以下、添付図面を参照しながら、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。ここで、図中、同一の記号で示される部分は、同様の機能を有する同様の要素である。また、本発明において、値の範囲を"〜"を用いて表した場合は、その両境界の値は、範囲内に含まれるものとする。
<構成>
本発明の形状測定機の第1実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の形状測定機の構成を示す概念図である。図1に示すように、本発明の形状測定機100は、支持部102を支点104として揺動するアーム106と、被測定物108に接触し、前記被測定物108の表面形状に合わせて上下に変位する触針110と、揺動による前記アーム106の変位を検出するための、変位センサ112と、スケール型検出器114と、を主に備えている。
触針110は、アーム106の一方の端部である第1端部116に設置され、変位センサ112及びスケール型検出器114の少なくとも一部は、アーム104の他方の端部である第2端部118に設置されている。支持部102は、アーム106の中央よりも第2端部118側寄りに設置されている。即ち、第1端部116の方が、第2端部118よりも長くなるように構成されている。
変位センサ112は、触針110の上下運動に連動して揺動するアーム106の微少な動きを高精度に検出するためのセンサである。変位センサ112は、アーム106の微小な変位を測定できるものならばどのようなものでも採用できるが、差動変圧器型センサ、または、静電容量型センサ、または、渦電流型センサを好適に用いることができる。特に、高精度に微少な変位を測定できる差動変圧器型センサが好ましい。
スケール型検出器114は、スケールに形成された目盛りを電気的、磁気的、あるいは光学的方法により読み取ることでアーム106の動きを読み取る検出器である。スケール型検出器114も様々なタイプのものが存在しており、どのようなタイプのものも採用することができるが、光学的方法により読み取るタイプの検出器が好ましい。光学的方法で読み取るタイプのものは、高精度であり、かつ、周囲の電場、磁場に影響を受けないからである。
変位センサ112は、センサ全体をアーム106に設置しても良いが、通常は、その一部をアーム106に設置することになる、例えば、図1に示す変位センサ112の図は、差動変圧器型センサを示しているが、この図に示すように、アーム106に設置されているのはコア120であり、コイル(あるいはトランス)122は、アーム106に設置されていない。
また、例えば、渦電流型のセンサを用いた場合は、コイル等の主要な部分を外部に設置し、アーム106には渦電流を発生させられる検知部のみが設置される場合もある。
よって、本発明において、変位センサ112には、センサを構成する部品だけで無く、検知される部分もその一部として含まれるものであり、アーム106の第2端部118には、検知される部分も含んだ変位センサ112のうち、少なくとものその一部が設置されている。
スケール型検出器114においても変位センサ112と同様に、検知される部分を含んだスケール型検出器114のうち、少なくともその一部がアーム106の第2端部118に設置されている。
このように、微小な変位を測定可能な変位センサ112と、大きな領域全体の形状を正確に測定できるスケール型検出器114の両方を備えているので、被測定物108の微少な凹凸も、広い範囲全体の輪郭も両方を測定することができる。
また、触針110が設置されている第1端部116には、変位センサ112もスケール型検出器114も設置されていない。そのため、触針には、それらの重量が付加されないので、第1端部116の慣性モーメントが小さくなり、微小な凹凸に対する触針110の追従性を良好にすることができる。
更に、支持部102は、前記アームの中央よりも前記第2端部側寄りに設置されている。即ち、本発明の形状測定機は、支点104から第1端部116の先端までの長さの方が、支点104から第2端部118の先端までの長さよりも長くなるように構成されている。
これにより、てこの原理で、触針110は小さな力でも上下動が可能になるので、被測定物108表面の微小な凹凸に容易に追従することができ、高精度に凹凸形状を測定することができる。
また、触針110が設置されている第1端部116には、変位センサ112もスケール型検出器114も設置されていないので、図2(図2は、触針を上に向けて測定しているところを示す概念図である)に示すように、触針110を上に向けて、触針110より上側にある被測定物108の表面を測定することができる。
このときは、触針110を上向きにし、触針110に対して上向きの力を少し加えるだけで、上側の被測定物108の測定が可能になる。これにより、測定対象面が下向きについている測定対象物についても、容易に測定することができる。
更に、触針110が設置されている第1端部116には、変位センサ112もスケール型検出器114も設置されておらず、かつ、第1端部116の方が第2端部118よりも長くなるように構成されているので、例えば、円筒の内壁の形状測定のように、触針を被測定物の内部に深く挿入して測定することもできる。
このように、本発明の形状測定機は、測定対象面が、従来の装置では測定しにくい位置にあっても測定することができる。
次に、本発明に係る形状測定機が備えているスケール型検出器の一実施形態について図面を参照して説明する。図3は、本発明の形状測定機の概略図である。図3(A)に示すように、スケール型検出器114は、スケール302(目盛板)と、スケール読み取り部304と、演算部(不図示)とを主に備えて構成される。
スケール302は、アーム106の第2端部118の先端面300に設置されており、目盛りが連続的に形成されている。先端面300は、曲面になっていることが好ましく、特に、支点104を中心とした円弧であることが好ましい。より詳しく言えば、先端面300のアーム106の回動面に平行な断面の形状が支点104を中心とした円弧であることが好ましい。
先端面300が、支点104を中心とした円弧であることにより、アームが支点104を中心として回動(揺動)した場合においても、スケール読み取り部304と、スケール302との距離は常に一定になり、かつ、スケール読み取り部304に対するスケール302の角度も常に一定になる。
このため、スケール読み取り部304は、アーム106が回動しても、常に同じ条件でスケールを読み取ることができるので、外乱の影響も受けにくく正確にスケールを読むことができ、高精度にアームの変位を測定することができる。
スケール302は、先端面300に直接形成することもできるが、図3(B)に示すように、可撓性のシート状部材に目盛りを形成することでスケール302を製造し、このスケール302を先端面300に貼付することによって、先端面300にスケール302を形成することが好ましい。
曲面に直接、正確なピッチの目盛りを形成することは困難であるが、平面であるシート状部材に正確なピッチの目盛りを形成することは容易である。よって、シート状部材に正確なピッチの目盛りを形成したスケール302を先端面300に貼付することにより、容易に、かつ、高精度なスケール302を先端面300に形成することができる。
ここで、スケール302に使用される可撓性のシート状部材としては、プラスチック部材、金属部材等の可撓性部材を用いることができるが、特にアルミニウム、ステンレス、PETフィルム等を用いることが好ましい。
このように、可撓性のシート状部材でスケール302を製造し、それを曲面である先端面300に貼付することによって、極めて高精度の目盛りを有するスケール302を曲面に形成することできる。
これにより、高精度なスケール型検出器を構成することができる。
次に、本発明に係る形状測定機の一部である、校正治具について図面を参照して説明する。本発明に係る校正治具は、ボールゲージと段差ゲージとから構成される。図4は、本発明に係る形状測定機の校正について説明するための説明図である。図5は、本発明の校正治具である段差ゲージの概略説明図である。図6は、ボールゲージの球の計算形状説明図(触針高さの校正)である。図7は、ボールゲージの球の計算形状説明図(アームの長さの校正)である。
図4に示すように、本発明に係る校正治具であるボールゲージ402は、アーム106の長さ(支点104から触針110までの水平方向長さ)をLa、支点104から変位センサ112までの水平方向長さをL0、アーム106が揺動したときの支点104での水平位置からの角度をθとする。また、ボールゲージ402は、ブロック421と、ブロック421の上面に立設された支柱422と、支柱422の上に固着された直径及び真球度があらかじめ高精度に求められている球423と、を備えて構成されている。
また、図5に示すように、本発明に係る校正治具である段差ゲージ502は、基準ベース531の上面にブロックゲージ532が取り付けられて構成されている。基準ベース531の上面は、X方向に平行に置かれるようになっており、上面は平面度が精密に仕上げられている。ブロックゲージ532の厚さは既知であり、これによって、基準ベース531の上面とブロックゲージ532の上面との距離Ho(段差寸法)が既知となっている。
この校正治具を用いることにより、アーム長さ、触針先端の球の半径を高精度に校正することができる。
<動作>
次に、本発明の形状測定機の動作について説明する。図1を参照して、触針110は、所定の荷重を付加されて被測定物108の表面に載置される。触針110は、被測定物108に対して相対的に移動し、被測定物108の表面の凹凸に追従して上下運動を繰り返す。触針110を被測定物108に対して相対的に移動させる方法は、ステッピングモータ等により、アーム106を移動させてもよいし、被測定物108が載置されている台座を移動させてもよい。
触針110が、上下運動をすることにより、アーム106は、支持部102に支持された支点104を中心として回動する。このとき、アーム106の中心よりも、触針から離れた位置に支点104がくるように支持部102が配置されているので、第2端部118に変位センサ112とスケール型検出器114とが設置されているにもかかわらず、てこの原理により触針110は、小さな力で容易に上下運動をすることができる。
即ち、触針110は、被測定物108表面の微小な凹凸にも確実に追従することができるので、高精度に被測定物108表面の形状を測定することができる。
次に、触針110の上下運動に連動したアーム106の回動運動による変位を変位センサ112と、スケール型検出器114とが検出する。変位センサ112として差動変圧器型センサを用いた場合について説明すると、アーム106に連動して動くように設置されたコア120が、アーム106の回動に連動してコイル122内を移動する。
不図示の処理部は、コア120がコイル122内を移動したときにコイルに発生する誘起電圧を処理することにより、アーム106の変位量を求め、更に、アーム106の変位量から触針110の変位量を求める。これにより、被測定物108の表面形状を測定することができる。
差動変圧器型センサの代わりに、静電容量型センサ、渦電流型センサを用いた場合も、通常それらのセンサが使用される方法により、アーム106の変位量をもとめ、アーム106の変位量から触針110の変位量を求める。
これらの変位センサを用いることにより、被測定物108の表面の凹凸形状を高精度に測定することができる。静電容量型センサとしては、例えば東京精密製のCADICOM(キャディコム)シリーズが好適に使用しうる。センサとしてはE-DT-CA21Aなどを使用すればよい。応答周波数は4kHzと非常に高く高分解能、高応答速度で測定が可能である。
また、触針110が被測定物108の表面を走査しているとき、スケール型検出器114もアーム106の変位を測定し、不図示の処理部によりアーム106の変位から触針110の変位を算出する。図3を参照して、LD(Laser diode)や、LED(Light emitting diode)などで構成される発光部306からスケール302に光が照射される。
照射された光は、スケール302で反射してPD(Photo diode)等で構成される受光部308で受光される。受光した光の明暗の信号が受光部によって電気信号に変換され、不図示の処理部によってアーム106の変位量が求められ、アーム106の変位量から触針110の変位量が求められる。
ここで、変位センサ112は、高分解能ではあるが変位が大きくなったときの精度があまり良くなく、広い検出範囲での線形性が良くない。一方、スケール型検出器114は、変位センサ112ほど高分解能では無いが、変位が大きくなっても精度が落ちず、広い検出範囲での線形性が良い。すなわち、スケール型検出器は高いリニアリティを確保できる。
よって、処理部(不図示)は、所定の検出範囲や変位以下の場合は、変位センサ112で測定した値を表示部(不図示)に表示し、所定の検出範囲や変位を超える場合は、スケール型検出器114で測定した値を表示部に表示させることができる。
これにより、従来は、別々の装置で測定していた、狭い範囲での高分解能測定と、広い範囲での輪郭測定の両方を一つの機械で測定することができる。
本発明の形状測定機は、変位センサ112とスケール型検出器114との2つの検出器を備えているので、一方の検出器を用いて、もう一方の検出器の校正や、原点補正とを行うこともできる。
ここで、差動変圧器等は感度が変化しやすく、校正の時にもその影響をうける。アーム106の腕の長さ(L)=(La2+Ha2)1/2は、感度係数K(差動変圧器等の感度変化の補正係数)と近いパラメータであり、Lが長くなれば変位が大きくなり(=感度が高い)、Lが短くなれば変位が小さくなる(=感度が低い)。そのため校正時にL(実際にはLa,Ha)とKを分離することは難しかった。本発明の形状測定機は、スケールも搭載しており、スケールは感度が変化しにくい(ほぼ変化しない)ことから、スケール信号を用いることでL(La,Ha)を正確に算出することができる。正しく求まったL(La,Ha)を用いることで、Kも正確に算出することができる。
よって、以下のように校正、補正を行うことができる。
差動変圧器等のセンサは温度変化に弱いので、感度(直線性の傾き)が変化する。それにより、ゼロ点(原点)がオフセットする。
精度検査時に、2つのセンサー(変位センサ、スケール)の相対位置を記憶しておき、測定機を校正(日々の校正)するときに温度変化に強いスケールを基準にズレ量を検出し、傾きとオフセットを補正する。
次に、本発明に係る校正治具を用いた校正方法について説明する。
図4に示すボールゲージ402、図5に示すブロックゲージ532を用いて、次に示すように校正を行う。
・触針高さHa、アーム長さLa及び触針110の先端の半径の各設計値を準備する。
・ボールゲージ402の球423を触針110でトレースしたときの測定値(球測定データ)及び段差ゲージの平行な2面をX方向に平行に置いて触針110でトレースしたときの測定値(段差測定データ)を求める。
・球測定データからボールゲージの球の計算形状値(あらかじめ正確に求められた既知の形状値と区別ためにこう呼ぶ)を算出する。
・算出された計算形状値の頂点を境とするX方向左右の差を算出する。
・算出された左右の差が小さくなるように、触針高さHaを校正する。
・計算形状値のZ方向上下の差を算出する。
・段差ゲージの平行な2面の計算段差寸法(あらかじめ正確に求められた既知の段差寸法と区別するためにこう呼ぶ)を、前記段差測定データから算出する。
・算出された計算形状値Z方向上下の差が小さくなるようにアーム長さLaを仮校正した後、算出された計算段差寸法が既知段差寸法になるようにアーム長さLaを校正する。
なお、触針110先端がルビーボールのように真球度が高く半径が正確に求まっている場合は、以上の方法でよいが、そうでない場合は、触針高さHaとアーム長さLaが校正された後に、ボールゲージの球の既知形状値と計算形状値との差から、触針110の先端の半径を校正する。
次に、図4,5を用いて校正方法を更に説明する。まず、触針高さHa、アーム長さLa及び触針110の先端の半径の各設計値を準備する。そして、ボールゲージ402を設置し、図4に示すように、球423の上側を触針110でトレースして球測定データを求める。
球測定データが得られると、準備した設計値を用いて、測定データから球423の計算形状値(図6及び図7)が算出される。図6はアーム長さLaが正しく触針高さHaが正しくないとき、図7は触針高さHaが正しくアーム長さLaが正しくないときの計算形状値を表している。実際の計算形状値は両方を合わせたようなものになるが、説明のために分離して示している。
次に、左側の計算形状値Mlと右側の計算形状値Mrとの差が算出される。この場合、計算形状値は頂点Moを境にしてX方向の左側と右側に分割し、頂点Moから左右同数の測定データの範囲Dl及びDrによって各々最小自乗法で円を求め、その円の半径差を計算形状値の差とする。理論上は、触針110の先端が基準線Hから外れていると、計算形状値は斜めに傾いた楕円形状(図6に示した例は、左斜め上から右斜め下方向に長軸を有する楕円形状)になる。計算形状値の左右の差を算出してその差を判別し、所定値より大きいと小さくなるような触針高さHaを計算して、その値に触針高さHaを仮校正する。触針高さHaが仮校正された場合は計算形状値の左右の差が再度判別され確認される。
計算形状値の左右の差が所定値より小さいと判断した場合、今度は、上側の計算形状値Muと下側の計算形状値Mdとの差を算出する。この場合、計算形状値は頂点MoからDuの範囲の上側の測定データとそこからDd(DuとDdは同数)の範囲の下側の測定データに分割し、上側と下側各々の測定データごとに最小自乗法で円を求め、その円の半径差を計算形状値の差とする。理論上は、算出されたアーム長さが入力された設計値と異なると、計算形状値は上下方向に長軸又は短軸を有する楕円形状(図7に示した例は、上下方向に長軸を有する楕円形状)になる。
計算形状値の上下の差を算出して、その差を判別し、所定値より大きいと小さくなるようにアーム長さLaを計算して、その値にアーム長さLaを仮校正する。アーム長さLaを仮校正した場合は計算形状値の上下の差を再度判別して確認する。
ここまでの処理で触針高さHaとアーム長さLaが真値に近づき、球423の計算形状値がより正確に既知形状値に近くなる。そこで、次に、ボールゲージ402の代わりに段差ゲージ502を形状測定機100にセットして、図5に示すように触針110でトレースする。そして、得られた段差測定データから計算段差寸法を算出し、算出された計算段差寸法が既知の段差寸法Hoになるようにアーム長さLaを校正する。校正方法は変位センサ112の検出量をGoとすると、次の式による。
La=Lo×Ho/Go
アーム長さLaが正確に校正されると、球測定データから計算形状値の左右の差を算出し、その差を判別して、所定値より大きい場合は小さくなるように触針高さHaを校正する。これによって、触針高さHaとアーム長さLaの校正が完了する。
この結果、球423の計算形状値が正確に算出されるので、図8(図8は、触針先端半径の校正説明図である)に示すように、球423の既知形状値Nと計算形状値Mとの差rを触針110の先端の半径として設定し、触針110の先端の半径をその値に校正する。この場合、触針110の先端が摩耗していたりしていると、既知形状値Nと計算形状値Mとの差rが測定位置によってばらつくので、そのときは触針先端の半径の校正はせず、触針を交換することができる。
以上のように、校正するためのゲージとして、球状のボールゲージを使用する。また、触針先端も球形状である。その線形性を確認するためにアームは支点を中心として旋回する機構を有し、その旋回して出た変位を円弧スケールで読み取る。すなわち、すべてが円運動で円運動の変位を角度として読み取ることが可能となる。
従来技術である、旋回運動を平行リンク機構を使用して直線運動とする場合においては、sinθ/θ分の誤差の補正が必要となり、連続してリニアリティをもった校正を行うことはできない。しかし、すべて円運動であり、それを球形状のゲージで校正する場合、角度の変化で換算することができる。
よって、円弧スケールを使用し、球形状の触針とボールゲージを利用することで、線形性を角度で割り出すことができ、高精度なリニアリティの補正を行うことができる。
<評価>
次に、本発明に係る形状測定機のアームの支点の位置を変えること、即ち、第1端部116の長さと第2端部118の長さの比を変えることによる、測定特性の変化について評価を行った。
(1)評価内容
第1端部116の長さと第2端部118の長さの比を変えることによる、変位センサ112とスケール型検出器114の感度(応答性)とリニアリティの評価を行った。変位センサ112は、差動変圧器型センサを用いた。
本評価において感度(応答性)とは、微小な変位に対する追従性のことをいい、リニアリティとは、測定範囲全域における空間精度のことを言う。本発明に用いられるセンサは、微小な変位に対する追従性において、高感度、高応答性を満足しながらも、広い測定範囲においては高いリニアリティを必要とする。
次に、各評価項目の測定方法について説明する。
感度の測定は、圧電素子を用い被測定物に微小変位を与え、圧電素子への入力(変位)に対する検出器の変位センサの変位を測定することによって行った。
リニアリティの測定は、レーザ測長器と可動ステージを用い、垂直に可動ステージ上に触針110を当てた状態でステージを動かし、ステージの移動量をレーザ測長器で計測し、触針の変位との差を計測することによって行った。
(2)評価結果
次に評価結果について説明する。下記の表1は、評価結果を表した表である。この表1に示されるように、支点から第1端部の先端までの長さ(第1端部の長さ)と、支点から第2端部の先端までの長さ(第2端部の長さ)との比が、1:1〜6:1の時は、感度、リニアリティとも良好であった。また、範囲が2:1〜4:1のとき最も感度、リニアリティが良好であった。
以上より、支点から第1端部の先端までの長さ(第1端部の長さ)と、支点から第2端部の先端までの長さ(第2端部の長さ)との比は、1:1〜6:1が好ましく、2:1〜4:1が最も好ましいことが分かる。
上記表において、◎は、評価結果が極めて良好であったことを示し、○は、良好であったことを示し、△は、良好では無いがぎりぎり製品として可能であることを示し、×は、製品として不良であることを示す。
次に、本発明の他の実施形態について説明する。
図9は、本発明の第2実施形態の形状測定機の構成を示す図である。
図9に示すように、第2実施形態の形状測定機900は、筐体に係合される支持部102に回転可能に支持されたホルダ910と、ホルダ910に着脱可能に係止されるアーム106と、アーム106の先端に設けられる触針110と、ホルダ910の変位に応じた信号を出力する変位センサ112(第2実施形態においては差動変圧器型センサ)と、ホルダ910の変位に応じた信号を出力するスケール型検出器114と、を有する。触針110が設けられたアーム106を、測定子920と呼ぶ。変位センサ112は、形状測定機900の筐体に固定された複数のコイルからなる固定部分と、ホルダ910に取り付けられた鉄心部分と、を有し、ホルダ910の回転により固定部分の複数のコイルに対する鉄心部分の位置が変化し、コイルに生じる交流信号(検出信号)の強度が変化する。スケール型検出器114は、ホルダ910に取り付けられ、支持部102を中心として放射線状に設けられた白黒パターンを有するスケールと、形状測定機900の筐体に固定されたスケールの変位(回転量)を読み取る検出部と、を有し、ホルダ910の回転によりスケールが回転すると、検出部が回転量(回転位置)を読み取る。なお、検出部にインデックススケールを用いてもよい。
変位センサ112およびスケール型検出器114については広く知られているので、これ以上の詳しい説明は省略するが、前述のように、差動変圧器型センサは、高分解能で、微小な変位を検出可能であるが、広い検出範囲での線形性が十分でない。一方、スケール型センサは、広い範囲で高精度の変位検出が可能であるが、差動変圧器型センサほどの高分解能を得るのが難しい。
このようなことから、変位センサは、高分解能(高感度)センサでかつ高応答性をもつセンサだが、高いリニアリティを有するセンサではない。また、スケール型センサは、広いレンジで高精度の変位測定が可能で高いリニアリティを有するが、高分解能、高応答性をもつセンサではない。
例えば、スケール型検出機構としては、レニショー製のFASTRACKシリーズやハイデンハイン製のERA700などのテープスケール等が好適に使用される。または、通常のステンレススケールやガラス面に刻まれた円弧スケールであってもよい。
先に述べたレニショー製のFASTRACKシリーズは、両面テープで曲面部分に貼り付ける。スケールには目盛りが20μmピッチで連続的に刻まれている。こうした両面テープによる貼り付け方式の場合、貼り付けの精度等で多少のずれ等が発生することはあるが、こうしたずれは、いくつかの厚みのブロックゲージを事前に多数測定して、相関直線を引いて較正しておくことで、そのずれ量を確認し補正することができる。こうしたスケールを利用する利点としては、連続的に多数の点で目盛りが等間隔で刻まれているため、その連続性を基に、リニアリティを含めて補正することができる点である。このようなことから、スケール型検出器は高いリニアリティを有し、リニアリティを補正することができる高リニアリティ検出器である。
すなわち、最初から曲線状に形成されたスケールの場合、その曲面の曲率精度の点でも、細かい間隔で高精度かつ等間隔に目盛りを刻むことは難しく、厳密なリニアリティを有するスケールを製作することは非常に高価になる。
テープスケールの場合、初期は直線状で製作されるため、レーザ光等による直線的な較正により、非常に細かいピッチで、高精度に等間隔の目盛りを刻んだスケールとすることができる。その直線スケールを曲面に貼り付ける際に、その貼り付け時に微小な誤差を生じることはあるが、テープスケールが有する固有の高精度、等間隔の目盛りの連続精度から、その貼り付けによるずれ量を見積もることが可能になる。
例えば、温度状態が苛酷な環境下においては、スケール自体の熱膨張などの影響も考えられる。しかし、環境に起因してスケールが熱膨張する場合は、スケールの一部が局部的に熱膨張するのではなく、一般的には全体的に一様に熱膨張すると考えられる。
こうした状態においては、その状態下で何段階かの構成サンプル測定を行い、多数点で較正を行なうことで、その温度環境に適した連続的な較正を行なうことができる。
こうしたスケール型センサとしては、レーザ測長などに用いられるレーザスケールもある。これは、光の干渉を利用したものであり、固体のスケールではなくても、非接触で正確に測長でき、ロングレンジで高い線形性が確保されておりスケールの役割を果たす。たとえば、東京精密製のDISTAX 300Aなどは、レーザの干渉を利用して測長することが可能である。レーザ干渉を利用したレーザスケールは広い範囲において屈折率が一様な媒質であれば安定した線形性を有する。そのため、高いリニアリティをもったスケールになる。
こうしたスケール型センサは、微小変位ではなく、ロングレンジで正確に距離を測定できるものであれば、レーザや固体のスケールに限らず、様々なスケールが好適に使用できる。
また、一方で差動変圧器の線形性は、差動変圧器のコア部がコイル部からどれだけずれるかによって、ずれ量が変化する。すなわち、一様に線形性がずれるのではなく、コアのコイルからの相対位置に応じてその線形性が失われる。
そこで、ある室温状態において、スケール型検出器から差動変圧型検出器のリニアリティのずれ量を評価しておき、次に、異なる温度環境下で、同様にスケール型検出器から差動変圧型検出器のリニアリティのずれを評価すると良い。
スケール型検出器から差動変圧器の温度環境による線形性のずれを基に、スケール型検出器におけるスケールの熱膨張による影響をある程度見積もることが可能である。
また、20μmピッチで5mmのレンジのスケールを想定しても、その間に250点もの目盛りが存在する。その目盛り位置の連続性を基に、いくつかの厚みのブロックゲージを測定し、その相関直線を基に測定対象の測定値を算出する。これにより、たとえ目盛り間であっても、その間を補間する機能をもたせることができる。すなわち、目盛りの連続性から、より高精度の測定を可能とする。
一方、離散的な測定では、その間の精度を穴埋めすることは困難である。すなわち、1つの点を基に較正する場合だと、その1点の絶対精度において多少の狂いを生じると、すべてのリニアリティの信頼性が失われるが、多数点が等間隔に連続して存在する場合、全体的な照合から、部分的な位置ずれ状態を確認でき、リニアリティ(線形性)の精度を安定的に確保することができる。
ただし、長い年月の使用においては、スケールを固定していた両面テープが徐々に浮き上がる等の問題が生じ、全体的に精度がずれてくる場合などもある。このような場合は、差動変圧型検出機構との相対的な精度ずれを観察しておくとよい。
差動変圧型の検出機構であっても、変位量が小さい場合、特に、原点付近は比較的リニアリティが確保されている。原点付近で互いのずれが大きい場合や、双方の検出機構において互いのゼロ点位置がずれてきている場合においては、スケールないしは差動変圧器の経時変化によるずれの影響を考慮し、互いの検出機構をチェックすることが可能となる。このようなチェック機能がない場合、連続的に使用し、精度較正を途中で行なうことができない場合においては、精度ずれが起こっているかどうかの確認をすることができない。
本願の較正によれば、1つのアームに及ぼされる変位が、検出原理が異なる2つのセンサで常時確認しているため、どちらかのセンサの状況が正常ではない場合においても、双方の相対的なデータ関係から、すぐさま異常を検知することが可能となる。
よって、標準サンプルを測定する較正作業を頻繁に行なわずとも、双方のセンサが出力するデータの整合性を確認することによって、互いの検出器の精度を自動的に診断することができ、その結果、長期にわたる使用においても正確性を確保しながら、精度よく測定することが可能となる。
第2実施形態では、変位センサ112およびスケール型検出器114の出力する検出信号は、図示していない信号処理部で処理される。信号処理部は、形状測定機900の筐体内に設けても、形状測定機900の筐体外に設けても、一部を形状測定機900の筐体内に残りを形状測定機900の筐体外に設けてもよい。
図10は、第2実施形態の形状測定機における、信号処理を行う部分の構成を示すブロック図であり、(A)は全体構成を、(B)はスケール信号処理部1061の構成を、(C)は差動変圧器信号処理部1062の構成を示す。
第2実施形態の形状測定機は、図10の(A)に示すように、スケール信号処理部1061と、差動変圧器信号処理部1062と、を有する。形状測定機では、触針110をワークWの表面に対して一定速度で移動して測定を行うため、変位センサ112およびスケール型検出器114の出力する検出信号の時間軸は、ワークWの表面上の距離に対応する。信号処理部における処理では、これを利用して信号処理を行う。
スケール信号処理部1061は、スケール型検出器114の出力する検出信号を処理して第1変位データを生成して出力する。例えば、スケール信号処理部1061は、図10の(B)に示すように、スケール型検出器114の出力する検出信号であるスケール信号に対して、デジタル信号に変換するA/D変換処理1064を行い、さらにデジタル信号に対して、長い距離における変位成分に対応する波長以下の成分を除去する第1フィルタ処理1065を行い、第1変位データを生成する。
スケール型検出器114は、測定子920の上下方向の変位をアーム106の円弧スケールでの回転量に変換して検出するため、回転量の変化を高さ変化に変換する。変換は、基本的には変換式で行えるが、実際の測定装置では各種の誤差が存在するために、実際に測定子920を正確に上下方向に変位させた場合の回転量、すなわちスケール型検出器114の検出信号を測定し、その関係から較正データを作成し、記憶する。そして、実際の検出信号を、較正データに基づいて較正する。
スケール信号処理部1061は、正確な変位が行われた時のスケール型検出器114の出力する検出信号と正確な変位との差を較正データとして記憶しており、第1変位データを生成する時には、較正データ分の補正も行う。
図11は、スケール信号処理部1061の較正データの作成処理を説明する図である。図11の(A)に示すように、支持部102で回動可能に支持されたアーム106の一端には測定子920が設けられ、他端にはスケール型検出器114の一部が設けられ、アーム106の他端の円弧に沿った変位(または回転量)を検出する。
図11の(B)に示すように、支持部102から測定子920までの回転半径をR1、支持部102からスケール型検出器114の円弧スケールまでの回転半径をR2とし、測定子920が上下方向に変位し、アームがθ回転した場合を考える。この場合、測定子920の上下方向の変位はR1sinθであり、円弧スケールの円弧に沿った変位量はR2θである。したがって、スケール型検出器114の円弧スケールに沿った変位量をdとすると、測定子920の上下方向の変位Dは、D=R1sin(d/R2)で表される。
上記のように、実際の測定装置では各種の誤差が存在するために、計算式からのずれ(誤差)が発生するので、較正データを作成し、補正を行う。図11の(A)に示すように、測定台1153上にブロックゲージ532を載置し、支持部102を固定し、測定子920をブロックゲージ532に接触させ、スケール型検出器114の出力する検出信号を読み取る。この動作を高さの異なるブロックゲージ532で行う。言い換えれば、高さの異なるブロックゲージを、視点を固定して測定する。この測定により、正確な変位が行われた時のスケール型検出器114の出力する検出信号と正確な変位との差である較正データが得られるので、それを記憶する。図11の(C)は、高さの異なるブロックゲージを測定した時のスケール型検出器114の検出信号の読取値の変化例を示す図である。
図10に戻り、差動変圧器信号処理部1062は、変位センサ112の出力する検出信号を処理して第2変位データを生成する。差動変圧器信号処理部1062は、変位センサ112の出力する検出信号に対して従来行われているのと同様の処理を行い、従来と同様の変位データを第2変位データとして出力することが可能である。
図10の(C)に示すように、差動変圧器信号処理部1062は、例えば、変位センサ112の出力する検出信号である差動変圧器信号に対して、デジタル信号に変換するA/D変換処理1066を行い、さらにデジタル信号に対して、触針110の歪み、ノイズ等を除去する第2フィルタ処理1067を行い、第2変位データを生成する。第2フィルタ処理1067では、例えば、触針110の先端半径が2μmの場合、2.5μm以下の成分を除去する。さらに、変位センサ112の出力する検出信号は、変位が大きい場合線形性が劣化するため、あらかじめ較正データを作成して補正した上で第2変位データ(表面粗さデータ)とすることが望ましい。
第2実施形態では、第1変位データおよび第2変位データは、そのまま出力される。言い換えれば、第2実施形態では、1回の測定で、第1変位データが示す輪郭形状データと、第2変位データが示す表面粗さデータを同時に得ることができる。
図12は、本発明の第3実施形態の形状測定機における、信号処理および選択を行う部分の構成を示すブロック図である。
第3実施形態の形状測定機は、図12に示すように、スケール信号処理部1061と、差動変圧器信号処理部1062と、選択部1263と、を有する。スケール信号処理部1061および差動変圧器信号処理部1062は、第1実施例と同じである。
選択部1263は、輪郭形状と表面粗さのいずれを測定するかを示す選択信号に応じて、スケール信号処理部1061の出力する第1変位データと、差動変圧器信号処理部1062の出力する第2変位データの一方を選択して出力する。具体的には、輪郭形状を測定する場合には、選択信号として第1変位データを選択する信号が入力され、選択部1263は、スケール信号処理部1061の出力する第1変位データを検出データとして出力する。また、表面粗さを測定する場合には、選択信号として第2変位データを選択する信号が入力され、選択部1263は、差動変圧器信号処理部1062の出力する第2変位データを検出データとして出力する。選択信号は、例えば、形状測定機のユーザが、装置に設けられた処理選択ボタンを操作することにより発生される。
第3実施形態では、選択部1263は、選択信号に応じて第1変位データと第2変位データのいずれかを選択して出力したが、選択を別の方法で行なうことも可能である。次に説明する第4実施形態では、選択部1263における選択を別の方法で制御する。
図13は、本発明の第4実施形態の形状測定機における、信号処理および選択を行なう部分の構成を示すブロック図、および選択信号の切り換えを説明する図である。
図13の(A)に示すように、第4実施形態では、図12に示した第3実施形態の構成に加えて、第1変位データおよび第2変位データを受けて、選択部1263における選択を制御する選択制御部1369を、さらに設けた構成を有する。なお、図13の(A)では、選択制御部1369は、第1変位データおよび第2変位データの両方を受けるように記載しているが、一方のみを受ける場合もあり得る。
前述のように、差動変圧器信号処理部1062の出力する第2変位データは、変位が大きくなると、誤差が増加する。図13の(B)は、実際の変位に対する第2変位データの値の変化例を示す。図13の(B)に示すように、第2変位データが、例えば上限閾値+Shと下限閾値−Shの範囲内であれば、第2変位データの値は、実際の変位に対して高い線形性で(直線で)変化する。これに対して、上限閾値+Sh以上の範囲および下限閾値−Sh以下の範囲では、線形性が劣化し、誤差が大きくなる。もちろん、この誤差は、較正により補正することが可能であるが、誤差は温度変化など環境に応じて変化すると共に、経時変化するため、高精度に補正することが難しい。そこで、第3実施形態の選択制御部1369は、第2変位データが上下限閾値±Sh以内、言い換えれば変位が±Shに対応する±Th以内の場合は、第2変位データを選択し、第2変位データが上下限閾値±Shの範囲外、言い換えれば変位が±Thの範囲外の場合は、第1変位データを選択するように、選択部1263を制御する。
なお、変位が上下限閾値±Thの範囲内であるか範囲外であるかは、スケール信号処理部1061の出力する第1変位データに基づいて決定することも可能である。
こうした補正場合は、すなわち線形性が確保されているとの判断を基に、第一の変位データによる補正を行なわない場合に相当する。第2の変位データである差動変圧器型検出機構であっても、ゼロ点付近は線形性が確保されており、第1の変位データに基づく補正を必要としない範囲であることが前提である。こうしたどの範囲を補正範囲とするかは、事前の較正において、第2の変位データがどの範囲まで線形性が確保されているかとみなすかによる。
輪郭形状を測定する場合、表面粗さについても同時に測定することが要望される場合がある。このような場合に、従来は、例えば、輪郭形状を測定した後、同じ表面の表面粗さを測定していたため、測定時間が長くなっていた。これに対して、第3実施形態では、変位が上下限閾値の範囲内であれば表面粗さデータが出力され、変位が上下限閾値の範囲外であれば輪郭形状データが出力され、表面粗さデータは輪郭形状データとしても使用できるので、全測定範囲に渡って輪郭形状データが得られると共に、変位が上下限閾値の範囲内については表面粗さデータも同時に得られることになる。
図14は、変位が小さい範囲内で変化する場合の第2変位データ(表面粗さデータ)と第1変位データ(輪郭形状データ)の例を示す図である。図14の(A)は、第2変位データ(表面粗さデータ)の変化例を示し、図14の(B)は、第2変位データ(表面粗さデータ)の変化を拡大して示している。図14の(C)は、第1変位データ(輪郭形状データ)の変化例を示し、図14の(D)は、第1変位データ(輪郭形状データ)の変化を拡大して示している。
図14の(B)に示すように、第2変位データ(表面粗さデータ)は、分解能が高いため、拡大しても滑らかに変化する。第2変位データ(表面粗さデータ)は、例えば、分解能が1nmである。これに対して、図14の(D)に示すように、第1変位データ(輪郭形状データ)は、第2変位データに比べて分解能が低いため、拡大した場合ステップ状に変化する。第1変位データ(輪郭形状データ)は、例えば、分解能が50nmであり、輪郭形状を示すデータとしては十分な分解能を有する。そのため、輪郭形状を示す場合であれば問題はなく、第4実施形態で、変位が上下限閾値の範囲外の場合に輪郭形状を示すデータとして第1変位データが出力されても特に問題は生じない。また、図14の(B)と(D)に示すように、表面粗さを表すデータとしては、第1変位データ(輪郭形状データ)の分解能は不十分である。上記のように、第4実施形態では、変位が上下限閾値の範囲内であれば、輪郭形状を示すデータとして第2変位データ(表面粗さデータ)が出力されるので、表面粗さを測定することも可能である。
第1から第4実施形態では、スケール型検出器114および変位センサ112の出力する検出信号は、それぞれ信号処理されて第1および第2変位データにされた後、両方同時にまたは一方を選択して出力されるが、出力されるデータは、スケール信号および差動変圧器信号であった。
しかし、スケール信号(第1変位データ)および差動変圧器信号(第2変位データ)は、分解能および感度は異なるが、ワークの同じ部分を測定した信号であり、相互に関係している。そこで、スケール信号(第1変位データ)および差動変圧器信号(第2変位データ)を相互に補正して、要求に適した測定データを生成することが望ましい。以下に説明する実施形態では、このような補正処理が行われる。
前述のように、スケール型検出器114が出力するスケール信号は、高分解能ではないが、広い検出範囲に渡って高い線形性を有する。一方、変位センサ112が出力する差動変圧器信号は、高分解能であるが、広い検出範囲における線形性は不十分である。そこで、補正の基本的な処理は、差動変圧器信号(第2変位データ)の長周期成分をスケール信号(第1変位データ)の長周期成分に一致させるように補正データを作成し、補正データの分だけ差動変圧器信号(第2変位データ)を補正することである。
補正処理は、各種の変形例があり得る。まず、変位センサ112およびスケール型検出器114の出力する検出信号に基づいて生成した補正データを、触針110をワークWの表面に対して一定速度で移動させている移動中に出力するか、すなわちリアルタイムで出力するか、測定範囲について触針110のワークWの表面に対する移動が終了した後出力するか、の2つの場合があり得る。まず、リアルタイムで出力する場合について説明する。
図15は、第5実施形態の形状測定機における、信号処理を行う部分の構成を示すブロック図であり、(A)は全体構成を、(B)は差動変圧器信号処理部1062の構成を、(C)は差動変圧器信号処理部1062の別の構成を示す。
図15の(A)に示すように、信号処理を行う部分は、スケール信号処理部1061と、差動変圧器信号処理部1062と、補正処理部1570と、を有する。
スケール信号処理部1061は、図10の(B)に示す構成を有し、第1から第4実施形態と同様に、スケール型検出器114の出力する検出信号を処理して第1変位データを生成して補正処理部1570に出力する。第1変位データは、差動変圧器信号処理部1062の出力する第2変位データの線形性を補正するために使用し、補正は、スケール信号の長い距離における変位成分、すなわち距離的および時間的に長周期(長波長)成分を利用して行う。そのため、第1から第4実施形態と同様に、短い距離での変位成分、すなわち短周期(短波長)成分は必要ないので、所定の波長以下の成分については、除去する。
差動変圧器信号処理部1062は、変位センサ112の出力する検出信号を処理して第2変位データを生成して補正処理部1570に出力する。差動変圧器信号処理部1062は、第1から第4実施形態と同様に、図10の(C)に示す構成を有し、変位センサ112の出力する検出信号に対して従来行われているのと同様の処理を行い、従来と同様の変位データを第2変位データとして出力することが可能である。しかし、第2変位データは、スケール信号処理部1061の出力する第1変位データにより線形性が補正されるため、言い換えれば長周期(長波長)の成分は補正されるために必要ない。そのため、第5実施形態では、長周期(長波長)成分については、除去することが望ましい。
そこで、第5実施形態では、差動変圧器信号処理部1062は、図15の(B)に示すように、変位センサ112の出力する検出信号である差動変圧器信号に対して、デジタル信号に変換するA/D変換処理1066を行い、さらにデジタル信号に対して、触針110の歪み、ノイズ等を除去する第2フィルタ処理1067を行い、その後、補正点の間隔に対応する波長以上の成分を除去する第3フィルタ処理1568を行い、第2変位データを生成する。第2フィルタ処理1067は、例えば、図10の(C)と同じ処理である。第3フィルタ処理1568では、0.08mm、0.25mm、0.8mmなどの波長以上の成分を除去する。言い換えれば、第3フィルタ処理1568では、図10の(B)の第1フィルタ処理1065と逆のフィルタ処理が行われる。したがって、第5実施形態では、差動変圧器信号処理部1062では、バンドパスフィルタ処理が行われることになる。
さらに、後述するように、補正データを生成するために、差動変圧器信号に対して、スケール信号に対して行うのと同様の短波長成分の除去を行う場合があり、その場合には、図15の(C)に示すように、差動変圧器信号に対して、デジタル信号に変換するA/D変換処理1066を行い、さらにデジタル信号に対して、第1フィルタ処理1065を行い、補正用データを生成する処理を別途行う。
補正処理部1570は、第2変位データの長周期成分を、第1変位データに合わせるように補正する。
図16は、第5実施形態における信号処理および補正処理を説明する図である。
図16の(A)は、スケール型検出器114の出力するスケール信号またはそれをA/D変換したデジタル信号を示す。この信号に対して第1フィルタ処理1065を行うことにより、図16の(B)のような短波長成分を除去した第1変位データが得られる。
一方、図16の(C)は、変位センサ112の出力する差動変圧器信号またはそれをA/D変換したデジタル信号を示す。この信号に対して第2フィルタ処理1067および第3フィルタ処理1568を行うことにより、図16の(D)のような中間波長成分のみを残し、他の短波長および長波長成分を除去した第2変位データが得られる。
補正処理部1570は、図16の(B)の第1変位データと、図16の(D)の第2変位データの長波長の変位が一致するように補正する。具体的には、各位置において、図16の(B)の第1変位データと、図16の(D)の第2変位データの高さと傾きが一致するように補正する。補正は連続的に行ってもよいが、図16の(D)の第2変位データの補正点(黒丸で示す)の値を、図16の(B)の補正点の値に合わせるように、離散的に補正してもよい。これにより、図16の(E)に示す補正変位データが得られる。
補正は、スケール信号および差動変圧器信号の長波長成分を求める必要があるので、補正する位置の後の変位信号もある程度サンプリングする必要があり、さらに演算処理に若干の時間を要する。そのため、補正データは、リアルタイムではあるが、ある程度の時間遅延で出力される。
上記の例では、スケール信号のフィルタ処理により長波長成分を生成したが、スケール信号をA/D変換した変位データの移動平均、直前の所定サンプル数のデータの最小二乗線またはスプライン曲線等で、ステップを取り除いた輪郭形状データを生成することも可能である。
図17は、信号処理および補正処理をさらに説明する図である。この図は、緩やかに傾斜した平面を測定した場合のような、第1補正データ(スケール信号)が単純に増加する場合を例として説明する図である。
図17の(A)に示すように、第1変位データ(スケール信号)の値が線形に増加する。これに対して、第3フィルタ処理1568を行う前の差動変圧器信号は、図17の(B)に示すように、平均的な値が、中間点付近では第1変位データに一致するが、両側の領域では第1変異データより小さな値になるとする。この場合、例えば、図15の(C)に示すように、差動変圧器信号に第1フィルタ処理を行うと、図17の(B)に示す平均的な値の変化が得られる。この差動変圧器信号に第1フィルタ処理を行った値と、第1変位データの差を算出すると、図17の(C)で、Aで示すような変化になる。Aの符号を反転すると、Bに示すような補正データが得られるので、この補正データを第2変位データに加えれば、図17の(D)に示すような補正変位データが得られる。
図18および図19は、第5実施形態における具体的な測定例を示す図である。
測定対象のワークWは、図18の(A)に示すように、表面が平面である程度の粗さを有する。図18の(B)は、このワークWを水平に保持した状態で測定した差動変圧器信号または第2変位データを示す。図18の(C)は、このワークWを水平に保持した状態で測定したスケール信号または第1変位データを示す。
図18の(D)は、上記のワークWを傾けて保持した状態を示す。図18の(E)は、ワークWを傾斜して保持した状態で測定した差動変圧器信号または第2変位データを示す。図18の(F)は、ワークWを傾けて保持した状態で測定したスケール信号または第1変位データを示す。
図18の(B)に示すように、水平に保持したワークWを測定した第2変位データの最小二乗線S0は、ゼロレベルを示す基準線と一致する。同様に、図18の(C)に示すように、水平に保持したワークWを測定した第1変位データの最小二乗線S1も基準線と一致する。図18の(E)に示すように、傾斜して保持したワークWを測定した第2変位データの最小二乗線S2は、基準線に対して傾斜角に対応する角度を有するが、完全に直線ではない。図18の(F)に示すように、傾斜して保持したワークWを測定した第1変位データの最小二乗線S3は、基準線に対して傾斜角に対応する角度の直線となる。
補正処理部1570は、図18の(E)の最小二乗線S2を、図18の(F)の最小二乗線S3に一致させるように補正データを生成する。この補正データで補正した第1変位データは、図19に示すようになる。これにより、広い範囲で高い線形性を有する表面粗さ信号が得られる。
上記のように、連続的な補正データを算出してもよいが、長波長成分を補正するので、離散的に補正を行っても問題は生じない。そこで、例えば、図17の(A)から(D)において、黒丸で示した補正点についてのみ第1補正データと第2補正データが一致するように補正し、補正点の間は直線的に補正してもよい。補正点の間隔は、その間隔における差動変圧器信号の線形性のずれが所定値(狭範囲誤差)以下になるように決定する。
具体的には、スケール信号を定ピッチ間隔で読み取り、ピッチごとの傾きを求めると共に、差動変圧器信号をこのピッチ間隔で分割し、差動変圧器信号の平均的なピッチ間の傾きが、スケール信号のピッチごとの傾きと一致するように、係数をかける。差動変圧器信号の平均的なピッチ間の傾きは、例えば、最小二乗線、スプライン曲線等により算出する。そして、ピッチ間の端点が一致するように、2つのデータを重ね合わせ、補正変位データを算出する。
リアルタイムで出力する別の方法は、あらかじめ変位センサ112とスケール検出機構の長波長成分の差を測定し、補正処理部1570が測定した差を補正データとして記憶しておき、差動変圧器信号処理部1062が出力する第2変位データに補正データを加えて補正変位データを生成する。変位センサ112とスケール検出機構の長波長成分の差の測定は、随時行い、補正データを更新することが望ましい。
変位センサ112とスケール検出機構の長波長成分の差の測定は、上記の図17で説明した連続的に補正データを生成する方法および離散的に補正データを生成する方法が適用可能であるが、リアルタイムで行う必要は無いので、時間を掛けて高精度の補正データが得られるようにすることが可能である。また、前回の測定時のデータから変位センサ112とスケール検出機構の長波長成分の差を算出して、補正データを更新してもよい。
なお、補正データを記憶する場合、全検出範囲についての測定データを記憶する必要があるので、例えば、あらかじめ真直度の良好なワークを傾斜させた表面を測定して、図15の(A)および(B)に示すようなスケール信号および差動変圧器信号を生成し、両方に長波長成分のみを残処理を行い、2つのデータの差を算出する。算出した差に基づいて、差動変圧器信号の値に対して差を近似する多項式を算出して記憶するか、または差を差動変圧器信号の値に対してマッピングしたルックアップテーブルを作成して記憶する。実際に測定を行う場合には、差動変圧器信号の値に対して記憶した多項式を利用して差を算出するか、または差動変圧器信号の値に対するルックアップテーブルに記憶された差を読み出して、この差を差動変圧器信号の値に加算して補正変位データを算出する。
補正変位データの生成を、リアルタイムで行わず、全測定範囲での触針110の移動が終了した後行う場合にも、上記と同様の処理が適用可能であるが、処理時間に余裕があるので、より高精度の処理が可能である。
補正を補正点で離散的に行う場合、スケール信号は、補正点で変位を高精度で検出できればよい。そのため、例えば、光学式のスケール型検出機構であれば、白黒パターンは連続的に存在する必要はなく、補正点に対応して存在すればよい。
図20は、変位を離散的に高精度で検出する光学式のスケール型検出機構の例を示す図である。
図20の(A)に示すように、スケール2081には、支持部102を中心として、放射線状に複数の黒線2082が、間隔をあけて形成されている。図20の(B)は1本の黒線2082を示す図であり、周辺は透明である。
図20の(C)は、受光素子2085を示し、受光素子2085は2分割素子で、同じ形状で同じ特性の2個の受光部2086と2087を有する。
図20の(D)に示すように、スケール2081を挟むように検出部を設け、検出部は、光源2091と、光源2091からの光を平行光にするレンズ2092と、スケール2081の黒線2082が形成された側に近接して設けられた受光素子2085と、受光素子2085の信号を処理する信号処理部2090と、を有する。信号処理部2090は、受光素子2085の2個の受光部2086と2087の出力信号の差を演算するアナログ回路を有する。
図20の(E)に示すように、2個の受光部2086と2087の前に黒線2082が存在しない時には、2個の受光部2086と2087の出力は同じ強度であり、差信号はゼロになる。黒線2082が2個の受光部2086と2087の一方に重なり始めると、2個の受光部2086と2087の一方の出力が減少し、差信号は、例えば減少を始める。そして、黒線2082が2個の受光部2086と2087の一方と重なると、差信号は最小になる。その後、さらにスケール2081が移動すると、2個の受光部2086と2087の一方との重なりが減少して出力が増加する一方、他方と重なり始めるので、他方の出力が減少し、差信号は急激に増加する。そして、スケール2081が2個の受光部2086と2087に等しく重なると、差信号はゼロになる。その後、黒線2082がさらに移動して2個の受光部2086と2087の他方と重なると、差信号は最大になり、その後減少し、ゼロになる。したがって、ゼロクロスを高精度で判定できるので、その点を補正点とする。黒線2082が形成されたスケール2081について、信号がゼロクロスする位置をキャリブレーションしておけば、補正点の絶対的な変位を正確に求めることができる。
変位センサ112とスケール型検出器114のホルダ910および測定子920に対する位置は、任意に設定可能である。例えば、図9では、変位センサ112とスケール型検出器114は、支持部102に対し測定子920と反対側に設けたが、図21に示すように、変位センサ112を、測定子920と同じ側に設けることも可能である。これにより、支持部102に対する2個のセンサの回転モーメントを小さくすることができ、測定子920を規定の測定圧にするための質量を小さくできる。その結果、支点に回転可能に支持される揺動部の質量を小さくして応答性を向上できる。
以上、実施形態を説明したが、各種の変形例が可能であるのはいうまでもない。
例えば、スケール型検出器114は各種の形式および形状のものが使用可能であり、信号処理も各種変形例が可能である。
<校正方法・校正システム>
次に、本発明の他の実施形態について説明する。本発明の形状測定機は、以下に説明する形状測定・校正装置として用いることも出来る。この形状測定・校正装置は、輪郭形状を測定する輪郭形状測定の校正装置であって、被測定物の形状測定も可能なものである。これについて図面を参照して説明する。
図22(形状測定・校正装置の概念図)に示すように、この形状測定・校正装置は、円弧状または球状の校正治具200と、校正治具200の表面に接触する触針110と、触針100に対して校正治具200を相対的にスライド移動させる送り機構(不図示)と、触針100を一端に有し触針110の変位を伝える、支点104を中心に回動するアーム106と、アーム106に少なくとも一部が設置されたスケール型検出器114とを主に備えて構成される。
この形状測定・構成装置は、図1に示される本発明の実施形態に校正治具200を含めることにより構成することも出来る。
最初に、本発明の形状測定装置及び形状測定・校正装置(本発明のすべての実施形態を含む:総称として以下単に形状測定装置と称する)が、どのようにして被測定物を測定し、その測定結果を補正するかについて図23(被測定物の表面形状測定と測定データの補正方法説明するための説明図)を参照して説明する。図23の(a)の上図は、被測定物108の表面を触針110でなぞる様子を表した図である。記号232で示される点線は、触針110の先端にある球状部230の中心の軌跡を示している。
形状測定装置は、図23(a)の上図に示すように、触針110が被測定物の表面に接触しながら水平方向に移動することにより、触針110の球状部230の中心の軌跡232をデータとして取り込む。球状部230は、真球に近い形状が好ましく、真球に近くなるように形成されている。球状部230は、被測定物108と接触する表面に露出した部分のみが真球に近い形状であれば良い。
ここで、軌跡232は、球状部230の中心の軌跡なので、球状部230の半径rだけ被測定物の表面から離れた位置になる。そこで、形状測定装置は、半径rの分だけ補正を行う。補正の方法は、図23の(a)の下図に示すように、軌跡232の各点において、その点の接線の法線方向に距離rだけその点を移動した地点を被測定物の表面形状とする。
これにより、被測定物の表面形状を極めて正確に得ることが出来る。しかしながら、従来においては、図23(b)に示すように、新品状態の球状部230aが、使用により摩耗することによって真球形状から逸脱し摩耗した球状部230bに変化して、球状部230bの半径が一様では無くなり、補正時において半径のばらつき分の誤差を生じていた。また、新品時においても、球状部230は、やはり真球からのずれをいくらか有しているため、半径rのばらつきよって誤差を有していた。
半径rのばらつきの影響について図24を参照して説明する。図24は、球状部230の形状による球状部中心Cと接触点との距離の違いを示した図である。図24の(a)は球状部230が縦長の楕円形状の場合、(b)は球状部230が真円の場合、(c)は球状部230が横長の楕円形状の場合を示している。
(a)を参照すると、球状部230が被測定物108と接触し、被測定物108上を接触しながら移動していったとき、球状部230の中心Cと、球状部230と被測定物108との接触点との距離(半径r)は、上図面から下図面にかけてだんだん小さくなっていることが分かる。このように、球状部230が縦長楕円の場合は、被測定物108との接触位置が球状部230の横側になるにつれて、中心Cと接触点との距離(半径r)は小さくなる。
次に(c)を参照すると、球状部230が横長の楕円形状の場合は、その逆になり、被測定物108との接触位置が球状部230の横側になるにつれて、中心Cと接触点との距離(半径r)はだんだん大きくなる。球状部230が真球である(b)においては、球状部230のどの部分が被測定物108と接触しても接触点と中心Cとの距離(半径r)は一定である。
本発明者等は、鋭意研究の結果、上述したように、触針110の先端の球状部230の形状変化による誤差の発生原因について突き止め、更にその誤差を減少させる方法について発明した。以下にその誤差を減少させる方法について説明する。
図25を参照して説明する。図25は、真球形状の校正治具200と、それに接触した球状部230を有する触針110との成す角度について示した図である。この図に示すように、θ1からθ3を、以下に示す角度とする。
・θ1:鉛直方向(直線LV)と、球状部230の中心Cと球状部230が校正治具200に接触している点とを通る直線L1と、の成す角度
・θ2:球状部230の中心Cを通って触針の長手方向に平行な直線L2と直線L1との成す角度
・θ3:鉛直方向(直線LV)と、直線L2との成す角度
・校正治具200の半径はR1
・球状部230の半径はr
ここで、直線L2は、アーム106に対して垂直になる。また、θ3は、図22に示すようにアーム106が水平方向に対して成す角度と同じになる。これは、初等幾何の問題であり、明らかなので証明は省略する。また、図25からθ2=θ1+θ3となることが分かる。
次に校正方法について説明する。形状測定装置は、図22、図25に示すように真球形状を成す校正治具200の表面の形状を測定する。これは、触針110先端の球状部230を校正治具200の表面に接触させ、水平方向に触針110と校正治具200とを相対的に移動させることにより行われる。
そのとき、形状測定装置は、水平方向の移動距離xと、触針110の上下方向の変位と、触針110の上下方向の移動によるアームの回動角度θ3の値(図22)と、を関連づけて記憶する。次に、水平方向の移動距離xと触針110の上下方向の変位とから図23に示されるような軌跡232を求め、軌跡232の各点での接線の法線方向を求めることにより、その法線方向と鉛直方向との成す角度であるθ1を求める。
これにより、図26、図27に示すデータを得ることが出来る。図26は、校正治具の移動量(校正治具と触針110との相対的移動量)と、θ1との関係を示すグラフであり、図27は、校正治具の移動量(校正治具と触針110との相対的移動量)と、θ3との関係を示すグラフである。
図26、図27ともに予め既知のデータとして、断面が真円である先端部230を用いて測定したデータ(真円データとして記載)と、断面が縦長楕円である先端部230を用いて測定したデータ(縦長楕円データとして記載)と、断面が横長楕円である先端部230を用いて測定したデータ(横長楕円データとして記載)とを記載している。
上記で言う断面とは、アーム106の回動面で先端部230を切ったときの断面である。これらのデータは、真円、縦長楕円、横長楕円の形状が既知のものを使用して得られた既知のデータである。校正対象の形状測定装置(または校正対象の触針110)を用いて真球状であり既知のサイズの校正治具を測定した結果が校正データとして示されている。
ここで、図26、図27を参照すると、今回測定した校正データは、真円データと横長楕円データの間に位置している。これは一例として示したもので、実際は、校正対象触針110の先端の球状部230の形状により、データの位置は変化することになる。
次に図28(校正治具の移動量と球状部230の半径とを示したグラフ)を参照して説明する。図26、図27で得られたグラフより、校正対象の球状部230の形状は、真円と横長楕円の間であることが分かる。これより、図28において、校正対象の球状部230の先端半径rは、横長楕円データと真円データとの間になるはずなので、横長楕円データと真円データとの間に校正データとして曲線を引く。
この曲線の引き方としては、横長楕円データと真円データとの中間に来るように引いても良いし、図26、図27のデータから真円データと横長データとのうちどちら側に何%寄っているかを求めて、その割合通りに片方に寄せて曲線を引いてもよい。また、図26〜図28において、既知のデータを3種類のみ記載しているが、既知のデータの種類を増やしておくことにより、校正データがどの既知データと既知データとの間に位置するかを調べて、その結果に基づいて図28において校正データの曲線の位置を求めることが出来るので、より正確に校正データの曲線を引くことができ、校正対象の球状部230の半径をより正確に推測することが出来る。
次に、図26と図27とから、校正治具の移動量と、θ1、θ3との関係が分かるので、図28において、横軸の校正治具の移動量をθ2に変えたデータを求める。θ2=θ1+θ3なので容易に求めることが出来る。求めたθ2のデータを校正データとして被測定物の測定ごとに、測定値の補正に使用することで球状部230が真球形状から離れていても、高精度に補正を行うことが出来る。
これについて図23を参照して説明すると、被測定物の測定を行って球状部230の中心の軌跡232を求める[図23(a)]。次に、軌跡232の各点ごとに、その点の接線の法線方向を求める。その法線方向からθ1を求め、その点の測定時のアーム106の角度からθ3を求める。
このθ1とθ3とからθ2を求めることが出来るので、図28のグラフにおいて、横軸をθ2に変換したデータから対応するθ2での球状部230の先端半径rを求めて、そのrだけ図23(a)下図に示すように、測定点から法線方向に移動させた点の位置を求め、それを軌跡232のすべての点で行ってそれを被測定物の表面形状とすることより、球状部230の先端半径のばらつきが補正された高精度な被測定物の表面形状を求めることができる。