以下、いわゆる2モータスプリット方式のハイブリッド車両用の駆動装置に本発明を適用した場合を例として、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。このハイブリッド車両は、駆動力源として不図示の内燃機関と一対の電動機(交流電動機)MG1,MG2とを備える。また、ハイブリッド車両の駆動装置は、当該内燃機関の出力を、第1電動機MG1側と、車輪及び第2電動機MG2側とに分配する動力分配用の差動歯車装置(不図示)を備えて構成されている。本実施形態において、電動機駆動装置2は、2つの電動機MG1,MG2を駆動するための装置として構成されている。ここで、第1電動機MG1及び第2電動機MG2は、いずれも3相交流により動作する交流電動機であって、埋込磁石構造の同期電動機(IPMSM : interior permanent magnet synchronous motor)である。これらの電動機MG1,MG2は、必要に応じて電動機としても発電機としても動作する。
電動機駆動装置2は、第1電動機MG1に対応する第1インバータ5Aと、第2電動機MG2に対応する第2インバータ5Bとの2つのインバータを備えている。また、電動機駆動装置2は、2つのインバータ5(5A,5B)に共通の1つのコンバータ4を備えている。コンバータ4は、2つのインバータ5(5A,5B)に共通のシステム電圧Vdcとバッテリ3の電圧Vbとの間で直流電力(直流電圧)を変換する。電動機駆動装置2は、バッテリ3と、バッテリ3の正負両極間電圧Vbを平滑化する第1平滑コンデンサQ1と、コンバータ4とインバータ5との間のシステム電圧Vdcを平滑化する第2平滑コンデンサQ2とを備えている。バッテリ3は、コンバータ4及び2つのインバータ5A,5Bを介して電動機MG1,MG2に電力を供給可能であると共に、電動機MG1,MG2が発電して得られた電力を蓄電可能に構成されている。このようなバッテリ3としては、例えば、ニッケル水素二次電池やリチウムイオン二次電池等の各種二次電池、キャパシタ、或いはこれらの組合せ等が用いられる。バッテリ3の正負両極間電圧である電源電圧Vbは、電源電圧センサ61により検出されて制御装置1へ出力される。
コンバータ4は、バッテリ3からの電源電圧Vbを変換して所望のシステム電圧Vdcを生成するDC−DCコンバータとして構成されている。なお、電動機MG1,MG2が発電機として機能する際には、インバータ5からのシステム電圧Vdcを降圧してバッテリ3に供給し、当該バッテリ3を充電する。コンバータ4は、リアクトルL1と、電圧変換用スイッチング素子E1,E2と、を備えている。ここでは、コンバータ4は、電圧変換用スイッチング素子として、直列に接続された一対の上アーム素子E1及び下アーム素子E2を備えている。これらの電圧変換用スイッチング素子E1,E2として、本例では、IGBT(insulated gate bipolar transistor)を用いる。
上アーム素子E1のエミッタと下アーム素子E2のコレクタとが、リアクトルL1を介してバッテリ3の正極端子に接続されている。また、上アーム素子E1のコレクタは、コンバータ4による昇圧後の電圧が供給されるシステム電圧線67に接続され、下アーム素子E2のエミッタは、バッテリ3の負極端子につながる負極線68に接続されている。また、各電圧変換用スイッチング素子E1,E2には、それぞれフライホイールダイオードD1、D2が並列接続されている。また、少なくとも1つのスイッチング素子には、サーミスタなどの不図示の温度センサが備えられる。なお、電圧変換用スイッチング素子E1,E2としては、IGBTの他に、バイポーラ型、電界効果型、MOS型など種々の構造のパワートランジスタを用いることができる。これは、下記に説明するインバータ5のスイッチング素子E3〜E14についても同様である。
電圧変換用スイッチング素子E1,E2のそれぞれは、制御装置1から出力される電圧変換制御信号S1、S2に従って動作する。本実施形態では、電圧変換制御信号S1、S2は、各スイッチング素子E1,E2のスイッチングを制御するスイッチング制御信号、より詳しくは、各スイッチング素子E1,E2のゲートを駆動するゲート駆動信号である。これにより、コンバータ4は、バッテリ3から供給された電源電圧Vbを所望のシステム電圧Vdcまで昇圧し、システム電圧線67を介して第1インバータ5A及び第2インバータ5Bに供給する。コンバータ4により生成されるシステム電圧Vdcは、システム電圧センサ62により検出されて制御装置1へ出力される。なお、コンバータ4による昇圧を行わない場合には、システム電圧Vdcは電源電圧Vbと等しくなる。
第1インバータ5Aは、システム電圧Vdcを有する直流電力を交流電力に変換して第1電動機MG1に供給するための装置である。第1インバータ5Aは、ブリッジ回路により構成され、複数組のスイッチング素子E3〜E8を備えている。ここでは、第1インバータ5Aは、第1電動機MG1の各相(U相、V相、W相の3相)のそれぞれのレッグについて一対のスイッチング素子、具体的には、U相用上アーム素子E3及びU相用下アーム素子E4、V相用上アーム素子E5及びV相用下アーム素子E6、並びにW相用上アーム素子E7及びW相用下アーム素子E8を備えている。これらのスイッチング素子E3〜E8として、本例ではIGBTを用いる。各相用の上アーム素子E3,E5,E7のエミッタと下アーム素子E4,E6,E8のコレクタとが、第1電動機MG1の各相のコイルにそれぞれ接続されている。また、各相用の上アーム素子E3,E5,E7のコレクタはシステム電圧線67に接続され、各相用の下アーム素子E4,E6,E8のエミッタは負極線68に接続されている。また、各スイッチング素子E3〜E8には、それぞれフライホイールダイオードD3〜D8が並列接続されている。また、少なくとも各相のレッグを構成する1つのスイッチング素子には、サーミスタなどの不図示の温度センサが備えられる。
スイッチング素子E3〜E8のそれぞれは、制御装置1から出力される第1インバータ制御信号S3〜S8に従って動作する。本実施形態では、第1インバータ制御信号S3〜S8は、各スイッチング素子E3〜E8のスイッチングを制御するスイッチング制御信号、より詳しくは、各スイッチング素子E3〜E8のゲートを駆動するゲート駆動信号である。これにより、第1インバータ5Aは、システム電圧Vdcのシステム電源の直流電力を交流電力に変換して第1電動機MG1に供給し、目標トルクTMに応じたトルクを第1電動機MG1に出力させる。この際、各スイッチング素子E3〜E8は、第1インバータ制御信号S3〜S8に従って、後述するパルス幅変調制御モード(以下適宜「PWM制御モード」と称す。)CPや矩形波制御モードCS等の制御モードに従ったスイッチング動作を行う。また、第1インバータ5Aは、第1電動機MG1が発電機として機能する際には、発電により得られた交流電力を直流電力に変換してシステム電圧線67を介してコンバータ4に供給する。
第2インバータ5Bは、システム電圧Vdcを有する直流電力を交流電力に変換して第2電動機MG2に供給するための装置である。第2インバータ5Bは、上述した第1インバータ5Aとほぼ同じ構成を有したブリッジ回路であり、それぞれフライホイールダイオードD9〜D14が並列接続されたスイッチング素子E9〜E14を備えている。また、少なくとも各相のレッグを構成する1つのスイッチング素子には、サーミスタなどの不図示の温度センサが備えられる。各相用の上アーム素子E9,E11,E13のエミッタと下アーム素子E10,E12,E14のコレクタとが、第2電動機MG2の各相のコイルにそれぞれ接続される。また、各相用の上アーム素子E9,E11,E13のコレクタはシステム電圧線67に接続され、各相用の下アーム素子10,E12,E14のエミッタは負極線68に接続される。各スイッチング素子E9〜E14は、制御装置1から出力される第2インバータ制御信号S9〜S14に従って動作する。これにより、第2インバータ5Bは、システム電源の直流電力を交流電力に変換して第2電動機MG2に供給し、目標トルクTMに応じたトルクを第2電動機MG2に出力させる。この際、各スイッチング素子E9〜E14は、第2インバータ制御信号S9〜S14に従って、後述するPWM制御モードCPや矩形波制御モードCS等の制御モードに従ったスイッチング動作を行う。また、第2インバータ5Bは、第2電動機MG2が発電機として機能する際には、発電により得られた交流電力を直流電力に変換してシステム電圧線67を介してコンバータ4に供給する。
第1インバータ5Aと第1電動機MG1の各相のコイルとの間を流れる実電流Ir1は第1電流センサ63Aにより検出され、第2インバータ5Bと第2電動機MG2の各相のコイルとの間を流れる実電流Ir2は第2電流センサ63Bにより検出され、それぞれ制御装置1へ出力される。ここで、実電流Ir1、Ir2には、3相に対応する実U相電流、実V相電流、及び実W相電流が含まれる。なお、本例では、3相全ての電流を検出する構成を示しているが、3相は平衡状態にあり、電流の瞬時値の総和は零であるので2相のみの電流をセンサで検出し、制御装置1において残りの1相の電流を演算により求めてもよい。また、第1電動機MG1のロータの各時点での磁極位置θ1は、第1回転センサ65Aにより検出され、第2電動機MG2のロータの各時点での磁極位置θ2は、第2回転センサ65Bにより検出され、それぞれ制御装置1へ出力される。回転センサ65A,65Bは、例えばレゾルバ等により構成される。ここで、磁極位置θ1、θ2は、電気角上でのロータの回転角度を表している。また、ステータには、サーミスタなどの不図示の温度センサが備えられる。第1電動機MG1の目標トルクTM1及び第2電動機MG2の目標トルクTM2は、図示しない車両制御装置等の他の制御装置等からの要求信号として制御装置1に入力される。
電動機駆動装置2の制御を行う制御装置1の各機能部は、マイクロコンピュータ等の論理回路を中核部材として、入力されたデータに対して種々の処理を行うためのハードウエア又はソフトウエア(プログラム)或いはその両方により構成されている。本実施形態では、制御装置1は、ベクトル制御法を用いた電流フィードバック制御を行って、インバータ5A,5Bを介して電動機MG1,MG2を制御する。また、制御装置1は、コンバータ4を制御して所望のシステム電圧Vdcを生成する直流電圧変換制御を行う。上述したように、制御装置1は、制御対象として2つの電動機MG1,MG2のそれぞれに対応する2つのインバータ5A,5Bを有している。そこで、第1インバータ5Aを制御するための第1インバータ制御指令決定ユニット71と、第2インバータ5Bを制御するための第2インバータ制御指令決定ユニット72の2つのインバータ制御指令決定ユニット7(図2参照)を備えている。また、制御装置1は、1つのコンバータ4を制御対象とする1つの電圧変換指令決定ユニット(不図示)も備えている。
制御装置1は、コンバータ4を駆動するための電圧変換制御信号S1、S2を生成して出力し、電源電圧Vbを変換して2つのインバータ5A,5Bに供給する所望のシステム電圧Vdcを生成する制御を行う。また、制御装置1は、第1インバータ5Aを駆動するための第1インバータ制御信号S3〜S8、及び第2インバータ5Bを駆動するための第2インバータ制御信号S9〜S14を生成して出力し、各インバータ5を介して2つの電動機MG1,MG2の駆動制御を行う。この際、制御装置1は、複数の制御モードの中から1つを選択して各インバータ5に実行させる。制御装置1は、インバータ5を構成するスイッチング素子E3〜E14のスイッチングパターンの形態(電圧波形制御の形態)として、少なくともPWM制御と矩形波制御との2つの制御形態を有している。また、制御装置1は、ステータの界磁制御の形態として、少なくとも通常界磁制御(最大トルク制御)と、弱め界磁制御との2つの制御形態を有している。ここでは、理解を容易にするために、通常界磁制御と共にPWM制御が実施され、弱め界磁制御と共に矩形波制御が実施されるものとする。
ここで、通常界磁制御とは、電動機MGの目標トルクTMに基づいて設定される電流指令値に対する調整が行われない制御形態である。通常、同一電流に対して電動機MGの出力トルクが最大となるように電流位相βを調節する制御であり、最大トルク制御とも称される。最大トルク制御では、電動機MGのステータコイルに流す電流に対して最も効率的にトルクを発生させることができる。一方、弱め界磁制御とは、2軸のベクトル空間における一方の軸に沿った電流成分であるd軸電流(界磁電流)Idを調整してステータの界磁を弱めるためにd電流指令値が調整される制御形態である。尚、電機子電流Iaとは、2軸の直交ベクトル空間におけるd軸電流Idとq軸電流Iqとの合成ベクトルである。また、電流位相βとは電機子電流Iaとq軸(駆動電流の軸)とが為す角であり、界磁角に相当する。
PWM制御は、U,V,Wの各相のインバータ5の出力電圧波形であるPWM波形が、上アーム素子がオン状態となるハイレベル期間と、下アーム素子がオン状態となるローレベル期間とにより構成されるパルスの集合で構成されると共に、その基本波成分が一定期間で略正弦波状となるように、各パルスのデューティが設定される制御である。公知の正弦波PWM(SPWM : sinusoidal PWM)や、空間ベクトルPWM(SVPWM : space vector PWM)、過変調PWM制御などが含まれる。一般的には、通常界磁制御と共にPWM制御が実施される。本実施形態においては、通常界磁制御と共にPWM制御が実施される制御モードをPWM制御モードCPと称する。PWM制御モードCPは、電流位相を制御することによってインバータ5を駆動するものであり、本発明の電流位相制御モードに相当する。
矩形波制御は、3相交流電力の電圧位相を制御してインバータ5を制御する方式である。3相交流電力の電圧位相とは、後述する3相電圧指令値Vu,Vv,Vwの位相に相当する。本実施形態では、矩形波制御は、インバータ5の各スイッチング素子のオン及びオフが電動機MGの電気角1周期に付き1回ずつ行われ、各相について電気角1周期に付き1パルスが出力される回転同期制御である。一般的には、弱め界磁制御と共に矩形波制御が実施される。本実施形態では、弱め界磁制御と共に矩形波制御が実施される制御モードを矩形波制御モードCSと称する。矩形波制御モードCSは、3相電圧の電圧位相を制御することによってインバータ5を駆動するものであり、本発明の電圧位相制御モードに相当する。
次に、インバータ制御指令決定ユニット7の構成について説明する。上記のとおり、制御装置1は、2つのインバータ5A,5Bのそれぞれに対応する2つのインバータ制御指令決定ユニット71、72を備えている。ここで、第1インバータ制御指令決定ユニット71と第2インバータ制御指令決定ユニット72の機能は互いにほとんど同じであるため、以下では、特に区別する必要がない限り、単に「インバータ制御指令決定ユニット7」として説明する。また、第1電動機MG1と第2電動機MG2についても、特に区別する必要がない限り、単に「電動機MG」として説明し、インバータ5A,5Bについても、単に「インバータ5」として説明する。電流センサ63(63A,63B)、回転センサ65(65A,65B)についても同様である。また、各インバータ制御指令決定ユニット71、72に対して入出力される値についても以下に示すように、共通の符号を用いて表す。
電動機MGの磁極位置θ:θ1,θ2
電動機MGを流れる実電流Ir:Ir1,Ir2
電動機MGの目標トルクTM:TM1,TM2
電動機MGの回転速度ω:ω1,ω2
昇圧判定フラグDCFlag:DCFlag1,DCFlag2
上述したように、インバータ制御指令決定ユニット7は、電流ベクトル制御法を用いた電流フィードバック制御を行う。電流ベクトル制御法では、回転する界磁の磁束方向をd軸、界磁の向きに対して電気角でπ/2進んだ方向をq軸に設定した2軸の直交ベクトル空間において電流フィードバック制御を行う。具体的には、制御対象となる電動機MGの目標トルクTMに基づいて、d軸及びq軸の電流指令値を決定し、実際に電動機MGに流れる電流を検出してフィードバック制御を行うことにより、電動機MGに目標トルクTMを出力させる。以下、d軸に沿った電流は、d軸電流あるいは界磁電流と称し、q軸に沿った電流は、q軸電流あるいは駆動電流と称する。また、電圧やインダクタンスなどをこのベクトル空間で扱う場合には、適宜d軸電圧、q軸電圧、d軸インダクタンス、q軸インダクタンスなどと称する。
図2に示すように、電流指令決定部11には、制御対象となる電動機MGの目標トルクTMが入力される。電流指令決定部11は、この目標トルクTMに基づいて、電流指令値Id*,Iq*を決定する。後述するように、電流指令決定部11は、特にd軸電流を調整して最終的な電流指令値Id*,Iq*を決定する。一方、3相2相変換部19には、電流センサ63により検出された実電流Ir(実U相電流,実V相電流、及び実W相電流)が入力され、2軸ベクトル空間の実d軸電流Idr及び実q軸電流Iqrに変換される。実d軸電流Idr及び実q軸電流Iqrは、電流センサ63により検出された実電流Irと回転センサ65により検出された磁極位置θとに基づいて導出される。回転速度導出部20は、回転センサ65,66により検出された磁極位置θに基づいて電動機MGの回転速度ωを導出する。電流制御部16には、電流指令決定部11により決定された電流指令値Id*,Iq*、3相2相変換部19で変換された実電流Idr,Iqr、回転速度導出部20から対象とする電動機MGの回転速度ωが入力される。
電流制御部16は、d軸電流指令値Id*と実d軸電流Idrとの偏差であるd軸電流偏差δId、及びq軸電流指令値Iq*と実q軸電流Iqrとの偏差であるq軸電流偏差δIqを導出する。そして、電流制御部16は、d軸電流偏差δIdに基づいて比例積分制御演算(PI制御演算)を行って基本d軸電圧指令値Vdiを導出すると共に、q軸電流偏差δIqに基づいて比例積分制御演算を行って基本q軸電圧指令値Vqiを導出する。なお、比例積分制御演算に代えて比例積分微分制御演算(PID制御演算)を行っても好適である。
電流制御部16は、下記式(1)に示すように、基本d軸電圧指令値Vdiに対してq軸電機子反作用Eqを減算する調整を行ってd軸電圧指令値Vd*を導出する。
Vd*=Vdi−Eq
=Vdi−ω・Lq・Iqr・・・(1)
この式(1)に示されるように、q軸電機子反作用Eqは、電動機MGの回転速度ω、実q軸電流Iqr、及びq軸インダクタンスLqに基づいて導出される。
更に、電流制御部16は、下記式(2)に示すように、基本q軸電圧指令値Vqiに対してd軸電機子反作用Ed及び永久磁石の電機子鎖交磁束による誘起電圧Emを加算する調整を行ってq軸電圧指令値Vq*を導出する。
Vq*=Vqi+Ed+Em
=Vqi+ω・Ld・Idr+ω・Φ ・・・(2)
この式(2)に示されるように、d軸電機子反作用Edは、電動機MGの回転速度ω、実d軸電流Idr、及びd軸インダクタンスLdに基づいて導出される。また、誘起電圧Emは、永久磁石の電機子鎖交磁束の実効値により定まる誘起電圧定数Φ及び電動機MGの回転速度ωに基づいて導出される。
3相指令値導出部17には、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*が入力される。また、3相指令値導出部17には、回転センサ65により検出された磁極位置θも入力される。3相指令値導出部17は、磁極位置θを用いてd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*に対して2相3相変換を行い、3相の交流電圧指令値、すなわちU相電圧指令値Vu、V相電圧指令値Vv、及びW相電圧指令値Vwを導出する。これら交流電圧指令値Vu,Vv,Vwの波形は、制御モード毎に異なる。従って、3相指令値導出部17は、制御モード毎に異なる電圧波形の交流電圧指令値Vu,Vv,Vwをインバータ制御信号生成部18に出力する。
具体的には、3相指令値導出部17は、モード制御部15からPWM制御の実行指令を受けた場合には、PWM制御に応じた交流電圧波形の交流電圧指令値Vu,Vv,Vwを出力する。例えば、正弦波PWM(SPWM : sinusoidal PWM)や、空間ベクトルPWM(SVPWM : space vector PWM)などの方式に応じた交流電圧指令値Vu,Vv,Vwを出力する。また、3相指令値導出部17は、モード制御部15から矩形波制御の実行指令を受けた場合には、当該矩形波制御に応じた交流電圧波形の交流電圧指令値Vu,Vv,Vwを出力する。ここで、矩形波制御を実行する際の交流電圧指令値Vu,Vv,Vwは、インバータ5の各スイッチング素子E3〜E8(E9〜E14)のオンオフ切替位相の指令値とすることができる。この指令値は、各スイッチング素子E3〜E8(E9〜E14)のオンオフ制御信号に対応し、各スイッチング素子E3〜E8(E9〜E14)のオン又はオフを切り替えるタイミングを表す磁極位置θの位相を表す指令値である。
インバータ制御信号生成部18は、3相電圧指令値Vu,Vv,Vwに従って、インバータ5の各スイッチング素子E3〜E8(E9〜E14)を制御するインバータ制御信号S3〜S8(S9〜S14)を生成する。そして、インバータ5は、インバータ制御信号S3〜S8(S9〜S14)に従って各スイッチング素子E3〜E8(E9〜E14)のオンオフ動作を行う。これにより、電動機MGのPWM制御又は矩形波制御が行われる。
モード制御部15は、ここでは、PWM制御モードCPと矩形波制御モードCSとの何れかを電力の変調率に基づいて選択し、制御モードを決定する機能部である。ここで、電力の変調率とは、直流のシステム電源Vdcに対する3相交流電力の割合である。具体的には、システム電圧Vdcに対する3相交流電力の相間電圧の実効値の割合である。3相交流電力の相間電圧の実効値は、ベクトル空間における電圧指令値Vd*,Vq*の合成ベクトルVaによって表すことができる。従って、変調率Mは、下記式(3)に示すように、求めることができる。
M=(((Vd*)2+(Vq*)2)1/2)/Vdc
= Va/Vdc ・・・(3)
この変調率Mは、変調率導出部14により導出される。モード制御部15は、この変調率Mに基づいて、変調率Mが所定の変調率しきい値より小さいとき、PWM変調制御モードCPを選択し、変調率Mが変調率しきい値以上のとき、矩形波制御モードCSを選択する。一例として、変調率しきい値は、実現可能な変調率Mの理論的な最大値である0.78である。
ここで、例えば、第1電動機MG1が発電機として機能し、第2電動機MG2が電動機として機能しているとする。そして、バッテリ3は充分に充電されており、ほぼ満充電状態に近いとする。ここで、第1電動機MG1が消費する電力よりも、第2電動機MG2が発電する電力の方が大きくなると、バッテリ3へ回生することができない余剰電力が生じることになる。この余剰電力は、バッテリ3の過充電につながり、バッテリ3の寿命に影響を与える。そこで、この余剰電力を電動機駆動装置2における損失として消費させることによって過充電を抑制し、バッテリ3を保護する。
電動機駆動装置2における損失を増加させる方法の1つとして、PWM制御の変調周波数mfを上昇させる方法がある(変調周波数切替制御)。単位時間当たりのスイッチング回数が増加することによって、インバータ5における損失が増加する。また、別の方法として、ステータコイルに流れる電機子電流Iaを増加させてステータにおける損失(鉄損及び銅損)を増加させる方法がある(高損失界磁電流制御)。具体的には、電動機MGのd軸電流(界磁電流)を余剰電力に応じて増加させることにより、電機子電流Iaを増加させて損失を生じさせる。これら、変調周波数切替制御及び高損失界磁電流制御を総称して、高損失制御と称する(広義の高損失制御)。また、適宜、高損失界磁電流制御を単に高損失制御と称して説明する(狭義の高損失制御)。
d軸電流(界磁電流)を増加させる具体例を電流指令値マップの一例を示す図3に基づいて説明する。曲線101は、電動機MGがトルクτ1を出力する電機子電流Iaのベクトル軌跡を示す等トルク線である。また、曲線102は、電動機MGが最大のトルクを出力する電機子電流Iaのベクトル軌跡を示す最大トルク制御線である。等トルク線101と、最大トルク制御線102との交点におけるId,Iqの電流値が、最も効率良くトルクτ1を出力可能な値である。曲線103は、電圧制限楕円(電圧速度楕円)であり、その大きさはシステム電圧Vdcと電動機MGの回転速度ωとに基づいて定まる。具体的には、電圧制限楕円103の径は、システム電圧Vdcに比例し、回転速度ωに反比例する。Id,Iqの電流値は、電圧制限楕円103内における等トルク線101上の点から選択される必要がある。電動機MGのトルク指令TMがτ1の場合、最も効率の良いId,Iqは、電圧制限楕円103内に存在する等トルク線101と最大トルク制御線102との交点におけるId1,Iq1である。従って、電動機MGのトルク指令TMがτ1の場合には、通常界磁制御と共にPWM制御が実施されるPWM制御モードCPが選択される。
一方、電動機MGのトルク指令TMがτ5の場合には、最大トルク制御線102と等トルク線105との交点が電圧制限楕円103よりも外側にある。従って、当該交点におけるId,Iqを設定することはできない。この場合には、少なくとも等トルク線105と電圧制限楕円103との交点に達するまで、d軸電流を負方向に増加させる弱め界磁制御を実施する必要がある。従って、電動機MGのトルク指令TMがτ5の場合には、弱め界磁制御と共に矩形波制御が実施される矩形波制御モードCSが選択される。
電動機MGのトルク指令TMがτ1の場合、図3に示すように、等トルク線101上において最大トルク制御線102との交点から図示左側に移動して、d軸電流Idを負方向にΔIdNだけ増加(変化)させると界磁を弱めることになる。逆に、等トルク線101上において最大トルク制御線102との交点から図示右側に移動して、d軸電流Idを正方向にΔIdPだけ増加(変化)させると界磁を強めることになる。つまり、弱め界磁電流ΔIdNを付加した場合には、Id,IqはそれぞれId2,Iq2となり、強め界磁電流ΔIdPを付加した場合には、Id,IqはそれぞれId3,Iq3となる。このように、弱め界磁電流ΔIdN又は強め界磁電流ΔIdPを付加してd軸電流Idを増加させることにより、電機子電流Iaを増加させて損失を増やす高損失制御が実施される。等トルク線101上においてd軸電流Idを変化させているので、電動機MGの出力トルクは維持される。
一方、電動機MGのトルク指令TMがτ5の場合には、上述したように、既に弱め界磁電流を付加して弱め界磁制御と共に矩形波制御が実施されているため、そのままでは、高損失制御は実施されない。後述するように、システム電圧Vdcを昇圧して、システム電圧Vdcと電動機MGの回転速度ωとに基づいて定まる電圧制限楕円103の径を拡大させて、通常界磁制御に移行させた後に、高損失制御が実施される。
尚、弱め界磁電流ΔIdN及び強め界磁電流ΔIdPの何れを与えても、Id,Iqは最大トルク制御線102上から外れるため、損失を生じて余剰電力が消費される。図4は、Id及びIqが最大トルク線102上で設定された場合と、弱め界磁電流ΔIdNや強め界磁電流ΔIdPが付加された場合とにおける損失量を比較するグラフである。図4に示すように、弱め界磁電流ΔIdN及び強め界磁電流ΔIdPの何れが付加された場合においても、最大トルク線102上でId及びIqが設定された場合と比べて大きく損失が増えている。従って、損失を生じさせるに際して、弱め界磁電流ΔIdN及び強め界磁電流ΔIdPの何れを付加してもよいが、より損失の大きい側が選択されると好適である。但し、Id及びIqは、直交ベクトル空間における電機子電流Iaの出力可能範囲内(電圧制限楕円103内)で設定される必要がある。従って、高損失制御部12は、電機子電流Iaの出力可能範囲(電圧制限楕円103)内で、電動機MGの界磁を弱める側、及び、電動機MGの界磁を強める側の内、損失量の大きい側に界磁電流Idを増大させると好適である。
ところで、制御モードがPWM制御モードCPの場合には、インバータ5は、直交ベクトル空間における電機子電流の電流位相を制御して駆動されるので界磁電流Idを変化させることが可能である。一方、矩形波制御モードCSの場合には、インバータ5は、3相交流電力の電圧位相を制御して駆動されるので、電機子電流の電流位相を制御することができない。つまり、界磁電流Idを変化させることができない。従って、矩形波制御モードCSでインバータ5が駆動されている際には、制御モードを矩形波制御モードCSからPWM制御モードCPに変更させる必要がある。
モード制御部15は、変調率Mと変調率しきい値とに基づいて制御モードを選択する。矩形波制御モードCSは、変調率Mが変調率しきい値以上のときに選択されるので、制御モードをPWM制御モードCPに変更するためには、下記に再掲する式(3)に示す変調率Mを変調率しきい値よりも低い値にする必要がある。
M=(((Vd*)2+(Vq*)2)1/2)/Vdc
= Va/Vdc ・・・(3)
式(3)から明らかなように、電動機MGの出力を維持した状態で変調率Mを小さくするためには、電圧の実効値Vaを維持した状態でシステム電圧Vdcを大きくする必要がある。即ち、コンバータ4による昇圧が必要となる。
図2に示すように、昇圧判定部13は、消費を要する余剰電力を示す損失指令値Plossの値と、モード制御部15により選択された制御モードとに基づいて、少なくとも昇圧の要否を判定し、コンバータ4を制御する電圧変換指令決定ユニット(不図示)に判定結果を伝達する。昇圧を要すると判定された場合には、インバータ制御指令決定ユニット7から電圧変換指令決定ユニットへ、昇圧要求信号DCFlagが出力される。即ち、昇圧判定部13は、矩形波制御モードCSの実行中且つバッテリ3を充電する充電電力に余剰電力が生じていることを条件として、変調率Mを変調率しきい値よりも低下させるためにコンバータ4にシステム電圧Vdcを上昇させることを判定する。システム電圧Vdcが上昇して変調率Mが下がると、制御モードがPWM制御モードCPに変更され、界磁電流Idを増加させる高損失制御が実行可能となる。
ここで、図5のフローチャートを利用して、高損失制御(広義)の流れを説明しておく。初めに、バッテリ3の充電制限の有無が判定される(#1)。例えば、電流指令決定部11や昇圧判定部13は、損失指令値Plossの値に基づき、損失指令値Plossがゼロでなければ、バッテリ3の充電制限があると判定する(図2及び図6参照)。また、図2には不図示であるが、インバータ制御信号生成部も、損失指令値Plossの値に基づき、損失指令値Plossがゼロでなければ、バッテリ3の充電制限があると判定する。充電制限が無い場合には、そのまま処理を終了し、充電制限が有る場合には矩形波制御モードCSによる制御中であるか否かが判定される(#2)。
例えば、昇圧判定部13は、損失指令値Plossと制御モードとに基づいて、充電制限が有り、且つ矩形波制御モードCSによる制御中であることを判定する。充電制限が有り、且つ矩形波制御モードCSによる制御中である場合には、昇圧判定部13は、電圧変換指令決定ユニットに対して昇圧要求信号DCFlagを出力する。そして、昇圧要求信号DCFlagを受けた電圧変換指令決定ユニットにおいて昇圧指令値が上昇される(#3)。この時、少なくとも矩形波制御モードCSを抜けてPWM制御モードCPに移行すれば足りるので僅かに昇圧させてもよいが、損失を拡大させたい時であるから、電圧変換指令決定ユニットは最大値まで昇圧指令値を上昇させてもよい。
続いて、変調周波数切替制御(#10)が実行される。この制御では、初めに、インバータ5のスイッチング素子に備えられた温度センサの検出結果に基づいて、インバータ5の温度がインバータ温度しきい値TH1以下であるか否かが判定される(#11)。インバータ温度しきい値TH1は、インバータ5の耐熱温度よりも低い温度に設定されている。インバータ5の温度がインバータ温度しきい値TH1以下であると、インバータ制御信号生成部18において変調周波数mfが上昇される(#12)。これにより、スイッチング損失が増大する。ステップ#11において、インバータ5の温度がインバータ温度しきい値TH1よりも高いと判定された場合には、インバータ5の温度がそれ以上上昇すると好ましくないので変調周波数mfを変更することなく、変調周波数切替制御(#10)を終了する。
変調周波数切替制御(#10)に続いて、高損失界磁電流制御(#20)が実行される。初めに、ステータに設けられた温度センサの検出結果に基づいて、ステータコイルのコイル温度がコイル温度しきい値TH2以下であるか否かが判定される(#21)。コイル温度しきい値TH2は、ステータコイルの耐熱温度よりも低い温度に設定されている。ステータコイルのコイル温度がコイル温度しきい値TH2よりも高い場合には、電機子電流Iaを増やして発熱を増やすことは好ましくないので、高損失制御(#20)が終了される。コイル温度がコイル温度しきい値TH2以下の場合には、界磁調整方向が決定される(#22)。即ち、電機子電流Iaの出力可能範囲内で、電動機MGの界磁を弱める側及び界磁を強める側の内、損失量の大きい側に界磁電流Idを増大させるべく、界磁調整方向が決定される。次に、決定された界磁調整方向への界磁電流Idの調整指令値が算出される(#23)。そして、トルク指令TMに基づいて設定される基本電流指令に対して、調整指令値を付加して電流指令値Id*,Iq*が決定される(#24)。
以下、図6に基づいて高損失制御部12を含む電流指令決定部11の構成について説明する。上述したように、電流指令決定部11には制御対象となる電動機MGの目標トルクTMが入力される。電流指令決定部11は、図3に示したような最大トルクマップ41を参照して、電動機MGに当該目標トルクTMを出力させる際に最も効率のよいd軸電流指令値Idiを設定する。このd軸電流指令値Idiは、弱め界磁制御や高損失制御(高損失界磁電流制御)などによる調整量を含まないd軸電流指令値であり、基本d軸電流指令値と称する。従って、最大トルクマップ41は、本発明の基本電流指令決定部に相当する。基本d軸電流指令値Idiには、加算器38によってd軸電流調整値ΔIdが加算され、加算後のd軸電流指令値は、高損失リミッタ43により過剰なd軸電流指令値が抑制され、高周波抑制部50により生成された高調波抑制電流指令が重畳される。その後、d軸制限リミッタ45を経ることにより過剰な電流指令値が与えられないように抑制されて、最終的なd軸電流指令Id*が決定される。
図3から明らかなように、基本q軸電流指令値Iqiも最大トルクマップ41から決定することが可能である。但し、本実施形態では、基本d軸電流指令値Idiだけが設定され、基本d軸電流指令値Idiに対する調整量ΔIdが決定された後に、等トルクマップ42からq軸電流指令値が取得される構成を例示している。具体的には、q軸電流指令値Iq*は以下のように決定される。初めに、目標トルクTMと、システム電圧Vdc、回転速度ωを引数として、弱め界磁電流マップ36を参照して、弱め界磁電流のフィードフォワード調整値ΔIdFFが設定される。次に、加算器37によって、フィードフォワード調整値ΔIdFFに、弱め界磁電流のフィードバック調整値ΔIdFBと高損失調整値ΔIdHLとが加算されてd軸電流調整値ΔIdが算出される。詳細は後述するが、フィードバック調整値ΔIdFBと高損失調整値ΔIdHLとは択一的に用いられる。次に、図3を用いて上述したように、最大トルクマップ41と同様の等トルクマップ42を参照して、d軸電流調整値ΔIdを加味してq軸電流指令値が設定される。そして、d軸と同様に、高周波抑制部50により生成された高調波抑制電流指令が重畳される。その後、q軸制限リミッタ44を経ることにより過剰な電流指令値が与えられないように抑制され、て、最終的なq軸電流指令Iq*が決定される。
高周波抑制部50は、高調波抑制電流指令が重畳される前のd,q軸電流指令Id*,Iq*に基づいて電機子電流Ia及び電流位相βを算出するIa,β算出部51と、電機子電流Ia及び電流位相βに基づいて高調波抑制電流指令を設定する高調波電流指令マップ52とを有して構成される。電機子電流Iaの電流量が大きかったり、電流位相βが最大トルク制御における最適位相からずれていたりすると、6次、12次などの高次高調波成分が増加する傾向がある。その結果、電流制御が振動的となり、トルクや電力にも高調波振動成分が多くなる。電力の振動は、バッテリ3への回生電力の振動ともなり、余剰電力が生じるような場面では、振動により瞬時値が許容範囲を超える可能性もある。
高調波抑制部50は、電機子電流Iaの大きさ及び電流位相βに基づいて、高調波抑制電流指令を生成する。高調波抑制電流指令は、6次、12次などの高次高調波成分の逆位相の波形を有して、それぞれId,Iqに対応して生成される。逆位相の信号がd軸電流指令(界磁電流指令)Id*及びq軸電流指令(駆動電流指令)Iq*のそれぞれに重畳されることで、高次高調波成分が抑制される。高調波抑制電流指令は、図6に示すように、加算器53,54により、d軸電流指令及びq軸電流指令のそれぞれに印加される。
択一的に利用されるフィードバック調整値ΔIdFBと高損失調整値ΔIdHLとの内、高損失調整値ΔIdHLは、高損失制御部12において決定される。以下、高損失制御部12について説明する。損失マップ21は、目標トルクTM、損失指令値Ploss、変調周波数mf、システム電圧Vdcを引数として、高損失d軸電流指令値を設定する。高損失d軸電流指令値は、余剰電力を消費させる際のd軸電流の指令値である。加算器(減算器)22は、高損失d軸電流指令値からd軸電流指令値Id*を減算し、基本高損失調整値を算出する。即ち、ステータコイルにおいて損失を発生させるためのd軸電流指令値と現時点の(前回の演算周期で演算された)d軸電流指令値Id*との差分が、調整値の初期値となる。レートリミッタ23は、算出された基本高損失調整値を所定の制限値で制限する。つまり、調整値が大きいとd軸電流指令値Id*が急変することになるので、そのような急激な変化を抑制するために、レートリミッタ23により基本高損失調整値が制限される。
次に、加算器24において現時点の(前回の演算周期で演算された)高損失調整値(ΔIdHL)と最新の基本高損失調整値とが加算される。現時点の(前回の演算周期で演算された)d軸電流指令値Id*には、現時点の(前回の演算周期で演算された)d軸調整値(ΔIdHL)が含まれているが、これは加算器22で減算されている。上述したように、加算器38において基本d軸電流指令値Idiに対してd軸電流調整値ΔIdが加算されるので、現時点の(前回の演算周期で演算された)d軸電流調整値ΔIdに含まれる高損失調整値ΔIdHLも再度加えておく必要がある。従って、前回の演算周期において演算された高損失調整値ΔIdHLをフィードバックさせるZ変換器34の出力と、最新の基本高損失調整値とが加算器24において加算される。
リミッタ25は、高損失リミットフラグLmtFlgが有効な時、及び、変調率Mが変調率しきい値以上の時に現在の値で高損失調整値ΔIdHLを固定して増加を制限するリミッタである。高損失リミットフラグLmtFlgは、高損失リミッタ43によりd軸電流指令値が制限された際に有効となるフラグである。高損失リミッタ43の制限値は、後段のd軸制限リミッタ45よりも小さい値に設定されている。例えば、50A程度低い電流値で制限される。また、変調率Mが変調率しきい値以上の時には、界磁調整部30により自動的に弱め界磁制御が実行される。弱め界磁制御が開始されると、d軸電流は弱め界磁制御により調整されるので、高損失制御は中止される。
例えば、図3において等トルク線101上で強め界磁電流を付加して高損失制御を実施していた際に、電圧制限楕円103の径が小さくなり電圧制限楕円108となると、弱め界磁制御が必要となる。このような場合には、変調率Mも変調率しきい値以上となり、界磁調整部30により自動的に弱め界磁制御が実行される。弱め界磁制御が開始されると、d軸電流は弱め界磁制御により調整されるので、高損失制御は中止される。但し、このような事例は稀であり、現実には弱め界磁制御の実行中に高損失制御に移行しないようにするための制限ともいえる。
スイッチ29は、高損失制御の実行中は、リミッタ25の出力を選択して出力する。つまり、レートリミッタ23及びリミッタ25による制限を受けなければ、最新の高損失調整値ΔIdHLを出力する。スイッチ33は、高損失制御の実行中は高損失調整値ΔIdHLを選択し、弱め界磁制御の実行中はフィードバック調整値ΔIdFBを選択して出力する。加算器35は、フィードバック調整値ΔIdFBと高損失調整値ΔIdHLとを加算して、加算器37に対して出力する。高損失制御の実行中は、スイッチ33において、高損失調整値ΔIdHLが選択されており、弱め界磁制御は実行されていないので、高損失制御の実行中は、加算器35の出力は高損失調整値ΔIdHLとなる。従って、加算器37は、フィードフォワード調整値ΔIdFFと高損失調整値ΔIdHLとを加算して、d軸調整値ΔIdを算出する。
余剰電力が無くなったり、弱め界磁制御が開始されたりした場合には、高損失制御フラグが非有効状態となる。スイッチ29は、高損失制御フラグに基づき、加算器28の出力を選択するように切り替わる。加算器(減算器)26は、ゼロからZ変換器34の出力を減算する。レートリミッタ27は、加算器26の出力を所定の制限値で制限する。つまり、加算器26の出力が大きいと(それまでの高損失調整値ΔIdHLが大きいと)、スイッチ29の入力が急変することになるので、そのような急激な変化を抑制するために、変化量が制限される。レートリミッタ27の出力とZ変換器34の出力とは、加算器28で加算される。つまり、レートリミッタ27の出力は負の値であるから、高損失調整値ΔIdHLはレートリミッタ27に規定された制限の範囲内で減少する。
余剰電力が無くなって高損失制御フラグが非有効状態となった場合には、少なくとも高損失調整値ΔIdHLがゼロで無い限り、スイッチ33は高損失制御値ΔIdHLを選択する。従って、スイッチ33、加算器35、Z変換器34、加算器26、レートリミッタ27、加算器28、スイッチ29を経て、高損失調整値ΔIdHLは、ゼロになるまで段階的に減少する。これにより、高損失制御が終了する際にも、急激にd軸電流指令値Id*が変化することを抑制することができる。弱め界磁制御が開始された場合には、スイッチ33はフィードバック調整値ΔIdFBを選択する側に切り替わる。少なくとも、1回分の演算周期の高損失調整値ΔIdHLは、Z変換器34を介してフィードバックされるので、高損失制御から弱め界磁制御への切り替わりも円滑となる。
弱め界磁制御によるフィードバック調整値ΔIdFBは、界磁調整部30において算出される。加算器(減算器)40は、下記の式(4)に示すように、変調率Mから目標変調率MTを減算して変調率偏差ΔMを導出し、界磁調整部30に対して出力する。
ΔM=M−MT・・・(4)
本実施形態では、変調率偏差ΔMは、電圧指令値Vd*,Vq*がそのときのシステム電圧Vdcによって出力し得る最大の交流電圧の値を超えている程度を表す。従って、変調率偏差ΔMは、実質的にはシステム電圧Vdcの不足の程度を表す電圧不足指標として機能する。尚、本例では、目標変調率MTは理論的な最大値である0.78に設定されている。
界磁調整部30は、積分入力調整部31と積分器32とを有している。積分入力調整部31には、変調率偏差ΔMが入力される。積分入力調整部31は、変調率偏差ΔMの値に対して所定の調整を行い、調整後の値である調整値Yを積分器32へ出力する。積分入力調整部31は、例えば、図7に示すように変調率偏差ΔMが弱め界磁開始しきい値(界磁制御しきい値)Δms(=0)未満の状態では調整値Yとしてゼロ(y=0)を出力し、変調率偏差ΔMが弱め界磁開始しきい値Δms(=0)以上の状態では負の調整値y(y<0)を出力する。図7に示すように、変調率偏差ΔMと調整値yとの関係は一次関数により表すことができる。変調率偏差ΔMの増加に従って調整値Yが減少する変換マップの領域を設定することにより、変調率Mが増加するに従ってフィードバック調整値ΔIdFBの絶対値を増加させ、弱め界磁制御を実行するための弱め界磁電流量を増加させる制御を適切に行うことができる。積分器32には積分入力調整部31により導出された調整値yが入力される。積分器32は、この調整値yを所定のゲインを用いて積分し、積分値をフィードバック調整値ΔIdFBとして導出する。
以上、本発明によれば、インバータ5が矩形波制御されている場合であっても、インバータ5などを含む電動機駆動装置2において損失を生じさせてバッテリ3への回生電力の余剰電力を消費させることが可能な電動機制御装置1を提供することができる。
〔他の実施形態〕
(1)上記実施形態においては、いわゆる2モータスプリット方式のハイブリッド車両用の駆動装置に本発明を適用した場合を例として、本発明の実施形態を説明した。即ち、主として駆動力源として機能する電動機と、主として回生源として機能する電動機(発電機)とを備えた構成を例として説明したが、本発明はそのような構成に限定されるものではない。いわゆる1モータパラレル方式のハイブリッド車両用の駆動装置にも本発明を適用することができる。電動機は、発電機として機能する際にもトルク制御が実施される。従って、高損失制御は、当然ながら駆動力源として機能する電動機に限らず、発電機として機能する電動機に対しても実行することができる。
(2)上記実施形態においては、変調率しきい値は、実現可能な変調率Mの理論的な最大値である0.78とした。また、弱め界磁制御と共に矩形波制御が実施される場合を矩形波制御モードCSとしたので、弱め界磁開始しきい値(界磁制御しきい値)Δmsをゼロに設定した。これにより、変調率Mが、目標変調率MTの最大値0.78以上の時に、弱め界磁制御が開始されるので、変調率Mが0.78に達すると、弱め界磁制御と共に矩形波制御が実施される矩形波制御モードCSが実施される。しかし、これに限定されることなく、変調率Mが0.78よりも低い時から矩形波制御モードCSが実施されてもよい。
この場合、例えば、積分入力調整部31において、図8に示すように、弱め界磁開始しきい値Δmsが0未満に設定されていると好適である。即ち、弱め界磁開始しきい値(界磁制御しきい値)Δmsを負の値に設定することにより、変調率Mが目標変調率MTに達する前からフィードバック調整値ΔIdFBを出力して弱め界磁制御を開始させることができる。例えば、Δmsを「−0.02」に設定することによって、変調率M=0.76から弱め界磁制御を開始させることができる。同時に変調率しきい値も0.02減少させて0.76とすると弱め界磁制御と共に矩形波制御を実施することができる。