[実施の形態1]
(システム構成)
図1は、本発明の実施の形態1に従う交流電動機の制御システムの全体構成図である。
図1を参照して、交流電動機M1を制御対象とする制御システム100は、直流電圧発生部10♯と、平滑コンデンサC0と、インバータ14と、制御装置30とを備える。
交流電動機M1は、電動車両(ハイブリッド自動車、電気自動車や燃料電池車等の電気エネルギによって車両駆動力を発生可能な自動車を包括的に表現するものとする)の駆動輪にトルクを発生させるように構成された走行用電動機である。あるいは、この交流電動機M1は、エンジンによって駆動される発電機の機能を持つように構成されてもよく、電動機および発電機の機能を併せ持つように構成されてもよい。さらに、交流電動機M1は、エンジンに対して電動機として動作し、たとえば、エンジン始動を行ない得るようなものとしてハイブリッド自動車に組み込まれるようにしてもよい。すなわち、本実施の形態において、「交流電動機」は、交流駆動の電動機、発電機および電動発電機(モータジェネレータ)を含むものである。
交流電動機M1の出力トルクは、減速機や動力分割機構によって構成される駆動機械系40によって駆動輪50に伝達されて電動車両を走行させる。交流電動機M1は、電動車両の回生制動時には、駆動機械系40を経由して伝達された駆動輪50の回転力によって発電することができる。そしてその発電電力は、PCU20によって直流電源Bの充電電力に変換される。
なお、交流電動機M1の他にエンジン(図示せず)が搭載されたハイブリッド自動車では、このエンジンおよび交流電動機M1を協調的に動作させることによって、必要な電動車両の車両駆動力が発生される。この際には、エンジンの回転による発電電力を用いて、直流電源Bを充電することも可能である。
すなわち、電動車両は、車両駆動力発生用の電動機を搭載する車両を示すものであり、エンジンおよび電動機により車両駆動力を発生するハイブリッド自動車、エンジンを搭載しない電気自動車、燃料電池車等を含む。
直流電圧発生部10♯は、直流電源Bと、システムリレーSR1,SR2と、平滑コンデンサC1と、昇圧コンバータ12とを含む。
直流電源Bは、代表的には、ニッケル水素またはリチウムイオン等の二次電池や電気二重層キャパシタ等の再充電可能な蓄電装置により構成される。直流電源Bが出力する直流電圧VLおよび入出力される直流電流Ibは、電圧センサ10および電流センサ11によってそれぞれ検知される。
システムリレーSR1は、直流電源Bの正極端子および電力線6の間に接続され、システムリレーSR1は、直流電源Bの負極端子および電力線5の間に接続される。システムリレーSR1,SR2は、制御装置30からの信号SEによりオン/オフされる。
昇圧コンバータ12は、リアクトルL1と、電力用半導体スイッチング素子Q1,Q2とを含む。電力用半導体スイッチング素子Q1およびQ2は、電力線7および電力線5の間に直列に接続される。電力用半導体スイッチング素子Q1およびQ2のオンオフは、制御装置30からのスイッチング制御信号S1およびS2によって制御される。
この発明の実施の形態において、電力用半導体スイッチング素子(以下、単に「スイッチング素子」と称する)としては、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、電力用MOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタあるいは、電力用バイポーラトランジスタ等を用いることができる。スイッチング素子Q1,Q2に対しては、逆並列ダイオードD1,D2が配置されている。リアクトルL1は、スイッチング素子Q1およびQ2の接続ノードと電力線6の間に接続される。また、平滑コンデンサC0は、電力線7および電力線5の間に接続される。
平滑コンデンサC0は、電力線7の直流電圧を平滑化する。電圧センサ13は、平滑コンデンサC0の両端の電圧、すなわち、電力線7上の直流電圧VHを検出する。以下では、インバータ14の直流リンク電圧に相当する直流電圧VHを「システム電圧VH」とも称する。一方、電力線6の直流電圧VLは、電圧センサ19によって検出される。電圧センサ13,19によって検出された直流電圧VH,VLは、制御装置30へ入力される。
インバータ14は、電力線7および電力線5の間に並列に設けられる、U相上下アーム15と、V相上下アーム16と、W相上下アーム17とから成る。各相上下アームは、電力線7および電力線5の間に直列接続されたスイッチング素子から構成される。たとえば、U相上下アーム15は、スイッチング素子Q3,Q4から成り、V相上下アーム16は、スイッチング素子Q5,Q6から成り、W相上下アーム17は、スイッチング素子Q7,Q8から成る。また、スイッチング素子Q3〜Q8に対して、逆並列ダイオードD3〜D8がそれぞれ接続されている。スイッチング素子Q3〜Q8のオンオフは、制御装置30からのスイッチング制御信号S3〜S8によって制御される。
代表的には、交流電動機M1は、3相の永久磁石型同期電動機であり、U,V,W相の3つのコイルの一端が中性点に共通接続されて構成される。さらに、各相コイルの他端は、各相上下アーム15〜17のスイッチング素子の中間点と接続されている。
昇圧コンバータ12は、基本的には、PWM制御に用いられる搬送波(図示せず)の1周期に相当するスイッチング周期の各々において、スイッチング素子Q1およびQ2が相補的かつ交互にオンオフするように制御される。昇圧コンバータ12は、スイッチング素子Q1,Q2のオン期間比(デューティ比)を制御することによって、昇圧比(VH/VL)を制御することができる。したがって、直流電圧VL,VHの検出値と電圧指令値VHrとに従って演算されたデューティ比に従って、スイッチング素子Q1,Q2のオンオフが制御される。
搬送波の周波数(キャリア周波数)を上昇させると昇圧コンバータ12でのスイッチング損失が増加する。一方で、キャリア周波数を低下させると、可聴周波数帯でのスイッチングとなることによりユーザに感知される電磁騒音が大きくなる。このため、キャリア周波数については、電磁騒音が抑性できる周波数領域内で、スイッチング損失が過大とならない所定周波数が、デフォルト値として予め定められることが一般的である。
スイッチング素子Q1をスイッチング素子Q2と相補的にオンオフすることにより、リアクトルL1の電流方向に応じて制御を切換えることなく直流電源Bの充電および放電の両方に対応することができる。すなわち、電圧指令値VHrに従うシステム電圧VHの制御を通じて、昇圧コンバータ12は、回生および力行の両方に対応することができる。
なお、交流電動機M1の低出力時には、昇圧コンバータ12による昇圧を行なうことなく、VH=VL(昇圧比=1.0)の状態で交流電動機M1を制御することができる。この場合(以下、「非昇圧モードとも称する」)には、スイッチング素子Q1およびQ2が、オンおよびオフにそれぞれ固定されるので、昇圧コンバータ12での電力損失が低下する。
インバータ14は、交流電動機M1のトルク指令値が正(Tqcom>0)の場合には、平滑コンデンサC0から直流電圧が供給されると制御装置30からのスイッチング制御信号S3〜S8に応答した、スイッチング素子Q3〜Q8のスイッチング動作により直流電圧を交流電圧に変換して正のトルクを出力するように交流電動機M1を駆動する。また、インバータ14は、交流電動機M1のトルク指令値が零の場合(Tqcom=0)には、スイッチング制御信号S3〜S8に応答したスイッチング動作により、直流電圧を交流電圧に変換してトルクが零になるように交流電動機M1を駆動する。これにより、交流電動機M1は、トルク指令値Tqcomによって指定された零または正のトルクを発生するように駆動される。
さらに、制御システム100が搭載された電動車両の回生制動時には、交流電動機M1のトルク指令値Tqcomは負に設定される(Tqcom<0)。この場合には、インバータ14は、スイッチング制御信号S3〜S8に応答したスイッチング動作により、交流電動機M1が発電した交流電圧を直流電圧に変換し、その変換した直流電圧(システム電圧VH)を平滑コンデンサC0を介して昇圧コンバータ12へ供給する。
なお、ここで言う回生制動とは、電動車両を運転するドライバーによるフットブレーキ操作があった場合の回生発電を伴う制動や、フットブレーキを操作しないものの、走行中にアクセルペダルをオフすることで回生発電をさせながら車両を減速(または加速の中止)させることを含む。
電流センサ24は、交流電動機M1に流れる電流(相電流)を検出し、その検出値を制御装置30へ出力する。なお、三相電流iu,iv,iwの瞬時値の和は零であるので、図1に示すように2相分のモータ電流(たとえば、V相電流ivおよびW相電流iw)を検出するように配置してもよい。
回転角センサ(レゾルバ)25は、交流電動機M1のロータ回転角θを検出し、その検出した回転角θを制御装置30へ送出する。制御装置30では、回転角θに基づき交流電動機M1の回転速度Nmtおよび回転角速度ωを算出できる。なお、回転角センサ25については、回転角θを制御装置30にてモータ電圧や電流から直接演算することによって、配置を省略してもよい。
制御装置30は、電子制御ユニット(ECU)により構成され、予め記憶されたプログラムを図示しないCPU(Central Processing Unit)で実行することによるソフトウ
ェア処理および/または専用の電子回路によるハードウェア処理により、制御システム100の動作を制御する。
代表的な機能として、制御装置30は、入力されたトルク指令値Tqcom、電圧センサ19によって検出された直流電圧VL、電流センサ11によって検出された直流電流Ib、電圧センサ13によって検出されたシステム電圧VH、および電流センサ24によって検出されるモータ電流iu(iu=−(iv+iw)),iv,iw、回転角センサ25からの回転角θ等に基づいて、後述する制御方式により交流電動機M1がトルク指令値Tqcomに従ったトルクを出力するように、昇圧コンバータ12およびインバータ14の動作を制御する。
すなわち、制御装置30は、直流電圧VHを電圧指令値VHrに従って上記のように制御するために昇圧コンバータ12のスイッチング制御信号S1,S2を生成する。また、制御装置30は、交流電動機M1の出力トルクをトルク指令値Tqcomに従って制御するためのスイッチング制御信号S3〜S8を生成する。スイッチング制御信号S1〜S8は、昇圧コンバータ12およびインバータ14へ入力される。
(電動機制御における制御モード)
図2は、交流電動機制御のための制御モードを説明する図である。
図2に示すように、本発明の実施の形態に従う交流電動機の制御システムでは、インバータ14による交流電動機制御について3つの制御モードを切換えて使用する。
正弦波PWM制御は、一般的なPWM制御として用いられるものであり、各相アームにおけるスイッチング素子のオンオフを、正弦波状の電圧指令と搬送波(代表的には、三角波)との電圧比較に従って制御する。この結果、上アーム素子のオン期間に対応するハイレベル期間と、下アーム素子のオン期間に対応するローレベル期間との集合について、一定期間内でその基本波成分が正弦波となるようにデューティ比が制御される。
以下、本明細書では、インバータによる直流交流電圧変換における、直流リンク電圧(システム電圧VH)に対する交流電動機M1へ出力される交流電圧(線間電圧の実効値)の比を「変調度」と定義する。正弦波PWM制御の適用は、基本的には、各相の交流電圧振幅(相電圧)がシステム電圧VHと等しくなる状態が限界である。すなわち、正弦波PWM制御では、変調度を0.61倍程度(なお、正弦波状の電圧指令に3n次高調波成分を重畳させた場合には0.7倍程度)までしか高めることができない。
過変調PWM制御は、搬送波の振幅よりも大きい振幅の交流電圧(正弦波状)について、その振幅を拡大した上で、上記正弦波PWM制御と同様のPWM制御を行なうものである。この結果、基本波成分を歪ませることによって、変調度を0.61〜0.78の範囲まで高めることができる。これにより、各相の交流電圧振幅(相電圧)がシステム電圧VHよりも高い領域の一部についても、PWM制御の適用が可能となる。
正弦波PWM制御および過変調PWM制御では、交流電動機M1を流れるモータ電流のフィードバック制御によって、インバータ14から交流電動機M1へ出力される交流電圧が制御される。具体的には、三相のモータ電流をd−q変換したd軸電流Idおよびq軸電流Iqを、トルク指令値Tqcomに従って設定される電流指令値IdcomおよびIqcomに制御するように、交流電動機M1に印加される交流電圧が制御される。なお、お、以下では、正弦波PWM制御および過変調PWM制御の両者を包括する場合に、単にPWM制御とも称することとする。
一方、矩形波電圧制御では、電動機の電気角360度に相当する期間内で、ハイレベル期間およびローレベル期間の比が1:1の矩形波1パルス分をインバータが出力する。これにより、変調度は0.78まで高められる。矩形波電圧制御では、変調度は0.78に固定される。
本実施の形態に従う交流電動機の制御システムでは、交流電動機M1の状態に応じて、上述の正弦波PWM制御、過変調PWM制御および矩形波電圧制御が選択的に適用される。
概略的には、図3に示されるように、交流電動機M1の動作点(トルクおよび回転速度の組合せ)に応じて、制御モードが切換えられる。
図3を参照して、一般的には、低速回転領域から中速回転領域にかけては正弦波PWMの制御が適用され、中速回転領域から高速回転領域にかけては過変調制御が適用される。さらに、より高速回転領域では矩形波電圧制御を適用することによって、交流電動機M1が制御される。ただし、PWM制御(正弦波PWMまたは過変調PWM)および矩形波電圧制御は、変調度に応じて選択される。一方で、同一のモータ印加電圧の下でも、システム電圧VHが変化すると変調度が変化することによって、適用される制御モードが変わってくることが理解される。
図4は、各制御モードにおける交流電動機M1の電流位相を示すグラフである。
図4には、同一の直流電圧VHに対して、出力トルクを徐々に高めていったときの電流位相の変化の軌跡が例示されている。図4の横軸はd軸電流Idを示しており、図4の縦軸はq軸電流Iqを示している。電流位相φiは、下記(1)式で定義される。
正弦波PWM制御および過変調PWM制御では、電流位相φiは、最適電流位相ライン42上となるように決定される。最適電流位相ライン42は、Id−Iq平面上で、モータ電流の同一振幅に対して出力トルクが最大となる電流位相の集合として描かれる。すなわち、最適電流位相ライン42は、Id−Iq平面上の等トルク線上における交流電動機M1での損失が参照となる電流位相点の集合に相当する。最適電流位相ライン42は、予め実験ないしシミュレーションによって求めることができる。
PWM制御での電流フィードバック制御におけるd軸およびq軸の電流指令値(Idcom,Iqcom)は、トルク指令値Tqcomに対応する等トルク線と最適電流位相ライン42との交点に対応するd軸およびq軸の電流値に設定される。たとえば、各トルク指令値に対応させて最適電流位相ライン42上の電流指令値Idcom,Iqcomの組み合わせを決定するPWM制御用のマップを予め作成して、制御装置30内に記憶させておくことができる。
図4では、零点位置を起点とするId,Iqの組み合わせによる電流ベクトルの先端位置(電流位相)が、出力トルクの増加に応じて変化する軌跡を矢印で示している。出力トルクが増加するのに応じて、電流の大きさ(Id−Iq平面上での電流ベクトルの大きさに相当)が増加する。正弦波PWM制御および過変調PWM制御では、電流指令値Idcom,Iqcomの設定により、電流位相が最適電流位相ライン42上に制御される。トルク指令値がさらに増加し、変調度が0.78に達すると矩形波電圧制御が適用される。
矩形波電圧制御では、弱め界磁制御を行なうために、電圧位相φvを大きくすることにより出力トルクを増加させるのに従って、界磁電流であるd軸電流Idの絶対値が増加する。この結果、電流ベクトルの先端位置(電流位相)が、最適電流位相ライン42から図中左側(進角側)に離れることによって、交流電動機M1の損失が増加する。このように、矩形波電圧制御では、インバータ14によって交流電動機M1の電流位相を直接制御することができなくなる。
反対に、同一のシステム電圧VHの下で、電圧位相φvを小さくすることにより出力トルクを減少していくと、電流位相φiは図中右側(遅角側)へ変化する。そして、矩形波電圧制御時に電流位相φiが、モード切換ライン43よりも進角側になると、矩形波電圧制御からPWM制御への遷移が指示される。たとえば、モード切換ライン43は、φi=φth(基準値)となる電流位相点の集合として描かれる。言い換えると、電流位相φiがφth(基準値)よりも小さくなると、矩形波電圧制御からPWM制御への遷移が指示される。
図5には、PWM制御および矩形波電圧制御の間のモード切換を説明するための遷移図が示される。
図5を参照して、PWM制御(正弦波PWMまたは過変調PWM制御)の適用時には、電流フィードバック制御によって求められた交流電圧の振幅に従って、変調度が演算される。たとえば、d軸およびq軸の電流フィードバック制御によるd軸およびq軸の電圧指令値Vd♯,Vq♯を用いると、下記(2)式に従って変調度Kmdを演算できることが知られている。
Kmd=(Vd♯2+Vq♯2)1/2/VH ・・・(2)
PWM制御の適用時に、変調度Kmdが0.78よりも大きくなると、矩形波電圧制御モードへの遷移が指示される。
矩形波電圧制御では、出力トルクの低下に応じて電流位相φiが図4での右側(遅角側)へ変化する。そして、電流位相φiが基準値φthよりも小さくなると、すなわち、図6に示したモード切換ライン43よりも遅角側の位相領域に入ると、PWM制御モードへの遷移が指示される。
交流電動機M1の同一出力に対してシステム電圧VHを変えると、PWM制御における変調度が変化する。また、矩形波電圧制御では、当該出力を得るための電圧位相φvが変化するのに付随して電流位相φiが変化する。したがって、システム電圧VHに応じて、制御システムでの損失が変化する。
図6は、3つの制御モードを通じたシステム電圧VHの変化に応じた制御システムの挙動を説明するための概念図である。図6には、システム電圧VHを変化させた上で、交流電動機M1の出力(回転速度×トルク)を同一とするための挙動が示される。
図6(a)には、3つの制御モードを通じたシステム電圧VHと制御システムの全体損失の関係が示される。図6(b)には、システム電圧VHと変調度Kmdとの関係が示される。図6(c)には、システム電圧VHとモータ電流位相との関係が示されている。
図6(a)〜(c)を参照して、正弦波PWM制御および過変調PWM制御が適用される領域では、システム電圧VHを低下して変調度を上昇させる程、損失が減少する。そして、矩形波電圧制御が適用される境界の動作点44において、昇圧コンバータ12およびインバータ14の損失が最小となるため、システム全体の損失も最小となる。
矩形波電圧制御が適用される領域では、変調度は0.78に固定されるため、システム電圧VHを低下させる程、同一出力を得るための電圧位相φvが大きくなる。これに付随して、図4にも示したように、弱め界磁電流の増加によって、電流位相が最適電流位相ライン42(図4)から遠ざかるため、交流電動機M1での損失増加によってシステム損失が増加する。すなわち、矩形波電圧制御では、システム電圧VHが低下するほどシステムの全体損失が増加することになる。
逆に、システム電圧VHを高くすることによりPWM制御を適用すると、交流電動機M1電流位相は、最適電流位相ライン(図4)に沿って制御できる。しかしながら、PWM制御で交流電動機M1を動作させると、交流電動機M1の損失は低減できる一方で、スイッチング回数の増加によってインバータ14の損失が増加することになる。
したがって、交流電動機M1を含む制御システム全体の損失が最小となるのは、矩形波電圧制御が適用され、かつ、交流電動機M1の電流位相が最適電流位相ライン42(図4)の近傍にあるときである。すなわち、システム電圧VHは、このような状態となるように設定することが好ましい。
(システム電圧の変動要因)
上述のように、本実施の形態1による交流電動機の制御装置では、矩形波電圧制御が高頻度で適用されるようにシステム電圧VHが設定される。しかしながら、矩形波電圧制御では、交流電動機M1へ印加される交流電圧振幅は固定されるので、電圧の振幅および位相の両方を制御できるPWM制御と比較すると、トルク制御性は低下する。このため、矩形波電圧制御では、システム電圧VHの変動に対するトルク制御性は、PWM制御よりも低下する。このため、システム電圧VHが変動すると、電圧変動の影響を取り切れずに、トルクにも変動が残る可能性がある。
一方で、システム電圧VHは、昇圧コンバータ12の通過電流(リアクトルL1の通過電流)が零近傍のときに制御性が低下する。
図7および図8は、図1に示した昇圧コンバータ12による制御動作を説明するための波形図である。
図7を参照して、昇圧コンバータ12のスイッチング素子Q1,Q2のオンオフは、デューティ指令値Vdtと搬送波300との電圧比較に従って制御される。たとえば、デューティ指令値Vdtは、システム電圧VHの検出値と電圧指令値VHrとの偏差に基づくフィードバック制御および/または直流電圧VLと電圧指令値VHrとの電圧比に基づくフィードフォワード制御等によって求められる。
デューティ指令値Vdtが搬送波300の電圧よりも高いときには、PWM指令電圧Vpwm*がハイレベルに設定される。一方で、デューティ指令値Vdtが搬送波300の電圧よりも低いときには、PWM指令電圧Vpwm*がローレベルに設定される。Vpwm*のハイレベル期間には、上アーム素子であるスイッチング素子Q1がオンされる一方で、下アーム素子であるスイッチング素子Q2がオフされる。これに対して、Vpwm*のローレベル期間には、下アーム素子であるスイッチング素子Q2がオンされる一方で、上アーム素子であるスイッチング素子Q1がオフされる。
搬送波300のキャリア周期Tcに対するVpwm*のハイレベル期間Thの比をDhとすると、昇圧コンバータ12における昇圧比は、下記(3)式で示される。
VH=(1/Dh)・VL …(3)
デューティ指令値Vdtが高くなる程、Thが小さくなるため昇圧比が大きくなる。一方で、Vdt=0(デューティ比0%)のときには、Dh=1.0となって上アーム素子Q1がオン固定されるので、VH=VLとなる。
図8に示されるように、昇圧コンバータ12を実際に動作させる場合には、スイッチング素子Q1およびQ2の一方のターンオフと、他方のターンオンとが重なって電力線7および5の間に短絡経路が形成されることを防止するために、デッドタイムDTが設けられる。
図8を参照して、時刻t1において、Vpwm*がローレベルからハイレベルに変化すると、スイッチング素子Q2をオフするためにスイッチング制御信号S2がハイレベルからローレベルに変化する。そして、スイッチング制御信号S1は、時刻t1からデッドタイムDTが経過した時刻t2において、スイッチング素子Q1をオンするためにローレベルからハイレベルに変化する。
同様に、時刻t3において、Vpwm*がハイレベルからローレベルに変化すると、スイッチング素子Q1をオフするためにスイッチング制御信号S1がハイレベルからローレベルに変化する。そして、スイッチング制御信号S2は、時刻t3からデッドタイムDTが経過した時刻t4において、スイッチング素子Q2をオンするためにローレベルからハイレベルに変化する。
再び図1を参照して、スイッチング素子Q1およびQ2がオフされるデッドタイム期間では、リアクトルL1の通過電流IL(以下、リアクトル電流ILとも称する)の向きに応じて、回路挙動が異なる。具体的には、デッドタイム期間において、IL>0であるときには、ダイオードD1が導通するため、電流挙動はスイッチング素子Q2のオフ期間と同等となる一方で、IL<0であるときには、ダイオードD2が導通するため、電流挙動はスイッチング素子Q2のオン期間と同等となる。したがって、デッドタイム期間では、リアクトル電流ILの向きに依存して、システム電圧VHの挙動(上昇/下降)が変化する。
再び図8を参照して、IL>0のときには、実際のVpwmのハイレベル期間Th1は、デューティ指令値Vdtに従ったVpwm*のハイレベル期間と同等となる。一方で、IL<0のときには、スイッチング制御信号S2をローレベルにしてもスイッチング素子Q2がオンし続けるような電流経路が形成されるため、実際のVpwmのハイレベル期間Th2は、Vpwm*のハイレベル期間よりも短くなる。したがって、システム電圧VHは、デューティ指令値Vdtに従った昇圧比よりも上昇する。
この結果、ILが零近傍のときは、ILの向きが切り替わる際に昇圧比が変化するため、デッドタイムの影響によってシステム電圧VHの変動が大きくなる虞がある。特に、ILの向きが周期的に変化することにより、システム電圧VHも周期的に変動する虞がある。この際に、トルク制御性が相対的に低い矩形波電圧制御の適用時には、システム電圧VHと同様の周期的な変動が、交流電動機M1の出力トルクにも発生することが懸念される。もし、このトルク変動の周波数が、図1に示した駆動機械系40の固有共振周波数と合致すると、トルク変動が増幅されて、車両の振動につながる虞がある。
なお、駆動機械系40の共振周波数は、物理的な機器構成(寸法形状および重量)によって決まる固有値であり、設計シミュレーションや実機実験等によって予め把握することができる。
特許文献1に記載されるように、図7,8に示した搬送波300の周波数(キャリア周波数)を低下させれば、キャリア周期Tcに対するデッドタイムDTの比が低下するため、デッドタイム期間でのリアクトル電流ILの向きによる昇圧比の変動を抑制することができる。これにより、デッドタイムの影響によるシステム電圧VHの変動、およびこれに起因する交流電動機M1のトルク変動を低減することが期待できる。このため、車両の振動につながる虞がある、駆動機械系40の共振周波数と一致したトルク変動の発生を抑性することが期待できる。しかしながら、キャリア周波数の低下により電磁騒音の発生という新たな課題が生じる虞があるため、車室内の静粛性が低下することが懸念される。
(車両の振動抑性のための制御)
本実施の形態に従う交流電動機の制御装置では、以下に説明するように、昇圧コンバータ12の通過電流(リアクトル電流IL)が零近傍であるときに、駆動機械系40の共振周波数とは異なる周波数でシステム電圧VHを積極的に変動させることによって、交流電動機M1に共振周波数と合致した出力トルク変動が発生することを防止する。
図9は、本発明の実施の形態1に従う交流電動機の制御システムにおけるシステム電圧の制御構成を説明するための機能ブロック図である。図9を含めて、以下で説明される機能ブロック図に記載されたモータ制御のための各機能ブロックは、制御装置30によるハードウェア的あるいはソフトウェア的な処理によって実現される。
図9を参照して、電圧指令値設定部200は、VH指令値設定部210と、VH指令値補正部220と、演算部230とを含む。電圧指令値設定部200は、システム電圧VHの電圧指令値VHrを設定する。VH制御部250は、電圧指令値VHrに従ってシステム電圧VHが制御されるように、昇圧コンバータ12のスイッチング制御信号S1,S2を生成する。
VH指令値設定部210は、交流電動機M1の回転速度Nmtおよびトルク指令値Tqcomに基づいて、予め設定されたマップを参照して、電圧指令値のベース指令値VH*を生成する。
PWM制御時において、ベース指令値VH*は、交流電動機M1の動作状態(回転速度およびトルク)に応じて必要となるモータ電圧の振幅に基づいて、変調度Kmdが目標値に維持されるように設定することができる。このようにすると、図6(a)で説明したように、システム全体の損失を低減するようにシステム電圧VHを設定することができる。
矩形波電圧制御時には、ベース指令値VH*は、交流電動機M1の動作状態(回転速度およびトルク)に加えて、交流電動機M1の電流位相をさらに考慮して設定することができる。たとえば、図4に示したd−q平面上の電流位相φiが最適電流位相ライン42から進角側に遠ざかると、システム電圧VHを上昇することによって、損失の低下を図ることができる。
VH指令値補正部220は、リアクトル電流ILが零近傍であるとき(たとえば、|IL|<It)に、駆動機械系40の共振周波数とは異なる周波数で電圧指令値VHrを強制的に変化させるための電圧補正値ΔVを生成する。基準値Itは、デッドタイムがVH制御に与える影響を考慮した上で、昇圧コンバータ12のシミューションないし実機実験結果に基づいて予め設定することができる。
本実施の形態1に従うシステム構成(図1)では、直流電源Bの電流とリアクトル電流ILとは等しくなるので、直流電源Bに設けられた電流センサ11によって検出された電流Ibに基づいて、|Ib|と基準値Itとの比較に従って、リアクトル電流ILが零近傍であるか否かを判定することができる。
図10を参照して、電圧補正値ΔVは、駆動機械系40の共振周波数の逆数で示される共振周期とは一致しない周期でランダムに設定される。なお、電圧補正値ΔVは、DC成分を持たないように、積分値が0となるように設定される。電圧補正値ΔVの周期は、図10に示すようにランダムであってもよく、共振周期(あるいは、共振周波数およびその整数倍)と異なっていれば、一定であってもよい。車両の振動を抑制する観点からは、高い周波数(少なくとも、共振周波数よりも高い領域)でシステム電圧VHを変動させることが好ましい。
再び図9を参照して、VH指令値補正部220は、|IL|≧Itのときには、電圧補正値ΔV=0に固定する。演算部230は、VH指令値設定部210からのベース指令値VH*および、VH指令値補正部220からの電圧補正値ΔVの和に従って、電圧指令値VHrを設定する(VHr=VH*+ΔVH)。
VH制御部250は、図7および図8に説明したように、システム電圧VHを電圧指令値VHrに制御するためのデューティ比に従ったPWM制御によって、昇圧コンバータ12のスイッチング制御信号S1,S2を生成する。VH制御部250は、リアクトル電流ILが零近傍であるとき(たとえば、|IL|<It)であっても、キャリア周波数を低下させることがない。したがって、昇圧コンバータ12からの電磁騒音は、予め設計されたキャリア周波数の最適値に従って、低いレベルに維持できる。
図11は、実施の形態1に従うシステム電圧の制御処理を説明するためのフローチャートである。図11に示された制御処理が、制御装置30によって所定周期で実行されることにより、図9に示した電圧指令値設定部200の機能が実現される。
図11を参照して、制御装置30は、ステップS100により、交流電動機M1のトルク指令値Tqcomおよび回転速度Nmtに基づいて、システム電圧VHのベース指令値VH*を算出する。ステップS100による処理によって、図9のVH指令値設定部210による機能が実現される。
制御装置30は、ステップS110により、昇圧コンバータ12のリアクトル電流ILの絶対値が、デッドタイムの影響によって電圧変動が生じるようなレベルまで低下している否かが判定される。具体的には、電流センサ11による検出値に基づいて、|Ib|が基準値より小さいか否かが判定される。
制御装置30は、|Ib|が基準値Itより小さいとき(S110のYES判定時)には、ステップS120に処理を進めて、図10のように電圧補正値ΔVを設定する。一方で、制御装置30は、|Ib|が基準値以上であるとき(S110のNO判定時)には、ステップS130に処理を進めて、ΔV=0に設定する。ステップS110〜S130による処理によって、図9のVH指令値補正部220による機能が実現される。
さらに、制御装置30は、ステップS140により、ステップS100で算出されたベース指令値VH*と、ステップS110〜S130で設定された電圧補正値ΔVとの和に従って電圧指令値VHrを算出する。ステップS140による処理によって、図9の演算部230の機能が実現される。
制御装置30は、ステップS150により、ステップS140で設定された電圧指令値VHrに従ってシステム電圧VHを制御するように、昇圧コンバータ12を制御する。ステップS150による処理によって、図9のVH制御部250の機能が実現される。
本実施の形態1に従う交流電動機の制御システムでは、昇圧コンバータ12の通過電流(直流電源Bの電流Ib)の絶対値が小さく、デッドタイムの影響によりシステム電圧VHの制御性が低下することが懸念される場面では、電圧指令値VHrを変動させることによって、システム電圧を、駆動機械系40の共振周期とは異なる周期で積極的に変動させることができる。これにより、システム電圧VHに共振周波数と合致した周期の電圧変動が生じることを防止することを通じて、交流電動機M1の出力トルクに、当該共振周波数と合致した周波数の変動が生じることを防止できる。この結果、特許文献1の様に昇圧コンバータ12のキャリア周波数を低下させることなく、電動車両の車室内の静粛性を維持しつつ車両の振動を抑制することが可能となる。
なお、VH指令値補正部220(図9)および図11のステップS110〜S130において、矩形波電圧制御の適用時であることを、電圧補正値ΔVを設定するための条件に加えてもよい。この場合には、昇圧コンバータ12の通過電流(直流電源Bの電流Ib)の絶対値が小さいためシステム電圧VHの制御性の低下が懸念され、かつ、トルク制御性が相対的に低い矩形波電圧制御の適用時に限定して、車両の振動を抑性するためにシステム電圧VHが強制的に変動される。
[実施の形態2]
実施の形態2では、実施の形態1と異なるシステム電圧の制御手法を採用する。すなわち、システム構成については、実施の形態1と同様であるので、詳細な説明は繰り返さない。
図12は、本発明の実施の形態2に従う交流電動機の制御システムにおけるシステム電圧の制御構成を説明するための機能ブロック図である。
図12を参照して、実施の形態2に従う構成では、VH制御部250は、偏差演算部252と、制御演算部255と、ゲイン補正部254と、PWM変換部258とを含む。
偏差演算部252は、電圧指令値VHrと、システム電圧VHの検出値との電圧偏差ΔVを算出する。実施の形態2では、電圧指令値VHrは、図9に示したVH指令値設定部によるベース指令値VH*に設定される。すなわち、図9に示したVH指令値補正部220は配置されないため、電圧指令値VHrは、周期的な変動成分を有さないように設定されている。
制御演算部255は、電圧偏差ΔVに基づくフィードバック制御演算によって、デューティ指令値Vdtを算出する。制御演算部255による制御演算(PI演算)は、たとえば下記(4)式により示される。
Vdt=Kp・ΔV+Ki・Σ(ΔV) …(4)
あるいは、直流電圧VLと電圧指令値VHrとの電圧比に基づくフィードフォワード制御演算をさらに組み合わせて、デューティ指令値Vdtを算出することも可能である。
ゲイン補正部254は、VH指令値補正部220(図9)と同様の判定に従って、リアクトル電流ILが零近傍であるとき(たとえば、|IL|<It)に、駆動機械系40の共振周波数とは異なる周波数で制御ゲインKp,Kiの少なくとも一方を強制的に変化させる。
たとえば、図13に示すように、|IL|<Itが不成立である、時刻t1以前および時刻t2以降において、制御ゲイン(Kpおよび/またはKi)は、デフォルト値K0に設定される。デフォルト値K0は、フィードバック系の安定性および制御応答性を考慮して予め調整された最適値である。
|IL|<Itが成立する時刻t1〜t2では、制御ゲイン(Kpおよび/またはKi)は、デフォルト値K0に対して、駆動機械系40の共振周波数の逆数で示される共振周期とは一致しない周期の変動成分を付加するように設定される。当該変動成分は、DC成分を持たないように、すなわち、積分値が0となるように設定される。変動成分の周期は、図13に示すようにランダムであってもよく、共振周期(あるいは、共振周波数およびその整数倍)と異なっていれば、一定であってもよい。上述のように、制御ゲインを変動させる周波数についても、車両の振動を抑制する観点からは、高い周波数(少なくとも、共振周波数よりも高い領域)であることが好ましい。
再び図12を参照して、制御演算部255は、|IL|<Itのときには、ゲイン補正部254によって補正された制御ゲイン(Kpおよび/またはKi)を用いた制御演算(式(4))によって、デューティ指令値Vdtを算出する。一方で、|IL|<Itのとき(通常時)には、デフォルト値に設定された制御ゲインを用いた制御演算に(式(4)によって、デューティ指令値Vdtを算出する。
PWM変換部258は、図7および図8で説明した制御動作により、デューティ指令値VdtをPWM変換することによって、スイッチング制御信号S1,S2を生成する。
図14は、実施の形態2に従うシステム電圧の制御処理を説明するためのフローチャートである。図14に示された制御処理が、制御装置30によって所定周期で実行されることにより、図12に示したVH制御部250の機能が実現される。
図14を参照して、制御装置30は、ステップS200により、図11のステップS110と同様に、昇圧コンバータ12のリアクトル電流ILに相当する直流電流Ibの絶対値が、デッドタイムの影響によって電圧変動が生じるようなレベルまで低下している否かを判定する。
制御装置30は、|Ib|が基準値Itより小さいとき(S200のYES判定時)には、ステップS210に処理を進めて、図13での時刻t1〜t2のように制御演算に用いられる制御ゲインの値を変動される。一方で、制御装置30は、|Ib|が基準値以上であるとき(S200のNO判定時)には、ステップS220に処理を進めて、制御ゲインの値をデフォルト値に維持する。ステップS200〜S220による処理によって、図12のゲイン補正部254による機能が実現される。
さらに、制御装置30は、ステップS230により、S200〜S220によって設定された制御ゲインを用いた制御演算によって、電圧指令値VHr(VHr=VH*)に従ってシステム電圧VHを制御するように、昇圧コンバータ12を制御する。ステップS150による処理によって、図12の偏差演算部252、制御演算部255およびPWM変換部258の機能が実現される。
本実施の形態2に従う交流電動機の制御システムでは、昇圧コンバータ12の通過電流(直流電源Bの電流Ib)の絶対値が小さく、デッドタイムの影響によりシステム電圧VHの制御性が低下することが懸念される場面では、制御ゲイン値を変動させることにより、実施の形態1と同様に、システム電圧VHを駆動機械系40の共振周期とは異なる周期で変動させることができる。これにより、交流電動機M1の出力トルクに、当該共振周波数と合致した周波数の変動が生じることを防止することによって、昇圧コンバータ12のキャリア周波数を低下させることなく、電動車両の車室内の静粛性を維持しつつ車両の振動を抑制することが可能となる。
なお、ゲイン補正部254(図12)および図14のステップS200〜S220において、矩形波電圧制御の適用時であることを、制御ゲイン値を変動するための条件に加えてもよい。この場合には、昇圧コンバータ12の通過電流(直流電源Bの電流Ib)の絶対値が小さいためシステム電圧VHの制御性の低下が懸念され、かつ、トルク制御性が相対的に低い矩形波電圧制御の適用時に限定して、車両の振動の抑性のためにシステム電圧VHが強制的に変動される。
また、本実施の形態1および2に従う交流電動機の制御システムは、コンバータによって直流リンク電圧(システム電圧VH)が可変制御されるインバータによって、矩形波電圧制御の適用を伴って交流電動機を制御する構成であれば、駆動機械系を含むパワートレーンの構成を限定することなく任意の電動車両に対して適用可能である。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。