以下、本発明の詳細を説明する。
(絶縁樹脂材料)
本発明に係る絶縁樹脂材料は、エポキシ樹脂と硬化剤と無機充填材とを含む。本発明に係る絶縁樹脂材料は、溶剤を含まないか又は含む。本発明に係る絶縁樹脂材料に含まれる上記無機充填材と上記溶剤とを除く成分(以下、成分Aと記載することがある)100重量%中の窒素原子の含有量(重量%)を含有量aとし、リン原子の含有量(重量%)を含有量bとしたときに、(a+10×b)の値は3以上、10以下である。
本発明に係る絶縁樹脂材料における上述した構成の採用により、硬化物の誘電特性、耐熱性及び絶縁性を良好にすることができ、更に硬化物の難燃性を良好にすることができる。
硬化物の誘電特性、耐熱性、絶縁性及び難燃性を良好にするために、上記(a+10×b)の値が上記下限以上及び上記上限以下であればよいことは、後述する実施例及び比較例から見出された。硬化物の誘電特性、耐熱性、絶縁性及び難燃性をバランス良く高める観点からは、上記(a+10×b)の値は、好ましくは3以上、好ましくは7以下である。上記(a+10×b)の値が7以下であると、硬化物の耐熱性がより一層高くなる。
絶縁性をより一層良好にする観点からは、本発明に係る絶縁樹脂材料の硬化後の硬化物の体積抵抗率は好ましくは1.0×1013Ω・cm以上、好ましくは1.0×1017Ω・cm以下である。上記硬化物の体積抵抗率が高いほど、硬化物の絶縁性が高くなる。上記体積抵抗率は、より好ましくは1.0×1015Ω・cm以上である。
上記硬化物の体積抵抗率を制御する方法としては、硬化後に未反応のエポキシ基を残さないように、使用するエポキシ樹脂のエポキシ当量と硬化剤の当量との比を調整する方法が挙げられる。具体的には、エポキシ樹脂のエポキシ当量と硬化剤の当量との比は、1:0.8〜1:4であることが好ましく、1:1〜1:3であることがより好ましい。また、上記硬化物の体積抵抗率を制御する他の方法としては、絶縁樹脂材料中のリン原子の含有量を調整する方法が挙げられる。リン原子は硬化時に又は高温高湿条件で酸化されて酸化リンとなりやすく、この酸化リンは極性が高いため体積抵抗率を低下させる。具体的には、リン原子の含有量(重量%)を含有量bは1%以下であることが好ましい。上記硬化物の体積抵抗率を制御する他の方法としては、脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素といった疎水性の高い化合物で表面処理された無機充填材を用いる方法等が挙げられる。上記疎水性の高い化合物としては、ビニルシランカップリング剤やトリメチルシランカップリング剤等が挙げられる。
本発明に係る絶縁樹脂材料の硬化後の硬化物の平均線熱膨張率は好ましくは15ppm/℃以上、好ましくは45ppm/℃以下である。この場合には、硬化物の熱による寸法変化が小さくなる。また、硬化物を用いた半導体パッケージなどの反りが抑えられる。上記平均線熱膨張率は、硬化物の25〜150℃における平均線熱膨張率(α1)である。
本発明に係る絶縁樹脂材料の硬化後の硬化物の誘電正接は好ましくは0.002以上、好ましくは0.015以下である。この場合には、硬化物の誘電特性がより一層良好になる。
上記体積抵抗率、上記平均線熱膨張率及び上記誘電正接の測定に用いる硬化物は、絶縁樹脂材料を170℃で30分間硬化させ、次に190℃で90分間硬化させることにより得ることが可能である。但し、絶縁樹脂材料を使用する際の硬化条件は、この硬化温度及び硬化時間に限定されない。
本発明に係る絶縁樹脂材料は、ペースト状であってもよく、フィルム状であってもよい。本発明に係る絶縁樹脂材料は、樹脂組成物であってもよく、該樹脂組成物がフィルム状に成形されたBステージフィルムであってもよい。
本発明に係る絶縁樹脂材料は、熱可塑性樹脂を含んでいてもよく、硬化促進剤を含んでいてもよく、難燃剤を含んでいてもよい。
上記硬化剤が窒素原子を含むことが好ましい。上記硬化促進剤が窒素原子を含むことが好ましい。上記難燃剤が窒素原子を含むことが好ましい。上記硬化剤、上記硬化促進剤及び上記難燃剤の内の少なくとも1種が、窒素原子を含むことが好ましい。
上記エポキシ樹脂がリン原子を含むことが好ましい。上記熱可塑性樹脂がリン原子を含むことが好ましい。上記難燃剤がリン原子を含むことが好ましい。上記エポキシ樹脂、上記熱可塑性樹脂及び上記難燃剤の内の少なくとも1種が、リン原子を含むことが好ましい。
上記絶縁樹脂に窒素原子を導入するための材料は特に限定されない。上記絶縁樹脂に窒素原子を導入するための材料としては、窒素原子を含むエポキシ樹脂として、アミノ基を含有するエポキシ樹脂(三菱化学社製「630」、ADEKA社製「EP−3900S」など)、イソシアヌル酸骨格を含有するエポキシ樹脂(日産化学社製「TEPIC」など)、イミド骨格を含有するエポキシ樹脂、及びウレタン骨格を含有するエポキシ樹脂や、窒素原子を含む硬化剤として、シアネートエステル硬化剤、トリアジン骨格を有するフェノールノボラック硬化剤(DIC社製「LA−1356」など)、トリアジン骨格を有するクレゾールノボラック硬化剤(DIC社製「LA−3018−50P」など)や、窒素原子を含む熱可塑性樹脂として、イミド骨格を含有するフェノキシ樹脂(三菱化学社製「YL7600DMAcH25」など)や、窒素原子を含む硬化促進剤として、イミダゾール化合物(四国化成社製「2E4MZ」、四国化成社製「2P4MZ」など)及びアミン化合物や、窒素原子を含む難燃剤として、メラミン化合物(三和ケミカル社製「MPP−A」)及びグアニジン化合物(三和ケミカル社製「アビノン−101」など)等が挙げられる。
上記絶縁樹脂にリン原子を導入するための材料は特に限定されない。上記絶縁樹脂にリン原子を導入するための材料としては、リン原子を含むエポキシ樹脂として、6−Hジベンズ<c,e>−1,2−オキサホスリン−6−オキサイドを含有するエポキシ樹脂(新日鐵化学社製「FX−289BEK75」など)や、リン原子を含む熱可塑性樹脂として、6−Hジベンズ<c,e>−1,2−オキサホスリン−6−オキサイドを含有するフェノキシ樹脂(新日鐵化学社製「ERF−001M30」)や、リン原子を含む硬化促進剤として、リン化合物(和光純薬工業社製「トリブチルホスフィン」、和光純薬工業社製「トリフェニルホスフィン」など)や、リン原子を含む難燃剤として、6−Hジベンズ<c,e>−1,2−オキサホスリン−6−オキサイドを含有する難燃剤(三光社製「HCA−HQ」など)、リン酸エステルを含有する難燃剤(クラリアント社製「EXOLIT OP 935」など)及び環状ホスファゼンを含有する難燃剤(大塚製薬社製「SPB−100」、大塚製薬社製「SPH−100」など)等が挙げられる。
以下、本発明に係る絶縁樹脂材料に含まれているエポキシ樹脂、硬化剤及び無機充填材などの各成分の詳細を説明する。
[エポキシ樹脂]
上記絶縁樹脂材料に含まれているエポキシ樹脂は特に限定されない。該エポキシ樹脂として、従来公知のエポキシ樹脂を使用可能である。該エポキシ樹脂は、少なくとも1個のエポキシ基を有する有機化合物をいう。上記エポキシ樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
上記エポキシ樹脂は、窒素原子を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。上記エポキシ樹脂は、リン原子を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。
上記エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、アダマンタン骨格を有するエポキシ樹脂、トリシクロデカン骨格を有するエポキシ樹脂、及びトリアジン核を骨格に有するエポキシ樹脂等が挙げられる。
上記エポキシ樹脂は、常温(23℃)で液状であってもよく、固形であってもよい。上記絶縁樹脂材料は、常温(23℃)で液状であるエポキシ樹脂を含むことが好ましい。上記成分A100重量%中、常温で液状であるエポキシ樹脂の含有量は好ましくは10重量%以上、より好ましくは25重量%以上、好ましくは80重量%以下である。常温で液状であるエポキシ樹脂の含有量が上記下限以上であると、絶縁樹脂材料における無機充填材の含有量を多くすることが容易である。
硬化物の表面の表面粗さをより一層小さくし、硬化物と金属層との接着強度をより一層高くする観点からは、上記エポキシ樹脂のエポキシ当量は、好ましくは90以上、より好ましくは100以上、好ましくは1000以下、より好ましくは800以下である。
硬化物の耐熱性をより一層高める観点からは、上記エポキシ樹脂は、芳香族骨格を有するエポキシ樹脂を含有することが好ましい。上記成分A100重量%中、上記芳香族骨格を有するエポキシ樹脂の含有量は好ましくは1重量%以上、より好ましくは10重量%以上、更に好ましくは15重量%以上、好ましくは95重量%以下、より好ましくは75重量%以下である。上記芳香族骨格を有するエポキシ樹脂の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、硬化物の耐熱性が効果的に高くなる。
上記エポキシ樹脂の分子量は1000以下であることが好ましい。この場合には、絶縁樹脂材料における無機充填材の含有量を多くすることが容易である。さらに、無機充填材の含有量が多くても、流動性が高い絶縁樹脂材料が得られる。一方で、重量平均分子量が1000以下であるエポキシ樹脂と熱可塑性樹脂との併用により、絶縁樹脂材料の溶融粘度の低下が抑えられる。このため、絶縁樹脂材料を基板上にラミネートした場合に、無機充填材が均一に存在しやすくなる。
上記エポキシ樹脂の分子量及び後述する硬化剤の分子量は、上記エポキシ樹脂又は硬化剤が重合体ではない場合、及び上記エポキシ樹脂又は硬化剤の構造式が特定できる場合は、当該構造式から算出できる分子量を意味する。また、上記エポキシ樹脂又は硬化剤が重合体である場合は、重量平均分子量を意味する。
上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されたポリスチレン換算での重量平均分子量を示す。
上記成分A100重量%中、上記エポキシ樹脂の全体の含有量は、好ましくは10重量%以上、より好ましくは20重量%以上、更に好ましくは40重量%以上、好ましくは95重量%以下、より好ましくは80重量%以下、更に好ましくは65重量%以下である。
[硬化剤]
上記絶縁樹脂材料に含まれている硬化剤は特に限定されない。該硬化剤として、従来公知の硬化剤を使用可能である。上記硬化剤は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
上記硬化剤は、窒素原子を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。上記硬化剤は、リン原子を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。
上記硬化剤としては、シアネートエステル化合物(シアネートエステル硬化剤)、フェノール化合物(フェノール硬化剤)、アミン化合物(アミン硬化剤)、チオール化合物(チオール硬化剤)、イミダゾール化合物、ホスフィン化合物、酸無水物、活性エステル化合物及びジシアンジアミド等が挙げられる。なかでも、熱による寸法変化がより一層小さい硬化物を得る観点からは、上記硬化剤は、シアネートエステル化合物又はフェノール化合物であることが好ましい。上記硬化剤は、シアネートエステル化合物であることが好ましく、フェノール化合物であることも好ましい。上記硬化剤は、上記エポキシ樹脂のエポキシ基と反応可能な官能基を有することが好ましい。
硬化物の表面の表面粗さをより一層小さくし、硬化物と金属層との接着強度をより一層高くし、かつ硬化物の表面により一層微細な配線を形成する観点からは、上記硬化剤は、シアネートエステル化合物、フェノール化合物又は活性エステル化合物であることが好ましい。さらに、硬化剤により一層良好な絶縁信頼性を付与する観点からは、上記硬化剤は、シアネートエステル化合物であることがより好ましい。
上記シアネートエステル化合物の使用により、無機充填材の含有量が多いBステージフィルムのハンドリング性が良好になり、硬化物のガラス転移温度がより一層高くなる。上記シアネートエステル化合物は特に限定されない。該シアネートエステル化合物として、従来公知のシアネートエステル化合物を使用可能である。上記シアネートエステル化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
上記シアネートエステル化合物としては、ノボラック型シアネートエステル樹脂、ビスフェノール型シアネートエステル樹脂、並びにこれらが一部三量化されたプレポリマー等が挙げられる。上記ノボラック型シアネートエステル樹脂としては、フェノールノボラック型シアネートエステル樹脂及びアルキルフェノール型シアネートエステル樹脂等が挙げられる。上記ビスフェノール型シアネートエステル樹脂としては、ビスフェノールA型シアネートエステル樹脂、ビスフェノールE型シアネートエステル樹脂及びテトラメチルビスフェノールF型シアネートエステル樹脂等が挙げられる。
上記シアネートエステル化合物の市販品としては、フェノールノボラック型シアネートエステル樹脂(ロンザジャパン社製「PT−30」及び「PT−60」)、及びビスフェノール型シアネートエステル樹脂が三量化されたプレポリマー(ロンザジャパン社製「BA−230S」、「BA−3000S」、「BTP−1000S」及び「BTP−6020S」)等が挙げられる。
上記シアネートエステル化合物の分子量は、3000以下であることが好ましい。この場合には、絶縁樹脂材料における無機充填材の含有量を多くすることができ、無機充填材の含有量が多くても、流動性が高い絶縁樹脂材料が得られる。
上記フェノール化合物の使用により、硬化物と金属層との接着強度がより一層高くなる。また、上記フェノール化合物の使用により、例えば、硬化物の表面上に設けられた銅の表面を黒化処理又はCz処理したときに、硬化物と銅との接着強度がより一層高くなる。
上記フェノール化合物は特に限定されない。該フェノール化合物として、従来公知のフェノール化合物を使用可能である。上記フェノール化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
上記フェノール化合物としては、ノボラック型フェノール、ビフェノール型フェノール、ナフタレン型フェノール、ジシクロペンタジエン型フェノール、アラルキル型フェノール及びジシクロペンタジエン型フェノール等が挙げられる。
上記フェノール化合物の市販品としては、ノボラック型フェノール(DIC社製「TD−2091」)、ビフェニルノボラック型フェノール(明和化成社製「MEH−7851」)、アラルキル型フェノール化合物(明和化成社製「MEH−7800」)、並びにアミノトリアジン骨格を有するフェノール(DIC社製「LA1356」及び「LA−3018−50P」)等が挙げられる。
硬化物の表面の表面粗さをより一層小さくし、硬化物と金属層との接着強度をより一層高くし、かつ硬化物の表面により一層微細な配線を形成する観点からは、上記フェノール化合物は、ビフェニルノボラック型フェノール化合物、又はアラルキル型フェノール化合物であることが好ましい。
硬化物の表面の表面粗さをより一層小さくする観点からは、上記フェノール化合物はフェノール性水酸基を2個以上有することが好ましい。
上記活性エステル化合物は特に限定されない。上記活性エステル化合物の市販品としては、DIC社製「HPC−8000」、「HPC−8000−65T」及び「EXB9416−70BK」等が挙げられる。
硬化物の表面の表面粗さをより一層小さくし、硬化物と金属層との接着強度をより一層高くし、かつ硬化物の表面により一層微細な配線を形成し、かつ硬化剤によって良好な絶縁信頼性を付与する観点からは、上記硬化剤は、当量が250以下である硬化剤を含むことが好ましい。上記硬化剤の当量は、例えば、硬化剤がシアネートエステル化合物である場合にはシアネートエステル基当量を示し、硬化剤がフェノール化合物である場合にはフェノール性水酸基当量を示し、硬化剤が活性エステル化合物である場合には活性エステル基当量を示す。
上記硬化剤の全体100重量%中、当量が250以下である硬化剤の含有量は、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上である。上記硬化剤の全量が、当量が250以下である硬化剤であってもよい。当量が250以下である硬化剤の含有量が上記下限以上であると、硬化物の表面の表面粗さがより一層小さくなり、かつ絶縁層の表面により一層微細な配線が形成される。さらに、当量が250以下である硬化剤の含有量が上記下限以上であると、硬化物のガラス転移温度がより一層高くなる。
上記硬化剤の分子量は1000以下であることが好ましい。この場合には、絶縁樹脂材料における無機充填材の含有量が50重量%以上であっても、流動性が高い絶縁樹脂材料が得られる。
上記エポキシ樹脂と上記硬化剤との配合比は特に限定されない。エポキシ樹脂と硬化剤との配合比は、エポキシ樹脂と硬化剤との種類により適宜決定される。上記エポキシ樹脂のエポキシ当量と上記硬化剤の当量との比(エポキシ当量:硬化剤の当量)は、1:0.8〜1:4であることが好ましく、1:1〜1:3であることがより好ましい。当量比が上記範囲を満足すると、硬化物と金属層との接着強度がより一層高くなる。
上記成分A100重量%中、上記エポキシ樹脂と上記硬化剤との合計の含有量は、好ましくは75重量%以上、より好ましくは80重量%以上、好ましくは99重量%以下、より好ましくは97重量%以下である。
[無機充填材]
上記絶縁樹脂材料に含まれている無機充填材は特に限定されない。該無機充填材として、従来公知の無機充填材を使用可能である。上記無機充填材は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
上記無機充填材としては、シリカ、タルク、クレイ、マイカ、ハイドロタルサイト、アルミナ、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、窒化アルミニウム及び窒化ホウ素等が挙げられる。
硬化物の表面の表面粗さを小さくし、硬化物と金属層との接着強度をより一層高くし、かつ硬化物の表面により一層微細な配線を形成し、かつ硬化物により良好な絶縁信頼性を付与する観点からは、上記無機充填材は、シリカ又はアルミナであることが好ましく、シリカであることがより好ましく、溶融シリカであることが更に好ましい。シリカの使用により、硬化物の線熱膨張率がより一層低くなり、かつ硬化物の表面の表面粗さが効果的に小さくなり、硬化物と金属層との接着強度が効果的に高くなる。シリカの形状は略球状であることが好ましい。
上記無機充填材の平均粒径は、好ましくは1nm以上、より好ましくは10nm以上、更に好ましくは50nm以上、特に好ましくは150nm以上、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下、更に好ましくは5μm以下、特に好ましくは1μm以下である。上記無機充填材の平均粒径が上記下限以上及び上記上限以下であると、粗化処理などにより形成される孔の大きさが微細になり、孔の数が多くなる。この結果、硬化物と金属層との接着強度がより一層高くなる。
上記無機充填材の平均粒径として、50%となるメディアン径(d50)の値が採用される。上記平均粒径は、レーザー回折散乱方式の粒度分布測定装置を用いて測定可能である。
上記無機充填材は、球状であることが好ましく、球状シリカであることがより好ましい。この場合には、硬化物の表面の表面粗さが効果的に小さくなり、更に絶縁層と金属層との接着強度が効果的に高くなる。上記無機充填材が球状である場合には、上記無機充填材のアスペクト比は好ましくは2以下、より好ましくは1.5以下である。
上記無機充填材は、表面処理されていることが好ましく、カップリング剤により表面処理されていることがより好ましい。これにより、硬化物の表面の表面粗さがより一層小さくなり、硬化物と金属層との接着強度がより一層高くなり、かつ硬化物の表面により一層微細な配線が形成され、かつより一層良好な配線間絶縁信頼性及び層間絶縁信頼性が硬化物に付与される。
上記カップリング剤としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤及びアルミニウムカップリング剤等が挙げられる。上記シランカップリング剤としては、アミノシラン、イミダゾールシラン、ビニルシラン及びエポキシシラン等が挙げられる。
上記絶縁樹脂材料に含まれる上記溶剤を除く成分(以下、成分Bと記載することがある)100重量%中、上記無機充填材の含有量は好ましくは25重量%以上、より好ましくは30重量%以上、更に好ましくは40重量%以上、特に好ましくは50重量%以上、好ましくは99重量%以下、より好ましくは85重量%以下、更に好ましくは80重量%以下、特に好ましくは75重量%以下である。上記無機充填材の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、硬化物の表面の表面粗さがより一層小さくなり、硬化物と金属層との接着強度がより一層高くなり、かつ硬化物の表面により一層微細な配線が形成されると同時に、この無機充填材量であれば金属銅並に硬化物の線熱膨張率を低くすることも可能である。
[熱可塑性樹脂]
上記絶縁樹脂材料は、熱可塑性樹脂を含まないか又は含む。上記絶縁樹脂材料は熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。該熱可塑性樹脂は特に限定されない。該熱可塑性樹脂として、従来公知の熱可塑性樹脂を使用可能である。上記熱可塑性樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
上記熱可塑性樹脂は、窒素原子を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。上記熱可塑性樹脂は、リン原子を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。
上記熱可塑性樹脂としては、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ゴム成分及び有機フィラー等が挙げられる。上記熱可塑性樹脂は、フェノキシ樹脂であることが特に好ましい。該フェノキシ樹脂の使用により、溶融粘度を調整可能であるために無機充填材の分散性が良好になり、かつ硬化過程で、意図しない領域に絶縁樹脂材料が濡れ拡がり難くなる。また、熱可塑性樹脂の使用により、絶縁樹脂材料の回路基板の穴又は凹凸に対する埋め込み性の悪化及び無機充填材の不均一化が抑えられる。
上記フェノキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型の骨格、ビスフェノールF型の骨格、ビスフェノールS型の骨格、ビフェニル骨格、ノボラック骨格、ナフタレン骨格及びイミド骨格などの骨格を有するフェノキシ樹脂等が挙げられる。
上記フェノキシ樹脂の市販品としては、例えば、東都化成社製の「YP50」、「YP55」及び「YP70」、並びに三菱化学社製の「1256B40」、「4250」、「4256H40」、「4275」、「YX6954BH30」及び「YX8100BH30」等が挙げられる。
上記熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、好ましくは5000以上、好ましくは100000以下である。上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されたポリスチレン換算での重量平均分子量を示す。
上記熱可塑性樹脂の含有量は特に限定されない。上記成分A100重量%中、上記熱可塑性樹脂の含有量(熱可塑性樹脂がフェノキシ樹脂である場合にはフェノキシ樹脂の含有量)は、好ましくは1重量%以上、より好ましくは5重量%以上、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下、更により好ましくは15重量%以下である。上記熱可塑性樹脂の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、硬化物の線熱膨張率がより一層低くなる。また、絶縁樹脂材料の回路基板の穴又は凹凸に対する埋め込み性が良好になる。上記熱可塑性樹脂の含有量が上記下限以上であると、絶縁樹脂材料の成膜性が高くなり、より一層良好な絶縁層が得られる。上記熱可塑性樹脂の含有量が上記上限以下であると、硬化物の表面の表面粗さがより一層小さくなり、硬化物と金属層との接着強度がより一層高くなる。
[硬化促進剤]
上記絶縁樹脂材料は、硬化促進剤を含まないか又は含む。上記絶縁樹脂材料は硬化促進剤を含むことが好ましい。上記硬化促進剤の使用により、硬化速度がより一層速くなる。絶縁樹脂材料を速やかに硬化させることで、硬化物における架橋構造が均一になると共に、未反応の官能基数が減り、結果的に架橋密度が高くなる。上記硬化促進剤は特に限定されず、従来公知の硬化促進剤を使用可能である。上記硬化促進剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
上記硬化促進剤は、窒素原子を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。上記硬化促進剤は、リン原子を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。
上記硬化促進剤としては、例えば、イミダゾール化合物、リン化合物、アミン化合物及び有機金属化合物等が挙げられる。
上記イミダゾール化合物としては、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−ウンデシルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−エチル−4’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物、2−フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2−メチルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール及び2−フェニル−4−メチル−5−ジヒドロキシメチルイミダゾール等が挙げられる。
上記リン化合物としては、トリフェニルホスフィン等が挙げられる。
上記アミン化合物としては、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジエチレンテトラミン、トリエチレンテトラミン及び4,4−ジメチルアミノピリジン等が挙げられる。
上記有機金属化合物としては、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸スズ、オクチル酸コバルト、ビスアセチルアセトナートコバルト(II)及びトリスアセチルアセトナートコバルト(III)等が挙げられる。
上記硬化促進剤の含有量は特に限定されない。上記成分A100重量%中、上記硬化促進剤の含有量は好ましくは0.01重量%以上、好ましくは3重量%以下である。上記硬化促進剤の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、絶縁樹脂材料が効率的に硬化する。
[難燃剤]
上記絶縁樹脂材料は、難燃剤を含まないか又は含む。上記絶縁樹脂材料は難燃剤を含むことが好ましい。上記難燃剤の使用により、硬化物の難燃性が十分に高くなる。上記難燃剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
上記難燃剤は、窒素原子を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。上記難燃剤は、リン原子を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。
上記難燃剤としては、有機リン化合物、リン酸エステル化合物及び環状ホスファゼン化合物等が挙げられる。これら以外の難燃剤を用いてもよい。
硬化物の難燃性をより一層高める観点からは、上記難燃剤は、リン原子を含むことが好ましく、有機リン化合物であることがより好ましい。製品の安全性及び作業環境を良好にするために、上記難燃剤は、鉛原子及びハロゲン原子を含まないことが好ましい。
上記難燃剤の含有量は特に限定されない。上記成分A100重量%中、上記難燃剤の含有量は好ましくは1重量%以上、好ましくは5重量%以下である。上記難燃剤の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、硬化物の難燃性が効果的に高くなる。
[溶剤]
上記絶縁樹脂材料は、溶剤を含まないか又は含む。上記溶剤の使用により、絶縁樹脂材料の粘度を好適な範囲に制御でき、樹脂組成物である絶縁樹脂材料の塗工性を高めることができる。また、上記溶剤は、上記無機充填材を含むスラリーを得るために用いられてもよい。上記溶剤は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
上記溶剤としては、アセトン、メタノール、エタノール、ブタノール、2−プロパノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、2−アセトキシ−1−メトキシプロパン、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、N,N−ジメチルホルムアミド、メチルイソブチルケトン、N−メチル−ピロリドン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン及び混合物であるナフサ等が挙げられる。
上記溶剤の多くは、上記絶縁樹脂材料を硬化させる前又は硬化させるときに、除去されることが好ましい。従って、上記溶剤の沸点は好ましくは190℃以下、より好ましくは160℃以下である。上記絶縁樹脂材料における上記溶剤の含有量は特に限定されない。絶縁樹脂材料の塗工性などを考慮して、上記溶剤の含有量は適宜変更可能である。
[他の成分]
耐衝撃性、耐熱性、樹脂の相溶性及び作業性等の改善を目的として、上記絶縁樹脂材料には、カップリング剤、着色剤、酸化防止剤、紫外線劣化防止剤、消泡剤、増粘剤、揺変性付与剤及び上述した樹脂以外の他の樹脂等を添加してもよい。
上記カップリング剤としては、シランカップリング剤、チタンカップリング剤及びアルミニウムカップリング剤等が挙げられる。上記シランカップリング剤としては、ビニルシラン、アミノシラン、イミダゾールシラン及びエポキシシラン等が挙げられる。
上記カップリング剤の含有量は特に限定されない。上記成分A100重量%中、上記カップリング剤の含有量は好ましくは0.01重量%以上、好ましくは5重量%以下である。
上記他の樹脂としては、ポリフェニレンエーテル樹脂、ジビニルベンジルエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ベンゾオキサゾール樹脂、ビスマレイミド樹脂及びアクリレート樹脂等が挙げられる。
(Bステージフィルムである絶縁樹脂材料)
上記樹脂組成物をフィルム状に成形する方法としては、例えば、押出機を用いて、樹脂組成物を溶融混練し、押出した後、Tダイ又はサーキュラーダイ等により、フィルム状に成形する押出成形法、樹脂組成物を溶剤に溶解又は分散させた後、キャスティングしてフィルム状に成形するキャスティング成形法、並びに従来公知のその他のフィルム成形法等が挙げられる。なかでも、薄型化に対応可能であることから、押出成形法又はキャスティング成形法が好ましい。フィルムにはシートが含まれる。
上記樹脂組成物をフィルム状に成形し、熱による硬化が進行し過ぎない程度に、例えば90〜200℃で1〜180分間加熱乾燥させることにより、Bステージフィルムを得ることができる。
上述のような乾燥工程により得ることができるフィルム状の樹脂組成物をBステージフィルムと称する。上記Bステージフィルムは、半硬化状態にある半硬化物である。半硬化物は、完全に硬化しておらず、硬化がさらに進行され得る。
上記樹脂組成物は、基材と、該基材の一方の表面に積層されたBステージフィルムとを備える積層フィルムを形成するために好適に用いることができる。積層フィルムのBステージフィルムが、上記樹脂組成物により形成される。
上記積層フィルムの上記基材としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム及びポリブチレンテレフタレートフィルムなどのポリエステル樹脂フィルム、ポリエチレンフィルム及びポリプロピレンフィルムなどのオレフィン樹脂フィルム、ポリイミド樹脂フィルム、銅箔及びアルミニウム箔などの金属箔等が挙げられる。上記基材の表面は、必要に応じて、離型処理されていてもよい。
上記絶縁樹脂材料を回路の絶縁層として用いる場合、絶縁樹脂材料により形成された絶縁層の厚さは、回路を形成する導体層(金属層)の厚さ以上であることが好ましい。上記絶縁樹脂材料により形成された絶縁層の厚さは、好ましくは5μm以上、好ましくは200μm以下である。
(プリント配線板)
上記絶縁樹脂材料は、プリント配線板において絶縁層を形成するために好適に用いられる。
上記プリント配線板は、例えば、上記樹脂組成物により形成されたBステージフィルムを用いて、該Bステージフィルムを加熱加圧成形することにより得られる。
上記Bステージフィルムに対して、片面又は両面に金属箔を積層できる。上記Bステージフィルムと金属箔とを積層する方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、平行平板プレス機又はロールラミネーター等の装置を用いて、加熱しながら又は加熱せずに加圧しながら、上記Bステージフィルムを金属箔に積層可能である。
(銅張り積層板及び多層基板)
上記絶縁樹脂材料は、銅張り積層板を得るために好適に用いられる。上記銅張り積層板の一例として、銅箔と、該銅箔の一方の表面に積層されたBステージフィルムとを備える銅張り積層板が挙げられる。この銅張り積層板のBステージフィルムが、上記絶縁樹脂材料により形成される。
上記銅張り積層板の上記銅箔の厚さは特に限定されない。上記銅箔の厚さは、1〜50μmの範囲内であることが好ましい。また、絶縁樹脂材料を硬化させた絶縁層と銅箔との接着強度を高めるために、上記銅箔は微細な凹凸を表面に有することが好ましい。凹凸の形成方法は特に限定されない。上記凹凸の形成方法としては、公知の薬液を用いた処理による形成方法等が挙げられる。
また、上記絶縁樹脂材料は、多層基板を得るために好適に用いられる。上記多層基板の一例として、回路基板と、該回路基板の表面上に積層された絶縁層とを備える多層基板が挙げられる。この多層基板の絶縁層が、上記絶縁樹脂材料を硬化させることにより形成される。上記絶縁層は、回路基板の回路が設けられた表面上に積層されていることが好ましい。上記絶縁層の一部は、上記回路間に埋め込まれていることが好ましい。
上記多層基板では、上記絶縁層の上記回路基板が積層された表面とは反対側の表面が粗化処理されていることが好ましい。
粗化処理方法は、従来公知の粗化処理方法を用いることができ特に限定されない。上記絶縁層の表面は、粗化処理の前に膨潤処理されていてもよい。
また、上記多層基板は、上記絶縁層の粗化処理された表面に積層された銅めっき層をさらに備えることが好ましい。
また、上記多層基板の他の例として、回路基板と、該回路基板の表面上に積層された絶縁層と、該絶縁層の上記回路基板が積層された表面とは反対側の表面に積層された銅箔とを備える多層基板が挙げられる。上記絶縁層及び上記銅箔が、銅箔と該銅箔の一方の表面に積層されたBステージフィルムとを備える銅張り積層板を用いて、上記Bステージフィルムを硬化させることにより形成されていることが好ましい。さらに、上記銅箔はエッチング処理されており、銅回路であることが好ましい。
上記多層基板の他の例として、回路基板と、該回路基板の表面上に積層された複数の絶縁層とを備える多層基板が挙げられる。上記回路基板上に配置された上記複数層の絶縁層の内の少なくとも1層が、上記絶縁樹脂材料を硬化させることにより形成される。上記多層基板は、上記絶縁樹脂材料を硬化させることにより形成されている上記絶縁層の少なくとも一方の表面に積層されている回路をさらに備えることが好ましい。
図1に、本発明の一実施形態に係る絶縁樹脂材料を用いた多層基板を模式的に部分切欠正面断面図で示す。
図1に示す多層基板11では、回路基板12の上面12aに、複数層の絶縁層13〜16が積層されている。絶縁層13〜16は、絶縁層である。回路基板12の上面12aの一部の領域には、金属層17が形成されている。複数層の絶縁層13〜16のうち、回路基板12側とは反対の外側の表面に位置する絶縁層16以外の絶縁層13〜15には、上面の一部の領域に金属層17が形成されている。金属層17は回路である。回路基板12と絶縁層13の間、及び積層された絶縁層13〜16の各層間に、金属層17がそれぞれ配置されている。下方の金属層17と上方の金属層17とは、図示しないビアホール接続及びスルーホール接続の内の少なくとも一方により互いに接続されている。
多層基板11では、絶縁層13〜16が、本発明に係る絶縁樹脂材料を硬化させることにより形成されている。本実施形態では、絶縁層13〜16の表面が粗化処理されているので、絶縁層13〜16の表面に図示しない微細な孔が形成されている。また、微細な孔の内部に金属層17が至っている。また、多層基板11では、金属層17の幅方向寸法(L)と、金属層17が形成されていない部分の幅方向寸法(S)とを小さくすることができる。また、多層基板11では、図示しないビアホール接続及びスルーホール接続で接続されていない上方の金属層と下方の金属層との間に、良好な絶縁信頼性が付与されている。
(粗化処理及び膨潤処理)
上記絶縁樹脂材料は、粗化処理又はデスミア処理される硬化物を得るために用いられることが好ましい。上記硬化物には、更に硬化が可能な予備硬化物も含まれる。
本発明に係る絶縁樹脂材料を予備硬化させることにより得られた硬化物の表面に微細な凹凸を形成するために、硬化物は粗化処理されることが好ましい。粗化処理の前に、硬化物は膨潤処理されることが好ましい。硬化物は、予備硬化の後、かつ粗化処理される前に、膨潤処理されており、さらに粗化処理の後に硬化されていることが好ましい。ただし、硬化物は、必ずしも膨潤処理されなくてもよい。
上記膨潤処理の方法としては、例えば、エチレングリコールなどを主成分とする化合物の水溶液又は有機溶媒分散溶液などにより、硬化物を処理する方法が用いられる。膨潤処理に用いる膨潤液は、一般にpH調整剤などとして、アルカリを含む。膨潤液は、水酸化ナトリウムを含むことが好ましい。具体的には、例えば、上記膨潤処理は、40重量%エチレングリコール水溶液等を用いて、処理温度30〜85℃で1〜30分間、硬化物を処理することにより行なわれる。上記膨潤処理の温度は50〜85℃の範囲内であることが好ましい。上記膨潤処理の温度が低すぎると、膨潤処理に長時間を要し、更に硬化物と金属層との接着強度が低くなる傾向がある。
上記粗化処理には、例えば、マンガン化合物、クロム化合物又は過硫酸化合物などの化学酸化剤等が用いられる。これらの化学酸化剤は、水又は有機溶剤が添加された後、水溶液又は有機溶媒分散溶液として用いられる。粗化処理に用いられる粗化液は、一般にpH調整剤などとしてアルカリを含む。粗化液は、水酸化ナトリウムを含むことが好ましい。
上記マンガン化合物としては、過マンガン酸カリウム及び過マンガン酸ナトリウム等が挙げられる。上記クロム化合物としては、重クロム酸カリウム及び無水クロム酸カリウム等が挙げられる。上記過硫酸化合物としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウム等が挙げられる。
上記粗化処理の方法は特に限定されない。上記粗化処理の方法として、例えば、30〜90g/L過マンガン酸又は過マンガン酸塩溶液及び30〜90g/L水酸化ナトリウム溶液を用いて、処理温度30〜85℃及び1〜30分間の条件で、1回又は2回、硬化物を処理する方法が好適である。上記粗化処理の温度は50〜85℃の範囲内であることが好ましい。
硬化物の表面の算術平均粗さRaは好ましくは50nm以上、好ましくは350nm以下であることが好ましい。この場合には、硬化物と金属層又は配線との接着強度が高くなり、更に絶縁層の表面により一層微細な配線が形成される。
(デスミア処理)
上記絶縁樹脂材料を予備硬化させることにより得られた硬化物に、貫通孔が形成されることがある。上記多層基板などでは、貫通孔として、ビア又はスルーホール等が形成される。例えば、ビアは、CO2レーザー等のレーザーの照射により形成できる。ビアの直径は特に限定されないが、60〜80μm程度である。上記貫通孔の形成により、ビア内の底部には、硬化物に含まれている樹脂成分に由来する樹脂の残渣であるスミアが形成されることが多い。
上記スミアを除去するために、硬化物の表面は、デスミア処理されることが好ましい。デスミア処理が粗化処理を兼ねることもある。
上記デスミア処理には、上記粗化処理と同様に、例えば、マンガン化合物、クロム化合物又は過硫酸化合物などの化学酸化剤等が用いられる。これらの化学酸化剤は、水又は有機溶剤が添加された後、水溶液又は有機溶媒分散溶液として用いられる。デスミア処理に用いられるデスミア処理液は、一般にアルカリを含む。デスミア処理液は、水酸化ナトリウムを含むことが好ましい。
上記デスミア処理の方法は特に限定されない。上記デスミア処理の方法として、例えば、30〜90g/L過マンガン酸又は過マンガン酸塩溶液及び30〜90g/L水酸化ナトリウム溶液を用いて、処理温度30〜85℃及び1〜30分間の条件で、1回又は2回、硬化物を処理する方法が好適である。上記デスミア処理の温度は50〜85℃の範囲内であることが好ましい。
上記絶縁樹脂材料の使用により、デスミア処理された硬化物の表面の表面粗さが十分に小さくなる。
以下、実施例及び比較例を挙げることにより、本発明を具体的に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。
(エポキシ樹脂)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC社製「850A」、エポキシ当量189)
ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(DIC社製「HP−7200」、エポキシ当量260)
(硬化剤)
活性エステル硬化剤(DIC社製「HPC−8000−65T」、当量223)
活性エステル硬化剤(DIC社製「EXB9416−70BK」、当量330)
シアネートエステル硬化剤(Ronza社製「BA−230S」、当量235、窒素原子の含有量10重量%)
アミノトリアジンクレゾールノボラック硬化剤(DIC社製「LA−3018−50P」、当量151、窒素原子の含有量18重量%)
(熱可塑性樹脂)
フェノキシ樹脂(三菱化学社製「YX6954BH30」)
フェノキシ樹脂(新日鐵化学社製「ERF−001M30」、リン原子の含有量4.6重量%)
(硬化促進剤)
イミダゾール化合物(四国化成社製「2P4MZ」、窒素原子の含有量17.7重量%)
(難燃剤)
環状有機リン化合物(大塚化学社製「SPB−100」、窒素原子の含有量5.2重量%、リン原子の含有量13.2重量%)
環状有機リン化合物(三光社製「HCA−HQ」、リン原子の含有量9.6重量%)
(無機充填材)
シリカ含有スラリー(アドマテックス社製「SO−C2」、シリカの平均粒径0.5μm、シリカの比表面積6.8m2/g、シリカの含有量70重量%、溶剤であるシクロヘキサノンの含有量30重量%)
(実施例1)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC社製「850A」)27.1重量部と、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(DIC社製「HP−7200」)14.5重量部と、活性エステル硬化剤(DIC社製「HPC−8000−65T」)22.2重量部と、活性エステル硬化剤(DIC社製「EXB9416−70BK」)32.8重量部と、イミダゾール化合物(四国化成社製「2P4MZ」)1.4重量部と、環状有機リン化合物(大塚化学社製「SPB−100」)2重量部と、シリカ含有スラリー(アドマテックス社製「SO−C2」)150重量部とを混合し、均一な溶液となるまで常温で攪拌し、樹脂組成物ワニスを得た。
アプリケーターを用いて、PETフィルム(東レ社製「XG284」、厚み25μm)の離型処理面上に得られた樹脂組成物ワニスを塗工した後、100℃のギアオーブン内で2分間乾燥し、溶剤を揮発させた。このようにして、PETフィルム上に、厚さが40μmであり、溶剤の残量が1.0重量%以上、4.0重量%以下であるシート状の成形体(絶縁樹脂材料)を得た。
(実施例2〜6及び比較例1〜3)
使用した配合成分の種類及び配合量(重量部)を下記の表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物ワニス及びシート状の成形体を作製した。
(評価)
(1)体積抵抗率
得られたシート状の成形体をPETフィルム上で、170℃で30分間硬化させ、更に190℃で90分間硬化させ、硬化物を得た。得られた硬化物を100mm×100mmの大きさに裁断し、厚み40μmの試験サンプルを得た。得られた試験サンプルを134℃、3atm及び2時間のPCT条件に暴露した。暴露後の試験サンプルの体積抵抗率を、高抵抗率計(三菱化学社製「ハイレスターUP」)にJボックスUタイプを接続して測定した。体積抵抗率を下記の基準で判定した。なお、体積抵抗率が低いと、配線間でリークが生じるなどして、絶縁信頼性が低くなる。
[体積抵抗率の判定基準]
○:体積抵抗率が1.0×1013Ω・cm以上、1.0×1017Ω・cm以下
×:体積抵抗率が1.0×1013Ω・cm未満又は1.0×1017Ω・cmを超える
(2)熱分解温度
得られたシート状の成形体をPETフィルム上で、170℃で30分間硬化させ、更に190℃で90分間硬化させ、硬化物を得た。得られた硬化物を10mg秤量した。差熱−熱重量同時測定装置(島津製作所社製「DTG−60」)を用いて、空気雰囲気下で昇温速度10℃/分の条件で、硬化物を30℃から800℃まで昇温させたときの熱重量減少率が5%以下である温度を熱分解温度として評価した。
(3)ガラス転移温度
得られたシート状の成形体をPETフィルム上で、170℃で30分間硬化させ、更に190℃で90分間硬化させ、硬化物を得た。得られた硬化物を3mm×25mmの大きさに裁断した。粘弾性スペクトロレオメーター(レオメトリック・サイエンティフィックエフ・イー社製「EXSTAR DMS6100」)を用いて、昇温速度5℃/分の条件で、30℃から300℃まで裁断された硬化物の損失率tanδを測定し、損失率tanδが最大値になる温度(ガラス転移温度Tg)を求めた。
(4)平均線熱膨張率
得られたシート状の成形体をPETフィルム上で、170℃で30分間硬化させ、更に190℃で90分間硬化させ、硬化物を得た。得られた硬化物を3mm×25mmの大きさに裁断した。線膨張率計(セイコーインスツルメンツ社製「TMA/SS120C」)を用いて、引張り荷重3.3×10−2N、昇温速度5℃/分の条件で、硬化物の25℃〜150℃における平均線熱膨張率(α1)を測定した。
(5)電気特性(誘電率及び誘電正接)
得られたシート状の成形体をPETフィルム上で、170℃で30分間硬化させ、更に190℃で90分間硬化させ、硬化物を得た。得られた硬化物を150mm×2mmの大きさに裁断した。誘電率測定装置(ヒューレットパッカード社製「8510C」)を用いて空洞共振法により、裁断された硬化物の25℃、1GHzにおける誘電率及び誘電正接を測定した。
(6)難燃性(燃焼試験)
得られたシート状の成形体をPETフィルム上で、170℃で30分間硬化させ、更に190℃で90分間硬化させ、硬化物を得た。得られた上記硬化物を130mm×13mmの大きさに裁断した。試験片をクランプに垂直に取付け、20mm炎による3秒間接炎を2回行った。その燃焼挙動により、難燃性を下記の基準で判定した。
[難燃性の判定基準]
○:試験片の燃焼時間が10秒以内であり、かつクランプまでの燃焼がない
×:試験片の燃焼時間が10秒を超えるか、又はクランプまでの燃焼がある
結果を下記の表1に示す。