JP5853745B2 - ハイドロフォーム加工による溶接用中空部材の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、自動車部品などに使用される中空部材、特に溶接のための開先面を形成した中空部材を、ハイドロフォーム加工によって製造するための方法に関するものである。
ハイドロフォーム加工は、成形用素材として、鋼管やステンレス鋼管、あるいはアルミ管などの中空管状の素材(素材管)を用い、その素材管を金型のキャビティ内にセットして、素材管内に水などの加圧用液体を充填し、素材管内に高圧の液圧を加えると同時に、素材管の両端部からその軸線方向に沿って圧縮(軸押し)して、金型の内面形状に沿った形状に成形する加工法であり、複雑な形状の中空部材を一体に形成することができるため、近年、自動車などの各種部品の製造に適用されるようになっている。
素材管に対してハイドロフォーム加工を行う場合の一般的な状況について、図6を参照して説明する。
図6において、金型1は、上下に分離可能な上型3と下型5によって構成されており、その上型3と下型5との間に成形用空間(キャビティ)7が形成されている。
素材管11は、その長さ方向の中央部分がキャビティ7内に位置するように金型1内に配置され、その素材管11の両端(管端部13A、13B)が金型1の素材管端部支持部位1A、1Bに支持されている。またその素材管11の管端部13A、13Bは、管内の空間を密閉するための管端封止部材15A、15Bによってシールされている。これらの管端封止部材15A、15Bは、単に素材管11を密閉するばかりでなく、素材管11をその軸線方向に沿って圧縮する(軸押しする)ための軸押し部材を兼ねており、その少なくとも一方は、図示しない油圧シリンダなどの軸押し駆動装置に連結されている。またこれらの管端封止部材15A、15Bのうち、一方の管端封止部材15Aには、素材管11内に加圧用液体、例えば水を導入して加圧するための導入路17が形成されており、他方の管端封止部材15Bには、素材管11内の空気を排除するための排出路19が、必要に応じて形成されている。
ハイドロフォーム加工を行うにあたっては、上型3と下型5とを離隔させた状態(金型開放状態)で素材管11を上型3と下型5との間に配置して、管端部13A、13Bを素材管端部支持部位1A、1Bに支持させ、上型3と下型5を閉じて型締めした後、シール部材15A、15Bを素材管11の管端部13A、13Bへ駆動して、その管端部13A、13Bをシールし、素材管11の一端側の導入路17から素材管11内に加圧用液体を導入し(矢印A)、その加圧用液体により素材管11内の空気を排出路19から追い出し(矢印B)ながら、素材管11内を加圧用液体で満たし、引き続き排出路19を閉じて、加圧用液体により素材管11内を高圧に加圧し、同時に軸押し部材を兼ねた管端封止部材15A、15Bによって、素材管11にその軸線方向に沿った荷重(矢印C、E)を加えて圧縮する。これによって素材管11が塑性変形して、キャビティ7の内面に沿った形状に成形される。
なお、排出路19を設けない場合は、素材管11とシール部材15A、15Bに間隙を持たせた状態で加圧用液体を導入し、この間隙から空気を十分に追い出した後、シール部材15A、15Bを管軸方向に移動して間隙を閉じる。
ここで、管端封止部材15A、15Bは、液圧印加・軸押し時には、加圧用液体が漏洩しないように、確実に素材管11の両端を密閉しておく必要がある。すなわち、管端封止部材15A、15Bによるシールが不充分で、管端封止部材15A、15Bの周囲と素材管11の管端部13A、13Bとの間から加圧用液体が漏洩した場合、素材管11の内側に高圧の液圧が充分に作用せず、そのため素材が塑性変形に至らず、その結果、金型内面に沿った形状に成形できずに、成形不良が発生してしまう。
従来一般のハイドロフォーム加工における素材管両端のシール方法としては、いくつかの方法が採用されており、その代表的な三つの例を、素材管11の一端側の管端部13A及びそれをシールするための一方の管端封止部材15Aについて、図7〜図9にそれぞれ示す。
図7に示す例では、管端封止部材15Aは、大径の円柱状をなす基体部20の軸方向の一端側の面から、同一軸線上において突出する小径の円柱状の挿入部22を一体に形成した構成とされている。そして、挿入部20Bの外周面と素材管11の管端部13Aの内周面との間にゴムなどからなるOリング24を介在させた状態で、小径の挿入部22を管端部13Aにその開口端側から挿入し、Oリング24によって、突出部22の外周面と管端部13Aの内周面との間をシールすることとしている(例えば特許文献1の第5図、特許文献2の図9、特許文献3の図13(d)など参照)。
このようなOリングによるシール方法は、簡単かつ安価ではあるが、シール効果が必ずしも充分ではなく、特に複雑な形状に成形するために高圧で加圧用液体を加圧する場合には、加圧用液体の漏洩が生じてしまうおそれがあった。また高圧で使用すれば、Oリング24の耐久性に問題が生じ、頻繁にOリングを交換しなければならなくなる、という問題もあった。
一方、図8に示す例においては、管端封止部材15Aは、前記と同様な大径の基体部20と小径の挿入部22との境界の段差部26に、階段状をなす中間径の階段状突起部28を形成した構成としている。そしてその管端封止部材15Aの挿入部22を素材管11の管端部13Aに挿入するに当たって、管端封止部材15Aを加圧して、階段状突起部28を、管端部13Aの端面に押し当てて塑性変形させ、これにより階段状突起部28を素材に密着させて、シールするものである(例えば特許文献2の図10の(c)、特許文献3の図13(c)参照)。
また図9に示す例においては、管端封止部材15Aは、前記同様な大径の基体部20と小径の挿入部22との境界の段差面26に、環状突起部30を形成した構成としている。そして管端封止部材15Aの挿入部22を素材管11の管端部13Aに挿入するに当たって、環状突起部30を、管端封止部材15Aに与える加圧力によって素材管11の端面に押し当てて食い込ませ、シールするものである(例えば特許文献1の第1図もしくは第4図、特許文献3の図13(b)など)。
これらの図8に示す方法や、図9に示す方法では、図7に示すようなOリング24を使用する場合と比較すれば、より確実に管端部をシールすることができ、またOリング交換の手間も不要となる。しかしながら、図8に示す例の場合、シール時に階段状突起部28によって素材管11の端面を塑性変形させるところから、成形後の製品(成形品)の端面に変形部分がそのまま残り、外観品質に劣ってしまう問題がある。そのため通常は、変形した端面付近の部分を切断除去せざるを得ず、その場合には材料歩留まりが低くなってしまう問題が生じる。また図9に示した例の場合も、成形品の端面に、環状突起部30が食い込んだ凹部が残り、この場合も、外観の点から、成形後に成形品の端面付近を切断、除去せざるを得ないことが多く、やはり材料歩留まりの点で問題があった。
なお、図8に示す方法では、管端封止部材15Aの挿入部22と金型1の内面との間に挟まれた素材管端部13Aの端面を確実に変形させて、確実にシールするためには、管端部13Aの外周面が金型1の内面に密着すると同時に、管端部13Aの内周面が管端封止部材15Aの挿入部22の外周面に密着していることが必要とされる。また図9の例の場合も、管端部13Aの端面に環状突起部30を確実に食い込ませるためには、管端部13Aの外周面が金型1の内面に密着すると同時に、管端部13Aの内周面が管端封止部材15Aの挿入部22の外周面に密着していることが必要とされる。
ところで、自動車部品などに使用される中空部材は、その管端部を他の部材にアーク溶接などにより溶接して使用することが多い。その場合、溶接継ぎ手となる管端部の端面に、傾斜面(傾斜状開先面)を形成し、溶接時において、相手材との間でV形開先あるいはレ形開先などの開先が形成されるように構成することが多い。
そして前述のようにハイドロフォーム加工によって所定の形状に成形された中空部材の場合、ハイドロフォーム加工により成形した後、改めて管端部に切削加工などの機械加工を施して、傾斜状開先面を形成するのが一般的である。しかしながらこのような方法では、ハイドロフォーム加工による成形と、傾斜状開先面の形成とを別工程で行なうため、工程数が多くならざるを得ず、高コストを要するとともに、生産性も低くなるという問題がある。
特開平2−229626号公報 特開2006−255726号公報 特開2004−202571号公報
本発明は、前記事情を背景としてなされたもので、ハイドロフォーム加工を適用して溶接用中空部材を製造するに当たり、素材管の端部をシールするに際し、高圧を加えて複雑な形状に加工する場合などにおいても、加圧用液体の漏洩が生じないように確実にシールすることができ、しかも成形品の外観不良を招くおそれが少ないばかりでなく、素材管端部のシールと同時に溶接用の傾斜状開先面を形成するようにして、ハイドロフォーム加工による成形後に、改めて開先部形成のための加工(開先加工)を行なうことを不要とし、これにより溶接用中空部材の製造コストの低減および生産性の向上を図り得るようにした、ハイドロフォーム加工による溶接用中空部材の製造方法を提供することを課題としている。
本発明者は、上述の課題を解決するため、種々実験・検討を重ねた結果、管端封止部材における挿入部(素材管の管端部に挿入される部分)の外周面と素材管の管端部内周面との間に、積極的にクリアランスを持たせておくと同時に、管端封止部材における素材管端部の端面に当接する個所に傾斜面を形成しておけば、管端封止部材の挿入部を素材管の管端部に挿入して軸線方向に加圧することによって、管端部をその内面側(クリアランスの側)に塑性変形させて、管端封止部材の突出部の外周面に密着させ、確実にシールすることが可能となるばかりでなく、素材管の管端部端面に傾斜状開先面を形成し得ることを見い出して、本発明をなすに至った。
したがって本発明の要旨とするところは、下記の通りである。
すなわち、本発明は、
中空管状をなす素材管の両端部を、軸押し部材を兼ねる管端封止部材によりシールし、その素材管を金型内に配置して、素材管の内側空間に液圧を加えるとともに、素材管の両端部からその軸線に沿った方向に加圧して、素材管を金型のキャビティ内面に沿った形状に成形するハイドロフォーム加工を適用して、中空部材を製造する方法において、
前記管端封止部材として、外径が素材管の外径に等しい基体部と、その基体部から突出しかつ外径が素材管の管端部の内径より小さい挿入部であって、しかもその挿入部の外周面と素材管の管端部の内周面との間のクリアランスSおよび素材管の管端部厚みTが
0<S≦0.2×T
の関係を充たす挿入部と、前記基体部の外周面と挿入部の外周面との間の段差部分から軸線方向に沿って突出する突出部とを有し、かつその突出部の内周側に、所定角度で傾斜する傾斜面が形成された封止部材を用い、
素材管内に成形のための液圧を加える以前の段階で、前記管端封止部材の挿入部を素材管の管端部内に挿入するとともに、素材管を、その管端部の外周面が金型の素材管端部支持部位の内面に接するように金型内に配置した状態で、管端封止部材に軸線方向に沿う加圧力を加えて、管端封止部材の傾斜面を含む段差部分により素材管の管端部の端面を加圧し、
これにより素材管の管端部に前記傾斜面に沿う溶接用の傾斜状開先部を形成すると同時に、管端部の内周面が内側に隆起するように塑性変形させて、その隆起部分を前記挿入部の外周面に密着させることによって管端部を封止し、
その後、素材管内に成形のための液圧を加えるとともに、素材管に軸線方向に沿った成形用加圧力を加えることを特徴とする、ハイドロフォーム加工による溶接用中空部材の製造方法、
にある。
本発明によれば、管端封止部材における挿入部(素材管の管端部に挿入される部分)の外径を素材管の管端部の内径より小さく設定しておくことによって、ハイドロフォーム加工のための管端シール時においては、管端部の外周面と素材管の管端部内周面との間に、積極的にクリアランスを与えることができる。またこのようなクリアランスを与えると同時に、管端封止部材における素材管端部の端面に当接する個所に傾斜面を形成しておくことによって、管端封止部材の挿入部を素材管の管端部に挿入して管端封止部材を軸線方向に加圧した際に、素材管の管端部の少なくとも一部を、その内面側が隆起するように塑性変形させることができ、さらにその隆起部分を、管端封止部材の突出部の外周面に密着させることによって、管端部を確実にシールすることが可能となった。また同時に、管端部材の前記家斜面によって、素材管の管端部の端面に、溶接時の開先となる傾斜状開先面を形成することが可能となった。さらにその場合、管端部は主として内面側のみに変形することから、管端部の外観不良の発生を回避して、材料歩留まりの向上を図ることが可能となり、しかもハイドロフォーム加工後に、改めて傾斜状開先面の形成のための加工を行わなくて済むため、溶接用中空部材の製造コストおよび生産性を向上させることができる。
したがって本発明によれば、自動車・建設機械など、複雑な形状を有しかつ傾斜状開先面を有する溶接用中空部材が要求される分野でその工業的意義は大きい。
本発明のハイドロフォーム加工による溶接用中空部材の製造方法の一実施形態について、素材管の管端部と管端封止部材との関係を示す図で、その(A)は、管端封止部材の挿入部を素材管の管端部に挿入した段階(管端封止部材加圧前)の状態を示す模式的な断面図、(B)は、管端封止部材に加圧力を加えて素材管の管端部を変形させたシール段階を示す模式的な断面図である。 図1に示される実施形態によって得られた中空部材の管端部を示す模式的な断面図である。 図2に示す中空部材を溶接する際の状況を示す正面図である。 本発明のハイドロフォーム加工による溶接用中空部材の製造方法の別の実施形態について、素材管の管端部と管端封止部材との関係を示す図で、その(A)は、管端封止部材の挿入部を素材管の管端部に挿入した段階(管端封止部材加圧前)の状態を示す模式的な断面図、(B)は、管端封止部材に加圧力を加えて素材管の管端部を変形させたシール段階を示す模式的な断面図である。 本発明のハイドロフォーム加工による溶接用中空部材の製造方法において、素材管の片端側には傾斜状開先面を形成しない場合の、その片端側における素材管の管端部と管端封止部材との関係を示す図で、その(A)は、管端封止部材の挿入部を素材管の管端部に挿入した段階(管端封止部材加圧前)の状態を示す模式的な断面図、(B)は、管端封止部材に加圧力を加えて素材管の管端部を変形させたシール段階を示す模式的な断面図である。 一般的なハイドロフォーム加工方法を実施している状況の一例を示す模式的な断面図である。 従来のハイドロフォーム加工方法における管端シール手段の第1の例を示す模式的な断面図である。 従来のハイドロフォーム加工方法における管端シール手段の第2の例を示す模式的な断面図である。 従来のハイドロフォーム加工方法における管端シール手段の第3の例を示す模式的な断面図である。
次に本発明について詳細に説明する。
図1の(A)、(B)には、本発明の一実施形態として、ハイドロフォーム加工における管端シールおよび開先部形成の状況を示す。なおハイドロフォーム加工における全体的な構成は、既に説明した図6に示したものと同様であり、図1の(A)、(B)において、図6に示した要素と同一の要素については図6と同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
素材管11にハイドロフォーム加工を実施するにあたっては、図6に示したように、素材管11の両端(管端部13A、13B)に、予め、軸押し部材を兼ねた管端封止部材15A、15Bを取り付けておく。管端封止部材15A、15Bのうち、一方の管端封止部材15Aには、液圧付与のための液体を導入する導入路17が形成されており、他方の管端封止部材15Bには、排出路19が形成されている。これらの管端封止部材15A、15Bのうち、一方の管端封止部材15Aと、それに対応する素材管11の管端部13Aの部分の状況を、図1の(A)、(B)に拡大して示しており、これについて、次に詳細に説明する。
管端封止部材15Aは、図1の(A)、(B)に示すように、外径Dの大径の円柱状をなす基体部20と、相対的に小径の外径Dの円柱状をなす挿入部22とを、炭素鋼やダイス鋼などの硬質金属によって一体に形成したものである。ここで、挿入部22は、基体部20の軸線Oと同一軸線上において、基体部20の端面(段差面26)から突出するように形成されている。そして段差面26には、軸線方向に沿って突出する突出部27が形成されている。この突出部27は、全体として前記軸線0を中心とする環状をなすものであり、その外周面は基体部20の外径Dと同径とされて、基体部20の外周面から段差なく連続する延長面となっており、また突出部27の内周面は、軸線Oに直交する面に対して所定角度θで傾斜する傾斜面27Aとされている。
前記管端封止部材15Aの基体部20は、その外径(突出部27の外径と同じ)Dが、金型1(上型3及び下型5)における素材管挿入部位1Aの内径(型締め時の内径)および素材管11の管端部13Aの外径Dと実質的に同径となるように定められている。一方、挿入部22は、その外径Dが、素材管11の管端部13Aの内径Dよりも若干小さい径となるように定められている。したがって、管端封止部材15Aの挿入部22を素材管11の管端部13Aに挿入して、金型1を型締めした状態では、図1(A)に示しているように、金型1の素材管端部支持部位1Aの内面に、管端封止部材15Aの基体部20の一部の外周面及び突出部27の外周面と、素材管11の管端部13Aの外周面とが密着すると同時に、管端封止部材15Aの挿入部22の外周面と管端部13Aの内周面との間に、クリアランス32が存在することになる。このクリアランス32の寸法(間隔)Sは、S=(D−D)/2となる。
上述のような管端封止部材15Aを用いて、素材管11の管端部13A、13Bを封止すると同時に溶接用の傾斜状開先面を形成し、さらにハイドロフォーム加工を実施する状況について、以下に説明する。なお以下の説明では、素材管11の両端の管端部13A、13Bのうち、主として一方の管端部13Aの封止および傾斜状開先面形成についてのみ説明するが、他方の管端部13Bの封止も同時に行なうのが通常であり、その管端部13Bの封止についての図示および説明は省略する。またここで、前記他方の管端部13Bの封止時には、同時にその他方の管端部13Bに傾斜状開先面を形成する場合と、その他方の管端部13Bに傾斜状開先面の形成を行なわない場合とがあるが、後者のケースについては、後に改めて説明する。
予め、適宜予備加工などが施された素材管11を、その管端部13Aが金型1の下型5の所定位置(素材管端部支持部位1A)に位置するようにセットし、素材管11の管端部13Aに、管端封止部材15Aの挿入部22を挿入し、続いて上型3を降下させて型締めを行なう。あるいはまた、適宜予備加工などが施された素材管11の管端部13Aに、管端封止部材15Aの挿入用突出部22を挿入し、続いて素材管11を、その管端部13Aが金型1の下型5上にセットし、上型3を降下させ、型締めを行なっても良い。
このように型締めした段階では、金型1における素材管端部支持部位1Aの内面に、管端封止部材15Aの基体部20の一部(段差面26に近い側の部分)および突出部27の外周面と、素材管11の管端部13Aの外周面とが密着する。なお、管端封止部材15Aの挿入部22の外周面と素材管11の内周面との間には、寸法Sのクリアランス32が保たれている。
型締め後、管端封止部材15Aに、その軸線方向に沿った加圧力を加え、管端封止部材15Aの段差部26によって、素材管11の管端部13Aを軸線方向に沿って押圧する。この加圧力によって、先ず素材管11の管端部13Aの端面の外周縁に管端封止部材15Aの突出部傾斜面27Aが当接して、管端部13Aの端面付近の部位が斜め内側に押し込まれるとともに、管端部13Aの長さ方向の一部分もしくは複数の箇所において、軸線方向に圧縮変形され、肉厚が増加する。
このとき、管端部13Aの端面には、突出部傾斜面27Aにより斜め内側への力が加えられ、しかも管端部13Aの外周面は金型1の内面により拘束されているから、管端部13Aは、その内周面が内側に隆起する方向に変形する。そして、その隆起部分34の高さが、前記クリアランス32の寸法Sに達すれば、隆起部分34が、管端封止部材15Aの挿入部22の外周面に接する状態となる。さらに管端封止部材15Aに対する軸線方向加圧を継続すれば、管端部13Aの内側の隆起部分34が挿入部22の外周面に密着する。この隆起部分34は、管端部13Aの周方向に沿って環状に連続しているから、隆起部分34と挿入部22の外周面との密着によって、素材管11の管端部13Aが封止される。同時に、管端封止部材15Aの突出部傾斜面27Aによって押し込まれた部分の表面が、突出部傾斜面27Aに沿って角度θで傾斜する面、すなわち傾斜状開先面29となる(図3参照)。
上述のような、素材管11の一方の管端部13Aについての管端封止部材15Aによる封止および傾斜状開先面の形成と同時に、素材管11の他方の管端部13Bについての管端封止部材15Bによる封止および傾斜状開先面の形成を行い、両端の管端部13A,13Bの封止および傾斜状開先面形成が完了した後には、図6に示したように、素材管11内に、加圧用液体、例えば水を、一方の管端封止部材15Aの導入路17を介して導入する。なおこの段階では、他方の管端封止部材の導出路19は開放しておき、素材管内への加圧用液体の導入に伴って、素材管11内に存在していた空気を導出路19から外部へ追い出すのが通常である。
素材管11内に加圧用液体を充填した後には、導出路19を閉止して、加圧用液体に、液圧成形のための高圧を加えるとともに、管端封止部材15A、15Bに、図示しない油圧装置などによって、軸線方向に沿う加圧力を加え(軸押しし)、金型1内の素材管11を、その外面が金型1の内面形状に沿うように塑性変形させる。
このようにして金型1内で成形した後には、常法に従って液圧付与を停止させるとともに、軸押し加圧力を解除し、金型1を開放する。またそれに前後して素材管11内の加圧用液体を排出し、成形品を金型1から取り出して、管端封止部材15A、15Bを素材管11から取り外せば、一連のハイドロフォーム加工プロセスが終了し、管端部に傾斜状開先面29を有する中空部材が得られる。
上述のようにしてハイドロフォーム加工によって所定の形状に成形された中空部材38の管端部13Aの一例を図2に示す。図2に示すように、管端部13Aの端面には、その周方向に沿って連続角度θで傾斜する傾斜状開先面29が、周方向に沿って連続して形成されている。またその中空部材38を、同一の管端部形状、寸法を有する他の中空部材38´と溶接する際の溶接継手部分の一例を図3に示す。なお図3では、V型の開先36を構成して突合せ溶接する場合を示している。この場合、溶接継手部分におけるV型開先36の開先角度φは、傾斜状開先面29の傾斜角度(=管端封止部材傾斜面の傾斜角度)θの2倍となる。
ここで、管端封止のために管端部13Aの端面を軸線方向に沿って加圧して、管端部13Aを塑性変形させたときの変形は、提灯座屈に似た形態となるが、通常の提灯座屈は、管がその軸線方向に沿った加圧によって、蛇腹状に変形することを指称している。すなわち、一般的な提灯座屈は、蛇腹状の変形によって内周面と外周面との両面側に管壁が交互に突出、陥没する変形態様となる。しかしながら、本発明の場合、管端封止部材15Aの突出部傾斜面27Aによって管端部13Aの端面付近が斜め内側に押圧され、しかも素材管11の管端部13Aの外周面は、金型1の素材管端部支持部位1Aの内面によって拘束されているため、通常の提灯座屈とは異なり、管端部13Aの外周面の変形は発生せず、もっぱら内面側へ隆起する変形のみが生じる。したがって、管端部13Aの外周面は平滑な状態を保ち、成形後の成形品として、管端部13Aの外周面の外観不良が生じるおそれは少ない。
素材管11の管端部13A(13B)の外径Dは、通常は10.0〜30.0mm程度のことが多く、また管端部13A(13B)の肉厚T(=D/2−D/2)は、2.0〜15.0mm程度とされるのが通常である。またその場合、管端封止時における管端封止部材15A(15B)の挿入部22の外周面と管端部13A(13B)の内周面との間のクリアランス32の寸法Sは、特に限定されるものではないが、通常は0〜0.5mm程度とすることが好ましい。したがって管端封止部材基体部20の外径Dおよび挿入部22の外径Dも、素材管11の管端部の外径Dおよび肉厚Tに応じ、適切な寸法Sのクリアランス32が確保できるように定めればよい。
但し、これらの各寸法は、それぞれ独立に定めるのではなく、相互の関係の下に定めることが好ましい。
例えば、管端封止時における管端封止部材15A(15B)における挿入部22の外周面と素材管11の管端部13A(13B)の内周面との間のクリアランス32の寸法Sと、素材管11の管端部13A(13B)の厚みTとは、
0<S≦0.2×T・・・・・・(1)
の条件を満たすことが好ましい。
ここで、式(1)において、クリアランスの寸法Sが、0.2×Tより大きくなれば、封止のための加圧時において、管端部の内周面の隆起部分を管端封止部材の挿入部の外周面に充分に密着させることが困難となり、そのため、シール効果が充分に得られなくなったり、あるいは、管端部が蛇腹状に変形したりして、管端部の外周面の外観不良が生じてしまうおそれがある。一方、クリアランスの寸法Sが、0以下では、管端部において素材管が変形せずに、封止すべき管端部以外の部分(管端部よりも金型内側の成形用キャビティ内の部分)で素材管が変形してしまい、その後の高圧の液圧付与・軸押しによる本来の成形時に、成形不良が発生してしまうおそれがある。
一方、管端封止部材15Aの突出部傾斜面27Aの傾斜角度θの具体的角度は特に限定されるものではない。この突出部傾斜面27Aの傾斜角度θは、成形後の中空部材における管端部13Aの端面の傾斜状開先面29の角度と等しいから、要は、成形後の中空部材の管端部11Aを相手材と溶接する際において、その溶接継手に必要とされる開先角度に対応して定めればよい。例えば図3に示すようなV形開先36を構成する場合には、開先角度φの1/2の角度となるように、傾斜角度θを定めておけばよい。またレ形開先を構成する場合には、必要な開先角度と同じ角度に前記傾斜角度θを定めておけばよい。
以上の実施形態においては、図1(A)、(B)に示しているように、管端封止部材15Aの突出部27は、段差部分26の前面の一部(外周端側の部分)から突出する形状とし、その段差部分26の内周端側の部分に、軸線方向に対し直交する垂直面26Aを残している。これは、図2に示しているように、溶接時における開先に、相手材の表面に対して平行に対向する面、すなわちルート面35が存在するように、傾斜状開先面29を形成するためである。しかしながら、溶接の条件などによっては、ルート面35を持たない開先形状とすることが望まれる場合もある。そこで本発明の方法の場合も、ルート面35を持たない開先形状を構成し得るようにしてもよい。その場合の例を、図4(A)、(B)に示す。なお図4(A)、(B)において、図1(A)、(B)に示される要素と同一の要素については、図1(A)、(B)と同一の符号を付し、その説明は省略する。
図4(A)、(B)において、管端封止部材15Aには、段差部分26の前面の全体が傾斜面27Aとなるように突出部27が形成されている。このような管端封止部材15Aを用いた場合においても、図1(A)、(B)に示した実施形態と同様に、管端部13Aを封止すると同時に、傾斜状開先面36(但し図2とは異なり、ルート面35がないもの)を形成することができる。
さらに、成形後の中空部材の用途、適用個所などによっては、その中部材の両端の管端部13A、13Bのうち、一方(例えば13A)のみに傾斜状開先面29を形成しておけば足りることもある。その場合は、一方の管端部13Aについては、前述のような突出部傾斜面27Aを有する管端封止部材15Aを用いて封止および開先面形成を行い、他方の管端部13Bについては、突出部27および傾斜面27Aを持たない管端封止部材15Bを用いて、封止のみを行なってもよい。
その場合における、他方の管端部13Bについての管端封止部材15Bと、それによる封止状況の例を、図5の(A)、(B)に示す。なお図5(A)、(B)において、図1(A)、(B)に示される要素と同一の要素については、図1(A)、(B)と同一の符号を付し、その説明は省略する。
図5(A)、(B)において、管端封止部材15Bは、基体部20と挿入部22との間の段差部分26は、軸線に対して直交する面(垂直段差面)37によって構成されており、前記各実施形態で示した突出部は形成されていない。但し、管端封止部材15Bの基体部20の外径Dが、金型1(上型3及び下型5)における素材管挿入部位1Aの内径(型締め時の内径)および素材管11の管端部13Bの外径Dと実質的に同径となるように定められている点、また挿入部22の外径Dが、素材管11の管端部13Bの内径Dよりも若干小さい径となるように定められている点は、図1(A)、(B)に示した実施形態と同様であり、したがって管端封止部材15Aの挿入部22を素材管11の管端部13Bに挿入して、金型1を型締めした状態では、金型1の素材管端部支持部位1Aの内面に、管端封止部材15Bの基体部20の一部の外周面と、素材管11の管端部13Bの外周面とが密着すると同時に、管端封止部材15Bの挿入部22の外周面と管端部13Bの内周面との間に、クリアランス32が存在することになる。このクリアランス32の寸法(間隔)Sは、S=(D−D)/2となる。
このような管端封止部材15Bを用いた側の管端部13Bの封止状況は、次の通りである。
すなわち、既に述べたように、液圧付与および軸押し以前の段階で、素材管11を金型にセットして型締めした後、管端封止部材15Bの側から軸線方向に沿った加圧力が加えられれば、管端封止部材15Bの垂直段差面37によって、素材管11の端面が軸線方向に沿って押圧される。この加圧力によって、素材管11の管端部13Bは、長さ方向の一部分もしくは数箇所において、肉厚が増加する方向に圧縮変形する。このとき、管端部13Bの外周面は、図5の(B)に示しているように、金型1における素材管端部支持部位1Bの内面により拘束されているから、管端部13Bの変形は、その内周面が内側に隆起する方向に生じる。そして、その隆起部分34の高さが、前記クリアランス32の寸法Sに達すれば、隆起部分34が、管端封止部材15Bの挿入部22の外周面に接する状態となる。さらに管端封止部材15Bに対する軸線方向加圧を継続すれば、管端部13Bの内側の隆起部分34が挿入部22の外周面に密着する。この隆起部分34は、管端部13Bの周方向に沿って環状に連続しているから、隆起部分34と挿入用突出部22の外周面との密着によって、素材管11の管端部13Bが封止される。
このように、突出部27および傾斜面27Aを持たない管端封止部材15Bを用いて素材管11の管端部13Bを封止する場合も、素材管11の管端部13Bの外周面は、金型1の素材管端部支持部位1Bの内面によって拘束されているため、通常の提灯座屈とは異なり、管端部13Bの外周面の変形はほとんど発生せず、もっぱら内面側へ隆起する変形のみが生じる。したがって、管端部13Bの外周面は平滑な状態を保ち、成形後の成形品として、管端部13Bの外周面の外観不良が生じるおそれは少ない。
なお、以上の各実施形態では、素材管を金型にセットし、型締めしてから管端部の封止および傾斜状開先面の形成を行い、その後、型締め状態を維持したまま、加圧用液体の充填、さらに加圧用液体に対する高圧付与・軸押しを行なうものとしている。しかしながら、場合によっては、素材管を金型にセットして型締めし、管端部の封止および傾斜状開先面の形成を行なった後、一旦型締めを解除して、素材管を金型から取り出し、素材管に対する予備加工などを行ってから、改めて素材管を金型にセットし、再び型締めを行なってから、加圧用液体の充填、さらに加圧用液体に対する高圧付与・軸押しを行なっても良い。さらに、管端部の封止のための金型として、成形用の金型とは別の封止専用の金型を用意しておき、その封止専用の金型に素材管をセットして型締めし、管端部の封止および傾斜状開先面の形成を行なった後、成形用の金型に素材管をセットし、型締め後、加圧用液体の充填、さらに加圧用液体に対する高圧付与・軸押しを行なっても良い。
以下に本発明の実施例を示す。なお以下の実施例は、本発明による作用、効果を確認するためのものであり、実施例に記載した条件が、本発明の技術的範囲を限定するものでないことはもちろんである。
ハイドロフォーム加工装置としては、その全体構成が図2に示すような装置を用いた。素材管としては、管端部の外径Dが190.7mm、肉厚Tが7.0mm、内径Dが176.7mmの、機械構造用炭素鋼管:STKM13Bからなる中空管を用いた。一方管端封止部材としては、図1に示すような形状で、基体部の外径Dが190.7mm、挿入部の外径Dが175.7mmのダイス鋼:SKD61製のものを用いた。したがって、クリアランスの寸法Sは0.5mmとなる。なお突出部の突出量は10.0mm、傾斜面の傾斜角度θは45°とした。
このような管端封止部材の挿入部を素材管の両端に挿入して、金型にセットし、型締めを行なってから、管端封止部材に軸線方向に、500kNの加圧力を加えて、管端部を、その外周面を拘束しながら軸線方向に沿って押圧した。これによって管端部の端面を斜め内側に押圧して傾斜状開先面を形成すると同時に、管端部の内周側が隆起するように塑性変形させ、その隆起部分を管端封止部材の挿入部の外周面に密着させた。
以上のようにして両端を封止した素材管内に、加圧用液体として水を充填し、その後、加圧力1500kNにて軸押ししながら、素材管内の加圧用液体に50MPaの圧力を加え、ハイドロフォーム加工を行った。
この過程では、管端封止部材の個所からの加圧用液体の漏洩はなく、確実に封止されていることが確認された。また、成形後の成形品を調べたところ、管端部の端面に、角度θで傾斜する傾斜状開先面が周方向に均一に形成されており、また全体として金型のキャビティ内面に沿った形状に精確に加工されていることが確認された。また上記の傾斜状開先面を含む管端部の外面には、特に凹凸や皺の発生もなく、良好な外観品質を有していることが確認された。
以上、本発明の好ましい実施形態、実施例を説明したが、本発明はこれらの実施形態、実施例に限定されないことはもちろんであり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
本発明の中空部材製造方法は、自動車などに使用される中空部品、特にアーク溶接などの溶接が施されて使用される中空部品の製造方法として、高圧の液圧を加えて複雑な形状を有する部品を製造する場合などに適している。
1 金型
1A、1B 素材管端部支持部位
11 素材管
13A、13B 管端部
15A、15B 管端封止部材
20 基体部
22 挿入部
26 段差部分
27 突出部
27A 傾斜面
29 傾斜状開先面
32 クリアランス
34 隆起部分

Claims (1)

  1. 中空管状をなす素材管の両端部を、軸押し部材を兼ねる管端封止部材によりシールし、その素材管を金型内に配置して、素材管の内側空間に液圧を加えるとともに、素材管の両端部からその軸線に沿った方向に加圧して、素材管を金型のキャビティ内面に沿った形状に成形するハイドロフォーム加工を適用して、中空部材を製造する方法において、
    前記管端封止部材として、外径が素材管の外径に等しい基体部と、その基体部から突出しかつ外径が素材管の管端部の内径より小さい挿入部であって、しかもその挿入部の外周面と素材管の管端部の内周面との間のクリアランスSおよび素材管の管端部厚みTが
    0<S≦0.2×T
    の関係を充たす挿入部と、前記基体部の外周面と挿入部の外周面との間の段差部分から軸線方向に沿って突出する突出部とを有し、かつその突出部の内周側に、所定角度で傾斜する傾斜面が形成された封止部材を用い、
    素材管内に成形のための液圧を加える以前の段階で、前記管端封止部材の挿入部を素材管の管端部内に挿入するとともに、素材管を、その管端部の外周面が金型の素材管端部支持部位の内面に接するように金型内に配置した状態で、管端封止部材に軸線方向に沿う加圧力を加えて、管端封止部材の傾斜面を含む段差部分により素材管の管端部の端面を加圧し、
    これにより素材管の管端部に前記傾斜面に沿う溶接用の傾斜状開先部を形成すると同時に、管端部の内周面が内側に隆起するように塑性変形させて、その隆起部分を前記挿入部の外周面に密着させることによって管端部を封止し、
    その後、素材管内に成形のための液圧を加えるとともに、素材管に軸線方向に沿った成形用加圧力を加えることを特徴とする、ハイドロフォーム加工による溶接用中空部材の製造方法。
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