JP4550368B2 - 水性チタン組成物 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、水性チタン組成物に関するものであり、特に水と任意の割合で混合する事のできる水性チタン組成物に関するものである。これを使用し、水溶性樹脂の架橋剤として塗料、インキ、接着剤など、表面処理剤として高屈折率膜などの酸化チタン含有薄膜、プライマー、アンカーコート剤、カップリング剤、紙や繊維のコーティング剤など、触媒としてエステル化、シリコーン硬化など、無機バインダーとして防錆処理剤用バインダーなど、セラミックス焼結剤などに利用できる。
【0002】
【従来の技術】
従来よりチタンアルコキシドは、架橋剤として分子中に水酸基、カルボキシル基などを有する化合物と反応するため、接着改良剤、塗料の架橋剤、塗料の耐熱向上剤に利用されている。さらにゾルゲル法により酸化チタンの薄膜製造や、エステル化の触媒として工業的に幅広く使用されている。しかし、チタンアルコキシドは非常に高い加水分解性を有しているため、空気中の水分によっても作業中や保存中に不溶物を生じやすい。また、チタンアルコキシドを使用する際には有機溶媒を多量に使用する必要があり、環境負荷が極めて高い。環境負荷が低く、耐加水分解性を有するチタン化合物として、水溶性のチタン組成物が検討されてきた。現在市販されている水溶性のチタン化合物の技術はチタンアルコキシドにキレート化剤を反応させる方法がとられており、ヒドロキシカルボン酸である乳酸とチタンアルコキシドとを反応させたチタンラクテート、β−ジケトンであるアセチルアセトンとチタンアルコキシドとを反応させたチタンアセチルアセトネート、アルカノールアミンであるトリエタノールアミンとチタンアルコキシドを反応させたチタントリエタノールアミネート、ジカルボン酸であるシュウ酸とチタンアルコキシドとを反応させたシュウ酸チタンなどがある。これについては、たとえば、(特許文献1)や、(非特許文献1)に記載されている。しかしこれらは、いすれもチタンとキレート剤とのキレート化力が強くて架橋剤や接着改良剤などとして使用した場合、充分にチタン本来の性能が発揮できないかまたは、架橋剤や接着改良剤などに有用なチタン化合物は、キレート化力が弱くて加水分解されやすいという問題があった。(特許文献2)には脂肪族アミンを使用してチタン含有水溶液の製造方法が記載されているが、少量の水では配合物が白色固体となり、均一で透明な液体を得る事ができない。
【0003】
【特許文献1】
特開昭53−98393
【非特許文献1】
杉山岩吉、「含有金属有機化合物とその利用」、M.R.機能性物質シリーズNo.5、日本、シーエムアイ株式会社、昭和58年3月18日、p.73−74
【特許文献2】
特開2001−322815
【0004】
【解決しようとする課題】
本発明は、水と任意の割合で混ぜる事ができ、かつ長期にわたり濁りや沈殿を生じず安定な水性チタン組成物を提供するものである。したがって少量の水を使用してもチタン含有水溶液が得られるため、チタンの含有率を高くする事ができ、また、水を加えても白色固体を生じ無いために製造が容易である。この水性チタン組成物は従来のチタンアルコキシドと比べ空気中の水分の影響を受けず取り扱いが簡単であり、架橋剤、接着改良剤、薄膜原料などに使用すれば優れたチタン本来の性能を発揮する事ができ、作業安定性に優れ、かつ有機溶剤の排出を減らす事も出来る。
【0005】
【課題を解決しようとする手段】
本発明者等は、水と任意の割合で混ぜる事ができ、かつ長期にわたり濁りや沈殿を生じず安定な水性チタン組成物を鋭意検討してきた。その結果、チタンアルコキシドと限定されたグリコールと脂肪族アミンを接触、混合する事により、水と任意の割合で混ぜる事の出来る水性チタン組成物を見出すに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、チタンアルコキシド(A)と、脂肪族アミン(B)と、一般式(I)
【化3】
(式中、R1、R2、R3、R4はそれぞれ水素、アルキル基、ヒドロキシアルキル基のいずれかである)で表されるグリコール(C)からなり、チタンアルコキシドに対し脂肪族アミンのモル比が0.3以上であり、かつチタンアルコキシドに対し一般式(I)で表されるグリコールのモル比が1.0以上である事を特徴とする水性チタン組成物であり、場合により水が共存しても良い。
【0007】
さらに、本発明は、グリコールが1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、2,3−ブタンジオールのいずれか、またはそれらの混合物である事を特徴とする水性チタン組成物である。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下に本発明についてさらに詳細に説明する。本発明の水性チタン組成物は下記に示すチタンアルコキシド(A)と、脂肪族アミン(B)と、グリコール(C)からなる。
【0009】
チタンアルコキシド(A)は下記一般式(II)で表される。
【化4】
【0010】
R5はアルキル基である。好ましいアルキル基の炭素数は1〜8の整数であり、nは1〜10の整数である。さらに具体的には、例えばテトライソプロピルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラt−ブチルチタネート、テトライソブチルチタネート、テトラエチルチタネート、テトライソオクチルチタネート、混合アルキルチタネートであるジイソプロピルジイソオクチルチタネート、イソプロピルトリイソオクチルチタネート、テトラアルキルチタネート単量体を縮合したテトラブチルチタネート2量体、テトラブチルチタネート4量体などである。無論ここに例示したものに限らないが、これらのチタンアルコキシドを単独または2種類以上混合して用いる事ができる。
【0011】
脂肪族アミン(B)としては、次のようなものがある。例えば、アルキルアミンではメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、sec−ブチルアミン,tert−ブチルアミン、アミルアミン、sec−アミルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン3−(ジエチルアミノ)プロピルアミン、3−(ジブチルアミノ)プロピルアミンなどがあり、脂肪族環状アミンではピペリジン、ピロリジンなどがあり、アルコキシアルキルアミンとしては、3−メトキシプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミンなどがあり、ヒドロキシアルキルアミンではN,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジブチルエタノールアミン、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミンなどがあり、第四級アンモニウム水酸化物としては、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、2−ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムヒドロキシドなどがある。無論ここに例示したものに限らないが、これら脂肪族アミンを単独または2種類以上混合して用いる事ができる。
【0012】
アミンの添加量はチタンアルコキシド1モルに対しに対して、0.3モル以上が必要であり、0.3モル未満ではグリコールを加えた後、水を添加すると、液が白濁、または長時間放置すると浮遊物が生じる場合がある。またアミンの添加量を多くすると、水性チタン組成物中のチタン濃度が低下するため、より好ましくは4モル以下の比率で添加する。
【0013】
グリコール(C)としては、次のようなものがある。たとえば、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、2,3−ブタンジオール、2,3−ペンタンジオール、グリセリンなどがある。無論ここに例示したものに限らないが、これらグリコールを単独または2種類以上混合して用いる事ができる。
【0014】
グリコールの添加量については、チタンアルコキシド1モルに対し1.0モル以上である。1.0モル以上であれば特に限定はないが、添加量を多くすると、水性チタン組成物中のチタン濃度が低下するため、より好ましくは6.0モル以下の比率で添加する。
【0015】
チタンアルコキシドとグリコールの添加順序については特に限定はない。例えば、チタンアルコキシドにアミンを加え、次にグリコールを加える方法、チタンアルコキシドにグリコールを加え、次にアミンを加える方法、アミンにグリコールを加え、次にチタンアルコキシドを加える方法などがある。これらの方法で製造した組成物に水を添加すれば、チタンを含んだ水溶液を作る事が出来る。
【0016】
以下に本発明を実施例によりさらに詳しく説明する。
【0017】
実施例1
100mlの四つ口フラスコにテトライソプロピルチタネートを28.4g(0.1モル)仕込み、攪拌しながらトリエチルアミン10.1g(0.1モル)を30分かけて加えた。続いて1,2−エタンジオールを24.8g(0.4モル)を攪拌しながら加えて40℃で30分保ったところ、透明な液体が得られた。これを3つに分け水を加え、おのおのチタン1モルに対し水が5モル、50モル、200モルになるよう調整し、おのおの透明なチタンを含む水溶液を得た。得られた水溶液は沈殿物、浮遊物生じず透明であった。これらの水溶液を40℃にて30日間保蔵したが沈殿物や浮遊物は生じず透明な液体であった。
【0018】
実施例2
実施例1と同様に100mlの四つ口フラスコにテトライソプロピルチタネートを28.4g(0.1モル)、ジエチルアミン7.3g(0.1モル)、1,2−プロパンジオールを30.4g(0.4モル)を加えて透明な液体を得た。これを3つに分け水を加え、おのおのチタン1モルに対し水が5モル、50モル、200モルになるよう調整し、おのおの透明なチタンを含む水溶液を得た。これらの水溶液を40℃にて30日間保蔵したが沈殿物や浮遊物は生じず透明な液体であった。
【0019】
実施例3
実施例1と同様に100mlの四つ口フラスコにテトライソプロピルチタネートを28.4g(0.1モル)、ピペリジン17.0g(0.2モル)、1,2−エタンジオール24.8g(0.4モル)を加えて透明な液体を得た。これを3つに分けて水を加え、おのおのチタン1モルに対し水が5モル、50モル、200モルになるよう調整し、透明なチタンを含む水溶液を得た。これらの水溶液を40℃にて30目間保蔵したが沈殿物や浮遊物は生じず透明な液体であった。
【0020】
実施例4
実施例1と同様に100mlの四つ口フラスコにテトライソプロピルチタネートを28.4g(0.1モル)、47.1%2−ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液12.0g(0.05モル)、1,2−プロパンジオール5.9g(0.1モル)を加えて透明な液体を得た。これを3つに分けて水を加え、おのおのチタン1モルに対し水が5モル、50モル、200モルになるよう調整し、透明なチタンを含む水溶液を得た。これらの水溶液を40℃にて30日間保蔵したが沈殿物や浮遊物は生じず透明な液体であった。
【0021】
実施例5〜8
実施例1に準じて表1の組成でチタンを含む水溶液を得た。これらの水溶液を40℃にて30日間保蔵したが沈殿物や浮遊物は生じず透明な液体であった。
【0022】
【表1】
【0023】
比較例1
100mlの四つ口フラスコにテトライソプロピルチタネートを28.4g(0.1モル)仕込み、攪拌しながらトリエチルアミン10.1g(0.1モル)を30分かけて加えた。これに水を9.0g(0.5モル)加えると、直ちに白色凝固物が生じ透明なチタンを含む水溶液は得られなかった。
【0024】
一般式(I)
【化5】
(式中、R1、R2、R3、R4はそれぞれ水素、アルキル基、ヒドロキシアルキル基のいずれかである)で表されるグリコールを添加しないと透明なチタン水溶液は得られない。
【0025】
比較例2
100mlの四つ口フラスコにテトライソプロピルチタネートを28.4g(0.1モル)仕込み、1,2−エタンジオールを24.8g(0.4モル)を攪拌しながら加えた。液は発熱し白い塊となり、攪拌ができなくなった。これに水を9.0g(0.5モル)加えたが白色凝固物が生じ、透明なチタン水溶液は得られなかった。
【0026】
所定量のアルキルアミンの添加なしには透明なチタン水溶液は得られない。
【0027】
比較例3
100mlの四つ口フラスコにテトライソプロピルチタネートを28.4g(0.1モル)、47.1%2−ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液12.0g(0.05モル)、を加えた。液は発熱し白濁し、透明なチタン水溶液は得られなかった。更に、水を9.0g(0.5モル)加えたが、透明なチタン水溶液は得られなかった。
【0028】
実施例9〜12及び比較例4
実施例1〜4のチタン水溶液(チタン1モルに対し水を5モルの比で加えたものをおのおの(a)、(b)、(c)、(d)とする)および、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)(松本製薬工業(株)社製 オルガチックスTC−400)を使用し、ポリビニルアルコールに対する架橋性を確認した。
(1)ポリビニルアルコール水溶液の調整
ポリビニルアルコールとして「ゴーセノール」N−300(日本合成化学工業(株)社製)を用い、5%水溶液を調整した。
(2)成膜方法
5%ポリビニルアルコール水溶液100重量部に対し、チタン水溶液を【表2】に示す所定量加え、混合した。その後アルミカップに約5g測り取り、40℃で16時間乾燥し、均一な膜を得た。
(3)評価方法
不溶化率の測定:100mLのビーカーに成膜した膜と約100mLの水を入れ、1時間煮沸する、その後、濾紙を使用し不溶分を濾過する。その後、105℃にて2時間乾燥し、質量を計算する。
不溶化率(%)=[(C−B)/A]×100
ここで、A=試験前の膜の質量(g)
B=濾紙の質量(g)
C=濾紙+不溶分の質量(g)
着色の確認:成膜した膜の外観を観察した。透明であるものを○、黄変しているものを×とした。結果を【表2】に示す。
【表2】
【0029】
実施例13〜16及び比較例5
実施例1〜4のチタン水溶液(a)、(b)、(c)、(d)、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)(松本製薬工業(株)社製 オルガチックスTC−400)を使用してガラス板(松波ガラス(株)社製 MICRO SLIDE GLASS)、50μmPET(表面処理無し)、40μmOPP(コロナ処理)及び15μmONY(コロナ処理)へ塗工し、被膜の外観、基材との密着性、鉛筆硬度を確認した。
(1)塗工液の調整
各チタン水溶液、TC−400をメタノール/水=4/1(重量部)にて【表3】に示す重量比率で希釈し、塗工液を得た。
(2)成膜方法
塗工液にガラス板(松波ガラス(株)社製 MICRO SLIDE GLASS)を浸積し、30mm/minの速度で引き上げ、塗工した。塗工後、150℃にて1分間硬化し、成膜した。また、50μmPET(表面処理無し)、40μmOPP(コロナ処理)、15μmONY(コロナ処理)のそれぞれのフィルムにバーコーター#4を使用し塗工した後、150℃にて1分間硬化し、成膜した。
(4)評価方法
外観確認 :膜の外観を観察した。透明であるものを○、黄変しているものを×とした。
碁盤目試験:JIS K5400に規定される碁盤目法に準拠し、密着性を評価した。
鉛筆硬度試験:JIS K5400に規定される手かき法に準拠し、鉛筆硬度を評価した。結果を【表3】に示す。
【表3】
【0030】
【発明の効果】
本発明の水性チタン組成物は、チタンアルコキシドの欠点である耐湿性、耐加水分解性の弱さを克服した。本水性チタン組成物は少量の水から多量の水まで任意の割合で混ぜる事ができ、30日以上の保存にも安定である。水溶液であるため、有機溶剤の排出量が削減でき、環境負荷が極めて少ない架橋剤、触媒、表面処理剤などを提供する事が出来る。
Claims (7)
- 脂肪族アミン(B)がアルキルアミン、脂肪族環状アミンのいずれか、またはそれらの混合物である事を特徴とする請求項1または請求項2に記載の水性チタン組成物。
- 脂肪族アミン(B)が第四級アンモニウム水酸化物である請求項1または請求項2に記載の水性チタン組成物。
- グリコールが1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、2,3−ブタンジオールのいずれか、またはそれらの混合物である事を特徴とする請求項1または請求項2に記載の水性チタン組成物。
- 請求項1〜5の何れかの請求項に記載の水性チタン組成物を含有する水溶性樹脂の架橋剤。
- 請求項1〜5の何れかの請求項に記載の水性チタン組成物を含有するコーティング剤。
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