JP6897727B2 - 非水系インクジェットインク組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、非水系インクジェットインク組成物に関する。
記録ヘッドのノズル孔からインクの微小な液滴を吐出させ記録媒体に付着させて、画像や文字を記録するインクジェット記録装置が知られている。また、かかる記録に用いるインクとして、例えば色材、界面活性剤、水、有機溶剤等の種々の成分を含むインクジェット用インク組成物が知られている。また、インクジェット用インク組成物においては実質的に水を含まない非水系インクジェットインク組成物の開発も行われている。
このような、非水系インク組成物は、塩化ビニル系の記録媒体への適応性が良好であり、例えば屋外の看板等のいわゆるサイン用途の記録に用いられることが多い。しかしながら、非水系インクジェットインク組成物を、サイン用途に使用する場合には、記録物の耐候性が不十分となる場合があった。すなわち、サイン用途の記録物は、雨や日光等にさらされる屋外環境で使用されることが多く、屋内での使用よりも高い耐候性が求められている。
一方、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの各色インクに加えてオレンジインク(特色インク)を備えることで、ガマットの広い色再現が可能であるが、オレンジインクの顔料の耐候性が他のインクと比べて劣ることが分かってきた。そこで、オレンジインクの耐候性を向上させる観点から、比較的耐候性に優れているC.I.ピグメントオレンジ43(以下、単に「PO43」ともいう。)をオレンジインクの顔料として含有する水系インク組成物や非水系インク組成物、インクセットが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
特開2009−173853号公報 特開2004−70048号公報 特開2011−89043号公報
しかしながら、PO43を含有する非水系インク組成物を長期保管しておくと、インク中に異物が発生することが明らかとなった。インク中に異物が発生すると、インクジェットプリンターのインクを吐出するノズルが目詰まりし、ノズル抜けが発生するなどの不具合が起こり得る。
そこで、本発明に係る幾つかの態様は、上記の課題の少なくとも一部を解決することで、耐候性及び印刷画質に優れた画像を形成できると共に、インクの異物発生を抑制して、長期保存安定性に優れる非水系インクジェットインク組成物を提供するものである。
また、本発明に係る幾つかの態様は、これらに加えて、さらに耐擦性に優れた画像を形成できる非水系インクジェットインク組成物を提供するものである。
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の
態様又は適用例として実現することができる。
[適用例1]
本発明に係る非水系インクジェットインク組成物の一態様は、
顔料としてC.I.ピグメントオレンジ43と、
溶剤として下記一般式(1)で表される化合物の1種以上と、
を含み、
インク組成物中に含まれる水の含有量が0.1質量%以上2質量%以下であることを特徴とする。
O−(RO)−R ・・・・・(1)
(一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表す。ただし、R及びRの少なくとも何れかは、炭素数1以上4以下のアルキル基である。Rは、炭素数2又は3のアルキレン基を表す。mは2〜3の整数を表す。)
適用例1の非水系インクジェットインク組成物によれば、耐候性及び印刷画質に優れた画像を形成できると共に、インクの異物発生が抑制され、長期保存安定性にも優れたものとなる。
[適用例2]
適用例1の非水系インクジェットインク組成物において、
インク組成物中に含まれる前記顔料の含有量が、1質量%以上6質量%以下であることができる。
[適用例3]
適用例1または適用例2の非水系インクジェットインク組成物において、
インク組成物中に含まれる前記一般式(1)で表される化合物の合計含有量が、10質量%以上90質量%以下であることができる。
[適用例4]
適用例1ないし適用例3のいずれか一例の非水系インクジェットインク組成物において、
前記一般式(1)で表される化合物のうち引火点が70℃以下の化合物を含み、インク組成物中に含まれる当該化合物の合計含有量が50質量%以上であることができる。
[適用例5]
適用例1ないし適用例4のいずれか一例の非水系インクジェットインク組成物において、
前記溶剤として環状エステルの1種以上をさらに含み、インク組成物中に含まれる当該環状エステルの合計含有量が5質量%以上40質量%以下であることができる。
[適用例6]
適用例1ないし適用例5のいずれか一例の非水系インクジェットインク組成物において、
さらに、塩化ビニル樹脂を含むことができる。
[適用例7]
適用例1ないし適用例6のいずれか一例の非水系インクジェットインク組成物において、
前記水の含有量が、0.1質量%以上1質量%以下であることができる。
以下に本発明の好適な実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の一例を説明するものである。本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。なお、以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
1.非水系インクジェットインク組成物
本実施形態に係る非水系インクジェットインク組成物は、溶剤と、顔料と、を含み、インク組成物中に含まれる水の含有量が0.1質量%以上2質量%以下であることを特徴とする。本実施形態に係る非水系インクジェットインク組成物は、揮発性の溶剤(主に有機溶剤)を主成分とし、記録媒体上に付着させた後、加熱あるいは常温により溶剤を乾燥させて固形分を定着させて記録を行うインクである。したがって、放射線(光)を照射して硬化させる光硬化型インクとは異なるインクである。
本発明における「非水系」インクジェットインク組成物とは、インク組成物を製造する際に水を意図的に添加しないという程度の意味であり、インク組成物を製造中または保管中に不可避的に混入する水分を含んでいても構わない。
以下、本実施形態に係る非水系インクジェットインク組成物に含まれる各成分について説明する。
1.1.溶剤
本実施形態に係る非水系インクジェットインク組成物は、溶剤として下記一般式(1)で表される化合物を1種以上含む。
1.1.1.一般式(1)で表される化合物
O−(RO)−R ・・・・・(1)
(一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表す。ただし、R及びRの少なくとも何れかは、炭素数1以上4以下のアルキル基である。Rは、炭素数2又は3のアルキレン基を表す。mは2〜3の整数を表す。)
ここで、炭素数1以上4以下のアルキル基としては、直鎖状または分岐状のアルキル基であることができ、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。また、炭素数2又は3のアルキレン基としては、エチレン基(ジメチレン)、プロピレン基(トリメチレン又はメチルエチレン)が挙げられる。上記一般式(1)で表される化合物は、1種単独で含有されてもよいし、2種以上含有されてもよい。
上記一般式(1)で表される化合物の具体例としては、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(105℃)(「DEGmME」と略記することがある。)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(139℃)、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル(101℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(120℃)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(156℃)、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(112℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(76.5℃)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(123℃)、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(108℃)、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル(117℃)、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル(138℃)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(56℃)(「DEGdME」と略記することがある。)、トリエチレン
グリコールジメチルエーテル(113℃)(「TriEGdME」と略記することがある。)、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル(64℃)(「DEGMEE」と略記することがある。)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(70.8℃)(「DEGDEE」と略記することがある。)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(122℃)(「DEGdBE」と略記することがある。)、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル(94℃)(「DEGBME」と略記することがある。)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(65℃)、トリプロピレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。なお、上記例示における括弧内の数値は、引火点を示す。
上記の引火点は、タグ密閉式引火点試験器による引火点が80℃以下では無い場合はクリーブランド開放式引火点試験器による引火点とし、タグ密閉式引火点試験器による引火点が80℃以下の場合は、当該引火点における溶剤の動粘度が10cSt未満の場合はタグ密閉式引火点試験器による引火点とし、当該引火点における溶剤の動粘度が10cSt以上の場合はセタ密閉式引火点試験器による引火点とする。
非水系インクジェットインク組成物の記録媒体上での乾燥性と印刷画質を両立させる観点から、これらの化合物のうち引火点が75℃以下の化合物を含むことが好ましく、より好ましくは70℃以下、さらに好ましくは50℃以上70℃以下、特に好ましくは55℃以上68℃以下の化合物を含むことが好ましい。また、非水系インクジェットインク組成物の全質量に対する当該化合物(上記一般式(1)で表される化合物のうち引火点が75℃以下の化合物)の含有量(複数種を使用する場合にはその合計量)は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、特に好ましくは65質量%以上である。また、中でも、上記の化合物のうち引火点が70℃以下の化合物の含有量(複数種を使用する場合にはその合計量)は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、特に好ましくは65質量%以上である。インク組成物中に含まれる当該化合物の含有量が前記範囲内にあると、非水系インクジェットインク組成物の乾燥性を高めることができ、形成される画像における濡れ広がりや凝集ムラ(顔料の凝集等)を抑制すると共に、光沢性を向上させることができる。また、他の溶剤に比べて、非水系インクジェットインク組成物の保存安定性が良好となる傾向がある。この理由としては、上記一般式(1)で表される化合物のうち引火点が75℃以下の化合物はインク長期保管中の水分上昇を抑制できるためと推測している。
上記一般式(1)で表される化合物の、非水系インクジェットインク組成物の全質量に対する含有量(複数種を使用する場合にはその合計量)は、好ましくは10質量%以上90質量%以下であり、より好ましくは20質量%以上80質量%以下、さらに好ましくは30質量%以上75質量%以下、特に好ましくは40質量%以上70質量%以下である。
1.1.2.環状エステル
本実施形態に係る非水系インクジェットインク組成物は、環状エステル(環状ラクトン)を含有することが好ましい。非水系インクジェットインク組成物は、環状エステルが含有されることにより、記録媒体の記録面(例えば塩化ビニル系樹脂を含む記録面)の一部を溶解して記録媒体の内部に非水系インクジェットインク組成物を浸透させることができる。このように記録媒体の内部にインクが浸透することで、記録媒体上に記録した画像の耐擦性(摩擦堅牢性)を向上させることができる。換言すると、環状エステルは、塩化ビニル系樹脂との親和性が高いため、非水系インクジェットインク組成物の成分を記録面に浸潤させやすい(食い付かせやすい)。環状エステルがこのような作用を有する結果、これを配合した非水系インクジェットインク組成物が、屋外環境等の厳しい条件下であっても、耐擦性に優れた画像を形成できるものと考えられる。
環状エステルとは、ヒドロキシル基とカルボキシル基とを有する1つの分子において、
当該分子内で、該ヒドロキシル基と該カルボキシル基とが脱水縮合した構造を有する化合物である。環状エステルは、炭素原子を2個以上、酸素原子を1個含む複素環を有し、当該複素環を形成する酸素原子に隣接してカルボニル基が配置された構造を有し、ラクトンと総称される化合物である。
環状エステルのうち、単純な構造を有するものとしては、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、σ−バレロラクトン、及びε−カプロラクトン等を例示することができる。なお、環状エステルの複素環の環員数には特に制限がなく、さらに、例えば複素環の環員には任意の側鎖が結合していてもよい。環状エステルは、1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
本実施形態に係る非水系インクジェットインク組成物によって形成される画像の耐擦性をより高める観点からは、上記例示した環状エステルのうち、3員環以上7員環以下の環状エステルが好ましく、5員環または6員環の環状エステルを用いることがより好ましく、いずれの場合でも側鎖を有さないことがより好ましい。このような環状エステルの具体例としては、γ−ブチロラクトン、σ−バレロラクトンが挙げられる。また、このような環状エステルは、特にポリ塩化ビニルとの親和性が高いので、ポリ塩化ビニルが含有される記録媒体に付着された場合に、耐擦性を高める効果を極めて顕著に得ることができる。
環状エステルを配合する場合における、非水系インクジェットインク組成物の全質量に対する含有量(複数種を使用する場合にはその合計量)は、好ましくは5質量%以上40質量%以下、より好ましくは10質量%以上30質量%以下である。
1.1.3.その他の溶剤
本実施形態に係る非水系インクジェットインク組成物は、溶剤として、上記一般式(1)で表される化合物や環状エステルの他に、以下のような化合物を用いることができる。
そのような溶剤としては、例えばアルコール類(メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、フッ化アルコール等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等)、カルボン酸エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等)、エーテル類(ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等)、多価アルコール類(エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等)等が挙げられる。
また、溶剤として、(多価)アルコール類を含有してもよい。(多価)アルコール類としては、グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールや、2−メチルペンタン−2,4−ジオール等が挙げられる。
非水系インクジェットインク組成物に、(多価)アルコール類を含有させる場合の合計の含有量は、記録媒体上での濡れ拡がり性及び浸透性を向上させて濃淡むらを低減させる効果や、保存安定性及び吐出信頼性を確保する観点から、非水系インクジェットインク組
成物の全質量に対して、0.05質量%以上30質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上30質量%以下であることがさらに好ましい。(多価)アルコール類の含有量が上記範囲内にあることで、インクの濡れ性、浸透性、乾燥性が良好となり、良好な印刷濃度(発色性)を備えた画像が得られる場合がある。また、(多価)アルコール類の含有量が上記範囲内にあることで、インクの粘度を適正にすることができ、ノズルの目詰まり等の発生を低減できる場合がある。
また、非水系インクジェットインク組成物にはアミン類を配合してもよく、例えば、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリブタノールアミン、N,N−ジメチル−2−アミノエタノール、N,N−ジエチル−2−アミノエタノール等のヒドロキシルアミンが挙げられ、1種または複数種を用いることができる。アミン類を含有させる場合の合計の含有量は、非水系インクジェットインク組成物の全質量に対して、0.05質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上3質量%以下であることがさらに好ましい。
また、溶剤として、ラウリン酸メチル、ヘキサデカン酸イソプロピル(パルミチン酸イソプロピル)、ミリスチン酸イソプロピル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル等の高級脂肪酸エステル、炭素数2〜8の脂肪族炭化水素のジカルボン酸(炭素数はカルボキシル基の炭素を除く)を炭素数1〜5のアルキル基でジエステル化した二塩基酸ジエステル、並びに、炭素数6〜10の脂肪族炭化水素のモノカルボン酸(炭素数はカルボキシル基の炭素を除く)をアミド化した(アミド窒素原子を置換している置換基がそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜4のアルキル基である)アルキルアミド(N,N−ジメチルデカンアミド等)等が挙げられる。
ここで例示したその他の溶剤は、一種又は複数種を、非水系インクジェットインク組成物に対して、適宜の配合量で添加することができる。
1.2.顔料
本実施形態に係る非水系インクジェットインク組成物は、顔料として、C.I.ピグメントオレンジ43(PO43)を含む。
PO43は、CAS登録番号4424−06−0の顔料であり、化学名は、ビスベンゾイミダゾ[2,1−b:2’,1’−i]ベンゾ[lmn][3,8]フェナントロリン−8,17−ジオン、又は、1,8−(1H−ベンゾイミダゾール−2,1−ジイルカルボニル)−5,4−(1H−ベンゾイミダゾール−2,1−ジイルカルボニル)ナフタレンである。PO43は、ペノリン構造を有し、一般名として「ペノリンオレンジ」が与えられている。PO43の色相としては、鮮やかな赤味のオレンジである。なお、「C.I.」は、カラーインデックスの略である。
PO43は、市販品を利用することもでき、例えば、Clariant社の「Hostaperm Orange」、「PV Gast Orange GRL」、DIC株式会社製「Fasogen Super Orange 6200」、東洋インキ株式会社製「Lionogen Orange GR−F」等として入手することができる。
PO43をインクに添加する場合には、顔料分散体を調製してからそれをインクに添加することが望ましい。顔料分散体の製造方法は、特に制限はなく、例えばPO43、媒体、その他の任意成分を投入し、高速ディスパー等で分散する方法等が挙げられる。さらに、必要に応じて、ビーズミルやロールミル等で分散してもよい。そして、最終的に得られた顔料分散体に含まれ得る一定以上の大きさの粒子を除去するため、フィルターろ過や遠心分離を行う。また、フィルターろ過を行う際は、必要に応じて、顔料分散体に含まれる
粒子の粒子径を所定の粒子径となるように調整するようにフィルターの孔径(メッシュの大きさ)を適宜選択してもよい。もっとも、フィルターろ過は、顔料分散体の調製段階で行ってもよいが、インクを調製する段階で行ってもよいし、顔料分散体及びインクの調製時のそれぞれの段階で行ってもよい。
本実施形態に係る非水系インクジェットインク組成物に含有されるPO43の体積平均粒子径は、好ましくは100nm以上400nm以下であり、より好ましくは150nm以上300nm以下である。ここで顔料の体積平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により評価することができる。具体的には、インク化した検体(顔料)を、DEGdEE(ジエチレングリコールジエチルエーテル)にて1000ppm以下となるように希釈し、これをレーザー回折・散乱測定装置(例えば、マイクロトラックUPA250(日機装株式会社製))を用いて20℃の環境下で、メディアン径D50の値を読み取ることにより測定することができる。したがって、異なる体積平均粒子径を有するPO43を混合して使用する場合においても、それぞれの体積平均粒子径及び混合物の体積平均粒子径を測定することもできる。
体積平均粒子径の異なるPO43を混合して使用する場合においても、各PO43の好ましい体積平均粒子径は、100nm以上400nm以下であり、下限はより好ましくは150nm以上であり、上限はより好ましくは350nm以下であり、さらに好ましくは300nm以下である。
本実施形態に係る非水系インクジェットインク組成物は、顔料として、体積平均粒子径が100nm以上400nm以下であるC.I.ピグメントオレンジ43(PO43)を含むことにより、耐候性、印字安定性、耐擦性を含む総合的な性能のバランスを良好にすることができる。
PO43の体積平均粒子径は、市販のものが上記範囲にあればそのまま使用することができるが、以下のようにして体積平均粒子径を調節することができる。すなわち、溶剤(一部又は全部)を混合した後、ボールミル、ビーズミル、超音波破砕及び/又はジェットミル等で、かかる混合物(顔料分散溶剤)を適宜に処理することにより、粒子径の分布や体積平均粒子径を調節することができる。
また、PO43の体積平均粒子径の調節方法としては、一次粒径として小さい顔料を用意して、これを溶剤(一部又は全部)に混合する際に、分散剤(後述)の添加量を変えて分散を行うことを採用できる。すなわち、分散剤を十分添加すれば一次粒子同士の凝集が防げられて一次粒子とあまり変わらない粒径で分散でき小さい一次粒子径に基づく体積平均粒子径とすることができ、逆に分散剤の添加量を少なくすることにより、一次粒子を凝集させて二次粒子の粒径に基づく体積平均粒子径とすることができる。なお、この場合には、出発する顔料の一次粒子径は、より小さいものを用いると体積平均粒子径の調節の自由度が高まるためより好ましい。さらに、体積平均粒子径の調節の自由度を高めたい場合には、入手した顔料を一旦上記のようにボールミル等によって粉砕し、より小さなものにしてから、分散剤による平均粒子径の調節を行ってもよい。
本実施形態に係る非水系インクジェットインク組成物の全質量に対する、PO43の含有量は、好ましくは1質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上8質量%以下、さらに好ましくは1質量%以上6質量%以下、特に好ましくは1質量%以上5質量%以下である。PO43の含有量が上記範囲にあることで、発色性に優れた特色のオレンジインクが得られる。また、このインクによって形成された画像は、耐候性が良好となる。
一方、本実施形態に係る非水系インクジェットインク組成物は、上述のPO43以外の色材をさらに含有してもよい。そのような色材としては、PO43と類似する色相の顔料及び染料が挙げられ、例えば、カラーインデックス番号で、C.I.ピグメントオレンジの番号が与えられている顔料や、C.I.ピグメントレッドの番号が与えられているものなどが挙げられる。
1.3.水
本実施形態に係る非水系インクジェットインク組成物は、水を0.1質量%以上2質量%以下含有する。本実施形態に係る非水系インクジェットインク組成物を製造する際、溶剤に微量な水分が含まれており、又は製造中に溶剤が大気中の水分を吸湿することにより、非水系インクジェットインク組成物には約3質量%程度の水が混入してしまうことが多い。そのため、本実施形態に係る非水系インクジェットインク組成物の水の含有量を0.1質量%以上2質量%以下とするためには、使用する各溶剤を脱水剤により脱水する工程を得たものを用いるか、又は得られた非水系インクジェットインク組成物に回収可能な脱水剤を添加して水分量を調整する必要がある。
PO43の化学名は、ビスベンゾイミダゾ[2,1−b:2’,1’−i]ベンゾ[lmn][3,8]フェナントロリン−8,17−ジオン、又は、1,8−(1H−ベンゾイミダゾール−2,1−ジイルカルボニル)−5,4−(1H−ベンゾイミダゾール−2,1−ジイルカルボニル)ナフタレンである。PO43の化学構造式は、下記式(2)に示す通りである。下記式(2)に示すように、PO43は親水基を有さない化学構造であるため、水の影響を受けやすい。そのため、非水系インクジェットインク組成物中に水が2質量%を超えて含まれてしまうと、PO43の分散系が破壊されてPO43同士が凝集して、粒径増大や粘度上昇が起こりやすくなると推測される。その結果、インクジェットプリンターのインクを吐出するノズルが目詰まりし、ノズル抜けが発生するなどの不具合が起こり得る。一方、非水系インクジェットインク組成物中の水の含有量を0.1質量%未満とするためには、脱水工程にかなりの時間を要するだけでなく、大気中の水分の影響により現実的に製造することが難しい。
Figure 0006897727
本実施形態に係る非水系インクジェットインク組成物の水の含有量は、PO43同士の凝集を効果的に抑制する観点から、好ましくは0.1質量%以上1質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上0.7質量%以下である。
本実施形態に係る非水系インクジェットインク組成物の水の含有量は、製造された非水系インクジェットインク組成物をカールフィッシャー水分計で定量することにより測定することできる。このような装置としては、例えば平沼産業株式会社製の微量水分測定装置「AQ−2200」、京都電子工業株式会社製のカールフィッシャー水分計「MKV−710S」等を使用することができる。
1.4.その他の成分
本実施形態に係る非水系インクジェットインク組成物は、さらに塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、界面活性剤、分散剤等、以下に説明する成分を含んでもよい。
1.4.1.塩化ビニル系樹脂
本実施形態に係る非水系インクジェットインク組成物に使用し得る塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニル及び酢酸ビニルに由来する構成単位を含む共重合体(以下、「塩酢ビ共重合体」ともいう。)が挙げられる。塩酢ビ共重合体は、前記一般式(1)で表される化合物に溶解させることができる。その結果、前記一般式(1)で表される化合物に溶解した塩酢ビ共重合体により、塩化ビニル系樹脂を含有する記録媒体の表面にインクを強固に定着させることができる。
塩酢ビ共重合体は、常法によって得ることができ、例えば、懸濁重合によって得ることができる。具体的には、重合器内に水と分散剤と重合開始剤を仕込み、脱気した後、塩化ビニル及び酢酸ビニルを圧入し懸濁重合を行うか、塩化ビニルの一部と酢酸ビニルを圧入して反応をスタートさせ、残りの塩化ビニルを反応中に圧入しながら懸濁重合を行うことができる。
塩酢ビ共重合体は、その構成として、塩化ビニル単位を70〜90質量%含有することが好ましい。上記の範囲であれば、インクジェットインク組成物中に安定して溶解するため長期の保存安定性に優れる。さらには、吐出安定性に優れ、記録媒体に対して優れた定着性を得ることができる。
また、塩酢ビ共重合体は、塩化ビニル単位及び酢酸ビニル単位とともに必要に応じて、その他の構成単位を備えていても良く、例えば、カルボン酸単位、ビニルアルコール単位、ヒドロキシアルキルアクリレート単位が挙げられ、とりわけビニルアルコール単位が好ましく挙げられる。前述の各単位に対応する単量体を用いることで得ることができる。カルボン酸単位を与える単量体の具体例としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸が挙げられる。ヒドロキシアルキルアクリレート単位を与える単量体の具体例としては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルビニルエーテルなどが挙げられる。これらの単量体の含有量は本発明の効果を損なわない限り限定されないが、例えば単量体全量の15質量%以下の範囲で共重合させることができる。
また、塩酢ビ共重合体は市販されているものを用いてもよく、例えば、ソルバインCN、ソルバインCNL、ソルバインC5R、ソルバインTA5R、ソルバインCL(以上、日信化学工業社製)などが挙げられる。
塩化ビニル系樹脂の平均重合度は、特に限定されないが、好ましくは150〜1100、より好ましくは200〜750である。塩化ビニル系樹脂の平均重合度が上記の範囲である場合、本実施形態に係る非水系インクジェットインク組成物中に安定して溶解するため、長期の保存安定性に優れる。さらには、吐出安定性に優れ、記録媒体に対して優れた定着性を得ることができる。なお、塩化ビニル系樹脂の平均重合度は、比粘度を測定し、これから算出されるものであり、「JIS K6720−2」に記載の平均重合度算出方法に準じて求めることができる。
また、塩化ビニル系樹脂の数平均分子量は、特に限定されないが、好ましくは10000〜50000、より好ましくは12000〜42000である。なお、数平均分子量は、GPCによって測定することが可能であり、ポリスチレン換算とした相対値として求めることができる。
本実施形態に係る非水系インクジェットインク組成物中における塩化ビニル系樹脂の含有量は、例えば0.05質量%以上6質量%以下、好ましくは0.5質量%以上4質量%以下とすることができる。塩化ビニル系樹脂の含有量が前記範囲であると、前記一般式(1)で表される化合物中に溶解した塩化ビニル系樹脂によって、塩化ビニル系記録媒体に対して優れた定着性が得られる。塩化ビニル系樹脂としては上記の塩酢ビ共重合体以外にも、少なくとも塩化ビニルに由来する構成単位を含む樹脂であれば使用できる。
本実施形態に係る非水系インクジェットインク組成物においては、塩化ビニル系樹脂と前記一般式(1)で表される化合物とを質量基準で、1:5〜1:40となる量比で含むことが好ましい。前記量比の範囲内であれば、前記一般式(1)で表される化合物中に前記塩化ビニル系樹脂を容易に溶解させることができるので、塩化ビニル系樹脂を含有する記録媒体の表面へのインク定着性を向上できると共に、ノズルの目詰まりが起こりにくくなる。
1.4.2.アクリル系樹脂
本実施形態に係る非水系インクジェットインク組成物には、前記塩化ビニル系樹脂の他に、画像のインク塗膜の密着性を向上させる観点から、アクリル系樹脂を添加してもよい。
アクリル系樹脂としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂、スチレン−(メタ)アクリル共重合樹脂、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合樹脂、エチレンアルキル(メタ)アクリレート樹脂、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂などが挙げられる。
上記のアクリル系樹脂としては、市販品を用いてもよく、例えば、アクリペットMF(商品名、三菱レイヨン社製、アクリル樹脂)、スミペックスLG(商品名、住友化学社製、アクリル樹脂)、パラロイドBシリーズ(商品名、ローム・アンド・ハース社製、アクリル樹脂)、パラペットG−1000P(商品名、クラレ社製、アクリル樹脂)などが挙げられる。なお、本発明において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸およびメタクリル酸の両方を意味するものとし、(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよびメタクリレートの両方を意味するものとする。
本実施形態に係る非水系インクジェットインク組成物中におけるアクリル系樹脂の含有量は、例えば0.5質量%以上10質量%以下、好ましくは0.5質量%以上6質量%以下とすることができる。アクリル系樹脂の含有量が前記範囲であると、塩化ビニル系記録媒体に対して優れた定着性が得られる。
1.4.3.界面活性剤
本実施形態に係る非水系インクジェットインク組成物には、前記有機溶媒の他に、表面張力を低下させ記録媒体との濡れ性を向上させる観点から、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、または非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレン誘導体を添加してもよい。
シリコン系界面活性剤としては、ポリエステル変性シリコンやポリエーテル変性シリコンを用いることが好ましい。具体例としては、BYK−347、348、BYK−UV3500、3510、3530、3570(いずれもビックケミー・ジャパン社製)が挙げられる。
フッ素系界面活性剤としては、フッ素変性ポリマーを用いることが好ましく、具体例と
しては、BYK−340(ビックケミー・ジャパン社製)が挙げられる。
また、ポリオキシエチレン誘導体としては、アセチレングリコール系界面活性剤を用いることが好ましい。具体例としては、サーフィノール82、104、465、485、TG(いずれもエアープロダクツジャパン社製)、オルフィンSTG、E1010(いずれも日信化学株式会社製)、ニッサンノニオンA−10R、A−13R(いずれも日油株式会社製)、フローレンTG−740W、D−90(共栄社化学株式会社製)、ノイゲンCX−100(第一工業製薬株式会社製)等が挙げられる。
本実施形態に係る非水系インクジェットインク組成物中における界面活性剤の含有量は、好ましくは0.05質量%以上3質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上2質量%以下である。
1.4.4.分散剤
本実施形態に係る非水系インクジェットインク組成物は、顔料の分散安定性を向上させる観点から、通常のインク組成物において用いられる任意の分散剤を用いることができる。このような分散剤の具体例としては、ヒノアクトKF1−M、T−6000、T−7000、T−8000、T−8350P、T−8000E(いずれも武生ファインケミカル株式会社製)等のポリエステル系高分子化合物、Solsperse20000、24000、32000、32500、33500、34000、35200、37500(いずれもLUBRIZOL社製「ソルスパース」)、Disperbyk−161、162、163、164、166、180、190、191、192(いずれもビックケミー・ジャパン社製)、フローレンDOPA−17、22、33、G−700(いずれも共栄社化学株式会社製)、アジスパーPB821、PB711(いずれも味の素株式会社製)、LP4010、LP4050、LP4055、POLYMER400、401、402、403、450、451、453(いずれもEFKAケミカルズ社製)等が挙げられる。
また、分散剤としては、金属石鹸、塩基性基を有する高分子分散剤等を用いることもでき、塩基性基を有する高分子分散剤が好ましい。特に、塩基性基としてアミノ基、イミノ基又はピロリドン基を有するものが好ましい。塩基性基を有する高分子分散剤として、ポリアルキレンポリアミン、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、変性ポリウレタン、ポリエステルポリアミン等を用いることができる。
塩基性基を有する高分子分散剤の具体例としては、BYKChemie社製の「Anti−Terra−U(ポリアミノアマイドリン酸塩)」、「Anti−Terra−204(高分子量ポリカルボン酸塩)」、「Disperbyk−101(ポリアミノアマイドリン酸塩と酸エステル)130(ポリアマイド)を挙げることができる。また、アビシア社製のソルスパース5000(フタロシアニンアンモニウム塩系)、13940(ポリエステルポリイミン)、17000、18000、19000(ポリエステルポリアミン)、11200(ポリエステルポリイミン)を挙げることができる。また、ISP社製のV−216、V−220(長鎖アルキル基を持ったポリビニルピロリドン)を挙げることができる。
本実施形態に係るインク組成物において、前記分散剤を使用する場合の含有量は、含有される顔料に応じて適宜選択することができるが、インク組成物中の顔料の含有量100質量部に対して、好ましくは5質量部以上200質量部以下、より好ましくは30質量部以上120質量部以下である。
1.4.5.その他
本実施の形態に係る非水系インクジェットインク組成物は、上記の成分の他にも、塩化ビニル系樹脂及びアクリル系樹脂以外の樹脂、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)等のキレート化剤、防腐剤・防かび剤、及び防錆剤など、所定の性能を付与するための物質を含有することができる。
塩化ビニル系樹脂及びアクリル系樹脂以外の樹脂としては、例えば脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステル、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリカーボネート、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、フェノキシ樹脂、エチルセルロース樹脂、セルロースアセテートプロピオネート樹脂、セルロースアセテートブチレート、ニトロセルロース樹脂、ポリスチレン、ビニルトルエン−α−メチルスチレン共重合体樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン系樹脂、石油樹脂、塩素化ポリプロピレン、ポリオレフィン、テルペン系樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、NBR・SBR・MBR等の各種合成ゴム、およびそれらの変性体等を用いてもよい。これらの樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
1.5.用途及び効果
本実施形態に係る非水系インクジェットインク組成物は、上記一般式(1)で表される化合物を含む非水系インク組成物であることにより、塩化ビニル系記録媒体などのフィルムメディアに記録した時の画質が優れるため、屋外で展示するサイン用途などに特に好適となる。塩化ビニル系記録媒体としては、塩化ビニル系樹脂を含有するものであれば特に限定されない。塩化ビニル系樹脂を含有する記録媒体としては、硬質もしくは軟質の塩化ビニル系フィルムまたはシート等が挙げられる。本実施形態に係る非水系インクジェットインク組成物は、塩化ビニル系樹脂基材における無処理表面への画像の記録を可能ならしめるものであり、従来の受容層を有する記録媒体のごとく、高価な記録媒体の使用を不要とする優れた効果を有するが、インク受容層により表面処理された基材であっても適用できることは言うまでもない。
本実施形態に係る非水系インクジェットインク組成物は、水の含有量を0.1質量%以上2質量%以下とすることで、長期保管によるPO43の凝集(異物)の発生を抑制し、保存安定性が良好となる。これにより、インクジェットプリンターのノズルの目詰まりを防止し、吐出信頼性を高めることができる。
また、屋外で展示するサイン用途などに適用した場合、本実施形態に係る非水系インクジェットインク組成物は、PO−43を含有するので、画像の耐候性がとりわけ良好となる。さらに、環状エステルを添加することで耐擦性を向上できるが、環状エステルは吸湿性が高い傾向があり、PO43の分散安定性が損なわれやすくなる。しかしながら、上記一般式(1)で表される化合物のうち引火点が75℃以下のもの及び環状エステルを併用することで、画像の耐擦性の確保と保存安定性のさらなる向上とが両立できるようになり、特に好ましい態様となる。
また、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックなどの各色インクと、特色のオレンジインク(本実施の形態に係るインク組成物)とを組み合わせたインクセットとすることで、ガマットの広い色再現が可能となり、その色再現が長期に亘り保持される。
2.実施例及び比較例
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をさらに説明するが、本発明は以下の例によってなんら限定されるものではない。実施例、比較例中の「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準である。
2.1.インク組成物の調製
2.1.1.顔料の製造
500mLの容器にイオン交換水120mL、塩酸18g、酢酸6.8g、ポリオキシアルキレンアルキルアミン2gを投入して、混合、撹拌した。次に、2,5−ジクロロアニリン16gを投入した後、氷を加えて液温を約5℃に調節し、亜硝酸ナトリウム6gを投入して容器内の液温を10℃以下に保持しつつ、30分間撹拌してジアゾ化液を得た。
一方、300mLの容器にイオン交換水200mL、2−アセトアセチルアミノ−6−エトキシベンゾチアゾール23.5gを投入して30分間撹拌した。その後、水酸化カリウム5.2gを添加して30分間撹拌し、反応液を得た。
上記で得られたジアゾ化液をろ紙(No.5C)でろ過し、ろ液を2Lの容器に投入した。ろ液にスルファミン酸1g、酢酸ナトリウム15gを投入した後、液温を25℃、pHを2.0〜3.0に調整した。液温を25℃に保持しつつ、上記の反応液を投入して60分間撹拌した。次に、液温を90℃に昇温してから30分間撹拌した後、30%水酸化ナトリウム水溶液を投入してpHを8.5にした。最終的に得られた反応液をろ過し、残渣をイオン交換水にて洗浄した後、80℃にて乾燥した。乾燥させた残渣をサンプルミルで粉砕し、粉末状の顔料(粗原料)を得た。
このようにして得られた粗原料を105℃で加熱乾燥した。この粗原料50gを、450mLのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に投入した後、撹拌しながら、80℃まで昇温した後(昇温時間は約1時間)、80℃で2時間撹拌した。その後、30℃以下になるまで冷却してから、ヌッチェでろ過した。ろ別した残渣を、イオン交換水2Lにて洗浄し、ろ別した残渣を、顔料とイオン交換水を含むペースト状の顔料分散体として得た。その後、105℃で加熱乾燥させたものを、サンプルミルで粉砕し、粉末状のPO43を得た。
2.1.2.顔料分散液の調製
上記で得られた顔料及び、分散剤としてソルスパース37500(ルーブリゾール社製)を用い、当該顔料100質量部に対して100〜400質量部の範囲で分散剤の添加量を変えて顔料を分散させて分散液を調製した。分散媒としては、各インク組成例ごとに溶剤として最も含有量の多い溶剤を分散媒として用い顔料分散液とした。
2.1.3.インク組成物の調製
上記で調製された顔料分散液を用いて、表1〜表2に示す材料組成にて顔料種及び溶剤種の異なるインク組成物を調製した。各インク組成物は、表中に示す材料を容器中に入れ、マグネチックスターラーにて2時間混合撹拌した後、孔径5μmのメンブランフィルターにて濾過してゴミや粗大粒子等の不純物を除去することにより調製した。なお、表1〜表2中の組成欄の数値は、質量%を示す。
また、実施例及び比較例のインク組成物のうち、水の含有量が2質量%以下のものについては、使用する各溶剤を脱水剤により脱水する工程を経たものを用いた。比較例5及び比較例6のような水を3%以上含有するインク組成物は、脱水する工程を行わずに市販の溶剤をそのまま用い、さらにイオン交換水を添加して水の含有量を調整した。実施例8の水を0.1質量%含有するインク組成物は、使用する各溶剤を脱水剤により脱水したものを使用したが、脱水に相当の時間を要した。
このようにして得られた調製直後の各インク組成物について、カールフィッシャー水分計(平沼産業株式会社、型式「AQ−2200」)を用いて水分量を測定した。その結果を表1〜表2に併せて示す。
2.2.評価試験
2.2.1.耐候性の評価
インクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製、型式「SC−S70650」)を用いて、実施例及び比較例の各インク組成物を、塩ビバナーシート(3M社製、型番IJ51(ポリ塩化ビニル))上に、記録解像度720×720dpiでベタ印刷を行い、記録物を得た。得られた記録物をキセノンウェザーメーター(スガ試験機株式会社製)のチャンバー内に投入し、「光照射40分間」→「光照射+水降雨20分間」→「光照射60分間」→「水降雨60分間」のサイクル試験を行った。キセノンウェザーメーターの実施条件については、以下の通りである。このサイクル試験を4週間連続して行い、4週間後にその記録物を取り出した。取り出した各記録物について、グレタグ濃度計(グレタグマクベス社製)を用いてOD値を測定し、OD値残存率(%)を求め、下記基準に基づき判定した。
<判定基準>
○:OD値残存率が90%以上。
△:OD値残存率が81%以上90%未満。
×:OD値残存率が81%未満。
<キセノンウェザーメーターの実施条件>
温湿度 :40℃50%RH
照射強度:300〜400nm、60W/m
2.2.2.印刷画質の評価
(1)凝集ムラの評価
インクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製、型式「SC−S70650」)を用いて、実施例及び比較例の各インク組成物を塩ビバナーシート(3M社製、型番IJ51(ポリ塩化ビニル))上に100%濃度で記録解像度720×720dpiのベタ印刷をして、25℃65%RH(相対湿度)の環境下にて60分間乾燥させた。その後、この評価用サンプルを室温(25℃)に戻した後、評価用サンプルの記録面における顔料の凝集ムラを目視にて観察することで、凝集ムラの評価を行った。判定基準は以下の通りである。
<判定基準>
○:凝集ムラが認められない。
△:若干の凝集ムラが認められる。
×:凝集ムラが目立つ。
(2)光沢性の評価
上記<凝集ムラの評価>で得られた評価用サンプルにつき、光度計MULTI Gloss 268(コニカミノルタ社製)を用いて、記録面の20°反射の光沢度を測定した。判定基準は以下の通りである。
<判定基準>
○:50以上。
△:30以上50未満。
×:30未満。
(3)印刷画質の評価
凝集ムラ及び光沢性の評価から総合的に判断して印刷画質の評価を行った。判定基準は以下の通りである。
<判定基準>
○:凝集ムラの評価及び光沢性の評価の両方が○である。
△:凝集ムラの評価及び光沢性の評価に×がなく、何れかが△である。
×:凝集ムラの評価及び光沢性の評価の何れかが×である。
2.2.3.耐擦性の評価
インクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製、型式「SC−S70650」)を用いて、実施例及び比較例の各インク組成物を塩ビバナーシート(3M社製、型番IJ51(ポリ塩化ビニル))上に100%濃度で記録解像度720×720dpiのベタ印刷をして、25℃65%RH(相対湿度)の環境下にて60分間乾燥させた。その後、この評価用サンプルを室温(25℃)に戻した後、JIS K5701(ISO 11628)に準じて、学振式摩擦堅牢度試験機(テスター産業株式会社製、製品名「AB−301」)を用いて耐擦性の評価を行った。具体的には、評価用サンプルの記録面に綿布を載せ、荷重500gで20回往復させて擦り、擦った後の評価用サンプルの記録面の剥離状態を目視にて観察した。判定基準は以下の通りである。
<判定基準>
○:綿布に汚れがない。記録面に傷がない。
△:綿布に記録物の付着がある。記録面に傷がほとんどない。
×:綿布に記録物の付着がある。記録面に傷がある。
2.2.4.保存安定性の評価
実施例及び比較例の各インク組成物をポリプロピレンフィルム(厚さ100μm)で構成されたインクパックに700mL充填をして封をして、70℃で1週間放置した後のインク物性(粘度及び体積平均粒子径)の変動幅を測定した。ポリプロピレンフィルムで封をしていても、フィルムを水分が通過してインク組成物中の水分量が若干上昇する場合がある。
体積平均粒子径の測定は、インク化した検体をジエチレングリコールジエチルエーテルにて1000ppmに希釈し、レーザー回折・散乱測定装置(日機装株式会社製、装置名「マイクロトラックUPA250」)を用いて20℃の環境下で、体積平均粒子径(メディアン径D50)の値を読み取ることにより測定した。
粘度の測定は、粘度計(アントンパール社製、装置名「MCR300」)にて20℃、シェアレート200/sでのインクの粘度を測定した。
保存安定性の判定基準は以下の通りである。
<判定基準>
◎:粘度もしくは体積平均粒子径の変動幅の大きい方が2%未満。
○:粘度もしくは体積平均粒子径の変動幅の大きい方が2%以上6%未満。
△:粘度もしくは体積平均粒子径の変動幅の大きい方が6%以上11%未満。
×:粘度もしくは体積平均粒子径の変動幅の大きい方が11%以上。
2.3.評価結果
実施例及び比較例に係るインク組成、評価結果を表1〜表2に示す。
Figure 0006897727
Figure 0006897727
なお、表1〜表2に示した略称又は商品名は、以下の通りである。
<顔料>
・PO43:C.I.ピグメントオレンジ43
・PO64:C.I.ピグメントオレンジ64
<環状エステル>
・γ−ブチロラクトン:商品名、関東化学株式会社製)
・σ−バレロラクトン:商品名、キシダ化学株式会社製)
<溶剤>
・DEGMEE:ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、商品名「ハイソルブEDM」、東邦化学工業株式会社製、引火点64℃)
・DEGdME:ジエチレングリコールジメチルエーテル、商品名「ジエチレングリコールジメチルエーテル」、東京化成工業株式会社製、引火点56℃)
・DEGDEE:ジエチレングリコールジエチルエーテル、商品名「ジエチレングリコールジエチルエーテル」、東京化成工業株式会社製、引火点71℃)
・DEGBME:ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、商品名「ハイソルブBDM」、東邦化学工業株式会社製、引火点94℃)
・TetraEGdME:テトラエチレングリコールジメチルエーテル、商品名「テトラエチレングリコールジメチルエーテル」、東京化成工業株式会社製、引火点141℃)
・TetraEGmBE:テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、商品名「ブチセノール40」、KHネオケム株式会社製、引火点177℃)
・エクアミドM100:商品名、出光興産株式会社製、アミド系溶剤
<分散剤>
・ソルスパース37500:商品名、ルーブリゾール社製、ポリエステルポリアミド樹脂<界面活性剤>
・BYK340:商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製、シリコン系界面活性剤
<定着樹脂>
・ソルバインCL:商品名、日信化学工業株式会社製、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体
実施例1〜10によれば、本発明の非水系インクジェットインク組成物を用いることにより、耐候性及び印刷画質に優れた画像を形成できることが分かった。また、本発明の非水系インクジェットインク組成物は、PO43の凝集の発生を抑制する効果があり、保存安定性にも優れていることが分かった。
実施例1〜3では、低引火点のグリコールエーテルを50質量%以上含有することで、保存安定性が非常に優れることが分かった。一方、実施例4〜6では、引火点のやや高いグリコールエーテルを含有したり、水分量が多くなったりすることで、保存安定性が実施例1〜3に比べてやや低下することが分かった。実施例7では、水分を吸収しやすい環状エステルを含有しないので保存安定性は非常に優れているが、環状エステルによる塩化ビニル基材への食い付き効果がないため、画像の耐擦性に優れなかった。実施例8では、インク中の水分量が極めて少ないので保存安定性は非常に優れているが、溶剤の脱水工程にかなりの時間を要してしまい生産性が不良となった。実施例9では、PO43の含有量が少ないため、PO43同士の凝集の発生が少なくなり、保存安定性は非常に優れていた。実施例10では、インク中の水分量が少ないので保存安定性は非常に優れており、この程度の水分量であれば溶剤の脱水工程にもそれほど時間を要さず生産性も良好であった。
比較例1、6では、PO64を使用しているため、画像の耐候性が不良となった。比較例2〜4では、特定のグリコールエーテルを含有しないため、保存安定性及び印刷画質の両方が不良となった。比較例5では、PO43を含有し、水分が3質量%含まれているので、PO43同士の凝集が発生し、保存安定性が悪化した。また、比較例6では、水分を4質量%含有しているにもかかわらず保存安定性が良好であることから、水分量に伴う保存安定性の課題は、PO43特有の課題であることが分かった。
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。

Claims (6)

  1. 顔料としてC.I.ピグメントオレンジ43と、
    有機溶剤として、下記一般式(1)で表される引火点が75℃以下の化合物の1種以上及び環状エステルの1種以上のみと、
    を含み、
    インク組成物中に含まれる水の含有量が0.1質量%以上2質量%以下であり、
    インク組成物中に含まれる前記一般式(1)で表される化合物の合計含有量が40質量%以上であり、
    インク組成物中に含まれる前記環状エステルの合計含有量が5質量%以上40質量%以下である、非水系インクジェットインク組成物。
    O−(RO)−R ・・・・・(1)
    (一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表す。ただし、R及びRの少なくとも何れかは、炭素数1以上4以下のアルキル基である。Rは、炭素数2又は3のアルキレン基を表す。mは2を表す。)
  2. インク組成物中に含まれる前記顔料の含有量が、1質量%以上6質量%以下である、請求項1に記載の非水系インクジェットインク組成物。
  3. インク組成物中に含まれる前記一般式(1)で表される化合物の合計含有量が67質量%以上である、請求項1または請求項2に記載の非水系インクジェットインク組成物。
  4. 前記一般式(1)で表される化合物のうち引火点が70℃以下の化合物を含み、インク組成物中に含まれる前記一般式(1)で表される化合物のうち引火点が70℃以下の化合物の合計含有量が50質量%以上である、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の非水系インクジェットインク組成物。
  5. さらに、塩化ビニル樹脂を含む、請求項1ないし請求項のいずれか一項に記載の非水系インクジェットインク組成物。
  6. 前記水の含有量が、0.1質量%以上1質量%以下である、請求項1ないし請求項のいずれか一項に記載の非水系インクジェットインク組成物。
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