ところで、手動変速機のシフトアップ操作が行われたときには、アクセルが全閉になりかつクラッチが開放されることで、エンジンが一旦無負荷になる。それに伴い、排気流量が低減するから、ターボ過給機の回転数が低下してしまい、過給圧が低下することになる。このことにより、シフトアッププロセスの完了後にアクセルペダルが踏み込まれたときには、低い過給圧の状態から車両の加速を行わなければならなくなる。これは、加速フィールを悪化させる。
ここで、2ステージターボ過給機付ディーゼルエンジンでは、大型ターボ過給機が作動するような運転領域においては小型ターボ過給機のタービンが抵抗となるため、これをバイパスする排気バイパス通路を開くことで小型ターボ過給機の作動を停止することが一般的である。例えば全開加速における3速から4速へのシフトアップ時のようなときには、大型ターボ過給機を作動させる領域においてシフトアッププロセスが開始され、シフトアップ後のエンジン回転数は、当該領域内において、小型ターボ過給機の作動を停止する境界付近の低回転まで低下するようになる。このことは、シフトアップ後にアクセルペダルが踏み込まれたときに、小型ターボ過給機は非作動のままで、大型ターボ過給機のみの作動によって加速を行わなければならないことを意味する。大型ターボ過給機はイナーシャが比較的大きいから、その回転数がなかなか上昇しない上に、手動変速機のシフトアップ直後にはエンジン回転数が低下していて排気流量が低いため、ターボラグが益々大きくなって、加速フィールがさらに悪化する可能性がある。
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、過給機付ディーゼルエンジンにおいて、手動変速機のシフトアップ後における加速フィールの悪化を抑制することにある。
ここに開示する過給機付ディーゼルエンジンの制御装置は、ディーゼルエンジンと、前記ディーゼルエンジンの排気通路に配置された第1タービン、及び、前記ディーゼルエンジンの吸気通路に配置された第1コンプレッサを有する第1ターボ過給機と、前記排気通路に配置されかつ、前記第1タービンよりも大きいイナーシャの第2タービン、及び、前記ディーゼルエンジンの吸気通路に配置された第2コンプレッサを有する第2ターボ過給機と、前記ディーゼルエンジンの運転状態が低回転領域にあるときに、少なくとも前記第1ターボ過給機を作動させると共に、前記ディーゼルエンジンの運転領域が、前記低回転領域よりも高回転数の高回転領域にあるときに、前記第2ターボ過給機を作動させるように構成された制御器と、を備える。
前記ディーゼルエンジンの吸気通路には、前記第1コンプレッサをバイパスすると共に、前記制御器によってその開閉が制御される吸気バイパス通路が接続される。
そして、前記制御器は、前記ディーゼルエンジンの運転状態が前記高回転領域にあるときに、アクセルの全閉を含む手動変速機のシフトアッププロセスが行われたときには、当該シフトアッププロセスの開始後、アクセルペダルが踏み込まれるまでの期間に前記第1ターボ過給機を作動させるシフトアップ制御を実行し、前記制御器は、前記シフトアップ制御時には、前記吸気バイパス通路を閉じる。
ここで、「低回転領域」は、所定回転数よりも低回転の領域と定義してもよく、高回転領域は、当該所定回転数以上の領域と定義してもよい。但し、ここでいう「所定回転数」は、例えばエンジン負荷に応じて変更されるとしてもよい。例えば定常時には、エンジン負荷とエンジン回転数とによって示されるマップにおいて設定された作動領域に応じて、第1ターボ過給機及び第2ターボ過給機それぞれの作動を制御するようにしてもよい。
「シフトアッププロセス」は、アクセルの全閉、又は、クラッチの開放のいずれか早い方が起きたタイミングで開始したと定義してもよい。また、シフトアッププロセスは、シフトレバー操作によって変速段の変更が完了したタイミングで終了したと定義してもよい。
前記の構成によると、このディーゼルエンジンは、第1タービン及び第1コンプレッサを含む第1ターボ過給機と、相対的にイナーシャの大きい第2タービン及び第2コンプレッサを含む第2ターボ過給機とを備えた、いわゆる2ステージターボ過給機付ディーゼルエンジンである。エンジンの回転数が相対的に低い低回転領域では、少なくとも第1ターボ過給機が作動し、エンジンの回転数が相対的に高い高回転領域では第2ターボ過給機が作動することによって、低回転数から高回転数までの広い運転領域において、所望の過給圧を得ることが可能になる。尚、低回転領域では、第1ターボ過給機及び第2ターボ過給機の双方が作動することも含み、第1及び第2ターボ過給機の双方が作動する領域が、低回転領域の一部である場合もある。一方、高回転領域では、抵抗低減の観点から、第1ターボ過給機の作動を停止することが好ましい。
ディーゼルエンジンの運転状態が高回転領域にあるときに、手動変速機のシフトアッププロセスが行われたときには、そのシフトアッププロセスの開始後、アクセルペダルが踏み込まれるまでの期間において、作動を停止していた第1ターボ過給機を、高回転領域であっても作動させる。手動変速機のシフトアッププロセスでは、アクセルの全閉(及びクラッチの開放)が行われるため、エンジン負荷が低下、又は、エンジンが無負荷(以下においては、これらを含めて「無負荷」という)になり、排気流量が低下するため、第2ターボ過給機は実質的に作動が停止するが、そのエンジン無負荷時に第1ターボ過給機を作動させる。第1ターボ過給機の第1タービンは、相対的に小型であってイナーシャが小さいため、排気流量が低いときでも作動が可能である。第1ターボ過給機の作動は、過給圧を保持する、又は、過給圧の低下を抑制する。
その結果、シフトアッププロセスの終了後、アクセルペダルを踏み込んだときには、過給圧が比較的高い状態に維持されているから、再加速時の加速フィールが良好になる。これは特に、変速後においてもエンジンの運転状態が高回転領域に留まり、通常であれば、再加速時に第1ターボ過給機が作動しない場合に有効である。
また、吸気バイパス通路を閉じることによって、吸気が第1コンプレッサを通過するから、第1ターボ過給機が作動しているシフトアップ制御中の、過給圧が保持される、又は、過給圧の低下が抑制される。
前記排気通路には、前記第1タービンをバイパスする排気バイパス通路が接続され、前記排気バイパス通路には、前記制御器によってその開度が調整されるレギュレートバルブが配置され、前記制御器は、前記ディーゼルエンジンの運転状態が前記高回転領域にあるときには、前記レギュレートバルブを開くと共に、前記シフトアップ制御時には、前記レギュレートバルブを閉じる、としてもよい。
ディーゼルエンジンの運転状態が高回転領域にあるときにレギュレートバルブを開くことによって、第1タービンをバイパスして排気が流れるようになり、第1ターボ過給機の作動が停止する。
一方、シフトアップ制御時にはレギュレートバルブを閉じる。このことによって、第1タービン側に排気が流れるようになって、第1ターボ過給機が作動する。このことは、前述の通り、シフトアッププロセス終了後の再加速時における加速フィールを良好にする。
ここで、シフトアッププロセスの最中は、前述の通り、アクセルが全閉(及びクラッチ開放)であってエンジンが無負荷であるため排気流量が低く、第1ターボ過給機を作動させても過回転にならない、又は、なりにくい。尚、「レギュレートバルブを閉じる」ことは、レギュレートバルブを全閉にすること以外にも、漏れを生じる程度の開度に設定することも含む。つまり、「レギュレートバルブを閉じる」ことには、レギュレートバルブを実質的に閉じることによって、第1ターボ過給機を、その過回転を防止しつつ作動させることを含む。
前記制御器は、前記シフトアップ制御時に作動させた前記第1ターボ過給機の停止タイミングを、前記手動変速機における変速段の変更が完了した後に遅延させる、としてもよい。
こうすることで、手動変速機における変速段の変更が完了した後、言い換えるとシフトアッププロセスが終了した後であって、アクセルペダルの踏み込みが開始された後も、第1ターボ過給機の作動が継続されることになる。第1ターボ過給機の第1タービンは、イナーシャが相対的に小さいため、その回転数が早期に高まり、過給圧が速やかに上昇する。この加速応答性が高まることと、前述したように、アクセルペダルの踏み込み時に比較的高い過給圧が維持されていることとが組み合わさって、加速フィールは、より一層良好になる。また、過給圧が速やかに上昇することに伴い、シフトアッププロセスの最中は燃料カットの状態であった燃料噴射量を、早期に増量することが可能になるから、エンジン回転数が速やかに上昇する。このこともまた、加速フィールの向上に寄与する。このような制御は特に、変速後においてもエンジンの運転状態が高回転領域に留まり、通常であれば、第2ターボ過給機のみを作動させて再加速を行わなければならないような場合に有効である。
尚、第1ターボ過給機は、第2ターボ過給機の作動が実質的に開始すれば、その作動を停止すればよい。例えばアクセルペダルの踏み込みが開始されてから所定時間が経過した、及び、アクセルペダルの踏み込み量が所定量以上になった、のいずれか早い方が生じたタイミングで、第1ターボ過給機の作動を停止すればよい。
前記制御器は、前記シフトアップ制御時以外の通常時は、前記エンジンの運転状態に応じた目標過給圧となるように、前記第1及び第2ターボ過給機の作動を制御する過給圧フィードバック制御を実行する、としてもよい。
通常時はエンジンの運転状態、特にエンジンの負荷に応じた目標過給圧となるように、第1及び第2ターボ過給機の作動を制御する過給圧フィードバック制御を実行する。この過給圧フィードバック制御では、アクセル全閉(及びクラッチ開放)を含むシフトアッププロセスにおいては、エンジンが無負荷になるため、目標過給圧がゼロになる。その結果、過給圧が低下することになる。
これに対して、前述したように、高回転領域におけるシフトアッププロセス時には、過給圧フィードバック制御を中断してシフトアップ制御を実行することにより、シフトアッププロセスの最中に、過給圧が保持され、又は、過給圧の低下が抑制されて、再加速時には、比較的高い過給圧を確保することが可能になる。
ここで、シフトアッププロセスの終了後には、過給圧フィードバック制御を復帰することになるが、シフトアップ制御と過給圧フィードバック制御との間に、徐変制御を介在してもよい。また、過給圧フィードバック制御を中断しているシフトアッププロセスの最中には、エンジンが無負荷になることに伴い目標過給圧をゼロにするのではなく、例えばシフトアッププロセスの開始直前の目標過給圧を保持するようにしてもよい。つまり、シフトアッププロセスの最中に目標過給圧をゼロにしたのでは、シフトアッププロセスの開始前、プロセスの最中、及び、プロセスの終了後において、目標過給圧の変化が大きくなりすぎてしまい、シフトアッププロセスの終了後、過給圧フィードバック制御が復帰したときに、そのフィードバック制御が不安定になる虞がある。そこで、シフトアッププロセスの最中には、プロセスの開始直前の目標過給圧を保持することにより、目標過給圧の変化がほとんど無くなり、復帰後の過給圧フィードバック制御が安定化する。
以上説明したように、前記の過給機付ディーゼルエンジンの制御装置によると、ディーゼルエンジンの運転状態が高回転領域にあるときに、手動変速機のシフトアッププロセスが行われたときには、そのシフトアッププロセスの開始後、アクセルペダルが踏み込まれるまでの期間において、作動を停止していた第1ターボ過給機を作動させることにより、過給圧が保持される、又は、過給圧の低下が抑制される。このことにより、シフトアッププロセスの終了後の再加速時に比較的高い過給圧が維持されているから、加速フィールが良好になる。
以下、実施形態に係るディーゼルエンジンを図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。図1,2は、実施形態に係るエンジン(エンジン本体)1の概略構成を示す。このエンジン1は、車両に搭載されると共に、軽油を主成分とした燃料が供給されるディーゼルエンジンである。このエンジン1が搭載される車両は、手動変速機73を備えたMT車であって、エンジン1の駆動に伴う出力トルクは、クランクシャフト15に対しクラッチ機構72を介して連結された手動変速機73を通じて駆動輪74に伝達されることになる。
エンジン1は、複数の気筒11a(1つのみ図示)が設けられたシリンダブロック11と、このシリンダブロック11上に配設されたシリンダヘッド12と、シリンダブロック11の下側に配設され、潤滑油が貯溜されたオイルパン13とを有している。このエンジン1の各気筒11a内には、ピストン14が往復動可能にそれぞれ嵌挿されていて、このピストン14の頂面にはリエントラント形燃焼室14aを区画するキャビティが形成されている。このピストン14は、コンロッド14bを介してクランクシャフト15と連結されている。
前記シリンダヘッド12には、各気筒11a毎に吸気ポート16及び排気ポート17が形成されているとともに、これら吸気ポート16及び排気ポート17の燃焼室14a側の開口を開閉する吸気弁21及び排気弁22がそれぞれ配設されている。
これら吸排気弁21,22をそれぞれ駆動する動弁系において、排気弁側には、当該排気弁22の作動モードを通常モードと特殊モードとに切り替える油圧作動式の可変機構(図2参照。以下、VVM(Variable Valve Motion)と称する)が設けられている。このVVM71は、その構成の詳細な図示は省略するが、カム山を1つ有する第1カムとカム山を2つ有する第2カムとの、カムプロファイルの異なる2種類のカム、及び、その第1及び第2カムのいずれか一方のカムの作動状態を選択的に排気弁に伝達するロストモーション機構を含んで構成されており、第1カムの作動状態を排気弁22に伝達しているときには、排気弁22は、排気行程中において一度だけ開弁される通常モードで作動するのに対し、第2カムの作動状態を排気弁22に伝達しているときには、排気弁22が、排気行程中において開弁すると共に、吸気行程中においても開弁するような、いわゆる排気の二度開きを行う特殊モードで作動する。
VVM71の通常モードと特殊モードとの切り替えは、エンジン駆動の油圧ポンプ(図示省略)から供給される油圧によって行われ、特殊モードは、内部EGRに係る制御の際に利用される。尚、こうした通常モードと特殊モードとの切り替えを可能にする上で、排気弁22を電磁アクチュエータによって駆動する電磁駆動式の動弁系を採用してもよい。また、内部EGRの実行としては、排気の二度開きに限定されるものではなく、例えば吸気弁21を2回開く、吸気の二度開きによって内部EGR制御を行ってもよいし、排気行程乃至吸気行程において吸気弁21及び排気弁22の双方を閉じるネガティブオーバーラップ期間を設けて既燃ガスを残留させる内部EGR制御を行ってもよい。尚、VVM71による内部EGR制御は、主に燃料の着火性が低いエンジン1の冷間時に行われる。
前記シリンダヘッド12には、燃料を噴射するインジェクタ18と、エンジン1の冷間時に各気筒11a内の吸入空気を暖めて燃料の着火性を高めるためのグロープラグ19とが設けられている。前記インジェクタ18は、その燃料噴射口が燃焼室14aの天井面から該燃焼室14aに臨むように配設されていて、基本的には圧縮行程上死点付近で、燃焼室14aに燃料を直接噴射して供給するようになっている。
前記エンジン1の一側面には、各気筒11aの吸気ポート16に連通するように吸気通路30が接続されている。一方、前記エンジン1の他側面には、各気筒11aの燃焼室14aからの既燃ガス(つまり、排気ガス)を排出する排気通路40が接続されている。これら吸気通路30及び排気通路40には、詳しくは後述するが、吸入空気の過給を行う大型ターボ過給機61と小型ターボ過給機62とが配設されている。
吸気通路30の上流端部には、吸入空気を濾過するエアクリーナ31が配設されている。一方、吸気通路30における下流端近傍には、サージタンク33が配設されている。このサージタンク33よりも下流側の吸気通路30は、各気筒11a毎に分岐する独立通路とされ、これら各独立通路の下流端が各気筒11aの吸気ポート16にそれぞれ接続されている。
吸気通路30におけるエアクリーナ31とサージタンク33との間には、大型及び小型ターボ過給機61、62のコンプレッサ61a,62aと、該コンプレッサ61a,62aにより圧縮された空気を冷却するインタークーラ35と、前記各気筒11aの燃焼室14aへの吸入空気量を調節するスロットル弁36とが配設されている。このスロットル弁36は、基本的には全開状態とされるが、エンジン1の停止時には、ショックが生じないように全閉状態とされる。
前記排気通路40の上流側の部分は、各気筒11a毎に分岐して排気ポート17の外側端に接続された独立通路と該各独立通路が集合する集合部とを有する排気マニホールドによって構成されている。
この排気通路40における排気マニホールドよりも下流側には、上流側から順に、小型ターボ過給機62のタービン62b、大型ターボ過給機61のタービン61bと、排気ガス中の有害成分を浄化する排気浄化装置41と、サイレンサ42とが配設されている。
この排気浄化装置41は、酸化触媒41aと、ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、フィルタという)41bとを有しており、上流側から、この順に並んでいる。酸化触媒41a及びフィルタ41bは1つのケース内に収容されている。前記酸化触媒41aは、白金又は白金にパラジウムを加えたもの等を担持した酸化触媒を有していて、排気ガス中のCO及びHCが酸化されてCO2及びH2Oが生成する反応を促すものである。また、前記フィルタ41bは、エンジン1の排気ガス中に含まれる煤等の微粒子を捕集するものである。尚、フィルタ41bに酸化触媒をコーティングしてもよい。
前記吸気通路30における前記サージタンク33とスロットル弁36との間の部分(つまり小型ターボ過給機62の小型コンプレッサ62aよりも下流側部分)と、前記排気通路40における前記排気マニホールドと小型ターボ過給機62の小型タービン62bとの間の部分(つまり小型ターボ過給機62の小型タービン62bよりも上流側部分)とは、排気ガスの一部を吸気通路30に還流するための排気ガス還流通路50によって接続されている。この排気ガス還流通路50は、排気ガスの吸気通路30への還流量を調整するための排気ガス還流弁51a及び排気ガスをエンジン冷却水によって冷却するためのEGRクーラ52とが配設された主通路51と、EGRクーラ52をバイパスするためのクーラバイパス通路53と、を含んで構成されている。このクーラバイパス通路53には、クーラバイパス通路53を流通する排気ガスの流量を調整するためのクーラバイパス弁53aが配設されている。
大型ターボ過給機61は、吸気通路30に配設された大型コンプレッサ61aと、排気通路40に配設された大型タービン61bとを有している。大型コンプレッサ61aは、吸気通路30におけるエアクリーナ31とインタークーラ35との間に配設されている。一方、大型タービン61bは、排気通路40における排気マニホールドと酸化触媒41aとの間に配設されている。
小型ターボ過給機62は、吸気通路30に配設された小型コンプレッサ62aと、排気通路40に配設された小型タービン62bとを有している。小型コンプレッサ62aは、吸気通路30における大型コンプレッサ61aの下流側に配設されている。一方、小型タービン62bは、排気通路40における大型タービン61bの上流側に配設されている。
すなわち、吸気通路30においては、上流側から順に大型コンプレッサ61aと小型コンプレッサ62aとが直列に配設され、排気通路40においては、上流側から順に小型タービン62bと大型タービン61bとが直列に配設されている。これら大型及び小型タービン61b,62bが排気ガス流により回転し、これら大型及び小型タービン61b,62bの回転により、該大型及び小型タービン61b,62bとそれぞれ連結された前記大型及び小型コンプレッサ61a,62aがそれぞれ作動する。
小型ターボ過給機62は、相対的に小型のものであり、大型ターボ過給機61は、相対的に大型のものである。すなわち、大型ターボ過給機61の大型タービン61bの方が小型ターボ過給機62の小型タービン62bよりもイナーシャが大きい。
吸気通路30には、小型コンプレッサ62aをバイパスする小型吸気バイパス通路63が接続されている。この小型吸気バイパス通路63には、該小型吸気バイパス通路63へ流れる空気量を調整するための小型吸気バイパス弁63aが配設されている。この小型吸気バイパス弁63aは、無通電時には全閉状態(つまり、ノーマルクローズ)となるように構成されている。
一方、排気通路40には、小型タービン62bをバイパスする小型排気バイパス通路64と、大型タービン61bをバイパスする大型排気バイパス通路65とが接続されている。小型排気バイパス通路64には、該小型排気バイパス通路64へ流れる排気量を調整するためのレギュレートバルブ64aが配設され、大型排気バイパス通路65には、該大型排気バイパス通路65へ流れる排気量を調整するためのウエストゲートバルブ65aが配設されている。レギュレートバルブ64a及びウエストゲートバルブ65aは共に、無通電時には全開状態(つまり、ノーマルオープン)となるように構成されている。
これら大型ターボ過給機61と小型ターボ過給機62は、それらが配設された吸気通路30及び排気通路40の部分も含めて、一体的にユニット化されて、過給機ユニット60を構成している。この過給機ユニット60がエンジン1に取り付けられている。
このように構成されたディーゼルエンジン1は、パワートレイン・コントロール・モジュール(以下、PCMという)10によって制御される。PCM10は、CPU、メモリ、カウンタタイマ群、インターフェース及びこれらのユニットを接続するパスを有するマイクロプロセッサで構成されている。このPCM10が制御器を構成する。PCM10には、図2に示すように、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサSW1、サージタンク33に取り付けられて、燃焼室14aに供給される空気の圧力を検出する過給圧センサSW2、吸入空気の温度を検出する吸気温度センサSW3、クランクシャフト15の回転角を検出するクランク角センサSW4、車両のアクセルペダル(図示省略)の操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサSW5、排気中の酸素濃度を検出するO2センサSW6、及び、車速を検出する車速センサSW7の検出信号が入力され、これらの検出信号に基づいて種々の演算を行うことによってエンジン1や車両の状態を判定し、これに応じてインジェクタ18、グロープラグ19,動弁系のVVM71、各種の弁36、51a、53aのアクチュエータへ制御信号を出力する。
また、PCM10は、エンジンの運転状態において大型及び小型ターボ過給機61、62の動作を制御している。具体的には、PCM10は、小型吸気バイパス弁63a、レギュレートバルブ64a及びウエストゲートバルブ65aの各開度をエンジン1の運転状態に応じて設定した開度にそれぞれ制御する。詳しくは、図3に作動マップの一例を示すように、PCM10は、エンジン1の温間時には、低回転側の第1領域(A)では、小型吸気バイパス弁63a及びレギュレートバルブ64aを全開以外の開度とし、ウエストゲートバルブ65aを全閉状態とすることによって、小型ターボ過給機62のみ、又は、大型及び小型ターボ過給機61、62の両方を作動させる。一方、高回転側の第2領域(B)では、小型ターボ過給機62が過回転になると共に、排気抵抗になるため、小型吸気バイパス弁63a及びレギュレートバルブ64aを全開状態とし、ウエストゲートバルブ65aを全閉状態に近い開度にすることによって、小型ターボ過給機62をバイパスさせて大型ターボ過給機61のみを作動させる。尚、ウエストゲートバルブ65aは、大型ターボ過給機61の過回転を防止するために少し開き気味に設定している。
そうして、このエンジン1は、その幾何学的圧縮比を12以上15以下(例えば14)とした、比較的低圧縮比となるように構成されており、これによって排気エミッション性能の向上及び熱効率の向上を図るようにしている。
(エンジンの制御の概要)
前記PCM10によるエンジン1の基本的な制御は、主にアクセル開度に基づいて目標トルク(言い換えると目標となる負荷)を決定し、これに対応する燃料の噴射量や噴射時期等をインジェクタ18の作動制御によって実現するものである。目標トルクは、アクセル開度が大きくなるほど、またエンジン回転数が高くなるほど、大きくなるように設定され、目標トルクとエンジン回転数とに基づいて燃料の噴射量が設定される。噴射量は、目標トルクが高くなるほど、また、エンジン回転数が高くなるほど大きくなるように設定される。また、スロットル弁36、排気ガス還流弁51a及びクーラバイパス弁53aの開度の制御(つまり、外部EGR制御)や、VVM71の制御(つまり、内部EGR制御)によって、気筒11a内への排気の還流割合を制御する。
さらに、PCM10は、定常時には、エンジン1の運転状態に応じて目標過給圧を設定し、その目標過給圧が達成されるように、レギュレートバルブ61a及びウエストゲートバルブ65aの開度調整を行うと共に、小型吸気バイパス弁63aの開閉を制御する過給圧フィードバック制御を行う。
(シフトアッププロセス時の過給機の制御)
前述したように、定常時には、エンジン1の運転状態に応じて、小型ターボ過給機62及び大型ターボ過給機61のそれぞれが、フィードバック制御される(図3参照)。ここで、大型ターボ過給機61が作動しかつ、小型ターボ過給機62の作動が停止する第2領域(B)において手動変速機73のシフトアップ操作が行われるときには、アクセルの全閉及びクラッチ機構72の開放によって、エンジン1が無負荷状態となり、一時的に燃料カット状態となる。これにより、過給圧フィードバック制御の目標過給圧はゼロに設定されるため、これに対応するように、PCM10は、レギュレートバルブ64a、ウエストゲートバルブ65a、及び小型吸気バイパス弁63aをそれぞれ全開にする。また、エンジン1が無負荷状態となることで排気流量も低下する。その結果、シフトアッププロセスの最中は、過給圧が低下するようになる。このため、そのシフトアッププロセスが完了した後に、アクセルペダルが踏み込まれて再加速をしようとしても、過給圧が低い状態から加速を開始しなければならないため、加速フィールの悪化を招くことになる。
また、シフトアッププロセスが完了した直後も、エンジン1の運転状態が、大型ターボ過給機61のみが作動をする第2領域(B)に留まっているようなとき、例えば3速から4速へのシフトアップ時では、図3に(1)で示す運転状態から、シフトアップを経てエンジン1の負荷及び回転数が低下することで、第1領域(A)と第2領域(B)との境界近傍の(2)で示す運転状態へと移行し、その後、アクセルペダルの踏み込みによって、エンジン1の負荷及び回転数が高まる場合がある(図3の矢印参照)。この場合は、再加速時に、比較的イナーシャの大きい大型ターボ過給機61のみが作動をすることになる一方で、エンジン1の負荷及び回転数が、第2領域(B)において相対的に低い状態であって排気流量が低いため、大型ターボ過給機61の回転数が、なかなか上昇せずに、過給圧の上昇が大きく遅れてしまうようになる。その結果、加速フィールは、さらに悪化することにもなる。
そこで、このエンジンシステムにおいて、PCM10は、シフトアッププロセス後の、再加速時の加速フィールを向上させるべく、シフトアッププロセスの最中には、過給圧フィードバック制御を中断して、その作動が停止されている小型ターボ過給機62を作動させるシフトアップ制御を実行する。
図4は、PCM10が実行する、シフトアッププロセス時の過給圧の制御に係るメインフローを示している。スタート後のステップS41では、以降の制御に必要な各種信号を読み込み、ステップS42では、その読み込んだ信号に基づいて、シフトアップ判定のための処理演算を行う。ステップS43では、シフトアップ判定の許可範囲であるか否かを判定する。すなわち、ステップS43にて、エンジン回転数が所定の上下限回転数以内でかつ、車速が所定速度以上でかつ、ギヤ位置が所定ギヤ段以下でかつ、ブレーキ信号がオフであるときにはシフトアップ判定の許可範囲であると判定し、いずれか一つでも条件が成立しなかったときには、許可範囲でないと判定する。許可範囲でないとき(NOのとき)にはステップS46に移行し、エラーと判定して、シフトアップ判定を終了する。これに対し、ステップS43で、シフトアップ判定の許可範囲であるとき(YESのとき)には、シフトアップ判定許可フラグを立てた上で、ステップS44に移行する。ステップS44では、図5に示すシフトアップ判定ステップ処理のフローを実行する。このシフトアップ判定ステップ処理は、シフトアッププロセスに含まれる、アクセルの全閉、クラッチ機構72の開放、シフト操作、クラッチ機構72の締結及びアクセルペダルの踏み込みそれぞれの実行を、順次、判断することにより、シフトアッププロセスが実行されているか否かを判断するロジックであり、この処理によって、シフトアッププロセスが開始したときに、前述のシフトアップ制御を早期に開始することを可能にする。また、シフトアッププロセスでないと判断したときには、そのシフトアップ制御を直ちに中止することも可能になる。ここで、図5のフローと、図6のタイミングチャートを参照しながら、シフトアップ判定ステップ処理について説明する。図6のタイミングチャートは、同図(f)に示すように、3速から4速へのシフトアッププロセス時における、各パラメータのタイミングチャートの一例であり、図3において(1)の運転状態から(2)の運転状態へと移行する場合に相当する。尚、同図(f)のギヤ位置信号は、エンジン1の回転数と車速とに基づいて推定されるギヤ位置であり、シフトアップ判定ステップ処理には利用しない。
先ずステップS51では、シフトアップ判定ステップ1であるか否かを判定する。シフトアップ判定ステップ1は、アクセル開度の変化を検知したこと(図6(b)参照)、又は、クラッチ機構72の開放を検知したこと(図6(e)参照)、である。つまり、乗員がアクセルペダルを戻してアクセル開度の偏差量が所定量を超えかつアクセル開度が所定開度以下になったとき、又は、クラッチペダルを踏み込んでクラッチ機構72が開放されたときには、シフトアッププロセスのステップ1を判定したとして(図6(h)参照)、ステップS52に移行する。これに対し、それらの信号が、所定時間以上、検知されないときには、タイムアウトとして、後述するステップS516、つまり、通常の過給圧フィードバック制御に移行する。
ステップS52では、シフト判定エラーか否かを判断する。この判定は、シフトアッププロセスとは異なる動作が行われているか否かを判定するものである。例えばクラッチ機構72が、所定時間以上、継続して開放されたままであるときには、シフトアッププロセスではない(例えば車両の減速状態である)とエラー判定をして、ステップS516に移行する。一方、エラー判定でないとき(NOのとき)にはステップS53に移行する。
ステップS53では、レギュレートバルブ64a、ウエストゲートバルブ65a、及び小型吸気バイパス弁63aを、それぞれ所定開度に設定する。
具体的には、図6(j)に実線で示すように、第2領域(B)内であるため、小型ターボ過給機64の作動を停止すべく全開に設定されていたレギュレートバルブ64aを閉じるようにする。図例では、レギュレートバルブ64aは全閉には設定せずに、漏れが生じる程度の開度に設定している。これは、小型ターボ過給機64の過回転を防止するためである。尚、小型ターボ過給機64が過回転しないのであれば、レギュレートバルブ64aを全閉にしてもよい。同様に、図6(l)に実線で示すように、第2領域(B)内であるため、小型ターボ過給機64の作動を停止すべく全開に設定されていた小型吸気バイパス弁63aを全閉にする。
また、図6(k)に実線で示すように、ウエストゲートバルブ65aは、全開にせずに全閉をそのまま維持するようにする。
さらに、前述の通り、シフトアッププロセスが開始された後は、過給圧フィードバック制御を中断するものの、図6(i)に実線で示すように、目標過給圧はゼロに設定せずに、シフトアッププロセスの開始直前の目標過給圧を、そのまま維持する。図6(i)に点線で示すように、目標過給圧はゼロに設定してしまうと、シフトアッププロセスの開始時と、シフトアッププロセスの終了時とにおいて、目標過給圧が大きく変化してしまうため、シフトアッププロセスが終了して、過給圧フィードバック制御に復帰した後に、フィードバック制御に悪影響を及ぼす虞がある。これに対し、シフトアッププロセスの開始直前の目標過給圧を、そのまま維持することとによって、目標過給圧の大変化が無くなるから、シフトアッププロセス終了後の過給圧フィードバック制御は安定化する。
続くステップS54では、シフトアップ判定ステップ2であるか否かを判定する。シフトアップ判定ステップ2は、前述したシフトアップ判定ステップ1においてアクセル開度の変化を検知したときには、クラッチ機構72の開放を検知することであり、シフトアップ判定ステップ1においてクラッチ機構72の開放を検知したときには、アクセル開度の変化を検知することである。すなわち、シフトアップ判定ステップ1と、シフトアップ判定ステップ2との2つのステップにおいて、アクセルの全閉及びクラッチ機構72の開放の2つの操作を、その順番を問わずに検知する。ステップS54においてYESのときには、シフトアッププロセスのステップ2を判定したとして(図6(h)参照)、ステップS55に移行する。一方、アクセルの全閉又はクラッチ機構72の開放の後、次の動作が行われずにタイムアウトになったようなときには、シフトアッププロセスではないとして、ステップS54からステップS516に移行する。ここで、シフトアップ判定ステップ1やステップ2に関係するタイムアウトは、比較的短く設定されている。これは、アクセルの全閉やクラッチ機構72の開放は、シフトアップ操作に限らずに、車両の減速時にも行われる操作であるため、シフトアップ操作でない場合は、過給圧のシフトアップ制御ではなく、通常のフィードバック制御に早期に戻るために、タイムアウトを比較的短い時間に設定している。
ステップS55では、シフト判定エラーか否かを判断する。エラーでないとき(NOのとき)にはステップS56に移行をして、レギュレートバルブ64a、ウエストゲートバルブ65a及び小型吸気バイパス弁63aの開度をそれぞれ所定開度に設定する。例えば、ステップS53で設定した開度で保持する(図6の(k)(k)(l)の実線参照)。一方、ステップS55において、エラー判定のときにはステップS516に移行する。このステップでのエラー判定の例としては、燃料噴射量が所定量以上になった場合等を挙げることができる。
ここで、図6(j)(k)(l)に破線で示すように、レギュレートバルブ64a、ウエストゲートバルブ65a及び小型吸気バイパス弁63aはそれぞれ、設定された所定開度となるように、実際の開度が変更される。つまり、レギュレートバルブ64aは開から閉に変更され、ウエストゲートバルブ65aは閉のままに維持され、小型吸気バイパス弁63aは開から閉に変更される。この内、レギュレートバルブ64aを作動させるアクチュエータは、供給された負圧によってレギュレートバルブ64aの開度を調整するよう構成されており、しかもその容量が比較的大に設定されている。このため、図例に示すように、レギュレートバルブ64aの開度変更の応答は、遅れる場合がある。
図5のフローチャートに戻り、ステップS57では、シフトアップ判定ステップ3であるか否かを判定する。シフトアップ判定ステップ3は、手動変速機73の変速段がニュートラルになったことである(図6の(g)参照)。つまり、手動変速機73のシフトアップ操作においては、シフトアップ前の変速段(図例では3速)から、シフトアップ後の変速段(図例では4速)へと移行する際に、一旦は、必ずニュートラルになるためである。ニュートラル信号を検知したときには、シフトアッププロセスのステップ3を判定したとして(図6(h)参照)、ステップS58に移行する。これに対し、ニュートラル信号を検知しないでタイムアウトになったときには、ステップS516に移行する。
ステップS58では、シフト判定エラーか否かを判断する。例えば手動変速機73が、ニュートラルのままで所定時間が経過したとき等には、このまま過給圧のシフトアップ制御を継続するよりも、通常のフィードバック制御に復帰した方が好ましいとしてエラー判定をし、ステップS516に移行する。これに対し、ステップS58でNOと判定したときには、ステップS59に移行して、レギュレートバルブ64a、ウエストゲートバルブ65a及び小型吸気バイパス弁63aをそれぞれ、所定開度に設定する。例えばステップS53で設定した開度を維持する。
ステップS510では、シフトアップ判定ステップ4であるか否かを判定する。シフトアップ判定ステップ4は、手動変速機73がニュートラル以外になったことを検知したことである(図6の(g)参照)。つまり、ニュートラルを介して手動変速機73のシフトアップ操作が完了したときには、ステップS511に移行する。これに対し、ニュートラルのオフ信号を所定時間以上、検知せずにタイムアウトになったときには、ステップS510からステップS516に移行する。
ステップS511では、シフト判定エラーか否かを判断する。例えば手動変速機73のシフトアップ操作は完了したものの、クラッチ機構72の開放が所定時間以上、継続しているとき等には、エラー判定をして、ステップS511からステップS516に移行をする。ここで、シフトアップ判定ステップ4や後述の判定ステップ5に関係する所定時間(タイムアウト時間)は、前述したシフトアップ判定ステップ4やステップ5に関係するタイムアウト時間に比べて長く設定される。これは、シフトアップ判定ステップ4のように、手動変速機73が一旦ニュートラルになって、別の変速段に移行した場合は、その操作はシフトアッププロセスであることに、ほぼ間違いないため、過給圧のシフトアップ制御を止めて通常のフィードバック制御に早期に戻るような要求が低いためである。ステップS511の判定がNOのときには、ステップS512に移行をして、レギュレートバルブ64a、ウエストゲートバルブ65a及び小型吸気バイパス弁63aをそれぞれ、所定開度に、例えばステップS53で設定した開度に設定する。
ステップS513では、シフトアップ判定ステップ5であるか否かを判定する。シフトアップ判定ステップ5は、シフトアップ操作が完了して、乗員がアクセルペダルを踏み込み操作したことを判定する。YESの判定のときには、ステップS514に移行する。これに対し、例えばアクセルペダルを踏み込み操作をせずにタイムアウトしたときには、ステップS513からステップS516に移行する。ステップS514では、シフト判定エラーか否かを判断し、YES判定のときはステップS516に移行をし、NO判定のときはステップS515に移行をする。
ステップS515では、シフトアッププロセスが完了しているため、シフトアップ制御から、過給圧フィードバック制御にスムースにつなげるための徐変制御を行う。この徐変制御は言い換えると、シフトアッププロセスが完了し、アクセルペダルの踏み込みが行われた後も、過給圧のシフトアップ制御を継続させることである。徐変制御においては、アクセルペダルの踏み込みに伴い(図6(a)参照)、図6(d)に示すように燃料噴射が開始されて排気流量が高まるため、小型ターボ過給機62の過回転の防止、及び、エンジン1の背圧上昇の回避を主目的として、レギュレートバルブ64aを次第に開けるようにする。一方、ウエストゲートバルブ65a及び小型吸気バイパス弁63aの開度は、所定開度に、例えばステップS53で設定した開度に維持する。
そして、シフトアップ判定ステップ5が、予め設定した所定時間だけ継続するか、又は、燃料噴射量が予め設定して噴射量を超えるかしたときには、ステップS516に移行して、通常の過給圧フィードバック制御に復帰をする。つまり、エンジン1の運転状態は第2領域(B)にあって、大型ターボ過給機61のみを作動させることになるから、レギュレートバルブ64aを全開にし(図6(j)の実線及び破線参照)、小型吸気バイパス弁63aを全開にする(図6(l)の実線及び破線参照)。尚、ウエストゲートバルブ65aは、全閉のままである(図6(k)の実線及び破線参照)。そうして、図4のフローのステップ45に戻って、シフトアップ判定を終了する。
こうして図6(a)(b)(e)に示すように、アクセルの全閉及びクラッチ機構72の開放により、エンジン1は無負荷状態となり、同図(c)に示すようにエンジン1の回転数は次第に低下すると共に、同図(d)に示すように燃料噴射量は実質的にゼロに設定される。これにより、過給圧フィードバック制御においては、目標過給圧もゼロに設定される(同図(i)の一点鎖線参照)。それに伴い、レギュレートバルブ64aの目標開度が全開に設定され(同図(j)の一点鎖線参照)、ウエストゲートバルブ65aの目標開度が全開に設定され(同図(k)の一点鎖線参照)、小型吸気バイパス弁63aの目標開度が全開に設定される(同図(l)の一点鎖線参照)。そうして、目標過給圧がゼロに設定される上に、エンジン1が無負荷になることに伴い排気流量が低下するため、同図(i)に点線で示すように、シフトアッププロセスの最中に、実際の過給圧が大きく低下してしまう。このことは、シフトアッププロセスの終了後、アクセルペダルを踏み込んで再加速をしようとしたときに、過給圧が低い状態から加速を開始しなければならなくなる。しかも、小型ターボ過給機62及び大型ターボ過給機61は共に、その作動が実質的に停止していると共に、再加速時にエンジン1の運転状態が第2領域(B)にあるようなときには、大型ターボ過給機61しか作動しない。そのため、同図(i)に点線で示すように、再加速時に過給圧の上昇が遅れてしまい、同図(m)に一点鎖線で示すように、加速Gの立ち上がりも遅れる結果、加速フィールが悪化してしまうことになる。
これに対し、前述したシフトアップ制御では、シフトアッププロセスが開始すれば、レギュレートバルブ64aを閉じかつ、小型吸気バイパス弁63aを閉じることにより、小型ターボ過給機62を作動させる。小型ターボ過給機62の小型タービン62bはイナーシャが小さいため、排気流量が低下するエンジン1の無負荷時にも回転し、それによって小型コンプレッサ62aが駆動をするから、同図(i)に破線で示すように、過給圧の低下が抑制される。その結果、シフトアッププロセスの終了後に再加速をしようとしたときには、比較的高い過給圧から加速を開始することが可能になる。
また、その小型ターボ過給機62の作動を、アクセルペダルの踏み込み後も継続させることにより、過給圧が早期に上昇し、加速Gの立ち上がりに有利になる。特に、再加速の開始時に過給圧が低くて吸気量が少ないときには、燃料噴射量を増やすことができない(同図(d)の一点鎖線参照)のに対し、過給圧が高いときには、同図(d)に実線で示すように、燃料噴射量を増やすことが可能になる。このことがまた、過給圧の上昇に有利になり、エンジン1の回転数及び加速Gが早期に高まる。その結果、加速フィールが、極めて良好になる。
また、シフトアッププロセスの最中に、ウエストゲートバルブ65aを全閉にすることによって、大型タービン65bの回転数が低下することが抑制される。その結果、シフトアッププロセスの終了後、徐変制御を経て、通常の吸気圧フィードバック制御に復帰したときには、大型ターボ過給機65が速やかに作動するから、所望の過給圧を確実に得られるようになる。このこともまた、加速フィールの向上に有利になる。
さらに、シフトアッププロセスの判定を、そのシフトアッププロセスに含まれる複数の操作に対応させた、複数のステップによって行うことによって、シフトアップの検知のためだけのセンサ等を用いずとも、既存のセンサを利用して、シフトアッププロセスを早期に検知することができ、過給圧のシフトアップ制御を速やかに開始することができる。これは、前述したシフトアッププロセス後の再加速時の加速フィールを向上させる上で有利である。一方で、複数ステップによるシフトアッププロセスの判定は、シフトアッププロセスでないことも早期に検知でき、シフトアップ制御を開始していても、そのシフトアップ制御を速やかに終了して、通常の過給圧フィードバック制御に早期に復帰することが可能になる。