以下、本発明の一実施形態に係る無段変速機制御装置を、図1〜図7に基づいて説明する。
まず、図1から図2を参照して、本発明の一実施形態にかかる無段変速機制御装置の構成を説明する。図1は本発明の一実施形態に係る無段変速機制御装置を搭載する車両の要部を示し、図2は本発明の一実施形態に係る無段変速機制御装置の要部を示す。
図1に示すように車両は、エンジン1、トルクコンバータ2、無段変速機3、出力ギア4、ギア機構5、差動機構6、駆動軸7、および駆動輪8を備える。本実施形態に係る移動状態推定装置10(図2参照)は、供給用制御弁DS1(図2参照)、排出用制御弁DS2(図2参照)、およびトルクカム44を有する無段変速機3に設けられ、更に第1パルス検出機51、第2パルス検出機52、およびECU50を備える。
エンジン1は既知の内燃機関であって、燃料の燃焼エネルギーを回転運動に変換し、動力として出力する。このエンジン1は、トルクコンバータ2を介して無段変速機3と接続されている。トルクコンバータ2は、作動流体を介して動力を伝達することができる。トルクコンバータ2は、作動流体を介さずに入力側から出力側へ動力を直接伝達するロックアップ機構を有していてもよい。
無段変速機3は、ベルト式無段変速機である。無段変速機3は、クラッチ31、プライマリプーリ32、セカンダリプーリ33、およびベルト34を有する。プライマリプーリ32は、セカンダリプーリ33よりもエンジン側に設けられており、クラッチ31を介してトルクコンバータ2と接続されている。クラッチ31は、無段変速機3とトルクコンバータ2との断接および前後進の切り替えを行うことができる。
プライマリプーリ32は、プライマリプーリ軸32a、プライマリ固定シーブ32b、プライマリ可動シーブ32c、およびプライマリ油圧室32dを有する。プライマリ固定シーブ32bは、プライマリプーリ軸32aに対して軸方向に移動不能に固定されており、プライマリプーリ軸32aと一体回転する。プライマリ可動シーブ32c、プライマリプーリ軸32aに対して軸方向に相対移動可能かつ周方向には相対回転不能に配置されている。プライマリ油圧室32dの油圧により、プライマリ固定シーブ32bとプライマリ可動シーブ32cとで形成されるプライマリプーリ32の溝幅(プーリ幅)が調節され、変速比が制御される。
プライマリプーリ32とセカンダリプーリ33には無端のベルト34が巻き掛けられている。ベルト34を介してプライマリプーリ32とセカンダリプーリ33との間で動力伝達がなされている。クラッチ31を介して伝達されるエンジン1の動力は、プライマリプーリ32、ベルト34、セカンダリプーリ33を介してセカンダリプーリ軸の出力ギア4から出力される。出力ギア4は、ギア機構5、差動機構6、および駆動軸7を介して駆動輪8と接続されている。
図2に示すように、セカンダリプーリ33は、セカンダリプーリ軸35、セカンダリ固定シーブ36、セカンダリ可動シーブ37、ピストン38、およびセカンダリ油圧室39を有する。セカンダリプーリ軸35は、両端部においてそれぞれ軸受によって回転自在に支持されている。
セカンダリ固定シーブ36は、セカンダリプーリ軸35に対して軸方向に移動不能に固定されており、セカンダリプーリ軸35と一体回転する。セカンダリ可動シーブ37は、セカンダリプーリ軸35に対して軸方向に相対移動可能かつ周方向に相対回転不能に配置されている。本実施形態では、セカンダリ可動シーブ37は、軸方向に設けられた図示しないスプラインによって、セカンダリプーリ軸35とスプライン嵌合している。
ベルト34は、セカンダリ固定シーブ36とセカンダリ可動シーブ37とで形成されるセカンダリ溝40に巻き掛けられている。セカンダリ油圧室39は、セカンダリ可動シーブ37に対してセカンダリ固定シーブ36側と反対側に位置している。セカンダリ油圧室39の油圧は、セカンダリ固定シーブ36とセカンダリ可動シーブ37とによってベルト34を挟むベルト挟圧力を発生させることができる。ベルト34が伝達するトルクの大きさに応じた適切な挟圧力を発生させることにより、ベルト34の滑りを抑制することができる。
ピストン38は、セカンダリ可動シーブ37に対して軸方向のセカンダリ固定シーブ36側と反対側に配置されている。ピストン38は、セカンダリプーリ軸35に対して軸方向に相対移動可能かつ周方向に相対回転不能に配置されている。本実施形態では、ピストン38は、軸方向に設けられた図示しないスプラインによってセカンダリプーリ軸35とスプライン嵌合している。
セカンダリ可動シーブ37は、ピストン38側にむけて開口する凹部37aを有し、ピストン38はこの凹部37aと嵌合している。ピストン38とセカンダリ可動シーブ37と、セカンダリプーリ軸35とによってセカンダリ油圧室39が形成されている。セカンダリ油圧室39は、内部の作動油(作動流体)の圧力によって、セカンダリ可動シーブ37をセカンダリ固定シーブ36に向けて押圧する押圧力を発生させる圧力室である。
セカンダリプーリ軸35には、出力ギア4が配置されている。出力ギア4はセカンダリプーリ軸35における軸方向のエンジン側の端部、言い換えるとピストン38に対してセカンダリ固定シーブ36およびセカンダリ可動シーブ37側と反対側の端部に配置されている。出力ギア4は、軸受4aを介してセカンダリプーリ軸35によって回転自在に支持されている。軸受4aの軸方向の移動は、ロックナット9によって規制されている。
ロックナット9は、軸受4aに対してピストン38側と反対側に配置されており、セカンダリプーリ軸35と螺着している。これにより、ロックナット9は、軸受4aおよび出力ギア4がピストン38から離間する方向の軸方向の移動を規制する。
セカンダリプーリ軸35には、ピストン38の軸方向の移動を規制する段差部35aが形成されている。段差部35aは、ピストンを挟んで軸方向の出力ギア4側と反対側に位置している。また、段差部35aは、セカンダリ可動シーブ37よりも出力ギア4側に位置している。そして、段差部35aは、軸方向のセカンダリ可動シーブ37側の外径が出力ギア4側の外径よりも大きい段差となっている。従って、ピストン38は、セカンダリプーリ軸35における段差部35aよりも出力ギア4側の小径部に嵌合しており、セカンダリ可動シーブ37はセカンダリプーリ軸35における段差部35aよりもセカンダリ固定シーブ36側の大径部に嵌合している。
ピストン38が軸方向のセカンダリ可動シーブ37側へ向かう場合、その移動は段差部35aによって規制される。段差部35aの段差面35bは、ピストン38と当接することでピストン38の移動を規制するストッパとして機能する。
車両は、セカンダリ油圧室39に油圧を供給するオイルポンプ41を備える。オイルポンプ41は、例えばエンジン1の回転軸の回転によって駆動される既知の機械式オイルポンプであってもよいし、図示しないバッテリから供給される電力によって駆動される、既知の電動式オイルポンプであってもよい。本実施例では、オイルポンプ41はエンジン1の回転軸の回転によって駆動される機械式オイルポンプであるものとする。オイルポンプ41は、供給油路42を介してセカンダリ油圧室39と接続されている。また、供給油路42には、供給油路42の作動油を排出する排出油路43が接続されている。
供給油路42には、供給用制御弁DS1が設けられている。供給用制御弁DS1は、供給油路42におけるオイルポンプ41の設置位置と排出油路43との接続部との間に配置されている。
供給用制御弁DS1は、少なくとも供給油路42を開放してオイルポンプ41からセカンダリ油圧室39に対して油圧を供給できる開放状態と、供給油路42を閉塞してオイルポンプ41とセカンダリ油圧室39との作動油の流通を遮断する閉塞状態とに切り替え可能である。供給用制御弁DS1は、オイルポンプ41からセカンダリ油圧室39に対して供給する作動油の油圧や流量を制御する調圧バルブとしての機能を有する。
排出油路43には、排出用制御弁DS2が設けられている。排出用制御弁DS2は、少なくとも排出油路43を開放して供給油路42の油圧を排出できる開放状態と、排出油路43を閉塞して排出油路43を介した作動油の流通を遮断する閉塞状態とに切り替え可能である。排出用制御弁DS2は、セカンダリ油圧室39から排出油路43を介して排出される作動油の流量を制御する調圧バルブとしての機能を有する。
供給制御弁DS1および排出用制御弁DS2は、それぞれ閉塞状態において油圧の漏れが生じないように構成されており、例えば、既知のポペット弁や逆止弁等によって構成される。つまり、供給用制御弁DS1および排出用制御弁DS2は、セカンダリ可動シーブ37に対する押圧力を発生させるセカンダリ油圧室39に対する作動油の給排を遮断可能な制御弁である。このように、油圧の漏れや給排を遮断し、セカンダリ油圧室39の油圧を制御する油圧回路を、ゼロリーク回路ともよぶ。
本実施形態における無段変速機3では、供給用制御弁DS1および排出用制御弁DS2をそれぞれ閉塞状態として供給油路42、排出油路43、およびセカンダリ油圧室39に油圧を封入することで、ゼロリーク状態でセカンダリ油圧室39の油圧を維持することができる。
油圧を封入することにより、オイルポンプ41による油圧の供給によらずにベルト挟圧力を維持できるため、オイルポンプ41の運転を停止することが可能となる。例えば、オイルポンプ41がエンジン1の回転によって駆動されるものである場合、走行中にエンジン1を停止して燃費向上を図ることが可能となる。また、オイルポンプ41が電動式オイルポンプである場合、オイルポンプ41の運転時間を短縮し、電力消費量の削減を図ることができる。
本実施例では、供給用制御弁DS1と排出用制御弁DS2をそれぞれ閉塞状態にして、セカンダリ油圧室39、供給油路42、および排出油路43に油圧を封入した状態を、「遮断状態」と記載する。遮断状態は、供給用制御弁DS1および排出用制御弁DS2に対する作動油の給排が遮断される状態である。
本実施形態の無段変速機3は、伝達トルクに応じて作動し、セカンダリ油圧室39内の作動油を押圧するトルクカム44を備える。これにより、以下に説明するように、遮断状態おいて無段変速機3の伝達トルクが増大する場合に、トルクカム44によってセカンダリ油圧室39の油圧を上昇させてベルト挟圧力を増加させることができる。図3は、本実施形態に係るトルクカムの断面図であって、その一例としてシザーズトルクカムを図示している。
トルクカム44は、第1カム45および第2カム46を有する。第1カム45はピストン38における出力ギア4側の端部に設けられている。第2カム46は、出力ギア4におけるピストン38側の端部に設けられている。第1カム45、第2カム46は、軸方向において互いに対向するカム面45a、46aを有する。
第1カム45は、カム面45aに対して出力ギア4側に突出する突出部45bを有する。突出部45bは、軸方向の出力ギア4側へ向かうに従い周方向の幅が縮小するテーパ形状である。突出部45bの断面形状は、例えば三角形状とすることができる。
第2カム46は、カム面46aに対してピストン38側に突出する突出部46bを有する。突出部46bは、軸方向のピストン38側へ向かうに従い周方向の幅が縮小するテーパ形状である。突出部46bの断面形状は、例えば三角形状とすることができる。
第1カム45の突出部45bの傾斜面45cと、第2カム46の突出部46bの傾斜面46cとが当接して第1カム45と第2カム46とが係合することにより、第1カム45と第2カム46との動力伝達がなされる。無段変速機3のベルト34と出力ギア4とは、セカンダリ固定シーブ36、セカンダリプーリ軸35、ピストン38、トルクカム44を介して動力を伝達する。なお、各傾斜面45c、46cの各カム面45a、46aに対する傾斜角γは、出力ギア4の捩れ角σよりも小さく設定される。
トルクカム44は、伝達するトルクの大きさに応じて、セカンダリプーリ軸35と同軸方向に移動し、セカンダリ油圧室39内の作動油を押圧する。トルクカム44がトルクを伝達するときには、第1カム45の傾斜面45cと、第2カム46の傾斜面46cとが互いに押圧し合うことで、第1カム45および第2カム46には軸方向に互いに離間する方向の反力が作用する。つまり、ピストン38には、伝達トルクに対する軸方向の反力によって、セカンダリ可動シーブ37に向かうスラスト力F1が作用する。一方、ピストン38にはセカンダリ油圧室39の油圧によって、出力ギア4に向かうスラスト力F2が作用する。
トルクカム44の伝達トルクの大きさが小さい場合、トルク反力によるスラスト力F1の大きさが、遮断状態としたときの直後の油圧によるスラスト力F2の大きさよりも小さくなる。この場合、トルクカム44は、図3に示すようにカム面45aとカム面46aとが最も接近した状態となる。
このように、カム面45aとカム面46aとが軸方向において最も接近した状態を「初期位置」(あるいは「非作動状態」)とよぶ。初期位置では、第1カム45の突出部45bの先端が第2カム46のカム面46aと接触し、第2カム46の突出部46bの先端が第1カム45のカム面45aと接触する。
遮断状態において、トルクカム44の伝達トルクが増大し、トルク反力によるスラスト力F1が油圧によるスラスト力F2を上回ると、第1カム45は、第2カム46から離間する方向に移動する。これにより、ピストン38はセカンダリ可動シーブ37に向けて軸方向に移動し、セカンダリ油圧室39内の作動油を押圧する。つまり、トルクカム44は、ピストン38を介してセカンダリ油圧室39内の作動油を押圧する。ピストン38が作動油を押圧することによって、セカンダリ油圧室39内の油圧が上昇し、セカンダリシーブ33のベルト挟圧力が増加する。
ピストン38による押圧力は、トルクカム44の伝達トルクの大きさ、言い換えるとベルト34の伝達トルクの大きさに応じた値である。従って、トルクカム44は、無段変速機3のベルト34が伝達するトルクの大きさに応じて移動し、伝達トルクの大きさに応じた圧力でセカンダリ油圧室39内の作動油を押圧することができる。また、ピストン38は、伝達トルクの大きさに応じてトルク反力によるスラスト力F1と油圧によるスラスト力F2とが釣り合う位置まで移動する。
従って、トルクカム44は、(トルクカム44を構成する要素である第1カム45が)伝達トルクの大きさに応じて移動し、その移動量が伝達トルクの大きさに応じて変化するトルクセンサとして機能することができる。また、トルクカム44は、伝達トルクの大きさに応じてピストン38をセカンダリプーリ軸35方向に移動させることで、セカンダリ油圧室39内の油圧を調節するアクチュエータとしての機能も有している。
このように、無段変速機3は、遮断状態において伝達トルクの増大に応じてセカンダリプーリ33のベルト挟圧力を増加させることができる。これにより、走行時に伝達トルクが増大した場合、例えば段差を乗り越えた場合や路面μ(摩擦係数)の急な変化によってタイヤの回転が急に減少した場合などの過大トルクの入力に対して、トルクカム44による挟圧力増幅機能が作用する。トルクカム44がセカンダリ油圧室39の圧力を増加させることによって、ベルト挟圧力を必要分増加させ、ベルト34の滑りの発生を抑制することができる。
トルクカム44による挟圧力増幅機構は、コンピュータ等の制御を介さない機械的なものであるため、応答良くベルト挟圧力を増加させることができる。トルクカム44による挟圧力増幅機構があることで、挟圧力増幅機構を備えない場合よりも、遮断状態においてセカンダリ油圧室39内に油圧を封入する際のセカンダリ油圧室39内の油圧(初期油圧)を低減することができる。
ベルト挟圧力を適切に維持するには、トルクカム44の位置を把握することが望ましい。図4は、トルクカム44の作動状態説明図である。図4において、横軸は時間を、縦軸は挟圧力の大きさを示す。実線101はトルクカム44が発生させるベルト挟圧力、実線102は伝達トルクの大きさに応じて必要とされるベルト挟圧力(以下、必要ベルト挟圧力)、破線103はトルクカム44の非作動状態(トルクカム44が初期位置にある状態)で初期油圧によって発生させているベルト挟圧力(以下、初期ベルト挟圧力)である。
時刻t1において、駆動輪8からのトルク入力等によって必要ベルト挟圧力102が初期ベルト挟圧力103を上回ったとしても、トルクカム44が発生させるベルト挟圧力101によってベルト34の滑りが抑制される。また、車両が上り坂を走行する場合、勾配の大きさに応じて必要ベルト挟圧力102が増加する(102a参照)。初期ベルト挟圧力103だけでは必要ベルト挟圧力102を満たすことができなくても、符号101aに示すように、トルクカム44が発生させるベルト挟圧力101が、伝達トルクに応じて増加することで、ベルト34の滑りが抑制される。
しかしながら、トルクカム44が発生させるベルト挟圧力101には、上限がある。破線104はトルクカム44が発生させることのできるベルト挟圧力の上限である。ベルト挟圧力の上限104は、第1カム45および第2カム46のカム山の高さ、摩擦係数等の諸元に応じて決まる。上り坂を走行することで伝達トルクが増大し、これに応じてトルクカム44が移動している際に、符号102bで示すように更に駆動輪8からのトルク入力等によって必要ベルト挟圧力102が増加した場合、トルクカム44が発生させるベルト挟圧力101を加えても必要ベルト挟圧力102に達しない可能性がある。この場合、ベルト34の滑りが発生し、動力損失が生じる虞がある。
これに対し、本実施形態に係る移動状態推定装置10は、トルクカム44の位置を推定することができる。また、推定した位置に基づいて、セカンダリ油圧室39内に供給する油圧を調整することで、トルクカム44を初期位置に戻すことができる。以下では、まず移動状態推定装置10が実行する、セカンダリ油圧室39内の油圧に基づくトルクカム44の位置TSの推定方法について説明する。
ECU50は、各制御弁DS1、DS2の閉動作時のセカンダリ油圧室39内の油圧Pd、トルクカム44の移動後のセカンダリ油圧室39内の油圧Pd´との差圧に基づいてトルクカムの位置を推定する。以下では、各制御弁DS1、DS2が閉動作し、遮断状態が開始されたときのセカンダリ油圧室39内の油圧Pdを「初期油圧」とする。また、初期油圧Pdと、遮断状態が開始された後のセカンダリ油圧室39内の油圧Pd´との油圧変動量(Pd−Pd´)を「油圧変動量ΔPd」とする。
ECU50は、圧力検出装置53に接続されている。圧力検出装置53はセカンダリ油圧室39内の油圧を検出する装置であって、その検出結果を示す信号はECU50へ入力される。ECU50は、例えば図5のように油圧変動量ΔPdと、トルクカム44の移動量ΔTSを対応させたマップに基づいて、トルクカム44の移動量ΔTSを推定する。
なお、移動量ΔTSは、遮断状態が開始されたときのトルクカム44の位置TSと、遮断状態が開始された後の位置TSとの差分である。以下では、位置TSの差分である移動量ΔTSを、相対移動量ΔTSとする。遮断状態が開始されたときにトルクカム44が初期位置にあれば、トルクカム44は相対移動ΔTS分だけ移動することになるから、トルクカム44の位置TSと相対移動量ΔTSが一致する。以降、遮断状態が開始されたときのトルクカム44の位置TSに対し、油圧変動量ΔPdに基づき推定される相対移動量ΔTSを加えたものが、最新の位置TSとなる。その後、再度遮断状態が開始され、油圧変動量ΔPdが発生した場合、前回の位置TSに相対移動量ΔTSを加えることで、都度、位置TSを更新してゆく。
図5は、油圧変動量ΔPdの大きさとトルクカム44の相対移動量ΔTSの大きさとの対応関係をマップにして示したものである。油圧変動量ΔPdの大きさが大きい場合のトルクカム44の相対移動量ΔTSの大きさは、油圧変動量ΔPdの大きさが小さい場合のトルクカム44の相対移動量ΔTSの大きさよりも大きい。ここで、油圧変動量ΔPdが負の値の場合、つまり、初期油圧Pdに対してその後の検出油圧Pd´が増加している場合は、第1カム45と第2カム46とが軸方向に離間する相対移動量ΔTSが生じているものと推定される。
一方、油圧変動量ΔPdが正の値の場合、すなわち初期油圧Pdに対してその後の検出油圧Pd´が減少している場合は、第1カム45と第2カム46とが軸方向に接近する相対移動量ΔTSが生じていると推定される。
また、相対移動量ΔTSの大きさが最大値εとなる油圧変動量ΔPdが定められている。この最大値εは、例えばトルクカム44の係合が開放されない位置TSの範囲で予め定められた許容最大移動量である。これにより、ECU50は、検出されたセカンダリ油圧室39内の油圧Pd´に基づいて、トルクカム44の移動量TSが許容最大移動量εに対しどの程度の余裕があるか、言い換えると、あとどれだけ挟圧力増幅分を発揮することができるか、を算出することができる。
図6は、本実施形態の動作を示すフローチャートであって、ECU50は、図6に示す制御フローに基づいてトルクカム44の相対移動量ΔTSを推定する。ECU50は、この制御フローを例えば4msec毎に実行する。
まず、ステップS101では、ECU50により、各制御弁DS1、DS2の閉動作がなされる。調圧バルブとしての供給用制御弁DS1および排出用制御弁DS2がそれぞれ閉塞状態とされることで、セカンダリ油圧室39に対する作動油の給排が遮断される遮断状態が開始される。ステップS101が実行されると、ステップS102へ進む。
ステップS102では、ECU50により、初期油圧Pdが取得される。ECU50は、圧力検出装置53の検出結果に基づいてセカンダリ油圧室39内の油圧を取得する。ここで取得されるセカンダリ油圧室39内の油圧は、各制御弁DS1、DS2の閉動作を実行した直後のセカンダリ油圧室39内の油圧である。ステップS102が実行されると、ステップS103へ進む。
ステップS103では、ECU50により、セカンダリ油圧室39内の油圧Pd´が取得される。ECU50は、所定の間隔で繰り返しセカンダリ油圧室39内の油圧Pd´を取得し、セカンダリ油圧室39内の油圧をモニタする。ステップS103が実行されると、ステップS104へ進む。
ステップS104では、ECU50により、ステップS103で取得した油圧Pd´と初期油圧Pdとが異なるか否かが判定される。ステップS104では、初期油圧Pdに対してセカンダリ油圧室39内の油圧が変動したか否かが判定される。セカンダリ油圧室39内の油圧が初期油圧Pdに対して変動している場合、トルクカム44の相対移動量ΔTSが変化したと推定される。ステップS104の判定の結果、ステップS103で取得した油圧Pd´と初期油圧Pdとが異なると判定された場合(ステップS104において「Yes」と判定された場合)ステップS105へ進み、そうでない場合(ステップS104において「No」と判定された場合)本制御フローは終了する。
ステップS105では、ECU50により、トルクカム44の相対移動量ΔTSが判定される。ECU50は、例えば図5を参照して説明したように、油圧変動量ΔPdに基づいて相対移動量ΔTSを推定することができる。ステップS105が実行されると、本制御フローは終了する。このようにして推定された相対移動量ΔTSを、遮断状態開始時の位置TSに加えることで、トルクカム44の現在の位置TSを推定することができる。
次に、移動状態推定装置10により、トルクカム44を初期位置へ戻す方法について説明する。図7は、本実施形態の動作を示すフローチャートであって、ECU50は、図7に示す制御フローに基づいて、トルクカム44を初期状態へ戻す初期化制御を実行する。ECU50は、この制御フローを例えば8msec毎に実行する。
まず、ステップS201では、現在の位置TSが、所定位置TS´を越えているか否かが判定される。所定位置TS´は、トルクカム44が移動し得る最大位置TSmax(つまり、第1カム45と第2カム46とが最も離間した状態)よりも小さい値であって、所定位置TS´を越えるまではトルクカム44に過大トルクが入力された場合でも、その挟圧力増幅分によってベルト34の滑りを抑えることができる。言い換えると、トルクカム44は、所定位置TS´から最大位置TSmaxまで移動し切るまでに発揮することのできる挟圧力増幅分によって、想定され得る大きさの過大トルクが入力された場合でもベルト34の滑りを抑えることができる。ステップS201で現在の位置TSが所定位置TS´を越えたと判定された場合(ステップS201において「Yes」と判定された場合)ステップS202へ進み、そうでない場合(ステップS201で「No」と判定された場合)本制御フローを終了する。
ステップS202では、セカンダリプーリ33で必要となるベルト挟圧力を発生するために、セカンダリ油圧室39内に必要となる必要油圧Pd1を取得する。必要油圧Pd1は、例えば現在のエンジン1の運転状態と、それに応じて必要となるベルト挟圧力とを対応させたマップを予めECU50に記憶させておき、このマップから必要となるベルト挟圧力を読み込み、必要油圧を算出することで取得される。必要油圧Pd1を取得したら、ステップS203へ進む。
ステップS203では、ステップS202で取得した必要油圧Pd1に、トルクカム44を初期位置へ戻すために必要な押圧力を発生するために、セカンダリ油圧室39内に必要となる油圧増圧分σを加えた初期化油圧Pd0(Pd0=Pd1+σ)を算出する。トルクカム44の初期位置とは、第1カム45の突出部45bの先端が第2カム46のカム面46aと接触し、第2カム46の突出部46bの先端が第1カム45のカム面45aと接触している状態である。油圧増圧分σは、第1カム45および第2カム46のカム高さ、各カム45、46における傾斜角γ、および摩擦係数等の各カム諸元に応じて決定する。初期化油圧Pd0を算出したら、ステップS204へ進む。
ステップS204では、制御弁DS1およびDS2を開動作させ、セカンダリ油圧室39内の油圧をPd0へ上昇させるよう指示する。油圧上昇指示後、ステップS205へ進む。
ステップS205では、予め図6に示す制御フローに基づいて算出されたトルクカム44の相対移動量ΔTSを逐次取得、更新し、相対移動量ΔTSがゼロになったか否かを判定する。ΔTSがゼロでない場合(ステップS205で「No」と判定された場合)、再度移動量ΔTSを取得する。ΔTSがゼロとなった場合(ステップS205で「Yes」と判定された場合)、ステップS206へ進む。
ステップS206では、初期化油圧Pd0の供給を停止し、セカンダリ油圧室39内に供給する油圧を必要油圧Pd1へ戻す。セカンダリ油圧室39内へ初期化油圧Pd0を供給していても、トルクカム44の相対移動量ΔTSがゼロである場合、トルクカム44の位置TSが完全に初期位置まで戻ったことを意味するからである。セカンダリ油圧室39内に供給する油圧を必要油圧Pd1へ戻したら、ステップS207へ進む。
ステップS207では、ECU50が、現在のトルクカム44の位置が初期位置である(TS=0)と学習する。学習が終了したら、本制御フローは終了する。
以上に説明される本実施形態によれば、次の効果を奏することができる。セカンダリ油圧室39内に初期化油圧Pd0を供給することで、トルクカム44の位置TSを初期位置へ戻すことができるので、トルクカム44によるベルト挟圧力の増大分を最大限使用することができる。
すなわち、トルクカム44の位置TSが所定位置TS´を越えた場合、トルクカム44の位置TSを初期位置に戻す。これにより、トルクカム44が移動可能である残り量を常に一定値(TSmax−TS´)以上保つことができ、過大トルクが入力された場合でもトルクカム44の挟圧力増幅分によってベルト34の滑りを抑えることができる。その結果、無段変速機3で生じる動力損失を抑えることができ、ベルト34の耐久性も向上させることができる。
また、初期化油圧Pd0を供給している最中にトルクカム44の相対移動量ΔTSがゼロになった場合、既にトルクカム44の位置TSは初期位置に戻ったと判断できるので、その時点で初期化油圧Pd0の供給を停止し、セカンダリ油圧室39内の油圧をPd1まで低下させることができる。これにより、高油圧を不必要に供給することを抑え、燃費を向上させることができる。
また、初期化油圧Pd0の供給が停止した時点におけるトルクカム44の位置TSが、トルクカム44の初期位置であると学習することで、トルクカム44の作動中に、例えば悪路走行時に発生するショック等による予期せぬ外乱が加わり、セカンダリ固定シーブ36とセカンダリ可動シーブ37との間に捩れが生じると推定される位置TSに誤差が含まれる虞があるが、所定位置TS´を越えた場合は初期位置まで強制的に戻すので、上記のような誤差を一定期間ごとにリセットすることができる。
なお、ステップS205における判定方法は、相対移動量ΔTSに基づくものではなく、セカンダリ油圧室39内の油圧増加傾向に基づいて判定する方法でもよい。具体的には、ステップS204にて油圧の上昇を指示した後、ステップS205では、圧力検出装置53によってセカンダリ油圧室39内の油圧Pd´を常時検出すればよい。油圧上昇の指示後、しばらくは、図8に示すようにトルクカム44の位置TSは初期位置へ向けて減少し続ける。この間、セカンダリ油圧室39内に供給される油圧は、トルクカム44への押圧力としてトルクカム44を初期位置へ戻すために消費されるため、セカンダリ油圧室39内の油圧Pd´はゆっくりと上昇する。
やがて、トルクカム44の位置TSが完全に初期位置まで戻ると、セカンダリ油圧室39内に供給される油圧はトルクカム44への押圧力として消費されることは無くなり、全てセカンダリ油圧室39内の油圧上昇分となるため、セカンダリ油圧室39内の油圧Pd´が急激に上昇する(t2)。つまり、油圧Pd´の急激な上昇が検出された時点で、トルクカム44の移動量TSが完全に初期位置まで戻ったと判断できる。
よって、セカンダリ油圧室39内の油圧増加傾向に基づいて判定する場合、油圧Pd´が急激に上昇するまで初期化油圧Pd0への上昇指示を継続し、油圧Pd´が急激に上昇したら初期化油圧Pd0への上昇指示を停止すればよい。以降、ステップS207以降は同様である。このように、セカンダリ油圧室39内の油圧増加傾向に基づいて判定した場合であっても、トルクカム44の相対移動量ΔTSに基づいて判定する場合と同様に、トルクカム44の位置TSを初期位置まで戻すことができる。
また、トルクカム44の位置TSの推定方法は、セカンダリ油圧室39内の油圧Pdに基づいて推定する方法に限らず、例えば、トルクカム44の回転位相差に基づいて推定する方法でもよい。
具体的に説明すると、トルクカム44の回転位相差に基づいて推定する場合、車両に、第1パルス検出機51および第2パルス検出機52を更に設ける。第1パルス検出機51は、トルクカム44よりもエンジン1側の回転体の回転位相を検出し、対応する信号をECU50に入力するもので、第2パルス検出器52は、トルクカム44よりも駆動輪8側の回転体の回転位相を検出し、対応する信号をECU50に入力するものである。
トルクカム44に回転位相差が生じると、第1カム45と第2カム46は、周方向に相対回転しつつ、互いに離間する。このときの回転位相差θに対応した位置TS(θ)までトルクカム44が移動したことになる。
位置TS(θ)を推定するには、第1パルス検出器51の信号と第2パルス検出器52の信号との位相差に応じたトルクカム44の位置TS(θ)をマップとして予めECU50に記憶させておき、第1パルス検出器51の信号と第2パルス検出器52の信号との位相差を算出後、このマップによって対応する位置TS(θ)を推定すればよい。このように、トルクカム44の回転位相差に基づく推定方法であっても、トルクカム44の位置TS(θ)(=位置TS)を推定することができる。
また、本実施例では、トルクカム44の位置TSが所定位置TS´を越えてから初期化油圧を供給するように構成しているが、トルクカムの位置TSに関わらず所定時間(例えば1m)毎に初期化油圧を供給するようにしてもよい。この場合、より簡単な構成でトルクカム44の位置TSを初期位置まで戻すことができるため、ECU50における処理負担を抑えることができる。