本発明に係る第1の実施形態の自動変速機の変速制御装置および変速制御方法について、図1〜図8を参考にして説明する。図1は、本実施形態の自動変速機を変速制御する変速制御装置を備えたハイブリッド車両用パワートレーン装置1を模式的に説明する図である。図1において、破線の矢印は制御の流れを示している。ハイブリッド車両用パワートレーン装置1は、回転軸心を共通にして一列に配設されるエンジン2、クラッチ3、発電電動機4(以後、モータとのみ称す)、自動変速機5、自動変速機5の出力軸52に駆動される駆動輪6および自動変速機5の変速制御を行なうハイブリッドECU7を始めとする変速制御装置57等を有して構成されている。
エンジン2は、一般的な4サイクルエンジンである。エンジン2は、各気筒に空気を供給する図略のスロットルボデー、スロットルボデーが備える空気の供給量を調節するスロットルバルブ、およびスロットルバルブの開度、すなわちスロットル開度Aを検出するスロットルセンサ22を備えている。スロットルバルブは、運転者が踏む図略のアクセルペダルの踏込み量に応じて開閉量が制御されるよう構成されている。このときスロットルバルブは、アクセルペダルに連結されるアクセルワイヤに接続しアクセルペダルの踏込み量に応じて機械的に直接開閉させてもよい。また、スロットルバルブは、スロットルバルブ開閉用のバルブ開閉モータを備え、アクセルペダルの踏込み開度を図略の開度センサによって検出し、当該検出された踏込み開度に応じてバルブ開閉モータを作動させ開閉させてもよい。
エンジン2の出力軸21は、クラッチ3の入力側部材31に結合されている。出力軸21の近傍には、出力軸21のエンジン回転数NEを検出するエンジン回転数センサ23が設けられている。また、エンジン2の運転を制御するエンジンECU27が設けられている。エンジンECU27には、スロットルセンサ22およびエンジン回転数センサ23が接続されており、検出したスロットル開度Aおよびエンジン回転数NEの情報が取り込まれるようになっている。エンジン2の出力特性は予め得られており、例えば、図2の出力トルク−エンジン回転数特性として示される。
図2のグラフの横軸はエンジン2のエンジン回転数NE、縦軸は出力トルクTEであり、パラメータの一例としてスロットル開度Aを4つの段階A1〜A4(A1<A2<A3<A4)に設定している。図示されるようにスロットル開度Aが一定という条件下においては、出力トルクTEは始めのうちエンジン回転数NEの増加に伴って増加し、次いで概ね一定値に落ち着き、やがて減少に転じる略台形状の特性を有している。また、スロットル開度AがA1からA4へと順次増加するのに伴い、出力トルクTEの台形状の特性は、出力トルクTEの大きい側、かつエンジン回転数NEの大きい側に拡がっている。
モータ4は三相同期形であり、ロータコア内に永久磁石を埋め込んだロータ41を内周側に配置し、ステータコアのティースにコイルを巻回形成したステータ42を外周側に配置して構成されている。ステータ42の外周は、モータ4のケース内周に固定されている。ロータ41の中心に貫設された回転軸の一端43はクラッチ3の出力側部材32に結合され、他端44は自動変速機5の入力軸51に結合されている。ステータ42のコイルは、電源部45に電気接続されている。電源部45は、図略のインバータ装置およびバッテリなどで構成されている。また、電源部45を制御してモータ4の運転を制御する電動機ECU47が設けられている。電動機ECU47の制御にしたがい、モータ4は発電機および電動機のいずれとしても機能し得る。
クラッチ3は多板摩擦クラッチであり、エンジン2の出力軸21とモータ4のロータ41との間に配設されて、両者21、41を係脱操作するものである。クラッチ3の入力側部材31および出力側部材32の係脱操作を油圧により行うために、電動オイルポンプ33が設けられている。電動オイルポンプ33は、電動機ECU47に制御されるようになっている。クラッチ3は、油圧が供給されない通常状態で係合するノーマルクローズタイプである。
クラッチ3を係合させたとき、モータ4の動作状態により次の3ケースの走行モードが派生する。すなわち、モータ4が停止していればエンジン2単独の走行モードとなり、モータ4が電動機として機能していれば併用の走行モードとなり、モータ4が発電機として機能していれば発電並行走行モードとなる。また、クラッチ3を切ったとき、モータ4単独の走行モードあるいは、惰性走行モードまたは制動時回生走行モードのいずれかとなる。
本発明では、上記の走行モードのうち、クラッチ3が係合され、エンジン2が走行に使用される状態であるエンジン2単独の走行モード時および発電並行走行モード時での制御を対象としている。エンジン2単独の走行モード時については、エンジン2単独の走行モード状態からモータ4を発電機として機能させるよう発電状態への移行が生じ発電並行走行モード状態となった場合に、本発明に係る変速制御装置の制御を実行する。また、発電並行走行モード時については、発電並行走行モード状態からモータ4を停止させる発電停止状態への移行が生じエンジン2単独の走行モード状態となった場合に、本発明に係る変速制御装置の制御を実行する。
自動変速機5は、複数組の遊星歯車装置、遊星歯車装置の回転要素を連結操作するクラッチ、遊星歯車装置の回転要素を制動操作するブレーキなどにより動力伝達機構が構成されている。各クラッチおよび各ブレーキを油圧により係脱操作するために、油圧制御回路55が設けられている。
図3は、自動変速機5のスケルトン図である。自動変速機5は、トルクコンバータ50、トルクコンバータ出力軸54、出力軸52、第1列シングルピニオンプラネタリギヤG1、第2列シングルピニオンプラネタリギヤG2および第3列シングルピニオンプラネタリギヤG3を備える。
トルクコンバータ50は、入力軸51が、モータ4の回転軸の他端44に連結されている。本発明においては入力軸51を自動変速機5の入力軸であるとし、モータ4を介してエンジン2から入力軸51に入力されるトルクをAT入力トルクTinと称す。つまり、入力軸51は、トルクコンバータ50の入力軸であるとともに自動変速機5の入力軸である。また、トルクコンバータ50は、流体の滑りによる動力伝達ロスを避けるため、入力軸51に連結される入力側のポンプインペラ50bと出力側のタービンランナ50aとを両者の回転差が小さいときに直結して動力を伝達するロックアップクラッチLUを備えている。出力軸52は、差動装置(図示せず)を介して車軸に連結される。
図1に示すように、出力軸52の近傍には、出力軸52の出力軸回転数NOを検出する出力軸回転数センサ53が設けられている。また、油圧制御回路55を制御して自動変速機5の変速動作を制御する変速機ECU57が設けられている。変速機ECU57には、出力軸回転数センサ53が接続されており、検出した出力軸回転数NOの情報が取り込まれるようになっている。自動変速機5の変速パターンは予め定められており、その例として、前進1速から4速までのアップシフト変速線およびダウンシフト変速線が図4に示されている。なお、本実施形態において自動変速機5は、前進6速まで変速段を有しているが、5速および6速については他の変速段と同様の線図形態を有しているので図示を省略する。
第1列シングルピニオンプラネタリギヤG1、第2列シングルピニオンプラネタリギヤG2および第3列シングルピニオンプラネタリギヤG3は、トルクコンバータ出力軸54と連結する。自動変速機5は、複数(7つ)の摩擦係合要素としての第1摩擦クラッチC1、第2摩擦クラッチC2、第3摩擦クラッチC3、第1摩擦ブレーキB1、第2摩擦ブレーキB2、第3摩擦ブレーキB3およびロックアップクラッチLUが組み込まれている。
自動変速機5は、油圧制御回路55および変速機ECU57により、第1〜第3摩擦クラッチC1〜C3および第1〜第3摩擦ブレーキB1〜B3の係合・非係合が選択されることでその変速段およびシフトパターンが切換えられるようになっている。ロックアップクラッチLUは、油圧制御回路55および変速機ECU57の制御により係合する。
なお、第1〜第3摩擦クラッチC1〜C3、第1〜第3摩擦ブレーキB1〜B3、並びにロックアップクラッチLUは、それぞれ油圧制御回路55により、そのときのAT入力トルクTinに応じた油圧(以後、ライン圧PLと称す場合がある)が供給されることで係合状態、または非係合状態とされる。
ライン圧PLは、AT入力トルクTin(=エンジン出力トルク)に応じて設定されるものであり、エンジン出力トルクの代用特性としてスロットル開度Aに応じて設定される(ただし、アクセル開度に応じて設定してもよい)。例えば、図5に示すように、スロットル開度AがAaであるときにライン圧PLはPLaとなる。ライン圧PLを供給する具体的な制御装置および方法については公知であり、詳細な説明は省略する(特開昭61−175358参照)。
このように、そのときのAT入力トルクTinに応じて、自動変速機5の摩擦係合要素の係合が良好に制御される。これにより、係合力が過小となり、第1〜第3摩擦クラッチC1〜C3、第1〜第3摩擦ブレーキB1〜B3等の摩擦係合要素に滑りが発生して摩擦熱が発生したり、摩耗が生じたりして耐久性が低下することを抑制している。また、係合力が過大となり摩擦係合要素の係合時に変速ショックが発生することを抑制している。さらに、係合力が過大となるときの過剰油圧を発生させるオイルポンプの無駄な作動をなくし、燃費悪化を抑制している。
図6は、自動変速機5の第1〜第3摩擦クラッチC1〜C3、第1〜第3摩擦ブレーキB1〜B3の係合・非係合と、それに対応する変速段との関係を示す一覧図である。自動変速機5は、リバース、ニュートラル、1速から4速のアンダードライブおよび5速と6速のオーバードライブを有する前進6段、後進1段の変速段を達成可能な変速機である。
すなわち、第2摩擦クラッチC2および第3摩擦ブレーキB3のみが係合されると、入力軸51に対して出力軸52の回転を逆転させて車両をリバース走行させるようになっている。また、第3摩擦ブレーキB3のみが係合されると、ニュートラルとなる。また、第1摩擦クラッチC1および第3摩擦ブレーキB3のみが係合されると1速になる。
また、第1摩擦クラッチC1および第2摩擦ブレーキB2のみが係合されると2速になり、第1摩擦クラッチC1および第1摩擦ブレーキB1のみが係合されると3速になる。さらに、第1および第3摩擦クラッチC1、C3のみが係合されると4速になり、第3摩擦クラッチC3および第1摩擦ブレーキB1のみが係合されると5速になり、第3摩擦クラッチC3および第2摩擦ブレーキB2のみが係合されると6速になる。なお、図6においては、運転者による手動レバー(図示せず)の操作によって選択される走行レンジ(Rレンジ、Nレンジ、Dレンジ)と変速段との基本的な関係について示している。
自動変速機5の変速パターンを説明する図4の変速線図について説明する。図中の横軸は自動変速機5の出力軸回転数NO、縦軸はエンジン2が有するスロットルボデーのスロットル開度Aである。アップシフト変速パターンのアップシフト変速線L12(1速から2速への変速、以下同様)、L23、L34が実線で示され、ダウンシフト変速パターンのダウンシフト変速線L43、L32、L21が破線で示されている。なお、前述のとおり、5速と6速の変速線図であるL45、L56、L65、L54は図示省略してある。図4の変速線図は、モータ4による発電が行われないエンジン2単独の走行モードにおいて、良好な車両走行性能および良好な変速フィーリングが得られ、かつ燃費も良好となるように定められたものである。
走行中の車両では、例えば、出力軸回転数NO1およびスロットル開度A1の値に対応して、図4上に走行動作点P1(NO1、A1)をプロットすることができる。そこで、例えば3速で走行中の車両において、スロットル開度A、つまりアクセル開度が一定で出力軸回転数NO(=車速)が上昇すると仮定する。これにより、走行動作点P1が図中の右方に移動し、アップシフト変速線L34のライン上に到達する(または越える)と、変速機ECU57は自動変速機5を3速から4速に変速制御する。
このとき、変速制御としては、変速機ECU57が油圧制御回路55を制御し、そのときのAT入力トルクTinに応じた油圧(ライン圧PL)を自動変速機5の第1および第3摩擦クラッチC1、C3に供給する。また、3速走行時にライン圧PLが供給されていた第1摩擦ブレーキB1へのライン圧PLの供給を停止させる。これによって第1および第3摩擦クラッチC1、C3のみが係合されて3速→4速になる。
また、上述したように4速に変速後、スロットル開度Aが一定で出力軸回転数NO(=車速)が下降し、走行動作点P1が図中の左方に移動し、ダウンシフト変速線L43のライン上に到達すると、変速機ECU57は自動変速機5を4速から3速に変速制御する。
このとき、変速制御としては、変速機ECU57が油圧制御回路55を制御し、そのときのAT入力トルクTinに応じたライン圧PLを自動変速機5の第1摩擦クラッチC1および第1摩擦ブレーキB1に供給する。また、4速走行時にライン圧PLが供給されていた第3摩擦クラッチC3へのライン圧PLの供給を停止させて係合を解除する。これによって第1摩擦クラッチC1および第1摩擦ブレーキB1のみが係合されて3速になる。
また、別のパターンとして、例えば、車両が3速、および所定の車速(図4ではNO1)で走行中に、運転者によりアクセルペダルが戻されたとする。図4上にプロットした走行動作点P1について見てみると、この場合、スロットル開度Aが充分減少していれば、走行動作点P1は、図中の下方に移動し、アップシフト変速線L34のテーパ部上に到達する。これにより、変速機ECU57は上記の3速から4速への制御と同様の制御を実施し、自動変速機5をアップシフト変速制御する。
また、上述した4速への変速後において、例えば、車両が、所定の車速(図4ではNO1)で走行中に、運転者によりアクセルペダルが踏込まれた場合に、スロットル開度Aが充分増加すると、4速変速後の走行動作点P1は、上方に移動しダウンシフト変速線L43のテーパ部上に到達する。これにより、変速機ECU57は上記の4速から3速への制御と同様の制御を実施し、自動変速機5をダウンシフト変速制御する。
本実施形態では、上記において別のパターンとして説明した、出力軸回転数NOが略一定の状態において、スロットル開度Aのみが変動したときに、走行動作点P1が上下いずれかの方向に移動して変速線に到達することが可能なテーパ部分を有する変速線のテーパ部における変速制御を対象としている(図4、B部参照)。
ハイブリッドECU7は、パワートレーン装置1全体の運転を制御する制御装置であり、エンジンECU27、電動機ECU47および変速機ECU57の上位装置となっている。すなわち、ハイブリッドECU7は、エンジンECU27、電動機ECU47および変速機ECU57と通信線で接続され、相互に必要となる情報を受け渡している。
4つのECU7、27、47、57はそれぞれ、コンピュータを内蔵してソフトウェアで動作する電子制御装置である。本実施形態の自動変速機の変速制御装置は、変速機ECU57を中心とし、他の3つのECU7、27、47と協調してパワートレーン装置を制御する。
したがって、以降の説明ではこれらを区別せずに、まとめて変速制御装置と呼称する場合がある。図2のエンジン出力トルク−エンジン回転数特性および図4の変速線図は、変速制御装置内に一覧表形式の特性マップや特性計算式の形態で記憶されて適宜利用される。
なお、ハイブリッド車両用パワートレーン装置1は、上述の3つのセンサ22、23、53と電動オイルポンプ33および油圧制御回路55の他に様々なセンサやアクチュエータを有しているが、本発明との関連性が低いので説明は省略する。
変速制御装置のうち本発明にかかる変速機ECU57について詳細に説明する。図1に示すように、変速機ECU57は、発電状態変化判定部57a、仮想スロットル開度演算部57c、変速判断有無判定部57d、実スロットル開度変化判定部57eおよび変速制御部57fを有している。また、仮想スロットル開度演算部57cは、補正エンジントルク演算部57b(以降、補正E/Gトルク演算部57bと記す)を有している。
発電状態変化判定部57aは、発電状態変化の有無を判定するため停止状態のモータ4の発電状態への移行または発電状態のモータ4の発電停止状態への移行が有ったか否かを判定する。このように、発電状態変化を判定することによって、エンジン2にモータ4の負荷がかかったこと、およびエンジン2からモータ4の負荷がなくなったことを検出している。
モータ4の発電状態への移行があり、エンジン2にモータ4の負荷がかかると、エンジン2は、運転者が踏むアクセルペダルの踏込み量(または実スロットル開度Aac)が一定でもエンジントルクが低下し、入力軸51へのAT入力トルクTinは発電トルク分だけ低下する。
また、モータ4の発電停止状態への移行があり、エンジン2からモータ4の負荷がなくなると、エンジン2は、運転者が踏むアクセルペダルの踏込み量(または実スロットル開度Aac)が一定でも入力軸51へのAT入力トルクTinは発電トルク分だけ増加する。このとき、エンジントルクは、運転者が踏むアクセルペダルの踏込み量(または実スロットル開度Aac)に対応した本来のエンジントルクである出力トルクTEに復活する。なお、実スロットル開度Aacとは、運転者が実際に踏込んでいるアクセルペダルの踏込み量に応じて作動された実際のスロットルバルブの開度をいう。
仮想スロットル開度演算部57cは、発電があった場合において、補正E/GトルクTE’に基づき仮想スロットル開度AGを演算する。前述したように、仮想スロットル開度演算部57cは、補正E/Gトルク演算部57bを有し、補正E/Gトルク演算部57bは、仮想スロットル開度演算部57cの一部を構成する。
補正E/Gトルク演算部57bは、エンジン回転数センサ23からエンジン回転数NEの情報を取り込み、スロットルセンサ22からスロットル開度Aの情報を取り込む。そして、図2に示すエンジン2のスロットル開度−エンジン回転数特性から出力トルクTEを演算する。
次に、補正E/Gトルク演算部57bは、モータ4に要求される発電電力に必要な発電トルクTGを次式により演算する。
発電トルクTG=W/(2×π×NE×η)
ここで、Wはモータ4に要求される発電電力であり、電源部45のバッテリの状態および車載の電気負荷の稼働状況を参考にして電動機ECU47が設定する量である。また、πは円周率、ηはモータ4の各エンジン回転数NEにおける機械入力から電気出力への変換効率である。なお、電動機ECU47が発電トルクを演算し、その演算結果を通信により変速機ECU57が受信するように構成してもよい。
そして、補正E/Gトルク演算部57bは、出力トルクTEから発電トルクTGを減算して補正E/GトルクTE’を演算する。発電時の補正E/GトルクTE’は、次式により演算する。
補正E/GトルクTE’=TE−TG
ただし、モータ4の発電がされておらず、発電トルクTG=0のときには、補正E/GトルクTE’=出力トルクTEとなる。
そして、仮想スロットル開度演算部57cは、補正E/GトルクTE’に基づき仮想スロットル開度AGを演算する。仮想スロットル開度AGは、発電時の補正E/GトルクTE’(=AT入力トルクTin’)およびそのときのエンジン回転数NEを図2の出力トルク−エンジン回転数グラフ(マップ)に当てはめ演算したスロットル開度をいう。
スロットル開度の求め方の一例について具体的に説明する。図2において、エンジン回転数をNE2、スロットル開度A2における出力トルクをTE2(=Tin2)、発電時の発電トルクをTG2とすると、補正E/GトルクTE’2=TE2−TG2となる。図2においては、エンジン回転数NE2と補正E/GトルクTE’2とが交差する位置にあるスロットル開度Aの線図であるスロットル開度AG2が、そのときの仮想スロットル開度AGとなる。
なお、このとき、本実施形態においては、実スロットル開度Aacから、仮想スロットル開度演算部57cで求めた仮想スロットル開度AGまでの開度差を発電状態変化時スロットル開度補正量θamとして演算する。発電状態変化時スロットル開度補正量θamは、制御を進めるか否かの判定条件として利用するものである。実スロットル開度Aacは、スロットルセンサ22から取得した実際のスロットル開度Aである。
変速判断有無判定部57dは、発電時には、仮想スロットル開度AGと自動変速機5の出力軸回転数NOと、に基づいて変速判断の有無を判定する。変速判断有無判定部57dでは、図4(図7)の変速線図に基づき変速の有無を判定する。一例として図7の変速線図上に発電状態変化前の実スロットル開度Aacおよび発電状態変化時の仮想スロットル開度AGと自動変速機5の出力軸回転数NOとを当てはめる。なお、出力軸回転数NOは出力軸回転数センサ53から取得する。
発電なし状態から発電状態への移行が生じた場合、スロットル開度Aは発電状態変化前の実スロットル開度Aac(白丸1参照)から発電状態変化後の仮想スロットル開度AG(黒丸1参照)にむかって見かけ上移動(遷移)する。また、発電停止状態への移行が生じた場合には、スロットル開度Aは、発電状態変化前の仮想スロットル開度AG(白丸2参照)から発電状態変化後の実スロットル開度Aac(黒丸2参照)にむかって移動(遷移)する。そして、それぞれの実スロットル開度Aacおよび仮想スロットル開度AGを例えば変速線図7上に適用する。
図7においては、発電状態への移行が生じた場合に、アップシフト変速線(実線)を越えているので、アップシフトの変速判断有りと判定する。また、発電停止状態への移行が生じた場合には、ダウンシフト変速線(破線)を越えているので、ダウンシフトの変速判断有りと判定する。いずれの場合も、変速線に到達しなければ、変速判断無しと判定する。
実スロットル開度変化判定部57eは、変速判断が有りと判定され、その変速がアップシフトである場合には、実スロットル開度Aacが所定時間Ta内に所定量θb以上減少したことを判定する。つまり、運転者が所定時間Ta内に実スロットル開度Aacが所定量θb以上減少するようアクセルペダルの戻し操作を行なったか確認する。
また、変速判断がダウンシフトである場合には、実スロットル開度Aacが所定時間Ta内に所定量θc以上増加したことを判定する。つまり、運転者が所定時間Ta内に所定量θc以上増加するようアクセルペダルの踏込み操作を行なったか確認する。
このような判定を行なう理由について説明する。図7に示す一例のように、発電状態変化によるスロットル開度補正に伴い、変速判断が有りと判定され、それがアップシフトである場合には、スロットル開度Aは、実スロットル開度Aacから仮想の仮想スロットル開度AGに向かって下方に移動し、アップシフト変速線に到達している。つまり、アクセルペダルの操作がなくても、スロットル開度としては見かけ上、減少しており、アクセルペダルを戻し方向に操作したことに相当する動きが生じている。
また、変速判断がダウンシフトである場合には、スロットル開度Aは、仮想スロットル開度AGから実スロットル開度Aacに向かって上方に移動し、ダウンシフト変速線に到達している。つまり、アクセルペダルの操作がなくても、スロットル開度としては見かけ上、増加しており、アクセルペダルを踏込み方向に操作したことに相当する動きが生じている。
そこで、実スロットル開度変化判定部57eでは、アップシフトまたはダウンシフトの変速判断がされた場合におけるスロットル開度Aの仮想の動作方向と一致する方向に運転者が実際にアクセルペダルを作動させたか否かを判定する。このとき、判定は、変速判断が有りとされた後に、後述するタイマTを作動させたときから所定時間Ta内に所定量θb(戻し方向)またはθc(踏込み方向)以上作動させたか否かを判定する。運転者がスロットル開度Aの仮想の作動方向に一致するようアクセルペダルを所定量作動させれば、スロットル開度Aの仮想の作動方向に基づいて変速制御が行なわれても運転者が違和感を感じることが抑制される。このため、実スロットル開度変化判定部57eを設け、運転者がアクセルペダルを作動させたか否かを判定し、条件を満たすアクセルペダルの作動があった場合のみ、実際に変速制御を行なうようにした。
なお、判定に用いる所定量θbまたはθcは事前に実験等により導出されて記憶部に記憶されている。所定量θbまたはθcは、仮想スロットル開度AGおよび実スロットル開度Aacに基づき変速制御が実行された場合においても、自身の行なったアクセルペダル操作によって運転者が違和感を感じなくなる大きさとすることが好ましく、実験等に基づき任意に設定すればよい。
また、所定時間Taは、運転者が車両駆動トルクの過大または不足を体感し、当該過不足感を埋め合わせるためにアクセルペダルを操作するのを待つための猶予時間である。具体的には、運転者が、例えばエンジントルクが不足であると感じ、エンジントルクの増加を意図して、アクセルペダルを踏込む場合がある。また、運転者が、例えばエンジントルクが過大であると感じ、エンジントルクの減少を意図して、アクセルペダルを戻し操作する場合がある。これらの場合、運転者が行なうアクセルペダルの操作は、発電状態変化後に変動した車両駆動トルクに基づくものではなく、発電状態変化直前の路面状態変化等の走行状態変化に対する車両駆動トルクに基づいて実施される。
つまり、運転者が発電状態変化直前の車両駆動トルクについて過大または不足だと感じた後に、発電状態変化が発生する。発電状態変化発生後には、実際の発電状態変化に基づく車両駆動トルクの変化は発生し始めている。しかし、運転者は車両駆動トルクの変化を充分に体感しないまま、発電状態変化直前の車両駆動トルクの過不足感を解消させるために、アクセルペダルの操作を行なう場合がある。本発明においては、このような場合の運転者のアクセルペダル操作の有無を捉えるものである。所定時間Taを設定する方法および長さは任意でよいが、長さは、車両の種類あるいは走行状態により決まるものであり、実験的に任意に設定される。
変速制御部57fは、実スロットル開度変化判定部57eにおいて、実スロットル開度Aacが所定時間Ta内に所定量θbまたはθc以上変化し、条件を満たしたと判定された場合に、変速制御を行なう。変速制御は、仮想スロットル開度AGと自動変速機5の出力軸回転数NOと、に基づいて行なわれる。
図7の例に示すように、発電状態変化が発電状態に移行した場合には、発電状態変化前のスロットル開度Aは実スロットル開度Aac(白丸1)である。発電状態変化後のスロットル開度Aは仮想スロットル開度AG(黒丸1)である。よって、スロットル開度Aの見かけ上の移動は、下方に向かいながらアップシフト変速線を越える動きとなる。これにより、発電開始された場合には、変速制御装置は、越えたアップシフト変速線の変速段に応じたアップシフトの変速制御を行なう。このとき、自動変速機5の摩擦係合要素に供給するライン圧PLは、発電状態変化後のスロットル開度Aである仮想スロットル開度AGに対応するAT入力トルクTin’(=出力トルクTE’)に応じて設定されている。
また、図7の例に示すように、発電状態変化が発電停止状態に移行した場合には、発電状態変化前スロットル開度Aは仮想スロットル開度AG(白丸2)である。発電状態変化後のスロットル開度Aは、実スロットル開度Aac(黒丸2)である。スロットル開度Aの見かけ上の移動は、上方に向かいながらダウンシフト変速線を越える動きとなる。これにより、発電停止状態に移行した場合には、変速制御装置は、越えたダウンシフト変速線の変速段に応じたダウンシフトの変速制御を行なう。このとき、自動変速機5の摩擦係合要素に供給するライン圧PLは、発電状態変化後のスロットル開度Aである実スロットル開度Aacに対応するAT入力トルクTin(=出力トルクTE)に応じて設定されている。
次に、第1の実施形態の自動変速機の変速制御方法について図8に示すフローチャート1に基づいて説明する。なお、以下の説明においては、車両は当初、3速で走行中であるものとして説明する。
工程S10(発電状態変化判定工程)では、発電状態変化判定部57aが、エンジン2の駆動によって走行しているときに、発電状態変化であるモータ4で発電が開始される発電状態への移行、または発電中のモータ4が発電を停止する発電停止状態への移行が有ったか否かを判定する。なお、このとき、発電状態の変化量に基準値を設け、変化量が基準値を越えたときに発電状態の変化があったと判定してもよい。
工程S10で、条件が満たされないとき工程S11に進み、条件が満たされたときには工程S12に進む。工程S11(発電状態変化判定工程)では、本制御サイクルより以前のサイクルにおいて、タイマTが起動済であるか否かが判定される。タイマ用フラグFT=1であればタイマTが起動中であり、運転者のアクセル操作状況判定のため工程S20に移動する。また、タイマ用フラグFT=0であれば、変速制御を実行していないので処理を終了する。
工程S12aから工程S12e(仮想スロットル開度演算工程)では、仮想スロットル開度演算部57c(補正E/Gトルク演算部57bを含む)によって仮想スロットル開度AGを演算する。
具体的には、まず、工程S12aで、補正E/Gトルク演算部57bが、エンジン回転数センサ23からエンジン回転数NEを取得する。また、工程S12bでエンジンECU27からエンジン出力トルクTEを取得する。さらに、工程S12cで上述した演算式に基づき発電トルクTGを演算し取得する。そして工程S12dで、TE’=TE−TGから発電時の補正E/GトルクTE’を演算する。
次に、工程S12eで、仮想スロットル開度演算部57cが、予め記憶されたエンジン回転数NE×エンジン出力トルクTE×スロットル開度Aマップに上記エンジン回転数NEと補正E/GトルクTE’とをあてはめ仮想スロットル開度AGを演算する。なお、この方法は、周知であり、特開2012−61883に開示されている。
工程S13(変速判断有無判定工程)では、変速判断の有無を判定する。上述した変速判断有無判定部57dにおける変速判断の有無判定において、変速判断有りと判定されると工程S14に進む。また、変速判断なしと判定されると工程S11に進み、再度タイマが起動中であるか否かを判定する。
工程S14(変速判断有無判定工程)では、タイマTの作動・非作動を示すタイマ用フラグFTを非作動を示す0とする。ここで、タイマTは、発電状態変化に伴い発生する変速制御を運転者にとって違和感のないものとするために、運転者がアクセル操作を所定時間内に行なうか否かを監視するためのものである。なお、このように処理を行なうことによって、タイマTが作動中(FT=1)に新たな発電状態の変化が発生し、かつ変速判断が有りとされた場合には、工程S14でタイマ用フラグFT=0とされ、新たな処理を開始することができる。
工程S15では、発電状態変化後のスロットル開度補正量θamを次式によって演算する。
θam=Aac−AG
ここで、Aac;実スロットル開度Aac、AG;仮想スロットル開度とする。
具体的には、発電状態変化がモータ4の発電が開始される発電状態への移行である場合には、発電状態変化後における発電時の仮想スロットル開度AGを演算する(図7黒丸1参照)。そして、発電状態変化前の実スロットル開度Aac(図7白丸1参照)から、演算された仮想スロットル開度AGまでの開度差を発電状態変化時スロットル開度補正量θamとする。
また、発電状態変化がモータ4の発電が停止される発電停止状態への移行である場合には、発電状態変化前における発電時の仮想スロットル開度AGを演算する(図7白丸2参照)。そして、演算された仮想スロットル開度AGから発電状態変化後における実スロットル開度Aac(図7黒丸2参照)までの開度差を発電状態変化時スロットル開度補正量θamとする。
工程S16では、演算した発電状態変化時スロットル開度補正量θamが、事前に設定した所定量θa以上であるか否かを判定する。所定量θaは、発電状態変化時スロットル開度補正量θamが測定のばらつき等を含んでいるとした場合においても、発電状態変化前後における仮想スロットル開度AGと実スロットル開度Aacとの間の開度差は充分有ると認定できる大きさに設定することが好ましい。
工程S16では、条件を満たせば工程S18に進み、条件を満たさなければ工程S17に進む。工程S17では工程S13で判定された変速判断に基づき変速制御を行なう。工程S16において、発電状態変化時スロットル開度補正量θamが所定量θaより小さい場合には、発電状態変化に伴うエンジン出力トルクTEの変化が小さいといえるため、直ちに変速を出力しても運転者が違和感を感じない、という判断が可能である。そこで、このような場合には、工程S18には移動せず、工程S17に進んで変速を出力することにより速やかな変速応答が実現できる。
工程S18(実スロットル開度変化判定工程)では、実スロットル開度変化判定部57eによって、実際にタイマをリセットするとともに、タイマ作動をスタートさせる。工程S19(実スロットル開度変化判定工程)では、タイマが作動開始したため、フラグFTを、タイマが作動状態であることを示す1とする。
工程S20(実スロットル開度変化判定工程)では、運転者がアクセルペダルを操作して、実スロットル開度Aacが実際に変化したか否かを確認する。このため、スロットルセンサ22からスロットル開度Aの情報を取り込む。そして、工程S19のタイマスタート時における実スロットル開度Aac(θr1)から現時点の実スロットル開度θr2までの変化角度を示す実スロットル開度変化量Δθr(=θr2−θr1)を演算する。
工程S21(実スロットル開度変化判定工程)では、工程S13において判断された変速がアップシフト変速であるかダウンシフト変速であるか判定する。そして、アップシフト変速であれば工程S22(実スロットル開度変化判定工程)に進む。ダウンシフト変速であれば工程S23(実スロットル開度変化判定工程)に進む。
工程S22(実スロットル開度変化判定工程)では、演算された実スロットル開度変化量Δθrが負の値である、つまり、工程S19のタイマスタート時における実スロットル開度Aacから減少(踏み戻し)しており、且つ実スロットル開度変化量Δθrの絶対値が所定量θb以上であるかを判定する。そして条件を満たせば工程S25(変速制御工程)に進む。条件を満たさなければ、工程S24に進む。
工程S25では、変速判断有無判定工程(S13)でされた変速判断に基づいて変速制御を行なうため、変速制御装置が、自動変速機5の第1摩擦クラッチC1および第1摩擦ブレーキB1にライン圧PLを供給する。供給するライン圧PLの大きさは、本実施形態では、発電状態変化後のAT入力トルクTin’の代用特性として仮想スロットル開度AGに応じた値に設定される。そして、3速→4速の変速に対応する摩擦係合要素(第1摩擦クラッチC1および第1摩擦ブレーキB1)を係合させ、変速(3速→4速)を成立させる。
これによって、運転者は、アップシフトされる可能性があるアクセルペダル操作を行なった後に、実際のアップシフトが実行されるので、違和感を感じることが抑制される。また、AT入力トルクTin’に応じた油圧で、摩擦係合要素(第1摩擦クラッチC1および第1摩擦ブレーキB1)を係合制御するので、係合圧力が過大となって変速ショックが大きくなることもない。そして、工程S25では、フラグFT=0とする。
工程S23(実スロットル開度変化判定工程)では、実スロットル開度変化判定部57eが演算された実スロットル開度変化量Δθrが正の値である、つまり工程S19のタイマTスタート時における実スロットル開度Aacから増加(踏み増し)しており、且つ実スロットル開度変化量Δθr(増加量)の絶対値が所定量θc以上であることを判定する。そして条件を満たせば工程S25(変速制御工程)に進む。条件を満たさなければ、工程S24に進む。
工程S25(変速制御工程)では、変速制御部57fが、変速判断有無判定工程(S13)でされた変速判断に基づいて変速制御を行なうため、変速制御装置が、自動変速機5の第1摩擦クラッチC1および第2摩擦ブレーキB2にライン圧PLを供給する。供給するライン圧PLの大きさは、本実施形態では、発電状態変化後のAT入力トルクTin’の代用特性として仮想スロットル開度AGに応じた値に設定される。そして、3速→2速の変速に対応する摩擦係合要素(第1摩擦クラッチC1および第2摩擦ブレーキB2)を係合させ、変速(3速→2速)を成立させる。
これによって、運転者が行なったダウンシフト変速される可能性があるアクセルペダル操作の後に、実際のダウンシフト変速が実行されるので、運転者が感じる違和感を抑制できる。また、AT入力トルクTinに応じた油圧で、第1摩擦クラッチC1および第2摩擦ブレーキB2を係合制御するので、係合圧力が不足して係合要素に滑りが発生し摩擦熱が発生したり摩耗したりする虞もない。
工程S24(実スロットル開度変化判定工程)では、タイマ計測される時間Tが、所定時間Taを越えたか否かが判定される。所定時間Ta以内であれば、開始(START)に戻り再び処理を行なう。そして、このとき、工程S10で新たな発電状態変化が検出されなければ工程S11に進む。工程S11に至ると、フラグFTが1か0かを確認する。今回の説明においては、タイマ作動中でありフラグFT=1であるので、YESで工程S20まで一気に進む。そして工程S20以降においては、運転者がアクセルペダルを操作して、スロットル開度Aが変化(増減)し、工程S22または工程S23の条件を満たすまで工程S24を経由して処理が繰り返される。また、工程S10で新たな発電状態変化が検出され、且つ工程S13で変速判断有りと判定されると、工程S14に進む。そして、タイマTの作動・非作動を示すタイマ用フラグFTが非作動を示す0とされ、新たな制御が開始される。
このように、実スロットル開度変化判定工程が判定を行なう所定時間Ta内において、工程S10で、新たな発電状態変化が検出されると、前回の旧発電状態変化に基づく処理は中止し、新たな発電状態変化に基づいて処理が実施される。これによって、常に最新の発電状態変化に基づいて適宜、制御が実施できるので、安定的な変速フィーリングおよび車両走行性能が得られる。
なお、上記においては、工程S24で、所定時間Ta以内であれば、開始(START)に戻り再び処理を行なうようになっていた。しかし、これに限らず、工程S24で、所定時間Ta以内であるときには、工程S20に戻って処理を繰り返してもよい。これにより、新たな発電状態変化の検出はできなくなるが、相応の効果は期待できる。
上述の説明から明らかな様に、本実施形態に係る自動変速機5の変速制御装置および変速制御方法では、発電電動機(モータ4)の発電状態変化である停止状態から発電状態への移行、または発電状態から発電停止状態への移行を捉える。発電状態変化が捉えられると、発電状態に応じて補正された仮想スロットル開度AGと自動変速機の出力軸回転数NOとに基づく変速判断の有無が判定される。
変速判断が有りとされた場合、変速制御装置が当該変速判断に基づき変速制御を実行する前に、運転者が、変速判断と一致する方向にアクセルペダルを操作しスロットル開度が所定時間内に所定量θbまたはθc以上変化したか判定する。スロットル開度が所定時間Ta内に所定量θbまたはθc以上変化すれば、変速制御部57fが、変速判断に基づいて自動変速機5を変速制御する。これにより、運転者は、自らのアクセル操作によって変速に対する心構えができた後に、実際の変速が行なわれるため、違和感を感じることが抑制される。
また、自動変速機5は、仮想スロットル開度AG、すなわちAT入力トルクTinに応じた油圧で変速制御がされるので、油圧が過大となり、大きな変速ショックが発生することが抑制される。また、同様の理由により油圧が過小となり自動変速機5の各係合要素に滑りが発生し空走感が生じたり、摩耗または摩擦熱が発生して耐久性が低下したりすることが抑制される。これらにより、良好な変速フィーリングおよび車両走行性能が得られる。さらに、変速制御のための油圧が過大となることがないので、油圧制御回路55が油圧を供給するときにも、オイルポンプロスを低減でき、燃費向上に貢献できる。
また、本実施形態では、実スロットル開度変化判定部57eが判定を行なう所定時間Ta内において、新たな発電状態変化が検出されると、実行中の発電状態変化に基づく制御は中止し、新たな発電状態変化に基づいて制御が実施される。これによって、常に最新の発電状態変化に基づいて制御が実施できるので、安定的な変速フィーリングおよび車両走行性能が得られる。
また、本実施形態では、仮想スロットル開度AGは、発電状態変化時における発電トルクTG変化量とエンジン出力トルクTEとに基づき演算した補正E/GトルクTE’に基づき演算されるので、演算が簡単で制御の負荷も軽減される。
次に、第1の実施形態の変形例1について図9のフローチャート2に基づき説明する。第1の実施形態においては、仮想スロットル開度AGを演算するために、仮想スロットル開度演算部57cが有する補正E/Gトルク演算部57bによって、そのときのエンジン出力トルクTEから発電トルクTGを減算し補正E/GトルクTE’を求めた。その後、仮想スロットル開度演算部57cによって、発電時の補正E/GトルクTE’(=AT入力トルクTin’)およびそのときのエンジン回転数NEを図2の出力トルク−エンジン回転数グラフ(マップ)に当てはめ仮想スロットル開度AGを演算した。
しかし、変形例1においては、仮想スロットル開度AGを、別の方法により求めるものである。よって、第1の実施形態に対して異なる部分である仮想スロットル開度AGの求め方のみについて説明し、同様である他の部分については説明を省略する。
変形例1においては、仮想スロットル開度演算部57cが有する補正E/Gトルク演算部57gによって、自動変速機5のトルクコンバータ特性に基づき自動変速機5に入力されるAT入力トルクTin’を演算して、その値を補正E/GトルクTE’とする。そして、補正E/GトルクTE’に基づき、仮想スロットル開度演算部57cが仮想スロットル開度AGを演算するものである。フローチャート2において変形例1のみに関係するのは、フローチャート1の工程S12aから工程S12eに相当する工程S121から工程S125までの部分である。
工程S121では、補正E/Gトルク演算部57gによって、発電時のエンジン回転数NEを取得する。工程S122では、発電状態変化時のタービン回転数NTを取得する。
次に、工程S123では、工程S121およびS122で取得したエンジン回転数NEおよびタービン回転数NTを、次式に代入し、トルクコンバータ速度比eを求める。
e=NT/NE
工程S124では、予め記憶したタービン回転数NT×タービントルクTt特性(図10参照)にタービン回転数NTをあてはめて求めるタービントルクTtと、上記で求めたトルクコンバータ速度比eを図11に当てはめることによって求まるトルク比tと、を次式に代入し入力トルクTinを演算する。
Tin=Tt/t=TE’
なお、図11は、予め記憶されたトルクコンバータ速度比e×トルクコンバータトルク比tのグラフである。そして、入力トルクTin=補正E/GトルクTE’とする。
工程S125では、仮想スロットル開度演算部57cが、図2に示すエンジンの出力トルク−回転数特性に、上記で求めた補正E/GトルクTE’とエンジン回転数NEと、をあてはめ、仮想スロットル開度AGを求める。このようにして仮想スロットル開度AGを求めることができるとともに、これによっても、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
さらに、第1の実施形態の変形例2について、図12のフローチャート3に基づき説明する。変形例2も変形例1と同様に、第1の実施形態に対して、仮想スロットル開度AGを、さらに別の方法によって求めるものである。よって、第1の実施形態に対して異なる部分である仮想スロットル開度AGの求め方のみについて説明し、同様である他の部分については説明を省略する。
変形例2においても、変形例1と同様に、自動変速機5のトルクコンバータ特性に基づき自動変速機5に入力されるAT入力トルクTin’を演算して、その値を補正E/GトルクTE’とし、補正E/GトルクTE’に基づいて仮想スロットル開度AGを演算するものである。フローチャート3において変形例2のみに関係するのは、フローチャート1の工程S12aから工程S12eに相当する工程S121から工程S123、工程S124a、工程S124bおよび工程S125までの部分である。
工程S121乃至工程S123は、変形例1のフローチャート2と同様である。工程S124aでは、補正E/Gトルク演算部57hが、上記で求めたトルクコンバータ速度比eに基づき決定されるトルクコンバータ容量係数C(図13参照)を演算する。
工程S124bでは、補正E/Gトルク演算部57hが、上記で求めたトルクコンバータ容量係数C(図13参照)と、AT入力回転数(=エンジン回転数NE)と、を次式に代入し入力トルクTinを演算する。
Tin=C×NE2=TE’
そして、このとき、入力トルクTin=補正E/GトルクTE’とする。その後の工程S125は、変形例1のフローチャート2の工程S125と同様である。このようにして仮想スロットル開度AGを求めることができるとともに、これによっても、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
上述の説明から明らかなように、変形例1および2によれば、仮想スロットル開度AGは、発電状態変化時における自動変速機5に入力されるAT入力トルクTinを演算することにより求められる補正E/GトルクTE’に基づき演算されるので、発電変化量がわからない場合でも仮想スロットル開度AGが演算でき、制御性向上に寄与できる。なお、変形例1および2の場合は、自動変速機5のトルクコンバータ特性に基づき仮想スロットル開度AGを演算する。このため、トルクコンバータ特性の変動が生じないトルクコンバータ内のロックアップクラッチLUが係合している状態は除外する。つまり、ロックアップクラッチLUが係合していない状態が、変形例1および2における制御実行時の必要条件となる。
なお、本実施形態においては、自動変速機5の構成を前進6速であるとしたが、これに限らず前進4速でもよいし前進5速でもよい。また、自動変速機をATとして説明したが、これに限らず、マニュアルトランスミッションの変速を自動化したAMT(オートメイテッド マニュアル トランスミッション)の変速制御装置にも適用できる。
また、図2、図4、図5および図7を用いて説明した図式的な演算は、実際には変速制御装置内で特性マップ内の該当するデータを検索したり、特性計算式内の未知数を解いたり、得られた量を基準量と大小比較したりすることによって実行される。
また、次式により発電時の仮想スロットル開度AGを演算してもよい。
仮想スロットル開度AG=A×(Tin/TE)
ここで、AT入力トルクTinを出力トルクTEで除した値はトルク減少率であり、これをスロットル開度Aに乗じて仮想スロットル開度AGとしてもよい。このような簡易な演算でも、正味のAT入力トルクに対応するスロットル開度を意味する仮想スロットル開度AGを演算できる。したがって、変速制御装置の記憶部や演算処理部の負担の増加はごく軽微である。
また、自動変速機5の出力軸52で検出している出力軸回転数NOは、より駆動輪に近い位置で検出する車両走行速度に置き換えてもよい。その他、本発明は様々な応用、変形が可能である。