JP5892319B2 - 表面被覆wc基超硬合金製切削工具 - Google Patents
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従来の被覆超硬工具においては、高切削速度などの高負荷の切削条件に対応するため、工具の靭性向上、耐摩耗性向上が求められており、このような課題を解決すべく、種々の提案がなされている。
また、例えば、特許文献2に示すように、被覆超硬工具の基体表面に厚さ0.5〜5μmの、4a、5a、6a族の炭窒化物相からなる硬化層を形成し、さらに、その硬化層直下に厚さ5〜100μmの、内部に比し結合相の富化した領域を形成することによって、基体表面近傍の炭窒化物相により耐摩耗性を確保しつつ、同時に、炭窒化物相による靭性低下を、結合相富化領域でカバーすることが提案されている。
(a)被覆超硬工具の工具基体逃げ面側で、工具基体表面から1〜50μmの深さ領域におけるTi、Zr、NbおよびTaの合計含有割合が、工具基体内部のTi、Zr、NbおよびTaの合計含有割合より大となっており、さらには、工具基体表面から1〜5μmの深さ領域におけるTi、Zr、NbおよびTaの合計含有割合が、工具基体内部のTi、Zr、NbおよびTaの合計含有割合の2〜5倍である、
(b)被覆超硬工具の工具基体逃げ面側で、工具基体表面から10〜50μmの深さ領域におけるCo含有割合は、工具基体内部のCo含有割合より小さい、
(c)被覆超硬工具の工具基体すくい面側で、工具基体表面から10〜50μmの深さ領域におけるCo含有割合は、工具基体内部のCo含有割合より大である、
上記(a)〜(c)が全て満足されている場合には、耐剥離性、耐摩耗性、耐欠損性が大幅に改善されること、そして、このような被覆超硬工具を、黒皮偏肉部を有するステンレス鋼、合金鋼、炭素鋼製の大型鍛造部品の高速切削加工に用いた場合には、工具寿命が大幅に改善されることを見出したのである。
なお、本発明でいう「工具基体内部」とは、工具基体表面から500μm以上の深さの領域をいう。
「(1) 硬質相成分としてWCを含有し、さらに、Ti、Zr、NbおよびTaのうちの1種または2種以上の炭化物、窒化物、炭窒化物、炭酸化物、窒酸化物、および炭窒酸化物、のうちの1種または2種以上を含有し、結合相成分としてCoを含有するWC基超硬合金を工具基体とし、該工具基体表面に蒸着層からなる硬質被覆層が形成された表面被覆WC基超硬合金製切削工具において、
(a)上記工具基体の逃げ面側で、工具基体表面から1〜50μmの深さ領域におけるTi、Zr、NbおよびTaの合計含有割合は、工具基体内部のTi、Zr、NbおよびTaの合計含有割合より大であって、しかも、工具基体表面から1〜5μmの深さ領域におけるTi、Zr、NbおよびTaの合計含有割合は、工具基体内部のTi、Zr、NbおよびTaの合計含有割合の2〜5倍であり、
(b)上記工具基体の逃げ面側で、工具基体表面から10〜50μmの深さ領域におけるCo含有割合は、工具基体内部のCo含有割合より小さく、
(c)上記工具基体のすくい面側で、工具基体表面から10〜50μmの深さ領域におけるCo含有割合は、工具基体内部のCo含有割合より大であり、
(d)上記工具基体表面直上の硬質被覆層は、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、窒酸化物層、および炭窒酸化物層のいずれかの層である、
ことを特徴とする表面被覆WC基超硬合金製切削工具。
(2) 上記WC基超硬合金は、Coを5〜12質量%、Ti、Zr、NbおよびTaのうちの1種または2種以上の炭化物、窒化物、炭窒化物のうちの1種または2種以上を5〜30質量%含有することを特徴とする請求項1に記載の表面被覆WC基超硬合金製切削工具。」
を特徴とするものである。
逃げ面基体表面から1〜50μmの深さ領域におけるTi、Zr、NbおよびTa成分は、耐摩耗性および耐剥離性の向上に不可欠であり、この領域におけるTi、Zr、NbおよびTaの合計含有割合が、内部のそれより大となると、耐摩耗性および耐剥離性が向上する。このことから、工具基体の逃げ面側で、工具基体表面から1〜50μmの深さ領域におけるTi、Zr、NbおよびTaの合計含有割合は、工具基体内部のTi、Zr、NbおよびTaの合計含有割合より大であると規定した。ただし、逃げ面基体表面から1〜5μmの深さ領域において、Ti、Zr、NbおよびTaの合計含有割合が5倍を超えると、Coの含有量の減少と相まって、逃げ面側の基体表面の靭性が不十分となり微小なチッピングが発生しやすくなる。また2倍未満になると、十分な耐摩耗性が確保できない。このことから、逃げ面基体表面から1〜5μmの深さ領域におけるその合計含有割合を2〜5倍と規定した。
逃げ面基体表面から10〜50μmの深さ領域におけるCo成分の低減は、耐摩耗性の向上に不可欠であり、逃げ面基体表面から10〜50μmの深さ領域におけるCo含有量が工具基体内部のそれより低くなると、耐摩耗性が向上する。このことから、工具基体の逃げ面側で、工具基体表面から10〜50μmの深さ領域におけるCo含有割合は、工具基体内部のCo含有割合より小であると規定した。
すくい面基体表面から10〜50μmの深さ領域におけるCo成分は、耐欠損性の向上に不可欠であり、すくい面基体表面から10〜50μmの深さ領域におけるCo含有量が工具基体内部のそれより高くなると、耐欠損性が向上する。このことから、工具基体のすくい面側で、工具基体表面から10〜50μmの深さ領域におけるCo含有割合は、工具基体内部のCo含有割合より大であると規定した。
基体表面と硬質被覆層との付着度向上は、耐剥離性の向上に不可欠であるが、基体表面から1〜5μmの深さ領域におけるTi、Zr、NbおよびTaの合計含有割合を向上させると、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、窒酸化物層、および炭窒酸化物層との付着度が向上することが本研究において明らかとなり、このことから、工具基体表面直上の硬質被覆層を、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、窒酸化物層、および炭窒酸化物層のいずれかの層と規定した。Ti、Zr、NbおよびTaの合計含有割合を向上による付着度向上の理由としては、硬質被覆層を構成するTi化合物層とTi、Zr、Nb、Ta等の化合物が同系結晶構造(立方晶構造)を有するためと考えられる。
WC基超硬合金の主たる結合相成分であるCoは、硬質相成分と強固に結合し、基体の強度および靭性を向上させる作用があるが、その含有量が5質量%未満では前記作用に所望の効果が得られず、一方その含有量が12質量%を越えると、基体の耐摩耗性が低下するようになることから、その含有量を5〜12質量%とすることが望ましい。
また、Ti、Zr、NbおよびTaの炭化物、窒化物、炭窒化物、炭酸化物、窒酸化物および炭窒酸化物からなる硬質相成分には、基体の硬さを高めて、耐摩耗性を向上させる作用があるが、これらの硬質相成分の含有量が5質量%未満では所望の耐摩耗性向上効果が得られず、一方その含有量が30質量%を越えると基体の靭性が低下するようになることから、含有量を5〜30質量%とすることが望ましい。
一方、本発明の被覆超硬工具の工具基体すくい面側の表面近傍は、結合相成分であるCoが富化しているため、耐欠損性に優れる。
したがって、本発明の被覆超硬工具は、黒皮偏肉部を有するステンレス鋼、合金鋼、炭素鋼製の大型鍛造部品等の高速切削加工に用いた場合でも、耐剥離性、耐摩耗性、耐欠損性にすぐれ、長期の使用にわたってすぐれた切削性能を発揮することができる。
(b) このプレス成形により得た組成Aの4個の圧粉体を焼結するにあたり、800〜1400℃の温度範囲を、7000Paの窒素雰囲気下で昇温し、その後真空雰囲気中にて1400℃にて0.5時間,1時間,1.5時間,2時間保持し、急冷し、4種類の焼結体を作製した。熱処理の時間の短い順にA1、A2、A3、A4とする。この熱処理を行うことで、すくい面表面および逃げ面表面に、Co含有量が高く、Ti、Zr、NbおよびTaの合計含有量の低い、基体内部より硬さの低い軟化層が形成される。また、この軟化層の形成に伴い、軟化層直下においてCo含有量が低く、Ti、Zr、NbおよびTaの合計含有量の高い領域が形成される。
(c) その後、機械研磨にて、最終的に工具基体の逃げ面となる焼結体の構成面を約30μmの厚さで研磨して、逃げ面の軟化層を除去した。(d) 上記で得たA1〜4の4種類の焼結体を、13000Paの窒素雰囲気下にて1400℃でA1は0.5時間,A2は1時間,A3は1.5時間,A4は2時間保持する熱処理を行った後急冷した。この熱処理を行うことで、Ti、Zr、NbおよびTaのγ成分が逃げ面においては、表面に濃化され、それに伴いCoの濃度が相対的に低下する。一方で、すくい面においては、軟化層に含まれるこれらのγ成分が微量なため、この熱処理においてはこれらのγ成分の表面における濃化はほとんどない。したがってすくい面表面の濃度に変化はほとんどなく、Co含有量も上記(b)の熱処理後と同様に基体内部より高くなる。
(e)上記(d)で得た4種の焼結体を、研削にて、SNMM250924(ホーニング量0.2mm)に規定されるインサート形状およびホーニング量に加工し、本発明の4種の超硬工具基体1〜4を作製した。
(なお、配合組成Aの超硬工具基体1〜4の熱処理保持時間は、それぞれ0.5時間,1時間,1.5時間,2時間である)
表2に、それぞれの値(但し、5点測定による平均値)を示す。
被削材:黒皮偏肉部を有するJIS・SUS316の丸棒鍛造品、
切削速度:150m/min.、
切り込み:0−15mm、
送り:1.3mm/rev.、
の条件(切削条件Aとする)での黒皮偏肉部を有するステンレス鋼鍛造品の乾式切削加工試験を行い、
上記いずれの切削試験においても、逃げ面摩耗量が0.6mmに達するまでの時間を寿命とし、その切削時間を測定した。
表4に、寿命に至るまでの切削時間と硬質被覆層の損傷状況を示す。
これに対して、比較例の被覆超硬工具9においては、偏摩耗の発生により、工具寿命が短命であることは明らかである。
(b)このプレス成形により得た組成Bの4個の圧粉体を焼結するにあたり、真空雰囲気中にて1200℃にて1.5時間保持し、急冷して、焼結体を作製した。
(c)上記で得た配合組成Bの4個の焼結体それぞれに、Coを上記(a)の基体の組成より増加させた、表5に示される組成の配合粉末と溶剤にて得られたスラリーを逃げ面に付着しないようにして、すくい面にのみ塗布した。次に、Coを上記(a)の基体の組成より低減させ、ZrC、TaC、NbCを上記(a)の基体の組成より増加させた、表5に示される組成の配合粉末と溶剤にて得られたスラリーをすくい面に付着しないようにして、逃げ面にのみ塗布した。次に焼結体に塗布したスラリーを乾燥させた。4個の焼結体には各々組成の異なる配合粉末にて作製したスラリーを塗布し、その組成は表5に示す通りである。この4種の、スラリーを塗布した焼結体をB1、B2、B3、B4とした。
(d)上記(c)で得た表面にスラリーを塗布した4種の焼結体B1、B2、B3、B4を真空雰囲気中にて1400℃にて1.5時間保持し、急冷して、4種の再焼結体B1、B2、B3、B4を作製した。
(e)上記(d)で得た4種の焼結体B1、B2、B3、B4を、研削にて、SNMM250924(ホーニング量0.2mm)に規定されるインサート形状およびホーニング量に加工し、本発明の4種の超硬工具基体5〜8を作製した。
(なお、配合組成Bの超硬工具基体5〜8はその数字の順に、スラリーを塗布した4種の焼結体B1、B2、B3、B4をそれぞれ再焼結したものである)
表2に、それぞれの値(但し、5点測定による平均値)を示す。
被削材:黒皮偏肉部を有するJIS・SCM440の丸棒鍛造品、
切削速度:160m/min.、
切り込み:0−15mm、
送り:1.5mm/rev.、
の条件(切削条件Bとする)での黒皮偏肉部を有する合金鋼鍛造品の乾式切削加工試験を行い、
上記切削試験において、逃げ面摩耗量が0.6mmに達するまでの時間を寿命とし、その切削時間を測定した。
表6に、寿命に至るまでの切削時間と硬質被覆層の損傷状況を示す。
チッピング、欠損等の異常損傷の発生もなく、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮することが分かる。
これに対して、比較例の被覆超硬工具10においては、偏摩耗の発生により、比較例の被覆超硬工具11においては、欠損の発生により工具寿命が短命であることは明らかである。
Claims (2)
- 硬質相成分としてWCを含有し、さらに、Ti、Zr、NbおよびTaのうちの1種または2種以上の炭化物、窒化物、炭窒化物のうちの1種または2種以上を含有し、結合相成分としてCoを含有するWC基超硬合金を工具基体とし、該工具基体表面に蒸着層からなる硬質被覆層が形成された表面被覆WC基超硬合金製切削工具において、
(a)上記工具基体の逃げ面側で、工具基体表面から1〜50μmの深さ領域におけるTi、Zr、NbおよびTaの合計含有割合は、工具基体内部のTi、Zr、NbおよびTaの合計含有割合より大であって、しかも、工具基体表面から1〜5μmの深さ領域におけるTi、Zr、NbおよびTaの合計含有割合は、工具基体内部のTi、Zr、NbおよびTaの合計含有割合の2〜5倍であり、
(b)上記工具基体の逃げ面側で、工具基体表面から10〜50μmの深さ領域におけるCo含有割合は、工具基体内部のCo含有割合より小さく、
(c)上記工具基体のすくい面側で、工具基体表面から10〜50μmの深さ領域におけるCo含有割合は、工具基体内部のCo含有割合より大であり、
(d)上記工具基体表面直上の硬質被覆層は、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、窒酸化物層、および炭窒酸化物層のいずれかの層である、
ことを特徴とする表面被覆WC基超硬合金製切削工具。 - 上記WC基超硬合金は、Coを5〜12質量%、Ti、Zr、NbおよびTaのうちの1種または2種以上の炭化物、窒化物、炭窒化物のうちの1種または2種以上を5〜30質量%含有することを特徴とする請求項1に記載の表面被覆WC基超硬合金製切削工具。
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