ところで、バイパス路に設けられたレギュレートバルブを駆動するアクチュエータは、負圧駆動式に構成される場合があり、その場合、レギュレートバルブは、フェイル時等には自然吸気エンジンとして運転可能なように、ノーマルオープン、つまり、負圧を供給しない状態では全開となるように構成される。レギュレートバルブのアクチュエータに供給される負圧は、負圧タンクに蓄積された負圧が供給され、負圧タンクに接続された真空ポンプを駆動することによって、所定容量の負圧タンク内は、所定の負圧レベルに維持されることになる。
ここで、例えば手動変速機を備えた車両において、シフトアップを行いながら加速する場合を考える。この場合、アクセルペダルを踏み込んでエンジン回転数が次第に高まることで、小型ターボ過給機の作動領域から大型ターボ過給機の作動領域へと移行をすれば、小型ターボ過給機の作動を停止するために、アクチュエータに供給されていた負圧が抜かれてレギュレートバルブが開弁される。
その後、シフトアップが実行されると、そのシフトアップ操作の際にアクセル開度が一旦ゼロになる共に、シフトアップ後には変速段が高速段となること伴いエンジン回転数が低下する。このことにより、大型ターボ過給機の作動領域から小型ターボ領域に戻る場合がある。その場合は、小型ターボ過給機を作動させるために、アクチュエータに負圧を供給してレギュレートバルブを閉弁することになる。
シフトアップ操作後にアクセルペダルを踏み込んで、車両の加速を継続すると、エンジンの回転数が再び上昇するため、小型ターボ過給機の作動領域から、大型ターボ過給機の作動領域へと再び移行をする。このことにより、小型ターボ過給機の作動を停止するために、アクチュエータに供給されていた負圧を開放してレギュレートバルブが開弁される。
その後に、シフトアップが再度実行されると、大型ターボ過給機の作動領域から小型ターボ領域に戻る場合があり、その場合は、前記と同様に、小型ターボ過給機を作動させるためにアクチュエータに負圧を供給してレギュレートバルブを閉弁することになる。
こうして、シフトアップを複数回行いながら加速をするときには、エンジンの運転状態が、小型ターボ過給機の作動領域と大型ターボ過給機の作動領域との間を、短時間の間に、何度も行き来する場合がある。その領域の移行の度に、レギュレートバルブを開閉するために、アクチュエータに対する負圧の給排が繰り返される。
ところが、前述したように、レギュレートバルブに対しては、負圧タンクに蓄積された負圧が供給されるが、その容量には限度があるため、アクチュエータに対する負圧の給排が、短時間の間に、繰り返されてしまうと、負圧タンク内の負圧が不足してしまい、小型ターボ過給機の作動領域であっても、レギュレートバルブを閉弁することができなくなる場合が起こり得る。この場合は、小型ターボ過給機が実質的に非作動となってしまうため、加速性能が悪化してしまう。
特に、小型ターボ過給機をバイパスするバイパス路は、大型ターボ過給機の作動領域においては小型ターボ過給機を非作動にするために、排気ガスの全量を通過させなければならない。このため、バイパス路の径は大きく、そこに配置されるレギュレートバルブもまた大型になる。大型のレギュレートバルブを駆動するアクチュエータは、その駆動に大量の負圧が必要になるため、前述の通り、短時間の間に、アクチュエータに対する負圧の給排が繰り返されてしまうと、負圧タンク内の負圧が不足し易くなるのである。
尚、負圧タンクの容量を十分に大きくすれば、前述した問題を解消し得るものの、そうした場合は、負圧タンクのレイアウトという別の問題が生じることになる。
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、小型ターボ過給機と大型ターボ過給機とを切り替えて作動させるターボ過給機付エンジンにおいて、ターボ過給機の作動切り替えに必要な負圧が不足してしまうことを回避し、必要時には小型ターボ過給機を確実に作動させることにある。
ここに開示するターボ過給機付エンジンの制御装置は、エンジンと、前記エンジンの排気通路に配置された小型タービン、及び、前記エンジンの吸気通路に配置された小型コンプレッサを有する小型ターボ過給機と、前記排気通路に配置されかつ、前記小型タービンよりもイナーシャの大きい大型タービン、及び、前記吸気通路に配置された大型コンプレッサを有する大型ターボ過給機と、前記小型タービンをバイパスするバイパス路に配置されかつ、供給される負圧量に応じてその開度が調整されるように構成されたレギュレートバルブと、前記レギュレートバルブに供給するための負圧を蓄積するよう構成された負圧タンクと、前記負圧タンクから前記レギュレートバルブに供給する負圧量を調整することによって、前記小型ターボ過給機の作動を制御するよう構成された制御器と、を備える。
そして、前記エンジンの運転状態に応じて、前記レギュレートバルブを全閉にすることによって前記小型ターボ過給機を作動させる領域と、前記レギュレートバルブを全開にすることによって前記大型ターボ過給機を作動させる領域とが設定されており、前記制御器は、前記小型ターボ過給機の作動領域から前記大型ターボ過給機の作動領域へと移行したときに、前記レギュレートバルブの開度を全開よりも小さい開度でかつ、全開時とほぼ同量の通過流量が確保される所定開度にすると共に、その所定開度の状態を、前記負圧タンクの負圧が所定値に回復するまで継続し、前記大型ターボ過給機の作動領域への移行後であって、前記負圧タンクの負圧が前記所定値に回復したときに、前記レギュレートバルブの開度を前記所定開度から全開に設定する。
この構成によると、エンジンの運転状態が変化することに応じて、小型ターボ過給機の作動領域から大型ターボ過給機の作動領域へと移行したときには、従来であればレギュレートバルブを直ちに全開にして小型ターボ過給機の作動を停止するところ、レギュレートバルブを全開よりも小さい開度の所定開度にする。
ここで、レギュレートバルブを構成するバルブが、バルブ開度と通過流量とが必ずしも比例せずに、所定開度以上では、全開のときとほぼ同量の通過流量が確保されるようなバルブ(例えばバタフライバルブ)では、前記の「所定開度」を、全開時とほぼ同量の通過流量が確保される開度に設定してもよい。こうすることで、全開よりも開度が小さいため、レギュレートバルブを所定開度にする際の、負圧タンクの負圧の消費量は、レギュレートバルブを全開にする時よりも少なくなる一方で、レギュレートバルブを通過する排気ガス流量は、全開時とほぼ同量を確保可能になる。こうして、移行後の大型ターボ過給機の作動領域においては、小型ターボ過給機は実質的に非作動となる。これは、排気抵抗を低減して燃費の向上に有利になる。
そして、制御器は、負圧タンクの負圧が所定値に回復するまでは、レギュレートバルブの開度を所定開度のままで保持する。この「所定値」は、負圧タンクが維持すべき負圧レベルとして適宜設定される値である。前述の通り、レギュレートバルブを所定開度に開ける際の負圧の消費量は比較的少ないため、負圧タンクの負圧が所定値に回復するまでの時間は比較的短い。こうして、負圧タンクは、所定の負圧状態が、できるだけ維持されるようになる。
また、負圧タンクの負圧が回復する前に、大型ターボ過給機の作動領域から小型ターボ過給機の作動領域に戻ったときには、レギュレートバルブを閉弁しなければならないが、レギュレートバルブは、全開よりも小さい所定開度に設定されているため、レギュレートバルブを全開から全閉に切り替える際に必要な負圧量よりも少ない負圧量で、レギュレートバルブを全閉にすることが可能である。従って、負圧タンク内に蓄積されている負圧によって、所定開度のレギュレートバルブを、迅速かつ確実に、全閉に切り替えることが可能である。
こうして、シフトアップを繰り返しながら車両が加速をするようなときに、言い換えると、小型ターボ過給機の作動領域と大型ターボ過給機の作動領域との間を、短時間の内に、行ったり来たりするような場合であっても、負圧タンクの負圧を、途中で消費しつくしてしまうことが回避され、小型ターボ過給機の作動領域においては、レギュレートバルブを迅速かつ確実に閉弁することが可能になる。その結果、加速性能の向上が図られる。
尚、負圧タンクの負圧が所定に回復した後にも、エンジンの運転状態が、大型ターボ過給機の作動領域にあるときには、レギュレートバルブを、所定開度から全開に変更することが望ましい。こうすることで、エンジンの背圧がさらに低下するから、ポンプ損失を低減して、燃費の向上に有利になる。
前記レギュレートバルブは、ノーマルオープンであって、負圧の供給により閉弁するよう構成されている、としてもよい。
つまり、レギュレートバルブがノーマルオープンに構成されていることで、フェイル時等においては小型ターボ過給機が作動をしなくなり、自然吸気エンジンとして運転可能になる。一方で、小型ターボ過給機の作動時には、レギュレートバルブに負圧を供給することが必要となるが、前述の通り、負圧タンクは、所定の負圧状態となるように、ほぼ維持されているから、必要時には、レギュレートバルブに必要量の負圧を供給して小型ターボ過給機を迅速にかつ、確実に作動させることが可能になる。
以上説明したように、前記のターボ過給機付エンジンの制御装置によると、小型ターボ過給機の作動領域から大型ターボ過給機の作動領域へと移行したときに、レギュレートバルブを、全開よりも小さい所定開度に開くと共に、負圧タンクの負圧が所定値に回復するまでは、レギュレートバルブの開度を所定開度に維持することで、負圧タンク内の負圧が不足することが回避され、必要時には、レギュレートバルブを早期かつ確実に閉弁して小型ターボ過給機を確実に作動させることが可能になり、加速性能の向上に有利になる。
以下、実施形態に係るディーゼルエンジンを図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。図1,2は、実施形態に係るエンジン(エンジン本体)1の概略構成を示す。このエンジン1は、車両に搭載されると共に、軽油を主成分とした燃料が供給されるディーゼルエンジンである。
エンジン1は、複数の気筒11a(1つのみ図示)が設けられたシリンダブロック11と、このシリンダブロック11上に配設されたシリンダヘッド12と、シリンダブロック11の下側に配設され、潤滑油が貯溜されたオイルパン13とを有している。このエンジン1の各気筒11a内には、ピストン14が往復動可能にそれぞれ嵌挿されていて、このピストン14の頂面にはリエントラント形燃焼室14aを区画するキャビティが形成されている。このピストン14は、コンロッド14bを介してクランクシャフト15と連結されている。
前記シリンダヘッド12には、各気筒11a毎に吸気ポート16及び排気ポート17が形成されているとともに、これら吸気ポート16及び排気ポート17の燃焼室14a側の開口を開閉する吸気弁21及び排気弁22がそれぞれ配設されている。
これら吸排気弁21,22をそれぞれ駆動する動弁系において、排気弁側には、当該排気弁22の作動モードを通常モードと特殊モードとに切り替える油圧作動式の可変機構(図2参照。以下、VVM(Variable Valve Motion)と称する)が設けられている。このVVM71は、その構成の詳細な図示は省略するが、カム山を1つ有する第1カムとカム山を2つ有する第2カムとの、カムプロファイルの異なる2種類のカム、及び、その第1及び第2カムのいずれか一方のカムの作動状態を選択的に排気弁22に伝達するロストモーション機構を含んで構成されており、第1カムの作動状態を排気弁22に伝達しているときには、排気弁22は、排気行程中において一度だけ開弁される通常モードで作動するのに対し、第2カムの作動状態を排気弁22に伝達しているときには、排気弁22が、排気行程中において開弁すると共に、吸気行程中においても開弁するような、いわゆる排気の二度開きを行う特殊モードで作動する。
VVM71の通常モードと特殊モードとの切り替えは、エンジン駆動の油圧ポンプ(図示省略)から供給される油圧によって行われ、特殊モードは、内部EGRに係る制御の際に利用される。尚、こうした通常モードと特殊モードとの切り替えを可能にする上で、排気弁22を電磁アクチュエータによって駆動する電磁駆動式の動弁系を採用してもよい。また、内部EGRの実行としては、排気の二度開きに限定されるものではなく、例えば吸気弁21を2回開く、吸気の二度開きによって内部EGR制御を行ってもよいし、排気行程乃至吸気行程において吸気弁21及び排気弁22の双方を閉じるネガティブオーバーラップ期間を設けて既燃ガスを残留させる内部EGR制御を行ってもよい。尚、VVM71による内部EGR制御は、主に燃料の着火性が低いエンジン1の冷間時に行われる。
前記シリンダヘッド12には、燃料を噴射するインジェクタ18と、エンジン1の冷間時に各気筒11a内の吸入空気を暖めて燃料の着火性を高めるためのグロープラグ19とが設けられている。前記インジェクタ18は、その燃料噴射口が燃焼室14aの天井面から該燃焼室14aに臨むように配設されていて、基本的には圧縮行程上死点付近で、燃焼室14aに燃料を直接噴射供給するようになっている。
前記エンジン1の一側面には、各気筒11aの吸気ポート16に連通するように吸気通路30が接続されている。一方、前記エンジン1の他側面には、各気筒11aの燃焼室14aからの既燃ガス(つまり、排気ガス)を排出する排気通路40が接続されている。これら吸気通路30及び排気通路40には、詳しくは後述するが、吸入空気の過給を行う大型ターボ過給機61と小型ターボ過給機62とが配設されている。
吸気通路30の上流端部には、吸入空気を濾過するエアクリーナ31が配設されている。一方、吸気通路30における下流端近傍には、サージタンク33が配設されている。このサージタンク33よりも下流側の吸気通路30は、各気筒11a毎に分岐する独立通路とされ、これら各独立通路の下流端が各気筒11aの吸気ポート16にそれぞれ接続されている。
吸気通路30におけるエアクリーナ31とサージタンク33との間には、大型及び小型ターボ過給機61、62のコンプレッサ61a,62aと、該コンプレッサ61a,62aにより圧縮された空気を冷却するインタークーラ35と、前記各気筒11aの燃焼室14aへの吸入空気量を調節するスロットル弁36とが配設されている。このスロットル弁36は、基本的には全開状態とされるが、エンジン1の停止時には、ショックが生じないように全閉状態とされる。
前記排気通路40の上流側の部分は、各気筒11a毎に分岐して排気ポート17の外側端に接続された独立通路と該各独立通路が集合する集合部とを有する排気マニホールドによって構成されている。
この排気通路40における排気マニホールドよりも下流側には、上流側から順に、小型ターボ過給機62のタービン62b、大型ターボ過給機61のタービン61bと、排気ガス中の有害成分を浄化する排気浄化装置41と、サイレンサ42とが配設されている。
この排気浄化装置41は、酸化触媒41aと、ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、フィルタという)41bとを有しており、上流側から、この順に並んでいる。酸化触媒41a及びフィルタ41bは1つのケース内に収容されている。前記酸化触媒41aは、白金又は白金にパラジウムを加えたもの等を担持した酸化触媒を有していて、排気ガス中のCO及びHCが酸化されてCO2及びH2Oが生成する反応を促すものである。また、前記フィルタ41bは、エンジン1の排気ガス中に含まれる煤等の微粒子を捕集するものである。尚、フィルタ41bに酸化触媒をコーティングしてもよい。このエンジン1は、後述するように、低圧縮比化によってRawNOxの生成を大幅に低減乃至無くしており、NOx処理用の触媒を省略している。
前記吸気通路30における前記サージタンク33とスロットル弁36との間の部分(つまり小型ターボ過給機62の小型コンプレッサ62aよりも下流側部分)と、前記排気通路40における前記排気マニホールドと小型ターボ過給機62の小型タービン62bとの間の部分(つまり小型ターボ過給機62の小型タービン62bよりも上流側部分)とは、排気ガスの一部を吸気通路30に還流するための排気ガス還流通路51によって接続されている。この排気ガス還流通路51には、排気ガスの吸気通路30への還流量を調整するための排気ガス還流弁51a及び排気ガスをエンジン冷却水によって冷却するためのEGRクーラ52とが配設されている。
大型ターボ過給機61は、吸気通路30に配設された大型コンプレッサ61aと、排気通路40に配設された大型タービン61bとを有している。大型コンプレッサ61aは、吸気通路30におけるエアクリーナ31とインタークーラ35との間に配設されている。一方、大型タービン61bは、排気通路40における排気マニホールドと酸化触媒41aとの間に配設されている。
小型ターボ過給機62は、吸気通路30に配設された小型コンプレッサ62aと、排気通路40に配設された小型タービン62bとを有している。小型コンプレッサ62aは、吸気通路30における大型コンプレッサ61aの下流側に配設されている。一方、小型タービン62bは、排気通路40における大型タービン61bの上流側に配設されている。
すなわち、吸気通路30においては、上流側から順に大型コンプレッサ61aと小型コンプレッサ62aとが直列に配設され、排気通路40においては、上流側から順に小型タービン62bと大型タービン61bとが直列に配設されている。これら大型及び小型タービン61b,62bが排気ガス流により回転し、これら大型及び小型タービン61b,62bの回転により、該大型及び小型タービン61b,62bとそれぞれ連結された前記大型及び小型コンプレッサ61a,62aがそれぞれ作動する。
小型ターボ過給機62は、相対的に小型のものであり、大型ターボ過給機61は、相対的に大型のものである。すなわち、大型ターボ過給機61の大型タービン61bの方が小型ターボ過給機62の小型タービン62bよりもイナーシャが大きい。
吸気通路30には、小型コンプレッサ62aをバイパスする小型吸気バイパス通路63が接続されている。この小型吸気バイパス通路63には、該小型吸気バイパス通路63へ流れる空気量を調整するための小型吸気バイパス弁63aが配設されている。この小型吸気バイパス弁63aは、無通電時には全閉状態(つまり、ノーマルクローズ)となるように構成されている。
一方、排気通路40には、小型タービン62bをバイパスする小型排気バイパス通路64と、大型タービン61bをバイパスする大型排気バイパス通路65とが接続されている。小型排気バイパス通路64には、該小型排気バイパス通路64へ流れる排気量を調整するためのレギュレートバルブ64aが配設され、大型排気バイパス通路65には、該大型排気バイパス通路65へ流れる排気量を調整するためのウエストゲートバルブ65aが配設されている。
レギュレートバルブ64aの弁開度を調整するためのアクチュエータ、及び、ウエストゲートバルブ65aの弁開度を調整するためのアクチュエータはそれぞれ、所定容量の負圧タンク8に接続されている。これらのアクチュエータは、負圧タンク8から供給される負圧に応じて駆動される負圧駆動式に構成されている。尚、負圧タンク8には、他の負圧駆動式アクチュエータが接続されることもある(例えば小型吸気バイパス弁63aのアクチュエータ等)。レギュレートバルブ64a及びウエストゲートバルブ65aは共に、ノーマルオープンとなるように構成されており、負圧タンク8からの負圧がアクチュエータに供給されていないときには開弁する。フェイル時等には、レギュレートバルブ64a及びウエストゲートバルブ65aが共に開弁することで、このエンジン1は、自然吸気エンジンとして運転可能である。一方、レギュレートバルブ64a及びウエストゲートバルブ65aのアクチュエータに負圧が供給されたときには、その供給される負圧量に応じて、バルブの開度が閉方向に変更される。負圧タンク8には、図示を省略する真空ポンプが接続されており、真空ポンプが適宜駆動することにより、負圧タンク8内は、所定の負圧レベルを維持するように構成されている。
ここで、小型排気バイパス通路64は、後述する大型ターボ過給機61の作動領域においては、小型タービン62bをバイパスして排気ガスの全量を抵抗なく流すために、比較的大径の通路に構成されているのに対し、大型排気バイパス通路65は、大型ターボ過給機61の過回転を防止するために排気ガスの一部をバイパスする通路であるため、比較的小径の通路に構成されている。これに伴い、レギュレートバルブ64aは大型のバタフライバルブであって、それを駆動するアクチュエータもまた、大型であるのに対し、ウエストゲートバルブ65aは小型のバタフライバルブであって、それを駆動するアクチュエータも小型である。そのため、詳しくは後述するが、レギュレートバルブ64aの開閉を行う際には、比較的大量の負圧が、そのアクチュエータに対し給排される。
これら大型ターボ過給機61と小型ターボ過給機62は、それらが配設された吸気通路30及び排気通路40の部分も含めて、一体的にユニット化されて、過給機ユニット60を構成している。この過給機ユニット60がエンジン1に取り付けられている。
このように構成されたディーゼルエンジン1は、パワートレイン・コントロール・モジュール(以下、PCMという)10によって制御される。PCM10は、CPU、メモリ、カウンタタイマ群、インターフェース及びこれらのユニットを接続するパスを有するマイクロプロセッサで構成されている。このPCM10が制御器を構成する。PCM10には、図2に示すように、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサSW1、サージタンク33に取り付けられて、燃焼室14aに供給される空気の圧力を検出する過給圧センサSW2、吸入空気の温度を検出する吸気温度センサSW3、クランクシャフト15の回転角を検出するクランク角センサSW4、車両のアクセルペダル(図示省略)の操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサSW5、排気中の酸素濃度を検出するO2センサSW6、及び、小型タービン62bよりも上流側における排気圧力を検出する排気圧力センサSW7の検出信号が入力され、これらの検出信号に基づいて種々の演算を行うことによってエンジン1や車両の状態を判定し、これに応じてインジェクタ18、グロープラグ19,動弁系のVVM71、各種の弁36、51aのアクチュエータへ制御信号を出力する。
また、PCM10は、エンジンの運転状態において大型及び小型ターボ過給機61、62の動作を制御している。具体的には、PCM10は、小型吸気バイパス弁63a、レギュレートバルブ64a及びウエストゲートバルブ65aの各開度を、エンジン1の運転状態に応じて設定された目標過給圧となるように制御する。詳しくは、図3に作動マップの一例を示すように、PCM10は、低回転側の第1領域(A)では、小型吸気バイパス弁63a及びレギュレートバルブ64aを全開以外の開度とし、ウエストゲートバルブ65aを全閉状態とすることによって、小型ターボ過給機62のみ、又は、大型及び小型ターボ過給機61、62の両方を作動させる。一方、高回転側の第2領域(B)では、小型ターボ過給機62が排気抵抗になるため、小型吸気バイパス弁63a及びレギュレートバルブ64aを全開状態とし、ウエストゲートバルブ65aを全閉状態に近い開度にすることによって、小型ターボ過給機62をバイパスさせて大型ターボ過給機61のみを作動させる。尚、ウエストゲートバルブ65aは、大型ターボ過給機61の過回転を防止するために少し開き気味に設定している。
そうして、このエンジン1は、その幾何学的圧縮比を12以上16未満(例えば14)とした、比較的低圧縮比となるように構成されており、これによって排気エミッション性能の向上及び熱効率の向上を図るようにしている。
(エンジンの燃焼制御の概要)
前記PCM10によるエンジン1の基本的な制御は、主にアクセル開度に基づいて目標トルク(言い換えると目標となる負荷)を決定し、これに対応する燃料の噴射量や噴射時期等をインジェクタ18の作動制御によって実現するものである。目標トルクは、アクセル開度が大きくなるほど、またエンジン回転数が高くなるほど、大きくなるように設定され、目標トルクとエンジン回転数とに基づいて燃料の噴射量が設定される。噴射量は、目標トルクが高くなるほど、また、エンジン回転数が高くなるほど大きくなるように設定される。また、スロットル弁36、及び排気ガス還流弁51aの開度の制御(つまり、外部EGR制御)や、VVM71の制御(つまり、内部EGR制御)によって、気筒11a内への排気の還流割合を制御する。
さらに、PCM10は、定常時には、エンジン1の運転状態に応じて目標過給圧を設定し、その目標過給圧が達成されるように、レギュレートバルブ64a及びウエストゲートバルブ65aの開度調整を行うと共に、小型吸気バイパス弁63aの開閉を制御する過給圧フィードバック制御を行う。
(ターボ過給機の切り替え制御)
前述の通り、このエンジン1は、小型ターボ過給機62及び大型ターボ過給機61を有しかつ、エンジン1の運転状態に応じてレギュレートバルブ64aの開度を調整することにより、小型ターボ過給機62の作動及び非作動を切り替える。
ここで、例えばシフトアップを伴う車両の加速時には、アクセルペダルの踏み込みに伴いエンジン回転数が次第に高まることで、図3に示す小型ターボ過給機62の作動領域(A)から、大型ターボ過給機61の領域(B)へと移行をする場合がある。この領域の移行に伴い、PCM10は、従来であれば、レギュレートバルブ64aのアクチュエータに供給されている負圧を、直ちに排出してこれを大気圧とすることで、レギュレートバルブ64aを開弁する。こうして、小型ターボ過給機62を非作動にする。
その大型ターボ過給機61の作動領域(B)において、シフトアップ操作が行われたときには、アクセル開度が一旦、ゼロになると共に、変速段が高速段なるため、エンジン回転数は低下することになる。その結果、大型ターボ過給機61の作動領域(B)から小型ターボ過給機62の作動領域(A)に戻る場合がある。その場合、PCM10は、レギュレートバルブ64aのアクチュエータに、直ちに負圧を供給して、レギュレートバルブ64aを閉弁し、小型ターボ過給機62を作動させる。
そのシフトアップ操作後、アクセルペダルを踏み込んで車両の加速を継続すると、エンジン回転数は再び上昇するから、小型ターボ過給機62の作動領域(A)から大型ターボ過給機61の作動領域(B)に再び移行するようになる。PCM10は、従来であれば、レギュレートバルブ64aのアクチュエータに供給されている負圧を直ちに排出して、レギュレートバルブ64aを開弁し、小型ターボ過給機62を非作動にする。
その後、さらにシフトアップ操作が行われたときには、前述の通りエンジン回転数が低下することに伴い、小型ターボ過給機62の作動領域(A)に再び戻る場合もあり、その場合、PCM10は、レギュレートバルブ64aのアクチュエータに、直ちに負圧を供給して、レギュレートバルブ64aを閉弁し、小型ターボ過給機62を作動させなければならない。
このように、例えば複数回のシフトアップを伴う車両の加速時には、エンジンの運転状態が小型ターボ過給機62の作動領域(A)と大型ターボ過給機61の作動領域(B)との間を行ったり来たりするようになり、その度にレギュレートバルブ64aのアクチュエータに対し、負圧の給排が繰り返されることにある。このように短時間の間に負圧の給排が繰り返す結果、負圧タンク8内の負圧レベルが大幅に低下してしまう場合がある。特にレギュレートバルブ64aのアクチュエータは大型であって、負圧の給排量が大きいため、負圧タンク8の負圧が不足しやすくなる。負圧タンク8の負圧が不足してしまうと、小型ターボ過給機62の作動領域(A)であるにも拘わらず、レギュレートバルブ64aを閉じることができなくなったり、レギュレートバルブ64aの閉弁が遅れてしまったりするから、所望の過給圧が得られずに、加速性能が悪化することになる。
そこで、このエンジンシステムでは、小型ターボ過給機62の作動領域(A)から、大型ターボ過給機61の作動領域(B)へと移行したときには、レギュレートバルブ64aを直ちに全開にするのではなく、全開よりも小さい開度の所定開度(制限開度)となるようにレギュレートバルブ64aを開弁すると共に、その制限開度の状態を、負圧タンク8の負圧が回復するまで継続する。
具体的に、PCM10は、図4に示すようなフローチャートに従って、レギュレートバルブ64aの制御を行う。先ず、スタート後のステップS1では、各種の信号を読み込む。ここで読み込み信号は、例えばエンジン回転数、アクセル開度、及びレギュレートバルブ64aの開度等である。続くステップS2では、エンジン1の運転状態が変化するに伴い、小型ターボ過給機62の作動領域(A)から、大型ターボ過給機61の作動領域(B)へと切り替わったか否かを判定する。大型ターボ過給機61の作動領域(B)に切り替わっていないとき(NOのとき)には、ステップS1に戻る一方、大型ターボ過給機61の作動領域(B)に切り替わったとき(YESのとき)には、ステップS3に移行する。
ステップS3では、待機時間のカウントを開始する。待機時間の詳細は後述する。続くステップS4では、レギュレートバルブ64aの開度を、制限開度に設定する。この制限開度は、図5に示すように、レギュレートバルブ64aを構成するバタフライバルブの特性に基づいて設定される開度である。図5は、バルブ開度とバルブを通過する通過流量とに係るバタフライバルブの特性の一例を示している。バタフライバルブは、全閉から全開までの間で、バルブ開度と通過流量とが比例せず、所定の開度になれば、全開時とほぼ同じ通過流量となる特性を有している。ステップS4で設定する制限開度は、図5に示すように、全開時とほぼ同じ通過流量となる開度として、適宜設定される。また、このバルブ特性は、大気圧によっても変更されるものであり、同図に一点鎖線で示すように大気圧が高いときには、より小さいバルブ開度でも、全開時とほぼ同じ通過流量となる一方、同図に二点鎖線で示すように大気圧が低いときには、より大きいバルブ開度にしなければ、全開時とほぼ同じ通過流量とならない。そこで、ステップS4では、大気圧に応じて制限開度を設定し、その制限開度となるように、レギュレートバルブ64aを開弁する。こうすることでステップS4では、レギュレートバルブ64aの開弁によって排出される負圧量を少なくしつつ、レギュレートバルブ64aを全開にした場合と同様に、小型ターボ過給機62を非作動にして排気抵抗を低減することが可能になる。
ステップS5では、大型ターボ過給機61の作動領域(B)から小型ターボ過給機62の作動領域(A)に切り替わったか否かを判定する。小型ターボ過給機62の作動領域(A)に切り替わっていないとき(NOのとき)には、ステップS6に移行する。一方、小型ターボ過給機62の作動領域(A)に切り替わったとき(YESのとき)には、ステップS7に移行して、レギュレートバルブ64aのアクチュエータに負圧を供給して、制限開度であったレギュレートバルブ64aを全閉にする。ステップS7では、レギュレートバルブ64aを、全開から全閉にするのではなく、制限開度から全閉にするため、少ない負圧量でレギュレートバルブ64aを全閉にすることが可能であり、負圧タンク8の負圧の消費を抑制しつつ、レギュレートバルブ64aを迅速にかつ確実に全閉にすることが可能である。フローは、ステップS7の後、ステップS1に戻る。
これに対し、ステップS6では、予め設定した待機時間が経過したか否かを判定する。この待機時間とは、負圧タンク8の負圧が所定値まで回復するまでに要する時間である。負圧の所定値は、負圧タンク8が維持すべき負圧レベルに相当する。待機時間は、真空ポンプの作動特性や、前述したレギュレートバルブ64aの制限開度、言い換えるとアクチュエータにおける負圧を排出することによって低下した、負圧タンク8内の負圧の低下量に基づいて設定される。ステップS6において待機時間が経過していないとき(NOのとき)には、負圧タンク8の負圧が未だ回復していないため、ステップS4に戻り、レギュレートバルブ64aの開度を制限開度のままで維持する。これに対し、所定時間が経過したとき(YESのとき)には、負圧タンク8の負圧が所定値にまで回復したと推定されるため、ステップS8に移行する。ステップS8では、レギュレートバルブ64aを、制限開度から全開にし(尚、エンジン1の運転状態は、大型ターボ過給機61の作動領域(B)のままである)、フローはリターンする。
このように、小型ターボ過給機62の作動領域(A)から大型ターボ過給機61の作動領域(B)に切り替わったときに、レギュレートバルブ64aの開度を直ちに全開にするのではなく、レギュレートバルブ64aの開度を、全開相当の通過流量が確保される制限開度に抑えると共に、その制限開度状態を、所定の待機時間だけ継続する。
このことにより、大型ターボ過給機61の作動領域に移行した直後は、負圧タンク8の負圧の消費を抑制することが可能になると共に、制限開度状態のときに、大型ターボ過給機61の作動領域(B)から小型ターボ過給機62の作動領域(A)に戻ったときには、レギュレートバルブ64aを、少ない負圧量で、素早くかつ確実に閉弁することが可能になり、小型ターボ過給機62を確実に作動させて、所望の過給圧を得ることができる。すなわち、複数回のシフトアップ操作を行う車両の加速時等において、エンジン1の運転状態が、比較的短時間の間に、小型ターボ過給機62の作動領域(A)と大型ターボ過給機61の作動領域(B)との間を行ったり来たりするときにも、負圧タンク8の負圧が不足してしまうことを回避して、小型ターボ過給機62の作動領域(A)においては、レギュレートバルブ64aを確実かつ迅速に閉弁することが可能になる。その結果、特に小型ターボ過給機62の作動領域、言い換えると低回転側における加速性能が良好になる。
また、負圧タンク8の負圧が所定値に回復した後であって、エンジン1の運転状態が大型ターボ過給機61の作動領域(B)にあるときには、レギュレートバルブ64aの開度を制限開度から全開にすることで、背圧がさらに低下することになり、ポンピングロスを低減して、燃費の向上に有利になる。
尚、前記の構成では、小型ターボ過給機62の作動領域(A)から大型ターボ過給機61の作動領域(B)に移行したときに、レギュレートバルブ64aを制限開度にした上で、所定の待機時間を待機するようにしているが、負圧タンク8に、その内部の負圧を検知するセンサ等を配置した構成においては、センサが検知した負圧に基づいて、レギュレートバルブ64aの制御、つまり、制限開度から全開への変更を行ってもよい。