統計学的解析を使用して解析することができる。例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55又は60個以上のマーカーの存在又はレベルを、統計学的解析に含めることができる。一実施形態では、ロジスティック回帰を使用する。別の実施形態では、線形回帰を使用する。特定の好ましい実施形態では、本発明の統計学的解析は、例えば、所与の集団内の変数としての1つ又は複数のマーカーの変位値測定を含む。変位値は、データサンプルを、(可能な限り)等しい数の観察結果を含有する群に分割する一連の「切断点」である。例えば、四分位数は、データサンプルを、(可能な限り)等しい数の観察結果を含有する4つの群に分割する値である。下位四分位点は、順序付けられたデータセットを通して下から4分の1のデータ値であり、上位四分位点は、順序付けられたデータセットを通して上から4分の1のデータ値である。五分位数は、データサンプルを、(可能な限り)等しい数の観察結果を含有する5つの群に分割する値である。また、本発明は、マーカーレベルのパーセンタイル範囲(例えば、三分位数、四分位数、五分位数等)又は累計指数(例えば、四分位数の和のスコア(QSS)を得るためのマーカーレベルの四分位数の和等)を、統計学的解析における変数として(連続的な変数と全く同様に)使用することを含むこともできる。
[0127]特定の実施形態では、本発明は、1つ又は複数の、目的のマーカーの存在、レベル(例えば、大きさ)及び/又は遺伝子型を、四分位数解析を使用して検出又は決定することを含む。このタイプの統計学的解析では、目的のマーカーのレベルを、参照データベースの試料に関して、第1の四分位数(<25%)、第2の四分位数(25〜50%)、第3の四分位数(51%〜<75%)又は第4の四分位数(75〜100%)中にあると定義する。これらの四分位数にそれぞれ、1、2、3及び4の四分位数スコアを割り当てることができる。特定の場合には、試料中に検出されないマーカーに、0又は1の四分位数スコアを割り当て、一方、試料中に検出される(例えば、存在する)マーカー(例えば、試料が、マーカーについて陽性である)に、4の四分位数スコアを割り当てる。いくつかの実施形態では、四分位数1は、最も低いマーカーレベルを有する試料を示し、一方、四分位数4は、最も高いマーカーレベルを有する試料を示す。他の実施形態では、四分位数1は、特定のマーカー遺伝子型(例えば、野生型対立遺伝子)を有する試料を示し、一方、四分位数4は、別の特定のマーカー遺伝子型(例えば、対立遺伝子変異体)を有する試料を示す。参照データベースの試料は、TNFα媒介型の疾患又は障害、例えば、IBD等を有する患者の大きなスペクトルを含むことができる。そのようなデータベースから、四分位数のカットオフを確立することができる。本発明において使用するのに適している四分位数解析の非限定的な例が、例えば、Mowら、Gastroenterology、126:414〜24頁(2004)に記載されている。
[0128]いくつかの実施形態では、本発明の統計学的解析は、1つ又は複数の統計学的学習分類子システムを含む。本明細書で使用する場合、用語「統計学的学習分類子システム」は、複雑なデータセット(例えば、目的のマーカーのパネル)に適応し、そのようなデータセットに基づいて決定を行うことが可能である機械学習アルゴリズムの技法を含む。いくつかの実施形態では、単一の統計学的学習分類子システム、例として、決定/分類ツリー(例えば、ランダムフォレスト(RF)又は分類−回帰ツリー(C&RT))を使用する。他の実施形態では、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個以上の統計学的学習分類子システムの組合せを、好ましくは、並行して使用する。統計学的学習分類子システムの例として、これらに限定されないが、誘導性の学習(例えば、決定/分類ツリー、例として、ランダムフォレスト、分類−回帰ツリー(C&RT)、ブーステッドツリー等)、確率的で近似的に正しい(Probably Approximately Correct)(PAC)学習、コネクショニスト学習(connectionist learning)(例えば、ニューラルネットワーク(NN)、人工神経ネットワーク(ANN)、ニューロファジィネットワーク(NFN)、ネットワーク構造、多層パーセプトロン等のパーセプトロン、多層フィードフォワードネットワーク、ニューラルネットワークの応用、信念ネットワークにおけるベイズ学習等)、強化学習(例えば、既知の環境における受動的学習、例として、ナイーブ学習、適応動的学習及び時間差学習、未知の環境における受動的学習、未知の環境における能動的学習、行動価値関数の学習(learning action−value functions)、強化学習の応用等)を使用するもの、並びに遺伝子アルゴリズム及び進化的プログラミングが挙げられる。他の統計学的学習分類子システムには、サポートベクターマシン(例えば、カーネル法)、多変量適応的回帰スプライン(MARS)、レーベンバーグ−マーカートアルゴリズム、ガウス−ニュートンアルゴリズム、ガウス混合、傾斜降下アルゴリズム、及び学習ベクトル量子化(LVQ)がある。
[0129]ランダムフォレストは、Leo Breiman及びAdele Cutlerが開発したアルゴリズムを使用して構築される統計学的学習分類子システムである。ランダムフォレストは、多数の個別の決定ツリーを使用し、個別のツリーにより決定されたクラスのモード(すなわち、最も頻繁に出現するモード)を選ぶことによってクラスを決める。ランダムフォレスト解析は、例えば、Salford Systems(San Diego、CA)から入手可能なRandomForestsソフトウエアを使用して実施することができる。ランダムフォレストの記載については、例えば、Breiman、Machine Learning、45:5〜32頁(2001);及びhttp://stat−www.berkeley.edu/users/breiman/RandomForests/cc_home.htmを参照されたい。
[0130]分類−回帰ツリーは、古典的な回帰モデルの適合のコンピュータを駆使した代替物を提供し、典型的には、1つ又は複数の予測因子に基づいて、断定的又は連続的な、目的の応答について、最良のモデルを決定するために使用される。分類−回帰ツリー解析は、例えば、Salford Systemsから入手可能なC&RTソフトウエア又はStatSoft,Inc.(Tulsa、OK)から入手可能なStatisticaデータ解析ソフトウエアを使用して実施することができる。分類−回帰ツリーの記載は、例えば、Breimanら、「Classification and Regression Trees」、Chapman and Hall、New York(1984);及びSteinbergら、「CART:Tree−Structured Non−Parametric Data Analysis」、Salford Systems、San Diego(1995)に見出される。
[0131]ニューラルネットワークは、計算に対するコネクショニストアプローチに基づいて、情報処理のための数学的モデル又は計算モデルを使用する、人工ニューロンの相互接続した群である。典型的には、ニューラルネットワークは、ネットワークを通って流れる外部又は内部の情報に基づいて構造を変化させる適応システムである。ニューラルネットワークの具体例として、フィードフォワードニューラルネットワーク、例として、パーセプトロン、単一層パーセプトロン、多層パーセプトロン、逆伝搬ネットワーク、アダラインネットワーク、マダリンネットワーク、ラーンマトリックス(Learnmatrix)ネットワーク、放射基底関数(RBF)ネットワーク、及び自己組織化マップ又はコホネン自己組織化ネットワーク;再帰型ニューラルネットワーク、例として、単純再帰型ネットワーク及びホップフィールドネットワーク;確率的ニューラルネットワーク、例として、ボルツマンマシン;モジュール型ニューラルネットワーク、例として、コミッティーオブマシン(committee of machines)及び連想型ニューラルネットワーク;並びに他のタイプのネットワーク、例として、即時訓練型のニューラルネットワーク、スパイキングニューラルネットワーク、動的ニューラルネットワーク、及びカスケーディングニューラルネットワークが挙げられる。ニューラルネットワーク解析は、例えば、StatSoft,Inc.から入手可能なStatisticaデータ解析ソフトウエアを使用して実施することができる。ニューラルネットワークの記載については、例えば、Freemanら、「Neural Networks:Algorithms,Applications and Programming Techniques」、Addison−Wesley Publishing Company(1991);Zadeh、Information and Control、8:338〜353頁(1965);Zadeh、「IEEE Trans.on Systems,Man and Cybernetics」、3:28〜44頁(1973);Gershoら、「Vector Quantization and Signal Compression」、Kluywer Academic Publishers、Boston、Dordrecht、London(1992);及びHassoun、「Fundamentals of Artificial Neural Networks」、MIT Press、Cambridge、Massachusetts、London(1995)を参照されたい。
[0132]サポートベクターマシンは、分類及び回帰のために使用する、一連の関連がある教師ありの学習技法であり、例えば、Cristianiniら、「An Introduction to Support Vector Machines and Other Kernel−Based Learning Methods」、Cambridge University Press(2000)に記載されている。サポートベクターマシン解析は、例えば、Thorsten Joachims(Cornell University)が開発したSVMlightソフトウエアを使用してか、又はChih−Chung Chang及びChih−Jen Lin(National Taiwan University)が開発したLIBSVMソフトウエアを使用して実施することができる。
[0133]健常個体、及びTNFα媒介型の疾患又は障害、例えば、IBD(例えば、CD及び/又はUC)等を有する患者から得られた試料(例えば、血清学的試料及び/又はゲノム試料)のコホートを使用して、本明細書に記載する種々の統計学的な方法及びモデルを訓練し、試験することができる。例えば、医師、好ましくは、胃腸科医が、例えば、米国特許第6,218,129号の記載に従って、生検、大腸内視鏡検査又はイムノアッセイを使用して、IBD又はその臨床的サブタイプを有すると診断した患者から得られた試料が、本発明の統計学的な方法及びモデルの訓練及び試験における使用に適している。また、IBDと診断された患者から得られた試料は、例えば、米国特許第5,750,355号及び第5,830,675号の記載に従って、イムノアッセイを使用してクローン病又は潰瘍性大腸炎に階層化することもできる。健常個体から得られた試料は、IBD試料と同定されなかった試料を含むことができる。当業者であれば、本発明の統計学的な方法及びモデルの訓練及び試験において使用することができる患者試料のコホートを得るための追加の技法及び診断の判断基準が分かるであろう。
[0134]本明細書で使用する場合、用語「感度」は、抗TNF薬物療法を最適化するための本発明の方法、抗TNF薬物療法と関連がある毒性を低下させるための本発明の方法、及び/又は抗TNF薬による治療の有効性をモニターするための本発明の方法が、試料が陽性である場合、陽性の結果をもたらし、例えば、抗TNF薬物療法に対して予測される治療応答又は抗TNF薬物療法と関連がある毒性を示す確率を含む。感度を、真陽性と偽陰性との和で割った真陽性の結果の数として計算する。感度は本質的には、どれほど十分に本発明が、抗TNF薬物療法に対して予測される治療応答又は抗TNF薬物療法と関連がある毒性を示す個体を、予測される治療応答も毒性も示さない個体から正しく同定するかの尺度である。感度が少なくとも約60%となるように、統計学的な方法及びモデルを選択することができ、したがって、感度は、例えば、少なくとも約65%、70%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%であり得る。
[0135]用語「特異性」は、抗TNF薬物療法を最適化するための本発明の方法、抗TNF薬物療法と関連がある毒性を低下させるための本発明の方法、及び/又は抗TNF薬による治療の有効性をモニターするための本発明の方法が、試料が陽性でない場合、陰性の結果をもたらし、例えば、抗TNF薬物療法に対して予測される治療応答も抗TNF薬物療法と関連がある毒性も示さない確率を含む。特異性を、真陰性と偽陽性との和で割った真陰性の結果の数として計算する。特異性は本質的には、どれほど十分に本発明が、抗TNF薬物療法に対して予測される治療応答も抗TNF薬物療法と関連がある毒性も示さない個体を、予測される治療応答又は毒性を示す個体から除外するかの尺度である。特異性が少なくとも約60%となるように、統計学的な方法及びモデルを選択することができ、したがって、特異性は、例えば、少なくとも約65%、70%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%であり得る。
[0136]用語「陰性予測値」又は「NPV」は、抗TNF薬物療法に対して予測される治療応答も抗TNF薬物療法と関連がある毒性も示さないと同定された個体が実際に、予測される治療応答も毒性も示さない確率を含む。陰性予測値を、真陰性と偽陰性との和で割った真陰性の数として計算することができる。陰性予測値は、本発明の方法の特徴及び解析する集団における疾患の有病率により決定される。疾患有病率を有する集団における陰性予測値が約70%〜約99%の範囲となるように、統計学的な方法及びモデルを選択することができ、したがって、陰性予測値は、例えば、少なくとも約70%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%であり得る。
[0137]用語「陽性予測値」又は「PPV」は、抗TNF薬物療法に対して予測される治療応答又は抗TNF薬物療法と関連がある毒性を示すと同定された個体が実際に、予測される治療応答又は毒性を示す確率を含む。陽性予測値を、真陽性と偽陽性との和で割った真陽性の数として計算することができる。陽性予測値は、本発明の方法の特徴及び解析する集団における疾患の有病率により決定される。疾患有病率を有する集団における陽性予測値が約70%〜約99%の範囲となるように、統計学的な方法及びモデルを選択することができ、したがって、陽性予測値は、例えば、少なくとも約70%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%であり得る。
[0138]予測値は、陰性予測値及び陽性予測値を含めて、解析する集団における疾患の有病率の影響を受ける。本発明において、統計学的な方法及びモデルを選択して、TNFα媒介型の疾患又は障害、例えば、IBD等について特定の有病率を有する臨床集団にとって所望の臨床パラメータを得ることができる。非限定的な例として、統計学的な方法及びモデルを選択して、最高約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%又は70%のIBD有病率を得ることができ、こうした有病率は、例えば、臨床医の診察室、例として、胃腸科医の診察室、又は一般開業医の診察室において見ることができる。
[0139]本明細書で使用する場合、用語「全体的な一致」又は「全体的な精度」は、本発明の方法が、抗TNF薬物療法を最適化する精度、抗TNF薬物療法と関連がある毒性を低下させる精度、及び/又は抗TNF薬による治療の有効性をモニターする精度を含む。全体的な精度は、試料結果の総数で割った真陽性と真陰性との和として計算し、解析する集団における疾患の有病率の影響を受ける。例えば、疾患有病率を有する患者集団における全体的な精度が少なくとも約40%となるように、統計学的な方法及びモデルを選択することができ、したがって、全体的な精度は、例えば、少なくとも約40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%であり得る。
V.炎症性マーカー
[0140]生化学的マーカー、血清学的マーカー、タンパク質マーカー、遺伝学的マーカー、及び他の臨床的特徴又は超音波検査による特徴を含めた、多様な炎症性マーカーが、療法を最適化するため、毒性を低下させるため、及び/又は治療剤、例として、生物学的製剤(例えば、抗TNF薬)を用いた治療処置の有効性をモニターするために、本発明の方法において使用するのに適している。特定の態様では、本明細書に記載する方法は、炎症性マーカーのうちの1つ又は複数について決定した存在、濃度レベル及び/又は遺伝子型へのアルゴリズム(例えば、統計学的解析)の適用を活用して、抗TNF薬物療法を最適化すること、抗TNF薬物療法と関連がある毒性を低下させること、又は抗TNF薬を用いた治療処置の有効性をモニターすることを援助又は支援する。
[0141]炎症性マーカーの非限定的な例として、(i)生化学的マーカー、血清学的マーカー及びタンパク質マーカー、例えば、サイトカイン、急性期タンパク質、細胞接着分子等、並びにそれらの組合せ;並びに(ii)遺伝学的マーカー、例えば、表1に記載する遺伝子のうちのいずれか(例えば、NOD2)等が挙げられる。
A.サイトカイン
[0142]試料中の少なくとも1つのサイトカインの存在又はレベルの決定は、本発明において特に有用である。本明細書で使用する場合、用語「サイトカイン」は、様々な免疫系の機能を制御する免疫細胞が分泌する多様なポリペプチド又はタンパク質をいずれも含み、小型のサイトカイン、例として、ケモカインを網羅する。また、用語「サイトカイン」は、アディポサイトカインも含み、アディポサイトカインは、脂肪細胞(adipocyte)が分泌するサイトカインの群を含み、例えば、体重、血球新生、血管新生、創傷治癒、インスリン抵抗性、免疫応答及び炎症応答の制御において機能する。
[0143]特定の態様では、試料中の少なくとも1つのサイトカインの存在又はレベルを決定し、サイトカインとして、これらに限定されないが、TNF−α、TNF関連の、アポトーシスの弱い誘導因子(TWEAK)、オステオプロテジェリン(OPG)、IFN−α、IFN−β、IFN−γ、IL−1α、IL−1β、IL−1受容体アンタゴニスト(IL−1ra)、IL−2、IL−4、IL−5、IL−6、可溶性IL−6受容体(sIL−6R)、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−12、IL−13、IL−15、IL−17、IL−23及びIL−27が挙げられる。特定の他の態様では、試料中の少なくとも1つのケモカイン、例えば、CXCL1/GRO1/GROα、CXCL2/GRO2、CXCL3/GRO3、CXCL4/PF−4、CXCL5/ENA−78、CXCL6/GCP−2、CXCL7/NAP−2、CXCL9/MIG、CXCL10/IP−10、CXCL11/I−TAC、CXCL12/SDF−1、CXCL13/BCA−1、CXCL14/BRAK、CXCL15、CXCL16、CXCL17/DMC、CCL1、CCL2/MCP−1、CCL3/MIP−1α、CCL4/MIP−1β、CCL5/RANTES、CCL6/C10、CCL7/MCP−3、CCL8/MCP−2、CCL9/CCL10、CCL11/エオタキシン、CCL12/MCP−5、CCL13/MCP−4、CCL14/HCC−1、CCL15/MIP−5、CCL16/LEC、CCL17/TARC、CCL18/MIP−4、CCL19/MIP−3β、CCL20/MIP−3α、CCL21/SLC、CCL22/MDC、CCL23/MPIF1、CCL24/エオタキシン−2、CCL25/TECK、CCL26/エオタキシン−3、CCL27/CTACK、CCL28/MEC、CL1、CL2及びCX3CL1等の存在又はレベルを決定する。特定のさらなる態様では、試料中の少なくとも1つのアディポサイトカインの存在又はレベルを決定し、アディポサイトカインとして、これらに限定されないが、レプチン、アディポネクチン、レジスチン、活性なプラスミノーゲン活性化因子阻害剤−1(PAI−1)又は総プラスミノーゲン活性化因子阻害剤−1(PAI−1)、ビスファチン及びレチノール結合タンパク質4(RBP4)が挙げられる。好ましくは、TNFα、IL−6、IL−1β、IFN−γ及び/又はIL−10の存在又はレベルを決定する。
[0144]特定の場合には、特定のサイトカインの存在又はレベルを、アッセイ、例えば、ハイブリダイゼーションアッセイ又は増幅に基づくアッセイ等を用いて、mRNA発現のレベルにおいて検出する。特定の他の場合には、特定のサイトカインの存在又はレベルを、例えば、イムノアッセイ(例えば、ELISA)又は免疫組織化学的アッセイを使用して、タンパク質発現のレベルにおいて検出する。血清、血漿、唾液又は尿の試料中のサイトカイン、例として、IL−6、IL−1β又はTWEAKの存在又はレベルを決定するのに適切なELISAキットが、例えば、R&D Systems,Inc.(Minneapolis、MN)、Neogen Corp.(Lexington、KY)、Alpco Diagnostics(Salem、NH)、Assay Designs、Inc.(Ann Arbor、MI)、BD Biosciences Pharmingen(San Diego、CA)、Invitrogen(Camarillo、CA)、Calbiochem(San Diego、CA)、CHEMICON International、Inc.(Temecula、CA)、Antigenix America Inc.(Huntington Station、NY)、QIAGEN Inc.(Valencia、CA)、Bio−Rad Laboratories、Inc.(Hercules、CA)、及び/又はBender MedSystems Inc.(Burlingame、CA)から入手可能である。
[0145]ヒトIL−6ポリペプチド配列が、例えば、GenBank受託番号NP_000591に記載されている。ヒトIL−6 mRNA(コード)配列が、例えば、GenBank受託番号NM_000600に記載されている。当業者であれば、IL−6は、インターフェロンβ2(IFNB2)、HGF、HSF及びBSF2としてもまた知られていることを理解するであろう。
[0146]ヒトIL−1βポリペプチド配列が、例えば、GenBank受託番号NP_000567に記載されている。ヒトIL−1β mRNA(コード)配列が、例えば、GenBank受託番号NM_000576に記載されている。当業者であれば、IL−1βは、IL1F2及びIL−1βとしてもまた知られていることを理解するであろう。
[0147]ヒトTWEAKポリペプチド配列が、例えば、GenBank受託番号NP_003800及びAAC51923に記載されている。ヒトTWEAK mRNA(コード)配列が、例えば、GenBank受託番号NM_003809及びBC104420に記載されている。当業者であれば、TWEAKは、腫瘍壊死因子リガンドスーパーファミリーメンバー12(TNFSF12)、APO3リガンド(APO3L)、CD255、DR3リガンド、増殖因子誘導性14(Fn14)リガンド、及びUNQ181/PRO207としてもまた知られていることを理解するであろう。
B.急性期タンパク質
[0148]また、試料中の1つ又は複数の急性期タンパク質の存在又はレベルの決定も本発明に有用である。急性期タンパク質は、血漿濃度が、炎症に応答して、増加する(正の急性期タンパク質)又は減少する(負の急性期タンパク質)タンパク質のクラスである。この応答は、急性期反応と呼ばれる(急性期応答ともまた呼ばれる)。正の急性期タンパク質の例として、これらに限定されないが、C反応性タンパク質(CRP)、D−二量体タンパク質、マンノース結合タンパク質、α1−アンチトリプシン、α1−抗キモトリプシン、α2−マクログロブリン、フィブリノーゲン、プロトロンビン、第VIII因子、フォン−ヴィルブランド因子、プラスミノーゲン、補体因子、フェリチン、血清アミロイドP構成成分、血清アミロイドA(SAA)、オロソムコイド(α1−酸性糖タンパク質、AGP)、セルロプラスミン、ハプトグロビン、及びそれらの組合せが挙げられる。負の急性期タンパク質の非限定的な例として、アルブミン、トランスフェリン、トランスサイレチン、トランスコルチン、レチノール結合タンパク質、及びそれらの組合せが挙げられる。好ましくは、CRP及び/又はSAAの存在又はレベルを決定する。
[0149]特定の場合には、特定の急性期タンパク質の存在又はレベルを、アッセイ、例えば、ハイブリダイゼーションアッセイ又は増幅に基づくアッセイ等を用いて、mRNA発現のレベルにおいて検出する。特定の他の場合には、特定の急性期タンパク質の存在又はレベルを、例えば、イムノアッセイ(例えば、ELISA)又は免疫組織化学的アッセイを使用して、タンパク質発現のレベルにおいて検出する。例えば、Alpco Diagnostics(Salem、NH)から入手可能なサンドイッチ比色分析ELISAアッセイを使用して、血清、血漿、尿又は便の試料中のCRPのレベルを決定することができる。同様に、Biomeda Corporation(Foster City、CA)から入手可能なELISAキットを使用して、試料中のCRPレベルを検出することもできる。試料中のCRPレベルを決定するための他の方法が、例えば、米国特許第6,838,250号及び第6,406,862号、並びに米国特許出願公開第20060024682号及び第20060019410号に記載されている。CRPレベルを決定するための追加の方法として、例えば、免疫比濁法アッセイ、迅速免疫拡散法アッセイ、及び目視による凝集アッセイが挙げられる。試料、例として、血清、血漿、唾液、尿又は便中のSAAの存在又はレベルを決定するのに適切なELISAキットが、例えば、Antigenix America Inc.(Huntington Station、NY)、Abazyme(Needham、MA)、USCN Life(Missouri City、TX)、及び/又はU.S.Biological(Swampscott、MA)から入手可能である。
[0150]C反応性タンパク質(CRP)は、炎症に応答して血中に見出されるタンパク質である(急性期タンパク質)。CRPは典型的には、肝臓、及び脂肪細胞(fat cell)(脂肪細胞(adipocyte))により産生される。CRPは、ペントラキシンファミリーのタンパク質のメンバーである。ヒトCRPポリペプチド配列が、例えば、GenBank受託番号NP_000558に記載されている。ヒトCRP mRNA(コード)配列が、例えば、GenBank受託番号NM_000567に記載されている。当業者であれば、CRPは、PTX1、MGC88244及びMGC149895としてもまた知られていることを理解するであろう。
[0151]血清アミロイドA(SAA)タンパク質は、血漿中の高密度リポタンパク質(HDL)と関連があるアポリポタンパク質のファミリーである。SAAの異なるアイソフォームが、異なるレベルで構成的に発現する(構成的SAA)か、又は炎症性刺激に応答して発現する(急性期SAA)。これらのタンパク質は、主に肝臓により産生される。これらのタンパク質が無脊椎動物及び脊椎動物の全体を通して保存されていることから、SAAが、全ての動物において極めて必須の役割を果たすことが示唆される。急性期血清アミロイドAタンパク質(A−SAA)は、炎症の急性期の間に分泌される。ヒトSAAポリペプチド配列が、例えば、GenBank受託番号NP_000322に記載されている。ヒトSAA mRNA(コード)配列が、例えば、GenBank受託番号NM_000331に記載されている。当業者であれば、SAAは、PIG4、TP53I4、MGC111216及びSAA1としてもまた知られていることを理解するであろう。
C.細胞接着分子(IgSF CAM)
[0152]また、試料中の1つ又は複数の免疫グロブリンスーパーファミリー細胞接着分子の存在又はレベルの決定も本発明に有用である。本明細書で使用する場合、用語「免疫グロブリンスーパーファミリー細胞接着分子」(IgSF CAM)は、1つ又は複数の免疫グロブリン様の折り畳まれたドメインを有し、細胞間接着及び/又はシグナル伝達において機能する、細胞の表面上に位置する多様なポリペプチド又はタンパク質をいずれも含む。多くの場合、IgSF CAMは、膜貫通型タンパク質である。IgSF CAMの非限定的な例として、神経細胞接着分子(NCAM;例えば、NCAM−120、NCAM−125、NCAM−140、NCAM−145、NCAM−180、NCAM−185等)、細胞間接着分子(ICAM、例えば、ICAM−1、ICAM−2、ICAM−3、ICAM−4及びICAM−5)、血管細胞接着分子−1(VCAM−1)、血小板内皮細胞接着分子−1(PECAM−1)、L1細胞接着分子(L1CAM)、L1CAM対して相同性を有する細胞接着分子(L1の密接な相同体)(CHL1)、シアル酸結合Ig様レクチン(SIGLEC;例えば、SIGLEC−1、SIGLEC−2、SIGLEC−3、SIGLEC−4等)、ネクチン(例えば、ネクチン−1、ネクチン−2、ネクチン−3等)、並びにネクチン様分子(例えば、Necl−1、Necl−2、Necl−3、Necl−4、及びNecl−5)が挙げられる。好ましくは、ICAM−1及び/又はVCAM−1の存在又はレベルを決定する。
1.細胞間接着分子−1(ICAM−1)
[0153]ICAM−1は、白血球及び内皮細胞の膜内に低い濃度で連続的に存在する膜貫通型細胞接着タンパク質である。サイトカインにより賦活されると、濃度が大幅に増加する。ICAM−1は、IL−1及びTNFαにより誘導され得、血管内皮、マクロファージ及びリンパ球により発現する。IBDにおいては、炎症促進性サイトカインが、接着分子、例として、ICAM−1及びVCAM−1の発現を上方制御することによって、炎症を引き起こす。接着分子の発現の増加が、より多くのリンパ球を感染組織に動員し、結果として、組織炎症をもたらす(Gokeら、J.Gastroenterol.、32:480(1997);及びRijckenら、Gut、51:529(2002)を参照されたい)。ICAM−1は、細胞間接着分子1遺伝子(ICAM1;Entrez GeneID:3383;GenBank受託番号NM_000201)によりコードされ、細胞間接着分子1前駆体ポリペプチド(GenBank受託番号NP_000192)がプロセシングされて産生される。
2.血管細胞接着分子−1(VCAM−1)
[0154]VCAM−1は、リンパ球、単核球、好酸球及び好塩基球の血管内皮に対する接着を媒介する膜貫通型細胞接着タンパク質である。遺伝子転写の増加の結果として、サイトカインによる(例えば、腫瘍壊死因子−α(TNFα)及びインターロイキン−1(IL−1)に応答して)内皮細胞中のVCAM−1の上方制御が生じる。VCAM−1は、血管細胞接着分子1遺伝子(VCAM1;Entrez GeneID:7412)によりコードされ、転写物(GenBank受託番号NM_001078(変異体1)又はNM_080682(変異体2))が示差的にスプライシングされ、前駆体ポリペプチドスプライスアイソフォーム(GenBank受託番号NP_001069(アイソフォームa)又はNP_542413(アイソフォームb))がプロセシングされて産生される。
[0155]特定の場合には、IgSF CAMの存在又はレベルを、アッセイ、例えば、ハイブリダイゼーションアッセイ又は増幅に基づくアッセイ等を用いて、mRNA発現のレベルにおいて検出する。特定の他の場合には、IgSF CAMの存在又はレベルを、例えば、イムノアッセイ(例えば、ELISA)又は免疫組織化学的アッセイを使用して、タンパク質発現のレベルにおいて検出する。試料、例として、組織試料、生検、血清、血漿、唾液、尿又は便中のICAM−1及び/又はVCAM−1の存在又はレベルを決定するのに適切な抗体及び/又はELISAキットが、例えば、Invitrogen(Camarillo、CA)、Santa Cruz Biotechnology,Inc.(Santa Cruz、CA)、及び/又はAbcam Inc.(Cambridge、MA)から入手可能である。
D.遺伝学的マーカー
[0156]また、試料中の1つ又は複数の遺伝学的マーカー中の対立遺伝子変異体の存在又は不在の決定も本発明に有用である。遺伝学的マーカーの非限定的な例として、これらに限定されないが、表1に記載するような、遺伝子型を同定することができる炎症経路遺伝子及び対応するSNPのうちのいずれか(例えば、NOD2/CARD15遺伝子、IL12/IL23経路遺伝子等)が挙げられる。好ましくは、NOD2/CARD15遺伝子中の少なくとも1つの対立遺伝子変異体、例えば、一塩基多型(SNP)の存在若しくは不在、及び/又はIL12/IL23経路中の1つ又は複数の遺伝子の存在若しくは不在を決定する。例えば、Barrettら、Nat.Genet.、40:955〜62頁(2008)、及びWangら、Amer.J.Hum.Genet.、84:399〜405頁(2009)を参照されたい。
[0157]本発明に有用な追加のSNPとして、例えば、rs2188962、rs9286879、rs11584383、rs7746082、rs1456893、rs1551398、rs17582416、rs3764147、rs1736135、rs4807569、rs7758080及びrs8098673が挙げられる。例えば、Barrettら、Nat.Genet.、40:955〜62頁(2008)を参照されたい。
1.NOD2/CARD15
[0158]NOD2/CARD15遺伝子中の対立遺伝子変異体、例として、SNPの存在又は不在の決定は、本発明において特に有用である。本明細書で使用する場合、用語「NOD2/CARD15変異体」又は「NOD2変異体」は、野生型NOD2遺伝子と比較して1つ若しくは複数の変化を含有する、NOD2遺伝子のヌクレオチド配列、又は野生型NOD2ポリペプチド配列と比較して1つ若しくは複数の変化を含有する、NOD2ポリペプチドのアミノ酸配列を含む。NOD2は、CARD15としてもまた知られており、16番染色体上のIBD1遺伝子座に局在していることが報告され、位置クローニング(Hugotら、Nature、411:599〜603頁(2001))及び位置的候補遺伝子戦略(Oguraら、Nature、411:603〜606頁(2001);Hampeら、Lancet、357:1925〜1928頁(2001))により同定されている。IBD1遺伝子座は、炎症性腸疾患について、高い多点連鎖スコア(multipoint linkage score)(MLS)を有する(16q12中のマーカーD16S411において、MLS=5.7)。例えば、Choら、Inflamm.Bowel Dis.、3:186〜190頁(1997);Akolkarら、Am.J.Gastroenterol.、96:1127〜1132頁(2001);Ohmenら、Hum.Mol.Genet.、5:1679〜1683頁(1996);Parkesら、Lancet、348:1588(1996);Cavanaughら、Ann.Hum.Genet.、62:291〜8頁(1998);Brantら、Gastroenterology、115:1056〜1061頁(1998);Curranら、Gastroenterology、115:1066〜1071頁(1998);Hampeら、Am.J.Hum.Genet.、64:808〜816頁(1999);及びAnneseら、Eur.J.Hum.Genet.、7:567〜573頁(1999)を参照されたい。
[0159]ヒトNOD2のmRNA(コード)配列及びポリペプチド配列がそれぞれ、例えば、GenBank受託番号NM_022162及びNP_071445に記載されている。さらに、NOD2を含むヒト16番染色体クローンRP11−327F22の完全配列も、例えば、GenBank受託番号AC007728に記載されている。さらに、他の種に由来するNOD2の配列も、GenBankデータベース中に見出すことができる。
[0160]NOD2タンパク質は、NF−カッパB(NF−kB)を活性化させることができるアミノ末端カスパーゼ動員ドメイン(CARD)、及びいくつかのカルボキシ末端のロイシンに富む反復ドメインを含有する(Oguraら、J.Biol.Chem.、276:4812〜4818頁(2001))。NOD2は、アポトーシス調節因子Apaf−1/CED−4、及び植物病抵抗性遺伝子産物のクラスに対して構造的な相同性を有する(Oguraら、上記)。植物病抵抗性遺伝子産物と同様に、NOD2は、アミノ末端エフェクタードメイン、ヌクレオチド結合ドメイン及びロイシンに富む反復配列(LRR)を有する。野生型NOD2は、核内因子NF−カッパBを活性化して、NF−カッパBを細菌のリポ多糖(LPS)に対して応答性にする(Oguraら、上記;Inoharaら、J.Biol.Chem.、276:2551〜2554頁(2001)。NOD2は、LPSについての細胞間受容体として機能することができ、ロイシンに富む反復配列は応答性に必要である。
[0161]NOD2のコード領域中の3つの一塩基多型における変動が以前に記載されたことがある。これら3つのSNPは、R702W(「SNP8」)、G908R(「SNP12」)及び1007fs(「SNP13」)と名付けられ、NOD2遺伝子のカルボキシ末端の領域に位置する(Hugotら、上記)。SNP8、SNP12及びSNP13、並びに本発明において使用するのに適したNOD2遺伝子中の追加のSNPのさらなる記載を、例えば、米国特許第6,835,815号、第6,858,391号及び第7,592,437号、並びに米国特許出願公開第20030190639号、第20050054021号及び第20070072180号に見出すことができる。
[0162]いくつかの実施形態では、NOD2変異体が、NOD2遺伝子座のコード領域中、例えば、NOD2ポリペプチドのカルボキシ末端の部分中のいくつかのロイシンに富む反復配列をコードする領域内に位置する。NOD2のロイシンに富む反復配列の領域中に位置する、そのようなNOD2変異体として、非限定的に、R702W(「SNP8」)及びG908R(「SNP12」)が挙げられる。また、本発明に有用なNOD2変異体は、野生型NOD2ポリペプチドによるNF−カッパBの活性化と比較して、NF−カッパBを活性化させる能力が低下しているNOD2ポリペプチドをコードする場合もある。非限定的な例として、NOD2変異体1007fs(「SNP13」)により、切断型のNOD2ポリペプチドが生じ、この切断型ペプチドは、LPSによる賦活に応答してNF−カッパBを誘導する能力の低下を示す(Oguraら、Nature、411:603〜606頁(2001))。
[0163]本発明に有用なNOD2変異体は、例えば、R702W、G908R又は1007fsであり得る。R702W、G908R及び1007fsは、NOD2のコード領域内に位置する。一実施形態では、本発明の方法を、R702WのNOD2変異体を用いて実行する。本明細書で使用する場合、用語「R702W」は、NOD2遺伝子の第4エクソン内の一塩基多型を含み、この多型は、NOD2タンパク質のアミノ酸702をコードするトリプレット内に生じる。野生型NOD2対立遺伝子は、AC007728配列の138,991位においてシトシン(c)残基を含有し、この残基は、アミノ酸702においてアルギニンをコードするトリプレット内に生じる。R702WのNOD2変異体は、AC007728配列の138,991位においてチミン(t)残基を含有し、結果として、NOD2タンパク質のアミノ酸702におけるアルギニン(R)からトリプトファン(W)への置換をもたらす。したがって、このNOD2変異体は、「R702W」又は「702W」として示され、また、Hugotら、上記の、より早期の番号付けシステムに基づいて、「R675W」として示す場合もある。さらに、R702W変異体は、「SNP8」対立遺伝子又はSNP8における「2」対立遺伝子としてもまた知られている。R702W又はSNP8についてのNCBI SNP ID番号は、rs2066844である。R702WのNOD2変異体及び他のNOD2変異体の存在を、例えば、対立遺伝子識別アッセイ又は配列解析により好都合に検出することができる。
[0164]また、本発明の方法は、G908RのNOD2変異体を用いて実行することもできる。本明細書で使用する場合、用語「G908R」は、NOD2遺伝子の第8エクソン内の一塩基多型を含み、この多型は、NOD2タンパク質アミノ酸908をコードするトリプレット内に生じる。アミノ酸908は、NOD2遺伝子のロイシンに富む反復領域内に位置する。野生型NOD2対立遺伝子は、AC007728配列の128,377位においてグアニン(g)残基を含有し、この残基は、アミノ酸908においてグリシンをコードするトリプレット内に生じる。G908RのNOD2変異体は、AC007728配列の128,377位においてシトシン(c)残基を含有し、結果として、NOD2タンパク質アミノ酸908におけるグリシン(G)からアルギニン(R)への置換をもたらす。したがって、このNOD2変異体は、「G908R」又は「908R」として示され、また、Hugotら、上記の、より早期の番号付けシステムに基づいて、「G881R」として示す場合もある。さらに、G908R変異体は、「SNP12」対立遺伝子又はSNP12における「2」対立遺伝子としてもまた知られている。G908RのSNP12についてのNCBI SNP ID番号は、rs2066845である。
[0165]また、本発明の方法は、1007fsのNOD2変異体を用いて実行することもできる。この変異体は、単一ヌクレオチドの挿入体であり、この挿入ヌクレオチドにより、NOD2タンパク質の10番目のロイシンに富む反復配列中にフレームシフトが生じ、続いて、未熟な終止コドンが生じる。NOD2タンパク質の結果として生じる切断が、細菌のリポ多糖に応答する、NF−カッパBの活性化を阻止するように見える(Oguraら、上記)。本明細書で使用する場合、用語「1007fs」は、NOD2遺伝子の第11エクソン内の一塩基多型を含み、この多型は、NOD2タンパク質のアミノ酸1007をコードするトリプレット中に生じる。1007fs変異体は、AC007728配列の121,139位において付加され、結果として、アミノ酸1007においてフレームシフト突然変異をもたらすようになったシトシンを含有する。したがって、このNOD2変異体は、「1007fs」として示され、また、Hugotら、上記の、より早期の番号付けシステムに基づいて、「3020insC」又は「980fs」として示すこともできる。さらに、1007fsのNOD2変異体は、「SNP13」対立遺伝子又はSNP13の「2」対立遺伝子としてもまた知られている。1007fs又はSNP13についてのNCBI SNP ID番号は、rs2066847である。
[0166]当業者であれば、例えば、PE Biosystems(Foster City、CA)から得られる市販されている参照DNAを使用して、例えば、Centre d’Etude du Polymorphisme Humain(CEPH)の参照個体、例として、1347−02と名付けられた個体と比較して(Dibら、Nature、380:152〜154頁(1996))、特定のNOD2変異体対立遺伝子又は他の多型対立遺伝子を好都合に定義することができることを認識する。さらに、SNPに関する詳細な情報を、National Center for Biotechnology Information(NCBI)のdbSNPから得ることもできる。
[0167]また、NOD2変異体は、NOD2遺伝子座の非コード領域中に位置する場合もある。非コード領域として、例えば、イントロン配列、並びに5’及び3’の非翻訳配列が挙げられる。NOD2遺伝子の非コード領域中に位置するNOD2変異体対立遺伝子の非限定的な例が、JW1変異体であり、この変異体は、Sugimuraら、Am.J.Hum.Genet.、72:509〜518頁(2003)及び米国特許出願公開第20070072180号に記載されている。NOD2遺伝子の3’非翻訳領域中に位置するNOD2変異体対立遺伝子の例として、非限定的に、JW15変異体対立遺伝子及びJW16変異体対立遺伝子が挙げられ、これらは、米国特許出願公開第20070072180号に記載されている。NOD2遺伝子の5’非翻訳領域(例えば、プロモーター領域)中に位置するNOD2変異体対立遺伝子の例として、非限定的に、JW17変異体対立遺伝子及びJW18変異体対立遺伝子が挙げられ、これらは、米国特許出願公開第20070072180号に記載されている。
[0168]本明細書で使用する場合、用語「JW1変異体対立遺伝子」は、NOD2遺伝子の第8介在配列(第8イントロン)のヌクレオチド158における遺伝子の変動を含む。AC007728配列に関して、JW1変異体対立遺伝子は、128,143位に位置する。第8イントロンのヌクレオチド158における遺伝子の変動は、これらに限定されないが、単一ヌクレオチドの置換、複数のヌクレオチドの置換、又は1つ若しくは複数のヌクレオチドの欠失若しくは挿入であり得る。第8イントロンの野生型配列は、158位にシトシンを有する。非限定的な例として、JW1変異体対立遺伝子は、第8イントロンのヌクレオチド158において、シトシン(c)からアデニン(a)へ、シトシン(c)からグアニン(g)へ、又はシトシン(c)からチミン(t)への置換を有し得る。一実施形態では、JW1変異体対立遺伝子は、NOD2の第8イントロンのヌクレオチド158におけるシトシン(c)からチミン(t)への変化である。
[0169]用語「JW15変異体対立遺伝子」は、AC007728配列の118,790位のヌクレオチドにおけるNOD2の3’非翻訳領域中の遺伝子の変動を含む。ヌクレオチド118,790における遺伝子の変動は、これらに限定されないが、単一ヌクレオチドの置換、複数のヌクレオチドの置換、又は1つ若しくは複数のヌクレオチドの欠失若しくは挿入であり得る。野生型配列は、118,790位においてアデニン(a)を有する。非限定的な例として、JW15変異体対立遺伝子は、ヌクレオチド118,790において、アデニン(a)からシトシン(c)へ、アデニン(a)からグアニン(g)へ、又はアデニン(a)からチミン(t)への置換を有し得る。一実施形態では、JW15変異体対立遺伝子は、ヌクレオチド118,790におけるアデニン(a)からシトシン(c)への変化である。
[0170]本明細書で使用する場合、用語「JW16変異体対立遺伝子」は、AC007728配列の118,031位のヌクレオチドにおけるNOD2の3’非翻訳領域中の遺伝子の変動を含む。ヌクレオチド118,031における遺伝子の変動は、これらに限定されないが、単一ヌクレオチドの置換、複数のヌクレオチドの置換、又は1つ若しくは複数のヌクレオチドの欠失若しくは挿入であり得る。野生型配列は、118,031位においてグアニン(g)を有する。非限定的な例として、JW16変異体対立遺伝子は、ヌクレオチド118,031において、グアニン(g)からシトシン(c)へ、グアニン(g)からアデニン(a)へ、又はグアニン(g)からチミン(t)への置換を有し得る。一実施形態では、JW16変異体対立遺伝子は、ヌクレオチド118,031におけるグアニン(g)からアデニン(a)への変化である。
[0171]用語「JW17変異体対立遺伝子」は、AC007728配列の154,688位のヌクレオチドにおけるNOD2の5’非翻訳領域中の遺伝子の変動を含む。ヌクレオチド154,688における遺伝子の変動は、これらに限定されないが、単一ヌクレオチドの置換、複数のヌクレオチドの置換、又は1つ若しくは複数のヌクレオチドの欠失若しくは挿入であり得る。野生型配列は、154,688位においてシトシン(c)を有する。非限定的な例として、JW17変異体対立遺伝子は、ヌクレオチド154,688において、シトシン(c)からグアニン(g)へ、シトシン(c)からアデニン(a)へ、又はシトシン(c)からチミン(t)への置換を有し得る。一実施形態では、JW17変異体対立遺伝子は、ヌクレオチド154,688におけるシトシン(c)からチミン(t)への変化である。
[0172]本明細書で使用する場合、用語「JW18変異体対立遺伝子」は、AC007728配列の154,471位のヌクレオチドにおけるNOD2の5’非翻訳領域中の遺伝子の変動を含む。ヌクレオチド154,471における遺伝子の変動は、これらに限定されないが、単一ヌクレオチドの置換、複数のヌクレオチドの置換、又は1つ若しくは複数のヌクレオチドの欠失若しくは挿入であり得る。野生型配列は、154,471位においてシトシン(c)を有する。非限定的な例として、JW18変異体対立遺伝子は、ヌクレオチド154,471において、シトシン(c)からグアニン(g)へ、シトシン(c)からアデニン(a)へ、又はシトシン(c)からチミン(t)への置換を有し得る。一実施形態では、JW18変異体対立遺伝子は、ヌクレオチド154,471におけるシトシン(c)からチミン(t)への変化である。
[0173]本発明の方法は、NOD2遺伝子座のコード領域、又は非コード領域(例えば、イントロン、若しくはプロモーター領域)中に位置する、これら又は他のNOD2変異体対立遺伝子を用いて実行することができることを理解されたい。本発明の方法は、これらに限定されないが、SNP8、SNP12及びSNP13の対立遺伝子、並びに他のコード領域及び非コード領域の変異体を含めた、1、2、3又は4つ以上のNOD2変異体の存在を決定することを含むことができることをさらに理解されたい。
[実施例]
[0174]本発明を、具体例を利用してより詳細に記載する。以下の実施例は、例示の目的で提供するのであって、いかなる場合であっても、それらの実施例により本発明を制限する意図はない。当業者であれば、変化させるか又は改変しても、本質的に同じ結果を得ることができる、多様な重要でないパラメータを容易に認識するであろう。
実施例1.抗TNFα生物学的製剤のレベルを測定するための新規の移動度シフトアッセイ。
[0175]この実施例は、サイズ排除クロマトグラフィーを使用して、蛍光標識化TNFαに対する抗TNFα薬の結合を検出する、患者試料(例えば、血清)中の抗TNFα薬の濃度を測定するための新規の均一アッセイを例証する。当該アッセイは好都合である。その理由は、当該アッセイが、洗浄のステップの必要性をなくすこと、可視スペクトル及び/又はIRスペクトル上における検出を可能にし、それにより、バックグラウンド及び血清の干渉の問題を減少させる蛍光物質を使用すること、蛍光標識検出の高い感度により、低い力価を有する患者において抗TNFα薬を検出する能力を増加させること、並びに液相反応として行われ、それにより、固体表面、例として、ELISA用プレートにつながることによってエピトープが変化する機会が低下することによる。
[0176]例示的な一実施形態では、TNFαを、蛍光物質(例えば、アレクサ647)を用いて標識し、蛍光物質は、可視スペクトル及びIRスペクトルのいずれか又は両方上で検出することができる。標識化TNFαを液相反応中でヒト血清と共にインキュベートして、血清中に存在する抗TNFα薬を結合させる。また、標識化TNFαを液相反応中で既知の量の抗TNFα薬と共にインキュベートして、検量線を作成することもできる。インキュベーションに続いて、試料を、サイズ排除カラム上に直接充填する。標識化TNFαに対する抗TNFα薬の結合により、標識化TNFα単独と比較して、ピークの左方向へのシフトが生じる。次いで、血清試料中に存在する抗TNFα薬の濃度を、検量線及び対照と比較することができる。
[0177]図1は、サイズ排除HPLCを使用して、TNFα−アレクサ647とヒュミラ(商標)(アダリムマブ)との間の結合を検出する、本発明のアッセイの実施例を示す。図1に示すように、TNFα−アレクサ647に対するヒュミラ(商標)の結合が、TNFα−アレクサ647のピークの、左へのシフトを引き起こした。
[0178]図2は、TNFα−アレクサ647に対するヒュミラ(商標)の結合の用量反応曲線を示す。特に、図2Aは、ヒュミラ(商標)が、サイズ排除クロマトグラフィーアッセイにおいて、TNFα−アレクサ647のシフトを用量依存的に増加させたことを示す。図2Bは、サイズ排除クロマトグラフィーアッセイにおいて、1%ヒト血清の存在が、TNFα−アレクサ647のシフトに対して顕著な作用を示すことはなかったことを示す。図2Cは、サイズ排除クロマトグラフィーアッセイにおいて、プールしたRF陽性血清の存在が、TNFα−アレクサ647のシフトに対して顕著な作用を示すことはなかったことを示す。
[0179]したがって、この実施例は、抗TNFα薬、例として、ヒュミラ(商標)を投与している患者をモニターして、(1)適切な薬物投与量の決定を導く場合、(2)薬物の薬物動態を評価し、例えば、身体から薬物が急速に除かれ過ぎていないかどうかを決定する場合、及び(3)治療の決定を導く、例えば、現在の抗TNFα薬から異なるTNFα阻害剤にか、又は別のタイプの療法に切り換えるかどうかの決定を導く場合の本発明の有用性を実証している。
実施例2.HACA及びHAHAのレベルを測定するための新規の移動度シフトアッセイ。
[0180]この実施例は、サイズ排除クロマトグラフィーを使用して、蛍光標識化抗TNFα薬に対する、患者試料(例えば、血清)中の自己抗体(例えば、HACA及び/又はHAHA)の結合を検出する、これらの自己抗体の濃度を測定するための新規の均一アッセイを例証する。当該アッセイは好都合である。その理由は、当該アッセイが、低い親和性のHACA及びHAHAを除去する洗浄のステップの必要性をなくすこと、可視スペクトル及び/又はIRスペクトル上における検出を可能にし、それにより、バックグラウンド及び血清の干渉の問題を減少させる蛍光物質を使用すること、蛍光標識検出の高い感度により、低い力価を有する患者においてHACA及びHAHAを検出する能力を増加させること、並びに液相反応として行われ、それにより、固体表面、例として、ELISA用プレートにつながることによってエピトープが変化する機会が低下することによる。
[0181]TNFα阻害剤に対して生成される自己抗体(例えば、HACA、HAHA等)を測定する臨床的な有用性は、HACAが1mg/kg、3mg/kg及び10mg/kgのインフリキシマブを用いて治療した関節リウマチ患者の53%、21%及び7%において検出された事実によって示されている。インフリキシマブを、メトトレキサートと組み合わせた場合、抗体の発生率は、より低く、15%、7%及び0%であり、このことは、免疫抑制剤併用療法が抗薬物応答を低下させるのに有効であることを示しているが、また、高い用量の抗TNFα抗体が寛容をもたらす可能性があるであろうことも示している。クローン病の場合、さらにより高い発生率が報告された。5回目の注入後、患者の61%がHACAを有した。HACAが存在する場合、臨床応答が短縮した。Rutgeerts、N.Engl.J.Med.、348:601〜608頁(2003)を参照されたい。インフリキシマブ及びHACAのレベルを、155人の患者において2005〜2008年の3年にわたり測定した遡及的研究から、HACAが、炎症性腸疾患を有する患者の22.6%(N=35)において検出されることが実証された。Afifら、「Clinical Utility of Measuring Infliximab and Human Anti−Chimeric Antibody Levels in Patients with Inflammatory Bowel Disease」、Digestive Disease Week;2009年5月30日〜6月3日;Chicago、ILにおいて提示された論文を参照されたい。著者らは、臨床症状に基づいて治療を変化させるだけでは、管理が不適切になる可能性があると結論付けた。
[0182]均一移動度シフトアッセイは、現在の方法、例として、図3に示す、患者試料中の自己抗体(例えば、HACA及び/又はHAHA)の濃度を測定するための細胞架橋アッセイ(bridging assay)を上回って好都合である。その理由は、考案の方法が、自己抗体、例として、HACAの濃度を、非特異的結合及びELISA用プレートに由来する固相干渉なしで測定することが可能であり、抗TNFα薬に由来する干渉もなく(例えば、細胞架橋アッセイを用いると、HACAの測定を、抗TNFα薬の谷レベルにおいて行わなければならない)、抗体の多価に依存することは全くない(例えば、IgG4抗体が、二重特異性を示し、同じ抗原と架橋結合することができないので、細胞架橋アッセイを使用すると、IgG4抗体は検出されない)からである。したがって、本発明は、現在の方法を上回る以下の利点を少なくとも有する:抗原の固体表面への付着を回避する(変性が回避される)利点、IgG4の作用を排除する利点、治療用抗体の谷の問題を克服する利点、弱い親和性を有する抗体を検出する利点、無関係のIgGの非特異的結合を排除する利点、並びに検出の感度及び特異性を増加させる利点。
[0183]例示的な一実施形態では、抗TNFα薬(例えば、レミケード(商標))を、蛍光物質(例えば、アレクサ647)を用いて標識し、蛍光物質は、可視スペクトル及びIRスペクトルのいずれか又は両方上で検出することができる。標識化抗TNFα薬を液相反応中でヒト血清と共にインキュベートして、血清中に存在するHACA及びHAHAを結合させる。また、標識化抗TNFα薬を液相反応中で既知の量の抗IgG抗体と共にインキュベートして、検量線を作成することもできる。インキュベーションに続いて、試料を、サイズ排除カラム上に直接充填する。標識化抗TNFα薬に対する自己抗体の結合により、標識化薬物単独と比較して、ピークの左方向へのシフトが生じる。次いで、血清試料中に存在するHACA及びHAHAの濃度を、検量線及び対照と比較することができる。図4は、レミケード(商標)に対して生成したHACA/HAHAの濃度を測定するための、本発明の自己抗体の検出アッセイの例示的な概要を示す。特定の場合には、高いHACA/HAHAのレベルにより、レミケード(商標)を用いる現在の療法を、別の抗TNFα薬、例として、ヒュミラ(商標)に切り換えるべきであることが示される。
[0184]このアッセイの原理は、複合体の分子量の増加に起因して、サイズ排除−高速液体クロマトグラフィー(SE−HPLC)上において、抗体が結合しているアレクサ647標識化レミケード複合体に、遊離のアレクサ647標識化レミケードに比して、移動度のシフトが生じることに基づく。
[0185]この実施例におけるクロマトグラフィーを、Agilent−1200HPLCシステム上で、5,000〜700,000の分子量分画範囲を有するBio−Sepの300×7.8mmのSEC−3000カラム(Phenomenex)、及び1×PBS、pH7.4の移動相を使用して、0.5mL/分の流速で、650nmにおけるUV検出を用いて実施した。各分析について、100μLの試料体積をカラム上に充填する。
[0186]抗体が結合しているアレクサ647標識化レミケード複合体を、SE−HPLC分析の前に、既知の量の抗体及びアレクサ647標識化レミケードを、1×PBS、pH7.3の溶出用緩衝液中、室温で1時間インキュベートすることによって形成させる。
[0187]図5は、本発明のサイズ排除クロマトグラフィーアッセイを使用して検出した場合のレミケード(商標)−アレクサ647に対する抗ヒトIgG抗体の結合の用量応答分析を示す。レミケード(商標)−アレクサ647に対する抗IgG抗体の結合が、レミケード(商標)−アレクサ647のピークの、左へのシフトを引き起こした。図6は、本発明のサイズ排除クロマトグラフィーアッセイを使用して検出した場合のレミケード(商標)−アレクサ647に対する抗ヒトIgG抗体の結合の第2の用量応答分析を示す。レミケード(商標)−アレクサ647のピークの、左へのシフトによって示されるように、より高い量の抗IgG抗体から、抗IgG/レミケード(商標)−アレクサ647の複合体の形成の用量依存性の増加が生じた。図7は、レミケード(商標)−アレクサ647に対する抗IgG抗体の結合の用量反応曲線を示す。
[0188]図8は、100μlの注入試料を用いて、本発明のサイズ排除クロマトグラフィーアッセイを使用して検出した場合の、正常ヒト血清及びHACA陽性血清中におけるレミケード(商標)−アレクサ647の免疫複合体形成を示す。図8に示すように、レミケード(商標)−アレクサ647に対する、患者試料中に存在するHACAの結合が、レミケード(商標)−アレクサ647のピークの、左へのシフトを引き起こした。したがって、本発明のサイズ排除クロマトグラフィーアッセイは、特に好都合である。その理由は、当該アッセイが、レミケード(商標)の存在下で、HACAを測定すること、患者の療法を継続しながら活用され得ること、HACAの弱い結合及び強い結合の両方を測定すること、混合し、読み取る移動度シフトアッセイであること、並びに標識化レミケード(商標)を使用して、HACAとレミケード(商標)とを平衡化する他のアプローチに拡大適用することができることによる。
[0189]図9は、細胞架橋アッセイ又は本発明の移動度シフトアッセイを使用して実施した、20人の患者の血清試料から得られたHACAの測定の概要を示す。この比較研究から、提示する方法は、現在の方法を上回って、感度を増加させるに至ったことが実証されている。その理由は、細胞架橋アッセイを使用して測定した場合、HACAについて陰性であった3つの試料が実際には、本発明の移動度シフトアッセイを使用して測定した場合、HACA陽性であったからである(患者番号SK07070305、SK07070595及びSK07110035を参照されたい)。
[0190]したがって、この実施例は、抗TNFα薬(例えば、レミケード(商標))を投与している患者をモニターして、薬物に対する自己抗体(例えば、HACA及び/又はHAHA)の存在又はレベルを検出する場合の本発明の有用性を実証している。本発明が有用である理由は、そのような免疫応答が、過敏性反応、並びに抗TNFα薬の薬物動態及び体内分布の劇的な変化と関連がある場合があり、そうした反応及び変化は、薬物を用いたさらなる治療を妨げるからである。
[0191]結論として、実施例1及び2は、TNFα及び抗TNFα抗体を、アレクサ647を用いて効率的に標識することができることを実証している。標識化TNFα−アレクサ647を、抗TNFα抗体と共にインキュベートすると、標識化TNFα/抗TNFα抗体の複合体の保持時間がシフトし、シフトを引き起こす抗TNFα抗体の量を、HPLCを用いて定量化することができた。さらに、標識化抗TNFα抗体を、抗ヒトIgG抗体と共にインキュベートすると、標識化抗TNFα抗体/抗IgG抗体の複合体の保持時間がシフトし、シフトを引き起こす抗IgG抗体の量を、HPLCを用いて定量化することもできた。さらに、アッセイ系中の低い血清含有量は、HPLCによる分析に対してほとんど作用を示さないことも示された。最後に、検量線を、抗TNFα抗体アッセイ及びHACA/HAHAアッセイのために生成することができ、検量線を使用して、患者血清の抗TNFα抗体又はHACA/HAHAのレベルを定量化することができた。好都合なことに、本発明は、特定の態様では、薬物及び薬物に対する抗体の両方を測定するために開発した移動度シフトアッセイ、例として、混合し、読み取る、均一アッセイを提供する。検量線を、抗TNFα生物学的製剤のレミケード及びヒュミラについて、また、レミケードに対するHACA抗体についても生成した。移動度シフトアッセイフォーマットは、ELISAとは異なり、抗原による固体表面の被覆を排除し、無関係のIgGの非特異的結合の影響を受けない。アッセイフォーマットは、単純であるが、非常に感度が高く、このフォーマットを使用して、全ての抗TNFα生物学的薬物(例えば、レミケード、ヒュミラ、エンブレル及びシムジア)、並びに患者血清中の中和抗体(抗レミケードRemicade(商標))を検出することができる。
実施例3.新規の移動度シフトアッセイを使用する、患者血清中のヒト抗キメラ抗体(HACA)及びインフリキシマブ(IFX)のレベルの測定。
要約
[0192]背景:インフリキシマブ(IFX)は、TNFαに対するキメラモノクローナル抗体治療剤であり、この治療剤は、自己免疫疾患、例として、関節リウマチ(RA)及び炎症性腸疾患(IBD)を治療するのに有効であることが示されている。しかし、IFXに対する抗体が、一部のIFX治療患者において、ヒト抗キメラ抗体(HACA)の検出を通して見出され、HACAは、薬物の有効性を低下させるか又は有害作用を引き起こす可能性がある。個々の患者においてHACA及びIFXのレベルをモニターすることは、IFXの投与及びIFXを用いる治療を最適化するのを支援することができる。HACAを検出するための現在の方法は、固相アッセイに基づいており、これらの方法は、血行中のIFXの存在がHACAの存在をマスクする可能性があり、したがって、IFXの投与の少なくとも8週間後にようやく測定を行うことができるという事実によって制限される。さらに、この時間の経過は、血液循環中の高分子量の免疫複合体の急速なクリアランスにより、アッセイをさらに混乱させる。本発明者らは、これらの欠点を克服するために、IFXを用いて治療する患者中のIFX及びHACAの血清レベルを測定するための新しい方法を開発し、評価するに至った。
[0193]方法:新規の非放射標識性、液相、サイズ排除(SE)−HPLC移動度シフトアッセイを開発して、IFXを用いて治療する患者から得られた血清中のHACA及びIFXのレベルを測定した。免疫複合体(例えば、TNFα/IFX又はIFX/HACA)、遊離のTNFα又はIFX、及び結合型/遊離の比を、高い感度で決定及び計算することができる。異なる濃度のIFX又はプールしたHACA陽性血清と共にインキュベートすることによって生成した検量線を用いて、IFX又はHACAの血清濃度を決定した。本発明者らは、この新規アッセイを使用して、再発に至った、IFXを用いて治療するIBD患者から収集した血清中のIFX及びHACAのレベルを測定し、結果を、従来の細胞架橋ELISAアッセイ(Bridge ELISA assay)により得られた結果と比較するに至った。
[0194]結果:用量反応曲線を、新規アッセイから高い感度で生成した。HACAの検出を、過剰なIFXの存在下で実証した。IFXを用いて治療する患者から得られた117個の血清試料中、65個の試料が検出限界を上回るIFXレベルを有することを見出し、平均は、11.0+6.9mg/mLであった。HACAレベルについては、33個(28.2%)の試料が陽性であることを見出し、一方、細胞架橋ELISAアッセイは、わずか24個の陽性試料を検出したに過ぎない。また、本発明者らは、細胞架橋アッセイにより決定した試料から、9つの偽陰性及び9つの偽陽性も同定した。11人の患者において、IFX治療のコースの間に、HACAレベルが増加することを見出し、一方、IFXレベルは顕著に減少することを見出した。
[0195]結論:新規の非放射標識性、液相、移動度シフトアッセイを開発して、IFXを用いて治療する患者から得られた血清中のIFX及びHACAのレベルを測定するに至った。当該アッセイは、高い感度及び精度を有し、得られた結果には、再現性があった。この新規アッセイを好都合に使用して、HACA及びIFXのレベルを、患者の療法を継続しながら測定することができる。
序論
[0196]腫瘍壊死因子−α(TNFα)は、自己免疫疾患、例として、クローン病(CD)及び関節リウマチ(RA)の病変形成において極めて重要な役割を果たす。TNFαを、治療用抗体、例として、インフリキシマブ(ヒト−マウスのキメラモノクローナルIgG1κ)又はアダリムマブ(完全ヒトモノクローナル抗体)を用いて遮断することによって、CD及びRAにおける疾患活性が低下することは十分に記載されている。しかし、約30〜40%の患者が、抗TNFα療法に応答せず、一部の患者は、十分な応答を欠くことに起因して、より高い用量又は投与頻度による調節が必要になる。個々の患者における薬物の生物学的利用率及び薬物動態の差が、治療の不成功に寄与し得る。患者にHACA/HAHAを発生させる、薬物の免疫原性により、軽度のアレルギー応答からアナフィラキシー性ショックまでの様々な有害反応が生じる可能性があるであろう。これらの問題は今では、多くの研究者、薬物規制機関、健康保険会社及び薬物製造者が認識している。さらに、1つの抗TNFα薬に対する続発性の応答不全を示した多くの患者が、他の抗TNFα薬への切換えから利益を得、このことから、治療のために使用するタンパク質に対して特異的に作られる中和抗体の役割も示唆される(Radstakeら、Ann.Rheum.Dis.、68(11):1739〜45頁(2009))。したがって、薬物投与を、個々の患者に合わせて手直しすることができ、長期の療法を、患者に対するリスクがほとんど又は全くなく、有効かつ経済的に行うことができるように、患者を薬物及びHACA/HAHAのレベルについてモニターすることが正当化される(Bendtzenら、Scand.J.Gastroenterol.、44(7):774〜81頁(2009))。
[0197]いくつかの酵素結合イムノアッセイが、薬物及びHACA/HAHAの循環レベルを評価するために使用されている。図10は、本発明の新規のHACAアッセイと比較した、HACAの測定のために利用可能な現在のアッセイの概要を示す。現在の方法の制限のうちの1つは、血行中に測定可能な量の薬物がある場合、抗体のレベルを測定するのが困難であることである。IFXの投与の少なくとも8週間後にようやく測定を実施することができる、HACAを検出するための現在の固相法とは対照的に、本発明の新規アッセイは、非放射標識性、液相、サイズ排除(SE)−HPLCアッセイであり、IFXを用いる治療を継続しながら、患者から得られた血清中のHACA及びIFXのレベルを測定することが可能である。
[0198]患者において、抗TNFα生物学的薬物及びTNFα生物学的薬物に対する抗体の血清濃度を測定することについての理論的根拠を、以下に示す:(1)臨床治験におけるPK研究のため、(2)生物学的薬物に対する患者の免疫応答をモニターすることが、FDAにより、臨床治験の間に要求される場合がある、(3)HACA又はHAHAを測定することによって、生物学的薬物に対する患者の応答をモニターして、各患者についての薬物投与量を導くため、及び(4)最初の薬物が成功しない場合に、異なる、生物学的薬物に切り換えるための手引きとして使用するため。
方法
[0199]患者血清中のインフリキシマブ(IFX)のレベルのSE−HPLC分析。ヒト組換えTNFαを、蛍光物質(「Fl」、例えば、アレクサフルオール(登録商標)488等)を用いて、製造元の指示に従って標識した。標識化TNFαを、異なる量のIFX又は患者血清と共に室温で1時間インキュベートした。100μlの体積の試料を、HPLCシステム上のサイズ排除クロマトグラフィーにより解析した。FLDを使用して遊離TNFα−Fl及び結合しているTNFα−Fl免疫複合体をそれらの保持時間に基づいてモニターした。血清IFXレベルを、検量線から計算した。
[0200]患者血清中のHACAのレベルのSE−HPLC分析。精製IFXを、Flを用いて標識した。標識化IFXを、異なる希釈度のプールしたHACA陽性血清又は希釈した患者血清と共に室温で1時間インキュベートした。100μlの体積の試料を、HPLCシステム上のサイズ排除クロマトグラフィーにより解析した。FLDを使用して、遊離IFX−Fl及び結合しているIFX−Fl免疫複合体をそれらの保持時間に基づいてモニターした。結合しているIFX−Flと遊離IFX−Flとの比を使用して、HACAのレベルを決定した。
[0201]血清中のHACAを測定するための移動度シフトアッセイの手順。このアッセイの原理は、複合体の分子量の増加に起因して、サイズ排除−高速液体クロマトグラフィー(SE−HPLC)上において、HACAが結合しているFl標識化インフリキシマブ(IFX)複合体に、遊離のFl標識化IFXに比して、移動度のシフトが生じることに基づく。クロマトグラフィーを、Agilent−1200HPLCシステム中で、5,000〜700,000の分子量分画範囲を有するBio−Sepの300×7.8mmのSEC−3000カラム(Phenomenex)、及び1×PBS、pH7.3の移動相を使用して、0.5〜1.0mL/分の流速で、FLD検出を用いて実施する。各分析について、100μLの試料体積をカラム上に充填する。HACAが結合しているFl標識化IFX複合体を、SE−HPLC分析の前に、IFX治療患者から得られた血清及びFl標識化IFXを、1×PBS、pH7.4の溶出用緩衝液中、室温で1時間インキュベートすることによって形成する。また、アッセイの妥当性を確認するために、各種の干渉物質、例として、リウマチ因子及びTNF−αの存在下でもアッセイを行った。
結果
[0202]図11は、高分子量の複合体の移動度のシフトに起因する、遊離のIFX−Flからの、HACAが結合しているIFX−Fl複合体の分離を示す。パネルc及びdに見られるように、蛍光ピークの保持時間が、21.8分から15.5〜19.0分にシフトした。より多くのHACAが反応混合物中に存在するほど、より少ない遊離のIFX−Flがクロマトグラム中に留まり、より多くの免疫複合体が形成される。図12は、HACAの付加が引き起こした蛍光ピークのシフトの用量反応曲線を示す。本発明者らは、HACA陽性の試料を使用して、1:1000の希釈度の血清を用いて、ピークのシフトを検出することができた。
[0203]図13は、高分子量の複合体の移動度のシフトに起因する、遊離のTNFα−Flからの、IFXが結合しているTNFα−Fl複合体の分離を示す。パネルc及びdに見られるように、蛍光ピークの保持時間が、24分から13〜19.5分にシフトした。より多くのIFXが反応混合物中に存在するほど、より少ない遊離のTNFα−Flがクロマトグラム中に留まり、より多くの免疫複合体が形成される。図14は、IFXの付加が引き起こしたTNFα−Flのピークのシフトの用量反応曲線を示す。付加したIFXに基づくと、検出限界は、血清中において、10ng/mLのIFXである。
[0204]細胞架橋アッセイにより測定したHACA陽性患者及びHACA陰性患者から得られた血清試料を試験することによって、本発明の新規の移動度シフトアッセイの妥当性を確認した(表2)。本発明者らは、このアッセイを使用して、50人の健常な対象及び117人のIFXを用いて治療するIBD患者から得られた血清試料を分析するに至った。50個の健常対象の試料は全て、検出限界を下回るIFXのレベルを有し、一方、患者試料のうち65個は、11.0μg/mlの平均IFX濃度を有する。表3に、細胞架橋アッセイ及び移動度シフトアッセイにより測定した健常な対照及びIFXを用いて治療するIBD患者の血清中のHACAのレベルを示す。細胞架橋アッセイは、移動度シフトアッセイよりも少ないHACA陽性患者を検出し、より多くの偽陰性及びより多くの偽陽性を検出した。
[0205]図15は、IFX治療のコースの間のIBD患者における、HACAのレベルとIFX濃度との関係を示す。HACAは、早くもV10(第30週)に検出することができ、IFX治療の間に一部の患者において増加し続けた。図16は、HACAを、本発明のアッセイを使用して、IFXの存在下で検出することができることを示す。血清中のHACAのより高いレベルは、IFXのより低いレベルと関連があり、この関連性を検出することができるであろう(例えば、生物学的利用率の低下)。したがって、IFXを用いる治療を継続しながら、HACAを早期に検出することによって、医師及び/又は患者を、他の抗TNF薬に切り換えるか又はIFXの用量を増加させるように導くことができる。
[0206](CVパラメータに基づく)アッセイ内及びアッセイ間の正確さ、並びに干渉物質に対する感受性の観点から、アッセイの妥当性を確認した。この分析を、以下の表に示す。
結論
[0207]抗TNFα生物学的薬物は、蛍光物質(「Fl」)を用いて容易に標識することができ、HACA/HAHAを測定するために使用する移動度シフトアッセイフォーマットは、均一アッセイであり、典型的なELISAとは異なり、抗原による固体表面の被覆も、複数回の洗浄のステップ及びインキュベーションのステップもない。Fl標識化IFXをHACA陽性血清とインキュベートすると、免疫複合体が形成され、この免疫複合体は、SE−HPLCにおいて、遊離のFl標識化IFXと比較して、異なる位置に溶出し、したがって、HACAの量を定量化することができる。他の血清成分の存在は、移動度シフトアッセイに対して作用をほとんど示さない。移動度シフトアッセイフォーマットは、ELISAとは異なり、無関係のIgGの非特異的結合の影響を受けず、IgG4アイソタイプを検出する。健常血清試料は、Fl標識化IFXの移動度のシフトを引き起こさず、IFXを用いて治療する患者の28.2%がHACAを有することが本発明のアッセイにより見出された。したがって、本明細書に記載するアッセイフォーマットは、非常に感度が高く、患者血清中の全ての生物学的薬物(例えば、レミケード、ヒュミラ、エンブレル及びシムジア)並びにそれらの抗体(例えば、抗レミケード、抗ヒュミラ、抗エンブレル及び抗シムジア)を検出するために適用することができる。とりわけ、HACAを、本発明の移動度シフトアッセイを使用して、IFXの存在下で検出することができるので、IFXを用いる治療を継続しながら、HACAを早期に検出することによって、医師及び/又は患者を、他の抗TNF薬に切り換えるか又はIFXの今後の用量を増加させるように導くことができる。
[0208]本発明者らは、新規の非放射標識性、液相、SE−HPLCアッセイを開発して、IFXを用いて治療する患者から得られた血清試料中のIFX及びHACAのレベルを測定するに至った。新規アッセイは、高い感度、精度及び正確さを有し、結果には、高い再現性があり、これらのことは、このアッセイを多数のヒト血清試料の日常的な試験に適したものにする。新しいアッセイフォーマットは、ELISAとは異なり、抗原による固体表面の被覆を排除し、無関係のIgGの非特異的結合の影響を受けない。本明細書に記載するアッセイフォーマットのこれらの利点は、試験の偽陰性及び偽陽性の結果を低下させる。好都合なことに、本発明のアッセイフォーマットは、非常に感度が高く、患者の療法を継続しながら、血清中に存在する全ての生物学的薬物及びそれらの抗体を検出するために使用することができる。
実施例4.新規の移動度シフトアッセイを使用する、患者血清中の中和ヒト抗キメラ抗体(HACA)と非中和ヒト抗キメラ抗体(HACA)との間の区別。
[0209]この実施例は、サイズ排除クロマトグラフィーを使用して、蛍光標識化TNFαの存在下で、蛍光標識化抗TNFα薬に対する、自己抗体(例えば、HACA)の結合を検出して、患者試料(例えば、血清)中のこれらの自己抗体の濃度を測定するため、及びそのような自己抗体が中和自己抗体であるか又は非中和自己抗体であるかを決定するための新規の均一アッセイを示す。これらのアッセイは好都合である。その理由は、当該アッセイが、低い親和性のHACAを除去する洗浄のステップの必要性をなくすこと、可視スペクトル及び/又はIRスペクトル上における検出を可能にし、それにより、バックグラウンド及び血清の干渉の問題を減少させる、明確に異なる蛍光物質を使用すること、蛍光標識検出の高い感度により、低い力価を有する患者において中和HACA又は非中和HACAを検出する能力を増加させること、並びに液相反応として行われ、それにより、固体表面、例として、ELISA用プレートにつながることによってエピトープが変化する機会が低下することによる。
[0210]例示的な一実施形態では、抗TNFα薬(例えば、レミケード(商標))を、蛍光物質「F1」を用いて標識し(例えば、図17Aを参照されたい)、蛍光物質は、可視スペクトル及びIRスペクトルのいずれか又は両方上で検出することができる。同様に、TNFαも、蛍光物質「F2」を用いて標識し(例えば、図17Aを参照されたい)、この蛍光物質もまた、可視スペクトル及びIRスペクトルのいずれか又は両方上で検出することができ、「F1」と「F2」とは、異なる蛍光物質である。標識化抗TNFα薬を、液相反応中でヒト血清と共にインキュベートし、標識化TNFαを反応に添加して、血清中に存在する標識化抗TNFα薬、標識化TNFα及び/又はHACAの間で複合体(すなわち、免疫複合体)を形成させる。インキュベーションに続いて、試料を、サイズ排除カラム上に直接充填する。自己抗体(例えば、HACA)及び標識化TNFαの両方の、標識化抗TNFα薬に対する結合により、自己抗体と標識化抗TNFα薬との間の二成分複合体(例えば、図17Aの「免疫複合体2」)、標識化薬物単独又は標識化TNFα単独と比較して、ピークの左方向へのシフトが生じる(例えば、図17Aの「免疫複合体1」)。自己抗体(例えば、HACA)と標識化TNFαと標識化抗TNFα薬との、この三成分複合体の存在は、血清試料中に存在する自己抗体が、自己抗体(例えば、HACA)の非中和形態であり、したがって、自己抗体は、抗TNFα抗体とTNFαとの間の結合を妨げないことを示している。1つの特定の実施形態では、図17Aに示すように、非中和HACAが血清中に存在する場合には、F1−レミケード(商標)及びF2−TNFαの両方について、シフトを観察し、結果として、免疫複合体1のピーク及び免疫複合体2のピークの両方の増加、並びに遊離のF1−レミケード(商標)のピーク及び遊離のF2−TNFαのピークの減少が生じる。しかし、自己抗体(例えば、HACA)と標識化TNFαと標識化抗TNFα薬との三成分複合体の不在下における、自己抗体(例えば、HACA)と標識化抗TNFα薬との間の二成分複合体の存在(例えば、図17Bの「免疫複合体2」)は、血清試料中に存在する自己抗体が、自己抗体(例えば、HACA)の中和形態であり、したがって、自己抗体は、抗TNFα抗体とTNFαとの間の結合を妨げることを示している。1つの特定の実施形態では、図17Bに示すように、中和HACAが血清中に存在する場合には、F1−レミケード(商標)について、シフトを観察し、結果として、免疫複合体2のピークの増加、遊離のF1−レミケード(商標)のピークの減少が生じ、遊離のF2−TNFαのピークには変化が生じない。特定の場合には、中和HACAの存在が、レミケード(商標)を用いる現在の療法を、別の抗TNFα薬、例として、ヒュミラ(商標)に切り換えるべきであることを示している。
[0211]代替の実施形態では、最初に、標識化抗TNFα薬を、液相反応中でヒト血清と共にインキュベートして、標識化抗TNFα薬と血清中に存在するHACAとの間で複合体(すなわち、免疫複合体)を形成させる。インキュベーションに続いて、試料を、第1のサイズ排除カラム上に直接充填する。標識化抗TNFα薬に対する自己抗体(例えば、HACA)の結合により、標識化薬物単独と比較して、ピークの左方向へのシフトが生じる(例えば、図18の「免疫複合体2」)。次いで、標識化TNFαを反応に添加して、標識化TNFαが、標識化抗TNFα薬に対する結合について、自己抗体(例えば、HACA)に置き換わり(例えば、自己抗体(例えば、HACA)と競合し)、それにより、標識化抗TNFα薬と標識化TNFαとの間で複合体(すなわち、免疫複合体)を形成することが可能であるかどうかを決定する。インキュベーションに続いて、試料を、第2のサイズ排除カラム上に直接充填する。標識化TNFαに対する標識化抗TNFα薬の結合により、標識化TNFα単独と比較して、ピークの左方向へのシフトが生じる(例えば、図18の「免疫複合体3」)。標識化TNFαの添加による、自己抗体(例えば、HACA)と標識化抗TNFα薬との間の結合の破壊は、血清試料中に存在する自己抗体が、自己抗体(例えば、HACA)の中和形態であり、したがって、自己抗体が、抗TNFα抗体とTNFαとの間の結合を妨げることを示している。特定の場合には、中和HACAの存在が、レミケード(商標)を用いる現在の療法を、別の抗TNFα薬、例として、ヒュミラ(商標)に切り換えるべきであることを示している。
実施例5.新規の均一移動度シフトアッセイを使用する、患者血清中のアダリムマブに対するヒト抗薬物抗体(ADA)の分析。
[0212]背景及び目的:TNF−αに対するモノクローナル抗体、例として、インフリキシマブ(IFX)、アダリムマブ(ヒュミラ(商標))及びセルトリズマブが、炎症性腸疾患(IBD)及び他の炎症性障害を治療するのに有効であることが示されている。抗薬物抗体(ADA)は、薬物の有効性を低下させる可能性及び/又は有害作用を引き起こす可能性がある。しかし、ADAが、キメラ抗体インフリキシマブを用いて治療する患者においてのみならず、また、ヒト化抗体アダリムマブを用いて治療する患者においても見出されている。個々の患者においてADA及び薬物のレベルをモニターすることによって、患者の治療及び患者への投与を最適化するのを支援することができる。本発明者らは、非放射性、標識化、液相、均一移動度シフトアッセイを開発して、患者から得られた血清中のHACA(ヒト抗キメラ抗体)及びIFXの両方を正確に測定するに至った。このアッセイの方法は、HACAを検出するための現在の固相アッセイの主要な制限、すなわち、血行中のIFXの存在下でHACAを正確に検出し得ないことを克服する。本研究において、本発明者らは、ヒト化抗体薬物のアダリムマブを用いて治療する患者においてADA及び薬物の血清レベルを測定するための、この新しい方法を評価するに至った。
[0213]方法:移動度シフトアッセイは、サイズ排除による分離の際に、遊離の抗原の保持時間が、抗原−抗体の免疫複合体に比してシフトすることに基づく。蛍光物質標識化アダリムマブ又は蛍光物質標識化TNF−α、及び内部対照を、血清試料と混合して、ADA又は薬物の存在下で、遊離のアダリムマブ及び遊離のTNF−αの移動度のシフトを測定した。遊離のアダリムマブ又は遊離のTNF−αの、内部対照に対する比の変化が、免疫複合体形成の指標となる。異なる濃度の抗ヒトIgG抗体又は精製アダリムマブと共にインキュベートすることによって生成した検量線を用いて、ADA又はアダリムマブの血清濃度を決定した。本発明者らは、移動度シフトアッセイを使用して、応答を失ってしまった、アダリムマブを用いて治療するIBD患者から収集した血清中のアダリムマブ及びADAのレベルを測定した。
[0214]結果:標識化アダリムマブの移動度のシフトの測定のために、用量反応曲線を、抗ヒトIgG抗体に関して生成した。アッセイの検出限界は、1ngの抗ヒトIgGであった。50人の健常な対照から得られた血清を、ADAについて試験し、全ての試料が、検出限界を下回るADAのレベルを有した(すなわち、遊離の標識化アダリムマブのシフトは生じなかった)。また、外から添加したアダリムマブの存在下でも、ADAの検出を実証した。本発明者らは、アダリムマブを用いて治療する患者において薬物濃度を測定するために、標識化TNF−αの移動度のシフトに関して、異なる量のアダリムマブを用いて、検量線を生成し、アダリムマブの検出限界は、10ngであった。
[0215]結論:本発明の非放射性、標識化、液相、均一移動度シフトアッセイを適用して、アダリムマブを用いて治療する患者から得られた血清試料中のADA及びアダリムマブのレベルを測定するに至った。アッセイは、再現性があり、高い感度及び精度を有することが見出され、アダリムマブを用いて治療する患者から得られた血清試料中のADAのレベルを評価するために使用することができる。
実施例6.新規の独占所有権のある移動度シフトアッセイを使用する、患者血清中のアダリムマブに対する抗薬物抗体(ADA)の分析。
要約
[0216]背景:抗TNF−α薬、例として、インフリキシマブ(IFX)及びアダリムマブ(ADL)が、炎症性腸疾患(IBD)を治療するのに有効であることが示されている。しかし、治療患者においてADAが誘導されると、薬物の有効性が低下する可能性及び/又は有害作用が生じる可能性がある。実際に、ADAが、IFXを用いて治療する患者においてのみならず、また、ADLを用いて治療する患者においても見出されている。個々の患者においてADA及び薬物のレベルをモニターすることによって、患者の治療及び患者への投与を最適化するのを支援することができる。本発明者らは、独占所有権のある移動度シフトアッセイを開発して、IFX治療患者から得られた血清中のHACA(ヒト抗キメラ抗体)及びIFXの両方を正確に測定するに至った。このアッセイは、HACAを検出するための現在の固相アッセイの主要な制限、すなわち、血行中のIFXの存在下でHACAを正確に検出し得ないことを克服する。本研究において、本発明者らは、完全ヒト抗体薬物のADLを用いて治療する患者においてADA及び薬物の血清レベルを測定するための、この新しいアッセイを評価するに至った。
[0217]方法:移動度シフトアッセイは、サイズ排除クロマトグラフィー上において、抗原−抗体の免疫複合体の保持時間が、遊離の抗原に比してシフトすることに基づく。蛍光物質標識化ADL又は蛍光物質標識化TNF−α、及び内部対照を、血清試料と混合して、ADA又は薬物の存在下で、標識化ADL及び標識化TNF−αの移動度のシフトを測定した。遊離のADL又は遊離のTNF−αの、内部対照に対する比の変化が、免疫複合体形成の指標となる。異なる濃度の抗ヒトIgG抗体又は精製ADLと共にインキュベートすることによって生成した検量線を用いて、ADA又はADLの血清濃度を決定した。本発明者らは、このアッセイを使用して、ADLを用いて治療するIBD患者から収集した血清中のADL及びADAのレベルを測定した。
[0218]結果:標識化ADLの移動度のシフトの測定のために、用量反応曲線を、抗ヒトIgG抗体に関して生成した。アッセイの検出限界は、10ngの抗ヒトIgGであった。100人の健常な対照から得られた血清を、ADAについて試験し、全ての試料が、検出限界を下回るADAのレベルを有した(遊離の標識化ADLのシフトは生じなかった)。ADLを用いて治療するIBD患者の試料114個のうち5つにおいて、ADAの検出が実証された。本発明者らは、ADLを用いて治療する患者において薬物濃度を測定するために、標識化TNF−αのシフトに関して、異なる量のADLを用いて、検量線を生成し、検出限界は、10ngであった。
[0219]結論:本発明者らは、本発明者らの独占所有権のある、非放射性、標識化、液相、均一移動度シフトアッセイを適用して、ADLを用いて治療する患者から得られた血清中のADA及びADLのレベルを測定するに至った。アッセイは、再現性があり、高い感度及び精度を有し、ADLを用いて治療する患者から得られた血清試料中のADAのレベルを評価するのに有用である。
序論
[0220]抗腫瘍壊死因子−α(TNF−α)生物学的製剤、例として、インフリキシマブ(IFX)、エタネルセプト、アダリムマブ(ADL)及びセルトリズマブペゴルは、クローン病(CD)及び関節リウマチ(RA)を含めた、いくつかの自己免疫疾患において、疾患活性を低下させることが示されている。しかし、患者の中には、抗TNF−α療法に応答しないものもおり、一方、十分な応答を欠くことに起因して、より高い投与量若しくはより頻繁な投与を必要とするもの、又は注入に対する反応を発生させるものもいる。
[0221]患者に、薬物に対する抗体を発生させる、治療用抗体の免疫原性が、治療の不成功及び注入に対する反応に寄与する可能性がある。IFXのようなキメラ抗体には、完全ヒト化抗体、例として、ADLと比較して、抗体生成を誘導する、より高い可能性がある。RA患者におけるIFXに対する抗体(HACA)の発生率は、12%から44%まで変化し、患者血清中のIFXのレベル及び治療応答に反比例するようである。完全ヒト化のADLは、マウス抗体又はキメラ抗体よりも免疫原性が低いことが想定されるが、いくつかの研究は、ヒト抗ヒト化抗体(HAHA)の形成を報告しており、RA患者及びCD患者における抗体生成の発生率が1%〜87%であることを示している(Aikawaら、Immunogenicity of Anti−TNF−alpha agents in autoimmune diseases、Clin.Rev.Allergy Immunol.、38(2〜3):82〜9頁(2010))。
[0222]1つの抗TNF−α薬に対して続発性の応答不全を示す多く患者が、別の抗TNF−α薬に切り換えること、又は投与及び/若しくは投与頻度を増加させることから利益を得る場合がある。したがって、薬物投与を、個々の患者に合わせて手直しすることができるように、患者を薬物及び抗薬物抗体(ADA)のレベルについてモニターすることが正当化される。ADAのレベルが存在する場合、このアプローチにより、正当化されるならば、用量の調節が、又は投薬の中断が可能になる。(Bendtzenら、Individual medicine in inflammatory bowel disease:monitoring bioavailability,pharmacokinetics and immunogenicity of anti−tumour necrosis factor−alpha antibodies、Scand.J.Gastroenterol.、44(7):774〜81頁(2009);Afifら、Clinical utility of measuring infliximab and human anti−chimeric antibody concentrations in patients with inflammatory bowel disease、Am.J.Gastroenterol.、105(5):1133〜9頁(2010))。
[0223]いくつかのアッセイが、HACA及びHAHAを測定するために開発されている。現在の方法の制限のうちの1つが、血行中に高いレベルの薬物がある場合には、ADAのレベルを確実には測定することができないことである。
[0224]本発明者らは、ADLを用いて治療する患者から得られた血清中のADA及びADLのレベルを測定するための、独占所有権のある、非放射標識性、液相、移動度シフトアッセイを開発するに至り、このアッセイは、血清中の薬物の存在の影響を受けない。
方法
[0225]蛍光物質(Fl)標識化ADLを、患者血清と共にインキュベートして、免疫複合体を形成させた。Fl標識化小型ペプチドを、各反応中に、内部対照として含めた。異なる量の抗ヒトIgGを使用し、検量線を生成して、ADAの血清レベルを決定した。遊離のFl標識化ADLを、抗体が結合している複合体から、分子量に基づいて、サイズ排除クロマトグラフィーにより分離した。各試料から得られた遊離のFl標識化ADLの内部対照に対する比を使用して、検量線からHAHA濃度を推定した。類似の方法を使用して、Fl標識化TNF−αを加えた患者血清試料中のADLのレベルを測定した。
結果
[0226]図19は、高分子量の複合体の移動度のシフトに起因する、遊離のFl−ADLからの、抗ヒトIgGが結合しているFl−ADL複合体の分離を示す。パネルc〜hに見られるように、蛍光ピークの保持時間が、10.1分から7.3〜9.5分にシフトした。反応混合物中に、より多くの抗ヒトIgGを添加するほど、より少ない遊離のADLがクロマトグラム中に留まり、より多くの免疫複合体が形成される(h〜c)。内部対照についての保持時間は、13.5分である。
[0227]図20は、抗ヒトIgGの添加が引き起こす蛍光ピークのシフトの用量反応曲線を示す。抗ヒトIgGの濃度が増加すると、免疫複合体の形成に起因して、遊離のADLの内部対照に対する比は低下する。アッセイの感度は、10ng/mlの抗ヒトIgGである。内部対照「Fl−BioCyt」は、緑色蛍光アレクサフルオール(登録商標)488蛍光物質を、ビオチン及びアルデヒドで固定可能な一級アミン(リジン)と組み合わせる、アレクサフルオール(登録商標)488−ビオサイチン(BioCyt)(Invitrogen Corp.;Carlsbad、CA)に対応する。
[0228]図21は、高分子量の複合体の移動度のシフトに起因する、遊離のTNF−α−Flからの、ADLが結合しているTNF−α−Fl複合体の分離を示す。パネルc及びjに見られるように、蛍光ピークの保持時間が、11.9分から6.5〜10.5分にシフトした。反応混合物中に、より多くのADLを添加するほど、より少ない遊離のTNF−α−Flのピークがクロマトグラム中に留まり、より多くの免疫複合体が形成される。
[0229]図22は、ADLの添加が引き起こすTNF−α−Flのピークのシフトの用量反応曲線を示す。添加したADLに基づくと、検出限界は、血清中では10ng/mLのADLである。
[0230]表4は、100人の健常な対象及び114人のADLを用いて治療するIBD患者から得られた血清試料を、本発明の移動度シフトアッセイを使用して、ADA及びADLのレベルについて分析した場合を示す。100個の健常対象試料は全て、検出限界を下回るADAのレベルを有し(遊離のFl−ADLのシフトは生じなかった)、一方、114個の患者試料のうち5つは、0.012〜>20μg/mlのADA濃度を有した。100個の健常対象試料におけるADLレベルの平均は、0.76±1.0μg/ml(0〜9.4μg/mlの範囲)であった。114個のADLを用いて治療する患者から得られた血清試料におけるADLレベルの平均は、10.8+17.8μg/ml(0〜139μg/mlの範囲)であった。5つのADA陽性試料のうち4つは、検出不能レベルのADLを有した。
結論
[0231]HACA/IFXを測定するために使用した移動度シフトアッセイフォーマットは、均一アッセイであり、典型的なELISAとは異なり、抗原による固体表面の被覆も、複数回の洗浄のステップ及びインキュベーションのステップもない。このアッセイを適用して、ADA及び抗TNF薬を測定することができる。患者血清に関するADA及びADLの両方の測定については、(μg/mlの範囲にある)アッセイの感度は、(mg/mlの範囲にある)ELISA法と比較してより高い。健常対照の血清試料は、Fl標識化ADLの移動度のシフトを引き起こさず、このアッセイにより、ADLを用いて治療する患者の4.3%がADAを有することが見出された。健常対照の血清試料が、Fl標識化TNF−αの移動度のシフトを引き起こしたが、このシフトは、TNF−αの可溶性の遊離の受容体の存在に起因した可能性があり、ADLを用いて治療する患者におけるADLの平均は、さらにより高かった(10.8mg/ml対0.76mg/ml)。ADL治療を患者に投与しながら、早期のADAの検出、及びADLの薬物レベルをモニターすることによって、医師が、適切であれば、ADLの投与量を最適化するか又は別の抗TNF−α薬に切り換えるのが可能になり、それにより、患者の疾患の全体的な管理が最適化される。
[0232]健常対照の血清試料は、FI標識化ADLの移動度のシフトを引き起こさなかった。予備的研究では、このアッセイにおいて、0.4μg/mlのADLを有する患者の9.52%がADAを有することが見出された。正常試料及び患者試料のさらなる評価を、より高い濃度のADL−FIを用いて行う。
実施例7.抗TNF薬物療法を最適化するためのコンビナトリアルアルゴリズム。
[0233]この実施例は、統計学的アルゴリズム、例えば、統計学的学習分類子システム等を、1つ又は複数(例えば、2、3、4、5、6又は7つ以上の組合せ)の生化学的マーカー、血清学的マーカー及び/又は遺伝学的マーカーに適用することによって、療法を最適化するため、毒性を低下させため、及び/又は治療処置の有効性をモニターするための方法を記載する。したがって、提示する実施例に記載する方法は、例えば、抗TNF薬の今後の用量を調節若しくは改変する(例えば、増加若しくは減少させる)時期若しくは方法を決定すること、抗TNF薬を(例えば、増加させた、減少させた、若しくは同じ用量で)、1つ若しくは複数の免疫抑制剤、例として、メトトレキサート(MTX)若しくはアザチオプリンと組み合わせる時期若しくは方法を決定すること、及び/又は現在の療法のコースを変化させる(例えば、異なる抗TNF薬に切り換える)時期若しくは方法を決定することによって、抗TNF薬物療法を投与している患者ための治療の決定を導くのに有用な情報を提供する。
[0234]非限定的な例として、患者試料(例えば、抗TNF薬物療法を受けている患者から得られた血清試料)中の、以下のクラスの生化学的マーカー、血清学的マーカー及び/又は遺伝学的マーカーのうちの1、2、3、4、5又は全6つの存在、レベル又は遺伝子型を、検出、測定又は決定することができる:
(1)抗TNF薬のレベル(例えば、遊離の抗TNFα治療用抗体のレベル)、
(2)抗薬物抗体(ADA)のレベル(例えば、抗TNF薬に対する自己抗体のレベル)、
(3)TNFαのレベル、
(4)1、2、3、4、5、6又は7つ以上の追加のサイトカイン(例えば、IL−6、IL−1β、IFN−γ、IL−10等)並びに/又は炎症の他の機構についてのマーカー(例えば、炎症性マーカー、例として、CRP、SAA、ICAM−1及び/若しくはVCAM−1)のレベル、
(5)炎症経路遺伝子等の1つ又は複数の遺伝学的マーカー中の1つ又は複数の突然変異の存在又は不在、例えば、1つ又は複数の炎症性マーカー中の変異体対立遺伝子(例えば、SNP)、例えば、NOD2/CARD15(例えば、米国特許第7,592,437号に記載されているSNP8、SNP12及び/若しくはSNP13)、ATG16L1(例えば、Lakatosら、Digestive and Liver Disease、40(2008)867〜873頁に記載されているrs2241880(T300A)SNP)、IL23R(例えば、Lakatosらに記載されているrs11209026(R381Q)SNP)、例えば、Gascheら(Eur.J.Gastroenterology & Hepatology(2003)15:599〜606頁)に記載されているヒト白血球抗原(HLA)遺伝子並びに/又はサイトカイン遺伝子、さらに、IBD5遺伝子座に属するDLG5及び/又はOCTN遺伝子等の存在又は不在、
(6)複数の時点における(例えば、第28週時、第60週時等の)上記の生化学的マーカー及び/又は血清学的マーカーのうちの1つ又は複数のレベル、さらに、
(7)それらの組合せ。
[0235]次いで、本明細書に記載する単一の統計学的アルゴリズム又は2つ以上の統計学的アルゴリズムの組合せを、試料中の検出、測定又は決定したマーカーの存在、濃度レベル又は遺伝子型に適用して、それにより、抗TNF薬に関して、療法を最適化すること、毒性を低下させること、又は治療処置の有効性をモニターすることができる。したがって、この実施例に記載されている方法は、患者の免疫状態を決定することによって、患者の管理を決定する場合に有用性を見出す。
[0236]下記の表6は、正常試料及び患者試料中のサイトカインのレベルの概要を示す。
[0237]例証の目的に限って、以下のシナリオにより、どのように本発明の方法が、本明細書の記載に従って、1つ又は複数の生化学的マーカー、血清学的マーカー及び/又は遺伝学的マーカーの存在、レベル及び/又は遺伝子型に基づいて、療法を最適化すること、及び毒性(例えば、副作用)を最小限に留めるか又は低下させることを好都合に可能にするかを実証する。以下のシナリオのそれぞれにおいて、次いで、1又は2つ以上の統計学的アルゴリズムを適用して、療法を最適化すること、及び/又は抗TNF薬と関連がある毒性を低下させることができる。
シナリオ番号1:低いレベルの抗薬物抗体(ADA)及び低いレベルの炎症性サイトカインを伴う、高いレベルの抗TNF薬。
[0238]薬物レベル=10〜50ng/10μl;ADAレベル=0.1〜2ng/10μl;TNFαレベル=1〜8pg/ml;IL−6レベル=0.1〜3pg/ml;IL−1βレベル=0.0〜2pg/ml;IFN−γレベル=0〜6pg/ml;IL−10に対する抗体、検出されない。このマーカープロファイルを有する患者試料は、来診10(「V10」)の際に患者BAB及びJAAから得られた試料を含む。図16bを参照されたい。
[0239]抗TNF薬物療法を投与しており、この特定のマーカープロファイルを有する患者は、抗TNF薬(例えば、インフリキシマブ)と併せて、アザチオプリンのような免疫抑制薬を用いて治療すべきである。
シナリオ番号2:低いレベルのADA及び低いレベルの炎症性サイトカインを伴う、中位レベルの抗TNF薬。
[0240]薬物レベル=5〜20ng/10μl;ADAレベル=0.1〜2ng/10μl;TNFαレベル=1〜8pg/ml;IL−6レベル=0.1〜3pg/ml;IL−1βレベル=0.0〜2pg/ml;IFN−γレベル=0〜6pg/ml;IL−10に対する抗体、検出されない。このマーカープロファイルを有する患者試料は、来診10(「V10」)の際に患者DGO、JAG及びJJHから得られた試料を含む。図16bを参照されたい。
[0241]抗TNF薬物療法を投与しており、この特定のマーカープロファイルを有する患者は、より高い用量の抗TNF薬(例えば、インフリキシマブ)と併せて、アザチオプリンのような免疫抑制薬を用いて治療すべきである。当業者であれば、現在の療法のコースを調節することができ、したがって、薬物療法を最適化する適切なより高い又はより低い用量、例えば、現在の用量よりも、少なくとも約1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、15、20、25、30、35、40、45、50又は100倍高い又は低い今後の用量が分かるであろう。
シナリオ番号3:中位レベルのADA及び低いレベルの炎症性サイトカインを伴う、中位レベルの抗TNF薬。
[0242]薬物レベル=5〜20ng/10μl;ADAレベル=0.5〜10ng/10μl;TNFαレベル=1〜8pg/ml;IL−6レベル=0.1〜3pg/ml;IL−1βレベル=0.0〜2pg/ml;IFN−γレベル=0〜6pg/ml;IL−10に対する抗体、検出されない。このマーカープロファイルを有する患者試料は、来診10(「V10」)の際に患者JMMから得られた試料、及び来診14(「V14」)の際に患者J−Lから得られた試料を含む。図16bを参照されたい。
[0243]抗TNF薬物療法を投与しており、この特定のマーカープロファイルを有する患者は、異なる薬物を用いて治療すべきである。非限定的な例として、インフリキシマブ(IFX)療法を受けており、低いレベルの炎症性サイトカインを伴う、中位レベルのIFX及びADA(すなわち、HACA)を有する患者は、アダリムマブ(ヒュミラ(商標))を用いる療法に切り換えるべきである。
シナリオ番号4:高いレベルのADA及び高いレベルの炎症性サイトカインを伴う、低いレベルの抗TNF薬。
[0244]薬物レベル:0〜5ng/10μl;ADAレベル=3.0〜50ng/10μl;TNFαレベル=10〜60pg/ml;IL−6レベル=0.1〜50pg/ml;IL−1βレベル=0.0〜366pg/ml;IFN−γレベル=0.15〜100pg/ml;IL−10に対する抗体、検出されない。このマーカープロファイルを有する患者試料は、図16bの来診14(「V14」)の際に全ての患者から得られた試料を含む。
[0245]抗TNF薬物療法を投与しており、この特定のマーカープロファイルを有する患者は、異なる薬物を用いて治療すべきである。非限定的な例として、インフリキシマブ(IFX)療法を受けており、高いレベルのADA(すなわち、HACA)及び炎症性サイトカインを伴う、低いレベルのIFXを有する患者は、アダリムマブ(ヒュミラ(商標))を用いる療法に切り換えるべきである。
シナリオ番号5:高いレベルの炎症性サイトカイン。
[0246]高いTNFαレベル(例えば、10〜60pg/ml);高いIL−6レベル(例えば、0.1〜50pg/ml);高いIL−1βレベル(例えば、0.0〜366pg/ml);高いIFN−γレベル(例えば、0.15〜100pg/ml);高いレベルの他の炎症性分子;±の抗炎症性サイトカインに対する抗体(例えば、IL−10に対する抗体、検出される又は検出されないのいずれか)。
[0247]抗TNF薬物療法を投与しており、この特定のマーカープロファイルを有する患者は、異なる薬物を用いて治療する、又はより高い用量の抗TNF薬と併せて、メトトレキサート(MTX)若しくはアザチオプリン(AZA)のような免疫抑制薬を用いて治療するのいずれかとすべきである。特に、インフリキシマブ(IFX)療法を受けている患者から得られた高いレベルの炎症性サイトカインの、このマーカープロファイルは、現在の療法のコースが働いていないことを示しており、患者は、アダリムマブ(ヒュミラ(商標))を用いる療法に切り換えるべきであるか、又はより高い用量のIFXと併せて、1つ若しくは複数の免疫抑制薬を用いて治療すべきである。
実施例8.異なる抗薬物抗体(ADA)アイソタイプの決定。
[0248]この実施例は、抗TNF薬物療法を投与しているADA陽性患者における異なる抗薬物抗体(ADA)アイソタイプの決定を記載する。抗体アイソタイプの非限定的な例として、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMが挙げられる。特定の態様では、特異的なADAアイソタイプ又はADAアイソタイプの特定の組合せの存在又はレベルの検出が、異なる臨床転帰と関連がある。
[0249]図23は、HACA陽性患者の血清中の異なるADAアイソタイプの溶出時間を示す。特定の実施形態では、ADAが、サイズ及び適切な希釈実験に基づいて、IgMアイソタイプ(保持時間:約6.5〜7.5分)、IgAアイソタイプ(7.5〜8.5分)、又はIgGアイソタイプ(8.5〜9.5分)かどうかに基づいて、抗TNF薬物療法の治療の影響を決定することができる。標識化抗TNF薬、例として、ヒュミラ及びレミケードについての保持時間は、約10.8分であり、内部対照(IC)についての保持時間は、約13.5分である。
[0250]1つの研究では、200個の患者試料を、本発明の方法に従ってアッセイして、サイズ排除クロマトグラフィーによりADAを検出した。試料1〜100は、対照(例えば、正常な、健常対照の試料)であり、一方、試料101〜200は、レミケード療法を投与している患者から得られ、細胞架橋アッセイによりHACA陽性であった。シグナルの強度(Y軸)対溶出時間(X軸)の未調節のプロットを、200個の試料全てについて生成する。次いで、以下の3つの調節をプロットに対して行った:(1)Y(低い)を左のベースラインに標準化し、(2)Y(高い)を右の対照のピークに標準化し、及び(3)Xを右の対照のピークに標準化した。
[0251]200個の試料全てから得られたデータを、100個の対照試料と100個のHACA陽性試料とに分け、次いで、平均した。図24は、対照試料の平均のプロットを示す。図25は、陽性試料の平均のプロットを示す。とりわけ、図24及び25のプロットの比較により、標識化レミケードについてのシグナル強度(「主要ピーク」)の減少、並びにHACA IgA(「Aピーク」)及びHACA IgG(「Gピーク」)に対応する、2つの明確に異なるADAアイソタイプのピークの出現が示される。
[0252]図26は、100個の対照試料及び100個の陽性試料について、主要ピークのシグナル(すなわち、標識化レミケードのシグナル強度に対応する)を並べて比較して示す。示す値は、9.71〜12.23分の溶出時間から得られた平均値である。特に、図26は、100個のHACA陽性試料については、標識化レミケードについてのシグナル強度が減少することを示し、この減少は、標識化レミケードとHACAとの間の複合体の形成と相関する。また、図26は、低い主要ピークのシグナル(例えば、X軸上の0と0.2との間)により証明されるように、いくつかの陽性試料が、高いレベルのHACAを有したことも示す。図27は、図26から得られた主要ピークのデータについての受信者操作特性(ROC)曲線を示す。曲線下面積(AUC)は、0.986であった。
[0253]次に、主要ピーク対他のピーク(IgG、IgA及びIgM)の和について、平均値をプロットした。図28は、100個のHACA陽性試料について、X軸上の非主要ピーク(これらは、IgGピーク、IgAピーク及びIgMピークの和に相当する)対Y軸上の主要ピークのプロットを示す。このプロットにおいて示される直線関係を使用して、アッセイを点検することができる(すなわち、アッセイの制御)。図29は、200個の試料全てについての、IgGピーク対IgAピーク対IgMピークのプロットを示す。
実施例9.異なるADAアイソタイプの、近接性に基づく決定。
[0254]この実施例は、抗TNFα薬物療法、例として、インフリキシマブ(IFX)を投与しているADA陽性患者における、異なる抗薬物抗体(ADA)アイソタイプ、例として、ATI(すなわち、IFXに対する抗体;「HACA」)の異なるアイソタイプの決定のための、本発明の例示的な実施形態を記載する。ATIアイソタイプ等の抗体アイソタイプの非限定的な例として、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgM(例えば、IgA ATI、IgD ATI、IgE ATI、IgG ATI、及びIgM ATI)が挙げられる。特定の態様では、特異的なADAアイソタイプ又はADAアイソタイプの特定の組合せの存在又はレベルの検出が、異なる臨床転帰と関連がある。
[0255]図30及び31は、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を使用して、少なくとも1、2、3、4又は5つ以上のATIアイソタイプ、例えば、IgA ATI、IgD ATI、IgE ATI、IgG ATI及び/又はIgM ATIのアイソタイプ等の存在(若しくは不在)又はレベルを決定するための、本発明の近接性に基づくアイソタイピングアッセイの実施形態を示す。例えば、図30は、アレクサ−532(抗Ig抗体、例として、抗IgA上の「F2」標識)が、アレクサ−488(抗体治療剤、例として、IFX上の「F1」標識)により、両方の蛍光物質が密接に近接している場合のみに励起され、それにより、抗Ig(例えば、抗IgA)とHACA(例えば、IgA ATI)とIFXとの三成分複合体の存在及び/又はレベルを示すことを示す概略図を示す。特定の実施形態では、異なるATIアイソタイプ及び/又はそれらのサブクラスを、同じ又は異なる蛍光物質、例えば、アレクサ−532等を用いて標識した異なる抗Igを使用して決定することができる。図31は、FRETに基づく、本発明のアイソタイピングアッセイの結果を示す。
[0256]前述の発明を、明確に理解する目的で、例証及び実施例として一部詳細に記載してきたが、当業者であれば、特定の変化形態及び改変形態を、添付の特許請求の範囲内で実行することができることを理解するであろう。さらに、本明細書において提供する参考文献は、各参考文献が個々に参照により組み込まれているのと同じ程度に、それぞれの全体が参照により組み込まれる。
サイズ排除HPLCを使用して、TNFα−アレクサ647とヒュミラ(商標)との間の結合を検出する、本発明のアッセイの例示的な実施形態を示す図である。
TNFα−アレクサ647に対するヒュミラ(商標)の結合の用量反応曲線を示すグラフである。
細胞架橋アッセイとして知られている、HACAのレベルを測定するための、ELISAに基づく現在の方法を示す図である。
レミケード(商標)に対して生成したHACA/HAHAの濃度を測定するための、本発明の自己抗体の検出アッセイの例示的な概要を示す図である。
レミケード(商標)−アレクサ647に対する抗ヒトIgG抗体の結合の用量応答分析を示す図である。
レミケード(商標)−アレクサ647に対する抗ヒトIgG抗体の結合の第2の用量応答分析を示す図である。
レミケード(商標)−アレクサ647に対する抗ヒトIgG抗体の結合の用量反応曲線を示すグラフである。
正常ヒト血清及びHACA陽性血清中におけるレミケード(商標)−アレクサ647の免疫複合体形成を示す図である。
本発明の細胞架橋アッセイ又は移動度シフトアッセイを使用して実施した、20人の患者の血清試料から得られたHACAの測定の概要を示す表である。
HACAの血清濃度を測定するための現在の方法及び本発明の新規のHACAアッセイの概要及び比較を示す表である。
正常な(NHS)又はHACA陽性(HPS)の血清と共にインキュベートした蛍光物質(Fl)標識化IFXのSE−HPLCプロファイルを示す図である。
移動度シフトアッセイにより決定した場合の、HACA陽性血清の希釈度を増加させて生成した結合している及び遊離のIFX−Flの用量反応曲線を示すグラフである。
正常血清(NHS)又はIFXを加えた血清と共にインキュベートしたTNFα−FlのSE−HPLCプロファイルを示す図である。
移動度シフトアッセイにより決定した場合の、IFXを加えた血清の希釈度を増加させて生成した結合している及び遊離のTNFαの用量反応曲線を示す図である。
移動度シフトアッセイによる、IFXを用いて治療するIBD患者における相対的なHACAレベル及びIFX濃度の異なる時点の測定を示すグラフである。
患者の管理、すなわち、IFXを用いて治療するIBD患者の血清中のHACAレベル及びIFX濃度の異なる時点の測定を示すグラフである。
(A)非中和自己抗体の存在、又は(B)中和自己抗体、例として、HACAの存在を検出するための、本発明のアッセイの例示的な実施形態を示す図である。
中和自己抗体、例として、HACAの存在を検出するための、本発明のアッセイの代替の実施形態を示す図である。
異なる量の抗ヒトIgGの存在下で正常ヒト血清(NHS)と共にインキュベートしたFl標識化ADLの移動度シフトのプロファイルを示す図である。
抗ヒトIgGの、遊離Fl−ADLのシフトに対する用量反応曲線を示すグラフである。
異なる量のADLの存在下で正常ヒト血清(NHS)と共にインキュベートしたFl標識化TNF−αの移動度シフトのプロファイルを示す図である。
ADLの、遊離TNF−α−Flのシフトに対する用量反応曲線を示すグラフである。
HACA陽性患者の血清中の異なるADAアイソタイプの溶出時間を示すグラフである。
実施例8に記載の研究において使用した100個の対照試料の平均のプロットを示す図である。
実施例8に記載の研究において使用した100個のHACA陽性試料の平均のプロットを示す図である。
実施例8に記載の研究において使用した100個の対照試料及び100個のHACA陽性試料について、主要ピークの(すなわち、標識化レミケードのシグナル強度に対応する)シグナルを並べて比較するグラフである。
図26から得られた主要ピークのデータについての受信者操作特性(ROC)曲線を示すグラフである。
実施例8に記載の研究において使用した100個のHACA陽性試料について、X軸上の非主要ピーク(これらは、IgGピーク、IgAピーク及びIgMピークの和に相当する)対Y軸上の主要ピークのプロットを示すグラフである。
実施例8に記載の研究において使用した200個の試料全てについての、IgGピーク対IgAピーク対IgMピークのプロットを示すグラフである。
本発明の蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)による自己抗体アイソタイピングアッセイのフォーマットを示す概略図である。
FRETに基づく、本発明の自己抗体アイソタイピングアッセイの結果を示すグラフである。