培養シートを用いて細胞を培養し、細胞塊である三次元組織、あるいは二次元平面組織の形成方法を実現するための最良の形態について、以下詳細に説明する。
実施例1では、培養シートを培養シート保持部材であるチャンバースライドに適用した例を示す。以降、従来のナノピラーシートに対し、本発明における培養領域を形成する仕切り構造を有し、当該仕切構造の内部に突起物が複数形成されたシートを培養シートと記す。
当該培養シートは細胞に悪影響の無い材質で形成され、本例では、ポリスチレンとしている。ただし、材質はポリスチレンに限らないことは云うまでもない。
図1は本実施例で作成した培養シート100の走査型電子顕微鏡写真の模式図である。また同時に、培養シート1枚あたりに複数個存在する仕切り構造102により構成された孔101(以下、ホール)の一つの構造を示す。当該ホール101の内部が細胞組織形成単位での培養領域を構成する。
ホール101の底面に保持されている複数の突起物102は、複数の微小突起物103(以下、突起、ピラー、ナノピラーともいう)からなる。また、このホール101の直径をホール径105とする。当該培養シート100において、上記の仕切壁102を具備するホール101と、当該ホール101の内部に形成されている複数の突起103とは同一材料で一体的に形成されている。なお、このホール101は、丸型形状に限定されるものでなく、四角形状等他の形状であっても良い。
このように細胞に悪影響の無い単一材料で、仕切壁102を具備したホール101と当該ホール101の内部に形成されている複数の突起103とが一体的に培養シート100として形成されることにより、培養工程において細胞に異物が接着することなく細胞を成長させることができる。さらに個々の仕切内において細胞が成長するため、均一な大きさの細胞を形成させることが可能となる。
また、囲み配置された仕切壁102の内部に複数の突起を設けているので、細胞が本来保持している能力である細胞運動を促し、当該運動により成長することで、回転培養等による外乱(ストレス)の影響なく、細胞活性を維持した細胞培養が可能となる。
これらホール101と突起集合体103とを別体として培養領域を形成しようとすると、それらの接着、溶着による接合が必要となる。
例えばこれらを接着接合した場合には、培養領域の内部に接着剤成分が混入し、生成細胞に悪影響を及ぼす可能性がある。
また溶着接合では、ホール101の内径が細胞形成レベルの極微小領域径のため、目的とする細胞領域を形成しつつ、仕切、突起に損傷を与えずに溶着することはかなり困難である。当該仕切や突起に損傷、変形があると、細胞形成過程において細胞に不要なストレスを与えたり、細胞自身の運動に障害となる可能性がある。
従って、培養領域を形成するホール101を構成するホール底面104、仕切り壁102および突起103とは一体的に形成されていることが望ましい。このように一体的に形成されることにより、細胞培養に必要な成分以外の不要成分の影響を排除した培養を実行
することが可能となり好適である。
次に、突起103の拡大図を図2に示す。ピラー径とは突起物先端部の直径106を示す。ピラーピッチとは、突起物先端部の中心から、隣り合う突起物先端部の中心までの距離107を示す。ピラー高さとは、ナノピラーの先端部から底部までの高さ108を示す。図2の(a)、図2の(b)は、それぞれ本実施例のナノピラーの正方配置、三角配置を示す。
本実施例では、ピラー径、ピラーピッチ、ピラー高さはそれぞれ2.0μm、4.0μm、1.0μmのものを使用したが、後述するように、これら以外の培養シートであっても構わない。本実施例では仕切り構造の高さは70μmであるが、この値に限らず、好適には形成される細胞が仕切りを乗り越えない程度の高さであれば良い。
本実施例における培養シート100は以下に述べる方法で作製する。
直径200μm、深さ70μmの円形の孔が正方配置され、その底面に直径2.0μm、深さ1.0μmの微細孔が4.0μmピッチで形成された金型を、400μmの厚さのポリスチレンフィルムに135℃、圧力2MPaでプレスした。室温に冷却後にプレス装置より取り出し、金型をポリスチレンフィルムから剥離することにより、ホール径が200μmのホールを複数保持し、その底面に複数の突起を有した培養シートが作製できる。
ここで型材はシリコンウェハであり、培養シート作製時におけるポリスチレンフィルムとの接着を防止するため、フッ素系の離型剤により離型処理を予め施している。本実施例では型材をシリコンウェハとしたが、その他金属材料等の金型であっても構わない。
図3に示すように、このように単一素材で一体成型により作製された培養シート100を、本例では2cm角にカットして、チャンバースライド109のガラス底面に手術用接着剤110を塗布して接着させることにより、培養シート100が貼付されたチャンバースライド109を作製している。なお、図3において、109aは各培養シート100を区分ける枠を示す。この枠109aは例えばプラスチック材などで形成される。なお、この枠109a等の枠体の形状は、四角形状に限らず、丸型形状等他の形状であっても良い。
図13A,13B,13Cにおいて、本実施例の培養シートが貼付されたチャンバースライドの全体構成図及び要部断面図として示す。
図13Aは本実施例における培養器材の外観斜視図、上面図、上下側面図である。左右側面図は斜視図よりその形態が明らかであるため図示を省略する。
図13Bは部分拡大図であり、A−A,B−B部分拡大図と、C−C,D−D部分拡大図を示すものである。
図13Cは部分拡大図、及び端面図であり、E−E,F−F部分拡大図、G−G線端面図を示すものである。
図13A−13Cにおいて示される当該物品は、人や動物や植物などの細胞を培養する培養其材(培養容器)で、培養シート100と培養シート100を保持する保持部(チャンバースライド)109とから構成されており、培養シート100の表面には複数の仕切り部102が形成されており、保持部109に形成された筒状の穴部109aの内部底面に設けられている。
更にその仕切り部の内部には複数の微細な突起部103を有する培養領域が夫々形成されている。仕切り部102内の培養領域を形成するシート面に添加されるように、培養する目的細胞を穴部109a内に対して添加すると、複数の微細な突起部103に保持されて当該目的細胞が培養されることになる。
次に、第2の実施例を図4、図5に従い説明する。実施例2では培養シート付マルチウェルプレートの構成、及びその作製例を示す。図4の(a)はマルチウェルプレートを構成する枠体111の底面図である。培養シート保持部材である枠体111は、横幅約125mm、縦約80mm、高さ約20mmの中に縦列に4穴、横列に6穴の計24穴の筒状の穴部111aが成型されたものである。素材はポリスチレンを用いている。
枠体に形成される穴の数は、通常6穴から1536穴まで、用途によって使い分けるため、この枠体も穴の数は24穴に限定されない。また枠体の素材もポリスチレンに限定されるものではない。
当該培養器材の作製では、枠体111と培養シート100を超音波溶着により接合させる。
枠体111には予め、以下の処理を施しておく。まず一つ目は、枠体111と培養シート100を溶着させる際に与える超音波の振動で細胞培養シートとプレートがずれてしまうのを防ぐ目的で、枠体111の底面にフィルム固定用突起112を加工する。二つ目は、培養シートを超音波で溶着させるためにリブ構造113を設けておく。
図4の(b)、(c)は図4の(a)のB−B’、A−A’それぞれの断面図を示す。また、両者を重ねた際の同じ位置に、フィルム用固定突起が嵌るように培養シートに同じ径の穴114を設けておく。続いてこの枠体と培養シート100を超音波溶着により接着する。
その工程を図5に示す。まず枠体のフィルム固定用突起と培養シートの穴を合わせて、両者を重ねる(図5の(a))。続いて、超音波発振器から、コンバータ、ブースタ、さらにはホーンを介して培養シート側から超音波を発生させ、両者を溶着する(図5の(b))。ホーンとは、適切な位置に適切なエネルギーの超音波を当てて溶着させる装置であり、リブ構造の位置に沿って適切に超音波が発生されるように設計した専用装置を作製して使用した。115は、このようにして作製されたプレートの上面図を示している。
本実施例では超音波溶着を用いて枠体と培養シートを接合したがこの方法に限定されないことは言うまでもない。超音波溶着では細胞に影響を与える接着剤のような有機物の介在ないしにプレート化が実現できるため、細胞に対する悪影響がなく、新薬開発プロセスにおける毒性・代謝試験のみならず、再生医療向けの組織体形成においても適用可能な有用な培養シートであることは言うまでもない。
尚、実施例1において例示したチャンバースライド形状の培養器材においても、枠109aの底部にリブ構造を複数個設け、当該リブ構造により培養シート100との溶着を行うことで、本実施例と同様の接合方法による培養器材を作成できることは言うまでもない。
このようにして作成された培養器材において、枠体111の底面に形成された培養シート100には、複数のホール101が形成され、当該ホール底面104に構成されている複数の突起物は、複数の微小突起物103(以下、突起、ピラー、ナノピラーともいう)からなる。また、このホール101の直径をホール径105とする。当該培養シート100において、上記の仕切壁102を具備したホール101と、当該ホール101の内部に形成されている複数の突起103とは同一材料で一体的に形成されている。なお、このホール101は、丸型形状に限定されるものでなく、四角形状等他の形状であっても良い。
このように細胞に悪影響の無い単一材料で、仕切壁102を具備したホール101と当該ホール101の内部に形成されている複数の突起103とが一体的に培養シートとして形成されることにより、培養工程において細胞に異物が接着することなく細胞を成長させることができる。さらに個々の仕切内において細胞が成長するため、均一な大きさの細胞を形成させることが可能となる。
また、囲み配置された仕切の内部に複数の突起を設けているので、細胞が本来保持している能力である細胞運動を促し、当該運動により成長することで、回転培養等による外乱(ストレス)の影響なく、細胞活性を維持した細胞培養が可能となる。
これらホール101と突起集合体103とを別体として培養領域を形成しようとすると、それらの接着、溶着による接合が必要となる。例えば接着で接合した場合には、培養領域の内部に接着剤成分が混入し、生成細胞に悪影響を及ぼす可能性がある。
また、溶着しようとすると、ホール101内部の径が細胞形成レベルの極微小領域のため、目的とする細胞領域を形成しつつ、仕切、突起に損傷を与えずに溶着することはかなり困難である。当該仕切や突起に損傷、変形があると、細胞形成過程において細胞に不要なストレスを与えたり、細胞自身の運動に障害となる可能性がある。
従って、培養領域を形成するホール101と突起103とは一体的に形成されていることが望ましい。このように一体的に形成されることにより、細胞培養に必要な成分以外の不要成分の影響を排除した培養を実行することが可能となり好適である。
ここで図14A、14B、14C、14Dにおいて、本実施例の培養シート付マルチウェルプレートの全体構成図及び要部断面図を示す。
図14Aは本実施例における培養器材の外観斜視図、底面図を示すものである。
図14Bは培養器材の上面図、上下側面図を示すものである。ここで、左右側面図は外観斜視図よりその形態が明らかであるため、図示省略する。
図14Cは部分拡大図、部分断面図であり、A−A,B−B部分拡大図と、C−C,D−D部分拡大図と、H−H断面図を示すものである。
図14Dは部分拡大図、及び端面図であり、E−E,F−F部分拡大図、G−G線端面図を示すものである。
図14A、14B、14C、14Dにおいて示される当該物品は、人や動物や植物などの細胞を培養する培養其材(培養容器)で、培養シート100と培養シート100を保持する保持部(枠体)111とから構成されている。
培養シート100の表面には複数のホール101が形成されており、保持部に形成された筒状の穴部111aの内部底面に設けられている。
更にその仕切り部の内部には複数の微細な突起部103を有する培養領域が夫々形成されている。ホール101内の培養領域を形成するシート面に添加されるように、培養する目的細胞を穴部111a内に対して添加すると、複数の微細な突起部103に保持されて当該目的細胞が培養されることになる。
また、本例の培養器材は、枠体111の裏面から培養シートが溶着される例を示しており、保持部である枠体111と培養シート100とは接合部1112を介して溶着されている。
当該接合部1112は穴部111aの外部に設けられており、培養領域にはその溶着の影響がない。
したがって、本例では溶着を例示したが、当該接合方法に限らず、他の接合方法によっても培養領域自体に接合による影響を及ぼすことはないため、他の接合方法を採用することも可能である。
さらに、本例の器材は、当該枠体111が四角状の形態を成しており、その4つの頂点の内、少なくとも1点がカットされている。このカット面1113が形成されていることにより、培養を行う作業者が器材穴部の位置を特定しやすくなるという効果がある。
このカット面は必須ではなく、無くても良いことは云うまでもない。当該培養器材にはまた、滑止め1111が形成されており、作業中、作業者が不意に当該器材を揺動、落下等を防ぐことが出来る。
実施例3では実施例1および2で作製した培養器材を利用した細胞の組織培養への適用例を示す。新薬開発において、生体機能を反映する三次元組織の構築は、動物実験に代わる細胞を利用した様々な評価に対して需要がある。さらに、こうして形成された三次元組織が薬剤のスクリーニング,あるいは新薬開発における各種試験に供される際には、三次元組織が試験に耐えうるだけの活性を保持しているかどうかを事前に検証する必要がある。この場合、形成されたスフェロイドが再現性よく所定の位置に保持されていると、ハイスループットなスクリーニング、各種試験に向くことが期待される。
また、人工多能性幹細胞(Induced pluripotent stem cells:iPS細胞)や胚性幹細胞(Embryonic stem cells:ES細胞)を培養して目的の細胞に分化させる前には、三次元組織を形成しなければならないことから、再生医療分野においても三次元組織を簡便に構築する技術が望まれている。このような背景から、ここでは特にチャンバースライドを用いた三次元組織を形成させる例を示すが、マルチウェルプレートであっても細胞培養の本質的な部分は特に変わるところはない。本実施例ではラット肝細胞を用いた例を示すが、上述のように様々な動植物の細胞種に適用可能であり、特に細胞種は限定されない。
肝細胞の調製は、インサイチュ(in situ)コラゲナーゼかん流法にしたがう。詳しくは以下の通りである。Fisher344系雄ラット(7〜10週齢)を、ペントバルビタール麻酔下で開腹し、門脈にカテーテルを挿入して前かん流液(Ca2+とMg2+不含,EGTAを含むハンクス液)を注入する。
同時に肝臓下部の下大静脈を切開して血液を放出させる。次に胸腔を開き、右心房に入る下大静脈を切開し、肝臓下部の下大静脈をかん止で止めてかん流を行なう。肝臓からの脱血が十分になされたことを確認した後にかん流を止める。かん流液をコラゲナーゼ溶液に換えて、かん流を行う。
本実施例では0.05%コラゲナーゼを含むハンクス液を用いてかん流を行うが、この限りではない。細胞間組織がコラゲナーゼにより消化されたことを確認した後、かん流を止める。肝臓を切り離し、冷したハンクス液中で細切りし、ピペッティングにより細胞まで分散する。次いでガーゼろ過により未消化の組織を除去する。細胞懸濁液は、50G、1分の遠心分離を数回繰り返して非実質細胞を除去する。次いで等張パーコール液を使用して500G、5分の遠心分離で傷害のある肝細胞を除去する。得られた肝細胞の生存率はトリパンブルー排除法で計測し、生存率85%以上の肝細胞を培養に使用する。ここでは、生存率85%以上の肝細胞を培養に使用するが、必ずしも当該条件に限られるものではないことはいうまでもない。また、肝細胞の調製は必ずしもin situコラゲナーゼかん流法に限られるものではない。
このようにして得られた肝細胞を用いた培養のフローチャートを図6に示す。
図6のフローにおいて、まず、実施例1で作製したチャンバースライドタイプの培養シートに、I型コラーゲン116を塗布する。弱酸性溶液に溶解しているI型コラーゲンを所定の濃度まで滅菌水で希釈した希釈液の1−1.5mLを上述のチャンバースライドに添加する(同図の(a))。次に、添加したI型コラーゲンをナノピラーシート100に完全に吸着させるため、減圧操作を施す(同図の(b))。減圧操作は、減圧用容器117と減圧ポンプ118を用い、0.04気圧以下で行う。減圧時間は特に限定されるものではないが、本実施例では10分間行う。減圧に用いる装置構成は特に限定するものではない。ここで希釈液の所定濃度の範囲は100(ng/ml)以上10(μg/ml)以下である。必ずしも当該範囲に限定されるものではないが、当該は球状の三次元組織が形成されるのに好適な範囲である。最後に、余剰のI型コラーゲンを除き、PBS(−)119を加える(同図の(c))。この操作を3回行い、余剰のI型コラーゲンを洗浄する。
上述の通りin situコラゲナーゼかん流法により調製した肝細胞120を培地121に懸濁し、同じく上述の通り準備したI型コラーゲンを塗布したNPシートに播種する(同図の(d))。培地は特に限定されるものではないが、血清(FCS)、インシュリン、デキザメタゾンを含んだ培地(以下、培地(10%FCS含む))を含むウィリアムズE培地を用いる。本実施例では、特に10%FCS、8.6nMインシュリン、255nMデキザメタゾンを含んだウィリアムズE培地を用いる。播種後、CO2インキュベータを用いて5%CO2、37℃の条件下で培養を開始し、18時間以上経過した後に、最初の培地交換を行い、以降24時間毎に培地交換を行う。播種後18時間目以降の培養に用いる培地は特に限定されるものではないが、本実施例では、培地(10%FCS含む)からFCSを除いた培地(以下、培地(FCS含まず))を用いる。
また、肝細胞の播種密度は、本実施例では1×105cells/mlとしたが、この濃度に限定されない。ここで、培養に用いる培養シート100は、ピラー高さ、ピラー径、ピラーピッチがそれぞれ1.0μm、2.0μm、4.0μmのものを用いたが、この値に限らない。
また、培養シートに添加するI型コラーゲンの濃度は、本実施例では100(ng/ml)としたがこれ以外の濃度であっても構わない。細胞の条件によってはこの濃度以外の濃度であってもスフェロイドが形成されるものもある。計96時間培養し、三次元組織122が形成される(同図の(e))。
図7に、ホール径が200μmの上述の培養シートを用いて実際に肝細胞を培養した結果の写真を示す。図7から明らかなように、培養シート表面に特別な化学物質の塗布無しで、かつ細胞にとってストレスの少ない静置培養より、このように大きさの揃った球状の三次元組織71がホール70内に形成された。これは、本来保持している細胞の活性を失わせることがないと考えられるため、細胞アッセイ等に有効な培養方法である。
図8に実施例4として、上述した培養シート100の実施例の変形例を示す。まず、培養シート123は細胞の遊走性、接着性の違いをもたらす突起物の配列パターンを同図の(a)のように、第一の配列パターン125aの周囲を第二の配列パターン125bで囲うように二段階に配置することにより、第一の配列パターン125a上(例えばホールの中心近傍)に三次元組織あるいは二次元平面組織を形成させる例を示す。
また逆に、同図の(b)のように、第二の配列パターン125bの周囲を第一の配列パターン125aで囲うように二段階に配置することにより、第二の配列パターン125b上(例えばホール辺縁部)に三次元組織あるいは二次元平面組織を形成させる例を示す。なお、124は先の実施例同様、ホールを示す。点線は、パターンの境界を示している。
またホール124内の中央部に限らず、同図の(c)の培養シート126のように配置することにより、例えば4箇所の第一の配列パターン127bを第二の配列パターン127aで囲むことで、第一の配列パターン127b上に大きさの揃った組織を形成させることもできる。このように、ピラー径、ピラーピッチ、配置パターンの組み合わせは、目的に応じて最適なパターンを配置し、培養することが可能となる。同様に、同図の(d)は、配列パターンを多段階パターン129c、129b、129aのとした培養シート128を示す。
続いて、図9を用いて、上述した実施例における突起物の配列パターン(以下、ピラーパターン)の種類を説明する。図9に示すように、11種の配列パターンを例示した。同図より明らかなように、ピラー径とピラーピッチがそれぞれ0.18〜20.0μm、0.36〜40.0μmの11種であるが、これに限定されるものではない。
これらのピラーパターンの下で培養した肝細胞の一例を図10A、10Bに示した。
尚、ピラーパターンの無いフラット平面下での培養では、培養途中における培地交換の際に多数の細胞が培地と共に排出されてしまうため、所望とする培養細胞を効果的に取得することはできない。このため、図10Aでは図示をしていない。
図10Aはピラー径に対して2倍のピッチの培養シート100を用いて培養を行ったときの細胞の様子を示す図である。この結果、ピラー径が0.18μm、0.5μm、1.0μmにおいては、球状ではない平坦な組織が器材底面に接着している一方、2.0μm、5.0μmでは器材に対して球状をした三次元組織が形成されていた。
また2.0μm、5.0μmの器材において形成された球状細胞について比較してみると、2.0μm器材の方が細胞が器材に接着しており、安定な状態であることが分かった。即ち、細胞接着性に関しては、ピラー径が大きいほど、低接着性を示し、細胞による移動が促進されていることがわかる。
図10Bでは、各ピラー径におけるシートで形成された肝細胞の3次元組織(スフェロイド:spheroid)の数について、その形成される直径毎に纏めた結果を示す図である。シート面積は4平方cm(2cm×2cm)である。
肝細胞の三次元組織においては、創薬分野における動物実験に替わる薬剤スクリーニング,毒性・代謝試験を目的とした細胞アッセイにおいて、50−100ミクロン径である細胞が好ましく、本例においてはピラー径が2.0μm器材の場合において当該サイズの細胞形成数が最も多く好適であることがわかる。
しかし、上記の検討の下では、50−100ミクロン径である細胞を形成するためにピラー径が2.0μmの場合が好ましいとしたが、これに限るものではなく、本検討において使用した全てのピラー径において、ピラーの形成されていないフラットな状態に比して、形状の安定した細胞が数多く形成されることがわかった。このように、ピラーパターンの違いにより、自在に細胞、あるいは細胞から形成される組織の形態、あるいは器材への接着性を変化させることができる。
上述の結果を応用し、図8の実施例で説明したように、ピラー径(ピラーピッチ)の小さい第一の配列パターンの周囲を、ピラー径(ピラーピッチ)の大きい第二の配列パターンで囲うように二段階で配置したり、あるいは多段階に配置することにより、細胞接着性及び細胞自身の運動特性を利用して、ホール内の目的の位置に、目的の形状の組織を形成させることが可能になる。
また、同一サイズのピラー径をもつナノピラーの高さを、ホールの辺縁部から中心部に向かって下げていくことにより、傾斜するように段階的に高さに差異を設けて、重力により中心部に集めるように細胞の運動を促し、組織を形成させることも可能である。
図11の(a)に段階的にナノピラーの高さに差異を設けた変形例である培養シート130を示した。この際、通常のU字型の培養容器と異なり、ピラーが存在することにより、細胞が中央に保持される効果がある。さらに、同図(b)の培養シート131のように、傾斜の中でもピラー直径に違いを設けて、上述の効果を促進させることも可能となる。
図11の変形例では、傾斜が滑らかになるように段階的に高さを変化させているが、階段状に順次高さに変化を持たせる構成としてもよい。
また、複数のホールが集合して培養面を形成するが(チャンバースライドの場合は四角形状、プレートの場合は丸型形状)、培養する際には表面張力の影響により、培養面中央部と辺縁部では三次元組織のでき方に違いが生じる。すなわち、培養面中央部では三次元組織が形成されているにもかかわらず、辺縁部では表面張力により当該部分の培地量が増え、酸素供給量が低下し、あるいは高い水圧がかかるといった理由により、三次元組織が形成されない事態が生じる可能性がある。この現象を回避するために、図12の(a)、(b)に示すような培養面の中央部にのみホール構造を保持した培養シート132、133を作製するようにしてもよい。
このように培養シートを形成することにより、培養効率が高く、かつ製造負荷の少ない培養器材を達成することが出来る。
図15A,図15B、図15C、図15Dに第5の実施例の培養シートを示した。実施例5では、図8の実施例4で示された種々の変形例のうち、第一の配列パターン125aがフラット構造で、ホールの中心部に突起が配列されているパターンの培養シートを培養シート保持部材であるチャンバースライドに適用した例を示す。すなわち、本実施例においては、培養領域各々が、第一の領域と、それを囲む第二の領域からなり、第一の領域にのみ突起を配列し、第二の領域には突起を形成しない構造の培養シートとすることにより、直径の揃った三次元組織であるスフェロイドが第一の領域に対応する、培養領域の中心部に保持されることにより、目的の位置に保持させることができる。
ここでは培養領域内の中心近傍に突起を配列した例を示すが、必ずしも中心を含む必要は無く、培養領域内の所望とする領域に突起を配列させれば良いことは云うまでもない。また、略ひし形状や円形形状の突起領域を形成する例を示すが、その他四角形、多角形状であっても良いことは云うまでもない。
図15Aは本実施例で作成した培養シート一例を示す。図15Aは、培養シート1枚あたりに複数個存在する仕切り構造152により構成されたホール151の一つの構造を示す。ホール101の内部が、仕切り壁で仕切られた細胞組織形成単位での培養領域を構成することは、上述した実施例と同様である。ホール151の底面154に保持されている複数の突起物153は、複数の微小突起物からなる。また、このホール151の直径をホール径155とする。好ましくは、培養シート150において、上記の仕切壁152を具備するホール151と、ホール151の内部に形成されている複数の突起153とは同一材料で一体的に形成されている。なお、このホール151は、丸型形状に限定されるものでなく、四角形状等他の形状であっても良いことは上述した実施例と同様である。
本実施例の好適な態様では,図15Bの培養シート150aに示すように、ピラー高さ、ピラー径、ピラーピッチがそれぞれ1.0μm、1.0μm、2.0μmおよび、1.0μm、2.0μm、4.0μmで突起部集合体の直径が200μm(全面ナノピラー)、150μm、120μm、100μm、80μm、60μm、40μm、20μmの培養シートを用いることができる。
図15Bの拡大部150bに示すように、ホール内、すなわち、仕切り壁で仕切られた細胞組織形成単位での突起の形成領域(構成比率)を多段階に構成した培養器材を提供することは、後述する実施例7において最適な突起領域の形成割合を把握するためのテスト器材として有効である。培養目的とする細胞種や所望とする大きさにより最適な構成比率が異なる可能性もあることから、このような培養器材を用いて事前に培養試験をすることは、その後の培養効率にも影響するため有用である。なお、ホール151aは、突起が形成されていないホールを示す。
当該培養シート150aは細胞に悪影響の無い材質で形成され、本例では、ポリスチレンとしている。ただし、材質はポリスチレンに限らないことは云うまでもない。
主な代表例として、図15Cに突起部集合体の直径が80μm,及び図15Dに20μmの培養シートのSEM画像を例示した。図15C、及び図15Dのそれぞれの図において、156と158はホールを、157,159は突起物集合体を示している。
このように細胞に悪影響の無い単一材料で、仕切壁152を具備したホール151と当該ホール151の内部に形成されている複数の突起153とが一体的に培養シート150、150aとして形成されることにより、培養工程において細胞に異物が接着することなく細胞を成長させることができる。
さらに個々の仕切内において細胞が成長するため、均一な大きさの細胞を形成させることが可能となる。
また、囲み配置された仕切壁152の内部に複数の突起を設けているので、細胞が本来保持している能力である細胞運動を促し、当該運動により成長することで、回転培養等による外乱(ストレス)の影響なく、細胞活性を維持した細胞培養が可能となる。
これらホール151と突起集合体153とを別体として培養領域を形成しようとすると、それらの接着、溶着による接合が必要となる。例えばこれらを接着接合した場合には、培養領域の内部に接着剤成分が混入し、生成細胞に悪影響を及ぼす可能性がある。また溶着接合では、ホール151の内径が細胞形成レベルの極微小領域径のため、目的とする細胞領域を形成しつつ、仕切、突起に損傷を与えずに溶着することはかなり困難である。当該仕切や突起に損傷、変形があると、細胞形成過程において細胞に不要なストレスを与えたり、細胞自身の運動に障害となる可能性がある。
従って、本実施例においても上述のとおり、培養領域を形成するホール151を構成するホール底面154、仕切り壁152および突起153とは一体的に形成されていることが望ましい。このように一体的に形成されることにより、細胞培養に必要な成分以外の不要成分の影響を排除した培養を実行することが可能となり好適である。
本実施例では、ピラー径、ピラーピッチ、ピラー高さはそれぞれ1.0μmまたは2.0μm、2.0μmまたは4.0μm、1.0μmのものを使用したが、後述するように、これら以外の培養シートであっても構わない。本実施例では仕切り構造の高さは70μmであるが、この値に限らず、好適には形成される細胞が仕切りを乗り越えない程度の高さであれば良い。
本実施例における培養シート150、150aは、実施例1と同様の方法で作製されるので、ここでは作製法の詳細な説明は省略する。 さらに、本実施例おいても、図3に示すような、培養シート150が貼付されたチャンバースライド109を作製することができ、図13A、図13B、図13Cと同様の全体構成及び要部断面を有するチャンバースライド得ることができることは言うまでもなく、ここでは説明を省略する。
次に、第6の実施例を図4、図5に従い説明する。本実施例は、第5の実施例で説明した培養シート150、150aを用いた、培養シート付マルチウェルプレートの構成、及びその作製例を示す実施例である。マルチウェルプレートの構成とその作製例は、図4、図5で詳細に説明したが、本実施例においては、実施例2で用いた培養シート100に代え、培養シート150、150aを使う以外は、基本的に実施例2と同様である。
図4の(a)はマルチウェルプレートを構成する枠体111の底面図である。培養シート保持部材である枠体111は、横幅約125mm、縦約80mm、高さ約20mmの中に縦列に4穴、横列に6穴の計24穴の筒状の穴部111aが成型されたものである。素材はポリスチレンを用いている。
枠体に形成される穴の数は、通常6穴から1536穴まで、用途によって使い分けるため、この枠体も穴の数は24穴に限定されない。また枠体の素材もポリスチレンに限定されるものではない。
当該培養器材の作製では、枠体111と図15A、図15Bの培養シート150、150aを超音波溶着により接合させる。以下の処理と構成は実施例2と同様であるので、ここでは説明を省略する。
このようにして作成された培養器材において、枠体111の底面に形成された培養シート100に代わる、培養シート150、150aには、複数のホール151が形成され、当該ホール底面154に構成されている複数の突起物は、複数の微小突起物153からなる。当該培養シート150、150aにおいて、上記の仕切壁152を具備したホール151と、当該ホール151の内部に形成されている複数の突起153とは同一材料で一体的に形成されている。なお、このホール151は、丸型形状に限定されるものでなく、四角形状等他の形状であっても良い。
このように細胞に悪影響の無い単一材料で、仕切壁152を具備したホール151と当該ホール151の内部に形成されている複数の突起153とが一体的に培養シートとして形成されることにより、培養工程において細胞に異物が接着することなく細胞を成長させることができる。さらに個々の仕切内において細胞が成長するため、均一な大きさの細胞を形成させることが可能となる。 また、囲み配置された仕切の内部に複数の突起を設けているので、細胞が本来保持している能力である細胞運動を促し、当該運動により成長することで、回転培養等による外乱(ストレス)の影響なく、細胞活性を維持した細胞培養が可能となる。
上述のとおり、本実施例においても、培養領域を形成するホール151と突起153とは一体的に形成されていることが望ましい。このように一体的に形成されることにより、細胞培養に必要な成分以外の不要成分の影響を排除した培養を実行することが可能となり好適である。
本実施例の培養シート付マルチウェルプレートの全体構成図、及び要部断面図も、実施例2と同様、図14A、14B、14C、14Dに示す通りとなるので、ここでは説明を省略する。
続いて、第7の実施例として、実施例5および6で作製した培養器材を利用した細胞の組織培養への適用例を示す。先に、実施例3として、図6、図7を用いて、実施例1および2で作製した培養器材を利用した細胞の組織培養への適用例を示したが、本実施例と実施例3の相違点は、培養シート100の代わりに、培養シート150、150aを使った培養器材を用いる点である。それ以外の点は、説明が共通するのでここでは説明を省略する。
なお、本実施例においては、肝細胞の播種密度は、5×105cells/mlとしたが、この濃度に限定されない。ここで、培養に用いる培養シート150、150aは、先に説明したとおり、ピラー高さ、ピラー径、ピラーピッチがそれぞれ1.0μm、1.0μm、2.0μmおよび、1.0μm、2.0μm、4.0μmのものを用いたが、この値に限らない。
また、培養シート150、150aに添加するI型コラーゲンの濃度は、本実施例では、実施例100(ng/ml)としたがこれ以外の濃度であっても構わない。細胞の条件によってはこの濃度以外の濃度であってもスフェロイドが形成されるものもある。本実施例では,図15Bに示すように、ピラー高さ、ピラー径、ピラーピッチがそれぞれ1.0μm、1.0μm、2.0μmおよび、1.0μm、2.0μm、4.0μmでホール径が200μm、突起部集合体の直径が200μm(全面ナノピラー)、150μm、120μm、100μm、80μm、60μm、40μm、20μmの培養シートを用いた。言うまでもなく、ホール径および突起部集合体の直径はこの値に限定されない。
図16A、16B、16C、16Dに、これらのパターンの培養シートを用いて計96時間培養した結果を示す。すなわち、ホールの中心とスフェロイドの中心の間の距離を測定し、スフェロイドのホール中心保持率を検証した結果のグラフを示す。図16A、16B、16C、16Dはそれぞれ図示のとおり、ピラー直径2.0μmの正方配置、ピラー直径2.0μmの三角配置、ピラー直径1.0μmの正方配置、ピラー直径1.0μmの三角配置に対応している。
各グラフの横軸にホール中心とスフェロイドの中心間距離を0−19μm、20―39μm、40μm以上の3段階に分けて表示し、縦軸には、各範囲を占めるスフェロイド数の全スフェロイド数に占める割合を示した。その結果、今回検討した全てのパターンにおいて,突起部集合体の直径が100μm、あるいは80μmのシートで、スフェロイドがより中心に保持される割合が高いことが明らかとなった。
そして、ホール径に対し、突起部集合体の直径の最適な割合は、40%から50%であることが示されたが、細胞種や培養条件によってはこの値には限定されない。実験結果によれば、割合が20%から75%の場合にも、その半数以上がホール中心とスフェロイドの中心間距離20―39μm範囲内となることから、この20%〜75%範囲としても良い。
図17、図18は、本実施例の培養シートの培養結果の位相差顕微鏡画像の代表例として、それぞれ、ピラー高さ、ピラー径、ピラーピッチが1.0μm、2.0μm、4.0μmで突起部集合体の直径がそれぞれ80μm、20μmの結果を示す。図中の、ホール156、158中の数番170、180はスフェロイドを示している。図17に示すように、突起部集合体の直径が80μmでは、ほぼ直径の揃ったスフェロイド170がホール156の中心部に保持されていた。一方、図18に示すように、突起部集合体の直径が20μmのシートでは、スフェロイド180が中心部に保持されなかった。
以上の結果から明らかなように、本発明の培養器材、培養シートによれば、培養シート表面に特別な化学物質を塗布すること無く、かつ細胞にとってストレスの少ない静置培養により、このように大きさの揃った球状の三次元組織が形成され、かつホール直径と突起部集合体の直径を適切にすることにより寸法の揃ったスフェロイドがホールの中心部に保持されることが明らかとなった。