国道その他の自動車道の走行路面には、土砂や粉塵や空気中の浮遊物質や水中に浮遊する粒子状物質であるSSや、自動車のタイヤや舗装アスファルトの摩耗屑や、事故時の車の燃料やオイルなどの様々な汚濁物質が堆積している。これらの堆積物質に加えて、走行中のタンクローリー車の事故による路面上への油の流出があり、これらが降雨時に雨水と共に路面上から排水設備を経て河川や湖沼や沿岸海域などの公共用の水域やあるいは河川や湖沼の周辺の田畑へ流出し、流出流域の周辺の水質汚濁などの環境汚濁を引き起こす原因の一つになっている。
自動車道の走行路面に堆積している汚濁物質は、降雨時の主に初期の雨水による路面排水となり流出する。この路面排水には、降雨の状態により、汚濁に三つのパターンがある。第1のパターンは、一定の強度の降雨が続く場合である。この場合は、降雨初期に路面排水中の汚濁物質の濃度が高くなっている。しかし、降雨開始2時間後には、路面が洗い流されて汚濁物質の濃度は低く収束する。第2のパターンは、初期雨量が少なく、その後急激に降雨量が増加する場合である。この場合は、降雨初期に路面排水中の汚濁物質の濃度は高いが、一旦、汚濁は減少に向う。しかし、降雨強度が強くなると、再び路面排水中の汚濁物質の濃度は上昇して高濃度になる。第3のパターンは、雨が降ったり止んだりする場合である。この場合、初期降雨の時間が短く、この間は雨量が最も少量である。しかし、次の降雨時では雨量は多くなる。この場合は、路面上の汚濁物質が流出するためには、ある程度の降雨量が必要である。一方、初期降雨の汚濁濃度よりも次の降雨時の汚濁濃度の方が高くなると言われている。(例えば、特許文献1参照。)。
以上のいずれのパターンでも、特に難処理物質である油分を含んだ状態の汚濁物質を、道路の側溝を経て、道路周囲の環境へ流出させなくすることは、周囲の環境汚染の問題を引き起こさなくするためにも、重要なことである。そこで、自動車の走行する道路の側溝に接続して、降雨時の路面排水中に含まれる沈殿物あるいは浮遊物からなる汚濁物質を除去および浄化する、路面排水処理槽が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
さて、高速道路等では、側溝より集められた雨水は適宜間隔を開けて設置された集水枡に一旦集積された後、道路の法面の斜面を下る縦向きの排水路へと排出されている。そこで、この法面の途中に設置される路面排水処理槽として、上流側の長手方向を3室とした上段ブロックと下流側の排水用の下段ブロックからなる路面排水処理装置が提案されている(例えば、特許文献2参照。)
これは、上段側のブロックの3室を中央の流入貯留槽と、左右各室をさらに仕切り壁によって二分して、整理貯留槽と流出貯留槽を室内に設けているもので、通常は中央から左右の室を経て、すなわち、流入貯留槽、整流貯留槽、流出貯留槽へと順次流れ、排出用の開口孔から排出されて下段ブロックの排水側溝へと導水された後、法面の斜面を下る縦向きの排水路に接続されるものである。そして、上流側のブロックの中央上端に溢流口が設けられており、急激な雨水の流入で各貯留槽内の分離された油分が押し出されることがないように、流入貯水槽から直接下流側の排水溝へと溢水させるようにしており、溢流口の位置は、排出用の開口孔よりも高い位置に位置している。また、下流の排水口が各3室の下流に横長に配置されているので、3室からの溢水があっても、法面を汚染するのではなく、下流の排水溝で受け止めて、縦方向の排出路へ戻して排水しうるものとしている。
もっとも、特許文献2に記載の路面排水処理装置では、3室のブロックを上下2段のブロックを積層させるようにしているものの、いまだに大きなブロックであり、それぞれの重量は非常に重いものである。重量が重くなると、プレキャストコンクリートの工場から現場までの輸送コストが大きくなり、設置にも重量に耐える重機が必要となるなどしており、斜面となる法面での設置には工夫が必要となっていた。なぜなら、積み込み、積み下ろしの際には、重量に耐えるだけの重機が必要であり、大型化するので、取り扱える人材も揃えなければならないし、輸送トラックも大型化してしまうので大がかりとなってくるからである。
また、各ブロックには、通水用の孔やスリットが開口しているが、ブロックの途中に孔を開けたり、スリットの開口をこしらえるなどしており、プレキャストコンクリートブロックとして作成するには、手間が多く、一旦成型してから、無配筋の該当個所に開口するといった作業が必要になったりしていた。
さらに、溢水対策として、下流の排水溝に流し込んだ水を、法面にあふれることなく、縦の排水路にすべての処理水を戻しきらなければならないところ、急激な雨水の流入時の溢水では、流入貯留槽の下流側上部の切欠きに設けた溢水口から勢いよく流水が飛び出てしまうので、下流の排水路を飛び越えて法面にあふれてしまうことが生じうる。そこで、こうした溢水口からの飛び出しを防止する必要があり、さらに横向きの排水路から縦向きの水路に速やかに落とし込むには、流れをスムーズにする工夫が必要となっている。
さて、コンクリート製品の製造には、現場打ちと、プレキャスト製品とがあるが、路面排水処理槽を道路の法面の傾斜に設置しようとするとき、現場打ちは作業性が悪く、型枠設置までに手順がかかり、工期面においても現実的ではない。加えて、路面排水処理槽では、内部を複数の室に仕切るための仕切り壁を形成し、その壁の途中にスリットを設けるなどしなければならない。また、取込口や排出口、溢水口などを設ける必要があるので、極めて構造的に複雑な型枠が必要となる。そして、配筋したうえで、コンクリートを不足なく充填しなければならない。すると、現場打ちで誰しもが普通に製造しうるものではなく、図面どおりに製造するには、大きな労力とノウハウが強いられるものとなる。
そこで、再現性あるプレキャストコンクリートを用いて製造することは便宜性が高い。もっとも、プレキャストコンクリートで製造する場合であっても、一体に成型することは型枠の関係で容易ではなく、困難であり、また、仮に製造したところで、重量が重くなりすぎるので、搬送も据え付け工事も大がかりなものとなってしまうため、プレキャストにすればただちに解決するものでもない。たとえば、各槽毎に細かく分断して製造してから、組み合わせるとなると、たとえば3槽からなる処理槽の場合、各槽を連続的に横に並べて配置して、内部の通水スリット部分を雨水が移動することとなるが、縦に接合面がくるため、その隙間からの漏水が生じやすいものとなる。とりわけ、路面排水処理槽は、水深が1m以上もあるので、水圧により外部への漏水が生じやすい。シール材を用いたところで、接合面が縦の場合は、漏水のリスクが高いものとなる。そこで、分割の仕方は重要であり、製造上の都合のみを優先することもできない。
本発明が解決しようとする課題は、現場打ちで製造することが困難な複雑な形状のコンクリート製品を、適切に分割したプレキャストコンクリート製ブロックを組み合わせることで簡易に製造しうるものとし、そして、法面などの斜面といった重機の持ち込みに制限のある場所における設置にも適したブロックでありながら漏水もしにくく、かつ、早期に安全に設置ができ、また、雨水の急激な流入に対応しうる溢水対策が充分なされた、たとえば溢水口から受水槽を飛び越したりせず、かつ下流の排水路へと周囲にあふれることなく速やかに排水しうる、局所的集中豪雨等への適応性の高い油水分離に適した路面排水処理槽を提供することである。
上記の課題を解決するための本発明の第1の手段では、斜面を下る排水路の経路途中に設置するための油水分離用のプレキャスト製コンクリートからなる路面排水処理槽であって、内部に流入槽、中間槽、排出槽の3槽を形成するための短手方向の仕切り壁を備えた矩形の処理槽用ブロックを下段、中段、上段の3段のブロックを積層することで形成し、上流の排水路の直下に流入槽が位置するように該処理槽用ブロックの長手方向を斜面を横断する向きに配し、該仕切り壁は、各段のブロック内にプレキャストで一体的に設けられており、少なくとも中段ブロックの仕切り壁の高さは中段ブロックの上平面と面一であって、下段ブロックの仕切り壁の上平面と中段ブロックの仕切り壁の底面が離間することでスリットを形成しており、上流の排水路から該流入槽への流入口は、少なくとも上段ブロックを流入槽の上流側側壁を一部切り欠いて開口することで形成されており、該流入槽の下流側の上平面を一部切り欠いて溢水口を形成し、該排出槽からの排出口は、少なくとも上段ブロックを排出槽の下流側底面から上平面までを一部切り欠いて開口されており、処理槽用ブロックの下流長手方向の幅でこれに隣接する受水槽を配し、該受水槽は、下段ブロックの底面から中段ブロックの深さまで一体で形成し、該受水槽の一端から下流排水路への連絡導水路を斜面下向きに設け、さらに受水槽の上部に、四側面を壁体とし、かつ、流入槽下流側の溢水口および排出槽下流側の排出口に対向する部分をそれぞれ同形状に切り欠いた枠体ブロックをそれぞれ載置していること、を特徴とする、油水分離用のプレキャスト製コンクリートからなる路面排水処理槽である。
本発明の手段では、プレキャスト製のコンクリートブロックを、多数組み合わせて全体としてひとつの路面排水処理槽を形成しており、まず、処理槽ブロックとして、下段ブロック、中段ブロック、上段ブロックが順に積み重ねられ、その下流側には、これらに隣接して、受水槽ブロックが配されている。受水槽ブロックの一端には、下流排水路への連絡導水溝用ブロックの上端が載せられるように、下流側側壁の上平面を切り欠いており、該連絡導水構用ブロックは底面が大きく斜めに傾斜している断面がU字状の溝であり、その側壁は斜めに切り立っている。受水槽ブロックの下流側側壁は、連絡導水溝のU字溝の内面形状と同形状に開口しており、受水槽に排出された処理水を連絡導水溝へと排水しうるようになっている。そして、受水槽ブロックの上部には、溢水口と対向する部分が同形状に開口した流入槽側枠体ブロックと、排水口に対向する部分が同形状に開口した排出槽側枠体ブロックとがそれぞれ載置されており、連絡導水溝の上端には、該流入槽側枠体ブロックの下端が載置されるようになっている。
上記の課題を解決するための本発明の第2の手段では、前記受水槽は、前記連絡導水路に連接する該受水槽の一端付近の底面を前記下段ブロックの底面高さより一段低く形成して排水溜まりとしていること、を特徴とする第1の手段に記載の油水分離用のプレキャスト製コンクリートからなる路面排水処理槽である。
すなわち、斜面を下る排水路の経路途中に設置するための油水分離用のプレキャスト製コンクリートからなる路面排水処理槽であって、内部に流入槽、中間槽、排出槽の3槽を形成するための短手方向の仕切り壁を備えた矩形の処理槽用ブロックを下段、中段、上段の3段のブロックを積層することで形成し、上流の排水路の直下に流入槽が位置するように該処理槽用ブロックの長手方向を斜面を横断する向きに配し、上流の排水路から該流入槽への流入口は、少なくとも上段ブロックを流入槽の上流側側壁を切り欠いて開口することで形成されており、該排出槽からの排出口は、少なくとも上段ブロックを排出層の下流側底面から平面までを切り欠いて開口されており、該流入槽の下流側の上平面を切り欠いて溢水口を形成し、処理槽用ブロックの下流長手方向の幅でこれに隣接する受水槽を配し、該受水槽は、下段ブロックの底面から中段ブロックの深さまで一体で形成し、該受水槽の一端から下流排水路への連絡導水溝を斜面下向きに設け、該受水槽の一端付近の底面を下段ブロックの底面高さより一段低く形成して排水溜まりとし、さらに受水槽の上部に、四側面を壁体とし、かつ、流入槽下流側の溢水口および排出槽下流側の排出口に対向する部分をそれぞれ同形状に切り欠いた枠体ブロックをそれぞれ載置していること、を特徴とする、油水分離用のプレキャスト製コンクリートからなる路面排水処理槽である。
上記の課題を解決するための本発明の第3の手段では、前記仕切り壁は、各段のブロック内にプレキャストで一体的に設けられており、少なくとも中段ブロックの仕切り壁の高さは中段ブロックの上平面と面一であって、下段ブロックの仕切り壁の上平面と中段ブロックの仕切り壁の底面が離間することでスリットを形成していることを特徴とする、第1又は第2の手段に記載の油水分離用のプレキャスト製コンクリートからなる路面排水処理槽である。
すなわち、斜面を下る排水路の経路途中に設置するための油水分離用のプレキャスト製コンクリートからなる路面排水処理槽であって、内部に流入槽、中間槽、排出槽の3槽を形成するための短手方向の仕切り壁を備えた矩形の処理槽用ブロックを下段、中段、上段の3段のブロックを積層することで形成し、上流の排水路の直下に流入槽が位置するように該処理槽用ブロックの長手方向を斜面を横断する向きに配し、該仕切り壁は、各段のブロック内にプレキャストで一体的に設けられており、少なくとも中段ブロックの仕切り壁の高さは中段ブロックの上平面と面一であって、下段ブロックの仕切り壁の上平面と中段ブロックの仕切り壁の底面が離間することでスリットを形成しており、上流の排水路から該流入槽への流入口は、少なくとも上段ブロックを流入槽の上流側側壁を切り欠いて開口することで形成されており、該排出槽からの排出口は、少なくとも上段ブロックを排出層の下流側底面から平面までを切り欠いて開口されており、該流入槽の下流側の上平面を切り欠いて溢水口を形成し、処理槽用ブロックの下流長手方向の幅でこれに隣接する受水槽を配し、該受水槽は、下段ブロックの底面から中段ブロックの深さまで一体で形成し、該受水槽の一端から下流排水路への連絡導水溝を斜面下向きに設け、該受水槽の一端付近の底面を下段ブロックの底面高さより一段低く形成して排水溜まりとし、さらに受水槽の上部に、四側面を壁体とし、かつ、流入槽下流側の溢水口および排出槽下流側の排出口に対向する部分をそれぞれ同形状に切り欠いた枠体ブロックをそれぞれ載置していること、を特徴とする、油水分離用のプレキャスト製コンクリートからなる路面排水処理槽である。
上記の課題を解決するための本発明の第4の手段では、斜面を下る排水路の経路途中に設置するための油水分離用のプレキャスト製コンクリートからなる路面排水処理槽であって、内部に流入槽、中間槽、排出槽の3槽を形成するための短手方向の仕切り壁を備えた矩形の処理槽用ブロックを下段、中段、上段の3段のブロックを積層することで形成し、上流の排水路の直下に流入槽が位置するように該処理槽用ブロックの長手方向を斜面を横断する向きに配し、該仕切り壁は、各段のブロック内にプレキャストで一体的に設けられており、少なくとも中段ブロックの仕切り壁の高さは中段ブロックの上平面と面一であって、下段ブロックの仕切り壁の上平面と中段ブロックの仕切り壁の底面が離間することでスリットを形成しており、上流の排水路から該流入槽への流入口は、少なくとも上段ブロックを流入槽の上流側側壁を一部切り欠いて開口することで形成されており、該排出槽からの排出口は、少なくとも上段ブロックを排出槽の下流側底面から上平面までを一部切り欠いて開口されており、該流入槽の下流側の上平面を一部切り欠いて溢水口を形成し、処理槽用ブロックの下流長手方向の幅でこれに隣接する受水槽を配し、該受水槽は、下段ブロックの底面から中段ブロックの深さまで一体で形成し、該受水槽の一端から下流排水路への連絡導水路を斜面下向きに設け、該受水槽の一端付近の底面を下段ブロックの底面高さより一段低く形成して排水溜まりとし、さらに、受水槽の下流側側壁の上方に、さらに溢水防止の壁を備えていること、を特徴とする、油水分離用のプレキャスト製コンクリートからなる路面排水処理槽である。
受水槽に溢水口および排出口から流出する水は、豪雨で急激な雨水の流入があるときには、溢水口や排出口から勢いよく前方に飛び出すことになる。すると、受水槽の高さは中段ブロックまでなので、上段ブロックからだとと中段ブロックとの高さには落差があるため、前方に飛び出す勢いが強すぎると受水槽を飛び越えてしまうこととなる。そこで、受水槽の下流側の側壁上にさらに壁を積みまして、勢いよく前方に飛び出した溢水を受け止めて受水槽に戻すものとしている。本発明の手段の場合は、前述の他の手段に記載の四方の側壁からなる枠体に限定せず、溢水防止壁としている点に特徴がある。
上記の課題を解決するための本発明の第5の手段では、前記排出槽内には、排出口の手前に短手方向の間仕切板を中段ブロック底面から上段ブロックの仕切り壁の上平面までの高さに配していることを特徴とする、第1から第4のいずれかの手段に記載の路面排水処理槽である。
前記の排出槽の下流側側面の端部上段を切欠いて排水する際、排出槽内を浮上する油が排出されてしまうことを回避するために、排出口の手前で短手方向すなわち上流から下流方向に向かって中段ブロックと上段ブロックにかけての水面を間仕切板で仕切ってしまうことで、浮上する油が排出されないように分離させている。間仕切板はたとえばステンレス鋼板であって、腐蝕に強く長期の使用に耐えるものが好適である。
本発明のように、路面排水処理槽をプレキャストコンクリート製の複数のブロックに分割することで、各パーツを軽量化することができ、作業性と可搬性に優れたものとなるので、搬送と据え付け作業が容易となる。すると、法面などの斜面といった重機の持ち込みに制限のある場所においても、作業の融通性が高まる。加えて、内部にスリットがあるような複雑な仕切り壁を備えたコンクリートブロックであるため、型枠での製造も通常は困難であるが、いわばスリットの高さ位置で上下に分割するようにすると、切れ込む部分が上端や下端側にくるので、中間にスリットを設けるような複雑な型枠作業が必要なく、製造が容易となる。また、3槽ある処理槽が上下に分割されるものの、上下に積層することで自重も利用できることから、水密性のシール材で封止するだけで水密性が保持できるものとなり、水漏れを回避できる。
また、局所的集中豪雨に対して、流入槽の下流側に溢水口を設けることで、過剰に流入した雨水によって上方に溜まっていた油分が押し出されるリスクを低減でき、さらに、雨水の急激な流入に対応しうる溢水対策として、溢水口から下流の受水槽へ流出水が流れるように、受水槽の上部に枠体を備えていることから、水が枠体を越えて法面に流出することがなく、周辺環境を汚染しにくいものとなっている。
本発明の第2の手段によると、処理槽ブロック及び受水槽の底面よりも連絡導水溝に連絡する部分の下面が一段低くなっているので、受水槽に流入した水が排水溜まりに一落ちてからさらに連絡導水溝へと排水されることとなる。すると、受水槽に大量に雨水が流入したとき、流れが速やかに一方向に形成されやすいので、スムーズに排水されることとなる。他方、排水溜まりがない場合には、受水槽内の細長い溝に流入した水がランダムに右に左に流れようとするので、水が波打って左右に行きつ戻りつしてしまうこととなり、暴れるように流れが乱されることとなる。すると、排水速度が実質遅くなってしまい、排水溜まりがある場合に比べて、速やかに排出されにくくなる。溢水防止のために処理槽ブロックの下流長手方向に隣接して配する受水槽であるから、急激な流入において水が暴れて排出しにくいようでは機能が充分に発揮しきれないものとなってしまう。
次に、処理槽ブロックの内部には、3槽に仕切るための仕切り壁がある。そして、下段と中段の間に仕切り壁の間を雨水が連絡しうるスリットが形成されている。下段には比重の重い沈殿物が堆積していくので、下段の雨水を沈殿物ごと次槽に移動させることなく、その上部の雨水を移動させることとし、下段と中段の間にスリットを設けている。さらに、雨水のなかでも、浮上する油分の少ない下段と中段の間のあたりの雨水を次槽へと移動させるのが効率的であるから、中段の上部と上段は壁で仕切った状態で浮上した油分を保持するようになっている。さて、ブロックの側面の途中をスリットで開口させてしまうことは、仕切り壁に鉄筋を配筋できず、強度に問題が生じやすいほか、金型における製造が複雑で難しくなり、手順が増してしまう。この点、第3の手段によれば、各ブロックの途中に仕切り壁のスリットを開口させることがなくなるので、強度が確保しやすく、また製造が容易となる。
また、第4の手段によると、溢水防止のために、受水槽の下流側側壁の上部に溢水を受け止める壁を設けているので、受水槽を乗り越えて法面に雨水があふれることがなく、周囲の環境を汚染しないものとなる。さらに、第5の手段によると、間仕切板で排出槽内を仕切るので、排出口から浮上する油分が排出されることをより低減させることができる。そこで、雨水分離の性能を一層向上させることができる。
まず、本発明を実施することにより、路面上の雨水を集積して油分と水分とを分離するための組立式のプレキャストコンクリート製ブロックからなる路面排水処理槽が得られる。これは、道路脇の傾斜面上に斜面を削って各ブロックを組み合わせて敷設し、周囲の土砂を再び埋め戻すようにして設置するものであって、側溝から集積された路面上の雨水を集水枡を経て排水する際に、斜面を下方に向かう縦排水路の経路上に本発明の路面排水処理槽内に雨水取り込み、流入した雨水から油分や泥等を比重分離を利用して除去した後に、水分のみを下流の縦排水路に戻すものである。
流入した雨水は、3段のブロックを積層した処理槽用ブロック内のコンクリート製の内部仕切り壁によって外枠と一体的に仕切り形成されており、左から流入槽、中央の中間槽、右側の排出槽を、雨水はスリットの間から通過するようにして、比重分離による浮上と沈殿を繰り返しながらゆっくりと移動していくことで、上方に浮上する油分及び下方の堆積物と水分とに分離されていく。なお、さらに間仕切板のステンレス鋼板やプラスチック樹脂板を差し入れて、排出槽の手前で浮上した油分が排出されないようにさらに工夫をしてもよい。その後、処理された水分を下流の受水槽へと排出し、受水槽から連結導水路をへて下流の縦排水路へと戻すものである。
そして、大量な雨水の急激な流入時には、流入槽の下流側側壁上端を一部切欠いて溢水口として雨水を逃がすようにしているので、外部にあふれだす前に雨水を受水槽へと流入させることができ、処理槽から法面への外部流出を回避することができるようになっている。その際、流出する水が受水槽を飛び越さないように、溢水口の下流の受水槽上に枠体を載置いて、雨水が外まで勢いよく飛び出さないようにしておくものとしている。
さて、この路面排水処理槽は、すべてプレキャスト製のコンクリートブロックであって、全体の路面排水処理槽の大きさは、たとえば横幅約340cm、高さ150cm、奥行き約300cmである。処理槽と受水槽をあわせた部分の奥行きは180cmである。そして、処理槽下段ブロック、中段ブロック、上段ブロックの大きさは、横幅340cm、高さ50cm、奥行き120cmである。また、受水槽用ブロックは、横幅340cm、高さ100cm(左端下の排出溜まりの部分のブロックはさらに下方に25cm突出している。)、奥行き60cmである。さらに、溢水口側の上部に載置する枠体ブロックは、横幅120cm、高さ50cm、奥行き60cmであり、排出口側の上部に載置する枠体ブロックは、横幅75cm、高さ50cm、奥行き60cmである。排出口および溢水口の横幅は45cmであり、溢水口の高さは25cm、排出口はの高さは50〜55cmである。
上記のサイズであれば、設計上の流入量として、0.100m3/s、貯油量0.6m3での使用に充分対応しうるものとなっている。この流入量を上回る量で流入槽内に雨水が急激に流入しつづけた場合には、排出限界を越えるので、限界水位となる溢水口の水面を上回った時点で溢水口から溢水して受水槽に直接雨水が排水されることとなる。このように溢水させることで、浮上分離していた油分を中間槽、排出槽内に留めたままに、流入雨水のみを排出することとなる。以上の発明を適用したところ、降雨強度10mm/hで雨水が上部の排水路から本発明の上記サイズの実施品に流入してきた場合には、油類の捕捉率は90%以上を確保できる。
なお、本発明は、集水枡の直下に設けられた法面の斜面を下るたとえば30度の傾斜角の排水路の経路上に設置されて使用されるので、その容量やサイズは、集水枡から排水される想定流入量に応じて、設定することとなる。集水枡からの時間あたりの想定流入量は、集水枡への時間あたりの流入量、すなわち、周辺の道路面積や側溝の水路の流路勾配などから、その地の想定瞬間雨量に基づいて算出することができる。
本物品の設置について説明する。まず本発明は法面などの傾斜面の途中に設置するものであるが、プレキャストコンクリートブロックは重量があるので、いきなり組み置いて載置くことでは、受水槽側が法面を滑落することになりかねない。そこで、まず、斜面を削ってその土台となる基礎平面を砂利の上に配筋したモルタル基礎で形成する。プレキャストコンクリートであるから、現場打ちとは異なり、工場で製造したものを現場まで搬送して、組み合わせながら据え置き設置していく。そこで、各パーツは予めコンクリートブロックとして得ておく。その際、強度をもたせるために、一般的なブロック同様に適宜鋼製の線材を内部に配筋してから、周囲を金型で囲い、コンクリートを流し込んで、養生して強固なコンクリートブロックに成型して得る。現場打ちとは異なり、安定的かつ品質のよいブロックが繰り返し得られる。内部に水が入る製品であるから、水圧などの強度もさることながら、根本的に漏水があってはならないので、精度のよい成型が求められる。また、各ブロック間は、シール材で封止して水密構造とする。たとえば、シール材には、幅1.5cmほどの数ミリ厚のエチレン−プロピレゴム(EPDM)、あるいは水膨張性ウレタンゴムなどを用いることができる。
さて、基礎平面上の近くまでは路上をトラックで搬送するが、本発明では、各コンクリートブロックのパーツが積層されて組み合わさることから、比較的軽く小さくすることができるので、小型のトラックを用いることができ、輸送コストが低減できる。たとえば、処理槽ブロックの下段ブロックの重量が約2トン、中段ブロックが約1.2トン、上段ブロックが約1.1トンである。他方、これを一体で成型してしまう従来のやりかたであれば、中核のブロック部分だけで4トンを上回ってしまうので、大型トラックで搬送しなければ輸送ができなくなる。また、輸送トラックからの積み下ろしや、現場での設置には、吊り下げ重機が必要となるところ、パーツ毎に搬送と吊り下げができるので、重機自体も小型化できたり、人力に頼ることもできるので、据え付け作業の融通性が高くなり、傾斜面の現場においても短時間で作業を進めることができる。高速道路の補修工事のような、長時間工事に車道を占有できない場合においても、短時間で安全に据え付け設置ができる本発明は、利用がしやすいものとなっている。
組み上げられた各コンクリートブロックは、さらに固定器具で固定してから、法面にあわせて周囲の土を埋め戻して転圧固定することとする。固定器具は、5mm厚の5cm×15cm程度のフランジを連結具として用いて、アンカーボルトとナットでこれらのフランジを締結することとする。そこで、コンクリートブロックの積層される外周の端部には、それぞれ、アンカーボルトを埋め込む孔を予め用意しておくものとする。埋め戻されることで土圧がかかることとなるので、法面から崩落することなく、安定して使用しつづけることができる。
さらに、使用時には、処理槽ブロックの上平面には、上蓋としてグレーチングを設置することで、人や動物の転落や進入を防止すると同時に、落ち葉やゴミなどの上面からの進入を低減させることで、メンテナンスの間隔を良好に保つことができる。また、点検用の梯子として、各槽の上流側壁面に水平のステップ(26)を上下方向に数段設置しておくと、定期的に油分をすくい取り、底のゴミをさらうメンテナンスをする際に安全に作業が実施しうる。なお、こうしたメンテンナンスを継続していくことで、数十年単位で使用しうるものとなる。
本発明の具体的な実施の形態について、図面を参照しつつ以下に説明する。なお、図1、図4、および図8から図13は実施例1の具体的形態を示すものである。図8、図9および図14から図19は実施例2の具体的形態を示している。なお、図7の図面上方が上流側であり、図面下方が下流側である。
図1は、本発明の路面排水処理槽(1)の組み上げ後の斜視図である。法面(20)の傾斜を下る縦向きの排水路(21)の経路上に横向きに設置される路面排水処理槽(1)は、プレキャストコンクリート製のブロックを多数組み合わせるものである。図1にアルファベットでA〜Gまで各ブロックに記号を付与しているが、これは、A、B、C、D、E、F、Gの順でブロックを組みあげていく手順を示す記号である。
図8から図13には、実施例1について、ブロックAからGを適宜組み上げていく様子を順に示している。実施例1では、A→B→Cの順に重ね、その隣にDを隣接配置して、EをDに載せてから、FとGをDの上に載置する。各ブロックはフランジを用いて締結している。
図8、図9および図14から図19に示す実施例2は、実施例1とは、DおよびEのブロックの形状が若干異なるものであるが、排水処理の基本的構成は共通している。図面上の組立て手順としては、A→Bを重ねた後、Dと連結してから、Eを連結し、その後、Bの上にC、Dの上にFとGを載せて、互いをフランジを用いて締結している。
以下、実施例1を用いて説明すると、まず、基礎(27)の上に上流側に横置された処理槽用ブロック(2)として、図1に示すように、下段ブロックA(10)、中段ブロックB(11)、上段ブロックC(12)を順次上に重ねて据えつけていく。3つのブロックをABCの順にを重ねることで、底面と四方の側壁によって矩形の横長の処理槽用ブロック(2)が形成される。処理槽用ブロックその内部は、短手方向に渡される仕切り壁(6)によって3分割されており、排水路に近い側から流入槽(3)、中間槽(4)、排出槽(5)となっており、仕切り壁(6)には、中段ブロックと下段ブロックの間が互いに接触しないことでスリット(19)が形成されており、スリット内を雨水が通過して各槽間を順次移動しうるものとなっている。
図1に示すように、図面左に示す流入槽(3)の上流側側壁には、上段ブロック(12)を一部切り欠いて形成された流入口(7)が開口しており、上流側の縦の排水路(21)から雨水が流入可能となっている。図面右の排出槽(5)の下流側の側壁の右上端部には、上段ブロック(12)を切り欠いて形成された排出口(8)が開口している。なお、図1に示すように、排出槽(5)内には排出口(8)の手前に、中段ブロックから上段ブロックにかけて短手方向に間仕切板(18)で仕切られており、排出槽(5)内でもさらに比重分離によって油分(24)が貯留されることとなる。なお、流入口(7)は、図面では上流側側壁の底面側を切り欠いているが、上平面側を切り欠いていても、上流側側壁を上平面から底面まで一部切り欠いているものであってもよい。
図2に示すように、流入槽(3)に流入した雨水は、仕切り壁(6)のスリット(19)から隣の中間槽(4)に移動し、さらに排出槽(5)側の仕切り壁(6)のスリット(19)から排出槽(5)へと移動していく。その際、排水路よりも極めて太い経路を流れることになるので、その分だけゆっくりと流れ移動していくことになる。そこで、ゆっくりと移動する間に、雨水中の重いゴミ等は沈降して底面部に沈殿物(25)として堆積し、他方、雨水中の油分(24)は軽いことからゆっくりと水分中から分離浮上して、上方に貯留されることで比重分離がなされている。そして、間仕切板(18)の下方を移動した水分(23)は最終的に排出口(8)から排水されることとなる。また、流入槽(3)の下流側側壁上端に一部切れ込みを設け、溢水口(9)としている。図2、図4、図5に示すように、溢水口(9)は、急激な雨水流入に対応して、貯留する油分(24)を流してしまわないために流入槽(3)から直接水を排出するための緊急用のものなので、溢水口(9)の開口は、排出口(8)よりも開口よりも下面の位置が高く、上段ブロックの上端から半分ぐらいまでの高さの開口である。
この処理槽用ブロック(2)の下流側の側壁に隣接するようにして、図1に示すように、横長の受水槽(13)のブロックが配置されている。受水槽(13)は細長い横長の形状で、下段ブロック(10)と中段ブロック(11)をあわせた高さである。受水槽(13)の右端に排出口から排水された水分(23)が流れ込み、左隅へと流れていく。この受水槽(13)のブロックは、図3に示すように、右端が半ブロック分ほど深くなっており、排水溜まり(16)を形成しているので、排水された水分(23)は、自然と低くなった排水溜まり(16)へと流れ込む。したがって、右端から左端に受水槽(13)内では無理なく流れが形成されている。1段低くなっているので、右端で波うって左端に水が戻るといった動きが生じにくく、水の流れは暴れにくい。
受水槽(13)のブロック内の水は、右端から連絡導水路(17)へと排水されるが、溢水口(9)からの大量の水の流入に備えて、受水槽の壁の高さまで約1mがバッファーの貯留可能域となっている。そして、受水槽の下流側壁面の左端部は、上端から下端側の排水溜まりの部分まで、細長く切れ込み開口しており、この開口に対向するように位置している連絡導水路(17)のU字溝が縦方向に斜面を下り、下流側の縦排水路(21)へと接続している。連絡導水路(17)は断面U字状の深い溝で図4に示すように流路勾配が30度近く傾斜しており、連絡導水路(17)の側壁は周囲に溢水しないように斜めに高く突きたっている。
そして、流入槽側枠体ブロック(14)は、溢水口(9)の形状にあわせて上流側側壁を切り欠いており、溢水口(9)から勢いよく飛び出した水が法面(20)にあふれださないように、該枠体(14)の側壁、特に下流側の側壁が防壁となって下方の受水槽(13)へと受け流す。
同様に、受水槽(13)の右上端部上には、排出口と向かいあう上流側側壁を切り欠いた、排出槽側枠体ブロック(15)が載せ置かれている。溢水するぐらいの勢いになると、排出口の水も勢いよく前方に飛び出してくるので、該枠体(15)の下流側側壁によって、法面(20)へとあふれるのを防止する。
さて、図8〜図13の実施例1では、連絡導水路(17)の上端は、受水槽(13)の下流側側壁の左端の切欠きに載せ置かれており、さらにその上及び受水槽(13)の左上端部上に、流入槽側枠体ブロック(14)が載置されている。なお、連絡導水路(17)の底面は、流路勾配と同じく傾斜面となっている。
図14〜図19に示す実施例2では、連絡導水路(17)の上流側側面の開口部が、受水槽(13)の下流側側壁の左端の開口部と接合され、受水槽(13)内の水分が連絡導水路(17)へとい導水されるようになっている。また、受水槽(13)の左上端部上に、流入槽側枠体ブロック(14)が載置されている。実施例2では、連絡導水路(17)の底面は、水平な底面であり、安定性がよく、設置の前後で扱いが容易となっている。また、フラットな面を載置した後、連絡導水路(17)の周囲を法面まで埋め戻すので、連絡導水路が土圧でしっかりと固定される。