以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1〜3には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第一の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、加硫成形品12に液封カセット14が取り付けられた構造を有している。以下の説明において、特に説明がない限り、上下方向とはエンジンマウント10の軸方向である図1中の上下方向を、左右方向とは後述する仕切部材32の長手方向である図1中の左右方向を、前後方向とは後述する仕切部材32の短手方向である図2中の左右方向を、それぞれ言う。
より詳細には、加硫成形品12は、第一の取付部材16と第二の取付部材18が、本体ゴム弾性体20によって相互に弾性連結された構造とされている。第一の取付部材16は、金属や合成樹脂などで形成された高剛性の部材であって、下方へ向けて小径となる略円錐台形状を有していると共に、上端部には外周へ突出するフランジ状部分が全周に亘って一体形成されている。また、第一の取付部材16には、上下にのびて上面に開口するねじ孔22が形成されている。
第二の取付部材18は、金属や合成樹脂などで形成された高剛性の部材であって、大径の矩形環状とされており、上下方向視で左右方向の寸法が前後方向の寸法よりも大きくされている。また、第二の取付部材18の内周面は、上下中間部分に段差24が形成されて、段差24よりも上部の内法が下部よりも小さくなっていると共に、段差24よりも上部において、下方に向けて軸直内方へ傾斜するテーパ面26が設けられている。
そして、第一の取付部材16が第二の取付部材18に対して同一中心軸上で上下に離れて配置されて、それら第一の取付部材16と第二の取付部材18が本体ゴム弾性体20によって弾性連結されている。本体ゴム弾性体20は、上方に向けて小さくなる略四角錐台形状を有しており、上端部が第一の取付部材16に加硫接着されていると共に、下端部の外周面が第二の取付部材18に加硫接着されている。
さらに、本体ゴム弾性体20の下部には、凹所28が形成されている。凹所28は、下方に向けて拡開する逆向きの略すり鉢形状を呈しており、第二の取付部材18の内周側で本体ゴム弾性体20の下面に開口している。更にまた、凹所28の開口周縁部には、下方へのび出すシールゴム層30が本体ゴム弾性体20と一体形成されて、第二の取付部材18における段差24および段差24よりも下部の内周面がシールゴム層30で全周に亘って覆われている。
また、本体ゴム弾性体20の加硫成形品12には、液封カセット14が取り付けられている。この液封カセット14は、仕切部材32に可撓性膜34が取り付けられた構造を有している。
仕切部材32は、図1,2および図4,5に示すように、全体として左右方向に長手の矩形板形状を有しており、本実施形態では、仕切部材本体36に可動膜38と蓋部材40が取り付けられた構造とされている。仕切部材本体36は、金属や合成樹脂で形成された硬質の部材であって、図1,2および図6,7に示すように、上下方向視で左右方向に長手とされた厚肉の略矩形板形状を有している。
さらに、仕切部材本体36には、収容凹所42,42が形成されている。収容凹所42,42は、仕切部材本体36の上面に開口する凹所であって、上下方向視で前後に長手の略矩形とされていると共に、二つの収容凹所42,42が仕切部材32の長手方向である左右方向に所定の距離を隔てて並んで配設されている。また、収容凹所42の底壁には、上下に貫通する複数の下透孔44が形成されている。本実施形態の下透孔44は、小径の円形孔とされて、複数が形成されているが、収容凹所42の底壁によって後述する可動膜38の上下方向の変形量乃至は変位量を制限することが可能となっていれば、下透孔44の具体的な孔断面形状や大きさ、数、配置などは、何れも適宜に変更され得る。
さらに、仕切部材本体36には、凹溝46が形成されている。凹溝46は、仕切部材本体36の上面に開口していると共に、図7に示すように、二つの収容凹所42,42の周囲を上下方向視で略S字形状を呈するように連続してのびている。より具体的には、凹溝46は、二つの収容凹所42,42の間をのびる膜間溝部48と、膜間溝部48の両端から延び出して各一方の収容凹所42の外周を囲むようにのびる二つの外周溝部50,50とを、連続して備えている。また、凹溝46は、各収容凹所42の前後外側および左右外側に配される直線状部52と、凹溝46の両端部が位置する隅部を除く各収容凹所42の三つの隅部の外側に配される湾曲状部54とを備えており、七本の直線状部52が六本の湾曲状部54で直列的に連続された構造とされている。
更にまた、凹溝46の外周溝部50は、収容凹所42の外周を半周以上の長さでのびていることが望ましく、本実施形態では、一方の外周溝部50の端部が他方の外周溝部50と膜間溝部48との接続部付近までのびている。これにより、凹溝46は、二つの収容凹所42,42の外周をそれぞれ一周に近い長さで取り囲むように形成されており、仕切部材本体36の外周一周の長さよりも長く形成されている。なお、凹溝46の一方の端部の底面が次第に上傾する傾斜面とされていると共に、他方の端部の底面には、上下に貫通する下側開口56が形成されている。
更にまた、凹溝46の膜間溝部48には、後述する可動膜38の橋渡し部64を収容する膜間凹部58が形成されている。膜間凹部58は、膜間溝部48の直線状部52に形成されており、凹溝46の他の部分よりも深さが大きくされている。さらに、膜間凹部58の底壁には、上下に貫通する二つの連通孔60,60が、膜間溝部48の長さ方向に並んで形成されている。また、膜間凹部58の左右両側において、収容凹所42,42の周壁が部分的になくされており、収容凹所42,42が膜間凹部58を備える凹溝46に連通されている。なお、本実施形態において、収容凹所42の周壁は、上下方向視で周方向の一部が開放された略C字形状を呈しており、二つの収容凹所42,42の周壁における開放部分が左右方向で相互に向き合うように位置している。
かくの如き構造とされた仕切部材本体36には、可動膜38が取り付けられている。可動膜38は、ゴムなどで形成されたエラストマ材とされており、図8に示すように、二つの液圧吸収部62,62が橋渡し部64で一体的に連結された構造を有している。
液圧吸収部62は、上下方向視で略矩形とされた薄肉の板状であって、外周端部には厚さ方向(上下方向)へ突出する被挟持部66が全周連続して一体形成されている。さらに、液圧吸収部62の内周部分には、上下方向視で十字形状の補強リブ68が上方へ突出して一体形成されており、被挟持部66に比して薄肉とされた内周部分のばねが調節されている。
さらに、左右に所定の距離を隔てて配される二つの液圧吸収部62,62において、被挟持部66,66の左右内側には、それぞれ嵌合部70が形成されている。嵌合部70は、左右方向と略直交して広がる板状とされて、左右内側端部には前後各一方へ突出する凸部72,72が形成されており、凸部72と被挟持部66の左右間には、前後に開放されて上下にのびる嵌合溝74が形成されている。
更にまた、二つの液圧吸収部62,62の各嵌合部70には、橋渡し部64が一体形成されている。橋渡し部64は、嵌合部70,70の下端部を左右で相互につなぐように設けられており、嵌合部70,70の左右内面と橋渡し部64の上面が溝状をなすように連続している(図1,8参照)。
そして、可動膜38は、図9,10に示すように、仕切部材本体36に取り付けられる。すなわち、可動膜38の二つの液圧吸収部62,62が仕切部材本体36の二つの収容凹所42,42の各一方に嵌め入れられると共に、可動膜38の橋渡し部64が仕切部材本体36の凹溝46の膜間凹部58に嵌め入れられる。さらに、仕切部材本体36における収容凹所42の周壁の周方向端部が、可動膜38の嵌合溝74に嵌め合わされる。以上により、可動膜38が仕切部材本体36に取り付けられる。かかる可動膜38の仕切部材本体36への取付け状態において、可動膜38の橋渡し部64は、後述するオリフィス通路90を構成する凹溝46の下壁部内面に沿って配設されている。さらに、橋渡し部64の上面は、橋渡し部64が膜間凹部58に収容されることにより、膜間凹部58を外れた部分の凹溝46の下壁部内面と略同じ平面上に位置している。なお、本実施形態において、可動膜38の橋渡し部64は、膜間凹部58の底面に当接状態で重ね合わされて配設されているが、膜間凹部58の底面に対して離れた状態で沿うように配設されていても良い。
このような可動膜38の仕切部材本体36への装着状態において、収容凹所42の下透孔44が上側を可動膜38の液圧吸収部62によって覆われていると共に、可動膜38の橋渡し部64が凹溝46における膜間凹部58の底内面に沿って配設されて、膜間凹部58の底壁に貫通形成された連通孔60が上側を橋渡し部64によって覆われている。なお、本実施形態の膜間凹部58は、左右中央部分の前後寸法が橋渡し部64の前後寸法よりも大きくされており、橋渡し部64の前後両側で上方に開口している。これにより、膜間凹部58に嵌め入れられることで橋渡し部64に作用する拘束力が調節されて、橋渡し部64の上下方向の変形が許容されている。
また、仕切部材本体36には、蓋部材40が取り付けられている。蓋部材40は、金属や合成樹脂で形成された硬質の部材であって、図1,2および図4に示すように、上下方向視で略矩形を呈する薄肉の板状とされており、仕切部材本体36の上面に重ね合わされてねじ留めや接着等の手段で固定されている。さらに、蓋部材40における仕切部材本体36の収容凹所42,42に対応する位置には、上下に貫通する複数の上透孔76が形成されている。更にまた、蓋部材40における仕切部材本体36の凹溝46の一方の端部に対応する位置には、上下に貫通する上側開口78が形成されている。
そして、蓋部材40が仕切部材本体36に固定されることにより、凹溝46の上開口が蓋部材40によって覆われて仕切部材本体36と蓋部材40の間をのびる通路が形成されており、該通路の一方の端部が蓋部材40の上側開口78を通じて上方に開口していると共に、該通路の他方の端部が仕切部材本体36の下側開口56を通じて下方に開口している。
また、蓋部材40が仕切部材本体36に固定されることにより、収容凹所42,42の開口が蓋部材40によって覆われて、可動膜38の配置領域79,79が仕切部材32に形成されている。収容凹所42,42で構成された二つの配置領域79,79には、可動膜38の二つの液圧吸収部62,62が収容配置されており、それら液圧吸収部62,62の各外周端部(被挟持部66)が、仕切部材本体36と蓋部材40の間で上下に挟まれて当接保持されている。なお、仕切部材本体36と蓋部材40において、二つの液圧吸収部62,62の各外周端部に上下方向で当接する部分、すなわち、仕切部材本体36における収容凹所42,42の底壁の外周端部である下当接部80と、蓋部材40において仕切部材本体36の下当接部80と上下方向で対向する上当接部81が、本実施形態の周縁保持部とされている。
また、仕切部材32には、可撓性膜34が取り付けられている。可撓性膜34は、ゴム等のエラストマ材で形成された薄膜であって、略矩形皿形状を有すると共に、容易に変形可能とされている。さらに、可撓性膜34の外周端部は、矩形環板状とされていると共に、上方へ突出して厚肉とされた環状のシール部82を一体で備えている。
そして、可撓性膜34は、シール部82を備える外周端部が仕切部材本体36の下面に重ね合わされて、外周端部が略矩形枠形状の固定部材83と仕切部材本体36の間で上下に挟持固定されている。なお、固定部材83は、例えば、四隅をねじやピンなどで仕切部材本体36に固定されていても良いし、接着や溶着などの手段で仕切部材本体36に固定されていても良い。
かくの如き構造とされた液封カセット14は、本体ゴム弾性体20の加硫成形品12に取り付けられる。すなわち、図1,2に示すように、液封カセット14は、仕切部材32が第二の取付部材18の内周へ挿入されて、仕切部材本体36の上部および蓋部材40がシールゴム層30を介して第二の取付部材18に嵌着される。なお、固定部材83の下面が、第二の取付部材18に外嵌装着される図示しないアウタブラケットで保持されることにより、液封カセット14の第二の取付部材18からの抜けが防止される構造も採用され得る。
本体ゴム弾性体20の加硫成形品12に液封カセット14が組み付けられることによって、本体ゴム弾性体20と可撓性膜34の間には、外部から流体密に隔てられた流体の封入領域84が形成されており、この封入領域84に非圧縮性流体が封入されている。なお、封入領域84に封入される非圧縮性流体は、特に限定されるものではないが、例えば水やエチレングリコール、アルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油、或いはそれらの混合液などが好適に採用される。さらに、封入領域84への封入流体は、後述する流体の流動作用に基づく防振効果を有利に得るために、0.1Pa・s以下の低粘性流体であることが望ましい。また、封入領域84に対する非圧縮性流体の封入は、例えば、加硫成形品12に対する液封カセット14の組付けを非圧縮性流体中で行うことにより実現されるが、封入領域84の形成後にシリンジなどで流体を後封入するようにしても良い。
さらに、封入領域84には、軸直角方向に広がる仕切部材32が配設されており、封入領域84が仕切部材32によって上下に仕切られている。これにより、仕切部材32の上側には、壁部の一部が本体ゴム弾性体20で構成されて、振動入力時に内圧変動が惹起される第一の流体室としての受圧室86が形成されている。一方、仕切部材32の下側には、壁部の一部が可撓性膜34で構成されて、容積変化が容易に許容される第二の流体室としての平衡室88が形成されている。
また、仕切部材32には、受圧室86と平衡室88を相互に連通するオリフィス通路90が形成されている。オリフィス通路90は、仕切部材本体36の凹溝46の上開口が蓋部材40で覆われて形成されたトンネル状の通路が、一端において蓋部材40の上側開口78を通じて受圧室86に連通されると共に、他端において仕切部材本体36の下側開口56を通じて平衡室88に連通されることにより、形成されている。
さらに、オリフィス通路90は、上下方向視で略S字形状を呈するようにのびていることから、仕切部材32の外周を一周する長さよりも長い通路長さで形成されている。本実施形態では、オリフィス通路90の通路断面積(A)と通路長さ(L)の比(A/L)を調節設定することにより、オリフィス通路90を通じて流動する流体の共振周波数であるチューニング周波数が、エンジンシェイクに相当する10Hz程度の低周波に設定されている。
また、図5に示すように、オリフィス通路90において、凹溝46の膜間溝部48で構成される部分が、収容凹所42,42で構成される配置領域79,79の間をのびる膜間通路部分92とされていると共に、凹溝46の外周溝部50,50で構成される部分が、配置領域79,79の外周をのびる外周通路部分94,94とされている。そして、配置領域79,79の外周を各半周以上に亘って連続する外周通路部分94,94が、膜間通路部分92の両端からのびていることから、オリフィス通路90が上下方向視で全体として略S字形状とされている。さらに、オリフィス通路90の膜間通路部分92において、膜間溝部48の直線状部52で構成される部分が直線状通路部96とされていると共に、オリフィス通路90の外周通路部分94において、外周溝部50の湾曲状部54で構成される部分が湾曲状通路部98とされている。なお、本実施形態のオリフィス通路90は、膜間通路部分92の壁部の底壁および左右側壁の各一部が、可動膜38の橋渡し部64と左右の嵌合部70,70で構成されている。
さらに、図10に示す凹溝46の形状からも理解されるように、オリフィス通路90の湾曲状通路部98の曲率半径が、仕切部材32の四隅の曲率半径よりも大きくされており、湾曲状通路部98における流動流体の流通抵抗が低減されている。
また、仕切部材32における可動膜38の液圧吸収部62,62には、上面に対して上透孔76を通じて受圧室86の液圧が及ぼされていると共に、下面に対して下透孔44を通じて平衡室88の液圧が及ぼされている。さらに、可動膜38の橋渡し部64には、上面に対してオリフィス通路90の液圧が及ぼされていると共に、下面に対して連通孔60を通じて平衡室88の液圧が及ぼされている。
このような構造とされたエンジンマウント10は、第一の取付部材16が図示しないインナブラケットを介して同じく図示しないパワーユニットに取り付けられると共に、第二の取付部材18が図示しないアウタブラケットを介して同じく図示しない車両ボデーに取り付けられることにより、車両へ装着されるようになっている。
そして、エンジンシェイクに相当する低周波振動が第一の取付部材16と第二の取付部材18へ入力されると、受圧室86と平衡室88の相対的な圧力変動によって、受圧室86と平衡室88の間でオリフィス通路90を通じた流体流動が生ぜしめられる。これにより、入力された振動に対して、流体の共振作用などの流動作用に基づいた防振効果(振動減衰効果)が発揮される。本実施形態のオリフィス通路90では、通路長さが長く設定されていることから、目的とする周波数にチューニングする場合に通路断面積を比較的に大きく設定することが可能であり、流体流動が効率的に生ぜしめられることで防振効果を有利に得ることが可能となる。
また、オリフィス通路90のチューニング周波数よりも高周波の振動入力時には、オリフィス通路90が反共振によって目詰まり状態で実質的に遮断される。一方、可動膜38の液圧吸収部62,62は、受圧室86と平衡室88の圧力差によって、上下方向に弾性変形する。これにより、液圧吸収部62,62の変形による受圧室86の実質的な容積変化が許容されて、振動入力による受圧室86の圧力変動が低減されることから、エンジンマウント10の低動ばね化が図られて、目的とする防振効果(振動絶縁効果)が発揮される。
さらに、本実施形態では、可動膜38の橋渡し部64が、上面に作用するオリフィス通路90の液圧と下面に作用する平衡室88の液圧との差によって、上下方向に弾性変形するようになっている。これにより、オリフィス通路90における受圧室86側の端部(上側開口78)から連通孔60までの領域で流体の流動が許容されて、流体流動による防振効果が発揮されることも期待できる。要するに、橋渡し部64の変形による圧力吸収作用によって、上側開口78と連通孔60をつなぐ流体通路が形成されるようになっており、かかる流体通路はオリフィス通路90よりも通路長さが短く、流体流路のチューニング周波数がオリフィス通路90よりも高周波とされていることから、オリフィス通路90のチューニング周波数よりも高周波の振動に対して有効な防振効果が発揮される。
なお、橋渡し部64の変形による防振効果が、液圧吸収部62,62の変形による防振効果と同じ周波数域の振動に対して発揮されるようにすれば、特定の周波数域の振動に対する防振効果を有利に得ることができる。一方、橋渡し部64の変形による防振効果が、液圧吸収部62,62の変形による防振効果とは異なる周波数域の振動に対して発揮されるようにすれば、より広い周波数域の振動に対して有効な防振効果を得ること(防振性能のブロード化)が可能となる。
また、オリフィス通路90がチューニングされた低周波大振幅振動の入力時には、受圧室86が正圧の場合に、連通孔60が橋渡し部64によって塞がれて、オリフィス通路90における流体流動が有効に生ぜしめられる。一方、受圧室86が負圧の場合には、連通孔60,60が開放されて、オリフィス通路90の中間部分が平衡室88へ短絡することにより、広い周波数域の振動に対して防振効果が発揮されて防振性能のブロード化が図られる。
本実施形態に従う構造とされたエンジンマウント10によれば、オリフィス通路90が隣り合う収容凹所42,42の間をのびる膜間通路部分92と、収容凹所42,42の外周をのびる外周通路部分94とを備えて、略S字形状で形成されている。それゆえ、オリフィス通路90の通路長さを仕切部材32の外周一周の長さよりも長く設定することが可能となって、流体流動による防振効果を有効に得ながら、オリフィス通路90のチューニング周波数の設定自由度を大きくすることができる。
さらに、オリフィス通路90は、膜間通路部分92の前後中間部分と、外周通路部分94の前後中間部分および膜間通路部分92と反対側の端部が、それぞれ直線状通路部96とされていると共に、それら複数の直線状通路部96を相互につなぐ湾曲状通路部98は、それぞれ収容凹所42の外周を湾曲して滑らかにのびている。それゆえ、オリフィス通路90における流体流動が効率的に生ぜしめられるようになっており、通路長さが長くされることで流通抵抗が大きくなり易いオリフィス通路90であっても、流体流動による防振効果が有効に発揮される。特に本実施形態では、オリフィス通路90を形成される仕切部材32が左右に長手の矩形板形状とされていると共に、二つの収容凹所42,42が仕切部材32の長手方向に並んで設けられていることから、可動膜38における各液圧吸収部62の面積を効率的に確保しつつ、湾曲状通路部98の曲率半径を大きく設定することができて、オリフィス通路90の流体流動をスムーズに生ぜしめることができる。
また、仕切部材32に二つの収容凹所42,42が形成されており、それら二つの収容凹所42,42に可動膜38の液圧吸収部62,62が配設されていることから、液圧吸収部62,62の総面積が大きく確保されて、液圧吸収部62,62の変形による液圧吸収作用が有利に発揮される。
さらに、二つの収容凹所42,42が仕切部材32の長手方向である左右方向に並んで設けられていることから、各収容凹所42に配される液圧吸収部62が上下方向視で極端に細長い形状となるのを防ぐことができる。それゆえ、外周端部を仕切部材32に支持される液圧吸収部62において、厚さ方向の変形が許容される領域を十分に広く確保することができて、液圧吸収作用に基づく防振効果が有効に発揮される。
また、二つの液圧吸収部62,62が橋渡し部64によって相互につながれていることから、可動膜38を一体的に取り扱うことができて、エンジンマウント10の製造が容易になる。しかも、二つの液圧吸収部62,62と橋渡し部64がエラストマ材で一体形成されていることから、可動膜38をより容易に形成することができる。
さらに、可動膜38の橋渡し部64がオリフィス通路90の膜間通路部分92の底面に沿って配されていることから、膜間通路部分92において橋渡し部64が配されることに起因する乱流の発生や摩擦などによる流動抵抗が低減されて、オリフィス通路90を通じた流体流動をスムーズに生ぜしめることができる。特に本実施形態では、膜間通路部分92の底面に開口する膜間凹部58が形成されており、橋渡し部64が膜間凹部58に収容状態で配されることにより、橋渡し部64の配設によるオリフィス通路90の流通抵抗の増大が一層有利に防止される。しかも、橋渡し部64が膜間凹部58に対して嵌め入れられていることから、橋渡し部64が不必要に変形するのを防いで、オリフィス通路90を通じた流体流動を効率的に生ぜしめることができると共に、橋渡し部64が仕切部材本体36に打ち当たることによる異音の発生も回避される。
なお、本実施形態では、可動膜38における二つの液圧吸収部62,62が略同一形状とされていると共に、仕切部材本体36と蓋部材40において二つの液圧吸収部62,62を収容支持する部位が相互に略同一構造とされていることから、それら二つの液圧吸収部62,62には相互に略同じ変形変位特性が設定されている。しかしながら、可動膜38における二つの液圧吸収部62,62に対して、相互に異なる変形変位特性を設定して、より広い周波数域の振動に対する防振性能を実現することも可能である。変形変位特性とは、可動膜の厚さ方向への変形乃至は変位が共振状態で生ぜしめられる入力振動の周波数(可動膜のチューニング周波数)などを言うものであって、例えば、可動膜の仕切部材本体および蓋部材による支持ばねの特性や、可動膜の質量などによって調節され得る。
具体的には、例えば、液圧吸収部62,62の被挟持部66,66および嵌合部70,70において、仕切部材本体36と蓋部材40による上下圧縮量(締め代)を相互に異ならせることにより、二つの液圧吸収部62,62に対して相互に異なる変形変位特性を設定することができる。なお、被挟持部66,66の締め代は、仕切部材本体36の収容凹所42,42の底面と蓋部材40の上下間距離と、被挟持部66,66の上下厚さによって調節可能であることから、被挟持部66,66の締め代を容易に異ならせることが可能である。
また、例えば、液圧吸収部62,62における被挟持部66,66よりも内周に設けられた膜状の変形許容部分において、上下厚さを相互に異ならせることによっても、二つの液圧吸収部62,62に対して相互に異なる変形変位特性を設定することができる。さらに、例えば、液圧吸収部62,62の変形許容部分において、上下に突出する突起を設けて、それら突起の仕切部材本体36と蓋部材40による上下圧縮量を相互に異ならせることによっても、二つの液圧吸収部62,62に対して相互に異なる変形変位特性を設定することができる。なお、二つの液圧吸収部62,62の変形変位特性を相互に異ならせるための上述した幾つかの手段は、何れかを選択的に採用することもできるし、複数を組み合わせて採用することもできる。
図11,12には、本発明の第二の実施形態としての流体封入式防振装置の仕切部材を構成する仕切部材本体100が示されている。以下の説明において、第一の実施形態と実質的に同一の部材および部位については、図中に同一の符号を付すことにより、説明を省略する。
仕切部材本体100は、後述する可動膜108,108の配置領域を構成する二つの収容凹所102を備えている。収容凹所102,102は、何れも周壁が全周に亘って連続して設けられており、相互に独立して形成されている。
また、収容凹所102,102の間をのびる凹溝104の膜間溝部106は、直線状部52に膜間凹部58が形成されておらず、膜間溝部106の底面が平面とされて、膜間溝部106が全体に亘って略一定の深さで形成されている。
この仕切部材本体100には、図13,14に示すように、二つの可動膜108,108が取り付けられている。可動膜108は、第一の実施形態の可動膜108における液圧吸収部62と略対応する構造とされていると共に、嵌合部70が省略されて、外周端部に形成された被挟持部66が全周に亘って連続して形成されている。なお、二つの可動膜108,108は、相互に同一の形状およびサイズとされていることから、単一の金型構造によって製造することが可能とされている。
そして、二つの可動膜108,108は、仕切部材本体100における二つの収容凹所102,102にそれぞれ独立して配設されており、仕切部材本体100の上面に図示しない蓋部材が重ね合わされて固定されることにより、各可動膜108の被挟持部66が仕切部材本体100と蓋部材の間で上下に挟持されている。
このような構造の仕切部材本体100および可動膜108で構成される仕切部材を備えた流体封入式防振装置においても、第一の実施形態と同様に、凹溝104で構成されるオリフィス通路の通路長さを長く設定することが可能となって、防振特性のチューニング自由度を大きく得ることなどが可能になる。
また、可動膜108,108と収容凹所102,102で構成された可動膜108,108の配置領域が、オリフィス通路とは独立して設けられていることから、オリフィス通路による防振効果の安定化がより一層有利に図られ得る。
図15には、本発明の第三の実施形態としての流体封入式防振装置の仕切部材を構成する仕切部材本体110が示されている。仕切部材本体110は、円板形状とされており、図示しない可動膜の配置領域を構成する二つの収容凹所112,112が、上面に開口して且つ径方向の両側に所定の距離を隔てて形成されている。
また、仕切部材本体110には、上面に開口しながらのびる凹溝114が形成されている。凹溝114は、全体としてS字形状を呈するようにのびており、二つの収容凹所112,112の間をのびる膜間溝部116と、膜間溝部116の両端から各一方の収容凹所112の外周を囲むようにのびる外周溝部118とを、備えている。膜間溝部116は、直線的にのびる直線状部52を備えている一方、外周溝部118は、全体が収容凹所112の外周に沿って湾曲してのびる湾曲状部54で構成されている。
なお、各収容凹所112に対応する形状とされた図示しない二つの可動膜が、仕切部材本体110の収容凹所112,112に挿入配置されると共に、円板形状の図示しない蓋部材が仕切部材本体110の上面に重ね合わされて固定されることにより、仕切部材本体110を備えた仕切部材が構成される。
このような本実施形態によれば、例えば外周形状が円形とされた流体封入式防振装置に対しても本発明を適用することができて、優れた防振性能を得ることが可能となる。
図16には、本発明の第四の実施形態としての流体封入式防振装置の仕切部材を構成する仕切部材本体120が示されている。仕切部材本体120は、矩形板形状とされており、図示しない可動膜の配置領域を構成する三つの収容凹所102,102,102が、上面に開口して且つ長手方向に所定の距離を隔てて形成されている。
また、仕切部材本体120には、凹溝122が形成されている。凹溝122は、中央の収容凹所42と左右両側の収容凹所42,42との間をそれぞれのびる膜間溝部124と、それら膜間溝部124,124の上端を相互につなぐ第一外周溝部126と、それら膜間溝部124,124の下端からのびて左右両側の収容凹所102,102の外周を囲むようにのびる第二外周溝部128,128とを、備えている。
このような本実施形態によれば、凹溝122によって構成されるオリフィス通路の通路長さをより長く設定することも可能になって、防振性能の更なる向上などが図られ得る。また、可動膜の配置領域を構成する収容凹所102がより多く設けられていることにより、可動膜の変形による液圧吸収作用に基づいた防振効果も有利に得ることができる。
本実施形態のように、三つ以上の収容凹所102が形成されて、それら収容凹所102にそれぞれ図示しない可動膜が配される構造において、各収容凹所102に配設される可動膜に相互に異なる変形変位特性を設定することも可能である。その場合には、三つ以上の可動膜にそれぞれ異なる変形変位特性を設定しても良いし、例えば、三つの可動膜を備える構造において、二つの可動膜に対して相互に同じ変形変位特性を設定すると共に、他の一つの可動膜に対して該二つの可動膜とは異なる変形変位特性を設定することもできる。
なお、本発明に係る流体封入式防振装置において、可動膜およびその配置領域の形状や数、配置などは適宜に変更可能であり、可動膜の配置領域の間をのびるオリフィス通路の形状も、配置領域の形状や数、配置などに応じて適宜に変更され得る。
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、前記実施形態では、直線状通路部96と湾曲状通路部98が組み合わされた構造のオリフィス通路90を例示したが、オリフィス通路90において直線状通路部96は必須ではなく、全体が滑らかに湾曲していても良い。
可動膜は、必ずしも変形によって液圧吸収作用を発揮するものに限定されず、例えば、仕切部材本体36と蓋部材40の間に所定の隙間をもって上下方向へ変位可能に配設されて、上下方向の微小変位によって液圧吸収作用を発揮する構造も採用され得る。この場合に、可動膜は、変形可能なエラストマ材で形成されたものに限定されず、実質的に変形しない金属や合成樹脂で形成された硬質の板材で構成することもできる。
また、前記第一の実施形態では、オリフィス通路90の通路上に連通孔60が形成されており、可動膜38の橋渡し部64が連通孔60の開口を覆うように配設されることにより、防振性能の向上が図られているが、このような構造は必須ではなく、例えば、橋渡し部64によって二つの液圧吸収部62,62が一体的につながれた構造の可動膜38と、連通孔60が省略された仕切部材本体とを組み合わせて採用することもできる。
さらに、前記第一の実施形態では、可動膜38の液圧吸収部62,62と橋渡し部64がエラストマ材で一体形成された構造を例示したが、液圧吸収部62,62と橋渡し部64は別部材を固着して構成されていても良く、例えば、エラストマ材で形成された液圧吸収部62,62に対して、金属などで形成された橋渡し部64が接着されていても良い。