以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
(一実施形態)
図1ないし図3は、本発明の一実施形態を示している。
図1に示すように、本実施形態のハイブリッド車両1は、要求出力に応じて制御される走行駆動用の原動機として、内燃機関であるエンジン10と、それぞれ発電可能な電動機であるモータジェネレータ(以下、単にモータという)MG1、MG2とを含む、ハイブリッド駆動装置20を備えている。
ハイブリッド駆動装置20は、ハイブリッド車両の制御装置30によって制御され、エンジン10およびモータMG1、MG2のうち少なくとも1つから出力される動力によって、ハイブリッド車両1を走行駆動することができるようになっている。
エンジン10は、多気筒の内燃機関、例えば4サイクルのガソリンエンジンである。また、モータMG1、MG2は、それぞれ変速機ケース5(詳細図示せず)の内部に収納されており、変速機ケース5はエンジン10に締結されている。
モータMG1、MG2は、それぞれ永久磁石同期発電電動機として構成され、供給される電力を回転動力に変換して出力する電動機の機能と、入力された回転動力を電力に変換して出力する発電機の機能とを併有している。また、モータMG1は主に発電機として用いられ、モータMG2は主に電動機として用いられるようになっている。
具体的には、モータMG1は、複数の永久磁石をそれぞれ略V字型に配置してリラクタンストルクを利用可能にした内部磁石型のロータ51と、3相コイルが巻回されたステータ53とを有しており、ステータ53がインバータ61から交流電力の供給を受けて回転磁界を形成するとき、その回転磁界によってロータ51が回転するようになっている。同様に、モータMG2は、複数の永久磁石をそれぞれ略V字型に配置してリラクタンストルクを利用可能にした内部磁石型のロータ52と、3相コイルが巻回されたステータ54とを有しており、ステータ54がインバータ62から交流電力の供給を受けて回転磁界を形成するとき、その回転磁界によってロータ52が回転するようになっている。また、モータMG1、MG2には、それぞれロータ51、52の回転角位置を検出する図示しないレゾルバが設けられている。
また、ハイブリッド駆動装置20は、エンジン10およびモータMG1、MG2のうち少なくとも1つから出力される回転動力を動力分割統合機構40により統合し、総駆動力として出力するようになっている。すなわち、ハイブリッド駆動装置20は、エンジン10およびモータMG1、MG2に加えて、これらの原動機からの動力を統合可能な動力分割統合機構40を含んだ構成となっている。
さらに、ハイブリッド駆動装置20は、動力分割統合機構40から出力する回転動力である総駆動力を、減速機構70を介して差動機構80に伝達し、その差動機構80から左右のドライブシャフト3を介して左右の駆動車輪2に差動可能に伝達するようになっている。そして、左右の駆動車輪2は、その伝達動力に応じてハイブリッド車両1の走行駆動力を発生させるようになっている。これら減速機構70および差動機構80は、動力分割統合機構40から出力される総駆動力を左右の駆動車輪2に伝達する動力伝達機構となっている。
動力分割統合機構40は、第1および第2の遊星歯車機構40a、40cと、両遊星歯車機構40a、40cに共通の出力要素40b(出力軸)と、によって構成されており、エンジン10からの動力を走行駆動用と発電用の動力に分割したり、エンジン10およびモータMG1、MG2のうちいずれか1つまたは複数からの原動機出力を統合し総駆動力として出力したりする機能を有している。
第1の遊星歯車機構40aは、エンジン10からの回転動力を、発電機モードのモータMG1を駆動する動力と、ハイブリッド車両1の走行駆動のために減速機構70側に出力される動力とに分割することができる動力分割機能を有している。また、モータMG1が電動機モードで動作するときには、その動力を減速して出力する機能を併有している。
この第1の遊星歯車機構40aは、図示しないダンパ要素を介してエンジン10の機関出力軸12に結合された入力要素としての第1プラネタリキャリア44と、モータMG1のロータ51に結合された入出力要素としての第1サンギヤ42と、第1プラネタリキャリア44に自転可能に支持されて第1サンギヤ42の周りを公転することができる複数の第1プラネタリピニオン43と、これら第1プラネタリピニオン43が内接噛合する出力要素としての第1リングギヤ45aと、によって構成されている。
第2の遊星歯車機構40cは、電動機モードのモータMG2が出力した回転動力を減速してその出力トルクを増大させる減速機能を有しており、動力分割用の遊星歯車機構40aと同一の回転中心軸線上に配置されている。また、モータMG2が発電機モードで動作するときには、出力要素40b側からの動力をモータMG2に取り込む機能を併有している。
この第2の遊星歯車機構40cは、モータMG2のロータ52に結合された入出力要素としての第2サンギヤ46と、変速機ケース5に支持された固定要素としての第2プラネタリキャリア47と、第2プラネタリキャリア47に自転可能に支持された複数の第2プラネタリピニオン48と、これら第2プラネタリピニオン48が内接噛合する出力要素としての第2リングギヤ45cと、によって構成されている。そして、この第2リングギヤ45cが第1の遊星歯車機構40aの第1リングギヤ45aと一体に結合されて環状の出力要素40bが構成され、その出力要素40bにカウンタドライブギヤ49が装着されている。すなわち、カウンタドライブギヤ49が装着された出力要素40bは、ハイブリッド駆動装置20の出力軸となっており、この出力要素40bから出力される総駆動力が減速機構70を介して駆動車輪2側に伝達されるようになっている。
減速機構70は、例えばカウンタドライブギヤ49に噛合するカウンタドリブンギヤ74と、カウンタドリブンギヤ74に一体に結合するファイナルドライブギヤ78とを含んで構成されている。また、差動機構80は、ファイナルドライブギヤ78に噛合するリングギヤ82を有し、リングギヤ82に伝達される動力を左右のドライブシャフト3を介して左右の駆動車輪2に差動可能に出力する公知のものである。これら減速機構70および差動機構80は、左右の駆動車輪2に、ハイブリッド駆動装置20の動力分割統合機構40から出力される総駆動力に応じた走行駆動力を発生させることができる。なお、左右の駆動車輪2およびドライブシャフト3の近傍には、車速センサ102として機能する左右の車輪速センサ(詳細図示せず)が設けられている。
一方、ハイブリッド駆動装置20の出力を制御する制御装置30(ハイブリッド車両の制御装置)は、図1に示すように、モータECU60、インバータ61、62、HVECU100、アクセルポジションセンサ101、車速センサ102、EV走行選択スイッチ103、エコスイッチ104、主電池105(ハイブリッド駆動用の二次電池)、昇圧コンバータ106、電池監視ユニット107および図示しないスキッド制御ECU等を含んで構成されている。
モータECU60は、インバータ61、62を介してモータMG1、MG2を制御するための制御プログラムを格納しており、HVECU100からのトルク指令値に応じて作動する。このモータECU60は、モータMG1、MG2の電動機としての出力トルクや回転速度あるいは発電機出力を、HVECU100からの指令値に応じて制御するようになっている。また、モータECU60は、例えばモータMG1、MG2の内部磁石型のロータ51、52内の永久磁石の回転位置と両ロータ51、52の回転速度とを、前記レゾルバの検出信号を基に把握して、モータMG1、MG2を高効率に制御できるようになっている。さらに、モータECU60は、モータMG1、MG2のいずれか、例えばモータMG1によってエンジン10を始動させる場合に、その始動に必要な電力量を算出できるようになっている。
インバータ61、62は、モータMG1、MG2に対応して設けられ、ハイブリッド駆動用の主電池105の電圧を高電圧に昇圧させる昇圧コンバータ106と協働して、高電圧の電流とモータMG1、MG2の3相交流の間の変換を行う機能を有している。これら複数のインバータ61、62では、モータECU60からの指令値に応じて所定範囲内の任意の電圧と周波数でモータMG1、MG2に駆動電流を供給できる。また、各インバータ61、62では、対応するモータMG1またはMG2で発電された交流電流を主電池105に充電するための直流電流に変換することができるようになっている。なお、モータMG1、MG2に対するこのようなインバータ61、62を介した電力供給や電力回収は、モータECU60およびHVECU100により制御される。
アクセルポジションセンサ101は、ハイブリッド車両1に装備された図示しないアクセルペダルの操作量に対応する信号を、運転者からの要求アクセル開度Accとして出力するものである。車速センサ102は、例えば公知の車輪速センサで構成される。
また、EV走行選択スイッチ103は、ハイブリッド駆動装置20のモータMG1、MG2のうちいずれか一方の電動機出力のみでハイブリッド車両1を走行させる電気自動車モードを選択したり、その選択状態を解除したりすることができるスイッチであり、運転者によってその選択状態(ON状態)と選択解除状態(OFF状態)とに操作される。
エコスイッチ104は、HVECU100に対して、ハイブリッド駆動装置20の単位走行距離当りのエネルギ消費量を低減させることを通常より優先する走行駆動制御を要求する燃費優先走行モードの選択用および選択解除用のスイッチとして設けられている。
ハイブリッド駆動用の主電池105は、ハイブリッド車両1の発進時や加速時、登坂時等に電動機モードで作動するモータMG1、MG2のいずれかに電力を供給する一方、発電機モードで作動するモータMG1、MG2のいずれかからの発電電力(例えば、減速時の回生発電電流)によって充電され、蓄電することができるようになっている。
電池監視ユニット107は、電源監視プログラムを有しており、主電池105の電圧、電流および温度を表す電源監視情報をHVECU100に出力できるようになっている。
HVECU100は、ハイブリッド駆動制御用の電子制御ユニットであり、本発明における駆動力配分の制御機構として機能する。
このHVECU100は、原動機であるエンジン10およびモータMG1、MG2を要求出力に応じて作動するように統合制御する統合制御プログラムを内蔵している。なお、ここにいう要求出力(要求パワー)とは、運転者のアクセルペダル操作量等に応じた要求出力、もしくはクルーズコントロール等の他の走行制御機能から要求される要求出力、またはそのような複数の要求出力に基づいて算出される要求出力である。
HVECU100は、その詳細なハードウェア構成を図示しないが、例えばCPU、ROM、RAMおよび書換え可能な不揮発性メモリを備えるとともに、A/D変換器を有する入力インターフェース回路、ドライバやリレースイッチを有する出力インターフェース回路、他の車載ECUとの間でデータ通信を行う通信ポート等を含んで構成されている。ROMおよび書換え可能な不揮発性メモリ(以下、ROM等という)には、例えば各種制御を実行するための制御プログラムが格納されるとともに、各種のマップや設定値データ等が格納されている。
このHVECU100は、例えば運転者のアクセルペダル操作量に対応するアクセルポジションセンサ101からの要求アクセル開度Accと、車速センサ102からの車速信号、エンジン10内の図示しないクランク角センサからのエンジン回転数信号等を検出するとともに、エコスイッチ104からの燃費優先走行モードの選択信号(ON信号)またはその選択後の解除信号(OFF信号)を入力する。また、HVECU100は、例えば図示しないスキッド制御ECUからの駆動力分割比(エンジン10からの走行駆動のための配分動力と発電機作動時のモータMG1またはMG2への配分動力との比率)の要求値とを入力するようになっている。
そして、これらの入力情報を基に、HVECU100は、ハイブリッド駆動装置20の総駆動力に相当する要求パワーと、エンジン10に要求されるパワー指令値(要求エンジンパワー)およびエンジン回転数と、モータMG1、MG2へのトルク指令値等を算出して、パワー指令値およびエンジン回転数指令値を内蔵するエンジンECUに出力するとともに、トルク指令値をモータECU60に出力するようになっている。
より具体的には、HVECU100は、要求パワーを把握すると、その要求パワーに対応するハイブリッド駆動装置20のトータルの出力、すなわち、動力分割統合機構40の出力要素40bから出力される総駆動力に対応する総駆動トルクの指令値(および車速に依存する出力要素40bの出力回転数)と、車両走行状態に応じた駆動力配分比率とを設定し、エンジン10に要求されるパワー指令値およびエンジン回転数と、モータMG1、MG2へのトルク指令値等を算出するようになっている。
ここにいう駆動力配分比率とは、動力分割統合機構40の出力要素40bに入力されるエンジン直達トルクと、モータMG2から出力され第2の遊星歯車機構40cで減速されて出力要素40bに入力されるモータ側のトルク(以下、単にモータトルクという)との比率に対応するものであり、そのトルク比率と出力要素40bの回転数[rpm]とに応じた動力比率である。また、ここにいうエンジン直達トルクとは、モータMG1の反力トルクが第1の遊星歯車機構40aの第1サンギヤ42に加わる状態で第1プラネタリキャリア44にエンジン10の出力トルクが入力されるとき、複数の第1プラネタリピニオン43を介して第1リングギヤ45aに伝達されるトルクである。
より具体的には、図2に示すように、HVECU100は、総駆動力指令値Ttotalと共に、例えばモータMG2の出力に基づく第2トルクの指令値をモータトルク指令値Ttms[Nm]と、第1の遊星歯車機構40aの第1リングギヤ45aに伝達されるエンジン直達トルクに相当するエンジントルク直達分指令値Tengs[Nm]とを、それぞれ設定するようになっている。
また、HVECU100は、電池監視ユニット107からの電源監視情報に基づき、ハイブリッド駆動用の主電池105の放電量および回生量を常時把握して、主電池105の全電池容量に対する充電量比率に相当するSOC(State Of Charge)[%]を算出し、そのSOCの変動範囲を主電池105の信頼性および寿命の面等から設定された所定の利用変動範囲内に制限するようになっている。
加えて、HVECU100は、前記スキッド制御ECUと協働して、左右の駆動車輪2の回転速度を検出する車輪速センサ等の検出情報を基に、低μ路でのタイヤスリップ等により駆動力が急変し始めるときには、モータMG1、MG2のトルク指令値を変化させ、アクセルペダル操作等による要求出力に応じた駆動力を路面に伝えるトラクション制御を実行するようになっている。
HVECU100に内蔵されるエンジンECUは、HVECU100からのエンジンパワー指令値および各種センサ情報を基にエンジン10の出力を制御するための制御プログラムやマップを有している。このエンジンECUは、要求されるエンジン出力が得られるスロットル開度と、燃料噴射時間(燃料噴射時期および噴射期間)および点火時期とを、マップおよび各種センサ情報を基に算出するようになっている。そして、エンジンECUは、入力されたエンジンパワー指令値に応じて、図示しない電子制御スロットル弁、インジェクタおよびイグニッションコイルに対して制御信号を出力するようになっている。また、このエンジンECUは、ハイブリッド駆動装置20がエンジン10のみの動力で走行駆動力を発生させるときには、ROM等に格納されたエンジン10の機関回転速度および機関負荷に対して燃料消費率や機関出力の値を特定可能な機関性能マップ等に基づいて、エンジン10を最適燃費に近い動作点に制御するようになっている。
一方、HVECU100は、ROM等に格納された制御プログラムに従って、後述する推定トルク算出部111、積分算出部112および駆動力配分比率制御部113としての機能を発揮することができる。そして、これらの機能により、HVECU100は、ハイブリッド車両1が波状路等の悪路を走行するとき、総駆動トルクの作用方向を周期的に反転させるトルク変動が生じることを条件に、総駆動トルクのうちエンジン10の出力に基づく第1トルクの比率を小さくするよう、総駆動トルクのうちモータMG2の出力に基づく第2トルクを大きくするようになっている。
推定トルク算出部111は、車速センサ102(車輪速センサ)で検出されるドライブシャフト3の回転速度に基づいて、左右のドライブシャフト3および出力要素40bに周期的なトルク変動を生じさせる捩り方向の振動入力、例えば駆動車輪2のタイヤが波状路等の凹凸路面にぶつかってドライブシャフト3にトルク変動や捩れが発生するときの振動入力を、検出できるようになっている。この推定トルク算出部111は、一定の測定時間毎のドライブシャフト3の回転速度の変化量(凹凸路面上でスリップにより回転速度が大きくなりグリップにより回転速度が小さくなるような変化量)またはそれに対応するモータMG2の回転変動量に基づいて、ROM等に予め記憶格納された推定マップを参照し、または計算式を用いて、ドライブシャフト3上に作用するトルクTds(図2中にD/S上トルクTdsと記す)に対応する動力分割統合機構40の出力要素40b上の実際の負荷トルク(以下、これを単にD/S推定入力トルクという)を推定・算出するようになっている。
積分算出部112は、推定トルク算出部111で算出されたD/S推定入力トルクの単位検出時間毎の変動量の積分値を所定時間前から現時点までの積分期間について算出するようになっている。この積分算出部112は、波状路走行中のモータMG2の回転数変動の変動振幅をモータECU60で把握し、その変動量の積分値を所定時間前から現時点までの積分期間について算出することで、D/S推定入力トルクの所定時間内の変動量積分値を算出するものであってもよい。
駆動力配分比率制御部113は、推定トルク算出部111および積分算出部112での算出結果に基づいて、動力分割統合機構40の出力要素40bに入力されるエンジン直達トルクとモータトルクとの比率である駆動力配分比率を可変制御するよう、エンジン10およびモータMG1、MG2の運転条件(要求エンジンパワー、エンジン回転数、トルク指令値)を可変設定するようになっている。
この駆動力配分比率制御部113は、現在のD/S推定入力トルクが所定値α以上に達し、かつ、D/S推定入力トルクの変動量の所定時間(例えば数秒)内における積分値が予め設定された判定閾値β以上に達するときには、波状路等の悪路を走行する状態であると判定して、ハイブリッド駆動装置20の動力分割統合機構40の出力要素40bから出力される総駆動トルクのうち、エンジン10の出力に基づく第1トルクの比率を小さくするよう、モータMG2の出力に基づく第2トルクを大きくするようになっている。すなわち、駆動力配分比率制御部113は、ハイブリッド車両が悪路走行中か否かによって、ハイブリッド駆動装置20から出力される総駆動力におけるエンジン10およびモータMG2の出力(駆動力)の配分比率を変更するようになっている。
具体的には、駆動力配分比率制御部113は、悪路走行状態であると判定すると、第1トルクに相当する図2中の「エンジントルク直達分の指令値」を同図中に点線で示すように通常(同図中に実線で示す値)より小さくするとともに、第2トルクに対応する図2中の「モータトルクTtms」を同図中に点線で示すように通常(同図中に実線で示す値)より大きくするように、エンジン10の要求パワーおよびモータMG2のトルク指令値を可変設定する。ここで、第2トルクを大きくするときの第2トルクの増加分は、動力分割統合機構40の出力要素40b上における実際の総駆動トルクであるMG2軸上実トルクの作用方向が図2中に点線で示すように、正方向(走行駆動方向)に維持される範囲内で設定される。
また、HVECU100の駆動力配分比率制御部113は、アクセル開度が略一定に保持されることで、動力分割統合機構40から出力される総駆動トルクの指令値が加速駆動時や減速回生動作時等とは異なる略一定値に設定され、かつ、波状路等の悪路を走行することで動力分割統合機構40の出力要素40b上で実際の総駆動トルクの作用方向が周期的に反転(すなわち、トルクの正負が周期的に反転)するようなトルク変動が生じることを条件に、第1トルクの比率を小さくするとともに第2トルクを大きくするようになっている。ここでの第2トルクの増加分は、動力分割統合機構40の出力要素40b上の実トルクであるMG2軸上実トルクの変動幅Wおよび総駆動力(総駆動トルク)指令値Ttotal[Nm]に応じて可変設定されるようになっている。なお、アクセル開度の変化により総駆動力が実質的に変化するときには、ドライブシャフト3上の実トルクが低トルク範囲内で周期的に正負に変動することはないので、総駆動力の実質的な変化が生じる加減速時は考慮しないでよい。
駆動力配分比率制御部113は、特に、動力分割統合機構40の出力要素40b上の実トルクの変動幅Wが耳障りな歯打ち音を惹起する程度の振動入力に相当するときの値として予め設定された閾値変動幅を超えることを条件に、駆動力配分の変更が可能な運転状態か否かを判定した上で、第2トルクの増加分をトルク変動の変動幅に応じて可変設定するようになっている。
ここで、閾値変動幅は、走行駆動源の出力軸上のトルク変動が耳障りな歯打ち音を惹起する程度の振動入力に相当するときのトルク変動幅として予め設定され、例えば総駆動力の指令値の2倍に近いトルク変動の振幅として設定される。すなわち、閾値変動幅が総駆動力の指令値に対する正負両方向への振れ幅(図2中に振れ幅Wに相当)であるとき、その正方向または負方向への片側の振れ幅が総駆動力の指令値以上であれば、総駆動力に振動入力が加わったMG2軸上トルクTtmgは常にゼロ以上となり、総駆動トルクの実トルクであるMG2軸上トルクTtmgの正負反転(トルク作用方向の反転)が生じることがない。したがって、閾値変動幅は、総駆動力の指令値の2倍に近いトルク変動の振幅として設定される。
また、ここで、駆動力配分の変更が可能な運転状態とは、例えばバッテリ残量が大きく、モータMG2の出力トルクの増大が可能であること、エンジン水温が暖機完了温度以上の常温に達しておりエンジン10が安定した運転状態にあること、モータMG2が過熱抑制のためにトルク制限が要求されるような温度(例えば150℃)に達していないこと、といった条件を満足するハイブリッド車両の運転状態である。
また、ここにいう駆動力配分の変更は、フロントトランスアクスルを構成するハイブリッド駆動装置20以降の動力伝達系に対するモータトルクおよびエンジン直達トルクの動力伝達比を変え、できるだけモータ分を増加させて走行するものである。
駆動力配分比率制御部113は、また、エンジン10の出力およびモータMG1の発電負荷のうち少なくとも一方の制御によって第1トルクであるエンジン直達トルクを変化させることができるようになっており、例えばエンジン10に要求されるエンジンパワーと共に、エンジントルク直達分指令値Tengsを可変設定する。
HVECU100は、ハイブリッド車両1の減速時に、駆動車輪2からハイブリッド駆動装置20に伝達される動力を、モータMG2により電力に変換させて、主電池105に充電させる、いわゆる回生制動の制御を実行できるようになっている。
また、HVECU100は、エンジン10およびモータMG1、MG2のうちいずれを原動機として動作させるかを、ドライバの要求操作入力等に対応する要求パワー、主電池105の蓄電状態、EV走行選択スイッチ103やエコスイッチ104、さらには図示しないスポーツ走行モード選択スイッチのON/OFF状態等に応じて、決定するようになっている。したがって、ハイブリッド車両1は、エンジン10からの動力のみで走行するエンジン走行、エンジン10およびモータMG1、MG2を併用して走行するHV走行(ハイブリッド走行)、モータMG1、MG2のいずれかからの動力のみによって走行するEV走行(電気自動車走行)等のいずれかで走行できる。
次に、作用について説明する。
上述のように構成された本実施形態の車両制御装置においては、HVECU100によるハイブリッド駆動制御の制御周期毎に、図3に概略の流れを示すような処理が実行される。また、この処理に先立って、ハイブリッド駆動制御の制御周期毎に、アクセルポジションセンサ101からの要求アクセル開度Accやその時点での車速その他の車両走行状態に関するセンサ情報を基に、目標車速が算出される。
図3に概略の処理手順を示す本実施形態の制御プログラムは、波状路等の悪路走行時に動力分割統合機構40の出力要素40bにおける駆動力配分を切り替えるものである。
この制御プログラムにおいては、まず、最初のステップS11において、HVECU100により、D/S推定入力トルクを算出する推定トルク算出部111の算出結果と、そのD/S推定入力トルクの単位検出時間毎の変動量の積分値を所定時間前から現時点までの積分期間について算出する積分算出部112の算出結果とに基づいて、波状路等の悪路を走行する状態であるか否かを判定する第1の判定ステップが実行される。具体的には、現在のD/S推定入力トルクが所定値α以上に達し、かつ、D/S推定入力トルクの変動量の積分値が判定閾値β以上に達するとき、駆動力配分比率制御部113により、波状路等の悪路を走行する状態であると判定される。
この第1の判定ステップS11での判定結果(以下、第1の判定結果という)が悪路走行中でなければ、今回の処理は終了する(ステップS11でNOの場合)。
一方、第1の判定結果が悪路走行中であれば(ステップS11でYESの場合)、次いで、駆動力配分比率制御部113により、駆動力配分が可能な運転状態か否かを判定する第2の判定ステップが実行される(ステップS12)。
具体的には、例えばバッテリ残量が大きく、モータMG2の出力トルクの増大が可能であるか、エンジン水温が暖機完了温度以上の常温に達しておりエンジン10が安定した運転状態にあるか、モータMG2が過熱抑制のためにトルク制限が要求されるような温度に達していないか、といった条件の判定処理が実行される。
この第2の判定ステップS12での判定結果(以下、第2の判定結果という)が、駆動力配分の変更が可能な運転状態でないというものであれば、次いで、ハイブリッド駆動装置20のトータルの効率が良好となり、低燃費が実現できる通常の駆動力配分比率が駆動力配分比率制御部113によって設定される(ステップS13)。
一方、第2の判定結果が、駆動力配分の変更が可能な運転状態であるというものであれば、駆動力配分比率制御部113により、現在の要求パワーに対応するハイブリッド駆動装置20の総駆動力の範囲内で、モータトルクTtmsがD/S推定入力トルクより大きくなる条件での駆動力配分が設定される(ステップS14)。
そして、このような、駆動力配分比率の設定が完了すると、今回の処理を終了する。
このように、本実施形態では、ハイブリッド車両が悪路走行中か否かによって、ハイブリッド駆動装置20から出力される総駆動力におけるエンジン10およびモータMG2の出力(駆動力)の配分比率が変更される。すなわち、走行駆動源の出力軸であるハイブリッド駆動装置20の動力分割統合機構40の出力要素40bから駆動車輪2側に伝達される総駆動トルクの作用方向を反転させるような周期的なトルク変動が生じると、総駆動トルクのうちエンジン10の出力に基づく第1トルクの比率を小さくし、モータMG2の出力に基づく第2トルクを大きくするよう、エンジン10およびモータMG2の出力が制御される。そして、総駆動トルクに周期的な正負反転を伴うトルク変動を生じさせる捩り方向の振動入力に対して、エンジン10の出力に基づく第1トルクの低下によってトルク変動の悪化が有効に抑制されるとともに、モータMG2の出力に基づく第2トルクの比率が高められるよう第2トルクが増大されることで、図2に点線PIで示すMG2軸上実トルクTmgのように、総駆動トルクが同図中に実線で示す従来値PAからトルク増加方向に迅速にシフトされる。
これにより、動力分割統合機構40の出力要素40b上で総駆動トルクの作用方向が反転すること、すなわち、出力要素40bからドライブシャフト3までの動力伝達経路上におけるトルクが正負に判定することが有効に抑制され、ハイブリッド車両の悪路走行時における歯打ち音を防止することが可能となる。
本実施形態では、総駆動トルクのうち第1トルクを小さくするとともに、総駆動トルクのうち第2トルクを大きくするので、総駆動トルクのうち電動機出力に応じた第2トルクの比率を十分に高めることができ、総駆動トルクの作用方向の反転を第2トルクの増加によって抑制する制御の効果を高めることができる。
しかも、第2トルクを大きくするときの第2トルクの増加分は、総駆動トルクの作用方向が正方向に維持される範囲内で設定されるので、総駆動トルクの反転を伴うトルク変動によって生じる歯打ちが確実に防止できることになる。
また、第2トルクの増加分が、トルク変動の変動幅に応じて可変設定されるので、第2トルクの増加分が必要以上に大きくなることがなく、悪路走行終了時に通常の駆動力配分が設定される通常制御への復帰や、第2トルクを増加させるための駆動力配分の切替えが容易となる。
さらに、トルク変動の変動幅Wが予め設定された閾値変動幅を超えることを条件に、第2トルクの増加分がトルク変動の変動幅に応じて可変設定されるので、ばね下共振を惹起し易い波状路等の悪路走行時に、動力分割統合機構40の出力要素40b上におけるトルクの作用方向が反転することが有効に抑制される。
加えて、本実施形態では、総駆動トルクの指令値(図2中のTtotal)が略一定値に設定され、かつ、動力分割統合機構40の出力要素40bに作用方向が周期的に反転するトルク変動が生じることを条件に、第1トルクの比率を小さくするよう第2トルクを大きくする。したがって、総駆動トルクの変動に応じた第2トルクの増加分によって、出力要素40b上における総駆動トルクの正負反転がより有効に抑制される。
また、本実施形態では、エンジン10およびモータMG1のいずれかによって第1トルクを制御でき、モータMG2によって第2トルクを制御できるので、総駆動トルクの変動に応じて駆動力配分比率を迅速にかつ的確に制御できる。
このように、本実施形態においては、総駆動トルクに周期的な正負反転を伴うトルク変動を生じさせる捩り方向の振動入力に対して、エンジン10の出力に基づく第1トルクの低下によってトルク変動の悪化が有効に抑制されるとともにモータMG2の出力に基づく第2トルクの比率が高められ、その第2トルクが増大されるようにしているので、総駆動トルクをトルク増加方向に迅速にシフトさせることができる。したがって、動力分割統合機構40の出力要素40b上での総駆動トルクの作用方向の反転を有効に抑制することができ、ハイブリッド車両の悪路走行時における歯打ち音を防止することができるハイブリッド車両の制御装置を提供することができる。
なお、上述の一実施形態においては、総駆動トルクのうちエンジン10の出力に基づく第1トルクの比率を小さくするようモータMG2の出力に基づく第2トルクを大きくするとき、総駆動力は略一定値としたが、動力分割統合機構40の出力要素40bからドライブシャフト3までの動力伝達経路上で歯打ち音を生じ得る程度の比較的小さい総駆動力の範囲内で、総駆動力がトルク変動周期に対し十分に長い期間にわたって徐々に変化するような場合であってもよい。また、第1トルクを小さくするのにエンジン10の出力を低下させていたが、主電池105の充電状態に応じて、モータMG1の発電負荷トルクをわずかに増加させるようにしてもよい。
また、上述の一実施形態においては、推定トルク算出部111および積分算出部112の算出結果に基づいて、ドライブシャフト3上のトルク作用方向(トルクの正負)を周期的に変動させたり、動力分割統合機構40の出力要素40b上のトルク作用方向を周期的に反転させたりするトルク変動を検出していたが、動力分割統合機構40の出力要素40bからドライブシャフト3までの動力伝達経路上の任意の回転伝動要素のトルクを直接的に検出するセンサを設けてもよい。すなわち、そのトルク検出用のセンサの検出情報に基づき、ドライブシャフトトルクの周期的な正負反転や出力要素40b上のトルク作用方向の周期的な反転を検出することもできる。
さらに、上述の一実施形態においては、モータMG1、MG2およびエンジン10のうち少なくとも1つからの動力を基に走行駆動力を発生させるハイブリッド駆動装置20を備えていたが、エンジン10と少なくとも1つの電動機(電動モータ)を走行駆動用の原動機として備えたハイブリッド車両であれば、本発明を適用することができる。
動力分割統合機構40や減速機構70は、図1に示すものに限らず、他の構成を採ることができることは勿論である。
以上説明したように、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置は、総駆動トルクに周期的な正負反転を伴うトルク変動を生じさせる捩り方向の振動入力に対して、電動機出力に基づく第2トルクの比率を高めるので、総駆動トルクをトルク増加方向に迅速にシフトさせることで、出力軸上での総駆動トルクの作用方向の反転を有効に抑制することができ、その結果、ハイブリッド車両の悪路走行時における歯打ち音を防止することができるハイブリッド車両の制御装置を提供することができる。このような本発明は、走行駆動源に内燃機関および電動機を併用するハイブリッド車両に装備されるハイブリッド車両の制御装置全般に有用である。