JP5855902B2 - アルミナセメント - Google Patents

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本発明は、コンバージョンの発生を抑制したアルミナセメントに関する。
アルミナセメントは、初期強度発現性が非常に高く、耐塩・耐酸性にも優れるため、建築や土木用資材として幅広く利用される他、耐熱性も優れるため炉材等の耐火物にも使用される。アルミナセメントは一般にカルシウムアルミネートを有効成分とするが、その初期水和物(例えば、CaO・Al23・10H2O)は、水和反応熱等による昇温により大規模な体積減少を伴う他の結晶構造(例えば、3CaO・Al23・6H2O)への変化(以下、コンバージョンと称す。)を起こす。このため亀裂やひび等の組織破壊を起こしたり、この構造変化により生じた余剰水が組織内部に発生し、これが欠陥となって、硬化後の長期強度が著しく低くなる。強度発現性改善のため、種々の方策が提案されている。このうち、シリカフュームやフライアッシュ等のポゾラン反応性物質を加える方法では、アルミナセメントでは水和物に水酸化カルシウムのようなアルカリ度の高い生成物が殆ど生じない。このため、初期水和物として水酸化カルシウムが大量に生成し、これがポゾラン物質と反応して高緻密化による強度向上はできない。また、潜在水硬性物質であるスラグ微粉を用いても、アルミナセメントではアルカリ刺激成分が少ないため強固な結合相を十分形成し難く、コンバージョンによる長期強度の激しい低下を補填するまでには至らない。コンバージョンによる強度低下補填に有効な量のポルトランドセメントクリンカ粉末やフラグ微粉等を加えると、相対的にカルシウムアルミネートの含有率が低下して、優れた初期強度発現作用が失われる虞がある。(例えば、特許文献1、2参照。)
特開昭60−180945号公報 特許平01−141844号公報
本発明は、少なくとも従来並の優れた初期強度発現性を具備し、コンバージョンが実質的に抑制されて、中長期にわたり高い強度発現性が維持できるアルミナセメントの提供を課題とする。
本発明者は、前記課題解決のため検討した結果、CaOとAl23を特定のモル比となるよう含有し、且つSiO2を5〜15質量%含むクリンカ粉砕物が、水和反応後もコンハージョンが実質的に見られず、高い初期強度発現性のみならず、中長期においても強度低下が起こらないアルミナセメントが得られたことから本発明を完成させた。
即ち、本発明は、化学成分としてCaO、Al23及びSiO2を合計で95質量%以上含有し、CaOとAl23の含有モル比(CaO/Al23)が1.4〜1.6、且つSiO2の含有量が5〜15質量%のクリンカであって、ガラス化率が50%以上のクリンカの粉末を含有してなることを特徴とするアルミナセメントである。
本発明によれば、少なくとも従来のアルミナセメントと遜色無い優れた初期強度発現性を具備し、コンバージョンが実質的に抑制され、中長期にわたり高い強度発現性が維持できるアルミナセメントが得られるため、単独での建築・土木方面への適用性が飛躍的に拡大する。
本発明のアルミナセメントは、化学成分としてCaO、Al23及びSiO2を合計で95質量%以上含有するものである。残部は原料由来や製造過程で混入する不可避不純物等であり、具体的には、例えばFe23、TiO2、MgO、未燃カーボンなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。CaO、Al23及びSiO2以外の化学成分量が5質量%を超えると、アルミナセメントの速硬作用やコンバージョン抑制効果を得るに支障をきたすことがあるので好ましくない。含有成分のうちCaOとAl23は、両者の含有モル比(CaO/Al23)が1.2〜1.8であるよう含有され、このモル比で速硬性の作用源としてのカルシウムアルミネートを構成する。好ましくは、含有モル比(CaO/Al23)が1.4〜1.6である。含有モル比(CaO/Al23)が1.2未満では、初期強度発現性が低下するので好ましくない。また、含有モル比が1.8を超えると、凝結が極めて短時間で終結して施工時の可使時間の確保が難しくなることに加え、水和反応初期に初期水和物のCaO・Al23・10H2Oと共に余剰カルシウム分が残存するため、これが水和熱の発生と共に再反応して3CaO・Al23・6H2O等の体積減少を伴う結晶相が形成され易くなるため、コンバージョンの抑制が困難になり好ましくない。
本発明のアルミナセメントは、化学成分としてSiO2を5〜15質量%含有する。当該量のSiO2の含有は、アルミナセメントの実質的なコンバージョン抑制に寄与する。ここで実質的なコンバージョン抑制とは、カルシウムアルミネートの初期水和物が一部相転移するものでも、体積減少や強度低下を殆ど伴わない程度のコンバージョンであればコンバージョンが抑制されたものと見なしたものをいう。SiO2によるアルミナセメントのコンバージョン抑制は、水和反応初期に水和反応性のSiO2が優先的に放出され、これがカルシウムアルミネートの初期水和物に取り込まれて安定化させるため、その後の温度上昇による構造変化が阻止されることによると推測される。SiO2以外の物質では初期水和物中に優先的に取り込まれないか、取り込まれても速硬性や強度発現性を阻害する虞がある。アルミナセメント中のSiO2の含有量が5質量%未満では、コンバージョンを抑制できないことがあるため好ましくなく、15質量%を超える含有量では初期強度発現性が低下し、速硬性が失われることがあるので好ましくない。
また、SiO2は前記の如く、カルシウムアルミネートの水和反応初期にカルシウムアルミネートの初期水和物と常温反応可能な水和反応性のSiO2であることが必要である。このような反応性を得るには、化学成分としてCaOとAl23とSiO2を含む焼成物(クリンカ)であることが必須である。従って、例えばCaOとAl23を含むカルシウムアルミネートクリンカに結晶質SiO2の粉末を添加混合したものでは、コンバージョンの抑制は甚だ困難である。
また、かかるクリンカは、非晶質又は結晶質と非晶質が共存する状態の何れでも良く、ガラス化率で5%以上のものとする。好ましくは、水和反応性のSiO2が安定して得られ、また初期強度を始め強度発現性が全般に高くなることから、クリンカのガラス化率は50%以上とする。ガラス化率で5%未満では構成相の反応活性が低く、優れた初期強度発現性やコンバージョン抑制作用が低下するので好ましくない。ここでガラス化率は次の方法で導出することができる。即ち、質量;M1のカルシウムアルミネートに含まれる各鉱物の質量を粉末エックス線回折により内部標準法等で定量し、定量できた含有鉱物相の総和質量;M2を算出し、残部が純ガラス相と見なし、次式でガラス化率を求める。
ガラス化率(%)=(1−M1/M2)×100
本発明のアルミナセメントはこのようなクリンカの粉末を有効成分として含むものであり、該クリンカ粉末のみからなるものでも、さらに他の成分を含むものであっても良い。該クリンカ粉砕物以外に含有できる成分は、本発明の効果を実質喪失させるものでない限り特に制限されず、具体的には、耐熱性向上のため市販のアルミナセメントでよく見られるコランダム粉などが例示される。
また、クリンカ粉砕物の粒度は、特に制限されるものではないが、所望の速硬性を安定して発現させる上で、ブレーン比表面積が2500cm2/g以上が好ましい。より高い速硬性を得ようとする場合は粉砕コストも考慮するとブレーン比表面積で4000〜8000cm2/gが好ましい。
次に、本発明のアルミナセメントの製造方法の好適な態様を例示するが、これに限定されるものではなく、本願発明の効果を実質喪失させない手段であれば製造方法として用いることができる。
CaO、Al23及びSiO2の成分源となる原料は特に限定されない。具体的には、例えばCaO源として、炭酸カルシウム、石灰石又は生石灰等、例えばAl23源として、ボーキサイト、水酸化アルミニウム、バン土頁岩又はコランダム等、例えばSiO2源として、珪砂、白土、珪藻土又は石英が挙げられる。このような原料を用い、所定の配合に混合し、例えば電気炉や反射炉等を用いて約1300〜1850℃で加熱し、当該温度から冷却することで化学成分としてCaO、Al23及びSiO2を含むクリンカが得られる。冷却は急冷処理すると高ガラス化率のクリンカが容易に得られる。その場合の急冷は、水中急冷法以外の方法であれば何れの処理方法でも良く、好適な一例を挙げると圧搾空気の高速流をクリンカ表面に吹付ける空冷である。得られたクリンカは、粉砕し、望ましくは粒度調整を行う。粉砕方法は限定されず、例えばローラーミル、ジェットミル、チューブミル、ボールミル又は振動ミル等が使用できる。また粒度調整は、市販の分級装置や篩等で行うことができる。
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は記載された実施例に限定されるものではない。尚、以下に記したアルミナセメント「本発明品2」、「本発明品3」および「本発明品8」は、本願の特許請求の範囲に包含されない参考品である。
[クリンカ粉末の作製]
何れも市販粉末の、CaCO3、Al23及びSiO2を用い、ヘンシェル型混合機を使用し、表1に表す配合量となるよう混合物を作製した。この混合物を大気雰囲気の電気炉中で約1800℃に加熱し、当該温度で60分間保持した後、直ちに常温下の炉外に取出した。取出した加熱混合物は塊状を呈しており、この表面に冷却用の窒素ガスを流速約30ml/秒で吹き付けて急冷処理を行った。急冷物は全鋼製のボールミルで粉砕し、市販の分級装置にかけ、ブレーン比表面積約5000cm2/gのクリンカ粉末を得た。この粉末のガラス化率を、粉末エックス線回折装置を用い、前記の算出方法に基づいて測定した。ガラス化率の結果も表1に記す。尚、一部の加熱混合物は冷却ガスを使用せずに炉外での放置急冷のみを行うか(本発明品6)若しくは1200℃付近まで炉内で自然放冷を行い、当該温度で炉外に取出して冷却ガスを使用せずに放置急冷した(本発明品8)。さらに、参考のため、冷却方法以外は前記と同様の方法で、急冷処理は行わずに電気炉中で加熱最高温度から毎時約100℃の降温速度で200℃以下まで徐冷し、炉外に取出したクリンカの粉砕物(ブレーン比表面積約5000cm2/gの粉末)も作製した。(参考品9)
Figure 0005855902
[クリンカ粉末との混合物の作製]
前記の如く作製したクリンカ粉末と、粉砕・分級処理によりブレーン比表面積約5000cm2/gに調整した市販のSiO2(α型石英)、ブレーン比表面積約6000cm2/gに調整した高炉水砕スラグ、ブレーン比表面積約5000cm2/gに調整したフライアッシュ又はブレーン比表面積約5000cm2/gに調整した市販のコランダム(α型アルミナ)をクリンカ粉末100質量部に対し、表1の配合量(質量部)となるよう加え、ヘンシェル型混合機で乾式混合し、クリンカ粉末混合物を作製した。
[モルタルの作製]
前記のように作製したクリンカ粉末及びクリンカ粉末混合物をアルミナセメントとし、その評価のためにモルタル供試体を次のように作製した。各アルミナセメント粉末100質量部に対し、混練水(水道水を使用。)50質量部を加え、モルタルミキサーを用い、常温で約3分間混練した。混練後のモルタルは直ちに、内径50mm、高さ100mmの円柱形型枠に混練物を充填し、常温大気中に24時間放置した。次いで脱型し、得られた円柱状硬化モルタルを所定の材齢まで液温約18℃で水中養生した。(材齢1日の供試体は水中養生を経ない。)
[性状評価]
材齢1、7及び28日に相当するモルタル供試体の一軸圧縮強度をJIS R 5201に準拠した方法で常温下で測定した。また、材齢28日の供試体に限り、アルミナセメントのコンバージョン発生有無の評価の為、水中養生後に80℃で6時間煮沸処理を行ったものの常温での一軸圧縮強度も測定した。そこで、材齢28日の供試体の煮沸処理を行わなかったものの圧縮強度値と煮沸処理を行ったものの圧縮強度値の差が15%以内であったものを実質的にコンバージョンが抑制されていると判断した。以上の評価結果を表2に記す。
Figure 0005855902
以上の結果から、本発明によるアルミナセメントは、高い初期強度発現性が見られたことに加え、長期強度発現性も殆ど低下せずに高い値を安定して保持できる。そして、このような高い強度を具備しつつ、従来のアルミナセメントでは十分抑制することができなかったコンバージョンも実質的に抑制できていることがわかる。

Claims (1)

  1. 化学成分としてCaO、Al23及びSiO2を合計で95質量%以上含有し、CaOとAl23の含有モル比(CaO/Al23)が1.4〜1.6、且つSiO2の含有量が5〜15質量%のクリンカであって、ガラス化率が50%以上のクリンカの粉末を含有してなることを特徴とするアルミナセメント。
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