本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、外部の駆動機構を用いることなく、車両からの入力振動に応じた防振特性の切り換えを、部品点数の増加を伴うことなくコンパクト且つ軽量に実現することができる、新規な構造の流体封入式防振装置を提供することにある。
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意な組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体および図面に記載されたもの、或いはそれらの記載から当業者が把握することの出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
すなわち、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第一の態様は、本体ゴム弾性体で弾性連結された第1の取付部材および第2の取付部材と、前記第2の取付部材によって支持された仕切部材と、前記仕切部材を挟んだ一方の側に位置して壁部の一部が該本体ゴム弾性体によって構成されて非圧縮性流体が封入された受圧室と、前記仕切部材を挟んだ他方の側に位置して壁部の一部が可撓性膜で構成されて前記非圧縮性流体が封入された平衡室と、前記仕切部材の外周部分を周方向に延びて前記受圧室と前記平衡室の間の流体流動を許容する第1のオリフィス通路と、前記仕切部材の中央部分に設けられた透孔に配設されて前記受圧室と前記平衡室の圧力が両側面に及ぼされる可動ゴム膜と、を備えている流体封入式防振装置において、前記仕切部材の前記透孔を画成する内周壁部には、前記第1のオリフィス通路を前記受圧室に連通する開口窓が貫設されている一方、前記可動ゴム膜の外周縁部には、前記平衡室側に向かって延びる筒状の周壁部が設けられており、該周壁部が前記開口窓内に嵌入されることなく前記仕切部材の前記内周壁部の内周面に対して重ね合わされて密接されることで該開口窓が該周壁部により覆蓋されていると共に、該周壁部の平衡室側端部が該仕切部材に固定されている一方、該周壁部の受圧室側端部が該可動ゴム膜の平衡室側への弾性変形に伴い該透孔の内周側に倒れ変形可能とされており、前記受圧室に所定値以上の圧力変動が生じた際に、前記可動ゴム膜の前記周壁部の受圧室側端部が前記透孔の内周側に倒れ変形して前記第1のオリフィス通路が前記開口窓を通じて前記受圧室に連通されるようになっているものである。
本態様によれば、受圧室の圧力変動に基づく可動ゴム膜の弾性変形を利用して、流体封入式防振装置の防振特性を切り替えることができる。具体的には、比較的振幅差の小さい高周波小振幅振動の入力時には、受圧室の圧力変動が所定値よりも小さいことから、可動ゴム膜の周壁部の受圧室側端部が仕切部材の内周壁部に密接したままとなり、開口窓が閉塞状態に維持される。従って、第1のオリフィス通路の開口窓を通じての受圧室への連通は発現されない。一方、比較的振幅差の大きな低周波大振幅振動の入力時には、受圧室の圧力変動が所定値以上となることから、可動ゴム膜の周壁部の受圧室側端部が透孔の内周側に倒れ変形して、第1のオリフィス通路の開口窓を通じた受圧室への連通が発現される。
例えば、第1のオリフィス通路の受圧室への連通を開口窓を通じてのみ実現するようにすれば、走行こもり音やアイドリング振動等の高周波小振幅の振動入力時には、第1のオリフィス通路は発現せず、可動ゴム膜の中央部分の受圧室側および平衡室側への弾性変形に基づき、それらの振動を吸収して低動ばねによる防振効果を発揮することができる。また、エンジンシェイク等の低周波大振幅の振動入力時には、可動ゴム膜の周壁部の受圧室側端部が倒れ変形して開口窓を通じて第1のオリフィス通路が受圧室側へ連通される。これにより、第1のオリフィス通路を通じた流体流動に基づく高減衰性能を発現することができる。
或いは、第1のオリフィス通路に開口窓以外に常時受圧室と連通する開口部を設けると共に、開口部を通じて受圧室に開口する第1のオリフィス通路の流路長さよりも開口窓を通じて受圧室に開口する第1のオリフィス通路の長さを短く設定することも可能である。この場合には、開口部を通じた第1のオリフィス通路の流体流動をアイドリング振動の一次モード振動(低次振動)にチューニングして、一次モード振動の入力時に、開口部を通じた第1のオリフィス通路の流体流動に基づき低動ばねによる防振効果を発現するようにする。そして、アイドリング振動の二次モード振動(高次振動)の入力時には、開口部を通じた長い第1のオリフィス通路の流動抵抗が大きくなることにより、受圧室の圧力変動が所定値以上となり、可動ゴム膜の周壁部の受圧室側端部が倒れ変形して開口窓を通じて第1のオリフィス通路が受圧室側へ連通される。これにより、開口窓を通じた第1のオリフィス通路、即ち、オリフィス長さが短く流動抵抗が小さくされた第1のオリフィス通路を通じた流体流動に基づく二次モード振動に対する低動ばねによる防振効果を発現するようにすることも可能である。
このように、本態様においては、受圧室の圧力変動に基づく可動ゴム膜の弾性変形を利用して、入力振動に応じた流体封入式防振装置の防振特性を切り替えることができる。従って、従来の如き、アクチュエータ等の外部機構を用いずに防振特性を切り替えることができ、広い周波数に対応した優れた防振効果を発現できる流体封入式防振装置を簡単な構造により軽量、コンパクト且つ低コストで実現できるのである。
なお、受圧室の圧力変動による可動ゴム膜の倒れ変形の程度をオリフィスの流動抵抗やチューニング周波等、目的とする防振特性を考慮して適宜に設定することが可能である。また、上述の例示からも明らかなように、第1のオリフィス通路は、受圧室に対して常時開口する開口部を通じて連通されているものや、開口窓を通じてのみ受圧室に連通されるものの、何れにおいても本発明の可動ゴム膜の弾性変形を利用した防振特性の切換え効果は発現可能であり、それらの何れの態様も本発明に含まれることは言うまでもない。
本発明の第二の態様は、前記第一の態様に記載の流体封入式防振装置において、前記周壁部の受圧室側端面が前記仕切部材に非当接状態とされており、前記周壁部の前記受圧室側端部が前記透孔の内周側に倒れ変形するに際しての該周壁部の該受圧室側端面の該仕切部材への干渉が回避されるようになっているものである。
本発明の第三の態様は、前記第一又は第二の態様に記載の流体封入式防振装置において、前記可動ゴム膜の前記周壁部の内周側には、前記透孔の内周側へ倒れ変形した該周壁部の該受圧室側端部が当接することで該可動ゴム膜の倒れ変形量を規制する当接部が前記仕切部材において設けられているものである。
本発明の第四の態様は、前記第一〜三の何れかの態様に記載の流体封入式防振装置において、前記仕切部材が、前記仕切部材の前記透孔を前記受圧室側および前記平衡室側の少なくとも一方から覆い、前記可動ゴム膜に対して隙間を隔てて対向配置されるカバー壁部を有しており、該カバー壁部に貫設された貫通孔により第2のオリフィス通路が形成されていると共に、該第2のオリフィス通路を通じて前記可動ゴム膜に対して前記受圧室および平衡室の少なくとも一方の圧力が及ぼされるようになっているものである。
本態様によれば、可動ゴム膜の弾性変形に伴い、第2のオリフィス通路を通じての流体流動が生ぜしめられることから、第2のオリフィス通路の径や長さを調節することにより、防振性能の設定を任意に行うことができる。
本発明の第五の態様は、前記第四の態様に記載の流体封入式防振装置において、前記仕切部材が、前記仕切部材の前記透孔を前記平衡室側から覆い、前記可動ゴム膜に対して隙間を隔てて対向配置される平衡室側カバー壁部を有しており、該平衡室側カバー壁部には、前記可動ゴム膜の前記周壁部の前記平衡室側端部が嵌め入れられて固定される嵌合溝が形成されている一方、該可動ゴム膜には、前記平衡室側カバー壁部に向かって突出するストッパ突起が設けられているものである。
本態様によれば、平衡室側カバー壁部に嵌合溝を設け、そこに可動ゴム膜の周壁部の平衡室側端部を嵌め入れるだけで、可動ゴム膜の周壁部の平衡室側端部を仕切部材に簡単に固定することができる。しかも、可動ゴム膜にストッパ突起が設けられていることから、可動ゴム膜の弾性変形に際して、ストッパ突起が平衡室側カバー壁部に当接することにより、可動ゴム膜の周壁部の過大な倒れ変形が阻止されて、可動ゴム膜の嵌合溝からの離脱を防止して、可動ゴム膜を透孔内に安定して位置決め保持できる。このように、本態様においては、受圧室の圧力変動に基づく可動ゴム膜の弾性変形を利用して、入力振動に応じた流体封入式防振装置の防振特性を切り替えることができる。従って、従来の如き、アクチュエータ等の外部機構を用いずに防振特性を切り替えることができ、広い周波数に対応した優れた防振効果を発現できる流体封入式防振装置を簡単な構造により軽量、コンパクト且つ低コストで実現できるのである。
本発明の流体封入式防振装置によれば、比較的振幅差の小さい高周波小振幅振動の入力時には、第1のオリフィス通路は発現せず、可動ゴム膜の中央部分の受圧室側および平衡室側への弾性変形に基づき、低動ばねによる防振効果を発揮することができる。また、エンジンシェイク等の低周波大振幅の振動入力時には、可動ゴム膜の周壁部の受圧室側端部が倒れ変形して開口窓を通じて第1のオリフィス通路が受圧室側へ連通され、流体流動に基づく高減衰性能を発現することができる。このように、アクチュエータ等の外部機構を用いずに防振特性を切り替えることができるので、広い周波数に対応した優れた防振効果を発現できる流体封入式防振装置を簡単な構造により軽量、コンパクト且つ低コストで実現できるのである。
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
先ず、図1〜3には、本発明の流体封入式防振装置に係る第一の実施形態としての自動車用エンジンマウント10が示されている。この自動車用エンジンマウント10は、金属製の第1の取付部材12と金属製の第2の取付部材14が本体ゴム弾性体16で連結された構造とされている。また、自動車用エンジンマウント10は、第1の取付部材12がパワーユニット側に取り付けられる一方、第2の取付部材14がボデー側に取り付けられることにより、パワーユニットをボデーに対して、他の図示しないエンジンマウント等と協働して防振支持せしめるようになっている。かかる装着状態下、自動車用エンジンマウント10には、パワーユニットの分担荷重の入力により本体ゴム弾性体16が弾性変形することに伴って、第1の取付部材12と第2の取付部材14が図1中の上下方向に所定量だけ接近して相対変位せしめられると共に、防振すべき主たる振動が、第1の取付部材12と第2の取付部材14の間に、図1中の略上下方向に入力されることとなる。なお、本実施形態の自動車用エンジンマウント10は、その装着状態下で、図1に示すように、マウント中心軸(第1及び第2の取付部材12,14の中心軸)が略鉛直方向とされることから、以下の説明中において、特に断りのない限り、図1中の上下方向を、上下方向とする。
より詳細には、第1の取付部材12は、略逆円錐台のブロック形状を有していると共に、大径側端面から中心軸上に穿設されたねじ穴18を備えている。このねじ穴18に螺着される図示しない固定ボルトにより、第1の取付部材12が、図示しないパワーユニットに固定されるようになっている。
一方、第2の取付部材14は、大径円筒形状を有する筒状部22を備えており、筒状部22の上側開口部には、屈曲等して、径方向内方に突出するくびれ部24が形成されていると共に、かかるくびれ部24の開口周縁部には、径方向外方に広がるフランジ状部26が一体形成されている。
そして、第1の取付部材12は、第2の取付部材14の軸方向上方に所定距離を隔てて略同一中心軸上に配設されており、これら第1の取付部材12と第2の取付部材14が、本体ゴム弾性体16によって弾性連結されている。
かかる本体ゴム弾性体16は、略円錐台形状とされており、軸方向上方に向かって次第に小径化するテーパ状の外周面を有している。そして、本体ゴム弾性体16に対して、その小径側端面から軸方向下方へ差し込まれた状態で、第1の取付部材12が加硫接着されている。また、本体ゴム弾性体16の大径側端部外周面には、第2の取付部材14の上端部内周面が加硫接着されている。要するに、本実施形態では、本体ゴム弾性体16が、第1の取付部材12の外周面と第2の取付部材14の内周面に対して、それぞれ加硫接着された一体加硫成形品とされている。
而して、かかる本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品においては、第2の取付部材14の軸方向上側の開口部が本体ゴム弾性体16で流体密に閉塞されており、軸方向下方に向かって開口する内部凹所30が形成されている。また、第2の取付部材14の筒状部22の内周面には、その略全面を覆うシールゴム層32が、本体ゴム弾性体16から一体的に延び出して形成されている。
さらに、この本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品における内部凹所30には、軸方向下方の開口部から、仕切部材36と、可撓性膜としてのダイヤフラム40が嵌め入れられて組み付けられて支持されている。そして、内部凹所30の開口(第2の取付部材14の下側開口)がダイヤフラム40で流体密に閉塞されて、本体ゴム弾性体16とダイヤフラム40の軸方向対向面間に流体室42が画成されている。また、かかる流体室42が仕切部材36で仕切られて二分されており、仕切部材36の上方には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成された受圧室44が形成されていると共に、仕切部材36の下方には、壁部の一部がダイヤフラム40で構成された平衡室46が形成されている。
ここにおいて、ダイヤフラム40は、変形容易なように弛みを持たせた薄肉円板形状のゴム膜で構成されており、その外周縁部には、略円環板形状を有するリング金具50が加硫接着されている。そして、このリング金具50が第2の取付部材14の下端開口部に内挿されてかしめ固定されることにより、ダイヤフラム40が第2の取付部材14に固着されて、第2の取付部材14の軸方向下方の開口部が流体密に閉塞されて流体室42が形成されている。また、この流体室42には、水やアルキレングリコール,ポリアルキレングリコール,シリコーン油等の非圧縮性流体が封入されている。なお、封入流体として、好適には、0.1Pa・s以下の低粘性流体が採用される。
また、仕切部材36は、図1に示されているように、薄肉円環板形状の本体仕切板52に対して、上面側に薄肉円板形状の受圧室側カバー壁部54が重ね合わされて固定された複合構造を有している。なお、これら本体仕切板52と受圧室側カバー壁部54は、合成樹脂材料や金属材料等の硬質材で形成することが出来る。
また、本体仕切板52の外周縁部には、外周面に開口して周方向に一周以下の長さで連続して延びる周溝56が形成されている。この周溝56の外周面への開口は、第2の取付部材14への組付状態下において筒状部22で覆蓋されている。また、周溝56の周方向一方の端部において、仕切部材36の後述する透孔64を画成する内周壁部65には、後述する透孔64および貫通孔90を通じて受圧室44に開口する開口窓58が貫設されていると共に、周溝56の周方向他方の端部には、平衡室46側に開口する連通孔60が形成されている。これにより、仕切部材36の外周部分を周方向に延びて受圧室44と平衡室46を相互に連通し得る第1のオリフィス通路62が形成されている。なお、第1のオリフィス通路62の通路長さや断面積等は、第1のオリフィス通路62の内部を流動せしめられる流体の共振周波数が、防振すべきエンジンシェイクに相当する低周波数域となるようにチューニングされている。
また、本体仕切板52の中央部分には、受圧室44側に開口する円形の透孔64が形成されている。また透孔64の底部には、透孔64を平衡室46側から覆う平衡室側カバー壁部66が、本体仕切板52から延び出して一体的に形成されている。また平衡室側カバー壁部66には、複数の貫通孔68が板厚方向に貫設されており、本実施形態においては、各貫通孔68の形状や配置等は受圧室側カバー壁部54に設けられた後述する貫通孔88と同形状とされている。さらに平衡室側カバー壁部66の受圧室44側の外周縁部には、後述する可動ゴム膜74の周壁部76の平衡室側端部80が嵌め入れられて固定される嵌合溝70が全周に亘って連続して設けられている。
さらに、本体仕切板52の透孔64と平衡室側カバー壁部66に囲まれた収容凹所72には、可動ゴム膜74が収容配置されている。かかる可動ゴム膜74は、全体として円板形状を有しており、特に本実施形態では、外周縁部の全周に亘って縦長の矩形断面で連続して延びる筒状の周壁部76が一体形成されている。この周壁部76は、可動ゴム膜74の外周縁部の受圧室44側および平衡室46側の両側に向って突設されており、受圧室側端部78よりも平衡室側端部80においてその突出高さが大きくされている。また可動ゴム膜74の中心部にも、受圧室側カバー壁部54に向かって突出する中央突起82と平衡室側カバー壁部66に向かって突出するストッパ突起84が形成されており、中央突起82は受圧室側端部78よりも、またストッパ突起84は平衡室側端部80よりもその突出高さが小さくされている。
そして、可動ゴム膜74は、軸直角方向に広がるようにして収容凹所72に組み付けられており、可動ゴム膜74の周壁部76の平衡室側端部80が、平衡室側カバー壁部66の嵌合溝70に対して全周に亘って嵌め入れられて固定されている。そして、この組付状態下において、受圧室側カバー壁部54および本体仕切板52の平衡室側カバー壁部66が、可動ゴム膜74に対して隙間を隔てて対向配置されている。
一方、受圧室側カバー壁部54は、薄肉の略円板形状を有しており、中央部分には、円形状を有する浅底の凹み部86が形成されている。そして、かかる凹み部86の底部には、複数(本実施形態においては、4つ)の貫通孔88が板厚方向に貫設されている。各貫通孔88は、略1/4周に亘って広がる略円弧形状とされており、4つの貫通孔88が、凹み部86の底部の周方向で略等しい間隔をもって配設されている。また、受圧室側カバー壁部54の外周縁部内方には、透孔64の周縁部を開口し且つ周方向に延びる略円弧形状の貫通孔90が形成されている。このような構成とされた受圧室側カバー壁部54は、本体仕切板52に対して重ね合わされ固定されて、仕切部材36を構成するようになっている。
この受圧室側カバー壁部54が本体仕切板52に組み付けられた状態下で、可動ゴム膜74の周壁部76が、本体仕切板52側の嵌合溝70に嵌め入れられて係合保持されていると共に、受圧室側カバー壁部54と僅かな隙間を隔てて対向配置されている。これにより、可動ゴム膜74の周壁部76は、平衡室側端部80が仕切部材36に固定されている一方、受圧室側端部78が透孔64の内周側に倒れ変形可能とされた状態で、仕切部材36に有利に保持されている。特に、本実施形態では、本体仕切板52の透孔64を画成する内周壁部65においても当接保持されていることにより、一層強固に仕切部材36に保持できるのである。また、これにより、可動ゴム膜74の周壁部76が仕切部材36の内周壁部65に密接されて、内周壁部65に貫設された開口窓58が可動ゴム膜74の周壁部76により覆蓋されて、周壁部76が内周側に倒れ変形しない限り、受圧室44と平衡室46を相互に連通する第1のオリフィス通路62が発現されないようになっている。
そして、可動ゴム膜74は、その上面が、受圧室側カバー壁部54に形成された貫通孔88を通じて受圧室44に露呈されており、この貫通孔88を通じての露呈面に対して受圧室44の圧力が直接的に及ぼされるようになっている。また、可動ゴム膜74の下面は、本体仕切板52の平衡室側カバー壁部66に形成された貫通孔68を通じて平衡室46に露呈されており、この貫通孔68を通じての露呈面に対して平衡室46の圧力が直接的に及ぼされるようになっている。
このような構造とされた本実施形態の自動車用エンジンマウント10によれば、例えばアイドリング振動や走行こもり音等の高周波小振幅振動が入力された場合には、第1のオリフィス通路62は閉塞されていることから、受圧室44と平衡室46から可動ゴム膜74の上下面に及ぼされる圧力差に基づいて上下方向に対して弾性変形される。すなわち、受圧室側カバー壁部54に貫設された貫通孔88により形成された受圧室側の第2のオリフィス通路92および平衡室側カバー壁部66に貫設された貫通孔68により形成された平衡室側の第2のオリフィス通路94を通じて、可動ゴム膜74に対して受圧室44および平衡室46の圧力が及ぼされるようになっており、可動ゴム膜74の上下方向に対する弾性変形により、受圧室44に生じる所定値よりも小さな圧力変動を平衡室46で吸収するようになっている。その結果、高周波小振幅振動の入力時における防振性能の向上が図られることとなる。
また一方、例えばエンジンシェイク等の低周波大振幅の振動が入力されることに伴い、受圧室44に所定値以上の圧力変動が生ぜしめられた際には、受圧室44と平衡室46の圧力差に基づいてより大きな圧力が可動ゴム膜74に及ぼされ、可動ゴム膜74の中心部が平衡室46側に大きく膨らむように弾性変形される。その結果、図2に示されているように、可動ゴム膜74の周壁部76の受圧室側端部78が透孔64の内周側となる可動ゴム膜74の中心方向に倒れ込むような弾性変形が許容されることとなり、それに伴って開口窓58が貫通孔90を通じて受圧室44に連通されて、第1のオリフィス通路62が発現される。
この第1のオリフィス通路62が発現すると、受圧室44から平衡室46への直接の流体流動が許容されることとなるから、第1のオリフィス通路62を通じた流体流動に基づく低周波大振幅振動に対する高減衰効果が発揮される。なお、図2からも明らかなように、可動ゴム膜74の周壁部76の過度の倒れ変形は、周壁部76の受圧室側端部78と受圧室側カバー壁部54の凹み部86への当接によって規制されるようになっている。
以上述べてきたように、本実施形態によれば、受圧室44の圧力変動に基づく可動ゴム膜74の弾性変形を利用して、自動車用エンジンマウント10の防振特性を切り替えることができる。具体的には、走行こもり音やアイドリング振動等の高周波小振幅の振動入力時には、受圧室44の圧力変動が所定値よりも小さいことから、可動ゴム膜74の周壁部76の外周縁部が仕切部材36の収容凹所72の内周壁部65に密接したままとなり、開口窓58が閉塞状態に維持される。従って、第1のオリフィス通路62の貫通孔90を通じての受圧室44への連通は発現されず、可動ゴム膜74の中央部分の受圧室44側および平衡室46側への弾性変形に基づき、それらの振動を吸収して低動ばねによる防振効果を発揮することができる。一方、エンジンシェイク等の低周波大振幅の振動入力時には、受圧室44の圧力変動が所定値以上となることから、可動ゴム膜74の周壁部76の受圧室側端部78が可動ゴム膜74の平衡室46側への弾性変形に伴い透孔64の内周側に倒れ変形して、第1のオリフィス通路62の開口窓58を通じた受圧室44への連通が発現される。これにより、第1のオリフィス通路62を通じた流体流動に基づく高減衰性能を発現することができる。
このように、本実施形態では、受圧室44の圧力変動に基づく可動ゴム膜74の弾性変形を利用して、入力振動に応じた自動車用エンジンマウント10の防振特性を切り替えることができる。従って、従来の如き、アクチュエータ等の外部機構を用いずに防振特性を切り替えることができ、広い周波数に対応した優れた防振効果を発現できる流体封入式防振装置を簡単な構造により軽量、コンパクト且つ低コストで実現できるのである。
また、本実施形態では、可動ゴム膜74の弾性変形に伴い、第2のオリフィス通路92,94を通じての流体流動が生ぜしめられることから、第2のオリフィス通路92,94の大きさや形状を調節することにより、防振性能の設定を任意に行うことができる。
さらに、本実施形態では、平衡室側カバー壁部66に嵌合溝70を設け、そこに可動ゴム膜74の周壁部76の平衡室側端部80を嵌め入れるだけで、可動ゴム膜74の周壁部76の平衡室側端部80を仕切部材36に簡単に固定することができる。しかも、可動ゴム膜74にストッパ突起84が設けられていることから、可動ゴム膜74の弾性変形に際して、ストッパ突起84が平衡室側カバー壁部66に当接することにより、可動ゴム膜74の周壁部76の過大な倒れ変形が阻止されて、可動ゴム膜74の嵌合溝70からの離脱を防止して、可動ゴム膜74を透孔64内に安定して位置決め保持できる。
次に、本発明の流体封入式防振装置に係る第二の実施形態としての自動車用エンジンマウント100を例示するが、以下に挙げる実施形態において、第一の実施形態と同様な構造とされた部材および部位については、図中に、第一の実施形態と同一の符号を付することにより、それらの詳細な説明を省略する。
すなわち、図4〜6には、本発明の第二の実施形態としての自動車用エンジンマウント100が示されている。かかる自動車用エンジンマウント100は、(i)第1のオリフィス通路62に開口窓58以外に常時受圧室44と連通する開口部102を設けられている点と、(ii)開口部102を通じて受圧室44に開口する第1のオリフィス通路62の流路長さ:L1よりも貫通孔90を通じて受圧室44に開口する第1のオリフィス通路62の流路長さ:L2を短く設定されている点に関して、第一の実施形態と異なる実施形態を示すものである。
より詳細には、第1の実施形態で述べたように、周溝56の周方向一方の端部には、平衡室46側に開口する連通孔60が形成されている一方、周溝56の周方向他方の端部には、連通孔104が設けられている。さらに連通孔104を覆う受圧室側カバー壁部54には略矩形状の開口部102が形成されており、開口部102を介して連通孔104が受圧室44側に常時開口されている。これにより、仕切部材36の外周部分を周方向に延びて受圧室44と平衡室46を相互に常時連通する第1のオリフィス通路62が構成されている。一方、第1の実施形態で述べた、貫通孔90を通じて受圧室44に開口する開口窓58は、本実施形態においては、周溝56の周方向の略中央部分に設けられている(図6参照)。これにより、可動ゴム膜74の弾性変形により周壁部76が内周側に倒れ変形すると、第1のオリフィス通路62は開口窓58を通じて受圧室44に開口することとなり、第1のオリフィス通路62の流路長さが、倒れ変形前のL1に対して略半分程度のL2に短くされる(図7参照)。
このように、本発明の第2の実施形態によれば、第1のオリフィス通路62に開口窓58以外に常時受圧室44と連通する開口部102を設けると共に、可動ゴム膜74の周壁部76の倒れ変形を利用して、開口窓58を通じて受圧室44に開口させることにより第1のオリフィス通路62の流路長さを短い寸法:L2に切り替えることができる。このような特性を利用して、例えば、開口部102を通じた長さL1の第1のオリフィス通路62の流体流動をアイドリング振動の一次モード振動(低次振動)にチューニングして、一次モード振動の入力時に、開口部102を通じた第1のオリフィス通路62の流体流動に基づき低動ばねによる防振効果を発現するようにすることができる。そして、アイドリング振動の二次モード振動(高次振動)の入力時には、開口部102を通じた長さL1の第1のオリフィス通路62の流動抵抗が大きくなることにより、受圧室44の圧力変動が所定値以上となり、可動ゴム膜74の周壁部76の受圧室側端部78が透孔64の内周側に倒れ変形して開口窓58が受圧室44に開口する。これにより、開口窓58を通じて受圧室44に開口する長さL2の第1のオリフィス通路62、即ち、オリフィス長さが短く流動抵抗が小さくされた第1のオリフィス通路62が発現され、長さL2の第1のオリフィス通路62を通じた流体流動に基づく二次モード振動に対する低動ばねによる防振効果を発現するようにすることが可能となる。
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、これらはあくまでも例示であって、本発明は、これら実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものでない。
例えば、開口窓58を開口させる程度に可動ゴム膜74の周壁部76を倒れ変形させるのに必要な受圧室44の圧力変動の所定値の設定は、オリフィス通路62,92,94の流動抵抗やチューニング周波等、目的とする防振特性を考慮して適宜に設定することが可能である。また、上述の例示からも明らかなように、第1のオリフィス通路62は、受圧室44に対して常時開口する開口部102を通じて連通されているものや、開口窓58を通じてのみ受圧室44に連通されるものの、何れにおいても本発明の可動ゴム膜74の弾性変形を利用した防振特性の切換え効果は発現可能であり、それらの何れの態様も本発明に含まれることは言うまでもない。
また、可動ゴム膜74の中央突起82は、受圧室側カバー壁部54に当接されていたが、隙間を隔てて対向配置されていてもよい。これにより、可動ゴム膜74の中央部での上下方向での微小変形が許容されて、防振効果の向上が期待できる。また、受圧室側カバー壁部54は、中央部分に凹み部86が無い平らな円板形状であってもよい。
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。