JP5861129B2 - 線状のアルコキシチタン酸・リン酸重合体の製造方法 - Google Patents

線状のアルコキシチタン酸・リン酸重合体の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、線状のアルコキシチタン酸・リン酸重合体の新規な製造方法に関する。
アルコキシチタン酸・リン酸重合体などの酸化チタン系化合物は、その酸化チタン系化合物が奏する藤島/本多効果を利用して光触媒として古くから実用化されてきた。
しかし、これら酸化チタン系重合体は全て粒子であるため、粒子の形態で各種の塗膜や成形品として使用する場合はバインダーとなる化合物が必要になる。
一方、酸化チタン系重合体の単独の塗膜を形成しようとすると、酸化チタン系重合体の高濃度溶液を調製する必要があるが、透明な高濃度溶液を得るためには酸化チタン系重合体を塩素原子と結合させる必要がある。しかし塩素原子を含む場合、被塗基材である金属などの腐蝕の原因となることがあり、できれば、減塩または無塩にすることが望まれている。そこでイオン交換樹脂などを利用して重合体から塩素を脱離させることも検討されているが、一部、結合塩素として残ってしまう。
ところでアルコキシチタン酸・リン酸重合体は、アルコキシチタン酸を塩酸などの酸加水分解触媒の存在下、チタン酸系化合物やリン酸系化合物などの縮重合反応停止剤を用いて製造されている(特許文献1〜2)。
特許文献1では、チタンアルコキシドのアルコール溶液を塩酸などの酸加水分解触媒の存在下に加水分解した後、縮重合反応を行い、次いでイソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネートなどのリン酸チタネート系化合物を加えて反応を停止する酸化チタンの縮重合体の製造法が提案されている。ここで得られる縮重合体は有機溶媒に可溶性であるが、水およびメタノールには溶解しない。これは得られる縮重合体が、有機基であるジオクチル基を大量に含むため疎水性に傾いている点、および、チタンアルコキシドを酸加水分解した後の縮重合は、3官能以上のモノマーまたはオリゴマーの縮重合反応となり、殆んどが3次元構造を形成していると考えられる点から、水やメタノールに殆んど溶解しないものと考えられる。
特許文献2には、水とイソプロピルアルコール系溶媒に四塩化チタンを加え、白濁沈殿分離した液にリン酸を加えてリン酸チタンを得ることが記載されている。しかし、水が存在しているので直ちに加水分解されて粒状のチタン酸縮合物となり、これにリン酸を加えると、キレート反応により直ちにリン酸チタンの沈殿が生じる。得られたリン酸チタンではイソプロピルアルコールは保護コロイドの役目しかせず、結局、リン酸チタニアの沈殿物とリン酸溶液の上澄に分離してしまう。したがって、透明で水やアルコールなどの有機溶剤に無限に溶解するリン酸チタンを製造することはできない。
特許文献3には本発明者らによる発明が記載されている。この発明によれば、水のない条件下にアルコールに塩酸を加え、ついでアルコキシチタン酸を加えると、保護基を形成したモノマーが形成される。このモノマーは6年たっても変化しない。これに、リン酸またはトリメチルリン酸を加えると、連鎖移動重合して水やアルコールに無限に溶解する線状重合体になる。
しかし、この方法でも塩酸を触媒として用いており、得られる線状重合体においてアルコールと塩素が反応して形成される環状の保護基には塩素原子が取り込まれている。この塩素は、通常の脱塩処理では容易に除去できず、最終的に結合塩素となって残存してしまう。結合塩素は紫外線や熱や、酸化/還元エネルギーにより、遊離塩素または次亜塩素酸になる可能性があり、結合塩素としても残さないことが望ましい。
特開平05−271421号公報 特開2004−130195号公報 国際公開第2010/140501号
本発明は、塩素をあらゆる形態で含有していない線状のアルコキシチタン酸・リン酸重合体を塩酸を用いずに製造する新しい製法を提供することを目的とする。
具体的な課題および効果については、以下の説明において個々に述べる。
本発明の線状のアルコキシチタン酸・リン酸重合体の新規製造方法は、水および鉱酸の不存在下に、アルコキシチタン酸のアルコール溶液にリン酸またはアルキルリン酸エステルを加えて連鎖移動重合を開始し、重合生成液の粘度が1.0×104cPになった時点で重合を停止することを特徴とする。
製造原料のアルコキシチタン酸としてはテトラメトキシチタン酸、テトラエトキシチタン酸、テトラブトキシチタン酸またはテトライソプロポキシチタン酸であることが好ましく、また、アルコール溶液としては、メタノール、エタノール、ブタノールおよびイソプロパノールよりなる群から選ばれる少なくとも1種の溶液であることが好ましく、アルキルリン酸エステルがトリメチルリン酸、トリエチルリン酸、トリブチルリン酸またはトリイソプロピルリン酸であることが、重合が制御しやすい点、希釈液の貯蔵安定性が良好である点で好ましい。
また、本発明は、上記の製造法において、重合を停止した後、直ちに水、有機溶剤、または水と有機溶剤の混合溶剤を用いて生成重合体濃度が0.0002〜2質量%になるように希釈することを特徴とする線状のアルコキシチタン酸・リン酸重合体の希釈液の製造方法にも関する。
希釈溶剤としては、水のほか、メチルアルコール、エチルアルコール、ブチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類;キシレン、メチルエチルケトン、アセトン、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。好ましい希釈溶剤としては、好ましい順でイソプロピルアルコール、メチルアルコール、水/メチルアルコール混合物、水、エチルアルコールが挙げられる。
本発明の製造方法によれば、水および有機溶剤に無限大に透明に溶解する線状のアルコキシチタン酸・リン酸重合体を塩酸を使用せずに製造することができる。
本発明の線状のアルコキシチタン酸・リン酸重合体の製造方法は、水および鉱酸の不存在下に、アルコキシチタン酸のアルコール溶液にリン酸またはアルキルリン酸エステルを加えて連鎖移動重合を開始し、重合生成液の粘度が1.0×104cPになった時点で重合を停止することを特徴とする。
本発明で用いるアルコキシチタン酸としてはテトラアルコキシチタン酸が好ましい。たとえばテトラメトキシチタン酸、テトラエトキシチタン酸、テトライソプロポキシチタン酸、テトラブトキシチタン酸の1種または2種以上が好ましく、なかでも合成の安定性、高濃度で合成できる点、価格等の面で有利であり、高濃度での安定性等に優れる点から、テトライソプロポキシチタン酸が特に好ましい。
アルコキシチタン酸を溶解するアルコールとしては、低級アルコールが好ましく、たとえば、メタノール、エチルアルコール、ブチルアルコール、イソプロピルアルコールなどの1種または2種以上が挙げられる。なかでも、重合生成物の濃度を高くすることができ、かつ安定して連鎖移動重合を進める点で有利なことから、イソプロピルアルコールが特に好ましい。
アルコール溶液におけるアルコキシチタン酸の濃度は、重合時の撹拌が容易な点から0.2質量%以上で50質量%以下が好ましい。特に、生産性と均一重合反応性が良好な点から、1.0〜10質量%の範囲が好ましい。
アルコキシチタン酸の連鎖移動重合を開始させるために、水および鉱酸の不存在下にリン酸またはアルキルリン酸エステルを加える。アルコキシチタン酸1モル(4価)に対するリン酸またはアルキルリン酸エステルの添加量は、目的とするリン酸化率や重合度等の観点から適宜選定すればよい。具体的には、後述する。
アルキルリン酸エステルとしては、たとえばトリメチルリン酸、トリエチルリン酸、トリブチルリン酸、トリイソプロピルリン酸などが挙げられ、特にリン酸化反応速度および連鎖移動重合開始能力が良好な点、得られるアルコキシチタン酸・リン酸重合体が貯蔵安定性に優れる点からトリメチルリン酸が好ましい。
本発明において、重合は「重合生成液が膠化、更に白濁する前」に停止することが重要である。重合生成液が白濁するのは、連鎖移動重合が進行するにつれて重合度が上がって粘度が高くなり、均一な撹拌がしにくくなる(膠化する)ため、リン酸またはアルキルリン酸エステルの添加を止めて重合を停止しないと、局所的にリン酸またはアルキルリン酸エステルと生成したアルコキシチタン酸・リン酸重合体との反応が進んで、アルコキシチタン酸・リン酸重合体が架橋反応を起こし、部分的に3次元網状構造を形成してしまうためと考えられ、その結果、水に溶解しにくくなり、白濁する。この均一撹拌が可能な(膠化する前の)粘度の上限の目安が1.0×104cPである。
重合生成液が白濁する前に重合を停止する時機は、重合生成液が膠化してやがて白濁する時機が重合条件(たとえば均一撹拌の有無、リン酸またはアルキルリン酸エステルの添加停止時期など)により種々変化するため、事前にパイロット実験をしておき、重合条件と膠化白濁点との関係を把握しておくことで重合生成液が膠化白濁しない点を確認することができる。たとえば、テトライソプロピルチタン酸をイソプロピルアルコールで稀釈し、これにイソプロピルアルコールで希釈したリン酸またはアルキルリン酸エステルを加えて重合する系では、撹拌が行われている間は、リン酸またはアルキルリン酸エステルの添加を止めて重合を停止すると、生成した重合体により増粘はするが、白濁(架橋)はしない。長期放置すると、透明なゼリー状になることがあるが、溶媒で希釈すると完全に溶解することから、架橋はしていないことが分かる。
重合を停止する時点は、たとえば、重合生成液の粘度が1.0×104cPになった時点が好ましい基準であるが、それ以前で重合を停止してもよい。ただし、停止時機が早すぎると生産性、すなわちリン酸化率を高くできない点から好ましくない。したがって、重合生成液の粘度が1.0×103cP〜1.0×104cPの範囲内で重合を停止することが望ましい。
本発明の製造方法における推定反応式としては、次の2段階で進行し、線状の重合体を与えているものと考えられる。
Figure 0005861129
(Rはメチル基、エチル基、ブチル基またはイソプロピル基、IPAはイソプロピルアルコール、Pはリン酸、nは2〜1000の整数)
本発明の製造方法において、重合の停止時機の目安は重合生成液の粘度が1.0×104cPになった時点であるが、この重合の停止時機はそのほかの定性または定量的な観点からも判断できる。たとえば重合生成液が膠化後白濁する時機に影響を与える重要な重合条件としては、リン酸またはアルキルリン酸エステルの添加方法、重合温度、撹拌効率などが挙げられる。以下、それらの条件との関連で、重合生成液が膠化し撹拌が不均一になり、白濁する前に重合を停止する時機を説明する。なお、前述のとおり、重合生成液が膠化し撹拌が不均一になっても、リン酸またはアルキルリン酸エステルの注入を止めて重合を停止すると、生成した重合体により増粘はするが白濁(架橋)はしないので、重合を停止する時機をコントロールできる。
(1)リン酸またはアルキルリン酸エステルの添加方法
リン酸またはアルキルリン酸エステルの添加には、連続添加、逐次添加、一括添加がある。なかでも好ましいのは連続添加法であり、反応が均一に進むため、膠化白濁点を容易に見つけ出せ、かつ制御できる。
(1−1)リン酸またはアルキルリン酸エステルの添加が連続または逐次添加である場合:
この場合の重合を停止する時機としては、リン酸の場合はアルコキシチタン酸1モル(4価)に対し、添加量が0.05モル以上で4.0モル未満となった時点が好ましく、より好ましくは、アルコキシチタン酸4モルに対する添加量が0.1〜3.7モルとなった時点である。アルキルリン酸エステルの場合はアルコキシチタン酸1モル(4価)に対し、添加量が0.05モル以上で4.0モル未満となった時点が好ましく、より好ましくは、添加量が0.1〜3.9モルとなった時点である。重合温度としてはアルコキシチタン酸が析出しない温度以上、重合濃度が10質量%のときは5℃以上で、好ましくは30℃以下、重合速度をコントロールしない場合は20℃以下を採用することが望ましい。重合温度が高くなると重合反応速度が速くなりすぎ、重合生成液が膠化白濁する時点を把握することが難しくなることがある。また、撹拌下に重合を進めることが望ましく、撹拌速度としてはたとえば撹拌羽根の回転径が50mmの時500rpm以上、好ましくは1000rpm以上を選定することが好ましい。なお、リン酸を用いる場合は、アルコール(イソプロピルアルコール、メタノールなど)で希釈して添加する方が反応をコントロールしやすい点から好ましい。また、アルキルリン酸エステルは過剰に添加すると重合生成液が膠化白濁した後は溶剤として働き、重合生成液の粘度を下げる。
(1−2)アルキルリン酸エステルの添加を最初に一括して添加する場合:
この場合は、アルキルリン酸エステルの添加量に加えて、重合温度と重合時間と、さらには撹拌速度が重合を停止する時機の決定に重要となる。なお、リン酸を用いる場合は反応速度が速いので一括添加ではなく連続添加が最も好ましい。
一括添加の場合は、アルコキシチタン酸1モル(4価)に対してアルキルリン酸エステル(トリメチルリン酸)は0.05〜4モルが好ましく、さらには0.05〜3.9モルが好ましい。添加量が多くなると膠化白濁する時間が速くなる傾向にある。重合温度は10〜40℃の範囲で選定することが好ましい。重合温度は重合時間(製造時間)に深く関係し、重合温度が高くなると白濁する時間が速くなる傾向にあるので、効率の観点から適切に選定することが望ましい。また、撹拌速度としてはたとえば撹拌羽根の回転径50mmのとき1000rpm以上で選定することが好ましい。また、アルキルリン酸エステルは過剰に添加すると重合生成液が膠化白濁した後は溶剤として働き、重合生成液の粘度を下げる。
一括添加の具体例は、たとえば、アルコキシチタン酸1モル(4価)に対してアルキルリン酸エステルを0.25モル一括して添加した場合、好ましい重合温度である20℃〜35℃の範囲で重合を行うと、約20〜40時間後に重合生成液が膠化白濁することが多い。本発明では、その前に重合を停止する。
また、アルキルリン酸エステルの一括添加量が同じでも、重合温度が45℃以上と高くなると重合が促進され、また、不均一反応系が形成されやすいため、約10〜20時間後に重合生成液が膠化白濁することが多い。本発明では、その前に冷却し、水またはアルコールにて稀釈し重合を停止する。
本発明の製造方法で製造されたアルコキシチタン酸・リン酸重合体は線状の重合体であり、各種の無機系溶剤および有機系溶剤に殆んど無限に溶解する。したがって、種々の用途に合わせた色々な処方が可能であり、適用範囲が大きく広がる。
溶媒としての溶剤としては特に限定されないが、たとえば水、テトラメチルシランなどの無機系溶剤のほか、メチルアルコール、エチルアルコール、ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、フェノールなどのアルコール類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;テトラヒドロフランなどのエーテル類;フルフラールなどのアルデヒド類;キシレンなどの炭化水素化合物類;ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルフィド(DMS)などの有機系溶剤の1種または2種以上が挙げられる。中でも、溶解性、安全性、塗布環境安全性などに優れている点から、水、アルコール類、ケトン類、エステル類が好ましく、特に無限に溶解可能な水、アルコール類が好ましい。
本発明のもう1つの特徴は、重合をコントロールしやすくしかつ貯蔵安定性を向上させる目的で、重合(製造)に鉱酸、特に塩化水素などの塩素化合物や塩素を使用しない点にある。したがって得られるアルコキシチタン酸・リン酸重合体は塩素フリーであり、塩素原子が悪影響を与える腐蝕や錆の発生などの課題を解消することができる。さらに、塗布後の塗膜の架橋速度や密度が高くなり、短時間に表面硬度(鉛筆硬度)が9H以上で透明かつ光沢のあるアルコキシチタン酸・リン酸重合体の塗膜の形成が可能になる。
塩素フリーのアルコキシチタン酸・リン酸重合体は、本発明者らが開発した塩酸またはイオン交換樹脂を用いて合成したアルコキシチタン酸・リン酸重合体(WO2010/140501A1)から塩素を除去することによっても得られるが、塩素原子を完全に取り除くことはできない。結合塩素が存在すると、自己分解したり紫外線あるいは可視光線により分解したりし、塩素を放出する。結合塩素の有無の観点から、本発明の製造方法で得られるアルコキシチタン酸・リン酸重合体は新規物質ともいえる。
本発明の製造方法で製造されたアルコキシチタン酸・リン酸重合体は、種々の公知の用途に使用することができる。たとえば、各種溶剤に溶解して表面に塗布して硬化させて得られる硬化膜は非常に硬く、また、チタニアが有している各種の活性、たとえば抗菌、消臭、防汚、汚染除去などの活性を今まで以上のレベルで発揮する。
たとえばJIS R1701−2で規定するテトラパック法で数時間のアセトアルデヒド分解活性を示す膜を得るための硬化方法としては、塩素原子を含むアルコキシチタン酸・リン酸重合体の場合、加熱では110℃で3時間以上処理する方法;ブラックライトを3時間以上照射する方法;電子線や電磁波エネルギーを照射する方法;太陽光下に放置する方法;酢酸、シュウ酸、リン酸、クエン酸などを上塗りする方法などが好ましく採用でき、その結果、表面硬度もまた、H9以上の非常に硬い膜が得られている。一方、本発明の塩素原子を含まないアルコキシチタン酸・リン酸重合体の場合、そのまま塗布して数時間ないし数日乾燥することで硬度H9以上の硬い膜を形成することができる。得られた硬化膜はJIS R1701−2で規定するテトラパック法で数時間のアセトアルデヒド分解活性を示す。
塗布用の組成物に調製する場合、アルコキシチタン酸・リン酸重合体の濃度は、屋外などの紫外線も含む太陽光に曝される塗膜を形成する場合、0.0002〜0.2質量%の塗布液とし、これを重ね塗りする方法が、光輝性、接着性、チョーキング防止性の点から優れている。また、室内や暗所に塗膜を形成する場合、または青苔などの汚れを消去する場合は、0.5〜2質量%の塗布液とするのが好ましい。これらの用途に適用する場合、塗布面の塗料や、コーキング剤、パッキン等の下地と親和性のある溶剤に溶解または分散した塗布液を調製して塗布すると、さらに効果を高めることができる。
そのほか、抗菌剤としても有効であり、たとえば人工物(コーキング材、パッキン、墓石など)に生育したカビや苔に塗布すると数日後にはカビや苔は消え、その状態が6年以上も維持できている。人工物に限らず、樹木の表面に生えたカビや苔も、本発明で製造したアルコキシチタン酸・リン酸重合体を塗布することで消滅させることができ、その状態を3年以上維持することができている。特に、被塗布物に親和性のある溶剤に溶解した溶液の形態で塗布すると、より効果が向上する。
アルコキシチタン酸・リン酸重合体溶液を塗膜形成用としてだけではなく、たとえば粉砕したプラスチック微粒子や、繊維、糸、布、木材に対する含浸添加物としても利用できる。さらにペレット化したプラスチックにコーティングし、コーティング物を成形用の材料とすることもできる。またたとえば、紡糸することにより長繊維を提供でき、硬化することにより網目状の布・フィルムを形成することもできる。
具体的な用途としては、特に限定されず、たとえば導電材、電磁波防御材、低温常圧での耐酸性チタン膜形成剤、電磁波防御剤、超伝導剤、帯電防止剤、耐摩耗剤、耐熱光輝を賦与する表面処理剤、除苔剤、殺菌剤、殺カビ剤、消臭剤、NOX−SOXを酸化分解してHNO3およびH2SO4に固定化する触媒、水系エステル交換触媒、CO2やH2O分解触媒、粒子状チタニアの結合型接着剤、テフロン(登録商標)やシリコーン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレンなど同士の強力接着剤、またはこれらと金属や木材、セメント、セラミックなどとの強力接着剤、多糖類の加水分解触媒、防錆剤、木材防腐防蟻剤、農薬、養魚薬、防汚・除汚(セルフクリーニング)剤などが挙げられ、多種多様な用途に利用可能である。
次に本発明を実施例により、具体的に説明する。
実施例1
テトライソプロポキシチタン酸の4質量%イソプロピルアルコール溶液を25±1℃に保ちながら、これにリン酸の8.5質量%イソプロピルアルコール溶液を連続的に滴下して重合を開始し、1000±10rpmの撹拌速度で撹拌しながら30分以上掛けて滴下を続け、リン酸の滴下量(テトライソプロポキシチタン酸1モル(4価)に対するリン酸の添加モル数)と重合生成液の粘度(テックジャム(株)製のB型粘度計KN33124B2を使用)の関係を調べた。重合生成液の液温は25±5℃に維持した。
その結果、テトライソプロポキシチタン酸1モル(4価)に対しリン酸の滴下量が1モルのときの重合生成液の粘度は1×102cPであり、リン酸の滴下量が2モルのときの重合生成液の粘度は1×103cPであり、リン酸の滴下量が3モルのときの重合生成液の粘度は1.0×104cPでありまだ撹拌可能であったが、リン酸の滴下量が4モルとなった時点で重合生成液は撹拌できなくなり、わずかに乳白色を示す透明なゼリー状に膠化した。なお、粘度は、1000cP未満では10の位で四捨五入し、1000cP以上では100の位で四捨五入して表示している(以下同様)。
ついで、リン酸の滴下量が1モル、2モル、3モル、3.5モルおよび4モルとなった時点でリン酸の滴下を終了し、それぞれ得られた重合生成物であるテトライソプロポキシチタン酸・リン酸重合体の、水、メチルアルコール、エチルアルコール、ブチルアルコールおよびイソプロピルアルコールに対する溶解性(飽和濃度:質量%)を調べた。結果を表1に示す。添加量が4モルのとき、一部の生成重合体が架橋するので、溶解性を調べた後の溶液(100ml)をろ紙を用いアスピレータで吸引しながらろ過し、溶媒100mlで洗浄後60℃で乾燥して得られた架橋物または超高分子物の量(質量%)を調べ、括弧内に記載している。なお参考までに、出発原料であるテトライソプロポキシチタン酸(リン酸の添加量が0モル)についても溶解性(飽和濃度:質量%)を調べ、表1に併せて示す。
Figure 0005861129
表1に示すように、膠化する前に重合を停止して得られたテトライソプロポキシチタン酸・リン酸重合体、特にリン酸の滴下量が4モル未満、たとえば0.1モル以上で4モル未満のテトライソプロポキシチタン酸・リン酸重合体は、水、メチルアルコール、エチルアルコール、ブチルアルコールおよびイソプロピルアルコールのいずれに対しても極めて大きな溶解性を示している。このことから、得られたテトライソプロポキシチタン酸・リン酸重合体が線状構造を採っていることが分かる。
また、出発原料であるテトライソプロポキシチタン酸の希釈用溶媒としては、その溶解性試験の結果から、イソプロピルアルコールが最良の希釈用溶媒であることが分かる。
実施例2
実施例1においてテトライソプロポキシチタン酸に代えて、他のテトラアルコキシチタン酸、すなわちテトラメトキシチタン酸、テトラエトキシチタン酸、またはテトラブトキシチタン酸を用いたほかは実施例1と同様にして重合を行ない、テトラアルコキシチタン酸1モル(4価)に対しリン酸の滴下量が1モル、2モル、3モルおよび4モルのときの重合生成液の粘度を実施例1と同様にして調べた。結果を表2に示す。
Figure 0005861129
表2の結果から、アルコキシチタン酸としてテトラメトキシチタン酸、テトラエトキシチタン酸、またはテトラブトキシチタン酸を用いても、本発明の製法が実施できることが分かる。
実施例3
テトライソプロポキシチタン酸の4質量%イソプロピルアルコール溶液に、トリメチルリン酸の8.5質量%イソプロピルアルコール溶液を、テトライソプロポキシチタン酸1モル(4価)に対するトリメチルリン酸の添加モル数が1モルとなるように1000±10rpmの撹拌下に30分間掛けて滴下して重合を行った。滴下終了後撹拌を止め、反応時と同様に液温を常温(約25±5℃)に保ち、重合生成液の粘度を経時的に調べた。その結果、25日後に1×102cP、50日後に1×103cP、75日後に1.0×104cPとなり、100日後に透明膠化し、110日後に白濁した。なお、テトライソプロポキシチタン酸とトリメチルリン酸が等モルの場合白濁(または乳白色化)するが(たとえば実施例1)、テトライソプロポキシチタン酸よりもトリメチルリン酸のモル数が小さいと重合生成液は透明なままで、水およびアルコールに無限大に溶解する(たとえば後述する実施例13)。
この結果から、上記の反応条件では、反応終了直後または75日になる前に冷却し、水またはアルコール、特にメタノール、イソプロピルアルコールまたはそれらの混合物にて稀釈し反応(重合)を停止することが好ましいことが分かる。
実施例4
実施例3において、トリメチルリン酸に代えてトリエチルリン酸、トリイソプロピルリン酸、またはトリブチルリン酸を用いたほかは実施例3と同様にして反応を行い、実施例3と同様に25日後、50日後、および75日後の粘度を調べた。結果を表3に示す。
Figure 0005861129
表3から、トリメチルリン酸に代えてトリエチルリン酸、トリイソプロピルリン酸、またはトリブチルリン酸を用いても、本発明の製法が実施できることが分かる。
実施例5
テトライソプロポキシチタン酸の4質量%イソプロピルアルコール溶液を70℃に加温し、この溶液に、トリメチルリン酸の8.5質量%イソプロピルアルコール溶液(常温反応ではそのままの原液でもよい)をテトライソプロポキシチタン酸1モル(4価)に対するトリメチルリン酸の添加モル数が0.2モルとなるように撹拌下(1000±10rpm)に一括で加えて重合を開始した。重合は撹拌下(1000±10rpm)に液温70℃を維持しながら進め、重合生成液の粘度を経時的に調べた。その結果、2時間後に1×102cP、4時間後に1×103cP、7時間後に1.0×104cPとなり、9時間後に透明膠化し、11時間後には白濁した。
この結果から、上記の反応条件では、重合時間が9時間になる前に冷却し、水またはアルコールにて稀釈して反応(重合)を停止することが重要であることが分かる。これは、反応温度が高温でしかもトリメチルリン酸の添加を一括で行った場合、早い時点で分岐型の線状重合体が形成されることによるものと考えられる。
実施例6(消臭試験)
実施例1において、リン酸の滴下量がテトライソプロポキシチタン酸1モル(4価)に対し1モルとなった時点でリン酸の滴下を終了して得られたテトライソプロポキシチタン酸・リン酸重合体を純水で希釈して2質量%濃度の希釈液を調製した。
この希釈液をポリ塩化ビニル製の白色クロス(100mm×100mm×2mm厚:関東レザー(株)製)に刷毛で塗布し、常温(約25±5℃)で8日間放置して乾燥し、試験サンプル(サンプル1)を作製した。
別に、同じ希釈液を鏡((株)ダイソー製。100mm×100mm)に刷毛で塗布し、110℃にて1時間強制乾燥して試験サンプル(サンプル2)を作製した。
これらのサンプル1および2と未処理の鏡((株)ダイソー製。100mm×100mm。対照)を用い、JIS R1701−2(テトラパック法)に従ってアセトアルデヒド(1000ppm)の分解率を調べた。結果を表4に示す。
Figure 0005861129
表4から、鏡に塗布した場合、直ちにアセトアルデヒドの分解が始まり、4時間後には殆んどが分解され、また、ポリ塩化ビニルクロスに塗布した場合でも4時間後には大きく分解が進み8時間後には殆んどが分解されていることが分かる。
実施例7(消臭試験)
実施例3で得られたテトライソプロポキシチタン酸・トリメチルリン酸重合体を純水/メタノール(1/1)で希釈して2質量%、0.2質量%、0.02質量%、0.002質量%および0.0002質量%濃度の希釈液を調製した。
この希釈液を鏡((株)ダイソー製。100mm×100mm)に刷毛で塗布し、常温(約25±5℃)で太陽光に当たるように窓際で7日間放置して、消臭試験用のサンプルを作製した。
これらのサンプルを用い、JIS R1701−2(テトラパック法)に従ってアセトアルデヒド(1000ppm)を用い、消臭試験を行った。結果を表5に示す。
Figure 0005861129
表5から、低濃度(薄い膜)の方が消臭効果が高い(消臭速度が速い)ことが分かる。なお、高濃度の場合、検知アルデヒド量が仕込み量(1000ppm)よりも高くなるが、これは重合体中のチタン酸単位に結合した有機基(メチル基やイソプロピル基など)、特にチタン酸メチル基が分解し、ホルミアルデヒドになるためと考えられる。
また、希釈濃度が0.0002質量%の希釈液を使用しても膜を形成することができた。これは従来のチタニアではせいぜい0.5〜2質量%程度にしか希釈できなかったことを考えると、格段の効果である。
実施例8(硬化性試験)
実施例3で得られたテトライソプロポキシチタン酸・トリメチルリン酸重合体を純水/メタノール(1/1)で希釈して2質量%、0.2質量%、0.02質量%、0.002質量%および0.0002質量%濃度の希釈液を調製した。
この希釈液を鏡((株)ダイソー製。100mm×100mm)に刷毛で塗布し、常温(約25±5℃)で太陽光に当たるように窓際で4日間放置し、塗膜の表面硬度(鉛筆硬度)の経時変化を調べた。結果を表6に示す。
Figure 0005861129
表6から、低濃度の方が早く表面硬度が上がり、また、いずれも2日後には9Hという硬い表面硬度の塗膜となることが分かる。これは、膜が薄い(濃度が低い液を使用する)ほど紫外線による硬化が早く進み、また、これに加え、分子内でリン酸チタン結合によって生ずる黄リン/赤リン効果、アノード/カソード効果により脱アルキル(メチル、イソプロピル)化が生じて網目構造を形成しやすいためと考えられる。
実施例9(腐食試験)
実施例1において、リン酸の滴下量がテトライソプロポキシチタン酸1モル(4価)に対し1モルとなった時点でリン酸の滴下を終了して得られたテトライソプロポキシチタン酸・リン酸重合体を純水で希釈して2質量%濃度の希釈液を調製した。
この希釈液を鋼板(脱脂ボンディング鋼板:50mm×50mm×0.8mm厚:新日本製鐵(株)製をバ布400番で研磨したもの)に塗布し、試験サンプル(サンプル3)を作製した。
このサンプル3を純水、水道水(延岡市の水道水)および5ppm濃度の食塩水に浸漬し、水が着色し始めるかサンプルの表面が変色し始めた日数で評価した。
対照として塗布処理を行わなかった鋼板(サンプル4)、および比較としてメタノール塩酸を使用して製造したテトライソプロポキシチタン酸のリン酸化合物(WO2010/140501の実施例8で製造したもの)の2質量%水希釈液を同様にして上記鋼板に刷毛で塗布して作製した比較試験サンプル(サンプル5)についても、同様に腐食試験を行った。結果を表7に示す。
Figure 0005861129
表7の結果から、本発明の製造方法で得られたテトライソプロポキシチタン酸・リン酸重合体が耐腐食性に優れることが分かる。
実施例10(付着試験)
実施例1において、リン酸の滴下量が3.5モルとなった時点でリン酸の滴下を終了して得られたテトライソプロポキシチタン酸・リン酸重合体を純水で希釈して2質量%濃度の希釈液を調製した。
この希釈液を親水性塗料(旭化成(株)のへーベル(登録商標)のアクリルシリコーン塗料)で塗装したスレート板、親油性塗料(日本ペイント(株)製のシリコーン系塗料)で塗装したスレート板および未塗装スレート板(親水性。松下・クボタ製)にそれぞれ刷毛で塗布し、常温(約25±5℃)で8日間放置して乾燥し、試験サンプル(サンプル6)を作製した。
また、比較として、実施例9において比較試験サンプル(サンプル5)に使用した希釈液を用いたほかは同様にして親水性塗料塗装スレート板、親油性塗料塗装スレート板および未塗装スレート板に刷毛で塗装し、常温(約25±5℃)で8日間放置して乾燥し、試験サンプル(サンプル7)を作製した。
これらの試験サンプルにおける本発明で得られたテトライソプロポキシチタン酸・リン酸重合体の塗膜の付着性を次の方法で調べた。結果を表8に示す。
(付着性試験)
刷毛で塗装した際の希釈液の状態および乾燥後の膜の形成状態を目視で観察する。
(評価基準)
◎:全くはじかずきわめて均一に付着し、乾燥後も均一な厚さの膜を形成する。
○:液滴を形成せず均一に付着するが、乾燥後の膜の表面にうねりが若干見られる。
△:液滴が集まって部分的な付着となり、乾燥後もムラのある膜となる。
×:大きな液滴として表面に残り、膜を形成しない。
Figure 0005861129
表8に示す結果から、本発明で得られたテトライソプロポキシチタン酸・リン酸重合体の塗膜は、親水性表面にでも親油性表面にでも均一に付着することが分かる。
実施例11(防曇試験)
実施例1および2でそれぞれ得られたテトライソプロポキシチタン酸・リン酸重合体(IT−P)とテトライソプロポキシチタン酸・トリメチルリン酸重合体(IT−PM)をメタノール/水(1/1質量比)で希釈して2質量%、0.2質量%、0.02質量%、0.002質量%および0.0002質量%濃度の希釈液を調製した。
これらの希釈液を鏡((株)ダイソー製)に刷毛で塗布し、常温(約25±5℃)で太陽光に当たるように1日間放置して、塗膜の防曇試験用のサンプルを作製した。ついで、これらのサンプルおよび未処理の鏡に息を吹きかけ、鏡の曇り方を調べた。
その結果、IT−Pサンプルは曇らなかった。一方、IT−PMサンプルは曇り、未処理の鏡では最初曇るが直ぐに曇りが消失した。これらの結果は、上記の希釈濃度範囲で同じであった。
これらの結果から、IT−Pは親水性の塗膜を形成するが、IT−PMは撥水性の塗膜を形成していることが分かる。
実施例12(貯蔵安定性試験)
実施例1でテトライソプロピルチタン酸1モル(4価)にリン酸1モルを用いて得られたテトライソプロポキシチタン酸・リン酸重合体(IT-P)をメタノール/水(1/1質量比)、メタノールまたはイソプロピルアルコールでいずれも2質量%、0.2質量%、0.02質量%、0.002質量%および0.0002質量%濃度に希釈して希釈液を調製した。これらの希釈液をいずれも25±5℃で10日間放置した後、さらに室内(冬季5℃、夏季30℃)で長期間放置して白濁が生じるまでの月数を調べた。結果を表9に示す。
Figure 0005861129
表9に示すとおり、いずれの希釈液も長期の貯蔵安定性が得られている。なお、水が存在する場合(メタノール/水希釈)、経時的に架橋が生じやすく、一方、水が存在しないメタノールおよびイソプロピルアルコール希釈の場合、増粘するだけで白濁(架橋)は生じないと考えられる。また、イソプロピルアルコールに代えて水またはメタノール/水で希釈して塗布する場合、チタン酸に結合しているイソプロピル基がメチル基(または水酸基)と置き換わり、安定した5〜6員環が水により加水分解され、部分的に架橋することによるものと推察される。
実施例13(貯蔵安定性試験)
テトライソプロポキシチタン酸の4質量%イソプロピルアルコール溶液に、リン酸の8.5質量%イソプロピルアルコール溶液を、テトライソプロポキシチタン酸1モル(4価)に対するリン酸の添加モル数を0.2モルとなるように1000±10rpmの撹拌下に30分間掛けて滴下して重合を行い、重合生成液を得た。重合は重合温度を25±5℃に設定しこの温度を維持するために水冷しながら行った。
リン酸の添加モル数を0.4モルおよび0.8モルに変更したほかは同様にして重合し、それぞれ重合生成液を得た。
得られた重合生成液について、液温を常温(約25±5℃)に保ち、重合生成液の粘度を経時的に24ヵ月まで調べた。結果を表10に示す。
Figure 0005861129
表10の結果から、リン酸の添加モル数が小さい場合、初期重合で重合度が上がるため比較的初期の粘度は高くなるが、その後、粘度は安定し、24ヵ月を超える貯蔵(保存)安定性が得られていることが分かる。イソプロピルアルコール中で8.5質量%リン酸イソプロピルアルコール溶液を用いて反応させた場合、重合生成液は全く透明な重合体液であり、水およびメタノールに無限に溶解し透明な希釈液となる。これは、反応において架橋は起こっておらず、得られる重合体は線状であることを示している。
実施例14(帯電防止試験)
ポリエチレン樹脂製の食品包装用袋にポリプロピレン製の化学粉砕したミクロンパウダー(平均粒径50μm:(有)山曹ミクロン製)50gを入れ、これに実施例1(リン酸の添加量がチタン酸1モル(4価)に対し1モル)で製造したテトライソプロポキシチタン酸・リン酸重合体(IT−P6)の4質量%イソプロピルアルコール溶液を表11に示す量で加えて混ぜ合わせ、ついでアルミニウム製容器中で80℃にて1時間通気乾燥して、処理粉末を調製した。
この処理粉末をポリエチレン製の袋に入れ、密封状態で1分間振ったのち、袋を逆さにして内容物を排出し、ポリエチレン製の袋に残った粉末の質量を測定した。
同じ帯電防止試験を、IT−P6に代えて、実施例2と同一条件(チタン酸1モル(4価)に対して0.2モルのトリメチルリン酸)で製造したテトライソプロポキシチタン酸・トリメチルリン酸重合体(IT−PM)の4質量%イソプロピルアルコール溶液を表11に示す量で加えた場合、さらにポリプロピレンミクロンパウダーのみの未処理粉末(ブランク)について、同様にしてポリエチレン製の袋に残った粉末の質量を測定した。結果を表11に示す。この残留量が少ないほど帯電性が小さいことを示す。
Figure 0005861129
表11の結果から、本発明で製造したアルコキシチタン酸・リン酸重合体、特にアルコキシチタン酸・トリメチルリン酸重合体は、優れた帯電防止効果を奏することが分かる。
実施例15(希釈後の貯蔵安定性試験)
テトライソプロポキシチタン酸の4質量%イソプロピルアルコール溶液に、リン酸の8.5質量%イソプロピルアルコール溶液を、テトライソプロポキシチタン酸1モル(4価)に対するリン酸の添加モル数を0.5モルとなるように1000±10rpmの撹拌下に30分間掛けて滴下して重合を行い、粘度が1000cPになった時点で重合を停止して、塩素を含まない重合生成液を得た。重合は重合温度を25±5℃に設定しこの温度を維持するために水冷しながら行った。
比較のため、テトライソプロポキシチタン酸の4質量%イソプロピルアルコール溶液に、塩酸をテトライソプロポキシチタン酸1モル(4価)に対して1/5モル加えて均一にし、さらに水1/5モルを加えて25±5℃にて1000±10rpmの撹拌下に30分間反応させた。ついでイソプロピルトリス(ジオクチルパーホスフェート)チタネートを1モル加えて30分間撹拌し、塩素と水を含む重合生成液を得た。
得られたそれぞれの重合生成液をイソプロピルアルコールで4質量%、2質量%、1質量%および0.5質量%に希釈した希釈液を調製した。これらの希釈液について、液温を常温(約25±5℃)に保って放置し、希釈液の粘度が1000cPに達するまでの期間(月数)を調べた。結果を表12に示す。
Figure 0005861129
表12の結果から、塩素を含まないテトライソプロポキシチタン酸・リン酸連鎖移動重合体の方が希釈した後でも貯蔵安定性に優れていることが分かる。
なお、比較として製造した有塩素の重合体の場合、油状の有機溶剤には溶解するが、水およびメタノールには溶解しなかった。この点、水および全ての有機溶剤に溶解する本発明の無塩素の重合体と異なる。
実施例16(変異原性試験)
実施例3で製造したテトライソプロポキシチタン酸・トリメチルリン酸連鎖移動重合体と、イソプロピルアルコール遊離体とトリメチルリン酸未反応物の混合物について、非エームス(Ames)試験を行ったところ、陰性であった。

Claims (2)

  1. 水および鉱酸の不存在下に、アルコキシチタン酸のアルコール溶液にリン酸またはアルキルリン酸エステルを加えて連鎖移動重合を開始し、重合生成液の粘度が上昇し、膠化する寸前に、前記リン酸または前記アルキルリン酸エステルの添加を中止して、重合を停止することを特徴とする線状のアルコキシチタン酸・リン酸重合体の製造方法。
  2. アルコール溶液が、メタノール、エタノール、ブタノールおよびイソプロパノールよりなる群から選ばれる少なくとも1種の溶液である請求項1記載の製造方法。
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