JP5931727B2 - リチウム二次電池負極用黒鉛材料およびその製造方法、およびそれを用いたリチウム二次電池 - Google Patents

リチウム二次電池負極用黒鉛材料およびその製造方法、およびそれを用いたリチウム二次電池 Download PDF

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Description

本発明は、リチウム二次電池の負極として使用される黒鉛材料、及びその製造方法に関する。詳しくは、容量劣化を抑制した耐久性の高いリチウムイオン二次電池の負極に用いる黒鉛材料の製造方法、及びそれを用いた負極を備えるリチウムイオン二次電池に関する。
リチウムイオン二次電池は、従来の二次電池であるニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池、鉛電池に比較し、軽量であり且つ高い入出力特性を有することから、近年、電気自動車やハイブリッド車用の電源として期待されている。通常、この種の電池は、リチウムの可逆的なインターカレーションが可能なリチウムを含んだ正極と、炭素材料から成る負極とが、非水電解質を介して対向することにより構成されている。従って、この種の電池は放電状態で組み立てられ、充電しなければ放電可能状態とはならない。以下、正極としてコバルト酸リチウム(LiCoO)、負極として炭素材料、電解質としてリチウム塩を含んだ非水電解液が使用された場合を例に取り、その充放電反応について説明する。
先ず、第一サイクル目の充電を行うと、正極に含まれたリチウムが電解液に放出され(下式1)、その正極電位は貴な方向へ移行する。負極では、正極から放出されたリチウムが炭素材料に吸蔵され(下式2)、その負極電位が卑な方向へ移行する。通常は、正・負極電位の差、即ち電池電圧が、所定の値に到達した時点で充電終止となる。この値は、充電終止電圧と呼称されている。そして放電させると、負極に吸蔵されたリチウムが放出され、負極電位は貴な方向へ移行し、そのリチウムは再び正極に吸蔵され、正極電位は卑な方向へ移行する。放電も、充電の場合と同様に、正・負極電位の差、即ち電池電圧が、所定の値に到達した時点で終止とされる。その値は、放電終止電圧と呼称されている。以上のような充電及び放電の全反応式は、下式3のように示される。その後に続く第二サイクル以降は、リチウムが正極と負極の間を行き来することで充放電反応(サイクル)が進行する。
リチウムイオン二次電池の負極材料として使用される炭素材料は、一般に黒鉛系と非晶質系に大別される。黒鉛系炭素材料は、非晶質系炭素材料と比較し、単位体積あたりのエネルギー密度が高いという利点がある。従って、コンパクトでありながら大きい充電放電容量が要求される携帯電話やノート型パソコン用のリチウムイオン二次電池においては、負極材料として黒鉛系炭素材料が一般に用いられている。黒鉛は炭素原子の六角網平面が規則正しく積層した構造を有しており、充放電の際には結晶子のエッジ部でリチウムイオンの挿入離脱反応が進行する。
前述の通り、この種の電池は、近年、自動車用、産業用、電力供給インフラ用の蓄電装置としても盛んに検討されているが、これら用途に利用される場合には、携帯電話やノート型パソコン用として利用される場合より、極めて高度な信頼性が要求される。ここで信頼性とは寿命に関する特性であり、保存特性とも換言できる。充放電サイクルが繰り返された場合でも、又は所定の電圧に充電された状態で保存された場合でも、あるいは一定の電圧で充電され続けた場合(フローティング充電された場合)でも、充放電容量や内部抵抗が変化し難い(劣化し難い)特性を指す。
一方、従来の携帯電話やノート型パソコンに利用されてきたリチウムイオン二次電池の寿命特性は、負極材料にも大きく依存することが一般的に知られている。その理由は、正極反応(式1)と負極反応(式2)の充放電効率を全く同じにすることが原理的に不可能で、その充放電効率は負極の方が低いからである。ここで充放電効率とは、充電に消費された電気容量に対する、放電が可能な電気容量の割合である。以下に、負極反応の充放電効率の方が低いことに起因して寿命特性が劣化する反応機構について詳述する。
充電過程では、前述の通り、正極の中のリチウムが放出され(式1)、負極に吸蔵される(式2)が、その充電に消費される電気容量は、正・負極反応とも同一である。しかし充放電効率は負極の方が低いため、その後に続く放電反応では、正極側に吸蔵可能なリチウム量、即ち充電する前の正極側に吸蔵されていたリチウム量よりも、負極から放出されるリチウム量の方が少ない状態で放電が終止する事態が生ずることとなる。その理由は、負極で充電に消費された電気容量のうちの一部が副反応及び競争反応に消費され、リチウムが吸蔵される反応、即ち放電可能な容量として吸蔵される反応に消費されなかったからである。
このような充放電反応が生ずる結果、放電終止状態の正極電位は、充放電前の元の電位よりも貴な方向へ移行する一方、負極電位も充放電前の元の電位よりも貴な方向へ移行することとなる。この原因は、正極の充電過程で放出されたリチウムの全てが放電のときに吸蔵されない(戻らない)ため、充電過程で貴な方向へ移行した電位が、放電過程で卑な方向へ移行するときも、正・負極の充放電効率の差に相当する分だけ、元の正極電位に戻ることが不可能となり、元の正極電位より貴な電位で放電が終止することとなる。前述の通りリチウムイオン二次電池の放電は、電池電圧(即ち、正極電位と負極電位との差)が所定の値(放電終止電圧)に達した時点で完了するため、放電終止時点での正極の電位が貴になれば、その分負極電位も同様に貴な方向へ移行することになるからである。
以上の通り、この種の電池は充放電サイクルを繰り返すと、正・負極の容量の作動領域が変化することで、所定の電圧範囲内(放電終止電圧と充電終止電圧の範囲内)で得られる容量が低下する問題が生じていた。このような容量劣化の反応機構は学会等でも報告されている(非特許文献1〜2)。また、いったん作動領域が変化した正・負極電位は不可逆であり、原理的に元に戻ることはあり得ず、容量回復の手段が無いことも、この問題を深刻化させている。
なお、前述の充放電サイクルが繰り返されたときに生ずる容量劣化の反応機構は、充電状態で電池が保存されたときの容量劣化、又はフローティング充電されたときの容量劣化の各々の反応機構と基本的には同様である。先ず電池が充電状態で保存された場合であるが、充電状態で生ずる副反応・競争反応によって失われる容量、即ち自己放電量は、正極よりも負極の方が大きいため、正・負極の容量の作動領域は、保存前後で変化することにより、保存後の電池容量は劣化することが知られている(非特許文献3)。充電状態における正・負極の自己放電速度の差も、前述の正・負極の充放電効率の差と同様に、充電状態の負極で生ずる副反応・競争反応の速度が、同じく充電状態の正極で生ずる副反応・競争反応の速度よりも高いことに起因している。
次にフローティング充電された場合であるが、充電初期には正・負極電位とも各々所定の電位で充電され続けることとなる。しかし、正極電位を、その電位に保持させておくために必要な電流値(正極側の漏れ電流)と、負極電位を、その電位に保持させておくために必要な電流値(負極側の漏れ電流)は異なるのが実情である。その原因は、前述の通り、充電状態での正極及び負極の自己放電速度が異なり、負極の自己放電速度の方が大きいからである。従ってフローティング充電時は、負極側の漏れ電流の方が、正極側の漏れ電流よりも大きくなることにより、負極電位は漏れ電流が小さくなる方向、即ち貴な方向へ移行し、正極電位は漏れ電流が大きくなる方向、即ち貴な方向へ移行する。このようにフローティング充電された場合も、正・負極の容量の作動領域は不可逆的に変化し、電池容量が劣化する問題が生じていた。
リチウムイオン二次電池用負極炭素材料の原料として、「重質油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理した原料炭組成物」は、一般的に知られている。このディレードコーキングプロセスは、品質が高い炭素材料を大量生産するために大変適しており、多品種のコークス製品がこのプロセスで量産されている。また、X線広角回折法によって測定される(112)回折線の結晶子の大きさLc(112)が4nm以上となるように黒鉛化して得られた黒鉛材料もリチウムイオン二次電池の負極黒鉛材料として一般的に使用されている(例えば特許文献1)。
更に、原料炭組成物を所定の粒度分布となるように粉砕及び分級した後、メカノケミカル処理を施し、不活性ガス雰囲気下、2800℃以上の温度で高度に結晶を発達させた黒鉛材料、及びその製造方法も一般的に知られている(例えば特許文献2)。
特許文献2によれば、原料炭組成物を粉砕・分級した後、メカノケミカル処理を施すことにより、粒子表層の結晶構造を乱すことができると記載されている(特許文献2の段落[0024])。このような結晶構造の乱れは、最終工程となる黒鉛化後にも未組織炭素として残存するため、負極の初期充放電効率を向上させることは可能(特許文献2の段落[0024])であるが、その後の電池の信頼性まで向上させることはできないという欠点があった。
また、電池の負極材料として天然鱗片状黒鉛を用い、これに圧縮剪断応力を施すと、黒鉛粒子表面の結晶組織を乱すことができると報告されている(例えば、非特許文献4)。そして、黒鉛粒子表面の結晶構造の乱れは、負極の初期充放電効率を向上させることが可能であることが報告されている(特許文献2の段落[0024])。
しかしながら、黒鉛粒子に圧縮剪断応力による力学的エネルギーを付与した場合、圧縮剪断応力が粒子表面に作用することにより、粒子表面近傍の炭素-炭素結合が切断され、その切断部にはエッジ部が露出する。そのため、粒子表面にエッジ部が多く露出した黒鉛材料が得られると考えられる。このような黒鉛材料を負極材料として用いたリチウムイオン二次電池では、負極の粒子表面に露出するエッジ部において電解液が分解されることにより、負極の漏れ電流が増大し、正極の漏れ電流との差が増大するため、電池を高温でまたは常温で長期間保持したときの容量維持率(保存特性)が大幅に低下するという課題があった。
更に、高度に結晶構造が発達した黒鉛負極を用いて作製されたリチウムイオン電池では、高い電気容量が得られる。しかしながら、このような黒鉛材料を用いた場合、黒鉛結晶へのリチウムの挿入と同時に、電解液が結晶子のエッジ部から平行度の高い六角網平面から成る黒鉛層間に共挿入し分解される現象が起こりやすいと言われている(Besenhardの溶媒共挿入モデル、非特許文献5)。電解液が黒鉛層間で分解されることに起因する副反応・競争反応により、負極の充放電効率が低下し容量劣化の原因となる。また、溶媒共挿入は黒鉛結晶が発達するほど起こりやすくなると言われている。そこで、溶媒共挿入による電解液の分解を抑制するために、粒子表面に結晶構造の乱れを導入する手法が報告されている。特許文献1によれば、原料炭組成を粉砕・分級した後、メカノケミカル処理を施すことにより、粒子表面の高度に発達した結晶構造を乱すことができると記載されている。このようにして導入された結晶構造の乱れは、最終工程となる黒鉛化後にも結晶化度の低い領域として残存するため、負極の初期充放電効率を向上させることは可能であると記載されている(特許文献2明細書段落[0024])。しかしながら、メカノケミカル処理により導入された結晶構造の乱れは、未組織炭素の結晶子がランダムに配向した、いわゆる等方的な状態であり、エッジ部が多く粒子表面に露出していると考えられる。
一般的に、結晶子のエッジ部には、多数のダングリングボンド、即ち価電子結合が飽和せず結合の相手無しに存在する局在電子の状態が多く存在する。充電過程での負極炭素材料の表面、即ち電解液と炭素材料が接触している界面では、リチウムが黒鉛結晶に挿入する本来の充電反応の他に、この局在電子が触媒的に作用し、電解液が還元分解されることに起因した副反応・競争反応が生じることによって、負極の充放電効率が低下すると考えられる。つまり、粒子表面に結晶化度の低い領域を導入することにより、溶媒共挿入による電解液の分解は抑制できたとしても、導入された結晶化度の低い領域における結晶子が等方的な状態であるためにエッジ部が表面に露出することにより、電解液の還元分解が増大し容量劣化が起こるという課題が残る。
本発明者らは、高度に発達した結晶構造中に結晶化度の低い領域が導入された構造を有し、且つ粒子表面に結晶子エッジの露出が少ない黒鉛材料を提供することにより、負極の充放電効率が改善され、リチウムイオン二次電池の保存特性を向上させることが可能となると考え、鋭意検討した結果、本発明に到達した。
特許第3141818号 特許第4171259号
第48回電池討論会要旨集1A11(2007年11月13日) 第76回電気化学会大会要旨集1P29(2009年3月26日) 第71回電気化学会大会要旨集2I07(2004年3月24日) 炭素 2005 No.217 99−103 J. O. Besenhard, M. Winter, J. Yang, W. Biberacher., J. Power Sources, 1995, Vol.54,p.228
本発明は、以上のようなリチウムイオン二次電池の容量維持率の低下を抑制するためのものであって、その目的は、充放電サイクルの繰り返し、充電状態での寿命、及びフローティング充電などに伴う容量劣化が抑制可能となる負極黒鉛材料を開発することにより、高度な信頼性が要求される自動車用、産業用、電力貯蔵インフラ用のリチウムイオン二次電池の負極材料を提供しようとするものである。
一般的に結晶子エッヂには、多数のダングリングボンド、即ち価電子結合が飽和せず結合の相手無しに存在する局在電子の状態が多く存在する。本発明者らは、充電過程での負極炭素材料の表面、即ち電解質と炭素材料が接触している界面では、リチウムが黒鉛結晶にインターカレーションする本来の充電反応の他に、この局在電子が触媒的に作用し、電解質が還元分解されることに起因した副反応・競争反応が生じることによって、負極の充放電効率が低下することが推測される。このような黒鉛の粒子表面に露出した結晶子エッヂを極めて少なくすることにより、負極の充放電効率が改善され、リチウム二次電池の信頼性を向上させることが可能となると考え、鋭意検討した結果、本発明に到達した。
本発明に係る第一の形態は、粉砕及び分級された原料炭組成物に、圧縮応力と剪断応力を付与した黒鉛前駆体を黒鉛化して得られ、X線広角回折法によって測定される(112)回折線の結晶子の大きさLc(112)が4nm以上であるリチウムイオン二次電池負極用の黒鉛材料であって、上記原料炭組成物が、重質油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理されたものであり、且つ水素原子Hと炭素原子Cの比率、H/C原子比0.30〜0.50を有し、且つマイクロ強度7〜17質量%を有するリチウムイオン二次電池負極用の黒鉛材料を提供する。
本発明に係る第二の形態は、重質油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理して得られる原料炭組成物を粉砕及び分級する工程と、上記粉砕及び分級された原料炭組成物に圧縮応力と剪断応力を付与して黒鉛前駆体を得る工程と、上記黒鉛前駆体を加熱して黒鉛化し、X線広角回折法によって測定される(112)回折線の結晶子の大きさLc(112)が4nm以上となる黒鉛材料を得る工程とを少なくとも含むリチウムイオン二次電池負極用の黒鉛材料の製造方法であって、上記粉砕及び分級される原料炭組成物が、水素原子Hと炭素原子Cの比率、H/C原子比0.30〜0.50を有し、且つマイクロ強度7〜17質量%を有するリチウムイオン二次電池負極用の黒鉛材料の製造方法を提供する。
本発明に係る第三の形態は、この製造方法によって得られた黒鉛材料を負極材料として使用したリチウムイオン二次電池を提供する。
本発明に係る第四の形態は、重質油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理して得られる原料炭組成物を粉砕及び分級する工程と、上記粉砕及び分級された原料炭組成物を加熱して炭化物を得る工程と、上記炭化物を加熱して黒鉛化し、X線広角回折法によって測定される(112)回折線の結晶子の大きさLc(112)が4nm以上となる黒鉛粒子を得る工程と、上記黒鉛粒子に圧縮剪断応力を付与し黒鉛材料を得る工程とを少なくとも含むリチウムイオン二次電池負極用の黒鉛材料の製造方法であって、上記粉砕及び分級される原料炭組成物が、水素原子Hと炭素原子Cの比率、H/C原子比0.30〜0.50を有し、且つマイクロ強度7〜17質量%を有するリチウムイオン二次電池負極用の黒鉛材料の製造方法を提供する。
本発明に係る第五の形態は、この製造方法によって得られた黒鉛材料を負極材料として使用したリチウムイオン二次電池を提供する。
本発明に係る第六の形態は、重質油組成物をディレードコーキングプロセスによりコーキング処理して得られ、水素原子Hと炭素原子Cとの原子比であるH/Cが0.30〜0.50であり、且つマイクロ強度が7質量%〜17質量%である原料炭組成物と、当該原料炭組成物に対して0.5質量%〜10質量%の平均粒径0.1μm〜3.0μmのカルサインコークスとの混合物に、圧縮剪断応力を付与して、当該原料炭組成物の粒子表面に当該カルサインコークスを埋め込んだ複合粉体を得る工程と、前記複合粉体を加熱して炭化物を得る工程と、前記炭化物を加熱して黒鉛化し、X線広角回折法によって測定される(112)回折線の結晶子の大きさであるLc(112)が4nm〜30nmである黒鉛材料とする工程と、を少なくとも含むリチウムイオン二次電池負極用の黒鉛材料の製造方法である。
本発明に係る第七の形態は、上記第六の形態の製造方法により製造された黒鉛材料を負極材料として含むリチウムイオン二次電池である。
本発明に係る第八の形態は、重質油組成物をディレードコーキングプロセスによりコーキング処理して得られ、水素原子Hと炭素原子Cとの原子比であるH/Cが0.30〜0.50であり、且つマイクロ強度が7質量%〜17質量%である原料炭組成物と、当該原料炭組成物に対して0.5質量%〜10質量%のアセチレンブラックとの混合物に、圧縮剪断応力を付与して、当該原料炭組成物の粒子表面に当該アセチレンブラックを埋め込んだ複合粉体を得る工程と、前記複合粉体を加熱して炭化物を得る工程と、前記炭化物を加熱して黒鉛化し、X線広角回折法によって測定される(112)回折線の結晶子の大きさであるLc(112)が4nm〜30nmである黒鉛材料とする工程と、を少なくとも含むリチウムイオン二次電池負極用の黒鉛材料の製造方法である。
本発明に係る第九の形態は、上記第八の形態の製造方法により製造された黒鉛材料を負極材料として含むリチウムイオン二次電池である。
本発明の黒鉛材料は、リチウム二次電池の容量劣化を抑制でき、高度な信頼性を備えるリチウム二次電池の負極材料を提供できる。
そして、本発明の製造方法によって得られる黒鉛材料は、リチウムイオン二次電池の容量維持率の低下を抑制でき、保存特性に優れたリチウムイオン二次電池の負極材料として好適である。
また、高度に発達した結晶構造を有し、六角網平面の平行度が高い黒鉛の層間にリチウムが挿入したとき、溶媒が同時に黒鉛層間に共挿入し分解される。このような溶媒共挿入モデルによって説明される電解液の分解を抑制するためには、黒鉛材料の高度に発達した結晶構造中に結晶化度の低い領域を部分的に導入し、溶媒共挿入を抑制する処置が必要である。このような結晶化度の低い領域では、六角網平面の平行度が低いために電解液が黒鉛層間に溶媒共挿入しにくい。
本発明者らは、重質油組成物をディレードコーキングプロセスによりコーキング処理して得られる、水素原子Hと炭素原子Cとの原子比であるH/Cが0.30〜0.50であり、且つマイクロ強度が7質量%〜17質量%である原料炭組成物を粉砕及び分級し原料炭組成物の粒子を得た後、当該原料炭組成物と、平均粒径0.1μm〜3.0μmのカルサインコークスとを、原料炭組成物に対してカルサインコークスが0.5質量%〜10質量%となる比率で混合し、圧縮剪断応力を付与することで当該原料炭組成物の粒子表面にカルサインコークスが埋め込まれた複合粉体を得た後、当該複合粉体を炭化及び黒鉛化することによりリチウムイオン二次電池負極用黒鉛材料を得た。本発明の製造方法では、高度に発達した結晶構造に結晶化度の低い領域が部分的に導入された構造を有し、且つ粒子表面に露出するエッジ部が少ない黒鉛材料を得ることが可能である。従って、本発明の製造方法によって得られた黒鉛材料をリチウムイオン二次電池の負極材料として使用した場合、電解液の分解が抑制され、寿命特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることが可能である。
さらに、本発明者らは、重質油組成物をディレードコーキングプロセスによりコーキング処理して得られる、水素原子Hと炭素原子Cとの原子比であるH/Cが0.30〜0.50であり、且つマイクロ強度が7質量%〜17質量%である原料炭組成物を粉砕及び分級し原料炭組成物の粒子を得た後、当該原料炭組成物と、原料炭組成物に対して0.5質量%〜10質量%のアセチレンブラックとを混合し、圧縮剪断応力を付与することで当該原料炭組成物の粒子表面にアセチレンブラックが埋め込まれた複合粉体を得た後、当該複合粉体を炭化及び黒鉛化することによりリチウムイオン二次電池負極用黒鉛材料を得た。本発明の製造方法では、高度に発達した結晶構造に結晶化度の低い領域が部分的に導入された構造を有し、且つ粒子表面に露出するエッジ部が少ない黒鉛材料を得ることが可能である。従って、本発明の製造方法によって得られた黒鉛材料をリチウムイオン二次電池の負極材料として使用した場合、電解液の分解が抑制され、寿命特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることが可能である。
ラミネート外装電池の断面図である。 原料炭組成物H/Cと電池の放電容量維持率の関係を示す図である。 原料炭組成物マイクロ強度と電池の放電容量維持率の関係を示す図である。 圧縮剪断応力を付加する装置の一例の作動原理図である。
以下、本発明に係る第一の形態から第三の形態について、詳細に説明する。
本発明の黒鉛材料は、X線広角回折法によって測定される(112)回折線の結晶子の大きさLc(112)を4nm以上とする。4nm以上とする理由は、このように高度に結晶が発達した黒鉛材料は、可逆容量として340mAh/g以上の確保が可能だからであるが、この理由は、この種の電池に使用される負極材料として、高度に結晶が発達した材料が好ましく用いられている理由と全く同じである。結晶が高度に発達するほど高容量が得られる点は公知の事実で、例えば前述の特許文献1の段落[0005]にも記載されている事項である。X線広角回折法によって測定される(112)回折線の結晶子の大きさLc(112)が4nm未満の場合は、結晶発達が不十分で小さな可逆容量しか得られないため好ましくない。
本発明の黒鉛材料を形成するために用いる原料炭組成物は、水素原子Hと炭素原子Cの比率、H/C原子比が0.30〜0.50であり、且つマイクロ強度が7〜17質量%である。このような物性を有した原料炭組成物を原料として使用することにより、黒鉛化後の粒子表層に結晶子エッヂが極めて少ない(黒鉛化後の粒子表層に結晶の乱れが少ない)黒鉛材料を得ることができる。上述したように、特許文献2に記載の粒子表層の結晶構造の乱れは、負極の初期充放電効率を向上させることは可能であるが、容量劣化の課題があり、その後の電池の信頼性まで向上させることはできないという欠点があるからである。
原料炭組成物のH/Cは、全水素分(TH(質量%))を水素の原子量を除した値と、全炭素分(TC(質量%))を炭素の原子量を除した値の比率である。
全水素の測定は、試料を酸素気流中750℃で完全燃焼させ、燃焼ガスより生成した水分量を電量滴定法(カール・フィッシャー法)で求められる。電量滴定式のカール・フィッシャー法では、予め滴定セルにヨウ化物イオン、二酸化硫黄、塩基(RN)及びアルコールを主成分とする電解液を入れておき、滴定セルに試料を入れることで試料中の水分は、下式(4)の通り反応する。なお、試料は、例えばコーキング処理後、乾燥雰囲気下で冷却した後に測定される。
この反応に必要なヨウ素は、下式(5)の通りヨウ化物イオンを電気化学的に反応(2電子反応)させることにより得られる。
水1モルとヨウ素1モルとが反応することから、水1mgを滴定するのに必要な電気量が、下式(6)の通りファラデーの法則により求められる。
ここで、定数96478はファラデー常数、18.0513は水の分子量である。
ヨウ素の発生に要した電気量を測定することで、水分量が求められる。さらに得られた水分量から、水素量に換算し、これを測定に供した試料質量で除することにより、全水素分(TH(質量%))が算出される。
全炭素の測定は、試料を1150℃の酸素気流中で燃焼させ、二酸化炭素(一部一酸化炭素)に変換され過剰の酸素気流に搬送されてCO+CO赤外線検出器により、全炭素分(TC(質量%))が算出される。
マイクロ強度は、鋼製シリンダー(内径25.4mm、長さ304.8mm)に20〜30メッシュの試料2gと直径5/16inch(7.9mm)の鋼球12個を入れ、鉛直面を管と直角方向に25rpmで800回転させたのち(すなわち、シリンダーを立てた状態から上下が入れ替わるように、回転軸を水平にして、あたかもプロペラが回転するように回転させる)、48メッシュでふるい分け、試料に対するふるい上の質量をパーセントで示した値である。
H/C原子比が0.30〜0.50の原料炭組成物が、所定の粒度となるように粉砕・分級され、圧縮応力と剪断応力が付与された場合、原料炭組成物を構成する適度な大きさの六角網平面が、粒子表面へ結晶子エッヂが出現しないように配向するため特に好ましい。六角網平面は応力の印加方向に対して鉛直に配向し易いため、粒子表面は六角網平面で被覆された状態を実現することが可能となり、六角網平面の鉛直方向に位置する結晶子エッヂは粒子表面に存在し難くなるため、黒鉛化後の粒子表面に存在する結晶子エッヂが極めて少なく、電池の信頼性低下の要因となる未組織炭素を極めて減少させることが可能となる。
原料炭組成物のH/C原子比が0.30未満の場合は、原料炭組成物を構成する六角網平面の広がりが大きく、粉砕されたときの粒子形状が異方性となるため好ましくない。ここで異方性とは、粒子表面における六角網平面の領域と結晶子エッヂの領域とが分離し易い性質を指す。このような場合、粒子表面では結晶子エッヂが集合している領域が存在してしまうため、その後に粒子へ圧縮応力と剪断応力を印加しても、粒子表面での六角網平面の配向を促進させることができない。このような粒子状態で黒鉛化された場合、その表面には結晶子エッヂが露出し易く、電池の信頼性を低下させる要因となるため好ましくない。
逆に原料炭組成物中のH/C原子比が0.50を超えると、その炭素骨格の構造形成が不十分であるため、その後の炭化及び/又は黒鉛化領域において溶融が起こり、六角網平面の3次元的積層配列が大きく乱れる結果、黒鉛化後の粒子表面に結晶子エッヂが出現し易くなるため好ましくない。このような場合、所定の粒度となるように粉砕・分級された後、圧縮応力と剪断応力が印加され、適度な大きさの六角網平面が、粒子表面へ結晶子エッヂが出現しないように配向しても、その三次元的な配向状態を維持して黒鉛化することができないため、黒鉛化後の粒子表面には結晶子エッヂが露出し易くなり好ましくない。
以上の通り原料炭組成物のH/Cは0.30〜0.50に限定される。この範囲内の物性を有する原料炭組成物が所定の粒度となるように粉砕・分級され、圧縮応力と剪断応力が印加されることにより、黒鉛化後の粒子表面には結晶子エッヂが極めて少ない状態を実現することが可能となる。
原料炭組成物のマイクロ強度は、7〜17質量%である。このマイクロ強度は、隣接する結晶子間の結合強さを示す指標である。一般に、隣接する結晶子の間には、六角網平面の構成単位となるベンゼン環以外の構造を有した未組織炭素が存在し、その隣接する結晶子間を結合させる機能を有している。この未組織炭素は、原料炭組成物が炭素化及び/又は黒鉛化された後も残存し、同様な役割を演じている。
原料炭組成物のマイクロ強度が7質量%未満である場合には、隣接する結晶子間の結合強さが極めて弱いことを意味する。このような原料炭組成物が所定の粒度となるように粉砕・分級され圧縮応力と剪断応力が与えられると、前述の通り、原料炭組成物を構成する適度な大きさの六角網平面が、粒子表面へ結晶子エッヂが出現しないように配向するため、原料炭組成物の状態としては好ましい構造が実現される。しかし、その後炭素化及び/又は黒鉛化された場合、結晶子間の結合が弱いため、原料炭組成物の粒子表面の構造を維持できなくなり、黒鉛化後の粒子形状は異方性が強くなり、且つ粒子表面にはエッヂが露出し易くなるため好ましくない。この理由は、原料炭組成物の状態における結晶子間の結合が、黒鉛化による結晶子の発達に伴う応力よりも弱いからである。
原料炭組成物のマイクロ強度が17質量%を超える場合には、隣接する結晶子間の結合強さが極端に大きくなる。その理由は、隣接した結晶子間に存在する未組織炭素が、その隣接する結晶子と強固な三次元的化学結合を構築するからである。ここで未組織炭素とは、炭素六角網平面に組み込まれない炭素を指し、その特徴は、隣接する炭素結晶子の成長や選択的な配向を妨害しながら、処理温度の上昇と共に徐々に炭素六角網平面中に取り込まれる炭素原子のことである。このような原料炭組成物が所定の粒度となるように粉砕・分級され、圧縮応力と剪断応力が印加されたとしても、その粒子表面で六角網平面が配向し難くなるため好ましくない。この理由は、結晶子間が強固に結合されているからである。この結合の強さよりも大きな圧縮応力と剪断応力が印加された場合は、粒子表面に適度な大きさの六角網平面が配向した構造を形成するよりも、粒子が粉砕される確率が高くなる。この結果、粒子が割れても、又は割れなくても、粒子表面には結晶子エッヂが露出し易くなるため好ましくない。
以上の通り、原料炭組成物のマイクロ強度は7〜17質量%に限定される。この範囲内の物性を有する原料炭組成物が粉砕・分級され、圧縮応力と剪断応力が付与されると、適度な大きさの六角網平面が粒子表面に配向した状態を、炭素化及び/又は黒鉛化後も維持することが可能となる。その結果、黒鉛化後の粒子表層に結晶子エッヂが極めて少ない(黒鉛化後の粒子表層に結晶の乱れが少ない)黒鉛材料を得ることができる。そして、このような炭素材料をリチウムイオン二次電池の負極に使用したとき、極めて高い信頼性を確保することが可能となる。
このように、H/C原子比が0.30〜0.50、且つマイクロ強度が7〜17質量%である原料炭組成物を所定の粒度となるように粉砕・分級し、圧縮応力と剪断応力を付与すると、適度な大きさの結晶子が粒子表面に六角網平面が位置するように配向し、その後炭素化及び/又は黒鉛化されても、その表面構造が維持することができる。
なお、従来、リチウムイオン電池の負極材料として、脱硫脱瀝油を原料として製造された黒鉛材料を使用した例は無い。本発明は、原料油組成の好ましい態様として脱硫脱瀝油を混合し、所定のH/C原子比及びマイクロ強度を有する原料炭組成物を得た後、所望の黒鉛材料を提供できる。
本発明で用いる原料炭組成物は、重質油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理することで得ることができる。
重質油組成物の成分としては、流動接触分解装置のボトム油(流動接触分解残油、FCC DO)、流動接触分解残油から抽出した芳香族分、重質油に高度な水添脱硫処理を施した水素化脱硫油、減圧残油(VR)、脱硫脱瀝油、石炭液化油、石炭の溶剤抽出油、常圧残浚油、シェルオイル、タールサンドビチューメン、ナフサタールピッチ、エチレンボトム油、コールタールピッチ及びこれらを水素化精製した重質油等が挙げられる。これらの重質油を二種類以上ブレンドして重質油組成物を調製する場合、ディレードコーキングプロセスによってコーキング処理した後に得られる原料炭組成物の物性として、H/C原子比が0.30〜0.50、且つマイクロ強度が7〜17質量%となるように、使用する原料油の性状に応じて配合比率を適宜調整すればよい。なお、原料油の性状は、原油の種類、原油から原料油が得られるまでの処理条件等によって変化する。
流動接触分解装置のボトム油は、原料油として減圧軽油を使用し、触媒を使用して分解反応を選択的に行わせ、高オクタン価のFCCガソリンを得る流動床式の流動接触分解する装置のボトム油である。原料油として使用される減圧軽油は、好ましくは、常圧蒸留残渣油を直接脱硫して得られる脱硫減圧軽油(好ましくは、硫黄分500質量ppm以下、15℃における密度0.8/cm以上)である。
流動接触分解残油から抽出した芳香族分は、ジメチルホルムアミド等を用いて選択抽出し、芳香族分と飽和分に分離させたときの芳香族分である。
重質油に高度な水添脱硫処理を施した水素化脱硫油は、例えば、硫黄分1質量%以上の重質油を水素分圧10MPa以上で水素化脱硫処理して得られる硫黄分1.0質量%以下、窒素分0.5質量%以下、芳香族炭素分率(fa)0.1以上の重質油である。水素化脱硫油は、好ましくは、常圧蒸留残油を触媒存在下、水素化分解率が25%以下となるように水素化脱硫して得られる水素化脱硫油である。
減圧残油(VR)は、原油を常圧蒸留装置にかけて、ガス・軽質油・常圧残油を得た後、この常圧残浚油を、例えば、10〜30Torrの減圧下、加熱炉出口温度320〜360℃の範囲で変化させて得られる減圧蒸留装置のボトム油である。
脱硫脱瀝油は、例えば、減圧蒸留残渣油等の油を、プロパン、ブタン、ペンタン、又はこれらの混合物等を溶剤として使用する溶剤脱瀝装置で処理し、そのアスファルテン分を除去し、得られた脱瀝油(DAO)を、間接脱硫装置(Isomax)等を用いて、好ましくは硫黄分0.05〜0.40質量%の範囲までに脱硫したものである。
常圧残浚油は、原油を常圧蒸留装置にかけて、例えば、常圧下、加熱して、含まれる留分の沸点により、ガス・LPGやガソリン留分、灯油留分、軽質油留分、常圧残浚油に分けられる際に得られる留分の一つで、最も沸点高い留分である。加熱温度は、原油の産地等により変動し、これらの留分に分留できるものであれば限定されないが、例えば原油を320℃に加熱する。
特に好ましい重質油組成物の例としては、(1)芳香族分率(芳香族指数)faが0.3〜0.65であること、(2)ノルマルパラフィン含有率が5〜20質量%であること、(3)脱硫処理された脱瀝油が7〜15質量%の範囲で含有されていること、の3つの条件が満たされた重質油組成物を挙げることができる。
重質油は高温処理されることによって、熱分解及び重縮合反応が起こり、メソフェーズと呼ばれる大きな液晶が中間生成物として生成する過程を経て生コークスが製造される。
このとき、(1)良好なバルクメソフェーズを生成する重質油成分と、(2)このバルクメソフェーズが重縮合して炭化及び固化する際に、メソフェーズを構成する六角網平面積層体の大きさを小さく制限する機能を有したガスを生じ得る重質油成分と、更に(3)その切断された六角網平面積層体どうしを結合させる成分が全て含有された原料油組成物を用いることが特に好ましい。(1)良好なバルクメソフェーズを生成する重質油成分が、芳香族指数faとして0.3〜0.65を与える成分であり、(2)ガスを生じ得る重質油成分が、ノルマルパラフィン含有率の5〜20質量%に相当する成分であり、(3)六角網平面積層体どうしを結合させる成分が7〜15質量%の範囲で含有された脱硫脱瀝油である。
このような重質油組成物が本発明の原料炭組成物の原料として好ましく使用される理由は、良好なバルクメソフェーズを生成する重質油成分により形成された六角網平面が、相対的に小さなサイズに制限されることで、コーキング後に形成される六角網平面積層体の隣接網面間の並行度を高く維持できることに加え、脱硫脱瀝油が、隣接する六角網平面積層体を適度に結合させるからである。
芳香族炭素分率(芳香族指数)(fa)は、Knight法により求めることができる。Knight法では、炭素の分布を13C−NMR法による芳香族炭素のスペクトルとして3つの成分(A,A,A)に分割する。ここで、Aは芳香族環内部炭素数、置換されている芳香族炭素と置換されていない芳香族炭素の半分(13C−NMRの約40〜60ppmのピークに相当)、Aは置換していない残りの半分の芳香族炭素(13C−NMRの約60〜80ppmのピークに相当)Aは脂肪族炭素数(13C−NMRの約130〜190ppmのピークに相当)であり、これらから、faは、下記式により求められる。
13C−NMR法が、ピッチ類の化学構造パラメータの最も基本的な量であるfaを定量的に求められる最良の方法であることは、文献(「ピッチのキャラクタリゼーション II. 化学構造」横野、真田、(炭素、1981(No.105)、p73〜81)に示されている。
また原料油組成物のノルマルパラフィンの含有率は、キャピラリーカラムが装着されたガスクロマトグラフによって測定した値を意味する。具体的には、ノルマルパラフィンの標準物質によって検定した後、上記溶出クロマトグラフィー法によって分離された非芳香族成分の試料をキャピラリーカラムに通して測定する。この測定値から原料油組成物の全質量を基準とした含有率が算出可能である。
重質油組成物の芳香族指数faが0.3未満では、重質油組成物からのコークスの収率が極端に低くなるほか、良好なバルクメソフェーズを形成することが出来ず、炭素化・黒鉛化しても結晶組織が発達し難いため好ましくない。また0.65を超えると、生コークスの製造過程においてマトリックス中に急激にメソフェーズが多数発生し、主としてメソフェーズのシングル成長よりも、メソフェーズどうしの急激な合体が繰り返される。このためノルマルパラフィン含有成分によるガスの発生速度よりも、メソフェーズどうしの合体速度の方が速くなるため、バルクメソフェーズの六角網平面を小さなサイズに制限することが不可能となり好ましくない。
このように重質油組成物の芳香族指数faは0.3〜0.65の範囲が特に好ましい。faは重質油組成物の密度Dと粘度Vから算出可能であるが、密度Dは0.91〜1.02g/cm、粘度Vは10〜220mm/sec.の範囲の重質油組成物で、faが0.3〜0.65となるようなものが特に好ましい。
重質油組成物の中に適度に含まれるノルマルパラフィン成分は、前述の通り、コーキング処理時にガスを発生することで、バルクメソフェーズの大きさを、小さなサイズに制限する重要な役割を演じている。また、このガス発生は、小さなサイズに制限された隣接するメソフェーズどうしを一軸配向させ、系全体を選択的に配向させる機能も有している。ノルマルパラフィン含有成分の含有率が5質量%未満になると、メソフェーズが必要以上に成長し、巨大な炭素六角網平面が形成されてしまうため好ましくない。また20質量%を超えると、ノルマルパラフィンからのガス発生が過多となり、バルクメソフェーズの配向を逆に乱す方向に働く傾向があるため、炭素化・黒鉛化しても結晶組織が発達し難いため好ましくない。以上の通り、ノルマルパラフィン含有率は5〜20質量%の範囲であることが特に好ましい。
脱硫脱瀝油は、前述の通り、隣接する六角網平面積層体を適度に結合させる役割を演じているが、重質油組成物の中の含有率として、7〜15質量%の範囲であることが特に好ましい。7質量%未満の場合、又は15質量%を超える場合には、コーキング後に得られる重質油組成物のマイクロ強度が7質量%未満となる場合、又は17質量%を超える場合があるため好ましくない。
(1)芳香族指数faが0.3〜0.65、(2)ノルマルパラフィン含有率が5〜20質量%、(3)脱硫脱瀝油が7〜15質量%、の3つの条件が満たされた重質油組成物は、例えば、水素化脱硫油、流動接触分解残油、及び脱硫脱瀝油からなる群から選ばれる2種類以上を含む重質油組成物が挙げられる。好ましくは、水素化脱硫油と流動接触分解残油を好ましくは質量比1:3から1:5の範囲で含み、さらに脱硫脱瀝油を7〜15質量%(脱硫脱瀝油を含む組成物全体で100質量%)含む重質油組成物が挙げられる。
なお、生コークスの製造に際して、脱硫脱瀝油を添加した例はなく、脱硫脱瀝油の含有が有効であることは驚きである。
このような特徴を有した重質油組成物は、コークス化され、本発明の原料炭組成物が形成される。所定の条件を満たす重質油組成物をコークス化する方法としては、ディレードコーキング法が好ましい。より具体的には、コーキング圧力が制御された条件の下、ディレードコーカーによって原料油組成物を熱処理して生コークスを得る方法が好ましい。このときディレードコーカーの好ましい運転条件としては、圧力が0.1〜0.8MPa、温度が400〜600℃である。
コーカーの運転圧力に好ましい範囲が設定されている理由は、ノルマルパラフィン含有成分より発生するガスの系外への放出速度を、圧力で制限することができるからである。前述の通り、メソフェーズを構成する炭素六角網平面のサイズは、発生するガスで制御するため、発生ガスの系内への滞留時間は、前記六角網平面の大きさを決定するための重要な制御パラメータとなる。また、コーカーの運転温度に好ましい範囲が設定されている理由は、本発明の効果を得るために調整された重質油から、メソフェーズを成長させるために必要な温度だからである。
このようにして得られた原料炭組成物は、所定の粒度となるように粉砕・分級される。粒度としては、平均粒子径として好ましくは30μm以下、より好ましくは5〜30μmに粉砕される。この理由は、リチウムイオン二次電池の負極炭素材料として、一般的且つ好適に使用されている粒度だからである。平均粒子径は、レーザ回折式粒度分布計による測定に基づく。
このように粉砕・分級された原料炭組成物に、圧縮応力と剪断応力を付与して得られる黒鉛前駆体を加熱(炭素化及び/又は黒鉛化)することにより、本発明の黒鉛材料が得られる。このとき、圧縮応力と剪断応力のほか、衝突、摩擦、ずり応力等も発生する。これらの応力が与える機械的エネルギーは、一般的な攪拌により得られるエネルギーより大きく、それらのエネルギーが、粒子表面に与えられることで、粒子形状の球形化や、粒子の複合化といったメカノケミカル現象と称される効果が発現する。原料炭組成物にメカノケミカル現象を起こさせるための機械的エネルギーを与えるには、剪断、圧縮、衝突等の応力を同時にかけることができる装置を用いればよく、特に装置の構造及び原理に限定されるものではない。たとえば、回転式のボールミルなどのボール型混練機、エッジランナー等のホイール型混練機、ハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所製)、メカノフージョン(ホソカワミクロン社製)、ノビルタ(ホソカワミクロン社製)、COMPOSI(日本コークス工業社製)などがある。
圧縮応力と剪断応力を付与する工程における製造条件は、使用する装置によっても異なるが、例えば、図4のような、回転するブレードの羽根(回転方向R1)31とハウジング32の間隙33で、粉体Pに圧密、圧縮応力が加わる構造の装置30では、ブレードの周速度は、5〜100m/s、両者間の間隙は、2〜20mm、処理時間は、5分〜120分の条件で行うことができる。周速度については、特に20〜80m/sで行うことが好ましい。周速度が20m/s以下では、球形化効果が弱く、80m/sを超えると大型機械へのスケールアップに問題が生じる。また、圧縮応力と剪断応力を付与する装置としてブレードとハウジングが互い違いに回転する装置を用いることもできる。この場合には、ブレードとハウジングの間の周速度差を5〜100m/s、好ましくは20〜80m/sとすればよい。
また、本出願における原料炭組成物を使用する場合、処理時の制御温度として、好ましくは60〜250℃で行うことにより、より球形度の高い形状の黒鉛前駆体が得られる。特に、処理時の制御温度が120〜200℃での運転が望ましい。本出願における原料炭組成物をこの温度範囲で処理することにより、粒子表面で均質な応力が印加され易くなり、適度な大きさの六角網平面が、粒子表面において、印加された応力と鉛直な方向へ選択的に配向する。そして、本出願における原料炭組成物は、この選択的配向が実現できるために、黒鉛化後の粒子表面に結晶子エッヂが露出し難くなり、負極としての信頼性を向上させることが可能となる。
原料炭組成物の粒子に圧縮応力と剪断応力をかける表面処理は、粒子の角を削るが、削られた部分が瞬時に粒子に付着して粒子を丸くする処理であり、見かけ上の粒径はほぼ変化がない程度で行うことがよい。したがって、微粉を発生させ、粒径を小さくする粉砕ではない。原料炭組成物は、揮発分を含んでいるため粘着性を有するが、この粘着性は、削られた部分が瞬時に粒子に付着することを容易にするため好ましく作用する。
原料炭組成物に圧縮応力と剪断応力を付与して得られる黒鉛前駆体を、X線広角回折法によって測定される(112)回折線の結晶子の大きさLc(112)が4nm以上となるように黒鉛化することで本出願に係る発明の黒鉛材料を得ることができる。
黒鉛化処理の方法は、特に限定されないが、通常は、窒素、アルゴン又はヘリウム等の不活性ガス雰囲気下で最高到達温度900〜1500℃、最高到達温度の保持時間0〜10時間で炭化(予備焼成)され、次いで同様な不活性ガス雰囲気下、最高到達温度2500〜3200℃、最高到達温度保持時間0〜100時間の加熱処理する方法を挙げることができる。黒鉛化後はリチウムイオン二次電池の負極として利用することができる。
リチウム二次電池用負極の製造方法としては特に限定されず、例えば、本出願に係る発明が適用された黒鉛材料、バインダー(結着剤)、必要に応じて導電助剤、有機溶媒を含む混合物(負極合剤)を、所定寸法に加圧成形する方法が挙げられる。また他の方法としては、本出願に係る発明が適用された黒鉛材料、バインダー(結着剤)、導電助剤等を有機溶媒中で混練・スラリー化し、当該スラリーを銅箔等の集電体上に塗布・乾燥したもの(負極合剤)を圧延し、所定の寸法に裁断する方法も挙げることが出来る。
バインダー(結着剤)としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、SBR(スチレンーブタジエンラバー)等を挙げることができる。負極合剤の中のバインダーの含有率は、炭素材料100質量部に対して1〜30質量部程度を、電池の設計上、必要に応じて適宜設定すれば良い。
導電助剤としては、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック、又は導電性を示すインジウム−錫酸化物、又は、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン等の導電性高分子を挙げることができる。導電助剤の使用量は、炭素材料100質量部に対して1〜15質量部が好ましい。
有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、イソプロパノール、トルエン等を挙げることができる。
炭素材料、バインダー、必要に応じて導電助剤、有機溶媒を混合する方法としては、スクリュー型ニーダー、リボンミキサー、万能ミキサー、プラネタリーミキサー等の公知の装置を用いることができる。該混合物は、ロール加圧、プレス加圧することにより成形されるが、このときの圧力は100〜300MPa程度が好ましい。
集電体の材質については、リチウムと合金を形成しないものであれば、特に制限なく使用することが出来る。例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等を挙げることが出来る。また集電体の形状についても特に制限なく利用可能であるが、例示するとすれば、箔状、穴開け箔状、メッシュ状等にした帯状のものを挙げることができる。また、多孔性材料、例えばポーラスメタル(発泡メタル)やカーボンペーパーなども使用可能である。
前記スラリーを集電体に塗布する方法としては、特に限定されないが、例えば、メタルマスク印刷法、静電塗装法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、ダイコーター法など公知の方法を挙げることができる。塗布後は、必要に応じて平板プレス、カレンダーロール等による圧延処理を行うのが一般的である。
また、シート状、ペレット状等の形状に成形された負極材スラリーと集電体との一体化は、例えば、ロール、プレス、もしくはこれらの組み合わせ等、公知の方法により行うことができる。
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池負極用黒鉛材料を用いたリチウム二次電池は、例えば、以上のようにして製造した負極と正極とが、セパレータを介して対向するように配置し、電解液を注入することにより得ることができる。
正極に用いる活物質としては、特に制限はなく、例えば、リチウムイオンをドーピング又はインターカレーション可能な金属化合物、金属酸化物、金属硫化物、又は導電性高分子材料を用いればよく、例示するのであれば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、及び複酸化物(LiCoNiMn、X+Y+Z=1)、リチウムバナジウム化合物、V、V13、VO、MnO、TiO、MoV、TiS、V、VS、MoS、MoS、Cr、Cr、オリビン型LiMPO(M:Co、Ni、Mn、Fe)、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセン等の導電性ポリマー、多孔質炭素等及びこれらの混合物を挙げることができる。
セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微多孔性フィルム又はそれらを組み合わせたものを使用することができる。なお、作製するリチウムイオン二次電池の正極と負極が直接接触しない構造にした場合は、セパレータを使用する必要はない。
リチウム二次電池に使用する電解液及び電解質としては公知の有機電解液、無機固体電解質、高分子固体電解質が使用できる。好ましくは、電気伝導性の観点から有機電解液が好ましい。
有機電解液としては、ジブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル等のエーテル、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド等のアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄化合物、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のジアルキルケトン、テトラヒドロフラン、2−メトキシテトラヒドロフラン等の環状エーテル、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状炭酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の鎖状炭酸エステル、N−メチル2−ピロリジノン、アセトニトリル、ニトロメタン等の有機溶媒を挙げることができる。これらの溶媒は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
これらの溶媒の溶質としては、各種リチウム塩を使用することができる。一般的に知られているリチウム塩にはLiClO、LiBF、LiPF、LiAlCl、LiSbF、LiSCN、LiCl、LiCFSO、LiCFCO、LiN(CFSO2、LiN(CSO等がある。
高分子固体電解質としては、ポリエチレンオキサイド誘導体及び該誘導体を含む重合体、ポリプロピレンオキサイド誘導体及び該誘導体を含む重合体、リン酸エステル重合体、ポリカーボネート誘導体及び該誘導体を含む重合体等が挙げられる。
なお、上記以外の電池構成上必要な部材の選択についてはなんら制約を受けるものではない。
リチウムイオン二次電池の構造は、特に限定されないが、帯状に成型された正極と負極とが、セパレータを介して渦巻状に巻回された巻回電極群を、電池ケースに挿入し、封口した構造や、平板状に成型された正極と負極とが、セパレータを介して順次積層された積層式極板群を外装体中に封入した構造とするのが一般的である。リチウム二次電池は、例えば、ペーパー型電池、ボタン型電池、コイン型電池、積層型電池、円筒型電池、角形電池などとして使用される。
以下、本発明に係る第四の形態から第五の形態について、詳細に説明する。
本発明の黒鉛材料を形成するために用いる原料炭組成物は、水素原子Hと炭素原子Cの比率、H/C原子比が0.30〜0.50であり、且つマイクロ強度が7〜17質量%である。このような物性を有した原料炭組成物を粉砕・分級して得られた原料炭組成物の粉末を、炭化・黒鉛化して得られた黒鉛粒子は、内部に適度なボイド体積を有し、適度な結晶子間結合強さを有するものを得ることができる。ここでいうボイドとは、黒鉛粒子中において、隣接する結晶子間に形成される隙間のことであり、これらの隙間は粒子内部に均一に分散されている。このような黒鉛粒子に圧縮剪断応力を付与した場合、粒子表面近傍に存在するボイドにより圧縮剪断応力による力学的エネルギーが吸収され、ボイドを介して結晶子にエネルギーが伝播することにより、隣接する結晶子間の相対的位置が変化し、黒鉛粒子表面の結晶組織に乱れが導入される。
ボイド中には、六角網平面の構成単位となるベンゼン環以外の構造を有した未組織炭素が存在する。ボイドにより吸収された力学的エネルギーは、ボイド中に存在する未組織炭素の炭素-炭素結合を切断することなく、結晶子に伝播される。ボイドが吸収し得る最大のエネルギーよりも大きな圧縮剪断応力が付与された場合には、ボイド中の炭素-炭素結合が切断され、その切断面にダングリングボンドを有したエッジ面が露出するため、好ましくない。即ち、ボイドが吸収し得る範囲の大きさの力学的エネルギーが付与された場合、ボイド中の炭素-炭素結合が切断されることなく、隣接する結晶子間の相対位置の変化を誘発することができる。結果として、粒子表面に結晶組織の乱れが導入され、且つ粒子表面に露出する結晶子エッジが極めて少ない黒鉛材料を得ることができる。
結晶子エッジ部には、多数のダングリングボンド、即ち価電子結合が飽和せず結合の相手無しに存在する局在電子の状態が多く存在する。本発明者らは、充電過程での負極炭素材料の表面、即ち電解質と炭素材料が接触している界面では、リチウムが黒鉛結晶にインターカレーションする本来の充電反応の他に、この局在電子が触媒的に作用し、電解質が還元分解されることに起因した副反応・競争反応が生じることによって、負極の漏れ電流が増大すると推測した。このような黒鉛の粒子表面に露出した結晶子エッヂを極めて少なくすることにより、負極の漏れ電流が抑制され、ひいてはリチウムイオン二次電池の保存特性を向上させることが可能となると考え、鋭意検討した結果、本発明に到達した。
原料炭組成物のH/Cは、全水素分(TH(質量%))を水素の原子量で除した値と、全炭素分(TC(質量%))を炭素の原子量で除した値との比率である。
全水素の測定は、試料を酸素気流中750℃で完全燃焼させ、燃焼ガスより生成した水分量を電量滴定法(カール・フィッシャー法)で求められる。電量滴定式のカール・フィッシャー法では、予め滴定セルにヨウ化物イオン、二酸化硫黄、塩基(RN)及びアルコールを主成分とする電解液を入れておき、滴定セルに試料を入れることで試料中の水分は、下式(4)の通り反応する。なお、試料は、例えばコーキング処理後、乾燥雰囲気下で冷却した後に測定される。
この反応に必要なヨウ素は、下式(5)の通りヨウ化物イオンを電気化学的に反応(2電子反応)させることにより得られる。
水1モルとヨウ素1モルとが反応することから、水1mgを滴定するのに必要な電気量が、下式(6)の通りファラデーの法則により求められる。
ここで、定数96478はファラデー常数、18.0513は水の分子量である。
ヨウ素の発生に要した電気量を測定することで、水分量が求められる。さらに得られた水分量から、水素量に換算し、これを測定に供した試料質量で除することにより、全水素分(TH(質量%))が算出される。
全炭素の測定は、試料を1150℃の酸素気流中で燃焼させ、二酸化炭素(一部一酸化炭素)に変換され過剰の酸素気流に搬送されてCO+CO赤外線検出器により、全炭素分(TC(質量%))が算出される。
原料炭組成物のH/C原子比は、主に原料炭組成物を黒鉛化して得られる黒鉛粒子中のボイド体積の大きさに影響を与える。
原料炭組成物のH/C原子比が0.30未満の場合は、原料炭組成物を構成する六角網平面の広がりが大きいため、このような物性の原料炭組成物を粉砕・分級して得られた原料炭組成物の粉末を、炭化・黒鉛化して得られた黒鉛粒子では、ボイド体積が小さい。ボイド体積が小さすぎるために、圧縮剪断応力による力学的エネルギーを粒子表面近傍に存在するボイドが十分に吸収できないため、黒鉛粒子に付与されたエネルギーは結晶子を構成する六角網平面に直接作用する。そのため、黒鉛粒子表面の六角網面の炭素―炭素結合が切断されるため、粒子表面に露出するダングリングボンドも増大すると考えられる。結果として、かかる黒鉛粒子に圧縮剪断応力を付与して作製した黒鉛材料をリチウムイオン二次電池の負極材料に用いた場合、負極において電解液が分解されやすくなり、負極の漏れ電流が増大し、正極の漏れ電流との差が増大するため保存特性が低下しやすくなる。
逆に原料炭組成物中のH/C原子比が0.50を超えると、原料炭組成物の炭素原子の量が少なく、六角網平面が小さいため、このような物性の原料炭組成物を粉砕・分級して得られた原料炭組成物の粉末を、炭化・黒鉛化して得られた黒鉛粒子では、ボイド体積が大きい。ボイド体積が大きすぎるために、ボイドに圧縮剪断応力による力学的エネルギーが集中しやすく、ボイドに存在する結晶子間の結合が切断されるため、その切断面にダングリングボンドを有するエッジ面が露出すると考えられる。結果として、かかる黒鉛粒子に圧縮剪断応力を付与して作製した黒鉛材料をリチウムイオン二次電池の負極材料に用いた場合、電解液が分解されやすくなり、負極の漏れ電流が増大し、正極の漏れ電流との差が増大するために保存特性が低下しやすくなる。
以上の通り、原料炭組成物のH/Cは0.30〜0.50に限定される。この範囲内の物性を有する原料炭組成物を所定の粒度となるように粉砕・分級し原料炭組成物の粉体を得、その後炭化・黒鉛化して得られた黒鉛粒子に圧縮剪断応力を付与した場合、粒子表面の結晶組織に適度な乱れが導入され、且つエッジ面の露出が極めて少ない黒鉛材料を得ることができる。
マイクロ強度は、鋼製シリンダー(内径25.4mm、長さ304.8mm)に20〜30メッシュの試料2gと直径5/16inch(7.9mm)の鋼球12個を入れ、鉛直面を管と直角方向に25rpmで800回転させたのち(すなわち、シリンダーを立てた状態から上下が入れ替わるように、回転軸を水平にして、あたかもプロペラが回転するように回転させる)、48メッシュでふるい分け、試料に対するふるい上の質量をパーセントで示した値である。
原料炭組成物のマイクロ強度は、7〜17質量%である。このマイクロ強度は、隣接する結晶子間結合の強さを示す指標である。ここで、結晶子間結合の機能を担うのは、黒鉛粒子中のボイドに存在する未組織炭素である。これらの未組織炭素は、原料炭組成物が炭化・黒鉛化された後も残存し、同様な役割を演じている。
原料炭組成物のマイクロ強度が7質量%未満である場合には、隣接する結晶子間の結合強さが極めて弱い黒鉛粒子が得られる。このような黒鉛粒子のボイドに存在する未組織炭素の結合は、非常に脆弱なものであるため、黒鉛粒子に圧縮剪断応力を付与すると、ボイドに存在する結晶子間結合が極めて容易に切断される。その切断面にダングリングボンドを有するエッジ面が露出すると考えられる。結果として、かかる黒鉛粒子に圧縮剪断応力を付与して作製した黒鉛材料をリチウムイオン二次電池の負極材料に用いた場合、電解液が分解されやすくなり、負極の漏れ電流が増大し、正極の漏れ電流との差が増大するために保存特性が低下しやすくなる。
原料炭組成物のマイクロ強度が17質量%を超える場合には、隣接する結晶子間の結合強さが極めて強い黒鉛粒子が得られる。このような状態の黒鉛粒子に圧縮剪断応力を付与すると、ボイドに存在する結晶子間結合が過度に強固であるため、ボイドは付与された力学的エネルギーを吸収し隣接する結晶子にエネルギーを伝播する機能を発現できない。そのため、隣接する結晶子の相対位置の変化が許容されない状態となり、付与された力学的エネルギーはボイドに存在する未組織炭素に集中する。その結果、未組織炭素の炭素―炭素結合が切断される。その切断面にダングリングボンドを有するエッジ面が露出すると考えられる。結果として、かかる黒鉛粒子に圧縮剪断応力を付与して作製した黒鉛材料をリチウムイオン二次電池の負極材料に用いた場合、電解液が分解されやすくなり、負極の漏れ電流が増大し、正極の漏れ電流との差が増大するために保存特性が低下しやすくなる。
以上の通り、原料炭組成物のマイクロ強度は7〜17質量%に限定される。この範囲内の物性を有する原料炭組成物が粉砕・分級され、炭化・黒鉛化プロセスを経た黒鉛粒子に圧縮剪断応力が付与されると、粒子表面の隣接する結晶子間の相対位置の変化による結晶組織の乱れが導入され、且つ粒子表面に露出するエッジ面が極めて少ない黒鉛材料を得ることができる。
本発明で用いる原料炭組成物は、重質油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理することで得ることができる。
重質油組成物の成分としては、流動接触分解装置のボトム油(流動接触分解残油、FCC DO)、流動接触分解残油から抽出した芳香族分、重質油に高度な水添脱硫処理を施した水素化脱硫油、減圧残油(VR)、脱硫脱瀝油、石炭液化油、石炭の溶剤抽出油、常圧残浚油、シェルオイル、タールサンドビチューメン、ナフサタールピッチ、エチレンボトム油、コールタールピッチ及びこれらを水素化精製した重質油等が挙げられる。これらの重質油を二種類以上ブレンドして重質油組成物を調製する場合、ディレードコーキングプロセスによってコーキング処理した後に得られる原料炭組成物の物性として、H/C原子比が0.30〜0.50、且つマイクロ強度が7〜17質量%となるように、使用する原料油の性状に応じて配合比率を適宜調整すればよい。なお、原料油の性状は、原油の種類、原油から原料油が得られるまでの処理条件等によって変化する。
流動接触分解装置のボトム油は、原料油として減圧軽油を使用し、触媒を使用して分解反応を選択的に行わせ、高オクタン価のFCCガソリンを得る流動床式の流動接触分解する装置のボトム油である。原料油として使用される減圧軽油は、好ましくは、常圧蒸留残渣油を直接脱硫して得られる脱硫減圧軽油(好ましくは、硫黄分500質量ppm以下、15℃における密度0.8/cm以上)である。
流動接触分解残油から抽出した芳香族分は、ジメチルホルムアミド等を用いて選択抽出し、芳香族分と飽和分に分離させたときの芳香族分である。
重質油に高度な水添脱硫処理を施した水素化脱硫油は、例えば、硫黄分1質量%以上の重質油を水素分圧10MPa以上で水素化脱硫処理して得られる硫黄分1.0質量%以下、窒素分0.5質量%以下、芳香族炭素分率(fa)0.1以上の重質油である。水素化脱硫油は、好ましくは、常圧蒸留残油を触媒存在下、水素化分解率が25%以下となるように水素化脱硫して得られる水素化脱硫油である。
減圧残油(VR)は、原油を常圧蒸留装置にかけて、ガス・軽質油・常圧残油を得た後、この常圧残浚油を、例えば、10〜30Torrの減圧下、加熱炉出口温度320〜360℃の範囲で変化させて得られる減圧蒸留装置のボトム油である。
脱硫脱瀝油は、例えば、減圧蒸留残渣油等の油を、プロパン、ブタン、ペンタン、又はこれらの混合物等を溶剤として使用する溶剤脱瀝装置で処理し、そのアスファルテン分を除去し、得られた脱瀝油(DAO)を、間接脱硫装置(Isomax)等を用いて、好ましくは硫黄分0.05〜0.40質量%の範囲までに脱硫したものである。
常圧残浚油は、原油を常圧蒸留装置にかけて、例えば、常圧下、加熱して、含まれる留分の沸点により、ガス・LPGやガソリン留分、灯油留分、軽質油留分、常圧残浚油に分けられる際に得られる留分の一つで、最も沸点高い留分である。加熱温度は、原油の産地等により変動し、これらの留分に分留できるものであれば限定されないが、例えば原油を320℃に加熱する。
特に好ましい重質油組成物の例としては、(1)芳香族分率(芳香族指数)faが0.3〜0.65であること、(2)ノルマルパラフィン含有率が5〜20質量%であること、(3)脱硫処理された脱瀝油が7〜15質量%の範囲で含有されていること、の3つの条件が満たされた重質油組成物を挙げることができる。好ましくは、水素化脱硫油と流動接触分解残油を好ましくは質量比1:3から1:5の範囲で含み、さらに脱硫脱瀝油を7〜15質量%(脱硫脱瀝油を含む組成物全体で100質量%)含む重質油組成物が挙げられる。
重質油は高温処理されることによって、熱分解及び重縮合反応が起こり、メソフェーズと呼ばれる大きな液晶が中間生成物として生成する過程を経て生コークスが製造される。
このとき、(1)良好なバルクメソフェーズを生成する重質油成分と、(2)このバルクメソフェーズが重縮合して炭化及び固化する際に、メソフェーズを構成する六角網平面積層体の大きさを小さく制限する機能を有したガスを生じ得る重質油成分と、更に(3)その切断された六角網平面積層体どうしを結合させる成分が全て含有された重質油組成物を用いることが特に好ましい。(1)良好なバルクメソフェーズを生成する重質油成分が、芳香族指数faとして0.3〜0.65を与える成分であり、(2)ガスを生じ得る重質油成分が、ノルマルパラフィン含有率の5〜20質量%に相当する成分であり、(3)六角網平面積層体どうしを結合させる成分が7〜15質量%の範囲で含有された脱硫脱瀝油である。
このような重質油組成物が原料炭組成物の原料として好ましく使用される理由は、良好なバルクメソフェーズを生成する重質油成分により形成された六角網平面が、相対的に小さなサイズに制限されることで、コーキング後に形成される六角網平面積層体の隣接網面間の並行度を高く維持できることに加え、脱硫脱瀝油が、隣接する六角網平面積層体を適度に結合させるからである。
なお、生コークスの製造に際して、脱硫脱瀝油を添加した例はなく、脱硫脱瀝油の含有が有効であることは驚きである。
芳香族炭素分率(芳香族指数)(fa)は、Knight法により求めることができる。Knight法では、炭素の分布を13C−NMR法による芳香族炭素のスペクトルとして3つの成分(A,A,A)に分割する。ここで、Aは芳香族環内部炭素数、置換されている芳香族炭素と置換されていない芳香族炭素の半分(13C−NMRの約40〜60ppmのピークに相当)、Aは置換していない残りの半分の芳香族炭素(13C−NMRの約60〜80ppmのピークに相当)Aは脂肪族炭素数(13C−NMRの約130〜190ppmのピークに相当)であり、これらから、faは、下記式により求められる。
13C−NMR法が、ピッチ類の化学構造パラメータの最も基本的な量であるfaを定量的に求められる最良の方法であることは、文献(「ピッチのキャラクタリゼーション II. 化学構造」横野、真田、(炭素、1981(No.105)、p73〜81)に示されている。
また重質油組成物のノルマルパラフィンの含有率は、キャピラリーカラムが装着されたガスクロマトグラフによって測定した値を意味する。具体的には、ノルマルパラフィンの標準物質によって検定した後、上記溶出クロマトグラフィー法によって分離された非芳香族成分の試料をキャピラリーカラムに通して測定する。この測定値から重質油組成物の全質量を基準とした含有率が算出可能である。
重質油組成物の芳香族指数faが0.3未満では、重質油組成物からのコークスの収率が極端に低くなるほか、良好なバルクメソフェーズを形成することが出来ず、炭化・黒鉛化しても結晶組織が発達し難いため好ましくない。また0.65を超えると、生コークスの製造過程においてマトリックス中に急激にメソフェーズが多数発生し、主としてメソフェーズのシングル成長よりも、メソフェーズどうしの急激な合体が繰り返される。このためノルマルパラフィン含有成分によるガスの発生速度よりも、メソフェーズどうしの合体速度の方が速くなるため、バルクメソフェーズの六角網平面を小さなサイズに制限することが不可能となり好ましくない。
このように重質油組成物の芳香族指数faは0.3〜0.65の範囲が特に好ましい。faは重質油組成物の密度Dと粘度Vから算出可能であるが、密度Dは0.91〜1.02g/cm、粘度Vは10〜220mm/sec.の範囲の重質油組成物で、faが0.3〜0.65となるようなものが特に好ましい。
重質油組成物の中に適度に含まれるノルマルパラフィン成分は、前述の通り、コーキング処理時にガスを発生することで、バルクメソフェーズの大きさを、小さなサイズに制限する重要な役割を演じている。また、このガス発生は、小さなサイズに制限された隣接するメソフェーズどうしを一軸配向させ、系全体を選択的に配向させる機能も有している。ノルマルパラフィン含有成分の含有率が5質量%未満になると、メソフェーズが必要以上に成長し、巨大な炭素六角網平面が形成されてしまうため好ましくない。また20質量%を超えると、ノルマルパラフィンからのガス発生が過多となり、バルクメソフェーズの配向を逆に乱す方向に働く傾向があるため、炭化・黒鉛化しても結晶組織が発達し難いため好ましくない。以上の通り、ノルマルパラフィン含有率は5〜20質量%の範囲であることが特に好ましい。
脱硫脱瀝油は、前述の通り、隣接する六角網平面積層体を適度に結合させる役割を演じているが、重質油組成物の中の含有率として、7〜15質量%の範囲であることが特に好ましい。7質量%未満の場合、又は15質量%を超える場合には、コーキング後に得られる重質油組成物のマイクロ強度が7質量%未満となる場合、又は17質量%を超える場合があるため好ましくない。
このような特徴を有した重質油組成物は、コークス化され、本発明の原料炭組成物が形成される。所定の条件を満たす重質油組成物をコークス化する方法としては、ディレードコーキング法が好ましい。より具体的には、コーキング圧力が制御された条件の下、ディレードコーカーによって重質油組成物を熱処理して生コークスを得る方法が好ましい。このときディレードコーカーの好ましい運転条件としては、圧力が0.1〜0.8MPa、温度が400〜600℃である。
コーカーの運転圧力に好ましい範囲が設定されている理由は、ノルマルパラフィン含有成分より発生するガスの系外への放出速度を、圧力で制限することができるからである。前述の通り、メソフェーズを構成する炭素六角網平面のサイズは、発生するガスで制御するため、発生ガスの系内への滞留時間は、前記六角網平面の大きさを決定するための重要な制御パラメータとなる。また、コーカーの運転温度に好ましい範囲が設定されている理由は、本発明の効果を得るために調整された重質油から、メソフェーズを成長させるために必要な温度だからである。
このようにして得られた原料炭組成物は、所定の粒度となるように粉砕・分級される。得られた原料炭組成物の粉体の平均粒径は、好ましくは30μm以下である。平均粒径は、レーザ回折式粒度分布計による測定に基づく。原料炭組成物の粉体の平均粒径が30μm以下である理由は、リチウムイオン二次電池の負極炭素材料として、一般的且つ好適に使用されている粒度だからである。さらに、好ましい平均粒径は5〜30μmである。この理由は、原料炭組成物の粉体の平均粒径が5μmより小さいと、炭化・黒鉛化処理後に得られた黒鉛粒子に圧縮剪断応力を付与した場合に、粒子に十分に力学的エネルギーを付与できないからである。
このように粉砕・分級された原料炭組成物の粉体を、X線広角回折法によって測定される(112)回折線の結晶子の大きさLc(112)が4nm以上となるように炭化及び黒鉛化する。
炭化および黒鉛化処理の方法は、特に限定されないが、通常は、窒素、アルゴン又はヘリウム等の不活性ガス雰囲気下で最高到達温度900〜1500℃、最高到達温度の保持時間0〜10時間で炭化(予備焼成)され、次いで同様な不活性ガス雰囲気下、最高到達温度2500〜3200℃、最高到達温度保持時間0〜100時間の加熱処理する方法を挙げることができる。
炭化の後、一旦冷却して再度黒鉛化のために上記熱処理を施してもよい。
本発明において、圧縮剪断応力が付与される黒鉛粒子の物性として、X線広角回折法によって測定される(112)回折線の結晶子の大きさLc(112)が4nm以上とした理由は、このように高度に結晶が発達した黒鉛粒子を用いて作製した黒鉛材料でも高度に発達した結晶性が維持され、可逆容量として340mAh/g以上の確保が可能だからであるが、この理由は、この種の電池に使用される負極材料として、高度に結晶が発達した材料が好ましく用いられている理由と全く同じである。結晶が高度に発達するほど高容量が得られる点は公知の事実で、例えば前述の特許文献1の段落[0005]にも記載されている事項である。黒鉛粒子のX線広角回折法によって測定される(112)回折線の結晶子の大きさLc(112)が4nm未満の場合は、結晶発達が不十分であるために、この黒鉛粒子を用いて作製した黒鉛材料においても結晶発達が不十分となり、小さな可逆容量しか得られないため好ましくない。
次いで炭化及び黒鉛化処理により得られた黒鉛粒子について圧縮剪断応力を付与することで、本発明の黒鉛材料が得られる。このとき、圧縮剪断応力のほか、衝突、摩擦、ずり応力等も発生する。これらの応力が与える力学的エネルギーは、一般的な攪拌により得られるエネルギーより大きく、それらのエネルギーが、粒子表面に与えられることで、粒子形状の球形化や、粒子の複合化といったメカノケミカル現象と称される効果が発現する。黒鉛粒子にメカノケミカル現象を起こさせるための機械的エネルギーを与えるには、剪断、圧縮、衝突等の応力を同時にかけることができる装置を用いればよく、特に装置の構造及び原理に限定されるものではない。たとえば、回転式のボールミルなどのボール型混練機、エッジランナー等のホイール型混練機、ハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所製)、メカノフージョン(ホソカワミクロン社製)、ノビルタ(ホソカワミクロン社製)、COMPOSI(日本コークス工業社製)などがある。
圧縮剪断応力を付与する工程における製造条件は、使用する装置によっても異なるが、例えば、図4のように、ブレードの羽根31とハウジング32とを相対的に回転、好ましくは互いに逆方向(回転方向R1、R2)に回転させ、それらの間隙33で、粉体Pに圧密、圧縮応力を加える構造のメカノフュージョン装置30を用いることができる。
ノビルタ(ホソカワミクロン社製)を用いる場合には、ブレードの回転数が600〜4000rpm、処理時間を5〜90分とするのが好ましい。回転数が600rpmより小さいとき、もしくは処理時間が5分未満では黒鉛粒子に十分な圧縮剪断応力を付与することができない。一方、90分より長い処理を行うと、黒鉛粒子に過多な圧縮剪断応力が付与され、粒子形状が著しく変形するため好ましくない。
COMPOSI(日本コークス工業社製)を用いる場合には、周速度25〜60m/sで処理時間を5〜90分とするのが好ましい。周速度が25m/sより小さいとき、もしくは処理時間が5分未満では黒鉛粒子に十分な圧縮剪断応力を付与することができない。一方、90分より長い処理を行うと、黒鉛粒子に過多な圧縮剪断応力が付与され、粒子形状が著しく変形するため好ましくない。
メカノフュージョン(ホソカワミクロン社製)を用いる場合には、ブレードの回転数が500〜3000rpm、処理時間を10〜300分とするのが好ましい。回転数が500rpmより小さいとき、もしくは処理時間が10分未満では黒鉛粒子に十分な圧縮剪断応力を付与することができない。一方、300分より長い処理を行うと、黒鉛粒子に過多な圧縮剪断応力が付与され、粒子形状が著しく変形するため好ましくない。
ハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所製)を用いる場合には、好ましくは、周速度20〜60m/sで処理時間を5〜90分とするのが好ましい。
黒鉛粒子に圧縮剪断応力を付与する処理は、粒子の角を削るが、削られた部分が瞬時に粒子に付着して粒子を丸くする処理であり、見かけ上の粒径はほぼ変化がない程度で行うことがよい。したがって、微粉を発生させ、粒径を小さくする粉砕ではない。また、本出願における原料炭組成物を使用する場合、圧縮剪断応力を付与する処理時の温度を、好ましくは60〜250℃に制御することにより、より球形度の高い形状の黒鉛材料が得られる。特に、処理時の制御温度が120〜200℃になるように運転することが望ましい。
上記黒鉛粒子に圧縮剪断応力を付与した後、さらに加熱処理を施す工程を含めてもよい。加熱処理温度としては、炭素材料を熱処理するときに一般的に用いられる温度領域、例えば、700℃〜3000℃を採用することができる。かかる追加の熱処理を行うことにより、表面に露出したダングリングボンドをより低減することができる。
以上の通り、H/Cが0.30〜0.50、且つマイクロ強度が7〜17質量%である原料炭組成物を粉砕・分級することにより原料炭組成物の粉末を得た後、炭化・黒鉛化プロセスを経た黒鉛粒子に圧縮剪断応力が付与されると、粒子表面の隣接する結晶子間の相対位置の変化による結晶組織の乱れが導入され、且つ粒子表面に露出するエッジ面が極めて少ない黒鉛材料を得ることができる。そして、このような黒鉛材料をリチウムイオン二次電池の負極材料に使用したとき、極めて高い信頼性を確保することが可能となる。
なお、従来、リチウムイオン電池の負極材料として、脱硫脱瀝油を原料として製造された黒鉛材料を使用した例は無い。本発明は、重質油組成の好ましい態様として脱硫脱瀝油を混合し、所定のH/C原子比及びマイクロ強度を有する原料炭組成物を粉砕・分級し、炭化・黒鉛化して得られる黒鉛粒子に圧縮剪断応力が付与されることにより、所望の黒鉛材料を提供できる。
リチウムイオン二次電池用負極の製造方法としては特に限定されず、例えば、本出願に係る発明が適用された黒鉛材料、バインダー(結着剤)、必要に応じて導電助剤、有機溶媒を含む混合物(負極合剤)を、所定寸法に加圧成形する方法が挙げられる。また他の方法としては、本出願に係る発明が適用された黒鉛材料、バインダー(結着剤)、導電助剤等を有機溶媒中で混練・スラリー化し、当該スラリーを銅箔等の集電体上に塗布・乾燥したもの(負極合剤)を圧延し、所定の寸法に裁断する方法も挙げることが出来る。
バインダー(結着剤)としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンテレート、SBR(スチレンーブタジエンラバー)等を挙げることができる。負極合剤の中のバインダーの含有率は、黒鉛材料100質量部に対して1〜30質量部程度を、電池の設計上、必要に応じて適宜設定すれば良い。
導電助剤としては、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック、又は導電性を示すインジウム−錫酸化物、又は、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン等の導電性高分子を挙げることができる。導電助剤の使用量は、黒鉛材料100質量部に対して1〜15質量部が好ましい。
有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ピロリドン、N−メチルチオピロリドン、ヘキサメチルホスホアミド、ジメチルアセトアミド、イソプロパノール、トルエン等を挙げることができる。
黒鉛材料、バインダー、必要に応じて導電助剤、有機溶媒を混合する方法としては、スクリュー型ニーダー、リボンミキサー、万能ミキサー、プラネタリーミキサー等の公知の装置を用いることができる。該混合物は、ロール加圧、プレス加圧することにより成形されるが、このときの圧力は100〜300MPa程度が好ましい。
集電体の材質については、リチウムと合金を形成しないものであれば、特に制限なく使用することが出来る。例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等を挙げることが出来る。また集電体の形状についても特に制限なく利用可能であるが、例示するとすれば、箔状、穴開け箔状、メッシュ状等にした帯状のものを挙げることができる。また、多孔性材料、例えばポーラスメタル(発泡メタル)やカーボンペーパーなども使用可能である。
前記スラリーを集電体に塗布する方法としては、特に限定されないが、例えば、メタルマスク印刷法、静電塗装法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、ダイコーター法など公知の方法を挙げることができる。塗布後は、必要に応じて平板プレス、カレンダーロール等による圧延処理を行うのが一般的である。
また、シート状、ペレット状等の形状に成形された負極材スラリーと集電体との一体化は、例えば、ロール、プレス、もしくはこれらの組み合わせ等、公知の方法により行うことができる。
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池負極用黒鉛材料を用いたリチウムイオン二次電池は、例えば、以上のようにして製造した負極と正極とが、セパレータを介して対向するように配置し、電解液を注入することにより得ることができる。
正極に用いる活物質としては、特に制限はなく、例えば、リチウムイオンをドーピング又はインターカレーション可能な金属化合物、金属酸化物、金属硫化物、又は導電性高分子材料を用いればよく、例示するのであれば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、リチウム複合複酸化物(LiCoNi、X+Y+Z=1、MはMn、Al等を示す)、及びこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの、リチウムバナジウム化合物、V、V13、VO、MnO、TiO、MoV、TiS、V、VS、MoS、MoS、Cr、Cr、オリビン型LiMPO(M:Co、Ni、Mn、Fe)、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセン等の導電性ポリマー、多孔質炭素等及びこれらの混合物を挙げることができる。
セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微多孔性フィルム又はそれらを組み合わせたものを使用することができる。なお、作製するリチウムイオン二次電池の正極と負極が直接接触しない構造にした場合は、セパレータを使用する必要はない。
リチウムイオン二次電池に使用する電解液及び電解質としては公知の有機電解液、無機固体電解質、高分子固体電解質が使用できる。好ましくは、電気伝導性の観点から有機電解液が好ましい。
有機電解液としては、ジブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル等のエーテル、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド等のアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄化合物、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のジアルキルケトン、テトラヒドロフラン、2−メトキシテトラヒドロフラン等の環状エーテル、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状炭酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の鎖状炭酸エステル、N−メチル2−ピロリジノン、アセトニトリル、ニトロメタン等の有機溶媒を挙げることができる。これらの溶媒は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
これらの溶媒の溶質としては、各種リチウム塩を使用することができる。一般的に知られているリチウム塩にはLiClO、LiBF、LiPF、LiAlCl、LiSbF、LiSCN、LiCl、LiCFSO、LiCFCO、LiN(CFSO2、LiN(CSO等がある。
高分子固体電解質としては、ポリエチレンオキサイド誘導体及び該誘導体を含む重合体、ポリプロピレンオキサイド誘導体及び該誘導体を含む重合体、リン酸エステル重合体、ポリカーボネート誘導体及び該誘導体を含む重合体等が挙げられる。
なお、上記以外の電池構成上必要な部材の選択についてはなんら制約を受けるものではない。
リチウムイオン二次電池の構造は、特に限定されないが、帯状に成型された正極と負極とが、セパレータを介して渦巻状に巻回された巻回電極群を、電池ケースに挿入し、封口した構造や、平板状に成型された正極と負極とが、セパレータを介して順次積層された積層式極板群を外装体中に封入した構造とするのが一般的である。リチウムイオン二次電池は、例えば、ペーパー型電池、ボタン型電池、コイン型電池、積層型電池、円筒型電池、角形電池などとして使用される。
以下、本発明に係る第六の形態から第七の形態について、詳細に説明する。
本発明者らは、水素原子Hと炭素原子Cとの原子比であるH/Cが0.30〜0.50であり、且つマイクロ強度が7質量%〜17質量%である原料炭組成物の粒子表面にカルサインコークスが埋め込まれた複合粉体を炭化及び黒鉛化する工程と、高度に発達した結晶構造に結晶化度の低い領域が部分的に導入された構造を有し、且つ粒子表面に露出するエッジ部が少ない黒鉛材料が得られることの関係を、次のように考えている。
まず、本発明で用いるカルサインコークスは、石油コークス、石炭ピッチコークスなどを工業炉(ロータリーキルン、シャフトキルン、ロータリーハースなどのカルサイナー)で熱処理(1300℃〜1400℃)して水分や揮発分を除去し、結晶構造を発達させたものを言う(カーボン用語辞典:アグネ承風社発行)。このようにして得られたカルサインコークスを平均粒径0.1μm〜3.0μmになるように粉砕及び分級することによりカルサインコークスを得る。
たとえば、重質油組成物の成分として、流動接触分解装置のボトム油(流動接触分解残油、FCC DO)、流動接触分解残油から抽出した芳香族分、重質油に高度な水添脱硫処理を施した水素化脱硫油、減圧残油(VR)、脱硫脱瀝油、石炭液化油、石炭の溶剤抽出油、常圧残浚油、シェルオイル、タールサンドビチューメン、ナフサタールピッチ、エチレンボトム油、コールタールピッチ及びこれらを水素化精製した重質油等を、単独もしくは二種類以上をブレンドして得られた重質油組成物を熱処理した後、ハンマーミルなどで粗粉砕し、その後、1300℃〜1400℃で炭化することによりカルサインコークスを得ることができる。得られたカルサインコークスを機械式粉砕機(例えば、スーパーローターミル/日清エンジニアリング製)等で粉砕し、精密空気分級機(例えば、ターボクラシファイヤー/日清エンジニアリング製)等で分級することにより、カルサインコークスが得られる。
カルサインコークスを粉砕及び分級する際には、カルサインコークスの粒子表面には強い力学的エネルギーが付与される。そのため、粒子表面に存在する六角網平面中の炭素−炭素結合が切断され、表面には六角網平面に属さない未組織炭素が多数露出した状態となる。ここで言う未組織炭素とは、六角網平面積層体と化学的に連結した、主に六角網平面の構成単位となるベンゼン環以外の構造を有したものであり、隣接する他の未組織炭素と炭素−炭素結合を形成することができるという特徴を有する。
このような特徴を有するカルサインコークスが原料炭組成物の粒子表面に埋め込まれた複合粉体を、炭化及び黒鉛化した場合、カルサインコークスの粒子表面に露出する未組織炭素と原料炭組成物中の未組織炭素との界面に強固な炭素−炭素結合が形成される。炭素−炭素結合が形成されない場合、カルサインコークスと原料炭組成物との界面に亀裂が生じるため、その亀裂した部分には結晶子のエッジ部が露出する。このような黒鉛材料を負極として使用したリチウムイオン二次電池では、黒鉛材料中の亀裂部に露出した結晶子のエッジ部において電解液が分解されやすくなり、負極の漏れ電流と正極の漏れ電流との差が増大するため、正・負極の容量の作動領域が変化し、寿命特性が低下するため好ましくない。
炭素−炭素結合によりカルサインコークスと原料炭組成物が化学的に連結される場合、カルサインコークス中の六角網平面と原料炭組成物中の六角網平面とは、完全に同一平面上で連結されるわけではない。その理由は、カルサインコークスが原料炭組成物の粉体に埋め込まれた複合粉体において、カルサインコークス中の六角網平面と原料炭組成物中の六角網平面が非平行な状態で複合化されているためである。このような複合粉体を炭化及び黒鉛化した場合、両者の六角網平面の非平行な状態が維持されながら、両者の界面に炭素−炭素結合が形成される。従って、黒鉛化後の黒鉛材料においても、隣接する六角網平面が非平行な状態で連結された結晶構造が残存すると言える。
非平行な関係にある2つの六角網平面が連結された場合、これらは必然的に六角網平面の平行度が低い、すなわち結晶化度の低い領域を介して連結される。これら非平行な関係にある2つの六角網平面の界面領域は、他の結晶構造が高度に発達した領域に比べて、結晶化度の低い領域であると言える。つまり、カルサインコークスが原料炭組成物の粒子表面に埋め込まれた複合粉体を炭化及び黒鉛化することにより得られた黒鉛材料は、結晶構造が高度に発達した黒鉛材料中に、結晶化度の低い領域が導入された結晶構造を有する。導入された結晶化度の低い領域は、黒鉛層間への電解液の共挿入を立体的に阻害する効果を有する。
さらに、得られた黒鉛材料中において、カルサインコークスと黒鉛中の六角網平面積層体とが炭素−炭素結合により化学的に連結された状態であるために、両者の界面に亀裂は生じない。そのため、黒鉛材料の粒子表面に露出するエッジ部が少なく、局在電子を触媒とした電解液の分解反応を抑制することができる。
このようにして、原料炭組成物の粒子表面にカルサインコークスが埋め込まれた状態の複合粉体を、炭化及び黒鉛化する工程により、高度に発達した結晶構造中に結晶化度の低い領域が部分的に導入された構造を有し、且つ粒子表面に露出するエッジ部が少ない黒鉛材料を得ることができる。
ここでいう、原料炭組成物の粒子表面にカルサインコークスが埋め込まれた状態とは、1,000倍〜5,000倍のSEM像を観察したときに、カルサインコークスが原料炭組成物の粒子表面から実質上突出することなく埋め込まれ複合化された状態をいう。
本発明において、複合粉体を原料炭組成物の粒子表面にカルサインコークスが埋め込まれた状態とする二つの理由について以下に説明する。
一つ目の理由は、原料炭組成物の粒子表面にカルサインコークスが埋め込まれた複合粉体を炭化及び黒鉛化することにより、黒鉛化後の粒子の比表面積増大を抑制するためである。
原料炭組成物の粒子表面にカルサインコークスが埋め込まれた複合粉体の場合、原料炭組成物の粒子表面から突出しているカルサインコークスが少ないため、このような複合粉体を炭化及び黒鉛化して得られた黒鉛材料の表面の凹凸は極めて小さく、比表面積の小さい状態となる。このようにして得られた黒鉛材料を負極として用いたリチウムイオン二次電池では、電解液と黒鉛材料の粒子表面との接触面積が小さいために、負極における電解液の分解が起こりにくい。この場合、正・負極の容量の作動領域が変化しにくいため、寿命特性に優れる。
一方、カルサインコークスが原料炭組成物の粒子表面に埋め込まれておらず表面に付着しただけの複合粉体を炭化及び黒鉛化した場合、黒鉛材料の粒子表面にカルサインコークスが突出しているため、表面に凹凸を有する比表面積の大きな黒鉛材料が得られる。これらの黒鉛材料を負極として用いたリチウムイオン二次電池では、電解液と黒鉛材料の粒子表面との接触面積が大きいために、負極における電解液の分解が起こりやすくなる。この場合、負極の漏れ電流と正極の漏れ電流との差が増大するため、正・負極の容量の作動領域が変化し、寿命特性が低下するため好ましくない。
本発明において、複合粉体を原料炭組成物の粒子表面にカルサインコークスが埋め込まれている状態とする二つ目の理由は、高度に発達した結晶構造と結晶化度の低い領域との界面で化学結合が形成されることにより、両者の界面に亀裂が生じるのを防ぐためである。
圧縮剪断応力により、カルサインコークスが原料炭組成物の粒子表面に埋め込まれる過程において、カルサインコークスは、原料炭組成物を構成する六角網平面積層体と隣接する六角網平面積層体との隙間(ボイド領域)に埋め込まれやすい。これは、カルサインコークスが原料炭組成物中の六角網平面積層体を破壊して、粒子内部に埋め込まれるのに必要なエネルギーよりも、隣接する六角網平面積層体間のボイド領域に埋め込まれるのに必要なエネルギーの方が小さいからである。このボイド領域には、主に六角網平面の構成単位となるベンゼン環以外の構造を有した未組織炭素が存在する。これらの未組織炭素は、原料炭組成物の粉体中の六角網平面積層体と化学的に連結しており、隣接する他の未組織炭素と炭素−炭素結合を形成することができる。
このようなボイド領域にカルサインコークスが埋め込まれた場合、カルサインコークスの粒子表面に存在する未組織炭素が、原料炭組成物中の未組織炭素と十分に接触することができるため、その後の炭化及び黒鉛化の過程において、接触する未組織炭素間に強固な炭素−炭素結合が形成される。そのため、黒鉛化後に得られる黒鉛材料においても、カルサインコークス中の六角網平面積層体と黒鉛中の六角網平面積層体の界面には亀裂が生じることなく、両者は化学的に連結される。このようにして、高度に発達した結晶構造に、結晶化度の低い領域が導入された構造を有する黒鉛材料を得ることができる。
一方、カルサインコークスが原料炭組成物の粒子表面に埋め込まれておらず、表面に付着しただけの複合粉体を炭化及び黒鉛化した場合、カルサインコークスの粒子表面に存在する未組織炭素と原料炭組成物中の未組織炭素の接触面積が極めて小さいために、カルサインコークスと原料炭組成物中の未組織炭素間に強固な炭素−炭素結合を形成することは不可能である。このような場合、得られた黒鉛材料においては、カルサインコークス中の六角網平面積層体と黒鉛中の六角網平面積層体との界面に亀裂が生じやすく、その亀裂部には結晶子のエッジ部が露出する。このような黒鉛材料を負極として用いたリチウムイオン二次電池では、黒鉛材料中の亀裂部に露出した結晶子のエッジ部において、電解液が分解されやすくなる。この場合、負極の漏れ電流と正極の漏れ電流との差が増大するため、正・負極の容量の作動領域が変化し、寿命特性が低下するため好ましくない。
本発明において、原料炭組成物の粉体に混合するカルサインコークスの平均粒径が0.1μm〜3.0μmと規定された理由について説明する。
まず、0.1μmを下限としたのは、平均粒径0.1μm未満のカルサインコークスを得ることが非常に困難であり、実状に即さないからである。また、原料炭組成物の粉体と、平均粒径3.0μmより大きなカルサインコークスとを混合した場合、原料炭組成物の六角網平面積層体間のボイド領域に対して、混合したカルサインコークスの大きさが極端に大きくなるため、混合したカルサインコークスが原料炭組成物に埋め込まれず、原料炭組成物の粒子表面に付着するに留まり、粒子表面の凹凸の大きな複合粉体が得られる。この複合粉体を炭化及び黒鉛化して得られた黒鉛材料の比表面積は極端に大きくなり、この黒鉛材料を負極として使用したリチウムイオン二次電池では、電解液と負極の黒鉛材料との接触面積が増大し電解液が分解されやすくなるため、負極の漏れ電流が増大し、正極との漏れ電流との差が大きくなるため、正・負極の容量の作動領域が変化し、寿命特性が低下するため好ましくない。より好ましい平均粒径は、0.5μm〜2μmである。
本発明において、原料炭組成物の粉体に混合するカルサインコークスの量が原料炭組成物に対して0.5質量%〜10質量%と規定された理由について説明する。
原料炭組成物の粉体と、原料炭組成物に対して0.5質量%未満のカルサインコークスとを混合し、圧縮剪断応力を付与して得られる複合粉体を炭化及び黒鉛化して得られた黒鉛材料の場合、複合粉体に含まれるカルサインコークスの含有量が極端に小さいために、カルサインコークスと原料炭組成物との接触面積を十分に確保することができず、両者の界面領域は極端に小さくなる。この場合、黒鉛材料に導入される結晶化度の低い領域が極端に小さくなる。そのため、溶媒共挿入による電解液の分解を抑制することができない。このような黒鉛材料を負極として用いたリチウムイオン二次電池では、負極における電解液の分解が生じ易いため、負極の漏れ電流が増大し、正極との漏れ電流との差が増大するため、正・負極の容量の作動領域が変化し、寿命特性が低下するため好ましくない。
一方、原料炭組成物の粉体と、原料炭組成物に対して10質量%を超えるカルサインコークスとを混合した場合、原料炭組成物の六角網平面積層体間のボイド領域に対して、混合したカルサインコークスの量が極端に多い状態となる。このとき、混合した全てのカルサインコークスが原料炭組成物の粉体に埋め込まれるために必要なボイド領域が極端に不足しているため、多くのカルサインコークスが原料炭組成物に埋め込まれず、原料炭組成物の粒子表面に付着するに留まり、粒子表面の凹凸の大きな複合粉体が得られる。この複合粉体を炭化及び黒鉛化して得られた黒鉛材料の比表面積は極端に大きくなり、この黒鉛材料を負極として使用したリチウムイオン二次電池では、電解液と負極の黒鉛材料との接触面積が増大し電解液が分解されやすくなるため、負極の漏れ電流が増大し、正極との漏れ電流との差が大きくなるため、正・負極の容量の作動領域が変化し、寿命特性が低下する。より好ましいカルサインコークスの量は、1質量%〜5質量%である。
本発明において、原料炭組成物は、水素原子Hと炭素原子Cとの原子比であるH/Cが0.30〜0.50であり、且つマイクロ強度が7質量%〜17質量%であると規定された理由について説明する。
このようなパラメータを有した原料炭組成物は、適度な六角網平面積層体間のボイド領域を有するため、カルサインコークスが原料炭組成物の粒子表面に埋め込まれた複合粉体を得ることが可能である。また、当該原料炭組成物は、適度な六角網平面積層体間の結合力を有するため、複合粉体を黒鉛化した後に得られる黒鉛材料において、カルサインコークスと黒鉛中の六角網平面積層体間に強固な炭素−炭素結合を形成することが可能となる。
原料炭組成物のH/Cは、全水素分(TH(質量%))を水素の原子量を除した値と、全炭素分(TC(質量%))を炭素の原子量を除した値の比率である。
全水素の測定は、試料を酸素気流中750℃で完全燃焼させ、燃焼ガスより生成した水分量を電量滴定法(カール・フィッシャー法)で求められる。電量滴定式のカール・フィッシャー法では、予め滴定セルにヨウ化物イオン、二酸化硫黄、塩基(RN)及びアルコールを主成分とする電解液を入れておき、滴定セルに試料を入れることで試料中の水分は、下式(4)の通り反応する。なお、試料は、例えばコーキング処理後、乾燥雰囲気下で冷却した後に測定される。
この反応に必要なヨウ素は、下式(5)の通りヨウ化物イオンを電気化学的に反応(2電子反応)させることにより得られる。
水1モルとヨウ素1モルとが反応することから、水1mgを滴定するのに必要な電気量が、下式(6)の通りファラデーの法則により求められる。
ここで、定数96478はファラデー常数、18.0513は水の分子量である。
ヨウ素の発生に要した電気量を測定することで、水分量が求められる。さらに得られた水分量から、水素量に換算し、これを測定に供した試料質量で除することにより、全水素分(TH(質量%))が算出される。
全炭素の測定は、試料を1150℃の酸素気流中で燃焼させ、二酸化炭素(一部一酸化炭素)に変換され過剰の酸素気流に搬送されてCO+CO赤外線検出器により、全炭素分(TC(質量%))が算出される。
原料炭組成物のH/C原子比は0.30〜0.50である。H/C原子比は、六角網平面の広がり、すなわち結晶子の大きさを示す指標である。H/Cの値が小さい場合、原料炭組成物に含まれる炭素成分の比率が大きいために、六角網平面の広がりが大きい。一方、H/Cの値が大きい場合、原料炭組成物に含まれる水素成分の比率が大きいために、炭素−炭素結合が形成されにくいため六角網平面は小さい。このような原料炭組成物には、六角網平面に属さない未組織炭素が多く含有されている。これらの未組織炭素は、炭化及び黒鉛化の過程において、六角網平面の成長に伴い六角網平面に取り込まれる、未組織炭素同士で結合し六角網平面を形成する、あるいは隣接する他の炭素材料の未組織炭素と炭素−炭素結合を形成する、などの特徴を有する。
H/C原子比が0.30未満の原料炭組成物を粉砕及び分級して得られた原料炭組成物の粉体中の粒子の六角網平面の広がりは大きい。このような原料炭組成物の粉体には、隣接する未組織炭素と炭素−炭素結合を形成し得る未組織炭素が極端に少ない。そのため、カルサインコークスが原料炭組成物の粒子表面に埋め込まれた複合粉体を炭化及び黒鉛化した場合、カルサインコークスの粒子表面の未組織炭素と原料炭組成物中の未組織炭素とが炭素−炭素結合を形成することが不可能である。
このような場合、得られた黒鉛材料においては、カルサインコークスと黒鉛中の六角網平面積層体との界面に亀裂が生じ、その亀裂部には結晶子のエッジ部が露出する。このような黒鉛材料を負極として用いたリチウムイオン二次電池では、黒鉛材料の亀裂部に露出した結晶子のエッジ部において、電解液が分解されやすくなる。この場合、負極の漏れ電流と正極の漏れ電流との差が増大するため、正・負極の容量の作動領域が変化し、寿命特性が低下する。
逆に原料炭組成物中のH/C原子比が0.50を超えると、原料炭組成物を構成する六角網平面が小さいために、六角網平面積層体間のボイド領域が極端に大きくなる。そのため、カルサインコークスが大きなボイド領域に集中して埋め込まれる。このとき、ボイド領域が大きすぎるために、ボイドに圧縮剪断応力による力学的エネルギーが集中しやすく、ボイド領域に存在する未組織炭素の結合が切断される。このような状態の複合粉体を炭化及び黒鉛化して得られた黒鉛材料では、ボイドに存在する未組織炭素の結合切断により生じたエッジ面が粒子表面に露出する。これらの黒鉛材料を負極として用いたリチウムイオン二次電池では、エッジ面に存在する局在電子を触媒とした電解液の分解が起こりやすいため、負極の漏れ電流が増大し、正極との漏れ電流との差が大きくなるため、正・負極の容量の作動領域が変化し、寿命特性が低下するため好ましくない。
以上の通り原料炭組成物のH/Cは0.30〜0.50に限定される。この範囲内の物性を有し、所定の粒度となるように粉砕及び分級された原料炭組成物の粉体と、カルサインコークスとを混合した後、圧縮剪断応力が付与されることにより、原料炭組成物の粒子表面にカルサインコークスが適度に埋め込まれた複合粉体を得ることができ、これらの複合粉体を炭化及び黒鉛化した場合、強固な炭素−炭素結合が形成され、粒子表面に結晶子エッジが極めて少なく、且つ結晶化度の低い領域が導入された黒鉛材料を実現することが可能となる。
マイクロ強度は、鋼製シリンダー(内径25.4mm、長さ304.8mm)に20メッシュ〜30メッシュの試料2gと直径5/16inch(7.9mm)の鋼球12個を入れ、鉛直面を管と直角方向に25rpmで800回転させたのち(すなわち、シリンダーを立てた状態から上下が入れ替わるように、回転軸を水平にして、あたかもプロペラが回転するように回転させる)、48メッシュでふるい分け、試料に対するふるい上の質量をパーセントで示した値である。
原料炭組成物のマイクロ強度は、7質量%〜17質量%である。このマイクロ強度は、隣接する六角網平面積層体間の結合強さを示す指標である。
原料炭組成物のマイクロ強度が7質量%未満である場合には、六角網平面積層体間のボイド領域に存在する未組織炭素の結合力が極端に弱い。そのため、カルサインコークスがボイド領域に埋め込まれた場合、ボイド領域に存在する未組織炭素の結合が切断されやすい。このような状態の複合粉体を炭化及び黒鉛化して得られた黒鉛材料では、ボイドに存在する未組織炭素の結合切断により生じたエッジ面が粒子表面に露出する。これらの黒鉛材料を負極として用いたリチウムイオン二次電池では、エッジ面に存在する局在電子を触媒とした電解液の分解が起こりやすいため、負極の漏れ電流が増大し、正極との漏れ電流との差が大きくなるため、正・負極の容量の作動領域が変化し、寿命特性が低下するため好ましくない。
原料炭組成物のマイクロ強度が17質量%を超える場合には、隣接する結晶子間の結合強さが極端に大きくなる。その理由は、ボイド領域に存在する未組織炭素が、隣接する六角網平面積層体と強固な三次元的化学結合を構築するからである。このように六角網平面積層体間に強固な結合を有する場合には、カルサインコークスを原料炭組成物のボイド領域に埋め込むことが困難である。すなわち、原料炭組成物の粉体とカルサインコークスとを混合し圧縮剪断応力を付与した場合であっても、カルサインコークスが原料炭組成物の粒子表面に埋め込まれず表面に付着した状態の複合粉体が得られる。このような複合粉体を炭化及び黒鉛化して得られた黒鉛材料では、粒子表面の凹凸が大きいために比表面積が大幅に増大する。これらの黒鉛材料を負極として用いたリチウムイオン二次電池では、電解液と負極黒鉛との接触面積が増大することにより、電解液の分解が起こりやすい。そのため、負極の漏れ電流が増大し、正極との漏れ電流との差が大きくなるため、正・負極の容量の作動領域が変化し、寿命特性が低下するため好ましくない。
以上の通り原料炭組成物のマイクロ強度は7質量%〜17質量%に限定される。この範囲内の物性を有し、所定の粒度となるように粉砕及び分級された原料炭組成物と、カルサインコークスとを混合した後、圧縮剪断応力が付与されることにより、原料炭組成物のボイド領域に存在する未組織炭素の結合を切断することなく、原料炭組成物の粒子表面にカルサインコークスが埋め込まれた複合粉体を得ることができ、これらの複合粉体を炭化及び黒鉛化した場合、粒子表面に結晶子エッジが極めて少なく、且つ結晶化度の低い領域が導入された黒鉛材料を実現することが可能となる。
以上のとおり、本発明にかかる製造方法では、高度に発達した結晶構造中に、結晶化度の低い領域が導入された構造を有し且つ粒子表面にエッジ部の露出が少ない黒鉛材料を得ることができる。
本発明で用いる原料炭組成物は、重質油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理することで得ることができる。
重質油組成物の成分としては、流動接触分解装置のボトム油(流動接触分解残油、FCC DO)、流動接触分解残油から抽出した芳香族分、重質油に高度な水添脱硫処理を施した水素化脱硫油、減圧残油(VR)、脱硫脱瀝油、石炭液化油、石炭の溶剤抽出油、常圧残浚油、シェルオイル、タールサンドビチューメン、ナフサタールピッチ、エチレンボトム油、コールタールピッチ及びこれらを水素化精製した重質油等が挙げられる。これらの重質油は単独で用いても良く、二種類以上をブレンドして用いても良い。
ディレードコーキングプロセスによってコーキング処理した後に得られる原料炭組成物の物性として、H/C原子比が0.30〜0.50であり、且つマイクロ強度が7質量%〜17質量%のものを得る場合には、使用する重質油の性状に応じて二種類以上の重質油の配合比率を適宜調整すればよい。なお、重質油の性状は、原油の種類、原油から重質油が得られるまでの処理条件等によって変化する。
流動接触分解装置のボトム油は、原料油として減圧軽油を使用し、触媒を使用して分解反応を選択的に行わせ、高オクタン価のFCCガソリンを得る流動床式の流動接触分解する装置のボトム油である。原料油として使用される減圧軽油は、好ましくは、常圧蒸留残渣油を直接脱硫して得られる脱硫減圧軽油(好ましくは、硫黄分500質量ppm以下、15℃における密度0.8g/cm以上)である。
流動接触分解残油から抽出した芳香族分は、ジメチルホルムアミド等を用いて選択抽出し、芳香族分と飽和分に分離させたときの芳香族分である。
重質油に高度な水添脱硫処理を施した水素化脱硫油は、例えば、硫黄分1質量%以上の重質油を水素分圧10MPa以上で水素化脱硫処理して得られる硫黄分1.0質量%以下、窒素分0.5質量%以下、芳香族炭素分率(fa)0.1以上の重質油である。水素化脱硫油は、好ましくは、常圧蒸留残油を触媒存在下、水素化分解率が25%以下となるように水素化脱硫して得られる水素化脱硫油である。
減圧残油(VR)は、原油を常圧蒸留装置にかけて、ガス・軽質油・常圧残油を得た後、この常圧残油を、例えば、10Torr〜30Torrの減圧下、加熱炉出口温度320℃〜360℃の範囲で変化させて得られる減圧蒸留装置のボトム油である。
脱硫脱瀝油は、例えば、減圧蒸留残渣油等の油を、プロパン、ブタン、ペンタン、又はこれらの混合物等を溶剤として使用する溶剤脱瀝装置で処理し、そのアスファルテン分を除去し、得られた脱瀝油(DAO)を、間接脱硫装置(Isomax)等を用いて、好ましくは硫黄分0.05質量%〜0.40質量%の範囲までに脱硫したものである。
常圧残浚油は、原油を常圧蒸留装置にかけて、例えば、常圧下、加熱して、含まれる留分の沸点により、ガス・LPGやガソリン留分、灯油留分、軽質油留分、常圧残浚油に分けられる際に得られる留分の一つで、最も沸点の高い留分である。加熱温度は、原油の産地等により変動し、これらの留分に分留できるものであれば限定されないが、例えば原油を320℃に加熱する。
特に好ましい重質油組成物の例としては、(1)芳香族分率(芳香族指数)faが0.3〜0.65であること、(2)ノルマルパラフィン含有率が5質量%〜20質量%であること、(3)脱硫処理された脱瀝油が7質量%〜15質量%の範囲で含有されていること、の3つの条件が満たされた重質油組成物を挙げることができる。
重質油は高温処理されることによって、熱分解及び重縮合反応が起こり、メソフェーズと呼ばれる大きな液晶が中間生成物として生成する過程を経て生コークスが製造される。
このとき、(1)良好なバルクメソフェーズを生成する重質油成分と、(2)このバルクメソフェーズが重縮合して炭化及び固化する際に、メソフェーズを構成する六角網平面積層体の大きさを小さく制限する機能を有したガスを生じ得る重質油成分と、更に(3)その切断された六角網平面積層体どうしを結合させる成分が全て含有された原料油組成物を用いることが特に好ましい。(1)良好なバルクメソフェーズを生成する重質油成分が、芳香族指数faとして0.3〜0.65を与える成分であり、(2)ガスを生じ得る重質油成分が、ノルマルパラフィン含有率の5質量%〜20質量%に相当する成分であり、(3)六角網平面積層体どうしを結合させる成分が7質量%〜15質量%の範囲で含有された脱硫脱瀝油である。
このような重質油組成物が本発明の原料炭組成物の原料として好ましく使用される理由は、良好なバルクメソフェーズを生成する重質油成分により形成された結晶子の六角網平面が、相対的に小さなサイズに制限されることで、原料炭組成物中に適度に結晶子間の隙間を保持することができることに加え、脱硫脱瀝油が、隣接する結晶子間を適度に結合させるからである。
なお、原料炭組成物の製造に際して、脱硫脱瀝油を添加した例はなく、脱硫脱瀝油の含有が有効であることは驚きである。
芳香族炭素分率(芳香族指数)(fa)は、Knight法により求めることができる。Knight法では、炭素の分布を13C−NMR法による芳香族炭素のスペクトルとして3つの成分(A,A,A)に分割する。ここで、Aは芳香族環内部炭素数、置換されている芳香族炭素と置換されていない芳香族炭素の半分(13C−NMRの約40ppm〜60ppmのピークに相当)、Aは置換していない残りの半分の芳香族炭素(13C−NMRの約60ppm〜80ppmのピークに相当)Aは脂肪族炭素数(13C−NMRの約130ppm〜190ppmのピークに相当)であり、これらから、faは、下記式により求められる。
13C−NMR法が、ピッチ類の化学構造パラメータの最も基本的な量であるfaを定量的に求められる最良の方法であることは、文献(「ピッチのキャラクタリゼーション II. 化学構造」横野、真田、(炭素、1981(No.105)、p73〜81)に示されている。
また重質油組成物のノルマルパラフィンの含有率は、キャピラリーカラムが装着されたガスクロマトグラフによって測定した値を意味する。具体的には、ノルマルパラフィンの標準物質によって検定した後、上記溶出クロマトグラフィー法によって分離された非芳香族成分の試料をキャピラリーカラムに通して測定する。この測定値から重質油組成物の全質量を基準とした含有率が算出可能である。
重質油組成物の芳香族指数faが0.3未満では、重質油組成物からのコークスの収率が極端に低くなるほか、良好なバルクメソフェーズを形成することが出来ず、炭化及び黒鉛化しても結晶組織が発達し難いため好ましくない。また、faが0.65を超えると、生コークスの製造過程においてマトリックス中に急激にメソフェーズが多数発生し、主としてメソフェーズのシングル成長よりも、メソフェーズどうしの急激な合体が繰り返される。このためノルマルパラフィン含有成分によるガスの発生速度よりも、メソフェーズどうしの合体速度の方が速くなるため、バルクメソフェーズの六角網平面を小さなサイズに制限することが不可能となり好ましくない。
このように重質油組成物の芳香族指数faは0.3〜0.65の範囲が特に好ましい。faは重質油組成物の密度Dと粘度Vから算出可能であるが、密度Dは0.91g/cm〜1.02g/cm、粘度Vは10mm/sec.〜220mm/sec.の範囲の重質油組成物で、faが0.3〜0.65となるようなものが特に好ましい。
重質油組成物の中に適度に含まれるノルマルパラフィン成分は、前述の通り、コーキング処理時にガスを発生することで、バルクメソフェーズの大きさを、小さなサイズに制限する重要な役割を演じている。また、このガス発生は、小さなサイズに制限された隣接するメソフェーズどうしを一軸配向させ、系全体を選択的に配向させる機能も有している。ノルマルパラフィン含有成分の含有率が5質量%未満になると、メソフェーズが必要以上に成長し、巨大な炭素六角網平面が形成されてしまうため好ましくない。また20質量%を超えると、ノルマルパラフィンからのガス発生が過多となり、バルクメソフェーズの配向を逆に乱す方向に働く傾向があるため、炭化及び黒鉛化しても結晶組織が発達し難いため好ましくない。以上の通り、ノルマルパラフィン含有率は5質量%〜20質量%の範囲であることが特に好ましい。
脱硫脱瀝油は、前述の通り、隣接する六角網平面積層体を適度に結合させる役割を演じているが、重質油組成物の中の含有率として、7質量%〜15質量%の範囲であることが特に好ましい。7質量%未満の場合、又は15質量%を超える場合には、コーキング後に得られる重質油組成物のマイクロ強度が7質量%未満となる場合、又は17質量%を超える場合があるため好ましくない。
このような特徴を有した重質油組成物は、コークス化され、本発明の原料炭組成物が形成される。所定の条件を満たす重質油組成物をコークス化する方法としては、ディレードコーキング法が好ましい。より具体的には、コーキング圧力が制御された条件の下、ディレードコーカーによって重質油組成物を熱処理して生コークスを得る方法が好ましい。このときディレードコーカーの好ましい運転条件としては、圧力が0.1MPa〜0.8MPa、温度が400℃〜600℃である。
コーカーの運転圧力に好ましい範囲が設定されている理由は、ノルマルパラフィン含有成分より発生するガスの系外への放出速度を、圧力で制限することができるからである。前述の通り、メソフェーズを構成する炭素六角網平面のサイズは、発生するガスで制御するため、発生ガスの系内への滞留時間は、前記六角網平面の大きさを決定するための重要な制御パラメータとなる。また、コーカーの運転温度に好ましい範囲が設定されている理由は、本発明の効果を得るために調整された重質油から、メソフェーズを成長させるために必要な温度だからである。
このようにして得られた原料炭組成物は、所定の粒度となるように粉砕及び分級される。粒度としては、平均粒径として好ましくは30μm以下である。平均粒径は、レーザ回折式粒度分布計による測定に基づく。平均粒径が30μm以下である理由は、リチウムイオン二次電池の負極炭素材料として、一般的且つ好適に使用されている粒度だからである。さらに、好ましい平均粒径は5μm〜30μmである。平均粒径が5μmより小さい原料炭組成物の粉体と、カルサインコークスとを混合し圧縮剪断応力を付与した場合、粒子が小さいため、十分に力学的エネルギーを付与することができず、カルサインコークスを原料炭組成物の粒子表面に埋め込むことができないからである。
ここで、本発明のリチウムイオン二次電池の負極として使用される黒鉛材料の製造方法には、原料炭組成物の粉体とカルサインコークスとを混合し圧縮剪断応力を付与する工程が含まれる。このとき付与する圧縮剪断応力には、圧縮応力と剪断応力のほか、衝突、摩擦、ずり応力等も含まれる。これらの応力が与える力学的エネルギーは、一般的な攪拌により得られるエネルギーより大きく、それらのエネルギーが、粒子表面に与えられることで、粒子形状の球形化や、粒子の複合化といったメカノケミカル現象と称される効果が発現する。原料炭組成物にメカノケミカル現象を起こさせるための機械的エネルギーを与えるには、剪断、圧縮、衝突等の応力を同時にかけることができる装置を用いればよく、特に装置の構造及び原理に限定されるものではない。たとえば、回転式のボールミルなどのボール型混練機、エッジランナー等のホイール型混練機、ハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所製)、メカノフュージョン(ホソカワミクロン社製)、ノビルタ(ホソカワミクロン社製)、COMPOSI(日本コークス工業社製)などがある。
圧縮剪断応力を付与する工程における製造条件は、使用する装置によっても異なるが、例えば、図4のような、回転するブレードの羽根(回転方向R1)31とハウジング32の間隙33で、粉体Pに圧密、圧縮応力が加わる構造の装置を用いる。
ノビルタ(ホソカワミクロン社製)を用いる場合には、ブレードの回転数が1500rpm〜5000rpm、処理時間を10分〜180分とするのが好ましい。回転数が1500rpmより小さいとき、もしくは処理時間が10分未満では原料炭組成物の粉体に十分な圧縮剪断応力を付与することができない。一方、180分より長い処理を行うと、原料炭組成物の粉体に過多な圧縮剪断応力が付与され、粒子形状が著しく変形するため好ましくない。
COMPOSI(日本コークス工業社製)を用いる場合には、周速度50m/s〜80m/sで処理時間を10分〜180分とするのが好ましい。周速度が50m/sより小さいとき、もしくは処理時間が10分未満では原料炭組成物の粉体に十分な圧縮剪断応力を付与することができない。一方、180分より長い処理を行うと、原料炭組成物の粉体に過多な圧縮剪断応力が付与され、粒子形状が著しく変形するため好ましくない。
メカノフュージョン(ホソカワミクロン社製)を用いる場合には、ブレードの回転数が500rpm〜3000rpm、処理時間を10分〜300分とするのが好ましい。回転数が500rpmより小さいとき、もしくは処理時間が10分未満では原料炭組成物の粉体に十分な圧縮剪断応力を付与することができない。一方、300分より長い処理を行うと、原料炭組成物の粉体に過多な圧縮剪断応力が付与され、粒子形状が著しく変形するため好ましくない。
ハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所製)を用いる場合には、周速度40m/s〜60m/sで処理時間を5分〜180分とするのが好ましい。この条件であれば、粒子形状を著しく変化させることなく、原料炭組成物の粉体に十分な圧縮剪断応力を付与することができるからである。
また、本出願における原料炭組成物を使用する場合、圧縮剪断応力を付与する表面処理時の制御温度として、好ましくは60℃〜250℃で行うことにより、原料炭組成物の粒子表面にカルサインコークスが埋め込まれた複合粉体が得られる。特に、表面処理時の制御温度が120℃〜200℃での運転が望ましい。
このようにして原料炭組成物の粒子表面にカルサインコークスが埋め込まれた複合粉体を、X線広角回折法によって得られる(112)回折線から算出されるLc(112)が4nm〜30nmとなるように炭化及び黒鉛化する。
炭化及び黒鉛化処理の方法は、特に限定されないが、通常は、窒素、アルゴン又はヘリウム等の不活性ガス雰囲気下で最高到達温度900℃〜1500℃、最高到達温度の保持時間0時間〜10時間で炭化(予備焼成)され、次いで同様な不活性ガス雰囲気下、最高到達温度2500℃〜3200℃、最高到達温度保持時間0時間〜100時間の加熱処理する方法を挙げることができる。
一般に、2800℃以上の黒鉛化温度で加熱処理された黒鉛材料は、結晶化が進行しており、負極として使用したリチウムイオン二次電池の容量は大きいが、溶媒共挿入による電解液の分解が生じ易いため、寿命特性が劣化する。しかしながら、本発明によれば、高度に発達した結晶構造中に結晶化度の低い領域が部分的に導入されているために、高い容量と高い寿命特性を両立できる。
本発明において、黒鉛材料の、X線広角回折法によって得られた(112)回折線から算出されるLc(112)が4nm〜30nmと規定された理由について説明する。
まず、Lc(112)が4nm未満の黒鉛材料は結晶組織の発達が不十分であり、このような黒鉛材料を用いたリチウムイオン二次電池では容量が小さくなるため好ましくない。また、本発明における原料炭組成物を高温で長時間黒鉛化した場合においても、Lc(112)が30nmを超える大きさになることはなかったため、上限を30nmとした。
以上の通り、H/C原子比0.30〜0.50、且つマイクロ強度7質量%〜17質量%である原料炭組成物と、平均粒径0.1μm〜3.0μmのカルサインコークスとを、原料炭組成物に対してカルサインコークスが0.5質量%〜10質量%となる比率で混合し、圧縮剪断応力を付与することにより当該原料炭組成物の粒子表面にカルサインコークスが埋め込まれた複合粉体を得た後、当該複合粉体を炭化及び黒鉛化することにより、X線広角回折法によって測定される(112)回折線の結晶子の大きさLc(112)が4nm〜30nmであり、且つ粒子表面の結晶組織に適度な乱れが導入され、且つエッジ面の露出が極めて少ない黒鉛材料を得ることができる。そして、このような黒鉛材料をリチウムイオン二次電池の負極材料に使用したとき、極めて高い信頼性を確保することが可能となる。
なお、従来、リチウムイオン電池の負極材料として、脱硫脱瀝油を原料として製造された黒鉛材料を使用した例は無い。本発明は、重質油組成の好ましい態様として脱硫脱瀝油を混合し、所定のH/C原子比及びマイクロ強度を有する原料炭組成物の粉体にカルサインコークスを混合し、圧縮剪断応力を付与することにより得られる複合粉体を炭化及び黒鉛化することにより、所望の黒鉛材料を提供できる。
リチウムイオン二次電池用負極の製造方法としては特に限定されず、例えば、本出願に係る発明が適用された黒鉛材料、バインダー(結着剤)、必要に応じて導電助剤、有機溶媒を含む混合物(負極合剤)を、所定寸法に加圧成形する方法が挙げられる。また他の方法としては、本出願に係る発明が適用された黒鉛材料、バインダー(結着剤)、導電助剤等を有機溶媒中で混練・スラリー化し、当該スラリーを銅箔等の集電体上に塗布・乾燥したもの(負極合剤)を圧延し、所定の寸法に裁断する方法も挙げることが出来る。
バインダー(結着剤)としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンテレート、SBR(スチレンーブタジエンラバー)等を挙げることができる。負極合剤の中のバインダーの含有率は、黒鉛材料100質量部に対して1質量部〜30質量部程度を、電池の設計上、必要に応じて適宜設定すれば良い。
導電助剤としては、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック、又は導電性を示すインジウム−錫酸化物、又は、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン等の導電性高分子を挙げることができる。導電助剤の使用量は、黒鉛材料100質量部に対して1質量部〜15質量部が好ましい。
有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ピロリドン、N−メチルチオピロリドン、ヘキサメチルホスホアミド、ジメチルアセトアミド、イソプロパノール、トルエン等を挙げることができる。
黒鉛材料、バインダー、必要に応じて導電助剤、有機溶媒を混合する方法としては、スクリュー型ニーダー、リボンミキサー、万能ミキサー、プラネタリーミキサー等の公知の装置を用いることができる。該混合物は、ロール加圧、プレス加圧することにより成形されるが、このときの圧力は100MPa〜300MPa程度が好ましい。
集電体の材質については、リチウムと合金を形成しないものであれば、特に制限なく使用することが出来る。例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等を挙げることが出来る。また集電体の形状についても特に制限なく利用可能であるが、例示するとすれば、箔状、穴開け箔状、メッシュ状等にした帯状のものを挙げることができる。また、多孔性材料、例えばポーラスメタル(発泡メタル)やカーボンペーパーなども使用可能である。
前記スラリーを集電体に塗布する方法としては、特に限定されないが、例えば、メタルマスク印刷法、静電塗装法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、ダイコーター法など公知の方法を挙げることができる。塗布後は、必要に応じて平板プレス、カレンダーロール等による圧延処理を行うのが一般的である。
また、シート状、ペレット状等の形状に成形された負極材スラリーと集電体との一体化は、例えば、ロール、プレス、もしくはこれらの組み合わせ等、公知の方法により行うことができる。
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池負極用黒鉛材料を用いたリチウムイオン二次電池は、例えば、以上のようにして製造した負極と正極とが、セパレータを介して対向するように配置し、電解液を注入することにより得ることができる。
正極に用いる活物質としては、特に制限はなく、例えば、リチウムイオンをドーピング又はインターカレーション可能な金属化合物、金属酸化物、金属硫化物、又は導電性高分子材料を用いればよく、例示するのであれば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、リチウム複合複酸化物(LiCoNi、ここで、X+Y+Z=1であり、MはMn、Al等を示す)、及びこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの、リチウムバナジウム化合物、V、V13、VO、MnO、TiO、MoV、TiS、V、VS、MoS、MoS、Cr、Cr、オリビン型LiMPO(M:Co、Ni、Mn、Fe)、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセン等の導電性ポリマー、多孔質炭素等及びこれらの混合物を挙げることができる。
セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微多孔性フィルム又はそれらを組み合わせたものを使用することができる。なお、作製するリチウムイオン二次電池の正極と負極が直接接触しない構造にした場合は、セパレータを使用する必要はない。
リチウムイオン二次電池に使用する電解液及び電解質としては、公知の有機電解液、無機固体電解質、高分子固体電解質が使用できる。好ましくは、電気伝導性の観点から有機電解液が好ましい。
有機電解液としては、ジブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル等のエーテル、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド等のアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄化合物、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のジアルキルケトン、テトラヒドロフラン、2−メトキシテトラヒドロフラン等の環状エーテル、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状炭酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の鎖状炭酸エステル、N−メチル2−ピロリジノン、アセトニトリル、ニトロメタン等の有機溶媒を挙げることができる。これらの溶媒は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
これらの溶媒の溶質としては、各種リチウム塩を使用することができる。一般的に知られているリチウム塩にはLiClO、LiBF、LiPF、LiAlCl、LiSbF、LiSCN、LiCl、LiCFSO、LiCFCO、LiN(CFSO2、LiN(CSO等がある。
高分子固体電解質としては、ポリエチレンオキサイド誘導体及び該誘導体を含む重合体、ポリプロピレンオキサイド誘導体及び該誘導体を含む重合体、リン酸エステル重合体、ポリカーボネート誘導体及び該誘導体を含む重合体等が挙げられる。
なお、上記以外の電池構成上必要な部材の選択についてはなんら制約を受けるものではない。
リチウムイオン二次電池の構造は、特に限定されないが、帯状に成型された正極と負極とが、セパレータを介して渦巻状に巻回された巻回電極群を、電池ケースに挿入し、封口した構造や、平板状に成型された正極と負極とが、セパレータを介して順次積層された積層式極板群を外装体中に封入した構造とするのが一般的である。リチウムイオン二次電池は、例えば、ペーパー型電池、ボタン型電池、コイン型電池、積層型電池、円筒型電池、角形電池などとして使用される。
以下、本発明に係る第八の形態から第九の形態について、詳細に説明する。
本発明者らは、水素原子Hと炭素原子Cとの原子比であるH/Cが0.30〜0.50であり、且つマイクロ強度が7質量%〜17質量%である原料炭組成物の粒子表面にアセチレンブラックが埋め込まれた複合粉体を炭化及び黒鉛化する工程と、高度に発達した結晶構造に結晶化度の低い領域が部分的に導入された構造を有し、且つ粒子表面に露出するエッジ部が少ない黒鉛材料が得られることの関係を、次のように考えている。
まず、アセチレンブラックとは、アセチレンガスを熱分解して製造されるため非常に高純度であり、且つ黒鉛と同様な六角網平面が同心円状に形成された組織を有する難黒鉛化性炭素材料である。3nm〜500nm程度の大きさである球状の基本粒子がVan der Waals力により凝集しアグリゲートを構成する。アグリゲートは微球状の基本粒子が不規則な鎖状に枝分かれした複雑な凝集構造を取っており、数個から数十個の基本粒子同士の融合の程度は、アグロメレートと呼ばれ、アグロメレートが集合した状態は、ストラクチャーと呼ばれている。
このような難黒鉛化性のアセチレンブラックを加熱し黒鉛化した場合、基本粒子中の結晶子の成長は、易黒鉛化性炭素材料を黒鉛化した場合の結晶子の成長と比べて、極端に小さい。そのため、黒鉛化後のアセチレンブラックの結晶化度は、黒鉛材料に比べて極めて低いといえる。
また、アセチレンブラックの基本粒子中の結晶子は、c軸が球状粒子の表面に垂直になるように異方的に配向している。そのため、粒子表面のどの領域においても結晶子エッジの露出が非常に少ないという特徴を有する。この結晶子の異方的な配向は、黒鉛化後にも同様の状態で残存する。
このような特徴を有するアセチレンブラックが原料炭組成物の粒子表面に埋め込まれた複合粉体を、炭化及び黒鉛化した場合、原料炭組成物の領域では、結晶子が大きく成長できるのに対し、難黒鉛化性炭素であるアセチレンブラックの領域では、結晶子の成長が小さい。したがって、黒鉛化後の黒鉛材料においても、複合粉体中において原料炭組成物であった領域は高度に発達した結晶構造領域として残存し、一方、アセチレンブラックの領域は結晶化度の低い領域として黒鉛材料中に残存する。
また、前述した複合粉体を炭化及び黒鉛化する工程において、原料炭組成物とアセチレンブラックとの界面には炭素−炭素結合が形成される。一方、炭素−炭素結合が形成されない場合には、原料炭組成物とアセチレンブラックとの界面に亀裂が生じるため、その亀裂部分には結晶子のエッジ部が露出し、電解液の還元分解が増大するため好ましくない。
このようにして、高度に発達した結晶構造中に、炭素−炭素結合により連結された結晶化度の低い領域を有する黒鉛材料が得られる。導入された結晶化度の低い領域は、黒鉛層間への電解液の共挿入を立体的に阻害する効果を有する。
さらに、得られた黒鉛材料中の結晶化度の低い領域では、アセチレンブラックと同様に、結晶子のc軸が基本粒子の表面に垂直になるように配向している。そのため、黒鉛材料の粒子表面に露出するエッジ部が少なく、局在電子を触媒とした電解液の分解反応を抑制することができる。
このようにして、原料炭組成物の粒子表面にアセチレンブラックが埋め込まれた状態の複合粉体を、炭化及び黒鉛化する工程により、高度に発達した結晶構造中に結晶化度の低い領域が部分的に導入された構造を有し、且つ粒子表面に露出するエッジ部が少ない黒鉛材料を得ることができる。
ここでいう、原料炭組成物の粒子表面にアセチレンブラックが埋め込まれた状態とは、1,000倍〜5,000倍のSEM像を観察したときに、アセチレンブラックが原料炭組成物の粒子表面から実質上突出することなく埋め込まれ複合化された状態をいう。
本発明において、複合粉体を原料炭組成物の粒子表面にアセチレンブラックが埋め込まれた状態とする二つの理由について以下に説明する。
一つ目の理由は、原料炭組成物の粒子表面にアセチレンブラックが埋め込まれた複合粉体を炭化及び黒鉛化することにより、黒鉛化後の粒子の比表面積増大を抑制するためである。
原料炭組成物の粒子表面にアセチレンブラックが埋め込まれた複合粉体の場合、原料炭組成物の粒子表面から突出しているアセチレンブラックが少ないため、このような複合粉体を炭化及び黒鉛化して得られた黒鉛材料の表面の凹凸は極めて小さいく、比表面積の小さい状態となる。このようにして得られた黒鉛材料を負極として用いたリチウムイオン二次電池では、電解液と黒鉛材料の粒子表面との接触面積が小さいために、負極における電解液の分解が起こりにくい。この場合、正・負極の容量の作動領域が変化しにくいため、寿命特性に優れる。
一方、アセチレンブラックが原料炭組成物の粒子表面に埋め込まれておらず表面に付着しただけの複合粉体を炭化及び黒鉛化した場合、黒鉛材料の粒子表面にアセチレンブラックが突出しているため、表面に凹凸を有する比表面積の大きな黒鉛材料が得られる。これらの黒鉛材料を負極として用いたリチウムイオン二次電池では、電解液と黒鉛材料の粒子表面との接触面積が大きいために、負極における電解液の分解が起こりやすくなる。この場合、負極の漏れ電流と正極の漏れ電流との差が増大するため、正・負極の容量の作動領域が変化し、寿命特性が低下するため好ましくない。
本発明において、複合粉体を原料炭組成物の粒子表面にアセチレンブラックが埋め込まれている状態とする二つ目の理由は、高度に発達した結晶構造と結晶化度の低い領域との界面で化学結合が形成されることにより、両者の界面に亀裂が生じるのを防ぐためである。
圧縮剪断応力により、アセチレンブラックが原料炭組成物の粒子表面に埋め込まれる過程において、アセチレンブラックは、原料炭組成物を構成する六角網平面積層体と隣接する六角網平面積層体との隙間(ボイド領域)に埋め込まれやすい。これは、アセチレンブラックが原料炭組成物中の六角網平面積層体を破壊して、粒子内部に埋め込まれるのに必要なエネルギーよりも、隣接する六角網平面積層体間のボイド領域に埋め込まれるのに必要なエネルギーの方が小さいからである。このボイド領域には、六角網平面の構成単位となるベンゼン環以外の構造を有した未組織炭素が存在し、これらの未組織炭素は六角網平面積層体と化学的に連結している。この未組織炭素は、原料炭組成物が炭化及び/又は黒鉛化された後も残存し、同様な役割を演じている。
このようなボイド領域にアセチレンブラックが埋め込まれた場合、アセチレンブラックが原料炭組成物中の未組織炭素と十分に接触することができるため、その後の黒鉛化の過程において、接触する未組織炭素と強固な炭素−炭素結合を形成することができる。そのため、黒鉛化後に得られる黒鉛材料においても、アセチレンブラックと黒鉛中の結晶子間は亀裂が生じることなく化学的に連結される。このようにして、高度に発達した結晶構造に、結晶化度の低い領域が導入された構造を有する黒鉛材料を得ることができる。
一方、アセチレンブラックが原料炭組成物の粒子表面に埋め込まれておらず、表面に付着しただけの複合粉体を炭化及び黒鉛化した場合、原料炭組成物中の未組織炭素とアセチレンブラックとの接触面積が極めて小さいために、炭化及び黒鉛化過程において、アセチレンブラックと原料炭組成物中の未組織炭素間に強固な炭素−炭素結合を形成することは不可能である。このような場合、得られた黒鉛材料においては、アセチレンブラックと黒鉛中の結晶子との界面に亀裂が生じやすく、その亀裂部には結晶子のエッジ部が露出する。このような黒鉛材料を負極として用いたリチウムイオン二次電池では、黒鉛材料の亀裂部に露出した結晶子のエッジ部において、電解液が分解されやすくなる。この場合、負極の漏れ電流と正極の漏れ電流との差が増大するため、正・負極の容量の作動領域が変化し、寿命特性が低下する。
本発明において、原料炭組成物の粉体に混合するアセチレンブラックの量が、原料炭組成物に対して0.5質量%〜10質量%と規定された理由について説明する。
原料炭組成物の粉体と原料炭組成物に対して0.5質量%未満のアセチレンブラックとを混合し、圧縮剪断応力を付与して得られる複合粉体を炭化及び黒鉛化して得られた黒鉛材料の場合、複合粉体に含まれるアセチレンブラックの含有量が極端に小さいために、黒鉛材料に導入される結晶化度の低い領域が極端に少なくなる。そのため、溶媒共挿入による電解液の分解を抑制することができない。このような黒鉛材料を負極として用いたリチウムイオン二次電池では、負極における電解液の分解が生じ易いため、負極の漏れ電流が増大し、正極との漏れ電流との差が増大するため、正・負極の容量の作動領域が変化し、寿命特性が低下するため好ましくない。
一方、原料炭組成物の粉体と原料炭組成物に対して10質量%を越えるアセチレンブラックとを混合した場合、原料炭組成物の六角網平面積層体間のボイド領域に対して、混合したアセチレンブラックの量が極端に多い状態となる。このとき、混合した全てのアセチレンブラックが原料炭組成物の粒子表面に埋め込まれるために必要なボイド領域が極端に不足しているため、多くのアセチレンブラックが原料炭組成物に埋め込まれず、原料炭組成物の粒子表面に付着するに留まり、粒子表面の凹凸の大きな複合粉体が得られる。この複合粉体を炭化及び黒鉛化して得られた黒鉛材料の比表面積は極端に大きくなり、この黒鉛材料を負極として使用したリチウムイオン二次電池では、電解液と負極の黒鉛材料との接触面積が増大し電解液が分解されやすくなるため、負極の漏れ電流が増大し、正極との漏れ電流との差が大きくなるため、正・負極の容量の作動領域が変化し、寿命特性が低下する。より好ましいアセチレンブラックの量は、1質量%〜5質量%である。
また、アセチレンブラックの比表面積は、30m/g〜300m/gが好ましい。比表面積は、日本ベル社製BELSORP−miniIIを用い、180度で3時間乾燥した後、窒素ガス吸着によるBET多点法によって測定した。これらのアセチレンブラックと原料炭組成物の粉体とを混合し圧縮剪断応力を付与することにより、アセチレンブラックが原料炭組成物の粒子表面に埋め込まれた複合粉体を得、この複合粉体を炭化及び黒鉛化することにより、アセチレンブラックと黒鉛中の結晶子間に強固な炭素−炭素結合が形成され、且つ適度な比表面積を有する黒鉛材料が得られる。
比表面積が30m/g未満であるアセチレンブラックと、原料炭組成物の粉体とを混合し、圧縮剪断応力を付与して得られた複合粉体では、原料炭組成物中のボイド領域に埋め込まれたアセチレンブラックと、ボイド領域に存在する未組織炭素との接触面積が極端に小さい。このような複合粉体を炭化及び黒鉛化した場合、炭化及び黒鉛化の過程で両者の結晶子が成長する際に、アセチレンブラックと黒鉛中の結晶子と強固な炭素−炭素間結合が形成されないため、好ましくない。
また、比表面積が300m/gを超えるアセチレンブラックを添加した場合、たとえアセチレンブラックが原料炭組成物に埋め込まれた状態の複合粉体を黒鉛化したとしても、黒鉛化後の黒鉛材料の比表面積が大幅に増大するために、電解液と黒鉛との接触面積が増大し、容量劣化につながるため好ましくない。
アセチレンブラックのDBP吸油量は50〜200ml/100gが好ましい。DBP吸油量はアグリゲートのストラクチャーの発達を示す指標である。この範囲のDBP吸油量を有するアセチレンブラックと原料炭組成物の粉体とを混合した後、圧縮剪断応力を付与することにより得られた複合粉体を炭化及び黒鉛化した場合、アセチレンブラックと黒鉛の結晶子との間に強固な炭素−炭素結合が形成された黒鉛材料を得ることができる。
DBP吸油量は、アブソープトメーターを使用し、アセチレンブラックにDBPを添加したときの最大トルクの70%から求めた100g当たりの吸油量とした。
DBP吸油量が50ml/100g未満のアセチレンブラックでは、ストラクチャーが発達しておらず、比表面積が小さい。このようなアセチレンブラックと原料炭組成物の粉体とを混合し圧縮剪断応力を付与した場合、原料炭組成物中のボイド領域に埋め込まれたアセチレンブラックと、ボイド領域に存在する未組織炭素との接触面積が極端に小さい複合粉体が得られる。このような複合粉体を炭化及び黒鉛化した場合、炭化及び黒鉛化の過程で両者の界面に強固な炭素−炭素結合が形成されないため、好ましくない。
また、DBP吸油量が200ml/100gを超えるアセチレンブラックでは、ストラクチャーが高度に発達している。このようなアセチレンブラックと原料炭組成物の粉体とを混合し、圧縮剪断応力を付与した場合、原料炭組成物のボイド領域の体積よりも、アセチレンブラックのストラクチャーが大きく発達しているために、アセチレンブラックを原料炭組成物中のボイド領域に埋め込むことができない。この場合、アセチレンブラックが原料炭組成物の粒子表面に付着するに留まった複合粉体が得られ、このような複合粉体を炭化及び黒鉛化した場合、黒鉛化後の黒鉛粒子表面の比表面積が大幅に増大するために、黒鉛粒子表面での電解液の分解が増大し、負極の漏れ電流が増大し、正極との漏れ電流との差が大きくなるため、正・負極の容量の作動領域が変化し、寿命特性が低下するため好ましくない。
本発明において、原料炭組成物は、水素原子Hと炭素原子Cとの原子比であるH/Cが0.30〜0.50であり、且つマイクロ強度が7質量%〜17質量%であると規定された理由について説明する。
このようなパラメータを有した原料炭組成物は、適度な六角網平面積層体間のボイド領域を有するため、アセチレンブラックが原料炭組成物の粒子表面に埋め込まれた複合粉体を得ることが可能である。また、当該原料炭組成物は、適度な六角網平面積層体間の結合力を有するため、複合粉体を黒鉛化した後に得られる黒鉛材料において、アセチレンブラックと黒鉛中の結晶子間に強固な炭素−炭素結合を形成することが可能となる。
原料炭組成物のH/Cは、全水素分(TH(質量%))を水素の原子量を除した値と、全炭素分(TC(質量%))を炭素の原子量を除した値の比率である。
全水素の測定は、試料を酸素気流中750℃で完全燃焼させ、燃焼ガスより生成した水分量を電量滴定法(カール・フィッシャー法)で求められる。電量滴定式のカール・フィッシャー法では、予め滴定セルにヨウ化物イオン、二酸化硫黄、塩基(RN)及びアルコールを主成分とする電解液を入れておき、滴定セルに試料を入れることで試料中の水分は、下式(4)の通り反応する。なお、試料は、例えばコーキング処理後、乾燥雰囲気下で冷却した後に測定される。
この反応に必要なヨウ素は、下式(5)の通りヨウ化物イオンを電気化学的に反応(2電子反応)させることにより得られる。
水1モルとヨウ素1モルとが反応することから、水1mgを滴定するのに必要な電気量が、下式(6)の通りファラデーの法則により求められる。
ここで、定数96478はファラデー常数、18.0513は水の分子量である。
ヨウ素の発生に要した電気量を測定することで、水分量が求められる。さらに得られた水分量から、水素量に換算し、これを測定に供した試料質量で除することにより、全水素分(TH(質量%))が算出される。
全炭素の測定は、試料を1150℃の酸素気流中で燃焼させ、二酸化炭素(一部一酸化炭素)に変換され過剰の酸素気流に搬送されてCO+CO赤外線検出器により、全炭素分(TC(質量%))が算出される。
原料炭組成物のH/C原子比は0.30〜0.50である。H/C原子比は、六角網平面の広がり、すなわち結晶子の大きさを示す指標である。H/Cの値が小さい場合、原料炭組成物に含まれる炭素成分の比率が大きいために、六角網平面の広がりが大きい。一方、H/Cの値が大きい場合、原料炭組成物に含まれる水素成分の比率が大きいために、炭素−炭素結合の形成が困難であるため六角網平面は小さくなる。
H/C原子比が0.30未満の原料炭組成物を粉砕及び分級して得られた原料炭組成物の粉体中の粒子の六角網平面の広がりは大きい。そのため、アセチレンブラックが埋め込まれるための六角網平面積層体間のボイド領域が極めて小さい。このような原料炭組成物の粉体にアセチレンブラックを混合し、圧縮剪断応力を付与しても、アセチレンブラックは原料炭組成物に埋め込まれることは無く、原料炭組成物の粒子表面に付着するに留まった状態の複合粉体が得られる。このような状態の複合粉体を炭化及び黒鉛化した場合、黒鉛化後に得られる黒鉛材料表面の比表面積が大幅に増大する。このような黒鉛材料を負極として用いたリチウムイオン二次電池では、負極において電解液が分解されやすいため、負極の漏れ電流が増大し、正極との漏れ電流との差が大きくなる。そのため、正・負極の容量の作動領域が変化し、寿命特性が低下するため好ましくない。
逆に原料炭組成物中のH/C原子比が0.50を超えると、原料炭組成物を構成する六角網平面が小さいために、六角網平面積層体間のボイド領域が極端に大きくなる。そのため、アセチレンブラックが大きなボイド領域に集中して埋め込まれる。このとき、ボイド領域が大きすぎるために、ボイドに圧縮剪断応力による力学的エネルギーが集中しやすく、ボイドに存在する未組織炭素の結合が切断される。このような状態の複合粉体を炭化及び黒鉛化して得られた黒鉛材料では、ボイドに存在する未組織炭素の結合切断により生じたエッジ面が粒子表面に露出する。これらの黒鉛材料を負極として用いたリチウムイオン二次電池では、エッジ面に存在する局在電子を触媒とした電解液の分解が起こりやすいため、負極の漏れ電流が増大し、正極との漏れ電流との差が大きくなるため、正・負極の容量の作動領域が変化し、寿命特性が低下するため好ましくない。
以上の通り原料炭組成物のH/Cは0.30〜0.50に限定される。この範囲内の物性を有し、所定の粒度となるように粉砕及び分級された原料炭組成物と、アセチレンブラックとを混合した後、圧縮剪断応力が付与されることにより、原料炭組成物の粉体中のボイド領域に存在する結晶子間の結合を切断することなく、原料炭組成物の粒子表面にアセチレンブラックが適度に埋め込まれた複合粉体を得ることができ、これらの複合粉体を炭化及び黒鉛化した場合、粒子表面に結晶子エッジが極めて少なく、且つ結晶化度の低い領域が導入された黒鉛材料を実現することが可能となる。
マイクロ強度は、鋼製シリンダー(内径25.4mm、長さ304.8mm)に20メッシュ〜30メッシュの試料2gと直径5/16inch(7.9mm)の鋼球12個を入れ、鉛直面を管と直角方向に25rpmで800回転させたのち(すなわち、シリンダーを立てた状態から上下が入れ替わるように、回転軸を水平にして、あたかもプロペラが回転するように回転させる)、48メッシュでふるい分け、試料に対するふるい上の質量をパーセントで示した値である。
原料炭組成物のマイクロ強度は、7質量%〜17質量%である。このマイクロ強度は、隣接する六角網平面積層体間の結合強さを示す指標である。
原料炭組成物のマイクロ強度が7質量%未満である場合には、六角網平面積層体間のボイド領域に存在する未組織炭素の結合力が極端に弱い。そのため、アセチレンブラックがボイド領域に埋め込まれた場合、ボイド領域に存在する未組織炭素の結合が切断されやすい。このような状態の複合粉体を炭化及び黒鉛化して得られた黒鉛材料では、ボイドに存在する未組織炭素の結合切断により生じたエッジ面が粒子表面に露出する。これらの黒鉛材料を負極として用いたリチウムイオン二次電池では、エッジ面に存在する局在電子を触媒とした電解液の分解が起こりやすいため、負極の漏れ電流が増大し、正極との漏れ電流との差が大きくなるため、正・負極の容量の作動領域が変化し、寿命特性が低下するため好ましくない。
そのため、アセチレンブラックがボイド領域に埋め込まれた複合粉体において、アセチレンブラックと未組織炭素間に炭素−炭素結合が形成されにくい。このような複合粉体を炭化及び黒鉛化して得られた黒鉛材料中では、アセチレンブラックと黒鉛中の結晶子との界面に亀裂が生じやすく、その亀裂部には結晶子のエッジ部が露出する。これらの黒鉛材料を負極として用いたリチウムイオン二次電池では、粒子表面のエッジ部における電解液の分解が起こりやすいため、負極の漏れ電流が増大し、正極との漏れ電流との差が大きくなるため、正・負極の容量の作動領域が変化し、寿命特性が低下するため好ましくない。
原料炭組成物のマイクロ強度が17質量%を超える場合には、隣接する結晶子間の結合強さが極端に大きくなる。その理由は、ボイド領域に存在する未組織炭素が、その隣接する結晶子と強固な三次元的化学結合を構築するからである。このように結晶子間に強固な結合を有する場合には、アセチレンブラックを原料炭組成物のボイド領域に埋め込むことが困難である。すなわち、原料炭組成物とアセチレンブラックとを混合し圧縮剪断応力を付与した場合であっても、アセチレンブラックが原料炭組成物の粒子表面に埋め込まれず表面に付着した状態の複合粉体が得られる。このような複合粉体を炭化及び黒鉛化して得られた黒鉛材料では、粒子表面の凹凸が大きいために比表面積が大幅に増大する。これらの黒鉛材料を負極として用いたリチウムイオン二次電池では、電解液と負極黒鉛との接触面積が増大することにより、電解液の分解が起こりやすい。そのため、負極の漏れ電流が増大し、正極との漏れ電流との差が大きくなるため、正・負極の容量の作動領域が変化し、寿命特性が低下するため好ましくない。
以上の通り原料炭組成物のマイクロ強度は7質量%〜17質量%に限定される。この範囲内の物性を有し、所定の粒度となるように粉砕及び分級された原料炭組成物と、アセチレンブラックとを混合した後、圧縮剪断応力が付与されることにより、原料炭組成物のボイド領域に存在する結晶子間の結合を切断することなく、原料炭組成物の粒子表面にアセチレンブラックが適度に埋め込まれた複合粉体を得ることができ、これらの複合粉体を炭化及び黒鉛化した場合、粒子表面に結晶子エッジが極めて少なく、且つ結晶化度の低い領域が導入された黒鉛材料を実現することが可能となる。
以上のとおり、本発明にかかる製造方法では、高度に発達した結晶構造中に、結晶化度の低い領域が導入された構造を有し且つ粒子表面にエッジ部の露出が少ない黒鉛材料を得ることができる。
本発明で用いる原料炭組成物は、重質油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理することで得ることができる。
重質油組成物の成分としては、流動接触分解装置のボトム油(流動接触分解残油、FCC DO)、流動接触分解残油から抽出した芳香族分、重質油に高度な水添脱硫処理を施した水素化脱硫油、減圧残油(VR)、脱硫脱瀝油、石炭液化油、石炭の溶剤抽出油、常圧残浚油、シェルオイル、タールサンドビチューメン、ナフサタールピッチ、エチレンボトム油、コールタールピッチ及びこれらを水素化精製した重質油等が挙げられる。これらの重質油は単独で用いても良く、二種類以上をブレンドして用いても良い。
ディレードコーキングプロセスによってコーキング処理した後に得られる原料炭組成物の物性として、H/C原子比が0.30〜0.50であり、且つマイクロ強度が7質量%〜17質量%のものを得る場合には、使用する重質油の性状に応じて二種類以上の重質油の配合比率を適宜調整すればよい。なお、重質油の性状は、原油の種類、原油から重質油が得られるまでの処理条件等によって変化する。
流動接触分解装置のボトム油は、原料油として減圧軽油を使用し、触媒を使用して分解反応を選択的に行わせ、高オクタン価のFCCガソリンを得る流動床式の流動接触分解する装置のボトム油である。原料油として使用される減圧軽油は、好ましくは、常圧蒸留残渣油を直接脱硫して得られる脱硫減圧軽油(好ましくは、硫黄分500質量ppm以下、15℃における密度0.8g/cm以上)である。
流動接触分解残油から抽出した芳香族分は、ジメチルホルムアミド等を用いて選択抽出し、芳香族分と飽和分に分離させたときの芳香族分である。
重質油に高度な水添脱硫処理を施した水素化脱硫油は、例えば、硫黄分1質量%以上の重質油を水素分圧10MPa以上で水素化脱硫処理して得られる硫黄分1.0質量%以下、窒素分0.5質量%以下、芳香族炭素分率(fa)0.1以上の重質油である。水素化脱硫油は、好ましくは、常圧蒸留残油を触媒存在下、水素化分解率が25%以下となるように水素化脱硫して得られる水素化脱硫油である。
減圧残油(VR)は、原油を常圧蒸留装置にかけて、ガス・軽質油・常圧残油を得た後、この常圧残油を、例えば、10Torr〜30Torrの減圧下、加熱炉出口温度320℃〜360℃の範囲で変化させて得られる減圧蒸留装置のボトム油である。
脱硫脱瀝油は、例えば、減圧蒸留残渣油等の油を、プロパン、ブタン、ペンタン、又はこれらの混合物等を溶剤として使用する溶剤脱瀝装置で処理し、そのアスファルテン分を除去し、得られた脱瀝油(DAO)を、間接脱硫装置(Isomax)等を用いて、好ましくは硫黄分0.05質量%〜0.40質量%の範囲までに脱硫したものである。
常圧残浚油は、原油を常圧蒸留装置にかけて、例えば、常圧下、加熱して、含まれる留分の沸点により、ガス・LPGやガソリン留分、灯油留分、軽質油留分、常圧残浚油に分けられる際に得られる留分の一つで、最も沸点の高い留分である。加熱温度は、原油の産地等により変動し、これらの留分に分留できるものであれば限定されないが、例えば原油を320℃に加熱する。
特に好ましい重質油組成物の例としては、(1)芳香族分率(芳香族指数)faが0.3〜0.65であること、(2)ノルマルパラフィン含有率が5質量%〜20質量%であること、(3)脱硫処理された脱瀝油が7質量%〜15質量%の範囲で含有されていること、の3つの条件が満たされた重質油組成物を挙げることができる。
重質油は高温処理されることによって、熱分解及び重縮合反応が起こり、メソフェーズと呼ばれる大きな液晶が中間生成物として生成する過程を経て生コークスが製造される。
このとき、(1)良好なバルクメソフェーズを生成する重質油成分と、(2)このバルクメソフェーズが重縮合して炭化及び固化する際に、メソフェーズを構成する六角網平面積層体の大きさを小さく制限する機能を有したガスを生じ得る重質油成分と、更に(3)その切断された六角網平面積層体どうしを結合させる成分が全て含有された原料油組成物を用いることが特に好ましい。(1)良好なバルクメソフェーズを生成する重質油成分が、芳香族指数faとして0.3〜0.65を与える成分であり、(2)ガスを生じ得る重質油成分が、ノルマルパラフィン含有率の5質量%〜20質量%に相当する成分であり、(3)六角網平面積層体どうしを結合させる成分が7質量%〜15質量%の範囲で含有された脱硫脱瀝油である。
このような重質油組成物が本発明の原料炭組成物の原料として好ましく使用される理由は、良好なバルクメソフェーズを生成する重質油成分により形成された結晶子の六角網平面が、相対的に小さなサイズに制限されることで、原料炭組成物中に適度に結晶子間の隙間を保持することができることに加え、脱硫脱瀝油が、隣接する結晶子間を適度に結合させるからである。
なお、原料炭組成物の製造に際して、脱硫脱瀝油を添加した例はなく、脱硫脱瀝油の含有が有効であることは驚きである。
芳香族炭素分率(芳香族指数)(fa)は、Knight法により求めることができる。Knight法では、炭素の分布を13C−NMR法による芳香族炭素のスペクトルとして3つの成分(A,A,A)に分割する。ここで、Aは芳香族環内部炭素数、置換されている芳香族炭素と置換されていない芳香族炭素の半分(13C−NMRの約40ppm〜60ppmのピークに相当)、Aは置換していない残りの半分の芳香族炭素(13C−NMRの約60ppm〜80ppmのピークに相当)Aは脂肪族炭素数(13C−NMRの約130ppm〜190ppmのピークに相当)であり、これらから、faは、下記式により求められる。
13C−NMR法が、ピッチ類の化学構造パラメータの最も基本的な量であるfaを定量的に求められる最良の方法であることは、文献(「ピッチのキャラクタリゼーション II. 化学構造」横野、真田、(炭素、1981(No.105)、p73〜81)に示されている。
また重質油組成物のノルマルパラフィンの含有率は、キャピラリーカラムが装着されたガスクロマトグラフによって測定した値を意味する。具体的には、ノルマルパラフィンの標準物質によって検定した後、上記溶出クロマトグラフィー法によって分離された非芳香族成分の試料をキャピラリーカラムに通して測定する。この測定値から重質油組成物の全質量を基準とした含有率が算出可能である。
重質油組成物の芳香族指数faが0.3未満では、重質油組成物からのコークスの収率が極端に低くなるほか、良好なバルクメソフェーズを形成することが出来ず、炭化及び黒鉛化しても結晶組織が発達し難いため好ましくない。また、faが0.65を超えると、生コークスの製造過程においてマトリックス中に急激にメソフェーズが多数発生し、主としてメソフェーズのシングル成長よりも、メソフェーズどうしの急激な合体が繰り返される。このためノルマルパラフィン含有成分によるガスの発生速度よりも、メソフェーズどうしの合体速度の方が速くなるため、バルクメソフェーズの六角網平面を小さなサイズに制限することが不可能となり好ましくない。
このように重質油組成物の芳香族指数faは0.3〜0.65の範囲が特に好ましい。faは重質油組成物の密度Dと粘度Vから算出可能であるが、密度Dは0.91g/cm〜1.02g/cm、粘度Vは10mm/sec.〜220mm/sec.の範囲の重質油組成物で、faが0.3〜0.65となるようなものが特に好ましい。
重質油組成物の中に適度に含まれるノルマルパラフィン成分は、前述の通り、コーキング処理時にガスを発生することで、バルクメソフェーズの大きさを、小さなサイズに制限する重要な役割を演じている。また、このガス発生は、小さなサイズに制限された隣接するメソフェーズどうしを一軸配向させ、系全体を選択的に配向させる機能も有している。ノルマルパラフィン含有成分の含有率が5質量%未満になると、メソフェーズが必要以上に成長し、巨大な炭素六角網平面が形成されてしまうため好ましくない。また20質量%を超えると、ノルマルパラフィンからのガス発生が過多となり、バルクメソフェーズの配向を逆に乱す方向に働く傾向があるため、炭化及び黒鉛化しても結晶組織が発達し難いため好ましくない。以上の通り、ノルマルパラフィン含有率は5質量%〜20質量%の範囲であることが特に好ましい。
脱硫脱瀝油は、前述の通り、隣接する六角網平面積層体を適度に結合させる役割を演じているが、重質油組成物の中の含有率として、7質量%〜15質量%の範囲であることが特に好ましい。7質量%未満の場合、又は15質量%を超える場合には、コーキング後に得られる重質油組成物のマイクロ強度が7質量%未満となる場合、又は17質量%を超える場合があるため好ましくない。
このような特徴を有した重質油組成物は、コークス化され、本発明の原料炭組成物が形成される。所定の条件を満たす重質油組成物をコークス化する方法としては、ディレードコーキング法が好ましい。より具体的には、コーキング圧力が制御された条件の下、ディレードコーカーによって重質油組成物を熱処理して生コークスを得る方法が好ましい。このときディレードコーカーの好ましい運転条件としては、圧力が0.1MPa〜0.8MPa、温度が400℃〜600℃である。
コーカーの運転圧力に好ましい範囲が設定されている理由は、ノルマルパラフィン含有成分より発生するガスの系外への放出速度を、圧力で制限することができるからである。前述の通り、メソフェーズを構成する炭素六角網平面のサイズは、発生するガスで制御するため、発生ガスの系内への滞留時間は、前記六角網平面の大きさを決定するための重要な制御パラメータとなる。また、コーカーの運転温度に好ましい範囲が設定されている理由は、本発明の効果を得るために調整された重質油から、メソフェーズを成長させるために必要な温度だからである。
このようにして得られた原料炭組成物は、所定の粒度となるように粉砕及び分級される。粒度としては、平均粒径として好ましくは30μm以下である。平均粒径は、レーザ回折式粒度分布計による測定に基づく。平均粒径が30μm以下である理由は、リチウムイオン二次電池の負極炭素材料として、一般的且つ好適に使用されている粒度だからである。さらに、好ましい平均粒径は5μm〜30μmである。平均粒径が5μmより小さい原料炭組成物の粉体と、アセチレンブラックとを混合し圧縮剪断応力を付与した場合、粒子が小さいため、十分に力学的エネルギーを付与することができず、アセチレンブラックを原料炭組成物の粒子表面に埋め込むことができないからである。
ここで、本発明のリチウムイオン二次電池の負極として使用される黒鉛材料の製造方法には、原料炭組成物の粉体とアセチレンブラックとを混合し圧縮剪断応力を付与する工程が含まれる。このとき付与する圧縮剪断応力には、圧縮応力と剪断応力のほか、衝突、摩擦、ずり応力等も含まれる。これらの応力が与える力学的エネルギーは、一般的な攪拌により得られるエネルギーより大きく、それらのエネルギーが、粒子表面に与えられることで、粒子形状の球形化や、粒子の複合化といったメカノケミカル現象と称される効果が発現する。原料炭組成物にメカノケミカル現象を起こさせるための機械的エネルギーを与えるには、剪断、圧縮、衝突等の応力を同時にかけることができる装置を用いればよく、特に装置の構造及び原理に限定されるものではない。たとえば、回転式のボールミルなどのボール型混練機、エッジランナー等のホイール型混練機、ハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所製)、メカノフュージョン(ホソカワミクロン社製)、ノビルタ(ホソカワミクロン社製)、COMPOSI(日本コークス工業社製)などがある。
圧縮剪断応力を付与する工程における製造条件は、使用する装置によっても異なるが、例えば、図4のような、回転するブレードの羽根(回転方向R1)31とハウジング32の間隙33で、粉体Pに圧密、圧縮応力が加わる構造の装置を用いる。
ノビルタ(ホソカワミクロン社製)を用いる場合には、ブレードの回転数が1500rpm〜5000rpm、処理時間を10分〜180分とするのが好ましい。回転数が1500rpmより小さいとき、もしくは処理時間が10分未満では原料炭組成物の粉体に十分な圧縮剪断応力を付与することができない。一方、180分より長い処理を行うと、原料炭組成物の粉体に過多な圧縮剪断応力が付与され、粒子形状が著しく変形するため好ましくない。
COMPOSI(日本コークス工業社製)を用いる場合には、周速度50m/s〜80m/sで処理時間を10分〜180分とするのが好ましい。周速度が50m/sより小さいとき、もしくは処理時間が10分未満では原料炭組成物の粉体に十分な圧縮剪断応力を付与することができない。一方、180分より長い処理を行うと、原料炭組成物の粉体に過多な圧縮剪断応力が付与され、粒子形状が著しく変形するため好ましくない。
メカノフュージョン(ホソカワミクロン社製)を用いる場合には、ブレードの回転数が500rpm〜3000rpm、処理時間を10分〜300分とするのが好ましい。回転数が500rpmより小さいとき、もしくは処理時間が10分未満では原料炭組成物の粉体に十分な圧縮剪断応力を付与することができない。一方、300分より長い処理を行うと、原料炭組成物の粉体に過多な圧縮剪断応力が付与され、粒子形状が著しく変形するため好ましくない。
ハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所製)を用いる場合には、周速度40m/s〜60m/sで処理時間を5分〜180分とするのが好ましい。この条件であれば、粒子形状を著しく変化させることなく、原料炭組成物の粉体に十分な圧縮剪断応力を付与することができるからである。
また、本出願における原料炭組成物を使用する場合、圧縮剪断応力を付与する表面処理時の制御温度として、好ましくは60℃〜250℃で行うことにより、原料炭組成物の粒子表面にアセチレンブラックが埋め込まれた複合粉体が得られる。特に、表面処理時の制御温度が120℃〜200℃での運転が望ましい。
このようにして原料炭組成物の粒子表面にアセチレンブラックが埋め込まれた複合粉体を、X線広角回折法によって得られる(112)回折線から算出されるLc(112)が4nm〜30nmとなるように炭化及び黒鉛化する。
炭化及び黒鉛化処理の方法は、特に限定されないが、通常は、窒素、アルゴン又はヘリウム等の不活性ガス雰囲気下で最高到達温度900℃〜1500℃、最高到達温度の保持時間0時間〜10時間で炭化(予備焼成)され、次いで同様な不活性ガス雰囲気下、最高到達温度2500℃〜3200℃、最高到達温度保持時間0時間〜100時間の加熱処理する方法を挙げることができる。
一般に、2800℃以上の黒鉛化温度で加熱処理された黒鉛材料は、結晶化が進行しており、負極として使用したリチウムイオン二次電池の容量は大きいが、溶媒共挿入による電解液の分解が生じ易いため、寿命特性が劣化する。しかしながら、本発明によれば、高度に発達した結晶構造中に結晶化度の低い領域が部分的に導入されているために、高い容量と高い寿命特性を両立できる。
本発明において、黒鉛材料の、X線広角回折法によって得られた(112)回折線から算出されるLc(112)が4nm〜30nmと規定された理由について説明する。
Lc(112)が4nm未満の黒鉛粒子では結晶組織が発達し難く、このような黒鉛材料を用いたリチウムイオン二次電池では容量が小さくなるため好ましくない。また、本発明における原料炭組成物を高温で長時間黒鉛化した場合においても、Lc(112)が30nmを超える大きさになることはなかったため、上限を30nmとした。
以上の通り、H/C原子比0.30〜0.50、且つマイクロ強度7質量%〜17質量%である原料炭組成物と、原料炭組成物に対して0.5質量%〜10質量%のアセチレンブラックとを混合し、圧縮剪断応力を付与することにより当該原料炭組成物の粒子表面にアセチレンブラックが埋め込まれた複合粉体を得た後、当該複合粉体を炭化及び黒鉛化することにより、X線広角回折法によって測定される(112)回折線の結晶子の大きさLc(112)が4nm〜30nmであり、且つ粒子表面の結晶組織に適度な乱れが導入され、且つエッジ面の露出が極めて少ない黒鉛材料を得ることができる。そして、このような黒鉛材料をリチウムイオン二次電池の負極材料に使用したとき、極めて高い信頼性を確保することが可能となる。
なお、従来、リチウムイオン電池の負極材料として、脱硫脱瀝油を原料として製造された黒鉛材料を使用した例は無い。本発明は、重質油組成の好ましい態様として脱硫脱瀝油を混合し、所定のH/C原子比及びマイクロ強度を有する原料炭組成物の粉体にアセチレンブラックを混合し、圧縮剪断応力を付与することにより得られる複合粉体を炭化及び黒鉛化することにより、所望の黒鉛材料を提供できる。
リチウムイオン二次電池用負極の製造方法としては特に限定されず、例えば、本出願に係る発明が適用された黒鉛材料、バインダー(結着剤)、必要に応じて導電助剤、有機溶媒を含む混合物(負極合剤)を、所定寸法に加圧成形する方法が挙げられる。また他の方法としては、本出願に係る発明が適用された黒鉛材料、バインダー(結着剤)、導電助剤等を有機溶媒中で混練・スラリー化し、当該スラリーを銅箔等の集電体上に塗布・乾燥したもの(負極合剤)を圧延し、所定の寸法に裁断する方法も挙げることが出来る。
バインダー(結着剤)としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンテレート、SBR(スチレンーブタジエンラバー)等を挙げることができる。負極合剤の中のバインダーの含有率は、黒鉛材料100質量部に対して1質量部〜30質量部程度を、電池の設計上、必要に応じて適宜設定すれば良い。
導電助剤としては、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック、又は導電性を示すインジウム−錫酸化物、又は、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン等の導電性高分子を挙げることができる。導電助剤の使用量は、黒鉛材料100質量部に対して1質量部〜15質量部が好ましい。
有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ピロリドン、N−メチルチオピロリドン、ヘキサメチルホスホアミド、ジメチルアセトアミド、イソプロパノール、トルエン等を挙げることができる。
黒鉛材料、バインダー、必要に応じて導電助剤、有機溶媒を混合する方法としては、スクリュー型ニーダー、リボンミキサー、万能ミキサー、プラネタリーミキサー等の公知の装置を用いることができる。該混合物は、ロール加圧、プレス加圧することにより成形されるが、このときの圧力は100MPa〜300MPa程度が好ましい。
集電体の材質については、リチウムと合金を形成しないものであれば、特に制限なく使用することが出来る。例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等を挙げることが出来る。また集電体の形状についても特に制限なく利用可能であるが、例示するとすれば、箔状、穴開け箔状、メッシュ状等にした帯状のものを挙げることができる。また、多孔性材料、例えばポーラスメタル(発泡メタル)やカーボンペーパーなども使用可能である。
前記スラリーを集電体に塗布する方法としては、特に限定されないが、例えば、メタルマスク印刷法、静電塗装法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、ダイコーター法など公知の方法を挙げることができる。塗布後は、必要に応じて平板プレス、カレンダーロール等による圧延処理を行うのが一般的である。
また、シート状、ペレット状等の形状に成形された負極材スラリーと集電体との一体化は、例えば、ロール、プレス、もしくはこれらの組み合わせ等、公知の方法により行うことができる。
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池負極用黒鉛材料を用いたリチウムイオン二次電池は、例えば、以上のようにして製造した負極と正極とが、セパレータを介して対向するように配置し、電解液を注入することにより得ることができる。
正極に用いる活物質としては、特に制限はなく、例えば、リチウムイオンをドーピング又はインターカレーション可能な金属化合物、金属酸化物、金属硫化物、又は導電性高分子材料を用いればよく、例示するのであれば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、リチウム複合複酸化物(LiCoNi、ここで、X+Y+Z=1であり、MはMn、Al等を示す)、及びこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの、リチウムバナジウム化合物、V、V13、VO、MnO、TiO、MoV、TiS、V、VS、MoS、MoS、Cr、Cr、オリビン型LiMPO(M:Co、Ni、Mn、Fe)、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセン等の導電性ポリマー、多孔質炭素等及びこれらの混合物を挙げることができる。
セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微多孔性フィルム又はそれらを組み合わせたものを使用することができる。なお、作製するリチウムイオン二次電池の正極と負極が直接接触しない構造にした場合は、セパレータを使用する必要はない。
リチウムイオン二次電池に使用する電解液及び電解質としては、公知の有機電解液、無機固体電解質、高分子固体電解質が使用できる。好ましくは、電気伝導性の観点から有機電解液が好ましい。
有機電解液としては、ジブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル等のエーテル、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド等のアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄化合物、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のジアルキルケトン、テトラヒドロフラン、2−メトキシテトラヒドロフラン等の環状エーテル、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状炭酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の鎖状炭酸エステル、N−メチル2−ピロリジノン、アセトニトリル、ニトロメタン等の有機溶媒を挙げることができる。これらの溶媒は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
これらの溶媒の溶質としては、各種リチウム塩を使用することができる。一般的に知られているリチウム塩にはLiClO、LiBF、LiPF、LiAlCl、LiSbF、LiSCN、LiCl、LiCFSO、LiCFCO、LiN(CFSO2、LiN(CSO等がある。
高分子固体電解質としては、ポリエチレンオキサイド誘導体及び該誘導体を含む重合体、ポリプロピレンオキサイド誘導体及び該誘導体を含む重合体、リン酸エステル重合体、ポリカーボネート誘導体及び該誘導体を含む重合体等が挙げられる。
なお、上記以外の電池構成上必要な部材の選択についてはなんら制約を受けるものではない。
リチウムイオン二次電池の構造は、特に限定されないが、帯状に成型された正極と負極とが、セパレータを介して渦巻状に巻回された巻回電極群を、電池ケースに挿入し、封口した構造や、平板状に成型された正極と負極とが、セパレータを介して順次積層された積層式極板群を外装体中に封入した構造とするのが一般的である。リチウムイオン二次電池は、例えば、ペーパー型電池、ボタン型電池、コイン型電池、積層型電池、円筒型電池、角形電池などとして使用される。
本発明の黒鉛材料を負極材料として使用したリチウムイオン二次電池は、従来の炭素材料を用いたリチウムイオン二次電池と比較して、極めて高度な信頼性を確保することが可能となるため、自動車用、具体的にはハイブリッド自動車用、プラグインハイブリッド自動車用、電気自動車用や、系統インフラの電力貯蔵用など産業用として利用することができる。
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明に係る第一の形態から第三の形態を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
1.原料炭組成物とその製造方法
(1)原料炭組成物A−1
硫黄分3.1質量%の常圧蒸留残油を、触媒存在下、水素化分解率が25%以下となるように水素化脱硫し、水素化脱硫油を得た。水素化脱硫条件は、全圧180MPa、水素分圧160MPa、温度380℃である。また、脱硫減圧軽油(硫黄分500質量ppm、15℃における密度0.88g/cm)を流動接触分解し、流動接触分解残油を得た。この流動接触分解残油を、ジメチルホルムアミドで選択抽出し、芳香族分と飽和分に分離させ、このうちの芳香族分を抽出した。この抽出芳香族分と水素化脱硫油とを質量比8:1で混合したものに、19質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、コークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物A−1を得た。
(2)原料炭組成物B−1
原料炭組成物A−1の原料油組成物が、抽出芳香族分と水素化脱硫油とを質量比8:1で混合したものに、11質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物B−1を得た。
(3)原料炭組成物C−1
原料炭組成物A−1の原料油組成物が、抽出芳香族分と水素化脱硫油とを質量比8:1で混合したものに、4質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物C−1を得た。
(4)原料炭組成物D−1
原料炭組成物A−1の原料油組成物が、抽出芳香族分と水素化脱硫油とを質量比6:1で混合したものに、17質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物D−1を得た。
(5)原料炭組成物E−1
原料炭組成物A−1の原料油組成物が、抽出芳香族分と水素化脱硫油とを質量比6:1で混合したものに、11質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物E−1を得た。
(6)原料炭組成物F−1
原料炭組成物A−1の原料油組成物が、抽出芳香族分と水素化脱硫油とを質量比6:1で混合したものに、6質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物F−1を得た。
(7)原料炭組成物G−1
原料炭組成物A−1の原料油組成物の原料となった水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:5で混合したものに、15質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物G−1を得た。
(8)原料炭組成物H−1
原料炭組成物A−1の原料油組成物の原料となった水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:5で混合したものに、7質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物H−1を得た。
(9)原料炭組成物I−1
原料炭組成物A−1の原料油組成物の原料となった水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:4で混合したものに、19質量%となるように脱硫脱瀝油を加えークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物I−1を得た。
(10)原料炭組成物J−1
原料炭組成物A−1の原料油組成物の原料となった水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:4で混合したものに、16質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物J−1を得た。
(11)原料炭組成物K−1
原料炭組成物A−1の原料油組成物の原料となった水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:4で混合したものに、11質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物K−1を得た。
(12)原料炭組成物L−1
原料炭組成物A−1の原料油組成物の原料となった水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:4で混合したものに、5質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物L−1を得た。
(13)原料炭組成物M−1
原料炭組成物A−1の原料油組成物の原料となった水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:4で混合したものに、3質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物M−1を得た。
(14)原料炭組成物N−1
原料炭組成物A−1の原料油組成物の原料となった水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:3で混合したものに、14質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物N−1を得た。
(15)原料炭組成物O−1
原料炭組成物A−1の原料油組成物の原料となった水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:3で混合したものに、7質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物O−1を得た。
(16)原料炭組成物P−1
原料炭組成物A−1の原料油組成物の原料となった流動接触分解残油に、同体積のn−ヘプタンを加え混合した後、ジメチルホルムアミドで選択抽出し、芳香族分と飽和分に分離させ、このうちの飽和分を選択抽出した。流動接触分解残油と、この抽出飽和分とを質量比1:1で混合したものに、16質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物P−1を得た。
(17)原料炭組成物Q−1
原料炭組成物P−1の原料油組成物の原料となった流動接触分解残油と、抽出飽和分とを質量比1:1で混合したものに、11質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物Q−1を得た。
(18)原料炭組成物R−1
原料炭組成物P−1の原料油組成物の原料となった流動接触分解残油と、抽出飽和分とを質量比1:1で混合したものに、6質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物R−1を得た。
(19)原料炭組成物S−1
原料炭組成物P−1の原料油組成物の原料となった流動接触分解残油と、抽出飽和分とを質量比1:2で混合したものに、19質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物S−1を得た。
(20)原料炭組成物T−1
原料炭組成物P−1の原料油組成物の原料となった流動接触分解残油と、抽出飽和分とを質量比1:2で混合したものに、10質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物T−1を得た。
(21)原料炭組成物U−1
原料炭組成物P−1の原料油組成物の原料となった流動接触分解残油と、抽出飽和分とを質量比1:2で混合したものに、4質量%となるように脱硫脱瀝油を加えコークスの原料油組成物を得た。この原料油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物U−1を得た。
2.原料炭組成物の分析
(1)原料炭組成物のH/C原子比の測定方法
原料炭組成物の全水素の測定は、試料を酸素気流中750℃で完全燃焼させ、燃焼ガスより生成した水分量を電量滴定法(カール・フィッシャー法)で測定した。また原料炭組成物試料を1150℃の酸素気流中で燃焼させ、二酸化炭素(一部一酸化炭素)に変換され過剰の酸素気流に搬送されてCO+CO赤外線検出器により、全炭素分を測定した。原料炭組成物のH/Cは、全水素分(TH(質量%))を水素の原子量を除した値と、全炭素分(TC(質量%))を炭素の原子量を除した値の比率で算出した。原料炭組成物A−1〜U−1のH/C値は表1に示された通りである。
(2)原料炭組成物のマイクロ強度の測定方法
鋼製シリンダー(内径25.4mm、長さ304.8mm)に20〜30メッシュの試料2gと直径5/16inch(7.9mm)の鋼球12個を入れ、鉛直面を管と直角方向に25rpmで800回転させたのち(すなわち、シリンダーを立てた状態から上下が入れ替わるように、回転軸を水平にして、あたかもプロペラが回転するように回転させる)、48メッシュでふるい分け、試料に対するふるい上の質量の割合を、パーセントで算出した。原料炭組成物A−1〜U−1のマイクロ強度は表1に示された通りである。
3.原料炭組成物A−1〜U−1の炭素化及び黒鉛化
得られた原料炭組成物を、機械式粉砕機(スーパーローターミル/日清エンジニアリング社製)で粉砕し、精密空気分級機(ターボクラシファイヤー/日清エンジニアリング社製)で分級することにより、平均粒子径12μmの微粒子材料を得た。次に、この微粒子を、ホソカワミクロン社製の「ノビルタ130型」へ、充填体積が500ccになるように投入し、ブレードの周速度30m/s、両者間の間隙5mm、処理温度は130℃程度にコントロールして、処理時間50分の条件で運転して圧縮応力と剪断応力を付与した黒鉛前駆体を得た。圧縮応力と剪断応力が付与された微粒子を、高砂工業社製のローラーハースキルンで、窒素ガス気流下、最高到達温度が1200℃、最高到達温度保持時間が5時間となるように炭素化した。得られた炭素材料を坩堝に投入し、電気炉に設置して、80L/分の窒素ガス気流中、最高到達温度2800℃で黒鉛化した。このとき昇温速度は200℃/時間、最高到達温度の保持時間は3時間、降温速度は1000℃までが100℃/時間とし、その後窒素気流を保持させた状態で室温まで放冷させた。得られた黒鉛材料は、原料炭組成物A−1〜U−1に対応させて、黒鉛A−1〜U−1と呼称する。
4.黒鉛V−1〜X−1の製造方法
原料炭組成物H−1、K−1、N−1を各々機械式粉砕機(スーパーローターミル/日清エンジニアリング社製)で粉砕し、精密空気分級機(ターボクラシファイヤー/日清エンジニアリング社製)で分級することにより、平均粒子径12μmの微粒子材料を得た。この微粒子を、圧縮応力と剪断応力を付加すること無しに、高砂工業社製のローラーハースキルンで、窒素ガス気流下、最高到達温度が1200℃、最高到達温度保持時間が5時間となるように炭素化した。得られた炭素材料を坩堝に投入し、電気炉に設置して、80L/分の窒素ガス気流中、最高到達温度2800℃で黒鉛化した。このとき昇温速度は200℃/時間、最高到達温度の保持時間は3時間、降温速度は1000℃までが100℃/時間とし、その後窒素気流を保持させた状態で室温まで放冷させた。得られた黒鉛材料は、原料炭組成物H−1、K−1、N−1に対応させて、黒鉛V−1、W−1、X−1と呼称する。
5.黒鉛Y−1及びZ−1の製造方法
原料炭組成物K−1を、「3.原料炭組成物A−1〜U−1の炭素化及び黒鉛化」に記載された方法と同様に黒鉛化した。ただし黒鉛化の最高到達温度を2600℃としたものを黒鉛Y−1、2300℃としたものを黒鉛Z−1と呼称する。
6.黒鉛粉末の結晶子の大きさLc(112)の算出
得られた黒鉛粉末に、内部標準としてSi標準試料を10質量%混合し、ガラス製回転試料ホルダー(25mmφ×0.2mmt)に詰め、日本学術振興会117委員会が定めた方法(炭素2006,No.221,P52−60)に基づき、広角X線回折法で測定を行い、黒鉛粉末の結晶子の大きさLc(112)を算出した。X線回折装置は、Bruker−AXS社製 D8 ADVANCE(封入管型)、X線源はCuKα線(Kβフ
ィルターNiを使用)、X線管球への印可電圧及び電流は40kV及び40mAとした。
得られた回折図形についても、日本学術振興会117委員会が定めた方法に準拠した方法(炭素2006,No.221,P52−60)で解析を行った。具体的には、測定データにスムージング処理、バックグラウンド除去の後、吸収補正、偏光補正、Lorentz補正を施し、Si標準試料の(422)回折線のピーク位置、及び値幅を用いて、黒鉛粉末の(112)回折線に対して補正を行い、結晶子サイズを算出した。なお、結晶子サイズは、補正ピークの半値幅から以下のScherrerの式を用いて計算した。測定・解析は3回ずつ実施し、その平均値をLc(112)とした。黒鉛粉末のLc(112)が測定された結果は、表1に示された通りである。
7.電池の作製と特性の評価方法
(1)電池の作製方法
図1に作製した電池の断面図を示す。正極は、正極材料である平均粒子径6μmのニッケル酸リチウム(戸田工業社製LiNi0.8Co0.15Al0.05)と結着剤のポリフッ化ビニリデン(クレハ社製KF#1320)、アセチレンブラック(デンカ社製のデンカブラック)を質量比で89:6:5に混合し、N−メチル−2−ピロリジノンを加えて混練した後、ペースト状にして、厚さ30μmのアルミニウム箔の片面に塗布し、乾燥及び圧延操作を行い、塗布部のサイズが、幅30mm、長さ50mmとなるように切断されたシート電極である。このとき単位面積当たりの塗布量は、ニッケル酸リチウムの質量として、10mg/cmとなるように設定した。
このシート電極の一部はシートの長手方向に対して垂直に正極合剤が掻き取られ、その露出したアルミニウム箔が塗布部の集電体(アルミニウム箔)と一体化して繋がっており、正極リード板としての役割を担っている。
負極は、負極材料である黒鉛A−1〜W−1の黒鉛粉末と結着剤のポリフッ化ビニリデン(クレハ社製KF#9310)、アセチレンブラック(デンカ社製のデンカブラック)を質量比で91:2:8に混合し、N−メチル−2−ピロリジノンを加えて混練した後、ペースト状にして、厚さ18μmの銅箔の片面に塗布し、乾燥及び圧延操作を行い、塗布部のサイズが、幅32mm、長さ52mmとなるように切断されたシート電極である。このとき単位面積当たりの塗布量は、黒鉛粉末の質量として、6mg/cmとなるように設定した。
このシート電極の一部はシートの長手方向に対して垂直に負極合剤が掻き取られ、その露出した銅箔が塗布部の集電体(銅箔)と一体化して繋がっており、負極リード板としての役割を担っている。
電池の作製は、正極、負極、セパレータ、及びその他部品を十分に乾燥させ、露点−100℃のアルゴンガスが満たされたグローブボックス内に導入して組み立てた。乾燥条件は、正極及び負極が減圧状態の下150℃で12時間以上、セパレータ及びその他部材が減圧状態の下70℃で12時間以上である。
このようにして乾燥された正極及び負極を、正極の塗布部と負極の塗布部とが、ポリポロピレン製のマイクロポーラスフィルム(セルガード社製#2400)を介して対向させる状態で積層し、ポリイミドテープで固定した。なお、正極及び負極の積層位置関係は、負極の塗布部に投影される正極塗布部の周縁部が、負極塗布部の周縁部の内側で囲まれるように対向させた。得られた単層電極体を、アルミラミネートフィルムで包埋させ、電解液を注入し、前述の正・負極リード板がはみ出した状態で、ラミネートフィルムを熱融着することにより、密閉型の単層ラミネート電池を作製した。使用した電解液は、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートが体積比で3:7に混合された溶媒にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)が1mol/Lの濃度となるように溶解されたものである。
(2)電池の評価方法
得られた電池を25℃の恒温室内に設置し、以下に示す充放電試験を行った。先ず1.5mAの電流で、電池電圧が4.2Vとなるまで定電流で充電した。10分間休止の後、同じ電流で電池電圧が3.0Vとなるまで定電流で放電する充放電サイクルを10回繰り返した。この充放電サイクルは、電池の異常を検地するためのものであるため、充放電サイクル試験のサイクル数には含まなかった。本実施例で作製された電池は、全て異常がないことを確認した。
次に、充電電流を15mA、充電電圧を4.2V、充電時間を3時間とした定電流/定電圧充電を行い、1分間休止の後、同じ電流(15mA)で電池電圧が3.0Vとなるまで定電流で放電させた。このとき得られた放電容量を、第1サイクル目の放電容量とする。同様な条件の充放電サイクルを3000回繰り返し、第1サイクル目の放電容量に対する第3000サイクル目の放電容量の割合(%)を算出し、「3000サイクル後の容量維持率(%)」とした。第1サイクル目の放電容量、第3000サイクル目の放電容量、及び3000サイクル後の容量維持率(%)を表1中に示す。
8.試験結果に関する考察
表1に原料炭組成物A−1〜U−1のH/C値、及びマイクロ強度と、その原料炭組成物A−1〜U−1に対応した黒鉛A−1〜Z−1の結晶子の大きさLc(112)、及びこれらを負極として使用したリチウムイオン二次電池の第1サイクル目の放電容量(mAh)、第3000サイクル目の放電容量(mAh)、3000サイクル後の容量維持率(%)を示す。
図2及び図3より、原料炭組成物が本発明の範囲内、即ちH/C値が0.3〜0.5であり、且つマイクロ強度が7〜17であるものに対し、圧縮応力と剪断応力を付与したあと黒鉛化したもの(G−1,H−1,K−1,N−1,O−1,Y−1,Z−1)は、3000サイクル後の放電容量維持率が85%以上となり、サイクル劣化が小さな信頼性の高いリチウムイオン二次電池を実現できることが分かった。なお、図2のグラフ中のX軸に垂直な破線は、X=0.3とX=0.5であり、図3のグラフ中のX軸に垂直な破線は、X=7とX=17である。
また原料炭組成物(H−1,K−1,N−1)を原料とした黒鉛化物の製造方法として、圧縮応力と剪断応力を付与しないで黒鉛化処理したもの(黒鉛V−1,W−1,X−1)を負極に使用した電池は、3000サイクル後の容量維持率が各々70.1%、74.3%、68.4%となり、圧縮応力と剪断応力を付与した対応する黒鉛化物(H−1,K−1,N−1)の場合(85%以上)と比較して、サイクル劣化が著しく大きくなった。原料炭組成物の物性は本出願の範囲内であっても、圧縮応力と剪断応力を付与しないで黒鉛化したものを負極に使用した電池はサイクル劣化が大きかったことから、原料炭組成物の物性が本出願の範囲内であることと、圧縮応力と剪断応力を付与することは、3000サイクル後の容量維持率として85%以上を確保するための必要条件であることが分かった。
黒鉛Y−1及びZ−1は、原料炭組成物K−1の黒鉛化処理温度を2600℃及び2300℃としたものである。2800℃処理された黒鉛K−1の結晶子の大きさLc(112)は、7.2nmであったのに対し、2600℃処理された黒鉛Y−1は4nm、2300℃処理された黒鉛Z−1は3.5nmであった。一方、これらを負極とした電池の第1サイクル目の放電容量は黒鉛K−1が18.8mAh、黒鉛Y−1が16.2mAh、黒鉛Z−1が13.5mAhであったことから、負極に使用される黒鉛の結晶子の大きさが小さいほど、電池容量が小さくなったことが分かる。このサイズの電池として、16mAhの容量を確保するためには、負極に使用される黒鉛材料の結晶子の大きさLc(112)が少なくとも4nm以上でなければならないことが理解できる。黒鉛Y−1及びZ−1とも、原料炭組成物の物性は本発明の範囲内で、且つ圧縮応力と剪断応力を付与した後に黒鉛化されているため、3000サイクル後の容量維持率は92%以上となり、極めてサイクル安定性の高い電池を実現できる負極黒鉛材料と見なすことができる。しかし、その結晶子の大きさが小さいため小さな容量の電池しか実現できないため好ましくないと判断できる。
以上の通り、粉砕及び分級された原料炭組成物に、圧縮応力と剪断応力を付与して得られる黒鉛前駆体を、X線広角回折法によって測定される(112)回折線の結晶子の大きさLc(112)が4nm以上となるように黒鉛化して得られた黒鉛材料であって、粉砕及び分級される原料炭組成物が、重質油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理されたものであり、且つ水素原子Hと炭素原子Cの比率、H/C原子比0.30〜0.50を有し、且つマイクロ強度7〜17質量%を有するときは、その黒鉛材料を負極として使用したリチウムイオン二次電池は、16mAh以上の容量が確保可能で、且つ充放電3000サイクル後の容量維持率が85%以上を達成することができた。
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明に係る第四の形態から第五の形態を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
1.原料炭組成物とその製造方法
(1)原料炭組成物A−2
硫黄分3.1質量%の常圧蒸留残油を、触媒存在下、水素化分解率が25%以下となるように水素化脱硫し、水素化脱硫油を得た。水素化脱硫条件は、全圧180MPa、水素分圧160MPa、温度380℃である。また、脱硫減圧軽油(硫黄分500質量ppm、15℃における密度0.88g/cm)を流動接触分解し、流動接触分解残油を得た。この流動接触分解残油を、ジメチルホルムアミドで選択抽出し、芳香族分と飽和分に分離させ、このうちの芳香族分を抽出した。この抽出芳香族分と水素化脱硫油とを質量比8:1で混合したものに、19質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物A−2を得た。
(2)原料炭組成物B−2
原料炭組成物A−2の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油の抽出芳香族分と水素化脱硫油とを質量比8:1で混合したものに、11質量%となるように脱硫脱瀝油を加え重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物B−2を得た。
(3)原料炭組成物C−2
原料炭組成物A−2の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油の抽出芳香族分と水素化脱硫油とを質量比8:1で混合したものに、4質量%となるように脱硫脱瀝油を加え重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物C−2を得た。
(4)原料炭組成物D−2
原料炭組成物A−2の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油の抽出芳香族分と水素化脱硫油とを質量比6:1で混合したものに、17質量%となるように脱硫脱瀝油を加え重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物D−2を得た。
(5)原料炭組成物E−2
原料炭組成物A−2の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油の抽出芳香族分と水素化脱硫油とを質量比6:1で混合したものに、11質量%となるように脱硫脱瀝油を加え重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物E−2を得た。
(6)原料炭組成物F−2
原料炭組成物A−2の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油の抽出芳香族分と水素化脱硫油とを質量比6:1で混合したものに、6質量%となるように脱硫脱瀝油を加え重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物F−2を得た。
(7)原料炭組成物G−2
原料炭組成物A−2の製造方法と同様にして得られた水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:5で混合したものに、15質量%となるように脱硫脱瀝油を加え重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物G−2を得た。
(8)原料炭組成物H−2
原料炭組成物A−2の製造方法と同様にして得られた水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:5で混合したものに、7質量%となるように脱硫脱瀝油を加え重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物H−2を得た。
(9)原料炭組成物I−2
原料炭組成物A−2の製造方法と同様にして得られた水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:4で混合したものに、19質量%となるように脱硫脱瀝油を加え重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物I−2を得た。
(10)原料炭組成物J−2
原料炭組成物A−2の製造方法と同様にして得られた水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:4で混合したものに、16質量%となるように脱硫脱瀝油を加え重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物J−2を得た。
(11)原料炭組成物K−2
原料炭組成物A−2の製造方法と同様にして得られた水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:4で混合したものに、11質量%となるように脱硫脱瀝油を加え重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物K−2を得た。
(12)原料炭組成物L−2
原料炭組成物A−2の製造方法と同様にして得られた水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:4で混合したものに、5質量%となるように脱硫脱瀝油を加え重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物L−2を得た。
(13)原料炭組成物M−2
原料炭組成物A−2の製造方法と同様にして得られた水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:4で混合したものに、3質量%となるように脱硫脱瀝油を加え重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物M−2を得た。
(14)原料炭組成物N−2
原料炭組成物A−2の製造方法と同様にして得られた水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:3で混合したものに、14質量%となるように脱硫脱瀝油を加え重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物N−2を得た。
(15)原料炭組成物O−2
原料炭組成物A−2の製造方法と同様にして得られた水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:3で混合したものに、7質量%となるように脱硫脱瀝油を加え重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物O−2を得た。
(16)原料炭組成物P−2
原料炭組成物A−2の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油に同体積のn−ヘプタンを加え混合した後、ジメチルホルムアミドで選択抽出し、芳香族分と飽和分に分離させ、このうちの飽和分を選択抽出した。流動接触分解残油と、この抽出飽和分とを質量比1:1で混合したものに、16質量%となるように脱硫脱瀝油を加え重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物P−2を得た。
(17)原料炭組成物Q−2
原料炭組成物A−2の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油と、原料炭組成物P−2の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油とn−ヘプタンの混合物の抽出飽和分とを質量比1:1で混合したものに、11質量%となるように脱硫脱瀝油を加え重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物Q−2を得た。
(18)原料炭組成物R−2
原料炭組成物A−2の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油と、原料炭組成物P−2の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油とn−ヘプタンの混合物の抽出飽和分とを質量比1:1で混合したものに、6質量%となるように脱硫脱瀝油を加え重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物R−2を得た。
(19)原料炭組成物S−2
原料炭組成物A−2の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油と、原料炭組成物P−2の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油とn−ヘプタンの混合物の抽出飽和分とを質量比1:2で混合したものに、19質量%となるように脱硫脱瀝油を加え重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物S−2を得た。
(20)原料炭組成物T−2
原料炭組成物A−2の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油と、原料炭組成物P−2の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油とn−ヘプタンの混合物の抽出飽和分とを質量比1:2で混合したものに、10質量%となるように脱硫脱瀝油を加え重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物T−2を得た。
(21)原料炭組成物U−2
原料炭組成物A−2の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油と、原料炭組成物P−2の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油とn−ヘプタンの混合物の抽出飽和分とを質量比1:2で混合したものに、4質量%となるように脱硫脱瀝油を加え重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物U−2を得た。
2.原料炭組成物の分析
(1)原料炭組成物のH/C原子比の測定方法
原料炭組成物の全水素の測定は、試料を酸素気流中750℃で完全燃焼させ、燃焼ガスより生成した水分量を電量滴定法(カール・フィッシャー法)で測定した。また原料炭組成物試料を1150℃の酸素気流中で燃焼させ、二酸化炭素(一部一酸化炭素)に変換され過剰の酸素気流に搬送されてCO+CO赤外線検出器により、全炭素分を測定した。原料炭組成物のH/Cは、全水素分(TH(質量%))を水素の原子量を除した値と、全炭素分(TC(質量%))を炭素の原子量を除した値の比率で算出した。原料炭組成物A−2〜U−2のH/C値は表2に示された通りである。
(2)原料炭組成物のマイクロ強度の測定方法
鋼製シリンダー(内径25.4mm、長さ304.8mm)に20〜30メッシュの試料2gと直径5/16inch(7.9mm)の鋼球12個を入れ、鉛直面を管と直角方向に25rpmで800回転させたのち(すなわち、シリンダーを立てた状態から上下が入れ替わるように、回転軸を水平にして、あたかもプロペラが回転するように回転させる)、48メッシュでふるい分け、試料に対するふるい上の質量の割合を、パーセントで算出した。原料炭組成物A−2〜U−2のマイクロ強度は表2に示された通りである。
3.実施例1の黒鉛材料の製造法
得られた原料炭組成物G−2を、機械式粉砕機(スーパーローターミル/日清エンジニアリング社製)で粉砕し、精密空気分級機(ターボクラシファイヤー/日清エンジニアリング社製)で分級することにより、平均粒径10μmの原料炭組成物の粉末を得た。次に、この粉末を、高砂工業社製のローラーハースキルンで、窒素ガス気流下、最高到達温度が1200℃、最高到達温度保持時間が5時間となるように炭化した。得られた炭素材料を坩堝に投入し、電気炉に設置して、80L/分の窒素ガス気流中、最高到達温度2800℃で黒鉛化した。このとき昇温速度は200℃/時間、最高到達温度の保持時間は3時間、降温速度は1000℃までが100℃/時間とし、その後窒素気流を保持させた状態で室温まで放冷させることにより黒鉛粒子を得た。得られた黒鉛粒子のX線広角回折法によって測定される(112)回折線の結晶子の大きさLc(112)は10.9nmであった。得られた黒鉛粒子を、ホソカワミクロン社製の「ノビルタ130型」へ、充填体積が500ccになるように投入し、ブレードの回転数を1300rpm、処理温度は130℃程度にコントロールして、処理時間15分の条件で運転して圧縮剪断応力を付与した黒鉛材料を得た。
実施例2〜11、比較例1〜16の黒鉛材料の製造法
表2に記載された原料炭組成物を、同表に記載された平均粒径に粉砕・分級し、実施例1に記載したものと同じ条件で炭化・黒鉛化し黒鉛粒子を得た。粉砕・分級および炭化・黒鉛化の装置は、実施例1と同じ装置を用いた。得られた黒鉛粒子に、同表に記載された装置および条件(回転数または周速度、処理時間)で表面処理を施した。
実施例12〜14の黒鉛材料の製造法
原料炭組成物H−2、K−2、N−2を、同表に記載された平均粒径に粉砕・分級し、実施例1に記載したものと同じ条件で炭化・黒鉛化し黒鉛粒子を得た。粉砕・分級および炭化・黒鉛化の装置は、実施例1と同じ装置を用いた。得られた黒鉛粒子に、同表に記載された装置および条件(回転数または周速度、処理時間)で表面処理を施した。その後、高砂工業社製のローラーハースキルンで、窒素ガス気流下、最高到達温度が1200℃、最高到達温度保持時間が3時間となるように熱処理した。
比較例17、18の黒鉛材料の製造法
原料炭組成物K−2を、同表に記載された平均粒径に粉砕・分級し、実施例1に記載したものと同じ条件で炭化・黒鉛化し黒鉛粒子を得た。比較例17では、黒鉛化の最高到達温度を2600℃、比較例18では、2300℃とした。粉砕・分級および炭化・黒鉛化の装置は、実施例1と同じ装置を用いた。得られた黒鉛粒子に、同表に記載された装置および条件(回転数または周速度、処理時間)で表面処理を施した。
4.黒鉛粒子の結晶子の大きさLc(112)の算出
得られた黒鉛粒子に、内部標準としてSi標準試料を10質量%混合し、ガラス製回転試料ホルダー(25mmφ×0.2mmt)に詰め、日本学術振興会117委員会が定めた方法(炭素2006,No.221,P52−60)に基づき、広角X線回折法で測定を行い、黒鉛粒子の結晶子の大きさLc(112)を算出した。X線回折装置は、Bruker−AXS社製 D8 ADVANCE(封入管型)、X線源はCuKα線(Kβフ
ィルターNiを使用)、X線管球への印可電圧及び電流は40kV及び40mAとした。
得られた回折図形についても、日本学術振興会117委員会が定めた方法に準拠した方法(炭素2006,No.221,P52−60)で解析を行った。具体的には、測定データにスムージング処理、バックグラウンド除去の後、吸収補正、偏光補正、Lorentz補正を施し、Si標準試料の(422)回折線のピーク位置、及び値幅を用いて、黒鉛粒子の(112)回折線に対して補正を行い、結晶子サイズを算出した。なお、結晶子サイズは、補正ピークの半値幅から以下のScherrerの式を用いて計算した。測定・解析は3回ずつ実施し、その平均値をLc(112)とした。黒鉛粒子のLc(112)が測定された結果は、表2に示された通りである。
5.電池の作製と特性の評価方法
(1)電池の作製方法
図1に作製した電池10の断面図を示す。図1には、負極11、負極集電体12、正極13、正極集電体14、セパレータ15、アルミラミネート外装16が示されている。
正極は、正極材料である平均粒子径6μmのニッケル酸リチウム(戸田工業社製LiNi0.8Co0.15Al0.05)と結着剤のポリフッ化ビニリデン(クレハ社製KF#1320)、アセチレンブラック(デンカ社製のデンカブラック)を質量比で89:6:5に混合し、N−メチル−2−ピロリジノンを加えて混練した後、ペースト状にして、厚さ30μmのアルミニウム箔の片面に塗布し、乾燥及び圧延操作を行い、塗布部のサイズが、幅30mm、長さ50mmとなるように切断されたシート電極である。このとき単位面積当たりの塗布量は、ニッケル酸リチウムの質量として、10mg/cmとなるように設定した。
このシート電極の一部はシートの長手方向に対して垂直に正極合剤が掻き取られ、その露出したアルミニウム箔が塗布部の集電体(アルミニウム箔)と一体化して繋がっており、正極リード板としての役割を担っている。
負極は、負極材料である前記実施例及び比較例で得られた黒鉛材料と結着剤のポリフッ化ビニリデン(クレハ社製KF#9310)、アセチレンブラック(デンカ社製のデンカブラック)を質量比で91:2:8に混合し、N−メチル−2−ピロリジノンを加えて混練した後、ペースト状にして、厚さ18μmの銅箔の片面に塗布し、乾燥及び圧延操作を行い、塗布部のサイズが、幅32mm、長さ52mmとなるように切断されたシート電極である。このとき単位面積当たりの塗布量は、黒鉛材料の質量として、6mg/cmとなるように設定した。
このシート電極の一部はシートの長手方向に対して垂直に負極合剤が掻き取られ、その露出した銅箔が塗布部の集電体(銅箔)と一体化して繋がっており、負極リード板としての役割を担っている。
電池の作製は、正極、負極、セパレータ、及びその他部品を十分に乾燥させ、露点−100℃のアルゴンガスが満たされたグローブボックス内に導入して組み立てた。乾燥条件は、正極及び負極が減圧状態の下150℃で12時間以上、セパレータ及びその他部材が減圧状態の下70℃で12時間以上である。
このようにして乾燥された正極及び負極を、正極の塗布部と負極の塗布部とが、ポリポロピレン製のマイクロポーラスフィルム(セルガード社製#2400)を介して対向させる状態で積層し、ポリイミドテープで固定した。なお、正極及び負極の積層位置関係は、負極の塗布部に投影される正極塗布部の周縁部が、負極塗布部の周縁部の内側で囲まれるように対向させた。得られた単層電極体を、アルミラミネートフィルムで包埋させ、電解液を注入し、前述の正・負極リード板がはみ出した状態で、ラミネートフィルムを熱融着することにより、密閉型の単層ラミネート電池を作製した。使用した電解液は、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートが体積比で3:7に混合された溶媒にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)が1mol/Lの濃度となるように溶解されたものである。
(2)電池の評価方法
得られた電池を25℃の恒温室内に設置し、以下に示す充放電試験を行った。まず充電電流を15mA、充電電圧を4.2V、充電時間を3時間とした定電流/定電圧充電を行い、1分間休止の後、同じ電流(15mA)で電池電圧が3.0Vとなるまで定電流で放電させた。同様の条件の充放電を5サイクル繰り返し、第5サイクル目の放電容量を「初期の放電容量」とした。第6サイクル目は、同様な条件で充電を行った状態で60℃の恒温室内に設置し30日間放置した。その後恒温室内を25℃に設定し、電池を5時間放置したのち放電した。その後前述した条件と同様な条件の充放電サイクルを5回繰り返し、第5サイクル目の放電容量を「60℃30日保持後の放電容量」とした。保存特性を表す指標として、「初期の放電容量」に対する「60℃30日間保持後の放電容量」の割合(%)を算出し、「60℃30日間保持後の容量維持率(%)」とした。初期の放電容量、60℃30日間保持後の放電容量、及び、60℃30日間保持後の容量維持率(%)を表2中に示す。
6.試験結果に関する考察
表2に実施例及び比較例における原料炭組成物のH/C値、及びマイクロ強度と、原料炭組成物の平均粒径、黒鉛粒子のLc(112)、表面処理条件、及び実施例及び比較例において得られた黒鉛材料を負極材料として使用したリチウムイオン二次電池の初期の放電容量(mAh)、60℃30日間保持後の放電容量(mAh)、60℃30日間保持後の容量維持率(%)を示す。
実施例1〜11において、原料炭組成物が本発明の範囲内、即ちH/C値として0.3〜0.5、且つマイクロ強度として7〜17となったもの(G−2,H−2,K−2,N−2,O−2)を粉砕・分級して原料炭組成物の粉末を得た後、炭化・黒鉛化して得られた黒鉛粒子は、本発明の請求の範囲内、すなわちX線広角回折によって得られた(112)回折線から算出される結晶子の大きさLc(112)が4nm〜30nmを満たした。これらの黒鉛粒子に圧縮剪断応力を付与して得られた黒鉛材料を負極材料として使用した電池の60℃30日間保持後の容量維持率が89%以上となり、保存特性に極めて優れたリチウムイオン二次電池を実現できることが分かった。
さらに、実施例12〜14において、H/C値として0.3〜0.5、且つマイクロ強度として7〜17である原料炭組成物(H−2,K−2,N−2)を粉砕・分級して原料炭組成物の粉末を得た後、炭化・黒鉛化して得られた黒鉛粒子は、本発明の請求の範囲内、すなわちX線広角回折によって得られた(112)回折線から算出される結晶子の大きさLc(112)が4nm〜30nmを満たした。これらの黒鉛粒子に圧縮剪断応力を付与することにより黒鉛材料を得た後、熱処理を施したものを負極材料として使用した電池の60℃30日間保持後の容量維持率は、熱処理を施さなかった場合(実施例2、3、4)と比べても更に高い容量維持率であった。この結果から、原料炭組成物(H−2,K−2,N−2)を黒鉛化した黒鉛粒子に圧縮剪断応力を付与して得られた黒鉛材料に熱処理を施す製造法は、容量維持率の向上に有効な手段であると言える。
比較例1〜16において用いた原料炭組成物は、本発明の範囲、即ちH/C値として0.3〜0.5、且つマイクロ強度として7〜17を満たさない。これらを粉砕・分級した後、炭化・黒鉛化して得られた黒鉛粒子に、圧縮剪断応力を付与して得られた黒鉛材料を負極材料として使用した電池の60℃30日間保持後の容量維持率は非常に低い値となった。
これらの結果から、重質油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理して得られる原料炭組成物を粉砕・分級し原料炭組成物の粉体を得る工程と、当該原料炭組成物の粉体を加熱して炭化物を得る工程と、当該炭化物を黒鉛化し、X線広角回折によって得られた(112)回折線から算出されるLc(112)が4nm〜30nmとなる黒鉛粒子を得る工程と、当該黒鉛粒子に圧縮剪断応力を付与し黒鉛材料を得る工程とを少なくとも含む、リチウムイオン二次電池負極用黒鉛材料の製造法において、原料炭組成物として水素原子Hと炭素原子Cの比率、H/C原子比が0.30〜0.50、且つマイクロ強度が7〜17質量%の範囲のものを使用することは、60℃30日間保持後の容量維持率が89%以上の高い保存特性を達成するリチウムイオン二次電池負極用の黒鉛材料を得るために、必要不可欠な条件であると言える。
比較例17、18では、原料炭組成物K−2の黒鉛化処理温度を2600℃及び2300℃としたものである。2800℃処理された黒鉛粒子K−2(実施例3)の結晶子の大きさLc(112)は、6.9nmであったのに対し、2600℃処理された比較例17で得られた黒鉛粒子のLc(112)は3.9nm、2300℃処理された比較例18で得られた黒鉛粒子のLc(112)は3.2nmであった。これらの黒鉛粒子に圧縮剪断応力を付与し黒鉛材料を得た後、これらを負極として用いたリチウムイオン二次電池の60℃30日間保持後の放電容量は、実施例3では16.4mAhであったのに対し、比較例17では15.0mAh、比較例18では14.8mAhであった。
これらの結果から、負極に使用される黒鉛の結晶子の大きさが小さいほど、電池容量が小さくなったことが分かる。このサイズの電池として、60℃30日間保持後の放電容量16mAhの容量を確保するためには、負極に使用される黒鉛材料の結晶子の大きさLc(112)が少なくとも4nm以上でなければならないことが理解できる。
比較例17、18とも、原料炭組成物の物性は本発明の範囲内であるため、容量維持率は90%以上となり、極めてサイクル安定性の高い電池を実現できる負極黒鉛材料と見なすことができる。しかし、その結晶子の大きさが小さいため小さな容量の電池しか実現できないため好ましくないと判断できる。
以上の通り、粉砕及び分級された原料炭組成物の粉末を炭化・黒鉛化して得られたX線広角回折法によって測定される(112)回折線の結晶子の大きさLc(112)が4nm以上である黒鉛粒子に、圧縮剪断応力を付与することにより得られたリチウムイオン二次電池負極用の黒鉛材料であって、上記原料炭組成物が、重質油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理されたものであり、且つ水素原子Hと炭素原子Cの比率、H/C原子比0.30〜0.50を有し、且つマイクロ強度7〜17質量%を有するときは、その黒鉛材料を負極材料として使用したリチウムイオン二次電池は、16mAh以上の容量が確保可能で、且つ60℃の恒温室内に設置し30日間放置した後の容量維持率として89%以上を達成することができた。
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明に係る第六の形態から第七の形態本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
1.原料炭組成物とその製造方法
(1)原料炭組成物A−3
硫黄分3.1質量%の常圧蒸留残油を、触媒存在下、水素化分解率が25%以下となるように水素化脱硫し、水素化脱硫油を得た。水素化脱硫条件は、全圧180MPa、水素分圧160MPa、温度380℃である。また、脱硫減圧軽油(硫黄分500質量ppm、15℃における密度0.88g/cm)を流動接触分解し、流動接触分解残油を得た。この流動接触分解残油を、ジメチルホルムアミドで選択抽出し、芳香族分と飽和分に分離させ、このうちの芳香族分を抽出した。この抽出芳香族分と水素化脱硫油とを質量比8:1で混合したものに、19質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物A−3を得た。
(2)原料炭組成物B−3
原料炭組成物A−3の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油の抽出芳香族分と水素化脱硫油とを質量比8:1で混合したものに、11質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物B−3を得た。
(3)原料炭組成物C−3
原料炭組成物A−3の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油の抽出芳香族分と水素化脱硫油とを質量比8:1で混合したものに、4質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物C−3を得た。
(4)原料炭組成物D−3
原料炭組成物A−3の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油の抽出芳香族分と水素化脱硫油とを質量比6:1で混合したものに、17質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物D−3を得た。
(5)原料炭組成物E−3
原料炭組成物A−3の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油の抽出芳香族分と水素化脱硫油とを質量比6:1で混合したものに、11質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物E−3を得た。
(6)原料炭組成物F−3
原料炭組成物A−3の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油の抽出芳香族分と水素化脱硫油とを質量比6:1で混合したものに、6質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物F−3を得た。
(7)原料炭組成物G−3
原料炭組成物A−3の製造方法と同様にして得られた水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:5で混合したものに、15質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物G−3を得た。
(8)原料炭組成物H−3
原料炭組成物A−3の製造方法と同様にして得られた水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:5で混合したものに、7質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物H−3を得た。
(9)原料炭組成物I−3
原料炭組成物A−3の製造方法と同様にして得られた水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:4で混合したものに、19質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物I−3を得た。
(10)原料炭組成物J−3
原料炭組成物A−3の製造方法と同様にして得られた水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:4で混合したものに、16質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物J−3を得た。
(11)原料炭組成物K−3
原料炭組成物A−3の製造方法と同様にして得られた水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:4で混合したものに、11質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物K−3を得た。
(12)原料炭組成物L−3
原料炭組成物A−3の製造方法と同様にして得られた水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:4で混合したものに、5質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物L−3を得た。
(13)原料炭組成物M−3
原料炭組成物A−3の製造方法と同様にして得られた水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:4で混合したものに、3質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物M−3を得た。
(14)原料炭組成物N−3
原料炭組成物A−3の製造方法と同様にして得られた水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:3で混合したものに、14質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物N−3を得た。
(15)原料炭組成物O−3
原料炭組成物A−3の製造方法と同様にして得られた水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:3で混合したものに、7質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物O−3を得た。
(16)原料炭組成物P−3
原料炭組成物A−3の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油に同体積のn−ヘプタンを加え混合した後、ジメチルホルムアミドで選択抽出し、芳香族分と飽和分に分離させ、このうちの飽和分を選択抽出した。流動接触分解残油と、この抽出飽和分とを質量比1:1で混合したものに、16質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物P−3を得た。
(17)原料炭組成物Q−3
原料炭組成物A−3の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油と、原料炭組成物P−3の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油とn−ヘプタンの混合物の抽出飽和分とを質量比1:1で混合したものに、11質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物Q−3を得た。
(18)原料炭組成物R−3
原料炭組成物A−3の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油と、原料炭組成物P−3の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油とn−ヘプタンの混合物の抽出飽和分とを質量比1:1で混合したものに、6質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物R−3を得た。
(19)原料炭組成物S−3
原料炭組成物A−3の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油と、原料炭組成物P−3の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油とn−ヘプタンの混合物の抽出飽和分とを質量比1:2で混合したものに、19質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物S−3を得た。
(20)原料炭組成物T−3
原料炭組成物A−3の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油と、原料炭組成物P−3の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油とn−ヘプタンの混合物の抽出飽和分とを質量比1:2で混合したものに、10質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物T−3を得た。
(21)原料炭組成物U−3
原料炭組成物A−3の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油と、原料炭組成物P−3の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油とn−ヘプタンの混合物の抽出飽和分とを質量比1:2で混合したものに、4質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物U−3を得た。
2.原料炭組成物の分析
(1)原料炭組成物のH/C原子比の測定方法
原料炭組成物の全水素の測定は、試料を酸素気流中750℃で完全燃焼させ、燃焼ガスより生成した水分量を電量滴定法(カール・フィッシャー法)で測定した。また原料炭組成物試料を1150℃の酸素気流中で燃焼させ、二酸化炭素(一部一酸化炭素)に変換され過剰の酸素気流に搬送されてCO+CO赤外線検出器により、全炭素分を測定した。原料炭組成物のH/Cは、全水素分(TH(質量%))を水素の原子量を除した値と、全炭素分(TC(質量%))を炭素の原子量を除した値の比率で算出した。原料炭組成物A−3〜U−3のH/C値は表3に示された通りである。
(2)原料炭組成物のマイクロ強度の測定方法
鋼製シリンダー(内径25.4mm、長さ304.8mm)に20メッシュ〜30メッシュの試料2gと直径5/16inch(7.9mm)の鋼球12個を入れ、鉛直面を管と直角方向に25rpmで800回転させたのち(すなわち、シリンダーを立てた状態から上下が入れ替わるように、回転軸を水平にして、あたかもプロペラが回転するように回転させる)、48メッシュでふるい分け、試料に対するふるい上の質量の割合を、パーセントで算出した。原料炭組成物A−3〜U−3のマイクロ強度は表1に示された通りである。
得られた原料炭組成物A−3〜U−3を、機械式粉砕機(スーパーローターミル/日清エンジニアリング社製)で粉砕し、精密空気分級機(ターボクラシファイヤー/日清エンジニアリング社製)で分級することにより、平均粒径14μmの原料炭組成物の粉体を得た。ここで、原料炭組成物の粉体の平均粒径は、堀場製作所製のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA950を用いて測定した。
3.カルサインコークスの製造方法
次に、カルサインコークスの製造方法を説明する。硫黄分3.1質量%の常圧蒸留残油を、触媒存在下、水素化分解率が25%以下となるように水素化脱硫し、水素化脱硫油を得た。水素化脱硫条件は、全圧180MPa、水素分圧160MPa、温度380℃である。また、脱硫減圧軽油(硫黄分500質量ppm、15℃における密度0.88g/cm)を流動接触分解し、流動接触分解残油を得た。この流動接触分解残油を、ジメチルホルムアミドで選択抽出し、芳香族分と飽和分に分離させ、このうちの芳香族分を抽出した。この抽出芳香族分と水素化脱硫油とを質量比8:1で混合して重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理した後、SUS304製のハンマーミル(ハンマー直径500mm)を用いて粒径2mm以上の粒子が0.1質量%となるように粗粉砕した後、ロータリーキルンを用い1400℃で炭化することによりカルサインコークスを得た。
得られたカルサインコークスを機械式粉砕機(スーパーローターミル/日清エンジニアリング社製)で粉砕し、精密空気分級機(ターボクラシファイヤー/日清エンジニアリング社製)で分級することにより、表3に記載の平均粒径を有するカルサインコークスの粉体を得た。ここで、カルサインコークスの平均粒径は、堀場製作所製のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA950を用いて測定した。
4.実施例15の黒鉛材料の製造方法
得られた原料炭組成物K−3の粉体と、平均粒径2.0μmのカルサインコークスとを、原料炭組成物K−3に対してカルサインコークスが0.5質量%となる比率で予め混合し、ホソカワミクロン社製の「ノビルタ130型」へ、充填体積が500ccになるように投入し、ブレードの回転数を3500rpm、処理温度は130℃程度にコントロールして、処理時間60分の条件で運転して圧縮剪断応力を付与することにより複合粉体を得た。
この複合粉体を、高砂工業社製のローラーハースキルンで、窒素ガス気流下、最高到達温度が1200℃、最高到達温度保持時間が5時間となるように炭化した。得られた炭素材料を坩堝に投入し、電気炉に設置して、80L/分の窒素ガス気流中、最高到達温度2800℃で黒鉛化した。このとき昇温速度は200℃/時間、最高到達温度の保持時間は3時間、降温速度は1000℃までが100℃/時間とし、その後窒素気流を保持させた状態で室温まで放冷させることにより黒鉛材料を得た。得られた黒鉛材料のX線広角回折法によって測定される(112)回折線の結晶子の大きさLc(112)は7.9nmであった。
実施例16〜31、比較例19〜46の黒鉛材料の製造方法
実施例16〜31、および比較例19〜46では、原料炭組成物A−3〜U−3の粉体と、カルサインコークスとを混合し、圧縮剪断応力を付与して複合粉体を得た後、実施例1と同様の条件により炭化及び黒鉛化して黒鉛材料を得た。カルサインコークスの平均粒径や混合量、圧縮剪断応力を付与する条件は、表3に示すとおりである。ここで、実施例16〜28、および比較例19〜46については、圧縮剪断応力を付与する装置として、ホソカワミクロン社製の「ノビルタ130型」を使用し、実施例29、30では、日本コークス工業社製の「COMPOSI CP−15」、そして、実施例31では、ホソカワミクロン社製の「メカノフュージョンAMS−Lab」を使用した。尚、表3において、「ノビルタ130型」を「N」と、「COMPOSI CP−15」を「C」、「メカノフュージョンAMS−Lab」を「M」と簡略化して表記した。圧縮剪断応力を付与する装置以外の装置は、全て実施例15に記載したものと同じ装置を使用した。
5.黒鉛材料の結晶子の大きさLc(112)の算出方法
得られた黒鉛材料に、内部標準としてSi標準試料を5質量%混合し、ガラス製試料ホルダー(25mmφ×0.2mmt)に詰め、日本学術振興会117委員会が定めた方法(炭素2006,No.221,P52−60)に基づき、広角X線回折法で測定を行い、炭素材料の結晶子の大きさLc(112)を算出した。X線回折装置は(株)リガク社製ULTIMA IV、X線源はCuKα線(KβフィルターNiを使用)、X線管球への印可電圧及び電流は40kV及び40mAとした。
得られた回折図形についても、日本学術振興会117委員会が定めた方法(炭素2006,No.221,P52−60)に準拠した方法で解析を行った。具体的には、測定データにスムージング処理、バックグラウンド除去の後、吸収補正、偏光補正、Lorentz補正を施し、Si標準試料の(422)回折線のピーク位置、及び値幅を用いて、黒鉛粉末の(112)回折線に対して補正を行い、結晶子サイズを算出した。なお、結晶子サイズは、補正ピークの半値幅から以下のScherrerの式を用いて計算した。測定・解析は3回ずつ実施し、その平均値をLc(112)とした。黒鉛材料のLc(112)が測定された結果は、表3に示された通りである。
6.電池の作製と特性の評価方法
(1)電池の作製方法
図1に作製した電池10の断面図を示す。図1には、負極11、負極集電体12、正極13、正極集電体14、セパレータ15、アルミラミネート外装16が示されている。
正極13は、正極材料である平均粒子径6μmのニッケル酸リチウム(戸田工業社製LiNi0.8Co0.15Al0.05)と、結着剤のポリフッ化ビニリデン(クレハ社製KF#1320)、およびアセチレンブラック(デンカ社製のデンカブラック)とを質量比で89:6:5に混合し、N−メチル−2−ピロリジノンを加えて混練した後、ペースト状にして、厚さ30μmのアルミニウム箔の片面に塗布し、乾燥及び圧延操作を行い、塗布部のサイズが、幅30mm、長さ50mmとなるように切断されたシート電極である。このとき単位面積当たりの塗布量は、ニッケル酸リチウムの質量として、10mg/cmとなるように設定した。
このシート電極の一部は、シートの長手方向に対して垂直に正極合剤が掻き取られ、その露出したアルミニウム箔が塗布部の正極集電体14(アルミニウム箔)と一体化して繋がっており、正極リード板としての役割を担っている。
負極11は、負極材料である前記実施例15〜31及び比較例19〜46で得られた黒鉛材料と、結着剤のポリフッ化ビニリデン(クレハ社製KF#9310)、およびアセチレンブラック(デンカ社製のデンカブラック)とを質量比で91:2:8に混合し、N−メチル−2−ピロリジノンを加えて混練した後、ペースト状にして、厚さ18μmの銅箔の片面に塗布し、乾燥及び圧延操作を行い、塗布部のサイズが、幅32mm、長さ52mmとなるように切断されたシート電極である。このとき単位面積当たりの塗布量は、黒鉛材料の質量として、6mg/cmとなるように設定した。
このシート電極の一部はシートの長手方向に対して垂直に負極合剤が掻き取られ、その露出した銅箔が塗布部の負極集電体12(銅箔)と一体化して繋がっており、負極リード板としての役割を担っている。
電池10の作製は、正極13、負極11、セパレータ15、及びその他部品を十分に乾燥させ、露点−100℃のアルゴンガスが満たされたグローブボックス内に導入して組み立てた。乾燥条件は、正極13及び負極11が減圧状態の下150℃で12時間以上、セパレータ15及びその他部材が減圧状態の下70℃で12時間以上である。
このようにして乾燥された正極13及び負極11を、正極13の塗布部と負極11の塗布部とが、ポリプロピレン製のマイクロポーラスフィルム(セルガード社製#2400)を介して対向させる状態で積層し、ポリイミドテープで固定した。なお、正極13及び負極11の積層位置関係は、負極11の塗布部に投影される正極塗布部の周縁部が、負極塗布部の周縁部の内側で囲まれるように対向させた。得られた単層電極体を、アルミラミネートフィルムで包埋させ、電解液を注入し、前述の正・負極リード板がはみ出した状態で、ラミネートフィルムを熱融着することにより、密閉型の単層ラミネート電池10を作製した。使用した電解液は、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートが体積比で3:7に混合された溶媒にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)が1mol/Lの濃度となるように溶解されたものである。
(2)電池の評価方法
得られた電池を25℃の恒温室内に設置し、以下に示す充放電試験を行った。
先ず1.5mAの電流で、電池電圧が4.2Vとなるまで定電流で充電した。10分間休止の後、同じ電流で電池電圧が3.0Vとなるまで定電流で放電する充放電サイクルを10回繰り返した。この充放電サイクルは、電池の異常を検知するための予備試験であるため、本実施例および比較例における充放電サイクル試験のサイクル数には含まれない。この予備試験により、本実施例および比較例で作製された電池は、全て異常がないことを確認した上で、以下の本試験を実施した。
本試験として、充電電流を15mA、充電電圧を4.2V、充電時間を3時間とした定電流/定電圧充電を行い、1分間休止の後、同じ電流(15mA)で電池電圧が3.0Vとなるまで定電流で放電させた。同様の条件の充放電を5サイクル繰り返し、第5サイクル目の放電容量を「初期放電容量」とした。第6サイクル目は、同様な条件で充電を行った状態で60℃の恒温室内に設置し60日間放置した。その後恒温室内を25℃に設定し、電池を5時間放置したのち放電した。その後前述した条件と同様な条件の充放電サイクルを5回繰り返し、第5サイクル目の放電容量を「60日間保持後の放電容量」とした。
保存特性を表す指標として、「初期放電容量」に対する「60℃保持後の放電容量」の
割合(%)を算出し、「60日間保持後の容量維持率」(%)とした。
試験結果に関する考察
表4に実施例および比較例に記載した黒鉛材料を用いて負極材料評価用セルおよび電池を作製し、電池特性を評価した際の「初期放電容量」(mAh)、「60日間保持後の放電容量」(mAh)、および「60日間保持後の容量維持率」(%)を示す。
実施例15〜31における黒鉛材料は、H/Cが0.30〜0.50、且つマイクロ強度が7質量%〜17質量%である条件を満たす原料炭組成物(G−3,H−3,K−3,N−3,O−3)と、平均粒径が0.1μm〜3.0μmのカルサインコークスとを、原料炭組成物に対してカルサインコークスが0.5質量%〜10質量%となる比率で混合し、圧縮剪断応力を付与することにより得られた複合粉体を炭化及び黒鉛化して得られたものである。これらの黒鉛材料は、結晶子の大きさLc(112)が4nm〜30nmを満たした(表3)。これらの黒鉛材料を負極として使用した電池の60日間保持後の容量維持率は89%以上であることから(表4)、本発明にかかる製造方法により製造した黒鉛材料を用いれば、寿命特性に極めて優れたリチウムイオン二次電池を実現できることが分かった。
比較例19〜34において用いた原料炭組成物は、H/Cが0.3〜0.5である条件、またはマイクロ強度が7質量%〜17質量%である条件のいずれか、あるいはこれらの条件の両方を満たさない組成物である。これらの原料炭組成物を用いて製造した黒鉛材料を負極材料として使用した場合、電池の60日間保持後の容量維持率は、およそ74%〜82%であり、実施例15〜31と比較して非常に低い値となった(表4)。
これらの結果から、重質油組成物をディレードコーキングプロセスによりコーキング処理して得られる原料炭組成物と、当該原料炭組成物に対して0.5質量%〜10質量%の平均粒径0.1μm〜3.0μmのカルサインコークスとの混合物に、圧縮剪断応力を付与して、当該原料炭組成物の粒子表面に当該カルサインコークスを埋め込んだ複合粉体を得る工程と、前記複合粉体を加熱して炭化物を得る工程と、前記炭化物を加熱して黒鉛化し、X線広角回折法によって測定される(112)回折線の結晶子の大きさであるLc(112)が4nm〜30nmである黒鉛材料とする工程と、を少なくとも含むリチウムイオン二次電池負極用の黒鉛材料の製造方法において、H/Cが0.30〜0.50であり、且つマイクロ強度が7質量%〜17質量%の範囲の原料炭組成物を使用することは、60℃で60日間保持後の容量維持率が89%以上の高い保存特性を達成するリチウムイオン二次電池負極用の黒鉛材料を得るために、必要不可欠な条件であると言える。
比較例35、36では、原料炭組成物K−3の粉体と平均粒径2.0μmのカルサインコークスとを、原料炭組成物に対してカルサインコークスが0.2質量%(比較例35)、0.4質量%(比較例36)となる比率で混合して圧縮剪断応力を付与することにより複合粉体を得た。これらの複合粉体を炭化及び黒鉛化して得られた黒鉛材料のLc(112)は、4nm〜30nmの範囲内であったものの、これらを負極として用いたリチウムイオン二次電池では、60日間保持後の容量維持率が70%弱と、実施例15〜31と比較して非常に低い値となった(表4)。
この理由として、原料炭組成物の粉体に混合するカルサインコークスの量が原料炭組成物に対して0.5質量%未満の場合、得られた黒鉛材料は、導入された結晶化度の低い領域が極わずかである。そのために、このような黒鉛材料を用いたリチウムイオン二次電池では、電解液の黒鉛層間への共挿入を抑制することができず、負極の漏れ電流が増大する結果、正極との漏れ電流との差が大きくなるため、正・負極の容量の作動領域が変化し、寿命特性が低下するものと考えられる。
比較例37、38では、原料炭組成物K−3の粉体と平均粒径2.0μmのカルサインコークスとを、原料炭組成物に対してカルサインコークスが11.0質量%(比較例37)、14.0質量%(比較例38)となる比率で混合して圧縮剪断応力を付与することにより複合粉体を得た。これらの複合粉体を炭化及び黒鉛化して得られた黒鉛材料のLc(112)は、4nm〜30nmの範囲内であったものの、これらを負極として用いたリチウムイオン二次電池では、容量維持率が70%以下と、実施例15〜31と比較して非常に低い値となった(表4)。
この理由として、原料炭組成物の粉体と混合するカルサインコークスの量が原料炭組成物に対して10質量%より多い場合、圧縮剪断応力を付与して得られる複合粉体は、原料炭組成物の粒子表面にカルサインコークスが付着した、表面の凹凸が非常に大きな複合粉体となり、この複合粉体を炭化及び黒鉛化して得られた黒鉛材料の比表面積が極端に大きくなる。そのため、このような黒鉛材料を用いたリチウムイオン二次電池では、負極における電解液の分解が増大し、負極の漏れ電流が増大する結果、正極との漏れ電流との差が大きくなるため、正・負極の容量の作動領域が変化し、寿命特性が低下するものと考えられる。
比較例39、40では、原料炭組成物K−3の粉体と平均粒径0.1μmのカルサインコークスとを、原料炭組成物に対してカルサインコークスが12.0質量%(比較例39)、0.2質量%(比較例40)となる比率で混合して圧縮剪断応力を付与することにより複合粉体を得た。これらの複合粉体では、原料炭組成物の粉体に混合したカルサインコークスの量が原料炭組成物に対して0.5質量%〜10質量%の範囲を満たさなかったために、これらの複合粉体を炭化及び黒鉛化して得られた黒鉛材料を負極として用いたリチウムイオン二次電池では、容量維持率は実施例15〜31と比較して非常に低い値となった(表4)。
一方、比較例39、40と同じ原料炭組成物K−3の粉体と平均粒径0.1μmのカルサインコークスとを、原料炭組成物に対してカルサインコークスが5.0質量%となる比率で(実施例19)混合して、圧縮剪断応力を付与して得られた複合粉体を炭化及び黒鉛化して得られた黒鉛材料を用いたリチウムイオン二次電池は、容量維持率が92%以上と高い値であった。
これらの結果より、本発明の製造方法において、原料炭組成物の粉体に平均粒径0.1μmのカルサインコークスを0.5質量%〜10質量%混合し、圧縮剪断応力を付与して得られた複合粉体を炭化及び黒鉛化することは、容量維持率が89%以上の高い寿命特性を達成するために、必要不可欠な条件であると言える。
比較例41〜46では、原料炭組成物K−3の粉体と、平均粒径が3.0μmより大きなカルサインコークスとを混合し、圧縮剪断応力を付与することにより複合粉体を得た。これらの複合粉体を炭化及び黒鉛化して得られた黒鉛材料のLc(112)は、4nm〜30nmの範囲内であったものの、これらを負極として用いたリチウムイオン二次電池では、60日間保持後の容量維持率が実施例15〜31と比較して非常に低い値となった(表4)。
この理由としては、以下のとおりと考えられる。すなわち、カルサインコークスの平均粒径が3.0μmより大きな場合、圧縮剪断応力を付与してもカルサインコークスが原料炭組成物の粒子表面に埋め込まれない。そのために、複合粉体としては、原料炭組成物の粒子表面にカルサインコークスが付着した、表面の凹凸が非常に大きなものが得られてしまい、この複合粉体を炭化及び黒鉛化すると、得られた黒鉛材料の比表面積が極端に大きくなる。そのため、これらの黒鉛材料を用いたリチウムイオン二次電池では、負極における電解液の分解が増大し、負極の漏れ電流が増大する結果、正極との漏れ電流との差が大きくなるため、正・負極の容量の作動領域が変化し、寿命特性が低下するものと考えられる。
一方、比較例41〜46と同じ原料炭組成物K−3の粉体と、平均粒径2.0μmのカルサインコークスとを、原料炭組成物に対してカルサインコークスが0.5質量%〜10.0質量%(実施例15〜18)となる比率で混合して、圧縮剪断応力を付与して得られた複合粉体を炭化及び黒鉛化して得られた黒鉛材料を用いたリチウムイオン二次電池は、容量維持率が91%以上と高い値であった(表4)。
これらの結果より、本発明の製造方法において、原料炭組成物の粉体と、平均粒径0.1μm〜3.0μmのカルサインコークスとを、原料炭組成物に対してカルサインコークスが0.5質量%〜10質量%混合し、圧縮剪断応力を付与して得られた複合粉体を炭化及び黒鉛化することは、容量維持率が89%以上の高い寿命特性を達成するために、必要不可欠な条件であると言える。
以上の通り、本発明にかかる製造方法により製造された黒鉛材料を負極として使用したリチウムイオン二次電池は、高い保存特性を達成することができた。
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明に係る第八の形態から第九の形態を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
1.原料炭組成物とその製造方法
(1)原料炭組成物A−4
硫黄分3.1質量%の常圧蒸留残油を、触媒存在下、水素化分解率が25%以下となるように水素化脱硫し、水素化脱硫油を得た。水素化脱硫条件は、全圧180MPa、水素分圧160MPa、温度380℃である。また、脱硫減圧軽油(硫黄分500質量ppm、15℃における密度0.88g/cm)を流動接触分解し、流動接触分解残油を得た。この流動接触分解残油を、ジメチルホルムアミドで選択抽出し、芳香族分と飽和分に分離させ、このうちの芳香族分を抽出した。この抽出芳香族分と水素化脱硫油とを質量比8:1で混合したものに、19質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物A−4を得た。
(2)原料炭組成物B−4
原料炭組成物A−4の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油の抽出芳香族分と水素化脱硫油とを質量比8:1で混合したものに、11質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物B−4を得た。
(3)原料炭組成物C−4
原料炭組成物A−4の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油の抽出芳香族分と水素化脱硫油とを質量比8:1で混合したものに、4質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物C−4を得た。
(4)原料炭組成物D−4
原料炭組成物A−4の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油の抽出芳香族分と水素化脱硫油とを質量比6:1で混合したものに、17質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物D−4を得た。
(5)原料炭組成物E−4
原料炭組成物A−4の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油の抽出芳香族分と水素化脱硫油とを質量比6:1で混合したものに、11質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物E−4を得た。
(6)原料炭組成物F−4
原料炭組成物A−4の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油の抽出芳香族分と水素化脱硫油とを質量比6:1で混合したものに、6質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物F−4を得た。
(7)原料炭組成物G−4
原料炭組成物A−4の製造方法と同様にして得られた水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:5で混合したものに、15質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物G−4を得た。
(8)原料炭組成物H−4
原料炭組成物A−4の製造方法と同様にして得られた水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:5で混合したものに、7質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物H−4を得た。
(9)原料炭組成物I−4
原料炭組成物A−4の製造方法と同様にして得られた水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:4で混合したものに、19質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物I−4を得た。
(10)原料炭組成物J−4
原料炭組成物A−4の製造方法と同様にして得られた水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:4で混合したものに、16質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物J−4を得た。
(11)原料炭組成物K−4
原料炭組成物A−4の製造方法と同様にして得られた水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:4で混合したものに、11質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物K−4を得た。
(12)原料炭組成物L−4
原料炭組成物A−4の製造方法と同様にして得られた水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:4で混合したものに、5質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物L−4を得た。
(13)原料炭組成物M−4
原料炭組成物A−4の製造方法と同様にして得られた水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:4で混合したものに、3質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物M−4を得た。
(14)原料炭組成物N−4
原料炭組成物A−4の製造方法と同様にして得られた水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:3で混合したものに、14質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物N−4を得た。
(15)原料炭組成物O−4
原料炭組成物A−4の製造方法と同様にして得られた水素化脱硫油と流動接触分解残油とを質量比1:3で混合したものに、7質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物O−4を得た。
(16)原料炭組成物P−4
原料炭組成物A−4の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油に同体積のn−ヘプタンを加え混合した後、ジメチルホルムアミドで選択抽出し、芳香族分と飽和分に分離させ、このうちの飽和分を選択抽出した。流動接触分解残油と、この抽出飽和分とを質量比1:1で混合したものに、16質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物P−4を得た。
(17)原料炭組成物Q−4
原料炭組成物A−4の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油と、原料炭組成物P−4の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油とn−ヘプタンの混合物の抽出飽和分とを質量比1:1で混合したものに、11質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物Q−4を得た。
(18)原料炭組成物R−4
原料炭組成物A−4の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油と、原料炭組成物P−4の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油とn−ヘプタンの混合物の抽出飽和分とを質量比1:1で混合したものに、6質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物R−4を得た。
(19)原料炭組成物S−4
原料炭組成物A−4の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油と、原料炭組成物P−4の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油とn−ヘプタンの混合物の抽出飽和分とを質量比1:2で混合したものに、19質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物S−4を得た。
(20)原料炭組成物T−4
原料炭組成物A−4の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油と、原料炭組成物P−4の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油とn−ヘプタンの混合物の抽出飽和分とを質量比1:2で混合したものに、10質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物T−4を得た。
(21)原料炭組成物U−4
原料炭組成物A−4の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油と、原料炭組成物P−4の製造方法と同様にして得られた流動接触分解残油とn−ヘプタンの混合物の抽出飽和分とを質量比1:2で混合したものに、4質量%となるように脱硫脱瀝油を加え(脱硫脱瀝油を含めた混合物全体で100質量%)、重質油組成物を得た。この重質油組成物をディレードコーカー装置に導入して、不活性ガス雰囲気下、550℃でコーキング処理し、原料炭組成物U−4を得た。
2.原料炭組成物の分析
(1)原料炭組成物のH/C原子比の測定方法
原料炭組成物の全水素の測定は、試料を酸素気流中750℃で完全燃焼させ、燃焼ガスより生成した水分量を電量滴定法(カール・フィッシャー法)で測定した。また原料炭組成物試料を1150℃の酸素気流中で燃焼させ、二酸化炭素(一部一酸化炭素)に変換され過剰の酸素気流に搬送されてCO+CO赤外線検出器により、全炭素分を測定した。原料炭組成物のH/Cは、全水素分(TH(質量%))を水素の原子量を除した値と、全炭素分(TC(質量%))を炭素の原子量を除した値の比率で算出した。原料炭組成物A−4〜U−4のH/C値は表5に示された通りである。
(2)原料炭組成物のマイクロ強度の測定方法
鋼製シリンダー(内径25.4mm、長さ304.8mm)に20メッシュ〜30メッシュの試料2gと直径5/16inch(7.9mm)の鋼球12個を入れ、鉛直面を管と直角方向に25rpmで800回転させたのち(すなわち、シリンダーを立てた状態から上下が入れ替わるように、回転軸を水平にして、あたかもプロペラが回転するように回転させる)、48メッシュでふるい分け、試料に対するふるい上の質量の割合を、パーセントで算出した。原料炭組成物A−4〜U−4のマイクロ強度は表5に示された通りである。
得られた原料炭組成物A−4〜U−4を、機械式粉砕機(スーパーローターミル/日清エンジニアリング社製)で粉砕し、精密空気分級機(ターボクラシファイヤー/日清エンジニアリング社製)で分級することにより、平均粒径15μmの原料炭組成物の粉体を得た。ここで、原料炭組成物の粉体の平均粒径は、堀場製作所製のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA950を用いて測定した。
3.実施例32の黒鉛材料の製造方法
得られた原料炭組成物K−4の粉体と、原料炭組成物K−4に対して0.5質量%のアセチレンブラック(デンカ社製のデンカブラック)とを予め混合し、ホソカワミクロン社製の「ノビルタ130型」へ、充填体積が500ccになるように投入し、ブレードの回転数を3500rpm、処理温度は130℃程度にコントロールして、処理時間60分の条件で運転して圧縮剪断応力を付与することにより複合粉体を得た。
この複合粉体を、高砂工業社製のローラーハースキルンで、窒素ガス気流下、最高到達温度が1200℃、最高到達温度保持時間が5時間となるように炭化した。得られた炭素材料を坩堝に投入し、電気炉に設置して、80L/分の窒素ガス気流中、最高到達温度2800℃で黒鉛化した。このとき昇温速度は200℃/時間、最高到達温度の保持時間は3時間、降温速度は1000℃までが100℃/時間とし、その後窒素気流を保持させた状態で室温まで放冷させることにより黒鉛材料を得た。得られた黒鉛材料のX線広角回折法によって測定される(112)回折線の結晶子の大きさLc(112)は7.2nmであった。
実施例33〜44、比較例47〜70の黒鉛材料の製造方法
実施例33〜44、および比較例47〜70では、原料炭組成物A−4〜U−4の粉体と、アセチレンブラック(デンカ社製のデンカブラック)とを混合し、圧縮剪断応力を付与して複合粉体を得た後、実施例32と同様の条件により炭化及び黒鉛化し黒鉛材料を得た。アセチレンブラックの混合量、圧縮剪断応力を付与する条件は、表5に示すとおりである。ここで、実施例33〜41、および比較例47〜70については、圧縮剪断応力を付与する装置として、ホソカワミクロン社製の「ノビルタ130型」を使用し、実施例42、43では、日本コークス工業社製の「COMPOSI CP−15」、そして、実施例44では、ホソカワミクロン社製の「メカノフュージョンAMS−Lab」を使用した。尚、表5において、「ノビルタ130型」を「N」と、「COMPOSI CP−15」を「C」、「メカノフュージョンAMS−Lab」を「M」と簡略化して表記した。圧縮剪断応力を付与する装置以外の装置は、全て実施例32に記載したものと同じ装置を使用した。
4.黒鉛材料の結晶子の大きさLc(112)の算出方法
得られた黒鉛材料に、内部標準としてSi標準試料を10質量%混合し、ガラス製試料ホルダー(25mmφ×0.2mmt)に詰め、日本学術振興会117委員会が定めた方法(炭素2006,No.221,P52−60)に基づき、広角X線回折法で測定を行い、炭素材料の結晶子の大きさLc(112)を算出した。X線回折装置は(株)リガク社製ULTIMA IV、X線源はCuKα線(KβフィルターNiを使用)、X線管球への印可電圧及び電流は40kV及び40mAとした。
得られた回折図形についても、日本学術振興会117委員会が定めた方法(炭素2006,No.221,P52−60)に準拠した方法で解析を行った。具体的には、測定データにスムージング処理、バックグラウンド除去の後、吸収補正、偏光補正、Lorentz補正を施し、Si標準試料の(422)回折線のピーク位置、及び値幅を用いて、黒鉛粉末の(112)回折線に対して補正を行い、結晶子サイズを算出した。なお、結晶子サイズは、補正ピークの半値幅から以下のScherrerの式を用いて計算した。測定・解析は3回ずつ実施し、その平均値をLc(112)とした。黒鉛材料のLc(112)が測定された結果は、表5に示された通りである。
5.電池の作製と特性の評価方法
(1)電池の作製方法
図1に作製した電池10の断面図を示す。図1には、負極11、負極集電体12、正極13、正極集電体14、セパレータ15、アルミラミネート外装16が示されている。
正極13は、正極材料である平均粒子径6μmのニッケル酸リチウム(戸田工業社製LiNi0.8Co0.15Al0.05)と、結着剤のポリフッ化ビニリデン(クレハ社製KF#1320)、およびアセチレンブラック(デンカ社製のデンカブラック)とを質量比で89:6:5に混合し、N−メチル−2−ピロリジノンを加えて混練した後、ペースト状にして、厚さ30μmのアルミニウム箔の片面に塗布し、乾燥及び圧延操作を行い、塗布部のサイズが、幅30mm、長さ50mmとなるように切断されたシート電極である。このとき単位面積当たりの塗布量は、ニッケル酸リチウムの質量として、10mg/cmとなるように設定した。
このシート電極の一部は、シートの長手方向に対して垂直に正極合剤が掻き取られ、その露出したアルミニウム箔が塗布部の正極集電体14(アルミニウム箔)と一体化して繋がっており、正極リード板としての役割を担っている。
負極11は、負極材料である前記実施例32〜44及び比較例47〜70で得られた黒鉛材料と、結着剤のポリフッ化ビニリデン(クレハ社製KF#9310)、およびアセチレンブラック(デンカ社製のデンカブラック)とを質量比で91:2:8に混合し、N−メチル−2−ピロリジノンを加えて混練した後、ペースト状にして、厚さ18μmの銅箔の片面に塗布し、乾燥及び圧延操作を行い、塗布部のサイズが、幅32mm、長さ52mmとなるように切断されたシート電極である。このとき単位面積当たりの塗布量は、黒鉛材料の質量として、6mg/cmとなるように設定した。
このシート電極の一部はシートの長手方向に対して垂直に負極合剤が掻き取られ、その露出した銅箔が塗布部の負極集電体12(銅箔)と一体化して繋がっており、負極リード板としての役割を担っている。
電池10の作製は、正極13、負極11、セパレータ15、及びその他部品を十分に乾燥させ、露点−100℃のアルゴンガスが満たされたグローブボックス内に導入して組み立てた。乾燥条件は、正極13及び負極11が減圧状態の下150℃で12時間以上、セパレータ15及びその他部材が減圧状態の下70℃で12時間以上である。
このようにして乾燥された正極13及び負極11を、正極13の塗布部と負極11の塗布部とが、ポリプロピレン製のマイクロポーラスフィルム(セルガード社製#2400)を介して対向させる状態で積層し、ポリイミドテープで固定した。なお、正極13及び負極11の積層位置関係は、負極11の塗布部に投影される正極塗布部の周縁部が、負極塗布部の周縁部の内側で囲まれるように対向させた。得られた単層電極体を、アルミラミネートフィルムで包埋させ、電解液を注入し、前述の正・負極リード板がはみ出した状態で、ラミネートフィルムを熱融着することにより、密閉型の単層ラミネート電池10を作製した。使用した電解液は、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートが体積比で3:7に混合された溶媒にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)が1mol/Lの濃度となるように溶解されたものである。
(2)電池の評価方法
得られた電池を25℃の恒温室内に設置し、以下に示す充放電試験を行った。
先ず1.5mAの電流で、電池電圧が4.2Vとなるまで定電流で充電した。10分間休止の後、同じ電流で電池電圧が3.0Vとなるまで定電流で放電する充放電サイクルを10回繰り返した。この充放電サイクルは、電池の異常を検知するための予備試験であるため、本実施例および比較例における充放電サイクル試験のサイクル数には含まれない。この予備試験により、本実施例および比較例で作製された電池は、全て異常がないことを確認した上で、以下の本試験を実施した。
本試験としては、上記予備試験後の電池を60℃の恒温室内に設置し5時間放置し、充放電試験を開始した。開始後第1サイクル目の放電容量を「初期放電容量」とした。75mAの電流で、電池電圧が4.2Vとなるまで定電流で充電し、1分間休止の後、同じ電流で電池電圧が3.0Vとなるまで定電流で放電する充放電サイクルを設定し、このサイクルを2000回繰り返した。充放電サイクルの容量維持率として、「初期放電容量」に対する「第2000サイクル目の放電容量」の割合(%)を算出し、「2000サイクル後の容量維持率」(%)とした。
試験結果に関する考察
表6に実施例および比較例に記載した黒鉛材料を用いて負極材料評価用セルおよび電池を作製し、電池特性を評価した際の「初期放電容量」(mAh)、「第2000サイクル目の放電容量」(mAh)、「2000サイクル後の容量維持率」(%)を示す。
実施例32〜44における黒鉛材料は、H/Cが0.30〜0.50、且つマイクロ強度が7質量%〜17質量%である条件を満たす原料炭組成物(G−4,H−4,K−4,N−4,O−4)と、原料炭組成物に対して0.5質量%〜10質量%のアセチレンブラックとを混合し、圧縮剪断応力を付与することにより得られた複合粉体を炭化及び黒鉛化して得られたものである。これらの黒鉛材料は、結晶子の大きさLc(112)が4nm〜30nmを満たした(表5)。これらの黒鉛材料を負極として使用した電池の2000サイクル後の容量維持率は89%以上であることから(表6)、本発明にかかる製造方法により製造した黒鉛材料を用いれば、寿命特性に極めて優れたリチウムイオン二次電池を実現できることが分かった。
比較例47〜62において用いた原料炭組成物は、H/C値が0.3〜0.5である条件、またはマイクロ強度が7質量%〜17質量%である条件のいずれか、あるいはこれらの条件の両方を満たさない組成物である。これらの原料炭組成物を用いて製造した黒鉛材料を負極材料として使用した場合、電池の2000サイクル後の容量維持率は、およそ75%〜82%であり、実施例32〜44と比較して非常に低い値となった(表6)。
これらの結果から、重質油組成物をディレードコーキングプロセスによりコーキング処理して得られる原料炭組成物と、当該原料炭組成物に対して0.5質量%〜10質量%のアセチレンブラックとの混合物に、圧縮剪断応力を付与して、当該原料炭組成物の粒子表面に当該アセチレンブラックを埋め込んだ複合粉体を得る工程と、前記複合粉体を加熱して炭化物を得る工程と、前記炭化物を加熱して黒鉛化し、X線広角回折法によって測定される(112)回折線の結晶子の大きさであるLc(112)が4nm〜30nmである黒鉛材料とする工程と、を少なくとも含むリチウムイオン二次電池負極用の黒鉛材料の製造方法において、原料炭組成物としてH/Cが0.30〜0.50であり、且つマイクロ強度が7質量%〜17質量%の範囲のものを使用することは、2000サイクル後の容量維持率が89%以上の高い寿命特性を達成するリチウムイオン二次電池負極用の黒鉛材料を得るために、必要不可欠な条件であると言える。
比較例63、64では、原料炭組成物Kの粉体と原料炭組成物に対して0.2質量%(比較例63)、0.4質量%(比較例64)のアセチレンブラックとを混合して圧縮剪断応力を付与することにより複合粉体を得た。これらの複合粉体を炭化及び黒鉛化して得られた黒鉛材料のLc(112)は、4nm〜30nmの範囲内であったものの、これらを負極として用いたリチウムイオン二次電池では、2000サイクル後の容量維持率70%弱と、実施例32〜44と比較して非常に低い値となった(表6)。
この理由として、原料炭組成物の粉体と混合するアセチレンブラックの量を原料炭組成物に対して0.5質量%未満の場合、得られた黒鉛材料では、導入された結晶化度の低い領域が極わずかである。そのために、このような黒鉛材料を用いたリチウムイオン二次電池では、電解液の黒鉛層間への共挿入を抑制することができず、負極の漏れ電流が増大する結果、正極との漏れ電流との差が大きくなるため、正・負極の容量の作動領域が変化し、寿命特性が低下するものと考えられる。
比較例65、66では、原料炭組成物Kの粉体と10.2質量%(比較例65)、13.0質量%(比較例66)のアセチレンブラックとを混合して圧縮剪断応力を付与することにより複合粉体を得た。これらの複合粉体を炭化及び黒鉛化して得られた黒鉛材料のLc(112)は、4nm〜30nmの範囲内であったものの、これらを負極として用いたリチウムイオン二次電池では、2000サイクル後の容量維持率が70%前後と、実施例32〜44と比較して非常に低い値となった(表6)。
この理由として、原料炭組成物の粉体と混合するアセチレンブラックの量が原料炭組成物に対して10質量%より多い場合、圧縮剪断応力を付与して得られる複合粉体は、原料炭組成物の粒子表面にアセチレンブラックが付着した、表面の凹凸が非常に大きな複合粉体となり、この複合粉体を炭化及び黒鉛化して得られた黒鉛材料の比表面積が極端に大きくなる。そのため、このような黒鉛材料を用いたリチウムイオン二次電池では、負極における電解液の分解が増大し、負極の漏れ電流が増大する結果、正極との漏れ電流との差が大きくなるため、正・負極の容量の作動領域が変化し、寿命特性が低下するものと考えられる。
一方、比較例63〜66と同じ原料炭組成物K−4の粉体と原料炭組成物に対して0.5質量%〜10質量%のアセチレンブラックとを混合した場合(実施例32〜35)、圧縮剪断応力を付与して得られた複合粉体を炭化及び黒鉛化して得られた黒鉛材料を用いたリチウムイオン二次電池は、2000サイクル後の容量維持率が90%以上と、比較例63〜66と比較して高い値であった。
比較例67〜70では、原料炭組成物H−4の粉体と原料炭組成物に対して0.1質量%、0.3質量%、10.5質量%、20.0質量%のアセチレンブラックとを混合して圧縮剪断応力を付与することにより複合粉体を得た。これらの複合粉体を炭化及び黒鉛化して得られた黒鉛材料のLc(112)は、4nm〜30nmの範囲内であったものの、これらを負極として用いたリチウムイオン二次電池では、2000サイクル後の容量維持率が低くなった。
一方、比較例67〜70と同じ原料炭組成物H−4の粉体と原料炭組成物に対して6.0質量%のアセチレンブラックとを混合した場合(実施例37)、圧縮剪断応力を付与して得られた複合粉体を炭化及び黒鉛化して得られた黒鉛材料を用いたリチウムイオン二次電池は、2000サイクル後の容量維持率が89.3%と、比較例67〜70と比較して高い値であった。
これらの結果より、本発明の製造方法において、原料炭組成物の粉体と、原料炭組成物に対して0.5質量%〜10質量%のアセチレンブラックとを混合し、圧縮剪断応力を付与して得られた複合粉体を炭化及び黒鉛化することは、容量維持率が89%以上の高い寿命特性を達成するために、必要不可欠な条件であると言える。
以上の通り、本発明にかかる製造法により製造された黒鉛材料を負極として使用したリチウムイオン二次電池は、高い寿命特性を達成することができた。
本発明に係る製造方法により製造した黒鉛材料を用いたリチウムイオン二次電池は、従来の黒鉛材料を用いたリチウムイオン二次電池と比較して、高度な保存特性を確保することは明らかである。そのため、自動車用、具体的にはハイブリッド自動車用、プラグインハイブリッド自動車用、電気自動車用や、系統インフラの電力貯蔵用など産業用として利用することができる。
10 電池
11 正極
12 正極集電体
13 負極
14 負極集電体
15 セパレータ
16 アルミラミネート外装
17 外装
30 装置
31 羽根
32 ハウジング
33 間隙
R1 回転方向
R2 回転方向
P 粉体

































Claims (6)

  1. 重質油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理して得られる原料炭組成物を粉砕及び分級する工程と、
    上記粉砕及び分級された原料炭組成物に圧縮応力と剪断応力を付与して黒鉛前駆体を得る工程と、
    上記黒鉛前駆体を加熱して黒鉛化し、X線広角回折法によって測定される(112)回折線の結晶子の大きさLc(112)が4nm以上となる黒鉛材料を得る工程と
    を少なくとも含むリチウムイオン二次電池負極用の黒鉛材料の製造方法であって、
    上記粉砕及び分級される原料炭組成物が、水素原子Hと炭素原子Cの比率、H/C原子比0.30〜0.50を有し、且つマイクロ強度7〜17質量%を有するリチウムイオン二次電池負極用の黒鉛材料の製造方法。
  2. 重質油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理して得られる原料炭組成物を粉砕及び分級して原料炭組成物の粉体を得る工程と、
    上記粉砕及び分級された原料炭組成物の粉体を加熱して炭化物を得る工程と、
    上記炭化物を加熱して黒鉛化し、X線広角回折法によって測定される(112)回折線の結晶子の大きさLc(112)が4nm以上となる黒鉛粒子を得る工程と、
    上記黒鉛粒子に圧縮剪断応力を付与し黒鉛材料を得る工程と
    を少なくとも含むリチウムイオン二次電池負極用の黒鉛材料の製造方法であって、
    上記粉砕及び分級される原料炭組成物が、水素原子Hと炭素原子Cの比率、H/C原子比0.30〜0.50を有し、且つマイクロ強度7〜17質量%を有するリチウムイオン二次電池負極用の黒鉛材料の製造方法。
  3. 重質油組成物をディレードコーキングプロセスによってコーキング処理して得られる原料炭組成物を粉砕及び分級して原料炭組成物の粉体を得る工程と、
    上記粉砕及び分級された原料炭組成物の粉体を加熱して炭化物を得る工程と、
    上記炭化物を加熱して黒鉛化し、X線広角回折法によって測定される(112)回折線の結晶子の大きさLc(112)が4nm以上となる黒鉛粒子を得る工程と、上記黒鉛粒子に圧縮剪断応力を付与し黒鉛材料を得る工程と、
    黒鉛材料に加熱処理を施す工程と
    を少なくとも含むリチウムイオン二次電池負極用の黒鉛材料の製造方法であって、
    上記粉砕及び分級される原料炭組成物が、水素原子Hと炭素原子Cの比率、H/C原子比0.30〜0.50を有し、且つマイクロ強度7〜17質量%を有するリチウムイオン二次電池負極用の黒鉛材料の製造方法。
  4. 重質油組成物をディレードコーキングプロセスによりコーキング処理して得られ、水素原子Hと炭素原子Cとの原子比であるH/Cが0.30〜0.50であり、且つマイクロ強度が7質量%〜17質量%である原料炭組成物と、当該原料炭組成物に対して0.5質量%〜10質量%の平均粒径0.1μm〜3.0μmのカルサインコークスとの混合物に、圧縮剪断応力を付与して、当該原料炭組成物の粒子表面に当該カルサインコークスを埋め込んだ複合粉体を得る工程と、
    前記複合粉体を加熱して炭化物を得る工程と、
    前記炭化物を加熱して黒鉛化し、X線広角回折法によって測定される(112)回折線の結晶子の大きさであるLc(112)が4nm〜30nmである黒鉛材料とする工程と、
    を少なくとも含むリチウムイオン二次電池負極用の黒鉛材料の製造方法。
  5. 重質油組成物をディレードコーキングプロセスによりコーキング処理して得られ、水素原子Hと炭素原子Cとの原子比であるH/Cが0.30〜0.50であり、且つマイクロ強度が7質量%〜17質量%である原料炭組成物と、当該原料炭組成物に対して0.5質量%〜10質量%のアセチレンブラックとの混合物に、圧縮剪断応力を付与して、当該原料炭組成物の粒子表面に当該アセチレンブラックを埋め込んだ複合粉体を得る工程と、
    前記複合粉体を加熱して炭化物を得る工程と、
    前記炭化物を加熱して黒鉛化し、X線広角回折法によって測定される(112)回折線の結晶子の大きさであるLc(112)が4nm〜30nmである黒鉛材料とする工程と、
    を少なくとも含むリチウムイオン二次電池負極用の黒鉛材料の製造方法。
  6. 上記重質油組成物が、水素化脱硫油、流動接触分解残油、及び脱硫脱瀝油からなる群から選ばれる2種類以上を含む請求項1〜5のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池負極用の黒鉛材料の製造方法。
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