JP5849600B2 - 空気入りタイヤ - Google Patents

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Description

本発明は、スタッドピンが設けられた空気入りタイヤに関する。
従来より、氷雪路用タイヤでは、タイヤトレッド部(以降、トレッド部という)にスタッドピンが埋め込まれ、氷上路面においてグリップが発揮できるようになっている。
一般に、スタッドピンは、トレッド部に設けられたスタッドピンの埋め込み用の穴に埋め込まれる。このとき、タイヤ転動中に路面から受ける制駆動力や横力によってスタッドピンが上記穴から抜け落ちることがないようにスタッドピンは穴径を拡張して穴にきつく埋め込まれる。
このような状況下、トレッド部に、タイヤ周方向とタイヤ幅方向に延びる溝で区切られて配列されかつスタッドピンが埋め込まれた複数のブロックを有する空気入りスタッドタイヤにおいて、制駆動時やコーナリング時のタイヤのすべりによるスタッドピンの抜けを改善し、該スタッドタイヤの高い性能を長期間にわたって維持することができる空気入りスタッドタイヤが知られている(特許文献1)。
当該空気入りスタッドタイヤは、トレッド部に、タイヤ周方向とタイヤ幅方向に延びる溝で区切られて配列されかつスタッドピンが埋め込まれた複数のブロックを有する空気入りスタッドタイヤである。該ブロックの踏面にはサイプが設けられているとともに、該スタッドピンの周辺域にはサイプが存在しない領域を有しかつ該サイプが存在しない領域には該スタッドピン中心点から放射する直線方向に対して交差する方向に直線状または/および曲線状を呈して延在する深さ3mm〜7.5mmのスタッドピン周囲スリットが設けられる。
特開2008−230259号公報
ところで、スタッドピンを用いた氷雪路用タイヤは、氷上路面のみ転動するのではなく、氷上路面に比べて路面の表面が硬いコンクリート路面やアスファルト路面上をも転動するため、スタッドピンの抜け落ちが比較的多い。
上記空気入りスタッドタイヤでも、コンクリート路面やアスファルト路面上において、制駆動時やコーナリング時にタイヤが路面から受ける力によってスタッドピンの抜け(以降、ピン抜けという)が多く発生する場合がある。このため、上記空気入りスタッドタイヤにおいても、ピン抜けをより一層改善することが求められる。
そこで、本発明は、スタッドピンが設けられた空気入りタイヤにおいて、従来に比べて、スタッドピンの抜け落ちが少なく、氷上性能が向上する空気入りタイヤを提供することを目的とする。
本発明の一態様は、空気入りタイヤであって、
前記空気入りタイヤのトレッド表面にスタッドピンの埋め込み用の穴が複数設けられたタイヤトレッド部と、
前記穴に埋め込まれた複数のスタッドピンと、を有する。
前記トレッド表面外側から前記穴の輪郭をみたとき、前記穴のそれぞれは、前記スタッドピンそれぞれの外周と接触して前記スタッドピンそれぞれを固定する固定領域と、前記スタッドピンそれぞれの外周と接触せず、前記固定領域から前記穴がスリット状に延びて前記タイヤトレッド部の一部が切り欠かれるように形成されたスリット領域と、を有する。
本発明の他の一態様は、空気入りタイヤであって、
前記空気入りタイヤのトレッド表面にスタッドピンの埋め込み用の複数の穴が設けられたタイヤトレッド部と、
前記穴に埋め込まれた複数のスタッドピンと、を有する。
前記穴のそれぞれは、前記スタッドピンそれぞれの外周と接触して前記スタッドピンそれぞれを固定する2つの固定領域と、前記スタッドピンそれぞれの外周と接触せず、前記固定領域から延びて前記タイヤトレッド部の一部が切り欠かれるように形成された2つのスリット領域と、を有する。前記トレッド表面外側から前記穴をみたとき、前記2つのスリット領域は、前記2つの固定領域を挟んで対向する位置に設けられている。
上述の空気入りタイヤは、従来に比べてスタッドピンの抜け落ちが少なく、氷上性能が向上する。
本実施形態の空気入りタイヤの断面を示すタイヤ断面図である。 本実施形態の空気入りタイヤのトレッドパターンを平面上に展開したトレッドパターンの一部の平面展開図である。 本実施形態におけるスタッドピンと埋め込み用の穴を示す図である。 (a),(b)は、図2に示す穴の形状を説明する図である。 本実施形態の空気入りタイヤに設けられるスタッドピンの埋め込み用の穴の変形例1を示す図である。 本実施形態の空気入りタイヤに設けられるスタッドピンの埋め込み用の穴の変形例2を示す図である。
(タイヤの全体説明)
以下、本実施形態の空気入りタイヤについて説明する。図1は、本実施形態の空気入りタイヤ(以降、タイヤという)10の断面を示すタイヤ断面図である。タイヤ10は、トレッド部にスタッドピンが埋め込まれたスタッドタイヤである。
タイヤ10は、例えば、乗用車用タイヤである。乗用車用タイヤは、JATMA YEAR BOOK 2010(日本自動車タイヤ協会規格)のA章に定められるタイヤをいう。この他、B章に定められる小型トラック用タイヤおよびC章に定められるトラック及びバス用タイヤに適用することもできる。
以降で具体的に説明する各パターン要素の寸法の数値は、乗用車用タイヤにおける数値例であり、本発明である空気入リタイヤはこれらの数値例に限定されない。
以降で説明するタイヤ周方向とは、タイヤ回転軸を中心にタイヤ10を回転させたとき、トレッド面の回転する方向をいい、タイヤ径方向とは、タイヤ回転軸に対して直交して延びる放射方向をいい、タイヤ径方向外側とは、タイヤ回転軸からタイヤ径方向に離れる側をいう。タイヤ幅方向とは、タイヤ回転軸方向に平行な方向をいい、タイヤ幅方向外側とは、タイヤ10のタイヤセンターラインCLから離れる両側をいう。
(タイヤ構造)
タイヤ10は、骨格材として、カーカスプライ層12と、ベルト層14と、ビードコア16とを有し、これらの骨格材の周りに、トレッドゴム部材18と、サイドゴム部材20と、ビードフィラーゴム部材22と、リムクッションゴム部材24と、インナーライナゴム部材26と、を主に有する。
カーカスプライ層12は、一対の円環状のビードコア16の間を巻きまわしてトロイダル形状を成した、有機繊維をゴムで被覆したカーカスプライ材12a,12bを含む。図1に示すタイヤ10では、カーカスプライ層12は、カーカスプライ材12a,12bで構成されているが、1つのカーカスプライ材で構成されてもよい。カーカスプライ層12のタイヤ径方向外側に2枚のベルト材14a,14bで構成されるベルト層14が設けられている。ベルト層14は、タイヤ周方向に対して、所定の角度、例えば20〜30度傾斜して配されたスチールコードにゴムを被覆した部材であり、下層のベルト材14aが上層のベルト材14bに比べてタイヤ幅方向の幅が広い。2層のベルト材14a,14bのスチールコードの傾斜方向は互いに逆方向である。このため、ベルト材14a,14bは、交錯層となっており、充填された空気圧によるカーカスプライ層12の膨張を抑制する。
ベルト層14のタイヤ径方向外側には、トレッドゴム部材18が設けられ、トレッドゴム部材18の両端部には、サイドゴム部材20が接続されてサイドウォール部を形成している。トレッドゴム部材18は2層のゴム部材で構成され、タイヤ径方向外側に設けられる上層トレッドゴム部材18aとタイヤ径方向内側に設けられる下層トレッドゴム部材18bとを有する。サイドゴム部材20のタイヤ径方向内側の端には、リムクッションゴム部材24が設けられ、タイヤ10を装着するリムと接触する。ビードコア16のタイヤ径方向外側には、ビードコア16の周りに巻きまわす前のカーカスプライ層12の部分と、ビードコア16の周りに巻きまわしたカーカスプライ層12の巻きまわした部分との間に挟まれるようにビードフィラーゴム部材22が設けられている。タイヤ10とリムとで囲まれる空気を充填するタイヤ空洞領域に面するタイヤ10の内表面には、インナーライナゴム部材26が設けられている。
この他に、タイヤ10は、ベルト層14のタイヤ径方向外側からベルト層14を覆う、有機繊維をゴムで被覆したベルトカバー層28を備える。
タイヤ10は、このようなタイヤ構造を有するが、本発明の空気入りタイヤのタイヤ構造は、図1に示すタイヤ構造に限定されない。
(トレッドパターン)
図2は、タイヤ10のトレッドパターン30を平面上に展開したトレッドパターンの一部の平面展開図である。タイヤ10は図2に示されるように、タイヤ周方向の一方の向きを示す回転方向Rが指定されている。回転方向Rの向きは、タイヤ10のサイドウォール表面に設けられた数字、記号等によって表示され指定されている。
図2に示されるように、トレッドパターン30は、傾斜溝32と横断溝34を主に有する。
傾斜溝32は、タイヤセンターラインCLの両側においてそれぞれ回転方向Rとは反対側に進むにつれて(図2中上方向に進むにつれて)タイヤ幅方向外側に延びるように、タイヤ周方向に対して傾斜した溝である。傾斜溝32は、パターンエンドEに到達することなく、途中で閉塞している。傾斜溝32は、タイヤ周方向に所定の間隔で複数設けられている。
横断溝34は、タイヤセンターラインCLの両側においてそれぞれ回転方向Rとは反対側へ進むにつれて、タイヤ幅方向外側に向かい、さらに、両側のパターンエンドEまで延びるようにタイヤ周方向に対して傾斜した溝である。横断溝34は、タイヤ周方向に所定の間隔で複数設けられている。
傾斜溝32のタイヤ周方向に対する傾斜角度は、タイヤ幅方向の同じ位置において、横断溝34のタイヤ周方向に対する傾斜角度に比べて小さい。このため、横断溝34は、傾斜溝32と交差する。
傾斜溝32及び横断溝34の溝幅は、例えば5.0mm〜15.0mmであり、溝深さは7〜10mmである。
傾斜溝32及び横断溝34は所定の間隔をおいて繰り返し配置されていので、タイヤセンターラインCLを中心とするセンター領域にタイヤ周方向に連続的に延びる中央陸部36が傾斜溝32及び横断溝34によって区画されて形成されている。また、傾斜溝32のタイヤ幅方向外側に複数のブロック38からなる外側陸部40が傾斜溝32及び横断溝34によって区画されて形成されている。すなわち、傾斜溝32を挟んで中央陸部36のタイヤ幅方向外側に位置する陸部が、外側陸部40である。
中央陸部36及び外側陸部40には、それぞれタイヤ幅方向に延びる複数本のサイプ42,44が設けられている。サイプ42,44はその大部分がトレッド表面外側から見たときジグザグ形状をなしているが、一部が直線状になっていてもよい。サイプ42,44のトレッド表面外側から見たときのサイプ形状は特に制限されない。また、サイプ42,44はトレッド外表面よりもタイヤ径方向内側の部分においてサイプの厚さ方向に凹凸をなす3次元構造を有するものであってもよい。
本実施形態でいうサイプとは、厚さが1.5mm以下であり、深さが5.0〜9.0mmの溝状のものをいい、傾斜溝32及び横断溝34等の溝と寸法から区別され得る。
傾斜溝32は、タイヤセンターラインCLに向かって凸となるように僅かに湾曲して、タイヤ幅方向外側に向かって傾斜して延びている。また、傾斜溝32は、少なくとも2本の横断溝34と交差している。ここで、「交差する」とは2つの溝が互い突き抜けた状態をいう。つまり、図2では傾斜溝32は2本の横断溝34と交差している。傾斜溝32のタイヤ幅方向外側の端部32aは外側陸部40の領域内に位置し、タイヤ幅方向内側の端部32bは中央陸部10の領域内に位置している。また、傾斜溝32の溝幅はタイヤ幅方向外側の端部32aから内側の端部32bに向かって徐々に増大している。
横断溝34は、回転方向Rとは反対側の方向に向かって凸となるように僅かに湾曲してタイヤ幅方向外側に延びている。横断溝34はパターンエンドEまで延在する一方、タイヤ幅方向内側の端部34bは中央陸部36の領域内又は傾斜溝32の領域内に位置する。ここで、横断溝34のタイヤ幅方向内側の端部34bが傾斜溝32内に位置するとは、横断溝34が傾斜溝32に連通しているが、傾斜溝32を突き抜けていないことをいう。すなわち、端部34bが中央陸部36の領域内に位置する横断溝34と、端部34bが傾斜溝32内に位置する横断溝34とが、タイヤ周方向に交互に配置されている。図2では中央陸部36の領域内に端部34bが位置する横断溝34と傾斜溝32内に端部34bが位置する横断溝34とが1つおきに配置されているが、中央陸部36の領域内に端部34bが位置する2つの横断溝34と傾斜溝32内に端部34bが位置する1つの横断溝34とを交互に配置したり、中央陸部36の領域内に端部34bが位置する1つの横断溝34と傾斜溝32内に端部34bが位置する2つの横断溝34とを交互に配置してもよい。
このように、トレッドパターン30は、複数本のサイプ42を備えると共にタイヤ周方向に連続的に延びるリブ状の中央陸部36を、タイヤセンターラインCLを中心とするトレッド部のセンター領域に配置している。したがって、タイヤ周方向に溝によって分断されて配置されたブロックとは異なり、中央陸部36では、サイプ42で区切られたトレッドゴム部材の塊り(ブロック)が、路面から受ける横力あるいは制駆動力によって倒れ込みに難い。このため、路面とタイヤ10との間で凝着摩擦力が増大して氷上性能を向上することができる。
このようなトレッドパターン30において、傾斜溝32よりもタイヤ幅方向外側に位置する外側陸部40のトレッド表面にスタッドピンの埋め込み用の穴46が複数設けられている。穴46のそれぞれに、スタッドピン48(図3参照)が埋め込まれる。図2では、スタッドピン48は図示されておらず、スタッドピン48の埋め込みに合わせて穴の大きさが拡張された状態で穴46が示されている。図3は、スタッドピン48と穴46を示す図である。
スタッドピン48の埋め込み用の穴46は、タイヤ製造工程中のタイヤ加硫時、トレッドパターンの一部として形成されるように、穴46に対応する凸部がタイヤ金型に予め形成されてもよいし、あるいは、タイヤ加硫後にドリルで穴46が設けられてもよい。穴48の直径は、スタッドピン48の直径に比べて小さく、図示されない専用装置を用いて穴46内にスタッドピン48を圧入することにより、スタッドピン48が穴46に埋め込まれる。
上記トレッドパターン30によれば、タイヤセンターラインCLの両側に設けられる傾斜溝32と横断溝34によって区画された外側陸部40が形成されるので、外側陸部40において穴46をタイヤ幅方向に分散させることができる。しかし、図2に示すトレッドパターン30のパターン形状及び図2に示すスタッドピン48の埋め込み用の穴46の位置は一例であり、トレッドパターン30の形状及び穴46の位置は特に制限されない。
トレッド部に設けられるスタッドピン48の埋め込み用の穴46の位置は、外側陸部40の領域であって、タイヤ幅方向の位置として少なくとも7箇所、好ましくは、7〜10箇所、設定することが好ましい。この場合、設定されたタイヤ幅方向の各位置に穴46を分散して配置することが好ましい。これにより、タイヤ幅方向に分散した穴46に埋め込まれたスタッドピン48が、タイヤ転動時、雪面及び氷面を引っ掻くことになるので、氷上での制駆動力が安定して向上する。
図3に示すようにスタッドピン48は、円盤状の基部48aが穴46の底部46aに収まるように穴46が拡張されて埋め込まれる。スタッドピン48の先端部48bは、スタッドピン48が穴46に埋め込まれたとき、トレッド部表面から0.7〜1.2mm突出するように、スタッドピン48の高さ及び穴46の深さが設定されている。
図4(a),(b)は、図2に示す穴46の形状を説明する図である。
図4(b)に示すように、トレッド表面外側から穴46の輪郭をみたとき、穴46のそれぞれは、埋め込まれたスタッドピン48それぞれの外周と接触してスタッドピン48それぞれを固定する固定領域50と、スタッドピン48それぞれの外周と接触せず、固定領域50から穴46がスリット状に延びてタイヤトレッド部の一部が切り欠かれるように形成されたスリット領域52とを有する。
固定領域50は、図4(a)に示すように、スタッドピン48の回転体形状に対応した円筒形状をなしており、トレッド表面外側から穴46の輪郭をみたとき、円弧形状をなしている。
スリット領域52は、より具体的には、トレッド表面外側から穴46の輪郭をみたとき、固定領域50の円弧形状の一部からこの円弧形状の外側に突出した形状を成している。このように、穴46に固定領域50とスリット領域52を設けるのは以下の理由による。すなわち、スタッドピン48が路面から制駆動力あるいは横力を受けたとき、スタッドピン48は僅かに動く。このとき、外側陸部40に設けられたサイプ44及び横断溝34によって区画されたスタッドピン48周りのゴム部材の塊の部分(以降、この塊の部分をスタッドピン周りのゴムブロックという)も、穴46にスリット領域52が設けられているので、スタッドピン48の動きに追随して動くことができる。このため、スタッドピン48とスタッドピン周りのゴムブロックの一体性が強くなり、従来に比べて、スタッドピン48の抜け落ちが少なく、氷上性能を向上させることができる。従来のように、穴46によってスタッドピン48の全周を取り囲むようにスタッドピン48を固定して埋め込んだ場合、路面から受ける力によってスタッドピンが動こうとするが、スタッドピン周りのゴムブロックがスタッドピンの動きに追随できないため、スタッドピンが抜け易くなる。
本実施形態では、トレッド表面外側から見たスリット領域52の形状は、固定領域50の円弧形状から突出した2つの直線が突出先端で接続された形状、すなわち三角形状である。しかし、スリット領域52の形状は三角形状に限定されず、矩形形状であってもよい。しかし、上記のようにトレッド表面外側から見たスリット領域52の形状を三角形状とすることにより、スタッドピン周りのゴムブロックの動き易い向きを局所的に定めることができる。ゴムブロックは、スリット領域52の延びる方向と直交する方向に動き易くなる。特に、路面から受ける大きな制動力によってスタッドピン48は抜けやすいため、制動力の向きに合わせてスタッドピン周りのゴムブロックの剛性を局所的に弱めることができる。すなわち、路面から受ける制動力によって動こうとするスタッドピンの動きの向きに合わせて、スタッドピン周りのゴムブロックを容易に動かすことができる。このため、スタッドピン48の抜けをより少なくすることができる。
また、スタッドピン48は制駆動時に抜け易いことから、スタッドピン周りのゴムブロックがスタッドピン48の動きの向きに合わせて同じ向きに動くことができるように、固定領域50から延びるスリット領域52は、少なくともタイヤ幅方向に延びる成分を有することが好ましい。すなわち、スリット領域52は、タイヤ周方向に対して傾斜する方向に延びている。タイヤ10の制動時のスタッドピン48の動きに追随してスタッドピン周りのゴムブロックを動き易くすることにより、スタッドピン48の抜けを少なくしつつ氷上路面における制動性能を高める点で、スリット領域52の延びる方向の、タイヤ幅方向に対する角度は0〜45度であることがより好ましい。
また、スリット領域52は、図4(a)に示すように、穴46の深さ方向において、トレッド表面を含む表面部分に設けられていることが、スタッドピン48が抜け落ちず、スタッドピン周りのゴムブロックを動き易くする点で好ましい。この場合、スリット領域52が穴46の深さ方向に延びるスリット領域52の深さdepth(図4(a)参照)は、0.5〜2.0mmであることが、スタッドピン48の抜けを少なくしつつ氷上路面における制動性能を高める点で好ましい。スリット領域52の深さdepthは、1.0〜1.5mmであることがより好ましい。深さdepthが0.5mmより小さい場合、スリット領域52を作製することは製造工程上難しく、深さdepthが2.0mmを超える場合、スタッドピン周りのゴムブロックの剛性が低下しすぎて、氷上における制動性能が低下する。
また、図4(b)に示すように、固定領域50の円弧形状の直径をDとし、スリット領域52の三角形状に突出した突出長さをdとしたとき(図4(b)参照)、比d/Dは、0.05〜0.4であることが、スタッドピン48の抜けを少なくしつつ氷上路面における制動性能を高める点で好ましい。スリット領域52の突出長さdは、0.5〜2.0mmであることが好ましく、1.0〜1.5mmであることがより好ましい。突出長さdが0.5mmより小さい場合、スリット領域52を作製することは製造工程上難しく、2.0mmを超える場合、スタッドピン周りのゴムブロックの剛性が低下しすぎて、氷上における制動性能が低下する。
さらに、図4(b)に示すように、スリット領域52が固定領域50の円弧形状の一部からこの円弧形状の外側に突出するときの突出基部の幅をWとしたとき(図4(b)参照)、比W/Dは0.05〜0.40であることが、スタッドピン48の抜けを少なくしつつ氷上路面における制動性能を高める点で好ましい。幅Wは、例えば、0.3〜1.5mmであり、好ましくは、0.5〜1.0mmである。幅Wが0.3mmより小さい場合、スリット領域52を作製することは製造工程上難しく、1.5mmを超える場合、スタッドピン周りのゴムブロックの剛性が低下しすぎて、氷上における制動性能が低下する。
(変形例1)
図5は、タイヤ10の穴46の形状の変形例1を示す図である。変形例1では、穴46は、スタッドピンそれぞれの外周と接触してスタッドピン48を固定する2つの固定領域50と、スタッドピン48の外周と接触せず、固定領域50から延びてトレッド部の一部が切り欠かれるように形成された2つのスリット領域52と、を有する。
穴46をトレッド表面外側からみたとき、2つのスリット領域52は、2つの固定領域50を挟んで対向する位置に設けられている。この場合、トレッド部が路面から制駆動力や横力を受けたとき、両側にあるスリット領域52により、スタッドピン48の動きに追随してスリット領域52が延びる方向と直交する方向にスタッドピン周りのゴムブロックはより動き易くなる。このため、スタッドピン48の抜け落ちを少なくすることができる。
(変形例2)
図6は、タイヤ10の穴46の形状の変形例2を示す図である。変形例2の穴46は、トレッド表面外側からみたとき、図4(b)に示す穴46の輪郭形状と同様の輪郭形状を有するが、図6に示すように、スリット領域52の突出長さが、穴46の深さ方向の位置が深い程短くなっている。この場合においても、トレッド部が路面から制駆動力や横力を受けても、スタッドピン48の動きに追随してスリット領域52が延びる方向と直交する方向にスタッドピン周りのゴムブロックは動き易くなるため、スタッドピン48の抜け落ちを少なくすることができる。
[実施例]
本実施形態のタイヤ10の効果を調べるために、種々の寸法の穴46がトレッド部に設けられたタイヤ10を用いて、スタッドピン48の抜け落ち(耐ピン抜け性)とタイヤ10の制動性能を調べた。評価の際には、2000ccクラスの乗用車(前輪駆動車)にタイヤ10を装着して乗用車を走行させてタイヤの評価を行った。
評価に用いたタイヤ10は、図1に示すタイヤ構造を有し、図2に示すトレッドパターン30を有するタイヤである。穴46の形状を変更した実施例1〜20のタイヤと従来例のタイヤがそれぞれ4本ずつ作製された。作製したタイヤ10のタイヤサイズは205/55R16である。タイヤ10は、JATMA YEAR BOOK 2010に規定されるリムに組まれ、JATMA YEAR BOOK 2010中の空気圧−負荷能力対応表に示される最大負荷能力に対応する空気圧がタイヤ10に充填された。タイヤ10の負荷荷重は2名乗車相当の荷重とした。
氷上路面の走行では、スタッドピン48の抜けは殆ど起こらないため、アスファルト路面及びコンクリート路面を含む乾燥路面を10000km走行させた後、トレッド部から抜け落ちたスタッドピン48の数を数えた。評価は、抜け落ちた数の逆数を用い、後述する従来例の値を100として指数で表した。指数の値が大きいほど、スタッドピン48の抜け落ちが少なく、耐ピン抜け性が高いことを示す。
制動性能は、走行速度40km/時から乗用車にフルブレーキで制動をかけたときの制動距離を複数回測定しその平均値を求めた。評価は、後述する従来例の上記測定値の平均値を100として指数で表した。指数の値が大きいほど、制動性能が高いことを示す。
(従来例、実施例1〜5)
従来例は、スタッドピン48用の穴が固定領域50のみからなり、スリット領域52が設けられない例である。実施例1〜5は、表1に示すように、スリット領域52の深さdepth、長さd/直径D、幅W/直径Dを固定して、スリット領域52の延びる方向を種々変更した例である。表1中のスリット領域の「数」とは、スリット領域52の配置数であり、図4(a)に示す例では「数」が1であり、図5に示す例では「数」が2である。なお、以下の実施例1〜20において、穴46の深さはいずれも9mmであり、スタッドピン48の長さはいずれも10mmである。下記表1に各実施例の仕様と評価結果を示す。
Figure 0005849600
表1の評価結果からわかるように、固定領域50から延びるスリット領域52は、少なくともタイヤ幅方向に延びる成分を有すること、いいかえると、スリット領域52の延びる方向がタイヤ周方向と一致しないことが、耐ピン抜け性と制動性能を向上する点で好ましく、スリット領域52の延びる方向の、タイヤ幅方向に対する角度は0〜45度であることがより好ましい。
(実施例1,6〜9)
実施例6〜9は、実施例1に用いた穴46のうち、スリット領域52のdepthを0.3〜2.2mm変化させた例である。下記表2に各実施例の仕様と評価結果を示す。
Figure 0005849600
表2の評価結果からわかるように、スリット領域52の深さdepthは、0.5〜2.0mmであることが、耐ピン抜け性及び制動性能をより一層向上させる点で好ましい。
(実施例1,10〜13)
実施例10〜13は、実施例1に用いた穴46のうち、スリット領域52の長さd/直径Dを0.04〜0.42の範囲で変化させた例である。下記表3に各実施例の仕様と評価結果を示す。
Figure 0005849600
表3の評価結果からわかるように、スリット領域52の長さd/直径Dは、0.05〜0.40であることが、耐ピン抜け性及び制動性能をより一層向上させる点で好ましい。
(実施例1,14〜17)
実施例14〜17は、実施例1に用いた穴46のうち、スリット領域52の幅W/直径Dを0.04〜0.42の範囲で変化させた例である。下記表4に各実施例の仕様と評価結果を示す。
Figure 0005849600
表4の評価結果からわかるように、スリット領域52の幅W/直径Dは、0.05〜0.40であることが、耐ピン抜け性及び制動性能をより一層向上させる点で好ましい。
(実施例18〜20)
実施例18〜20は、実施例1に用いた穴46と異なりスリット領域52の配置数を変更した。実施例18,19では、スリット領域52の配置数を2つとした。実施例18,19は、図5に示す形態の穴46を有する。
実施例18では、スリット領域52の深さdepthを0.5mmとし、スリット領域52の延びる方向のタイヤ幅方向に対する傾斜角度を20度、200度とした。スリット領域52の突出基部の幅Wを考慮すると、スリット領域52は、タイヤ幅方向に対して0度〜40度、180度〜220度の範囲に位置する。2つのスリット領域52は2つの固定領域50を挟んで対向する位置に設けられている。実施例19では、スリット領域52の深さdepthを1.0mmとした以外は実施例18と同じ仕様である。実施例20は、スリット領域52の数を3とし、3つのスリット領域52の延びる方向のタイヤ幅方向に対する傾斜角度を30度、150度、270度とし、360度を3等分した。スリット領域52の突出基部の幅Wを考慮すると、スリット領域52は、タイヤ幅方向に対して10〜50度の範囲、130〜180度の範囲、及び250〜290度の範囲に位置する。下記表5に各実施例の仕様と評価結果を示す。
Figure 0005849600
実施例19は、実施例1とスリット領域52の数のみが異なる。実施例19と表1の実施例1とを比較すればわかるように、実施例19は、実施例1対比耐久ピン抜け性及び制動性が向上することがわかる。実施例20のように、スリット領域52を3つ設けると、トレッド部のスタッドピン48周りのブロックの変形が大きくなり、制動性が低下する。実施例18〜20の例からもわかるように、2つのスリット領域52を2つの固定領域50を挟んで対向する位置に設けられることが耐久ピン抜け性及び制動性を向上させる点で好ましいことがわかる。
以上の評価結果より、本実施形態及びその変形例の効果は明らかである。
10 空気入りタイヤ
12 カーカスプライ層
12a,12b カーカスプライ材
14 ベルト層
14a,14b ベルト材
16 ビードコア
18 トレッドゴム部材
18a 上層トレッドゴム部材
18b 下層トレッドゴム部材
20 サイドゴム部材
22 ビードフィラーゴム部材
24 リムクッションゴム部材
26 インナーライナゴム部材
28 ベルトカバー層
30 トレッドパターン
32 傾斜溝
36 中央陸部
38 ブロック
40 外側陸部
42,44 サイプ
46 穴
46a 底部
48 スタッドピン
48a 基部
48b 先端部
50 固定領域
52 スリット領域

Claims (8)

  1. 空気入りタイヤであって、
    前記空気入りタイヤのトレッド表面にスタッドピンの埋め込み用の穴が複数設けられたタイヤトレッド部と、
    前記穴に埋め込まれた複数のスタッドピンと、を有し、
    前記トレッド表面外側から前記穴の輪郭をみたとき、前記穴のそれぞれは、前記スタッドピンそれぞれの外周と接触して前記スタッドピンそれぞれを固定する円弧形状の固定領域と、前記スタッドピンそれぞれの外周と接触せず、前記固定領域の一部から前記円弧形状の外側に突出して延びる2つの直線が突出先端で接続された形状を成すスリット領域と、を有することを特徴とする空気入りタイヤ。
  2. 前記固定領域から延びる前記スリット領域は、少なくともタイヤ幅方向に延びる成分を有する、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
  3. 前記スリット領域の延びる方向は、タイヤ幅方向に対して0〜45度傾斜している、請求項2に記載の空気入りタイヤ。
  4. 前記スリット領域は、前記穴の深さ方向において、前記トレッド表面を含む表面部分に設けられている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
  5. 前記スリット領域が前記穴の深さ方向に延びる前記スリット領域の深さは、0.5〜2.0mmである、請求項4に記載の空気入りタイヤ。
  6. 前記円弧形状の直径をDとし、前記スリット領域突出長さをdとしたとき、比d/Dは、0.05〜0.40である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
  7. 前記円弧形状の直径をDとし、前記スリット領域が前記円弧形状の一部から前記円弧形状の外側に突出するときの突出基部の幅をWとしたとき、比W/Dは0.05〜0.40である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
  8. 空気入りタイヤであって、
    前記空気入りタイヤのトレッド表面にスタッドピンの埋め込み用の複数の穴が設けられたタイヤトレッド部と、
    前記穴に埋め込まれた複数のスタッドピンと、を有し、
    前記穴のそれぞれは、前記スタッドピンそれぞれの外周と接触して前記スタッドピンそれぞれを固定する2つの円弧形状の固定領域と、前記スタッドピンそれぞれの外周と接触せず、前記固定領域の一部から前記円弧形状の外側に突出して延びる2つの直線が突出先端で接続された形状を成す、2つのスリット領域と、を有し、
    前記トレッド表面外側から前記穴をみたとき、前記2つのスリット領域は、前記2つの固定領域を挟んで対向する位置に設けられている、ことを特徴とする空気入りタイヤ。
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