JP2015090803A - 酸化物超電導線材及び酸化物超電導線材の製造方法 - Google Patents

酸化物超電導線材及び酸化物超電導線材の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】広い範囲の磁場強度に対して臨界電流特性に優れた酸化物超電導線材を提供する。
【解決手段】帯状の基材と、前記基材の主面上に形成される中間層と、人工ピンが複数分散された酸化物超電導層と、を有し、前記人工ピンの粒子径を測定して作成されたヒストグラムが、複数のピークを有している酸化物超電導線材。前記複数のピークそれぞれにおける平均粒子径のうち、最大の前記平均粒子径と最小の前記平均粒子径の差が20nm以上115nm以下である酸化物超電導線材。
【選択図】図1

Description

本発明は、酸化物超電導線材及び酸化物超電導線材の製造方法に関する。
RE123系の酸化物超電導体は、REBaCu7−δ(RE:Y、Gdなどの希土類元素)なる組成で表記され、液体窒素温度(77K)よりも高い臨界温度を有する。これらの酸化物超電導導体は、超電導マグネットや変圧器、限流器、モータ等、各種超電導機器へ応用するための研究が各所でなされている。
一般に、RE123系の酸化物超電導体を用いて良好な結晶配向性を有するように成膜された超電導体は、自己磁場下で高臨界電流特性を示す。しかしながら、超電導体に侵入している量子化磁束にローレンツ力が作用し、量子化磁束が移動すると、電流の方向に電圧が生じ、抵抗が生じてしまう。ローレンツ力は、電流値が増加するほど、また磁場が強くなるほど大きくなるので、外部磁場が強くなると超電導体の臨界電流特性が低下する問題がある。
その解決策として、超電導体の内部に不純物や欠陥などのナノスケールの異相を混入させ人工ピンを形成し、磁束をピン止めすることで、磁場中における超電導体の臨界電流特性を改善することがなされている(特許文献1参照)。人工ピンを導入することで、磁場中における臨界電流密度の低下を抑制できる。
特表2013−501313号公報
人工ピンは、径や形状に応じて、特定の範囲の磁場強度に対して臨界電流密度の低下を抑制することが知られている。即ち、一定の径や形状を有する人工ピンを超電導体に導入すると、特定の磁場強度に対して臨界電流特性を改善する効果を得ることになる。したがって、予め印加される磁場強度を予想し、この磁場強度に有効な径や形状を有する人工ピンを超電導体に導入することが行われている。
しかしながら、超電導導体に印加される磁場の強度を正確に予想することは難しい。また、超電導体を長尺の超電導線材に加工して使用する場合においては、線材全域に対し様々な方向から様々な強度の磁場が加わる。このことから、広い範囲の磁場強度に対して有効な人工ピンを導入することが求められている。
前記課題を解決するために本発明の酸化物超電導線材は、帯状の基材と、前記基材の主面上に形成される中間層と、人工ピンが複数分散された酸化物超電導層と、を有し、前記人工ピンの粒子径を測定して作成されたヒストグラムが、複数のピークを有している。
人工ピンの粒子径を測定して作成されたヒストグラムが複数のピークを有していることによって、粒子径が広い範囲で分布した人工ピンが導入されている。即ち、多様な粒子径を有する人工ピンが混在している。ここで、人工ピンの粒子径は、球状の人工ピンであればその直径であり、ロッド状の人工ピンであればそのロッドの太さ(短軸方向の長さ)である。人工ピンは、粒子径に応じて特定の範囲の磁場強度に対して臨界電流密度の低下を抑制する。この酸化物超電導線材は、超電導層に粒子径が広い範囲で分布した人工ピンが導入されていることで、広い範囲の磁場強度に対して有効なピン止め効果を得て臨界電流密度の低下を抑制することができる。
また、本発明の酸化物超電導線材は、前記複数のピークそれぞれにおける平均粒子径のうち、最大の前記平均粒子径と最小の前記平均粒子径の差が20nm以上115nm以下であることが好ましい。
加えて、個別の正規分布を形成する人工ピンの粒子径の平均値は、5nm以上120nm以下とすることが好ましい。
平均粒子径のうち、最大と最小の差が20nm以上115nm以下となっていることで、酸化物超電導層に広い範囲の粒子径を有する人工ピンが混在することになる。したがって、より広い範囲の磁場強度に対してピン止め効果を得ることができる。
また、人工ピンの粒子径は、5nm未満であると十分に磁束ピン止め効果を得ることができない。人工ピンの粒子径が120nmを超えると、酸化物超電導層を流れる電流のパスが阻害され臨界電流密度が低下する虞がある。
本発明の酸化物超電導線材の製造方法は、基材上に中間層を介して酸化物超電導層が形成され、前記酸化物超電導層内に人工ピンが分散された酸化物超電導線材の製造方法であって、前記酸化物超電導層の形成工程において、前記人工ピンの形成材料を含むターゲットに対して複数のレーザー光を照射することにより前記酸化物超電導層内に各レーザー光に対応した異なる粒子径を有する人工ピンを導入する。
複数のレーザー光をターゲットに照射することで、各レーザー光のエネルギー密度や、各レーザー光が照射される領域の温度を容易に異ならせることができ、各レーザー光によって生じるプルームの状態を容易に異ならせることができる。また、ターゲット上におけるレーザー光の照射位置を異ならせると、各プルームと基材との位置関係の相違によって成膜条件(例えば基材の温度条件)が変化する。これらにより、粒子径の異なる人工ピンを超電導層内に容易に形成することができる。
また、本発明の酸化物超電導線材の製造方法は、前記ターゲットに照射される前記複数のレーザー光のエネルギー密度がそれぞれ異なることが好ましい。
ターゲットにエネルギー密度の異なるレーザー光を照射することで、異なる粒子径の人工ピンを酸化物超電導層に導入できる。
人工ピンの粒子径を測定して作成されたヒストグラムが複数のピークを有していることによって、粒子径が広い範囲で分布した人工ピンが導入されている。即ち、多様な粒子径を有する人工ピンが混在している。人工ピンは、粒子径に応じて特定の範囲の磁場強度に対して臨界電流密度の低下を抑制する。
本発明の酸化物超電導線材は、超電導層に粒子径が広い範囲で分布した人工ピンが導入されていることで、広い範囲の磁場強度に対して有効なピン止め効果を得て臨界電流密度の低下を抑制することができる。
本発明に係る酸化物超電導線材の一例構造を示す図であり、図1(a)は、部分断面模式図であり、図1(b)は図1(a)に示す一例構造の酸化物超電導層の内部の様子を示す模式図である。 本発明に係る酸化物超電導線材の酸化物超電導層を成膜する成膜装置を示す模式図である。 図2に示す成膜装置の要部を示す斜視図である。 実施例において得られたサンプルNo.Aの酸化物超電導層に含まれる人工ピンのロッド径と出現個数のヒストグラムである。 実施例において得られたサンプルNo.Bの酸化物超電導層に含まれる人工ピンのロッド径と出現個数のヒストグラムである。 実施例において得られたサンプルNo.Cの酸化物超電導層に含まれる人工ピンのロッド径と出現個数のヒストグラムである。
以下、本発明に係る酸化物超電導線材の実施形態について図面に基づいて説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
図1(a)に本実施形態の酸化物超電導線材1の部分断面模式図を示す。本実施形態の酸化物超電導線材1は、テープ状の基材2の主面2aに中間層8と酸化物超電導層6と安定化層7をこの順に積層してなる。中間層8は、拡散防止層3と配向層4とキャップ層5とからなる。
また、図1(b)に酸化物超電導層6の一部分内部を模式図に示す。図1(b)に示すように酸化物超電導層6には、ロッド状の人工ピン9(第1の人工ピン9a、第2の人工ピン9b)が形成されている。
なお、本明細書において、線材の長手方向をa軸方向、幅方向をb軸方向、厚さ方向をc軸方向とする。
基材2は、ハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)に代表されるニッケル合金やステンレス鋼、ニッケル合金に集合組織を導入した配向Ni−W合金が適用される。基材2の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、10〜500μmの範囲とすることができる。
基材2の主面2a上に形成される中間層8は、基材2側から順に拡散防止層3と配向層4とキャップ層5の積層構造である。
拡散防止層3は、Si、Al、GZO(GdZr)等から構成され、例えば厚さ10〜400nmに形成される。配向層4は、その上のキャップ層5の結晶配向性を制御するために2軸配向する物質から形成される。配向層4の材質としては、GdZr、MgO、ZrO−Y(YSZ)、SrTiO、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等の金属酸化物を例示することができる。この配向層4はIBAD(Ion-Beam-Assisted Deposition)法で形成することが好ましい。キャップ層5は、上述の配向層4の表面に成膜されて結晶粒が面内方向に自己配向し得る材料からなり、具体的には、CeO、Y、Al、Gd、ZrO、YSZ、Ho、Nd、LaMnO等からなる。キャップ層5の膜厚は50〜5000nmの範囲に形成できる。
なお、中間層8の積層構造において拡散防止層3に代えて、界面反応性を低減しその上に形成される膜の配向性を得るため層であるベッド層を形成しても良い。また、拡散防止層3上にさらにベッド層を形成しても良い。
ベッド層は、Y、Er、CeO、Dy3、Er、Eu、Ho、La等からなり、その厚さは例えば10〜100nmである。
酸化物超電導層6は、酸化物超電導体からなり、かつ内部にロッド状の人工ピン9が分散されている。
酸化物超電導体として公知のもので良く、具体的には、RE−123系と呼ばれるREBaCu(REは希土類元素であるSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのうちの1種又は2種以上を表す)を例示できる。この酸化物超電導層6として、Y123(YBaCu7−X)又はGd123(GdBaCu7−X)などを例示できる。酸化物超電導層6の厚みは、0.5〜5μm程度であって、均一な厚みであることが好ましい。
人工ピン9は、本実施形態の場合、酸化物超電導層6の厚さ方向(c軸方向)に沿って長手に形成されたロッド状である。
酸化物超電導層6の内部の人工ピン9は、酸化物超電導層6中に異相として分散されていることによりピン止め点(磁束ピンニング点)として機能する。したがって、酸化物超電導線材1に磁場が加わったとしても高い臨界電流密度(Jc)を維持することができる。
人工ピン9は、長さ方向に沿ってほぼ均一な太さを有する。本実施形態の人工ピン9は、酸化物超電導層6の厚さ方向の全体にわたって形成されている。すなわち、人工ピン9の長さは、酸化物超電導層6の厚さと同等である。なお、人工ピン9の長さは、これに限るものではない。
人工ピン9は、超電導導体の人工ピンとして公知のもので良い。具体的にはBaSnO(BSO)、BaZrO(BZO)、BaHfO(BHO)、BaTiO(BTO)、SnO、TiO、ZrO、LaMnO、ZnO等の結晶粒子を採用することができる。
本実施形態の場合、人工ピン9は、ロッド径(粒子径)が互いに異なる2種類の人工ピン(第1の人工ピン9a、第2の人工ピン9b)を含む。本実施形態の場合、図1(b)に示すように、第1の人工ピン9aのロッド径は、第2の人工ピン9bのロッド径よりも大きい。
ここで、第1の人工ピン9a及び第2の人工ピン9bのロッド径は、実際には、製造時のばらつきによりそれぞれがある程度の幅を有して分布している。具体的には、十分な数の人工ピン9についてロッド径を測定すれば、平均値を中心とするほぼ正規分布したヒストグラムが得られると推定される。
したがって、「人工ピン9が2種類のロッド径を有している」とは、人工ピン9のロッド径と出現個数のヒストグラムにおいて、第1の人工ピン9aに対応する正規分布のピーク(第1のピーク)と、第2の人工ピン9bに対応する正規分布のピーク(第2のピーク)が、互いのピーク位置(ロッド径の平均値)が異なる状態で存在しており、それらの正規分布を重ね合わせた状態となっていることをいう。
本実施形態では、上記の2種類の人工ピン9a、9bのうち、大径のグループに属するもの(ロッド径のヒストグラムにおいてロッド径の平均値が大きい方の群に区別されるもの)を第1の人工ピン9aとする。また、小径のグループに属するもの(ロッド径のヒストグラムにおいてロッド径の平均値が小さい方の群に区別されるもの)を第2の人工ピン9bとする。
なお、人工ピン9は3種以上のロッド径を有していても良い。この場合は、ロッド径とその出現個数とのヒストグラムが、3つ以上の正規分布の重ね合わせからなり、各正規分布のピーク位置(平均値)同士がそれぞれ異なっている状態となっている。
第1の人工ピン9aのロッド径の平均値と第2の人工ピン9bのロッド径の平均値の差は、20nm以上とすることが好ましい。また、3種以上のロッド径を有している場合には、各正規分布のピーク位置(平均値)のうち最大のものと最小のものの差を20nm以上とすることが好ましい。
平均値の差を20nm以上とすることで、広域な範囲の磁場の強さに対して、臨界電流密度の低下を抑制することができる酸化物超電導層6を得ることができる。
本実施形態の場合、相対的に大径である第1の人工ピン9aが、相対的に強度の高い磁場に対して磁束ピン止め効果を発揮する。また、相対的に小径である第2の人工ピン9bが、相対的に強度の低い磁場に対して磁束ピン止め効果を発揮する。結果として、低い領域から高い領域までを含む広い領域の磁場強度に対して磁束ピン止め効果を奏し、臨界電流密度の低下を抑制できる。
第1及び第2の人工ピン9a、9bのロッド径の平均値は、ともに5nm以上とすることが好ましい。5nm未満であると十分に磁束ピン止め効果を得ることができない。また、第1及び第2の人工ピン9a、9bのロッド径の平均値は、ともに120nm以下であることが好ましい。ロッド径が120nmを超える人工ピン9を形成すると酸化物超電導層6の内部において電流の流れるパスが阻害され臨界電流密度が低下する虞があり好ましくない。第1及び第2の人工ピン9a、9bのロッド径の平均値の好ましい範囲から、平均値と第2の人工ピン9bのロッド径の平均値の差は、115nm以下とすることがよいことになる。
加えて、人工ピン9は、酸化物超電導層6中に、0.5質量%以上、15質量%以下の密度で分散していることがより好ましい。このような体積密度で人工ピン9を形成することで、電流のパスを阻害することなく効果的にピン止め効果を機能させることができる。
第1及び第2の人工ピン9a、9bは、図1(b)に示すようにc軸方向に垂直に延びて形成されている構成に限られず、a軸方向、b軸方向に傾いて形成されていても良い。また、第1の人工ピン9aと第2の人工ピン9bは、それぞれ異なった方向に傾斜していても良い。加えて、複数形成された第1の人工ピン9a同士が平行でなくても良く、同様に第2の人工ピン9b同士が平行でなくても良い。
人工ピン9がc軸方向に垂直に延びて形成されている場合には、特にc軸方向に印加した磁場中において、臨界電流密度の低下を抑制できる。また、a軸方向、b軸方向に延びて形成されていた場合においては、c軸方向のみならず、a軸方向、b軸方向に印加された磁場中において、臨界電流密度の低下を抑制できる。
ロッド状の人工ピン9を含む酸化物超電導層6は、本実施形態では後に説明する構成の成膜装置Aを用いて後述するパルスレーザー蒸着法(PLD法:Pulse Laser Deposition)により形成することができる。
酸化物超電導層6の上には、安定化層7が積層されている。安定化層7は、事故時に発生する過電流をバイパスしたり、酸化物超電導層6とこの層よりも上面に設ける層との間で起こる化学反応を抑制する等の機能を有する。安定化層7は、例えばAg、Cu、又はこれらの合金から形成することができる。
次に図2、図3を基にPLD法によって酸化物超電導層6を成膜する場合の成膜装置の一例についてより具体的に説明する。図2、図3に示す成膜装置A(レーザー蒸着装置)は、レーザー光によってターゲット11から叩き出され若しくは蒸発した構成粒子の噴流29(プルーム)を基材2に向け、構成粒子の堆積により酸化物超電導層6を形成するパルスレーザー蒸着法(PLD法)を実施する装置である。
成膜装置Aは、テープ状の基材2をその長手方向に走行させるための走行装置10と、この走行装置10の下側に設置されたターゲット11と、これらを格納する処理容器18(真空チャンバ)と、処理容器18(真空チャンバ)の外部に設けられた第1のレーザー光源12及び第2のレーザー光源13とを備えている。第1のレーザー光源12及び第2のレーザー光源13は、ターゲット11にレーザー光を照射する。
処理容器18は、外部と成膜空間とを仕切る容器であり、気密性を有するとともに、内部が高真空状態とされるため耐圧性を有する構成とされる。処理容器18には、処理容器内のガスを排気する排気手段19が接続されている。処理容器18には、処理容器18内にキャリアガス、及び反応ガスを導入するガス供給手段(図示略)が設けられている。
走行装置10は、一例として、基材2を繰り出す供給リール20と、基材2を巻き取る巻取リール21と、基材2を転向させながら案内する転向部材群16、17とを備える。転向部材群16、17は、それぞれ複数の転向リール16a、17aを有する。複数の転向リール16aは同一の支持軸に並列支持されている。複数の転向リール17aも同一の支持軸に並列支持されている。転向部材群16、17は、互いの支持軸がほぼ平行になるように処理容器18内に配置される。
供給リール20には、酸化物超電導層6を成膜する処理に供される基材2が巻き付けられている。走行装置10は、供給リール20に巻き付けられた基材2を転向部材群16、17に対して所望の速度で繰り出す。
転向部材群16、17は成膜領域15(ターゲット11と基材2の成膜面とが対向配置される処理容器18内の領域)に沿ってテープ状の基材2を案内する。基材2は、転向部材群16、17の転向リールに交互に巻き掛けられ、成膜領域15において複数のレーンを構成するように案内される。
巻取リール21は、転向部材群16、17から繰り出される基材を巻き取る。
転向部材群16、17は、矩形箱状のヒーターボックス23によって囲まれている。供給リール20から繰り出された基材2はヒーターボックス23の入口部23aを通過して転向部材群16に至る。転向部材群17から引き出された基材2はヒーターボックス23の出口部23bを介して巻取リール21側に巻き取られる。ヒーターボックス23は成膜領域15の温度制御を行うために設けられている。ヒーターボックス23は略すことができる。
転向部材群16、17の間の中間位置の下方にターゲット11が設けられている。このターゲット11は、ターゲットホルダ25に装着されて支持されている。
ターゲットホルダ25は、その下面中央部に取り付けられた支持ロッドにより回転自在に支持されている。また、支持ロッドは往復移動機構により水平に往復移動するように構成されていてもよい。
ヒーターボックス23の下面であり、ターゲット11の上方には、開口部23cが形成されている。開口部23cは、転向部材群16、17間に基材2が構成する走行レーンの全幅と略同幅に形成されている。
また、ヒーターボックス23において開口部23cの内側には熱板などの加熱装置27が配置されている。基材2は加熱装置27と開口部23cとの間を走行する。加熱装置27は、転向部材群16、17の間を複数のレーン状に走行移動される基材2を裏面側から所望の温度に加熱できる。加熱装置27は、通電式の電熱ヒータ等の一般的なものを用いることができる。
ターゲット11は、形成しようとする酸化物超電導層6と同等、又は近似した組成、あるいは、成膜中に逃避しやすい成分を多く含有させた複合酸化物の焼結体あるいは酸化物超電導体などの板材を用いることができる。即ち、酸化物超電導体のターゲット11は、RE−123系酸化物超電導体(REBaCu)、又はそれらに類似した組成の材料を用いることができる。
また、ターゲット11中には、人工ピン9の元となる材料(例えばBSO)を混入しておく。これにより、酸化物超電導層6の結晶成長と同時に、酸化物超電導層6内に人工ピン9を導入することができる。
処理容器18には、レーザー光を透過させる2つの照射窓(図示略)が設けられている。一方の照射窓の外方には、第1のレーザー光源12が配置されている。また他方の照射窓の外方には、第2のレーザー光源13が配置されている。第1のレーザー光源12とターゲット11との間には集光レンズ32が設けられている。第2のレーザー光源13とターゲット11との間には集光レンズ34が設けられている。
第1及び第2のレーザー光源12、13は、それぞれ、集光レンズ32、34を介しターゲット11にレーザー光を集光して照射する。これらのレーザー照射によりターゲット11の上方の成膜領域15に、噴流29を形成する。第1及び第2のレーザー光源12、13はエキシマレーザーあるいはYAGレーザー等のようにパルスレーザーとして良好なエネルギー出力を示すものを用いることができる。たとえば、エネルギー密度1〜5J/cm程度のレーザー光源を用いることができる。
第1及び第2のレーザー光源12、13は、100Hz〜1200Hz程度のパルス波を発生するものであることが好ましい。また、第1のレーザー光源12と第2のレーザー光源13のパルス波の位相は互いにずれている。したがって、ターゲット11には、第1のレーザー光源12によるレーザー光と、第2のレーザー光源13によるレーザー光が、短時間に交互に照射される。これにより、ターゲット11の上方には、第1及び第2のレーザー光源12、13のレーザー光による噴流29が交互に形成されることになる。
第1及び第2のレーザー光源12、13のレーザー光を集光する集光レンズ32、34は、それぞれターゲット11までの距離を微調整可能に構成されている。この構成により、ターゲット11上におけるレーザー光のスポット径を調整することで、ターゲット11に照射するレーザー光のエネルギー密度を調整できる。
人工ピン9のロッド径は、ターゲット11に照射されるレーザー光のエネルギー密度に依存する。第1のレーザー光源12によるレーザー光と、第2のレーザー光源13によるレーザー光のエネルギー密度を異ならせることで、同一の酸化物超電導層6中に異なったロッド径を有する第1及び第2の人工ピン9a、9bを形成することができる。
レーザー光のスポット径を変える以外に、第1のレーザー光源12と第2のレーザー光源13のレーザー出力を変えてもよい。この場合にも異なるエネルギー密度のレーザー光をターゲット11に照射することができ、人工ピン9a、9bのロッド径を異ならせることができる。
また、人工ピン9のロッド径は、成膜領域15の温度や、成膜対象となる基材2の温度にも依存する。したがって、酸化物超電導層6に異なるロッド径の人工ピン9を導入する方法として、第1のレーザー光源12と第2のレーザー光源13をターゲット11上の異なる位置に照射することで噴流29の形成位置を変化させ、これにより人工ピン9a、9bのロッド径を異ならせてもよい。またこの場合に噴流29の位置毎に基材2の温度を異ならせてもよい。
「試験例1」
酸化物超電導層に2種類のロッド径を導入できることを確認する試験例1について説明する。
まず、ハステロイC−276(米国ヘインズ社商品名)からなる幅10mm、厚さ0.1mm、長さ100mのテープ状の基材上に、アモルファスAlの拡散防止層(厚さ80nm)と、Yのベッド層(厚さ30nm)と、イオンビームアシスト蒸着法によるMgOの配向層(厚さ10nm)と、PLD法によるCeOのキャップ層(厚さ300nm)を成膜したテープ状の基材を用意した。
次に、図2、図3に示す構成の成膜装置Aを用いて人工ピンを含む酸化物超電導層を形成しサンプルNo.A、B、Cの酸化物超電導線材を作製した。ターゲットは、Gd、Ba、Cuの含有量の比が1:2:3のものに、5質量%(ターゲット全体の質量に対する質量%)のBSOを混ぜ込んだものを使用した。
また、T−S(ターゲット基材間距離):7cm、テープ基材の移動時の線速20m/h、処理容器の酸素分圧PO=40mPa、加熱装置(熱板)による基材の加熱温度970℃の条件で行った。第1及び第2のレーザー光源としては、周波数200Hzのエキシマレーザー(KrF:248nm)を用い、各レーザー光源の位相はずれている。
各サンプルの酸化物超電導層の成膜において、第1及び第2のレーザー光源から照射されるレーザー光を集光レンズにより集光し、ターゲットの表面上でのエネルギー密度を調整した。
サンプルNo.Aは、第1、第2のレーザー光源のレーザー光のエネルギー密度を、ともに10J/cmとした。
サンプルNo.Bは、第1、第2のレーザー光源のレーザー光のエネルギー密度を、ともに0.5J/cmとした。
サンプルNo.Cは、第1のレーザー光源のレーザー光のエネルギー密度を10J/cmとし、第2のレーザー光源のレーザー光のエネルギー密度を0.5J/cmとした。
サンプルNo.A、Bは、第1のレーザー光源と第2のレーザー光源のレーザー光は、エネルギー密度が同じである。したがって、一つのレーザー光源により照射した場合と同様の成膜を行ったこととなる。これに対して、サンプルNo.Cは、第1のレーザー光源と第2のレーザー光源のレーザー光のエネルギー密度が異なっている。したがって、ターゲットの上方に交互に2つの噴流を形成して成膜している。
このように作製したサンプルNo.A〜No.Cの酸化物超電導線材の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察して、1μm×1μmの領域の酸化物超電導層中の人工ピンの出現個数と数を測定した。
図4にサンプルNo.A、図5にサンプルNo.B、図6にサンプルNo.Cの人工ピンのロッド径と出現個数のヒストグラムを示す。
図4に示すサンプルNo.Aのヒストグラムは、平均値が13.7nmの正規分布となっている。また、図5に示すサンプルNo.Bのヒストグラムは、平均値が100nmの正規分布となっている。このように、PLD法で作製した酸化物超電導層の人工ピンは、そのロッド径と出現個数の関係が正規分布となる。また、この結果からレーザー光のエネルギー密度を変えることで、ロッド径の平均値を調整することができることが確認された。
図6に示すサンプルNo.Cのヒストグラムは、2つの正規分布を重ね合わせた状態となっている。2つの正規分布のうち一方は、サンプルNo.Aの正規分布と同じ傾向(平均値、及び分散)を有している。また、他方は、サンプルNo.Bの正規分布と同じ傾向(平均値、及び分散)を有している。このことから、異なるエネルギー密度のレーザー光を照射して形成した酸化物超電導層には、それぞれのエネルギー密度に応じたロッド径を有する人工ピンが独立して形成されることが確認された。
「試験例2」
次に上記試験例1と同様の手順によりサンプルNo.1〜No.10の酸化物超電導線材を作製した。なお、各サンプルの製造手順において、第1及び第2のレーザー光線のレーザー光のエネルギー密度を、それぞれレーザー光1、レーザー光2として表1に示す。
サンプルNo.1〜No.10の酸化物超電導線材のうち、サンプルNo.1、5、8、10は、レーザー光1のエネルギー密度とレーザー光2のエネルギー密度を同じ(順に0.5J/cm、2J/cm、5J/cm、10J/cm)にしている。したがって、一つのレーザー光源により照射した場合と同様の成膜を行ったこととなる。
これに対し、サンプルNo.2〜4、6、7、9は、レーザー光1のエネルギー密度とレーザー光2のエネルギー密度を異なるエネルギー密度にして成膜を行っている。これにより2種類のロッド径の人工ピンが形成された酸化物超電導層を形成している。
各サンプルの酸化物超電導線材の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察して、酸化物超電導層中の人工ピンのロッド径を測定し平均値を表1にまとめた。なお、異なるロッド径の人工ピンが形成されたサンプルNo.2〜4、6、7、9においては、ロッド径と出現個数のヒストグラムを描くと2つの正規分布が重なった状態となる(図6参照)。これらのサンプルは、各正規分布の平均値を求めた。
各サンプルの酸化物超電導線材を77Kに冷却し、c軸方向に0.5T、1T、3Tの磁場を印加して酸化物超電導線材の臨界電流密度(Jc)を測定した。
また、人工ピンの元となる材料を加えないターゲットを用いて同様の手順により作製した酸化物超電導線材を用意し、同様の磁場を印加した場合の臨界電流密度(Jc)を測定した。この臨界電流密度同士(JcとJc)と比較したJc/Jcを表1にまとめる。
なお、Jc/Jcが1.6以上であれば、臨界電流密度の低下を抑制する効果として好ましい。また、Jc/Jcが、2.0以上であればより好ましい。
Figure 2015090803
サンプルNo.1の酸化物超電導線材は、3Tの磁場をc軸方向に印加した場合においては、Jc/Jcが2.1となっており、十分に臨界電流密度の低下を抑制できている。しかしながら、0.5Tの磁場をc軸方向に印加した場合においては、Jc/Jcが1.1となっており、臨界電流密度の低下抑制効果が低いことがわかる。
同様に、サンプルNo.5、No.8は0.5Tの磁場をc軸方向に印加した場合に臨界電流密度の低下抑制の効果が低く、サンプルNo.10は3Tの磁場をc軸方向に印加した場合に臨界電流密度の低下抑制の効果が低い。
サンプルNo.2〜4、6、7、9は、0.5T、1T、3Tにおいて、Jc/Jcが1.7以上となっており、広い範囲の強度の磁場に対して臨界電流密度の低下を抑制している。
また、サンプルNo.6は、0.5Tの磁場をc軸方向に印加した場合においては、Jc/Jcが1.7となっており、臨界電流密度の低下抑制効果が比較的低い。サンプルNo.6は、2つの正規分布の平均値の差が14.5nmと比較的近くなっている。したがって、広い領域の強度の磁場に対し十分な臨界電流密度の低下抑制効果が低くなっている。
これに対し、サンプルNo.2〜4、7、9は、2つの正規分布の平均値の差が25nm以上となっている。したがって、広い領域の強度の磁場に対し十分な臨界電流密度の低下抑制効果を得ることができる。正規分布の平均値の差は、20nm以上とすることで、より広い範囲の磁場強度に対してピン止め効果を得ることができる。
以上に、本発明の各実施形態を説明したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはない。
1…酸化物超電導線材、2…基材、2a…主面、6…酸化物超電導層、7…安定化層、8…中間層、9…人工ピン、9a…第1の人工ピン、9b…第2の人工ピン、11…ターゲット、12…第1のレーザー光源、13…第2のレーザー光源、A…成膜装置

Claims (4)

  1. 帯状の基材と、前記基材の主面上に形成される中間層と、人工ピンが複数分散された酸化物超電導層と、を有し、
    前記人工ピンの粒子径を測定して作成されたヒストグラムが、複数のピークを有している酸化物超電導線材。
  2. 前記複数のピークそれぞれにおける平均粒子径のうち、最大の前記平均粒子径と最小の前記平均粒子径の差が20nm以上115nm以下である請求項1に記載の酸化物超電導線材。
  3. 基材上に中間層を介して酸化物超電導層が形成され、前記酸化物超電導層内に人工ピンが分散された酸化物超電導線材の製造方法であって、
    前記酸化物超電導層の形成工程において、前記人工ピンの形成材料を含むターゲットに対して複数のレーザー光を照射することにより前記酸化物超電導層内に各レーザー光に対応した異なる粒子径を有する人工ピンを導入する、酸化物超電導線材の製造方法。
  4. 前記ターゲットに照射される前記複数のレーザー光のエネルギー密度がそれぞれ異なる請求項3に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
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JP2020087829A (ja) * 2018-11-29 2020-06-04 国立研究開発法人産業技術総合研究所 超電導線材及び超電導線材の製造方法

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