JP5889742B2 - 超音波探傷装置及びその方法 - Google Patents

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Description

本発明は、超音波探傷装置およびその方法に関する。
超音波探傷試験は、非破壊で構造材の表面および内部の健全性を確認できる技術であり、様々な分野で欠かせない検査技術である。特に近年は、曲面などの複雑な表面形状を有する構造物に対する検査要求があり、超音波探傷への技術的要求が高度化している。
検査対象が複雑な表面形状を有する場合、超音波を検査対象へ適切に入射できないという課題がある。例えば、溶接線およびその熱影響部においては、溶接の入熱によるひずみや傘折れが生じたり、溶金を盛ったあとに凸形状が生じたりして、設計上は平坦とすべき箇所が意図に反し非平面形状となってしまうことがある。
また、例えば原子力発電プラントや火力発電プラントのノズル管台に代表される各種配管構造物や、タービン翼のプラットフォーム部は、設計段階から複雑形状を有し、設計どおりに製造された場合であっても、検査が困難である。これらを超音波探傷試験の検査対象とした場合、超音波は検査対象へ入射できないか、或いは、超音波は入射できても、目標とする探傷屈折角が得られないことがある。
これに対し、フェーズドアレイ(PA)は、小型の超音波センサを並べ、各センサでタイミング(遅延時間)をずらして超音波発信することにより任意の波形を形成する技術である。フェーズドアレイは、所定の角度しか超音波を発信できない単眼プローブに比べて複雑形状に対応できる可能性がある。
しかし、このフェーズドアレイ技術では、形状を反映した遅延時間を対象ごとに計算しなければならない。反映する形状も図面上の値だけでなく、As Build(設計での現場の状況に合わせて作成した図面や解析データ)の値である必要がある。そのため、複雑形状部に超音波探傷を実施するには、曲率に合わせて超音波を制御(遅延時間を計算)する技術だけでなく、対象の表面形状を高精度に測定する技術が必要となる。
これらの課題を解決するために、従来、検査対象の表面形状を超音波プローブにより計測し、計測した形状に応じてPAの送信遅延時間を最適化し検査する手法が提案されている(例えば、特許文献1参照)
特開2007−170877号公報
しかしながら、特許文献1には、検査対象の表面形状に応じ、超音波の遅延時間条件を最適化することしか言及されていない。従って、リニアスキャンに代表される、シーケンシャルに使用する素子を移動させていく電子スキャンを用いた場合、焦点に対して使用する素子が固定されるため、意図せぬ入射点から超音波が入ってしまうという課題がある。また、死角となる素子が使用され、検査箇所に超音波が到達しないという課題がある。
一方、表面形状に応じて超音波を入射することで、超音波の入射角が変化する問題には対応できるが、探傷結果を表示する際に、表面形状の影響を考慮せずに解析を行った場合表示される探傷結果では、実際の探傷位置とは異なる箇所に欠陥の指示エコーが表示される。
指示エコーの位置は、別途表面形状の影響を考慮して探傷結果を補正しなければ、正確に特定できず、検出位置の誤差を生じる。すなわち、探傷精度は大きく低下する。また、指示エコーが間延びして実際の欠陥と異なった形状で表示されることも考えられる。これは、検査員が表面形状の影響を考慮し、検出位置誤差を手計算で補正することにより解決可能である。しかし、検査員の負荷が増大してしまう。また、複雑な表面形状の場合、補正には高い技量が要求される。
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、被検査対象の表面形状によらずに、高い検出精度を得ることができる超音波探傷装置およびその方法を提供することを目的とする。
上述の課題を解決するために提供される本発明の超音波探傷装置一実施形態は、検査対象に超音波を入射し、その検査対象からの反射超音波を受信する超音波プローブと、前記超音波プローブに超音波を入射し、前記超音波プローブからの反射超音波を制御するために複数の超音波素子を駆動制御する駆動素子制御部と、前記超音波が前記検査対象に入射したときの屈折角度と、前記検査対象表面上の前記超音波の入射位置と、前記入射位置における前記検査対象の表面の表面形状とを用いて、前記入射位置に前記超音波が入射する入射角度を求め、前記入射位置と前記入射角度とに基づいて、駆動させる複数の超音波素子を求める演算部と、を備え、前記演算部は、表面形状が平面である前記検査対象に用いられる探傷条件で前記超音波素子を駆動した場合の前記屈折角度と前記超音波の焦点とに基づいて、前記入射位置を演算して求めることを特徴とする。
また、上述の課題を解決するために提供される本発明の超音波探傷方法の一実施形態は、複数の超音波素子を駆動して検査対象に超音波を入射し、その検査対象からの反射超音波を受信し、前記超音波が前記検査対象に入射したときの屈折角度と、前記検査対象表面上の前記超音波の入射位置を決定し、前記入射位置における前記検査対象の表面の表面形状を取得し、前記屈折角度と、前記入射位置と、前記表面形状に基づいて、前記入射位置に前記超音波が入射する入射角度を求め、前記入射位置と前記入射角度とに基づいて、駆動させる複数の超音波素子を求める素子決定する、ことを特徴とする。
本発明の実施形態に係る超音波探傷装置およびその方法においては、被検査対象の表面形状によらずに、高い検出精度を得ることができる。
本発明に係る超音波探傷装置の一実施形態の構成を示す機能ブロック図。 一般的な探傷例を示す説明図。 一般的な探傷結果の再構成例を示す説明図。 一般的な探傷方法を示すフローチャート。 配管の表面に曲面が形成されている場合の探傷検査の説明図。 配管の表面形状を考慮せず探傷した場合の超音波伝搬経路を示す説明図。 配管の表面形状を考慮して探傷した場合の超音波伝搬経路を示す説明図。 本実施形態における超音波探傷装置で探傷した場合の超音波伝搬経路を示す説明図。 本実施形態における超音波探傷装置の探傷方法の概要を説明するフローチャート。 本実施形態における超音波探傷装置により実施される探傷条件設定処理を説明するフローチャート。 超音波が配管内部で伝播する状態を示す説明図。 超音波探傷装置が同時駆動素子の中心座標Ecなどを求める際の説明図。 本実施形態における超音波探傷装置により得られる位相整合波形Uj(t)の一例を示す説明図。 超音波プローブが走査を行う際の説明図。 配管表面の傾きθjを求める際の説明図。 配管表面の傾きθを求める際の他の説明図。 飛行時間法を用いた表面形状関数の測定方法の説明図。 開口合成を用いた表面形状関数の測定方法の説明図。 図17および図18の方法により求められた表面形状関数と真値との比較を示すグラフ。 表面形状を平面として超音波の強度を所定条件下でシミュレーションした結果を示す図。 表面形状を曲面として超音波の強度を所定条件下でシミュレーションした結果を示す図。 検査対象の表面形状を考慮せず再構成を行った結果を示す図。 検査対象の表面形状を考慮して再構成を行った結果を示す図。 配管の表面形状の違いにより感度の違いが発生する場合の説明図。 配管の表面形状に応じて超音波Uのゲインを調整する場合の説明図。 配管の表面形状に応じて超音波駆動素子数を調整する場合の説明図。 配管の表面形状を考慮せず超音波探傷にセクタスキャンを適用した場合の説明図。 配管の表面形状を考慮して超音波探傷にセクタスキャンを適用した場合の説明図。
本発明に係る超音波探傷装置およびその方法の一実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る超音波探傷装置の一実施形態の構成を説明する機能ブロック図である。本実施形態においては、検査対象は配管2であり、配管2の欠陥部分を超音波により探傷する場合を例に説明する。図1における一点鎖線は、配管中心を示す。
本実施例の超音波探傷装置は、基本構成として、超音波プローブと、この超音波プローブと関連して、超音波送受信部及び駆動素子の制御を行う駆動素子制御部と、上記駆動素子の制御情報を算出する演算部とから成る。
より詳細には、超音波探傷装置1は、超音波プローブ11と、この超音波プローブと関連して超音波の送受信を行う超音波送受信部12、駆動素子の制御を行う駆動素子制御部13と、上記駆動素子制御部13が駆動素子を制御するための情報を算出する演算部18とから成る。更には、後述するように、駆動素子制御部13に接続させて信号記録部14と、解析部15と、表示部16と、設計データベース17とを設けている。
超音波プローブ11は、超音波Uを送受信する公知の超音波探触子である。超音波プローブ11は、複数の超音波素子を駆動して音響接触媒質3を介して配管2に超音波Uを入射し、配管2からの反射超音波を受信する。音響接触媒質3は、例えば水、グリセリン、マシン油、アクリルやポリスチレンのゲルなど超音波を伝播させることができる媒質である。なお、本実施形態においては、音響接触媒質3の図示を省略する場合がある。
超音波プローブ11は、超音波素子が一次元的に配列された、一般的にリニアアレイセンサと呼ばれるものである。
超音波プローブ11は、例えば、超音波を発生させる機構と、超音波をダンピングするダンピング材と、超音波の発振面に取り付けられる前面板とを有する。超音波を発生させる機構は、例えば、セラミックス製、セラミックス複合材料、その他圧電効果により超音波を発生させる圧電素子や、高分子フィルムによる圧電素子である。
なお、超音波プローブは、リニアアレイセンサの奥行き方向に素子を不均一な大きさで分割した1.5次元アレイセンサ、素子が2次元的に配列されたマトリクスアレイセンサ、リング状の素子が同心円状に配列されたリングアレイセンサでもよい。また、超音波プローブは、リングアレイセンサの素子を周方向で分割した分割型リングアレイセンサ、素子がランダムに配置されたランダムアレイセンサ、円弧の周方向位置に素子を配置した円弧状アレイセンサ、球面の表面に素子を配置した球状アレイセンサ、その他アレイセンサでもよい。
以下、個々の上記構成要素の機能を説明する。超音波送受信部12は、超音波プローブ11接続され、超音波の送受信を司る。駆動素子制御部13は、演算部18が算出し超音波素子の駆動制御情報に基づき、超音波送受信部12で実際に駆動させる超音波素子を制御する。駆動素子制御部13には、送受信感度調整部21と遅延制御部22とが含まれる。この内、送受信感度調整部21は、超音波送受信部12からの超音波の送受信感度を調整し、一方、遅延制御部22は、複数の超音波素子をそれぞれ任意の時間での発振を制御する。
更に、信号記録部14は、駆動素子制御部13で受信した受信信号(超音波信号)を記録する。
解析部15は、信号記録部14に記録された受信信号を解析して探傷結果を算出する。具体的には、解析部15は、超音波が入射する配管2の表面情報に基づいて求めた超音波の伝搬経路に基づいて、探傷結果を算出する。すなわち、解析部15は、超音波が入射する位置の配管2の表面と超音波プローブ11との相対角度を用いて、超音波の伝搬経路を求める。
表示部16は、解析部15により得られた探傷結果を表示する。解析部15に接続される設計データベース17は、設計段階における配管2の表面形状のデータを予め記録する。
なお、超音波探傷装置1は、複数の圧電素子からなる超音波プローブに対して遅延時間を付与し、超音波の送受信を制御するものであればこの構成に限らない。また、フェーズドアレイなどの複数の圧電素子を用い超音波の送受信遅延制御を行う探傷方法は、公知であるため詳細な説明を省略する。
超音波プローブ11の設置に際し、指向性の高い角度を利用するために楔を利用してもよい。楔は、超音波が伝播可能で音響インピーダンスが把握できている等方材である。楔は、例えば、アクリル、ポリイミド、ゲル、その他の高分子材料からなる。また、楔内の多重反射波が探傷結果に影響を与えないよう、楔内外にダンピング材を配置したり、山型の波消し形状を設けたり、多重反射低減機構を有したりしてもよい。
次に、基本的なフェーズドアレイ(Phased Array:PA)を用いた探傷方法を説明する。
図2は、基本的な探傷例を示す説明図であり、図3は、基本的な探傷結果の再構成例を示す説明図である。
図2、図3において、配管2内部に超音波Uを任意の探傷屈折角βおよび焦点位置で入射させるため、PAの超音波プローブ11に設けられた複数個の超音波素子(圧電素子)に適切な時間遅延を付与して発振させる。これにより、超音波の方向や焦点位置が制御される。
配管2内部に欠陥などの反射源が存在すると、配管2に入射された超音波Uは、反射、散乱する。その反射された超音波は、超音波プローブ11の超音波素子で受信される。受信された超音波波形は、設定した超音波の入射角αと探傷屈折角βに応じて、電子スキャン方向に画像化される。
この画像化は、一般的にB−scanやS−scanと呼ばれる。図3に示すように、画像は、探傷時の探傷条件に応じた入射角αや探傷屈折角βにより再構成される。以下の説明は、B−scanを用いて説明する。
次に、基本的な探傷方法を、図4のフローチャートを用いて説明する。
まず、配管2に対する探傷屈折角βや焦点位置などの探傷条件に応じて、遅延時間が算出される(ステップS1)。次いで、配管2の上に超音波プローブ11が設置され、走査が開始される(ステップS2)。
走査に応じて、配管2が探傷され(ステップS3)、探傷屈折角βなどの探傷条件に応じて得られた超音波波形のデータが再構成され、B−scanが作成される(ステップS4)。その後、再度配管2上の検査位置が変更され、設置・操作ステップS2〜再構成ステップS4が繰り返される。
ここで、配管2の表面に、溶接金属の余盛や研削によるうねり(部分的な曲面)のような曲面が生じていた場合(図5)、または、そもそも配管2が非平面だった場合、平面条件と想定した探傷条件で探傷ステップS3および再構成ステップS4を実施すると、超音波は想定した角度で入射されない。また、検査結果に誤差が生じる。
図5は、配管2の表面に曲面2aが形成されている場合の探傷検査の説明図である。
探傷条件が図2に示すように平面の条件で計算されていた場合、超音波プローブ11のどの位置からも入射角αにより探傷される。このため、超音波が、うねりなどの曲面2aを有する配管2表面に入射される場合、スネルの法則から探傷屈折角βが固定されず、超音波の伝搬経路は入射位置に応じて様々な変化を生じる。
これにより、想定した超音波で探傷ができないだけでなく、入射角αによっては超音波を配管2に入射できない。また、超音波受信信号を評価する場合においても、配管2の表面形状を考慮せず平面条件で再構成すると、実際の超音波の伝搬経路と乖離が生じてしまう。
この点について、さらに詳細に説明する。
図6は、配管2の表面形状を考慮せず探傷した場合の超音波伝搬経路を示す説明図である。図7は、配管2の表面形状を考慮して探傷した場合の超音波伝搬経路を示す説明図である。
図6に示すように、超音波Uは、配管2の表面を平面形状として想定した条件で送信される。この場合、入射角αは一定となるが、入射した超音波は表面形状の影響を受けて探傷角βが一定とならず想定とは異なる経路をたどる。再構成で得られる欠陥位置は、実際の配管2に生じる欠陥の位置に対して誤差を生じ、探傷結果の評価において誤差や見逃しの原因となる。
図7においては、配管2の表面形状が考慮され、超音波が配管2の焦点Fに入射するように遅延時間が制御される。一般的なリニアスキャンでは、同時に使用される超音波素子(同時駆動素子)の組み合わせが予め決められる。この同時駆動素子は、シーケンシャルに移動する。探傷の条件における定数は、超音波のスタート地点である同時駆動素子の中心位置Ecと、ゴール地点である配管2内の焦点Fの2点となり、パラメータは入射点Sとなる。
すなわち、この場合でも探傷屈折角βは必ずしも一定にはならず、「探傷屈折角βが一定下で探傷試験を行う」という、規格(例えばJIS)にも採用されている超音波試験に対する一般的な要求を満たさない。また、配管2の表面形状によっては、入射が困難な素子が強制的に使用されることになる場合もあり、十分な強度の超音波が入射できない可能性がある。
上記のような超音波探傷技術に対して、本実施形態における超音波探傷装置1は、配管2の表面形状を考慮した上で、超音波を配管2に好適に入射させ、かつ探傷屈折角βを一定にすることができる。
即ち、本実施形態における超音波探傷装置1で探傷した場合の超音波伝搬経路を、図8を参照して説明する。
図8において、超音波探傷装置1は、演算部18により超音波素子の制御情報を算出し、それに基づいて駆動素子制御部13により超音波素子を駆動させることで探傷を行う。具体的には、配管2の既知の表面形状と所望の探傷屈折角βから入射点Sおよび焦点Fを定数とし、同時駆動素子の中心位置Ecをパラメータとして最適な超音波素子を逆算する。超音波探傷装置1は、求められた超音波素子を使用し、それらの超音波素子の遅延時間を制御して探傷を行う。超音波探傷装置1は、これにより、常に探傷屈折角βを一定に維持できる。
ここで、本実施形態における超音波探傷装置1の探傷方法を説明する。
図9は、本実施形態における超音波探傷装置1の探傷方法の概要を説明するフローチャートである。
まず、超音波プローブ11が配管2に設置され、走査が開始し(ステップS11)、形状計測装置を用いて配管2の表面形状が計測する(ステップS12)。表面形状は、As Buildの形状を計測したものでもよいし、設計データベース17に格納された設計データをインポートしたものでもよい。形状取得ステップS12の詳細は後述する。
次いで、ステップS13において、遅延制御部22は、表面形状に最適な超音波素子の遅延時間を算出し、超音波プローブ11は配管2を探傷し(ステップS14)、表面形状に応じた超音波データが再構成され、B−scanが作成する(ステップS15)。
なお、探傷結果再構成領域Mの作成には、超音波信号Ujから探傷結果Mへの位置を計算する場合と、探傷結果Mの座標点から、各座標に対応する超音波信号Ujの位置を算出する方法の両方が考えられる。
その後、探傷が終了するまで設置ステップS11〜再構成ステップS15が繰り返される。
次に、探傷に使用される同時駆素子の中心座標(図8の中心位置Ec)を求める処理について説明する。
図10は、本実施形態における超音波探傷装置1により実施される探傷条件設定処理を説明するフローチャートである。図11は、超音波が配管2内部で伝播する状態を示す説明図である。図12は、超音波探傷装置1が同時駆動素子の中心座標Ecなどを求める際の説明図である。
本実施形態においては、リニアアレイ探触子を代表例として説明するため、各座標情報は全て2次元(x,z)で表記する。マトリクスアレイなど2次元的に圧電素子が配列された探触子を用いる場合は、3次元(x,y,z)で設定される。
各素子の座標をEi(x,z)(i=1,2,…,N)とし、同時駆動素子の個数をn(1≦n≦N)とすると、探傷においては、素子座標Eiから素子座標Ei+nまでの素子が使用される。同時駆動素子全体の素子中心座標をEc(x,z)とする。ここで、配管2の表面形状の座標を表面形状関数S(x,z)で与える。表面形状関数S上では、探傷のシーケンスj(パタン)をm回まで実施し、超音波を集束する焦点をFj(x,z)とする。
焦点Fjは、同時駆動素子の中心座標(中心座標)Ecから入射角αで仮定された平面に入射し、探傷屈折角βで屈折した超音波が設定された深さで集束する焦点とする。焦点Fjを通る探傷屈折角βの直線が表面形状関数Sと交わる表面形状座標をSj(入射点Sj)とする。表面形状座標Sjにおける配管2表面の傾き(超音波プローブ11と配管2表面との相対角度)をθjとする。
図10に示されフローチャートに基づき、本実施形態における超音波探傷装置1により実施される探傷条件設定処理を説明する。
探傷条件設定処理工程では、まず、超音波探傷装置1は、配管表面に座標を設定する(ステップS21)。具体的には、超音波探傷装置1は、超音波プローブ11の素子座標Eiと、配管2表面形状の測定結果もしくは設計データから表面形状関数Sとを決定する。
次いで、超音波探傷装置1は、配管2の表面形状が平面だと仮定した場合に実施されるリニアスキャン(通常のリニアスキャン)で用いられる探傷条件を用い、中心座標Ecの同時駆動素子から送信される超音波の焦点Fjを算出する(ステップS22)。具体的には、超音波探傷装置1は、中心座標Ecから入射角αで超音波を送信し、平面形状である配管2に入射したと仮定したときに得られる屈折角βで配管2内を伝播し、超音波を集束させたい深さに達した点を、焦点Fjとする。
さらに、超音波探傷装置1は、屈折角βおよび焦点Fjを用いて実際の表面形状に応じた入射点Sjを算出する(ステップS23)。具体的には、超音波探傷装置1は、焦点Fjを通り屈折角βとなる直線を引き、その直線と表面形状関数Sとの交点を入射点Sjとする。さらに、超音波探傷装置1は、入射点Sjにおける傾きθjを算出する(ステップS24)。傾きθjの算出方法は、後述する。
算出された焦点Fj、屈折角β、入射点Sj、傾きθj、および既知の音響接触媒質3と配管2との音速値を用い、スネルの法則を用いて実際の入射角αj(表面形状を考慮した入射角)を算出する(ステップS25)。実際の入射角αjは、本実施形態の超音波探傷方法におけるパラメータである。
入射点Sjおよび入射角αjを用いて実際の中心座標Ecj(表面形状を考慮した同時駆動素子の中心座標)を算出する(ステップS26)。具体的には、超音波探傷装置1は、入射点Sjから角度αjの傾きを有する直線を引き、その直線と最も近い座標をとる中心座標EcをEcjとする。
次いで、中心座標Ecjを中心とするn個の素子それぞれについて、素子座標Eiから表面形状関数Sを経て焦点Fjへ至る最短距離を数値計算により算出する。超音波探傷装置1は、既知の音速からそれぞれの超音波の伝播時間を求め、最小値からの差を各素子の遅延時間として算出する(ステップS27)。
次いで、超音波探傷装置1は、算出された遅延時間を用いて探傷し、各素子で受信した波形を、遅延時間を反映して足し合わせる。これにより、超音波探傷装置1は位相整合波形Uj(t)を得る(ステップS28)。
図13は、本実施形態における超音波探傷装置1により得られる位相整合波形Uj(t)の一例を示す説明図を参照し、超音波探傷装置1は、中心座標Ecj、入射点Sj、焦点Fj、屈折角β、入射角αjおよび音響接触媒質3と配管2との音速(探傷条件)を用いて、位相整合波形Uj(t)と配管2位置情報との対応付けを行う(ステップS29)。
具体的には、超音波探傷装置1は、上述した探傷条件を用いて超音波伝播時間を計算し、探傷結果再構成領域M(x,z)に対応する位相整合波形Um(t)の強度を得る。超音波探傷装置1は、座標Mに対応する波形Umの強度をプロットすることで再構成した探傷結果が得られる。
超音波探傷装置1は、超音波プローブ11を走査して次の探傷位置に設置し、座標設定ステップS21〜対応付けステップS29を繰り返し、次の探傷位置においても同様の探傷結果を得る。
図14は、超音波プローブ11が走査を行う際の説明図である。
超音波探傷装置1は、超音波プローブ11にリニアアレイを適用した場合、アレイの並んでいる方向と直交する方向に超音波プローブ11を走査する。これにより、超音波探傷装置1は、3次元的な探傷結果を得られる。マトリックスプローブやリングアレイプローブなどの他のプローブが適用される場合についても、任意の方向に走査すれば同様の効果を得られる。
ここで、表面形状座標Sjにおける配管2表面の傾きθjを求める方法について説明する。傾きθjは、超音波プローブ11と配管2表面との相対角度である。図15を参照して、配管2表面の傾きθjを求める際の説明をする。
超音波の入射点Sjにおける傾きθjは、入射点Sjに隣接した表面形状座標Sj−1とSj+1とから算出される。傾きθjは、入射点Sjからa離れた表面形状座標Sj−aとSj+aとを用いて算出することもできる。傾きθjは、表面形状座標Sj−aからSj+aまでの各点を利用し、各点を通るように最小二乗法などの手法により直線近似することで算出することもできる。
図16は、配管2表面の傾きθを求める際の他の説明図である。
形状計測結果にノイズが生じる場合もあるため、全てのデータを用いると実際の傾きθjに対して誤差を持つθj´が算出されてしまう。このため、表面形状座標Sj−aからSj+aまでの複数点のうち、ばらつきが大きいデータ点を除去して傾きθjを算出してもよい。
また、中心座標Ecjとある表面形状座標Skと焦点Fjの位置から入射点Sjを特定する際に、表面形状関数Sの各位置における傾きθjを先に計算してもよい。この場合、中心座標Ecjとある表面形状座標Skと焦点Fjの位置に対して座標S1から座標Snまでスネルの法則で計算する。計算結果の絶対値が最小となる値を、中心座標Ecjとある表面形状座標Skと焦点Fjとの位置関係における入射点Sjとすることができる。
次に、配管2の表面形状関数Sの測定方法について図18、図19を参照して説明する。図17は、飛行時間法を用いた表面形状関数の測定方法の説明図である。図18は、開口合成を用いた表面形状関数の測定方法の説明図である。
飛行時間法は、超音波素子(素子座標Ei)から送信した超音波Uを同一の超音波素子にて受信し、受信されたエコーの伝播時間から、配管2表面の形状を再構成する手法である。
一方、開口合成法は、超音波素子(素子座標Ei)から超音波Uを送信し、反射波を素子座標E1〜ENの全素子で受信するという処理を行う。送信に用いる素子を素子座標E1〜ENまで1素子ずつ変化させ、測定したデータを用いて表面形状を測定する。このとき、全ての波形データを開口合成処理に使う必要はなく、任意のデータを選択し処理に用いてもよい。
図19は、図17および図18の方法により求められた表面形状関数と真値との比較を示すグラフである。
真値となる配管2の表面形状は、レーザ変位計により測定された。開口合成法は高い精度で測定できたが、飛行時間法は曲率部での誤差が大きくなることが確認できた。これは、飛行時間法においては、想定した音線Lではなく最短距離L´を伝搬経路とするエコーを拾ってしまうためである。このため、飛行時間法は、複雑な表面形状の測定には向かない。
しかし、開口合成法と比較してデータ量および信号処理時間は大幅に低減できるため、曲率が小さい検査対象や、超音波プローブと検査対象の相対位置把握などに使用する場合には有効である。
表面形状関数の測定には、検査対象表面に焦点を合わせた遅延時間を適用して遅延時間から表面形状を測定する方法、素子ごとに飛行時間法で得たエコーを同心円状にプロットし、その接線を結ぶ方法など、超音波プローブ11を用いて表面形状を測定する他の方法も適用できる。
本実施形態における超音波探傷装置1を用いた場合の超音波伝搬経路のシミュレーション結果について説明する。
図20は、表面形状を平面として超音波の強度を所定条件下でシミュレーションした結果を示す図である。また、図21は、表面形状を曲面として超音波の強度を所定条件下でシミュレーションした結果を示す図である。
超音波プローブ11の送信遅延条件は、探傷屈折角βを45°、焦点形成位置を配管2厚さtに対して3/4tとした。図20および図21は、曲面である配管2表面へ超音波を入射した場合の超音波の強度を音場シミュレーションにて示した。
図20に示すように、超音波は、配管2表面の平面部2bの一部から配管2内部へ入射しているものの、曲面部2aからは十分に入射できていない。一方、図21に示すように、曲面部2aに対応した送信の遅延条件にて超音波を入射した場合、超音波は、曲面部2aからも配管2内へ入射される。
超音波探傷装置1は、配管2の表面形状に応じて配管2内部の探傷条件が同等となるように、各入射点における入射角を制御することで、配管2内部の探傷条件を一定とすることができる。また、超音波探傷装置1は、図20のように探傷できなかった曲面部2aへ超音波を入射できる。
次に、溶接部のうねりを模擬し、欠陥を有する試験体を検査対象として、本実施形態における超音波探傷装置1が探傷を行い、得られた超音波信号を再構成した結果を示す。
図22は、検査対象の表面形状を考慮せず再構成を行った結果を示す図である。図23は、検査対象の表面形状を考慮して再構成を行った結果を示す図である。
これらの例では、超音波が検査対象の探傷面33に存在する曲面(うねり)33aから検査対象に付与された欠陥33bに送信される条件で探傷した。
図22に示すように、欠陥33b全体が曲面33aの影響を受ける位置となるが、検査対象の探傷面33と反対側の裏面33cに生じる欠陥33b開口部からのエコーであるコーナーエコー34の指示が円弧状に間延びしている。また、コーナーエコー34を示すピークは、裏面33cの面よりも内側に位置していることがわかる。また、欠陥33bの検査対象内部側の端部からのエコーである端部エコー35は、明確なピークを示していない。さらに、図22は、欠陥33bの存在しない位置(図左側)に、エコーを示す領域が現れている。
これに対し、図23に示すように、コーナーエコー34の位置が図22に比べて明瞭化した。また、コーナーエコー34と端部エコー35ともにピークの位置が明確となり、位置の誤差も大きく改善されている。
このように、表面形状を考慮しない再構成は、曲面部33aの影響を受ける検査対象の内部に付与された欠陥33bのコーナーエコー34および端部エコー35の指示が不明瞭であり、かつ欠陥33bの指示位置は実際の欠陥33b位置に対して誤差を生じる。
これに対し、表面形状を考慮した再構成では、欠陥33bのコーナーエコー34および端部エコー35の指示が明瞭に示され、欠陥33bの指示位置も正確である。
このように、本実施形態における超音波探傷装置1およびその方法は、探傷結果を検査対象の表面形状に応じて探傷し、その結果を表面形状に応じて再構成することで、正確な超音波探傷を実施することができる。これにより、超音波探傷装置1およびその方法は、複雑形状を有する検査対象の表面に対して、高い検出精度で超音波探傷を行うことができる。
なお、超音波探傷は、超音波の指向角、傾きθおよび入射角αjの関係から得られる透過率などから、検査対象の表面形状の違いによって感度の違いが発生する場合がある。これは、検査対象の表面形状の影響によって探傷精度が変化することを意味し、重大な測定誤差につながる可能性がある。
そこで、本実施形態における超音波探傷装置1およびその方法は、検査対象の表面形状と超音波の指向角とから計算して、焦点へ集束する入射波の強度を一定としてもよい。
図24は、配管2の表面形状の違いにより感度の違いが発生する場合の説明図である。
図24および図25においては、超音波Uの強度の違いを超音波Uを示す線(点線)の太さで表わした。
配管2の曲面部2aに入射する超音波Uは、配管2の平面部2bに入射する超音波Uに比べて強度が大きく、曲面部2aと平面部2bとの入射点の違いが探傷精度を変化させてしまう。
そこで、例えば、最も感度が低くなる表面形状に対しては、使用する超音波素子から発振する超音波のゲインを予め上昇させる。または、最も感度が低くなる表面形状を考慮し、感度が落ちにくい表面形状へ入射する超音波のゲインを、予め低下させる。
図25は、配管2の表面形状に応じて超音波Uのゲインを調整する場合の説明図である。
超音波探傷装置1は、配管2の表面形状に応じて、感度が高くなる平面部2bを入射点とする超音波Uのゲインを予め低下させた。これにより、配管2内部の超音波Uの強度が曲面部2aと平面部2bとでほぼ等しくなった。
また、感度が低くなる表面形状においては、通常よりも同時駆動する超音波素子の数を増やす。
図26は、配管2の表面形状に応じて超音波駆動素子数を調整する場合の説明図である。
超音波探傷装置1は、平面部2bを入射点とする超音波を発振する超音波素子数n2に対し、曲面部2aに入射される超音波を発振する超音波素子数n1を大きくした。これにより、配管2内部の超音波Uの強度が曲面部2aと平面部2bとでほぼ等しくすることができる。
焦点Fにおける超音波強度を推定する手法は、一般的なレイ・トレース法、または差分法、有限要素法、FDTD法およびCIP法などその他数値解析法でもよい。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
例えば、超音波探傷装置1およびその方法は、探傷屈折角を扇状に走査するセクタスキャン、測定したい領域に合わせて焦点深さを変化させるDynamic Depth Focusing(DDF)など、他の探傷方法を適用してもよい。
図27は、配管2の表面形状を考慮せず超音波探傷にセクタスキャンを適用した場合の説明図である。図28は、配管2の表面形状を考慮して超音波探傷にセクタスキャンを適用した場合の説明図である。
配管2の表面形状が平面である場合、超音波は、理想的には図27において点線で示す超音波U1のように配管2内に入射される。しかし、配管2の表面形状が曲面である場合には、想定する位置から超音波Uは入射されず、超音波は、図27に実線で示す超音波U2のように配管2内に入射されてしまう。この結果、探傷範囲は理想的な扇形にならず、正確に探傷を行うことができない。
これに対し、本実施形態における超音波探傷装置およびその方法は、配管2の表面形状を考慮して、図27に示す超音波U1のように理想的な扇形の探傷範囲から同時駆動素子を逆算する。これにより、図28に示すように、表面形状が曲面であっても、表面形状が平面である場合と同様に理想的な探傷を行うことができる。
また、各実施形態において、解析部15と演算部18は、プロセッシングユニット、メモリ、及びこれらを作動させるプログラム等で実現することができる。したがって、解析部15と演算部18は異なる構成要素として説明したが、同一のハードウェアとすることも可能である。
1 超音波探傷装置
2 配管
3 音響接触媒質
11 超音波プローブ
12 超音波送受信部
13 駆動素子制御部
14 信号記録部
15 解析部
16 表示部
17 設計データベース
18 演算部
21 送受信感度調整部
22 遅延制御部

Claims (7)

  1. 検査対象に超音波を入射し、その検査対象からの反射超音波を受信する超音波プローブと、
    前記超音波プローブに超音波を入射し、前記超音波プローブからの反射超音波を制御するために複数の超音波素子を駆動制御する駆動素子制御部と、
    前記超音波が前記検査対象に入射したときの屈折角度と、前記検査対象表面上の前記超音波の入射位置と、前記入射位置における前記検査対象の表面の表面形状とを用いて、前記入射位置に前記超音波が入射する入射角度を求め、前記入射位置と前記入射角度とに基づいて、駆動させる複数の超音波素子を求める演算部と、を備え
    前記演算部は、表面形状が平面である前記検査対象に用いられる探傷条件で前記超音波素子を駆動した場合の前記屈折角度と前記超音波の焦点とに基づいて、前記入射位置を演算して求めることを特徴とする超音波探傷装置。
  2. 前記表面情報は、前記検査対象表面の前記超音波プローブに対する表面傾きである請求項1記載の超音波探傷装置。
  3. 前記駆動素子制御部は、前記表面形状に応じて、前記超音波素子から送信される超音波のゲインを制御する素子制御部を備えた請求項1記載の超音波探傷装置。
  4. 前記駆動素子制御部は、前記表面形状に応じて、前記超音波素子の同時駆動数を制御する素子制御部を備えた請求項1記載の超音波探傷装置。
  5. 前記駆動素子制御部は、前記表面形状に応じて、前記超音波素子から送信される超音波のゲインを制御する素子制御部および、前記超音波素子の同時駆動数を制御する素子制御部を備えた請求項1記載の超音波探傷装置。
  6. 前記超音波プローブで送受信された超音波を信号処理して前記検査対象の表面形状を計測する計測部をさらに備えた請求項1記載の超音波探傷装置。
  7. 複数の超音波素子を駆動して検査対象に超音波を入射し、その検査対象からの反射超音波を受信し、
    前記超音波が前記検査対象に入射したときの屈折角度と、前記検査対象表面上の前記超音波の入射位置を決定し、
    前記入射位置における前記検査対象の表面の表面形状を取得し、
    前記屈折角度と、前記入射位置と、前記表面形状に基づいて、前記入射位置に前記超音波が入射する入射角度を求め、
    前記入射位置と前記入射角度とに基づいて、駆動させる複数の超音波素子を求める素子決定し、
    前記入射位置は、表面形状が平面である前記検査対象に用いられる探傷条件で前記超音波素子を駆動した場合の前記屈折角度と前記超音波の焦点とに基づいて求められることを特徴とする超音波探傷方法。
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