JP5835693B2 - 角膜内皮細胞の培養方法、移植用角膜内皮細胞シートの製造方法および角膜内皮細胞培養キット - Google Patents
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Description
また角膜内皮細胞の移植の際に、低侵襲で簡便な術式を可能とし、且つ培養角膜内皮細胞に損傷を与えない角膜内皮細胞シート用の移植器具が望まれている。
さらに本発明者らは、図6に示される構成の移植用器具を採用することで、低侵襲で簡便に、かつ培養角膜内皮細胞に損傷を与えることなく角膜内皮細胞シートを移植できることを見出した。
[1]角膜内皮細胞を、アスコルビン酸誘導体を含む培養液中で培養することを特徴とする、角膜内皮細胞の培養方法。
[2]角膜内皮細胞が、バイオポリマー上で培養される、[1]に記載の方法。
[3]アスコルビン酸誘導体が、アスコルビン酸2−リン酸である、[1]または[2]に記載の方法。
[4]バイオポリマーが、コラーゲンを含む細胞外マトリックス分子である、[2]または[3]に記載の方法。
[5]コラーゲンが、アテロコラーゲンである、[4]に記載の方法。
[6][1]〜[5]のいずれかに記載の方法により製造されることを特徴とする、角膜内皮細胞。
[7]角膜内皮細胞を、アスコルビン酸誘導体を含む培養液中で培養する工程を含む、移植用角膜内皮細胞シートの製造方法。
[8]角膜内皮細胞が、バイオポリマー上で培養される、[7]に記載の方法。
[9]アスコルビン酸誘導体が、アスコルビン酸2−リン酸である、[7]または[8]に記載の方法。
[10]バイオポリマーが、コラーゲンを含む細胞外マトリックス分子である、[8]または[9]に記載の方法。
[11]コラーゲンが、アテロコラーゲンである、[10]に記載の方法。
[12][7]〜[11]のいずれかに記載の方法により製造されることを特徴とする、移植用角膜内皮細胞シート。
[13]バイオポリマーでコートされた基材およびアスコルビン酸誘導体を含む培養液を含んでなる、角膜内皮細胞培養キット。
[1’]眼球の前房内に角膜内皮細胞シートを移植するための移植用器具であって、
当該移植用器具は、筒状本体を有し、
筒状本体は、角膜の外側と前房内とを連通し得る太さと長さとを有し、かつ、管路を内部に有し、該管路は、筒状本体の両方の端面に開口しており、
前記の両方の端面は、いずれも、管路の中心軸に対して直角以外の角度をなす斜面であって、かつ、それら斜面の向きは、下記(I)の条件を満たすように互いに関係付けられている、
前記移植用器具。
(I)一方の端面内の開口の周囲のうち最も長手方向の一方側に突き出した点と、他方の端面内の開口の周囲のうち最も長手方向の他方側に突き出した点とを結ぶ線分が、管路の中心軸に平行であること。
[2’]両方の端面のうち、当該器具を角膜の外側から前房内へと挿通する操作において先端側に位置すべき側の端面を、先端面として、管路の壁面には、さらに少なくとも前記先端面から長手方向に沿って溝が設けられている[1’]記載の移植用器具。
[3’]筒状本体を管路の中心軸に垂直に切断したときの、筒状本体の胴体外周の断面形状、および、管路の断面形状が、いずれも円形である、[1’]または[2’]記載の移植用器具。
[4’]管路の内径が、全長にわたって同じである、[3’]記載の移植用器具。
[5’]先端面とは反対側にある他方の端面において、筒状本体の胴体外周のうちの一部または全部の肉厚が、先端面における肉厚よりも厚くなっている、[4’]記載の移植用器具。
[6’]先端面から他方の端面へと移動するにつれて、筒状本体の胴体外周のうちの一部または全部の肉厚が連続的に増加している、[4’]または[5’]記載の移植用器具。
[7’]管路の壁面に設けられた溝の幅が1mm〜2.6mmであり、溝の深さが0.03mm〜0.1mm、溝の長さが1mm〜4mmである、[1’]〜[6’]のいずれか一に記載の移植用器具。
[8’]先端面と中心軸とがなす角度が、鋭角側において10度〜80度であり、先端面とは反対側の他方の端面と中心軸とがなす角度が、鋭角側において10度〜80度である、[1’]〜[7’]のいずれか一に記載の移植用器具。
また、本発明の方法により得られる移植用角膜内皮細胞シートを眼内に移植した場合、眼内で高密度の角膜内皮細胞を維持することができる。
角膜内皮細胞シートは、後述する本発明の培養方法により大量培養した角膜内皮細胞を、アテロコラーゲン膜などの支持体(バイオポリマー膜)上に播種することにより製造することができる。バイオポリマーについては、後述する。
上記方法では、コラゲナーゼは、ロッシュ社のコラゲナーゼA、シグマ社のコラゲナーゼタイプIA、ワーシントン社のコラゲナーゼタイプIなどを用いることが可能であり、それぞれ0.2%となるように培地で調製したものを使用する。また培地としては15%牛胎児血清(FCS)および2ng/mlの塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)を含むDME培地を用いることができる。
本発明の培養方法において、培養液中に含まれるアスコルビン酸誘導体としては、角膜内皮細胞の増殖能を高める限り特に限定されないが、例えばアスコルビン酸2−リン酸、アスコルビン酸2−二リン酸、アスコルビン酸2−三リン酸、アスコルビン酸2−ポリリン酸などのアスコルビン酸リン酸類;アスコルビン酸2−リン酸ジエステル、アスコルビン酸2−リン酸6−パルミチン酸、アスコルビン酸2−リン酸6−ミリスチン酸、アスコルビン酸2−リン酸6−ステアリン酸、アスコルビン酸2−リン酸6−オレイン酸、アスコルビン酸2−グルコシド、アスコルビン酸2−グルコシド6−パルミチン酸、アスコルビン酸2−グルコシド6−ミリスチン酸、アスコルビン酸2−グルコシド6−ステアリン酸、アスコルビン酸2−グルコシド6−オレイン酸、アスコルビン酸2−硫酸などのアスコルビン酸エステル類、L−アスコルビン酸アルキルエステル、L−アスコルビン酸リン酸エステル、L−アスコルビン酸硫酸エステル等が挙げられる。
本発明のアスコルビン酸誘導体としては、上記したアスコルビン酸誘導体に加え、これらの塩である、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩であってよい。これらの中でも、特に角膜内皮細胞の増殖能を高めるものとして、アスコルビン酸2−リン酸が好ましい。
本発明におけるバイオポリマーとは、生体適合性を有する高分子であり、コラーゲン、ラミニン、エラスチン、フィブロネクチン、フィブリノゲン、トロンボスポンジン、ゼラチン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸などの細胞外マトリックス分子、RGDS、ポリカルボフィルと結合したbFGF、ポリカルボフィルと結合したEGF等から選択される1種またはそれ以上の分子からなる高分子複合体が例示される。バイオポリマーとしては市販のものを用いてもよいし、また種々の培養細胞が生産する細胞外マトリックス分子を利用することも可能である。これらのバイオポリマーは、1種またはそれ以上の分子を適宜組み合わせて用いることができる。
バイオポリマーとしては、角膜内皮細胞を大量に培養する観点からコラーゲンを含む細胞外マトリックス分子であることが好ましく、またコラーゲンとしては、免疫活性のないアテロコラーゲンが移植の観点から好ましい。
細胞外マトリックス分子中にコラーゲンを含む場合、コラーゲンの含有量は、50〜100重量%、より好ましくは80〜100重量%である。
上述した角膜内皮細胞の培養方法により大量培養した細胞をアテロコラーゲン膜などのバイオポリマー膜上に播種することにより、移植用角膜内皮細胞シートを製造することができる。すなわち、本発明の製造方法は、増殖能の極めて低い角膜内皮細胞を、アスコルビン酸誘導体を含む培養液中で培養して角膜内皮細胞を増殖させる工程と、増殖させた細胞を用いて移植用角膜内皮細胞シートを製造する工程とを含む。
バイオポリマー膜上に細胞を播種する際には、播種後に細胞を増殖させるよりもむしろ細胞を高密度に播種するほうが品質の高い移植用角膜細胞内皮シートを作製できる(播種密度:2000〜8000個/mm2、好ましくは4000〜6000個/mm2)。このため、バイオポリマー膜上に播種する時点ではアスコルビン酸誘導体は必ずしも必要ではなく、一般的に使用されるDME培地、MEM等を用いることができ、例えば、低グルコース濃度の培地(DME培地等)に、牛胎児血清(FCS)、上述の成長因子等を含有させたものを用いることができる。本発明では、培地は15%牛胎児血清および2ng/mlのbFGFを含むDME培地を用いて2週間以上培養させることが、未培養の角膜内皮細胞と同等の機能(バリア機能、ポンプ機能、細胞接着能)を得る観点から好ましい。
そのような移植用器具としては特に限定されないが、好ましくは図6に示される本発明の移植用器具を用いることができる。本発明の移植用器具を用いることによって、角膜内皮細胞シートに損傷を与えることなく、また術者の技量に左右されることなく、該シートを簡便に眼球内の移植部位へ誘導することができるのである。また従来の方法に比べ、本発明の移植用器具を用いることで移植操作に要する時間が大幅に短縮される。本発明の移植用器具が有するこれらの効果を、移植用器具の各部位を説明しながら以下に詳細に記載する。
(I)一方の端面1A内の開口の周囲のうち最も長手方向の一方側に突き出した点1aと、他方の端面1B内の開口の周囲のうち最も長手方向の他方側に突き出した点1bとを結ぶ線分が、管路の中心軸Xに平行である、
という条件を満たすように互いに関係付けられている。
端面1Aは、当該器具を角膜の外側から前房内へと挿通する操作において先端側に位置すべき先端面であって、管路の壁面には、少なくとも前記先端面から長手方向に沿って溝が設けられている。
即ち、図8(a)に示すように、マイクロ鉗子や角膜セッシなどの細長い把持用器具Sを、移植用器具1の端面1A側から管路を通過させ、該把持用器具Sの先端の把持部分によって、細胞シートMの端を掴み、該シートMを管路内に引き込むと、先ず、斜面である端面1Bに開口している管路の開口先端部分がシートMに接して、該シートを微量だけ内側に巻き込んで筒状に丸めるように作用する。次いで、シートMをさらに管路内に引き込むと、図8(b)に示すように、管路の斜めの開口と該シートMとの接触部分は大きくなり、それにつれて、該シートを内側に巻き込んで筒状に丸める作用も大きくなる。そして最後には、図8(c)に示すように、該シートは、筒状に巻かれた状態となって管路に収容される。
即ち、端面1Bは、筒を斜めに切断したような単純な形状となっているが、角膜内皮細胞が乗っている平坦なシートMを、徐々に内側に巻き込みながら管路内に誘導し、スムーズに筒状に丸めた状態とする役割を果たす。
この作用によって、角膜内皮細胞に損傷を与えることなく、シートを緩やかに巻き込みながら、当該器具の管路内に引き込むことが可能になる(特に図8(b)参照)。
即ち、図10(a)に示すように、当該移植用器具の管路内に筒状となって収容された細胞シートMを把持用器具Sによって引き出して行くと、その変位に従って、斜面である端面1Aが、筒状に丸められた細胞シートMを順次もとのシートへと広げていく。図10には、細胞シートMが平面状に広がっていく中間的な状態を示していないが、斜面である端面1Aの作用による細胞シートMの中間的な状態は、図8(b)に示した状態と同様である。
即ち、端面1Aもまた、筒を斜めに切断したような単純な形状となっているが、筒状に丸められた細胞シートMを徐々に広げながら、スムーズに元の平面状のシートにもどして筒外に放出する役割を果たす。
この作用によって、低侵襲的に細胞シートを前房内に挿入することが可能になる。
即ち、端面1Bの斜面の導入作用によって筒状に収容されている細胞シートに対して、端面1Aからそのシートを引き出すとき、該シートの先端が、先端点1a−1bを結ぶ線上を移動して広がっていくので、端面1Aの斜面が該シートを広げようとする作用が最も好ましく発揮されるのである。
上記(I)の条件は、〔当該器具を中心軸Xに垂直な平面に投影したとき、点1aと中心軸X(中心点)とを結ぶ線と、点1bと中心軸Xとを結ぶ線とが一致すること〕と言い換えることができる。
また、図6(b)の点1aは、後述の溝3が設けられていない場合の開口の周囲に対して規定されるものである。溝3が設けられる場合には、該溝がなかったものとして、開口の周囲を想定し、点1aを設計上の点として規定すればよい。
本発明の移植用器具は、図10に示すように、角膜の外側から前房内へと挿通し(図10(a)参照)、当該器具内の管路を通して細胞シートを前房内に移植する(図10(b)参照)ことを意図した器具である。
図8に示されるように、まず角膜セッシ等の把持用器具(図8(a)におけるS)を端面1Aから1Bに通し(図8(a)参照)、細胞シートを把持したまま管路2内に引き込み(図8(b)参照)、細胞シートを管路内に静置させる。管路2の壁面に溝3が設けられている場合は、その後の取り扱いを鑑み、細胞シートの一部または全部が溝3上に設置されるよう静置させる。そして図8(c)に示されるように、端面1Aおよび1Bを密栓し、固定した状態で手術現場に搬送する。
細胞シートを管路内に有する当該移植用器具は、図9(a)に示されるように角膜切開創から前房内に挿入される。挿入した後、移植用器具を中心軸Xを中心として回転させて器具の先端面から長手方向に沿って設けられた溝が角膜実質後面に接近するよう配置させ、さらに押し込むことで固定する(図9(b)参照)。この操作は、移植される細胞シートを角膜実質裏面に配置させ、効率よく移植術を行うために好ましい操作である。すなわちこの操作によって、端面1Aに開口している管路の開口先端部分が角膜実質裏面に接近するので、角膜実質裏面の適当な箇所に細胞シートを配置させやすくなる。
次いで、移植用器具を挿入した角膜切開創と180度反対側の角膜切開創より角膜セッシ等の把持用器具(図10(a)におけるS)を前房内に挿入し、端面1Aから移植用器具内の細胞シートを前房内に引き込みつつ、順次細胞シートをもとの細胞シートに広げながら、角膜実質裏面の適当な箇所へ配置させる(図10(b)参照)。発明の効果の欄で述べたとおり、本発明の移植用器具を用いることで、低侵襲的に細胞シートを保存運搬することや、迅速かつ低侵襲的に角膜内(角膜前房)に細胞シートを移植することが可能となる。
これらの値は典型的な例であって、必要に適宜応じた寸法としてよい。
筒状本体の胴体外周における肉厚については、その材料と共に後述する。
これらの値は典型的な例であって、必要に適宜応じた寸法としてよい。
また筒状本体のうち、管路内に細胞シートを引き込むことを考慮して、管路壁面の材料を筒所本体外側とは別途の材料、特に細胞培養や細胞の維持に適切な材料としてもよい。このような材料は、当業者であれば適宜選択可能である。
このような本発明の移植用器具の一例を、図7に示す(図7(a):筒状本体の胴体外周の一部の肉厚が、連続的に増加している例。図7(b):筒状本体の胴体外周の全部の肉厚が、連続的に増加している例)。
具体的には、筒状本体の材料をポリプロピレン、もしくは低密度ポリエチレンとする場合、先端面1Aの肉厚は0.05mm〜0.3mmであり、他方の端面1Bへと移動するにつれて連続的に増加し、端面1Bの肉厚は0.1mm〜0.3mmである。
また筒状本体を管路の中心軸に垂直に切断したときの管路壁面の断面形状は、細胞シートを充填するのに適切な形状であれば特に限定されないが、好ましくは円形である。ここで「円形」は、本発明の移植用器具内に細胞シートを充填するのに適切な形状である限り、楕円形が含まれる。
当該溝の寸法は、該溝を利用して、把持用器具Sが細胞シートの端部を把持し得るものであり、かつ筒状本体が通常の使用に耐えうる強度を保ち得るものであればよい。また、該溝の底は、筒状本体の管壁を貫通した態様(この態様の場合、溝を「切り欠き」と見ることもできる)であってもよい。当該溝の寸法として好ましくは、溝の幅が1mm〜2.6mmであり、溝の深さが0.03mm〜0.1mmである。また溝の長さは、細胞シートを挿入した際に当該シートの一部または全部が溝上に静置されるような適切な長さであれば特に限定されないが、例えば1mm〜10mmであり、好ましくは1mm〜4mmである。溝の幅、深さは、一部または全部が長手方向に沿って進むごとに連続的に減少してもよい。
細胞シートとしては、角膜内皮細胞のみで構成されるシート状の細胞凝集体であってもよいし、角膜内皮細胞と支持体とが一緒になってシート状構造を呈したものであってもよい。
このような細胞シートとしては、生体角膜から採取した角膜内皮細胞を培養し、シート状になるまで増殖させたもの、具体的には前述した角膜内皮細胞シートが挙げられる。
増殖した角膜内皮細胞をシート状構造にするために、培養する際には支持体を培養液に加えてもよい。培養液に加えられる支持体としては、各種細胞外マトリックス蛋白質(例えば、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲンなど)や、生体吸収性高分子(例えば、MedGel(登録商標)SPのようなゼラチンスキャフォールドなど)などが挙げられるが、特に限定されない。この支持体は、培養した角膜内皮細胞自身が分泌する細胞外マトリックス蛋白質であってもよい。また後述する増殖因子や液性因子を含んでいてもよい。
このような増殖因子や液性因子としては、例えばRGDEペプチド、bFGF、EGF、アスコルビン酸誘導体(例、アスコルビン酸2−リン酸など)などが挙げられる。また細胞外マトリックス蛋白質としては、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲンなどが挙げられる。
培養して製造した細胞シートから、トレパンを用いて任意のサイズに細胞シートを切り出し、培地上に浮遊させる。次に角膜セッシ等の細長い把持用器具Sを端面1Aから1Bに通し、細胞シートMを把持する(図8(a)参照)。そして把持した細胞シートをゆっくりと管内に引き込む(図8(b)参照)。細胞シートの引き込みは、細胞シートの一部または全部が溝3上に配置されるところまで行い、ここで細胞シートを静置する(図8(c)参照)。
まず、端面1Aの密栓を外し、本発明の移植用器具を角膜切開創から前房内に挿入し(図9(a)参照)、当該器具を回転させて器具の先端面から長手方向に沿って設けられた溝が角膜実質後面に近づくよう配置させた後、さらに押し込み固定する(図9(b)参照)。次いで本発明の移植用器具を挿入した角膜切開創と180度反対側の角膜切開創より、角膜セッシ等の把持用器具Sを前房内に挿入し、端面1A側から把持用器具Sを用いて移植器具内の細胞シートMを把持し、これを溝にそって前房内に引き込む(図10(a)参照)。細胞シートは順次もとのシートへと広げられながら、移植器具内から前房内に引き出される。最後に、角膜実質後面の適切な位置に細胞シートを静置する(図10(b)参照)。この作業を具体的に表すウサギ眼の写真を、図11に示す。
本発明の移植用器具を眼球の前房内に挿入する際は、当該移植用器具の内部に剛性の高い心棒を挿入し、該心棒で突き出すようにして、当該移植用器具を前房内に挿入してもよい。
挿入した細胞シートは、自体公知の方法、例えば前房内をシリンジなどで空気置換することにより、細胞シートを角膜実質後面に接着させることで、細胞シートを移植することが可能である。
1.[角膜内皮細胞の単離と初代培養]
14歳から69歳の10例のヒト提供眼から調製された強角膜片を、保存液(商品名:Optisol、Chiron(株)製)中で低温保存された状態で、ロッキーマウンテンライオンズアイバンクから得た。それらは死後6〜8日経過していた。
35mmペトリディッシュに強角膜片を移し、内皮面を15%牛胎児血清(FCS)及び2ng/ml塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)を含むDME培地(以下基礎培地と記載)で洗浄した。
微細なセッシを用いて、角膜内皮をデスメ膜ごと角膜の内面の周辺部から中心へ向かってシート状に剥ぎ取り、35mmペトリディッシュに移した。ペトリディッシュ上で角膜内皮細胞が付着したデスメ膜片をさらに2ミリ角程の小片に細切後、綿状の実質組織の付着を認めないデスメ細片のみを低吸着遠心チューブ(住友ベークライト(株)製)に回収し、0.2%のコラゲナーゼ(商品名:コラゲナーゼA、コラゲナーゼ活性:>0.15U/mg、ロシュ(Roche)(株)製)を含む基礎培地中で、37℃、5%CO2で1〜3時間インキュベートした。
コラゲナーゼ処理した細胞を基礎培地で希釈し、20g、2分間の遠心洗浄を3回繰り返し、上清に浮遊する細胞を除去した。次にリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で希釈し、同様に20gで2分間の遠心洗浄を1回行った後、沈殿した細胞塊に0.5%トリプシン/0.2%エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を加え、37℃、5%CO2で5分間インキュベートした。基礎培地を加え、500gで5分間の遠心をすることにより細胞ペレットを得た。得られた細胞ペレットを、100μg/mlアスコルビン酸2−リン酸(和光純薬(株)製)を含む基礎培地と含まない比較用の基礎培地とに再懸濁後、下記の方法で作製したディッシュ上にそれぞれ播種し、37℃、5%CO2のインキュベータ内で2〜4週間、2〜3日毎に培地を交換しながら培養した。
<ディッシュの作製>
5mg/mlのアテロコラーゲン(ウシ真皮由来のコラーゲン酸性溶液、商品名:IAC−50、高研社(株)製)を10mM酢酸で100倍希釈し、35mmディッシュに1ml加え、37℃で1時間放置後、2mlのPBSで2回洗浄することによりアテロコラーゲンでコートされたディッシュを作製した。
特に10例中2例(ドナーNo.5および7)については、アスコルビン酸2−リン酸を含む基礎培地で培養した場合は、培養ディッシュ全面に角膜内皮細胞の特徴である敷石状の細胞像を認めたが、アスコルビン酸2−リン酸を含まない基礎培地で培養した場合は、細胞増殖を認めず初代培養に失敗した(図1参照、ドナーNo.7)。
従来から知られている方法(Miyata K,Drake J,Osakabe Y,Hosokawa Y,Hwang D,Soya K,Oshika T,Amano S.Cornea.2001 20:59−63)により、ヒト角膜内皮細胞を単離・培養した。以下にその方法を簡単に記載する。35mmペトリディッシュに角膜を移し、内皮面を基礎培地で洗浄した。微細なセッシを用いて、角膜内皮をデスメ膜ごと角膜の内面の周辺部から中心へ向かってシート状に剥ぎ取り、35mmペトリディッシュに移した。ペトリディッシュ上でデスメ膜片をさらに2mm角程の小片に細切後、胎児牛の角膜内皮細胞が産生した細胞外基質で被覆したディッシュ上に内皮面を下側にして置き、そのディッシュを注意深く37℃、5%CO2のインキュベータ内に移動し、2〜3週間、2〜3日毎に培地を交換しながら培養した。
上記1で得た14歳から69歳の10例のドナーの初代培養細胞を、それぞれ次の通りに継代培養した。
初代培養細胞をPBSで洗浄後、0.5%トリプシン/0.2%EDTAで分散させた。これに基礎培地を加え、500g、5分間遠心した後、100μg/mlアスコルビン酸2−リン酸を含む基礎培地と、含まない比較用の基礎培地に懸濁し、上記1と同様の方法で作製したアテロコラーゲンでコートされたディッシュ上に、1000個/cm2の細胞密度でそれぞれ播種し、37℃、5%CO2で培養した。細胞がコンフレントになった時点で同様の継代操作を繰り返した。
図2は、ドナーNo.8の例を示すもので、初代培養終了後も継代培養を繰り返してもアスコルビン酸2−リン酸添加群の方が非添加群と比較して取得細胞数が多くなった(図2(a)、(b))。また、6回継代終了時での細胞形態を見ると、アスコルビン酸2−リン酸添加群は、角膜内皮細胞特有の敷石状の形態を保持していたが、アスコルビン酸2−リン酸非添加群は、角膜内皮細胞の形態を保持せず繊維芽細胞様を呈した(図2(c))。
使用した角膜内皮細胞は、上記1と同様の方法で初代培養を行い、上記3と同様の方法で3回の継代培養を行った後に凍結保存したヒト角膜内皮細胞を用いた。初代培養および継代培養のいずれも、上記1と同様の方法で作製したアテロコラーゲンでコートされたディッシュと、100μg/mlアスコルビン酸2−リン酸を含む基礎培地の組み合わせを用いた。
2×106個の角膜内皮細胞を基礎培地に懸濁後、上記1と同様の方法で作製したアテロコラーゲンでコートされた10cmディッシュ3枚に播種し、基礎培地を用いて1日おきに培地交換しながら37℃、5%CO2で培養した(図5参照)。細胞がコンフレントに達した時点で、0.05%トリプシン/0.02%EDTA溶液で細胞を分散させ、基礎培地に懸濁した。家兎に移植する細胞については、細胞をPKH26染色キット(商品名:MINI26、SIGMA(株)製)で標識した。厚さ35μmのアテロコラーゲン膜(高研(株)製)を、35mmディッシュの底面大に切り抜き、基礎培地で洗浄後、ディッシュ底面にシリコンリングで固定した。15%のFCSと2ng/mlのbFGFを含むDME培地で細胞を懸濁し、アテロコラーゲン膜を固定したディッシュに6000個/mm2の密度で細胞を播種し、毎日培地交換しながら37℃、5%CO2で1〜4週間培養した。家兎に移植する細胞については37℃、5%CO2で3週間培養した。これにより角膜内皮細胞シートを得た。
培養角膜内皮細胞シートに対し、角膜内皮機能に関連するタンパク質ZO−1(バリア機能)、Na+/K+ATPase(ポンプ機能)及び角膜内皮細胞基底膜(デスメ膜)の主要な構成成分であるIV型コラーゲン(細胞接着能)について以下の方法によりウエスタンブロット解析した。
上記4で作製した移植用角膜内皮細胞シートにタンパク質抽出用試液(8MUrea、0.1%SDS、20mM Tris、pH7.4)を加えた。コントロールとして強角膜片よりデスメ膜ごと回収した内皮細胞(1眼分)に、タンパク質抽出用試液を加えた。
氷上で10分間振とうした後抽出液を回収し、14000rpmで15分間遠心した。上清を回収し、回収した上清から5μgのサンプルを調製し、SDS−PAGEにて分離後、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜に転写した。
ここで、1次抗体として次の抗体を使用した。
Rabbit anti−ZO−1(インビトロジェン(株)製、#16−240)、Mouse anti−Na+/K+ ATPase α−1(ミリポア(株)製、#05−369)、Mouse anti−Na+/K+ ATPase β−1(ミリポア(株)製、#05−382)、Goat anti−typeIVcollagen (サザンバイオテック(株)製、1340−01)。
また、2次抗体として次の抗体を使用した。
HRP−linked anti−Mouse IgG(GEヘルスケア(株)製、#NIF825)、HRP−linked anti−Rabbit IgG(GEヘルスケア(株)製、# NIF824)、HRP−linked anti−Goat IgG(サンタクルズ(株)製、#SC−2020)。
目的タンパクの検出にはECL Advance Western Blotting Detection Kit(GEヘルスケア(株)製)を使用し、Gel Documentation System(バイオ・ラッドラボラトリーズ(株)製)を用いて可視化した。
上記4において、3週間培養した移植用角膜内皮細胞シートを6mmトレパンで切り出し、トリパンブルーで染色後、シートの中心部分にビスコート(ヒアルロン酸ナトリウム/コンドロイチン硫酸エステルナトリウム、日本アルコン(株)製)を滴下した。DME培地で満たしたディッシュに移植用角膜内皮細胞シートを浸しDME培地を含浸させ、移植まで室温にて保存した。
図6に示す態様の移植用器具を作製し、その使用状況を評価した。
筒状本体をポリプロピレン、低密度ポリエチレンを材料として形成した。各主要部分の寸法は以下の通りである。
筒状本体の全長:12.0mm
管路の内径:2.6mm
筒状本体の胴体外周の肉厚:
先端面側:0.1mm
基端面側:0.2mm
管路の壁面に設けられた溝:
幅:1.0mm
深さ:0.05mm
長さ:3.0mm
先端面と管路の中心軸とがなす角度(α):45度
基端面と管路の中心軸とがなす角度(β):45度
本発明の移植用器具の開発過程における課題として、細胞シートを移植用器具内に充填する際に、シートが折れ曲がったり裏返ったりするために細胞がシートから剥離してしまうことがあった。そこで移植用器具右端(図6における端面1B)の細胞シート引き込み口を斜めに作製した結果、細胞が乗っているシート面が緩やかに内側に巻かれながら引き込まれるようになった(図8(a)および(b)参照)。このことにより細胞に損傷を与えることなく細胞シートを移植用器具に引き込むことが可能となった。また、前房内に挿入する側の移植用器具挿入口(図6における端面1A)の挿入口の斜め構造は、巻かれた細胞シートをゆっくりと広げる低侵襲な前房内挿入に有用であった。移植用器具引き込み口の厚みは空気置換時の気密性保持に有効であった(図7参照)。また本発明の移植用器具挿入口の溝(図6における溝3)は、細胞シートに損傷を与えずにセッシで挟むための構造として有用であった。
本発明の移植用器具を用いることにより、下記比較例1で述べるように術式は従来法と比べ飛躍的に簡便化され、移植に要した時間は10分程度であった。また細胞への損傷の程度は著しく軽減された。
移植用器具への細胞シートの挿入操作は実体顕微鏡下で行った。アテロコラーゲン膜上で3週間培養した角膜内皮細胞のシートを6mmトレパンで切り出し、トリパンブルーで染色後、当該細胞シートの中心部分にビスコート(アルコン)を滴下した。DME培地を満たしたディッシュに細胞シートを沈め、溝を有する端(図6(a)における端面1A)から23G DSAEKセッシを挿入し(図8(a)参照)、反対側(図6(a)における端面1B)から細胞シートを培地とともに移植用器具内に引き込んだ(図8(b)参照)。細胞シートを移植用器具に充填(図8(c)参照)後、ゴム製蓋で両端を密栓し、オペ室に輸送し移植まで室温にて保存した。移植までに長時間を要する場合には、移植用器具に適当な穴のあいた蓋をし、培地を入れた別の容器内に入れ室温で運搬・保存し、移植直前に上述の蓋と取り替え密栓した。
JBSラビット(3Kg、メス)にケタミンヒドロクロリド(60mg/kg、第一三共)およびキシラジン(xylazine)(10mg/kg、バイエル)を筋肉内投与して麻痺させた。0.3mg/mlマイトマイシンC(協和発酵工業)を3分間前房内投与後、2.4mm角膜トンネルを作製し、I/A(アルコン)を用いてオキシグルタチオン還流液(千寿製薬)で前房内を洗浄後ナイロン縫合糸で角膜トンネルを縫合し内皮細胞増殖抑制モデルを作製した。
モデルウサギの作製から2週間後、アキュラス(アルコン)を用い、25Gイリゲーションチューブを前房内に挿入し還流液を入れることで前房深度を保持しながら、25G硝子体カッターで硝子体切除を行った。2.4mm角膜トンネルを作製し、20Gソフトテーパードニードルで角膜内皮面を擦過した。I/Aで前房内洗浄後、トリパンブルー染色で内皮脱落を確認した。25G鋭針で作製したチストトームでデスメ膜を6mm剥離し、再度トリパンブルー染色でデスメ膜欠落を確認し、水疱性角膜症モデルウサギを作製した。
内皮シート把持用、空気挿入用にそれぞれ20G、25Gニードルで角膜にポートを作製し、移植片を挿入するため2.4mm角膜トンネルを3.2mmに拡大した。細胞シートを充填した移植用器具の溝がある側(図6における端面1A)の蓋をはずし、還流液を満たした前房内に移植用器具を半分程度挿入(図9(a)参照)し、移植用器具を回転させた後(図9(b)参照)、23G DSAEKセッシを管内に挿入して細胞シートを把持した(図10(a)および図11参照)。次いで把持した細胞シートを前房内に引き込み、デスメ膜を剥離した実質後面に移動(図10(b)参照)後、25Gで作製したポートから前房内をシリンジで空気置換することで細胞シートを実質後面に接着させた(T群)。移植後、吸収糸であるバイクリル糸(8−0)を用いて3.2mmと20Gの角膜トンネルを縫合した。内皮細胞を伴わないアテロコラーゲンシートを貼付した群をアテロシート群(AS群)、何も貼付しない無治療の群をコントロール群(C群)とした。術後は一日一回のオフロキサシン(参天)、塩酸ベタメサゾン軟膏(塩野義)の点眼・塗布を継続した。
上記実施例1の項目4で得られた移植用角膜内皮細胞シートを、ブジングライド(モリア社製)の上に乗せ、実施例1の項目9で得られた水疱性角膜症モデルウサギの角膜トンネルから前房内に挿入し、23GのDSAEK用セッシを用いて移植用角膜内皮細胞シートを前房内に引き込み、空気タンポナーデすることで移植した(従来法)。
この場合、上記実施例1の項目9に記載の本発明の移植用器具を用いた場合と比較して、角膜内皮細胞シートの移植に長時間を要した。また移植した細胞シートには細胞剥離が認められ、移植前と同様に保持されていないことが確認された。
さらに本発明の移植用器具によれば、低侵襲的に細胞シートを前房内に挿入することが可能になると共に、細胞シートの移植に要する時間は、従来の方法を採用した場合に比べて著しく短縮される。
1A 端面(先端部)
1a 端面1A内の開口の周囲のうち最も突き出した点
1B 端面(基端面)
1b 端面1B内の開口の周囲のうち最も突き出した点
2 管路
3 溝
X 中心軸
M 細胞シート
S 把持用器具
Claims (9)
- 角膜内皮細胞を、アスコルビン酸2−リン酸を含む培養液中で培養することを特徴とする、角膜内皮細胞の培養方法。
- 角膜内皮細胞が、バイオポリマー上で培養される、請求項1に記載の方法。
- バイオポリマーが、コラーゲンを含む細胞外マトリックス分子である、請求項2に記載の方法。
- コラーゲンが、アテロコラーゲンである、請求項3に記載の方法。
- 角膜内皮細胞を、アスコルビン酸2−リン酸を含む培養液中で培養する工程を含む、移植用角膜内皮細胞シートの製造方法。
- 角膜内皮細胞が、バイオポリマー上で培養される、請求項5に記載の方法。
- バイオポリマーが、コラーゲンを含む細胞外マトリックス分子である、請求項6に記載の方法。
- コラーゲンが、アテロコラーゲンである、請求項7に記載の方法。
- バイオポリマーでコートされた基材およびアスコルビン酸2−リン酸を含む培養液を含んでなる、角膜内皮細胞培養キット。
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