ところで、燃料カットを伴う車両の減速時には、その減速の最中に燃焼が行われないことに起因して、気筒内の温度が次第に低下してしまうから、減速終了後に燃料供給が復帰する際、例えば減速終了後の再加速時に、燃料の着火性が悪化してしまうという問題がある。
この着火性の悪化は特に、エンジンの運転状態が高回転側の運転領域にあるときの減速時に顕著であり、それは、エンジン回転数が比較的高いが故にクランク角変化に対する実時間が短くなるためである。つまり、前記特許文献1に記載されているようにパイロット噴射によって予め燃料を噴射しても、短い反応時間に起因して前段燃焼が不安定となり、その前段燃焼による気筒内の温度及び圧力の上昇が得られ難くなる。その結果、高回転側の運転領域における減速終了後には特に、主噴射により噴射した燃料の着火性が悪化してしまうのである。また、エンジンの運転状態が高回転側でかつ低負荷の運転領域にあるときには燃料噴射量が少なくなるため、パイロット噴射による前段燃焼がさらに不安定になり、前段燃焼による気筒内の温度及び圧力の上昇がますます得られ難くなる。
このような高回転側の運転領域は、小型ターボ過給機と大型ターボ過給機とを備えかつ、概ねエンジン回転数に応じて小型ターボ過給機の作動及び非作動を切り替えるように構成された2ステージターボ過給機付ディーゼルエンジンにおいては、小型ターボ過給機を非作動とし、大型ターボ過給機のみを作動させる領域に相当する。このため、減速中及び減速終了後の再加速時には、大型ターボ過給機のみが作動することになるから、減速中には過給圧がほとんど得られず、気筒内の圧力が次第に低下すると共に、減速終了後の再加速時には、過給圧の立ち上がりが緩慢になり、気筒内の圧力上昇が遅れる結果、燃料の着火性がさらに悪化することになる。
また、例えば外気が極低温である、高地であるといった特定の環境条件下や、エンジンの水温が低い、油温が低いといった特定の運転条件下、又は、それらの特定の環境条件と特定の運転条件とが重なった条件下では、気筒内の圧縮端温度及び圧縮端圧力が低くなるため、燃料の着火性に不利になる。こうした特定の条件下では、高回転側の運転領域(言い換えると大型ターボ過給機の作動領域)における減速終了後に、燃料の着火性を確保することが、さらに困難になる。
加えて、排気エミッション性能の向上や燃費の向上を図るために、幾何学的圧縮比を、例えば16未満といった比較的低い圧縮比にした圧縮自己着火エンジンにおいては、幾何学的圧縮比が低い分だけ、圧縮端温度及び圧縮端圧力が低くなってしまうため、このこともまた、燃料の着火性の確保を困難にする。
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、排気通路において直列に配置された2つのタービンを有する第1及び第2ターボ過給機ターボ過給機付の圧縮自己着火エンジンにおいて、第2ターボ過給機の作動領域内において、燃料カットを行うように設定された減速終了後の着火性を確実に確保することにある。
ここに開示するターボ過給機付圧縮自己着火エンジンの制御装置は、気筒内に供給した燃料を自己着火させるよう構成された圧縮自己着火エンジンと、前記気筒内に燃料を噴射するよう構成された燃料噴射弁と、前記圧縮自己着火エンジンの排気通路に配置された第1タービンを有しかつ、前記気筒に供給する吸気の過給を行うよう構成された第1ターボ過給機と、前記排気通路における前記第1タービンよりも下流側に配置された第2タービンを有しかつ、前記気筒に供給する吸気の過給を行うよう構成された第2ターボ過給機と、前記第1タービンをバイパスするバイパス路に配置されかつ、その開度を調整することによって前記第1ターボ過給機の作動を制御するよう構成された流量調整弁と、少なくとも前記燃料噴射弁及び前記流量調整弁の制御を通じて前記圧縮自己着火エンジンを運転するよう構成された制御器と、を備える。
そして、前記制御器は、前記圧縮自己着火エンジンの運転状態が予め設定された低回転側の第1領域にあるときには、前記流量調整弁の開度調整を行うことによって、少なくとも前記第1ターボ過給機を作動させると共に、前記第1領域よりも回転数の高い高回転側の第2領域にあるときには、前記流量調整弁を全開にすることによって、前記第2ターボ過給機のみを作動させ、前記制御器はまた、前記圧縮自己着火エンジンの運転領域が前記第2領域にあるときでかつ、燃料カットを行うように設定された車両の減速時には、前記流量調整弁の開度を閉側に設定することによって、前記第1ターボ過給機を作動させる。
ここで、第1タービンが排気通路における上流側、第2タービンが排気通路における下流側に配置されるため、第1タービンを有する第1ターボ過給機は、低排気流量においても作動が可能な小型ターボ過給機に相当し、第2タービンを有する第2ターボ過給機は、高排気流量において高効率となる大型ターボ過給機に相当する。
この構成によると、燃料カットを行うように設定された車両の減速中は燃焼が行われないため、気筒内の温度が次第に低下する。そのため、燃料カットを伴う車両の減速の終了後には、低い気筒内温度に起因して燃料の着火性が悪化してしまう。また、その燃料カットを伴う車両の減速が、第2ターボ過給機のみを作動させる運転領域(つまり、第2領域)で行われるときには、減速中は、第2ターボ過給機が実質的に非作動となって第2ターボ過給機による過給圧がほとんど得られず、気筒内の圧力が次第に低下する。それと共に、その減速終了後に、例えばアクセルペダルの踏み込み操作によって再加速を行おうとしたときには、第2ターボ過給機のみが作動することになるため、過給圧の立ち上がりが遅く、気筒内の圧力がなかなか高まらないことになる。このこともまた、燃料の着火性に不利になると共に、加速性能も低下する。
これに対し、前記の構成では、制御器は、圧縮自己着火エンジンの運転領域が第2ターボ過給機のみを作動させる高回転側の第2領域にあるときであって、燃料カットを行うように設定された車両の減速時には、流量調整弁を閉側に設定してバイパス路を閉じるようにすることで、第2ターボ過給機の作動領域であっても、第1ターボ過給機を作動させる。
このことにより、減速中に気筒内の温度が次第に低下してしまい、減速終了後には、気筒内の温度が比較的低くなっていても、第1ターボ過給機の作動が継続しているため、第2ターボ過給機を作動させる場合と比較して、気筒内の圧力の低下が抑制される。その結果、気筒内の温度低下を補って、減速終了後の燃料の着火性が確保される。
尚、減速終了後の再加速時には、第1ターボ過給機を継続して作動させることが好ましい。こうすることによって過給圧が速やかに立ち上がるようになるため、気筒内の圧力が十分に高くなり、燃料の着火性がより確実に確保されると共に、加速性能も良好になる。
前記圧縮自己着火エンジンの回転数とトルクとによって定まる、前記第1及び第2ターボ過給機の作動マップにおいて、少なくとも前記第1ターボ過給機を作動させる前記第1領域と、前記第2ターボ過給機のみを作動させる前記第2領域との境界である切替ラインが設定されており、前記制御器は、前記作動マップに従って前記流量調整弁の開度調整を行い、前記制御器はまた、前記気筒内の圧縮端温度及び圧縮端圧力の少なくとも一方が所定値以下となる特定の条件下においては、前記切替ラインを高回転側に変更することによって、前記第1領域を高回転側に拡大させると共に、前記第1領域が低負荷ほど高回転側に拡大するように、前記切替ラインを変更する。
ここで、「気筒内の圧縮端温度及び圧縮端圧力の少なくとも一方が所定値以下となる特定の条件」としては、具体的には外気温が所定温度(例えば0℃以下)であることや、高地である(例えば2000m以上)こと等を含む特定の環境条件、エンジン水温が所定温度以下(例えば60℃以下)であることや、油温が所定温度以下(例えば50℃以下)であることを含む特定の運転条件、並びに、それら特定の環境条件及び特定の運転条件の組み合わせを、例示することができる。
この構成によると、燃料の着火性が低下する特定の条件下においては、第1及び第2ターボ過給機の作動マップにおける切替ラインを変更して第1領域を高回転側に拡大させるから、切替ラインの変更前には、第2ターボ過給機のみを作動させる第2領域であった運転領域が第1ターボ過給機を作動させる第1領域となり、この領域では、第1ターボ過給機が作動するようになる。従って、切替ラインを変更した作動マップに従って流量調整弁の制御を行うようにすれば、圧縮自己着火エンジンの運転状態が高回転側の領域にあるときであって、燃料カットを行うように設定された車両の減速時には、第2ターボ過給機ではなく、第1ターボ過給機が作動する。その結果、減速中の気筒内の圧力低下を抑制して、減速終了後における燃料の着火性を確実に確保することが可能になる。また、減速中はエンジンの回転数が次第に低下することになるから、エンジンの運転状態は、減速終了後も、第1ターボ過給機が作動をする第1領域内にある。従って、減速終了後も第1ターボ過給機の作動が継続することになり、例えば再加速時の過給圧が速やかに立ち上がる。このことは、加速性能を向上させる。
また、切替ラインは、第1領域が低負荷ほど高回転側に拡大するように、変更されるから、燃料噴射量が相対的に少なくなることで着火性がさらに悪化し易い、高回転でかつ低負荷の運転領域が第1領域となる。このため、この運転領域において第1ターボ過給機が作動する結果、減速終了後の燃料の着火性が確実に確保されるようになると共に、再加速時における過給圧の速やかな立ち上がりが得られる。
前記制御器は、前記特定の条件下においては、前記燃料カットを行うように設定された車両の減速中に、前記圧縮自己着火エンジンの軸トルクが所定値以下となるように、前記燃料噴射弁から微少の燃料噴射をしかつ当該微少燃料を燃焼させる、としてもよい。
ここで、「微少の燃料」は、気筒内に噴射した燃料が着火して燃焼する量以上でかつ、軸トルクが所定値以下、言い換えるとエンジンの機械抵抗以下となって、軸トルクが実質的に発生しない量以下に設定することである。燃料の微少量は、燃料の噴射タイミング等の様々な要因によって変更され得る。例えば燃料の噴射タイミングを圧縮上死点以降の遅いタイミングに設定したときには、燃料噴射量が比較的多くても、膨張行程での燃焼になるため、発生する軸トルクは小さくなる。従って、「微少量」を比較的多く設定することが可能である。また、燃料を分割して噴射することによって燃料の着火性をコントロールすることが可能であるから、そのことによっても、噴射量が変更され得る。
燃料の着火性が低くなる特定の条件下においては、燃料カットが設定された減速中であっても燃料カットを行わずに、微少燃料の噴射及び燃焼を継続して行うことで、車両の減速を損なうことなく、気筒内の温度の低下が抑制される。その結果、減速終了後の、例えば再加速時に、第1ターボ過給機の作動による気筒内の圧力上昇と相俟って、燃料の着火性がより一層確実に確保される。
前記制御器は、前記燃料噴射弁の制御によって、拡散燃焼を主体とした主燃焼を行うために圧縮上死点付近で燃料噴射を行う主噴射と、前記圧縮上死点よりも前に前段燃焼が発生するように、前記圧縮上死点よりも前のタイミングで少なくとも1回の燃料噴射を行う前段噴射と、を実行する、としてもよい。
主噴射の前に前段噴射を行って前段燃焼を生起させることは、気筒内の圧縮端温度及び圧縮端圧力の上昇に有利であり、主噴射により噴射した燃料の着火性が十分に確保される。
一方で、前述したとおり、高回転側の運転領域では、前段噴射により噴射した燃料の着火性が低下して前段燃焼が不安定になる結果、前段燃焼による気筒内の温度及び圧力の上昇が得られ難くなるところ、前記の構成では、第1ターボ過給機の作動によって気筒内の圧力が高まるから、燃料カットを伴う減速終了後において、燃料の着火性を確実に確保することが可能になる。
前記圧縮自己着火エンジンは、その幾何学的圧縮比が16未満に設定されている、としてもよい。低圧縮比エンジンは、燃費の向上及び排気エミッション性能の向上に有利である一方で、圧縮端温度及び圧縮端圧力が比較的低くなり、燃料の着火性には不利である。そのため、第2ターボ過給機が作動する高回転側の領域における、燃料カットを伴う減速終了後には、燃料の着火性が悪化し易いものの、前述したように、この減速時に第1ターボ過給機を作動させることにより、気筒内の圧力の低下が抑制されるから、低圧縮比エンジンであっても、減速終了後の着火性を確実に確保することが可能になる。
以上説明したように、前記のターボ過給機付圧縮自己着火エンジンの制御装置によると、第2ターボ過給機のみが作動するように設定された高回転側の第2領域における、燃料カットを伴う減速時には、第1ターボ過給機を作動させることによって、減速終了後の気筒内の圧力ができるだけ高く維持されるから、噴射した燃料の着火性を確実に確保することが可能になる。
以下、実施形態に係るディーゼルエンジンを図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。図1,2は、実施形態に係るエンジン(エンジン本体)1の概略構成を示す。このエンジン1は、車両に搭載されると共に、軽油を主成分とした燃料が供給されるディーゼルエンジンである。
エンジン1は、複数の気筒11a(1つのみ図示)が設けられたシリンダブロック11と、このシリンダブロック11上に配設されたシリンダヘッド12と、シリンダブロック11の下側に配設され、潤滑油が貯溜されたオイルパン13とを有している。このエンジン1の各気筒11a内には、ピストン14が往復動可能にそれぞれ嵌挿されていて、このピストン14の頂面にはリエントラント形燃焼室14aを区画するキャビティが形成されている。このピストン14は、コンロッド14bを介してクランクシャフト15と連結されている。
前記シリンダヘッド12には、各気筒11a毎に吸気ポート16及び排気ポート17が形成されているとともに、これら吸気ポート16及び排気ポート17の燃焼室14a側の開口を開閉する吸気弁21及び排気弁22がそれぞれ配設されている。
これら吸排気弁21,22をそれぞれ駆動する動弁系において、排気弁側には、当該排気弁22の作動モードを通常モードと特殊モードとに切り替える油圧作動式の可変機構(図2参照。以下、VVM(Variable Valve Motion)と称する)が設けられている。このVVM71は、その構成の詳細な図示は省略するが、カム山を1つ有する第1カムとカム山を2つ有する第2カムとの、カムプロファイルの異なる2種類のカム、及び、その第1及び第2カムのいずれか一方のカムの作動状態を選択的に排気弁22に伝達するロストモーション機構を含んで構成されており、第1カムの作動状態を排気弁22に伝達しているときには、排気弁22は、排気行程中において一度だけ開弁される通常モードで作動するのに対し、第2カムの作動状態を排気弁22に伝達しているときには、排気弁22が、排気行程中において開弁すると共に、吸気行程中においても開弁するような、いわゆる排気の二度開きを行う特殊モードで作動する。
VVM71の通常モードと特殊モードとの切り替えは、エンジン駆動の油圧ポンプ(図示省略)から供給される油圧によって行われ、特殊モードは、内部EGRに係る制御の際に利用される。尚、こうした通常モードと特殊モードとの切り替えを可能にする上で、排気弁22を電磁アクチュエータによって駆動する電磁駆動式の動弁系を採用してもよい。また、内部EGRの実行としては、排気の二度開きに限定されるものではなく、例えば吸気弁21を2回開く、吸気の二度開きによって内部EGR制御を行ってもよいし、排気行程乃至吸気行程において吸気弁21及び排気弁22の双方を閉じるネガティブオーバーラップ期間を設けて既燃ガスを残留させる内部EGR制御を行ってもよい。尚、VVM71による内部EGR制御は、主に燃料の着火性が低いエンジン1の冷間時に行われる。
前記シリンダヘッド12には、燃料を噴射するインジェクタ18と、エンジン1の冷間時に各気筒11a内の吸入空気を暖めて燃料の着火性を高めるためのグロープラグ19とが設けられている。前記インジェクタ18は、その燃料噴射口が燃焼室14aの天井面から該燃焼室14aに臨むように配設されていて、基本的には圧縮行程上死点付近で、燃焼室14aに燃料を直接噴射供給するようになっている。
前記エンジン1の一側面には、各気筒11aの吸気ポート16に連通するように吸気通路30が接続されている。一方、前記エンジン1の他側面には、各気筒11aの燃焼室14aからの既燃ガス(つまり、排気ガス)を排出する排気通路40が接続されている。これら吸気通路30及び排気通路40には、詳しくは後述するが、吸入空気の過給を行う大型ターボ過給機61と小型ターボ過給機62とが配設されている。
吸気通路30の上流端部には、吸入空気を濾過するエアクリーナ31が配設されている。一方、吸気通路30における下流端近傍には、サージタンク33が配設されている。このサージタンク33よりも下流側の吸気通路30は、各気筒11a毎に分岐する独立通路とされ、これら各独立通路の下流端が各気筒11aの吸気ポート16にそれぞれ接続されている。
吸気通路30におけるエアクリーナ31とサージタンク33との間には、大型及び小型ターボ過給機61、62のコンプレッサ61a,62aと、該コンプレッサ61a,62aにより圧縮された空気を冷却するインタークーラ35と、前記各気筒11aの燃焼室14aへの吸入空気量を調節するスロットル弁36とが配設されている。このスロットル弁36は、基本的には全開状態とされるが、エンジン1の停止時には、ショックが生じないように全閉状態とされる。
前記排気通路40の上流側の部分は、各気筒11a毎に分岐して排気ポート17の外側端に接続された独立通路と該各独立通路が集合する集合部とを有する排気マニホールドによって構成されている。
この排気通路40における排気マニホールドよりも下流側には、上流側から順に、小型ターボ過給機62のタービン62b、大型ターボ過給機61のタービン61bと、排気ガス中の有害成分を浄化する排気浄化装置41と、サイレンサ42とが配設されている。
この排気浄化装置41は、酸化触媒41aと、ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、フィルタという)41bとを有しており、上流側から、この順に並んでいる。酸化触媒41a及びフィルタ41bは1つのケース内に収容されている。前記酸化触媒41aは、白金又は白金にパラジウムを加えたもの等を担持した酸化触媒を有していて、排気ガス中のCO及びHCが酸化されてCO2及びH2Oが生成する反応を促すものである。また、前記フィルタ41bは、エンジン1の排気ガス中に含まれる煤等の微粒子を捕集するものである。尚、フィルタ41bに酸化触媒をコーティングしてもよい。このエンジン1は、後述するように、低圧縮比化によってRawNOxの生成を大幅に低減乃至無くしており、NOx処理用の触媒を省略している。
前記吸気通路30における前記サージタンク33とスロットル弁36との間の部分(つまり小型ターボ過給機62の小型コンプレッサ62aよりも下流側部分)と、前記排気通路40における前記排気マニホールドと小型ターボ過給機62の小型タービン62bとの間の部分(つまり小型ターボ過給機62の小型タービン62bよりも上流側部分)とは、排気ガスの一部を吸気通路30に還流するための排気ガス還流通路51によって接続されている。この排気ガス還流通路51には、排気ガスの吸気通路30への還流量を調整するための排気ガス還流弁51a及び排気ガスをエンジン冷却水によって冷却するためのEGRクーラ52とが配設されている。
大型ターボ過給機61は、吸気通路30に配設された大型コンプレッサ61aと、排気通路40に配設された大型タービン61bとを有している。大型コンプレッサ61aは、吸気通路30におけるエアクリーナ31とインタークーラ35との間に配設されている。一方、大型タービン61bは、排気通路40における排気マニホールドと酸化触媒41aとの間に配設されている。
小型ターボ過給機62は、吸気通路30に配設された小型コンプレッサ62aと、排気通路40に配設された小型タービン62bとを有している。小型コンプレッサ62aは、吸気通路30における大型コンプレッサ61aの下流側に配設されている。一方、小型タービン62bは、排気通路40における大型タービン61bの上流側に配設されている。
すなわち、吸気通路30においては、上流側から順に大型コンプレッサ61aと小型コンプレッサ62aとが直列に配設され、排気通路40においては、上流側から順に小型タービン62bと大型タービン61bとが直列に配設されている。これら大型及び小型タービン61b,62bが排気ガス流により回転し、これら大型及び小型タービン61b,62bの回転により、該大型及び小型タービン61b,62bとそれぞれ連結された前記大型及び小型コンプレッサ61a,62aがそれぞれ作動する。
小型ターボ過給機62は、相対的に小型のものであり、大型ターボ過給機61は、相対的に大型のものである。すなわち、大型ターボ過給機61の大型タービン61bの方が小型ターボ過給機62の小型タービン62bよりもイナーシャが大きい。
吸気通路30には、小型コンプレッサ62aをバイパスする小型吸気バイパス通路63が接続されている。この小型吸気バイパス通路63には、該小型吸気バイパス通路63へ流れる空気量を調整するための小型吸気バイパス弁63aが配設されている。この小型吸気バイパス弁63aは、無通電時には全閉状態(つまり、ノーマルクローズ)となるように構成されている。
一方、排気通路40には、小型タービン62bをバイパスする小型排気バイパス通路64と、大型タービン61bをバイパスする大型排気バイパス通路65とが接続されている。小型排気バイパス通路64には、該小型排気バイパス通路64へ流れる排気量を調整するためのレギュレートバルブ64aが配設され、大型排気バイパス通路65には、該大型排気バイパス通路65へ流れる排気量を調整するためのウエストゲートバルブ65aが配設されている。レギュレートバルブ64a及びウエストゲートバルブ65aは共に、無通電時には全開状態(つまり、ノーマルオープン)となるように構成されている。
これら大型ターボ過給機61と小型ターボ過給機62は、それらが配設された吸気通路30及び排気通路40の部分も含めて、一体的にユニット化されて、過給機ユニット60を構成している。この過給機ユニット60がエンジン1に取り付けられている。
このように構成されたディーゼルエンジン1は、パワートレイン・コントロール・モジュール(以下、PCMという)10によって制御される。PCM10は、CPU、メモリ、カウンタタイマ群、インターフェース及びこれらのユニットを接続するパスを有するマイクロプロセッサで構成されている。このPCM10が制御器を構成する。PCM10には、図2に示すように、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサSW1、サージタンク33に取り付けられて、燃焼室14aに供給される空気の圧力を検出する過給圧センサSW2、吸入空気の温度を検出する吸気温度センサSW3、クランクシャフト15の回転角を検出するクランク角センサSW4、車両のアクセルペダル(図示省略)の操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサSW5、排気中の酸素濃度を検出するO2センサSW6、及び、小型タービン62bよりも上流側における排気圧力を検出する排気圧力センサSW7の検出信号が入力され、これらの検出信号に基づいて種々の演算を行うことによってエンジン1や車両の状態を判定し、これに応じてインジェクタ18、グロープラグ19,動弁系のVVM71、各種の弁36、51aのアクチュエータへ制御信号を出力する。
また、PCM10は、エンジンの運転状態において大型及び小型ターボ過給機61、62の動作を制御している。具体的には、PCM10は、小型吸気バイパス弁63a、レギュレートバルブ64a及びウエストゲートバルブ65aの各開度をエンジン1の運転状態に応じて設定した開度にそれぞれ制御する。詳しくは、図3に作動マップの一例を示すように、PCM10は、実線で示す切替ラインよりも低回転側の第1領域(A)では、小型吸気バイパス弁63a及びレギュレートバルブ64aを全開以外の開度とし、ウエストゲートバルブ65aを全閉状態とすることによって、小型ターボ過給機62のみ、又は、大型及び小型ターボ過給機61、62の両方を作動させる。一方、実線で示す切替ラインに対し高回転側の第2領域(B)では、小型ターボ過給機62が排気抵抗になるため、小型吸気バイパス弁63a及びレギュレートバルブ64aを全開状態とし、ウエストゲートバルブ65aを全閉状態に近い開度にすることによって、小型ターボ過給機62をバイパスさせて大型ターボ過給機61のみを作動させる。尚、ウエストゲートバルブ65aは、大型ターボ過給機61の過回転を防止するために少し開き気味に設定している。
そうして、このエンジン1は、その幾何学的圧縮比を12以上16未満(例えば14)とした、比較的低圧縮比となるように構成されており、これによって排気エミッション性能の向上及び熱効率の向上を図るようにしている。
(エンジンの燃焼制御の概要)
前記PCM10によるエンジン1の基本的な制御は、主にアクセル開度に基づいて目標トルク(言い換えると目標となる負荷)を決定し、これに対応する燃料の噴射量や噴射時期等をインジェクタ18の作動制御によって実現するものである。目標トルクは、アクセル開度が大きくなるほど、またエンジン回転数が高くなるほど、大きくなるように設定され、目標トルクとエンジン回転数とに基づいて燃料の噴射量が設定される。噴射量は、目標トルクが高くなるほど、また、エンジン回転数が高くなるほど大きくなるように設定される。また、スロットル弁36、及び排気ガス還流弁51aの開度の制御(つまり、外部EGR制御)や、VVM71の制御(つまり、内部EGR制御)によって、気筒11a内への排気の還流割合を制御する。
図4は、エンジン1の運転状態が特定の運転領域にあるときの、燃料噴射形態の一例(同図(a)参照)と、それに伴う熱発生率の一例(同図(b)参照)とを示している。この特定の運転領域は、後述するように、大型ターボ過給機61を作動させる比較的高回転の領域でかつ、エンジン1の負荷が比較的低い領域を含む。
同図(a)に示すように、インジェクタ18は、圧縮行程中における圧縮上死点に比較的近いタイミングで、比較的短い時間間隔を空けて3回のプレ噴射(前段噴射)を実行すると共に、その後の圧縮上死点付近において主噴射を1回、実行する。つまり、合計4回の燃料噴射を実行する。3回のプレ噴射は、十分な熱発生率を有するプレ燃焼(前段燃焼に相当する)を、その熱発生率のピークが圧縮上死点前の所定の時期に発生するように、生起させる。換言すれば、主燃焼の開始前にプレ燃焼を生起させ、それにより主噴射を開始する時点での気筒11a内の温度及び圧力を高めておく。このことは主噴射により噴射された燃料の着火性を良好にし、その着火遅れ時間τmainを短くする。主噴射は、図例で示すように圧縮上死点前の所定のタイミング、又は、圧縮上死点で噴射を開始するが、着火遅れ時間τmainが短いことで、その主噴射に伴う主燃焼は圧縮上死点付近において開始するようになる。このことは、熱効率の向上、ひいては燃費の向上に有利になり得る。また、前記の燃焼は、その後の主燃焼の熱発生率の上昇を緩慢にさせる。このことは燃焼騒音を低減させて、NVH性能を高める上で有利になり得る。つまり、プレ噴射及びそれに伴うプレ燃焼は、主燃焼の制御性を高めて主燃焼を所望のタイミングで発生させ、それにより、燃費の向上及びNVH性能の向上を実現し得る。
ここで、プレ噴射の開始タイミングは、インジェクタ18から噴射した燃料が、ピストン14のキャビティ(言い換えると燃焼室14a)内に収まるタイミングに設定される。従って、プレ噴射の開始タイミングを大幅に進角させることはできず、その開始タイミングは、最大でも圧縮上死点前20°CA程度に設定される。
PCM10はさらに、定常時には、エンジン1の運転状態に応じて目標過給圧を設定し、その目標過給圧が達成されるように、レギュレートバルブ64a及びウエストゲートバルブ65aの開度調整を行うと共に、小型吸気バイパス弁63aの開閉を制御する過給圧フィードバック制御を行う。
(ターボ過給機の作動マップの変更制御)
前述の通り、このエンジン1は、幾何学的圧縮比が16未満の比較的低い圧縮比に設定されておる。ここで、図5は、気筒内温度と気筒内圧力とをパラメータとした温度−圧力平面上における、着火性の指標についてのコンター図を示している。ここでの着火性の指標は、例えば、燃料の噴射開始から燃焼が開始するまでの着火遅れ時間である。同図に白抜きの矢印で示すように、気筒内温度が高ければ高いほど、また、気筒内圧力が高ければ高いほど、着火性は良好になる。幾何学的圧縮比が比較的低いエンジン1は、圧縮端温度及び圧縮端圧力がそれぞれ低くなるため、図5においては相対的に左下の状態となるため、燃料の着火性に不利である。
このようなエンジン1において、例えば外気温が0℃以下の低外気温であるという条件、及び、例えば高度2000m以上の高地であるといった特定の環境条件下では、気筒18a内の温度及び圧力がさらに低下し、燃料の着火性がさらに不利になる。また、例えばエンジン1の水温が60℃以下であったり、油温が50℃以下であったりするようなエンジン1の運転条件下でも、気筒18a内の温度が低下するため、燃料の着火性は低下する。そうした特定の環境条件と特定の運転条件とが重なったときには、着火性はさらに悪化する。
そのような条件下において、燃料カットを伴う車両の減速時には、燃焼の停止により減速中に気筒11a内の温度が次第に低下してしまうから、減速終了後の例えば再加速時に、燃料供給が復帰しても、着火性の悪化により失火する可能性がある。
特にエンジン1の運転状態が高回転側の領域にあるときには、エンジン1の回転数が比較的高いことで、クランク角変化に対する実時間が短く、燃料の反応時間を十分に確保することができない。前述したようにプレ噴射の開始タイミングは大幅に進角させることができないため、プレ噴射により噴射した燃料の反応時間は、エンジン1の回転数が高くなればなるほど短くなってしまう。その結果、燃料の着火性が低下してしまい、プレ燃焼が不安定になる。これは、主噴射の際の気筒11a内の温度及び圧力(圧縮端温度及び圧縮端圧力)が十分に高まらない事態を招く場合があり、主噴射により噴射された燃料の着火性も悪化してしまうことになる。
さらに、高回転側の領域であって、さらに負荷が低い領域では、噴射する燃料の総量が少なくなるため、プレ噴射による噴射量も少なくなり、プレ燃焼はますます不安定になる。このことは、主噴射により噴射された燃料の着火性のさらなる悪化を招くことになる。
従って、前述した特定の環境条件かつ特定の運転条件で、エンジン1の運転状態が高回転側でかつ低負荷の運転領域にあるときの、燃料カットを伴う減速時には、気筒11a内の温度の低下により、その減速終了後の着火性が極めて悪化してしまうことになる。しかも、この運転領域は、図3に示すように大型ターボ過給機61が作動をする第2領域(B)に相当するため、減速中には過給圧がほとんど得られず、気筒11a内の圧力も次第に低下する。このこともまた、減速終了後の着火性を悪化させる要因であると共に、その減速終了後に、アクセルペダルを踏み込んで再加速時をしようとしても、大型ターボ過給機61のみが作動することになるから、過給圧の立ち上がりが悪くて気筒11a内の圧力がなかなか上昇しない。その結果、着火性がなかなか良好にならないと共に、加速性能も低下する。
そこで、このエンジンシステムでは、前述した特定の環境条件及び特定の運転条件が共に成立したときには、図3に示す、2ステージターボ過給機の作動マップにおける切替ラインを変更する。このことにより、エンジン1の運転状態が高回転側の領域にあるときの、燃料カットを伴う減速時には、小型ターボ過給機62が作動するようになり、減速中における気筒11a内の圧力の低下を抑制して、減速終了後の着火性の悪化を回避するようにしている。
具体的に、PCM10は、所定の前提条件が成立したときには、図3に示すように、作動マップにおける切替ラインを実線から破線へと変更する。この所定の前提条件とは、前述した環境条件及び運転条件の双方を含み、詳しくは、外気温が所定温度以下(例えば0℃以下)であること、及び、所定以上(例えば2000m以上)の高地であること(以上、環境条件)、並びに、エンジン1の水温が所定温度以下(例えば60℃以下)であること、及び、油温が所定温度以下(例えば50℃以下)であること(以上、運転条件)、である。これら全てを満足したときに前提条件が成立し、それ以外のときには前提条件が不成立と判定する。尚、前述した環境条件の少なくとも一方と、前述した運転条件の少なくとも一方を満足したときに、前提条件が成立したと判定してもよい。
破線で示す変更後の切替ラインは、実線で示す通常の切替ラインと比較して、小型ターボ過給機62が作動する第1領域(A)が高回転側に拡大するようになる。つまり、前提条件が成立したときには、切替ラインが高回転側に変更されることになる。
変更後の切替ラインはまた、変更前の切替ラインを高回転側に平行に移動させたものではなく、小型ターボ過給機62が作動する第1領域(A)が、低負荷側においては、高負荷側と比較して、高回転側に大きく広がるように設定されている。このことにより、前述したように、着火性が悪化し易い高回転側でかつ負荷の低い運転領域は、通常の作動マップにおいては、大型ターボ過給機61が作動する第2領域(B)に含まれるところ、切替ラインの変更に伴い、この運転領域は小型ターボ過給機62が作動する第1領域(A)に含まれることになる。
次に、図3の作動マップに(1)〜(6)で示すような、エンジン1の運転状態が、高回転側の低負荷の領域にあるときの、車両の加速、減速及び再加速を含む運転パターンにおける各種パラメータの変化について、図6を参照しながら説明する。図6は、図3の作動マップにおける切替ラインが破線で示す切替ラインに変更されたときの、各種のパラメータの変化を実線で示し、切替ラインが実線で示す切替ラインのままのとき、言い換えると従来制御でのパラメータの変化を破線で示す。
先ず状態(1)から状態(2)へと至るプロセスは、小型ターボ過給機62が作動する第1領域(A)における車両の加速状態に相当する。この車両の加速時には、図6(a)に示すようにアクセル開度が次第に大きくなり、それに伴い、図6(b)に示すように、燃料噴射量の次第に増大する。その結果、エンジン1の回転数及び負荷はそれぞれ次第に増大する。
図6(c)に示すレギュレートバルブ64aの開度は、エンジン1の運転状態が、図3に破線で示す変更後の切替ラインに近づくに従って、全閉の状態から次第に開けられる。そうして、第1領域(A)においては、小型ターボ過給機62及び大型ターボ過給機61がそれぞれ作動することにより、図6(d)に示す過給圧は上昇する。過給圧の上昇に伴い、図6(e)に示す筒内圧力もまた上昇する。
状態(2)はまた、図3に示すように、エンジン1の運転状態が、破線で示す変更後の切替ラインに到達した状態に相当する。このため、状態(2)において、レギュレートバルブ64aは全開にされ(図6(c)参照)、それによって、小型ターボ過給機62の作動が停止する。尚、従来制御では、状態(1)(2)はそれぞれ、第2領域内に含まれるため、レギュレートバルブ64aは全開のままである。
状態(2)から状態(3)は、大型ターボ過給機61が作動する、言い換えると小型ターボ過給機62の作動が停止される第2領域(B)内での、車両の加速状態に相当し、図6(a)(b)に示すように、アクセル開度の増加及び燃料噴射量の増大がそれぞれ、継続される。一方で、図6(c)に示すように、レギュレートバルブ64aの開度は、開状態のままである。こうして、高回転側である第2領域(B)内での加速時には、大型ターボ過給機61のみが作動をするようになる。これにより、図6(d)に示すように、過給圧は、レギュレートバルブ64aが全開にされる、状態(2)のタイミング付近で一旦下がった後に、再び上昇するようになる。気筒11a内の圧力も、過給圧の変化と同様に変化する(図6(e)参照)。そうしてエンジン1は、その回転数及び負荷がそれぞれ上昇する。
状態(3)及び状態(4)は、図6(a)に示すようにアクセル開度がゼロとなって加速が終了し、減速が開始するタイミングに相当する。エンジン1の運転状態は、図3に破線で示すように、負荷が低下して燃料カットラインを下回るようになり、図6(b)に示すように、燃料噴射量はゼロに設定される。こうして、燃料カットを伴う減速状態となる。
状態(3)から状態(4)への移行の際に、エンジン1の運転状態は、図3に示すように、変更した切替ラインを跨ぐことになり、小型ターボ過給機62を作動させる第1領域(A)となる。そこで、図6(c)に示すように、全開状態であったレギュレートバルブ64aが再び閉じられ、それによって、小型ターボ過給機62が作動を再開するようになる。
状態(4)は、切替ラインの変更前には、小型ターボ過給機62を作動させない第2領域(B)内の状態に相当する。従って、この制御は、小型ターボ過給機62を作動させない第2領域(B)内であっても、燃料カットを伴う減速中に、小型ターボ過給機62を作動させる制御、と言い換えることが可能である。
状態(4)から状態(5)へと至るプロセスは、燃料カットを伴う減速に相当する。従って、アクセル開度及び燃料噴射量はそれぞれ、図6(a)(b)に示すように、ゼロのままで維持される。その結果、エンジン1は、低負荷のままで回転数が次第に下がる。
この燃料カットを伴う減速中は、第1領域(A)内であるため、レギュレートバルブ64aが閉弁状態に維持され、それにより、小型ターボ過給機62は作動状態に維持される。図6(c)に破線で示す従来制御では、レギュレートバルブ64aは全開で、大型ターボ過給機61が作動可能なものの、燃料カットを伴う減速中は大型ターボ過給機61は実質的に停止状態になる。このため、図6(d)に破線で示すように、過給圧はエンジン1の回転数が次第に低下することに伴い低下してしまい、図6(e)に破線で示すように、気筒11a内の圧力もまた、次第に低下してしまうのに対し、小型ターボ過給機62は、燃料カットを伴う減速中においても、その作動によって過給圧を高く維持することが可能となる。また、過給圧の維持に伴い、気筒11a内の圧力の低下も抑制されることになる(図6(e)参照)。その結果、減速終了後における燃料の着火性が確保されることになる。尚、レギュレートバルブ64aの開度は、図6(c)に実線で示すように、基本的には全閉となるが、一点鎖線で示すように、エンジン1の回転数の減少に伴い排気流量が低下することに対応して、また、小型ターボ過給機62が過回転とならないように、中間開度に設定される場合がある。
状態(5)は、図6(a)に示すように、アクセルペダルを再び踏み込むことによって減速が終了し、再加速を開始する状態に相当する。それに伴い、図3に示すように、エンジン1の運転状態は燃料カットラインを超えるため、燃料噴射が再開される(図6(b)参照)。
状態(5)から状態(6)へと至るプロセスは車両の再加速状態に相当し、このときのエンジン1の運転状態は、切替前であれば小型ターボ過給機62が非作動とされる第2領域(B)内となるところ、切替ラインが破線で示す切替ラインに変更されていることに伴い、小型ターボ過給機62を作動させる第1領域(A)となる。従って、状態(1)よりも高回転側における再加速もまた、小型ターボ過給機62を作動させながら行われる。つまり、図5(a)(b)に示すようにアクセル開度が増大するに従い燃料噴射量が増大して、エンジン1の回転数及び負荷が次第に高まる(図3参照)と共に、レギュレートバルブ64aの開度は、全閉から次第に開けられるようになる。
このように再加速時に小型ターボ過給機62を作動させることによって、図6(d)に示すように、減速終了時に比較的高く維持されていた過給圧が、速やかに立ち上がるようになり、それに伴い気筒11a内の圧力もまた、図6(e)に示すように、速やかに高まる。
こうして、燃料カットを伴う減速時には、気筒11a内の温度は低下してしまうものの、小型ターボ過給機62の作動によって気筒11a内の圧力の低下を抑制することで、その減速終了後における燃料の着火性を確保することができる。このことは、図5に示すコンター図においては、気筒11a内の状態をできるだけ右方向へと移行させることに相当する。つまり、図3に(1)〜(6)で示すように、高回転側の低負荷の運転領域においては、前段噴射による前段燃焼が不安定になるため、その前段燃焼によって気筒11a内の温度(及び圧力の双方)を高める(これは、図5においては、気筒11a内の状態を上方又は右斜め上方へと移行させることに相当する)ことが困難となる。そのため、小型ターボ過給機62を作動させることにより気筒11a内の圧力を高めることは、気筒11a内の温度低下を補って燃料の着火性を確保する上で、有効になる。
また、減速終了後の再加速時には、小型ターボ過給機62の作動によって過給圧が速やかに立ち上がるから、気筒11a内の圧力も早期に高まり、燃料の着火性がさらに良好になると共に、加速性能も良好になる。
尚、状態(4)から状態(5)に至る減速中に、燃料カットを行うのではなく、微少燃料をインジェクタ18から噴射してそれを燃焼させるようにしてもよい。こうすることによって、減速中においても燃焼が継続されるから、気筒18a内の温度の低下が抑制される。その結果、減速終了後の燃料の着火性がさらに良好に維持される。
ここで、微少噴射制御において噴射する燃料量は、気筒11a内に噴射した燃料が着火して燃焼する量以上でかつ、軸トルクが所定値以下となる範囲で、適宜設定すればよい。尚、燃料の微少量は、燃料噴射形態(つまり、噴射タイミングや、一括噴射か分割噴射かの相違)等の様々な要因によって変更され得る。燃料噴射はまた、例えば圧縮上死点前のタイミングで、微少量の噴射(プレ噴射)を行うと共に、圧縮上死点後のタイミングで、複数回の燃料噴射(メイン噴射)を行うようにしてもよい。こうした燃料噴射態様は、燃料の着火性を確保しつつもトルクの発生を抑制する上で有利である。
また、前記の構成では、着火性が悪化する特定の環境条件かつ特定の運転条件が成立したときに、本制御を適用するようにしているが、こうした特定の環境条件や運転条件が成立しなくても、エンジン1の運転状態が、大型ターボ過給機61が作動をする高回転側の第2領域にあるときの、燃料カットを伴う減速時には、小型ターボ過給機62を作動させるようにしてもよい。