以下、図を用いて本発明の第1の実施形態について詳細に説明する。図1は、本発明の第1の実施形態にかかる前扉20の開閉機構を備えた加工槽11を採用した放電加工装置10の例を示す。放電加工装置10は、ベッド12と、Y軸方向(水平方向の所定方向)に移動可能にベッド12上に設置されたサドル17と、Y軸方向と垂直な水平方向(X軸方向)に移動可能に、サドル17上に設置されたテーブル18と、テーブル18上に設置された加工槽11を備える。また、被加工物WPがこの加工槽11の中のワークスタンドWS上に配置される。ベッド12の後部には、コラム14が垂直に立設されている。そして、ワイヤ電極ELを支持する上ガイドアッセンブリ15および下ガイドアッセンブリ16が、それぞれコラム14から延びる上アーム13および下アーム19に支持されて、被加工物WPを挟んだ位置に対向配置される。
放電加工装置10は、図示しない放電加工用の電源装置から被加工物WPとワイヤ電極ELとに加工電圧を供給しつつ、図示しない制御手段により、Y軸方向にサドル17を変位させ、X軸方向にテーブル18を変位させることにより、テーブル18に載置された被加工物WPを、上ガイドアッセンブリ15と下ガイドアッセンブリ16に支持されたワイヤ電極ELに対して所望の経路に沿って相対的に移動させ、放電加工を行うことができる。
図2は本第1の実施形態に係る加工槽11の側面図である。図2の中で、加工液が漏洩しないように閉鎖された閉鎖状態の前扉20を実線で示し、前扉が最も開いた状態である開放状態の前扉20を2点鎖線で示す。
本実施形態における加工槽11は、前扉20に揺動可能に取り付けられたクランプレバーを駆動することによって前扉の開放動作と閉鎖動作を行うものである。ここで、閉鎖動作は、前扉20の上昇と、前扉20を加工槽11に押し当てた閉鎖状態にするために、上昇位置に持ち上げた前扉20を加工槽11側に移動する前扉20の後方移動からなる。また、開放動作は閉鎖動作を逆の順序で行う動作であって、前扉20を加工槽11に押し当てられた位置から前扉20を下降可能な位置まで移動させる前扉20の前方移動と、前扉20の下降からなる。
図2に示すように、加工槽11の前面には、開口11Aが開けられている。この開口11Aを覆う前扉20には、開口11Aの周縁に対向するように加工液の漏洩を防ぐためのパッキン22が取り付けられている。そして前扉20の両側近傍には、加工槽11の右側壁11B、左側壁11C(図1参照)をそれぞれ挟むようにブラケット21B、21C(図1参照)が取り外し可能に取り付けられている。パッキン22の交換等の保守作業のために扉を取り外す必要があるからである。
加工槽11の両側壁11B、11Cには、前端に沿ってレールブロック31(レール部材)が取り付けられ、第1のL字型案内溝32および第2のL字型案内溝33(L字型レール部)が形成されている。レールブロック31は、耐摩耗性と摩擦抵抗とに優れたエンジニアリングプラスチックからなり、第1のL字型案内溝32は、上下方向に延びる溝からなる上下部32Vと、この上下部の上端から加工槽の後ろ側に向かって前後方向に延びる溝からなる前後部32Hとから構成されるL字型の溝として形成されている。第2のL字型案内溝33は、第1のL字型案内溝32と高さおよび水平方向の位置を異ならせて平行に形成された第1のL字型案内溝32と同形状の溝であり、第1のL字型案内溝32と同様に、上下方向に延びる溝からなる上下部33Vと、この上下部の上端から加工槽の後ろ側に向かって前後方向に延びる溝からなる前後部33Hとから構成されるL字型の溝として形成されている。
加工槽11の両側壁11B、11Cのレールブロック31の後隣には、上下案内溝36が形成された上下レール部材35が、前記レールブロック31に平行に取り付けられている。前扉20が上下移動するときには、第1、第2カムフォロアー26、27が上記L字型案内溝32、33に沿って上下移動し、クランプカムフォロアー24Cがこの上下案内溝36に沿って上下移動する。
ブラケット21B、21Cは、第1のガイド部である第1カムフォロアー26、第2カムフォロアー27を備え、これらの第1、第2カムフォロアー26、27は、レールブロック31(レール部材)に形成された第1のL字型案内溝32、第2のL字型案内溝33にそれぞれ挿入されて案内される。
ブラケット21B、21Cは、取付軸(軸支部)24Aで揺動可能に軸支されたクランプレバー24を備える。クランプレバー24の取付軸24Aより前側に取り付けられたクランプカムフォロアー24Cは、上下案内溝36に挿入されて案内される。
また、加工槽11は、加工槽11の両側面に、上下案内溝36の上方に配置された上側プーリ43Uおよび下方に配置された下側プーリ43Lと、このプーリに掛け渡された歯付きベルト(タイミングベルト)41(駆動伝達手段)をそれぞれ備え、加工槽11の右側面にのみ、加工槽11の前扉20を上下移動させ開閉動作を行なうサーボモータ40(駆動手段)を備える。また、サーボモータ40と右側面に備えられた下側プーリ43Lとの間には、タイミングベルト40Aが掛け渡され、サーボモータ40の駆動に応じて下側プーリ43Lを同期して回転させるように構成されている。
また、本第1の実施形態では、図2に示すように、サーボモータ40は、その回転駆動軸が加工槽11の右側面に設けられる下側プーリ43Lの回転軸と平行になる位置に配置される。なお、サーボモータ40の駆動力を下側プーリ43Lに替えて上側プーリ43Uに伝達してもよい。また、サーボモータ40の駆動力を下側プーリ43Lに伝達できるものであれば、サーボモータ40と下側プーリ43L(または上側プーリ43U)を回転軸が同軸になるように連結してもよい。また、タイミングベルト40Aの代わりにチェーンなどの代替手段を用いてもよく、1つ以上のギアなどさらなる部品を用いてもよい。
図3は、クランプレバー24とベルト41との連結部分を拡大して示す平面図である。図3に示すように、クランプレバー24には、連結シャフト24B(駆動連結部)が取り付けられて、連結ハウジング48内のボールベアリング48Aに回転可能に支持されている。また、連結ハウジング48には、ベルト41を連結ハウジング48との間に挟持してベルト41をクランプレバー24に固定するためのベルトロック部材48Cが取り付けられている。図3に示すように、ベルト41が連結ハウジング48とベルトロック部材48Cに挟持されることによりクランプレバー24に連結されているため、サーボモータ40を駆動して下側プーリ43Lを回転させると、ベルト41が走行して、ベルト41と固定されたクランプレバー24が揺動する。このように、ベルト41は、サーボモータ40の駆動力をクランプレバー24に伝達している。また、連結シャフト24Bは、クランプレバー24に取り付けられたクランプカムフォロアー24Cの軸に同軸に連結されている。
図4は、図2に示す加工槽11の前扉20を取り外した状態の加工槽11の右側前面図である。右側面11B(および左側面11C)に設けられた上側プーリ43Uはプーリシャフト44を有し、ベアリング46を介して回転するように固定されている。右側面11B(および左側面11C)に設けられた下側プーリ43Lは、左右の下側プーリ43Lを連結するプーリシャフト45にそれぞれベアリング47を介して回転するように固定されている。左右の下側プーリ43Lが共通のプーリシャフト45に連結しているため、サーボモータ40によって上側プーリ43Uおよび下側プーリ43Lに掛け渡されたベルト41が駆動されると、両側壁11B、11Cにそれぞれ備えられた上側プーリ43Uと下側プーリ43Lは全てが連動して回転する。なお、ベアリング47は、ハウジング47Aに収容される。なお、このハウジング47Aは、ベルトの着脱作業のため、あるいは、伸び吸収のため取付位置が上下に調整可能であり、公知のテークアップとしても機能する。
このように本実施形態では、両側面11B、11Cにそれぞれ備えられた上側プーリ43Uと下側プーリ43Lおよびベルト41を用い、サーボモータ40の駆動力を連結シャフト24Bを介して駆動力を両側のブラケットに同時に伝達して前扉20を移動させている。このため、前扉20が移動するとき両側のブラケット21B、21Cが同期して移動させることができ、各カムフォロアーがL字型案内溝32、33または上下案内溝36にひっかかるなどの問題の発生を抑制できる。また、前扉20をより容易に移動可能にするために、例えば、図4に示すようにねじりコイルばね49をシャフト45に巻回してその端部を固定金具49Aで固定しておいて、ねじりコイルばね49により前扉20の重量より少し小さい力がベルト41に加わるようにすることが好ましい。この場合には、前扉20の移動に必要な力を軽減することができるので、前扉20の移動を小さな力で行うことができる。このように、ベルト41は、ブラケット21B、21Cを同期して移動させるとともに所定の駆動力を付与することができるものであればよく、ベルトに限らずチェーン、ワイヤ等であってもよい。
また、ブラケット21B、21Cは、図2に示すように、クランプレバー24の回転範囲を規定するためにクランプレバー24上方にストッパピン23を備える。ストッパピン23は、クランプレバー24が閉鎖状態の傾きになった際に、クランプレバー24に当接する位置に配置されている。ストッパピン23のようにクランプレバー24の回転範囲を規定するための回転規制手段を設けることにより、前扉20に意図しない上向きの力が加わった場合にでも、クランプレバー24が誤って前方が高くなるような傾きとなって前扉の移動の不具合が生じるのを防ぐことができる。なお、クランプレバー24の回転を妨げないように、ブラケット21B、21Cにはクランプカムフォロアー24Cの揺動経路に沿って切り欠き21Aが設けられている。
また、L字型案内溝32、33の各前後部32H、33Hの前後方向の長さは、クランプレバー24の回動による前扉20の前後方向の変位量より大きいことが必要である。
前後部32H、33Hの前後方向の長さは、前扉20が閉鎖状態における位置から上下移動可能な位置まで前方に移動する距離と略等しいことが好ましく、さらに、前扉20が閉鎖状態における位置から上下移動可能な位置まで前方に移動する距離にパッキン22の前後方向の収縮代と前扉20が傾いたときの前扉20の上縁と下縁における前後の変位差といくらかの安全代とを足した長さとすることが望ましい。例えば、上下部32V、33Vの上端から第1および第2カムフォロアー26、27が停止する位置までの前後部32H、33Hの前後方向の長さは、少なくとも10mm以上の十分な大きさとすることが好ましい。
また、第1および第2のL字型案内溝32、33の各前後部32H、33Hと上下部32V、33Vは、屈折部32C、33Cで丸みをおびた角をなすように連結されていることが好ましい。この場合には、第1および第2クランプカムフォロアー26、27の上下移動から前後移動、またはこの逆の移動方向の切り替えを円滑に導くことができる。
図5は、図2に示す第1および第2のL字型案内溝32、33の変形例を表す図である。図5に示すように、第1および第2のL字型案内溝32、33の各前後部32H、33Hは、特にその屈折部32C、33C付近において加工槽11の前側に向かって低くなるように傾斜していてもよい。この場合には、開放動作の開始時にブラケット21B、21Cの移動に応じて第1および第2クランプカムフォロアー26、27をより小さい力で前方に移動させることができる。なお、第1及び第2のL字型溝32、33の前後部32H、33Hが、前側が低くなるように上下方向に直交する方向からθ傾いている場合、その傾きθは前扉20の前方移動を容易にし、前扉20がL字型案内溝32、33の前後部32H、33Hに沿って移動する際に前扉20が傾いて前扉20の一部またはパッキン22の一部が加工槽11の前面にぶつかることのない範囲の値であることが好ましい。また、第1及び第2のL字型溝32、33の前後部32H、33Hの傾きは、前扉20の自重だけで第1および第2のクランプカムフォロアー26、27が前後部32H、33Hを前方に移動してしまうことない範囲の値であることが好ましい。例えば、傾きθは、前後方向に対して0度以上30度以下であることが好ましく、0度以上15度以下であることがより好ましい。また、前後部32H、33Hの全体が傾いていてもよく、前後部32H、33Hの前部分など前後部の一部のみが傾いていてもよい。
また、本実施形態のように、各側面11B、11Cに、L字型レール部として高さおよび前後方向の位置を互いに異ならせた2つのL字型溝32、33をそれぞれ設けることが好ましい。この場合には、前扉20を前後に傾かないよう安定して支持でき、この結果、前扉20が前後に倒れるように傾くことにより生ずる前扉20のL字型レール部へのひっかかりなどの問題を防ぐことができるため、円滑に前扉20を昇降させることができる。
また、加工槽11は、図2に示すように、前扉20の開放動作または閉鎖動作を終了する制御を行うために、図2に示すように右側壁11Bにのみ、ブラケット21Bの位置を検出するセンサS1、S2を備える。つまり、前扉20が最も下がった状態でブラケット21Bの下端と当接する位置に前扉開放検出用リミットスイッチS2を設け、閉鎖状態におけるブラケット21Bの後端に当接する位置に前扉閉鎖検出用リミットスイッチS1を設ける。そして、サーボモータ40の制御を行う不図示の制御手段は、ブラケット21Bの下端が前扉開放検出用リミットスイッチS2に当接したことによるリミットスイッチS2の信号を受け付けて前扉20の開放動作終了を判別し、サーボモータ40の駆動をストップする。また、制御手段は、ブラケット21Bの右端が前扉閉鎖検出用リミットスイッチS1に当接したことによるリミットスイッチS1の信号を受け付けて、前扉20の閉鎖動作終了を判別して、サーボモータ40の駆動力を閉鎖動作用の出力レベルから閉鎖状態維持用の出力レベルに切り換える。なお、開放動作の開始および閉鎖動作の開始は、制御手段が操作パネルに設けられたボタンが押されたことを検出することにより判別する。なお、制御手段は、開放動作時にはサーボモータ40を正転させる制御を行い、閉鎖動作時にはサーボモータ40を逆転させる制御を行う。
なお、本実施形態に限定されず、前扉20の開放動作の終了および閉鎖動作の終了を判別するために、前扉20の開放動作の終了および閉鎖動作の終了を検知可能ないかなる方法を適用してよい。また、上記実施形態において、加工槽側にセンサを設ける代わりにブラケット側にセンサを設けて、加工槽本体側の開放動作の終了および閉鎖動作の終了が確認できる位置にセンサに当接する部材を備えてもよい。また、閉鎖動作の終了を判別するために、ブラケット21Bの位置を検出する代わりに、クランプレバー24の閉鎖状態における傾きを検出して用いてもよい。
次に、本発明の第2の実施形態を説明する。図6は、本発明の第2の実施形態にかかる前扉20の開閉機構を備えた加工槽11を採用した放電加工装置10の例を示す。ここで、既に説明した第1の実施形態と本質的に同じ部材は同一の符号を付して説明し、第1の実施形態と実質的に同じ構成に関しては、詳しい説明を省略する。本第2の実施形態は、基本的に、駆動手段がロッドレスシリンダである点で、第1の実施形態と異なる。
図6に示すように、加工槽11は、加工槽11の右側にロッドレスシリンダ42を備える。ロッドレスシリンダ42は、上下方向に延びるシリンダチューブ42Bに沿って上下移動するスライド部42Aを有する。ロッドレスシリンダ42は、上下案内溝36と対向する位置に、シリンダチューブ42Bのセンタラインが上下案内溝36と平行になるように配置される。図7の左側に示す図は、図6に示すクランプレバー24とロッドレスシリンダ42との連結部分を拡大して示す平面図であり、図7の右側に示す図は、図7の平面図のB−B断面図(右側面)である。図8は図7の平面図のA−A断面図(正面図)である。図7および図8に示すように、ロッドレスシリンダ42のスライド部42Aには、ベルト41をスライド部42Aに固定するためのベルトロック部材48Cが取り付けられ、このベルトロック部材48Cに連結ハウジング48が取り付けられている。ブラケット21Bのクランプレバー24に取り付けられた連結シャフト24B(駆動連結部)は、上記連結ハウジング48内のボールベアリング48Aに回動可能に支持されている。また、連結シャフト24Bは、クランプレバー24に取り付けられたクランプカムフォロアー24Cの軸に同軸に連結されている。なお、ロッドレスシリンダ42は、加工槽11の左側には設けられていない。このため、左側のブラケット21Cは、クランプレバー24がスライド部42Aと連結されていない点のみ右側のブラケット21Bと異なるが、それ以外はブラケット21Bと左右対称に同じ構成を有する。
図7および8に示すように、ベルト41は、連結ハウジング48とベルトロック部材48Cに挟持されることによりスライド部42Aに固定され、スライド部42Aによって上下に駆動されるように構成されている。また、本第2の実施形態においても第1の実施形態と同様に、加工槽11は、加工槽11の両側面に、上下案内溝36の上方に配置された上側プーリ43Uおよび下方に配置された下側プーリ43Lと、このプーリに掛け渡された歯付きベルト41とをそれぞれ備え、図4に示すように左右の下側プーリ43Lが共通のプーリシャフト45に連結されているため、スライド部42Aによって上側プーリ43Uおよび下側プーリ43Lに掛け渡されたベルト41が駆動されると、両側壁11B、11Cにそれぞれ備えられた上側プーリ43Uと下側プーリ43Lは全てが連動して回転する。
このように本実施形態では、ロッドレスシリンダ42、両側面11B、11Cにそれぞれ備えられた上側プーリ43Uと下側プーリ43Lおよびベルト41を用い、連結シャフト24Bを介して駆動力を両側のブラケットに同時に伝達して前扉20を移動させている。このため、前扉20が移動するとき両側のブラケット21B、21Cが同期して移動させることができ、各カムフォロアーがL字型案内溝32、33または上下案内溝36にひっかかるなどの問題の発生を抑制できる。また、第1のの実施形態と同じように、図4に示すようにねじりコイルばね49をシャフト45に巻回して、ねじりコイルばね49により前扉20の重量より少し小さい力がベルト41に加わるようにすることができる。
また、加工槽11は、図6に示すように、前扉20の開放動作または閉鎖動作を終了する制御を行うために、図6に示すように右側壁11Bにのみ、ブラケット21Bの位置を検出するセンサS1、S2を備える。つまり、前扉20が最も下がった状態でブラケット21Bの下端と当接する位置に前扉開放検出用リミットスイッチS2を設け、閉鎖状態におけるブラケット21Bの後端に当接する位置に前扉閉鎖検出用リミットスイッチS1を設ける。そして、ロッドレスシリンダ42の制御を行う不図示の制御手段は、ブラケット21Bの下端が前扉開放検出用リミットスイッチS2に当接したことによるリミットスイッチS2の信号を受け付けて前扉20の開放動作終了を判別し、ロッドレスシリンダ42の駆動をストップする。また、制御手段は、ブラケット21Bの右端が前扉閉鎖検出用リミットスイッチS1に当接したことによるリミットスイッチS1の信号を受け付けて、前扉20の閉鎖動作終了を判別して、ロッドレスシリンダ42の駆動力を閉鎖動作用の出力レベルから閉鎖状態維持用の出力レベルに切り換える。なお、開放動作の開始および閉鎖動作の開始は、制御手段が操作パネルに設けられたボタンが押されたことを検出することにより判別する。なお、制御手段は、開放動作時にはロッドレスシリンダ42を下降させる制御を行い、閉鎖動作時にはロッドレスシリンダ42を上昇させる制御を行う。
次いで、図4および図6ないし図8を用いて、駆動手段がロッドレスシリンダである第2の実施形態の動作を説明する。まず、前扉20の閉鎖動作を説明し、その後開放動作を説明する。なお、駆動手段がサーボモータである第1の実施形態においては、駆動源が異なることによる駆動力の伝達の方式が相違する以外は、各部材の基本的な動作は、本質的に駆動手段がロッドレスシリンダである実施形態と同じであるので、第1の実施形態の動作の説明を省略する。
前扉20が開放状態のときには、ロッドレスシリンダ42は停止しており、クランプレバー24は前側が低くなるように前後方向から角度θ傾いている。不図示の制御手段が不図示の操作パネルに設けられたボタンが押されたことを検出することにより閉鎖動作の開始を判別し、ロッドレスシリンダ42の駆動を開始する。ロッドレスシリンダ42のスライド部42Aが連結シャフト24Bを介してクランプレバー24を上方に移動すると、第1および第2のカムフォロアー26、27が第1及び第2のL字型溝32、33の上下部32V、33Vを通過している間は、クランプレバー24の連結シャフト24Bの上昇に応じてクランプレバー24は所定角度傾いたまま、ブラケット21B(21C)と前扉20が上昇し、第1および第2のカムフォロアー26、27がL字型レール部の上端の屈折部32Cに到達する。
次に、ロッドレスシリンダ42のスライド部42Aが連結シャフト24Bを介してクランプレバー24をさらに上方に移動すると、ブラケット21に取り付けられた第1および第2のカムフォロアー26、27が前後部32H、33Hに案内されることによりブラケット21B(21C)は後方にのみ移動可能であるため、連結シャフト24Bの上方移動に応じてクランプレバー24が取付軸24Aを中心に回動してクランプレバー24の取付軸24Aが後方移動する。この取付軸24Aの後方移動に応じてブラケット21B、21Cと前扉20が後方移動する。すると、ブラケット21B(21C)の後端が閉鎖動作終了を検出するリミットスイッチS1に当接し、制御手段がリミットスイッチS1の信号を検出してロッドレスシリンダ42の出力を閉鎖状態維持用の大きさに切り換えて、閉鎖動作が終了する。なお、前扉20の閉鎖状態では、ロッドレスシリンダ42からの上向きの力がパッキン22の弾性力や加工槽11の内側からの加工液の圧力を考慮した所定の閉鎖状態用の出力レベルでブラケット24に継続的に加えられている。
本実施形態では、図6に示すように、閉鎖状態においてクランプレバー24は前後方向に平行である。クランプレバー24を前後方向に平行にした場合には、クランプレバー24に前後方向の力がかかった場合でも上下方向の分力が発生しないため、クランプレバー24が誤って回転することが生じにくく、加工液に前扉20が前方に押圧されても、クランプレバー24のクランプカムフォロアー24Cが上下案内溝36に前方に押しつけられた状態でクランプレバー24が前後方向に突っ張って押圧力を受け止め、前扉20の閉鎖状態を良好に維持することができる。クランプレバー24が閉鎖状態で前後方向に対して傾きを有するようにしてもよいが、この場合には、加工槽11の開口11Aにおける加工液の前方への圧力によってクランプレバー24に上下方向の分力が発生し、クランプレバー24が誤って回転する恐れがあるため、前扉20の閉鎖状態を良好に維持するためにロッドレスシリンダ42の閉鎖状態用の出力レベルを十分大きく設定することが好ましい。
前扉20の開放動作を説明する。不図示の制御手段が不図示の操作パネルに設けられたボタンが押されたことを検出することにより開放動作の開始を判別し、閉鎖動作時とはベルト41を逆回転するようにロッドレスシリンダ42の出力を開放動作用の出力レベル切り換える。すると、ロッドレスシリンダ42による連結シャフト24Bの下方移動に応じて、クランプレバー24が取付軸24Aを中心に回動し、クランプレバー24は前側が低くなるように前後から角度θ傾く。すると、クランプレバー24の回動に応じて第1および第2のカムフォロアー26、27がL字型案内溝32、33の前後部32H、33Hに沿って前方移動し、結果としてブラケット21B、21Cと前扉20が前方移動する。
次いで、第1および第2のカムフォロアー26、27がL字型案内溝32、33の上下部32V、33Vに到達すると、クランプレバー24の下方移動に応じて第1および第2のカムフォロアー26、27が上下部32V、33Vに沿って下方移動する。この間、ブラケット21に取り付けられた第1および第2のカムフォロアー26、27がL字型案内溝32、33の上下部32V、33Vに案内されることによりブラケット21は下方向にのみ移動可能であるため、クランプレバー24は所定角度傾いた状態に維持される。ブラケット21Bの下端が開放動作終了を検出するリミットスイッチS2に当接すると、制御手段がリミットスイッチS2の信号を検出してロッドレスシリンダ42を停止し、開放動作が終了する。
上記第1および第2の実施形態に係る加工槽11によれば、クランプレバー24に上方向の力を付勢するだけで閉鎖動作を完了し、クランプレバー24に下方向の力を付勢するだけで開放動作を完了するため、前扉20の封鎖および開放を円滑かつ容易に行うことができる。また、駆動手段の制御が容易であり、サーボモータ40とロッドレスシリンダ42以外でも、上下方向の駆動を行えるものであれば様々な駆動手段を適用できる。また、上記加工槽11のように、前扉20を加工槽11の前面から少し離間して前方に位置させてから前扉20の上下移動を行うことにより、前扉20の内側に加工液の液漏れを防ぐためにパッキンが取り付けられていた場合でも、特許文献3のように前扉内側のパッキンを加工槽に対して摺動しながら前扉を移動させることがなく、比較的小さい出力の駆動装置も適用可能であるため、開閉機構をコンパクト化することができる。
また、第1および第2の実施形態によれば、前扉20を加工槽11に対して押し当てる方向に後方移動して閉鎖状態を終了するため、前扉20のパッキン22をしっかり加工槽11に密着させることができる。また前扉20が前後方向に加工槽11に着脱されるため、パッキン22を損傷しにくい。
また上記第1および第2の実施形態のように、第1のガイド部としてカムフォロアーを用いることが好ましい。この場合には、回転可能なローラを介してL字型レール部と係合するため、L字型レール部の屈折部分において円滑にL字型レール部に沿って第1のガイド部が移動することができる。また、第1のガイド部を回転しないガイドピンとして構成してもよい。また、L字型レール部と第1ガイド部は、互いに係合することにより第1ガイド部を上下に案内可能なものであれば、それぞれいかなる部材、形状、構造を使用してよい。
また上記第1および第2の実施形態のように、第2のガイド部としてカムフォロアーを用いることが好ましい。この場合には、回転可能なローラを介して上下レール部と係合するため、クランプレバー24の回動に応じて、上下レール部の側壁に押し当てられても円滑に上下レール部に沿って移動することができる。また、第2のガイド部を回転しないガイドピンとして構成してもよい。なお、上下レール部および第2ガイド部は、互いに係合することにより第2ガイド部を上下に案内可能なものであれば、それぞれいかなる部材、形状、構造を使用してよい。
上記第1および第2の実施形態のように、駆動連結部である連結シャフト24Bと第2のガイド部であるクランプカムフォロアー24Cを同軸上に設けた場合には、駆動力をクランプレバー24にもベルト41にも直接的に伝えることができるため好ましい。ただし、本第1および第2の実施形態に限定されず、駆動連結部をクランプレバー24の任意の位置に設けることができる。
図9は、放電加工装置10の右側面を部分的に表す図であり、クランプレバーの変形例およびこのクランプレバーの閉鎖動作中の複数の時点の動作をクランプレバーのセンターラインで示している。図9では、クランプレバー24をL字型のレバーとして構成し、取付軸24A、クランプカムフォロアー24C、連結シャフト24Bを、この順に前側になる様にクランプレバー24のセンタラインC上に配置している。なお、図6では、閉鎖状態および閉鎖動作中の6つの時点のクランプレバー24のセンタラインの位置を閉鎖動作の順にそれぞれC1〜C6の符号を付して示しており、各時点の取付軸24A、クランプカムフォロアー24C、連結シャフト24Bの中心の位置を○で表している。
図9のように、連結シャフト24Bが、取付軸24Aに対して第1カムフォロアー24Cよりも遠い位置に配置されている場合には、てこの原理により、連結シャフト24Bに付勢した力を効率よく拡大してカムフォロアー24Cに伝えることができる。図9では、l=mとなるように取付軸24A、クランプカムフォロアー24C、連結シャフト24Bを配置しているので、連結シャフト24Bにおける上下方向の力をクランプカムフォロアー24Cに対して2倍に増大して作用させることができる。ただし、この場合には、前扉20の開閉動作に伴ってクランプレバー24が回動する際に、クランプレバー24の連結シャフト24Bが前後方向(図9における水平方向)にも変位するため、連結シャフト24Bに連結される駆動伝達手段は前後方向の変位を許容可能な構成であることが必要である。このため、クランプレバーをL字型のレバーとして構成したときは、直線的に上下移動するロッドレスシリンダ42に連結シャフト24Bを直接連結する構成よりも、サーボモータ40を駆動手段として採用して、サーボモータ40の駆動力を上下いずれかのプーリの回転軸に伝達し、上下プーリに掛け渡されたベルト41が駆動力を伝達可能な範囲で前後方向に適度に撓むことができるようにし、連結シャフト24Bの前後方向の変位を許容可能に構成することが好ましい。
また、図9に示す例では、取付軸24A、第1カムフォロアー24Cおよび連結シャフト24Bが直線上に位置しないように取付軸24A、第1カムフォロアー26を結ぶ直線から垂直上方に距離nだけ離間して連結シャフト24Bを設けている。この場合には、取付軸24A、クランプカムフォロアー24Cおよび連結シャフト24Bを一直線上に配置した場合よりも、クランプレバー24の回動に応じた連結シャフト24Bの前後方向の変位を小さくすることができるため、放電加工装置10のコンパクト化の観点から好ましく、また、直線的に上下方向に移動する駆動装置との連結が容易である。
上記各実施形態では、駆動装置を一方の側壁だけに設けている構成を示したが、必要に応じて駆動装置を2基備えるように、左右の側壁にそれぞれ設けて同期するように駆動制御してもよい。
上記、放電加工装置10において、クランプレバー24をブラケット21B、21Cの外側に備えた構成としたが、クランプレバー24をブラケット21B、21Cの内側に設けてもよい。
以上説明した本発明は、この発明の特徴的事項から逸脱することなく他のいろいろな形態で実施することができる。したがって、本明細書に記載した実施例は例示的なものであり、これに限定して解釈されるべきものではない。