以下に、本発明に係る実施の形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。この説明において、具体的な形状、材料、数値、方向等は、本発明の理解を容易にするための例示であって、用途、目的、仕様等にあわせて適宜変更することができる。
図1は、本発明の一実施形態であるモータ駆動制御装置10を含むモータ駆動システム100の全体構成を示す図である。モータ駆動システム100は、モータを走行用動力源として搭載するハイブリッド自動車や電気自動車等に好適に適用されることができる。
モータ駆動システム100は、電源装置としてのバッテリ11と、電圧センサ12,14と、システムメインリレーSMR1,SMR2と、平滑コンデンサ16,18と、昇降圧コンバータ20と、インバータ22と、電流センサ24と、制御部26と、交流モータM1とを備える。
交流モータM1は、例えばハイブリッド自動車または電気自動車の駆動輪を駆動するためのトルクを発生するための駆動用電動機である。あるいは、この交流モータM1は、エンジンにて駆動される発電機の機能を持つように構成されてもよく、電動機および発電機の機能を併せ持つように構成されてもよい。さらに、交流モータM1は、エンジンに対して電動機として動作し、例えば、エンジン始動を行ない得るようなものとしてハイブリッド自動車に組み込まれるようにしてもよい。
バッテリ11は、ニッケル水素またはリチウムイオン等の二次電池からなる。あるいは、二次電池以外に、化学反応を伴わないキャパシタや、燃料電池が電源装置として用いられてもよい。電圧センサ12は、バッテリ11から出力される直流電圧Vbを検出し、その検出した直流電圧Vbを制御部26へ出力する。また、バッテリ11には温度センサ28が設けられている。温度センサ28によって検出されたバッテリ温度Tbは、制御部26へ出力される。
システムメインリレーSMR1は、バッテリ11の正極端子および電力線30の間に接続され、システムメインリレーSMR1は、バッテリ11の負極端子およびアース線32の間に接続される。システムメインリレーSMR1,SMR2は、制御部26からの信号SEによりオン/オフされる。より具体的には、システムメインリレーSMR1,SMR2は、制御部26からのH(論理ハイ)レベルの信号SEによりオンされ、制御部26からのL(論理ロー)レベルの信号SEによりオフされる。平滑コンデンサ16は、電力線30およびアース線32の間に接続される。
昇降圧コンバータ20は、リアクトルLと、電力用半導体スイッチング素子E1,E2と、ダイードD1,D2とを含む。電力用スイッチング素子E1およびE2は、電力線30およびアース線32の間に直列に接続される。電力用スイッチング素子E1およびE2のオン・オフは、制御部26からのスイッチング制御信号S1およびS2によって制御される。
電力用半導体スイッチング素子(以下、単に「スイッチング素子」という)としては、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等を好適に用いることができる。スイッチング素子E1,E2に対しては、逆並列ダイオードD1,D2が配置されている。
リアクトルLは、スイッチング素子E1およびE2の接続ノードと電力線30の間に接続される。また、平滑コンデンサ16は、電力線30およびアース線32の間に接続される。
インバータ22は、電力線30およびアース線32の間に並列に設けられる、U相アーム34と、V相アーム36と、W相アーム38とからなる。各相アーム34〜38は、電力線31およびアース線32の間に直列接続されたスイッチング素子から構成される。例えば、U相アーム34はスイッチング素子E3,E4からなり、V相アーム36はスイッチング素子E5,E6からなり、W相アーム38はスイッチング素子E7,E8からなる。また、スイッチング素子E3〜E8に対して、逆並列ダイオードD3〜D8がそれぞれ接続されている。スイッチング素子E3〜E8のオン・オフは、制御部26からのスイッチング制御信号S3〜S8によって制御される。
各相アーム34〜38の中間点は、交流モータM1の各相コイルの各相端に接続されている。すなわち、交流モータM1は、三相同期型の永久磁石モータであり、U,V,W相の3つのコイルの一端が中点Nに共通接続されて構成される。さらに、各相コイルの他端は、各相アーム34〜38のスイッチング素子の中間点と接続されている。
昇降圧コンバータ20は、昇圧動作時には、バッテリ11から供給された直流電圧(例えば200V)を昇圧した直流電圧(インバータ22への入力電圧に相当するこの直流電圧を、以下「システム電圧VH」という)をインバータ22へ供給する。より具体的には、制御部26からのスイッチング制御信号S1,S2に応答して、スイッチング素子E1のオン期間およびE2のオン期間が交互に設けられ、昇圧比は、これらのオン期間の比に応じたものとなる。
昇降圧コンバータ20は、バッテリ11から供給された直流電力を最大で例えば600Vの昇圧上限電圧まで昇圧可能である。ただし、この昇圧上限電圧は、固定値ではなく、例えば車両の要求等に応じて可変であってもよく、例えば、ドライバーのスイッチ操作によってエコモードが選択されたとき、制御部26にECO信号が入力されることによってコンバータ20の昇圧上限値が例えば400Vに制限されてもよい。
また、昇降圧コンバータ20は、降圧動作時には、平滑コンデンサ18を介してインバータ22から供給された直流電圧を降圧してバッテリ11を充電する。より具体的には、制御部26からのスイッチング制御信号S1,S2に応答して、スイッチング素子E1のみがオンする期間と、スイッチング素子E1,E2の両方がオフする期間とが交互に設けられ、降圧比は上記オン期間のデューティ比に応じたものとなる。
平滑コンデンサ18は、昇降圧コンバータ20からの直流電圧を平滑化し、その平滑化した直流電圧をインバータ22へ供給する。電圧センサ14は、平滑コンデンサ18の両端の電圧、すなわち、システム電圧VHを検出し、その検出値VHを制御部26へ出力する。
インバータ22は、交流モータM1のトルク指令値Tr*が正(Tr*>0)の場合には、平滑コンデンサ18から直流電圧が供給されると制御部26からのスイッチング制御信号S3〜S8に応答した、スイッチング素子E3〜E8のスイッチング動作により直流電圧を交流電圧に変換して正のトルクを出力するように交流モータM1を駆動する。また、インバータ22は、交流モータM1のトルク指令値Tr*が零の場合(Tr*=0)には、スイッチング制御信号S3〜S8に応答したスイッチング動作により、直流電圧を交流電圧に変換してトルクが零になるように交流モータM1を駆動する。これにより、交流モータM1は、トルク指令値Tr*によって指定された零または正のトルクを発生するように駆動される。
さらに、モータ駆動システム100が搭載されたハイブリッド自動車または電気自動車の回生制動時には、交流モータM1のトルク指令値Tr*は負に設定される(Tr*<0)。この場合には、インバータ22は、スイッチング制御信号S3〜S8に応答したスイッチング動作により、交流モータM1が発電した交流電圧を直流電圧に変換し、その変換した直流電圧を平滑コンデンサ18を介して昇降圧コンバータ20へ供給する。なお、ここで言う回生制動とは、ハイブリッド自動車または電気自動車を運転するドライバーによるフットブレーキ操作があった場合の回生発電を伴う制動や、フットブレーキを操作しないものの、走行中にアクセルペダルをオフすることで回生発電をさせながら車両を減速(または加速の中止)させることを含む。
電流センサ24は、交流モータM1に流れるモータ電流を検出し、その検出したモータ電流を制御部26へ出力する。なお、三相電流iu,iv,iwの瞬時値の和は零であるので、図1に示すように電流センサ24は2相分のモータ電流(例えば、U相電流iuおよびV相電流iv)を検出するように配置すれば足りる。
回転角センサ(レゾルバ)25は、交流モータM1のロータ回転角θを検出し、その検出した回転角θを制御部26へ送出する。制御部26では、回転角θに基づき交流モータM1の回転数(回転速度)を算出する。
制御部26は、外部に設けられた電子制御ユニット(ECU)から入力されたトルク指令値Tr*、電圧センサ12によって検出されたバッテリ電圧Vb、電圧センサ14によって検出されたシステム電圧VHおよび電流センサ24からのモータ電流iu,iv、回転角センサ40からの回転角θに基づいて、後述する方法により交流モータM1がトルク指令値Tr*に従ったトルクを出力するように、昇降圧コンバータ20およびインバータ22の動作を制御する。すなわち、昇降圧コンバータ20およびインバータ22を上記のように制御するためのスイッチング制御信号S1〜S8を生成して、昇降圧コンバータ20およびインバータ22へ出力する。
昇降圧コンバータ20の昇圧動作時には、制御部26は、平滑コンデンサ18の出力電圧VHをフィードバック制御し、出力電圧VHがシステム電圧指令値VH*となるようにスイッチング制御信号S1,S2を生成する。
また、制御部26は、ハイブリッド自動車または電気自動車が回生制動モードに入ったことを示す信号を外部ECUから受けると、交流モータM1で発電された交流電圧を直流電圧に変換するようにスイッチング制御信号S3〜S8を生成してインバータ22へ出力する。これにより、インバータ22は、交流モータM1で発電された交流電圧を直流電圧に変換して昇降圧コンバータ20へ供給する。
さらに、制御部26は、ハイブリッド自動車または電気自動車が回生制動モードに入ったことを示す信号を外部ECUから受けると、インバータ22から供給された直流電圧を降圧するようにスイッチング制御信号S1,S2を生成し、昇降圧コンバータ20へ出力する。これにより、交流モータM1が発電した交流電圧は、降圧された直流電圧に変換されてバッテリ11に充電される。
次に、制御部26によって制御される、インバータ22における電力変換について詳細に説明する。本実施形態のモータ駆動システム100では、インバータ22における電力変換について3つの制御方式を切替えて使用する。
正弦波PWM制御方式は、一般的なPWM制御として用いられるものであり、各相アームにおけるスイッチング素子のオン・オフを、正弦波状の電圧指令値と搬送波(代表的には、三角波)との電圧比較に従って制御する。この結果、上アーム素子のオン期間に対応するハイレベル期間と、下アーム素子のオン期間に対応するローレベル期間との集合について、一制御周期内でその基本波成分が正弦波状交流電圧(モータ必要電圧)となるようにデューティ比が制御される。周知のように、一般的な正弦波PWM制御方式では、システム電圧VHに対するモータ必要電圧の振幅の比として定義される変調率最大値を0.61までしか高めることができない。ただし、2相変調方式または3次高調波重畳制御による正弦波PWM制御の場合には、変調率最大値を0.70まで高められることが知られている。
一方、矩形波制御方式では、上記一制御周期内で、ハイレベル期間およびローレベル期間の比が1:1の矩形波1パルス分を交流モータM1印加する。これにより、変調率は0.78まで高められる。
過変調制御方式は、上記正弦波PWM制御方式と同様に正弦波状の電圧指令値と搬送波との電圧比較に従ってPWM制御を行なうものであるが、この場合、電圧指令値が搬送波よりも大きくなる領域で比較的大きなデューティ比の矩形パルスが生成される結果として略正弦波状をなす基本波成分の振幅を拡張することができ、これにより変調率を0.61〜0.78の範囲に高めることができる。
交流モータM1では、回転数や出力トルクが増加すると誘起電圧が高くなり、そのモータ必要電圧が高くなる。コンバータ20による昇圧電圧すなわち、システム電圧VHは、このモータ必要電圧(誘起電圧)よりも高く設定する必要がある。その一方で、コンバータ20による昇圧電圧すなわち、システム電圧には上限値すなわち昇圧上限電圧が存在する。
したがって、モータ必要電圧(誘起電圧)がシステム電圧の最大値より低い領域では、正弦波PWM制御方式または過変調制御方式による最大トルク制御が適用されて、ベクトル制御に従ったモータ電流制御によって出力トルクがトルク指令値Tr*に制御される。その一方で、モータ必要電圧(誘起電圧)がシステム電圧の最大値(VH最大電圧)に達すると、システム電圧VHを維持した上で弱め界磁制御に従った矩形波制御方式が適用される。矩形波制御方式では、基本波成分の振幅が固定されるため、電力演算によって求められるトルク実績値とトルク指令値との偏差に基づく、矩形波パルスの電圧位相制御によってトルク制御が実行される。
制御部26は、3つの制御方式から次のようにして制御方式を選択する。図示しない外部ECUにおいてアクセル開度等に基づく車両要求出力から交流モータM1のトルク指令値Tr*が算出されて入力されるのを受けて、制御部26は、予め設定されたマップ等に基づいて、交流モータM1のトルク指令値Tr*およびモータ回転数からモータ必要電圧を算出する。
そして、制御部26は、このモータ必要電圧とシステム電圧VHの最大値(すなわち昇圧上限電圧)との関係に従って、弱め界磁制御(矩形波制御方式)および最大トルク制御(正弦波PWM制御方式/過変調制御方式)のいずれを適用してモータ制御を行なうかを選択する。最大トルク制御適用時に、正弦波PWM制御方式および過変調制御方式のいずれを用いるかについては、ベクトル制御に従う電圧指令値の変調率範囲に応じて選択する。すなわち、0<変調率<0.61で正弦波PWM制御が、0.61≦変調率<0.78で過変調制御が、変調率=0.78で矩形波制御が選択される。
この結果、図2に示されるように、低中回転数領域A1ではトルク変動が小さく制御応答性に優れた正弦波PWM制御方式が用いられ、中高回転数領域A2では過変調制御方式が用いられ、高回転数領域A3では矩形波制御方式が用いられる。
続いて、上記構成からなるモータ駆動システム100のモータ駆動制御装置10において実行される第1の態様のシステム電圧加算補正制御について図3〜6説明する。このシステム電圧加算補正制御は、例えば数msec毎に繰り返し実行される。
図3は、制御部26において実行される処理手順を示すメインフローチャート、図4は、図3における電圧加算補正処理の詳細の一部を示すフローチャート、図5は、図4と同様に、図3における電圧加算補正処理の詳細の一部を示すフローチャート、図6は、図3および図4の処理によって、変調率、昇圧加算要求フラグ、昇圧加算継続カウンタフラグおよびシステム電圧が変化する様子を示す図である。
図3に示すように、制御部26は、予め設定されたマップ等に基づいて、入力されるトルク指令値Tr*と、回転角センサ40の検出値θから求められるモータ回転数とから、上記トルク指令値に従ったトルクを交流モータM1で出力させるためのモータ必要電圧を算出する(ステップS10)。また、制御部26は、算出されたモータ必要電圧と上記のように選択される交流モータM1の制御方式とに基づいて、予め交流モータM1の動作点に応じて設定されているシステム電圧VHの指令値VH*を生成する。ここでのモータ必要電圧およびシステム電圧指令値VH*の算出や生成は、周知の手法により行うことができる。
次に、制御部26は、昇圧目標上限電圧を設定する(ステップS12)。ここでの昇圧目標上限電圧としては、例えば、コンバータ20により昇圧可能な最大電圧である昇圧上限電圧が設定される。それから、制御部26は、電圧加算補正処理を実行し(ステップS14)、続いて昇圧電圧緩変化処理を実行する(ステップS16)。
次に、上記ステップS14の電圧加算補正処理の詳細について説明する。この処理では、まず図4に示すように、変調率が閾値A以上であるか否かが判定される(ステップS20)。ここでの変調率は、入力されたトルク指令値Tr*に基づいて算出されたモータ必要電圧の振幅を上記システム電圧指令値VH*で除して算出される。また、閾値Aは、交流モータM1の一般的な正弦波PWM制御の変調率最大値である0.61が例示される。この判定において、変調率が0.61以上であると判定されると昇圧加算要求フラグがオンに設定され(ステップS22)、一方、変調率が0.61未満であると判定されると昇圧加算要求フラグがオフに設定される(ステップS24)。
続いて、図5を参照すると、システム電圧指令値VH*が昇圧上限電圧未満で且つ昇圧加算要求フラグがオンであるか否かが判定される(ステップS26)。ここでシステム電圧指令値VH*が昇圧上限電圧未満で且つ昇圧加算要求フラグがオンである場合、システム電圧指令値VH*に予め設定されて電圧値Bを加算して昇圧加算後電圧(以後、「補正後システム電圧指令値」ともいう)とし、これと同時に昇圧加算継続カウンタをF(msec)に設定すると共に昇圧加算判定前回値フラグをオンに設定し(ステップS28)、それから次のステップS34に進む。
一方、システム電圧指令値VH*が昇圧上限電圧以上および/または昇圧加算要求フラグがオフである場合、昇圧加算判定前回値フラグがオンであるか否かが判定される(ステップS30)。ここで昇圧加算判定前回値フラグがオンである場合には、昇圧加算後電圧が前回最終のシステム電圧指令値とされ、これと同時に昇圧加算判定前回値フラグがオフに設定される(ステップS32)。
続いて、昇圧加算継続カウンタが所定時間ずつデクレメントされる(ステップS34)。ここでの所定時間は、このシステム電圧加算補正制御が繰り返し実行される時間間隔(例えば数msec)に相当する。
そして、昇圧加算継続カウンタが0msecになったか、または、システム電圧指令値が昇圧上限電圧以上であるか否かが判定される(ステップS36)。ここでのシステム電圧指令値VH*は、逐次に制御部26へ入力されるトルク指令値Tr*に基づいて算出される同一の又は変化したシステム電圧指令値VH*が昇圧上限電圧との比較対象となる。この判定で、昇圧加算継続カウンタが0msecになった又はシステム電圧指令値VH*が昇圧上限電圧以上になったと判定されると、システム電圧指令値VH*がその時点でのシステム電圧指令値VH*に設定され、これと同時に昇圧加算継続カウンタがクリアされると共に昇圧加算判定前回値フラグがオフに設定される(ステップS38)。
一方、昇圧加算継続カウンタが0msecになっておらず且つシステム電圧指令値VH*が昇圧上限電圧未満であると判定されると、システム電圧指令値VH*として上記補正後システム電圧指令値がそのまま維持される(ステップS40)。
図6に、上述したステップS20〜S40による制御状態が横軸を時間軸として示されている。この図6を参照すると、時間t1のタイミングで変調率が閾値A以上になったとき、昇圧加算要求フラグがオンに設定され、昇圧加算継続カウンタがF(msec)に設定される。そして、システム電圧VHは、システム電圧指令値VH*に所定値Bが加算された補正後システム電圧指令値に基づいて生成されるスイッチング信号S1,S2に応じて上記補正後システム電圧指令値に一致する値まで上昇する。
このとき、システム電圧VHを上記加算分に相当する電圧値Bだけ急峻に上昇させると、駆動される交流モータM1で比較的大きなトルク変動を生じさせる結果となり、ドライバーに違和感を与えることになる。これを回避するため、時間t1から時間t2までの時間帯でシステム電圧VHを予め設定したレートCで上記加算電圧分Bだけ比較的緩やかに上昇させる昇圧電圧緩変化処理が実行される(ステップS16、図3参照)。
変調率が閾値A未満となる時間t2のタイミングで昇圧加算要求フラグがオフに設定される。これにより、昇圧加算継続カウンタFのデクレメントが開始され、昇圧加算継続カウンタが0msecになる時間t3までシステム電圧VHは補正後システム電圧指令値に一致する値に維持される。その後、上述した時間t1〜t2間のシステム電圧上昇時の場合と同様の理由から、時間t3以降の時間帯においてシステム電圧VHを予め設定したレートGでその時点でのシステム電圧指令値VH*に一致する値まで比較的緩やかに減少させる昇圧電圧緩変化処理が実行される(ステップS16、図3参照)。
上記のように本実施形態のモータ駆動制御装置10によれば、変調率が正弦波PWM制御における変調率最大値以上であって且つシステム電圧指令値VH*がコンバータ20の昇圧上限電圧よりも小さいとき、交流モータM1が正弦波PWM制御により変調率最大値で駆動されるようシステム電圧指令値VH*に対し予め設定された所定電圧値Bを加算して補正を行う。
これにより、交流モータM1の動作点が過変調制御領域A2(図2参照)に移行しようとする際にシステム電圧VHが高く設定されることによって正弦波PWM制御領域A1(図2参照)が高回転域側へ拡大することになる。その結果、制御応答性が良好な正弦波PWM制御で可能な限り交流モータM1を駆動することができるので、車両のドライバビリティ性能を損なうことがない。
また、正弦波PWM制御方式で採り得る変調率最大値で交流モータM1を駆動することにより、システム電圧VHを過変調制御の場合と比べて低く抑えることができので、コンバータ20での損失低減によるエネルギー効率の向上、ひいては燃費向上も図れる。
続いて、上述した第1の態様のシステム電圧加算補正制御の変形例について図7のフローチャートを参照して説明する。図7に示される各処理手順は図5のフローチャートとほぼ同様であるため、同じ処理手順には同一のステップ参照符号を付して、重複する説明を行わないこととする。
この変形例のシステム電圧加算補正制御においては、システム電圧指令値VH*に加算される電圧Dがコンバータ20の昇圧上限電圧とシステム電圧指令値VH*との差分として与えられる点で、上記第1の態様の電圧加算補正制御とは異なる。具体的には、上記ステップS26が肯定的判定である場合に続くステップS42において、昇圧上限電圧からシステム電圧指令値VH*を減算して昇圧加算電圧Dを求める。そして、次のステップS44で、この昇圧加算電圧Dをシステム電圧指令値VH*に予め設定された所定レートEで加算して昇圧加算後電圧としている。これ以外は、図5を参照して説明した処理手順と同様である。この変形例の電圧加算補正制御によっても、上述した第1の態様の電圧加算補正制御と同じ作用効果を奏することができる。
なお、上記電圧加算補正制御では、まず、変調率が閾値A以上であるときに昇圧加算要求フラグがオンに設定されて電圧加算補正が実質的に開始され、開始後は変調率が閾値A未満になったときに電圧加算補正が解除されることになるが(図4中のステップS20,S22,S24)、電圧加算補正開始時に用いる閾値Aと電圧加算補正解除時に用いる閾値A´とを異なる値に設定してもよい。
具体的には、図8(A)に示すように正弦波PWM制御から過変調制御への制御方式切替えラインに相当する変調率の閾値Aを例えば0.61に設定する一方で、図8(B)に示すように過変調制御から正弦波PWM制御への制御方式切替えラインに相当する変調率の閾値A´を例えば0.59に設定する。これにより、上記切替えライン近傍の動作点で交流モータM1が駆動される場合に電圧加算補正の開始および解除が頻発するハンチング現象を抑制することができる。
次に、図9,10を参照して、本実施形態のモータ駆動制御装置10で実行される第2の態様の電圧加算補正制御について説明する。図9は、モータ回転数急変時の電圧加算補正処理の最初の処理手順を示すフローチャートであり、図10は、図9中における回転数急変判定の詳細を示すフローチャートである。
図9に示すように、この第2の態様の電圧加算補正制御では、まず、モータ回転数の急変判定が成立したか否かが判断される(ステップS50)。この判定で、モータ回転数の急変判定が成立したと判断されると昇圧加算要求フラグがオンに設定され(ステップS52)、一方、モータ回転数の急変判定が成立していないと判断されると昇圧加算要求フラグがオフに設定される(ステップS53)。昇圧加算要求フラグがオンに設定された場合、図5〜7を参照して上述したのと同様の電圧加算補正処理が実行される。
モータ回転数が急変したか否かの判定は、図10に示すようにして行われる。まず、モータ回転数の変化レートが算出される(ステップS54)。このモータ回転数変化レートは、回転角センサ40の検出値θに基づいて随時算出される交流モータM1の回転数の単位時間当たり(例えば、毎秒)の変化率として求められる。
次に、上記回転数変化レートが予め設定された閾値レートH以上であるか否かが判定される(ステップS56)。ここで回転数変化レートが閾値レートH以上であると判定されると、回転急変判定フラグがオンに設定されて(ステップS58)、急変判定カウンタをI(msec)に設定する(ステップS60)。
一方、上記ステップS56で回転数変化レートが閾値レートH未満であると判定されると、図6の処理が繰り返されるごとに急変判定カウンタIを所定時間(例えば数msec)ずつデクレメントしてゆく(ステップS64)。そして、急変判定カウンタが0になったか否かを判定し(ステップS66)、急変判定カウンタが0であると判定されると回転急変判定フラグがオフに設定され、これにより電圧加算補正が解除される。一方、急変判定カウンタが0になるまでは回転急変判定フラグが前回値に保持され(ステップS70)、これにより回転急変判定フラグの前回値がオンであった場合に電圧加算補正が継続されることになる。
上記第2の態様の電圧加算補正制御を実行するモータ駆動制御装置10によれば、例えばスリップ等によりモータ回転数が急変したときに、図5〜7を参照して上述したのと同様の電圧加算補正処理が実行される。これにより、交流モータM1の動作点が過変調制御領域A2(図2参照)に移行しようとする際にシステム電圧VHが高く設定されることによって正弦波PWM制御領域A1(図2参照)が高回転域側へ拡大することになる。その結果、モータ回転数が急変した場合にも制御応答性が良好な正弦波PWM制御で可能な限り交流モータM1を駆動することができ、交流モータM1の制御応答性を確保することができる。
また、回転急変判定不成立時には上記電圧加算補正制御を実行しないことで、予め交流モータM1の動作点に応じて設定されたシステム電圧指令値に回転急変時を考慮して含まれる電圧マージンを省く制御が可能となる。その結果、交流モータM1の定常動作時にシステム電圧を低減することができ、エネルギー効率の向上ひいては燃費向上が図れる。
次に、図11〜15を参照して本実施形態のモータ駆動制御装置10で実行される第3の態様の電圧加算補正制御について説明する。図11は、制御部26においてバッテリ低温時に実行される電圧加算補正の処理手順を示すフローチャートである。図12は、バッテリ温度と放電許可電力および充電許可電力との関係を示すグラフである。図13は、バッテリが充放電電力制限されている場合の電圧加算補正の処理手順を示すフローチャートである。図14は、バッテリ低温時に電圧加算補正を行う場合の昇圧レートの切替え処理を示すフローチャートである。図15は、バッテリの充放電電力制限時に電圧加算補正を行う場合の昇圧レートの切替え処理を示すフローチャートである。
図11に示すように、第3の態様の電圧加算補正制御では、まず、バッテリ低温判定処理を実行する(ステップS80)。ここでは、温度センサ28により検出されるバッテリ温度Tbが予め設定された閾値Kと比較され、この閾値K以下であるときバッテリ低温判定が成立する。
続いて、電圧加算補正判定処理が実行される(ステップS82)。ここでは、上記ステップS80でバッテリ低温判定が成立したか否かが確認され、バッテリ低温判定が成立している場合にシステム電圧指令値VH*に予め設定された所定電圧値Lを加算して補正後システム電圧指令値が生成される。この電圧加算補正の処理手順は、図4および図5を参照して説明したのと同様である。
また、図12に示すように、バッテリ11にはその規格に応じて充電許可電力Winおよび放電許可電力Woutが設定されており、バッテリ低温時にはこれらの充放電許可電力Win,Woutが絶対値として小さくなる傾向にある。そのため、バッテリ低温時には、充放電許可電力Win,Woutに従った充放電電力制限がかけられることになる。
そこで、図11の処理に代えて、図13に示す処理が実行されてもよい。図13に示す処理では、まず、バッテリ充放電電力制限判定処理を実行する(ステップS84)。ここではバッテリ11についての充放電電力制限値が予め設定された閾値M以下であるか否かが判定される。続いて、電圧加算補正判定処理が実行される(ステップS82)。ここでは、上記充放電電力制限値が閾値M以下であると判定された場合に、システム電圧指令値VH*に予め設定された所定電圧値Nを加算して補正後システム電圧指令値が生成される。この電圧加算補正の処理手順もまた、図4および図5を参照して説明したのと同様である。
永久磁石モータでは低温になると同じ動作点でもモータ必要電圧が大きくなる特性があり、モータ必要電圧が大きくなることで変調率が増加する。これに伴って上記第1の態様の電圧加算補正制御では変調率が閾値A以上になり易くなって、電圧加算補正が行われる頻度が多くなる。このような低温時に電圧加算補正が頻繁に行われると、充放電電力制限されているバッテリ11からの放電電力が多くなるためにバッテリ電圧Vbが下限割れしてバッテリ11にダメージを与えるおそれがある。そのため、バッテリ低温時やバッテリ11の充放電電力制限時に上記第3の態様の電圧加算補正処理を行うことによってシステム電圧指令値が加算補正されることで、変調率の増加が抑制されて閾値A以上になる頻度を低減することができる。その結果、バッテリ電圧下限割れが生じるのを抑制して、バッテリ11を保護することができる。
上記第3の態様の電圧加算補正制御において、システム電圧を補正後システム電圧指令値に従って上昇させる際の昇圧レート(図6中のレートC参照)は、バッテリ低温判定が成立しない通常時よりも低い昇圧レートに設定されるのが好ましい。この処理が図14に示される。図14を参照すると、まず、バッテリ温度Tbが閾値K以下の低温であるか否かが判定され(ステップS90)、低温判定成立時は昇圧レートを通常時よりも緩傾斜の昇圧レートに切り替え(ステップS92)、一方、低温判定不成立時は昇圧レートを通常時のものに切り替える。これにより、低温時にバッテリ11から過電流が流出してバッテリ電圧が下限割れしてしまうのをより有効に抑制することができる。
あるいは、図13に示す電圧加算補正処理に対応して、図15に示す処理を行ってもよい。図15を参照すると、まず、バッテリ11に充放電電力制限がかかっているか否かを判定し(ステップS91)、充放電電力制限がかかっている場合には昇圧レートを通常時よりも緩傾斜の昇圧レートに切り替え(ステップS92)、一方、充放電電力制限がかかっていない場合には昇圧レートを通常時のものに切り替える。これによっても、充放電電力制限がかかっているときにバッテリ11から過電流が流出してバッテリ電圧が下限割れしてしまうのをより有効に抑制することができる。