本発明の作業車両の変速装置の一実施形態を図1〜図9を用いて説明する。
本実施形態が適用される作業車両は、例えば図1に示すホイールローダ1である。このホイールローダ1は、運転室2と、掘削作業等を行うための作業機3と、前輪4および後輪5とを備える。
ホイールローダ1は、図2に示す走行用駆動装置12を備える。この走行用駆動装置12は前輪4と後輪5を駆動するものであり、エンジン13(ディーゼルエンジン)と、本実施形態である変速装置20と、この変速装置20から出力される回転駆動力を前輪4の車軸10に伝達するドライブシャフト6およびフロントアクスル8と、変速装置20から出力される回転動力を後輪5の車軸11に伝達するドライブシャフト7とリアアクスル9とを備える。
図3に示すように、本実施形態は、HST30と、このHST30と前輪4および後輪5との間に介在して、HST30の走行モータ32から出力される回転動力を変速して出力する有段変速装置40と、HST30および有段変速装置40を制御するコントローラ80と、ホイールローダ1の走行方向をコントローラ80に指令する前後進切換指令装置74と、有段変速装置40の制御に係るモードである変速モードをコントローラ80に指令する変速モード切換指令装置75とを備える。
HST30は、エンジン13から出力される回転動力により駆動される油圧ポンプ31と、この油圧ポンプ31に第1の管路33と第2の管路34とを介して閉回路に接続された走行モータ32とを備える。
油圧ポンプ31は、吐出量を可変にするとともに吸込み口と吐出し口を逆転可能な可変機構部31aを備える可変容量型油圧ポンプである。この油圧ポンプ31には、可変機構部31aを操作するポンプレギュレータ31bが付設されている。このポンプレギュレータ31bは電気による制御が可能なものであり、コントローラ80により制御される。
走行モータ32は、容量Qを可変にする可変機構部32aを備える可変容量型油圧モータである。この走行モータ32には、可変機構部32aを操作するモータレギュレータ32bが付設されている。このモータレギュレータ32bは電気による制御が可能なものであり、コントローラ80により制御される。
有段変速装置40は、HST30の走行モータ32から出力される回転動力を入力する入力軸41と、この入力軸41に入力された回転動力を第1の変速比RLoで変速する低速側変速機構部50と、入力軸41に入力された回転動力を第1の変速比RLoよりも小さな第2の変速比RHiで変速する高速側変速機構部60と、低速側変速機構部50により変速された回転動力および高速側変速機構部60により変速された回転動力を出力する出力軸42とを備える。
低速側変速機構部50は、入力軸41に対して結合および離脱が可能な低速側クラッチ51と、入力軸41と一体的に回転する低速側ドライブギア52と、この低速側ドライブギア52と噛み合って位置し、出力軸42と一体的に回転する低速側ドリブンギア53とを備える。低速側クラッチ51は油圧により制御されるものである。
高速側変速機構部60は、入力軸41に対して結合および離脱が可能な高速側クラッチ61と、入力軸41と一体的に回転する高速側ドライブギア62と、この高速側ドライブギア62と噛み合って位置し、出力軸42と一体的に回転する高速側ドリブンギア63とを備える。高速側クラッチ61は油圧により制御されるものである。
低速側クラッチ51および高速側クラッチ61を駆動するための圧油としては、定容量型油圧ポンプ35の吐出油が用いられる。この定容量型油圧ポンプ35は、エンジン13から出力される回転動力により駆動されるものである。なお、HST30は、作動油を補充するチャージ回路(図示省略)を備える。定容量型油圧ポンプ35は、そのチャージ回路に含まれ、HST30に補充される作動油を吐出するものでもある。
定容量型油圧ポンプ35と低速側クラッチ51との間には、低速側クラッチ制御弁54が介在している。定容量型油圧ポンプ35と高速側クラッチ61との間には、高速側クラッチ制御弁64が介在している。これら低速側クラッチ制御弁54および高速側クラッチ制御弁64は比例電磁弁、すなわち電気による制御が可能な弁であり、コントローラ80により制御される。
第1の管路33および第2の管路34のそれぞれには、第1の圧力センサ71および第2の圧力センサ72のそれぞれが設けられている。第1の圧力センサ71は、第1の管路33内における圧力P1を検出して、その圧力P1の検出値に相応する第1の圧力検出信号S1(電気信号)をコントローラ80に出力するものである。第2の圧力センサ72は、第2の管路34内における圧力P2を検出して、その圧力P2の検出値に相応する第2の圧力検出信号S2(電気信号)をコントローラ80に出力するものである。
有段変速装置40の出力軸42には、磁気ピックアップ式の回転センサ37が設けられている。この回転センサ37は、出力軸42の回転角度の変化に相応する回転検出信号SRO(電気信号)をコントローラ80に出力するものである。
前後進切換指令装置74は運転室2内に設けられ、中立位置PSN、前進に対応付けられた前進位置PSF、後進に対応付けられた後進位置PSRに傾倒操作可能な操作レバー74aを備える。この前後進切換指令装置74は、操作レバー74aが前進位置PSFに操作された場合にコントローラ80に前進を指令する前進指令信号SF(電気信号)を出力し、操作レバー74aが後進位置PSRに操作された場合に後進を指令する後進指令信号SR(電気信号)を出力するものである。
変速モード切換指令装置75は運転室2内に設けられ、自動モードに対応付けられた自動変速位置PSATと、手動モードに対応付けられた手動変速位置PSMNとに傾倒操作可能な操作レバー75aを備える。変速モード切換指令装置75は、操作レバー75aが自動変速位置PSAに操作された場合に、変速モードを自動モードに設定することを指令する自動変速指令信号SAT(電気信号)をコントローラ80に出力する。変速モード切換指令装置75は、操作レバー75aが手動位置PSMNに操作された場合に、変速モードを手動モードに設定することを指令する手動変速指令信号SMN(電気信号)をコントローラ80に出力するものである。
コントローラ80は、CPU、RAM、ROMを備えるマイクロコンピュータであり、ポンプ制御手段81と、情報取得手段82と、有段変速制御手段84と、無段変速制御手段83とを備える。これらの手段81〜84は制御プログラムにより設定されたものである。これらの手段81〜84について次に詳細に説明していく。
情報取得手段82は、前後進切換指令装置74からの前進指令信号SFに基づいて前進の指令を取得し、前後進切換指令装置74からの後進指令信号SRに基づいて後進の指令を取得する。情報取得手段82はさらに、変速モード切換指令装置75からの自動変速指令信号SATに基づいて変速モードを自動モードに設定する旨の指令を取得し、変速モード切換指令装置75からの手動変速指令信号SMNに基づいて変速モードを手動モードに設定する旨の指令を取得する。情報取得手段82はさらに、第1の圧力センサ71からの第1の圧力検出信号S1に基づき第1の管路33の圧力P1の現在の検出値を取得し、第2の圧力センサ72からの第2の圧力検出信号S2に基づき第2の管路34の圧力P2の現在の検出値を取得する。情報取得手段82はさらに、回転センサ37からの回転検出信号SROに基づき出力軸42の現在の回転方向の情報、すなわちホイールローダ1の現在の走行方向の情報を取得する。
情報取得手段82はさらに、前述のように取得した走行方向の指令(前進の指令または後進の指令)、走行方向の情報、圧力P1,P2の検出値に基づき、油圧ポンプ31の吐出側の管路の現在の圧力の値、すなわちHST30において走行モータ32を駆動する走行駆動圧PVの現在値と、油圧ポンプ31の吸込み側圧力PSの現在値とを取得する。
具体的には、前後進切換指令装置74の操作レバー74aが急逆操作された場合を除いて、走行方向の指令が前進の指令である場合に、情報取得手段82は、第1の圧力センサ71からの第1の圧力検出信号S1に基づいて第1の管路33内における圧力P1の検出値を走行駆動圧PVの現在値として取得し、第2の圧力センサ72からの第2の圧力検出信号S2に基づいて第2の管路34内における圧力P2を油圧ポンプ31の吸込み側圧力PSの現在値として取得する。また、前後進切換指令装置74の操作レバー74aが急逆操作された場合を除いて、走行方向の指令が後進の指令である場合に、情報取得手段82は、第2の圧力センサ72からの第2の圧力検出信号S2に基づいて第2の管路34内における圧力P2の検出値を走行駆動圧PVの現在値として取得し、第1の圧力センサ71からの第1の圧力検出信号S1に基づいて第1の管路33内における圧力P1を油圧ポンプ31の吸込み側圧力PSの現在値として取得する。
一方、前進から後進への急逆操作が行われた場合には、急逆操作後の走行方向の指令(後進)にホイールローダ1の走行方向(回転センサ37により検出された出力軸42の回転方向)が一致するまでの期間、情報取得手段82は、急逆操作前の走行駆動圧PVである第1の管路33内における圧力P1を引き続き走行駆動圧PVの現在値として取得し、急逆操作前の油圧ポンプ31の吸込み側圧力PSである第2の管路34内における圧力P2を引き続き油圧ポンプ31の吸込み側圧力PSの現在値として取得する。急逆操作後の走行方向の指令(後進)にホイールローダ1の走行方向が一致した後は、情報取得手段82は、第2の管路34内における圧力P2を走行駆動圧PVの現在値として取得し、第1の管路33内における圧力P1を油圧ポンプ31の吸込み側圧力PSの現在値として取得する。また、後進から前進への急逆操作が行われた場合には、急逆操作後の走行方向の指令(前進)にホイールローダ1の走行方向が一致するまでの期間、情報取得手段82は、急逆操作前の走行駆動圧PVである第2の管路34内における圧力P2を引き続き走行駆動圧PVの現在値として取得し、急逆操作前の油圧ポンプ31の吸込み側圧力PSである第1の管路33内における圧力P1を引き続き油圧ポンプ31の吸込み側圧力PSの現在値として取得する。急逆操作後の走行方向の指令(前進)にホイールローダ1の走行方向が一致した後は、情報取得手段82は、第1の管路33内における圧力P1を走行駆動圧PVの現在値として取得し、第2の管路34内における圧力P2を油圧ポンプ31の吸込み側圧力PSの現在値として取得する。
ポンプ制御手段81は、ポンプレギュレータ31bを制御することで、油圧ポンプ31から吐き出される圧油の方向および流量を制御するものである。具体的には、ポンプ制御手段81は、前後進切換指令装置74からの前進指令信号に基づいてポンプレギュレータ31bに駆動電力WFを供給し、前後進切換指令装置74からの後進指令信号に基づいてポンプレギュレータ31bに駆動電力WRを供給する。ポンプレギュレータ31bは、ポンプ制御手段81から駆動電力WFを供給された場合に、油圧ポンプ31に第2の管路34側から作動油を吸い込ませて第1の管路33側に吐き出させ、これによって、走行モータ32はホイールローダ1を前進させる方向に回転する。逆に、ポンプレギュレータ31bは、ポンプ制御手段81から駆動電力WRを供給された場合に、油圧ポンプ31に第1の管路33側から作動油を吸い込ませて第2の管路34側に吐き出させ、これによって、走行モータ32はホイールローダ1を後進させる方向に回転する。
有段変速制御手段84は、低速側クラッチ制御弁54および高速側クラッチ制御弁64に供給する電力を制御することで、有段変速装置40を制御するものである。
有段変速制御手段84から駆動電力WLoが低速側クラッチ制御弁54に供給されている状態において、低速側クラッチ制御弁54は定容量型油圧ポンプ35の吐出圧を一次圧として、低速側クラッチ51の始動圧を超えるクラッチ圧PCL−Loを生成する。このクラッチ圧PCL−Loが低速側クラッチ51の油室(図示省略)に供給されると、低速側クラッチ51が作動して入力軸41に結合する。一方、有段変速制御手段84から待機電力が低速側クラッチ制御弁54に供給されている状態において、低速側クラッチ制御弁54は低速側クラッチ51の始動圧を超えるクラッチ圧PCL−Loを生成しない。このため、低速側クラッチ制御弁54は低速側クラッチ51の油室を作動油タンク36に連通した状態になる。この状態において、低速側クラッチ51はリターンスプリング(図示省略)により入力軸41から離脱した状態に維持される。
有段変速制御手段84から駆動電力WHiが高速側クラッチ制御弁64に供給されている状態において、高速側クラッチ制御弁64は定容量型油圧ポンプ35の吐出圧を一次圧として、高速側クラッチ61の始動圧を超えるクラッチ圧PCL−Hiを生成する。このクラッチ圧PCL−Hiが高速側クラッチ61の油室(図示省略)に供給されると、高速側クラッチ61が作動して入力軸41に結合する。一方、有段変速制御手段84から待機電力が高速側クラッチ制御弁64に供給されている状態において、高速側クラッチ制御弁64は高速側クラッチ61の始動圧を超えるクラッチ圧PCL−Hiを生成しない。このため、高速側クラッチ制御弁64は高速側クラッチ61の油室を作動油タンク36に連通した状態になる。この状態において、高速側クラッチ61はリターンスプリング(図示省略)により入力軸41から離脱した状態に維持される。
低速側クラッチ51が入力軸41に結合した状態で高速側クラッチ61が入力軸41から離脱した状態は、低速側変速機構部50が第1の変速比RLoで動力を伝える状態である。高速側クラッチ61が入力軸41に結合した状態で低速側クラッチ51が入力軸41から離脱した状態は、高速側変速機構部60が第2の変速比RHiで動力を伝える状態である。有段変速装置40において、高速側変速機構部60により動力を伝える状態から低速側変速機構部50により動力を伝える状態に切り換える速度段の変更がシフトダウンであり、低速側変速機構部50により動力を伝える状態から高速側変速機構部60により動力を伝える状態に切り換える速度段の変更がシフトアップである。以下では、低速側変速機構部50により変速を行う有段変速装置40の状態を「低速度段状態」といい、高速側変速機構部60により変速を行う有段変速装置40の状態を「高速度段状態」という。
有段変速制御手段84は、情報取得手段82により読み込まれた変速モードの指令が手動モードの指令である場合に変速モードを手動モードに設定し、情報取得手段82により読み込まれた変速モードの指令が自動モードの指令である場合に変速モードを自動モードに設定する。
手動モードにおいて有段変速制御手段84は、運転室2内に設けられたシフトレバー(図示省略)の操作位置に応じて低速側クラッチ制御弁54および高速側クラッチ制御弁64のそれぞれに供給する電力を制御し、有段変速装置40の速度段の変更(シフトダウン、シフトアップ)を行う。
自動モードにおいて有段変速制御手段84は、低速側クラッチ制御弁54および高速側クラッチ制御弁64に対する電力の現在の制御状態、すなわち有段変速装置40の速度段の状態(高速度段状態、低速度段状態)と、情報取得手段82により取得された走行駆動圧PVの現在値および油圧ポンプ31の吸込み側圧力PSの現在値と、モータレギュレータ32bに対する駆動電力WMの制御状態、すなわち走行モータ32の容量Qの制御状態とに基づき、有段変速装置40の速度段の変更(シフトダウン、シフトアップ)を自動的に行うものである。
具体的には、自動モードにおいて、走行駆動圧PVが油圧ポンプ31の吸込み側圧力PSよりも高い状態(PV>PS)であり、かつ、有段変速装置40が高速度段状態であり、かつ、走行モータ32に作用する負荷トルク(走行モータ32の容量Qと走行駆動圧PVとの積)が予め設定された第1の範囲DLo(QLo≦Q≦Qmax,PLo≦PV)内の値である場合に、有段変速制御手段84は有段変速装置40のシフトダウンを自動的に行う。また、同じく自動モードにおいて有段変速制御手段84は、走行駆動圧PVが油圧ポンプ31の吸込み側圧力PSよりも高い状態(PV>PS)であり、かつ、有段変速装置40が低速度段状態であり、かつ、走行モータ32に作用する負荷トルク(走行モータ32の容量Qと走行駆動圧PVとの積)が予め設定された第2の範囲DHi(Qmin≦Q≦QHi,PV≦PHi)内の値である場合に、有段変速制御手段84は有段変速装置40のシフトアップを自動的に行う。
走行駆動圧PVが油圧ポンプ31の吸込み側圧力PS以下の状態(PV≦PS)は、HST30にブレーキ圧が発生している状態である。つまり、有段変速制御手段84は、HST30にブレーキ圧が発生した場合に、自動的にシフトダウンおよびシフトアップを開始することを回避するよう設定されている。
走行モータ32に作用する負荷トルクは、走行モータ32の容量Qと走行駆動圧PVとの積である。したがって、図4に示す第1の範囲DLoはシフトダウンを自動的に行う契機となる走行モータ32の容量Qの範囲と走行駆動圧PVの範囲とを定めるものであり、同図4に示す第2の範囲DHiはシフトアップを自動的に行う契機となる走行モータ32の容量Qの範囲と走行駆動圧PVの範囲とを定めるものである。
第1の範囲DLoにおいて、走行モータ32の容量Qの範囲は、シフトダウン用設定容量QLoから最大容量Qmaxまでの範囲(QLo≦Q≦Qmax)に予め設定されており、走行駆動圧PVの範囲は、シフトダウン用設定圧PLo以上の範囲(PLo≦PV)に予め設定されている。
自動的なシフトダウンの頻度を抑えるという面では、第1の範囲DLoにおける走行モータ32の容量Qの範囲(QLo≦Q≦Qmax)が狭いほど、すなわち、シフトダウン用設定容量QLoが走行モータ32の最大容量Qmaxに近い値であるほど好ましく、「QLo=Qmax」に設定することが最も好ましい。しかし、本実施形態においては、自動的なシフトダウンの際の車速Vの変化がオペレータに不連続感を生じさせることを防止する目的で、シフトダウン用設定容量QLoは図4に示すように最大容量Qmaxよりも小さく設定されている。シフトダウン用設定容量QLoは最大容量Qmaxに所定の定数を乗算することで、または最大容量Qmaxから所定の定数を減算することで最大容量Qmaxよりも小さく設定されるものである。
シフトダウン用設定圧PLoは後述の目標圧PT以上の値に設定されるものであり、例えば図4に示すように目標圧PTよりも高い値である場合、目標圧PTに所定の定数を乗算することで、または、目標圧PTに所定の定数を加算することで設定されるものである。
第2の範囲DHiにおいて、走行モータ32の容量Qの範囲は、最小容量Qminからシフトダウン用設定容量QLoよりも小さな最大容量QHiまでの範囲(Qmin≦Q≦QHi)に予め設定されており、走行駆動圧PVの範囲は、シフトアップ用設定圧PHi以下の範囲(PV≦PHi)に予め設定されている。
自動的なシフトアップの頻度を抑えるという面では、第2の範囲DHiにおける第2の範囲DHiにおける走行モータ32の容量Qの範囲(Qmin≦Q≦QHi)が狭いほど、すなわち、シフトアップ用設定容量QHiが最小容量Qminに近い値であるほど好ましく、「QHi=Qmin」に設定することが最も好ましい。しかし、自動的なシフトアップの際の車速Vの変化がオペレータに不連続感を生じさせることを防止する目的で、シフトアップ用設定容量QHiが最少容量Qminよりも大きく設定されている。シフトアップ用設定容量QHiは、最小容量Qminに所定の定数を乗算することで、または最小容量Qminに所定の定数を加算することで最小容量Qminよりも大きく設定されるものである。
シフトアップ用設定圧PHiは目標圧PT以下の値に設定されるものであり、例えば図4に示すように目標圧PTよりも低い値である場合、目標圧PTに定数を乗算することで、または目標圧PTから所定の定数を減算することで設定されるものである。
コントローラ80は情報取得手段82および有段変速制御手段84によって図5,図6に示す流れで処理を行う。
つまり、図5に示すように、はじめに情報取得手段82は変速モード切換指令装置75からの手動変速指令信号または自動変速指令信号に基づき変速モードの指令を取得する(ステップS1)。次に、有段変速制御手段84は、ステップS1で情報取得手段82により取得された指令が自動モードの指令であった場合(ステップS2で自動モード)に変速モードを自動モードに設定し(ステップS3)、ステップS1で情報取得手段82により取得された指令が手動モードの指令であった場合(ステップS2で手動モード)に変速モードを手動モードに設定する(ステップS4)。
自動モードにおいて有段変速制御手段84は、図6に示す自動シフト制御を行う。
つまり、自動シフト制御において、はじめに情報取得手段82は、前後進切換指令装置74からの前進指令信号SFまたは後進指令信号SRに基づき走行方向の指令を取得し、回転センサ37からの回転検出信号に基づき出力軸42の現在の回転方向の情報、すなわちホイールローダ1の現在の走行方向の情報を取得し、第1の圧力センサ71からの第1の圧力検出信号S1に基づき第1の管路33の圧力P1の現在の検出値を取得し、第2の圧力センサ72からの第2の圧力検出信号S2に基づき第2の管路34の圧力P2の現在の検出値を取得した後、それら走行方向の指令とホイールローダ1の現在の走行方向の情報と圧力P1,P2の現在の検出値とに基づき、走行駆動圧PV(油圧ポンプ31の吐出側の管路の圧力)の現在値と、油圧ポンプ31の吸込み側圧力PSの現在値とを取得する(ステップS11)。
次に、有段変速制御手段84は、ステップS1で取得された走行駆動圧PVと油圧ポンプ31の吸込み側圧力PSを用いて、走行駆動圧PVが油圧ポンプ31の吸込み側圧力PSよりも高いか否かの判定を行う(ステップS12)。この判定の結果、走行駆動圧PVが吸込み側圧力PSよりも高い場合、すなわち、HST30にブレーキ圧が発生していない場合(ステップS12でYES)、有段変速制御手段84は、駆動電力WHi,WLoの何れを出力している状態であるかに基づき、有段変速装置40の状態がシフトダウン可能な状態とシフトアップ可能な状態の何れであるかの判定を行う(ステップS13)。
ステップS13での判定を詳細に説明する。有段変速制御手段84は低速側クラッチ制御弁54への駆動電力WLoの出力中に高速側クラッチ制御弁64への駆動電力WHiの出力を行わず、逆に、高速側クラッチ制御弁64への駆動電力WHiの出力中に低速側クラッチ制御弁54への駆動電力WLoの出力を行わない。したがって、有段変速制御手段84が駆動電力WLoを出力しているときの有段変速装置40の状態は、低速側クラッチ51が入力軸41に結合し、かつ、高速側クラッチ61が入力軸41から離脱した低速度段状態であり、シフトアップが可能な状態であると判定される。逆に、有段変速制御手段84が駆動電力WHiを出力しているときの有段変速装置40の状態は、高速側クラッチ61が入力軸41に結合し、かつ、低速側クラッチ51が入力軸41に離脱した高速度段状態であり、シフトアップが可能な状態であると判定される。
ステップS13での判定の結果、有段変速装置40がシフトダウン可能な状態である場合、有段変速制御手段84は、走行モータ32の容量Qと走行駆動圧PVとの両方が第1の範囲DLo(Q≧QLo,PV≧PLo)内の値であるか否かの判定を行う(ステップS14)。この判定の結果、走行モータ32の容量Qと走行駆動圧PVとの両方が第1の範囲DLo内の値である場合に、有段変速制御手段84は有段変速装置40のシフトダウンを自動的に行う(ステップS15)。この後、有段変速制御手段84は、ルーチンをステップS11に戻す。
一方、ステップS13での判定の結果、有段変速装置40の状態がシフトアップ可能な高速度段状態である場合、有段変速制御手段84は、走行モータ32の容量Qと走行駆動圧PVとの両方が第2の範囲DHi(Q≦QHi,PV≦PHi)内の値であるか否かの判定を行う(ステップS16)。この判定の結果、走行モータ32の容量Qと走行駆動圧PVとの両方が第2の範囲DHi内の値である場合に、有段変速制御手段84は有段変速装置40のシフトアップを自動的に行う(ステップS17)。この後、有段変速制御手段84は、ルーチンをステップS11に戻す。
なお、ステップS12において走行駆動圧PVが吸込み側圧力PS以下であると判定された場合(ステップS12でNOの場合)、すなわちHST30にブレーキ圧が発生していると判定された場合、また、ステップS14において走行モータ32の容量Qと走行駆動圧PVとの何れか一方でも第1の範囲DLo(Q≧QLo,PV≧PLo)内の値でなかった場合(ステップS14でNOの場合)、また、ステップS16において走行モータ32の容量Qと走行駆動圧PVとの何れか一方でも第2の範囲DHi(Q≦QHi,PV≦PHi)内の値でないと判定された場合(ステップS16でNOの場合)、有段変速制御手段84は有段変速装置40の速度段の自動的な変更を行わずに、すなわち、現在の速度段を維持して、ルーチンをステップS11に戻す。
無段変速制御手段83は、有段変速装置40の速度段の変更(シフトダウン、シフトアップ)が自動的に行われない期間内において、走行駆動圧PVが目標圧PTに一致するようモータレギュレータ32bに駆動電力WMを供給して走行モータ32の容量Qを制御する。より詳細には、走行駆動圧PVが目標圧PTよりも高くなった場合に、無段変速制御手段83は、走行モータ32の容量Qと駆動電力WMとの関係が予め比例関係に設定されていることに基づき、走行モータ32の容量Qを大きくさせる駆動電力WMをモータレギュレータ32bに供給し、これにより、走行駆動圧PVを低下させて目標圧PTに近づける。逆に、走行駆動圧PVが目標圧PTよりも低くなった場合に、無段変速制御手段83は、走行モータ32の容量Qと駆動電力WMとの比例関係に基づき、走行モータ32の容量Qを小さくさせる駆動電力WMをモータレギュレータ32bに供給し、これにより、走行駆動圧PVを上昇させて目標圧PTに近づける。なお、目標圧PTはHST30の走行モータ32の出力トルクの上限を設定するものであり、固定値に設定される場合と、エンジン13の回転数(回転速度)に連動して設定される変動値である場合とがある。
無段変速制御手段83は、有段変速制御手段84により有段変速装置40の速度段の変更が自動的に行われる際に、走行駆動圧PVを目標圧PTに一致させるための走行モータ32の容量Qの制御を中断して、有段変速装置40での変速比RTMの変化と逆方向にHSTの変速比RHSTを変更する。より詳細には、無段変速制御手段83は、有段変速制御手段84によりシフトダウンが自動的に行われる際、そのシフトダウンの開始から完了直前までの期間内に、モータレギュレータ32bに供給する駆動電力WMを減少させることで走行モータ32の容量Qを減少させ、これによりHST30の変速比RHSTを、有段変速装置40の変速比RTMが増大する方向(RHi→RLo)に対し逆方向に変化させる。また、無段変速制御手段83は、有段変速制御手段84によりシフトアップが自動的に行われる際に、走行駆動圧PVを目標圧PTに一致させるための走行モータ32の容量Qの制御を中断して、モータレギュレータ32bに供給する駆動電力WMを増大させることで走行モータ32の容量Qを増大させ、これによりHST30の変速比RHSTを、有段変速装置40の変速比RTMが減少する方向(RLo→RHi)に対し逆方向に変化させる。
低速度段状態において無段変速制御手段83により走行モータ32の容量Qが制御されることによって、図7に破線の特性線CHST−Loで示す車速Vと走行駆動力Fとの関係を得ることができ、また、高速度段状態において無段変速制御手段83により走行モータ32の容量Qが制御されることによって、同図7に実線の特性線CHST−Hiで示す車速Vと走行駆動力Fとの関係を得ることができる。
図7に破線の特性線CHST−Loで示すように、低速度段状態においては、走行モータ32の容量Qを最小容量Qminに維持した場合に、車速Vは「0≦V≦VLo1」の範囲内で油圧ポンプ31の吐出流量が大きいほど速くなり、その「0≦V≦VLo1」の範囲内で変化する車速Vに対して走行駆動力Fは走行駆動力FLo1で一定に保たれる。同じく低速度段状態においては、走行モータ32の容量Qを最小容量Qminよりも大きい範囲で制御した場合に、車速Vは「VLo1<V<VLo2」の範囲内で油圧ポンプ31の吐出流量が大きいほど速くなり、その「VLo1<V<VLo2」の範囲内で変化する車速Vに対して走行駆動力Fは「FLo2<F<FLo1」の範囲で車速Vが速いほど小さくなる。
図7に実線の特性線CHST−Hiで示すように、高速度段状態においては、走行モータ32の容量Qを最小容量Qminに維持した場合に、車速Vは「0≦V≦VHi1」の範囲内で油圧ポンプ31の吐出流量が大きいほど速くなり、その「0≦V≦VHi1」の範囲内で変化する車速Vに対して走行駆動力Fは走行駆動力FHi1で一定に保たれる。同じく高速度段状態においては、走行モータ32の容量Qを最小容量Qminよりも大きい範囲で制御した場合に、車速Vは「VHi1<V<VHi2」の範囲内で油圧ポンプ31の吐出流量が大きいほど速くなり、その「VHi1<V<VHi2」の範囲内で変化する車速Vに対して走行駆動力Fは「FHi2<F<FHi1」の範囲で車速Vが速いほど小さくなる。
有段変速制御手段84による自動シフト制御(図6に示す処理)と、無段変速制御手段83によるHST30の変速比RHSTの自動的な変更が行われることによって、〔1〕有段変速装置40のシフトダウンが自動的に行われる前後、〔2〕有段変速装置40のシフトアップが自動的に行われる前後、および、〔3〕ブレーキ圧が発生したために有段変速装置40の自動的なシフトアップが回避される前後のそれぞれにおいて、走行駆動圧PV、油圧ポンプ31の吸込み側圧力PS、走行モータ32の容量Q、クラッチ圧PCL−Hi,PCL−Lo、HST30での変速比RHST、有段変速装置40での変速比RTM、および、HST30と有段変速装置40との総変速比RTlは、例えば図8〜図10のそれぞれに示すように推移する。図8は有段変速装置40のシフトダウンが自動的に行われる前後の推移の一例を示し、図9は有段変速装置40のシフトアップが自動的に行われる前後の推移の一例を示し、図10はブレーキ圧が発生したために有段変速装置40の自動的なシフトアップが回避される前後の推移の一例を示す。なお、これらの図8〜図10に示す推移は、シフトダウン用設定圧PLoおよびシフトアップ用設定圧PHiが目標圧PTと同じ値に設定される場合(「PLo=PHi=PT」の場合)のものである。
〔1〕 有段変速装置40のシフトダウンが自動的に行われる場合について
有段変速装置40のシフトダウンが自動的に開始される前の時点TOにおいて、有段変速装置40は有段変速制御手段84により高速度段状態に維持されている。この高速度段状態は、高速側クラッチ61が有段変速装置40の入力軸41に結合し、かつ、低速側クラッチ51が入力軸41から離脱した状態、すなわち、図8(c)の時点TOに示すように、クラッチ圧PCL−Hiは高速側クラッチ61の始動圧(高速側クラッチ61が結合を開始する圧力)よりも高く、かつ、クラッチ圧PCL−Loは低速側クラッチ51の始動圧よりも低い状態であり、有段変速装置40の変速比RTMは第2の変速比RHiの値と同じ状態である。また、同時点TOにおいては、図8(a)に示すように走行駆動圧PVが目標圧PTよりも高いため、無段変速制御手段83は図8(b)に示すように走行モータ32の容量Qを増大させることによって、図8(a)に示すように走行駆動圧PVを低下させて目標圧PTに近づける。これに伴い、図8(d)に示すようにHST30の変速比RHSTは増大する。このように有段変速装置40が高速度段状態でHST30の変速比RHSTが増大する間、図7に矢印A1で示すようにホイールローダ1の車速Vは遅くなり、走行駆動力Fは増大する。
そして、図8(b)に示すように、時点TLO−Sで走行モータ32の容量Qはシフトダウン用設定容量QLoに達する。このとき、走行駆動圧PVはシフトダウン用設定圧PLoよりも高い状態(PV>PLo)である。つまり、時点TLo−Sにおいて容量Qと走行駆動圧PVとの両方が、図4に示す第1の範囲DLo内の値となる。このことに基づき、有段変速制御手段84は、時点TLo−Sから時点TLo−Eまでの期間内で、有段変速装置40のシフトダウンを行う(図6の「ステップS14→ステップS15」参照)。つまり、有段変速制御手段84は、時点TLo−Sから時点TLo−Eまでの期間内で、高速側クラッチ61を有段変速装置40の入力軸41から離脱させた後、低速側クラッチ51のみを入力軸41に結合させる。図8(c)の時点TLo−Sから時点TLo−Eまでの期間内でのクラッチ圧PCL−Lo,PCL−Hiの推移は、低速側クラッチ51を有段変速装置40の入力軸41から離脱した状態に維持しつつ、高速側クラッチ61を有段変速装置40の入力軸41から離脱させた後、低速側クラッチ51のみを入力軸41に結合させたことを示す。
シフトダウンが行われた結果、図8(d)の時点TLo−Eに示すように、有段変速装置40の変速比RTMは、時点TLo−Sでの第2の変速比RHiからΔRTMだけ増大した第1の変速比RLoとなる。
また、走行モータ32の容量Qおよび走行駆動圧PVの両方が第1の範囲DLo内の値となった時点TLo−Sで、無段変速制御手段83は走行駆動圧PVを目標圧PTに一致させるための走行モータ32の容量Qの制御を中断し、有段変速装置40のシフトアダウンの完了前に、図8(b)に示すように走行モータ32の容量Qを所定量ΔQLoだけ減少させる。これにより、図8(d)に示すように、HST30の変速比RHSTは、有段変速装置40の変速比RTMがΔRTMだけ増大するのとは逆に、ΔRTMだけ減少する。この結果、HST30の変速比RHSTと有段変速装置40の変速比RTMとの積である総変速比RTlは、同図8(d)に示すように、シフトダウンの開始から完了までの期間で滑らかに変化する。したがって、有段変速装置40の自動的なシフトダウンに伴う変速ショックが緩和される。
時点TLo−Sから時点TLo−Eまでの期間において、図7に矢印A2で示すように車速Vは遅くなり、走行駆動力Fは増大する。
有段変速装置40の自動的なシフトダウンの際の変速ショックを緩和するための走行モータ32の容量Qの制御について、より詳細に説明する。
高速側クラッチ61が有段変速装置40の入力軸41から離脱したとき、入力軸41の回転数(回転速度)は、低速側ドライブギア52の回転数(回転速度)のRLo/RHi(RLo/RHi>1)倍であるから、HST30の変速比RHSTを、有段変速装置40の変速比の増大分RLo/RHiの逆数であるRHi/RLoだけ減少させることで入力軸41の回転数を増大させれば、入力軸41の回転数と低速側ドライブギア52の回転数との差を略なくすことができる。そして、入力軸41の回転数と低速側ドライブギア52の回転数との差が略ない状態で低速側クラッチ51を入力軸41に結合させれば、その差がある状態よりも変速ショックを小さくすることができる。
そこで、本実施形態においては、HST30の変速比RHSTを、有段変速装置40の変速比RTMのRHiからRLoへの増大分(=RLo/RHi)の逆数分(RHi/RLo)だけ減少させることができるように、走行モータ32の最大容量Qmaxおよび最小容量Qminは「Qmax/Qmin≧RLo/RHi」を満して予め設定されており、シフトダウン用設定容量QLoは「QLo/Qmin≧RLo/RHi」を満して予め設定されている。
図8に戻り、時点TLo−Sから時点TLo−Eまでの期間のうち、有段変速装置40の高速側クラッチ61が入力軸41から離脱した状態で、低速側クラッチ51が入力軸41に対する結合を完了していない期間内は、走行モータ32と有段変速装置40との間における動力の伝達が中断されているため、走行モータ32に作用する負荷トルクが小さくなり、これに伴い、図8(a)に示すように、走行駆動圧PVが目標圧PTよりも低く維持される。その後、低速側クラッチ51が入力軸41に対する結合を完了すると、走行モータ32と有段変速装置40と間における動力の伝達が再開されるため、走行モータ32に作用する負荷トルクが大きくなり、これに伴って走行駆動圧PVは目標圧PTを超える。
そして、時点TLo−Eで無段変速制御手段83は、走行駆動圧PVを目標圧PTに一致させるための走行モータ32の容量Qの制御を再開する。このとき、走行駆動圧PVは目標圧PTよりも高いため、無段変速制御手段83は、走行モータ32の容量Qを増大させることで走行駆動圧PVを目標圧PTまで低下させる。これに伴い、図7に矢印A3で示すように車速Vは遅くなり、走行駆動力Fは増大する。
〔2〕 有段変速装置40のシフトアップが自動的に行われる場合について
有段変速装置40のシフトアップが自動的に開始される前の時点TOにおいて、有段変速装置40は有段変速制御手段84により低速度段状態に維持されている。この低速度段状態は、低速側クラッチ51が有段変速装置40の入力軸41に結合し、かつ、高速側クラッチ61が入力軸41から離脱した状態、すなわち、図9(c)の時点TOに示すように、クラッチ圧PCL−Loは低速側クラッチ51の始動圧よりも高く、かつ、クラッチ圧PCL−Hiは高速側クラッチ61の始動圧よりも低い状態であり、有段変速装置40の変速比RTMは第1の変速比RLoの状態である。また、同時点TOにおいては、図9(a)に示すように走行駆動圧PVが目標圧PTよりも低いため、無段変速制御手段83は図9(b)に示すように走行モータ32の容量Qを減少させることによって、図9(a)に示すように走行駆動圧PVを上昇させて目標圧PTに近づける。これに伴い、図9(d)に示すようにHST30の変速比RHSTは減少する。このように有段変速装置40が低速度段状態でHST30の変速比RHSTが減少する間、図7に矢印B1で示すようにホイールローダ1の車速Vは速くなり、走行駆動力Fは減少する。
そして、図9(b)に示すように、時点THi−Sで走行モータ32の容量Qはシフトアップ用設定容量QHiに達する。このとき、走行駆動圧PVはシフトアップ用設定圧PHiよりも低い状態(PV<PHi)である。つまり、時点THi−Sにおいて容量Qと走行駆動圧PVとの両方が第2の範囲DHi内の値となる。このことに基づき、有段変速制御手段84は、時点THi−Sから時点THi−Eまでの期間内で、有段変速装置40のシフトアップを行う(図6の「ステップS16→ステップS17」参照)。つまり、有段変速制御手段84は、時点THi−Sから時点THi−Eまでの期間内で、低速側クラッチ51を有段変速装置40の入力軸41から離脱させた後、高速側クラッチ61のみを入力軸41に結合させる。図9(c)の時点THi−Sから時点THi−Eまでの期間内でのクラッチ圧PCL−Lo,PCL−Hiの推移は、高速側クラッチ61を有段変速装置40の入力軸41から離脱した状態に維持しつつ、低速側クラッチ51を有段変速装置40の入力軸41から離脱させた後、高速側クラッチ61のみを入力軸41に結合させる過渡状態を示す。
シフトアップが行われた結果、図9(d)の時点THi−Eに示すように、有段変速装置40の変速比RTMは、時点THi-Sでの第1の変速比RLoからΔRTMだけ減少した第2の変速比RHiとなる。
また、走行モータ32の容量Qがシフトアップ用設定容量QHiの両方が第2の範囲DHi内の値となった時点THi−Sで、無段変速制御手段83は走行駆動圧PVを目標圧PTに一致させるための走行モータ32の容量Qの制御を中断し、有段変速装置40のシフトアップの完了前に、図9(b)に示すように走行モータ32の容量QをΔQHiだけ増大させる。これにより、図9(d)に示すように、HST30の変速比RHSTは、有段変速装置40の変速比RTMがΔRTMだけ減少するのとは逆に、ΔRTMだけ増大する。この結果、HST30の変速比RHSTと有段変速装置40の変速比RTMとの積である総変速比RTlは、同図9(d)に示すように、シフトアップの開始から完了までの期間で滑らかに変化する。したがって、有段変速装置40の自動的なシフトアップに伴う変速ショックが緩和される。
時点THi−Sから時点THi−Eまでの期間において、図7に矢印B2で示すように、車速Vは速くなり、走行駆動力Fは減少する。
有段変速装置40の自動的なシフトアップの際の変速ショックを緩和するための走行モータ32の容量Qの制御について、より詳細に説明する。
低速側クラッチ51が有段変速装置40の入力軸41から離脱したとき、入力軸41の回転数(回転速度)は、高速側ドライブギア62の回転数(回転速度)のRHi/RLo(RHi/RLo<1)倍であるから、走行モータ32の変速比RHSTを、有段変速装置40の変速比の減少分RHi/RLoの逆数であるRLo/RHiだけ増大させることで入力軸41の回転数を減少させれば、入力軸41の回転数と高速側ドライブギア62の回転数との差を略なくすことができる。そして、入力軸41の回転数と高速側ドライブギア62の回転数との差が略ない状態で高速側クラッチ61を入力軸41に結合させれば、その差がある状態よりも変速ショックを小さくすることができる。
そこで、本実施形態においては、HST30の変速比RHSTを、有段変速装置40の変速比RTMのRLoからRHiへの減少分(=RHi/RLo)の逆数分(RLo/RHi)だけ増大させることができるように、走行モータ32の最大容量Qmaxおよび最小容量Qminは「Qmax/Qmin≧RLo/RHi」を満たして予め設定されており、シフトアップ用設定容量QHiは「Qmax/QHi≧RLo/RHi」を満たして予め設定されている。
図9に戻り、時点THi−Sから時点THi−Eまでの期間のうち、有段変速装置40の低速側クラッチ51が入力軸41から離脱した状態で、高速側クラッチ61が入力軸41に対する結合を完了していない期間内は、走行モータ32と有段変速装置40との間における動力の伝達が中断されるため、走行モータ32に作用する負荷トルクが小さくなり、これに伴い、図9(a)に示すように走行駆動圧PVは目標圧PTよりも低く維持される。その後、高速側クラッチ61が入力軸41に対する結合を完了すると、走行モータ32と有段変速装置40と間における動力の伝達が再開されるため、走行モータ32に作用する負荷トルクが大きくなるが、時点THi−Sにおいても走行駆動圧PVは目標圧PTよりも低い。
そして、時点TLo−Eで無段変速制御手段83は、走行駆動圧PVを目標圧PTに一致させるための走行モータ32の容量Qの制御を再開する。このとき、走行駆動圧PVは目標圧PTよりも低いため、無段変速制御手段83は、走行モータ32の容量Qを減少させることで走行駆動圧PVを目標圧PTまで上昇させる。これに伴い、図7に矢印B3で示すように車速Vは速くなり、走行駆動力Fは減少する。
〔3〕 HST30にブレーキ圧が発生したために有段変速装置40の自動的なシフトアップが回避される場合について
有段変速装置40の自動的なシフトアップが回避される前の時点TOにおいて、有段変速装置40は有段変速制御手段84により低速度段状態に維持されている。この低速度段状態は、低速側クラッチ51が有段変速装置40の入力軸41に結合し、かつ、高速側クラッチ61が入力軸41から離脱した状態、すなわち、図10(c)の時点TOに示すように、クラッチ圧PCL−Loは低速側クラッチ51の始動圧よりも高く、かつ、クラッチ圧PCL−Hiは高速側クラッチ61の始動圧よりも低い状態であり、有段変速装置40の変速比RTMは第1の変速比RLoの状態である。また、同時点TOにおいては、図10(a)に示すように走行駆動圧PVが目標圧PTに一致しているため、無段変速制御手段83は図10(b)に示すように走行モータ32の容量Qを一定に保って、図10(a)に示すように走行駆動圧PVが目標圧PTに一致した状態を維持する。これに伴い、図10(d)に示すようにHST30の変速比RHSTも一定に保たれる。
そして、アクセルの踏込み量の減少などによるエンジン13の回転数の低下に伴って、油圧ポンプ31の吐出流量が減少すると、走行モータ32の回転は、その吐出流量の減少に連動して直ちに減速するのではなく、ホイールローダ1の慣性走行に連動して維持されるため、走行モータ32にポンプ作用が生じる。これにより、油圧ポンプ31の吸込み流量および吐出流量が減少することに反して、走行モータ32はHST30内での作動油の流れを維持しようとする。図10(a)の時点TR1に示すように、第1の管路33および第2の管路34のうちの走行モータ32の吐出側の管路内における圧力、すなわち、油圧ポンプ31の吸込み側圧力PSが上昇してブレーキ圧となり、この一方で走行駆動圧PVは低下し、油圧ポンプ31の吸込み側圧力PSおよび目標圧PTの何れよりも低くなる。
このように走行駆動圧PVが目標圧PTよりも低くなると、無段変速制御手段83はモータ容量Qを減少させる。これにより、時点TR2において走行モータ32の容量Qが高速変速設定容量QHiに達する。このとき、走行駆動圧PVはシフトアップ用設定圧PHiよりも低い状態(PV<PHi)である。つまり、時点TR2において容量Qと走行駆動圧PVが第2の範囲DHi内の値となる。
一方、同時点TR2において走行駆動圧PVは油圧ポンプ31の吸込み側圧力PSよりも低い状態(PV<PS)であり、有段変速制御手段84は、走行駆動圧PVを油圧ポンプ31の吸込み側圧力PS以下であると判定する。このため、同時点TR2において容量Qと走行駆動圧PVが第2の範囲DHi内の値となったことに基づく自動的なシフトアップを回避し、有段変速装置40を低速度段状態に維持する(図6の「ステップS12でNO→END」参照)。図9(c)において、クラッチ圧PCL−Hi,PCL−Loが時点TR2の後も変化することなく、ブレーキ圧が発生する前の時点TR1と同じであることは、自動的なシフトアップが回避されたことを示している。
なお、ホイールローダ1の走行中、前後進切換指令装置74の急逆操作が行われ、これに基づいて油圧ポンプ31の回転が逆転する場合も、ホイールローダ1の慣性走行に伴って走行モータ32にポンプ作用が生じ、ブレーキ圧が発生する。この場合、情報取得手段82は、急逆操作前の走行駆動圧PVである第1の管路33内における圧力P1または第2の管路34内における圧力P2を、急逆操作後も引き続き走行駆動圧PVとして取得し、急逆操作前の油圧ポンプ31の吸込み側圧力PSである圧力P2または圧力P1を、急逆操作後も引き続き油圧ポンプ31の吸込み側圧力PSとして取得する。これにより、無段変速制御手段83がブレーキ圧を走行駆動圧Pvとして扱い、そのブレーキ圧を目標圧PTに一致させるために走行モータ32の容量Qを急激に増大させてしまう事態は生じない。したがって、ブレーキ圧発生時のホイールローダ1の急減速が回避される。
また、急逆操作の際にも、走行モータ32の容量Qと走行駆動圧PVとの両方が第2の範囲DHi内の値となる場合(Qmin≦Q≦QHi,PV≦PHiを満たす場合)がある。この場合にも、情報取得手段82は、急逆操作前の走行駆動圧PVである第1の管路33内における圧力PSまたは第2の管路34内における圧力PRを、急逆操作後も引き続き走行駆動圧PVとして取得し、急逆操作前の油圧ポンプ31の吸込み側圧力PSである圧力PRまたは圧力PSを、急逆操作後も引き続き油圧ポンプ31の吸込み側圧力PSとして取得するため、有段変速制御手段84は走行駆動圧PVが油圧ポンプ31の吸込み側圧力PS以下であると判定し、自動的なシフトアップを回避する。
本実施形態によれば次の効果を得られる。
本実施形態において、無段変速制御手段83は、有段変速制御手段84によりシフトダウンが自動的に行われる際、そのシフトダウンの開始から完了直前までの期間内に、そのシフトダウンによる有段変速装置40の変速比RTMの変化の方向に対して逆方向にHST30の変速比RHSTを変更することにより、走行モータ32の回転数(回転速度)と低速側変速機構部50に入力される回転数との差を小さくした上で、そのシフトダウンを完了させることができる。また、無段変速制御手段83は、有段変速制御手段84によりシフトアップが自動的に行われる際、そのシフトアップの開始から完了直前までの期間内に、そのシフトアップによる有段変速装置40の変速比RTMの変化の方向に対して逆方向にHST30の変速比RHSTを変更することにより、走行モータ32の回転数(回転速度)と高速側変速機構部に入力される回転数との差を小さくした上で、そのシフトアップを完了させることができる。したがって、本実施形態は、有段変速装置40の速度段の変更(シフトダウン、シフトアップ)を自動的に行う際に、変速ショックを低減することができ、これにより、ホイールローダ1のオペレータに与える不快感を低減でき、有段変速装置40の損傷を防止することができる。
本実施形態において、無段変速制御手段83は走行モータ32の容量Qを制御することにより、有段変速装置40の変速比RTMの変化の方向に対して逆方向にHST30の変速比RHSTを変更するものであるから、そのHST30の変速比RHSTの変更を走行モータ32の回転数(回転速度)に即座に反映させることができる。これにより、無段変速制御手段83は、自動的なシフトダウンの開始から完了直前までの期間内に、そのシフトダウンによる有段変速装置40の変速比RTMの変化の方向に対して逆方向へのHST30の変速比RHSTの変更を確実に行うことができ、また、自動的なシフトアップの開始から完了直前までの期間内に、そのシフトアップによる有段変速装置40の変速比RTMの変化の方向に対して逆方向へのHST30の変速比RHSTの変更を確実に行うことができる。したがって、本実施形態は、有段変速装置40の速度段の変更を自動的に行う際、変速ショックを低減するためのHST30の変速比RHSTの変更のタイミングを逃さないようにすることができる。
本実施形態において、無段変速制御手段83は、シフトダウンが自動的に行われる際に、有段変速装置40の変速比RTMの第1の変速比RLoから第2の変速比RHiへの増大分RLo/RHiの逆数分RHi/RLoだけHST30の変速比RHSTを減少させるので、そのシフトダウンが行われる際に走行モータ32の回転数(回転速度)と低速側変速機構部50に入力される回転数との差を略なくすことが可能であり、したがって、そのシフトダウンに伴う変速ショックの低減の確実性を向上させることができる。また、無段変速制御手段83は、シフトアップが自動的に行われる際に、有段変速装置40の変速比RTMの第2の変速比RHiから第1の変速比RLoへの減少分RHi/RLoの逆数分RLo/RHiだけHST30の変速比RHSTを増大させるので、そのシフトアップが行われる際に走行モータ32の回転数と高速側変速機構部60に入力される回転数との差を略なくすことが可能であり、したがって、そのシフトアップに伴う変速ショックの低減の確実性を向上させることができる。
本実施形態において、無段変速制御手段83は、有段変速装置40の速度段の自動的な変更が行われない場合に走行駆動圧PVが目標圧PTに一致するよう走行モータ32の容量Qを自動的に制御することによって、HST30での変速比RHSTを自動的に変更する。そして、有段変速装置40の速度段の変更が自動的に行われる場合に、無段変速制御手段83は走行駆動圧PVを目標値PTに一致させるための走行モータ32の容量Qの制御を中断して、その速度段の変更による有段変速装置40の変速比RTMの変化の方向に対して逆方向にHST30の変速比RHSTが変更されるよう走行モータ32の容量Qを制御する。つまり、無段変速制御手段83は、走行駆動圧PVを目標圧PTに一致させるための走行モータ32の容量Qの制御と、有段変速装置40の変速比RTMの変化と逆方向にHST30の変速比RHSTを変更するための走行モータ32の容量Qの制御とを、連続的に行うことができる。
本実施形態において、走行モータ32の容量Qが第1の範囲DLo(QLo≦Q≦Qmax,PV≧PLo)内の値でも第2の範囲DHi(Qmin≦Q≦QHi,PV≦PHi)内の値でもない場合には、すなわち、走行モータ32の容量Qの制御によるHST30の変速比RHSTの変更でホイールローダ1の走行駆動力Fを確保できる場合には、有段変速制御手段84による有段変速装置40の自動的な速度段の変更よりも、無段変速制御手段83によるHST30の変速比RHSTの自動的な変更が優先される。これにより、本実施形態は、有段変速装置40の速度段の自動的な変更の頻度を抑えることができる。
本実施形態において、有段変速制御手段84は、HST30にブレーキ圧が発生した場合に、有段変速装置40の速度段の自動的な変更を回避する。これにより、HST30の変速比RHSTを変更するための走行モータ32の容量Qの制御が、ブレーキ圧の発生時におけるHST30での急激な圧力変動に無段変速制御手段83による走行モータ32の容量Qの制御が対応しきれない状態で、有段変速装置40の速度段の自動的な変更が行われてしまい、変速ショックが低減されないという事態の発生を回避できる。
なお、前述の実施形態において、無段変速制御手段83は、走行駆動圧PVを目標圧PTに一致させるための走行モータ32における容量Qの制御を、モータレギュレータ32bを電気で制御することにより実現するものであるが、モータレギュレータ32bを油圧、例えば走行駆動圧PVで制御することにより実現するものであってもよい。
前述の実施形態において、有段変速制御手段84は、走行駆動圧PVと油圧ポンプ31の吸込み側圧力PSとの大小関係が「PV>PS」でないと判定した場合を、ブレーキ圧が発生した場合として扱うものであるが、これ以外に、エンジン13の回転数の低下、アクセルの踏込み量の減少など、ブレーキ圧の発生の原因を検知した場合を、ブレーキ圧が発生した場合として扱ってもよい。
前述の実施形態において、有段変速装置40の速度段数は2段だが、3段以上であってもよい。
前述の実施形態はホイールローダ1に適用されるものであるが、転圧機械や農業車両等のHSTと有段変速装置を備えた作業車両に適用されてもよい。