以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。尚、本実施形態の説明においては、コネクタ用の端子として構成された電子部品に対して本発明が適用された場合を例にとって説明するが、この例に限らず、本発明を適用することができる。本発明は、金属材料で形成された本体部を有するとともに表面にめっき層が形成された部品に関して、広く適用することができるものである。即ち、端子以外の電子部品に対して本発明が適用されてもよく、また、電子部品以外の金属製の部品に対して本発明が適用されてもよい。
図1は、本実施形態における部品として構成されたコネクタ用の端子1がコネクタ100において取り付けられた状態を示す断面図である。コネクタ100は、例えば、フラットケーブル101の端部が接続されるコネクタとして構成されている。尚、図1は、コネクタ100の幅方向に対して垂直な断面を示している。そして、図1においては、コネクタ100におけるハウジング部材102及び回動部材103と、端子1に対して電気的に接続されるフラットケーブル101とについては、断面で図示し、端子1については外形を図示している。
図1に示すように、コネクタ100は、ハウジング部材102と、回動部材103と、本実施形態の端子(部品)1とを備えて構成されている。尚、端子1は、コネクタ100において複数備えられている。ハウジング部材102及び回動部材103は、絶縁性材料として構成された樹脂材料によって形成されている。端子1は、金属材料で形成され、例えば、リン青銅によって形成されている。そして、後述するように、端子1の表面にはめっき層が形成されている。
ハウジング部材102には、複数の端子1のそれぞれが挿入される複数の挿入口102aが形成され、各挿入口102aは、ハウジング部材102の内側の空間領域(後述の開放領域102b)に連通するように形成されている。尚、複数の挿入口102aは、コネクタ100の幅方向に直列に並んで配置されている。そして、ハウジング部材102における複数の挿入口102aと反対側において外部に対して開放されるように形成された開放領域102bは、フラットケーブル101の端部が配置される領域を構成している。
また、開放領域102bに配置されるフラットケーブル101の端部は、絶縁被覆が剥がされて導体が露出し、端子1と電気的に接続可能な状態に形成されている。尚、フラットケーブル101は、例えば、フレキシブルフラットケーブル或いはフレキシブルプリント回路基板等として設けられ、平行に配列された複数の導体が一体に絶縁被覆されることで形成されている。
端子1は、一方の端部おいて、二股状に突出するように形成された一対の突出片部(1a、1b)が形成され、他方の端部において、図示しない他の機器や基板等に対して実装等によって取り付けられる。そして、端子1は、この一対の突出片部(1a、1b)において、ハウジング部材102の挿入孔102aに挿入される。このとき、端子1は、ハウジング部材102に対して挿入口102aにおいて圧入される状態で挿入される。
また、端子1における一方の突出片部1aには、フラットケーブル101の端部における各導体に対して電気的に接続される電気接点部1cが突起状に形成されている。また、端子1における他方の突出片部1bには、後述の回動部材103における各回転軸部103aの外周に対して摺動自在に係止する係止凹部1dが形成されている。尚、上述のように、本実施形態における部品を構成する端子1は、他の部材であるフラットケーブル101に対して電気的に接続される電気的接点部1cを有するとともに表面にめっき層が形成された本実施形態における電子部品も構成している。
回動部材103は、ハウジング部材102及び複数の端子1に対して回動するように操作されるレバー状の部材として設けられるとともに、フラットケーブル101の端部の各導体を各端子1に対して加圧した状態で押し付ける部材として設けられている。そして、この回動部材103は、ハウジング部材102の幅方向に沿って延びるとともにハウジング部材102の開放領域102bを部分的に覆うように形成されている。
また、回動部材103は、一方の端部側が回動操作用の操作部103bとして形成され、他方の端部側に複数の溝部103cが幅方向に沿って並んで配置されるように形成されている。各溝部103cは、各端子1における他方の突出片部1bの先端部分が挿入される溝部を構成している。そして、各溝部103cには、この溝部103cに亘って架け渡されるように形成された各回転軸部103aが配置されている。この各回転軸部103aの外周に対しては、前述のように、端子1の他方の突出片部1bにおける係止凹部1dが摺動自在に係止される。これにより、回動部材103は、各回転軸部103aにおいて各端子1の係止凹部1dに係止した状態で、複数の端子1に対して回動自在に支持されるように構成されている。
コネクタ100においては、ハウジング部材102に対して、各挿入口102aから各端子1が圧入される。そして、ハウジング部材102に対して複数の端子1が全て圧入された状態で、回動部材103が取り付けられる。このとき、回動部材103は、ハウジング部材102に対して略垂直な姿勢で、各回転軸部103aにおいて各端子1の係止凹部1dに係止される。各回転軸部103aが各係止凹部1dに係止されることで、複数の端子1に対して回動部材103が回動自在に支持されることになる。
上記のようにコネクタ100が組み立てられた状態で、フラットケーブル101の端部が、開放領域102bに配置された複数の端子1におけるそれぞれの一対の突出片部(1a、1b)の間に挿入される。このとき、回動部材103がハウジング部材102に対して略垂直な姿勢の状態のコネクタ100において、フラットケーブル101の端部が各一対の突出片部(1a、1b)の間に挿入される。そして、フラットケーブル101の端部が挿入された後、操作部103bが操作されることにより、回動部材103が、各回転軸部103aにおいて各係止凹部1dに摺動しながら複数の端子1に対して回動する。これにより、回動部材103においてフラットケーブル101に対向する面として設けられた加圧面103dによって、フラットケーブル101の端部の各導体が各端子1における電気接点部1cに対して押し付けられて、各導体と各電気接点部1cとが電気的に接続されることになる。そして、フラットケーブル101の端部の各導体が各端子1の電気接点部1cを加圧した状態で、フラットケーブル101の端部がコネクタ1に保持され、コネクタ100とフラットケーブル101とが接続されることになる。
次に、本実施形態の部品及び電子部品である端子1における表面のめっき層の構造について詳しく説明する。図2は、端子1の表面における一部の断面について模式的に拡大して示す模式拡大断面図である。また、図3は、図2の一部を更に拡大して示す図である。尚、図2及び図3では、ハウジング部材102に圧入された端子1が電気接点部1cにおいてフラットケーブル101の導体と接触する部分における模式拡大断面図を示している。図2及び図3に示すように、端子1は、本体部11と、下地めっき層12と、ポーラスめっき層13と、表層めっき層14とを備えて構成されている。
本体部11は、金属材料(例えば、リン青銅などの銅合金)で形成された母材を構成している。下地めっき層12は、本体部11の表面を被覆するように形成されている。ポーラスめっき層13は、下地めっき層12の表面を被覆するように形成されている。表層めっき層14は、ポーラスめっき層13の表面に形成されている。
下地めっき層12は、本体部11の表面に対して、例えば、Ni(ニッケル)又はNi合金が被覆されることで形成されている。即ち、本実施形態では、下地めっき層12が、Ni又はNi合金によって形成されたNiめっき層として形成されている。下地めっき層12は、例えば、電気めっきプロセスにより形成される。尚、下地めっき層12自体が、単独のNiめっき層として構成されていなくてもよい。下地めっき層12は、Niめっき層を含んで構成されていればよい。また、下地めっき層12は、無電解めっきプロセスによって形成されてもよい。
ポーラスめっき層13は、穴及び空隙の少なくともいずれかとして設けられたポーラス構造13aが分散して形成された多孔質体として構成されている。また、ポーラスめっき層13を形成する金属は、例えば、Ni又はNi合金として構成されている。
ポーラスめっき層13は、種々の公知の方法により形成することができる。例えば、ポーラスめっき層13を電気めっきプロセスによって形成する際に、下地めっき層12の表面に樹脂などの疎水性の微粒子を分散して配置する方法を用いることができる。これにより、導電部と絶縁部との境界部で過電圧を生じさせて微細な水素ガスを多数発生させ、これらの泡をとりこむようにめっき層を析出させる方法を用いることができる。
また、異種金属の粉末を混合してポーラスめっき層13の素材金属以外の金属を溶出させる方法を用いることができる。この場合、まず、下地めっき層12の表面において、ポーラスめっき層13の素材金属の粉末と、この素材金属よりも融点が低い他の金属の粉末とを混合して固化させる。そして、その後、低融点の金属を溶出させてポーラスめっき層13を形成する方法を用いることができる。
また、スパッタリング法を用いることでポーラスめっき層13を形成してもよい。この場合、スパッタリングによって、下地めっき層12の表面をターゲットとして、ポーラスめっき層13の素材金属と炭素との混合体を蒸着させる。これにより、下地めっき層12の表面に、ポーラスめっき層13の素材金属と炭素との混合膜を形成する。そして、その混合膜を空気等の酸化性雰囲気中にて加熱することによって、多孔質体としてのポーラスめっき層13を形成してもよい。
また、ポーラスめっき層13を電気めっきプロセスによって形成する際に、ポーラスめっき層13の素材金属の塩の水溶液中に、炭素或いは樹脂を浮遊又は融解させておく方法を用いることができる。上記の条件下で、電気めっきプロセスを実行することにより、形成されるめっき層中に炭素粉末或いは樹脂粉末が取り込まれることになる。そして、めっき層中に取り込まれた炭素粉末或いは樹脂粉末を加熱処理によって分解或いは消失させることによって、多孔質体としてのポーラスめっき層13を形成してもよい。
表層めっき層14は、端子1の表面において最も外側に設けられ、外部に対して露出するめっき層として構成されている。そして、表層めっき層14は、ポーラスめっき層13の表面において分散して形成されたポーラス構造13aを外部に露出可能に設けられる。表層めっき層14は、例えば、ポーラスめっき層13の表面において、電気めっきプロセスによって形成される。このとき、表層めっき層14の素材金属は、ポーラスめっき層13の表面においてポーラス構造13aを区画するように外側に突出した部分に対して選択的に析出する。これにより、表層めっき層14が、ポーラスめっき層13の表面のポーラス構造13aを外部に露出可能なめっき層構造として形成される。
また、表層めっき層14を形成する金属のイオン化傾向は、ポーラスめっき層13を形成する金属のイオン化傾向よりも小さくなるように、各めっき層(13、14)の素材金属が選定される。即ち、表層めっき層14を形成する金属がポーラスめっき層13を形成する金属よりも貴な金属として(ポーラスめっき層13を形成する金属が表層めっき層14を形成する金属がよりも卑な金属として)構成される。例えば、NI又はNi合金で形成されたポーラスめっき層13に対し、表層めっき層14が、Au(金)−Co(コバルト)硬質金めっき層、Ag(銀)めっき層、Ag−Sn(25%)合金めっき層(Agが約75%でSn(錫)が約25%の組成の合金めっき層)、Sn−Ag(5%)合金めっき層(Snが約95%でAgが約5%の組成の合金めっき層)、Snめっき層として構成される。
また、端子1の表面においては、表層めっき層14を介して外部に露出したポーラスめっき層13のポーラス構造13aに、潤滑性を有する潤滑物質15が充填されている。潤滑物質15としては、例えば、六方晶系の常圧相の窒化ホウ素(h−BN)が用いられる。尚、外部に露出したポーラス構造13aに対して、窒化ホウ素(h−BN)以外の潤滑物質が充填されてもよい。この場合、潤滑物質としては、例えば、モリブデン、黒鉛、シリカ、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ダイヤモンド、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)等が用いられる。これらの潤滑物質は、例えば、粉末状或いは粒子状の形態でポーラス構造13aに充填される。
図4は、端子1の表面において外部に露出したポーラス構造13aに潤滑物質15が充填されていない状態の断面を模式的に拡大して示す模式拡大断面図である。図5は、端子1の表面において外部に露出したポーラス構造13aに潤滑物質15が充填されるプロセスを説明するための断面状態を模式的に拡大して示す模式拡大断面図である。
図4に示すように、ポーラスめっき層13の表面に対して表層めっき層14がめっきされた状態では、端子1の表面において外部に露出したポーラス構造13aには、潤滑物質15が充填されていない。この状態において、図5に示すように、潤滑物質15が、外部に露出したポーラス構造13aに対して、粒子状の形態で埋め込まれる。
粒子状の潤滑物質15は、例えば、ショットブラスト処理などにより、ノズル(図示を省略)を介して端子1の表面に吹き付けられる。尚、図5では、粒子状の潤滑物質15が端子1の表面に吹き付けられる方向が矢印Aで示されている。また、図5では、端子1の表面に向かって吹き付けられて移動している状態の粒子状の潤滑物質15も図示されている。
吹き付けの際に運動エネルギーが粒子状の潤滑物質15に付与されることで、粒子状の潤滑物質15が、外部に露出したポーラス構造13aの内側に埋め込まれるように充填されていくことになる。また、吹き付けられた粒子状の潤滑物質15は、吹き付けの運動エネルギーによって、ポーラス構造13aの内側の潤滑物質15に衝突する。このときの衝突エネルギーによって、ポーラス構造13a内の粒子状の潤滑物質15同士も変形して癒着することになる。これにより、端子1の表面状態が、図1に示される状態となる。尚、ポーラス構造13aの内側に入り込んだ潤滑物質15は、そのままポーラス構造13aに捕捉されて充填された状態となる。一方、ポーラスめっき層13の表面におけるポーラス構造13aの突出部に形成された表層めっき層14の表面に衝突した潤滑物質15は、ポーラス構造13aに捕捉されないため、外部へと脱落することになる。
尚、端子1においては、下地めっき層12の平均厚み寸法は、その目標値が、例えば、1〜4μm程度に設定される。ポーラスめっき層13の平均厚み寸法は、その目標値が、例えば、0.5〜4μm程度に設定される。また、ポーラスめっき層13のポーラス構造13aの空間領域における最大寸法の平均値は、例えば、ポーラスめっき層13の厚み寸法と同等の寸法水準に設定される。また、窒化ホウ素(h−BN)として構成された粒子状の状態の潤滑物質15は、その粒子直径寸法の平均値の目標値が、例えば、0.1μm〜0.5μm程度に設定される。
また、表層めっき層14の平均厚み寸法は、Au−Co硬質金めっきの場合であれば、その目標値が、例えば、0.01〜1μm程度に設定される。また、Agめっき層の場合、表層めっき層14の平均厚み寸法は、その目標値が、例えば、0.5〜4μm程度に設定される。また、Ag−Sn(25%)合金めっき層の場合、表層めっき層14の平均厚み寸法は、その目標値が、例えば、0.5〜4μm程度に設定される。また、Sn−Ag(5%)合金めっき層の場合、表層めっき層14の平均厚み寸法は、その目標値が、例えば、0.5〜4μm程度に設定される。また、Snめっき層の場合、表層めっき層14の平均厚み寸法は、その目標値が、例えば、0.5〜4μm程度に設定される。
次に、実施例について説明する。図6は、潤滑物質15がポーラスめっき層13のポーラス構造13aに充填されていない状態の端子1の表面を撮影したSEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)写真の画像を示す図である。また、図7も、潤滑物質15がポーラスめっき層13のポーラス構造13aに充填されていない状態の端子1の表面を撮影したSEM写真の画像を示す図である。尚、図7は、図6よりも更に拡大した倍率で撮影した画像を示している。また、図8は、潤滑物質15がポーラスめっき層13のポーラス構造13aに充填された状態の端子1の表面を撮影したSEM写真の画像を示す図である。また、図9は、図8の一部を拡大して示す図である。また、図10は、潤滑物質15がポーラスめっき層13のポーラス構造13aに充填されていない状態の端子1の表面の近傍における断面を撮影したSEM写真の画像を示す図である。
尚、図6乃至図10では、めっき層或いは潤滑物質を指標する符号の図示が省略されている。また、図6及び図10においては、画像中の寸法を示す尺度が、線分表示で示されている。また、図7乃至図9においては、画像中の寸法を示す尺度が、目盛表示で示されている。図7乃至図9では、複数の目盛のうち両端に位置する目盛間の長さが、表示された尺度寸法値に対応している。
図6乃至図10に示すように、端子1の表面においては、下地めっき層12、ポーラスめっき層13、表層めっき層14が形成されている。そして、ポーラスめっき層13には、ポーラス構造13aが分散して形成されている。また、ポーラスめっき層13の表面におけるポーラス構造13aは、表層めっき層14を介して外部に露出可能に設けられている。また、粒子状で端子1の表面に吹き付けられてポーラス構造13aに充填された潤滑物質15は、図8及び図9に示すように、ポーラス構造13a内において、粒子状の状態から変形して一体に癒着した状態となっている。
次に、本発明の効果を検証するために行った検証試験の結果について説明する。検証試験では、本実施形態に対応する実施例として、第1乃至第4実施例に係る端子を作製した。
第1実施例に係る端子(以下、「端子1a」という)としては、表層めっき層14がAgめっき層として形成された端子1aを作製した。第2実施例に係る端子(以下、「端子1b」という)としては、表層めっき層14がAg−Sn(25%)合金めっき層として形成された端子1bを作製した。第3実施例に係る端子(以下、「端子1c」という)としては、表層めっき層14がSn−Ag(5%)合金めっき層として形成された端子1cを作製した。第4実施例に係る端子(以下、「端子1d」という)としては、表層めっき層14がAu−Co硬質金めっき層として形成された端子1dを作製した。
第1乃至第4実施例に係る端子(1a、1b、1c、1d)は、いずれも、ポーラスめっき層13がNiめっき層として形成されている。また、第1乃至第4実施例に係る端子(1a、1b、1c、1d)は、いずれも、外部に露出したポーラスめっき層13のポーラス構造13aに潤滑物質15として窒化ホウ素(h−BN)が充填されている。尚、第1乃至第3実施例に係る端子(1a、1b、1c)は、いずれも、表層めっき層14の平均厚み寸法の目標値が0.5μmに設定されている。一方、第4実施例に係る端子1dの表層めっき層14は、フラッシュめっきにより形成され、第1乃至第3実施例に係る端子(1a、1b、1c)の表層めっき層14よりも薄く形成されている。
検証試験としては、第1乃至第3実施例に係る端子(1a、1b、1c)については、導電性確認試験を行った。更に、第2乃至第4実施例に係る端子(1b、1c、1d)については、耐食性確認試験を行った。また、第1乃至第4実施例の端子(1a、1b、1c、1d)と比較するため、ポーラスめっき層13が設けられておらず、下地めっき層12の表面にAgめっき層が形成された、第1比較例に係る端子(以下、「端子C1」という)の作製も行った。尚、第1比較例に係る端子C1の表層のAgめっき層の平均厚み寸法の目標値は、0.5μmに設定されている。また、第1比較例に係る端子C1の形状は、第1乃至第4実施例の端子(1a、1b、1c、1d)と同様の形状に設定した。
図11及び図12は、第1乃至第3実施例に係る端子(1a、1b、1c)と、第1比較例に係る端子C1とについて、導電性確認試験を実施した結果を示す図である。図11及び図12に結果を示す導電性確認試験においては、第1乃至第3実施例に係る端子(1a、1b、1c)と第1比較例に係る端子C1とについて、基板に実装し、その後、後述するような所定の試験をそれぞれ実施し、所定の試験を実施する前及び実施した後における抵抗(電気抵抗、mΩ)を測定した。また、第1乃至第3実施例に係る端子(1a、1b、1c)及び第1比較例に係る端子C1については、各試験条件に対応する試験片をそれぞれ複数(12個)作製し(即ち、試験条件ごとにそれぞれ12個の端子を作製し)、抵抗の測定を行った。
図11に結果を示す導電性確認試験では、第1乃至第3実施例に係る端子(1a、1b、1c)及び第1比較例に係る端子C1について、湿度試験を行った。また、図12に結果を示す導電性確認試験では、第1乃至第3実施例に係る端子(1a、1b、1c)及び第1比較例に係る端子C1について、熱衝撃試験を行った。そして、各試験(湿度試験、熱衝撃試験)が実施される前及び実施された後における抵抗を測定した。尚、図11(a)は、湿度試験が実施される前における抵抗測定結果を示しており、図11(b)は、湿度試験が実施された後における抵抗測定結果を示している。一方、図12(a)は、熱衝撃試験が実施される前における抵抗測定結果を示しており、図12(b)は、熱衝撃試験が実施された後における抵抗測定結果を示している。また、図11及び図12に示す抵抗測定結果については、12個の試験片における平均値、最大値、及び最小値を記載している。
図11に結果を示す導電性確認試験における湿度試験では、温度が40℃で湿度が90%〜95%の環境に500時間に亘って試験片をさらした。一方、図12に示す導電性確認試験における熱衝撃試験では、−55℃から85℃の範囲で温度が変化する熱サイクル(−55℃の温度に30分間設定され、85℃の温度に30分間設定される温度パターンの熱サイクル)を250時間の間に250サイクル繰り返す環境に試験片をさらした。
上記の各試験(湿度試験、熱衝撃試験)が行われても良好な導電性を確保できる水準として、通常、抵抗が30mΩ以下であることが要求される。これに対して、図11及び図12の導電性確認試験結果に示すように、第1乃至第3実施例に係る端子(1a、1b、1c)及び第1比較例に係る端子C1ともに、各試験(湿度試験、熱衝撃試験)の終了後においても、抵抗があまり上昇しない傾向にあり、抵抗が30mΩ以下の良好な水準を確保できることが確認できた。
次に、第2乃至第4実施例に係る端子(1b、1c、1d)と第1比較例に係る端子C1とについて実施した耐食性確認試験の結果について説明する。耐食性確認試験においては、第2乃至第4実施例に係る端子(1b、1c、1d)と第1比較例に係る端子C1とについて、硫化水素ガス試験及び二酸化硫黄ガス試験を実施した。そして、各試験(硫化水素ガス試験、二酸化硫黄ガス試験)において、外観を評価することで、腐食の発生状況を確認した。
硫化水素ガス試験では、硫化水素濃度が3ppm、温度が40℃、湿度が80%の環境に96時間に亘って試験片をさらした。一方、二酸化硫黄ガス試験では、二酸化硫黄濃度が10ppm、温度が40℃、湿度が80%の環境に96時間に亘って試験片をさらした。
硫化水素ガス試験が実施された結果、第2乃至第4実施例に係る端子(1b、1c、1d)については、いずれも、外観上腐食は発生せず、また、外観における変色も発生しなかった。これに対して、第1比較例に係る端子C1については、黒っぽく変色し、硫化変色が発生したことが確認された。一方、二酸化硫黄ガス試験が実施された結果、第2乃至第4実施例に係る端子(1b、1c、1d)については、いずれも、外観上腐食は発生せず、また、外観における変色も発生しなかった。これに対して、第1比較例に係る端子C1については、くすみが発生し、変色が発生したことが確認された。
また、上記の検証試験とは異なる検証試験として、前述の実施形態の端子1とは形態が異なる端子を作製し、導電性確認試験を行った。具体的には、端子1とは銅合金製の本体部の形状が異なるもののめっき層は同様に構成される端子を作製し、導電性確認試験を行った。そして、前述の実施形態の端子1とは形状が異なる端子の形態の実施例として、第5実施例乃至第7実施例に係る端子を作製した。尚、第5乃至第7実施例に係る端子としては、プリント回路基板に実装されたコネクタに対して接続されるコネクタに用いられる端子を作成した。また、第5乃至第7乃至実施例に係る端子については、可撓性を有して弾性変形可能なバネ部分に電気接点部が設けられた形態の端子として作成した。そして、検証試験では、これらの端子が、上記のコネクタに用いられた形態で、試験を行った。
また、第5実施例に係る端子(以下、「端子2a」という)としては、前述の端子1の表層めっき層14と同様に構成される表層めっき層がAgめっき層として形成された端子2aを作製した。第6実施例に係る端子(以下、「端子2b」という)としては、表層めっき層14と同様に構成される表層めっき層がAg−Sn(25%)合金めっき層として形成された端子2bを作製した。第7実施例に係る端子(以下、「端子2c」という)としては、表層めっき層14と同様に構成される表層めっき層がSn−Ag(5%)合金めっき層として形成された端子2cを作製した。
第5乃至第7実施例に係る端子(2a、2b、2c)は、いずれも、前述の端子1のポーラスめっき層13と同様に構成されるポーラスめっき層がNiめっき層として形成されている。また、第5乃至第7実施例に係る端子(2a、2b、2c)は、いずれも、外部に露出したポーラスめっき層のポーラス構造に潤滑物質として窒化ホウ素(h−BN)が充填されている。尚、第5乃至第7実施例に係る端子(2a、2b、2c)は、いずれも、表層めっき層の平均厚み寸法の目標値が0.5μmに設定されている。
また、第5乃至第7実施例の端子(2a、2b、2c)と比較するため、ポーラスめっき層が設けられておらず、下地めっき層の表面にAgめっき層が形成された、第2比較例に係る端子(以下、「端子C2」という)の作製も行った。尚、第2比較例に係る端子C2の表層のAgめっき層の平均厚み寸法の目標値は、0.5μmに設定されている。また、第2比較例に係る端子C2の形状は、第5乃至第7実施例の端子(2a、2b、2c)と同様の形状に設定されている。
図13は、第5乃至第7実施例に係る端子(2a、2b、2c)と、第2比較例に係る端子C2とについて、導電性確認試験を実施した結果を示す図である。図13に結果を示す導電性確認試験においては、第5乃至第7実施例に係る端子(2a、2b、2c)と第2比較例に係る端子C2とについて、それぞれコネクタに装着した状態で、相手側のコネクタに対するこのコネクタの挿抜作業を繰り返し実施する試験を行った。即ち、この挿抜作業を繰り返す試験においては、プリント回路基板に実装されたコネクタに対して、試験対象の端子が装着されたコネクタを挿入して接続する動作と、このコネクタを抜き出して接続を解除する動作とを、繰り返し行った。
そして、図13に結果を示す導電性確認試験では、繰り返しての挿抜作業が実施される前と、挿抜作業が5000回繰り返して実施された後とにおいて、試験対象の各端子の抵抗(電気抵抗、mΩ)を測定した。また、第5乃至第7実施例に係る端子(2a、2b、2c)及び第2比較例に係る端子C2については、試験片をそれぞれ複数(12個)作製し、抵抗の測定を行った。尚、図13(a)は、繰り返しての挿抜作業が実施される前における抵抗測定結果を示しており、図13(b)は、5000回繰り返しての挿抜作業が実施された後における抵抗測定結果を示している。また、抵抗測定結果については、12個の試験片における平均値、最大値、及び最小値を記載している。
上記の挿抜作業が繰り返されても良好な導電性を確保できる水準として、通常、抵抗が30mΩ以下であることが要求される。これに対して、図13の導電性確認試験結果に示すように、第5乃至第7実施例に係る端子(2a、2b、2c)は、繰り返し挿抜作業の終了後においても、抵抗がほとんど上昇しておらず、抵抗が30mΩ以下の良好な水準を確保できることを確認できた。尚、第2比較例に係る端子C2についても、抵抗があまり上昇していないことも確認された。
尚、上述した繰り返し挿抜作業の終了後に、第5及び第6実施例に係る端子(2a、2b)と第2比較例に係る端子C2とについて、電気接点部の表面に露出した金属の種類を確認する分析を行った。その結果、第5及び第6実施例に係る端子(2a、2b)については、電気接点部の表面において、表層めっき層が多く残存しており、母材の金属の露出が少ないことが確認された。一方、第2比較例に係る端子C2については、電気接点部の表面において、表層めっき層が少なく、母材の金属の露出が多いことが確認された。よって、第5及び第6実施例に係る端子(2a、2b)においては、表層めっき層及びポーラスめっき層が削られてしまうことが抑制されていることが確認された。
以上説明したように、本実施形態によると、本体部11を構成する母材の金属は、下地めっき層12で被覆される。そして、下地めっき層12が、多孔質体としてのポーラスめっき層13で被覆され、ポーラスめっき層13の表面に、表層めっき層14が形成される。表層めっき層14を形成する金属は、ポーラスめっき層13を形成する金属よりもイオン化傾向が小さい貴な金属として構成される。そして、表層めっき層14は、ポーラスめっき層13の表面に分散するポーラス構造13aを外部に露出させる程度に、薄く形成される。このため、外部に露出する表層のめっき層である表層めっき層14の厚みを薄く設定することができる。これにより、表層めっき層14を構成する金属が、金、銀、金合金、銀合金、等のような高価な金属の場合に、その使用量を容易に低減することができる。
また、本実施形態によると、表層めっき層14は、ポーラスめっき層13の表面に分散するポーラス構造13aを外部に露出させるように設けられている。このため、本実施形態の端子は、表層めっき層14の内側の領域において、ポーラスめっき層13が外部に対して多く分散して露出した状態となる。これにより、下地めっき層12の外側の領域であって表層めっき層14及びポーラスめっき層13が形成された領域の表面構造は、従来技術におけるピンホールが生じたような表層のめっき層の状態とは異なり、卑な金属で構成されたポーラスめっき層の面積が、貴な金属で構成された表層めっき層の面積との関係において、十分に大きい表面構造となる。このため、還元反応(カソード反応)が生じる貴な表層めっき層14の面積に対する、酸化反応(アノード反応)が生じる卑なポーラスめっき層13の面積の比率が、より大きく設定されることになる。これにより、貴な表層めっき層14に接触した卑なポーラスめっき層13の腐食速度が大幅に低減され、電解腐食(ガルバニックコロージョン)が抑制され、本実施形態の端子の表面における耐食性が向上することになる。
尚、ガルバニックコロージョンにおいては、貴な金属に接触した卑な金属の腐食速度Pと、卑な金属の単独での腐食速度P0と、卑な金属の表面積Aと、貴な金属の表面積Bとの間には、一般的に、P=P0×(1+B/A)の関係が成立する。よって、前述のように、本実施形態によると、貴な表層めっき層14に接触した卑なポーラスめっき層13の腐食速度が大幅に低減されることになる。
更に、本実施形態の端子は、表層めっき層14の内側の領域において、ポーラスめっき層13が外部に対して多く分散して露出しているため、アノード反応が生じる箇所が、広く分散することになる。これにより、腐食電流が分散され、腐食の進行メカニズムが、局部的に集中して早く進行する部分腐食のメカニズムではなく、広く薄く分散して緩やかに進行する面腐食のメカニズムとなる。このため、全体として非常に緩やかに腐食が進行することになり、本実施形態の端子の表面における耐食性が向上することになる。
また、本実施形態の端子においては、母材の金属が少なくとも下地めっき層12で被覆されているため、母材の金属が外部に露出して腐食してしまうことも防止される。また、本実施形態によると、外部に露出する表層めっき層14の厚みが薄く設定されても、下地めっき層12及び母材の金属の腐食が抑制されるため、耐食性を向上させるための封孔処理剤が表面に塗布される必要がない。また、そのため、封孔処理剤の散逸による耐食性の低下の問題が生じることもない。
従って、本実施形態の端子によると、外部に露出する表層のめっき層(表層めっき層14)の厚みを薄く設定できるとともに、下地めっき層12及び母材の金属の腐食を長期間に亘って安定した状態で抑制することができる。
また、本実施形態の端子は、前述のように、卑なポーラスめっき層13の腐食速度が大幅に低減され、ガルバニックコロージョンが抑制される。そして、本実施形態の端子は、表層めっき層14の内側の領域において、ポーラスめっき層13が外部に対して多く分散して露出しているため、腐食電流が分散される。これにより、本実施形態の端子においては、局部的に集中して早く進行する部分腐食の進展が抑制され、広く薄く分散して緩やかに進行する面腐食が生じることになる。このため、本実施形態の端子全体の耐食性が向上することになる。また、ガルバニックコロージョンが抑制されるとともに、局部的に早く集中して腐食が生じることも抑制されるため、局部的に腐食生成物が成長し易くなってしてしまうことを抑制することができる。
また、本実施形態の端子によると、下地めっき層12及び母材の金属の腐食を抑制できるため、腐食生成物が生成されてしまうことによる導通不良が引き起こされてしまうことも抑制される。また、本実施形態の端子によると、外部に露出する表層めっき層14の厚みが薄く設定されても、下地めっき層12及び母材の金属の腐食が抑制されるため、導電性に乏しい封孔処理剤が表面に塗布されることもない。
従って、本実施形態の端子によると、外部に露出する表層のめっき層(表層めっき層14)の厚みを薄く設定できるとともに、下地めっき層12及び母材の金属の腐食を長期間に亘って安定した状態で抑制でき、更に、導通不良を引き起こしてしまうことも抑制することができる。
また、本実施形態の端子によると、外部に露出したポーラス構造13aの穴或いは空隙に潤滑物質15が充填されるため、本実施形態の端子の表面における摺動磨耗特性を向上させることができる。そして、本実施形態の端子の表面の摺動磨耗特性が向上するため、本実施形態の端子の表面を他の部材が摺動する場合であっても、表層めっき層14及びポーラスめっき層13が削られてしまうことを抑制することができる。めっき層(13、14)が削れてしまうことが抑制されることで、下地めっき層12及び母材の金属が露出してしまうことが抑制され、下地めっき層12及び母材の金属の腐食が更に抑制されることになる。また、潤滑物質15は、本実施形態の端子の表層に塗布されるのではなく、ポーラス構造13aの穴或いは空隙に充填される。このため、電気接点部1cを有する電子部品として構成された本実施形態の端子において、潤滑物質15が、本実施形態の端子の表面における導電性を阻害してしまうことが抑制されることになる。
また、本実施形態によると、潤滑物質15が、粒子状の形態でポーラス構造13aに埋め込まれる。このため、ポーラス構造13aの穴或いは空隙に対して潤滑物質15を容易に効率よく充填することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、次のように変更して実施してもよい。
(1)上述の実施形態では、端子として構成された電子部品に本発明が適用された場合を例にとって説明したが、端子に限らず、本発明を適用することができる。即ち、金属材料で形成された本体部を有するとともに表面にめっき層が形成された部品であれば、本発明を広く適用することができる。例えば、金属製のコネクタ、金属製のスイッチ、金属製のリレー、等の電子部品に対して本発明が適用されてもよい。また、電気接点部を有する電子部品以外の金属製の部品に対しても本発明が広く適用されてもよい。例えば、コネクタにおける樹脂製のハウジングに取り付けられ、電磁波ノイズ対策としてのシールド機能を発揮する金属製のシールド部品に対して、本発明が適用されてもよい。また、端子として構成される電子部品に本発明が適用される場合であっても、前述の実施形態において例示した端子の形態に限らず、種々変更して実施することができる。例えば、ピン状の端子やソケット状の端子など、種々の形態の端子に対して本発明を適用することができる。
(2)前述の実施形態では、表層めっき層として、Au−Co硬質金めっき層、Agめっき層、Ag−Sn(25%)合金めっき層、Sn−Ag(5%)合金めっき層、Snめっき層を例にとって説明したが、この例に限られなくてもよい。例えば、表層めっき層が、パラジウムめっき層など、上記以外のめっき層として構成されてもよい。
(3)前述の実施形態では、ポーラスめっき層におけるポーラス構造に潤滑物質が充填された形態を例にとって説明したが、この通りでなくてもよい。即ち、ポーラスめっき層におけるポーラス構造に潤滑物質が充填されていない形態が実施されてもよい。