JP5835473B2 - 光学部品の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は光学部品の製造方法に関するものであり、例えば、薄肉のプラスチックレンズ(例えば携帯電話用レンズ)等の光学部品を射出成形により製造する方法に関するものである。
一般的なプラスチックレンズは、レンズの光学的機能を有するレンズ部と、その外周に設けられた鍔状のフランジ部と、で構成されている。フランジ部は、プラスチックレンズをレンズホルダーに取り付ける際の設置部分として利用される。このようなプラスチックレンズの射出成形時には、樹脂が金型内でゲートからフランジ部形成空間へと流れ、レンズ部形成空間まで充填されることになる。このため、プラスチックレンズの薄型化を図ろうとすると、フランジ部を薄くするために金型内のフランジ部形成空間も薄くなり、それに伴ってゲートも薄くなってしまう。その結果、樹脂充填効率の低下,光学的精度の低下等の問題が生じることになる。
上記のようにフランジ部を有するプラスチック光学部品に特有な製造時の問題点を解消するために、従来より様々な製造技術が提案されている。例えば、特許文献1にはレンズ部に生じるウェルドラインの発生を防止するための技術が提案されており、特許文献2には前記樹脂充填効率の低下等を解消するための技術が提案されている。また、特許文献3には、オーバーラップゲート方式におけるゲートカット方法として、金型取り出し直後の樹脂成形体の表面にゲート部痕が生じないようにするための技術が提案されている。
特開2006−272870号公報 特開平11−14804号公報 特開平11−216744号公報
特許文献1に記載の技術では、フランジ部の側面にゲートを配し、さらにフランジ片側表面にゲートを拡張し、レンズ部にまでわたってゲートを形成しているので、レンズ部に直接応力歪が発生する。このため、ゲート付近ではレンズ表面の形状精度が悪化したり複屈折が生じたりして、光学的精度が低下することになる。また、フランジ面のゲート突起部(ゲートの拡張部分)の除去を行わないので、突起部が形成されている側のフランジ面を組立基準面(例えば載置面)とする場合に突起部が障害物となる。このため、レンズが組立時に傾かないように、また、反射防止膜を成膜する場合には治具への設置においてレンズが傾かないように、相手部品の設計に制限を与える必要がある。
特許文献2に記載の技術では、フランジ面の周縁部の一部にゲート用凸部を設け、ゲート用凸部の側面にゲート切断部を形成しているので、フランジ面を組立基準面(例えば載置面)とする場合にゲート用凸部が障害物となる。このため、レンズが組立時に傾かないように、相手部品の設計に制限を与える必要がある。また、フランジ面に対して1か所以上の突起部が存在するので、反射防止膜を成膜する場合において治具への設置で傾かないように、相手部品の設計に制限を与える必要がある。突起部が2か所以上存在する場合には、光学面が治具開口よりも遠ざかるため、成膜にケラレが発生し、所望の範囲に成膜できないおそれがある。また、両面に突起部を設けた場合、固定側金型に突起部とゲートを設けることになるので、突起部とゲートが固定側金型から剥離し難くなり、レンズが傾いて取り出されるおそれがある。
特許文献3では、金型内において溶融状態の樹脂がゲートカットされるため、プラスチックレンズにおいてはゲート近傍に応力歪が発生し、ゲート付近でレンズ表面の形状精度が悪化したり、複屈折が生じたりすることになる。
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、プラスチック光学部品を射出成形で作製する場合において、フランジ部が薄くても樹脂充填効率が高く、離型変形,応力歪及び外観不良が無く高品質でありながら、高精度の組立基準面(例えば嵌合面及び載置面)を有する光学部品の製造方法を提供することにある。
上記目的を達成するために、第1の発明の光学部品の製造方法は、光学機能部の外周にフランジ部を有するプラスチック光学部品を、固定側金型と可動側金型を用いた射出成形により作製する製造方法であって、樹脂を充填するためのゲートの空間と前記フランジ部を形成する空間とが、前記可動側金型にのみ設けられており、前記フランジ部を形成する空間において、前記フランジ部の側面からフランジ部の厚み方向へ拡張してフランジ面の一部を覆うまでの範囲に対応する部分に、前記ゲートが配置されていることを特徴とする。
第2の発明の光学部品の製造方法は、上記第1の発明において、前記固定側金型及び可動側金型で形成された樹脂成形体に対して、前記ゲートに充填された樹脂から成るゲート部の切断除去を、金型外で樹脂固化後に行うことを特徴とする。
第3の発明の光学部品の製造方法は、上記第2の発明において、前記フランジ部の側面からゲート部を除去する工程と、前記フランジ面からゲート部を除去する工程と、で前記ゲート部の切断除去を行うことを特徴とする。
第4の発明の光学部品の製造方法は、上記第2の発明において、前記ゲート部の切断除去において、前記ゲート部が設けられているフランジ部分をゲート部と一体で除去することを特徴とする。
第5の発明の光学部品の製造方法は、上記第1の発明において、前記フランジ部の最大厚みが2mm以下であることを特徴とする。
第6の発明の光学部品の製造方法は、上記第5の発明において、前記フランジ部の最大厚みが0.8mm以下であることを特徴とする。
第7の発明の光学部品の製造方法は、上記第2又は第3の発明において、前記フランジ面に凹形状のゲートカット跡が形成されるようにゲート部の切断除去を行うことを特徴とする。
第8の発明の光学部品の製造方法は、上記第1の発明において、前記フランジ面が複数の高さの面を有することを特徴とする。
第1の発明に係る光学部品の製造方法では、フランジ部の側面から可動側のフランジ面にわたってゲートを形成するので、フランジ部の側面のみにゲートを設ける場合に比べて、ゲート断面積を比較的大きくすることができる。これにより、樹脂の充填効率が向上し、樹脂の固化が進む前に充填を行うことが可能となり、また、ゲートの剛性が高まるので離型時のレンズ自身の変形とレンズ姿勢の変形を防止することも可能となる。
さらに、ゲート部を可動側金型で保持することができるので、樹脂成形体の固定側への拘束を防止して、良好な離型を達成することができる。これにより、応力歪が無く、樹脂流動不良に伴う外観不良の無い光学部品を得ることができる。したがって、本発明の製造方法によれば、フランジ部が薄くても樹脂充填効率が高く、離型変形,応力歪及び外観不良が無く高品質でありながら、高精度の組立基準面(例えば嵌合面及び載置面)を有する光学部品を製造することができる。
第2の発明に係る光学部品の製造方法では、固定側金型及び可動側金型で形成された樹脂成形体に対して、ゲートに充填された樹脂から成るゲート部の切断除去を、金型外で樹脂固化後に行うので、光学部品に応力歪を与えないようにすることが可能である。
第3の発明に係る光学部品の製造方法では、ゲート部の切断除去を行うことによりフランジ部の側面とフランジ面からゲート部を除去するので、ゲート部又はゲートカット跡がフランジ部の載置面やフランジ外径よりも凸になることを防止することができる。このため、フランジ部の側面を嵌合面にしたりフランジ面を載置面にしたりすることが容易になり、相手部品の設計に制限を与えないようにすることができる。また、ゲート部の剛性が高いので、ゲートカット時にゲート部分が折損して、フランジ部にクラックが及んだり、フランジ部が欠損することを防止することができる。
第4の発明に係る光学部品の製造方法では、ゲート部の切断除去において、ゲート部が設けられているフランジ部分をゲート部と一体で除去するので、ゲートカット処理を特に簡素化しながら、ゲート部又はゲートカット跡がフランジ部の載置面やフランジ外径よりも凸になることを防止することができる。したがって、フランジ部の側面を嵌合面にしたりフランジ面を載置面にしたりすることが容易になり、相手部品の設計に制限を与えないようにすることができる。
上記のように、ゲート部の切断除去により載置面に突起が無いようにすれば、反射防止膜を成膜する時にケラレが生じず、所望の範囲に成膜を行うことが可能となる。また、応力歪や外観不良が無く高品質でありながら、嵌合面と載置面が高精度なプラスチック光学部品を得ることが可能となる。
第5の発明のように光学部品のフランジ厚を抑えれば、フランジ部の側面が薄くても、サイドゲートのようにゲート厚が不足して充填不足になる、ということを防ぐことができる。第6の発明のように光学部品のフランジ厚を抑えれば、上記効果が増大するとともに、金型からの離型時にゲート部が曲がって取り出される、ということも防ぐことができる。
第7の発明によれば、ゲート部又はゲートカット跡がフランジ部の載置面やフランジ外径よりも凸になることを防止することができる。このため、フランジ部の側面を嵌合面にしたりフランジ面を載置面にしたりすることが容易になり、相手部品の設計に制限を与えないようにすることができる。
第8の発明によれば、ゲートカットで生じる極微なカットバリが載置面に露出して、組立時に微小傾きが発生することを防止することができる。
第1の実施の形態による円形レンズ用樹脂成形体を示す外観図。 第2の実施の形態によるDカットレンズ及びその樹脂成形体を示す外観図。 第1,第2の実施の形態に用いる金型構造を示す断面図。 第1の実施の形態におけるゲートカットの具体例1を示す外観図。 第1の実施の形態におけるゲートカットの具体例2を示す外観図。 第2の実施の形態によるDカットレンズのフランジ面形状の具体例を示す図。 円形レンズ用樹脂成形体の基本構成(鏡面コア突き出しタイプ)を参考のために示す外観図。 鏡面コア突き出しタイプの金型構造の基本構成を参考のために示す断面図。 円形レンズ用樹脂成形体の基本構成(エジェクタピン突き出しタイプ)を参考のために示す外観図。 エジェクタピン突き出しタイプの金型構造の基本構成を参考のために示す断面図。 ゲートカットされた円形レンズの具体例を示す平面図。 円形レンズのホルダー保持状態の一例を示す図。 Dカットレンズ用樹脂成形体の基本構成を参考のために示す外観図。 Dカットレンズのホルダー保持状態等の一例を示す図。 フランジ部が薄い樹脂成形体の課題を説明するための断面図。 フランジ部の両面にゲート部が拡張された円形レンズ用樹脂成形体を比較のために示す外観図。 フランジ部形成空間の両面にゲート拡張された金型構造を比較のために示す断面図。
以下、本発明に係る光学部品の製造方法の実施の形態等を、図面を参照しつつ説明する。なお、実施の形態,参考・比較のための形態等の相互で同一の部分や相当する部分には同一の符号を付して重複説明を適宜省略する。
まず、プラスチックレンズとして一般的な円形レンズについて、その製造に用いられる樹脂成形体及び金型構造の基本構成を参考のために説明する。図7に円形レンズ用の樹脂成形体11A(鏡面コア突き出しタイプ)を示し、図8に樹脂成形体11Aの射出成形に用いられる金型構造を示す。図7(A)は樹脂成形体11Aの上面図であり、図7(B)は樹脂成形体11Aの側面図であり、図7(C)は樹脂成形体11Aの下面図である。
樹脂成形体11Aは、レンズ部2とその外周に設けられた鍔状のフランジ部3とでプラスチックレンズ1Aを構成している。レンズ部2はレンズの光学的機能を有する部分であり、フランジ部3はプラスチックレンズ1Aをレンズホルダー6(後で説明する図12,図14)に取り付ける際の設置部分となる。プラスチックレンズ1Aには、図8に示す鏡面コア突き出しタイプの金型構造により、ゲート部4とランナー部5が一体的に形成されている。
図8に示す金型構造は、固定側金型M1,可動側金型M2,固定側の鏡面コア17a,可動側の鏡面コア17b,エジェクタピン18等から成っており、これらの金型M1,M2等でレンズ部形成空間12,フランジ部形成空間13,ゲート14及びランナー15を構成している。樹脂を充填するためのゲート14の空間とフランジ部形成空間13とは、可動側金型M2にのみ設けられている。また、固定側金型M1と可動側金型M2には、レンズ面形成用の鏡面コア17a,17bがそれぞれ設けられている。ただし、固定側金型M1に設けられている鏡面コア17aは、金型M1に固定された状態で動かないようになっており、可動側金型M2に設けられている鏡面コア17bは、フランジ面3aに対する垂直方向に進退可能になっている。また、可動側金型M2にはエジェクタピン18が設けられており、ランナー15に対して進退可能に構成されている。
射出成形時には、樹脂が金型M1,M2内でランナー15からゲート14を通ってフランジ部形成空間13へと流れ、レンズ部形成空間12まで充填される。樹脂成形体11Aの離型は、樹脂固化後、以下のようにして行われる。まず、可動側金型M2が固定側金型M1から離れる方向(図8においては下方)に平行移動し、樹脂成形体11Aが可動側金型M2に密着した状態で可動側金型M2と共に移動する。これにより、樹脂成形体11Aは固定側金型M1から離型される。次に、エジェクタピン18がランナー15側に向けて突き出されると同時に鏡面コア17bがプラスチックレンズ1A側に向けて移動して、樹脂成形体11Aが可動側金型M2から離型される。エジェクタピン18と鏡面コア17bは可動側金型M2内の元の所定位置に戻る事で樹脂成形体11Aから離れる。なお、エジェクタピン18の突き出しにより、ランナー部5にはエジェクタピン跡18a(図7(C))が残る。
次に、離型方式が上記とは異なる射出成形方法を説明する。図9に円形レンズ用の樹脂成形体11A(エジェクタピン突き出しタイプ)を示し、図10に樹脂成形体11Aの射出成形に用いられる金型構造を示す。図9(A)は樹脂成形体11Aの上面図であり、図9(B)は樹脂成形体11Aの側面図であり、図9(C)は樹脂成形体11Aの下面図である。
樹脂成形体11Aは、レンズ部2とその外周に設けられた鍔状のフランジ部3とでプラスチックレンズ1Aを構成している。レンズ部2はレンズの光学的機能を有する部分であり、フランジ部3はプラスチックレンズ1Aをレンズホルダー6(後で説明する図12,図14)に取り付ける際の設置部分となる。プラスチックレンズ1Aには、図10に示すエジェクタピン突き出しタイプの金型構造により、ゲート部4とランナー部5が一体的に形成されている。
図10に示す金型構造は、固定側金型M1,可動側金型M2,固定側の鏡面コア17a,可動側の鏡面コア17b,エジェクタピン18等から成っており、これらの金型M1,M2等でレンズ部形成空間12,フランジ部形成空間13,ゲート14及びランナー15を構成している。樹脂を充填するためのゲート14の空間とフランジ部形成空間13とは、可動側金型M2にのみ設けられている。また、固定側金型M1と可動側金型M2には、レンズ面形成用の鏡面コア17a,17bがそれぞれ設けられており、いずれも金型M1,M2に固定された状態で動かないようになっている。また、可動側金型M2にはエジェクタピン18が設けられており、フランジ部形成空間13及びランナー15に対して進退可能に構成されている。
射出成形時には、樹脂が金型M1,M2内でランナー15からゲート14を通ってフランジ部形成空間13へと流れ、レンズ部形成空間12まで充填される。樹脂成形体11Aの離型は、樹脂固化後、以下のようにして行われる。まず、可動側金型M2が固定側金型M1から離れる方向(図10においては下方)に平行移動し、樹脂成形体11Aが可動側金型M2に密着した状態で可動側金型M2と共に移動する。これにより、樹脂成形体11Aは固定側金型M1から離型される。次に、エジェクタピン18がフランジ部形成空間13及びランナー15側に向けて突き出されて、樹脂成形体11Aが可動側金型M2から離型される。エジェクタピン18は可動側金型M2内の元の所定位置に戻る事で樹脂成形体11Aから離れる。なお、エジェクタピン18の突き出しにより、フランジ部3及びランナー部5にはエジェクタピン跡18a(図9(C))が残る。
上述のようにして得られた樹脂成形体11Aをゲート部4で切断すると、プラスチックレンズ1Aを得ることができる。図11(A)〜(C)に、円形レンズのゲートカット例を示す。図11(A)に示すプラスチックレンズ1Aは、ゲート部4の一部を残すようにしてゲートカットされた円形レンズである。図11(B)に示すプラスチックレンズ1Aは、フランジ部3の外形の円に沿って円弧上にゲートカットされた円形レンズである。図11(C)に示すプラスチックレンズ1Aは、フランジ部3の一部が直線状にゲートカット(減肉加工)された円形レンズである。
図11(A)に示すプラスチックレンズ1Aのホルダー保持状態の一例を、図12に示す。図12(A)はプラスチックレンズ1Aがレンズホルダー6に取り付けられた状態を示す平面図であり、図12(B)はプラスチックレンズ1Aがレンズホルダー6に取り付けられた状態を示す断面図である。ゲート部4の一部を残すようにカットすると(図11(A))、プラスチックレンズ1Aをレンズホルダー6にセットする際、フランジ部3の側面3bに残っているゲートカット跡4cが、図12に示すようにレンズホルダー6に干渉し易くなる。つまり、円形レンズでは突出したゲートカット跡4cがフランジ部3の外形の円を基準にする組み立ての障害となる。
ゲート部4の一部が残らないようにゲートカットすれば(図11(B),(C))、ゲートカット跡4cに起因する問題は生じない。そして、フランジ部3が直線状となるように(図11(C))、Dカットレンズとして樹脂成型を行った場合でも同様である。図13に、Dカットレンズ用の樹脂成形体11Bの基本構成を参考のために示す。図13(A)は樹脂成形体11Bの上面図であり、図13(B)は樹脂成形体11Bの側面図である。なお、プラスチックレンズ1BはDカットレンズとなっており、鏡面コア突き出しタイプやエジェクタピン突き出しタイプの特徴は、円形レンズの場合と同様である。
図14に、プラスチックレンズ1Bのホルダー保持状態等の一例を示す。図14(A)に示すプラスチックレンズ1Bは、ゲート部4の一部を残すようにしてゲートカットされたDカットレンズである。そして、図14(B)はプラスチックレンズ1Bがレンズホルダー6に取り付けられた状態を示す平面図であり、図14(C)はプラスチックレンズ1Bがレンズホルダー6に取り付けられた状態を示す断面図である。図14から分かるように、Dカットレンズではフランジ部3の外形の仮想円内にゲートカット跡4cを残すことができるので、ゲートカット跡4cがレンズホルダー6に干渉せず、組み立てが容易になる。
上述したプラスチックレンズ1A,1B(円形レンズやDカットレンズ)の薄型化を図ろうとすると、フランジ部3を薄くするために可動側金型M2内のフランジ部形成空間13も薄くなり(図7〜図10等)、それに伴ってゲート14も薄くなってしまう。その結果、以下に説明する充填性,離型性及び加工性に関する問題(図15)が生じることになる。
フランジ部3の薄い樹脂成形体11A,11Bを前述した製造方法で作製する場合、充填性に関する問題(図15(A))が生じる。フランジ部形成空間13が薄いと、ゲート14も薄くなるため、樹脂9の充填の際に過大な圧力をかけないと充填は困難である。このため、ゲート部4に応力歪が生じるおそれがある。また、樹脂9の充填効率が低いと、樹脂9の固化が進み易くなるため、充填不良・応力歪が生じるおそれがある。
フランジ部3の薄い樹脂成形体11A,11Bを前述した製造方法で作製する場合、離型性に関する問題(図15(B))が生じる。フランジ部形成空間13が薄いと、ゲート14も薄くなるため、ゲート部4の剛性が低くなる。その結果、可動側金型M2からの離型時に、プラスチックレンズ1A,1Bが、エジェクタピン18から剥離する際に、両者の密着力により、プラスチックレンズ1A,1Bが、ゲート部4から曲がって連れ戻りする事が有り、ゲート部4の応力歪やレンズ自身の変形が生じるおそれがある。また、ランナー部5に対してレンズ部2及びフランジ部3が斜めになって取り出されるため、ゲートカット機で正常にカットすることが困難になる。なお、図15(B)はエジェクタピン突き出しタイプの構造を示しているが、鏡面コア突き出しタイプの構造でも同じ現象が発生する。
フランジ部3の薄い樹脂成形体11A,11Bを前述した製造方法で作製する場合、ゲートカット時の加工性に関する問題(図15(C))が生じる。フランジ部形成空間13が薄いと、ゲート14も薄くなるため、ゲート部4の剛性が低くなる。その結果、ゲートを切削で除去する時にゲートが折損し易くなり、フランジ部3にクラックが及んだりフランジ部3が欠損したりするおそれがある。例えば、ゲート部4を切断した後にエンドミル16で削る際の加工性に劣るため、加工時間を長くかける必要が生じてしまう。
上述したようにフランジ部3の薄いプラスチックレンズ1A,1Bに特有な製造時の問題を解決するために、以下に説明する第1,第2の実施の形態の製造方法では特徴的なゲート構造を採用している。
図1に第1の実施の形態によるプラスチックレンズ(円形レンズ)1A用の樹脂成形体10Aを示し、図2に第2の実施の形態によるプラスチックレンズ(Dカットレンズ)1B及びその樹脂成形体10Bを示す。図1(A)は樹脂成形体10Aの側面図であり、図1(B)は樹脂成形体10Aの下面図である。図2(A)は樹脂成形体10Bの側面図であり、図2(B)は樹脂成形体10Bの下面図であり、図2(C)はゲート部4の一部を残すようにしてゲートカットされたプラスチックレンズ1Bの平面図である。
また、図3に第1,第2の実施の形態において樹脂成形体10A,10Bの射出成形に用いられる金型構造を示す。図3(A)は樹脂成形体10A,10Bの射出成形に用いられる鏡面コア突き出しタイプの金型構造を示しており、図3(B)は樹脂成形体10A,10Bの射出成形に用いられるエジェクタピン突き出しタイプの金型構造を示している。
樹脂成形体10A,10Bは、レンズ部2とその外周に設けられた鍔状のフランジ部3とでプラスチックレンズ1A,1Bを構成している。レンズ部2はレンズの光学的機能を有する部分であり、フランジ部3はプラスチックレンズ1A,1Bをレンズホルダー6(図12,図14)に取り付ける際の設置部分となる。プラスチックレンズ1A,1Bには、鏡面コア突き出しタイプ(図3(A))又はエジェクタピン突き出しタイプ(図3(B))の金型構造により、ゲート部4とランナー部5が一体的に形成されている。
図3に示す金型構造は、固定側金型M1,可動側金型M2,固定側の鏡面コア17a,可動側の鏡面コア17b,エジェクタピン18等から成っており、これらの金型M1,M2等でレンズ部形成空間12,フランジ部形成空間13,ゲート14及びランナー15を構成している。樹脂を充填するためのゲート14の空間とフランジ部形成空間13とは、可動側金型M2にのみ設けられている。フランジ部形成空間13において、フランジ部3の側面3bからフランジ部3の厚み方向へ拡張してフランジ面3aの一部に至るまでの範囲に対応する部分に、ゲート14は配置されている。また、固定側金型M1と可動側金型M2には、レンズ面形成用の鏡面コア17a,17bがそれぞれ設けられている。
図3(A)に示す鏡面コア突き出しタイプの金型構造では、固定側金型M1に設けられている鏡面コア17aは、金型M1に固定された状態で動かないようになっており、可動側金型M2に設けられている鏡面コア17bは、フランジ面3aに対する垂直方向に進退可能になっている。また、可動側金型M2にはエジェクタピン18が設けられており、ランナー15に対して進退可能に構成されている。
図3(B)に示すエジェクタピン突き出しタイプの金型構造では、固定側金型M1と可動側金型M2にそれぞれ設けられているレンズ面形成用の鏡面コア17a,17bが、いずれも金型M1,M2に固定された状態で動かないようになっている。また、可動側金型M2にはエジェクタピン18が設けられており、フランジ部形成空間13及びランナー15に対して進退可能に構成されている。
射出成形時には、樹脂9(図15)が金型M1,M2内でランナー15からゲート14を通ってフランジ部形成空間13へと流れ、レンズ部形成空間12まで充填される。樹脂成形体10A,10Bの離型は、樹脂固化後、以下のようにして行われる。まず、可動側金型M2が固定側金型M1から離れる方向(図3においては下方)に平行移動し、樹脂成形体10A,10Bが可動側金型M2に密着した状態で可動側金型M2と共に移動する。これにより、樹脂成形体10A,10Bは固定側金型M1から離型される。
図3(A)に示す鏡面コア突き出しタイプの金型構造では、エジェクタピン18がランナー15側に向けて突き出されると同時に鏡面コア17bがプラスチックレンズ1A側に向けて移動して、樹脂成形体10A,10Bが可動側金型M2から離型される。エジェクタピン18と鏡面コア17bは可動側金型M2内の元の所定位置に戻る事で樹脂成形体10A,10Bから離れる。なお前述したように、エジェクタピン18の突き出しにより、ランナー部5にはエジェクタピン跡18a(図7(C))が残る。
図3(B)に示すエジェクタピン突き出しタイプの金型構造では、エジェクタピン18がフランジ部形成空間13及びランナー15側に向けて突き出されて、樹脂成形体10A,10Bが可動側金型M2から離型される。エジェクタピン18は可動側金型M2内の元の所定位置に戻る事で樹脂成形体10A,10Bから離れる。なお前述したように、エジェクタピン18の突き出しにより、フランジ部3及びランナー部5にはエジェクタピン跡18a(図9(C))が残る。
上記のようにして、レンズ部2の外周にフランジ部3を有するプラスチックレンズ1A,1Bが、固定側金型M1と可動側金型M2を用いた射出成形により作製される。各実施の形態の製造方法では、図3に示すように、フランジ部形成空間13において、フランジ部3の側面3bからフランジ部3の厚み方向へ拡張してフランジ面3aの一部に至るまでの範囲に対応する部分に、ゲート14が配置されている。このようにフランジ部3の側面3bから可動側のフランジ面3aにわたってゲート14を形成するので、フランジ部3の側面3bのみにゲート14を設ける場合(図8,図10等)に比べて、ゲート断面積を比較的大きくすることができる。これにより、樹脂の充填効率が向上し、樹脂の固化が進む前に充填を行うことが可能となり、また、ゲートの剛性が高まるので離型時のレンズ自身の変形とレンズ姿勢の変形を防止することも可能となる。
さらに、ゲート部4を可動側金型M2で保持することができるので、樹脂成形体10A,10Bの固定側への拘束を防止して、良好な離型を達成することができる。これにより、応力歪が無く、樹脂流動不良に伴う外観不良の無い光学部品を得ることができる。したがって、各実施の形態の製造方法によれば、フランジ部3が薄くても樹脂充填効率が高く、離型変形,応力歪及び外観不良が無く高品質でありながら、高精度の組立基準面(例えば嵌合面及び載置面)を有するプラスチックレンズ1A,1Bを製造することができる。プラスチックレンズ1A,1Bはレンズ部2に2つの透過面を有しているが、上述したように応力歪が無いため、複屈折が少なく結像性能の良好なレンズ機能を得ることができる。
各実施の形態の製造方法では、図3に示すように、ゲート14の空間とフランジ部形成空間13とが可動側金型M2にのみ設けられており、フランジ部3の側面3bからフランジ面3aへと可動側にゲート14を拡張している。もし、フランジ部3の両面にゲート14を拡張すると、以下に説明するように離型性が低下するおそれがある。
図16に、フランジ部3の両面にゲート部4が拡張された円形レンズ用樹脂成形体11Cを比較のために示す。また図17に、フランジ部形成空間13の両面にゲート14が拡張された金型構造を比較のために示す。図17(A)は樹脂充填状態の金型構造を示しており、図17(B)は固定側金型M1から可動側金型M2が下方に移動した状態の金型構造を示している。
フランジ部3の固定側のフランジ面3aにもゲート部4を拡張すると、図17(B)から分かるように、ゲート部4(破線丸印部分)が固定側金型M1から剥離し難くなる。その結果、樹脂成形体11Cが固定側に残ろうとして可動側金型M2から一部外れてしまい、樹脂成形体11Cが傾いて一部変形したり、全体的に傾いて転写面が金型に押しつけられて可動側面の転写精度が低下してしまうおそれがある。それに対して各実施の形態の製造方法によると、ゲート14の空間とフランジ部形成空間13とを可動側金型M2にのみ設けて、フランジ部3の側面3bから可動側のフランジ面3aにわたってゲート14を形成するので、上記のような問題は生じない。
光学機能部の外周にフランジ部を有するプラスチック光学部品では、フランジ厚を薄くすることが光学部品及びその搭載機器の小型化に大きく貢献する。この観点から、フランジ部3の最大厚みは、2mm以下であることが好ましい。このように光学部品のフランジ厚を抑えれば、フランジ部3の側面3bが薄くても、サイドゲート(図7〜図10)のようにゲート厚が不足して充填不足になる、ということを防ぐことができる。
フランジ部3の最大厚みは、0.8mm以下であることが好ましい。このように光学部品のフランジ厚を抑えれば、フランジ部3の側面3bが薄くても、サイドゲートのようにゲート厚が不足して充填不足になる、ということを特に防ぐことができるとともに、金型M1,M2からの離型時にゲート部4が曲がって取り出される、ということを防ぐことができる。そして、フランジ厚が0.8mm以下のプラスチックレンズを用いれば、例えば、レンズ5枚構成のマイクロカメラユニットの低背化を効果的に達成することができる。
前述のようにして得られた樹脂成形体10A,10Bをゲート部4で切断すると、光学機器に搭載可能な状態のプラスチックレンズ1A,1Bを得ることができる。このとき、固定側金型M1及び可動側金型M2で形成された樹脂成形体10A,10Bに対して、ゲート部4の切断除去を金型M1,M2外で樹脂固化後に行うことにより、プラスチックレンズ1A,1Bに応力歪を与えないようにすることが可能である。
図4に、第1の実施の形態におけるゲートカットの具体例1を示す。図4(A)の側面図と図4(B)の下面図は、フランジ部3の側面3bとフランジ面3aにエンドミル加工を施している状態を示しており、図4(C)の側面図と図4(D)の下面図はエンドミル加工後のプラスチックレンズ1Aを示している。この具体例1では、フランジ部3の側面3bからゲート部4を除去する工程と、フランジ面aからゲート部4を除去する工程と、でゲート部4の切断除去が行われる。
エンドミル16を用いたフランジ面3aの加工により、図4(C),(D)に示すように、フランジ面3aに凹形状のゲートカット跡4aが形成される。ゲートカット跡4aは凹形状を有しているため、組立基準面又は取り付け基準面の邪魔になることはない。このように、ゲート部4の切断除去を行うことによりフランジ部3の側面3bとフランジ面3aからゲート部4を除去するので、ゲート部4又はゲートカット跡4aがフランジ部3の載置面(例えば、組み立ての相手との設置面、反射防止膜形成時にジグに置くときの載置面等)やフランジ外径よりも凸になることを防止することができる。このため、フランジ部3の側面3bを嵌合面(組立基準面等)にしたりフランジ面3aを載置面(組立基準面,成膜基準面等)にしたりすることが容易になり、相手部品の設計に制限を与えないようにすることができる。また、ゲート部4の剛性が高いので、ゲートカット時にゲート部4が折損して、フランジ部3にクラックが及んだりフランジ部3が欠損したりすることを防止することができる。
第2の実施の形態(図2)によるプラスチックレンズ1Bも、エンドミル16を用いたフランジ面3aの加工により、図2(C)に示すように、フランジ面3aに凹形状のゲートカット跡4aが形成される。このため、ゲートカット跡4aが組立基準面又は取り付け基準面の邪魔になることはない。一方、フランジ部3の側面3bに関しては、ゲート部4の一部を残すようにしてゲートカットされたD形状を有しているため、図14のプラスチックレンズ1Bと同様、フランジ部3の外形の仮想円内にゲートカット跡4cを残すことができる。また、ゲートカットした際にカットバリ4bが発生しても、仮想円内にカットバリ4bを残すことができる。このように、プラスチックレンズ1Bのフランジ外周円が、ゲート部4近傍で直線的に分断されたDカットレンズの場合、ゲートカット時にバリ4bが発生しても、フランジ外周円から凸にならないので、フランジ外周を嵌合径(組立基準等)とする時に障害物になることはない。
図5に、第1の実施の形態におけるゲートカットの具体例2を示す。図5(A)の側面図と図5(B)の下面図は、フランジ部3に切断除去を施している状態を示しており、図5(C)の側面図と図5(D)の下面図は切断除去後のプラスチックレンズ1Aを示している。この具体例2では、ゲートカット線4Lでゲート部4の切断除去を行うことにより、フランジ部3においてゲート部4が設けられている部分をゲート部4と一体で除去している。
ゲートカット線4Lでのゲート部4の切断除去(ゲート部4をフランジ部3の一部と共に一体的に除去すること)により、図5(C),(D)に示すように、フランジ部3はD形状にカットされる。このように、ゲート部4の切断除去において、ゲート部4が設けられているフランジ部分をゲート部4と一体で除去するので、ゲートカット処理を特に簡素化しながら、ゲート部又はゲートカット跡がフランジ部の載置面やフランジ外径よりも凸になることを防止することができる。したがって、フランジ部3の側面3bを嵌合面(組立基準面等)にしたりフランジ面3aを載置面(組立基準面,成膜基準面等)にしたりすることが容易になり、相手部品の設計に制限を与えないようにすることができる。
上記具体例1,2のように、ゲート部4の切断除去により載置面に突起が無いようにすれば、反射防止膜を成膜する時にケラレが生じず、所望の範囲に成膜を行うことが可能となる。また、応力歪や外観不良が無く高品質でありながら、嵌合面と載置面が高精度なプラスチックレンズ1A,1Bを得ることが可能となる。
図6に、第2の実施の形態(図2)によるD形状のプラスチックレンズ1Bとして、フランジ面3aの形状が異なる2つの具体例を示す。図6(A)はフランジ面3aが単一面から成るDカットレンズを示しており(図2(C)と同一)、図6(B)はフランジ面3aに設けられた段差部3cで高さの異なる複数の面が構成されたDカットレンズを示している。また、図6(C)は図6(B)の断面構造を示している。
上記のように、フランジ面3aは、単一面で構成されるもの以外にも、複数の高さの面を有することによって組立性や製造性を向上させたものであってもよい。このようにフランジ面3aを複数の高さの面で構成すれば、ゲートカットで生じる極微なカットバリ4bが載置面に露出して、組立時に微小傾きが発生することを防止することができる。また、フランジ部3を薄くするために、段差部3cはごく薄いものであることが好ましい。つまり、載置面を構成するフランジ面3aからの高さh(図6(C))が低いことが好ましく、例えば高さhが10μm以下の段差部3cが好ましい。
1A,1B プラスチックレンズ(プラスチック光学部品)
2 レンズ部(光学機能部)
3 フランジ部
3a フランジ面
3b 側面
3c 段差部
4 ゲート部
4a ゲートカット跡
4b カットバリ
4c ゲートカット跡
4L ゲートカット線
5 ランナー部
6 レンズホルダー
9 樹脂
10A,10B 樹脂成形体
11A,11B,11C 樹脂成形体
12 レンズ部形成空間
13 フランジ部形成空間
14 ゲート
15 ランナー
16 エンドミル
17a,17b 鏡面コア
18 エジェクタピン
18a エジェクタピン跡
M1 固定側金型
M2 可動側金型

Claims (8)

  1. 光学機能部の外周にフランジ部を有するプラスチック光学部品を、固定側金型と可動側金型を用いた射出成形により作製する製造方法であって、
    樹脂を充填するためのゲートの空間と前記フランジ部を形成する空間とが、前記可動側金型にのみ設けられており、
    前記フランジ部を形成する空間において、前記フランジ部の側面からフランジ部の厚み方向へ拡張してフランジ面の一部を覆うまでの範囲に対応する部分に、前記ゲートが配置されていることを特徴とする光学部品の製造方法。
  2. 前記固定側金型及び可動側金型で形成された樹脂成形体に対して、前記ゲートに充填された樹脂から成るゲート部の切断除去を、金型外で樹脂固化後に行うことを特徴とする請求項1記載の製造方法。
  3. 前記フランジ部の側面からゲート部を除去する工程と、前記フランジ面からゲート部を除去する工程と、で前記ゲート部の切断除去を行うことを特徴とする請求項2記載の製造方法。
  4. 前記ゲート部の切断除去において、前記ゲート部が設けられているフランジ部分をゲート部と一体で除去することを特徴とする請求項2記載の製造方法。
  5. 前記フランジ部の最大厚みが2mm以下であることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
  6. 前記フランジ部の最大厚みが0.8mm以下であることを特徴とする請求項5記載の製造方法。
  7. 前記フランジ面に凹形状のゲートカット跡が形成されるようにゲート部の切断除去を行うことを特徴とする請求項2又は3記載の製造方法。
  8. 前記フランジ面が複数の高さの面を有することを特徴とする請求項1記載の製造方法。
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