JP5924439B2 - 耐熱強化ガラス及び耐熱強化ガラスの製造方法 - Google Patents

耐熱強化ガラス及び耐熱強化ガラスの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、耐熱強化ガラスに関し、特にビル用又は住宅用の防火窓及び防火扉用に用いられる耐熱強化ガラス及び耐熱強化ガラスの製造方法に関する。
一般のソーダライムガラスでは、建築基準法に定める防火戸の防火試験時や火災発生時に、端部に発生する引っ張り応力が破損の原因となる。この引っ張り応力は、サッシ枠中に嵌め込まれた端部と炎に晒される面部との温度差等に起因する。従来、延焼防止等の目的で使用される防火ガラスとして、火災発生時にガラスが割れても脱落による開口を生じないように金属網を埋め込んだ網入りガラスが一般的に用いられる。近年では、外観上の利点等から、金属網がなくても火災発生時にガラスが割れずに防火性能を発揮する防火ガラスが提案されている。
このような防火ガラスは端部の強度を確保するために、ガラス板を軟化点付近に加熱後、圧縮空気などを吹き付けてガラス板を急冷する、物理強化ための熱処理、いわゆる物理強化処理によって表面圧縮応力を高めることが必要となる。この処理は、ガラス板が比較的柔らかい状態から圧縮空気などをガラス面に吹き付けて急冷するために、ガラス表面に急冷の跡や反りが発生して平坦性が悪くなることがあり、映像品質の低下が避けられない。
また、ガラス板は、切断後のガラス切断端面を研摩していない状態では、端部に引っ張り応力が負荷されると、ガラス板面と端面との境界にある角部にある微細なクラックや、特に切断の際にホイールカッタやダイヤモンドカッタで亀裂を入れた部分に応力が集中し破壊が起きる。このため、ガラス板の端部表面の強度(以下「エッジ強度」という)を向上させるためには、面取りを如何に行うかが重要となる。なお、エッジ強度とは、ガラス板の端部の破壊時に端部表面に発生した引っ張り応力をいう。
引用文献1には、ガラスの端部を曲面形状に研磨した後に曲面端部と平面部(板面)との境界部分を研磨し、さらに物理強化処理によりエッジ強度を向上させた防火ガラスが提案されている。しかしながら、この引用文献1記載のガラス板の端部研磨方法では、特殊な曲面形状の研磨ホイールを用いなければならず、新たな研磨ホイール製作が必要になり、ガラス端部の加工コストやその品質管理コストも増加する。
引用文献2には、ガラスの端面の両端部の糸面のみを面取りして、さらに物理強化処理によりエッジ強度を向上させた防火ガラスが提案されている。
このようにガラス板を切断し端部を通常とは異なる方法で研磨した後に物理強化処理をして耐熱強度を高めたガラスは、防火ガラスの中でも特に耐熱強化ガラスと呼ばれる。耐熱強化ガラスとして必要な性能は、例えば日本では建築基準法第2条第9号の2や、建築基準法第64条に規定されている遮炎性能を満足することである。これを評価する試験として、例えばISO834−1:1999の加熱温度曲線に基づく防火試験がある。これに合格するためには、防火試験中に火炎が通る亀裂などの損傷及び隙間を生じないことなどが求められるため、基本的に網入りガラスのようにガラスが割れても脱落しないガラスを除いてガラスが割れないことが必要となる。このためには、端部加工後の物理強化処理前のエッジ強度と、物理強化処理によるエッジ付近の表面圧縮応力とを加算した値、すなわち、物理強化処理後のガラス板が保有するエッジ強度が、少なくとも上記試験時に発生するエッジの引っ張り応力を上回る必要がある。物理強化処理後のエッジ強度は、エッジの表面圧縮応力が高いほど大きくなり、試験時に発生する引っ張り応力に対する信頼性が高まる。しかしながら、エッジの表面圧縮応力を高めるために、物理強化処理において急冷開始のガラス温度を高くしすぎると、前述のとおりガラス板に熱処理跡や反りが出て平坦度が悪くなり、ガラス板としての映像品質を満足できなくなる。
また、耐熱強化ガラスは、マンションやオフィス等のビルに用いられてきたが、最近、住宅用への需要も高まってきている。しかしながら、住宅用の窓や扉に用いられるガラスは、引用文献1又は2のどちらかの方法を用いて端面を加工し、従来と同じ条件での物理強化処理を行うと、ビルに用いられるガラスに比べ厚みが薄いので、熱処理跡や反りが発生しやすく、映像品質が問題となりやすい。
特開平9−71429号公報 特開平11−79769号公報
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、ビル用又は住宅用の窓及び扉のガラスであって、表面圧縮応力が小さくても遮炎性能を満たす耐熱強化ガラス及び耐熱強化ガラスの製造方法の提供を目的とする。また、本発明は、表面圧縮応力が小さくても遮炎性能を満たし、かつ高い映像品質である耐熱強化ガラス及び耐熱強化ガラスの製造方法の提供を目的とする。
本発明の一態様によれば、
所定寸法に切断されたガラス板が物理強化処理された耐熱強化ガラスであって、
前記耐熱強化ガラスは、ガラス板面と、端面と、前記ガラス板面及び前記端面に対し傾斜した稜部研磨面を有し、
該稜部研磨面は前記ガラス板面とのなす角度が154度以上170度以下であり、
前記稜部研磨面と前記ガラス板面とでなす角部のカケは稜線方向の長さが200μm以下、稜線に垂直方向の最大幅が100μm以下であることを特徴とする耐熱強化ガラスを提供する。
本発明によれば、物理強化処理による熱処理前のエッジ強度を向上できるので、熱処理による表面圧縮応力が低くても遮炎性能を満たす耐熱強化ガラス及び耐熱強化ガラスの製造方法を得ることができる。さらに、必要な表面圧縮応力を低減できるので、熱処理のガラス温度を低くでき、高い映像品質を有する耐熱強化ガラス及び耐熱強化ガラスの製造方法を得ることができる。
本発明の実施の形態に係る強化ガラス板の概略断面図。 本発明の実施の形態に係るガラス板端部の研磨加工方法の概略説明図。 本発明の実施の形態に係る強化ガラス板の筒状砥石による研磨状態の概略断面図。 本発明の別の実施の形態に係る強化ガラス板の研磨状態の概略断面図。 試験例1〜4に係わるガラス板端部の断面寸法及び部位説明図。 表1の試験の結果に基づくワイブル確率軸上のプロット(ワイブルプロット)を示す図。
以下、図面に従って本発明の実施の形態に係る強化ガラスを説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る強化ガラスの概略断面図である。図1に示すように、ガラス板1は所定寸法に切断されており、端面1bの両端側の稜部のみが研磨されて、ガラス板面1a及び端面1bに対し傾斜した稜部研磨面1cが形成される。ガラス板1の端面1bは切断加工されたままの状態であってもよいが、切断品質によるエッジ強度のばらつきを安定化させるには研磨加工されているほうがよく、特に平行研磨(ガラスの研磨のための送り(搬送)方向と、ガラスと砥石の研磨面とが当たるところでの砥石の回転方向が同じになる研磨方法)による研磨加工がよい。
ガラス板面1aと稜部研磨面1cとのなす角度Aは、135度以上170度以下である。角度Aが135度よりも小さいと、稜部研磨面1cとガラス板面1aとで成す角部にカケが発生しやすく、物理強化処理前のエッジ強度が不足し、高温までの加熱や風圧の高い冷却処理が必要になり、ガラスに歪や変形を生じて映像品質が悪くなる。また、角度Aが170度よりも大きいと、高精度の稜部研磨が必要となり、設備コストが増大する。好ましいのは、よりカケが発生しにくい151度以上170度以下である。より好ましいのは、154度以上170度以下である。なお、図1の角度Aは、これらの範囲に入っていれば上下のガラス面に対して同一でなくてもよい。
通常の稜部の研磨において、角度Aを135度に製造誤差を加えた程度の範囲とするのは、主に稜部を研磨しないまま角部を残すと後工程や運搬中に角部が割れやすいためであり、エッジの強度を積極的に向上することは意図していない。本発明に係る稜部の研磨において、角度Aはエッジ強度を積極的に向上させるために通常よりも大きくする。角度Aを大きくすることにより、後述するように端部研磨後の角部1dを起点とする破壊が減ってエッジ強度が向上する理由は明らかではないが、以下の要因が予想される。端部加工において、角部1dでの砥石を押し当てることによる反力ベクトルの方向は、ほぼ稜部研磨面1cに垂直な方向となる。角度Aが大きい場合は、反力ベクトルが角度Aの半分あたりとなるため、ガラス板面1aと稜部研磨面1cからのカケは起きにくい。他方、角度Aが小さい場合は、反力ベクトルがガラス板面1aに近づくため、ガラス板面1aからのカケが起きやすくなる。
以上のような理由から、角度Aが大きいほど、角部1dからのカケが起きにくく、端部研磨後のエッジ強度が顕著に向上すると考えられる。
一般のソーダライムガラスでは、火災発生時において、サッシ枠中に嵌め込まれた端部と炎に晒される面部との温度差等により、端部を極大とする引っ張り応力を発生することが破損の要因となる。破損のほとんどの場合が稜部に存在するカケを起点にしている。したがって、稜部研磨面1cとガラス板面1aとで成す角部1dの稜線(図1の紙面に垂直方向に延びた稜線)上にカケを有している場合、そのカケの大きさは一定限度以下であることが必要である。このカケの稜線方向の長さは200μm以下であることが必要である。このカケの稜線方向の長さとは、角部1dの稜線上に生じたカケにより失われた稜線(仮想稜線)の長さをいう。また、カケの稜線に垂直方向の最大幅は100μm以下であることが必要である。カケの稜線に垂直方向の最大幅とは、角部1dの稜線上に生じたカケにより失われた稜線(仮想稜線)に対して垂直方向の最大幅をいう。カケの大きさは、デジタル顕微鏡(例えば株式会社キーエンス製、製品名デジタルマイクロスコープの型番VH−6200)を用いて、研磨後のガラスの角部1dを観察し、各々の距離を測定することによって得られる。
このように、角度Aを135度以上170度以下とし、かつ角部1dに存在するカケの長さを稜線方向に200μm以下、稜線に垂直方向の最大幅を100μm以下とすると、ガラス板1のエッジ強度の3σn−1下限値が70MPaを超える。エッジ強度を確保するためには、稜部の研磨後の表面粗さもエッジ強度の影響因子であるが、むしろカケの存在及び大きさによって管理することが重要である。
以上のように、本発明に係る端部の加工法によって、エッジ強度を顕著に向上できるので、耐熱強化ガラスとして遮炎性能を向上できる。また、エッジ強度が向上する分だけ端部の表面圧縮応力を小さくでき、物理強化処理において冷却開始のガラス温度を下げても、耐熱強化ガラスとして必要な遮炎性能を維持したまま、映像品質を向上できる。
遮炎性能を評価する方法として、例えば前記のISO834−1:1999の加熱曲線に基づく防火試験では、強化ガラスをサッシに嵌め込み後、ガラス板の片面から、バーナーによる火炎と炉内の輻射熱によってガラスを加熱する。この場合に、ガラス板のエッジに発生する引っ張り応力には、ガラス板の中央と端部との温度差によって発生する応力に、サッシの変形によってエッジが変形して発生する曲げ応力も加わる。物理強化処理後のエッジ強度は、この引っ張り応力を上回る必要がある。
この防火試験時のエッジに発生する引っ張り応力は、少なくともガラス板中央が比較的高い温度の時点で発生し、反りによるガラス板としての剛性の変化が起こるため必ずしも明らかではなかった。このため、従来は物理強化処理後のエッジ強度として安全側になるので、従来からある比較的厚いビル用のガラス板での防火試験の結果に基づいてガラス板の厚みによらず一定の引っ張り応力を想定して必要な表面圧縮応力を決めていた。
これに対して、本発明では、遮炎性能の確保と、さらに遮炎性能の確保と一層の映像品質の向上とを両立するために、ガラス板の厚みと引っ張り応力との関係を防火試験などによって求めた。この結果、板厚が薄いものほど最大値が発生する加熱開始からの時間が短く、ガラス温度も低くなり、また端部の変形も小さくなるので、ガラス板の中央と端部との温度差によって発生する応力の最大値が小さくなることを見出した。これらによって、従来は板厚2.5〜9.0mm程度においても厚板(板厚10mm程度)とほぼ同様の表面圧縮応力を設定していたが、薄板において相対的に低い表面圧縮応力でも遮炎性能を有し、高い映像品質を得ることが可能となる。実際に、防火試験時にエッジで発生する引っ張り応力は、板厚10mmの場合に比べて、2.5mm以上3.5mm未満で約60MPa減少し、3.5mm以上4.5mm未満で約55MPa減少し、4.5mm以上5.5mm未満で約45MPa減少し、5.5mm以上6.3mm未満で約35MPa減少し、6.3mm以上7.0mm未満で約25MPa減少し、7.0mm以上9.0mm未満で約15MPa減少する。なお、11.0mm以上20.0mm以下では、約15MPa増加する。
以上に基づいて板厚が薄くなることに応じて必要な表面圧縮応力を低減することと、前述の本発明に係る端部の加工方法によってエッジ強度を向上することとを合わせて、耐熱強化ガラスとして必要な遮炎性能を維持したまま、さらに映像品質を向上できる。
即ち、本発明に係る強化ガラスは、前記ガラス板の板厚に対するそれぞれの表面圧縮応力が、2.5mm以上3.5mm未満で70MPa以上155MPa以下、3.5mm以上4.5mm未満で75MPa以上160MPa以下、4.5mm以上5.5mm未満で85MPa以上170MPa以下、5.5mm以上6.3mm未満で95MPa以上180MPa以下、6.3mm以上7.0mm未満で105MPa以上190MPa以下、7.0mm以上9.0mm未満で120MPa以上205MPa以下、9.0mm以上11.0mm未満で135MPa以上220MPa以下、11.0mm以上20.0mm以下で150MPa以上240MPa以下となることが好ましい。
より好ましい表面圧縮応力の範囲は、前記ガラス板の板厚が2.5mm以上3.5mm未満で70MPa以上130MPa以下、3.5mm以上4.5mm未満で75MPa以上135MPa以下、4.5mm以上5.5mm未満で85MPa以上140MPa以下、5.5mm以上6.3mm未満で95MPa以上150MPa以下、6.3mm以上7.0mm未満で105MPa以上160MPa以下、7.0mm以上9.0mm未満で120MPa以上175MPa以下、9.0mm以上11.0mm未満で135MPa以上190MPa以下、11.0mm以上20.0mm以下で150MPa以上210MPa以下である。これらの範囲に表面圧縮応力を設定することで、防火試験時に発生する引っ張り応力に対する余裕分が相対的に好ましい範囲の場合よりも下がるものの、必要な遮炎性能を維持して、より一層物理強化処理前の映像品質に近い強化ガラスを提供できる。
なお、表面圧縮応力は、JIS R3222(2003年版)に記載のある示差屈折計によって測定できる。表面圧縮応力は、映像品質上から端部とガラス板の中央部とで大きく違う場合にガラス板の反りが出やすくなるので、ガラス板の面内で分布がない方がより好ましい。少なくとも端面から50mmまでの部分で上記の範囲を満足することが好ましい。
稜部研磨面1cの端面1b側への投影幅B及び、稜部研磨面1cのガラス板面1a側への投影幅Cの大きさは、ガラス板の厚みに応じて適宜決定されるが、ガラス板切断時における切線を入れる工程で生ずるクラックによって、ガラス端部に引っ張り応力が発生した場合の応力集中を小さく抑えるため、Bは0.3mm以上1.3mm以下、Cは0.3mm以上3mm以下であることが好ましく、特にCは0.5mm以上1.3mm以下であることが好ましい。
図2は、本発明の実施の形態に係るガラス板端部の研磨加工方法の概略説明図であり、図3は本発明の実施の形態に係る強化ガラスの筒状砥石による研磨状態の概略断面図である。また、図4は、本発明の別の実施の形態に係る強化ガラスの研磨状態の概略断面図である。
図2に示すように、研磨すべきガラス板1が矢印Dのように搬送され、その搬送路に沿って、複数個(図の例では3個)の稜部研磨用筒状砥石2a、2b、2cが連続的に一直線上に配設される。複数個並んだ稜部研磨用の砥石2a、2b、2cは、最初に平均砥粒径が大きく研磨効率の高い砥石2aが配設され、次の砥石2bは砥石2aよりも砥粒径を小さくしたものを用い、最後の砥石2cは、必要とされる仕上げ面(粗摺り仕上げ、磨き仕上げ、つや出し仕上げ等)に応じた砥粒径の番手の砥石が配設される。なお、粗摺り仕上げでは#200番(平均砥粒径100μm)、磨き仕上げでは#500番(平均砥粒径45μm)、つや出し仕上げでは#800番(平均砥粒径30μm)の砥石が通常用いられる。
図3(a)に示すように、円筒の円周に断面略U字状の砥粒層3を形成し、その円筒の中心に回転軸4を設けた円筒状砥石2を、ガラス板1の端面1bの断面方向に対して平行に配置し、ガラス板1の、ホイールカッタ等でガラス板面1aに切線(切断溝)を入れ切断した場合に強度的に最も弱い部分(ホイールカッタによる亀裂が残留している部分)となるガラス両稜部が、各砥石2により研磨される。
この研磨工程を経た稜部研磨面1cとガラス板面1aとで成す角部1dに存在するカケの長さは稜線方向に200μm以下、稜線に垂直方向の最大幅は100μm以下に仕上げられるので、端部に引っ張り応力が発生した場合のカケでの応力集中を小さく抑えることができる。
端面1bは、図3(b)に示すように円筒状砥石2の形状により、研磨加工を行うことも、行わないこともできるが、研磨加工を行ったほうが切断面の品質によらない安定した高いエッジ強度を有する。このような砥石2を使用して研磨すると、ガラス板1の端面1bと稜部研磨面1cとの成す角部は実質R面取りされることとなるが、この形状はエッジ強度には余り影響がない。また、本発明の稜部研磨前に端面1bを平行研磨すると、さらに高いエッジ強度を有することができる。
この研磨工程は、上述した円筒状砥石2を用いた研磨方法に限定されるものではなく、例えば、図4(a)に示すように、砥粒層3を円盤5上に装着し、その中心に回転軸4を設けたカップ形砥石2を用い、その回転軸4を端面1bに対し傾斜させて、稜部1c(ガラス板面1aと端面1bとの間の境界の角)のみを研磨する方法、図4(b)に示すように、研磨用ベルト6の外周面を被加工物であるガラス板1の稜部1cに接触させて研磨するバフ研磨方法、図4(c)に示すように砥粒層3を円筒7上に装着し、その中心に回転軸4を設けた円筒状砥石2を用い、その回転軸4を端面1bに対し傾斜させて研磨をする方法、又はこれらを併用する研磨方法により行ってもよい。何れの場合にも、前述の本発明の実施の形態による稜部1cの研磨を行って、角部1dに存在するカケの長さが稜線方向に200μm以下、稜線に垂直方向の最大幅は100μm以下に仕上げられればよい。
次に、本発明の実施の形態に係る物理強化処理について説明する。本発明に係る物理強化処理では、前述のガラス板端部の研磨加工の工程を経たガラス板を複数の搬送用ローラーに載せて水平に移動させながら加熱する加熱炉と、それに連続して急冷のための圧縮空気をガラス板の上下面から吹き付ける冷却領域を備える水平強化装置を用いる。
表面圧縮応力は、ガラス板の表面と内部との温度差に起因して発生するため、ガラス板厚が異なると熱容量が異なり、ガラス板厚に応じて冷却速度を変えて調整する必要がある。冷却速度は、急冷前のガラス板の温度、圧縮空気の温度、圧力によって変化する。また、板厚が小さいほど熱容量が小さく、ガラス板厚方向での温度差を大きくするために、冷却速度を早くする必要がある。このため、板厚が小さい場合に必要な表面圧縮応力を確保するためには、板厚が大きい場合に比べて、急冷前のガラス温度を高くしたり、圧縮空気の温度を低くしたり、圧力空気の圧力を高くしたりする必要がある。
本発明に係る物理強化処理においては、研磨工程後のガラス板を、620℃以上660℃以下に加熱し、ガラス表面に均一に表面圧縮応力を付与するために、ガラス板の上下全面に対して5℃以上80℃以下の圧縮空気をノズルから噴出して急冷することが好ましい。急冷前のガラス板の温度を620℃以上とすることによって冷却過程で一時的に発生する引っ張り応力による割れを防ぎ、かつ十分な残留歪、すなわち表面圧縮応力を発生させて遮炎性能を確保し、他方で660℃以下にすることによって、熱処理の痕跡や反りを防いで良好な映像品質を確保する。圧縮空気の温度は、空気が送風機によって圧縮されるため、送風機の回転エネルギーにより外気温よりも高くなり、場合によっては80℃近くまで上昇することがある。ただし、冷却風を冷却機によって冷やすことで5℃近くまで下げることができる。
前述の表面圧縮応力と冷却条件との関係に基づくと、本願発明に係る物理強化処理では、薄板ほど必要な表面圧縮応力を小さく設定しているので、表面圧縮応力の発現に必要な圧縮空気の圧力は、板厚が2.5mm以上3.5mm未満で10kPa以上25kPa以下、3.5mm以上4.5mm未満で7kPa以上20kPa以下、4.5mm以上7.0mm未満で6kPa以上15kPa以下、7.0mm以上9.0mm未満で5kPa以上13kPa以下、9.0mm以上11.0mm未満で4kPa以上12kPa以下、11.0mm以上20.0mm以下で2kPa以上10kPa以下となることが好ましい。これにより、薄板の場合の圧力は、従来のビル用の厚板を想定した場合に比べて小さくてもよいことになる。
以下に本発明のさらに具体的な試験例について説明する。試験例1〜3、5〜13は実施例、試験例4、14、15は比較例である。
図2に示した方法で、呼称厚3mm及び4mmのフロートガラス板1(縦10cm×横100cm)を送り速度4m/minで走行させ、砥石3個をそれぞれ回転数3400〜4000rpmで回転させて以下のようにサンプルの加工を行った。
[試験例1]:呼称厚3mmのフロートガラス(平均板厚実測値3.15mm)29枚を、円筒状砥石#140番、#325番、#600番の順に使用して、稜部及び端面を研磨仕上げした。
[試験例2]:呼称厚3mmのフロートガラス(平均板厚実測値3.17mm)29枚を、円筒状砥石#120番、#270番、#500番の順に使用して、稜部及び端面を研磨仕上げした。
[試験例3]:呼称厚4mmのフロートガラス(平均板厚実測値3.75mm)26枚を、円筒状砥石#120番、#270番、#500番の順に使用して、稜部及び端面を研磨仕上げした。
[試験例4]:呼称厚4mmのフロートガラス(平均板厚実測値4.26mm)21枚を、引用文献2の公知技術のように端面の両端部を糸面取りした(図4(a)の方法で#500の砥石を利用)。
図5(a)は試験例1〜3に係わるガラス板端部の断面寸法及び部位説明図であり、(b)は試験例4に係わるガラス端部の断面寸法及び部位説明図である。試験例1〜3において破壊起点を、ガラス板面e、m、ガラス板面と稜部研磨面との成す角f、l、稜部研磨面g、k、稜部研磨面と端面との成す角h、j、端面iの部位に分類した。なお、試験例1〜3のサンプルは円形状砥石で稜部及び端面を研磨仕上げしたため、稜部研磨面と端面との成す角h、jはR面取り形状となっている。強度試験は、室温16〜21℃、相対湿度45〜55%の条件で、サンプルの加工辺の中央30cm部分に均一な引張り応力を載荷できる荷重スパン30cm、支持スパン90cmの4点曲げ試験によって行った。強度試験の結果(破壊応力、破壊起点の位置とその枚数)及びガラス板1の断面の寸法を表1に示す。カケの大きさは、デジタル顕微鏡(株式会社キーエンス製、製品名デジタルマイクロスコープの型番VH−6200)を用いて、研磨後のガラスの角部1dを観察し、各々の距離を測定することによって得た。なお、表1の破壊応力は、端部加工後の物理強化処理前のガラスに対する値である。
図6に、表1の試験の結果に基づくワイブル確率軸上のプロット(以下「ワイブルプロット」という)を示す。ワイブルプロットは、ガラスのような破壊応力のばらつきが大きい材料の強度評価によく利用されるもので、破壊起点が荷重スパン外となったサンプルを除くすべての破壊応力の結果がプロットされている。この図では、プロットが右にあるほど破壊応力が大きいことを表す。
Figure 0005924439
表1からわかるように、試験例1〜3の場合、端面の両端部を糸面取りした試験例4と比べ、平均破壊応力値で30MPa以上増加(約1.5倍)し、破壊応力3σn−1下限値でも約19MPa以上増加(約1.4倍)した。なお、3σn−1下限値は、σを標準偏差値、nをサンプル数としたときの約1/1000の破壊確率を意味するもので、3σn−1下限値で示す応力が発生した場合に、約1000枚のうち1枚のガラス板に割れが起こることを意味する。
また、図6から試験例1〜3の破壊応力は、試験例4の破壊応力に比べて、耐熱強化ガラスの設計上重要な累積破壊確率が小さい領域から大きい領域までの全領域で大きいことがわかる。
この強度試験における破壊起点の位置は、試験例1〜3の場合、従来発生頻度の高かった角部1d(図5におけるf、l)での発生率は5%以下となっている。すなわち、ガラスの破壊は、稜部研磨面1cとガラス板面1aとのなす角度Aを135度以上170度以下、かつ稜部研磨面1cとガラス板面1bとで成す角部1dに有するカケの稜線方向の長さを200μm以下、稜線に垂直方向の最大幅を100μm以下とすることで、抑制することができることが確認できた。
上記の端部加工後のガラス板に表面圧縮応力150MPa(例えば急冷前ガラス温度650℃、圧縮空気温度42℃、圧縮空気圧力15.2kPa)の物理強化処理を施すことで遮炎性能に必要なエッジ強度が得られるとともに高い映像品質が得られる。また、上記の端部加工後のガラス板に表面圧縮応力105MPa(例えば急冷前ガラス温度635℃、圧縮空気温度41℃、圧縮空気圧力8.0kPa)の物理強化処理を施すことで遮炎性能に必要なエッジ強度が得られるとともにより高い映像品質が得られる。
このように、試験例1〜3の条件で端部加工すれば、ガラス板1のエッジ強度の3σn−1下限値が70MPaを超える。したがって、ガラス板1は遮炎性能に必要なエッジ強度を得るために、従来に比較して低い表面圧縮応力を付与する物理強化処理を施されればよく、生産性が向上し、また特に板厚3〜6mmの耐熱強化ガラス板の、物理強化処理によるガラス板の映像品質低下を回避することができる。
さらに、本発明に係る強化ガラスが、耐熱強化ガラスとしての遮炎性能を満足していることを確認するために、表2に示す条件で製造した強化ガラスを用いて、ISO834−1:1999の加熱曲線に基づいて防火試験を実施した。防火試験でのガラスは、サイズが縦1676mm、横1176mmで、スチール製のサッシに端部8mmを嵌め込んだ。また、表2に示す条件の強化ガラスに対して、防火試験前に縞模様を付けたボード(ゼブラボート)の縞模様を強化ガラスの表面に映して、映像品質を評価した。この結果も、表2に示す。表面圧縮応力は、製品名称FSM−30(折原製作所社製)を利用して、各4辺の中央部の端面から50mmの領域の各1点を測定し平均値をとった。表中の映像品質の評価において、映像品質が物理強化処理をしたガラスとして、非常に良好な場合を◎と、良好な場合を○と、良好ではないが問題とならない場合を△と評価した。表中の防火試験での遮炎性能についての判定基準は、非加熱側への10秒を超えて継続する火炎噴出がないこと、非加熱側への10秒を超えて継続する発炎がないこと、火炎が通る亀裂などの損傷及び隙間を生じないことであり、これらをすべて満たす場合に合格とした。
表2の結果から、本発明に係る強化ガラスは、遮炎性能を満足し、また表面圧縮応力を好ましい範囲にすることで遮炎性能と映像品質とを両立し、さらに表面圧縮応力をより好ましい範囲にすることで遮炎性能を維持してより高い映像品質を満足できることがわかった。
表2以外にも、防火試験を厚み7.7mmについて、試験例3の加工条件(表面圧縮応力は162MPa)、試験例4の加工条件(表面圧縮応力は198MPa)で実施した。これらのデータを考慮して、その他の厚みに対する好ましい表面圧縮応力については、前述した本発明に関わり見出した板厚が小さいほど必要な表面圧縮応力が小さくなるということと、本発明に係る研磨によって得られるエッジ強度向上分とに基づいて決定した。また、各板厚で必要な圧縮空気の圧力も、前記の必要な表面圧縮応力に基づいて決定した。
Figure 0005924439
Figure 0005924439
Figure 0005924439
本発明は、遮炎性能を満たすエッジ強度を有し、かつ、高い映像品質である住宅用の耐熱強化ガラスの提供ができる。また、通常でも耐熱強度が必要とされる熱線反射ガラスや熱線吸収ガラスの物理強化処理に好適である。
なお、2006年8月14日に出願された日本特許出願2006−221114の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
1:ガラス板、1a:ガラス板面、1b:端面、1c:稜部研磨面、1d:角部、
2(2a、2b、2c):砥石、3:砥粒層、4:回転軸、5:円盤、
6:研磨用ベルト、7:円筒。

Claims (8)

  1. 所定寸法に切断されたガラス板が物理強化処理された耐熱強化ガラスであって、
    前記耐熱強化ガラスは、ガラス板面と、端面と、前記ガラス板面及び前記端面に対し傾斜した稜部研磨面を有し、
    該稜部研磨面は前記ガラス板面とのなす角度が154度以上170度以下であり、
    前記稜部研磨面と前記ガラス板面とでなす角部のカケは稜線方向の長さが200μm以下、稜線に垂直方向の最大幅が100μm以下であることを特徴とする耐熱強化ガラス。
  2. 前記耐熱強化ガラスの表面の圧縮応力は、
    前記ガラス板の板厚が2.5mm以上3.5mm未満で70MPa以上155MPa以下、
    前記板厚が3.5mm以上4.5mm未満で75MPa以上160MPa以下、
    前記板厚が4.5mm以上5.5mm未満で85MPa以上170MPa以下、
    前記板厚が5.5mm以上6.3mm未満で95MPa以上180MPa以下、
    前記板厚が6.3mm以上7.0mm未満で105MPa以上190MPa以下、
    前記板厚が7.0mm以上9.0mm未満で120MPa以上205MPa以下、
    前記板厚が9.0mm以上11.0mm未満で135MPa以上220MPa以下、
    前記板厚が11.0mm以上20.0mm以下で150MPa以上240MPa以下である請求項1に記載の耐熱強化ガラス。
  3. 前記端面は、研磨されている請求項1又は2に記載の耐熱強化ガラス。
  4. 前記稜部研磨面の前記端面側への投影幅は、0.3mm以上1.3mm以下、前記稜部研磨面の前記ガラス板面側への投影幅は、0.3mm以上3mm以下である請求項1から3のいずれかに記載の耐熱強化ガラス。
  5. 所定寸法に切断されたガラス板の端部を加工する端部加工工程と、前記端部加工工程後のガラス板を物理強化処理する物理強化処理工程とを含む耐熱強化ガラスの製造方法であって、
    前記端部加工工程は、前記端部の稜部を研磨して、前記ガラス板のガラス板面とのなす角度が154度以上170度以下である稜部研磨面を形成する稜部研磨工程を有し、
    前記稜部研磨面と前記ガラス板面とでなす角部に有するカケの稜線方向の長さを200μm以下、前記カケの稜線に垂直方向の最大幅を100μm以下とすることを特徴とする耐熱強化ガラスの製造方法。
  6. 前記物理強化処理工程は、前記端部加工工程後の前記ガラス板を620℃以上660℃以下に加熱する工程と、前記加熱後の前記ガラス板に5℃以上80℃以下の圧縮空気を前記ガラス板の両面から吹き付けて急冷する工程とを含み、
    前記圧縮空気の圧力を、
    前記ガラス板の板厚が2.5mm以上3.5mm未満で10kPa以上25kPa以下、
    前記板厚が3.5mm以上4.5mm未満で7kPa以上20kPa以下、
    前記板厚が4.5mm以上7.0mm未満で6kPa以上15kPa以下、
    前記板厚が7.0mm以上9.0mm未満で5kPa以上13kPa以下、
    前記板厚が9.0mm以上11.0mm未満で4kPa以上12kPa以下、
    前記板厚が11.0mm以上20.0mm以下で2kPa以上10kPa以下
    とする請求項5に記載の耐熱強化ガラスの製造方法。
  7. 前記端部加工工程は、前記ガラス板の端面を研磨する端面研磨工程を有する請求項5又は6に記載の耐熱強化ガラスの製造方法。
  8. 前記稜部研磨工程は、前記稜部研磨面の前記ガラス板の端面側への投影幅を0.3mm以上1.3mm以下、前記稜部研磨面の前記ガラス板面側への投影幅を0.3mm以上3mm以下に研磨する請求項5から7のいずれかに記載の耐熱強化ガラスの製造方法。
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