I.序論
[0064]本発明は、サイズ排除クロマトグラフィー及び免疫複合体の平衡を可能にする酸解離を使用する均一移動度シフトアッセイが、抗TNFα薬に対して産生される自己抗体(たとえば、HACA、HAHA、など)の存在又はレベルを測定するために特に有利であるという発見に一部基づいている。そのような自己抗体は抗薬剤抗体又はADAとしても知られている。その結果、それを必要とする対象に投与された抗TNFα薬に対する自己抗体の存在又はレベルは、対象試料中にも存在する投与された抗TNFα薬からの実質的な干渉を受けずに測定することが可能である。特に、対象試料は、高抗TNFα薬レベルからの実質的な干渉のない抗TNFα薬の存在下での自己抗体の存在又はレベルの測定を提供するのに十分な量の酸と一緒にインキュベートすることが可能である。
[0065]試料中の高抗TNFα薬レベル(たとえば、高インフリキシマブレベル)は抗薬剤抗体レベル(たとえば、HACAレベル)の測定に干渉する。ある種の高薬剤条件下では、試料中に存在する抗薬剤抗体は前記試料中に存在する非標識薬剤とも複合体を形成する。標識された薬剤、たとえば標識されたインフリキシマブを試料に接触させると、試料中に存在する抗薬剤抗体は、前記標識された薬剤と複合体を形成することから速度論的に捕捉される。このようにして、抗薬剤抗体と非標識薬剤のあらかじめ形成された複合体は、存在する抗薬剤抗体と標識された薬剤間の複合体の形成に依存する抗薬剤抗体の測定に干渉する。本明細書に記載される酸解離ステップにより、試料中に存在する抗薬剤抗体は非標識薬剤から解離して標識された薬剤とも非標識薬剤とも複合体を再形成することが可能になる。前記抗薬剤抗体を前記非標識薬剤から解離することにより、試料中に存在する抗薬剤抗体は標識された薬剤と非標識薬剤間で平衡を保つことができる。
[0066]図27に示されるように、高レベルの抗TNFα薬(たとえば、インフリキシマブ)は、移動度シフトアッセイが酸解離ステップなしで実施される場合、抗薬剤抗体(たとえば、インフリキシマブ又はATIに対する抗体)の検出に干渉する。しかし、図28は、酸解離とそれに続く均一溶液相結合反応速度が免疫複合体の平衡及び再形成を可能にするために、抗TNFα薬剤耐性が著しく増加し、抗薬剤抗体は高レベルの抗TNFα薬(たとえば、最大又は最小でも約60μg/mL)の存在下で測定することが可能であることを示している。したがって、本発明のアッセイは、現在利用可能な方法よりも特に有利である。なぜならば、前記アッセイにより(たとえば、血液試料などの試料中の抗TNFα薬の低、中程度又は高レベルとは関係なく)抗TNFα薬を用いた療法中のどんな時期でも抗薬剤抗体の検出及び測定が可能になり、それによって薬剤のトラフ濃度での試料収集が必要な当技術分野の方法の大きな限界が克服されるからである。
[0067]ある種の態様では、本発明は有利である。なぜならば、本発明は、一部に、抗TNFα薬療法を受けている又は受けようとしている患者のための処置決定を導くのに有用な情報を提供することにより、インフリキシマブなどの抗TNFα薬の投与に伴う現在の限界に取り組み克服するからである。特に、本発明の方法は、初回治療のための適切な抗TNFα療法を選択することに、治療効果の最適化及び/若しくは毒性の減少を行う抗TNFα薬のそれ以降の用量を調整若しくは修正する(たとえば、増加又は減少させる)時期若しくは方法を決定することに、抗TNFα薬(たとえば、初回、増加した、減少した又は同じ用量で)をメトトレキサート(MTX)若しくはアザチオプリン(AZA)などの1つ若しくは複数の免疫抑制剤と組み合わせる時期若しくは方法を決定すること、並びに/又は現在のコースの療法を変更する(たとえば、異なる抗TNFα薬に又は異なる機序を標的にする薬剤に切り替える)時期若しくは方法を決定することに有用である。
[0068]したがって、本発明は、処置決定を導くことにより患者管理を改善する以下の方法、すなわち、
1.クローン病徴候:療法から利益を得る可能性がもっとも高い患者を処置する
2.抗治療抗体モニタリング(ATM)+バイオマーカーベースの疾患活性度指標
3.ATM二段層化
4.薬物動態学モデリングを用いるATM
5.応答をモニターし再発の危険を予測する
a.再発の危険が低い患者において長期維持療法を回避する
b.粘膜治癒のマーカー
c.療法選択:抗TNF薬療法をMTX又はAZAなどの免疫抑制剤と組み合わせるかどうか
6.生物製剤の患者選択
において特に有用である。
II.定義
[0069]本明細書で使用されるように、以下の用語は他の方法で明確に述べられていなければ、その用語に属するとみなされる意味を有する。
[0070]本明細書で使用される用語「抗TNFα薬」又は「TNFα阻害剤」は、対象におけるTNFα活性を減少させることになる、タンパク質、抗体、抗体断片、融合タンパク質(たとえば、Ig融合タンパク質又はFc融合タンパク質)、多価結合タンパク質(たとえば、DVD Ig)、小分子TNFαアンタゴニスト及び類似の天然存在若しくは天然非存在の分子、並びに/又はTNFαとTNFαの細胞表面受容体の相互作用を阻害すること、TNFαタンパク質産生を阻害すること、TNFα遺伝子発現を阻害すること、細胞からのTNFα分泌を阻害すること、TNFα受容体シグナル伝達を阻害することなどにより、TNFα活性を直接的に若しくは間接的に阻害するその組換え形態及び/若しくは操作された形態を含む薬剤又は他の任意の手段を包含することが意図されている。用語「抗TNFα薬」又は「TNFα阻害剤」は、好ましくはTNFα活性に干渉する薬剤を含む。抗TNFα薬の例には、制限なく、インフリキシマブ(レミケード(商標)、Johnson and Johnson)、ヒト抗TNFモノクローナル抗体アダリムマブ(D2E7/ヒュミラ(商標)、Abbott Laboratories)、エタネルセプト(エンブレル(商標)、Amgen)、セルトリズマブペゴール(シムジア(登録商標)、UCB,Inc.)、ゴリムマブ(シンポニー(登録商標)、CNTO148)、CDP571(Celltech)、CDP870(Celltech)、並びに、TNFα活性を阻害し、TNFα活性が有害である障害(たとえば、RA)に罹っている又は罹る危険のある対象に投与された場合、前記障害が治療される他の化合物が含まれる。
[0071]用語「TNFα」は、17kDa分泌型及び26kDa膜結合型として存在し、その生物活性型が非共有結合17kDa分子の三量体で構成されているヒトサイトカインを含むことが意図されている。TNFαの構造は、たとえば、Jonesら、Nature、338:225〜228頁(1989)にさらに記載されている。用語TNFαは、ヒトTNFα、組換えヒトTNFα(rhTNFα)又はヒトTNFαタンパク質に少なくとも約80%同一であるTNFαを含むことが意図されている。ヒトTNFαは、35個のアミノ酸(aa)細胞質ドメイン、21個のaa膜貫通セグメント及び177個のaa細胞外ドメイン(ECD)から成る(Pennica,D.ら(1984)Nature 312:724頁)。ECD内では、ヒトTNFαはアカゲザルTNFαと97%aa配列同一性を、ウシ、イヌ、コットンラット、ウマ、ネコ、マウス、ブタ及びラットTNFαとは71%〜92%aa配列同一性を共有している。TNFαは標準組換え発現法により調製又は市販のもの(R&D Systems、カタログ番号210−TA、Minneapolis、Minn.)を購入することが可能である。
[0072]ある種の実施形態では、「TNFα」は「抗原」であり、これは抗TNFα薬が結合することができる分子又は分子の一部を含む。TNFαは1つ又は複数のエピトープを有することができる。ある種の例では、TNFαは、高度に選択的な方法で、抗TNFα抗体と反応することになる。抗体、抗TNFα抗体の断片又は領域に結合する好ましい抗原は、ヒトTNFαの少なくとも5個のアミノ酸を含む。ある種の例では、TNFαは、抗TNFα抗体、その断片及び領域に結合することができるTNFαのエピトープを有する十分な長さである。
[0073]用語「抗TNFα薬に対する応答性を予測する」は、抗TNFα薬を用いた対象の処置が前記対象において効果的になる又は効果的にはならない(たとえば、前記対象に測定可能な利益を与える)可能性を評価する能力を指すことが意図されている。特に、処置が効果的になる又はならない可能性を評価するそのような能力は、典型的には処置が始まり、有効性の指標(たとえば、測定可能な利益の指標)が対象において観察された後で発揮される。特に好ましい抗TNFα薬は、TNFα媒介疾患又は障害の治療においてヒトでの使用についてFDAにより承認されている生物製剤であり、本明細書に記載される抗TNFα薬を含む。
[0074]用語「サイズ排除クロマトグラフィー」又は「SEC」には、溶液中の分子がそのサイズ及び/又は流体力学的容積に基づいて分離されるクロマトグラフィー法が含まれる。前記方法はタンパク質及びそのコンジュゲートなどの大きな分子又は巨大分子複合体に適用される。典型的には、水溶液を使用してカラム中を通して試料を移動させる場合、その技法はゲル濾過クロマトグラフィーとして知られている。
[0075]用語「複合体」、「免疫複合体」、「コンジュゲート」及び「免疫コンジュゲート」には、抗TNFα薬に(たとえば、非共有結合的手段により)結合しているTNFα、抗TNFα薬に対する自己抗体に(たとえば、非共有結合的手段により)結合している抗TNFα薬及びTNFαと抗TNFα薬に対する自己抗体の両方に(たとえば、非共有結合的手段により)結合している抗TNFα薬が含まれるが、これらに限定されない。
[0076]本明細書で使用されるように、用語「標識される」により修飾される実体には、任意の実体、分子、タンパク質、酵素、抗体、抗体断片、サイトカイン若しくは別の分子にコンジュゲートされている関連種又は経験的に検出可能である化学的実体が含まれる。標識された実体の標識として適切な化学種には、蛍光色素、たとえば、アレクサフルオル(Alexa Fluor)(登録商標)647などのアレクサフルオル(登録商標)色素、量子ドット、光学色素、発光色素及び放射性核種、たとえば、125Iが含まれるが、これらに限定されない。
[0077]用語「有効量」には、それを必要とする対象において治療効果を達成することができる薬剤の用量並びに薬剤の生物学的に利用可能な量が含まれる。用語「生物学的に利用可能な」には、治療活性に利用可能である薬剤の投与される用量の一部が含まれる。たとえば、TNFαがその病態生理学に関与しているとされてきた疾患又は障害を治療するのに有用な薬剤の有効量は、その疾患又は障害に伴う1つ又は複数の症状を予防又は軽減することができる量であり得る。
[0078]語句「蛍光標識検出」には、蛍光標識を検出するための手段が含まれる。検出のための手段には、分光計、蛍光分光計、光度計及びAgilent−1200 HPLCシステムなどの、しかしこれに限定されない、サイズ排除高速液体クロマトグラフィーなどの、しかしこれに限定されないクロマトグラフィー機器に一般的に組み込まれている検出装置が含まれるが、これらに限定されない。
[0079]語句「療法を最適化する」には、特定の療法の用量(たとえば、有効量又はレベル)及び/又は種類を最適化することが含まれる。たとえば、抗TNFα薬の用量を最適化するには、対象にそれ以降投与される抗TNFα薬の量を増加すること又は減少することが含まれる。ある種の例では、抗TNFα薬の種類を最適化するには、投与される抗TNFα薬を1つの薬剤から異なる薬剤(たとえば、異なる抗TNFα薬)に変更することが含まれる。他の例では、療法を最適化するには、抗TNFα薬の用量(たとえば、増加した量、減少させた量又は以前の用量と同じ用量)を免疫抑制薬と組み合わせて同時投与することが含まれる。
[0080]用語「同時投与する」には、1つの活性薬剤の生理効果の持続期間が第二の活性薬剤の生理効果と重なるように、1つよりも多い活性薬剤を投与することが含まれる。
[0081]用語「対象」、「患者」又は「個体」は典型的には、ヒトのことであるが、たとえば、他の霊長類、げっ歯類、イヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、ブタなどを含む他の動物のことでもある。
[0082]用語「1コースの療法」には、TNFα媒介疾患又は障害に伴う1つ又は複数の症状を軽減又は予防するために取られる任意の治療アプローチが含まれる。前記用語は、TNFα媒介疾患又は障害に罹った個人の健康を改善するのに有用な任意の化合物、薬剤、手順及び/又は投与計画を施すことを包含しており、本明細書に記載される治療薬剤のいずれも含まれる。当業者であれば、本発明の方法を使用して、TNFα、抗TNFα薬及び/又は抗薬剤抗体の存在又は濃度レベルに基づいて、1コースの療法又は現在のコースの療法の用量を変更する(たとえば、増加又は減少させる)ことが可能であることは認識されるであろう。
[0083]用語「免疫抑制薬」又は「免疫抑制剤」には、免疫抑制効果、たとえば、照射により又は代謝拮抗薬、抗リンパ球血清、抗体などの薬剤の投与によるのと同じような、免疫応答の予防又は減少を生じることができる任意の物質が含まれる。免疫抑制薬の例には、制限なく、アザチオプリン(AZA)及びその代謝産物などのチオプリン薬;メトトレキサート(MTX)などの代謝拮抗薬;シロリムス(ラパマイシン);テムシロリムス;エベロリムス;タクロリムス(FK−506);FK−778;抗リンパ球グロブリン抗体、抗胸腺細胞グロブリン抗体、抗CD3抗体、抗CD4抗体及び抗体毒素コンジュゲート;シクロスポリン;ミコフェノール酸;ミゾリビン一リン酸;スコパロン;グラチラマー酢酸;その代謝産物;薬学的に許容されるその塩;その誘導体;そのプロドラッグ;並びにその組合せが含まれる。
[0084]用語「チオプリン薬」には、アザチオプリン(AZA)、6−メルカプトプリン(6−MP)又は治療効果を有するその任意の代謝産物が含まれ、制限なく、6−チオグアニン(6−TG)、6−メチルメルカプトプリンリボシド、6−チオイノシンヌクレオチド(たとえば、6−チオイノシン一リン酸、6−チオイノシン二リン酸、6−チオイノシン三リン酸)、6−チオグアニンヌクレオチド(たとえば、6−チオグアノシン一リン酸、6−チオグアノシン二リン酸、6−チオグアノシン三リン酸)、6−チオキサントシンヌクレオチド(たとえば、6−チオキサントシン一リン酸、6−チオキサントシン二リン酸、6−チオキサントシン三リン酸)、その誘導体、その類似体及びその組合せが含まれる。
[0085]用語「試料」には、個人から得られる任意の生体試料が含まれる。試料には、制限なく、全血、血漿、血清、赤血球、白血球(たとえば、末梢血単核球(PBMC)、多形核(PMN)細胞)、乳管洗浄液、乳頭吸引液、リンパ(たとえば、リンパ節の播種性腫瘍細胞)、骨髄吸引液、唾液、尿、便(すなわち、糞便)、痰、気管支洗浄液、涙、微細針吸引液(たとえば、無作為乳頭周囲微細針吸引により収穫される)、他の任意の体液、炎症部位の生検などの組織試料(たとえば、針生検)、その細胞抽出物及びこれらの体液又は組織のうちの1つ又は複数由来の免疫グロブリン濃縮画分が含まれる。いくつかの実施形態では、試料は全血、血漿、血清若しくは細胞ペレットなどのその分画成分又はその免疫グロブリン濃縮画分である。当業者であれば、血清試料などの試料は解析に先立って希釈することが可能であることを認識するであろう。ある種の実施形態では、試料は、当技術分野で公知の任意の技法を使用してPBMC及び/又はPMN細胞を単離することにより得られる。ある種の他の実施形態では、試料は、たとえば、消化管又は滑液組織の一部などの炎症部位由来などの組織生検である。
[0086]本発明の方法のステップは、必ずしもそれが提示される特定の順に実施する必要はない。当業者であれば、本発明の方法のステップの他の順序付けは本発明の範囲内に包含されることは理解していると考えられる。
[0087]角カッコ「[]」は、角カッコ内の種がその濃度によって言及されることを示している。
III.実施形態の説明
[0088]本発明は、試料中の抗TNFα薬療法に対する自己抗体の存在又はレベルを検出し測定するためのアッセイを提供する。本発明は、療法を最適化し、前記薬剤に対する自己抗体(たとえば、HACA及び/又はHAHA)の存在又はレベルを検出するために抗TNFα薬療法を受けている患者をモニターするのに有用である。本発明は、TNFα媒介疾患若しくは障害の治療のために、療法の選択、療法の最適化及び/又は抗TNFα薬を受けている対象における毒性の減少を行うための方法も提供する。
[0089]一態様では、本発明は、試料中の抗TNFα薬に対する自己抗体の存在又はレベルを、前記試料中の抗TNFα薬からの干渉を受けずに検出するための方法であって、
(a)前記試料を酸に接触させて前記自己抗体と前記抗TNFα薬のあらかじめ形成された複合体を解離するステップであり、前記試料が抗TNFα薬に対する自己抗体を有するか、有すると疑われると、
(b)前記あらかじめ形成された複合体の解離に続いて、前記試料を、標識された抗TNFα薬に接触させるステップと、
(c)前記試料中の前記酸を中和して、前記標識された抗TNFα薬と前記自己抗体(すなわち、前記標識された抗TNFα薬と自己抗体は互いに共有結合していない)の標識された複合体(すなわち、免疫複合体又はコンジュゲート)を形成するステップと、
(d)前記標識された複合体をサイズ排除クロマトグラフィーにかけて前記標識された複合体を(たとえば、遊離の標識された抗TNFα薬から)分離するステップと、
(e)前記標識された複合体を検出し、それによって前記試料中の抗TNFα薬からの干渉を受けずに前記自己抗体の存在又はレベルを検出するステップと
を含む方法を提供する。
[0090]いかなる特定の理論にも縛られずに、酸解離は自己抗体(抗薬剤抗体又はADAとしても知られている)と抗TNFα薬間のKdを変化させると考えられている。特に、酸解離はADAと抗TNFα薬間の結合を破壊することが理論付けられている。これらの結合には、水素結合、静電結合、ファンデルワールス力及び/又は疎水結合が含まれるが、これらに限定されない。酸を添加するとpHが増加し、したがって水素イオン濃度が増加する。水素イオンはこの時点で、前述の非共有結合的相互作用を競うことができる。この競合のためにADAと抗TNFα薬間のKdは低下する。
[0091]いくつかの実施形態では、抗TNFα薬は、レミケード(商標)(インフリキシマブ)、エンブレル(商標)(エタネルセプト)、ヒュミラ(商標)(アダリムマブ)、シムジア(登録商標)(セルトリズマブペゴール)、シンポニー(登録商標)(ゴリムマブ、CNTO148)及びその組合せから成る群から選択される。
[0092]他の実施形態では、抗TNFα薬自己抗体には、ヒト抗キメラ抗体(HACA)、ヒト抗ヒト化抗体(HAHA)及びヒト抗マウス抗体(HAMA)、並びにその組合せが含まれるが、これらに限定されない。
[0093]ある種の代わりの実施形態では、ステップ(a)及び(b)は同時に実施され、たとえば、試料は酸と標識された抗TNFα薬に同時に接触させる。ある種の他の代わりの実施形態では、ステップ(b)はステップ(a)に先立って実施され、たとえば、試料は先ず標識された抗TNFα薬に接触させ、次に酸に接触させる。追加の実施形態では、ステップ(b)及び(c)は同時に実施され、たとえば、試料は標識された抗TNFα薬に接触させ、(たとえば、試料を1つ又は複数の中和剤に接触させることにより)同時に中和される。
[0094]特定の実施形態では、試料は、標識された抗TNFα薬、非標識抗TNFα薬及び抗TNFα薬に対する自己抗体が平衡になってその間で複合体を形成することができるように、自己抗体と抗TNFα薬のあらかじめ形成された複合体を解離させるのに十分な量の酸に接触させる。
[0095]好ましい実施形態では、本発明の方法は、試料中にも存在する抗TNFα薬からの実質的な干渉なしで自己抗体の存在又はレベルを検出することを含む。そのような実施形態では、試料は、高レベルの抗TNFα薬の存在下で自己抗体の検出及び/又は測定を可能にするのに十分な量の酸に接触させることが可能である。
[0096]いくつかの実施形態では、語句「高レベルの抗TNFα薬」には、約10〜約100μg/mL、約20〜約80μg/mL、約30〜約70μg/mL、又は約40〜約80μg/mLの薬剤レベルが含まれる。他の実施形態では、語句「高レベルの抗TNFα薬」には、約10、20、30、40、50、60、70、80、90又は100μg/mLよりも多い又は等しい薬剤レベルが含まれる。
[0097]いくつかの実施形態では、酸は有機酸を含む。他の実施形態では、酸は無機酸を含む。追加の実施形態では、酸は有機酸と無機酸の混合物を含む。有機酸の非限定的例には、クエン酸、イソクエン酸、グルタミン酸、酢酸、乳酸、ギ酸、シュウ酸、尿酸、トリフルオロ酢酸、ベンゼンスルホン酸、アミノメタンスルホン酸、樟脳−10−スルホン酸、クロロ酢酸、ブロモ酢酸、ヨード酢酸、プロパン酸、ブタン酸、グリセリン酸、コハク酸、リンゴ酸、アスパラギン酸及びその組合せが含まれる。無機酸の非限定的例には、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、ホウ酸、フッ化水素酸、臭化水素酸及びその組合せが含まれる。
[0098]ある種の実施形態では、酸の量は、酸又は酸の混合物の約0.01M〜約10M、約0.1M〜約5M、約0.1M〜約2M、約0.2M〜約1M又は約0.25M〜約0.75Mの濃度に一致する。他の実施形態では、酸の量は、酸又は酸の混合物の約0.01M、0.05M、0.1M、0.2M、0.3M、0.4M、0.5M、0.6M、0.7M、0.8M、0.9M、1M、2M、3M、4M、5M、6M、7M、8M、9M又は10Mよりも大きい又は等しい濃度に一致する。酸のpHは、たとえば、約0.1、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0又は6.5であることが可能である。
[0099]いくつかの実施形態では、試料は、自己抗体と抗TNFα薬のあらかじめ形成された複合体を解離するのに十分な長さの時間、酸に接触させる。ある種の例では、試料は、約0.1時間〜約24時間、約0.2時間〜約16時間、約0.5時間〜約10時間、約0.5時間〜約5時間、又は約0.5時間〜約2時間に及ぶ期間、酸に接触させる(たとえば、インキュベートする)。他の例では、試料は、約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、6、7、8、9、又は10時間よりも長い又は等しい期間、酸に接触させる(たとえば、インキュベートする)。試料は、4℃、室温(RT)、又は37℃で酸に接触させることが可能である。
[0100]ある種の実施形態では、酸を中和するステップは、試料のpHを上げて、標識された抗TNFα薬と抗TNFα薬に対する自己抗体間の複合体並びに非標識抗TNFα薬と自己抗体間の複合体を形成させることを含む。いくつかの実施形態では、酸は、たとえば、強塩基、弱塩基、緩衝液、及びその組合せなどの1つ又は複数の中和剤を添加することにより中和される。当業者であれば、中和反応は必ずしも結果として生じるpH7を意味しないことを認識するであろう。いくつかの例では、酸の中和により塩基性の試料が得られる。他の例では、酸の中和により酸性の試料が得られる(しかし、中和剤を添加するのに先立つ試料のpHよりも高い)。特定の実施形態では、中和剤は、pH約7.3のリン酸緩衝食塩水(たとえば、10×PBS)などのバッファーを含む。
[0101]いくつかの実施形態では、ステップ(b)は、内部標準を、標識された抗TNFα薬と一緒に(たとえば、あらかじめ形成された複合体の解離前に、解離中に、又は後で)試料に接触させることをさらに含む。ある種の例では、内部標準は、たとえば、ビオシチン−アレクサ488などの標識された内部標準を含む。ある種の他の例では、標識された内部標準の量は、100μLの解析される試料あたり、約1ng〜約25ng、約5ng〜約25ng、約5ng〜約20ng、約1ng〜約20ng、約1ng〜約10ng、又は約1ng〜約5ngに及ぶ。追加の例では、標識された内部標準の量は、100μLの解析される試料あたり、約1ng、5ng、10ng、15ng、20ng、又は25ngよりも多い又は等しい。
[0102]本発明の方法の1つの非限定的例として、血清試料(たとえば、レミケード(IFX)などの抗TNFα薬を用いた療法を受けている対象由来の血清)などの試料は、室温で1時間0.5Mクエン酸、pH3.0と一緒にインキュベートすることが可能である。(非標識)抗TNFα薬と抗TNFα薬に対する自己抗体(たとえば、抗IFX抗体(ATI)などの抗薬剤抗体)間のあらかじめ形成された複合体の解離に続いて、標識された抗TNFα薬(たとえば、IFX−アレクサ488)及び内部標準を添加し、反応混合物を10×PBS、pH7.3などの中和剤で(たとえば、直ちに)中和することが可能である。中和後、反応混合物は(たとえば、プレート撹拌機上で)室温でもう1時間インキュベートして、平衡させ、標識された又は非標識抗TNFα薬のどちらかと抗薬剤抗体間の免疫複合体の再形成を完了させることが可能である。次に、前記試料は濾過し、本明細書に記載されるSEC−HPLCにより解析することができる。
[0103]特定の実施形態では、本発明の方法(たとえば、酸解離に続いて均一溶液相結合反応速度を含む)は、前記ATIを最大約60μg/mLのIFXの存在下で測定することができるように、IFX薬剤耐性を著しく増加させる。実施例14及び図27〜28を参照されたい。言い換えると、本発明の方法は、高レベルの抗TNFα薬(たとえば、IFX)の存在下で、しかしそれからの実質的な干渉を受けずに、ATIなどの抗TNFα薬に対する自己抗体、並びに他の抗TNFα薬に対する自己抗体の存在又はレベルを検出することができる。
[0104]別の態様では、本発明は、抗TNFα薬を用いたコースの療法を受けている対象において療法の最適化及び/又は抗TNFα薬に対する毒性の減少を行うための方法であって、
(a)前記対象由来の試料中の抗TNFα薬に対する自己抗体の存在又はレベルを、前記試料中の前記抗TNFα薬からの干渉を受けずに検出するステップであり、
(i)前記試料を酸に接触させて前記自己抗体と前記抗TNFα薬のあらかじめ形成された複合体を解離するサブステップで、前記試料が抗TNFα薬に対する自己抗体を有するか、有すると疑われるサブステップと、
(ii)前記あらかじめ形成された複合体の解離に続いて、前記試料を、標識された抗TNFα薬に接触させるサブステップと、
(iii)前記試料中の前記酸を中和して、前記標識された抗TNFα薬と前記自己抗体の標識された複合体(すなわち、免疫複合体又はコンジュゲート)を形成する(すなわち、前記標識された抗TNFα薬と自己抗体は互いに共有結合していない)サブステップと、
(iv)前記標識された複合体をサイズ排除クロマトグラフィーにかけて前記標識された複合体を(たとえば、遊離の標識された抗TNFα薬から)分離するサブステップと、
(v)前記標識された複合体を検出する(たとえば、それによって前記試料中の抗TNFα薬からの干渉を受けずに前記自己抗体の存在又はレベルを検出する)サブステップと
を含むステップと、
(b)前記自己抗体の存在又はレベルに基づいて、前記対象のための1コースの療法のそれ以降の用量、又は異なるコースの療法を前記対象に施すべきかどうかを決定するステップと
を含み、それによって療法の最適化及び/又は前記抗TNFα薬に対する毒性の減少を行う、方法を提供する。
[0105]ある種の実施形態では、前記コースの療法のそれ以降の用量は、前記自己抗体の存在又はレベルに基づいて、増加、減少又は維持される。非限定的例として、前記コースの療法のそれ以降の用量は、試料中に高レベルの自己抗体が検出される場合は減少される。他の実施形態では、異なるコースの療法は、異なる抗TNFα薬、免疫抑制剤と一緒の現在のコースの療法、又は抗TNFα薬ではないコースの療法への切り替え(たとえば、抗TNFα治療抗体の使用を中断すること)を含む。非限定的例として、異なるコースの療法は、試料中に高レベルの自己抗体が検出される場合に施される。
[0106]ある種の代わりの実施形態では、ステップ(i)及び(ii)は同時に実施され、たとえば、試料は酸と標識された抗TNFα薬に同時に接触させる。ある種の他の代わりの実施形態では、ステップ(ii)はステップ(i)に先立って実施され、たとえば、試料は先ず標識された抗TNFα薬に接触させ、次に酸に接触させる。追加の実施形態では、ステップ(ii)及び(iii)は同時に実施され、たとえば、試料は標識された抗TNFα薬に接触させ(たとえば、試料を1つ又は複数の中和剤に接触させることにより)、同時に中和される。
[0107]抗TNFα薬は、種々の検出可能な基(複数可)のいずれでも標識することが可能である。好ましい実施形態では、抗TNFα薬はフルオロフォア又は蛍光色素で標識される。フルオロフォア又は蛍光色素の非限定的例には、分子プローブカタログ(Molecular Probes Catalogue)に収載されているフルオロフォア又は蛍光色素が含まれ、前記文献は参照により本明細書に組み込まれる(R.Haugland、The Handbook−A Guide to Fluorescent Probes and Labeling Technologies、第10版、Molecular probes,Inc.(2005)参照)。そのような例となるフルオロフォア又は蛍光色素には、アレクサフルオル(登録商標)350、アレクサフルオル(登録商標)405、アレクサフルオル(登録商標)430、アレクサフルオル(登録商標)488、アレクサフルオル(登録商標)514、アレクサフルオル(登録商標)532、アレクサフルオル(登録商標)546、アレクサフルオル(登録商標)555、アレクサフルオル(登録商標)568、アレクサフルオル(登録商標)594、アレクサフルオル(登録商標)610、アレクサフルオル(登録商標)633、アレクサフルオル(登録商標)635、アレクサフルオル(登録商標)647、アレクサフルオル(登録商標)660、アレクサフルオル(登録商標)680、アレクサフルオル(登録商標)700、アレクサフルオル(登録商標)750、及び/又はアレクサフルオル(登録商標)790などのアレクサフルオル(登録商標)色素、並びに塩化ダンシル(DNS−Cl)、5−(ヨードアセトアミド)フルオレセイン(5−IAF)、フルオレセイン5−イソチオシアネート(FITC)、テトラメチルローダミン5−(及び6−)イソチオシアネート(TRITC)、6−アクリロイル−2−ジメチルアミノナフタレン(アクリロダン)、7−ニトロベンゾ−2−オキサ−1,3,−ジアゾール−4−イルクロライド(NBD−Cl)、臭化エチジウム、ルシファーイエロー、5−カルボキシローダミン6Gハイドロクロライド、リサミンローダミンBスルホニルクロライド、テキサスレッド(Texas Red)(商標)スルホニルクロリド、ボディピー(BODIPY)(商標)、ナフタルアミンスルホン酸(たとえば、1−アニリノナフタレン−8−スルホン酸(ANS)、6−(p−トルイジニル)ナフタレン−2−スルホン酸(TNS)など)、アントロイル脂肪酸、DPH、パリナリン酸、TMA−DPH、フルオレニル脂肪酸、フルオレセイン−ホスファチジルエタノールアミン、テキサスレッド−ホスファチジルエタノールアミン、ピレニル−ホスファチジルコリン、フルオレニル−ホスファチジルコリン、メロシアニン540、1−(3−スルホナトプロピル)−4−[β−[2[(ジ−n−ブチルアミノ)−6ナフチル]ビニル]ピリジニウムベタイン(ナフチルスチリル)、3,3’ジプロピルチアジカルボシアニン(diS−C3−(5))、4−(p−ジペンチルアミノスチリル)−1−メチルピリジニウム(ジ−5−ASP)、Cy−3ヨードアセトアミド、Cy−5−N−ヒドロキシスクシンイミド、Cy−7−イソチオシアネート、ローダミン800、IR−125、チアゾールオレンジ、アズールB、ナイルブルー、Alフタロシアニン、オキサジン(Oxaxine)1、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)、ヘキスト33342、TOTO、アクリジンオレンジ、エチジウムホモダイマー、N(エトキシカルボニルメチル)−6−メトキシキノリニウム(MQAE)、Fura−2、カルシウムグリーン、カルボキシSNARF−6、BAPTA、クマリン、フィトフルオル(phytofluor)、コロネン、金属リガンド複合体、IRDye(登録商標)700DX、IRDye(登録商標)700、IRDye(登録商標)800RS、IRDye(登録商標)800CW、IRDye(登録商標)800、Cy5、Cy5.5、Cy7、DY676、DY680、DY682、DY780及びその混合物を含むが、これらに限定されない他のフルオロフォアが含まれるが、これらに限定されない。追加の適切なフルオロフォアには、酵素−補助因子、ランタニド、緑色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、又はその変異体及び誘導体が含まれる。本発明の一実施形態では、特異的結合対の第二のメンバーは検出可能な基がそこに結合している。
[0108]典型的には、蛍光基は、ポリメチン、フタロシアニン、シアニン、キサンテン、フルオレン、ローダミン、クマリン、フルオレセイン及びボディピー(商標)を含む色素の範疇から選択されるフルオロフォアである。
[0109]一実施形態では、蛍光基は、約650〜約900nm間の範囲で放射する近赤外(NIR)フルオロフォアである。近赤外蛍光技術の使用は、生体基質の自己蛍光からバックグランドを実質的に取り除く又は減少するために、生物アッセイにおいては有利である。近IR蛍光技術の別の利点は、散乱強度が波長の逆の四乗に比例するために、励起光源からの散乱光が大幅に減少することである。低バックグランド蛍光及び低散乱により、高感度検出に欠かせない高いシグナル対ノイズ比が得られる。さらに、生物組織における近IR領域(650nm〜900nm)の光学的に透明な窓のおかげで、NIR蛍光は、生体成分の中を光が透過する必要があるインビボ画像化及び細胞内検出適用のための貴重な技術となっている。この実施形態での態様内で、蛍光基は好ましくは、IRDye(登録商標)700DX、IRDye(登録商標)700、IRDye(登録商標)800RS、IRDye(登録商標)800CW、IRDye(登録商標)800、アレクサフルオル(登録商標)660、アレクサフルオル(登録商標)680、アレクサフルオル(登録商標)700、アレクサフルオル(登録商標)750、アレクサフルオル(登録商標)790、Cy5、Cy5.5、Cy7、DY676、DY680、DY682及びDY780から成る群から選択される。ある種の実施形態では、近赤外基は、IRDye(登録商標)800CW、IRDye(登録商標)800、IRDye(登録商標)700DX、IRDye(登録商標)700、又はDynomic DY676である。
[0110]蛍光標識化は、フルオロフォアの化学反応性誘導体を使用して実現される。一般的な反応基には、FITC及びTRITCなどのアミン反応性イソチオシアネート誘導体(フルオレセイン及びローダミンの誘導体)、NHS−フルオレセインなどのアミン反応性スクシンイミジルエステル及びフルオレセイン−5−マレイミドなどのスルフヒドリル反応性マレイミド活性化蛍光色素(fluor)が含まれ、その多くが市販されている。これらの反応性色素のいずれかと抗TNFα薬が反応すれば、フルオロフォアと抗TNFα薬の間で安定な共有結合が形成される。
[0111]ある種の例では、蛍光標識化反応に続いて、標識された標的分子から未反応フルオロフォアのいずれも取り除く必要があることが多い。これは、フルオロフォアと標識されたタンパク質間のサイズ差を利用してサイズ排除クロマトグラフィーにより実現されることが多い。
[0112]反応性蛍光色素は多くの供給源から入手可能である。標的分子内の様々な官能基への結合のために異なる反応基を有する色素を得ることができる。色素は標識化反応を実施するための成分をすべて含有する標識化キットでも入手可能である。好ましい一態様では、アレクサフルオル(登録商標)647 C2マレイミドはInvitrogen社製(カタログ番号A−20347)のものが使用される。
[0113]抗TNFα薬に対する抗薬剤抗体(ADA)の特異的免疫学的結合は、直接的に又は間接的に検出することができる。直接的標識には、抗体に結合している、蛍光又は発光タグ、金属、色素、放射性核種などが含まれる。ある種の例では、ヨウ素−125(125I)で標識されている抗TNFα薬は、試料中のADAの濃度レベルを決定するのに使用することが可能である。他の例では、試料中のADAに特異的である化学発光抗TNFα薬を使用する化学発光アッセイは、ADA濃度レベルの感度の良い非放射性検出に適している。特定の例では、蛍光色素で標識されている抗TNFα薬も、試料中のADAの濃度レベルを決定するのに適している。蛍光色素の例には、制限なしに、アレクサフルオル(登録商標)色素、DAPI、フルオレセイン、ヘキスト33258、R−フィコシアニン、B−フィコエリトリン、R−フィコエリトリン、ローダミン、テキサスレッド及びリサミンが含まれる。蛍光色素に連結されている二次抗体は市販のものを購入することができ、たとえば、ヤギF(ab’)2抗ヒトIgG−FITCはTago Immunologicals(Burlingame、CA)から入手可能である。
[0114]間接的標識には、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ(AP)、β−ガラクトシダーゼ、ウレアーゼなどの当技術分野で周知の様々な酵素が含まれる。たとえば、西洋ワサビペルオキシダーゼ検出システムは、450nmで検出可能である過酸化水素の存在下で可溶性生成物を生じる発色基質であるテトラメチルベンジジン(TMB)を用いて使用することが可能である。アルカリホスファターゼ検出システムは、たとえば、405nmで容易に検出可能である可溶性生成物を生じる発色基質であるp−ニトロフェニルリン酸を用いて使用することが可能である。同様に、β−ガラクトシダーゼ検出システムは、410nmで検出可能である可溶性生成物を生じる発色基質であるo−ニトロフェニル−β−D−ガラクトピラノシド(ONPG)を用いて使用することが可能である。ウレアーゼ検出システムは、尿素ブロモクレゾールパープル(Sigma Immunochemicals、St.Louis、MO)などの基質を用いて使用することが可能である。酵素に連結された有用な二次抗体は、いくつかの商業的供給源から入手することができ、たとえば、ヤギF(ab’)2抗ヒトIgG−アルカリホスファターゼはJackson ImmunoResearch(West Grove、PA)から購入することができる。
[0115]直接的又は間接的標識からのシグナルは、たとえば、発色基質からの色を検出する分光光度計、125Iの検出用のγ線計数器などの放射線を検出する放射線計数器、又はある種の波長の光の存在下で蛍光を検出する蛍光光度計を使用して解析することが可能である。酵素連結抗体の検出では、EMAXマイクロプレートリーダー(Molecular Devices、Menlo Park、CA)などの分光光度計を製造業者の説明書に従って使用してADAレベルの定量解析を行うことができる。必要であれば、本発明のアッセイは自動化又はロボット制御で実施することが可能であり、複数の試料からのシグナルを同時に検出することができる。
[0116]ある種の実施形態では、サイズ排除クロマトグラフィーが使用される。SECの基本原理は、サイズの粒子が異なれば、異なる速度で固定相を溶出する(濾過される)ことである。このために、粒子の溶液はサイズに基づいて分離される。すべての粒子が同時に又はほぼ同時に負荷されるならば、同じサイズの粒子は一緒に溶出する。それぞれのサイズ排除カラムには、分離することができる分子量の範囲がある。排除限界はこの範囲の上端での分子量を定義しており、分子が大きすぎて固定相では捕捉できない範囲である。透過限界は分離の範囲の下端での分子量を定義しており、十分に小さなサイズの分子は固定相の細孔を完全に通ることができ、この分子質量より下の分子はすべて小さく、単一バンドとして溶出する。
[0117]ある種の態様では、溶離液は一定容量又は画分で収集される。粒子のサイズが類似しているほど、同じ画分に入って、別々に検出されない可能性は高くなる。好ましくは、収集された画分は分光分析法により検査されて溶出した粒子の濃度が決定される。典型的には、本発明において有用な分光分析検出法には、蛍光光度法、屈折率(RI)及び紫外線(UV)が含まれるが、これらに限定されない。ある種の例では、溶出容積は、分子の流体力学的容積の対数とはほぼ直線的に減少する(すなわち、重たい部分のほうが先に離れる)。
[0118]本発明は、試料中の抗TNFα薬に対する自己抗体の存在又はレベルを検出するためのキットをさらに提供する。特定の実施形態では、キットは以下の構成要素、酸(又は酸の混合物)、標識された抗TNFα薬(たとえば、標識された抗TNFα抗体)、標識された内部標準、中和剤(又はその混合物)、検出するための手段(たとえば、蛍光検出器)、サイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SE−HPLC)機器、及び/又は前記キットを使用するための説明書のうちの1つ又は複数から構成される。
[0119]他の態様では、本発明は、対象におけるTNFα媒介疾患又は障害の治療のための1コースの療法を選択する(たとえば、適切な抗TNFα薬を選択する)ための方法であって、
(a)前記対象から得られた試料を分析して、前記試料中の1つ又は複数のマーカーの存在、レベル又は遺伝子型を決定するステップと、
(b)ステップ(a)において決定された1つ又は複数のマーカーの存在、レベル又は遺伝子型に統計アルゴリズムを適用して疾患活動性/重症度指標を生み出すステップと、
(c)前記疾患活動性/重症度指標に基づいて対象のための適切なコースの療法(たとえば、抗TNFα療法)を選択するステップとを含む方法を提供する。
[0120]関連する態様では、本発明は、TNFα媒介疾患又は障害の治療のための1コースの療法を受ける対象において療法の最適化及び/又は毒性の減少を行うための方法であって、
(a)前記対象から得られた試料を分析して、前記試料中の1つ又は複数のマーカーの存在、レベル又は遺伝子型を決定するステップと、
(b)ステップ(a)において決定された1つ又は複数のマーカーの存在、レベル又は遺伝子型に統計アルゴリズムを適用して疾患活動性/重症度指標を生み出すステップと、
(c)前記疾患活動性/重症度指標に基づいて、前記対象のための前記コースの療法のそれ以降の用量、又は異なるコースの療法を前記対象に施すべきかどうかを決定するステップと
を含む方法を提供する。
[0121]いくつかの実施形態では、前記コースの療法は抗TNFα抗体を含む。ある種の例では、抗TNFα抗体は、レミケード(商標)(インフリキシマブ)、エンブレル(商標)(エタネルセプト)、ヒュミラ(商標)(アダリムマブ)、シムジア(登録商標)(セルトリズマブペゴール)、シンポニー(登録商標)(ゴリムマブ、CNTO148)及びその組合せから成る群から選択されるメンバーである。他の実施形態では、前記コースの療法は、抗TNFα抗体を免疫抑制剤と共に含む。
[0122]ある種の実施形態では、1つ又は複数のマーカーのレベルは、総レベル、活性化レベル、又はその組合せを含む。特定の例では、前記1つ又は複数のマーカーは、炎症マーカー、増殖因子、血清学マーカー、サイトカイン及び/又はケモカイン、酸化ストレスのマーカー、細胞表面受容体、シグナル伝達経路マーカー、遺伝子マーカー、抗TNFα抗体、抗薬剤抗体(ADA)並びにその組合せから成る群から選択されるメンバーである。
[0123]いくつかの例では、炎症マーカーは、CRP、SAA、VCAM、ICAM、カルプロテクチン、ラクトフェリン、IL−8、ランテス、TNFα、IL−6、IL−1β、S100A12、M2−ピルビン酸キナーゼ(PK)、IFN、IL−2、TGF、IL−13、IL−15、IL−12及びその組合せから成る群から選択されるメンバーである。他の例では、増殖因子は、GM−CSF、VEGF、EGF、ケラチノサイト増殖因子(KGF、FGF7)、及びその組合せから成る群から選択されるメンバーである。さらに他の例では、血清学マーカーは、抗好中球抗体、抗菌抗体、抗サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)抗体、及びその組合せから成る群から選択されるメンバーである。追加の例では、サイトカインは、TNFα、IL−6、IL−1β、IFN−γ、IL−10、及びその組合せから成る群から選択されるメンバーである。他の例では、細胞表面受容体はCD64である。さらに他の例では、シグナル伝達経路マーカーは、シグナル伝達分子である。他の例では、遺伝子マーカーは、炎症経路遺伝子における変異である。
[0124]ある種の実施形態では、ステップ(a)は、試料中の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50又はそれよりも多いマーカーの存在、レベル、及び/又は遺伝子型を決定することを含む。ある種の例では、試料は、血清、血漿、全血、便、末梢血単核細胞(PBMC)、多形核(PMN)細胞、及び組織生検から成る群から選択される。
[0125]他の実施形態では、統計アルゴリズムは、学習統計分類子システム(learning statistical classifier system)を含む。いくつかの例では、学習統計分類子システムは、ランダムフォレスト(random forest)、分類及び回帰木(classification and regression tree)、ブーステッド木(boosted tree)、ニューラルネットワーク(neural network)、サポートベクターマシーン(support vector machine)、ジェネラルカイ二乗自動相互作用検出器モデル(general chi−squared automatic interaction detector model)、インターラクティブ木(interactive tree)、多変量適応回帰スプライン(multiadaptive regression spline)、機械学習分類子(machine learning classifier)、及びその組合せから成る群から選択される。ある種の例では、統計アルゴリズムは、単一の学習統計分類子システムを含む。ある種の他の例では、統計アルゴリズムは、少なくとも2つの学習統計分類子システムの組合せを含む。いくつかの例では、前記少なくとも2つの学習統計分類子システムが縦一列で適用される。本発明において使用するのに適した統計アルゴリズム及び解析の非限定的例は、2011年10月18日に出願された国際出願PCT/US2011/056777号に記載されており、前記特許文献の開示は、参照によりあらゆる目的のためにその全体を本明細書に組み込む。
[0126]いくつかの実施形態では、前記方法は、ステップ(c)の選択又は決定からの結果を臨床医に送ることをさらに含む。他の実施形態では、ステップ(c)は、対象のための最初のコースの療法を選択することを含む。
[0127]他の実施形態では、ステップ(b)は、コースの療法中の初期に決定される1つ又は複数のマーカーの存在、レベル、又は遺伝子型に統計アルゴリズムを適用して、初期の疾患活動性/重症度指標を生み出すことをさらに含む。いくつかの例では、初期の疾患活動性/重症度指標は、ステップ(b)で生じた疾患活動性/重症度指標と比較されて、前記コースの療法のそれ以降の用量又は異なるコースの療法を施すべきかどうかを決定する。ある種の実施形態では、前記コースの療法のそれ以降の用量は、ステップ(b)で生じた疾患活動性/重症度指標に基づいて増加させる、減少させる又は維持される。いくつかの例では、異なるコースの療法は、異なる抗TNFα抗体を含む。他の例では、異なるコースの療法は、現在のコースの療法を免疫抑制剤と一緒に含む。
[0128]抗TNFα抗体及び抗薬剤抗体(ADA)を検出するための方法は、本明細書及びPCT出願国際公開第2011/056590号パンフレットに記載されており、前記特許文献の開示は、参照によりあらゆる目的のためにその全体を本明細書に組み込む。特定の実施形態では、抗薬剤抗体の存在又はレベルは、標識された抗TNFα薬に試料を接触させるのに先立って、その間に及び/又はその後で試料を酸に接触させることによる酸解離ステップを含む本発明の方法に従って決定される。
[0129]別の態様では、本発明は、対象におけるTNFα媒介疾患又は障害の経過を予測するための方法であって、
(a)前記対象から得られた試料を分析して、前記試料中の1つ又は複数のマーカーの存在、レベル又は遺伝子型を決定するステップと、
(b)ステップ(a)において決定された1つ又は複数のマーカーの存在、レベル又は遺伝子型に統計アルゴリズムを適用して疾患活動性/重症度指標を生み出すステップと、
(c)ステップ(b)において生じた疾患活動性/重症度指標に基づいてTNFα媒介疾患又は障害の経過を予測するステップとを含む方法を提供する。
[0130]いくつかの実施形態では、ステップ(b)は、初期に決定されるマーカーのうちの1つ又は複数の存在、レベル、又は遺伝子型に統計アルゴリズムを適用して、初期の疾患活動性/重症度指標を生み出すステップをさらに含む。ある種の例では、初期の疾患活動性/重症度指標は、ステップ(b)で生じた疾患活動性/重症度指標と比較されて、TNFα媒介疾患又は障害の経過を予測する。
[0131]本明細書に記載された方法に従い、抗TNFα薬療法を受けている対象の診断若しくは予後が判定される又はTNFαが、たとえば、ショック、敗血症、感染症、自己免疫疾患、RA、クローン病、移植片拒絶及び移植片対宿主病、しかしこれらに限定されない病態生理に結び付けられてきた疾患及び障害を有すると診断された対象において抗TNFα薬への応答の尤度が予測されると、本発明は、診断、予後又は予測に基づいて1コースの療法を推奨することをさらに含むことがある。ある種の例では、本発明は、TNFα媒介疾患又は障害に伴う1つ又は複数の症状を治療するのに有用な治療的有効量の抗TNFα薬を対象に投与することをさらに含むことがある。治療的適用では、抗TNFα薬は単独で投与される或いは1つ若しくは複数の追加の抗TNFα薬及び/又は抗TNFα薬(たとえば、免疫抑制剤)に関連する副作用を減らす1つ若しくは複数の薬剤と組み合わせて同時投与されることが可能である。したがって、本発明は、適切な薬剤が適切な患者に適切な時期に与えられるように、処置決定を導き、療法選択及び抗TNFα薬についての最適化を知らせることにより臨床医が「個別化医療」を実践することを有利に可能にする。
IV.疾患活動性/重症度指標
[0132]ある種の態様では、本発明は、療法を選択し、療法を最適化し、毒性を減少させる及び/又は抗TNFα薬療法に対する治療的処置の有効性をモニターする正確度を改善するための1つ又は複数(たとえば、2、3、4、5、6、7個又はそれよりも多い)のバイオマーカーのアルゴリズムベースの解析を提供する。
[0133]非限定的例として、一実施形態における疾患活動性/重症度指標は、以下の範疇のバイオマーカー、
(1)炎症マーカー
(2)増殖因子
(3)血清学(たとえば、免疫マーカー)
(4)サイトカイン及びケモカイン
(5)酸化ストレスのマーカー
(6)細胞表面受容体(たとえば、CD64、その他)
(7)シグナル伝達経路
(8)他のマーカー(たとえば、炎症経路遺伝子などの遺伝子マーカー)
のうちの1つ又は複数における1つ又は複数の特定のバイオマーカーの存在、レベル(濃度(たとえば、全体)及び/又は活性化(たとえば、リン酸化))又は遺伝子型を検出、測定又は決定することを含む。
[0134]追加の実施形態では、患者試料(たとえば、抗TNFα薬剤療法中の患者由来の血清試料)において以下のマーカー、(9)抗TNFα薬レベル(たとえば、遊離の抗TNFα治療抗体のレベル)及び/又は(10)抗薬剤抗体(ADA)レベル(たとえば、抗TNFα薬に対する自己抗体のレベル)のうちの1つ又は両方の存在及び/又はレベルを検出、測定又は決定することも可能である。
[0135]本明細書に記載される単一の統計アルゴリズム又は2つ若しくはそれよりも多い統計アルゴリズムの組合せは、次に、前記試料において検出、測定、又は決定されたマーカーの存在、濃度レベル、活性化レベル、又は遺伝子型に適用され、それによって療法の選択し、療法の最適化、毒性の減少又は抗TNFα療法を用いた治療的処置の有効性のモニターを行うことが可能である。したがって、本発明の方法は、患者免疫状態を判定することにより、患者管理を決定することに有用である。
[0136]疾患の臨床的経過を理解すれば、臨床医はその炎症性疾患患者(たとえば、IBD(たとえば、クローン病)、関節リウマチ(RA)、その他)のためにもっと情報に通じた処置決定を下すことができ、将来新しい薬剤開発を導くのを補助し得る。本明細書に記載される疾患活動性/重症度指標において使用するための理想的なバイオマーカー(複数可)は、前記疾患の危険のある個人を同定することができるほうがよく、疾患特異的であるほうがよい。さらに、前記バイオマーカー(複数可)は、疾患活動性を検出して治療の効果をモニターすることができるほうがよく、前記疾患の再発(relapse or recurrence)に対する予測値を有するほうがよい。しかし、疾患経過を予測することは、現在では疾患再発だけではなく拡大されているが、おそらくさらに重要なのは、手術を含む疾患合併症の予測因子が含まれることである。本発明は、疾患活動性及び/又は重症度の指標を提供し、寛解期にある患者における再発の危険を予測することができるために、特に有利である。さらに、本発明のバイオマーカー及び疾患活動性/重症度指標は、患者管理並びに治療意思決定についての非常に多くの示唆を有しており、それから利益を得る可能性がもっとも高いと考えられる患者に適切な療法を指示するのを支援又は補助し、再発の危険が低い患者における長期の維持療法の経費及び潜在的毒性を回避すると考えられる。
A.炎症マーカー
[0137]炎症性疾患の疾患経過は典型的には、白血球数を使用する非侵襲的検査により炎症活性の点から測定されるが、この方法は特異性が低く疾患活動度との限られた相関を示す。
[0138]したがって、ある種の実施形態では、生化学マーカー、血清学マーカー、タンパク質マーカー、遺伝子マーカー、及び他の臨床的又は超音波検査的特徴を含む、種々の炎症マーカーは、療法の選択、療法の最適化、毒性の減少及び/又は生物製剤(たとえば、抗TNFα薬)などの1つ又は複数の治療薬を用いた治療的処置の有効性のモニターを行うための本発明の方法において特に有用である。ある種の態様では、本明細書に記載される方法は、1つ又は複数の炎症マーカー(たとえば、単独で又は他の範疇のバイオマーカーと組み合わせて)について決定された存在、濃度レベル、及び/又は遺伝子型へのアルゴリズム(たとえば、統計解析)の適用を利用して、疾患経過の予測、適切な抗TNFα薬療法の選択、抗TNFα薬療法の最適化、抗TNFα薬療法に伴う毒性の減少、又は抗TNFα薬を用いた治療的処置の有効性のモニターを行うのを支援又は補助する。
[0139]本発明において使用するのに適した炎症マーカーの非限定的例には、生化学、血清学及び、たとえば、サイトカイン、ケモカイン、急性期タンパク質、細胞接着分子、S100タンパク質などのタンパク質マーカー、並びに/又は他の炎症マーカーが含まれる。
1.サイトカイン及びケモカイン
[0140]試料中の少なくとも1つのサイトカイン又はケモカインの存在又はレベルの決定は、本発明において特に有用である。本明細書で使用されるように、用語「サイトカイン」は、一定範囲の免疫系機能を調節する免疫細胞により分泌される種々のポリペプチド又はタンパク質のいずれでも含み、ケモカインなどの小サイトカインを包含する。用語「サイトカイン」はアディポサイトカインも含み、これは、たとえば、体重、造血、血管新生、創傷治癒、インスリン抵抗性、免疫応答及び炎症応答の調節において機能する脂肪細胞により分泌されるサイトカインの群を含む。
[0141]ある種の態様では、TNFα、アポトーシスのTNF関連弱い誘導物質(TWEAK)、オステオプロテジェリン(OPG)、IFN−α、IFN−β、IFN−γ、IL−1α、IL−1β、IL−1受容体アンタゴニスト(IL−1ra)、IL−2、IL−4、IL−5、IL−6、可溶性IL−6受容体(sIL−6R)、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−12、IL−13、IL−15、IL−17、IL−23、及びIL−27を含むが、これらに限定されない少なくとも1つのサイトカインの存在又はレベルは試料中において決定される。ある種の他の態様では、たとえば、CXCL1/GRO1/GROα、CXCL2/GRO2、CXCL3/GRO3、CXCL4/PF−4、CXCL5/ENA−78、CXCL6/GCP−2、CXCL7/NAP−2、CXCL9/MIG、CXCL10/IP−10、CXCL11/I−TAC、CXCL12/SDF−1、CXCL13/BCA−1、CXCL14/BRAK、CXCL15、CXCL16、CXCL17/DMC、CCL1、CCL2/MCP−1、CCL3/MIP−1α、CCL4/MIP−1β、CCL5/RANTES、CCL6/C10、CCL7/MCP−3、CCL8/MCP−2、CCL9/CCL10、CCL11/エオタキシン、CCL12/MCP−5、CCL13/MCP−4、CCL14/HCC−1、CCL15/MIP−5、CCL16/LEC、CCL17/TARC、CCL18/MIP−4、CCL19/MIP−3β、CCL20/MIP−3α、CCL21/SLC、CCL22/MDC、CCL23/MPIF1、CCL24/エオタキシン−2、CCL25/TECK、CCL26/エオタキシン−3、CCL27/CTACK、CCL28/MEC、CL1、CL2及びCX3CL1などの少なくとも1つのケモカインの存在又はレベルは試料中において決定される。ある種の追加の態様では、レプチン、アディポネクチン、レジスチン、活性又は全プラスミノーゲン活性化因子阻害剤−1(PAI−1)、ビスファチン、及びレチノール結合タンパク質4(RBP4)を含むが、これらに限定されない少なくとも1つのアディポサイトカインの存在又はレベルは試料中において決定される。好ましくは、TNFα、IL−6、IL−8、IL−1β、IL−2、IL−12、IL−13、IL−15、IFN(たとえば、IFN−α、IFN−β、IFN−γ)、IL−10、CCL5/RANTES及び/又は他のサイトカイン若しくはケモカインの存在又はレベルが決定される。
[0142]ある種の例では、特定のサイトカイン又はケモカインの存在又はレベルは、たとえば、ハイブリダイゼーションアッセイ又は増幅ベースのアッセイなどのアッセイを用いてmRNA発現レベルで検出される。ある種の他の例では、特定のサイトカイン又はケモカインの存在又はレベルは、たとえば、免疫アッセイ(たとえば、ELISA)又は免疫組織化学的アッセイを使用してタンパク質発現レベルで検出される。血清、血漿、唾液又は尿試料中の対象のサイトカイン又はケモカインの存在又はレベルを決定するのに適したELISAキットは、たとえば、R&D Systems,Inc.(Minneapolis、MN)、Neogen Corp.(Lexington、KY)、Alpco Diagnostics(Salem、NH)、Assay Designs,Inc.(Ann Arbor、MI)、BD Biosciences Pharmingen(San Diego、CA)、Invitrogen(Camarillo、CA)、Calbiochem(San Diego、CA)、CHEMICON International,Inc.(Temecula、CA)、Antigenix America Inc.(Huntington Station、NY)、QIAGEN Inc.(Valencia、CA)、Bio−Rad Laboratories,Inc.(Hercules、CA)、及び/又はBender MedSystems Inc.(Burlingame、CA)から入手可能である。
[0143]ヒトIL−6ポリペプチド配列は、たとえば、ジェンバンク受託番号NP_000591に記載されている。ヒトIL−6 mRNA(コード)配列は、たとえば、ジェンバンク受託番号NM_000600に記載されている。当業者であれば、IL−6は、インターフェロンベータ2(IFNB2)、HGF、HSF及びBSF2としても知られていることは認識するであろう。
[0144]ヒトIL−1βポリペプチド配列は、たとえば、ジェンバンク受託番号NP_000567に記載されている。ヒトIL−1β mRNA(コード)配列は、たとえば、ジェンバンク受託番号NM_000576に記載されている。当業者であれば、IL−1βは、IL1F2及びIL−1ベータとしても知られていることは認識するであろう。
[0145]ヒトIL−8ポリペプチド配列は、たとえば、ジェンバンク受託番号NP_000575(配列番号1)に記載されている。ヒトIL−8 mRNA(コード)配列は、たとえば、ジェンバンク受託番号NM_000584(配列番号2)に記載されている。当業者であれば、IL−8は、CXCL8、K60、NAF、GCP1、LECT、LUCT、NAP1、3−10C、GCP−1、LYNAP、MDNCF、MONAP、NAP−1、SCYB8、TSG−1、AMCF−I、及びb−ENAPとしても知られていることは認識するであろう。
[0146]ヒトTWEAKポリペプチド配列は、たとえば、ジェンバンク受託番号NP_003800及びAAC51923に記載されている。ヒトTWEAK mRNA(コード)配列は、たとえば、ジェンバンク受託番号NM_003809及びBC104420に記載されている。当業者であれば、TWEAKは、腫瘍壊死因子リガンドスーパーファミリーメンバー12(TNFSF12)、APO3リガンド(APO3L)、CD255、DR3リガンド、増殖因子誘導性14(Fn14)リガンド及びUNQ181/PRO207としても知られていることは認識するであろう。
2.急性期タンパク質
[0147]試料中の1つ又は複数の急性期タンパク質の存在又はレベルの決定も本発明において有用である。急性期タンパク質は、その血漿濃度が炎症に応答して増加(ポジティブ急性期タンパク質)又は減少(ネガティブ急性期タンパク質)する1クラスのタンパク質である。この応答は急性期反応と呼ばれる(急性期応答とも呼ばれる)。ポジティブ急性期タンパク質の例には、C反応性タンパク質(CRP)、Dダイマータンパク質、マンノース結合タンパク質、アルファ1アンチトリプシン、アルファ1抗キモトリプシン、アルファ2マクログロブリン、フィブリノーゲン、プロトロンビン、第VIII因子、フォンビルブランド因子、プラスミノーゲン、補体因子、フェリチン、血清アミロイドP成分、血清アミロイドA(SAA)、オロソムコイド(アルファ1酸性糖タンパク質、AGP)、セルロプラスミン、ハプトグロビン及びその組合せが含まれるが、これらに限定されない。ネガティブ急性期タンパク質の非限定的例には、アルブミン、トランスフェリン、トランスサイレチン、トランスコルチン、レチノール結合タンパク質及びその組合せが含まれる。好ましくは、CRP及び/又はSAAの存在又はレベルが決定される。
[0148]ある種の例では、特定の急性期タンパク質の存在又はレベルは、たとえば、ハイブリダイゼーションアッセイ又は増幅ベースのアッセイなどのアッセイを用いてmRNA発現レベルで検出される。ある種の他の例では、特定の急性期タンパク質の存在又はレベルは、たとえば、免疫アッセイ(たとえば、ELISA)又は免疫組織化学的アッセイを使用してタンパク質発現レベルで検出される。たとえば、Alpco Diagnostics(Salem、NH)から入手可能なサンドイッチ比色分析ELISAアッセイを使用すれば、血清、血漿、尿又は便試料中のCRPのレベルを決定することができる。同様に、Biomeda Corporation(Foster City、CA)から入手可能なELISAキットを使用すれば、試料中のCRPレベルを検出することができる。試料中のCRPレベルを決定するための他の方法は、たとえば、米国特許第6,838,250号及び米国特許第6,406,862号並びに米国特許出願公開第2006/0024682号及び米国特許出願公開第2006/0019410号に記載されている。CRPレベルを決定するための追加の方法には、たとえば、免疫比濁アッセイ、急速免疫拡散アッセイ及び視覚的凝集アッセイが含まれる。血清、血漿、唾液、尿又は便などの試料中のSAAの存在又はレベルを決定するのに適したELISAキットは、たとえば、Antigenix America Inc.(Huntington Station、NY)、Abazyme(Needham、MA)、USCN Life(Missouri City、TX)、及び/又はU.S.Biological(Swampscott、MA)から入手可能である。
[0149]C反応性タンパク質(CRP)は、炎症に応答している血液中に見出されるタンパク質である(急性期タンパク質)。CRPは典型的には、肝臓により及び脂肪細胞(アディポサイト)により産生される。CRPはタンパク質のペントラキシンファミリーのメンバーである。ヒトCRPポリペプチド配列は、たとえば、ジェンバンク受託番号NP_000558に記載されている。ヒトCRP mRNA(コード)配列は、たとえば、ジェンバンク受託番号NM_000567に記載されている。当業者であれば、CRPは、PTX1、MGC88244及びMGC149895としても知られていることは認識するであろう。
[0150]血清アミロイドA(SAA)タンパク質は、血漿中の高密度リポタンパク質(HDL)に関連するアポリポタンパク質のファミリーである。SAAの異なるアイソフォームは、異なるレベルで構成的に(構成的SAA)又は炎症刺激に応答して(急性期SAA)発現される。これらのタンパク質は肝臓により優勢に産生される。無脊椎動物及び脊椎動物全体でこれらのタンパク質が保存されていることは、SAAがすべての動物において極めて重要な役割を果たしていることを示唆している。急性期血清アミロイドAタンパク質(A−SAA)は炎症の急性期中に分泌される。ヒトSAAポリペプチド配列は、たとえば、ジェンバンク受託番号NP_000322に記載されている。ヒトSAA mRNA(コード)配列は、たとえば、ジェンバンク受託番号NM_000331に記載されている。当業者であれば、SAAは、PIG4、TP53I4、MGC111216及びSAA1としても知られていることは認識するであろう。
3.細胞接着分子(IgSF CAM)
[0151]試料中の1つ又は複数の免疫グロブリンスーパーファミリー細胞接着分子の存在又はレベルの決定も本発明では有用である。本明細書で使用されるように、用語「免疫グロブリンスーパーファミリー細胞接着分子」(IgSF CAM)には、1つ又は複数の免疫グロブリン様フォールドドメインを有し、細胞間接着及び/又はシグナル伝達において機能する細胞表面に位置する種々のポリペプチド又はタンパク質のいずれでも含まれる。多くの場合、IgSF CAMは膜貫通タンパク質である。IgSF CAMの非限定的例には、神経細胞接着分子(NCAM、たとえば、NCAM−120、NCAM−125、NCAM−140、NCAM−145、NCAM−180、NCAM−185、など)、細胞間接着分子(ICAM、たとえば、ICAM−1、ICAM−2、ICAM−3、ICAM−4、及びICAM−5)、血管細胞接着分子−1(VCAM−1)、血小板内皮細胞接着分子−1(PECAM−1)、L1細胞接着分子(L1CAM)、L1CAMとの相同性を有する細胞接着分子(L1の密接な相同体)(CHL1)、シアル酸結合Ig様レクチン(SIGLEC、たとえば、SIGLEC−1、SIGLEC−2、SIGLEC−3、SIGLEC−4、など)、ネクチン(たとえば、ネクチン−1、ネクチン−2、ネクチン−3、など)、及びネクチン様分子(たとえば、Necl−1、Necl−2、Necl−3、Necl−4、及びNecl−5)が含まれる。好ましくは、ICAM−1及び/又はVCAM−1の存在及びレベルが決定される。
[0152]ICAM−1は、白血球及び内皮細胞の膜に低濃度で連続的に存在する膜貫通細胞接着タンパク質である。サイトカインが刺激されると、前記濃度は大幅に増加する。ICAM−1は、IL−1及びTNFαにより誘導することができ、血管内皮、マクロファージ及びリンパ球により発現される。IBDでは、炎症性サイトカインが、ICAM−1及びVCAM−1などの接着分子の発現を上方調節することにより炎症を引き起こす。接着分子の発現が増加すると、感染組織により多くのリンパ球が動員され、組織炎症が生じる(Gokeら、J.、Gastroenterol.、32:480頁(1997)及びRijckenら、Gut、51:529頁(2002)参照)。ICAM−1は細胞間接着分子1遺伝子(ICAM1;Entrez GeneID:3383;ジェンバンク受託番号NM_000201)によりコードされ、細胞間接着分子1前駆体ポリペプチド(ジェンバンク受託番号NP_000192)のプロセシング後に産生される。
[0153]VCAM−1は、リンパ球、単球、好酸球及び好塩基球の血管内皮への接着を媒介する膜貫通型細胞接着タンパク質である。サイトカインによる内皮細胞におけるVCAM−1の上方調節は遺伝子転写が増加した結果として起こる(たとえば、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)及びインターロイキン−1(IL−1)に応答して)。VCAM−1は血管細胞接着分子1遺伝子(VCAM1;Entrez GeneID:7412)によりコードされ、転写物(ジェンバンク受託番号NM_001078(バリアント1)又はNM_080682(バリアント2))の差次的スプライシング及び前駆体ポリペプチドスプライスアイソフォーム(ジェンバンク受託番号NP_001069(アイソフォームa)又はNP_542413(アイソフォームb))のプロセシング後に産生される。
[0154]ある種の例では、IgSF CAMの存在又はレベルは、たとえば、ハイブリダイゼーションアッセイ又は増幅ベースのアッセイなどのアッセイを用いてmRNA発現レベルで検出される。ある種の他の例では、IgSF CAMの存在又はレベルは、たとえば、免疫アッセイ(たとえば、ELISA)又は免疫組織化学的アッセイを使用してタンパク質発現レベルで検出される。組織試料、生検、血清、血漿、唾液、尿又は便などの試料中のICAM−1及び/又はVCAM−1の存在又はレベルを決定するのに適した抗体及び/又はELISAキットは、たとえば、Invitrogen(Camarillo、CA)、Santa Cruz Biotechnology,Inc.(Santa Cruz、CA)、及び/又はAbcam Inc.(Cambridge、MA)から入手可能である。
4.S100タンパク質
[0155]試料中の少なくとも1つのS100タンパク質の存在又はレベルの決定も本発明において有用である。本明細書で使用されるように、用語「S100タンパク質」には、細胞型特異的発現及び2つのEF−ハンドカルシウム結合ドメインの存在により特徴付けられる低分子量酸性タンパク質のファミリーの任意のメンバーが含まれる。ヒトには少なくとも21の異なる種類のS100タンパク質が存在する。前記名称は、S100タンパク質が中性pHの硫酸アンモニウム中で100%可溶性であることに由来している。大半のS100タンパク質は、非共有結合により結合している2つの同一のポリペプチドから成るホモ二量体である。S100タンパク質はカルモジュリンに構造的には類似しているが、細胞特異的であり、環境要因に応じて異なるレベルで特定の細胞において発現されるという点で異なる。S100タンパク質は、通常は、神経堤(たとえば、シュワン細胞、メラニン形成細胞、グリア細胞)に由来する細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、筋上皮細胞、マクロファージ、ランゲルハンス細胞、樹状細胞、及びケラチノサイトに存在する。S100タンパク質は、タンパク質リン酸化の調節、転写因子、Ca2+恒常性維持、細胞骨格構成物の動力学、酵素活性、細胞増殖及び分化並びに炎症応答などの種々の細胞内及び細胞外機能に関与しているとされてきた。
[0156]カルグラニュリンは、腎臓上皮細胞及び好中球を含む複数の細胞型において発現されるS100タンパク質であり、慢性炎症の状況下で浸潤性単球及び顆粒球に豊富に含まれている。カルグラニュリンの例には、制限なく、カルグラニュリンA(S100A8又はMRP−8としても知られている)、カルグラニュリンB(S100A9又はMRP−14としても知られている)及びカルグラニュリンC(S100A12としても知られている)が含まれる。
[0157]ある種の例では、特定のS100タンパク質の存在又はレベルは、たとえば、ハイブリダイゼーションアッセイ又は増幅ベースのアッセイなどのアッセイを用いてmRNA発現レベルで検出される。ある種の他の例では、特定のS100タンパク質の存在又はレベルは、たとえば、免疫アッセイ(たとえば、ELISA)又は免疫組織化学的アッセイを使用してタンパク質発現レベルで検出される。血清、血漿又は尿試料中のカルグラニュリンA(S100A8)、カルグラニュリンB(S100A9)又はカルグラニュリンC(S100A12)などのS100タンパク質の存在又はレベルを決定するのに適したELISAキットは、たとえば、Peninsula Laboratories Inc.(San Carlos、CA)、及びHycult biotechnology b.v.(Uden、The Netherlands)から入手可能である。
[0158]S100A8とS100A9の複合体であるカルプロテクチンは、好中球、単球及びケラチノサイトのサイトゾル中のカルシウム結合及び亜鉛結合タンパク質である。カルプロテクチンは、好中性顆粒球及びマクロファージにおける主要タンパク質であり、これらの細胞のサイトゾル画分中の全タンパク質の60%も占めている。したがって、カルプロテクチンは、好中球代謝回転の代用マーカーである。便中のその濃度は、腸管粘膜の好中球浸潤の強度及び炎症の重症度と相関している。いくつかの例では、カルプロテクチンは、わずかな(50〜100mg)糞便試料を使用するELISAを用いて測定することが可能である(たとえば、Johneら、Scand J Gastroenterol.、36:291〜296頁(2001)参照)。
5.他の炎症マーカー
[0159]試料中のラクトフェリンの存在又はレベルの決定も本発明において有用である。ある種の例では、ラクトフェリンの存在又はレベルは、たとえば、ハイブリダイゼーションアッセイ又は増幅ベースのアッセイなどのアッセイを用いてmRNA発現レベルで検出される。ある種の他の例では、ラクトフェリンの存在又はレベルは、たとえば、免疫アッセイ(たとえば、ELISA)又は免疫組織化学的アッセイを使用してタンパク質発現レベルで検出される。Calbiochem(San Diego、CA)から入手可能なラクトフェリンELISAキットを使用すれば、血漿、尿、気管支肺胞洗浄液、又は脳脊髄液試料中のヒトラクトフェリンを検出することができる。同様に、U.S.Biological(Swampscott、MA)から入手可能なELISAキットを使用すれば、血漿試料中のラクトフェリンのレベルを決定することができる。米国特許出願公開第2004/0137536号には、便試料中の上昇したラクトフェリンレベルの存在を決定するためのELISAアッセイが記載されている。同様に、米国特許出願公開第2004/0033537号には、便、粘液又は胆汁試料中の内在性ラクトフェリンの濃度を決定するためのELISAアッセイが記載されている。いくつかの実施形態では、抗ラクトフェリン抗体の存在又はレベルは、たとえば、ラクトフェリンタンパク質又はその断片を使用して、試料中で検出することができる。
[0160]試料中のM1−PK及びM2−PKなどの1つ又は複数のピルビン酸キナーゼアイソザイムの存在又はレベルの決定も本発明において有用である。ある種の例では、M1−PK及び/又はM2−PKの存在又はレベルは、たとえば、ハイブリダイゼーションアッセイ又は増幅ベースのアッセイなどのアッセイを用いてmRNA発現レベルで検出される。ある種の他の例では、M1−PK及び/又はM2−PKの存在又はレベルは、たとえば、免疫アッセイ(たとえば、ELISA)又は免疫組織化学的アッセイを使用してタンパク質発現レベルで検出される。ピルビン酸キナーゼアイソザイムM1/M2は、ピルビン酸キナーゼ筋肉アイソザイム(PKM)、ピルビン酸キナーゼK型、サイトゾル甲状腺ホルモン結合タンパク質(CTHBP)、甲状腺ホルモン結合タンパク質1(THBP1)、又はオーパ相互作用タンパク質3(OIP3)としても知られている。
[0161]追加の実施形態では、試料中の1つ又は複数の増殖因子の存在又はレベルの決定も本発明において有用である。増殖因子の非限定的例には、TGF−α、TGF−β、TGF−β2、TGF−β3、などのトランスフォーミング増殖因子(TGF)が含まれ、これらの増殖因子は下に詳細に記載されている。
6.炎症マーカーの例となるセット
[0162]特定の実施形態では、以下の炎症マーカー、
a.CRP
b.SAA
c.VCAM
d.ICAM
e.カルプロテクチン
f.ラクトフェリン
g.IL8
h.ランテス
i.TNFアルファ
j.IL−6
k.IL−1ベータ
l.S100A12
m.M2−ピルビン酸キナーゼ(PK)
n.IFN
o.IL2
p.TGF
q.IL−13
r.IL−15
s.IL12
t.他のケモカイン及びサイトカイン
のうちの少なくとも1つ又は複数(たとえば、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は、たとえば、パネルなどのそれよりも多い)を検出して(たとえば、単独で又は他の範疇由来のバイオマーカーと組み合わせて)、疾患経過の予測の支援若しくは補助、並びに/又は療法の選択、療法の最適化、毒性の減少及び/若しくは抗TNFα薬療法に対する治療的処置の有効性をモニターする正確度の改善を行うことが可能である。
B.増殖因子
[0163]生化学マーカー、血清学マーカー、タンパク質マーカー、遺伝子マーカー、及び他の臨床的又は超音波検査特徴を含む種々の増殖因子は、療法の選択、療法の最適化、毒性の減少及び/又は生物製剤(たとえば、抗TNFα薬)などの1つ又は複数の治療薬を用いた治療的処置の有効性のモニターを行うための本発明の方法において使用するのに適している。ある種の態様では、本明細書に記載される方法は、1つ又は複数の増殖因子(たとえば、単独で又は他の範疇由来のバイオマーカーと組み合わせて)について決定された存在、濃度レベル、及び/又は遺伝子型へのアルゴリズム(たとえば、統計解析)の適用を利用して、疾患経過の予測、適切な抗TNFα薬療法の選択、抗TNFα薬療法の最適化、抗TNFα薬療法に伴う毒性の減少、又は抗TNFα薬を用いた治療的処置の有効性のモニターを行うのを支援又は補助する。
[0164]したがって、ある種の実施形態では、試料中の1つ又は複数の増殖因子の存在又はレベルの決定は本発明において有用である。本明細書で使用されるように、用語「増殖因子」には、細胞増殖及び/又は細胞分化を刺激することができる種々のペプチド、ポリペプチド又はタンパク質のいずれでも含まれる。
[0165]ある種の態様では、上皮増殖因子(EGF)、ヘパリン結合上皮増殖因子(HB−EGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、色素上皮由来因子(PEDF、SERPINF1としても知られている)、アンフィレギュリン(AREG、シュワン腫由来増殖因子(SDGF)としても知られている)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、トランスフォーミング増殖因子α(TGF−α)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β1、TGF−β2、TGF−β3、等)、エンドセリン−1(ET−1)、ケラチノサイト増殖因子(KGF、FGF7としても知られている)、骨形成タンパク質(たとえば、BMP1〜BMP15)、血小板由来増殖因子(PDGF)、神経増殖因子(NGF)、β−神経増殖因子(β−NGF)、神経栄養因子(たとえば、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン3(NT3)、ニューロトロフィン4(NT4)、等)、増殖分化因子−9(GDF−9)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、ミオスタチン(GDF−8)、エリスロポエチン(EPO)、及びトロンボポエチン(TPO)を含むが、これらに限定されない少なくとも1つの増殖因子の存在又はレベルが試料において決定される。特定の実施形態では、VEGF、EGF、bFGF、ET−1、TGF−β2及び/又はTGF−β3のうちの少なくとも1つの存在又はレベルが決定される。これらのマーカーは、対照においてよりも活性IBDにおいて有意に高いことが見出されており、これらのマーカーがIBDにおける腸の管腔側の粘膜損傷後の治癒を促進するのに関与している可能性があることを示している。
[0166]ある種の例では、特定の増殖因子の存在又はレベルは、たとえば、ハイブリダイゼーションアッセイ又は増幅ベースのアッセイなどのアッセイを用いてmRNA発現レベルで検出される。ある種の他の例では、特定の増殖因子の存在又はレベルは、たとえば、免疫アッセイ(たとえば、ELISA)又は免疫組織化学的アッセイを使用してタンパク質発現レベルで検出される。血清、血漿、唾液、又は尿試料中の増殖因子の存在又はレベルを決定するのに適したELISAキットは、たとえば、Antigenix America Inc.(Huntington Station、NY)、Promega(Madison、WI)、R&D Systems,Inc.(Minneapolis、MN)、Invitrogen(Camarillo、CA)、CHEMICON International,Inc.(Temecula、CA)、Neogen Corp.(Lexington、KY)、Pepro Tech(Rocky Hill、NJ)、Alpco Diagnostics(Salem、NH)、Pierce Biotechnology,Inc.(Rockford、IL)及び/又はAbazyme(Needham、MA)から入手可能である。
[0167]ヒト上皮増殖因子(EGF)ポリペプチド配列は、たとえば、ジェンバンク受託番号NP_001954(配列番号19)に記載されている。ヒトEGF mRNA(コード)配列は、たとえば、ジェンバンク受託番号NM_001963(配列番号20)に記載されている。当業者であれば、EGFは、ベータウロガストロン、URG及びHOMG4としても知られていることは認識するであろう。
[0168]ヒト血管内皮増殖因子(VEGF)ポリペプチド配列は、たとえば、ジェンバンク受託番号NP_001020537(配列番号21)、NP_001020538、NP_001020539、NP_001020540、NP_001020541、NP_001028928及びNP_003367に記載されている。ヒトVEGF mRNA(コード)配列は、たとえば、ジェンバンク受託番号NM_001025366(配列番号22)、NM_001025367、NM_001025368、NM_001025369、NM_001025370、NM_001033756及びNM_003376に記載されている。当業者であれば、VEGFは、VPF、VEGFA、VEGF−A及びMGC70609としても知られていることは認識するであろう。
[0169]特定の実施形態では、以下の増殖因子、GM−CSF、VEGF、EGF、ケラチノサイト増殖因子(KGF、FGF7)及び他の増殖因子のうちの少なくとも1つ又は複数(たとえば、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は、たとえば、パネルなどのそれよりも多い)を検出して(たとえば、単独で又は他の範疇由来のバイオマーカーと組み合わせて)、疾患経過の予測の支援若しくは補助、並びに/又は療法の選択、療法の最適化、毒性の減少及び/若しくは抗TNFα薬療法に対する治療的処置の有効性をモニターする正確度の改善を行うことが可能である。
C.血清学(免疫マーカー)
[0170]試料(たとえば、血清試料)中の自己抗体などの血清学又は免疫マーカーの決定も本発明において有用である。IL−10、TGF−β、他などの抗炎症分子に対する抗体は、炎症を制御する身体の能力を抑制することがあり、患者におけるこれらの抗体の存在又はレベルは、抗TNFα薬などの強力な免疫抑制薬物の使用を示している。粘膜治癒すれば、たとえば、OmpC、フラジェリン(cBir−1、Fla−A、Fla−X、等)、I2、及び他(pANCA、ASCA、等)などの細菌抗原に対する抗体の抗体力価が減少することがある。
[0171]したがって、ある種の態様では、本明細書に記載される方法は、1つ又は複数の免疫マーカー(たとえば、単独で又は他の範疇由来のバイオマーカーと組み合わせて)について決定された存在、濃度レベル、及び/又は遺伝子型へのアルゴリズム(たとえば、統計解析)の適用を利用して、疾患経過の予測、適切な抗TNFα薬療法の選択、抗TNFα薬療法の最適化、抗TNFα薬療法に伴う毒性の減少、又は抗TNFα薬を用いた治療的処置の有効性のモニターを行うのを支援又は補助する。
[0172]本発明において使用するのに適した血清学免疫マーカーの非限定的例には、抗好中球抗体、抗サッカロマイセス・セレビシエ抗体、及び/又は他の抗菌抗体が含まれる。
1.抗好中球抗体
[0173]試料中のANCAレベル及び/又はpANCAの存在又は非存在の決定は本発明の方法において有用である。本明細書で使用されるように、用語「抗好中球細胞質抗体」又は「ANCA」には、好中球の細胞質及び/又は核成分に対する抗体が含まれる。ANCA活性は、好中球におけるANCA染色パターンに基づいていくつかの広い範疇、(1)核周囲強調表示のない細胞質好中球染色(cANCA)、(2)核の外縁周囲の核周囲染色(pANCA)、(3)核の内縁周囲の核周囲染色(NSNA)、及び(4)全好中球にわたり小斑点のある拡散染色(SAPPA)に分けることが可能である。ある種の例では、pANCA染色はデオキシリボヌクレアーゼ処理に感受性である。用語ANCAは、cANCA、pANCA、NSNA及びSAPPAを含むが、これらに限定されないあらゆる種類の抗好中球反応性を包含する。同様に、用語ANCAは、制限なく、免疫グロブリンA及びGを含むあらゆる免疫グロブリンアイソタイプを包含する。
[0174]個人由来の試料中のANCAレベルは、たとえば、アルコール固定化好中球を用いた酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)などの免疫アッセイを使用して決定することが可能である。pANCAなどの特定の範疇のANCAの存在又は非存在は、たとえば、間接蛍光抗体(IFA)アッセイなどの免疫組織化学的アッセイを使用して決定することが可能である。好ましくは、試料中のpANCAの存在又は非存在は、デオキシリボヌクレアーゼ処理固定化好中球を用いる免疫蛍光アッセイを使用して決定される。固定化好中球に加えて、ANCAレベルを決定するのに適しているANCAに特異的な抗原には、制限なく、未精製又は部分的に精製された好中球抽出物;精製されたタンパク質、タンパク質断片又はヒストンH1若しくはそのANCA反応性断片などの合成ペプチド(たとえば、米国特許第6,074,835号参照);ヒストンH1様抗原、ポリン抗原、バクテロイデス抗原、又はそのANCA反応性断片(たとえば、米国特許第6,033,864号参照);分泌小胞抗原又はそのANCA反応性断片(たとえば、米国特許出願第08/804,106号参照);及び抗ANCAイディオタイプ抗体が含まれる。当業者であれば、ANCAに特異的な追加の抗原の使用は本発明の範囲内であることは認識するであろう。
2.抗サッカロマイセス・セレビシエ抗体
[0175]試料中のASCA(たとえば、ASCA−IgA及び/又はASCA−IgG)レベルの決定は本発明において有用である。本明細書で使用されるように、用語「抗サッカロマイセス・セレビシエ免疫グロブリンA」又は「ASCA−IgA」には、サッカロマイセス・セレビシエと特異的に反応する免疫グロブリンAアイソタイプの抗体が含まれる。同様に、用語「抗サッカロマイセス・セレビシエ免疫グロブリンG」又は「ASCA−IgG」には、サッカロマイセス・セレビシエと特異的に反応する免疫グロブリンGアイソタイプの抗体が含まれる。
[0176]試料がASCA−IgA又はASCA−IgGに陽性かどうかの決定は、ASCAに特異的である抗原を使用して行われる。そのような抗原は、ASCA−IgA及び/又はASCA−IgGが特異的に結合しているいかなる抗原でも又は抗原の混合物でも可能である。ASCA抗体は最初はサッカロマイセス・セレビシエに結合するその能力により特徴付けられていたが、当業者であれば、ASCAが特異的に結合している抗原は、サッカロマイセス・セレビシエから又は前記抗原がASCA抗体に特異的に結合することができさえすれば、種々の他の供給源から得ることが可能であることは理解するであろう。したがって、ASCAに特異的であり、試料中のASCA−IgA及び/又はASCA−IgGレベルを決定するのに使用することができる抗原の例となる供給源には、制限なく、サッカロマイセス又はカンジダ(Candida)細胞などの全殺滅酵母細胞;ホスホペプチドマンナン(PPM)などの酵母細胞壁マンナン;オリゴマンノシドなどのオリゴ糖;ネオ糖脂質;抗ASCAイディオタイプ抗体;及び同類のものが含まれる。サッカロマイセス・セレビシエSu1、Su2、CBS1315若しくはBM156株などの酵母、又はカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)VW32株の異なる種及び株は、ASCA−IgA及び/又はASCA−IgGに特異的な抗原として使用するのに適している。ASCAに特異的な精製された及び合成抗原も、試料中のASCA−IgA及び/又はASCA−IgGのレベルを決定する際に使用するのに適している。精製された抗原の例には、制限なく、オリゴマンノシドなどの精製されたオリゴ糖抗原が含まれる。合成抗原の例には、制限なく、米国特許出願公開第2003/0105060号に記載されているオリゴマンノシド、たとえば、D−Man β(1−2)D−Man β(1−2)D−Man β(1−2)D−Man−OR、D−Man α(1−2)D−Man α(1−2)D−Man α(1−2)D−Man−OR、及びD−Man α(1−3)D−Man α(1−2)D−Man α(1−2)D−Man−OR(Rは水素原子、C1〜C20アルキル、又は随意に標識される連結基)などの合成オリゴマンノシドが含まれる。
[0177]酵母細胞壁マンナンの調製物、たとえば、PPMは、試料中のASCA−IgA及び/又はASCA−IgGのレベルを決定するのに使用することができる。そのような水溶性表面抗原は、たとえば、高圧蒸気殺菌法を含む当技術分野で公知の任意の適切な抽出法により調製することが可能であり、又は市販のものを購入することができる(たとえば、Lindbergら、Gut、33:909〜913頁(1992)参照)。PPMの酸安定画分も本発明の統計アルゴリズムにおいて有用である(Sendidら、Clin.Diag.Lab.Immunol.、3:219〜226頁(1996))。試料中のASCAレベルを決定するのに有用である例となるPPMはS.ウバルム(uvarum)株ATCC#38926由来である。
[0178]オリゴマンノシドなどの精製されたオリゴ糖抗原も、試料中のASCA−IgA及び/又はASCA−IgGのレベルを決定するのに有用であることが可能である。精製されたオリゴマンノシド抗原は、好ましくは、たとえば、Failleら、Eur.J.Microbiol.Infect.Dis.、11:438〜446頁(1992)に記載されているネオ糖脂質に変換される。当業者であれば、ASCAとのそのようなオリゴマンノシド抗原の反応性は、マンノシル鎖長(Froshら、Proc Natl.Acad.Sci.USA、82:1194〜1198頁(1985))、アノマー配置(Fukazawaら、「Immunology of Fungal Disease」、E.Kurstak(編)、Marcel Dekker Inc.、New York、37〜62頁(1989);Nishikawaら、Microbiol.Immunol.、34:825〜840頁(1990);Poulainら、Eur.J.Clin.Microbiol.、23:46〜52頁(1993);Shibataら、Arch.Biochem.Biophys.、243:338〜348頁(1985);Trinelら、Infect.Immun.、60:3845〜3851頁(1992))、又は連鎖の位置(Kikuchiら、Planta、190:525〜535頁(1993))を変えることにより最適化することが可能であることを理解している。
[0179]本発明の方法において使用するのに適したオリゴマンノシドには、制限なく、マンノテトロース(mannotetraose)Man(1−3)Man(1−2)Man(1−2)Manを有するオリゴマンノシドが含まれる。そのようなオリゴマンノシドは、たとえば、Failleら、上記参照に記載されているPPMから精製することが可能である。ASCAに特異的な例となるネオ糖脂質は、そのそれぞれのPPMからオリゴマンノシドを放出し、続いて放出されたオリゴマンノシドを4−ヘキサデシルアニリン又は同種のものに結合させることにより構築することが可能である。
3.抗菌抗体
[0180]試料中の抗OmpC抗体レベルの決定も本発明において有用である。本明細書で使用されるように、用語「抗外膜タンパク質C抗体」又は「抗OmpC抗体」には、たとえば、PCT特許出願国際公開第01/89361号パンフレットに記載される細菌外膜ポリンに対する抗体が含まれる。用語「外膜タンパク質C」又は「OmpC」とは、抗OmpC抗体と免疫反応性である細菌ポリンのことである。
[0181]個人由来の試料中に存在する抗OmpC抗体のレベルは、OmpCタンパク質又はその免疫反応性断片などのその断片を使用して決定することが可能である。試料中の抗OmpC抗体レベルを決定するのに有用である適切なOmpC抗原には、制限なしに、OmpCタンパク質、OmpCタンパク質と実質的に同じアミノ酸配列を有するOmpCポリペプチド、又はその免疫反応性断片などのその断片が含まれる。本明細書で使用されるように、OmpCポリペプチドは一般に、CLUSTALWなどの配列アラインメントプログラムを使用して決定されるアミノ酸同一性に関して、OmpCタンパク質と同一性が約50%よりも大きい、好ましくは同一性が約60%よりも大きい、さらに好ましくは同一性が約70%よりも大きい、さらに好ましくはアミノ酸配列同一性が約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%よりも大きいアミノ酸配列を有するポリペプチドを言い表している。そのような抗原は、たとえば、イー・コリ(E.coli)などの腸内細菌からの精製により、ジェンバンク受託番号K00541などの核酸の組換え発現により、液相若しくは固相ペプチド合成などの合成手段により、又はファージディスプレイを使用することにより調製することが可能である。
[0182]試料中の抗I2抗体レベルの決定も本発明において有用である。本明細書で使用されるように、用語「抗I2抗体」には、たとえば、米国特許第6,309,643号に記載される細菌転写調節因子と相同性を共有する微生物抗原に対する抗体が含まれる。用語「I2」とは、抗I2抗体と免疫反応性である微生物抗原のことである。微生物I2タンパク質は、C.パスツリアヌム(pasteurianum)由来の予想されるタンパク質4、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)由来のRv3557c、及びアクイフェックス・アエオリカス(Aquifex aeolicus)由来の転写調節因子とある程度の類似性の弱い相同性を共有する100アミノ酸のポリペプチドである。I2タンパク質の核酸及びタンパク質配列は、たとえば、米国特許第6,309,643号に記載されている。
[0183]個人由来の試料中に存在する抗I2抗体のレベルは、I2タンパク質又はその免疫反応性断片などのその断片を使用して決定することが可能である。試料中の抗I2抗体レベルを決定するのに有用である適切なI2抗原には、制限なしに、I2タンパク質、I2タンパク質と実質的に同じアミノ酸配列を有するI2ポリペプチド、又はその免疫反応性断片などのその断片が含まれる。そのようなI2ポリペプチドは、C.パスツリアヌムタンパク質4よりもI2タンパク質に対して大きな配列類似性を示し、アイソタイプバリアント及びその相同体を含む。本明細書で使用されるように、I2ポリペプチドは一般に、CLUSTALWなどの配列アラインメントプログラムを使用して決定されるアミノ酸同一性に関して、天然に存在するI2タンパク質と同一性が約50%よりも大きい、好ましくは同一性が約60%よりも大きい、さらに好ましくは同一性が約70%よりも大きい、さらに好ましくはアミノ酸配列同一性が約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%よりも大きいアミノ酸配列を有するポリペプチドを言い表している。そのようなI2抗原は、たとえば、微生物からの精製により、I2抗原をコードする核酸の組換え発現により、液相若しくは固相ペプチド合成などの合成手段により、又はファージディスプレイを使用することにより調製することが可能である。
[0184]試料中の抗フラジェリン抗体レベルの決定も本発明において有用である。本明細書で使用されるように、用語「抗フラジェリン抗体」には、たとえば、PCT特許出願国際公開第03/053220号パンフレット及び米国特許出願公開第2004/0043931号に記載される細菌鞭毛のタンパク質成分に対する抗体が含まれる。用語「フラジェリン」とは、抗フラジェリン抗体に免疫反応性である細菌鞭毛タンパク質のことである。微生物フラジェリンは、中空円筒に配置して線維を形成する細菌鞭毛に見出されるタンパク質である。
[0185]個人由来の試料中に存在する抗フラジェリン抗体のレベルは、フラジェリンタンパク質又はその免疫反応性断片などのその断片を使用して決定することが可能である。試料中の抗フラジェリン抗体レベルを決定するのに有用である適切なフラジェリン抗原には、制限なしに、Cbir−1フラジェリン、フラジェリンX、フラジェリンA、フラジェリンB、その断片、及びその組合せなどのフラジェリンタンパク質、フラジェリンタンパク質と実質的に同じアミノ酸配列を有するフラジェリンポリペプチド、又はその免疫反応性断片などのその断片が含まれる。本明細書で使用されるように、フラジェリンポリペプチドは一般に、CLUSTALWなどの配列アラインメントプログラムを使用して決定されるアミノ酸同一性に関して、天然に存在するフラジェリンタンパク質と同一性が約50%よりも大きい、好ましくは同一性が約60%よりも大きい、さらに好ましくは同一性が約70%よりも大きい、さらに好ましくはアミノ酸配列同一性が約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%よりも大きいアミノ酸配列を有するポリペプチドを言い表している。そのようなフラジェリン抗原は、たとえば、ヘリコバクター・ビリス(Helicobacter Bilis)、ヘリコバクター・ムステラエ(Helicobacter mustelae)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、ブチリビブリオ・フィブリソルベンス(Butyrivibrio fibrisolvens)などの細菌及び盲腸に見出される細菌からの精製により、フラジェリン抗原をコードする核酸の組換え発現により、液相若しくは固相ペプチド合成などの合成手段により、又はファージディスプレイを使用することにより調製することが可能である。
D.酸化ストレスマーカー
[0186]試料中の酸化ストレスのマーカーの決定も本発明において有用である。酸化ストレスのマーカーの非限定的例には、タンパク質ベースの又はDNAベースのマーカーが含まれ、前記マーカーはそれぞれタンパク質酸化及びDNA断片化を測定することにより検出することが可能である。酸化ストレスのマーカーの他の例には、マロンジアルデヒドなどの有機化合物が含まれる。
[0187]酸化ストレスは、活性酸素種の生成及び出現と反応中間体を直ちに解毒又は生じた損傷を修復する生物システムの能力間の不均衡を表す。組織の正常な酸化還元状態が乱されると、タンパク質、脂質及びDNAを含む細胞のあらゆる成分に損傷を与える過酸化物及びフリーラジカルの生成を通じて中毒作用を引き起こすことがある。一部の反応性酸化種は酸化還元シグナル伝達と呼ばれる現象を通じてメッセンジャーとしての機能を果たすことさえある。
[0188]ある種の実施形態では、反応性酸化代謝物の誘導体(DROM)、酸化型対還元型グルタチオンの比(Eh GSH)、及び/又は酸化型対還元型システインの比(Eh CySH)を使用して酸化ストレスを定量化することが可能である。たとえば、Neumanら、Clin.Chem.、53:1652〜1657頁(2007)を参照されたい。チロシンホスファターゼ及びチオレドキシン関連タンパク質などのタンパク質中の高度に反応性のシステイン残基の酸化的修飾も、たとえば、質量分析(MS)などの技法を使用して検出又は測定することが可能である。たとえば、Naitoら、Anti−Aging Medicine、7(5):36〜44頁(2010)を参照されたい。酸化ストレスの他のマーカーには、たとえば、Uchidaら、PNAS、95(9)4882〜4887頁(1998)に記載されるタンパク質結合アクロレイン、有機ヒドロペルオキシドのレベルを反映する遊離の酸素ラジカル試験(FORT)、及び還元型グルタチオン/グルタチオンジスルフィドカップル、(Eh)GSH/GSSGの酸化還元電位が含まれる。たとえば、Abramsonら、Atherosclerosis、178(1):115〜21頁(2005)を参照されたい。
E.細胞表面受容体
[0189]試料中の細胞表面受容体の決定も本発明において有用である。レミケード及びヒュミラなどの抗TNFα薬の半減期は高レベルの炎症に罹っている患者においては著しく減少する。免疫グロブリン(Ig)G1及びIgG3に対する高親和性受容体であるCD64は、単核貪食細胞により大部分発現されている。静止多形核(PMN)細胞はほとんどCD64を発現しないが、このマーカーの発現は、インターフェロン及び骨髄中の骨髄前駆体に作用する顆粒球コロニー刺激因子により上方調節される。CD64のIgG複合体との架橋により、エンドサイトーシスによる免疫複合体の内部移行、オプソニン化された粒子の食作用、脱顆粒、酸化バーストの活性化、及びサイトカインの放出を含むいくつかの細胞応答が行使される。
[0190]したがって、ある種の態様では、本明細書に記載される方法は、CD64などの1つ又は複数の細胞表面受容体(たとえば、単独で又は他の範疇のバイオマーカーと組み合わせて)について決定された存在、濃度レベル、及び/又は遺伝子型へのアルゴリズム(たとえば、統計解析)の適用を利用して、疾患経過の予測、適切な抗TNFα薬療法の選択、抗TNFα薬療法の最適化、抗TNFα薬療法に伴う毒性の減少、又は抗TNFα薬を用いた治療的処置の有効性のモニターを行うのを支援又は補助する。
F.シグナル伝達経路
[0191]試料中のシグナル伝達経路の決定も本発明において有用である。多形核(PMN)細胞活性化、それに続く腸粘膜(RAでは滑膜)への浸潤及び陰窩上皮への移動は、IBDの重要な特長とみなされている。糞便インジウム−111標識された白血球排泄により、循環から腸の罹患部分へのPMN細胞の移動がIBD患者では10倍又はそれよりも多く増加していると推定されてきた。したがって、ある種の態様では、協同的酵素増強反応性免疫アッセイ(Collaborative Enzyme Enhanced Reactive ImmunoAssay)(CEER)などのアッセイを使用してシグナル伝達経路を測定することにより、血液又は組織炎症由来のPMN細胞の活性化を測定するのは、炎症疾患を理解する理想的な方法である。CEER技術は、以下の特許文書、PCT出願番号国際公開第2008/036802号パンフレット、国際公開第2009/012140号パンフレット、国際公開第2009/108637号パンフレット、国際公開第2010/132723号パンフレット、国際公開第2011/008990号パンフレット、及び国際公開第2011/050069号パンフレット、並びにPCT出願番号PCT/US2011/066624に記載されており、これら特許文献はそれぞれが参照によりあらゆる目的のためにその全体が本明細書に組み込まれている。
[0192]したがって、ある種の態様では、本明細書に記載される方法は、1つ又は複数のシグナル伝達経路における1つ又は複数のシグナル伝達分子(たとえば、単独で又は他の範疇のバイオマーカーと組み合わせて)について決定された存在、濃度レベル、及び/又は遺伝子型へのアルゴリズム(たとえば、統計解析)の適用を利用して、疾患経過の予測、適切な抗TNFα薬療法の選択、抗TNFα薬療法の最適化、抗TNFα薬療法に伴う毒性の減少、又は抗TNFα薬を用いた治療的処置の有効性のモニターを行うのを支援又は補助する。好ましい実施形態では、1つ又は複数のシグナル伝達経路における1つ又は複数のシグナル伝達分子の全体レベル及び/又は活性化(たとえば、リン酸化)レベルが測定される。
[0193]用語「シグナル伝達分子」又は「シグナル伝達物質」には、細胞が細胞外シグナル又は刺激を、典型的には細胞内の規則正しい順序の生化学反応を伴う応答に変換するプロセスを実行するタンパク質及び他の分子が含まれる。シグナル伝達分子の例には、EGFR(たとえば、EGFR/HER1/ErbB1、HER2/Neu/ErbB2、HER3/ErbB3、HER4/ErbB4)、VEGFR1/FLT1、VEGFR2/FLK1/KDR、VEGFR3/FLT4、FLT3/FLK2、PDGFR(たとえば、PDGFRA、PDGFRB)、c−KIT/SCFR、INSR(インスリン受容体)、IGF−IR、IGF−IIR、IRR(インスリン受容体関連受容体)、CSF−1R、FGFR1〜4、HGFR1〜2、CCK4、TRK A〜C、c−MET、RON、EPHA1〜8、EPHB1〜6、AXL、MER、TYRO3、TIE1〜2、TEK、RYK、DDR1〜2、RET、c−ROS、V−カドヘリン、LTK(白血球チロシンキナーゼ)、ALK(未分化リンパ腫キナーゼ)、ROR1〜2、MUSK、AATYK1〜3、及びRTK106などの受容体チロシンキナーゼ;アミノ末端細胞外ドメイン(たとえば、p95ErbB2(p95m)、p110、p95c、p95n、等)が欠損している切断型HER2受容体、アミノ末端細胞外ドメインが欠損している切断型cMET受容体、及びアミノ末端細胞外ドメインが欠損している切断型HER3受容体などの切断型の受容体チロシンキナーゼ;受容体チロシンキナーゼ二量体(たとえば、p95HER2/HER3;p95HER2/HER2;HER1、HER2、HER3又はHER4との切断型HER3受容体;HER2/HER2;HER3/HER3;HER2/HER3;HER1/HER2;HER1/HER3;HER2/HER4;HER3/HER4、等);BCR−ABL、Src、Frk、Btk、Csk、Abl、Zap70、Fes/Fps、Fak、Jak、Ack、及びLIMKなどの非受容体チロシンキナーゼ;AKT(たとえば、AKT1、AKT2、AKT3)、MEK(MAP2K1)、ERK2(MAPK1)、ERK1(MAPK3)、PI3K(たとえば、PIK3CA(p110)、PIK3R1(p85))、PDK1、PDK2、ホスファターゼ及びテンシン相同体(PTEN)、SGK3、4E−BP1、P70S6K(たとえば、p70 S6キナーゼスプライスバリアントアルファI)、タンパク質チロシンホスファターゼ(たとえば、PTP1B、PTPN13、BDP1、等)、RAF、PLA2、MEKK、JNKK、JNK、p38、Shc(p66)、Ras(たとえば、K−Ras、N−Ras、H−Ras)、Rho、Rac1、Cdc42、PLC、PKC、p53、サイクリンD1、STAT1、STAT3、ホスファチジルイノシトール4,5−二リン酸(PIP2)、ホスファチジルイノシトール3,4,5−三リン酸(PIP3)、mTOR、BAD、p21、p27、ROCK、IP3、TSP−1、NOS、GSK−3β、RSK1〜3、JNK、c−Jun、Rb、CREB、Ki67、パキシリン、NF−kB、並びにIKKなどのチロシンキナーゼシグナル伝達カスケード成分;エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PR)、アンドロゲン受容体、グルココルチコイド受容体、ミネラルコルチコイド受容体、ビタミンA受容体、ビタミンD受容体、レチノイド受容体、甲状腺ホルモン受容体、及びオーファン受容体などの核ホルモン受容体;それぞれ乳癌1(AIB1)及び核受容体コリプレッサー1(NCOR)において増幅されたなどの核受容体コアクティベータ及びリプレッサー;並びにその組合せが含まれるが、これらに限定されない。
[0194]用語「活性化状態」とは、特定のシグナル伝達分子が活性化されているかどうかのことである。同様に、用語「活性化レベル」とは、特定のシグナル伝達分子がどの程度活性化されているかのことである。活性化状態は、典型的には、1つ又は複数のシグナル伝達分子のリン酸化、ユビキチン化、及び/又は複合体形成状態に一致する。活性化状態(丸括弧内に挙げられている)の非限定的例には、HER1/EGFR(EGFRvIII、リン酸化された(p−)EGFR、EGFR:Shc、ユビキチン化された(u−)EGFR、p−EGFRvIII);ErbB2(p−ErbB2、p95HER2(切断型ErbB2)、p−p95HER2、ErbB2:Shc、ErbB2:PI3K、ErbB2:EGFR、ErbB2:ErbB3、ErbB2:ErbB4);ErbB3(p−ErbB3、切断型ErbB3、ErbB3:PI3K、p−ErbB3:PI3K、ErbB3:Shc);ErbB4(p−ErbB4、ErbB4:Shc);c−MET(p−c−MET、切断型c−MET、c−Met:HGF複合体);AKT1(p−AKT1);AKT2(p−AKT2);AKT3(p−AKT3);PTEN(p−PTEN);P70S6K(p−P70S6K);MEK(p−MEK);ERK1(p−ERK1);ERK2(p−ERK2);PDK1(p−PDK1);PDK2(p−PDK2);SGK3(p−SGK3);4E−BP1(p−4E−BP1);PIK3R1(p−PIK3R1);c−KIT(p−c−KIT);ER(p−ER);IGF−1R(p−IGF−1R、IGF−1R:IRS、IRS:PI3K、p−IRS、IGF−1R:PI3K);INSR(p−INSR);FLT3(p−FLT3);HGFR1(p−HGFR1);HGFR2(p−HGFR2);RET(p−RET);PDGFRA(p−PDGFRA);PDGFRB(p−PDGFRB);VEGFR1(p−VEGFR1、VEGFR1:PLCγ、VEGFR1:Src);VEGFR2(p−VEGFR2、VEGFR2:PLCγ、VEGFR2:Src、VEGFR2:硫酸ヘパリン、VEGFR2:VE−カドヘリン);VEGFR3(p−VEGFR3);FGFR1(p−FGFR1);FGFR2(p−FGFR2);FGFR3(p−FGFR3);FGFR4(p−FGFR4);TIE1(p−TIE1);TIE2(p−TIE2);EPHA(p−EPHA);EPHB(p−EPHB);GSK−3β(p−GSK−3β);NF−kB(p−NF−kB、NF−kB−IkBアルファ複合体及び他);IkB(p−IkB、p−P65:IkB);IKK(ホスホIKK);BAD(p−BAD、BAD:14−3−3);mTOR(p−mTOR);Rsk−1(p−Rsk−1);Jnk(p−Jnk);P38(p−P38);STAT1(p−STAT1);STAT3(p−STAT3);FAK(p−FAK);RB(p−RB);Ki67;p53(p−p53);CREB(p−CREB);c−Jun(p−c−Jun);c−Src(p−c−Src);パキシリン(p−パキシリン);GRB2(p−GRB2)、Shc(p−Shc)、Ras(p−Ras)、GAB1(p−GAB1)、SHP2(p−SHP2)、GRB2(p−GRB2)、CRKL(p−CRKL)、PLCγ(p−PLCγ)、PKC(たとえば、p−PKCα、p−PKCβ、p−PKCδ)、アデュシン(p−アデュシン)、RB1(p−RB1)、及びPYK2(p−PYK2)が含まれる。
[0195]以下の表は、全体レベル及び/又は活性化(たとえば、リン酸化)レベルを試料において決定し(たとえば、単独で又は他の範疇由来のバイオマーカーと組み合わせて)、疾患経過の予測、適切な抗TNFα薬療法の選択、抗TNFα薬療法の最適化、抗TNFα薬療法に伴う毒性の減少、又は抗TNFα薬を用いた治療的処置の有効性のモニターを行うのを支援又は補助することができるシグナル伝達分子の追加の例を提供している。
[0196]試料中の(たとえば、単独での又は他の範疇由来のバイオマーカーと組み合わせての)1つ又は複数の遺伝子マーカーにおける対立遺伝子バリアント(たとえば、SNP)の存在又は非存在の決定も、疾患経過の予測、適切な抗TNFα薬療法の選択、抗TNFα薬療法の最適化、抗TNFα薬療法に伴う毒性の減少、又は抗TNFα薬を用いた治療的処置の有効性のモニターを行うのを支援又は補助するための本発明の方法において有用である。
[0197]遺伝子マーカーの非限定的例には、炎症経路遺伝子及び表3に記載されているように遺伝子型を同定することができる対応するSNPのいずれでも(たとえば、NOD2/CARD15遺伝子、IL12/IL23経路遺伝子、等)が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、少なくとも1つの対立遺伝子バリアント、たとえば、NOD2/CARD15遺伝子における一塩基多型(SNP)、及び/又はIL12/IL23経路の1つ若しくは複数の遺伝子の存在又は非存在が決定される。たとえば、Barrettら、Nat.Genet.、40:955〜62頁(2008)及びWangら、Amer.J.Hum.Genet.、84:399〜405頁(2009)を参照されたい。
[0198]本発明において有用である追加のSNPには、たとえば、rs2188962、rs9286879、rs11584383、rs7746082、rs1456893、rs1551398、rs17582416、rs3764147、rs1736135、rs4807569、rs7758080、及びrs8098673が含まれる。たとえば、Barrettら、Nat.Genet.、40:955〜62頁(2008)を参照されたい。
1.NOD2/CARD15
[0199]NOD2/CARD15遺伝子におけるSNPなどの対立遺伝子バリアントの存在又は非存在の決定は、本発明において特に有用である。本明細書で使用されるように、用語「NOD2/CARD15バリアント」又は「NOD2バリアント」には、野生型NOD2遺伝子と比べた場合1つ若しくは複数の変化を含有するNOD2遺伝子のヌクレオチド配列又は野生型NOD2ポリペプチド配列と比べた場合1つ若しくは複数の変化を含有するNOD2ポリペプチドのアミノ酸配列が含まれる。NOD2は、CARD15としても知られるが、第16染色体上のIBD1遺伝子座に位置付けられ、ポジショナルクローニング(Hugotら、Nature、411:599〜603頁(2001))並びに位置的候補遺伝子戦略(Oguraら、Nature、411:603〜606頁(2001);Hampeら、Lancet、357:1925〜1928頁(2001))により同定されてきた。IBD1遺伝子座は、炎症性腸疾患では高マルチポイント連鎖スコアー(multipoint linkage score)(MLS)を有している(16q12におけるマーカーD16S411でMLS=5.7)。たとえば、Choら、Inflamm.Bowel Dis.、3:186〜190頁(1997);Akolkarら、Am.J.Gastroenterol.、96:1127〜1132頁(2001);Ohmenら、Hum.Mol.Genet.、5:1679〜1683頁(1996);Parkesら、Lancet、348:1588頁(1996);Cavanaughら、Ann.Hum.Genet.、62:291〜8頁(1998);Brantら、Gastroenterology、115:1056〜1061頁(1998);Curranら、Gastroenterology、115:1066〜1071頁(1998);Hampeら、Am.J.Hum.Genet.、64:808〜816頁(1999);及びAnneseら、Eur.J.Hum.Genet.、7:567〜573頁(1999)を参照されたい。
[0200]ヒトNOD2のmRNA(コード)及びポリペプチド配列は、たとえば、それぞれジェンバンク受託番号NM_022162及びNP_071445に記載されている。さらに、NOD2を含む、ヒト第16染色体クローンRP11−327F22の完全な配列は、たとえば、ジェンバンク受託番号AC007728に記載されている。さらに、他の種由来のNOD2の配列はジェンバンクデータベースに見ることができる。
[0201]NOD2タンパク質は、アミノ末端カスパーゼ動員ドメイン(CARD)を含有しており、このドメインはNF−カッパB(NF−κB)、及びいくつかのカルボキシ末端ロイシン豊富な反復ドメインを活性化することができる(Oguraら、J.Biol.Chem.、276:4812〜4818頁(2001))。NOD2は、アポトーシス調節因子Apaf−1/CED−4及び1クラスの植物病耐性遺伝子産物と構造相同性を有する(Oguraら、上記参照)。植物病耐性遺伝子産物に類似して、NOD2は、アミノ末端エフェクタードメイン、ヌクレオチド結合ドメイン及びロイシン豊富な反復(LRR)を有する。野生型NOD2は核因子NF−カッパBを活性化して、この核因子を細菌性リポ多糖に対して応答性にする(LPS;Oguraら、上記参照;Inoharaら、J.Biol.Chem.、276:2551〜2554頁(2001))。NOD2はLPSに対する細胞間受容体として機能することができ、ロイシン豊富な反復は応答性に必要とされる。
[0202]NOD2のコード領域における3つの一塩基多型での変化は既に記載されている。これらの3つのSNPは、R702W(「SNP8」)、G908R(「SNP12」)及び1007fs(「SNP13」)と表示されており、NOD2遺伝子のカルボキシ末端領域に位置している(Hugotら、上記参照)。本発明において使用するのに適したNOD2遺伝子内のSNP8、SNP12及びSNP13、並びに追加のSNPのさらなる記載は、たとえば、米国特許第6,835,815号、米国特許第6,858,391号、及び米国特許第7,592,437号、並びに米国特許出願公開第2003/0190639号、米国特許出願公開第2005/0054021号、及び米国特許出願公開第2007/0072180号に見られる。
[0203]いくつかの実施形態では、NOD2バリアントは、NOD2遺伝子座のコード領域に、たとえば、NOD2ポリペプチドのカルボキシ末端部分のいくつかのロイシン豊富な反復をコードする領域内に位置している。NOD2のロイシン豊富な反復領域に位置しているそのようなNOD2バリアントには、制限なく、R702W(「SNP8」)及びG908R(「SNP12」)が含まれる。本発明において有用なNOD2バリアントは、野生型NOD2ポリペプチドによるNF−カッパB活性化と比べた場合NF−カッパBを活性化する能力が減少しているNOD2ポリペプチドもコードすることができる。非限定的例として、NOD2バリアント1007fs(「SNP13」)は、LPS刺激に対する応答でNF−カッパBを誘導する能力が減少している切断型NOD2ポリペプチドを生じる(Oguraら、Nature、411:603〜606頁(2001))。
[0204]本発明において有用であるNOD2バリアントは、たとえば、R702W、G908R、又は1007fsであることが可能である。R702W、G908R、及び1007fsはNOD2のコード領域内に位置している。一実施形態では、本発明の方法は、R702W NOD2バリアントを用いて実行される。本明細書で使用されるように、用語「R702W」には、NOD2遺伝子のエクソン4内の一塩基多型が含まれ、これはNOD2タンパク質のアミノ酸702をコードするトリプレット内に存在する。野生型NOD2対立遺伝子は、AC007728配列の138,991位にシトシン(c)残基を含有しており、これはアミノ酸702でアルギニンをコードしているトリプレット内に存在する。R702W NOD2バリアントは、AC007728配列の138,991位にチミン(t)残基を含有しており、NOD2タンパク質のアミノ酸702でアルギニン(R)からトリプトファン(W)置換を生じる。したがって、このNOD2バリアントは「R702W」又は「702W」と表示され、Hugotら、上記参照の以前の付番方式に基づいて「R675W」と表示することもできる。さらに、R702Wバリアントは、「SNP8」対立遺伝子又はSNP8での「2」対立遺伝子としても知られている。R702W又はSNP8のNCBI SNP ID番号は、rs2066844である。R702W NOD2バリアント及び他のNOD2バリアントの存在は、たとえば、対立遺伝子識別アッセイ又は配列解析により都合よく検出することができる。
[0205]本発明の方法は、G908R NOD2バリアントを用いて実行することもできる。本明細書で使用されるように、用語「G908R」には、NOD2遺伝子のエクソン8内の一塩基多型が含まれ、これはNOD2タンパク質のアミノ酸908をコードするトリプレット内に存在する。アミノ酸908はNOD2遺伝子のロイシン豊富な反復領域内に位置している。野生型NOD2対立遺伝子は、AC007728配列の128,377位にグアニン(g)残基を含有しており、これはアミノ酸908でグリシンをコードしているトリプレット内に存在する。G908R NOD2バリアントは、AC007728配列の128,377位にシトシン(c)残基を含有しており、NOD2タンパク質のアミノ酸908でグリシン(G)からアルギニン(R)置換を生じる。したがって、このNOD2バリアントは「G908R」又は「908R」と表示され、Hugotら、上記参照の以前の付番方式に基づいて「G881R」と表示することもできる。さらに、G908Rバリアントは、「SNP12」対立遺伝子又はSNP12での「2」対立遺伝子としても知られている。G908R SNP12のNCBI SNP ID番号は、rs2066845である。
[0206]本発明の方法は、1007fs NOD2バリアントを用いて実行することもできる。このバリアントは、NOD2タンパク質の10番目のロイシン豊富な反復にフレームシフトを生じる一ヌクレオチドの挿入物であり、後に中途終止コドンが続く。NOD2タンパク質のこうして生じる切断は、細菌リポ多糖への応答によるNF−カッパBの活性化を妨げるように思われる(Oguraら、上記参照)。本明細書で使用されるように、用語「1007fs」には、NOD2遺伝子のエクソン11内の一塩基多型が含まれ、これはNOD2タンパク質のアミノ酸1007をコードするトリプレット内に存在する。1007fsバリアントは、AC007728配列の121,139位に付加されたシトシンを含有しており、アミノ酸1007でフレームシフト変異を生じる。したがって、このNOD2バリアントは「1007fs」と表示され、Hugotら、上記参照の以前の付番方式に基づいて「3020insC」又は「980fs」と表示することもできる。さらに、1007fs NOD2バリアントは、「SNP13」対立遺伝子又はSNP13での「2」対立遺伝子としても知られている。1007fs又はSNP13のNCBI SNP ID番号は、rs2066847である。
[0207]当業者であれば、特定のNOD2バリアント対立遺伝子又は他の多型対立遺伝子は、たとえば、1347−02と呼ばれる個人などのCentre d’Etude du Polymorphisme Humain(CEPH)リファレンス個人と比較して(Dibら、Nature、380:152〜154頁(1996))、たとえば、PE Biosystems(Foster City、CA)から得られる市販のリファレンスDNAを使用して都合よく定義することが可能であることを認識する。さらに、SNPに関する特定の情報は、国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のdbSNPから入手することができる。
[0208]NOD2バリアントは、NOD2遺伝子座の非コード領域でも位置付けることができる。非コード領域には、たとえば、イントロン配列並びに5’及び3’非翻訳配列が含まれる。NOD2遺伝子の非コード領域に位置するNOD2バリアント対立遺伝子の非限定的例はJW1バリアントであり、これは、Sugimuraら、Am.J.Hum.Genet.、72:509〜518頁(2003)及び米国特許出願公開第2007/0072180号に記載されている。NOD2遺伝子の3’非翻訳領域に位置するNOD2バリアント対立遺伝子の例には、制限なく、JW15及びJW16バリアント対立遺伝子が含まれ、これは米国特許出願公開第2007/0072180号に記載されている。NOD2遺伝子の5’非翻訳領域(たとえば、プロモーター領域)に位置するNOD2バリアント対立遺伝子の例には、制限なく、JW17及びJW18バリアント対立遺伝子が含まれ、これは米国特許出願公開第2007/0072180号に記載されている。
[0209]本明細書で使用されるように、用語「JW1バリアント対立遺伝子」には、NOD2遺伝子の介在配列8(イントロン8)のヌクレオチド158に遺伝的変異が含まれる。AC007728配列との関連では、JW1バリアント対立遺伝子は128,143位に位置している。イントロン8のヌクレオチド158での遺伝的変異は、一塩基置換、複数塩基置換、又は1つ若しくは複数のヌクレオチドの欠失若しくは挿入であることが可能であるが、これらに限定されない。イントロン8の野生型配列は158位にシトシンを有する。非限定的例として、JW1バリアント対立遺伝子は、イントロン8のヌクレオチド158で、シトシン(c)からアデニン(a)、シトシン(c)からグアニン(g)、又はシトシン(c)からチミン(t)置換を有することがある。一実施形態では、JW1バリアント対立遺伝子は、NOD2イントロン8のヌクレオチド158でのシトシン(c)からチミン(t)への変化である。
[0210]用語「JW15バリアント対立遺伝子」には、AC007728配列のヌクレオチド位置118,790でのNOD2の3’非翻訳領域における遺伝的変異が含まれる。ヌクレオチド118,790での遺伝的変異は、一塩基置換、複数塩基置換、又は1つ若しくは複数のヌクレオチドの欠失若しくは挿入であることが可能であるが、これらに限定されない。野生型配列は118,790位にアデニン(a)を有する。非限定的例として、JW15バリアント対立遺伝子は、ヌクレオチド118,790で、アデニン(a)からシトシン(c)、アデニン(a)からグアニン(g)、又はアデニン(a)からチミン(t)置換を有することがある。一実施形態では、JW15バリアント対立遺伝子は、ヌクレオチド118,790でのアデニン(a)からシトシン(c)への変化である。
[0211]本明細書で使用されるように、用語「JW16バリアント対立遺伝子」には、AC007728配列のヌクレオチド位置118,031でのNOD2の3’非翻訳領域における遺伝的変異が含まれる。ヌクレオチド118,031での遺伝的変異は、一塩基置換、複数塩基置換、又は1つ若しくは複数のヌクレオチドの欠失若しくは挿入であることが可能であるが、これらに限定されない。野生型配列は118,031位にグアニン(g)を有する。非限定的例として、JW16バリアント対立遺伝子は、ヌクレオチド118,031で、グアニン(g)からシトシン(c)、グアニン(g)からアデニン(a)、又はグアニン(g)からチミン(t)置換を有することがある。一実施形態では、JW16バリアント対立遺伝子は、ヌクレオチド118,031でのグアニン(g)からアデニン(a)への変化である。
[0212]用語「JW17バリアント対立遺伝子」には、AC007728配列のヌクレオチド位置154,688でのNOD2の5’非翻訳領域における遺伝的変異が含まれる。ヌクレオチド154,688での遺伝的変異は、一塩基置換、複数塩基置換、又は1つ若しくは複数のヌクレオチドの欠失若しくは挿入であることが可能であるが、これらに限定されない。野生型配列は154,688位にシトシン(c)を有する。非限定的例として、JW17バリアント対立遺伝子は、ヌクレオチド154,688で、シトシン(c)からグアニン(g)、シトシン(c)からアデニン(a)、又はシトシン(c)からチミン(t)置換を有することがある。一実施形態では、JW17バリアント対立遺伝子は、ヌクレオチド154,688でのシトシン(c)からチミン(t)への変化である。
[0213]本明細書で使用されるように、用語「JW18バリアント対立遺伝子」には、AC007728配列のヌクレオチド位置154,471でのNOD2の5’非翻訳領域における遺伝的変異が含まれる。ヌクレオチド154,471での遺伝的変異は、一塩基置換、複数塩基置換、又は1つ若しくは複数のヌクレオチドの欠失若しくは挿入であることが可能であるが、これらに限定されない。野生型配列は154,471位にシトシン(c)を有する。非限定的例として、JW18バリアント対立遺伝子は、ヌクレオチド154,471で、シトシン(c)からグアニン(g)、シトシン(c)からアデニン(a)、又はシトシン(c)からチミン(t)置換を有することがある。一実施形態では、JW18バリアント対立遺伝子は、ヌクレオチド154,471でのシトシン(c)からチミン(t)への変化である。
[0214]本発明の方法は、NOD2遺伝子座のコード領域又は非コード領域(たとえば、イントロン又はプロモーター領域)に位置しているこれらの又は他のNOD2バリアント対立遺伝子を用いて実行することが可能であることが理解される。本発明の方法は、SNP8、SNP12、とSNP13対立遺伝子、及び他のコード並びに非コード領域バリアントを含むが、これらに限定されない、1つ、2つ、3つ、4つ又はそれよりも多いNOD2バリアントの存在を決定することを含むことができることがさらに理解される。
V.実施例
[0215]本発明は、具体例によりさらに詳細に説明されることになる。以下の例は説明目的で提供され、いかなる形でも本発明を限定することを意図していない。当業者であれば、変化させる又は改変させても実質的に同じ結果を生じることができる種々の重要性が低いパラメータを容易に認識するであろう。
実施例1.抗TNFα生物製剤のレベルを測定するための新規の移動度シフトアッセイ。
[0216]この実施例は、抗TNFα薬の蛍光的に標識されたTNFαへの結合を検出するサイズ排除クロマトグラフィーを使用して患者試料(たとえば、血清)中の抗TNFα薬濃度を測定するための新規の均一なアッセイを説明する。前記アッセイは、洗浄ステップの必要性をなくし、バックグランド及び血清干渉問題を減少させる可視及び/又はIRスペクトルでの検出を可能にするフルオロフォアを使用し、高感度な蛍光標識検出のために患者における低力価の抗TNFα薬を検出する能力を増加させ、液相反応として起こり、それによってELISAプレートなどの固体表面への結合によるエピトープのいかなる変化の可能性も減らすので、有利である。
[0217]一例となる実施形態では、TNFαはフルオロフォア(たとえば、アレクサ647)で標識され、前記フルオロフォアは可視及びIRスペクトルのどちらか又は両方で検出することが可能である。標識されたTNFαは液相反応においてヒト血清と一緒にインキュベートされ、血清中に存在する抗TNFα薬を結合させる。標識されたTNFαは、液相反応において既知の量の抗TNFα薬と一緒にインキュベートさせて、標準曲線を作成することも可能である。インキュベーションに続いて、試料はサイズ排除カラムに直接負荷される。抗TNFα薬が標識されたTNFαに結合すると、標識されたTNFα単独と比べてピークが左側に移動する。次に、血清試料中に存在する抗TNFα薬の濃度は標準曲線及び対照と比較することができる。
[0218]図1は、サイズ排除HPLCを使用してTNFα−アレクサ647とヒュミラ(商標)(アダリムマブ)間の結合を検出する本発明のアッセイの例を示している。図1に示されるように、ヒュミラ(商標)のTNFα−アレクサ647への結合により、TNFα−アレクサ647ピークは左側に移動した。
[0219]図2は、TNFα−アレクサ647へのヒュミラ(商標)結合の用量応答曲線を示している。特に、図2Aは、ヒュミラ(商標)がサイズ排除クロマトグラフィーアッセイにおいてTNFα−アレクサ647の移動を用量依存的に増加させたことを示している。図2Bは、1%のヒト血清が存在してもサイズ排除クロマトグラフィーアッセイにおけるTNFα−アレクサ647の移動に対して著しい効果はなかったことを示している。図2Cは、プールされたRF陽性血清が存在してもサイズ排除クロマトグラフィーアッセイにおけるTNFα−アレクサ647の移動に対して著しい効果はなかったことを示している。
[0220]したがって、この実施例は、ヒュミラ(商標)などの抗TNFα薬を受ける患者をモニターする本発明の有用性、すなわち(1)適切な薬剤投与量の決定を導く、(2)薬剤の薬物動態を評価する、たとえば、薬物が身体から除去される速度が速すぎるかどうかを判定する、及び(3)処置決定、たとえば、現在の抗TNFα薬を異なるTNFα阻害剤に又は別の種類の療法に切り替えるかどうかを導くことを実証している。
実施例2.HACA及びHAHAレベルを測定するための新規の移動度シフトアッセイ。
[0221]この実施例は、患者試料(たとえば、血清)中の自己抗体(たとえば、HACA及び/又はHAHA)濃度を測定するための、これらの自己抗体の蛍光的に標識された抗TNFα薬への結合を検出するサイズ排除クロマトグラフィーを使用する新規の均一なアッセイを説明する。前記アッセイは、低親和性HACA及びHAHAを取り除く洗浄ステップの必要性をなくし、バックグランド及び血清干渉問題を減少させる可視及び/又はIRスペクトルでの検出を可能にするフルオロフォアを使用し、高感度な蛍光標識検出のために患者における低力価のHACA及びHAHAを検出する能力を増加させ、液相反応として起こり、それによってELISAプレートなどの固体表面への結合によるエピトープのいかなる変化の可能性も減らすので、有利である。
[0222]TNFα阻害剤に対して産生される自己抗体(たとえば、HACA、HAHA、等)を測定することの臨床的有用性は、HACAが、1mg/kg、3mg/kg、及び10mg/kgインフリキシマブを用いて処置された関節リウマチ患者の53%、21%、及び7%において検出されたことにより例証される。インフリキシマブがメトトレキサートと組み合わされると、抗体の発生率は15%、7%、及び0%低くなり、これは併用の免疫抑制剤療法が抗薬剤応答を低下させるのに効果的であることを示しているが、高用量の抗TNFα抗体が耐性をもたらすことがあることも示している。クローン病では、はるかに高い発生率が報告されており、5回目の注入後、患者の61%がHACAを有していた。HACAが存在すると、臨床応答は短縮された。Rutgeerts、N.Engl.J.Med.、348:601〜608頁(2003)を参照されたい。インフリキシマブ及びHACAレベルが155件の患者において2005年から2008年までの3年の期間にわたって測定された遡及研究では、炎症性腸疾患に罹った患者の22.6%(N=35)においてHACAが検出されたことが示された。Afifら、「Clinical Utility of Measuring Infliximab and Human Anti−Chimeric Antibody Levels in Patients with Inflammatory Bowel Disease」、Digestive Disease Week;2009年5月30日〜6月3日、Chicago、ILで公開された論文を参照されたい。前記筆者らは、臨床症状のみに基づいて処置を変えるのは不適切な管理をもたらすことがあると結論付けていた。
[0223]均一な移動度シフトアッセイは、患者試料中の自己抗体(たとえば、HACA及び/又はHAHA)濃度を測定するための図3に示される架橋アッセイなどの現在の方法よりも有利である。なぜならば、本発明の方法は、非特異的結合及びELISAプレートからの固相干渉を受けずに、抗TNFα薬からの干渉を受けずに(たとえば、架橋アッセイでは、HACA測定値は抗TNFα薬トラフレベルで取らなければならない)、かつ抗体の多価に対するいかなる依存性もなしで(たとえば、IgG4抗体は、二重特異性であり同じ抗原に交差結合することができないために、架橋アッセイを使用しても検出されない)HACAなどの自己抗体の濃度を測定することができるからである。したがって、本発明は、現在の方法よりも、少なくとも以下の利点を有する、すなわち、抗原の固体表面への結合を回避する(変性が回避される)こと、IgG4効果を取り除くこと、治療抗体トラフ問題を克服すること、親和性の弱い抗体を検出すること、無関係なIgGの非特異的結合を取り除くこと、並びに検出の感度及び特異性を増加させることである。
[0224]一例となる実施形態では、抗TNFα薬(たとえば、レミケード(商標))は、フルオロフォア(たとえば、アレクサ647)で標識され、前記フルオロフォアは可視及びIRスペクトルのどちらか又は両方で検出することが可能である。標識された抗TNFα薬は液相反応においてヒト血清と一緒にインキュベートされ、血清中に存在するHACA及びHAHAを結合させる。標識された抗TNFα薬は、液相反応において既知の量の抗IgG抗体と一緒にインキュベートさせて、標準曲線を作成することも可能である。インキュベーションに続いて、試料はサイズ排除カラムに直接負荷される。自己抗体が標識された抗TNFα薬に結合すると、標識された薬剤単独と比べてピークが左側に移動する。次に、血清試料中に存在するHACA及びHAHAの濃度は標準曲線及び対照と比較することができる。図4は、レミケード(商標)に対して産生されるHACA/HAHAの濃度を測定するための本発明の自己抗体検出アッセイの例となる概略を示している。ある種の例では、抗HACA/HAHAレベルは、レミケード(商標)を用いた現在の療法をヒュミラ(商標)などの別の抗TNFα薬に切り替えるほうがよいことを示している。
[0225]このアッセイの原理は、複合体の分子量の増加による、サイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SE−HPLC)上での抗体結合アレクサ647標識レミケード複合体対遊離のアレクサ647標識レミケードの移動度シフトに基づいている。
[0226]この実施例でのクロマトグラフィーはAgilent−1200HPLCシステム上で実施され、分子量分画範囲5,000〜700,000のBio−Sep 300×7.8mm SEC−3000カラム(Phenomenex)及び1×PBS、pH7.4の移動相を流速0.5mL/分で、650nmでのUV検出を用いて使用した。100μL試料容積が解析ごとにカラム上に負荷される。
[0227]抗体結合アレクサ647標識レミケード複合体は、1×PBS、pH7.3溶出バッファー中で既知の量の抗体とアレクサ647標識レミケードをSE−HPLC解析前の1時間、室温でインキュベートすることにより形成される。
[0228]図5は、本発明のサイズ排除クロマトグラフィーアッセイを使用して検出されたレミケード(商標)−アレクサ647への抗ヒトIgG抗体結合の用量応答解析を示している。レミケード(商標)−アレクサ647に抗IgG抗体が結合したことにより、レミケード(商標)−アレクサ647ピークは左側へ移動した。図6は、本発明のサイズ排除クロマトグラフィーアッセイを使用して検出された、レミケード(商標)−アレクサ647への抗ヒトIgG抗体結合の第二の用量応答解析を示している。レミケード(商標)−アレクサ647ピークの左側への移動により示されるように、抗IgG抗体の量が多いほど、抗IgG/レミケード(商標)−アレクサ647複合体の形成は用量依存的に増加した。図7は、レミケード(商標)−アレクサ647への抗IgG抗体の結合の用量応答曲線を示している。
[0229]図8は、100μlの注入試料を用いた本発明のサイズ排除クロマトグラフィーアッセイを使用して検出された、正常なヒト血清及びHACA陽性血清におけるレミケード(商標)−アレクサ647免疫複合体形成を示している。図8で示されるように、レミケード(商標)−アレクサ647に患者試料中に存在するHACAが結合したことにより、レミケード(商標)−アレクサ647ピークは左側へ移動した。したがって、本発明のサイズ排除クロマトグラフィーアッセイは、レミケード(商標)の存在下でHACAを測定し、患者が治療中に利用することが可能であり、弱いHACA結合も強いHACA結合も測定し、寄せ集めの読取り移動度シフトアッセイであり、HACAと平衡する標識されたレミケード(商標)及びレミケード(商標)を使用する他のアプローチにまで拡張することができるので、特に有利である。
[0230]図9は、架橋アッセイ又は本発明の移動度シフトアッセイを使用して実施された20件の患者血清試料からのHACA測定値の概要を提供している。この比較研究により、本方法が現在の方法よりも感度が増加していることが示されている。なぜならば、架橋アッセイを使用して測定された場合HACAに陰性であった3件の試料が、本発明の移動度シフトアッセイを使用して測定された場合、実際にはHACA陽性であったからである(患者番号SK07070305、SK07070595、及びSK07110035参照)。
[0231]したがって、この実施例は、抗TNFα薬(たとえば、レミケード(商標))を受けた患者をモニターして前記薬剤に対する自己抗体(たとえば、HACA及び/又はHAHA)の存在又はレベルを検出することにおける本発明の有用性を示している。なぜならば、そのような免疫応答は、過敏性反応並びに前記薬剤を用いたさらなる治療を不可能にする前記抗TNFα薬の薬物動態及び生体分布の劇的変化と関連することがあるからである。
[0232]結論として、実施例1及び2は、TNFα及び抗TNFα抗体はアレクサ647で効率的に標識することが可能であることを示している。標識されたTNFα−アレクサ647が抗TNFα抗体と一緒にインキュベートされると、標識されたTNFα/抗TNFα抗体複合体の保持時間は移動し、前記移動を引き起こす抗TNFα抗体の量はHPLCを用いて定量することができた。さらに、標識された抗TNFα抗体が抗ヒトIgG抗体と一緒にインキュベートされると、標識された抗TNFα抗体/抗IgG抗体複合体の保持時間は移動し、前記移動を引き起こす抗IgG抗体の量はHPLCを用いて定量することができた。さらに、前記アッセイシステムにおける低血清含有量は、HPLC解析に対してほとんど影響がないことが明らかにされた。最後に、標準曲線は抗TNFα抗体及びHACA/HAHAアッセイのために作成することが可能であり、これを使用して患者血清抗TNFα抗体又はHACA/HAHAレベルを定量することができた。有利なことに、本発明は、ある種の態様において、薬剤と前記薬剤に対する抗体の両方を測定するために開発された均一な寄せ集め読取りアッセイなどの移動度シフトアッセイを提供する。標準曲線は、抗TNFα生物製剤レミケード及びヒュミラについて、並びにレミケードに対するHACA抗体についても作成された。移動度シフトアッセイフォーマットは、ELISAとは違って、固体表面への抗原のコーティングをなくし、無関係なIgGの非特異的結合による影響を受けない。前記アッセイフォーマットは簡単であるが、感度がよく、患者血清中のすべての抗TNFα生物製剤(たとえば、レミケード、ヒュミラ、エンブレル及びシムジア)並びに中和抗体(抗レミケード(商標))を検出するのに使用することができる。
実施例3.新規の移動度シフトアッセイを使用する患者血清中のヒト抗キメラ抗体(HACA)及びインフリキシマブ(IFX)レベルの測定。
要約
[0233]背景:インフリキシマブ(IFX)は、関節リウマチ(RA)及び炎症性腸疾患(IBD)などの自己免疫疾患を治療するのに効果的であることが明らかにされているTNFαに対するキメラモノクローナル抗体療法である。しかし、薬効を減少させる又は有害作用を誘導することがあるヒト抗キメラ抗体(HACA)の検出を通じて、一部のIFX処置された患者にIFXに対する抗体が見つかった。個々の患者においてHACA及びIFXレベルをモニターすれば、IFXを用いた投薬及び処置を最適化するのに役立つことがある。HACAを検出するための現在の方法は固相アッセイに基づいており、このアッセイは、循環におけるIFXの存在がHACAの存在をマスクすることがあり、したがって、測定はIFXの投与の後少なくとも8週間たたないと行うことができないことにより制限される。さらに、この時間経過は、血液循環中の高分子量免疫複合体の急速なクリアランスのため、アッセイをさらに混乱させる。これらの欠点を克服するために、我々は、IFXを用いて処置されている患者において血清IFX及びHACAレベルを測定する新しい方法を開発し評価した。
[0234]方法:IFXを用いて処置されている患者由来の血清中のHACA及びIFXレベルを測定するために、新規の非放射性標識液相サイズ排除(SE)−HPLC移動度シフトアッセイが開発された。免疫複合体(たとえば、TNFα/IFX又はIFX/HACA)、遊離のTNFα又はIFX、及び結合/遊離の比は、高感度で分解し計算することが可能である。IFX又はHACAの血清濃度は、異なる濃度のIFX又はプールされたHACA陽性血清と一緒にインキュベートすることにより作成された標準曲線を用いて決定された。この新規のアッセイを使用して、我々は、再発していたIFXを用いて処置されたIBD患者から収集された血清中のIFX及びHACAレベルを測定し、その結果を従来の架橋ELISAアッセイにより得られた結果と比較した。
[0235]結果:用量応答曲線は高感度の新規のアッセイから作成された。HACAの検出は過剰IFXの存在下で実証された。IFXを用いて処置された患者由来の117件の血清試料の内、65件の試料が検出限界を超えるIFXレベルを有していることが分かり平均は11.0+6.9mg/mLであった。HACAレベルは、33件(28.2%)の試料が陽性であることが分かり、架橋ELISAアッセイは24件の陽性試料しか検出しなかった。架橋アッセイにより決定された試料から我々は9件の偽陰性と9件の偽陽性も同定した。HACAレベルは、IFX処置の進行中11件の患者において増加しているのが見つかり、IFXレベルは著しく減少しているのが分かった。
[0236]結論:IFXを用いて処置されている患者由来の血清中のIFX及びHACAレベルを測定するために、新規の非放射性標識液相移動度シフトアッセイが開発された。前記アッセイは高感度で精度があり、得られた結果は再現性があった。この新規のアッセイは、患者が治療中にHACA及びIFXレベルを測定するのに有利に使用することが可能である。
序論
[0237]腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)は、クローン病(CD)及び関節リウマチ(RA)などの自己免疫疾患の病変形成において極めて重要な役割を果たしている。インフリキシマブ(ヒト−マウスキメラモノクローナルIgG1κ)又はアダリムマブ(完全ヒトモノクローナル抗体)などの治療抗体でTNFαを遮断すると、CD及びRAにおいて疾患活動度が減少することは十分に裏付けられている。しかし、前記患者の約30〜40%が抗TNFα療法に応答せず、一部の患者は、十分な応答が欠けているせいでもっと高い用量又は投与回数調整を必要とする。個々の患者における薬剤生物有用性及び薬物動態の差異が、治療の失敗の一因となることがある。薬剤の免疫原性は、患者にHACA/HAHAを発症させるが、軽いアレルギー応答からアナフィラキシーショックまでの広範な有害反応をもたらすおそれがある。これらの問題は、現在では、多くの研究者、薬剤管理機関、健康保険会社及び製薬会社により認識されている。さらに、1つの抗TNFα薬に二次応答失敗した多くの患者は他の抗TNFα薬への切り替えから利益を受けており、治療のために使用されるタンパク質に対して特異的に向けられた中和抗体の役割を示唆している(Radstakeら、Ann.Rheum.Dis.、68(11):1739〜45(2009))。したがって、薬剤及びHACA/HAHAレベルについての患者のモニタリングは、薬剤投与が個々の患者に合わせて行うことができ長期の療法は、患者への危険がほとんど又は全くなしで効果的に経済的に与えることができることを目的に是認される(Bendtzenら、Scand.J.Gastroenterol.、44(7):774〜81頁(2009))。
[0238]いくつかの酵素結合免疫アッセイが使用されて、薬剤及びHACA/HAHAの循環レベルを評価してきた。図10は、本発明の新規のHACAアッセイと比べたHACAの測定に利用可能である現在のアッセイの概要を提供している。現在の方法論の1つの限界は、循環内に測定可能な量の薬剤が存在する場合に抗体レベルは測定が困難であることである。IFXの投与の後少なくとも8週間たたないと測定を実施することができないHACAを検出するための現在の固相法とは対照的に、本発明の新規のアッセイは、IFXを用いた処置を受けている間に患者由来の血清中のHACA及びIFXレベルを測定することができる非放射性標識液相サイズ排除(SE)−HPLCアッセイである。
[0239]以下の、(1)臨床試験におけるPK研究のため、(2)生物製剤に対する患者の免疫応答をモニターすることは臨床試験中にFDAから要求されることがある、(3)HACA又はHAHAを測定することにより生物製剤に対する患者の応答をモニターして、患者ごとに薬剤投与量を導くため、及び(4)最初の薬剤が失敗した場合に異なる生物製剤に切り替えるための指針として使用するため、が患者における抗TNFα生物製剤及びTNFα生物製剤に対する抗体の血清濃度を測定する理論的根拠である。
方法
[0240]患者血清中のインフリキシマブ(IFX)レベルのSE−HPLC解析。ヒト組換えTNFαは、製造業者の使用説明書に従ってフルオロフォア(たとえば、アレクサフルオル(登録商標)488などの「Fl」)で標識された。標識されたTNFαは、室温で1時間、異なる量のIFX又は患者血清と一緒にインキュベートされた。100μL容積の試料は、HPLCシステム上でサイズ排除クロマトグラフィーにより解析された。FLDを使用して、その保持時間に基づいて遊離のTNFα−Fl及び結合TNFα−Fl免疫複合体をモニターした。血清IFXレベルは標準曲線から計算された。
[0241]患者血清中のHACAレベルのSE−HPLC解析。精製されたIFXはFlで標識された。標識されたIFXは、室温で1時間、異なる希釈度のプールされたHACA陽性血清又は希釈された患者血清と一緒にインキュベートされた。100μL容積の試料は、HPLCシステム上でサイズ排除クロマトグラフィーにより解析された。FLDを使用して、その保持時間に基づいて遊離のIFX−Fl及び結合IFX−Fl免疫複合体をモニターした。結合と遊離IFX−Flの比を使用して、HACAレベルを決定した。
[0242]血清中のHACAを測定するための移動度シフトアッセイ法手順。このアッセイの原理は、複合体の分子量の増加による、サイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SE−HPLC)上でのHACA結合Fl標識インフリキシマブ(IFX)複合体対遊離のFl標識IFXの移動度シフトに基づいている。前記クロマトグラフィーはAgilent−1200HPLCシステム上で実施され、分子量分画範囲5,000〜700,000のBio−Sep 300×7.8mm SEC−3000カラム(Phenomenex)及び1×PBS、pH7.3の移動相を流速0.5〜1.0mL/分で、FLD検出を用いて使用した。100μL試料容積が解析ごとにカラム上に負荷される。HACA結合Fl標識IFX複合体は、SE−HPLC解析前に室温で1時間、IFX処置患者由来血清とFl標識IFXを1×PBS、pH7.4溶出バッファー中でインキュベートすることにより形成される。前記アッセイは、アッセイを検証するために、リウマトイド因子及びTNFβなどの変化する干渉薬剤の存在下でも実行された。
結果
[0243]図11は、高分子量複合体の移動度シフトのせいによる遊離のIFX−FlからのHACA結合IFX−Fl複合体の分離を示している。パネルc及びdに見られるように、蛍光ピークの保持時間は21.8分から15.5〜19.0分に移動した。HACAが反応混合物中により多く存在するにしたがって、クロマトグラムに残る遊離のIFX−Flは少なくなり、形成される免疫複合体は多くなる。図12は、HACAの添加により引き起こされる蛍光ピーク移動の用量応答曲線を示している。HACA陽性試料を使用して、血清の1対1000希釈度でのピーク移動を検出することができた。
[0244]図13は、高分子量複合体の移動度シフトのせいによる遊離のTNFα−FlからのIFX結合TNFα−Fl複合体の分離を示している。パネルc及びdに見られるように、蛍光ピークの保持時間は24分から13〜19.5分に移動した。IFXが反応混合物中により多く存在するにしたがって、クロマトグラムに残る遊離のTNFα−Flは少なくなり、形成される免疫複合体は多くなる。図14は、IFXの添加により引き起こされるTNFα−Flピークシフトの用量応答曲線を示している。添加されたIFXに基づいて、検出限界は血清中10ng/mLのIFXである。
[0245]本発明の新規の移動度シフトアッセイは、架橋アッセイにより測定されたHACA陽性及び陰性患者由来の血清試料を試験することにより検証された(表4)。このアッセイを使用して、50件の健康な対象及びIFXを用いて処置された117件のIBD患者由来の血清試料を解析した。50件の健康な対象試料すべてが検出限界を下回るIFXレベルを有しており、65件の患者試料は平均IFX濃度11.0μg/mlを有している。表5は、架橋アッセイ及び移動度シフトアッセイにより測定された健康な対照とIFXを用いて処置されたIBD患者の血清中のHACAレベルを示している。架橋アッセイは移動度シフトアッセイよりも検出したHACA陽性患者は少なく、偽陰性は多く並びに偽陽性も多かった。
[0246]図15は、IFX処置の進行中のIBD患者におけるHACAレベルとIFX濃度の関係を示している。HACAは、IFX処置中一部の患者では早くもV10(30週)で検出することができ、増加し続けた。図16は、本発明のアッセイを使用してIFXの存在下でHACAを検出することが可能であることを示している。血清中のさらに高いレベルのHACAは、検出することができたさらに低いレベルのIFXと関連していた(たとえば、生物有用性を減少させた)。したがって、IFXを用いた処置中のHACAの初期の検出は内科医及び/又は患者が他の抗TNF薬に切り替える又はIFXの用量を増加するよう導くことができる。
[0247]前記アッセイは、アッセイ内及びアッセイ間精度(CVパラメータに基づく)並びに干渉薬剤への感受性の点で確認された。この解析は下に提示されている。
[0248]抗TNFα生物製剤はフルオロフォア(「Fl」)で容易に標識することができ、HACA/HAHAを測定するために使用される移動度シフトアッセイフォーマットは、典型的なELISAのような固体表面への抗原のコーティングも複数の洗浄及びインキュベーションステップもない均一アッセイである。Fl標識されたIFXとHACA陽性血清とのインキュベーションにより免疫複合体が形成され、SE−HPLCにおいて遊離のFl標識されたIFXと比べて異なる位置に溶出し、したがって、HACAの量を定量することができる。他の血清成分の存在は移動度シフトアッセイにほとんど影響がない。移動度シフトアッセイフォーマットは、ELISAとは違って、無関係なIgGの非特異的結合により影響を受けることはなく、IgG4アイソタイプを検出する。健康な血清試料はFl標識IFXの移動度シフトを引き起こすことはなく、IFXを用いて処置された患者の28.2%は、本発明のアッセイによりHACAを有することが分かった。したがって、本明細書に記載されるアッセイフォーマットは、非常に感度がよく、患者血清中のすべての生物製剤(たとえば、レミケード、ヒュミラ、エンブレル及びシムジア)並びにその抗体(たとえば、抗レミケード、抗ヒュミラ、抗エンブレル及び抗シムジア)を検出するのに適用することができる。とりわけ、本発明の移動度シフトアッセイを使用してIFXの存在下でHACAを検出することができるので、IFXを用いた処置中でのHACAの初期の検出は、内科医及び/又は患者が他の抗TNF薬に切り替える又はその後のIFXの用量を増加するよう導くことができる。
[0249]我々は、IFXを用いて処置された患者から得られた血清試料中のIFX及びHACAレベルを測定するための新規の非放射性標識液相SE−HPLCアッセイを開発した。前記新規のアッセイは高感度、正確性、精度を有し、その結果は高度に再現性があり、このためにこのアッセイは多数のヒト血清試料の定期検査に適している。新しいアッセイフォーマットは、ELISAとは違って、固体表面への抗原のコーティングをなくし無関係なIgGの非特異的結合による影響を受けない。本明細書に記載されるアッセイフォーマットのこれらの利点は、試験の偽陰性及び偽陽性結果を減らす。有利なことに、本発明のアッセイフォーマットは非常に感度がよく、患者が治療中に血清中に存在するすべての生物製剤並びにその抗体を検出するのに使用することができる。
実施例4.新規の移動度シフトアッセイを使用する患者血清中の中和と非中和ヒト抗キメラ抗体(HACA)間の区別。
[0250]この実施例は、患者試料(たとえば、血清)中の自己抗体(たとえば、HACA)濃度を測定するための、及びそのような自己抗体が中和自己抗体なのか非中和自己抗体なのかを、蛍光的に標識されたTNFαの存在下で蛍光的に標識された抗TNFα薬へのこれらの自己抗体の結合を検出するサイズ排除クロマトグラフィーを使用して決定するための新規の均一なアッセイを例示している。これらのアッセイは有利である。なぜならば、低親和性HACAを取り除く洗浄ステップの必要性をなくし、バックグランド及び血清干渉問題を減少させる可視及び/又はIRスペクトル上での検出を可能にする別個のフルオロフォアを使用し、蛍光標識検出の高感度のため力価が低い患者における中和又は非中和HACAを検出する能力を増加させ、液相反応として起こり、それによってELISAプレートなどの固体表面への結合によるエピトープのいかなる変化の可能性も減少させるからである。
[0251]一例となる実施形態では、抗TNFα薬(たとえば、レミケード(商標))はフルオロフォア「F1」(たとえば、図17A参照)で標識され、前記フルオロフォアは可視及びIRスペクトル上のどちらか又は両方で検出することが可能である。同様に、TNFαはフルオロフォア「F2」(たとえば、図17A参照)で標識され、前記フルオロフォアも可視及びIRスペクトル上のどちらか又は両方で検出することが可能であり、「F1」と「F2」は異なるフルオロフォアである。標識された抗TNFα薬は液相反応においてヒト血清と一緒にインキュベートされ、標識されたTNFαは反応に添加されて、標識された抗TNFα薬、標識されたTNFα、及び/又は血清中に存在するHACA間で複合体(すなわち、免疫複合体)を形成させる。インキュベーションに続いて、試料はサイズ排除カラム上に直接負荷される。自己抗体(たとえば、HACA)と標識されたTNFαが標識された抗TNFα薬に結合すれば、自己抗体と標識された抗TNFα薬(たとえば、図17Aにおける「免疫複合体2」)間の二元複合体、標識された薬剤単独、又は標識されたTNFα単独と比べてピーク(たとえば、図17Aにおける「免疫複合体1」)の左側への移動が生じる。自己抗体(たとえば、HACA)、標識されたTNFα、及び標識された抗TNFα薬のこの三元複合体が存在すれば、血清試料中に存在する自己抗体は非中和型の自己抗体(たとえば、HACA)であることが示され、前記自己抗体は抗TNFα抗体とTNFα間の結合に干渉しない。特定の一実施形態では、図17Aに示されるように、非中和HACAが血清中に存在すれば、移動はF1−レミケード(商標)とF2−TNFαの両方で観察されることになり、免疫複合体1と免疫複合体2のピークは増加し、遊離のF1−レミケード(商標)と遊離のF2−TNFαのピークは減少する。しかし、自己抗体(たとえば、HACA)、標識されたTNFαと標識された抗TNFα薬の三元複合体の非存在下で自己抗体(たとえば、HACA)と標識された抗TNFα薬間の二元複合体(たとえば、図17Bにおける「免疫複合体2」)が存在すれば、血清試料中に存在する自己抗体は中和型の自己抗体(たとえば、HACA)であることが示され、前記自己抗体は抗TNFα抗体とTNFα間の結合に干渉する。特定の一実施形態では、図17Bに示されるように、中和HACAが血清中に存在すれば、移動はF1−レミケード(商標)で観察されることになり、免疫複合体2のピークは増加し、遊離のF1−レミケード(商標)のピークは減少し、遊離のF2−TNFαのピークには何の変化もない。ある種の例では、中和HACAが存在すれば、レミケード(商標)を用いた現在の療法はヒュミラ(商標)などの別の抗TNFα薬に切り替えるほうがよいことが示される。
[0252]代わりの実施形態では、標識された抗TNFα薬は先ず液相反応においてヒト血清と一緒にインキュベートされて、標識された抗TNFα薬と血清中に存在するHACA間の複合体(すなわち、免疫複合体)を形成させる。インキュベーションに続いて、試料は第1のサイズ排除カラム上に直接負荷される。自己抗体(たとえば、HACA)が標識された抗TNFα薬に結合すれば、標識された薬剤単独と比べてピーク(たとえば、図18における「免疫複合体2」)の左側への移動が生じる。次に、標識されたTNFαが反応に添加されて、前記TNFαが自己抗体(たとえば、HACA)に取って代わって(たとえば、競合して)、標識された抗TNFα薬に結合し、それによって標識された抗TNFα薬と標識されたTNFα間の複合体(すなわち、免疫複合体)を形成させることができるかどうかを決定する。インキュベーションに続いて、試料は第2のサイズ排除カラム上に直接負荷される。標識された抗TNFα薬が標識されたTNFαに結合すれば、標識されたTNFα単独と比べてピーク(たとえば、図18における「免疫複合体3」)の左側への移動が生じる。標識されたTNFαの添加により自己抗体(たとえば、HACA)と標識された抗TNFα薬間の結合が妨げられたら、血清試料中に存在する自己抗体は中和型の自己抗体(たとえば、HACA)であることが示され、前記自己抗体は抗TNFα抗体とTNFα間の結合に干渉する。ある種の例では、中和HACAが存在すれば、レミケード(商標)を用いた現在の療法はヒュミラ(商標)などの別の抗TNFα薬に切り替えるほうがよいことが示される。
実施例5.新規の均一移動度シフトアッセイを使用する患者血清におけるアダリムマブに対するヒト抗薬剤抗体(ADA)の解析。
[0253]背景及び目的:インフリキシマブ(IFX)、アダリムマブ(ヒュミラ(商標))及びセルトリズマブなどのTNFαに対するモノクローナル抗体は、炎症性腸疾患(IBD)及び他の炎症性障害を治療するのに効果的であることが明らかにされている。抗薬剤抗体(ADA)は薬効を下げ及び/又は有害作用を誘導することがある。しかし、ADAは、キメラ抗体インフリキシマブで処置された患者においてだけではなく、ヒト化抗体アダリムマブで処置された患者においても見つかっている。個々の患者においてADA及び薬剤レベルをモニターすれば、患者の治療と投薬を最適化するのを補助し得る。我々は、血清において患者由来のHACA(ヒト抗キメラ抗体)とIFXの両方を正確に測定する非放射性標識液相均一移動度シフトアッセイを開発した。このアッセイ法は、HACAを検出するための現在の固相アッセイの大きな限界、すなわち、循環におけるIFXの存在下ではHACAを正確に検出することができないことを克服する。本研究では、ヒト化抗体医薬アダリムマブで処置された患者において血清ADA及び薬剤レベルを測定するためのこの新しい方法を評価した。
[0254]方法:移動度シフトアッセイは、サイズ排除分離による遊離の抗原対抗原抗体免疫複合体の保持時間の移動に基づいていた。フルオロフォア標識アダリムマブ又はTNFα及び内部標準は血清試料と混合され、ADA又は薬剤の存在下で遊離のアダリムマブ及びTNFαの移動度シフトを測定した。遊離のアダリムマブ又はTNFα対内部標準の比の変化は免疫複合体形成の指標となる。ADA又はアダリムマブの血清濃度は、異なる濃度の抗ヒトIgG抗体又は精製されたアダリムマブと一緒にインキュベートすることにより作成された標準曲線を用いて決定された。移動度シフトアッセイを使用して、我々は、アダリムマブを用いて処置され応答しなくなったIBD患者から収集された血清中のアダリムマブ及びADAレベルを測定した。
[0255]結果:用量応答曲線は、標識されたアダリムマブの移動度シフトの測定のために抗ヒトIgG抗体を用いて作成された。前記アッセイの検出限界は、抗ヒトIgGの1ngであった。50件の健康な対照由来の血清はADAについて試験され、試料すべてが検出限界を下回るADAレベルを有していた(すなわち、遊離の標識されたアダリムマブの移動はなかった)。ADAの検出は、外因的に添加されたアダリムマブの存在下でも実証された。アダリムマブを用いて処置された患者における薬剤濃度を測定するために、標識されたTNFαの移動度シフトに関して異なる量のアダリムマブを用いて標準曲線を作成し、アダリムマブの検出限界は10ngであった。
[0256]結論:本発明の非放射性標識液相均一移動度シフトアッセイを適用して、アダリムマブを用いて処置された患者由来の血清試料中のADA及びアダリムマブレベルを測定した。前記アッセイは、高感度及び正確度で再現性があることが分かり、前記アッセイを使用してアダリムマブを用いて処置された患者由来の血清試料中のADAレベルを評価することができる。
実施例6.新規で独自の移動度シフトアッセイを使用する患者血清におけるアダリムマブに対する抗薬剤抗体(ADA)の解析。
要約
[0257]背景:インフリキシマブ(IFX)及びアダリムマブ(ADL)などの抗TNFα薬は、炎症性腸疾患(IBD)を治療するのに効果的であることが明らかにされている。しかし、処置を受けている患者におけるADAの誘発は薬効を下げ及び/又は有害作用を誘導することがある。実際、ADAは、IFXで処置された患者においてだけではなく、ADLで処置された患者においても見つかっている。個々の患者においてADA及び薬剤レベルをモニターすれば、患者の治療と投薬を最適化するのに役立つことがある。我々は、血清においてHACA(ヒト抗キメラ抗体)とIFX処置を受けた患者由来のIFXの両方を正確に測定する独自の移動度シフトアッセイを開発した。このアッセイは、HACAを検出するための現在の固相アッセイの大きな限界、すなわち、循環におけるIFXの存在下ではHACAを正確に検出することができないことを克服する。本研究では、完全ヒト抗体医薬ADLで処置された患者において血清ADA及び薬剤レベルを測定するためのこの新しいアッセイを評価した。
[0258]方法:移動度シフトアッセイは、サイズ排除クロマトグラフィーによる抗原抗体免疫複合体対遊離の抗原の保持時間の移動に基づいていた。フルオロフォア標識ADL又はTNFα及び内部標準は血清試料と混合され、ADA又は薬剤の存在下で標識されたADL及びTNFαの移動度シフトを測定した。遊離のADL又はTNFα対内部標準の比の変化は免疫複合体形成の指標となる。ADA又はADLの血清濃度は、異なる濃度の抗ヒトIgG抗体又は精製されたADLと一緒にインキュベートすることにより作成された標準曲線を用いて決定された。このアッセイを使用して、我々は、ADLを用いて処置されたIBD患者から収集された血清中のADL及びADAレベルを測定した。
[0259]結果:用量応答曲線は、標識されたADLの移動度シフトの測定のために抗ヒトIgG抗体を用いて作成された。前記アッセイの検出限界は、抗ヒトIgGの10ngであった。100件の健康な対照由来の血清はADAについて試験され、試料すべてが検出限界を下回るADAレベルを有していた(遊離の標識されたADLの移動はなかった)。ADAの検出は、ADLを用いて処置された114件のIBD患者試料から5件において実証された。ADLを用いて処置された患者における薬剤濃度を測定するために、標識されたTNFαのシフトに関して異なる量のADLを用いて検出限界10ngで、標準曲線を作成した。
[0260]結論:我々の独自の非放射性標識液相均一移動度シフトアッセイを適用して、ADLを用いて処置された患者由来の血清中のADA及びADLレベルを測定した。前記アッセイは、高感度及び正確度で再現性があり、前記アッセイはADLを用いて処置された患者由来の血清試料中のADAレベルを評価するのに有用である。
序論
[0261]インフリキシマブ(IFX)、エタネルセプト、アダリムマブ(ADL)及びセルトリズマブペゴールなどの抗腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)生物製剤は、クローン病(CD)及び関節リウマチ(RA)を含むいくつかの自己免疫疾患における疾患活動度を減少させることが明らかにされている。しかし、一部の患者は抗TNFα療法に応答せず、他の患者は十分な応答の欠如のため、より高用量若しくはより高頻度の投薬を必要とし、さもないと注入反応を発症する。
[0262]患者に薬剤に対する抗体を作らせる治療抗体の免疫原性は、治療及び注入反応の失敗の一因となることがある。IFXのようなキメラ抗体は、ADLなどの完全ヒト化抗体と比べて抗体産生を誘導する高い潜在力を有する。RA患者におけるIFXに対する抗体(HACA)の保有率は12%〜44%のばらつきがあり、患者血清中のIFXのレベル及び治療応答に反比例するように思われる。完全ヒト化ADLはマウス又はキメラ抗体ほど免疫原性ではないと考えられるが、いくつかの研究では、ヒト抗ヒト化抗体(HAHA)の形成が報告されており、RA及びCD患者において1%〜87%の抗体産生の保有率が明らかにされている(Aikawaら、Immunogenicity of Anti−TNF−alpha agents in autoimmune diseases.Clin.Rev.Allergy Immunol.、38(2〜3):82〜9頁(2010))。
[0263]1つの抗TNFα薬に対する二次応答しなかった多くの患者は、別の抗TNFα薬に切り替える又は投薬量及び/若しくは投与回数を増やすことから利益を得ることがある。したがって、薬剤及び抗薬剤抗体(ADA)レベルについての患者のモニタリングは、薬剤投与を個々の患者に合わせて行うことができることを目的に是認される。このアプローチは、是認された場合は用量調整を、又はADAレベルが存在する場合には薬物療法の停止を可能にする(Bendtzenら、Individual medicine in inflammatory bowel disease:monitoring bioavailability,pharmacokinetics and immunogenicity of anti−tumor necrosis factor−alpha antibodies.Scand.J.Gastroenterol.、44(7):774〜81頁(2009);Afifら、Clinical utility of measuring infliximab and human anti−chimeric antibody concentrations in patients with inflammatory bowel disease.Am.J.Gastroenterol.、105(5):1133〜9頁(2010))。
[0264]HACA及びHAHAを測定するいくつかのアッセイが開発されている。現在の方法論の限界の1つは、ADAレベルは循環中に高レベルの薬剤が存在する場合には信頼して測定することができないことである。
[0265]我々は、血清中の薬剤の存在により影響されることのないADLを用いて処置された患者由来の血清中のADA及びADLレベルを測定する独自の非放射性標識液相移動度シフトアッセイを開発した。
方法
[0266]フルオロフォア(Fl)標識されたADLは患者血清と一緒にインキュベートされて免疫複合体を形成した。Fl標識された小ペプチドは、それぞれの反応に内部標準として含まれた。異なる量の抗ヒトIgGを使用して、血清ADAレベルを決定するための標準曲線を作成した。遊離のFl標識されたADLは、サイズ排除クロマトグラフィーによりその分子量に基づいて抗体結合複合体から分離された。それぞれの試料由来の遊離のFl標識されたADL対内部標準の比を使用して、標準曲線からHAHA濃度を外挿した。類似の方法論を使用して、Fl標識されたTNFαを用いて患者血清試料中のADLレベルを測定した。
結果
[0267]図19は、高分子量複合体の移動度シフトによる遊離のFl−ADLからの抗ヒトIgG結合Fl−ADL複合体の分離を示している。パネルcからhに見られるように、蛍光ピークの保持時間は10.1分から7.3〜9.5分に移動した。反応混合物に添加される抗ヒトIgGが多くなるにしたがって、クロマトグラムに残る遊離のADLは少なくなり、形成される免疫複合体は多くなる(hからc)。内部標準の保持時間は13.5分である。
[0268]図20は、抗ヒトIgGの添加により引き起こされる蛍光ピーク移動の用量応答曲線を示している。抗ヒトIgGの濃度を増やすと、免疫複合体の形成のため遊離のADL対内部標準の比は減少する。アッセイ感度は抗ヒトIgGの10ng/mlである。内部標準「Fl−BioCyt」は、緑色蛍光アレクサフルオル(登録商標)488フルオロフォアとビオチン及びアルデヒド固定性第一級アミン(リジン)を組み合わせたアレクサフルオル(登録商標)488ビオシチン(BioCyt)(Invitrogen Corp;Carlsbad、CA)に相当する。
[0269]図21は、高分子量複合体の移動度シフトによる遊離のTNFα−FlからのADL結合TNFα−Fl複合体の分離を示している。パネルc及びjに見られるように、蛍光ピークの保持時間は11.9分から6.5〜10.5分に移動した。反応混合物に添加されるADLが多くなるにしたがって、クロマトグラムに残る遊離のTNFα−Flピークは少なくなり、形成される免疫複合体は多くなる。
[0270]図22は、ADLの添加により引き起こされるTNFα−Flピーク移動の用量応答曲線を示している。添加されたADLに基づいて、検出限界は血清中ADLの10ng/mLである。
[0271]表6は、100件の健康な対象及びADLを用いて処置された114件のIBD患者由来の血清試料が、本発明の移動度シフトアッセイを使用してADA及びADLレベルについて解析されたことを示している。100件の健康な対象試料すべてが検出限界を下回るADAレベルを有し(遊離のFl−ADLの移動はなかった)、114件の患者試料から5件が0.012〜>20μg/mlのADA濃度を有していた。100件の健康な対象試料におけるADLレベルの平均は0.76±1.0μg/ml(範囲0から9.4μg/ml)であった。ADLを用いて処置された患者由来の114件の血清試料におけるADLレベルの平均は、10.8±17.8μg/ml(範囲0〜139μg/ml)であった。5件のADA陽性試料からの4件のADLのレベルは検出不能であった。
[0272]HACA/IFXを測定するために使用される移動度シフトアッセイフォーマットは、固体表面への抗原のコーティングのない及び典型的なELISAのような複数の洗浄もインキュベーションステップもない均一なアッセイである。このアッセイを適用して、ADA及び抗TNF薬を測定することができる。アッセイの感度(μg/ml範囲で)は、ELISA法(mg/ml範囲で)と比べると患者血清を用いたADAとADL測定の両方で高い。健康な対照血清試料はFl標識ADLの移動度シフトを引き起こさず、ADLを用いて処置された患者の4.3%がこのアッセイによりADAを有することが分かった。健康な対照血清試料はFl標識TNFαの移動度シフトを引き起こし、これはTNFαの可溶性の遊離受容体の存在のせいだった可能性があるが、ADLを用いて処置された患者におけるADLの平均ははるかに高かった(10.8対0.76mg/ml)。患者がADL処置を受けている間にADAが初期検出されADL薬剤レベルがモニタリングされると、内科医はADLの投薬を最適化するか、適切な場合には別の抗TNFα薬に切り替え、それによって患者疾患の総括管理を最適化することができるようになる。
[0273]健康な対照血清試料はFl標識ADLの移動度シフトを引き起こさない。予備研究では、0.4μg/ml ADLを有する患者の9.52%がこのアッセイではADAを有することが分かった。
実施例7:レミケード(商標)及びヒト抗薬剤抗体の濃度レベルを決定する。
[0274]この実施例は、血清試料中の抗TNFα薬、たとえば、レミケード(商標)(インフリキシマブ)のレベルを決定するための並びにヒト抗薬剤抗体、たとえば、レミケード(商標)(インフリキシマブ)に対するヒト抗キメラ抗体(HACA)のレベルを決定するための方法を説明する。
[0275]ステップ1:試料中のレミケード(商標)(インフリキシマブ)の濃度レベルを決定する。
[0276]一例となる実施形態では、TNFαはフルオロフォア(たとえば、アレクサ647)で標識され、前記フルオロフォアは可視及び蛍光スペクトルのどちらか又は両方により検出することが可能である。標識されたTNFαは液相反応においてヒト血清と一緒にインキュベートされ、血清中に存在する抗TNFα薬を結合させる。標識されたTNFαは液相反応において既知の量の抗TNFα薬と一緒にインキュベートされ、標準曲線を作成することも可能である。インキュベーションに続いて、試料はサイズ排除カラム上に直接負荷される。標識されたTNFαに抗TNFα薬が結合すれば、標識されたTNFα単独と比べてピークは左側へ移動する。次に、血清試料中に存在する抗TNFα薬の濃度は、標準曲線及び対照と比較することができる。
[0277]患者血清中のレミケード(商標)(インフリキシマブ)レベルのSE−HPLC解析。ヒト組換えTNFαは、製造業者の使用説明書に従って、フルオロフォア、アレクサフルオル(登録商標)488で標識された。標識されたTNFαは、室温で1時間、異なる量のレミケード(商標)又は患者血清と一緒にインキュベートされた。100μL容積の試料はHPLCシステム上でサイズ排除クロマトグラフィーにより解析された。蛍光標識検出を使用して、遊離の標識されたTNFα及び結合した標識されたTNFα免疫複合体をその保持時間に基づいてモニターした。血清レミケード(商標)レベルは標準曲線から計算された。
[0278]以下の式はこのアッセイに関係している。
式I:標識されたTNFα+レミケード(商標)→(標識されたTNFα・レミケード(商標))複合体
式II:[レミケード(商標)]存在する標識されたTNFαなし=[(標識されたTNFα・レミケード(商標))複合体]
式III:[レミケード(商標)]=[(標識されたTNFα・レミケード(商標))複合体]/[標識されたTNFα]×[標識されたTNFα]
[0279]ステップ1では、既知の量の標識されたTNFαはレミケード(商標)含有血清試料に接触させる。標識されたTNFαとレミケード(商標)は複合体、(標識されたTNFα・レミケード(商標))複合体を形成する、式I参照。レミケード(商標)のほとんどすべてが標識されたTNFαと複合体を形成することになるので、標識されたTNFαの導入前に存在するレミケード(商標)の濃度は、標識されたTNFα・レミケード(商標)複合体の測定された濃度に等しい、式II参照。レミケード(商標)の濃度レベルは、比[(標識TNFα・レミケード(商標))複合体]/[標識されたTNFα]に[標識されたTNFα]を掛けることにより計算される、式III参照。比[(標識TNFα・レミケード(商標))複合体]/[標識されたTNFα]は、サイズ排除HPLCからの溶出時間の関数としてのシグナル強度のプロットから、(標識TNFα・レミケード(商標))複合体ピークの曲線下面積を積分し、この数を前記プロットから標識されたTNFαピークの曲線下面積の得られた積分で割ることにより得られる。[標識されたTNFα]は先験的に分かっている。
[0280]ステップ2:ヒト抗キメラ抗体HACAのレベルを決定する。
[0281]一例となる実施形態では、抗TNFα薬、たとえば、レミケード(商標)はフルオロフォア、たとえば、アレクサ647で標識され、前記フルオロフォアは可視及び蛍光スペクトルのどちらか又は両方により検出することが可能である。標識された抗TNFα薬は液相反応においてヒト血清と一緒にインキュベートされ、血清中に存在するいかなるHACAも結合させる。標識された抗TNFα薬は液相反応において既知の量の抗IgG抗体又はプールされた陽性患者血清と一緒にインキュベートされ、標準曲線を作成することも可能である。インキュベーションに続いて、試料はサイズ排除カラム上に直接負荷される。標識された抗TNFα薬に自己抗体が結合すれば、標識された薬剤単独と比べてピークは左側へ移動する。次に、血清試料中に存在するHACAの濃度は、標準曲線及び対照と比較することができる。
[0282]患者血清中のHACAレベルのSE−HPLC解析。精製されたレミケード(商標)はフルオロフォアで標識された。標識されたレミケード(商標)は、室温で1時間、異なる希釈度のプールされたHACA陽性血清又は希釈された患者血清と一緒にインキュベートされた。100μL容積の試料はHPLCシステム上でサイズ排除クロマトグラフィーにより解析された。蛍光標識検出を使用して、遊離の標識されたレミケード(商標)及び結合した標識されたレミケード(商標)免疫複合体をその保持時間に基づいてモニターした。結合と遊離の標識されたレミケード(商標)の比を使用して、下に記載される通りにHACAレベルを決定した。
[0283]血清中のHACAを測定するための移動度シフトアッセイ法手順。このアッセイの原理は、複合体の分子量の増加による、サイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SE−HPLC)上での、遊離のアレクサ647標識レミケード(商標)に対する抗薬剤抗体、たとえば、HACAとアレクサ647標識レミケード(商標)の複合体の移動度シフトに基づいている。前記クロマトグラフィーはAgilent−1200HPLCシステム上で実施され、分子量分画範囲5,000〜700,000のBio−Sep 300×7.8mm SEC−3000カラム(Phenomenex)及び1×PBS、pH7.3の移動相を流速0.5〜1.0mL/分で、蛍光標識検出、たとえば、650nmでのUV検出を用いて使用した。Bio−Sep 300×7.8mm SEC−3000カラム付のAgilent−1200HPLCシステムの前には、Bio−Sep 75×7.8mm SEC−3000である分析プレカラムがある。100μL試料容積が解析ごとにカラム上に負荷される。HACAと標識されたレミケード(商標)複合体の複合体は、SE−HPLC解析前に室温で1時間、レミケード(商標)処置患者由来血清と標識されたレミケード(商標)を1×PBS、pH7.3溶出バッファー中でインキュベートすることにより形成される。
[0284]以下の式はこのアッセイに関係している。
式IV:レミケード(商標)+標識されたレミケード(商標)+HACA→(レミケード(商標)・HACA)複合体+(標識されたレミケード(商標)・HACA)複合体
式V:[レミケード(商標)]/[レミケード(商標)・HACA複合体]=[標識されたレミケード(商標)]/[標識されたレミケード(商標)・HACA複合体]
式VI:[HACA]=[レミケード(商標)・HACA]複合体+[標識されたレミケード(商標)・HACA]複合体
式VII:[レミケード(商標)・HACA複合体]=[レミケード(商標)]×[標識されたレミケード(商標)・HACA複合体]/[標識されたレミケード(商標)]
式VIII:[標識されたレミケード(商標)・HACA複合体]=[標識されたレミケード(商標)]×[標識されたレミケード(商標)・HACA複合体]/[標識されたレミケード(商標)]
式IX:[レミケード(商標)]有効量=[レミケード(商標)]−[HACA]
[0285]ヒト抗TNFα薬抗体、たとえば、HACAの濃度レベルを決定する。既知の濃度の標識されたレミケード(商標)が血清試料に添加される。HACAはレミケード(商標)又は標識されたレミケード(商標)のいずれかと複合体を形成する、式IV参照。前記[レミケード(商標)]は上のステップ1において決定される。標識されたレミケード(商標)・HACA複合体の曲線下面積を積分し、この数字を遊離の標識されたレミケード(商標)の曲線下面積について得られる積分で割ることにより、[標識されたレミケード(商標)・HACA複合体]対[標識されたレミケード(商標)]の比が得られる。[レミケード(商標)]対[レミケード(商標)・HACA複合体]の比は、[標識されたレミケード(商標)]対[標識されたレミケード(商標)・HACA複合体]の比に等しい、式V参照。HACAはレミケード(商標)と標識されたレミケード(商標)の両方と平衡し複合体を形成するので、HACAの総量は、レミケード(商標)・HACA複合体の量と標識されたレミケード(商標)・HACA複合体の量の合計に等しい、式VI参照。[レミケード(商標)]対[レミケード(商標)・HACA複合体]の比は、[標識されたレミケード(商標)]対[標識されたレミケード(商標)・HACA複合体]の比に等しいので、[レミケード(商標)−HACA]複合体と[標識されたレミケード(商標)−HACA複合体]の両方は、比[標識されたレミケード(商標)・HACA複合体]/[標識されたレミケード(商標)]に、それぞれステップ1において決定されたレミケード(商標)の濃度量と先験的に分かっている標識されたレミケード(商標)の濃度量を掛けることにより決定される、式VII及びVIII参照。したがって、HACAの総量は、(1)ステップ1からの[レミケード(商標)]掛ける[標識されたレミケード(商標)・HACA複合体]/[標識されたレミケード(商標)]と(2)先験的に分かっている[標識されたレミケード(商標)]掛ける[標識されたレミケード(商標)・HACA複合体]/[標識されたレミケード(商標)]の合計に等しい。
[0286]レミケード(商標)の効果的濃度レベルを決定する。HACAはレミケード(商標)と複合体を形成するので、血清試料中で利用できる有効量のレミケード(商標)は、ステップ1から測定されたレミケード(商標)の量−ステップ2から測定されるHACAの量である、式IX参照。
[0287]例となる計算。V10上の患者JAGでは、[レミケード(商標)]は7.5μg/mlと決定された、図16c参照。この結果は、ステップ1に従い式I〜IIIを使用することにより得られた。7.5μg/mlは30ng/4μLに等しい。4μLの試料をステップ2での測定で使用したために、合計で30.0ngのレミケード(商標)が解析された試料中に存在していた。V10上の患者JAGについての比[標識されたレミケード(商標)・HACA]複合体/[標識されたレミケード(商標)]は0.25であった、図16b参照。試料に導入された[標識されたレミケード(商標)]は37.5ng/100μLであった。100μLの標識されたレミケード(商標)をステップ2での測定で使用したために、合計で37.5ngの標識されたレミケード(商標)が解析された試料中に存在していた。式VIIを使用して、レミケード(商標)・HACA複合体の総量は30ng掛ける0.25であり、これは7.5ngの標識されたレミケード(商標)・HACA複合体に等しい。式VIIIを使用して、標識されたレミケード(商標)・HACA複合体の総量は37.5ng掛ける0.25であり、これは9.4ngの標識されたレミケード(商標)・HACA複合体に等しい。式VIを使用して、HACAの総量は9.4ngと7.5ngの合計に等しく、これは16.9ngのHACAに等しい。16.9ngのHACAが4μLの試料中に存在していた。[HACA]は16.9ng/4μLであり、これは4.23μg/mlに等しい。式IXを使用して、レミケード(商標)の有効量は、ステップ1から決定された7.5μg/mlのレミケード(商標)−ステップ2から決定された4.23μg/mlのHACAに等しい。この例となる計算では、効果的な[レミケード(商標)]は3.27μg/mlに等しかった。
実施例8:ヒュミラ(商標)及びヒト抗薬剤抗体の濃度レベルを決定する。
[0288]この実施例は、血清試料中のヒュミラ(商標)のレベルを決定するための並びにヒト抗ヒト抗体(HAHA)のレベルを決定するための方法を説明する。
[0289]ステップ1:試料中のヒュミラ(商標)の濃度レベルを決定する。
[0290]一例となる実施形態では、TNFαはフルオロフォア(たとえば、アレクサ647)で標識され、前記フルオロフォアは可視及び蛍光スペクトルのどちらか又は両方により検出することが可能である。標識されたTNFαは液相反応においてヒト血清と一緒にインキュベートされ、血清中に存在する抗TNFα薬を結合させる。標識されたTNFαは液相反応において既知の量の抗TNFα薬と一緒にインキュベートされ、標準曲線を作成することも可能である。インキュベーションに続いて、試料はサイズ排除カラム上に直接負荷される。標識されたTNFαに抗TNFα薬が結合すれば、標識されたTNFα単独と比べてピークは左側へ移動する。次に、血清試料中に存在する抗TNFα薬の濃度は、標準曲線及び対照と比較することができる。
[0291]患者血清中のヒュミラ(商標)レベルのSE−HPLC解析。ヒト組換えTNFαは、製造業者の使用説明書に従って、フルオロフォア、アレクサフルオル(登録商標)488で標識された。標識されたTNFαは、室温で1時間、異なる量のヒュミラ(商標)又は患者血清と一緒にインキュベートされた。100μL容積の試料はHPLCシステム上でサイズ排除クロマトグラフィーにより解析された。蛍光標識検出を使用して、遊離の標識されたTNFαと結合した標識されたTNFα免疫複合体をその保持時間に基づいてモニターした。血清ヒュミラ(商標)レベルは標準曲線から計算された。
[0292]以下の式はこのアッセイに関係している。
式X:標識されたTNFα+ヒュミラ(商標)→(標識されたTNFα・ヒュミラ(商標))複合体
式XI:[ヒュミラ(商標)]=[(標識されたTNFα・ヒュミラ)複合体]
式XII:[ヒュミラ(商標)]=[(標識TNFα・ヒュミラ(商標))複合体]/[標識されたTNFα]×[標識されたTNFα]
[0293]ステップ1では、既知の量の標識されたTNFαはヒュミラ(商標)含有血清試料に接触させる。標識されたTNFαとヒュミラ(商標)は複合体、(標識されたTNFα・ヒュミラ(商標))複合体を形成する、式X参照。ヒュミラ(商標)のほとんどすべてが標識されたTNFαと複合体を形成することになるので、標識されたTNFαの導入前に存在する[ヒュミラ(商標)]は、測定された[(標識されたTNFα・ヒュミラ(商標))複合体]に等しい、式XI参照。[ヒュミラ(商標)]は、比[(標識TNFα・ヒュミラ(商標))複合体]/[標識されたTNFα]に[標識されたTNFα]を掛けることにより計算される、式XII参照。標識されたTNFαについての曲線下面積及び(標識されたTNFα・ヒュミラ(商標))複合体についての曲線下面積を積分し、(標識されたTNFα・ヒュミラ(商標))複合体について得られた積分を、標識されたTNFαについて得られた積分で割ることにより、[(標識TNFα・ヒュミラ(商標))複合体]対[標識されたTNFα]の比が得られる。[標識されたTNFα]は先験的に分かっている。
[0294]ステップ2:ヒト抗ヒト抗体、たとえば、HAHAのレベルを決定する。一例となる実施形態では、抗TNFα薬、たとえば、ヒュミラ(商標)はフルオロフォア、たとえば、アレクサ647で標識され、前記フルオロフォアは可視及び蛍光スペクトルのどちらか又は両方により検出することが可能である。標識された抗TNFα薬は液相反応においてヒト血清と一緒にインキュベートされ、血清中に存在するどんなHAHAも結合させる。標識された抗TNFα薬は液相反応において既知の量の抗IgG抗体又はプールされた陽性患者血清と一緒にインキュベートされ、標準曲線を作成することも可能である。インキュベーションに続いて、試料はサイズ排除カラム上に直接負荷される。標識された抗TNFα薬に自己抗体が結合すれば、標識された薬剤単独と比べてピークは左側へ移動する。次に、血清試料中に存在するHAHAの濃度は、標準曲線及び対照と比較することができる。
[0295]患者血清中のHAHAレベルのSE−HPLC解析。精製されたヒュミラ(商標)は、フルオロフォアで標識された。標識されたヒュミラ(商標)は、室温で1時間、異なる希釈度のプールされたHAHA陽性血清又は希釈された患者血清と一緒にインキュベートされた。100μL容積の試料はHPLCシステム上でサイズ排除クロマトグラフィーにより解析された。蛍光標識検出を使用して、遊離の標識されたヒュミラ(商標)及び結合した標識されたヒュミラ(商標)免疫複合体をその保持時間に基づいてモニターした。結合と遊離の標識されたヒュミラ(商標)の比を使用して、下に記載される通りにHAHAレベルを決定した。
[0296]血清中のHAHAを測定するための移動度シフトアッセイ手順。このアッセイの原理は、複合体の分子量の増加による、サイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SE−HPLC)上での、抗体、たとえば、HAHA、結合アレクサ647標識ヒュミラ(商標)複合体対遊離のアレクサ647標識ヒュミラ(商標)の移動度シフトに基づいている。前記クロマトグラフィーはAgilent−1200HPLCシステムで実施され、分子量分画範囲5,000〜700,000のBio−Sep 300×7.8mm SEC−3000カラム(Phenomenex)及び1×PBS、pH7.3の移動相を流速0.5〜1.0mL/分で、蛍光標識検出、たとえば、650nmでのUV検出を用いて使用した。Bio−Sep 300×7.8mm SEC−3000カラム付のAgilent−1200HPLCシステムの前には、Bio−Sep 75×7.8mm SEC−3000である分析プレカラムがある。100μL試料容積が解析ごとにカラム上に負荷される。HAHA結合標識されたヒュミラ(商標)複合体は、SE−HPLC解析前に室温で1時間、ヒュミラ処置患者由来血清と標識されたヒュミラ(商標)を1×PBS、pH7.3溶出バッファー中でインキュベートすることにより形成される。
式XIII:ヒュミラ(商標)+標識されたヒュミラ(商標)+HAHA→(ヒュミラ(商標)・HAHA)複合体+(標識されたヒュミラ(商標)・HAHA)複合体
式XIV:[ヒュミラ(商標)]/[ヒュミラ(商標)・HAHA複合体]=[標識されたヒュミラ(商標)]/[標識されたヒュミラ(商標)・HAHA複合体]
式XV:[HAHA]=[ヒュミラ(商標)・HAHA複合体]+[標識されたヒュミラ(商標)・HAHA複合体]
式XVI:[ヒュミラ(商標)・HAHA複合体]=[ヒュミラ(商標)]×[標識されたヒュミラ(商標)・HAHA複合体]/[標識されたヒュミラ(商標)]
式XVII:[標識されたヒュミラ(商標)・HAHA複合体]=[標識されたヒュミラ(商標)]×[標識されたヒュミラ(商標)・HAHA複合体]/[標識されたヒュミラ(商標)]
式XVIII:[ヒュミラ(商標)]有効量=[ヒュミラ(商標)]−[HAHA]
[0297]ステップ2についての計算。既知の濃度の標識されたヒュミラ(商標)が血清試料に添加される。HAHAはヒュミラ(商標)又は標識されたヒュミラ(商標)のいずれかと複合体を形成する、式XIII参照。前記[ヒュミラ(商標)]は上に記載されるステップ1において決定される。標識されたヒュミラ(商標)・HAHA複合体についての曲線下面積と標識されたヒュミラ(商標)についての曲線下面積を積分し、標識されたヒュミラ(商標)・HAHA複合体について得られた積分を、標識されたヒュミラ(商標)について得られた積分で割ることにより、[標識されたヒュミラ(商標)・HAHA複合体]対[標識されたヒュミラ(商標)]の比が得られる。[ヒュミラ(商標)]対[ヒュミラ(商標)・HAHA複合体]の比は、[標識されたヒュミラ(商標)]対[標識されたヒュミラ(商標)・HAHA複合体]の比に等しい、式XIV参照。HAHAはヒュミラと標識されたヒュミラ(商標)の両方と平衡し複合体を形成するので、HAHAの総量は、ヒュミラ(商標)・HAHA複合体と標識されたヒュミラ(商標)・HAHA複合体の量の合計に等しい、式XV参照。[ヒュミラ(商標)]対[ヒュミラ(商標)・HAHA複合体]の比は、[標識されたヒュミラ]対[標識されたヒュミラ(商標)・HAHA複合体]の比に等しいので、[ヒュミラ(商標)−HAHA複合体]と[標識されたヒュミラ(商標)−HAHA複合体]の両方の濃度は、比[標識されたヒュミラ・HAHA複合体]/[標識されたヒュミラ]に、それぞれステップ1において決定された[ヒュミラ(商標)]と先験的に分かっている[標識されたヒュミラ(商標)]を掛けることにより決定される、式XVI及びXVII参照。HAHAはヒュミラ(商標)と複合体を形成するので、血清試料中で利用できるヒュミラ(商標)の有効量は、ステップ1から測定されたヒュミラの量−ステップ2から測定されたHAHAの量である、式XVIII参照。
[0298]例となる計算。患者SL03246013では(図25参照)、[ヒュミラ(商標)]は16.9μg/mlと決定された、図25参照。この結果は、ステップ1に従い式X〜XIIを使用することにより得られた。16.9μg/mlは67.6ng/4μLに等しい。4μLの試料をステップ2での測定で使用したために、合計で67.6ngのヒュミラ(商標)が解析された試料中に存在していた。患者SL03246013についての比[標識されたヒュミラ(商標)・HAHA]複合体/[標識されたヒュミラ(商標)]は0.055であった、図25参照。試料に導入された[標識されたヒュミラ(商標)]は37.5ng/100μLであった。100μLの標識されたヒュミラ(商標)をステップ2での測定で使用したために、合計で37.5ngの標識されたヒュミラ(商標)が解析された試料中に存在していた。式XVIを使用して、ヒュミラ(商標)・HAHA複合体の総量は67.6ng掛ける0.055であり、これは3.71ngの標識されたヒュミラ(商標)・HAHA複合体に等しい。式XVIIを使用して、標識されたヒュミラ(商標)・HAHA複合体の総量は37.5ng掛ける0.055であり、これは2.06ngの標識されたヒュミラ(商標)・HAHA複合体に等しい。式XVを使用して、HAHAの総量は3.71ngと2.06ngの合計に等しく、これは5.77ngのHAHAに等しい。5.77ngのHAHAが4μLの試料中に存在していた。[HAHA]は5.77ng/4μLであり、これは1.44μg/mlに等しい。式XVIIIを使用して、ヒュミラ(商標)の有効量は、ステップ1から決定された16.99μg/mlのヒュミラ(商標)−ステップ2から決定された1.44μg/mlのHAHAに等しい。この例となる計算では、効果的な[ヒュミラ(商標)]は15.46μg/mlに等しかった。
実施例9:レミケード(商標)、標識されたレミケード(商標)、ヒュミラ、又は標識されたヒュミラのいずれかとHACA又はHAHAの複合体の量を決定する。
[0299]この実施例は、内部標準に準拠してレミケード(商標)、標識されたレミケード(商標)、ヒュミラ、又は標識されたヒュミラ(商標)のいずれかとHACA又はHAHAの複合体の量を決定するための方法を説明する。
[0300]内部標準、たとえば、ビオシチン−アレクサ488を使用すれば、血清人工物及び実験ごとの変動を同定し適切に解析することができる。内部標準、たとえば、ビオシチン−アレクサ488の量は、解析される100μLあたり約50〜約200pgである。
[0301]フルオロフォア(Fl)標識ヒュミラ(商標)は患者血清と一緒にインキュベートされて、免疫複合体を形成した。Fl標識小ペプチド、たとえば、ビオシチン−アレクサ488は、それぞれの反応に内部標準として含まれた。一例では、異なる量の抗ヒトIgGが使用されて、血清HAHAレベルを決定する標準曲線を作成した。別の例では、精製されたHAHAで較正済みの滴定されプールされた陽性患者血清を使用して、血清HAHAレベルを決定する標準曲線を作成した。さらに別の例では、実施例7に記載された方法を使用して、血清HAHAレベルを決定する標準曲線を作成した。遊離の標識されたヒュミラは、サイズ排除クロマトグラフィーによりその分子量に基づいて抗体結合複合体から分離された。それぞれの試料由来の遊離の標識されたヒュミラ対内部標準の比を使用して、HAHA濃度を標準曲線から外挿した。類似の方法論を使用して、患者血清試料中のヒュミラレベルを、標識されたTNFαで測定した。
[0302]標識された薬剤、すなわち、標識されたレミケード(商標)又は標識されたヒュミラ対内部標準の初期比は100に等しい。図23及び24に描かれているように、標識された薬剤対内部標準の比が95を下回ると、標識された薬剤は、抗薬剤結合化合物、たとえば、HACA、HAHAと複合体化されていると推測される。[標識された薬剤]対[内部標準]の比は、標識された薬剤についての及び内部標準についての曲線下面積を積分し、次に標識された薬剤について得られた積分を内部標準について得られた積分で割ることにより得られる。
実施例10:複合体化した抗TNFα薬対非複合体化抗TNFα薬の比を決定する。
[0303]複合体化した抗TNFα薬対非複合体化抗TNFα薬の比は、複合体化した抗TNFα薬と非複合体化抗TNFα薬の両方についての曲線下面積を積分し、次に複合体化した抗TNFα薬について得られた積分を非複合体化抗TNFα薬について得られた積分で割ることにより得られる。
[0304]一実施形態では、非複合体化抗TNFα薬は、試料中に約0ng〜100ngのレベルを有するレミケード(商標)である。標識されたレミケード(商標)の量は約37.5ngである。
[0305]内部標準、たとえば、ビオシチン−アレクサ488を使用すれば、血清人工物及び実験ごとの変動を同定し適切に解析することができる。内部標準、たとえば、ビオシチン−アレクサ488の量は、解析される100μLあたり約50〜約200pgである。
[0306]標識された抗TNFα薬、たとえば、レミケード(商標)、又はヒュミラ(商標)対標識された内部標準の比は、標識された抗TNFα薬と標識された内部標準の両方についての曲線下面積を積分し、次に標識された抗TNFα薬について得られた積分を、標識された内部標準について得られた積分で割ることにより得られる。
[0307]比[(標識された抗TNFα薬・自己抗体)複合体]/[内部標準]は、サイズ排除HPLCからの溶出時間の関数としてのシグナル強度のプロットから(標識された抗TNFα薬・自己抗体)複合体ピークについての曲線下面積を積分し、この数を前記プロットからの内部標準ピークについての曲線下面積の得られた積分で割ることにより得られる。いくつかの実施形態では、標識された抗TNFα薬は標識されたレミケード(商標)である。いくつかの他の実施形態では、標識された抗TNFα薬は標識されたヒュミラ(商標)である。
実施例11:遊離と複合体化した標識されたTNFαの比を決定する。
[0308]この実施例は、内部標準に準拠して標識されたTNFαとレミケード(商標)又はヒュミラ(商標)のいずれかとの複合体の量を決定するための方法を説明する。
[0309]内部標準、たとえば、ビオシチン−アレクサ488を使用すれば、血清人工物及び実験ごとの変動を同定し適切に解析することができる。内部標準、たとえば、ビオシチン−アレクサ488の量は、解析される100μLあたり約1〜約25ngである。
[0310]一実施形態では、非複合体化標識されたTNFαは、試料中約50ng〜150ngのレベルを有する。ある種の例では、標識されたTNFαの量は約100.0ngである。
[0311]フルオロフォア(Fl)標識されたTNFαは患者血清と一緒にインキュベートされて免疫複合体を形成した。Fl標識された小ペプチド、たとえば、ビオシチン−アレクサ488は、それぞれの反応に内部標準として含まれた。標準曲線は、既知の濃度の精製された抗TNFα薬にスパイクし、次に曲線から外挿することにより作成され、濃度をμg/mL単位で決定した。
[0312]標識されたTNFα対内部標準の初期比は100に等しい。標識されたTNFα対内部標準の比が95を下回ると、標識されたTNFαは抗TNFα薬、たとえば、レミケード(商標)、ヒュミラ(商標)と複合体化していると推定される。[標識されたTNFα]対[内部標準]の比は、標識されたTNFαについての及び内部標準についての曲線下面積を積分し、次に標識されたTNFαについて得られた積分を内部標準について得られた積分で割ることにより得られる。
実施例12:抗TNFα薬及び/又は抗薬剤抗体(ADA)レベルを測定することにより抗TNFα薬療法を最適化する。
[0313]この実施例は、抗TNFα薬療法を受けている対象由来の試料中の抗TNFα薬(たとえば、遊離の抗TNFα治療抗体のレベル)及び/又は抗薬剤抗体(ADA)(たとえば、抗TNFα薬に対する自己抗体のレベル)の量(たとえば、濃度レベル)を測定することにより、抗TNFα薬療法を最適化し、抗TNFα薬療法に伴う毒性を減少させ、及び/又は抗TNFα薬を用いた治療的処置の有効性をモニターするための方法を説明している。したがって、本実施例に記載される方法は、たとえば、抗TNFα薬のそれ以降の用量を調整若しくは修正する(たとえば、増加又は減少させる)時期若しくは方法を決定することにより、抗TNFα薬を(たとえば、増加した、減少した又は同じ用量で)メトトレキサート(MTX)若しくはアザチオプリンなどの1つ若しくは複数の免疫抑制剤と組み合わせる時期若しくは方法を決定することにより、及び/又は現在のコースの療法を変える(たとえば、異なる抗TNFα薬に切り替える)時期若しくは方法を決定することにより処置決定を導くのに有用な情報を提供する。
[0314]説明するだけの目的で、以下のシナリオは、抗TNFα薬療法を受けている対象由来の試料中の抗TNFα薬(たとえば、遊離の抗TNFα治療抗体のレベル)及び/又はADA(たとえば、抗TNFα薬に対する自己抗体のレベル)のレベルに基づいて、本発明の方法が療法を最適化し、毒性(たとえば、副作用)を最小化又は減少させることを有利に可能にする方法を実例説明する。抗TNFα薬及びADAのレベルは、本明細書に記載される新規のアッセイを用いて測定することが可能である。
[0315]シナリオ番号1:高レベルの抗TNFα薬と低レベルの抗薬剤抗体(ADA)。
[0316]薬剤レベル=10〜50ng/10μl;ADAレベル=0.1〜2ng/10μl。このプロファイルを有する患者試料は、ビジット10(「V10」)での患者BAB及びJAA由来の試料を含む。図16b参照。
[0317]抗TNFα薬療法を受けていてこの特定のプロファイルを有する患者は、アザチオプリン(AZA)のような免疫抑制薬を抗TNFα薬(たとえば、インフリキシマブ)と共に用いて処置するほうがよい。
[0318]シナリオ番号2:中レベルの抗TNFα薬と低レベルのADA。
[0319]薬剤レベル=5〜20ng/10μl;ADAレベル=0.1〜2ng/10μl。このプロファイルを有する患者試料は、V10での患者DGO、JAG及びJJH由来の試料を含む。図16b参照。
[0320]抗TNFα薬療法を受けていてこの特定のプロファイルを有する患者は、アザチオプリン(AZA)のような免疫抑制薬をさらに高用量の抗TNFα薬(たとえば、インフリキシマブ)と共に用いて処置するほうがよい。当業者であれば、薬物療法が最適化されるように、現在のコースの療法を調整して得られる適切なさらに高用量又はさらに低用量、たとえば、現在の用量の少なくとも約1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、15、20、25、30、35、40、45、50若しくは100倍、又は少なくとも約1/1.5、1/2、1/2.5、1/3、1/3.5、1/4、1/4.5、1/5、1/5.5、1/6、1/6.5、1/7、1/7.5、1/8、1/8.5、1/9、1/9.5、1/10、1/15、1/20、1/25、1/30、1/35、1/40、1/45、1/50若しくは1/100倍であるそれ以降の用量については承知している。
[0321]シナリオ番号3:中レベルの抗TNFα薬と中レベルのADA。
[0322]薬剤レベル=5〜20ng/10μl;ADAレベル=0.5〜10ng/10μl。このプロファイルを有する患者試料は、ビジット10(「V10」)での患者JMM及びビジット14(「V14」)での患者J−L由来の試料を含む。図16b参照。
[0323]抗TNFα薬療法を受けていてこの特定のプロファイルを有する患者は、異なる薬剤を用いて処置するほうがよい。非限定的例として、インフリキシマブ(IFX)療法中で中レベルのIFX及びADA(すなわち、HACA)を有する患者は、アダリムマブ(ヒュミラ(商標))を用いた療法に切り替えるほうがよい。
[0324]シナリオ番号4:低レベルの抗TNFα薬と高レベルのADA。
[0325]薬剤レベル=0〜5ng/10μl;ADAレベル=3.0〜50ng/10μl。このプロファイルを有する患者試料は、図16bにおけるV14でのすべての患者由来の試料を含む。
[0326]抗TNFα薬療法を受けていてこの特定のプロファイルを有する患者は、異なる薬剤を用いて処置するほうがよい。非限定的例として、インフリキシマブ(IFX)療法中で低レベルのIFX及び高レベルのADA(すなわち、HACA)を有する患者は、アダリムマブ(ヒュミラ(商標))を用いた療法に切り替えるほうがよい。
実施例13.HPLC移動度シフトアッセイによる患者血清試料中のヒト抗キメラ抗体(HACA)の測定。
[0327]この実施例は、患者血清試料中のレミケードに対する抗体のレベルを定量することを目的とする高速液体クロマトグラフィー(HPLC)手順を説明する。
[0328]HPLC移動度アッセイの原理は、サイズ排除HPLCクロマトグラフィーにおける抗原−抗体免疫複合体対遊離の抗原の保持時間の移動に基づいている。標準、対照及び患者試料は、蛍光標識されたレミケード及び蛍光標識された内部標準の添加に先立って、1時間、酸解離されて、循環しているレミケードの効果を減少させる。次に、すべての反応物は中和され、1時間インキュベートされて免疫複合体の形成を可能にする。サイズ排除カラム上への注入に先立って、すべての反応物は濾過され、保存温度4℃でHPLCシステム上に負荷される。レミケードに結合しているHACAはサイズ排除クロマトグラフィーにより遊離のレミケードから分離される。HACAの量は、遊離の標識されたレミケードピークの面積対標識された内部標準ピークの面積の比により決定される。
[0329]血液は患者から静脈穿刺により収集することができる。以下の追加の材料、クロマソルブ(Chromasolv)HPLC水;1.2mLのマイクロタイターチューブ;Nunc96ウェル試料プレート;10×PBS pH7.4;レミケード−アレクサフルオル488/ビオシチン−アレクサフルオル488;1L無菌フィルターシステム;マルチスクリーンHTS、GV96ウェル濾過プレート;BioSep−SEC−S3000ガードカラム、75×7.8mm;BioSep−SEC−S3000分析カラム、300×7.8mm;0.05%Naアジド/HPLC水;検出器廃棄物キャピラリー;HPLCバイアル;HPLC試料インサート;マルチスクリーンHTSバキュームマニフォールド;Agilent1200 HPLCシステムを用いることができる。
[0330]HPLC移動相(PBSの1×溶液 pH7.3±0.1)が調製される。200mLの10×PBS pH7.4はメスシリンダー内で1750mlのHPLC水と組み合わされる。得られた液のpHが決定され、1N HClを用いて調整される。総容積はHPLC水で2000mLまで増やされる。得られた液は0.22μM膜で濾過される。HPLCシステム用のPhenomenex BioSep−SEC−S3000ガードカラム及びBioSep−SEC−S3000分析カラムが使用される。UV検出器は、280nm及び210nmで記録するように設定される。
[0331]標準、対照及び患者試料が調製される。標準、対照及び患者血清試料が希釈される。血清試料、標準及び対照は氷上、0.5mLウェルドNunc96ウェルプレートで調製される。血清試料を最初に、続いて0.5Mクエン酸 pH3.0、最後にHPLC水を添加するのがよい。標準、対照及び試料は、プレート振盪器上、室温で1時間インキュベートされ、試料の完全な解離を可能にする。プレートはインキュベーション中ホイルで覆われる。レミケード−アレクサフルオル488/ビオシチン−アレクサフルオル488が添加される。指定容積のHPLC水中レミケード−アレクサフルオル488/ビオシチン−アレクサフルオル488が調製される。6μLのHPLC水が適切なウェルに添加される。レミケード−アレクサフルオル488/ビオシチン−アレクサフルオル488が適切なウェルに添加される。
[0332]アスコルビン酸又は酢酸を含むがこれらに限定されない他の有機酸が、このアッセイで使用するのに適していることもある。
[0333]試料を中和する。指定容積の10×PBS pH7.4が適切なウェルに添加される。試料はピペットを6回上下させることにより混合される。標準、対照及び試料は、プレート振盪器上、室温で1時間インキュベートされ、免疫複合体の完全な形成を可能にする。プレートはインキュベーション中ホイルで覆われる。インキュベートされた混合物は、直ちにHPLCバイアルに移さない場合は4℃冷蔵庫に移される。
[0334]カラム標準は新しい試料プレートで調製され、15μLのカラム標準及び285μLの移動相が同じ所与のウェルに添加される。標準、対照及び試料は、2%血清まで希釈される。指定容積のそれぞれの標準、対照及び試料は新しい試料プレートの適切なウェル中に移される。同じ試料プレートに、調製されたカラム標準が添加される。指定容積の10×PBS pH7.4が適切なウェルに添加される。指定容積のHPLC水が適切なウェルに添加される。試料はピペットを6回上下させることにより混合される。試料は0.2μmのマルチスクリーン濾過プレートで濾過される。収集プレートは濾過プレート下に加えられる。295μLの試料は濾過プレートのそれぞれの位置に移される。付着した濾過プレートは試料及び収集プレートと一緒にバキュームマニフォールドに加えられる。試料は収集プレート内に濾過される。標準、対照及び試料はHPLCバイアル内に移される。
[0335]ピペットを使用して、250μLの標準、対照及び試料をラベルを貼ったHPLCインサートバイアル中に移す。標準、対照及び試料はHPLC上に負荷される。HPLCパラメータは以下を含んでいてもよい。すなわち、注入量:100μL;流速:1.0mL/分の溶出バッファーA;停止時間:20分;ポスト時間:オフ;最小圧力:0バール;最大圧力:400バール;サーモスタット:オフ;DADパラメータは210nm及び280nmと4nm及びリファレンスオフ;ピーク幅(応答時間):>0.1分(2s);スリット:4nm;FLDパラメータ 励起:494nm、発光:519nm;1バイアルあたり1注入;試料ごとに100μl注入量である。
実施例14.HACA酸解離アッセイ。
[0336]図26に示されるように、酸解離ステップは、成分種の濃度レベルを測定するのに先立って複合体化した種の適切な平衡化を可能にする。高薬剤レベルは、HACAなどの抗薬剤抗体の検出に干渉することがある。図26に表されるように、酸解離ステップは、標識された薬剤「A」又は非標識薬剤「C」のどちらかと抗薬剤抗体HACA「B」の複合体の平衡化を可能にする。酸を導入してBC複合体を解離させたのち、高レベルのAを添加してもよい。後で、試料は希釈されてもよく、「AB」の濃度が測定されてもよい。酸解離ステップの後の「BC」の濃度は、「A」及び「B」の既知の又は測定された量に基づいて計算することができる。図27及び図28は、それぞれ、酸解離ステップありの及びなしの対数患者血清百分率の関数としての、遊離の標識されたインフリキシマブのパーセントを示している。
[0337]以下の材料、レミケード−アレクサ488/ビオシチン−アレクサ488;正常ヒト血清;HACA陽性対照(HPC);カラム標準;10×PBS;1×PBS pH7.3;マルチスクリーン濾過プレート;試料プレート;1N HCl;0.5Mクエン酸をこのアッセイで用いることができる。NHSにおけるHPC滴定が調製される。2倍の段階希釈は、35μlの試料を35μlのNHSに移すことにより調製される。以下の溶液はこの実施例で使用するために調製することができる。
溶液1:90μlの25%HPC/75%NHS
溶液2:90μlの12.5%HPC/87.5%NHS
溶液3:90μlの6.25%HPC/93.75%NHS
試料は、本明細書に記載される解析前、解析中、及び解析後、氷上で保存しておいてよい。
[0338]以下の溶液が調製される。
溶液4:バッファー液
溶液5:カラム標準溶液
溶液6:2%NHS
溶液7:2%NHS+37.5レミケード−アレクサ488/ビオシチン−アレクサ488
[0339]96ウェル試料プレートにおいて、これらの溶液に血清試料、クエン酸、HPLC水が添加される。血清試料がそれぞれのウェルに添加される。0.5Mクエン酸 pH3.0がそれぞれのウェルに添加される。HPLC水がそれぞれのウェルに添加される。
[0340]以下のものを含む一連の試料が調製される。
溶液8:バッファー
溶液9:15μLカラム標準及び285μL 1×PBS pH7.3
溶液10:2%NHS
溶液11:2%NHS+37.5レミケード−アレクサ488/ビオシチン−アレクサ488
溶液12:2%HPC+0%NHS+37.5レミケード−アレクサ488/ビオシチン−アレクサ488
溶液13:1%HPC+1%NHS+37.5レミケード−アレクサ488/ビオシチン−アレクサ488
溶液14:0.5%HPC+1.5%NHS+37.5レミケード−アレクサ488/ビオシチン−アレクサ488
溶液15:0.25%HPC+1.75%NHS+37.5レミケード−アレクサ488/ビオシチン−アレクサ488
溶液16:0.125%HPC+1.875%NHS+37.5レミケード−アレクサ488/ビオシチン−アレクサ488
溶液17:0.063%HPC+1.937%NHS+37.5レミケード−アレクサ488/ビオシチン−アレクサ488
溶液18:0.031%HPC+1.969%NHS+37.5レミケード−アレクサ488/ビオシチン−アレクサ488
溶液19:0.016%HPC+1.984%NHS+37.5レミケード−アレクサ488/ビオシチン−アレクサ488
溶液20:2%HPC+0%NHS+37.5レミケード−アレクサ488/ビオシチン−アレクサ488
溶液21:高対照
溶液22:中対照
溶液23:低対照
溶液24:2%NHS
溶液25:2%NHS+37.5レミケード−アレクサ488/ビオシチン−アレクサ488
すべての試料は、5.5μL 0.5M pH3クエン酸及び10.9μL HPLC水を添加された。
[0341]450μLの0.074mg/mLレミケード−アレクサ488/ビオシチン−アレクサ488が調製される。6μLのHPLC水が3つの別々のウェルに添加される。6μLの0.074mg/mLレミケード−アレクサフルオル488/ビオシチン−アレクサフルオル488が残っているウェルに添加される。
[0342]試料を中和する。27.6μLの10×PBS pH7.3がウェルのうちの1つを除いてすべてのウェルに添加される。試料はピペットを6回上下させることにより混合される。試料は、プレート振盪器上、暗所で、室温で1時間インキュベートされる。15μLのカラム標準が、27.6μLの10×PBS pH7.3が添加されていないウェルに添加される。285μLの1×PBS pH7.3が、27.6μLの10×PBS pH7.3が添加されていないウェルに添加される。試料は2%血清まで希釈される。
[0343]18.4μLのそれぞれの試料は新しい試料プレートの対応するウェルに移される。標準が作製されたのと同じ試料プレートを使用して、22.6μLの10×PBSが、27.6μLの10×PBS pH7.3が添加されていないウェルを除いてすべてのウェルに添加される。254μLのHPLC水が、27.6μLの10×PBS pH7.3が添加されていないウェルを除いてすべてのウェルに添加される。試料はピペットを上下させることにより混合される。295μLの標準、対照及び試料は96ウェル濾過プレートに移される。ピペットを使用して、250μLの標準、対照及び試料がHPLCインサートバイアル内に移される。
実施例15.抗TNFα療法を用いて再発した患者の患者症例1。
[0344]最初の試験では、血清中のHACAは示されず、急速に消えていくIFXレベルが示された。IFXの半減期は46.9時間と計算された。IFXの用量及び回数は増加された。前記患者は応答した。時間の関数としてのIFXのレベルの図示について図29を参照されたい。
[0345]3か月後、患者は再発し、患者は再試験されてHACAは低く、検出可能なIFXはないことが分かった。試験されたサイトカインはすべて正常範囲内であった。
[0346]提案された処置はアザチオプリンであり、代わりの抗TNF薬療法に切り替えてもよい。さらに、患者のモニタリングを継続して、他の抗薬剤抗体(ADA)が形成されているかどうかを調べる。
実施例16.抗TNFα療法を用いて再発した患者の患者症例2。
[0347]最初の試験に続く4か月、8日の間隔を開けて収集された2件の試料が試験された。HACAレベルは高くIFXレベルは検出可能ではなかった。推奨されるのは、患者は代わりの抗TNF療法に切り替えるほうがよいことである。
実施例17.抗TNFα療法を用いて再発した患者の患者症例3。
[0348]IFX濃度は、標識されたTNFαに対する異なる濃度のIFXの反応により作成された標準曲線を用いて計算された。11日目由来の試料は1対25希釈度で3.8μg/mlであった(少なくとも3半減期)。時間の関数としてのインフリキシマブの血清レベルの図示について、図30を参照されたい。時間の関数としてのTNFαの血清レベルの図示について、図31を参照されたい。推奨される処置は、IFXを免疫抑制薬と組み合わせる、又は代わりの抗TNF薬に切り替えてもよい。
実施例18.抗TNFα療法を用いて再発した患者の患者症例4。
[0349]患者は、高HACAであり、IFXは検出可能ではないことが分かった。TNFαレベルは上昇し、試験された他のサイトカインはすべて正常範囲内であった。提案される処置は、代わりの抗TNF療法への切り替えである。
[0350]図32は、患者症例1(A);患者症例2(B、C);及び患者症例4(D)についてのFl標識されたIFXの移動度シフトプロファイルを示している。
実施例19.抗TNFα療法を用いて再発した患者の患者症例5。
[0351]患者は、低HACAであり、IFXレベルは検出可能ではないことが分かった。TNFαレベルは非常に高く、試験された他のサイトカインレベルはすべて正常範囲内であった。提案される療法は、IFXの用量若しくは投薬回数を増やす又は代わりの抗TNF薬への切り替えと免疫抑制薬の追加である。さらに、提案される療法は、患者のモニタリングを継続して、HACA/ADAレベルが増加しているかどうかを調べることである。
実施例20.抗TNFα療法を用いて再発した患者の患者症例6。
[0352]患者は、中HACAレベル及び低IFXレベルであることが分かった。IL−1β及びIL−6レベルは非常に高かった。IFN−γはわずかに上昇し、TNFαは正常範囲内であった。提案される処置は、異なる抗TNFα薬への又は異なる機序を標的にする薬剤(たとえば、アクテムラ(トシリズマブ)などのIL−6受容体阻害モノクローナル抗体)を用いた療法への切り替えと免疫抑制薬の追加である。
実施例21.抗TNFα療法を用いて再発した患者の患者症例7。
[0353]患者は、低HACAレベルであることが分かった。低レベルのIFXが検出された。IFN−γレベルは高く、試験された他のサイトカインレベルはすべて正常範囲内であった。提案される処置は、IFXの用量を増やす又は異なる機序を標的にする薬剤(たとえば、フォントリズマブなどの抗INFγ抗体)を用いた療法への切り替えである。代わりに、提案される処置は、免疫抑制薬を追加することでもよい。
[0354]図33は、患者症例5(A);患者症例6(B、C);及び患者症例7(D、E)についてのFl標識されたIFXの移動度シフトプロファイルを示している。
実施例22.異なる患者血清群におけるサイトカインレベル。
[0355]この実施例は、正常対照、インフリキシマブ処置UC、ヒュミラ処置CD及びHACA陽性血清試料におけるIFNγ、IL−1β、IL−6及びTNFαなどの、しかしこれらに限定されないサイトカインのレベルを説明する。図34に示されるように、HACA陽性患者血清は、典型的には、試験されたすべてのサイトカイン(たとえば、IFNγ、IL−1β、IL−6及びTNFα)のレベルが高くなっていた。IFXに対する自己抗体(すなわち、HACA)及び高レベルのサイトカインの存在に基づいて、これらの患者は代わりの抗TNF薬に切り替えたほうがよく、免疫抑制薬と組み合わせてもよい。
実施例23:酸解離アッセイによるHACA標準の定量。
[0356]この実施例は、一定量のレミケード(商標)−アレクサフルオル488及び変化する量の非標識レミケード(商標)を用いて実施例14に記載される酸解離アッセイを使用する標準試料中のHACAの定量を説明する。特に、25U/mL〜100U/mLに及ぶHACA濃度は、数桁にわたる非標識レミケード(商標)の存在下で決定することが可能である。低濃度標準(25U/mL)、中濃度標準(50U/mL)、及び高濃度標準(100U/mL)におけるHACAの決定のためのデータは、それぞれ表8、9、及び10に提示されている。それぞれの試料中の非標識レミケード(商標)の濃度は、実施例1に記載される移動度シフトアッセイを使用して決定された。酸解離及び平衡化に続いて、所与の試料中の得られたHACA/レミケード(商標)−アレクサフルオル488複合体はSE−HPLCにより決定され、総HACAは実施例7に提示される計算に従って計算された。それぞれの解析におけるHACAの回復のパーセント(標準における既知濃度のHACAに基づいて)が提示される。
実施例24:抗TNF薬療法のための新しいパラダイム。
[0357]抗TNF薬療法のための既存のパラダイムは、患者試料において決定される薬剤レベル及びHACAレベルに基づいており、以下の表11に概要が述べられている。
[0358]しかし、このパラダイムは、HACA判定保留患者における薬剤レベルの高い変動性により混乱する。
[0359]本発明の治療パラダイムは、1つ又は複数のバイオマーカーのアルゴリズムベースの解析から導かれる疾患活動度/重症度指標を利用して、抗TNF薬を用いた、療法の選択、療法の最適化、毒性の減少、治療的処置の有効性のモニター、又はこれらの組合せを行う。ある種の態様では、この新しいパラダイムに基づいて講じられる措置は、以下の表12において様々な説明に役立つシナリオについての概要である。
[0360]中範囲HACAレベルの患者に対する治療措置に続いて疾患活動度の変化をモニターすることが可能であることは注目される。ある種の例では、高HACAレベルは、その状態の免疫学的性質のため、他のパラメータにもかかわらず、療法の変化を引き起こすことがある。
実施例25:組織試料における低レベルのレミケードの検出。
[0361]関節リウマチ(RA)に罹った患者は、治療の進行中に100ng/mL未満のレミケードに応答することが明らかにされている。患者血清中でレミケードの存在を検出し、ELISAフォーマットに関する問題の多くを回避する、本明細書で議論されているレミケードHPLC移動度シフトアッセイが開発されている。ある種の態様では、本発明のアッセイについての現在の定量の下限(LLOQ)は約0.49μg/mLであり、ほとんどの患者の解析が可能である。我々の現在の調査では、蛍光検出器の様々なパラメータを調整することにより(発光波長を525nmに切り替え、PMTGainを16まで増加させる)、レミケードHPLC移動度シフトアッセイは、血清中のわずか50ng/mLのレミケードを定量的に検出することが可能であり、再現性も高いことが示されている。実際、このレベルの感度であれば、わずかな(<10mg)組織試料中でのレミケードレベルの解析は可能である。組織内のレミケードの検出により、炎症部位へ到達したレミケードの量についての我々の知見は増強され、薬剤の薬物動態及び機序的な詳細に関するさらに多くの情報がもたらされる。
方法
[0362]患者組織由来のタンパク質の単離は全細胞抽出により実現される。1〜10mg切片の組織はチューブ内に置かれ、次に低温環境において凍結される。その後、低温試料はCovaris CryoPrep機械的組織破壊器を使用してホモジナイズされる。粉砕後、試料は、哺乳動物プロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma、St Louis、Mo)を含有する約300μLの抽出バッファー(50mM Tris、pH8.0、150mM NaCl、1% NP−40、0.25%デオキシコール酸、1mM EDTA)を含有するチューブに移される。次に、試料は直ちにCryoPrep機器の超音波部に移されて、超音波処理によりさらに破壊される。次に、試料は氷上で45分間インキュベートされて、細胞成分を完全に解離させる。抽出物は4℃で15分間、高速で遠心分離される。上清はアリコートされ、−80℃で凍結される。タンパク質濃度はLowryタンパク質アッセイ(Bio−Rad)を使用して定量される。200μLアリコートは解凍され、次に5.0ngの蛍光的に標識された組換えTNFα(TNF−アレクサ488)が添加される。室温で1時間のインキュベーション後、溶液は平衡状態になり、増加していく分子量の様々なTNF−アレクサ488/レミケード複合体が形成されている。濾過後、試料はPhenomenex BioSep S−3000 HPLCサイズ排除カラム上に注入される。このリアルタイム液相アッセイは、形成された複合体のサイズに基づいて、遊離のTNFからレミケード−TNF複合体を分離する。
[0363]現在の定量の下限は大多数の患者に適しているが、RA患者において使用するためには感度を上げる必要性がある(上記参照)。一態様では、前記アッセイは、HPLCサイズ排除カラム上への100μL注入液中での25ngのTNF−アレクサ488の検出に依存している。検出方法としての蛍光の使用は、励起及び発光波長の最適化並びに光電子倍増管(PMT)のゲインを増やす能力に柔軟性を与える。レミケードアッセイの確認のために使用される現在の設定は、
FLDλEx=494、λEm=519
PMTGain=12
である。これらの設定は、アレクサフルオル488基の公表されている波長並びにAgilent 1200シリーズFLDの通常PMTGain設定に基づいて選択された。PMTGainを増加させると、シグナルとノイズが増加するが、ある係数まではシグナルの増加のほうがノイズの増加よりも高い。ゲインからゲインまでのステップは、係数2に等しい。最適化すべき最も重要なパラメータは、励起と発光波長であり、公表されている最大値は有用な出発点であるが、励起は化合物それ自体並びに特定の機器特徴に依存しているために波長を最適化する必要がある場合が多い。
[0364]低量のレミケードを検出した場合、TNF−アレクサ488とレミケードの複合体を反映する特定のピークが9.2分の保持時間で生じる。一態様では、このピークの高さがバックグランドの少なくとも3倍になり、複数の反復試験にわたるまでの計算された血清濃度が20%未満の変動係数を有することが重要である。ある種の実施形態では、この特定のレミケード−TNFアレクサ488ピーク対通常のヒト血清バックグランドのシグナル対ノイズが、したがって、前記アッセイの感度を上げるための出発点である。
[0365]感度を上げるために、PMTGain並びに励起と発光波長は、増幅プロットと等吸光度プロットの結果に基づいて最適化された。レミケードは、それぞれ494nm及び519nmの現在の励起及び発光波長を使用して、12〜18に及ぶ異なるPMTGainレベルでTNF−アレクサ488の希釈物の存在下で滴定された。
[0366]図35は、標準量のTNF−アレクサ488並びにレミケード−TNF複合体を反映するRt=9.2分での小ピークを示している(上パネル)。TNF−アレクサ488の量を2.5ngまで減少すると、4%正常ヒト血清からのバックグランドが、遊離のTNFピーク並びにレミケード−TNF複合体を反映する9.2分でのピークの分解能に干渉し始めることは明らかである(中間パネル)。PMTGainを18まで増加すると(下パネル)、シグナルとノイズが等しく増加する(データはすべてのPMTレベルで類似している)。
[0367]正常ヒト血清からのバックグランド蛍光は、現在の設定を使用する低レベルのレミケードの定量に干渉することはデータから明らかである。前記アッセイの感度を上げるために、FLD設定の追加の修正が血清バックグランドシグナルを減少させるのには必要である。これを調べるために、等吸光度プロットからの結果に基づいて異なる励起及び発光波長で実験が実施された。等吸光度プロットは、正常ヒト血清、TNF−アレクサ488、移動相(1×PBS/0.1%BSA)及び水から取られた。
[0368]図36は、Y軸にプロットされた励起波長とX軸にプロットされた発光波長を示している。正常ヒト血清(上パネル)及びTNF−アレクサ488(下パネル)についてのプロットを比較すると、励起と発光最大値(プロット中のv字型領域の頂点)の両方における著しい重複が示されている。発光波長を少なくとも525nmまで移動させれば、おそらく、正常血清バックグランドを減少させつつ、TNF−アレクサ488についての高感度は維持されるであろう。発光波長は525nmに設定され、次にTNF−アレクサ488並びに正常ヒト血清バックグランドを調べる実験が繰り返された。TNF−アレクサ488は、4%NHSの存在下で注入され、シグナル対ノイズが評価された。
[0369]図37は、指定された設定を使用するHPLCによる正常ヒト血清(左パネル)及び25ngのTNF−アレクサ488(右パネル)の解析を示している。正常ヒト血清からの蛍光のバックグランドレベルは大幅に減少している。血清からのバックグランド蛍光のレベルが減少していることを実証した後、アッセイのシグナル対ノイズが、12〜18に及ぶいくつかの異なるPMTGainレベルで評価された。下の表13に提示されている解析の結果により、16のPMTGainが著しい利益を与えることが確証される。
[0370]次に、前記アッセイの感度は、図38に示されるプロットなどの標準曲線を作成することにより調べられた。注入液あたり2.5ngのTNF−アレクサ488が使用され、レミケードは、50ng/mL〜5.86μg/mLの範囲で滴定されて検出限界を確立した。保持時間9.2でのピークは、シグナル対ノイズの判定として再びモニターされ、3対1のピーク高を繰り返し生じた(n=20)最低濃度を使用して、LOQを計算した。このような解析の結果は、以下の表に提示されている。
[0371]発光波長を525nmに移動させ、PMTgainを16まで増やすことにより、レミケードHPLC移動度シフトアッセイは、今や血清中のわずか50ng/mLのレミケードを定量的に検出することができ、再現性も高い。さらに最適化すれば、感度をさらに上げ得るが、新しいフォーマットは、非常に低いレミケード血清濃度でも応答を示すRA患者の解析を可能にするほうがよい。低レミケードレベルと患者応答の相関関係、臨床成績、及び関連するバイオマーカーが、さらに個別化された治療へのアプローチのための決定を下す。
実施例26:移動度シフトアッセイ対ELISAの臨床研究解析。
[0372]初期研究は、数週間にわたりインフリキシマブを用いて処置された活動性CD患者(N=117)及びUC患者(N=10)由来の試料を使用して上記の通りに実施された。移動度シフトアッセイデータはELISA結果と比較された。
[0373]図39に示されるように、両方の方法は試料中のインフリキシマブの決定では相関していた(定量の下方限界よりも上で収集されたデータでは、相関係数=0.812、p<2.2×10−16)。ELISAによりインフリキシマブ陰性であると判定された試料のうちの6%は、移動度シフトアッセイによりインフリキシマブ陽性であることが示された。移動度シフトアッセイによりインフリキシマブ陰性であると判定された試料のうち、ELISAによりインフリキシマブ陽性であると判定されたものはなかった。移動度シフトアッセイにより判定された場合、4件のインフリキシマブ陰性試料はHACA陽性であることが分かった。図40に示されるように、ELISAと移動度シフトアッセイデータはHACAの決定についても相関していた。ELISAによりHACA陰性と判定された試料のうち37件が、移動度シフトアッセイによりHACA陽性であることが分かった。
[0374]HACA陽性試料の週当たりの累積計数は図41に示されるように時間をかけて作表された。移動度シフトアッセイ(図41、上トレース)とELISA(図41、下トレース)のデータは60週間後には収束し始めるが、初期時点では移動度シフトアッセイのほうがHACA陽性検体の高い計数を生じた。フィッシャー直接検定が、様々な時点で収集されたデータに適用された。前記検定により決定されたp値は、46週目、50週目、及び66週目でそれぞれ0.0381、0.0240、及び0.6791であった。まとめると、臨床研究では、移動度シフトアッセイがELISAにおける変動性及び干渉制限を克服していることが示されている。前記技術は、関節リウマチ及び炎症性腸疾患などの病状のための広範囲のタンパク質治療にも適用可能である。治療戦略を立てる際に薬剤レベル及び抗薬剤抗体の正確な検出が決定的に必要であることを考慮すると、移動度シフトアッセイは患者治療のより良好な管理を可能にする。
実施例27:患者血清中のヒト抗キメラ抗体(HACA)及びインフリキシマブ(IFX)レベルの測定のための新規の均一な移動度シフトアッセイの評価。
[0375]背景:炎症性腸疾患(IBD)及び関節リウマチ(RA)などの炎症性疾患の治療に利用可能である抗体ベースのバイオ療法の一覧表は着実に増加している。しかし、ある種の患者は、薬剤薬物動態の変化、薬効の減少/消滅、及び薬物有害反応を含む広範な結果を引き起こすことがある抗薬剤抗体(ADA)を産生する。抗体薬及びADAレベルについての患者のモニタリングは、医薬品開発過程中にFDAから要求されるだけではなく、これらの薬物を用いた治療中の適切な患者管理のためにも極めて重要である。ADA及び薬物レベルの評価には異なる方法が利用可能であり、これには固相免疫アッセイ、放射性免疫沈降法(RIPA)及び表面プラズモン共鳴(SPR)が含まれる。しかし、これらの方法には、抗原固定化又は標識化による遮蔽された/変化したエピトープ、種特異性及びアイソタイプ検出を定義することができないこと、低親和性抗体を検出できないこと、専用装置又は放射性標識された試薬の必要性、並びに試料中での低い薬物耐性を含む、多くの不都合が観察される。我々は、IFXを用いて処置された患者由来の血清中のHACA及び薬物レベルを測定するための非放射性標識液相均一移動度シフトアッセイを開発した。この方法は、HACA及び薬物レベルを測定するための現在の方法の限界のうちの多くを克服する。
[0376]方法:移動度シフトHACAアッセイを実施するため、アレクサ488負荷対照を含有するアレクサフルオル488(アレクサ488)標識されたインフリキシマブ(IFX)はHACA陽性血清と一緒にインキュベートされ、平衡状態に達するままにする。平衡後、次に反応混合物はHPLCカラム上に注入される。遊離のアレクサ488−IFX及び免疫複合体は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)HPLCにより分離され、それぞれの分離されたピークの蛍光強度が蛍光検出器(FLD)により測定される。遊離のアレクサ488−IFXピーク面積対アレクサ488内部標準ピーク面積の比の変化は、形成された免疫複合体の量を示す。異なる希釈度のHACA陽性血清を使用して標準曲線を作成し、これを非対称を説明する5パラメータロジスティックモデルにフィットさせる。試料中のHACAの量は標準曲線から計算される。アレクサ488標識されたTNFαを利用してIFXに結合させ、精製されたIFXを標準として使用すること以外は、類似の方法論及び解析を使用して血清中のIFXレベルを測定する。我々は、HACAとIFXアッセイの両方に完全方法確認を実施し、臨床試料試験結果をELISA法から得られた結果と比較した。
[0377]結果:移動度シフトHACAアッセイの確認により、血清試料における定量の下方限界6.75U/mlが明らかにされ、これは35.4ng/mlに相当し、この値は産業要件(250〜500ng/ml)よりも低い。定量の線形範囲は6.75〜150U/mlである。アッセイ内及びアッセイ間精度決定により15%未満の変動係数が得られ、前記アッセイの正確度は20%以内である。アッセイにおけるIFX薬物耐性は試験血清において最大100μg/mlである。治療レベルのアザチオプリン(AZA)及びメトトレキサート(MTX)、リウマトイド因子の存在(774IU/ml)、正常レベルの免疫グロブリン、TNF並びに可溶性TNF受容体は前記アッセイにおいては著しい干渉はしない。100件の薬物未投与健康な対象由来の血清試料が試験されて、6.75U/ml(平均+1.65SD)のカットオフポイントを設定した。架橋ELISAにより解析された100件のHACA陽性血清試料も、移動度シフトアッセイにより評価された。全体として、HACAレベルに関して2つの方法間には強い相関関係が存在する(スピアマンのロー=0.337、p=0.0196)。しかし、新しい方法は、架橋ELISAから23件の偽陽性試料を同定することができた。類似の結果は、移動度シフトIFXアッセイの確認から得られた。
[0378]結論:これらの研究の結果は、患者血清試料中のHACA及びIFXを測定することでの移動度シフトアッセイの優位性を実証している。この方法を適用して、アダリムマブを用いて処置されている患者などの患者血清試料中の他の生物製剤及びADAを検出することも可能である。
[0379]前述の発明は理解の明確性を目的にして図解と実施例によりある程度詳細に記載されてきたが、当業者であれば、添付されている特許請求の範囲内である種の変化と修正を実行し得ることは認識するであろう。さらに、本明細書に提供された参考文献のそれぞれが、それぞれの参考文献が個別に参照により組み込まれている場合と同じ程度にその全体が参照により組み込まれている。