JP5896588B2 - 油性顔料インクの製造方法 - Google Patents

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本発明は、インクジェット記録方式で用いられる油性顔料インクに関する。特に、本発明は、顔料、顔料誘導体、顔料分散剤、及び有機溶剤を少なくとも含有する油性顔料インクに関する。
インクジェット記録方式は、流動性の高いインクジェットインクを微細なヘッドノズルからインク粒子として噴射し、ヘッドノズルに対向して配置された被印刷体に画像を記録する記録方式である。この記録方式は、低騒音で高速印字が可能であることから、近年急速に普及している。このようなインクジェット記録方式に用いられるインクとしては、染料を水に溶解させた水性染料インクが多用されてきたが、水性染料インクは耐候性や耐水性に劣り、また用紙の種類によってはインクが滲みやすい。そのため、有機溶剤に顔料を分散させた油性顔料インクが種々提案されている(例えば、特許文献1)。
上記のような油性顔料インクは、水性染料インクと異なり、インク中で顔料が溶解していないため、インクジェット記録方式で印刷する場合、吐出不良が生じやすいという問題がある。
油性顔料インクにおける吐出不良を改善するためには、顔料を微細な粒子径にまで分散させることが求められる。そのため、顔料分散剤などの表面処理剤が使用されているが、一般にインクジェット記録方式で利用される油性顔料インクは顔料濃度が10質量%以下であり、粘度が低い。従って、顔料、顔料分散剤、及び有機溶剤を混合して、インクの最終組成を有する混合液を調製し、この混合液をサンドミルやピンミルなどの高分散エネルギーを有する分散装置を用いて分散させても、高い剪断力を混合液に付与することができず、顔料を微細化することが難しい。
上記観点から、顔料を微細化するために、顔料及び顔料分散剤と、少量の有機溶剤とを混合した混合液を分散することにより高顔料濃度の油性顔料分散体を調製し、得られた油性顔料分散体を有機溶剤や添加剤などにより希釈して低顔料濃度の油性顔料インクを製造する方法が提案されている(例えば、特許文献2)。
しかしながら、顔料として有機顔料が用いられる場合、有機顔料の粒子表面は極性度が低く、顔料分散剤が有機顔料の粒子表面に吸着し難いことから、高顔料濃度の油性顔料分散体を調製しても、吐出不良が生じやすい。
一方、有機溶剤に対する有機顔料の結晶性の確保と、インク中での有機顔料の分散性の向上を目的として、従来から酸性基や塩基性基の極性基を有する顔料誘導体を使用することが提案されている(例えば、特許文献3、4)。このような顔料誘導体を用いることによる分散機構は、有機顔料に対して顔料誘導体がπ−π相互作用にて吸着し、その吸着した顔料誘導体に対して顔料分散剤がさらに吸着し、吸着した顔料分散剤が有機溶剤と溶媒和して有機顔料を安定化させると考えられている。
ところが、上記のような顔料分散剤及び顔料誘導体を用いて分散性を向上させた油性顔料インクは、製造直後においては、ヘッドノズルや、インクタンクからヘッドノズルまでのインク流路に配置されたフィルタで目詰まりが発生せず、実用上問題のない印刷を行なうことができるものの、インクタンクに油性顔料インクが長期間保存された後に印刷を行なうと、ヘッドノズルやフィルタで目詰まりを起こしやすく、印刷品質が劣化するという問題がある。
このような油性顔料インクを長期保存した際の吐出不良は、顔料の再凝集によるものと考えられており、顔料の分散安定性を向上するため種々の検討が行なわれている。例えば、本出願人も、有機溶剤として(ポリ)アルキレングリコールジアルキルエステル化合物を含有し、10〜50質量%の高顔料濃度を有する油性顔料分散体を先に提案した(特許文献5)。この油性顔料分散体によれば、(ポリ)アルキレングリコールジアルキルエステル化合物が水分を吸収し難いため、油性顔料分散体中の水分量を2質量%以下に抑えることができ、油性顔料分散体を長期保存しても顔料の再凝集を防止できる。
特開2003−261808号公報
特開平10−77432号公報
特開昭53−85823号公報
特開昭56−118462号公報
特開2006−290976号公報
しかしながら、高顔料濃度の油性顔料分散体は希釈しなければインクジェット記録方式に適した粘度や表面張力を有する油性顔料インクとすることができないことから、有機溶剤などの希釈成分の添加により水分量が増加する場合があり、またこの希釈時に製造装置などからも水分が混入する場合がある。このため、油性顔料分散体の保存安定性を向上させても、油性顔料インクの保存安定性は必ずしも改善されないという問題がある。また、特許文献5では、顔料誘導体を含有する油性顔料インクの保存安定性については何ら検討されていないが、本発明者等の検討によれば、このような表面処理剤を含有する油性顔料インクでは、水分量を2質量%程度に低下させても、長期保存後にフィルタやヘッドノズルで目詰まりが頻発することが明らかとなった。
本発明は上記課題を解決するものであり、本発明の目的は、顔料、顔料誘導体、顔料分散剤、及び有機溶剤を含有する油性顔料インクにおいて、長期保存後でもフィルタやヘッドノズルで目詰まりが発生せず、保存安定性に優れた油性顔料インクを提供することにある。
本発明は、顔料、顔料分子または染料分子を母核とし、前記母核に官能基が導入された顔料誘導体、顔料分散剤、及び有機溶剤を含有し、インク最終組成を有する混合液を調製し、
前記混合液を、70℃以下で加温して、水分量が0.27質量%以下となるように脱水処理する、油性顔料インクの製造方法である。
上記製造方法によれば、混合液を加温することにより、混合液中に混入している水と有機溶剤とが共沸するから、混合液中の水分量を効率的に低減することができる。また、上記水分量を低減させるための加温温度が70℃以下であれば、脱水処理において顔料に吸着している顔料誘導体の脱離を抑えることができる。そして、上記製造方法によれば、水分量が0.27質量%以下となるように混合液が脱水処理されるから、長期保存によって顔料から脱離した顔料誘導体の凝集を抑えることができる。さらに、インク最終組成を有する混合液が脱水処理されるから、希釈工程などで水分がインクに混入することもない。
前記有機溶剤は、水の蒸発速度よりも遅い蒸発速度を有する低揮発性有機溶剤を含有することが好ましい。上記製造方法によれば、前記有機溶剤が水の蒸発速度よりも遅い蒸発速度を有する低揮発性有機溶剤を含有するため、混合液中の水分量を効率的に低減することができる。
前記有機溶剤は、複素環化合物を含有することが好ましい。複素環化合物は顔料誘導体の溶解性に優れているため、長期保存によって顔料誘導体が顔料から脱離したとしても、顔料誘導体同士の凝集をさらに低減することができる。
以上のように、本発明によれば、油性顔料インクを長期保存した場合でも、吐出性に優れた油性顔料インクを得ることができる。
図1は、本発明の実施の形態に係る油性顔料インク中の水分量と保存後におけるインクの流量との関係を示すグラフである。
既述したように、従来の油性顔料インクでは、顔料を高分散させるために顔料分散剤及び顔料誘導体などの表面処理剤が使用されている。特に、フタロシアニン系顔料などの有機顔料の粒子表面は極性度が低く、顔料分散剤が顔料粒子の表面に吸着し難いことから、顔料の表面処理剤として顔料誘導体を使用する必要がある。
しかしながら、上記のような表面処理剤を用い、顔料を高分散させた油性顔料インクは、製造直後においては吐出性に優れるものの、例えば顔料として銅フタロシアニン系顔料を、顔料誘導体として銅フタロシアニン系顔料誘導体を含有する油性顔料インクを半年以上、長期保存した後では、印字抜けなどが多発し、吐出性が極めて劣化することが確認された。このため、この原因について本発明者等が調査したところ、ヘッドノズルやインク流路に設けられているフィルタに固形の析出物が付着しており、それによって目詰まりを起こしていることが判明した。顔料の分散安定性を向上させるために、吸湿性の低い有機溶剤を含有する油性顔料分散体を希釈した油性顔料インクでも、長期保存後に同様の析出物が観察されたことから、該析出物は顔料以外の成分に由来すると考えられた。
このため、該析出物についてSEM−EDX(エネルギー分散型X線分析装置付走査型電子顕微鏡)で分析したところ、銅フタロシアニン系顔料に含まれておらず、銅フタロシアニン系顔料誘導体のみに含まれている硫黄を有する成分が析出物の大半を占め、顔料自体の析出物はわずかであることが確認された。すなわち、従来、油性顔料インクにおいては有機溶剤中で顔料が再凝集することにより析出物が形成されると考えられていたが、顔料誘導体を含有する油性顔料インクにおいては、長期保存によって顔料よりも顔料誘導体がより析出しやすいことが明らかとなった。
また、この析出物が発生した理由についてさらに検討した結果、長期保存時に油性顔料インク中に含まれる非常に微量の水分によって顔料誘導体の析出物が生成されることを見出した。この理由は現在必ずしも明らかではないが、次のように考えられる。まず、長期保存後の油性顔料インクを遠心分離機により固形成分と溶剤成分とに分離したところ、該溶剤成分には着色が観察された。これは、上記のように油性顔料インクを長期保存した場合、インク中に有機溶剤に不溶性の顔料誘導体に由来する析出物が生成していることから、保存によって顔料誘導体が顔料から脱離したものと考えられる。
しかしながら、顔料誘導体は、油性顔料インクで一般に使用されている有機溶剤に対して優れた溶解性を示すことから、本来、長期保存によって顔料から顔料誘導体が脱離したとしても、脱離した顔料誘導体は有機溶剤に溶解した状態でインク中に存在するものと推測される。
そこで、顔料誘導体を凝集させて析出物を生成する油性顔料インク中の成分について検討したところ、インク中に含まれる極めて微量の水分が長期保存によって顔料から脱離した顔料誘導体を凝集させていることが判明した。すなわち、顔料誘導体は水に対する溶解性を殆ど有さないが、製造直後では顔料誘導体は顔料に吸着しているため、インク成分である顔料、顔料分散剤、有機溶剤などからインク中に微量の水分が混入しても、該水分により凝集が生ずることはない。例えば、本発明者等の検討によれば、油性顔料インク中に0.4質量%程度の水分が含まれている場合であっても、製造直後においては吐出性に問題のない油性顔料インクが得られることが見出されている。しかしながら、長期保存により顔料から顔料誘導体の一部が脱離した場合、インク中の水分量が極めて微量でも、脱離した顔料誘導体が有機溶剤に溶媒和できず、顔料誘導体同士が会合等により凝集し、それによって顔料誘導体由来の大きな粒子径を有する析出物が生成されるものと考えられる。
上記観点から本発明者等は、長期保存による顔料誘導体の凝集を抑えるためにインク中の水分量を低減させる検討を行なったが、該水分は顔料、顔料誘導体、顔料分散剤、有機溶剤などの各成分が本来不可避的に含有するものと、製造装置などの製造環境から供給されるものが考えられる。従って、特許文献5にように、顔料の凝集を抑えるために有機溶剤として(ポリ)アルキレングリコールジアルキルエステルを使用して水分の吸湿を抑えても、インクジェット記録方式に用いられるインクとして使用する場合には、油性顔料分散体を希釈する必要があるため、この希釈工程で有機溶剤などのインク成分や製造装置から混入してくる水分により、最終的に得られる油性顔料インク中の水分量が増加する。このため、原材料に含まれている水分を低減させても、製造工程で混入してくる水分を除去することは困難である。また、水分量の少ない原材料を用いるとともに、全ての製造工程を低湿環境下で行なうことも考えられるが、製造装置が大掛かりとなり、製造コストの増加を招くこととなる。特に、特許文献5では、油性顔料分散体における水分量を低減するために(ポリ)アルキレングリコールジアルキルエステルを使用しているが、該有機溶剤を用いた場合の最低水分量は0.32質量%までであるのに対し、本発明者等の検討によれば、このような微量の水分量であっても顔料誘導体に由来する析出物の生成が抑えられないことが判明した。
本実施の形態の油性顔料インクの製造方法は、上記検討に基づきなされたものであり、インク最終組成において水分量を効果的に低減するために、顔料、顔料誘導体、顔料分散剤、及び有機溶剤を混合して、インク最終組成を有する混合液を調製し、このインク最終組成を有する混合液を、温度70℃以下で加温して、水分量が0.3質量%以下となるように脱水処理することを特徴とするものである。この混合液調製工程と脱水処理工程とを有する製造方法によれば、インク最終組成を有する混合液の水分量が低減されるため、原材料の水分量を厳格に制御する必要がなく、また全ての製造工程を低湿環境下で行なう必要もない。そして、後述するように、水分量が0.3質量%以下であれば、長期保存による顔料誘導体由来の析出物の生成を確実に抑えることができる。
次に、本実施の形態の油性顔料インクに用いられる各成分、及び各製造工程について具体的に説明する。
本実施の形態において、顔料としては、従来公知の無彩色及び有彩色の有機顔料や無機顔料を使用できるが、有機顔料がより好ましい。インク最終組成における顔料の含有量は、着色力やインクの流動性などの点より、インク全量に対して、0.1〜7質量%が好ましく、0.2〜5質量%がより好ましい。このような低顔料濃度の油性顔料インクは低粘度で、製造初期に吐出性に優れるが、有機溶剤などの他の成分を多量に含有するため、水分量が増加しやすいことから、本実施の形態の製造方法が特に有用である。
有機顔料としては、例えば、アゾ系、アゾメチン系、ポリアゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アンスラキノン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、ベンツイミダゾロン系、イソインドリン系、イソインドリノン系、ジアセトアセトアリライド系などが挙げられる。また、酸性、中性または塩基性カーボンからなるカーボンブラックを用いてもよい。
シアンインクに使用される顔料としては、具体的には、例えば、C.I.ピグメントブルー1、C.I.ピグメントブルー2、C.I.ピグメントブルー3、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4、C.I.ピグメントブルー15:34、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー22、C.I.ピグメントブルー60などが挙げられる。これらの中でも、C.I.ピグメントブルー15:3、及びC.I.ピグメントブルー15:4からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
マゼンタインクに使用される顔料としては、具体的には、例えば、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド12、C.I.ピグメントレッド48(Ca)、C.I.ピグメントレッド48(Mn)、C.I.ピグメントレッド57(Ca)、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド112,C.I.ピグメントレッド122,C.I.ピグメントレッド123,C.I.ピグメントレッド168,C.I.ピグメントレッド184、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド209、C.I.ピグメントバイオレット19などが挙げられる。これらの中でも、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド209、及びC.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
イエローインクに使用される顔料としては、具体的には、例えば、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー2、C.I.ピグメントイエロー3、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14C、C.I.ピグメントイエロー16、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー73、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー75、C.I.ピグメントイエロー83、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー95、C.I.ピグメントイエロー97、C.I.ピグメントイエロー98、C.I.ピグメントイエロー109、C.I.ピグメントイエロー110、C.I.ピグメントイエロー114、C.I.ピグメントイエロー120、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー129、C.I.ピグメントイエロー130、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー150、C.I.ピグメントイエロー151C.I.ピグメントイエロー、154、C.I.ピグメントイエロー155、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー185などが挙げられる。これらの中でも、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー83、C.I.ピグメントイエロー109、C.I.ピグメントイエロー110、C.I.ピグメントイエロー120、C.I.ピグメントイエロー150、C.I.ピグメントイエロー151、C.I.ピグメントイエロー155、及びC.I.ピグメントイエロー180からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
ブラックインクに使用される顔料としては、三菱化学社製のHCF、MCF、RCF、LFF、SCF;キャボット社製のモナーク、リーガル;デグサ・ヒュルス社製のカラーブラック、スペシャルブラック、プリンテックス;東海カーボン社製のトーカブラック;コロンビア社製のラヴェンなどが挙げられる。これらの中でも、三菱化学社製のHCF#2650、HCF#2600、HCF#2350、HCF#2300、MCF#1000、MCF#980、MCF#970、MCF#960、MCF88、LFFMA7、MA8、MA11、MA77、MA100、及びデグサ・ヒュルス社製のプリンテックス95、プリンテックス85、プリンテックス75、プリンテックス55、プリンテックス45、プリンテックス25からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
無機顔料としては、具体的には、例えば、酸化チタン、亜鉛華、酸化亜鉛、リトポン、酸化鉄、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、カオリナイト、モンモリロナイト、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、カドミウムレッド、べんがら、モリブデンレッド、クロムバーミリオン、モリブデートオレンジ、黄鉛、クロムイエロー、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、チタンイエロー、酸化クロム、ピリジアン、コバルトグリーン、チタンコバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、群青、ウルトラマリンブルー、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット、マイカなどが用いられる。これらの無機顔料は、単独でも複数混合して使用してもよい。
本実施の形態の油性顔料インクは、顔料の分散性向上のために顔料誘導体を含有する。本実施の形態において、顔料誘導体とは、油性顔料インクの製造に一般に用いられる通常のものを意味し、顔料分子または染料分子を母核とし、この母核に酸性基や塩基性基などの極性を有する官能基あるいは有機溶剤との親和性を向上する官能基を導入して得られる誘導体型の化合物を意味する。顔料誘導体に導入される官能基としては、塩素基、スルホン酸基、スルホン酸アミド基、カルボン酸基、カルボン酸アミド基、アミノ基、アミノメチル基、イミド基、イミドメチル基、フタルイミド基、フタルイミドメチル基、ニトロ基、シアノ基、リン酸基などが挙げられる。これらの官能基は単独でまたは複数含有されていてもよい。インク最終組成における顔料誘導体の含有量は、顔料や有機溶剤の種類、分散条件などにより異なるが、顔料100質量部に対して、0.1〜200質量部が好ましく、0.5〜200質量部がより好ましい。
顔料誘導体の大きさは、結晶構造を構成する顔料一分子レベルの大きさ、すなわち染料分子レベルであってもよいし、数個〜数百個の顔料分子の会合体レベルあるいは数nm〜数十nmの顔料結晶粒子レベルであってもよい。これらは分子会合工程や結晶化工程など合成方法で調整することができる。
顔料誘導体の種類としては、不溶性アゾ系、アゾレーキ系、縮合アゾ系などのアゾ系顔料誘導体や、アントラキノン系、フタロシアニン系、キナクリドン系、イソインドリノン系、ジオキサジン系、ペリレン系、ペリノン系、チオインジゴ系、ピロコリン系、フルオルビン系、キノフタロン系、ジケトピロロピロール系、アントラピリミジン系、アンサンスロン系、インダンスロン系、フラバンスロン系などの多環式顔料誘導体などが挙げられる。
特に、油性顔料インク中の顔料の分散安定性を向上させるため、使用される顔料と同一の分子構造を有するかまたは類似の分子構造を有する顔料誘導体が好ましい。例えば、顔料としてキナクリドン系顔料を用いた場合、顔料誘導体としてキナクリドン系顔料誘導体を使用することが好ましく、顔料として銅フタロシアニン系顔料を用いた場合、顔料誘導体として銅フタロシアニン系顔料誘導体を使用することが好ましい。これらの中でも、銅フタロシアニン系有機顔料と銅フタロシアニン系顔料誘導体とを使用するシアン色の油性顔料インクは、長期保存による顔料誘導体の凝集物の析出が顕著であるため、本実施の形態の製造方法が有用である。このような銅フタロシアニン系顔料誘導体としては、銅フタロシアニンの塩素化誘導体、銅フタロシアニンのスルホン化誘導体、銅フタロシアニンのスルホン酸金属塩誘導体、銅フタロシアニンのスルホン酸アルキルアミン塩誘導体、銅フタロシアニンのスルホン酸アミド化誘導体、銅フタロシアニンのカルボン酸誘導体、銅フタロシアニンのアルキルアミン誘導体、銅フタロシアニンのジアルキルアミノアルキルスルホン酸アミド誘導体、銅フタロシアニンのフタルイミド誘導体などが挙げられる。これらは単独でも複数混合して使用してもよい。市場で入手可能な銅フタロシアニン系顔料誘導体としては、日本ルーブリゾール社製のSOLSPERSE5000(銅フタロシアニンのスルホン酸アルキルアミン塩誘導体)、SOLSPERSE12000(銅フタロシアニンのスルホン酸誘導体)などが挙げられる。また、市場で入手可能なアゾ系顔料誘導体としては、日本ルーブリゾール社製のSOLSPERSE22000(ベンジジンイエロースルホン酸アンモニウム塩誘導体)などが挙げられる。
本実施の形態において、顔料分散剤としては、使用する顔料を有機溶剤中に安定に分散させることができるものであれば特に制限されないが、高分子分散剤を使用することが好ましい。すなわち、従来から顔料分散剤としては、イオン性または非イオン性の界面活性剤や、アニオン性、カチオン性またはノニオン性の高分子化合物が用いられているが、耐水性や耐擦過性など印字物の強度面、及び分散安定性の観点から、高分子化合物がより好ましい。特に、カチオン性基またはアニオン性基を含む高分子化合物が好ましい。
インク最終組成における顔料分散剤の含有量は、顔料、顔料誘導体及び有機溶剤の種類や分散条件などにより異なるが、顔料100質量部に対して、5〜150質量部が好ましく、40〜150質量部がより好ましい。
市場で入手可能な高分子化合物の顔料分散剤としては、日本ルーブリゾール社製のSOLSPERSE、ビックケミー社製のDISPERBYK、エフカアディティブズ社製のEFKA、コグニス社製のTEXAPHORなどが挙げられる。これらの中でも、日本ルーブリゾール社製のSOLSPERSE13940(ポリエステルアミン系)、SOLSPERSE17000、SOLSPERSE18000(脂肪族アミン系)、SOLSPERSE24000、SOLSPERSE32000、SOLSPERSE32500、SOLSPERSE32550、SOLSPERSE32600、SOLSPERSE35100、SOLSPERSE36600、SOLSPERSE37500、SOLSPERSE39000;ビックケミー社製のDISPERBYK101、DISPERBYK109、DISPERBYK130、DISPERBYK161、DISPERBYK162、DISPERBYK163、DISPERBYK164、DISPERBYK165、DISPERBYK166、DISPERBYK167、DISPERBYK168;エフカアディティブズ社製のEFKA400、EFKA401、EFKA402、EFKA403、EFKA450、EFKA451、EFKA453(変性ポリアクリレート)、EFKA46、EFKA47、EFKA48、EFKA49、EFKA4010、EFKA4050、EFKA4055、EFKA4060(変性ポリウレタン);コグニス社製のTEXAPHOR P60、TEXAPHOR P61、TEXAPHOR P63、TEXAPHOR SF73;花王社製のデモールP、デモールEP、ポイズ520、ポイズ521、ポイズ530、ホモゲノールL−18(ポリカルボン酸型高分子界面活性剤);楠本化成社製のディスパロンKS−860、ディスパロンKS−873N4(高分子ポリエステルのアミン塩);第一工業製薬社製のディスコール202、ディスコール206、ディスコールOA−202、ディスコールOA−600(多鎖型高分子非イオン系)などが挙げられる。これらは単独でも複数混合して用いてもよい。
本実施の形態において、有機溶剤としては、例えば、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、炭化水素系溶剤、高級脂肪酸系溶剤などの従来公知の有機溶剤を使用できる。これらは、単独でも複数混合して用いてもよい。これらの中でも、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、及びアルコール系溶剤からなる群から選ばれる1種が好ましい。特に、吸湿性に劣る(ポリ)アルキレングリコール誘導体、及びメトキシブチルアセテート誘導体からなる群から選ばれる1種がより好ましい。
インク最終組成における有機溶剤の含有量は、インク全量に対し30〜99質量%が好ましく、50〜98質量%がより好ましい。特に、有機溶剤として(ポリ)アルキレングリコール誘導体、及びメトキシブチルアセテート誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いる場合、これらの有機溶剤はインク全量に対して、総量で30〜99質量%が好ましく、50〜90質量%がより好ましい。
上記の(ポリ)アルキレングリコール誘導体としては、(ポリ)アルキレングリコール、すなわち、アルキレングリコールなどの遊離の水酸基を2つ以上有する化合物;(ポリ)アルキレングリコールのモノアルキルエーテル化合物もしくはモノアルキルエステル化合物などの遊離の水酸基を1つ有する化合物;(ポリ)アルキレングリコールのモノアルキルエーテルモノアルキルエステル化合物、ジアルキルエーテル化合物、ジアルキルエステル化合物などの遊離の水酸基を持たない化合物が挙げられる。これらの中でも、遊離の水酸基を持たない化合物である、モノアルキルエーテルモノアルキルエステル化合物、ジアルキルエーテル化合物、及びジアルキルエステル化合物からなる群から選ばれる1種が好ましく、エステル基を有する化合物である、モノアルキルエーテルモノアルキルエステル化合物、及びジアルキルエステル化合物からなる群から選ばれる1種がより好ましい。
このような(ポリ)アルキレングリコールのモノアルキルエーテルモノアルキルエステル化合物、ジアルキルエーテル化合物、及びジアルキルエステル化合物としては、具体的には、例えば、エチレングリコールモノアルキルエーテルモノアルキルエステル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルモノアルキルエステル、トリエチレングリコールモノアルキルエーテルモノアルキルエステル、テトラエチレングリコールモノアルキルエーテルモノアルキルエステル、プロピレングリコールモノアルキルエーテルモノアルキルエステル、ジプロピレングリコールモノアルキルエーテルモノアルキルエステル、トリプロピレングリコールモノアルキルエーテルモノアルキルエステル、テトラプロピレングリコールモノアルキルエーテルモノアルキルエステル、エチレングリコールジアルキルエステル、ジエチレングリコールジアルキルエステル、トリエチレングリコールジアルキルエステル、プロピレングリコールジアルキルエステル、ジプロピレングリコールジアルキルエステル、トリプロピレングリコールジアルキルエステル、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ジプロピレングリコールジアルキルエーテル、トリプロピレングリコールジアルキルエーテルなどが挙げられる。これらは単独でも複数混合して使用してもよい。
メトキシブチルアセテート誘導体としては、具体的には、例えば、1−メトキシブチルアセテート、2−メトキシブチルアセテート、3−メトキシブチルアセテート、4−メトキシブチルアセテートなどが挙げられる。これらは単独でも複数混合して使用してもよい。
有機溶剤としては、上記の(ポリ)プロピレングリコール誘導体やメトキシブチルアセテート誘導体のほかに、顔料誘導体の溶解性に優れ、塩ビ製の基材を溶解させる有機溶剤を使用してもよい。このような有機溶剤を用いることにより、長期保存によって顔料誘導体が顔料から脱離しても、脱離した顔料誘導体が有機溶剤と溶媒和するため、顔料誘導体由来の析出物の生成が抑えられるとともに、塩ビ製の基材に対する顔料の定着性をより向上させることができる。このような有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤;N−アルキル−2−ピロリドンなどの含窒素複素環化合物;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ラクトン構造を有する化合物などの含酸素複素環化合物などが挙げられる。これらの中でも、含窒素複素環化合物、及びラクトン構造を有する含酸素複素環化合物からなる群から選ばれる1種が好ましい。
含窒素複素環化合物としては、具体的には、N−アルキル−2−ピロリドンのようなラクタム構造を有する含窒素複素環化合物が挙げられる。N−アルキル−2−ピロリドンとしては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリドン、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン、N−オクチル−2−ピロリドン、N−ドデシル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドンなどが挙げられる。これらの中でも、低粘度、低臭で、塩ビ製の基材の溶解性に優れており、且つ生分解性が良好で、急性毒性が低い、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、及びN−エチル−2−ピロリドンからなる群から選ばれる1種が好ましい。
ラクトン構造を有する含酸素複素環化合物としては、具体的には、例えば、2−アセチルブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−ラクトン、ε−カプロラクトンなどが挙げられる。これらは単独でも複数混合して使用してもよい。
インク最終組成における上記複素環化合物の総含有量は、インク全量に対して1〜50質量%が好ましく、5〜35質量%がより好ましく、12〜25質量%がさらに好ましい。複素環化合物の総含有量が1質量%未満では、析出物が生成しやすくなるとともに、塩ビ製の基材の溶解性が低下しやすい。一方、複素環化合物の総含有量が50質量%より多いと、塩ビ製の基材に対する溶解性の効果が飽和するとともに、インクの揮発性が不十分になり、印字した際にたれや滲みなどが生じやすい。
エステル系溶剤としては、具体的には、例えば、ラウリル酸メチル、ラウリル酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソステアリル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸ブチル、リノール酸メチル、リノール酸イソブチル、リノール酸エチル、イソステアリン酸イソプロピル、大豆油メチル、大豆油イソブチル、トール油メチル、トール油イソブチル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、モノカプリン酸プロピレングリコール、トリ2エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリ2エチルヘキサン酸グリセリルなどが挙げられる。これらは単独でも複数混合して使用してもよい。
アルコール系溶剤としては、具体的には、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、iso−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール等の低級アルコール、イソミリスチルアルコール、イソパルミチルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール等の高級アルコール、ベンジルアルコールなどが挙げられる。これらは単独でも複数混合して使用してもよい。
高級脂肪酸系溶剤としては、具体的には、例えば、イソノナン酸、イソミリスチン酸、イソパルミチン酸、オレイン酸、イソステアリン酸などが挙げられる。これらは単独でも複数混合して使用してもよい。
炭化水素系溶剤としては、具体的には、例えば、脂肪族炭化水素系溶剤、脂環式炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。市場で入手可能な脂肪族炭化水素系溶剤及び脂環式炭化水素系溶剤としては、新日本石油社製のテクリーンN−16、テクリーンN−20、テクリーンN−22、0号ソルベントL、0号ソルベントM、0号ソルベントH、AF−4、AF−5、AF−6、AF−7;新日本石油化学社製の日石アイソゾール、ナフテゾール;エクソンモービル社製のIsoparG、IsoparH、IsoparL、IsoparM、ExxolD40、ExxolD80、ExxolD100、ExxolD140、ExxolD140などが挙げられる。これらは単独でも複数混合して使用してもよい。
また、本実施の形態において、有機溶剤としては、後述する脱水処理工程において水と共沸して、混合液中の水分を効率的に除去できるよう水の蒸発速度(34.8)よりも遅い蒸発速度を有する低揮発性有機溶剤を少なくとも1種使用することが好ましい。なお、水及び有機溶剤の蒸発速度については、例えば、「塗料の流動と顔料分散」(T.C.Patton著,共立出版社発行,1971年5月1日発行)の「13.2 溶剤の蒸発性」に記載されている下記の式(1)で表される溶剤の蒸発速度指数Eにより求めることができる。
E=0.11×p×M (1)
ただし、式中、pは溶剤の20℃における蒸気圧(mmHg)、Mは溶剤の分子量である。
このような低揮発性有機溶剤としては、具体的には、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル(蒸発速度:9.9、以下同様)、エチレングリコールモノベンジルエーテル(0.3)、エチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル(0.4)、エチレングリコールジブチルエーテル(1.7)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(2.4)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(0.7)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(0.2)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(6.8)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(0.2)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(0.1)、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(1.0)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(0.2)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(0.1)、プロピレングリコールモノブチルエーテル(4.4)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(1.0)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(9.8)、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート(26.0)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(15.8)、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(5.3)、エチレングリコールモノフェニルエーテルアセテート(0.1)、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート(2.1)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(1.0)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(0.1)、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート(27.3)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(1.7)、プロピレングリコールジアセテート(4.0)などの(ポリ)アルキレングリコール誘導体;3−メトキシブチルアセテート(4.8)などのメトキシブチルアセテート誘導体;N−メチル−2−ピロリドン(8.9)、2−ピロリドン(3.3)などの含窒素複素環化合物;γ−ブチロラクトン(14.2)などのラクトン構造を有する含酸素複素環化合物;ジアセトンアルコール(21.7)などのアルコール系溶剤;ジメチルスルホキシド(3.2)などが挙げられる。これらは単独でも複数混合して使用してもよい。なお、有機溶剤は上記低揮発性有機溶剤のみを含有していてもよいし、その一部に低揮発性有機溶剤を含有していてもよい。インク最終組成における低揮発性有機溶剤の含有量は、インク全量に対し10〜99質量%が好ましく、50〜95質量%がより好ましい。
また、本実施の形態の油性顔料インクは、上記有機溶剤以外に、これと相溶して単一の連続する液相を形成可能な範囲で水溶性有機溶剤を含有してもよい。水溶性有機溶剤としては特に限定されず、従来公知のものを使用できる。ただし、水溶性有機溶剤に含まれる水分量を合わせても、インク全量に対する水分量が上記範囲となるように油性顔料インクを調製する必要があることはいうまでもない。
本実施の形態の油性顔料インクは、顔料、顔料誘導体、顔料分散剤、及び有機溶剤を含有していれば、顔料の分散安定性やインクの吐出安定性に影響せず、インクの液相に相溶する範囲で、必要により、定着性樹脂、pH調整剤、界面活性剤、表面調整剤、レベリング剤、消泡剤、酸化防止剤、電荷付与剤、殺菌剤、防腐剤、防臭剤、電荷調整剤、湿潤剤、皮はり防止剤、香料などの公知の一般的な添加剤を使用することができる。これらの中でも、定着性樹脂は、基材に対する密着性に優れ、印字物の耐久性を向上させることができるため、好ましく用いられる。なお、高分子化合物からなる顔料分散剤の中には、上記のような定着性樹脂の性質を有するものがある。
定着性樹脂としては、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、及びニトロセルロースなどが挙げられる。これらの中でも、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル系樹脂、及びニトロセルロース樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、塩化ビニル系樹脂がより好ましい。これらの樹脂は、プラスチック基材に対する定着性に優れており、樹脂中の官能基や構造などを変えることにより、耐水性、分散安定性、印字性などをコントロールすることができる。アクリル系樹脂としては、具体的には、例えば、ジョンソンポリマー社製のジョンクリル、積水化学社製のエスレックPなどが挙げられる。ポリエステル系樹脂としては、具体的には、例えば、ユニチカ社製のエリーテル、東洋紡社製のバイロンなどが挙げられる。ポリウレタン系樹脂としては、具体的には、例えば、東洋紡社製のバイロンUR、大日精化社製のNT−ハイラミック、大日本インキ化学工業社製のクリスボン、日本ポリウレタン社製のニッポランなどが挙げられる。塩化ビニル系樹脂としては、具体的には、例えば、日信化学工業社製のSOLBIN、積水化学社製のセキスイPVC−TG、セキスイPVC−HA、ダウ・ケミカル社製のUCARシリーズなどが挙げられる。ニトロセルロースとしては、具体的には、例えば、旭化成社製のHIG、LIG、SL、VX、ダイセル化学社製の工業用ニトロセルロースRS、SSなどが挙げられる。インク最終組成における定着性樹脂の含有量は、顔料100質量部に対し、5〜200質量部が好ましい。また、定着性樹脂の重量平均分子量は2,000〜100,000が好ましく、5,000〜80,000がより好ましく、10,000〜50,000が最も好ましい。重量平均分子量が2,000未満では、インク組成物中で顔料粒子に定着性樹脂が吸着した際に立体反発の効果が得られにくく、保存安定性を向上させる効果が少ない。また、媒体と顔料粒子との定着性を高める効果が得られにくく、塗膜強度が十分に得られないおそれがある。一方、重量平均分子量が100,000を超えると、効果が飽和するとともに、インクの粘度が高くなり、流動性が十分に発揮されないおそれがある。特に、安定した吐出性と定着性を両立するため、重量平均分子量が10,000〜25,000の塩化ビニル系樹脂が好ましい。このような塩化ビニル系樹脂は、有機溶剤への溶解度が高く、且つ顔料の分散安定化を促進することができる。その結果、インクの粘性抵抗の不均一な変化が抑制され、高速印刷時における吐出安定性が向上する。上記重量平均分子量を有する市場で入手可能な塩化ビニル系樹脂としては、例えば、日信化学工業社製のSOLBIN CL(重量平均分子量:25,000)、SOLBIN AL(重量平均分子量:22,000)、SOLBIN TAO(重量平均分子量:15,000)、SOLBIN MK6(重量平均分子量:13,000);ダウ・ケミカル社製のUCAR Solution Vinyl Resin VYHD(重量平均分子量:22,000)、UCAR Solution Vinyl Resin VMCC(重量平均分子量:19,000)、UCAR Solution Vinyl Resin VMCA(重量平均分子量:15,000)、UCAR Solution Vinyl Resin VERR−40(重量平均分子量:15,000)、UCAR Solution Vinyl Resin VAGD(重量平均分子量:22,000)、UCAR Solution Vinyl Resin VAGC(重量平均分子量:24,000)、UCAR Solution Vinyl Resin VROH(重量平均分子量:15,000)、UCAR Solution Vinyl Resin Ucarmag569(重量平均分子量:22,000)などが挙げられる。
本実施の形態において、混合液の調製にあたっては、従来公知の方法を使用することができる。例えば、顔料、顔料誘導体、顔料分散剤、及び有機溶剤をインク最終組成で混合して混合液を調製してもよい。また、高顔料濃度を有する油性顔料分散体を調製し、該油性顔料分散体を有機溶剤や添加剤などで希釈してインク最終組成を有する混合液を調製してもよい。特に、後者の高顔料濃度の油性顔料分散体を予め調製する方法であれば、顔料をより微細化することができるため、好ましい。
高顔料濃度の油性顔料分散体を製造する場合、顔料を微細化するために、顔料、顔料誘導体及び顔料分散剤と、少量の有機溶剤とを分散装置を用いて混合することが好ましい。このような分散装置としては、具体的には、例えば、ボールミル、遠心ミル、遊星ボールミルなどの容器駆動媒体ミル;サンドミル、ビーズミルなどの高速回転ミル;撹拌槽型ミルなどの媒体撹拌ミル;ディスパーなどが挙げられる。油性顔料分散体の顔料濃度は、特に限定されるものではないが、10〜50質量%が好ましい。
上記のようにして油性顔料分散体を調製した後、インク最終組成を有する混合液を調製するには、この油性顔料分散体に、粘度調整や塩ビ製の基材を溶解させるための有機溶剤や、定着性樹脂及びpH調整剤などの添加剤を添加し、これらを撹拌混合する。このような混合装置としては、具体的には、例えば、スリーワンモーター、マグネチックスターラー、ディスパー、ホモジナイザーなどの簡易の撹拌装置;ラインミキサーなどの混合機などが挙げられる。また、顔料をより微細化する目的で、ビーズミルや高圧噴射ミルなどの分散機を用いてもよい。さらに、混合後、顔料の粗大粒子を除去する目的で、遠心分離機、フィルタ、クロスフローなどの分級処理を行ってもよい。
次に、上記のインク最終組成を有する混合液を、70℃以下で加温して、水分量が0.3質量%以下となるように脱水処理する。これにより、長期保存によって顔料誘導体が顔料から脱離しても、インク中の水分による顔料誘導体の凝集を低減でき、顔料誘導体由来の析出物の生成を低減できる。図1は、水分量の異なる油性顔料インクを室温で6ヶ月保存した後、各油性顔料インクをインクジェットプリンタ内で5分間流動させたときのインクの吐出流量と、インク中の水分量との関係を示すグラフである。なお、空気中の水分を吸湿しないように油性顔料インクはインクタンク内と同様に密閉系で保存されていたものである。図に示すように、インク中の水分量が0.3質量%より多くなると、急激に流量が低下することが分かる。また、この流量の低下した油性顔料インクを調べたところ、顔料誘導体に由来する6〜7μmの粒子径を有する粗大粒子が含まれていることが確認された。これに対して、水分量が0.27質量%の油性顔料インクは、長期保存後でも高い流量を示し、吐出性に問題がないことが確認された。特に、水分量が0.19質量%以下の油性顔料インクは、さらに保存安定性に優れていることが分かる。また、水分量が0.19質量%以下の油性顔料インクの溶剤成分には顔料誘導体が含まれていたが、インク中に顔料誘導体に由来する析出物の生成は観察されなかったことから、脱離した顔料誘導体は有機溶剤に溶解した状態でインク中に含まれていることが確認された。このような水分量を極めて低減する脱水処理を行うことにより、長期保存によって顔料から脱離した顔料誘導体に由来する析出物の低減を検討した例は見当たらない。
本実施の形態においては、混合液を脱水処理して、水分量が0.3質量%以下の油性顔料インクを製造するために、混合液を70℃以下で加温する。このように混合液を加温することにより、有機溶剤と水とが共沸し、水分量を効率的に低減することができる。加温温度が70℃より高いと、水分量は短時間で低減されるが、脱水処理工程において顔料誘導体が顔料から脱離しやすくなり、顔料が凝集しやすくなる。一方、加温温度は70℃以下であれば、顔料からの顔料誘導体の脱離を低減できるが、加温温度が30℃未満である場合、水の蒸発が進まず、脱水処理に長時間を必要とし、生産効率が低下する。このため、生産効率を考慮すれば、加温温度は30℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましい。処理時間は、使用する有機溶剤の種類によって異なるが、5分間〜2時間が好ましく、30分間〜1時間がより好ましい。また、大気中から水分の吸湿を抑えるため、乾燥雰囲気下で脱水処理してもよい。なお、インク最終組成を大きく変化させることなく、水分量を効率的に低減するために、既述した水の蒸発速度よりも遅い蒸発速度を有する低揮発性有機溶剤を含有する有機溶剤を用いることが好ましい。
このような水分量を低減した油性顔料インクであれば、長期保存により顔料誘導体が顔料から脱離しても、その脱離した顔料誘導体はインク中で有機溶剤と溶媒和できるため、顔料誘導体の凝集による析出物の生成が抑えられ、保存安定性に優れた油性顔料インクを得ることができる。特に、顔料に吸着していない遊離の顔料誘導体が有機溶剤に溶解しているか、あるいは遊離の顔料誘導体が60nm以下、好ましくは40nm以下の粒子径を有する状態でインク中に分散されていれば、実用上問題のない印刷品質を確保することができる。
上記のようにして得られる本実施の形態の油性顔料インクは、製造直後、長期保存後いずれでも、顔料(固体相)が単一の連続する液相に分散されているだけでなく、顔料誘導体に由来する析出物も少なく、吐出性に優れている。なお、油性顔料インクの液相中で顔料誘導体が溶解または良好に分散していることを確認する方法としては、粒度分布計を用いて粒度分布や粗大粒子の有無を確認する方法;グラスファイバー製のろ紙やメンブランフィルターを用いたろ過試験により、インクが通過する速度や残留物の有無を確認する方法;インクジェットプリンタを用いて、連続印刷試験を行い吐出安定性を確認する方法などが挙げられる。
本実施の形態の油性顔料インクは、長期保存後でも吐出性に優れているため、いわゆる業務用のインクジェットプリンタに好適に用いることができる。このようなインクジェットプリンタにおいて安定した吐出性を得るためには、油性顔料インクは、25℃において1〜30mPa・sの粘度を有することが好ましい。粘度が30mPa・sより高いと、流動性が低下する傾向がある。一方、粘度が1mPa・sより低いと、インクの構成成分となる組成バランスが不適切となり、定着性、耐水性、耐候性などの特性が低下する傾向がある。なお、粘度調整は、有機溶剤やその他の成分の種類や量を適宜選択することによって行うことができる。
また、油性顔料インクは、25℃で20〜35mN/mの表面張力を有することが好ましい。さらに、油性顔料インク中の顔料粒子の分散平均粒子径は30〜200nmが好ましく、50〜160nmがより好ましい。そして、ヘッドノズルでの目詰まりなどを避けるため、顔料粒子の最大分散粒子径は1,000nm以下が好ましい。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下において、「部」とあるのは、「質量部」を、「%」とあるのは、「質量%」を意味する。
[実施例1]
(混合液調製工程)
下記の表1に示す組成を有する成分を、直径0.3mmのジルコニアビーズを用いて、ペイントコンディショナー(東洋精機(株)社製)により2時間分散した後、これを遠心分離機により14,000Gの条件にて30分間分級処理を行って油性顔料分散体(A)を調製した。
Figure 0005896588
上記のようにして調製した油性顔料分散体(A)8.0部と、下記の表2に示す組成を有する希釈成分とをビーカに投入し、これをマグネチックスターラーで撹拌してインク最終組成を有する混合液(a)を調製した。
Figure 0005896588
(脱水処理工程)
次に、温調機を用いて、混合液(a)を常圧下、50℃に加温し、マグネチックスターラーで混合液を撹拌しながら60分間脱水処理を行った。脱水処理後、グラスファイバー製のろ紙GFP(桐山製作所社製,捕捉粒子:0.8μm)を用いてインクを吸引ろ過し、シアン色の油性顔料インク(I)を調製した。
[実施例2]
(混合液調製工程)
下記の表3に示す組成を有する成分を、直径0.3mmのジルコニアビーズを用いて、ペイントコンディショナー(東洋精機(株)社製)により2時間分散した後、これを遠心分離機により14,000Gの条件にて30分間分級処理を行って油性顔料分散体(B)を調製した。
Figure 0005896588
上記のようにして調製した油性顔料分散体(B)12.0部と、下記の表4に示す組成を有する希釈成分とをビーカに投入し、これをマグネチックスターラーで撹拌してインク最終組成を有する混合液(b)を調製した。
Figure 0005896588
(脱水処理工程)
次に、温調機を用いて、混合液(b)を常圧下、50℃に加温し、マグネチックスターラーで混合液を撹拌しながら60分間脱水処理を行った。脱水処理後、グラスファイバー製のろ紙GFP(桐山製作所社製,捕捉粒子:0.8μm)を用いてインクを吸引ろ過し、ブラック色の油性顔料インク(II)を調製した。
[実施例3]
(混合液調製工程)
下記の表5に示す組成を有する成分を、直径0.3mmのジルコニアビーズを用いて、ペイントコンディショナー(東洋精機(株)社製)により2時間分散した後、これを遠心分離機により14,000Gの条件にて30分間分級処理を行って油性顔料分散体(C)を調製した。
Figure 0005896588
上記のようにして調製した油性顔料分散体(C)22.5部と、下記の表6に示す組成を有する希釈成分とをビーカに投入し、これをマグネチックスターラーで撹拌してインク最終組成を有する混合液(c)を調製した。
Figure 0005896588
(脱水処理工程)
次に、温調機を用いて、混合液(c)を常圧下、50℃に加温し、マグネチックスターラーで混合液を撹拌しながら60分間脱水処理を行った。脱水処理後、グラスファイバー製のろ紙GFP(桐山製作所社製,捕捉粒子:0.8μm)を用いてインクを吸引ろ過し、マゼンダ色の油性顔料インク(III)を調製した。
[実施例4]
実施例1の混合液調製工程において、希釈成分中のγ−ブチロラクトンをN−メチル−2−ピロリドン(蒸発速度:8.9)に変更した以外は実施例1と同様にしてシアン色の油性顔料インク(IV)を作製した。
[実施例5]
実施例1の脱水処理工程において、混合液(a)を70℃に加温した以外は、実施例1と同様にしてシアン色の油性顔料インク(V)を作製した。
[実施例6]
実施例1の脱水処理工程において、混合液(a)を45℃に加温した以外は、実施例1と同様にしてシアン色の油性顔料インク(VI)を作製した。
[実施例7]
実施例1の脱水処理工程において、混合液(a)を40℃に加温した以外は、実施例1と同様にしてシアン色の油性顔料インク(VII)を作製した。
[実施例8]
実施例1の混合液調製工程において、希釈成分中のプロピレングリコールジアセテートを、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(蒸発速度:1.7)に変更した以外は実施例1と同様にしてシアン色の油性顔料インク(VIII)を作製した。
[実施例9]
実施例1の混合液調製工程において、希釈成分中のプロピレングリコールジアセテート40.2部を、プロピレングリコールジアセテート20.1部及びエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(蒸発速度:5.3)20.1部に変更した以外は実施例1と同様にしてシアン色の油性顔料インク(IX)を作製した。
[比較例1]
実施例1の脱水処理工程において、混合液(a)を25℃で60分間脱水処理した以外は、実施例1と同様にしてシアン色の油性顔料インク(X)を作製した。
[比較例2]
実施例3の脱水処理工程において、混合液(c)25℃で60分間脱水処理した以外は、実施例3と同様にしてマゼンダ色の油性顔料インク(XI)を作製した。
[比較例3]
実施例1の脱水処理工程において、混合液(a)を80℃で60分間脱水処理した以外は、実施例1と同様にしてシアン色の油性顔料インク(XII)を作製した。
以上のようにして作製した各油性顔料インクについて、以下の評価を行った。表7及び8は、これらの結果を示す。
<水分量>
油性顔料インク中の水分量をカールフィッシャー法の容量滴定法(京都電子工業社製,ADP−351)により測定した。
<保存安定性>
油性顔料インクを蓋付きビンに密封し、60℃の恒温槽に30日間放置する加速試験を行なった測定試料を作製した。この測定試料を遠心分離して得られた溶剤成分を粒度分布計により測定し、成分中の平均粒子径を測定した。また、グラスファイバー製のろ紙GFP(桐山製作所社製,捕捉粒子:0.8μm)を用いて保存後のインクを吸引ろ過し、ろ紙上の残留物の状態を目視により観察し、以下の基準により保存安定性を評価した。
◎:残留物なし
○:わずかに残留物あり
△:残留物あり
×:多量の残留物あり
<プリンタ運転性>
インクジェットプリンタMJ510C(セイコーエプソン社製)を用いて、製造直後のインクの吐出性を確認するため、インクタンクに油性顔料インクを充填し連続印刷試験を行った。次に、保存後のインクの吐出性を確認するため、インクタンクに上記の保存安定性の評価で作製した測定試料の油性顔料インクを充填して、同様にして連続印刷試験を行った。各試験における連続印刷中のインクの吐出状態を確認し、以下の基準によりプリンタ運転性を評価した。
◎:吐出不良が全くなく、極めて安定した吐出状態である
○:わずかにサテライト滴が発生するが、安定した吐出状態である
△:サテライト滴が発生し、やや不安定な状態である
×:印字抜けやサテライト滴が多発し、不安定な状態である
<定着性>
油性顔料インクを、温度25℃、湿度30%の恒温室内で、No.6ワイヤーバー(東洋精機(株)社製)を用いて、光沢塩ビ(リンテック社製,P−224RW)の基材上に塗布し、1時間常温で乾燥させた測定試料を作製した。得られた測定試料の印字膜を指で擦るスクラブ試験を30秒間行ない、以下の基準により定着性を評価した。
◎:スクラブ痕が全く発生しない
○:スクラブ痕がわずかに発生するが、実用上の問題なし
△:スクラブ痕が発生する
×:スクラブ痕が発生し、基材が観察される
Figure 0005896588
Figure 0005896588
上記表に示すように、本実施例のインク最終組成を有する混合液を70℃以下で加温し、水分量が0.25質量%以下となるように脱水処理して製造された油性顔料インクは、保存後でも析出物の発生が少なく、優れた吐出性を有していることが分かる。また、顔料の種類や有機溶剤を代えても、同様に保存安定性に優れる油性顔料インクを製造できることが分かる。特に、同一の有機溶剤を用いた系では、水分量が0.20質量%以下の油性顔料インクは、保存後でも、より良好な印刷を行なえることが分かる。さらに、有機溶剤としてγ−ラクトンやN−メチルピロリドンを含有する油性顔料インクは、同一の水分量であっても、他の有機溶剤を含有する油性顔料インクよりも保存安定性に優れることが分かる。これは、これらの有機溶剤が顔料誘導体の溶解性に優れており、長期保存によって顔料誘導体が脱離しても、脱離した顔料誘導体がこれらの有機溶剤と溶媒和しやすいためと考えられる。特に、有機溶剤としてN−メチルピロリドンを含有する場合、凝集しやすい銅フタロシアニン系顔料誘導体を用いても、長期保存後に溶解状態で顔料誘導体を含有する油性顔料インクを得ることができる。
これに対して、極めて微量であるが水分量が0.3質量%より多い油性顔料インクは、保存によって析出物が多量に発生し、保存安定性に劣ることが分かる。また、脱水処理により水分量が0.3質量%以下の油性顔料インクとしても、脱水処理における温度が高すぎる場合、製造直後から吐出性に劣ることが分かる。これは、この製造直後のインクを調べたところ、顔料由来の析出物が観察されたことから、インクの製造時に混合液が高温に晒されたことにより、顔料誘導体が顔料から脱離し、顔料自体の凝集が生じたためと考えられる。

Claims (3)

  1. 顔料、顔料分子または染料分子を母核とし、前記母核に官能基が導入された顔料誘導体、顔料分散剤、及び有機溶剤を含有し、インク最終組成を有する混合液を調製し、
    前記混合液を、70℃以下で加温して、水分量が0.27質量%以下となるように脱水処理する、油性顔料インクの製造方法。
  2. 前記有機溶剤は、水の蒸発速度よりも遅い蒸発速度を有する低揮発性有機溶剤を含有する請求項1に記載の油性顔料インクの製造方法。
  3. 前記有機溶剤は、複素環化合物を含有する請求項1または2に記載の油性顔料インクの製造方法。
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