JP5941636B2 - 酸化物超電導導体用基材の製造方法および酸化物超電導導体の製造方法 - Google Patents

酸化物超電導導体用基材の製造方法および酸化物超電導導体の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、酸化物超電導導体用基材の製造方法、酸化物超電導導体用基材および酸化物超電導導体に関する。
RE−123系酸化物超電導体(REBaCu7−x:REはY、Gdなどの希土類元素)は、液体窒素温度(77K)よりも高い臨界温度を有しており、超電導デバイス、超電導変圧器、超電導限流器、超電導モータ又はマグネット等の超電導機器への応用が期待されている。
RE−123系酸化物超電導体を導電体として使用するためには、テープ状基材などの長尺基材上に、結晶配向性の良好な酸化物超電導体の薄膜を形成する必要がある。これは、この種の希土類酸化物系超電導体の結晶が、その結晶軸のa軸方向とb軸方向には電気を流しやすいが、c軸方向には電気を流し難いという電気的異方性を有しており、長尺基材上に酸化物超電導層を形成する場合、電気を流す方向にa軸あるいはb軸を配向させ、c軸をその他の方向に配向させる必要があるためである。
ところが、一般には、金属テープ自体が多結晶体でその結晶構造も酸化物超電導体と大きく異なるために、金属テープ上に直接、結晶配向性の良好な酸化物超電導体の薄膜を形成することは難しい。
そこで、金属テープ製の基材を用い、その表面にイオンビームアシスト蒸着法(IBAD法)により結晶配向性の良好な中間薄膜を形成し、該中間薄膜の表面に成膜法により酸化物超電導層を形成した構造の酸化物超電導導体が知られている。
また、酸化物超電導層の結晶配向性をより高めるために、IBAD法で結晶配向性を整えつつ成膜した中間薄膜の上に、更にCeOのキャップ層を成膜し、キャップ層の結晶配向性をIBAD法による中間薄膜より更に高め、このキャップ層を下地として酸化物超電導層を成膜することで、超電導特性の優れた酸化物超電導導体を製造する技術が知られている。
金属テープ上に中間薄膜が形成された基材上にCeOのキャップ層を形成する方法として、パルスレーザ蒸着法(PLD法)がある(特許文献1参照)。
CeOのキャップ層の成膜には、照射光としてエキシマレーザが主に使用されている。エキシマレーザを用いたPLD法によりCeOのキャップ層を成膜すると、良好な結晶配向性のキャップ層を形成することが可能であり、その上に形成される酸化物超電導層の膜質も良好となり、高い超電導特性が得られやすいことが知られている。
特許第3854551号公報
しかしながら、エキシマレーザは、高価な希ガスや有毒なハロゲンガスを使用するため、コスト面及び安全面において不利である。そこで、希ガスやハロゲンガスを使用しない他のレーザ光を用いて、結晶配向性が良好なCeOのキャップ層を成膜する技術の開発が望まれる。
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたものであり、結晶配向性が良好なCeOのキャップ層を備えた酸化物超電導導体用基材を低コストで製造できる製造方法、及びこれを用いて製造された酸化物超電導導体用基材並びに酸化物超電導導体を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、本発明の酸化物超電導導体用基材の製造方法は、YAGレーザ光の第3高調波(波長355nm)、ターゲット上でのエネルギー密度が6J/cm以上、前記ターゲット上におけるレーザ光のスポット面積が1.0mm 以下となるように該ターゲット上に照射して、このターゲットの構成粒子を叩き出し若しくは蒸発させ、前記構成粒子を基材の上方に形成された中間層の表面上に堆積させて、該中間層上にCeOのキャップ層を形成することを特徴とする。
本発明の酸化物超電導導体用基材の製造方法は、設備やランニングコストが高価なエキシマレーザを用いずに、YAGレーザ光の第3高調波使用し、ターゲットに照射するYAGレーザ光のエネルギー密度を6J/cm以上、YAGレーザ光のスポット面積が1.0mm 以下に設定することにより、低コストで結晶配向性が良好なCeO層を備える酸化物超電導導体用基材を製造することができる。この場合、YAGレーザ光の第3高調波はエキシマレーザとほぼ同等のパルスエネルギーを有するため、ターゲットの構成粒子が十分に微粒子化されるため、結晶配向性の良好なCeO のキャップ層を成膜することができる。
本発明の酸化物超電導導体用基材の製造方法YAGレーザ光の第4高調波(波長266nm)を、ターゲット上でのエネルギー密度が6J/cm 以上となるように該ターゲット上に照射して、このターゲットの構成粒子を叩き出し若しくは蒸発させ、前記構成粒子を基材の上方に形成された中間層の表面上に堆積させて、該中間層上にCeO のキャップ層を形成することを特徴とする
本発明の酸化物超電導導体用基材の製造方法は、設備やランニングコストが高価なエキシマレーザを用いずに、YAGレーザ光の第4高調波を使用し、ターゲットに照射するYAGレーザ光のエネルギー密度を6J/cm 以上に設定することにより、低コストで結晶配向性が良好なCeO 層を備える酸化物超電導導体用基材を製造することができる。
本発明の酸化物超電導導体用基材の製造方法において、前記ターゲット上におけるレーザ光のスポット面積が1.0mm以下となるようにYAGレーザ光を該ターゲット上に照射することも好ましい。
この場合、ターゲット表面上におけるスポット面積が1.0mm以下となるようにYAGレーザ光を照射することにより、ターゲットに照射されるレーザ光のエネルギー密度の均一性を高め、安定した組成のプルームを発生させることができる。これにより、成膜されるCeOのキャップ層の結晶配向性をより向上させることができる。
発明の酸化物超電導導体用基材の製造方法は、上記本発明の酸化物超電導導体用基材の製造方法を用いて形成された前記キャップ層上に、酸化物超電導層を形成することを特徴とする
本発明によれば、結晶配向性が良好なCeOのキャップ層を備えた酸化物超電導導体用基材を低コストで製造できる製造方法、及びこれを用いて製造された酸化物超電導導体用基材並びに酸化物超電導導体を提供できる。
本発明の酸化物超電導導体用基材の製造方法で使用されるレーザ成膜装置の一例を示す構成説明図である。 図1に示すレーザ成膜装置の要部を示す概略斜視図である。 本発明の製造方法により得られる酸化物超電導導体用基材の一例を示す概略斜視図である。 図3に示す酸化物超電導導体用基材の層構造を詳細に示す構成図である。 本発明に係る酸化物超電導導体の層構造を模式的に示す斜視図である。
以下、本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明の酸化物超電導導体用基材の製造方法で使用されるレーザ蒸着装置の一例を示す構成説明図であり、図2は図1に示すレーザ蒸着装置の要部を示す概略斜視図である。
また、図3は本発明に係る酸化物超電導導体用基材の製造方法により得られる酸化物超電導導体用基材の一例を示す概略斜視図であり、図4は図3に示す酸化物超電導導体用基材の積層構造の詳細を示す構成図である。
図3に示す酸化物超電導導体用基材10は、テープ状の基材1上に中間層2が積層されてなる積層体基材25の中間層2上に、キャップ層3が積層されて構成されている。
酸化物超電導導体用基材10は、より詳細には図4に示す如く、テープ状の基材1の上面に拡散防止層11とベッド層12と配向層13とからなる中間層2が積層され、その上にキャップ層3を積層して構成されているが、図3では図示の簡略化のために中間層2を1層のように描いている。なお、拡散防止層11とベッド層12は必須ではなく、場合によっては略しても良い。
図3および図4に示す酸化物超電導導体用基材10は、図5に示す如く、そのキャップ層3上に酸化物超電導層4と安定化層5が順次積層形成されて酸化物超電導導体30を構成する。
基材1は、通常の超電導線材の基材として使用し得るものであれば良く、長尺のプレート状、シート状又はテープ状であることが好ましく、耐熱性の金属からなるものが好ましい。耐熱性の金属の中でも、合金が好ましく、ニッケル合金又は銅合金がより好ましい。中でも、市販品であればハステロイ(商品名、米国ヘインズ社製)が好適であり、モリブデン、クロム、鉄、コバルト等の成分量が異なる、ハステロイB、C、G、N、W等のいずれの種類も使用できる。また、基材1としてニッケル合金などに集合組織を導入した配向Ni−W基板のような配向金属基板を用いてもよい。
基材1の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、通常は、10〜500μmの範囲とすることができる。
拡散防止層11は、基材1の構成元素拡散を防止する目的で形成されたもので、窒化ケイ素(Si)、酸化アルミニウム(Al)、あるいは、GZO(GdZr)等から構成され、その厚さは例えば10〜400nmである。拡散防止層11の結晶性は特に問われないので、通常のスパッタ法等の成膜法により形成すれば良い。
ベッド層12は、耐熱性が高く、界面反応性を低減するためのものであり、その上に配される膜の配向性を得るために用いる。このようなベッド層12は、例えば、イットリア(Y)などの希土類酸化物であり、組成式(α2x(β(1−x)で示されるものが例示できる。より具体的には、Er、CeO、Dy3、Er、Eu、Ho、La等を例示することができる。ベッド層12の厚さは例えば10〜100nmである。また、ベッド層12の結晶性は特に問われないので、通常のスパッタ法等の成膜法により形成すれば良い。
配向層13は、単層構造あるいは複層構造のいずれでも良く、その上に積層されるキャップ層14の結晶配向性を制御するために2軸配向する物質から選択される。配向層13の好ましい材質として具体的には、GdZr、MgO、ZrO−Y(YSZ)、SrTiO、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等の金属酸化物を例示することができる。配向層13の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良いが、通常は、0.1〜5μmである。
この配向層13をIBAD(Ion-Beam-Assisted Deposition、イオンビームアシスト蒸着)法により良好な結晶配向性(例えば結晶配向度15゜以下)で成膜するならば、その上に形成するキャップ層3の結晶配向性を良好な値(例えば結晶配向度5゜前後)とすることができ、これによりキャップ層3の上に成膜する酸化物超電導層4の結晶配向性を良好なものとすることができる。
例えば、GdZr、MgO又はZrO−Y(YSZ)からなる配向層13は、IBAD法における結晶配向度を表す指標であるΔΦ(FWHM:半値全幅)の値を小さくできるため、特に好適である。
キャップ層3はCeOからなる。なお、本発明において、CeOのキャップ層3は、全てがCeOからなる場合に限定されず、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで一部置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいてもよい。
CeOのキャップ層3は、上述のように面内結晶軸が配向した配向層13表面に成膜されることによってエピタキシャル成長し、その後、横方向に粒成長して、結晶粒が面内方向に自己配向する。これにより、配向層13よりも更に高い面内配向度を得ることができる。
CeO層のキャップ層3の膜厚は、50nm以上であればよいが、十分な配向性を得るには100nm以上が好ましい。但し、厚すぎると結晶配向性が悪くなるので、50〜5000nmの範囲がより好ましく、100〜5000nmの範囲がさらに好ましい。
CeOのキャップ層3は、YAGレーザ光によるPLD法(パルスレーザ蒸着法)で成膜することができる。以下、CeOのキャップ層3の形成方法について説明する。
本発明の酸化物超電導導体用基材の製造方法において、CeOのキャップ層3の形成に使用されるレーザ蒸着装置20は、図1および図2に示すように、レーザ光(YAGレーザ光)Lによってターゲット27から叩き出され若しくは蒸発した構成粒子の噴流(プルーム29)を発生させ、基材1上に中間層2が形成された積層体基材25の中間層2上にプルーム29の構成粒子を堆積させ、この構成粒子による薄膜を積層体基材25の中間層2(配向層13)上に形成する、レーザ蒸着法による成膜装置である。なお、以下の説明において、ターゲット27の構成粒子の堆積領域35とは、レーザ光Lの照射によりターゲット27から叩き出され若しくは蒸発した構成粒子(蒸着粒子)の噴流であるプルーム29が形成された領域を意味する。
図1および図2に示すレーザ蒸着装置20は、テープ状の長尺の積層体基材25を巻回するリールなどの巻回部材を複数個同軸的に配列してなり、離間して対向配置された積層体基材25の移動方向を転向する一対の転向部材群23、24と、転向部材群23の外側に配置された積層体基材25を送り出すための送出リール21と、転向部材群24の外側に配置された積層体基材25を巻き取るための巻取リール22と、転向部材群23、24の巻回により複数列とされた積層体基材25を支持する基材ホルダ26と、基材ホルダ26に内蔵された積層体基材25を加熱するための加熱手段34と、転向部材郡23、24間を走行する積層体基材25と対向配置されたターゲット27と、ターゲット27にレーザ光Lを照射するYAGレーザ光発光手段28とを備えて構成されている。転向部材群23、24、送出リール21及び巻取リール22を駆動装置(図示略)により互いに同期して駆動させることにより、送出リール21から送り出された長尺の積層体基材25が転向部材群23、24を周回し、巻取リール22に巻き取られるようになっている。
長尺の積層体基材25は、成膜面である中間層2(配向層13)側が外側となるように一対の転向部材群23、24に巻回されており、これらの転向部材群23、24を周回することにより、ターゲット27の構成粒子(蒸着粒子)の堆積領域35にて複数列レーンを構成するように配置されている。そのため、レーザ蒸着装置20は、レーザ光Lをターゲット27の表面に照射し、ターゲット27から叩き出され若しくは蒸発した構成粒子の噴流(プルーム29)を、ターゲット27に対向する領域(ターゲット27の構成粒子の堆積領域35)を走行する積層体基材25の表面(中間層2の配向層13の表面)に向けて、積層体基材25上に蒸着粒子を堆積させることができる。また、積層体基材25が堆積領域35にて複数列レーンを構成するように配置されていることにより、ターゲット27からの蒸着粒子を良好な収率で積層体基材25上に堆積させることができ、ターゲット27を有効利用することができる。
処理容器31には、真空排気装置32が接続され、この真空排気装置32により処理容器31内を所定の圧力に減圧するようになっている。
積層体基材25、積層体基材25の移動方向を転向させる転向部材群23、24、送出リール21、巻取リール22、ターゲット27および基材ホルダ26は、処理容器31内に収容され、処理容器31内の圧力が所定の圧力に減圧されている間は、積層体基材25の長手方向の全体が処理容器31内の減圧下に置かれるようになっている。
ターゲット27の構成粒子の堆積領域35を走行する複数の積層体基材25を支持する基材ホルダ26内には、加熱手段34が配されており、この加熱手段34により基材ホルダ26の温度を所定の温度に保つことができる。そのため、堆積領域35を通過中の積層体基材25は、その成膜面(中間層2側)とは反対側の面(基材1側)から、加熱手段34および基材ホルダ26からの放熱により所定の温度に加熱された状態でターゲット27の構成粒子が堆積し、成膜される。
加熱手段34としては、熱を放散して基材ホルダ26および堆積領域35内の積層体基材25を加熱することができるものであれば特に限定されず、通電式の加熱ヒーター等が挙げられる。
ターゲット27は、目的とするCeOのキャップ層3を形成するためのものであり、目的の組成の多結晶薄膜と同一組成あるいは近似組成のもの等を用いる。ターゲット27として具体的には、CeOあるいはCeを用い、必要に応じて成膜雰囲気中に酸素ガスを供給して成膜すればよい。
YAGレーザ光発光手段28からは、レーザ光LとしてYAGレーザ光の第3高調波(波長355nm)、第4高調波(266nm)、第5高調波(213nm)のいずれかが射出され、このYAGレーザ光Lがターゲット27に照射される。
YAGレーザ光の基本波(1064nm)は非線形結晶を用いて、第2高調波(波長532nm)、第3高調波(波長355nm)、第4高調波(波長266nm)、第5高調波(波長213nm)へと波長を変えることができる。本実施形態においては、ターゲット27に照射するレーザ光Lとして、YAGレーザ光の第3高調波、第4高調波および第5高調波のいずれかを用いる構成とした。中でも、結晶配向性の良好なCeOのキャップ層3を成膜することができるため、YAGレーザ光の第3高調波を使用することが好ましい。
処理容器31には、YAGレーザ光発光手段28のレーザ光Lを取り込むための窓33が設けられている。本実施形態においては、YAGレーザ光発光手段28は処理容器31の外側に設置されているが、処理容器31の内側に配置することも可能である。
また、レーザ光Lは、その照射位置を移動させる手段(図示略)により、レーザ光Lの照射位置をターゲット27の表面上で移動可能とされていることが好ましい。このようにレーザ光Lの照射位置をターゲット27の表面上で移動可能とすることにより、ターゲット27が局所的に削られて、ターゲット27の寿命が短くなることを防止することがきできる。また、ターゲット27の表面上でレーザ光Lの照射位置を移動可能とすることにより、ターゲット27からのプルーム29を複数発生させて、ターゲット27の構成粒子の堆積領域35を広くすることができる。
ターゲット27はターゲットホルダ(図示略)により固定され、ターゲット移動機構(図示略)によって、平行な面に沿って移動可能に設けられている。さらに、ターゲット27は、ターゲット27の中心を軸として回転可能に設けられていることが好ましい。このように、ターゲット27を移動可能及び回転可能に設けるならば、長時間の成膜を継続して実施しても、ターゲット27の表面がほぼ均一に削られるので、ターゲット27表面の形状乱れによってプルーム29の大きさが変わる不具合を防止することができ、積層体基材25の長手方向に均一な膜厚のCeOのキャップ層3を形成することが可能となる。
図1および図2に示す構成のレーザ蒸着装置20を用いて積層体基材25の上(基材1上の中間層2の上面)にCeOのキャップ層3を成膜するには、ターゲット27を所定の位置に設置し、次いで、送出リール21に巻回されている長尺の積層体基材25を引き出しながら、転向部材群23、24に成膜面(中間層12側)が外側となるように順次巻回し、その後、長尺の積層体基材25の先端側を巻取リール22に巻き取り可能に取り付ける。
これにより、一対の転向部材群23、24に巻回された長尺の積層体基材25が、これらの転向部材群23、24を周回し、ターゲット27に対向する位置に複数列並んで移動するようになる。その後、真空排気装置32を駆動し、少なくとも転向部材群23、24間を走行する積層体基材25を覆うように設置された処理容器31内を減圧する。
この際、必要に応じて処理容器31内に酸素ガスを導入して容器内を酸素雰囲気としても良く、成膜時の処理容器31内の酸素分圧は、例えば0.6〜100Paの範囲に設定することができる。
次に、ターゲット27にレーザ光(YAGレーザ光)Lを照射して成膜を開始するよりも前の適当な時に、加熱手段34に通電して、基材ホルダ26を加熱し、一定温度に保温するとともに、この基材ホルダ26に保持されてターゲット27の構成粒子の堆積領域(成膜領域)35を走行する積層体基材25を加熱し、一定温度に保温する。成膜時の積層体基材25の温度は、例えば500〜1000℃の範囲に設定することができる。
続いて、送出リール21から基材25を送り出しつつ、YAGレーザ光発光手段28からレーザ光(YAGレーザ光)Lを発生させ、レーザ光(YAGレーザ光)Lをターゲット27に照射する。本実施形態においては、ターゲット27に照射するレーザ光Lとして、
YAGレーザ光の第3高調波、第4高調波および第5高調波のいずれかを用いる。中でも、結晶配向性の良好なCeOのキャップ層3を成膜することができるため、レーザー光LとしてYAGレーザ光の第3高調波を使用することが好ましい。
YAGレーザ光の基本波および第2高調波を用いてCeOのキャップ層を成膜した場合、これらのレーザ光は長波長であるために光量子エネルギーが小さく、レーザ光が直接光のエネルギーとしてターゲット27に吸収されてしまう。そのため、結晶格子の分離作用の方が支配的となってしまい、ターゲット27から発生する構成粒子の噴流(プルーム29)が安定せず、結晶の揃ったCeOのキャップ層を成膜することができない。
YAGレーザ光の第3高調波、第4高調波および第5高調波は、基本波および第2高調波よりも波長が短いため、ターゲット27に照射した場合に、ターゲット27の熱的溶融を起こしにくく、ターゲット27の構成粒子の蒸発が優先的に起こるため、レーザ光Lとして好適である。
特に、YAGレーザ光の第3高調波はエキシマレーザとほぼ同等のパルスエネルギーを有するため、ターゲット27の構成粒子が十分に微粒子化されるため、結晶配向性の良好なCeOのキャップ層3を成膜することができる。
YAGレーザ光Lのターゲット27の表面への照射は、ターゲット27上におけるYAGレーザ光Lのエネルギー密度が6J/cm以上となるようにして行う。ターゲット27に照射するYAGレーザ光Lのエネルギー密度を6J/cm以上に設定することにより、成膜されるCeOのキャップ層3の結晶配向性が良好となる。ターゲット27に照射するYAGレーザ光Lのエネルギー密度の上限は特に制限されないが、ターゲット27の割れを防止する観点から50J/cmを上限とすることが好ましい。
さらに、YAGレーザはエキシマレーザと比較してビームの集光性が良いため、エキシマレーザよりも十分にビームを絞ることができるという特長がある。そのため、YAGレーザを用いることにより、局所的にターゲット27をアブレーションできるので、ターゲット27の熱的溶融を起こしにくくなり、レーザ光Lのエネルギーを効率的にアブレーション(蒸発)のエネルギーに変換することができる。
YAGレーザ光Lの照射は、ターゲット27表面上におけるYAGレーザ光Lのスポット面積(ターゲット27の表面に照射されるレーザ光Lのビーム面積)が、1.0mm以下となるように行うことが好ましい。ターゲット27表面上におけるスポット面積が1.0mm以下となるようにYAGレーザ光Lを照射することにより、ターゲット27に照射されるレーザ光Lのエネルギー密度の均一性を高め、安定した組成のプルーム29を発生させることができる。これにより、成膜されるCeOのキャップ層3の結晶配向性をより向上させることができる。
なお、ターゲット27表面上におけるYAGレーザ光Lのスポット面積の下限は特に限定されず、使用するYAGレーザ光発光手段28の能力に応じて決定される。
また、YAGレーザのパルス幅は約10nsであり、エキシマレーザのパルス幅(約20ns)の約半分であるという特長がある。ターゲットにレーザ光が長時間照射されると、ターゲットの蒸発に加えて、ターゲット27の溶融が起こりやすくなり、ターゲット27の表面が荒れて、プルーム29の組成や形状が不安定になる傾向がある。そのため、パルス幅の短いYAGレーザを用いることにより、エキシマレーザを用いる場合と比較して、ターゲット27の熱的溶融を起こしにくく、安定した組成および形状のプルーム29を発生させることができるので、結晶配向性の良好なCeOのキャップ層3を成膜できる。
YAGレーザ光Lをターゲット27に照射する際、レーザ光Lの照射位置をターゲット27の表面上で移動させる走査を行いながらレーザ光Lをターゲット27に照射することが好ましい。また、ターゲット27は、ターゲット移動機構(図示略)によって、平行な面に沿って移動させることも好ましい。このように、ターゲット27におけるレーザ光Lの照射位置を移動させることにより、ターゲット27の表面全域から順次プルーム29を発生させてターゲット27の粒子を叩き出し若しくは蒸発させることができ、レーン状に複数配列した積層体基材25の個々に可能な限り均一なCeOのキャップ層3を成膜することができる。
ターゲット27から叩き出され若しくは蒸発した蒸着粒子は、その放射方向の断面積が拡大したプルーム29となり、複数列並んで移動している積層体基材25の表面に蒸着粒子を堆積させることができ、積層体基材25がこれらの転向部材群22、23を周回する間に、堆積領域35を複数回通過することによりCeOのキャップ層3が繰り返し成膜され、必要な厚さに積層される。本実施形態では、長尺の積層体基材25が堆積領域35にて複数列レーンを構成するように配置されていることにより、ターゲット27からの蒸着粒子を良好な収率で積層体基材25上に堆積させることができ、ターゲット27を有効利用することができる。
CeOのキャップ層3の成膜後、得られた酸化物超電導導体用基材10は巻取リール21に巻き取られる。
以上の工程により、積層体基材25(テープ基材1上の中間層2の上面)に、CeOのキャップ層3を成膜し、酸化物超電導導体用基材10を製造することができる。
YAGレーザは、エキシマレーザに比べて装置が安価であり、また、エキシマレーザのように高価な希ガスや有毒なハロゲンガスを利用しないという利点がある。また、エキシマレーザでは導入ガス用チューブなどの部品を頻繁に交換する必要があり、長時間の連続運転が難しいが、結晶を使用した固体レーザであるYAGレーザは長時間の連続使用が可能であり、エキシマレーザと比較してランニングコストを安くできる利点がある。
本発明の酸化物超電導導体用基材の製造方法は、設備やランニングコストが高価なエキシマレーザを用いずに、YAGレーザ光の第3高調波、第4高調波、第5高調波のいずれかを使用することにより、低コストで結晶配向性が良好なCeOのキャップ層3を備える酸化物超電導導体用基材10を製造することができる。
このように、結晶配向性の良好なCeOのキャップ層3を備えた本実施形態の酸化物超電導導体用基材10を用い、このキャップ層3上に酸化物超電導層4を形成すると、酸化物超電導層4もCeOのキャップ層3の配向性に整合するように結晶化する。本実施形態の酸化物超電導導体用基材10のキャップ層3上に形成された酸化物超電導層4は、結晶配向性に乱れが殆どなく、酸化物超電導層4を構成する結晶粒の1つ1つにおいては、基材1の厚さ方向に電気を流しにくいc軸が配向し、基材1の長さ方向にa軸どうしあるいはb軸どうしが配向している。従って得られた酸化物超電導層4は、結晶粒界における量子的結合性に優れ、結晶粒界における超電導特性の劣化が殆どないので、基材1の長さ方向に電気を流し易くなり、十分に高い臨界電流密度が得られる。
酸化物超電導層4は通常知られている組成の酸化物超電導体からなるものを広く適用することができ、REBaCu(RE123系の酸化物超電導体;REはY、Gd、La、Nd、Sm、Er等の希土類元素を表し、6.5<y<7.1を満たす。)なる材質のもの、具体的には、Y123(YBaCu)又はGd123(GdBaCu)を例示することができる。
酸化物超電導層4は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法等の物理的蒸着法;化学気相成長法(CVD法);塗布熱分解法(MOD法)等で積層でき、なかでもレーザ蒸着法が好ましい。
酸化物超電導層4の厚みは、0.5〜5μm程度であって、均一な厚みであることが好ましい。
酸化物超電導層4の結晶のc軸とa軸とb軸は、CeOのキャップ層3の結晶に整合するようにエピタキシャル成長して結晶化しており、結晶配向性が優れたものとなる。
酸化物超電導層4の上に積層される安定化層5は、酸化物超電導層4の一部領域が常電導状態に遷移しようとした場合に、電流のバイパス路として機能することで、酸化物超電導層4を安定化させて焼損に至らないようにする、主たる構成要素である。
安定化層5は、導電性が良好な金属からなるものが好ましく、具体的には、銀又は銀合金、銅などからなるものが例示できる。安定化層5は1層構造でも良いし、2層以上の積層構造であってもよい。
安定化層5は、公知の方法で積層できる。安定化層5が1層構造の場合は、銀層をメッキやスパッタ法で形成する方法が挙げられる。また、安定化層5が2層構造の場合は、銀層をメッキやスパッタ法で形成し、その上に銅テープなどを貼り合わせるなどの方法を採用できる。安定化層5の厚さは、3〜300μmの範囲とすることができる。
図5に示す本実施形態の酸化物超電導導体30は、上述した本発明に係る酸化物超電導層導体用基材10の結晶配向性の良好なCeOのキャップ層上に酸化物超電導層4が形成されていることにより、酸化物超電導層4の結晶配向性が良好であり、優れた超電導特性を示すことができる。
以上、本発明の酸化物超電導導体用基材の製造方法、酸化物超電導導体用基材および酸化物超電導導体の一実施形態について説明したが、上記実施形態において、酸化物超電導導体用基材および酸化物超電導導体の各部、酸化物超電導導体用基材の製造方法およびそれに使用される装置は一例であって、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
例えば、上記実施形態では、積層体基材をターゲットの構成粒子の堆積領域(成膜領域)を複数回通過させて、積層体基材の中間層上にCeOのキャップ層を成膜する例を示したが、本発明はこれに限定されない。積層体基材を成膜領域を1回のみ通過させる構成としても良く、積層体基材を成膜領域内を1回又は複数回通過させた後、積層体基材の搬送方向を逆にして(送出リールおよび巻取リールの回転方向を逆にして)、積層体基材を成膜領域内に再度通過させて成膜しても良い。
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の実施例において、厚さ100μm、幅10mm、全長100mのハステロイC276(米国ヘインズ社製商品名)製のテープ状の基材上に、イオンビームアシスト蒸着法(IBAD法)により厚さ1μmのGdZr(配向層;中間層)を形成したものを積層体基材として用いた。
(実施例1)
図1および図2に示すレーザ蒸着装置20を用い、YAGレーザ光の第1〜第5高調波を使用したパルスレーザ蒸着法(PLD法)により、積層体基材のGdZr層上に厚さ0.5μmのCeOのキャップ層を成膜することによりNo.1〜No.5の酸化物超電導導体用基材を作製した。成膜条件は以下の通りである。
YAGレーザ光の波長変換前のパルスエネルギー:400mJ、ターゲット:CeO、ターゲット上におけるレーザ光のスポット面積(ビーム面積):3.0mm、ターゲット上におけるレーザ光のエネルギー密度:6J/cm、成膜装置内の酸素分圧:3.0Pa、積層体基材を加熱する基材ホルダ温度:800℃、積層体基材の搬送速度:50m/h。なお、YAGレーザ光のターゲット上でのパルスエネルギーは、波長変換の影響により波長が短くなるにつれて小さくなる。
作製したNo.1〜No.5の酸化物超電導導体用基材のCeOのキャップ層について、α角度45±2°においてX線回折測定を行い、4つの(220)CeOピークの半値幅の平均値Δφを求めた。結果を表1に示す。なお、Δφの数値が小さいほど、CeOのキャップ層の結晶配向性が良好であることを示す。
Figure 0005941636
表1の結果より、YAGレーザ光の第3高調波、第4高調波、第5高調波のいずれかを用いて成膜を行ったNo.3〜No.5の試料は、基本波を用いたNo.1および第2高調波を用いたNo.2の試料と比較して、CeOのキャップ層の結晶配向性が良好であった。中でも、YAGレーザ光の第3高調波を用いて成膜したNo.3の試料は、特に結晶配向性が良好であった。
(実施例2)
図1および図2に示すレーザ蒸着装置20を用い、YAGレーザ光の第3高調波(355nm)を使用したPLD法により、ターゲット上におけるレーザ光のスポット面積(ビーム面積)およびターゲット上におけるレーザ光のエネルギー密度を表2に示す数値に設定して、積層体基材のGdZr層上に厚さ0.5μmのCeOのキャップ層を成膜することによりNo.6〜No.13の酸化物超電導導体用基材を作製した。成膜条件は以下の通りである。
YAGレーザ光のターゲット上におけるパルスエネルギー:60mJ、ターゲット:CeO、成膜装置内の酸素分圧:3.0Pa、積層体基材を加熱する基材ホルダ温度:800℃、積層体基材の搬送速度:50m/h。
作製したNo.6〜No.13の酸化物超電導導体用基材のCeOのキャップ層について、α角度45±2°においてX線回折測定を行い、4つの(220)CeOピークの半値幅の平均値Δφを求めた。結果を表1に示す。
Figure 0005941636
表2の結果より、ターゲット上におけるエネルギー密度が6mJ/cm以上で、ターゲット上におけるYAGレーザ光のスポット面積が1.0mm以下であるNo.10〜No.13の試料は、No.6〜No.9の試料と比較して、CeOのキャップ層の結晶配向性が良好であった。
(比較例1)
図1および図2に示すレーザ蒸着装置20を用い、エキシマレーザを使用したPLD法により、ターゲット上におけるレーザ光のスポット面積(ビーム面積)およびターゲット上におけるレーザ光のエネルギー密度を表3に示す数値に設定して、積層体基材のGdZr層上に厚さ0.5μmのCeOのキャップ層を成膜することによりNo.14〜No.21の酸化物超電導導体用基材を作製した。成膜条件は以下の通りである。
エキシマレーザのターゲット上におけるパルスエネルギー:60mJ、ターゲット:CeO、成膜装置内の酸素分圧:3.0Pa、積層体基材を加熱する基材ホルダ温度:800℃、積層体基材の搬送速度:50m/h。なお、エキシマレーザはYAGレーザよりもビームに指向性があるためにビームを十分に絞ることができないので、スポット面積を1.2mm未満に設定することができなかった。そのため、No.18〜No.21の試料では、エキシマレーザのパルスエネルギーを上げることにより、エネルギー密度を調整した。
作製したNo.14〜No.21の酸化物超電導導体用基材のCeOのキャップ層について、α角度45±2°においてX線回折測定を行い、4つの(220)CeOピークの半値幅の平均値Δφを求めた。結果を表1に示す。
Figure 0005941636
表3の結果より、エキシマレーザを用いた成膜では、パルスエネルギーを上げることにより、ターゲット上のエネルギー密度を上げることができるが、ターゲット上におけるレーザ光のスポット面積を1.2mm未満にすることができなかった。そのため、YAGレーザを用いた実施例1のNo.10〜No.13の試料と比較すると、レーザ光のスポット面積が大きく、ターゲットから発生するプルームが実施例1のNo.10〜No.13の試料と比較すると不安定であるため、結晶配向性が実施例1の試料ほどは向上しなかった。
本発明は、超電導デバイスや、変圧器、モーター又はマグネット等の超電導機器等の分野で利用可能である。
10…酸化物超電導導体用基材、1…基材、2…中間層、3…キャップ層、4…酸化物超電導層、5…安定化層、11…拡散防止層、12…ベッド層、13…配向層、20…レーザ蒸着装置、21…送出リール、22…巻取リール、23、24…巻回部材群、25…積層体基材、26…基材ホルダ、27…ターゲット、28…YAGレーザ光発光手段、29…プルーム、31…処理容器、32…真空排気装置、30…酸化物超電導導体、33…窓、34…加熱手段、35…ターゲットの構成粒子の堆積領域、L…レーザ光(YAGレーザ光)。

Claims (4)

  1. YAGレーザ光の第3高調波(波長355nm)を、ターゲット上でのエネルギー密度が6J/cm以上、前記ターゲット上におけるレーザ光のスポット面積が1.0mm 以下となるように該ターゲット上に照射して、このターゲットの構成粒子を叩き出し若しくは蒸発させ、前記構成粒子を基材の上方に形成された中間層の表面上に堆積させて、該中間層上にCeOのキャップ層を形成することを特徴とする酸化物超電導導体用基材の製造方法。
  2. YAGレーザ光の第4高調波(波長266nm)を、ターゲット上でのエネルギー密度が6J/cm以上となるように該ターゲット上に照射して、このターゲットの構成粒子を叩き出し若しくは蒸発させ、前記構成粒子を基材の上方に形成された中間層の表面上に堆積させて、該中間層上にCeOのキャップ層を形成することを特徴とする酸化物超電導導体用基材の製造方法。
  3. 前記ターゲット上におけるレーザ光のスポット面積が1.0mm以下となるようにYAGレーザ光を該ターゲット上に照射することを特徴とする請求項に記載の酸化物超電導導体用基材の製造方法。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の酸化物超電導導体用基材の製造方法を用いて形成された前記キャップ層上に、酸化物超電導層を形成することを特徴とする酸化物超電導導体の製造方法。
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