JP5905733B2 - 塗装ステンレス鋼板とアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂組成物の成形体とが接合された複合体およびその製造方法 - Google Patents

塗装ステンレス鋼板とアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂組成物の成形体とが接合された複合体およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、塗装ステンレス鋼板とアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(以下「ABS樹脂」ともいう)組成物の成形体とが接合された複合体およびその製造方法に関する。
金属板と樹脂組成物の成形体とが接合された複合体は、樹脂のみからなる部品よりも強度が高く、携帯電話機やパーソナルコンピューターなどの様々な用途において使用されている。
従来、このような複合体は、金属板と樹脂組成物の成形体を嵌合させることにより製造されていた。しかしながら、このような製造方法は、作業工程数が多く、生産性が低かった。そこで、近年は、インサート成形により金属板と樹脂組成物の成形体とを接合して、複合体を製造するのが一般的である。
インサート成形により複合体を製造する場合、金属板と樹脂組成物の成形体との密着性を向上させることが重要である。金属板と樹脂組成物の成形体との密着性を高める方法としては、例えば、インサート成形を行う前に、金属板の表面に樹脂フィルムをラミネートすることが提案されている(特許文献1参照)。このように金属板の表面に樹脂フィルムをラミネートすることで、金属板と樹脂組成物の成形体との密着性を向上させることができる。しかしながら、ラミネート加工を施した金属板には、成形加工(例えば、プレス加工)を行った際に樹脂フィルムが金属板から剥離しやすいという問題がある。
上記問題を解決できる方法としては、成形加工後の金属板の表面に樹脂塗膜(接着剤層)を形成する方法が提案されている(特許文献2参照)。特許文献2に記載の方法では、金属板を成形加工した後に樹脂塗膜を形成するため(ポストコート方式)、成形加工による樹脂塗膜の剥離といった問題は生じない。
特開2010−162758号公報 特開2009−073088号公報
特許文献2に記載の方法を利用して複合体を製造する場合、強度および耐食性を向上させるために、金属板としてステンレス鋼板を使用することが考えられる。しかしながら、ステンレス鋼板は、表面に不動態皮膜を有しているため、ステンレス鋼板に対する樹脂塗膜(接着剤層)の密着性が悪い。このため、特許文献2に記載の方法においてステンレス鋼板を使用した場合、ステンレス鋼板と樹脂組成物の成形体との密着性が不十分であることがあった。また、特許文献2に記載の方法は、ポストコート方式であるため、生産性が低いという問題があった。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、塗装ステンレス鋼板とABS樹脂組成物の成形体とが接合された複合体であって、密着性に優れ、かつプレコート方式で製造することができる複合体を提供することを目的とする。
本発明者らは、ステンレス鋼板の表面に化成処理皮膜を形成するとともに、樹脂塗膜の組成および膜厚を調整することで、上記課題を解決できることを見出し、さらに検討を加えて本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の複合体に関する。
[1]塗装ステンレス鋼板と、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂組成物の成形体とが接合された複合体であって、前記塗装ステンレス鋼板は、ステンレス鋼板と、前記ステンレス鋼板の表面に形成された有機樹脂を含む化成処理皮膜と、前記化成処理皮膜の上に形成された第1塗膜とを有し、前記第1塗膜は、熱可塑性アクリル系樹脂60〜90質量部と、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂またはこれらの組み合わせと硬化剤とを含む熱硬化性樹脂組成物40〜10質量部と、を含む樹脂組成物の硬化物からなり、前記第1塗膜の膜厚は、20μm以下である、複合体。
[2]前記塗装ステンレス鋼板は、前記化成処理皮膜と前記第1塗膜との間に形成された第2塗膜をさらに有し、前記第2塗膜は、フェノキシ系樹脂またはエポキシ系樹脂を含む自己架橋型のエポキシ系樹脂組成物の硬化物、フェノキシ系樹脂またはエポキシ系樹脂と硬化剤とを含むエポキシ系樹脂組成物の硬化物、あるいは架橋性官能基を含有するポリエステル樹脂およびイソシアネートを含むポリエステル系樹脂組成物の硬化物からなり、前記第1塗膜および前記第2塗膜の合計膜厚は、20μm以下である、[1]に記載の複合体。
[3]前記化成処理皮膜は、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、N−メチルグルカミン樹脂、タンニン酸およびポリアクリル酸からなる群から選択される1種または2種以上の有機樹脂を含む有機樹脂皮膜である、[1]または[2]に記載の複合体。
[4]前記化成処理皮膜は、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、N−メチルグルカミン樹脂、タンニン酸およびポリアクリル酸からなる群から選択される1種または2種以上の有機樹脂と、シラン化合物、チタン化合物、フッ素化合物およびジルコニウム化合物からなる群から選択される1種または2種以上の無機化合物とを含む有機−無機複合皮膜である、[1]または[2]に記載の複合体。
また、本発明は、以下の複合体の製造方法に関する。
[5]塗装ステンレス鋼板と、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂組成物の成形体とが接合された複合体の製造方法であって、塗装ステンレス鋼板を準備する工程と、前記塗装ステンレス鋼板を射出成形金型に挿入する工程と、前記射出成形金型にアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂組成物を射出して、前記塗装ステンレス鋼板の表面にアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂組成物の成形体を接合する工程と、を有し、前記塗装ステンレス鋼板は、ステンレス鋼板と、前記ステンレス鋼板の表面に形成された有機樹脂を含む化成処理皮膜と、前記化成処理皮膜の上に形成された第1塗膜とを有し、前記第1塗膜は、熱可塑性アクリル系樹脂60〜90質量部と、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂またはこれらの組み合わせと硬化剤とを含む熱硬化性樹脂組成物40〜10質量部と、を含む樹脂組成物の硬化物からなり、前記第1塗膜の膜厚は、20μm以下である、複合体の製造方法。
[6]前記塗装ステンレス鋼板は、前記化成処理皮膜と前記第1塗膜との間に形成された第2塗膜をさらに有し、前記第2塗膜は、フェノキシ系樹脂またはエポキシ系樹脂を含む自己架橋型のエポキシ系樹脂組成物の硬化物、フェノキシ系樹脂またはエポキシ系樹脂と硬化剤とを含むエポキシ系樹脂組成物の硬化物、あるいは架橋性官能基を含有するポリエステル樹脂およびイソシアネートを含むポリエステル系樹脂組成物の硬化物からなり、前記第1塗膜および前記第2塗膜の合計膜厚は、20μm以下である、[5]に記載の複合体の製造方法。
本発明によれば、塗装ステンレス鋼板とABS樹脂組成物の成形体との密着性に優れ、かつプレコート方式で効率的に製造することができる複合体を提供することができる。
塗装ステンレス鋼板の打ち抜き加工の模式図である。 塗膜の合計膜厚と塗膜の浮き幅の関係を示すグラフである。 塗装ステンレス鋼板とABS樹脂組成物の成形体とが接合された複合体を示す図である。
1.複合体
本発明の複合体は、塗装ステンレス鋼板とABS樹脂組成物の成形体とが接合されている。
以下、本発明の複合体の各要素について説明する。
(1)塗装ステンレス鋼板
塗装ステンレス鋼板は、ステンレス鋼板と、化成処理皮膜と、上塗り塗膜(第1塗膜)を有する。化成処理皮膜と上塗り塗膜の間には、下塗り塗膜(第2塗膜)を有していてもよい。以下、塗装ステンレス鋼板の各要素について説明する。
A)ステンレス鋼板
本発明では、様々な用途において要求される強度および耐食性を実現するため、金属板としてステンレス鋼板を使用する。ステンレス鋼板の種類は、特に限定されないが、JIS Z2244に準拠して測定したビッカース硬さがHV250〜HV530の範囲内であるものが好ましい。このようなステンレス鋼板を使用することで、板厚を薄くしつつも、電子機器などに求められる強度を確保することができる。アルミニウム板やマグネシウム合金板などを使用した場合、十分な強度を確保するためには板厚を厚くしなければならず、電子機器などへの適用が困難である。好適なステンレス鋼の鋼種の例には、JIS G4313に準拠したSUS301−CSP EH、SUS304−CSP 1/2Hなどが含まれる。ステンレス鋼板の成分や金属組織は、特に限定されず、オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系、フェライト・マルテンサイト二相系などの金属組織で任意の組成の鋼を使用することができる。
ステンレス鋼板の表面には、めっき層が形成されていてもよい。すなわち、ステンレス鋼板は、めっきステンレス鋼板であってもよい。たとえば、ステンレス鋼板の表面にニッケルめっき層または銅めっき層を形成した後、片面のみに後述する塗膜(化成処理皮膜、下塗り塗膜および/または上塗り塗膜)を形成してもよい。これにより、塗膜を形成した面ではABS樹脂組成物の成形体の密着性を向上させることができ、塗膜を形成しなかった面には導電性を付与することができる。
ステンレス鋼板の板厚は、特に限定されず、用途に応じて適宜設定されうる。たとえば、本発明の複合体を携帯電話機などの電子機器に適用する場合、ステンレス鋼板の板厚は、0.2〜0.5mm程度である。
B)化成処理皮膜
化成処理皮膜は、ステンレス鋼板の表面に形成されており、ステンレス鋼板と塗膜(下塗り塗膜または上塗り塗膜)との密着性を向上させる。化成処理皮膜は、ステンレス鋼板の表面のうち、少なくともABS樹脂組成物の成形体と接合する領域(接合面)に形成されていればよいが、通常はステンレス鋼板の表面全体に形成されている。
化成処理皮膜の種類は、ステンレス鋼板と塗膜(下塗り塗膜または上塗り塗膜)との密着性を向上させることができれば、特に限定されない。たとえば、化成処理皮膜は、以下の有機樹脂皮膜または有機−無機複合皮膜である。
[有機樹脂皮膜]
有機樹脂皮膜は、主として有機樹脂からなる皮膜である。有機樹脂皮膜を構成する有機樹脂の種類は、特に限定されないが、加工性(柔軟性)および密着性の観点からは、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、N−メチルグルカミン樹脂、タンニン酸またはポリアクリル酸であることが好ましい。これらの有機樹脂は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
[有機−無機複合皮膜]
有機−無機複合皮膜は、有機樹脂に加えて、さらに無機化合物を含む皮膜である。無機化合物を配合することで、ステンレス鋼板に対する化成処理皮膜(有機−無機複合皮膜)の密着性をさらに向上させることができる。
有機−無機複合皮膜を構成する有機樹脂の種類は、特に限定されないが、有機樹脂皮膜と同じ理由により、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、N−メチルグルカミン樹脂、タンニン酸またはポリアクリル酸であることが好ましい。これらの有機樹脂は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
無機化合物の種類は、化成処理皮膜(有機−無機複合皮膜)のステンレス鋼板に対する密着性を向上させることができれば特に限定されない。無機化合物の例には、シラン化合物、チタン化合物、フッ素化合物またはジルコニウム化合物が含まれる。これらの無機化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
シラン化合物は、ステンレス鋼板および有機樹脂に結合して、有機−無機複合皮膜のステンレス鋼板に対する密着性を向上させる。シラン化合物の例には、アルキルシランやアルコキシシラン、エポキシシラン、アミノシランなどが含まれる。有機−無機複合皮膜中のシラン化合物の量は、30〜60質量%の範囲内が好ましい。シラン化合物の含有量が30質量%未満の場合、シラン化合物を添加することによる効果を十分に向上させることができない。一方、シラン化合物の含有量が60質量%超の場合、密着性向上の効果が飽和し、それ以上の向上は認められない。
チタン化合物は、酸素を介してステンレス鋼板および有機樹脂に結合して、有機−無機複合皮膜のステンレス鋼板に対する密着性を向上させる。チタン化合物の例には、KnTiF(K:アルカリ金属またはアルカリ土類金属,n:1または2)、K[TiO(COO)]、(NHTiF、HTiF、TiCl、TiOSO、Ti(SO、Ti(OH)などが含まれる。有機−無機複合皮膜中のチタン化合物の量は、Ti換算付着量で2〜50mg/mの範囲内が好ましい。Ti換算付着量が2mg/m未満の場合、チタン化合物を添加することによる効果を十分に向上させることができない。一方、Ti換算付着量が50mg/m超の場合、密着性向上の効果が飽和し、それ以上の向上は認められない。
フッ素化合物は、ステンレス鋼板の表面をエッチングし(フッ化物イオンの効果)、ステンレス鋼板の表面を活性化することで、有機−無機複合皮膜のステンレス鋼板に対する密着性を向上させる。フッ素化合物の例には、(NHTiF、HTiF、KnTiFなどが含まれる。有機−無機複合皮膜中のフッ素化合物の量は、F換算付着量で7〜50mg/mの範囲内が好ましい。F換算付着量が7mg/m未満の場合、フッ素化合物を添加することによる効果を十分に向上させることができない。一方、F換算付着量が50mg/m超の場合、有機−無機複合皮膜中に多量の金属が溶出してしまい、有機−無機複合皮膜の強度が弱くなってしまうおそれがある。
ジルコニウム化合物は、チタン化合物と同様に、酸素を介してステンレス鋼板および有機樹脂に結合して、有機−無機複合皮膜のステンレス鋼板に対する密着性を向上させる。ジルコニウム化合物の例には、酸化ジルコニウム、ジルコニウム酸ナトリウムなどのジルコニウム酸塩や、フッ化ジルコニウム酸、フッ化ジルコニウム酸ナトリウムなどのフッ化ジルコニウム酸塩などが含まれる。有機−無機複合皮膜中のジルコニウム化合物の量は、Zr換算付着量で5〜50mg/mの範囲内が好ましい。Zr換算付着量が5mg/m未満の場合、ジルコニウム化合物を添加することによる効果を十分に向上させることができない。一方、Zr換算付着量が50mg/m超の場合、密着性向上の効果が飽和し、それ以上の向上は認められない。
化成処理皮膜の膜厚は、ステンレス鋼板と、下塗り塗膜または上塗り塗膜との密着性を確保することができれば、特に限定されない。たとえば、前述の有機−無機複合皮膜の場合、Ti換算付着量およびZr換算付着量の総和が2〜50mg/mの範囲内が好ましく、2〜30mg/mの範囲内であることがより好ましい。
C)下塗り塗膜(第2塗膜)
前述したように、塗装ステンレス鋼板は、化成処理皮膜と上塗り塗膜の間に、下塗り塗膜を有していてもよい。下塗り塗膜は、化成処理皮膜と共に、ステンレス鋼板に対する上塗り塗膜の密着性を向上させる。下塗り塗膜は、化成処理皮膜と同様に、ステンレス鋼板表面のうち、少なくともABS樹脂組成物の成形体との接合面に形成されていればよいが、通常はステンレス鋼板の表面全体に形成されている。
下塗り塗膜は、自己架橋型のエポキシ系樹脂組成物の硬化物からなる塗膜、非自己架橋型のエポキシ系樹脂組成物の硬化物からなる塗膜、あるいはポリエステル系樹脂組成物の硬化物からなる塗膜である。
下塗り塗膜が自己架橋型のエポキシ系樹脂組成物の硬化物からなる塗膜の場合、エポキシ系樹脂組成物は、自己架橋型のフェノキシ系樹脂または自己架橋型のエポキシ系樹脂を含む。自己架橋型の樹脂は、ブロックした反応性(架橋性)の官能基(例えば、イソシアネート基など)と、この反応性官能基と反応しうる別の官能基(例えば、ヒドロキシ基など)を有している。塗料の焼付け時に、この反応性官能基と別の官能基とが反応することにより、樹脂組成物の硬化物が形成される。
下塗り塗膜が非自己架橋型のエポキシ系樹脂組成物の硬化物からなる塗膜の場合、エポキシ系樹脂組成物は、フェノキシ系樹脂またはエポキシ系樹脂と、硬化剤とを含む。硬化剤の種類は、特に限定されず、例えばポリアミンや酸無水物などである。
下塗り塗膜がポリエステル系樹脂組成物の硬化物からなる塗膜の場合、ポリエステル系樹脂組成物は、ポリエステル樹脂およびイソシアネート(硬化剤)を含む。
主樹脂として用いるポリエステル樹脂は、架橋性官能基を有するポリエステル樹脂である。架橋性官能基の例には、ヒドロキシ基やカルボキシ基、アルコキシシラン基などが含まれる。ポリエステル樹脂は、これらの架橋性官能基を1分子あたり2個以上有することが好ましい。
ポリエステル樹脂の数平均分子量は、特に限定されないが、加工性の観点から、8000〜40000の範囲内であることが好ましい、数平均分子量が8000未満の場合、分子間の架橋密度が大きくなりすぎ、加工性が低下してしまう。一方、数平均分子量が40000超の場合、粘度が大きくなり、下塗り塗料を調製するのが困難である。
硬化剤として用いるイソシアネートの種類は、特に限定されないが、塗料のポットライフの観点から、ブロック剤でイソシアネート基が封鎖されたブロックイソシアネート化合物が好ましい。イソシアネート化合物の例には、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートや、ヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネート、これらのイソシアネートのビューレットタイプの付加物またはイソシアヌル環タイプの付加物などが含まれる。これらのイソシアネートは、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。ブロック剤の例には、フェノール類やオキシム類、活性メチレン類、ε−カプロラクタム類、トリアゾール類、ピラゾール類などが含まれる。
イソシアネートの配合量は、ポリエステル樹脂とイソシアネートの合計量を100質量%とした場合、5〜30質量%の範囲内であることが好ましい。イソシアネートが5質量%未満の場合、分子間の架橋密度が小さくなりすぎ、成形加工時にせん断応力により凝集破壊が起こってしまうおそれがある。また、イソシアネートが30質量%超の場合、分子間の架橋密度が大きくなりすぎ、加工性が低下してしまう。
下塗り塗膜の膜厚は、後述するように、下塗り塗膜および上塗り塗膜の合計膜厚が20μm以下であれば特に限定されない。たとえば、下塗り塗膜の膜厚は、3〜10μm程度である。下塗り塗膜の膜厚が3μm未満の場合、ステンレス鋼板に対する上塗り塗膜の密着性を十分に向上させることができないおそれがある。
D)上塗り塗膜(第1塗膜)
上塗り塗膜は、熱可塑性アクリル系樹脂と、熱硬化性樹脂組成物(アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂またはこれらの組み合わせと硬化剤)とを含む樹脂組成物の硬化物からなる。上塗り塗膜は、ステンレス鋼板に対するABS樹脂組成物の成形体の密着性を向上させる。熱硬化性樹脂組成物のみでは、インサート成形においてABS樹脂組成物の成形体を上塗り塗膜に密着させることは困難であるため、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の両方を用いて上塗り塗膜を形成することで、上塗り塗膜に対するABS樹脂組成物の成形体の密着性を向上させた。
熱可塑性アクリル系樹脂と熱硬化性樹脂組成物との質量比は、60:40〜90:10の範囲内が好ましい。樹脂組成物中における熱硬化性樹脂組成物の配合割合が40質量%超の場合、インサート成形において、上塗り塗膜に対するABS樹脂組成物の成形体の密着性が悪くなるおそれがある。一方、熱硬化性樹脂組成物の配合割合が10質量%未満の場合、架橋密度が小さくなりすぎて、成形加工時にせん断応力により凝集破壊が起きるおそれがある。上塗り塗膜は、化成処理皮膜と同様に、ステンレス鋼板表面のうち、少なくともABS樹脂組成物の成形体との接合面に形成されていればよいが、通常はステンレス鋼板の表面全体に形成されている。
熱可塑性アクリル系樹脂は、熱硬化性樹脂組成物と混合可能なものであれば特に限定されない。熱可塑性アクリル系樹脂の種類の例には、メチル、エチル、ブチル、イソブチル、プロピル、オクチル、アミルなどのアクリル酸モノマーまたはメタクリル酸エステルモノマーからなる単独重合体または共重合体、あるいは上記モノマーとスチレン、ビニルトルエン、アクリロニトリル、塩化ビニルなどからなる共重合体を使用することができる。ABS樹脂との相溶性の観点からは、熱可塑性アクリル樹脂は、アクリル酸モノマーとスチレンの共重合体であることが好ましい。
熱硬化性樹脂組成物は、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂またはこれらの組み合わせと、硬化剤とを有する。
アクリル系樹脂の種類は、熱可塑性アクリル系樹脂と混合可能なものであれば特に限定されない。アクリル系樹脂の種類の例には、ヒドロキシ基やカルボキシ基、グリシジル基、または臭素もしくはヨウ素の活性ハロゲンを有するアクリル樹脂が含まれる。また、アクリル系樹脂と組み合わせる硬化剤の種類の例には、メラミンやイソシアネート、ポリアミン、ポリアミド、ポリオキシシランなどが含まれる。塗膜の加工性の観点からは、アクリル系樹脂は、ヒドロキシ基またはカルボキシ基を有するアクリル樹脂であることが好ましく、硬化剤は、イソシアネートであることが好ましい。
エポキシ系樹脂の種類も、熱可塑性アクリル系樹脂と混合可能なものであれば特に限定されない。エポキシ系樹脂の例には、ビスフェノールA型、F型、AD型、ノボラック型、グリシジルアミン型、グリシジルエステル型、脂環式、鎖状型などの各種エポキシ樹脂が含まれる。また、エポキシ系樹脂と組み合わせる硬化剤の種類の例には、メラミンやイソシアネート、ポリアミン、フェノール、ポリアミド、ポリオキシシランなどが含まれる。塗膜の加工性の観点からは、エポキシ系樹脂は、ビスフェノールA型や鎖状型のエポキシ樹脂であることが好ましく、硬化剤はイソシアネートであることが好ましい。
上塗り塗膜のガラス転移点は、20〜150℃の範囲内であることが好ましい。ガラス転移点が20℃未満の場合、常温において、ステンレス鋼板に対するABS樹脂組成物の成形体の密着性が低下してしまうおそれがある。一方、ガラス転移点が150℃超の場合、インサート成形により、ステンレス鋼板に対してABS樹脂組成物の成形体を接合させることができないおそれがある。
上塗り塗膜の膜厚は、上塗り塗膜および下塗り塗膜の合計膜厚が20μm以下であれば特に限定されない。たとえば、上塗り塗膜の膜厚は、3〜15μm程度である。上塗り塗膜の膜厚が3μm未満の場合、ステンレス鋼板に対するABS樹脂組成物の成形体の密着性を十分に向上させることができないおそれがある。一方、上塗り塗膜の膜厚が15μm超の場合、成形加工(例えば、プレス加工)の際に塗膜が剥離してしまうおそれがある。
本発明の複合体に含まれる塗装ステンレス鋼板は、プレコート方式で製造されうる。そのためには、上塗り塗膜および下塗り塗膜の合計膜厚は、20μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましく、10μm以下が特に好ましい。合計膜厚が20μm超の場合、成形加工(例えば、プレス加工)の際に塗膜が剥離してしまうおそれがあり、塗装ステンレス鋼板をプレコート鋼板として利用することが困難となってしまう。
(2)ABS樹脂組成物の成形体
アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)組成物の成形体は、前述の塗装ステンレス鋼板の表面(より正確には、上塗り塗膜の表面)に接合されている。ABS樹脂組成物の成形体の形状は、特に限定されず、用途に応じて適宜選択されうる。
ABS樹脂組成物は、主樹脂であるABS樹脂に加えて、各種添加剤を含んでいてもよい。たとえば、ABS樹脂組成物は、成形収縮率や材料強度を調整するために各種フィラーを含んでいてもよい。フィラーの例には、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド樹脂などの繊維系フィラー;カーボンブラック、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、タルク、ガラス、粘土、リグニン、雲母、石英粉、ガラス球などの粉フィラー;炭素繊維やアラミド繊維の粉砕物などが含まれる。フィラーの配合量は、特に限定されないが、5〜60質量%の範囲内が好ましく、10〜40質量%の範囲内がより好ましい。
以上のように、本発明の複合体は、ステンレス鋼板の表面に化成処理皮膜が形成されているため、ステンレス鋼板に対する上塗り塗膜の密着性が高い。したがって、本発明の複合体を製造する際に、上塗り塗膜を形成した後に成形加工(例えば、プレス加工)を行っても、上塗り塗膜が剥離することがない。すなわち、本発明の複合体(塗装ステンレス鋼板)は、プレコート方式で製造されうる。また、本発明の複合体は、化成処理皮膜およびABS樹脂組成物に対する密着性に優れる所定の上塗り塗膜が形成されているため、ステンレス鋼板とABS樹脂組成物の成形体との密着性に優れている。
また、上塗り塗膜に加えて下塗り塗膜も有する本発明の複合体においては、化成処理皮膜に対する上塗り塗膜の密着性をさらに向上させる下塗り塗膜が形成されているため、ステンレス鋼板とABS樹脂組成物の成形体との密着性がさらに優れている。
本発明の複合体の製造方法は、特に限定されない。たとえば、本発明の複合体は、以下の手順により製造されうる。
2.複合体の製造方法
本発明の複合体の製造方法は、1)塗装ステンレス鋼板を準備する第1の工程と、2)塗装ステンレス鋼板を射出成形金型に挿入する第2の工程と、3)塗装ステンレス鋼板の表面にABS樹脂組成物の成形体を接合する第3の工程と、を有する。
以下、本発明の各工程について説明する。
1)第1の工程
第1の工程では、前述の塗装ステンレス鋼板を準備する。たとえば、ステンレス鋼板の表面に、化成処理皮膜および上塗り塗膜を順次形成して、前述の塗装ステンレス鋼板を作製すればよい。また、化成処理皮膜の形成後であって、上塗り塗膜の形成前に、下塗り塗膜を形成して、塗装ステンレス鋼板を作製してもよい。
化成処理皮膜は、ステンレス鋼板の表面に化成処理液を塗布し、乾燥させることで形成することができる。化成処理液の塗布方法は、特に限定されず、公知の方法から適宜選択すればよい。そのような塗布方法の例には、ロールコート法やカーテンフロー法、スピンコート法、スプレー法、浸漬引き上げ法などが含まれる。化成処理液の乾燥条件は、化成処理液の組成などに応じて適宜設定すればよい。たとえば、化成処理液を塗布したステンレス鋼板を水洗することなく乾燥オーブン内に投入し、到達板温が80〜250℃の範囲内となるように加熱することで、ステンレス鋼板の表面に均一な化成処理皮膜を形成することができる。
化成処理皮膜の上に下塗り塗膜を形成する場合、下塗り塗膜は、化成処理皮膜の上に、前述の自己架橋型のエポキシ系樹脂組成物、非自己架橋型のエポキシ系樹脂組成物、あるいはポリエステル系樹脂組成物を含む下塗り塗料を塗布し、焼き付けることで形成することができる。下塗り塗料の塗布方法は、特に限定されず、公知の方法から適宜選択すればよい。そのような塗布方法の例には、ロールコート法やカーテンフロー法、スピンコート法、スプレー法、浸漬引き上げ法などが含まれる。下塗り塗料の焼き付け条件は、下塗り塗料の組成などに応じて適宜設定すればよい。たとえば、下塗り塗料を塗布した化成処理ステンレス鋼板を乾燥オーブン内に投入し、到達板温が160〜230℃の範囲内となるように加熱することで、化成処理皮膜の上に均一な下塗り塗膜を形成することができる。
上塗り塗膜は、化成処理皮膜または下塗り塗膜の上に、前述の熱可塑性アクリル系樹脂と、熱硬化性樹脂組成物(アクリル系樹脂および/またはエポキシ系樹脂と硬化剤)を含む上塗り塗料を塗布し、焼き付けることで形成することができる。上塗り塗料の塗布方法は、特に限定されず、公知の方法から適宜選択すればよい。そのような塗布方法の例には、ロールコート法やカーテンフロー法、スピンコート法、スプレー法、浸漬引き上げ法などが含まれる。上塗り塗料の焼き付け条件は、上塗り塗料の組成などに応じて適宜設定すればよい。たとえば、上塗り塗料を塗布した塗装ステンレス鋼板を乾燥オーブン内に投入し、到達板温が180〜250℃の範囲内となるように加熱することで、化成処理皮膜または下塗り塗膜の上に均一な上塗り塗膜を形成することができる。
2)第2の工程
第2の工程では、第1の工程で準備した塗装ステンレス鋼板を射出成形金型の内部に挿入する。塗装ステンレス鋼板は、プレス加工などにより所望の形状に加工されていてもよい。
3)第3の工程
第3の工程では、第2の工程で塗装ステンレス鋼板を挿入した射出成形金型の内部に、高温のABS樹脂組成物を高圧で射出する。このとき、射出成形金型にガス抜きを設けて、ABS樹脂組成物が円滑に流れるようにすることが好ましい。高温のABS樹脂組成物は、塗装ステンレス鋼板の表面に形成された上塗り塗膜に接触する。射出成形金型の温度は、ABS樹脂組成物の融点近傍であることが好ましい。
射出終了後、金型を開き離型して複合体を得る。射出成形により得られた複合体は、成形後にアニール処理をして、成形収縮による内部歪みを解消してもよい。
以上の手順により、塗装ステンレス鋼板の表面にABS樹脂組成物の成形体を接合させて、本発明の複合体を製造することができる。
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
[実施例1]
実施例1では、塗装ステンレス鋼板の曲げ加工性およびプレス加工性に対する化成処理皮膜の影響について調べた。
1.塗装ステンレス鋼板の作製
(1)1コート塗装鋼板
塗膜が上塗り塗膜のみ(1コート)の塗装ステンレス鋼板を作製した。以下、各要素について説明する。
A.ステンレス鋼板
塗装原板として、板厚0.3mmのステンレス鋼板(SUS304−CSP 1/2H)を準備した。
B.化成処理皮膜
塗装原板の表面に液温60℃のアルカリ脱脂水溶液を20秒間スプレーした後に湯洗して、塗装原板の表面を脱脂した。次いで、脱脂した塗装原板の表面に、表1に示す化成処理液を室温にてバーコーターで塗布し、在炉温度50秒間、到達塗料温度100℃の条件で加熱して、化成処理皮膜を形成した。表2は、化成処理液に添加した各成分の種類と、化成処理液中の各成分の濃度を示している。
Figure 0005905733
Figure 0005905733
C.上塗り塗膜
化成処理皮膜の表面に、熱可塑性アクリル系樹脂85質量部およびイソシアネートを硬化剤として含む熱硬化性のエポキシ系樹脂組成物15質量部を含む上塗り塗料を、バーコーターで乾燥塗膜の厚みが5μmとなるように室温にて塗布した。次いで、在炉時間50秒間、到達材料温度230℃の条件で加熱して上塗り塗膜を形成した。
(2)2コート塗装鋼板
塗膜が上塗り塗膜および下塗り塗膜(2コート)からなる塗装ステンレス鋼板を作製した。以下、各要素について説明する。
A.ステンレス鋼板
塗装原板として、板厚0.3mmのステンレス鋼板(SUS304−CSP 1/2H)を準備した。
B.化成処理皮膜
ステンレス鋼板の上に、(1)1コート塗装鋼板と同じ化成処理皮膜を形成した。
C.下塗り塗膜
化成処理皮膜の表面に、数平均分子量が10000の自己架橋型のフェノキシ樹脂を含む下塗り塗料を、バーコーターで乾燥塗膜の厚みが5μmとなるように室温にて塗布した。次いで、在炉時間50秒間、到達材料温度200℃の条件で加熱して、下塗り塗膜を形成した。
D.上塗り塗膜
下塗り塗膜の上に、(1)1コート塗装鋼板と同じ上塗り塗膜を形成した。これらの工程により下塗り塗膜および上塗り塗膜の合計膜厚が10μmの各塗装ステンレス鋼板を得た。
2.曲げ加工性の評価
曲げ加工性は、各塗装ステンレス鋼板の180度曲げ加工を行い、塗膜のワレおよび剥離の有無により評価した。具体的には、各塗装ステンレス鋼板から切り出した試験片(50mm×40mm)の塗膜が形成されていない面に、試験片と同様の厚みの板を2枚重ねた。次いで、塗膜が外側になるように、試験片のみを25℃で180度折り曲げ(折り曲げられた試験片の間に2枚の板が挟まれる)、曲げ部に対してセロハンテープ剥離試験を行った。曲げ加工性の評価基準を表3に示した。また、(1)1コート塗装鋼板の評価結果を表5に示し、2コート塗装鋼板の評価結果を表6に示す。
Figure 0005905733
3.プレス加工性の評価
プレス加工性は、各塗装ステンレス鋼板を打ち抜き加工し、塗膜の浮き幅により評価した。図1は、塗装ステンレス鋼板の打ち抜き加工の模式図である。図1に示すように、2000kNサーボプレス機を用い、クリアランスを7%とし、パンチのRを0mmとして、打ち抜き加工を行った。打ち抜き加工後の断面観察により、ステンレス鋼板と、塗膜(下塗り塗膜または上塗り塗膜)とが剥離した距離を浮き幅とした。1コート塗装鋼板の評価結果を表5に示し、2コート塗装鋼板の評価結果を表6に示す。
4.塗膜の合計膜厚と塗膜の浮き幅の関係の評価
表1に示したNo.1、8、17、18または22の化成処理液を用いて作製した1コート塗装鋼板および2コート塗装鋼板について、塗膜の膜厚と、プレス加工後の塗膜の浮き幅との関係について調べた。1コート塗装鋼板の場合、化成処理皮膜の表面に、乾燥塗膜の厚みが、3,5,10,15または20μmとなるように上塗り塗料を塗布した。この工程により上塗り塗膜の膜厚が3〜20μmの各1コート塗装鋼板を得た。また、2コート塗装鋼板の場合、まず化成処理皮膜の表面に、乾燥塗膜の厚みが3〜10μmとなるように下塗り塗料を塗布した(表4参照)。次いで、下塗り塗膜の表面に、乾燥塗膜の厚みが3〜20μmとなるように上塗り塗料を塗布した(表4参照)。これらの工程により下塗り塗膜と上塗り塗膜の合計厚みが6〜30μmの各2コート塗装鋼板を得た(表4参照)。プレス加工は、前述した通りである。
Figure 0005905733
5.結果
1コート塗装鋼板の上塗り塗膜の膜厚が5μmのときの、曲げ加工性およびプレス加工性の評価結果、ならびにこれらの結果に基づく総合評価を表5に示す。2コート塗装鋼板の下塗り塗膜および上塗り塗膜の膜厚がそれぞれ5μmのときの、曲げ加工性およびプレス加工性の評価結果、ならびにこれらの結果に基づく総合評価を表6に示す。また、塗膜の膜厚と塗膜の浮き幅との関係を図2に示す。
Figure 0005905733
Figure 0005905733
表5および表6に示されるように、有機樹脂を含まないNo.18〜22の化成処理液を使用した場合(無機皮膜のみを形成した場合)は、曲げ加工性が悪く、塗膜の浮き幅も長かった。一方、有機樹脂を含むNo.1〜7の化成処理液を使用した場合(有機樹脂皮膜のみを形成した場合)は、曲げ加工性が改善され、塗膜の浮き幅も短かった。また、有機樹脂および無機化合物を含むNo.8〜17の化成処理液を使用した場合(有機−無機複合皮膜を形成した場合)は、曲げ加工性がさらに改善され、塗膜の浮き幅も最も短かった。
図2は、下塗り塗膜および上塗り塗膜の合計膜厚と塗膜の浮き幅の関係を示すグラフである。図2に示されるように、各2コート塗装鋼板の下塗り塗膜および上塗り塗膜の合計膜厚を20μm以下とすることで、塗膜の浮き幅を30μm以下と顕著に抑制することができた(特許文献1に記載のフィルムラミネート金属板(フィルム厚み55μm)では100μm以上である)。
[実施例2]
実施例2では、塗装ステンレス鋼板に対するアクリロニトリル−スチレン−ブタジエン樹脂(ABS樹脂)組成物の成形体の密着性について調べた。
1.塗装ステンレス鋼板の作製
(1)1コート塗装鋼板
A.ステンレス鋼板
塗装原板として、板厚0.3mmのステンレス鋼板(SUS304−CSP 1/2H)を準備した。
B.化成処理皮膜
塗装原板の表面に液温60℃のアルカリ脱脂水溶液を20秒間スプレーした後に湯洗して、塗装原板の表面を脱脂した。次いで、脱脂した塗装原板の表面に、表1に示すNo.8または17の化成処理液を室温にてバーコーターで塗布し、在炉温度50秒間、到達塗料温度100℃の条件で加熱して、化成処理皮膜を形成した。
C.上塗り塗膜
化成処理皮膜の表面に、表7に示す熱可塑性樹脂および硬化剤としてイソシアネートを含む熱硬化性樹脂組成物を含む上塗り塗料を、バーコーターで乾燥塗膜の厚みが5μmとなるように室温にて塗布した。次いで、在炉時間50秒間、到達材料温度230℃の条件で加熱して、上塗り塗膜を形成した。これらの工程により上塗り塗膜の厚みが5μmの各塗装ステンレス鋼板を得た。
Figure 0005905733
(2)2コート塗装鋼板
A.ステンレス鋼板
塗装原板として、板厚0.3mmのステンレス鋼板(SUS304−CSP 1/2H)を準備した。
B.化成処理皮膜
(1)1コート塗装鋼板と同じ化成処理皮膜を形成した。
C.下塗り塗膜
化成処理皮膜の表面に、表8に示す下塗り塗料を、バーコーターで乾燥塗膜の厚みが5μmとなるように室温にて塗布した。次いで、在炉時間50秒間、到達材料温度200℃の条件で加熱して、下塗り塗膜を形成した。
Figure 0005905733
D.上塗り塗膜
下塗り塗膜の表面に、(1)1コート塗装鋼板と同じ上塗り塗膜を形成した。これらの工程により下塗り塗膜および上塗り塗膜の合計厚みが10μmの各塗装ステンレス鋼板を得た。
2.ABS樹脂組成物の成形体の接合(インサート成形)
図3は、塗装ステンレス鋼板とABS樹脂組成物の成形体とが接合された複合体を示す図である。インサート成形は、15トン横型電動式射出成形機を用いて行った。まず、得られた各塗装ステンレス鋼板を、110℃に加熱した、60mm×20mmの大きさのキャビティを有する射出成形金型内に挿入した。次いで、ABS樹脂(TM−21;UMG−ABS株式会社)を上塗り塗膜の表面に射出し、熱溶着させた。上塗り塗膜とABS樹脂組成物の成形体との接合面の大きさは、10mm×10mmである。
3.せん断接着強さの測定
せん断接着強さは、2トンオートグラフを用い、各塗装ステンレス鋼板とABS樹脂組成物の成形体とを同一平面方向に引っ張ることで測定した。各複合体のせん断接着強さと、その総合評価を表8〜10に示す。せん断接着強さが50kgf/cm以下の場合は「×」、せん断接着強さが50kgf/cm超の場合は「○」と評価した。
4.結果
作製した各複合体におけるせん断接着強さと総合評価を、表9〜11に示す。
Figure 0005905733
Figure 0005905733
Figure 0005905733
表9〜表11から、1コート塗装鋼板および2コート塗装鋼板の上塗り塗料における、熱可塑性アクリル系樹脂と熱硬化性樹脂組成物との質量比が60:40〜90:10の範囲内にないNo.85〜120の複合体では、塗装ステンレス鋼板と、ABS樹脂組成物の成形体との密着性が悪かった。一方、1コート塗装鋼板および2コート塗装鋼板の上塗り塗料における、熱可塑性アクリル系樹脂と熱硬化性樹脂組成物との質量比が60:40〜90:10の範囲内にあるNo.1〜84の複合体では、塗装ステンレス鋼板と、ABS樹脂組成物の成形体との密着性が優れており、電子機器などの筐体部材における使用の目安となる50kgf/cmを超えていた。特に、2コート塗装鋼板を有するNo.1〜35およびNo.43〜77の複合体では、塗装ステンレス鋼板と、ABS樹脂組成物の成形体との密着性がさらに優れていた。
本発明の複合体は、密着性に優れ、かつプレコート方式で製造することができるため、例えば電子機器の部品として有用である。

Claims (6)

  1. 塗装ステンレス鋼板と、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂組成物の成形体とが接合された複合体であって、
    前記塗装ステンレス鋼板は、ステンレス鋼板と、前記ステンレス鋼板の表面に形成された有機樹脂を含む化成処理皮膜と、前記化成処理皮膜の上に形成された第1塗膜とを有し、
    前記有機樹脂は、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、N−メチルグルカミン樹脂、タンニン酸およびポリアクリル酸からなる群から選択される1種または2種以上の樹脂であり、
    前記第1塗膜は、熱可塑性アクリル系樹脂60〜90質量部と、前記熱可塑性アクリル系樹脂以外のアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂またはこれらの組み合わせと硬化剤とを含む熱硬化性樹脂組成物40〜10質量部と、を含む樹脂組成物の硬化物からなり、
    前記第1塗膜の膜厚は、20μm以下である、
    複合体。
  2. 前記塗装ステンレス鋼板は、前記化成処理皮膜と前記第1塗膜との間に形成された第2塗膜をさらに有し、
    前記第2塗膜は、フェノキシ系樹脂またはエポキシ系樹脂を含む自己架橋型のエポキシ系樹脂組成物の硬化物、フェノキシ系樹脂またはエポキシ系樹脂と硬化剤とを含むエポキシ系樹脂組成物の硬化物、あるいは架橋性官能基を含有するポリエステル樹脂およびイソシアネートを含むポリエステル系樹脂組成物の硬化物からなり、
    前記第1塗膜および前記第2塗膜の合計膜厚は、20μm以下である、
    請求項1に記載の複合体。
  3. 前記化成処理皮膜は、前記有機樹脂を含む有機樹脂皮膜である、請求項1に記載の複合体。
  4. 前記化成処理皮膜は、前記有機樹脂と、シラン化合物、チタン化合物、フッ素化合物およびジルコニウム化合物からなる群から選択される1種または2種以上の無機化合物とを含む有機−無機複合皮膜である、請求項1に記載の複合体。
  5. 塗装ステンレス鋼板と、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂組成物の成形体とが接合された複合体の製造方法であって、
    塗装ステンレス鋼板を準備する工程と、
    前記塗装ステンレス鋼板を射出成形金型に挿入する工程と、
    前記射出成形金型にアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂組成物を射出して、前記塗装ステンレス鋼板の表面にアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂組成物の成形体を接合する工程と、を有し、
    前記塗装ステンレス鋼板は、ステンレス鋼板と、前記ステンレス鋼板の表面に形成された有機樹脂を含む化成処理皮膜と、前記化成処理皮膜の上に形成された第1塗膜とを有し、
    前記有機樹脂は、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、N−メチルグルカミン樹脂、タンニン酸およびポリアクリル酸からなる群から選択される1種または2種以上の樹脂であり、
    前記第1塗膜は、熱可塑性アクリル系樹脂60〜90質量部と、前記熱可塑性アクリル系樹脂以外のアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂またはこれらの組み合わせと硬化剤とを含む熱硬化性樹脂組成物40〜10質量部と、を含む樹脂組成物の硬化物からなり、
    前記第1塗膜の膜厚は、20μm以下である、
    複合体の製造方法。
  6. 前記塗装ステンレス鋼板は、前記化成処理皮膜と前記第1塗膜との間に形成された第2塗膜をさらに有し、
    前記第2塗膜は、フェノキシ系樹脂またはエポキシ系樹脂を含む自己架橋型のエポキシ系樹脂組成物の硬化物、フェノキシ系樹脂またはエポキシ系樹脂と硬化剤とを含むエポキシ系樹脂組成物の硬化物、あるいは架橋性官能基を含有するポリエステル樹脂およびイソシアネートを含むポリエステル系樹脂組成物の硬化物からなり、
    前記第1塗膜および前記第2塗膜の合計膜厚は、20μm以下である、
    請求項5に記載の複合体の製造方法。
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