JP5831194B2 - マンガン含有低炭素鋼の溶製方法 - Google Patents

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Description

本発明は、溶鋼に真空脱ガス設備における減圧下での脱炭精錬を施してマンガンを含有する低炭素鋼(以下、「マンガン含有低炭素鋼」と記す)を溶製する方法に関し、詳しくは、前記脱炭精錬時に溶鋼成分調整用のフェロマンガンと、このフェロマンガン中に含有される炭素を除去するための酸素源としてのマンガン鉱石とを添加してマンガン含有低炭素鋼を溶製する方法に関する。
近年、鉄鋼材料は、その用途の多様化に伴い、より苛酷な環境下で使用されることが多くなり、材料特性の高性能化が従来にも増して求められている。このような状況下、構造物の軽量化を目的として、高い引張強さと高い加工性とを両立させた高マンガン低炭素鋼が開発され、ラインパイプ用鋼板や自動車用鋼板などとして使用されるようになった。この高マンガン低炭素鋼は、マンガンを含有する低炭素鋼つまりマンガン含有低炭素鋼であり、本発明において、マンガン含有低炭素鋼とは、炭素濃度が0.05質量%以下で、マンガン濃度が0.5質量%以上の鋼のことである。
製鋼精錬工程において、溶鋼中のマンガン濃度を調整するために用いるマンガン源としては、マンガン鉱石、フェロマンガン(炭素含有量に応じて高炭素フェロマンガン、中炭素フェロマンガン、低炭素フェロマンガンの3種類がある)、シリコマンガン、金属マンガン(電解マンガン)などが一般的である。フェロマンガン及びシリコマンガンは合金鉄と呼ばれる。これらのなかで、マンガン純分あたりの価格は、マンガン鉱石が最も安価であるが、マンガン鉱石以外のなかでは、炭素含有量が低くなるほど高価となる。従って、マンガンを含有する鋼を溶製する場合に、マンガン鉱石や高炭素フェロマンガンなどの安価なマンガン源の使用量が増加するほど、製造コストは低下する。但し、安価マンガン源の使用量の増加に比例して溶鋼中の炭素濃度が高くなる。マンガン鉱石は炭素を含有しないが、溶鋼中の炭素によって還元されてマンガン鉱石中のマンガンが溶鋼中に移行することから、溶鋼中の炭素濃度が高いほど還元される。
炭素含有量が0.003質量%以下のマンガン含有極低炭素鋼は、本来、炭素含有量が少ない。また、上記の高マンガン低炭素鋼は、マンガン含有量が多いにも拘わらず炭素含有量が少ない。従って、これらの鋼種では、炭素濃度の成分上の規定から安価マンガン源を多量に使用することはできず、その使用量は限られた範囲となる。
ところで、これらのマンガン含有極低炭素鋼や高マンガン低炭素鋼などのマンガン含有低炭素鋼は、転炉における大気圧下での脱炭精錬のみで溶製されることはなく、炭素濃度の成分上の規格や安価マンガン源の使用量拡大のために、転炉精錬後の溶鋼に更に真空脱ガス設備における減圧下での脱炭精錬(「真空脱炭精錬」ともいう)が施されて溶製されている。つまり、真空脱炭精錬を適用することにより、安価マンガン源に由来する炭素の除去が可能となり、安価マンガン源の使用量が増大する。
この減圧下での脱炭精錬では、溶鋼中の溶存酸素が脱炭用の主たる酸素源として使用されるが、溶存酸素の量は限られることから、マンガン鉱石を酸素源として減圧下の溶鋼に添加する技術が提案されている。
例えば、特許文献1には、予備脱珪・脱燐した溶銑を転炉にて[C]量:0.15〜0.5質量%の範囲内の溶鋼まで脱炭吹錬するとともに、続いて真空脱ガス設備中に装入した前記溶鋼にマンガン鉱石を添加して[C]量:0.1質量%以下にまで脱炭して高マンガン鋼を溶製する方法が提案されている。また、特許文献2には、RH真空脱ガス装置の真空槽内の溶鋼に、該真空槽の側壁に設けたノズルを通じ、不活性ガスを搬送用ガスとしてマンガン鉱石粉体を真空槽内の溶鋼中に吹込み、マンガン鉱石中の酸素により溶鋼の脱炭を行うとともに溶鋼中のマンガン濃度を高めることを特徴とする高マンガン鋼の溶製方法が提案されている。
特許文献1、2によれば、脱炭用の酸素源として添加したマンガン鉱石は溶鋼中の炭素によって還元され、マンガン鉱石中のマンガンが溶鋼中に移行することから、酸素源として添加したマンガン鉱石は、溶鋼成分調整用のマンガン源としても機能し、安価マンガン源であるマンガン鉱石の使用量を増大することができ、高マンガン鋼の製造コストが低減されるとしている。
特許文献3には、転炉及びRH真空槽を用いてC含有量≦30ppm、S含有量≦20ppmの無方向性電磁鋼板材を溶製するにあたり、転炉出鋼後の溶鋼をRH真空槽内でマンガン酸化物粉を搬送用ガスとともに溶鋼表面に向けて上吹きすることにより脱炭処理を行い、次いで、脱酸剤を添加し溶鋼を脱酸するとともに所定のAl含有量に調整した後、更にRH真空槽にて脱硫剤を上吹きすることにより脱硫処理を行うことを特徴とする無方向性電磁鋼板材の溶製方法が提案されている。
特開昭63−293109号公報 特開平1−92312号公報 特開平5−239534号公報
しかしながら、上記の特許文献1〜3には、以下の問題点がある。
即ち、特許文献1は、炭素濃度が0.06質量%以上の高マンガン鋼を対象としており、炭素濃度が0.05質量%以下であるマンガン含有低炭素鋼では、溶鋼中炭素によるマンガン鉱石の還元力は弱く、特許文献1をそのまま適用してマンガン含有低炭素鋼を溶製することは困難である。また、特許文献1では、マンガン源として、フェロマンガンなどの合金鉄を使用せずに、マンガン鉱石のみを使用しており、マンガン含有低炭素鋼にはマンガン濃度が1.0質量%以上のものもあり、このようなマンガン濃度の高いマンガン含有低炭素鋼の溶製は実質的に不可能である。
特許文献2及び特許文献3は、真空脱炭精錬を施す前に、取鍋内の溶鋼にフェロマンガンなどの合金鉄を添加してマンガン濃度を上昇させている。マンガンは、酸素との親和力が鉄よりも強く、マンガンを含有する溶鋼に、上吹きランスからの酸素ガスの供給などの酸素源の供給を伴う真空脱炭精錬を施すと、脱炭用に供給した酸素源(酸素ガスや酸化鉄など)と、溶鋼中のマンガンとが反応してマンガンの酸化が起こり、マンガンの歩留りが低下する。つまり、特許文献2及び特許文献3は、フェロマンガンなどの合金鉄によって持ち来たされるマンガンの歩留りが低く、効率的な溶製方法とは言いがたい。また、特許文献2は、炭素濃度が0.08質量%以上の高マンガン鋼を対象としており、特許文献1と同様に、特許文献2をそのまま適用してマンガン含有低炭素鋼を溶製することは困難である。
また、特許文献1〜3は、真空脱炭精錬の酸素源として、溶鋼中の溶存酸素及び添加するマンガン鉱石中の酸素を使用しており、脱炭反応の反応性に優れた酸素ガスを酸素源として使用しておらず、脱炭速度が遅いという欠点がある。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、溶鋼に真空脱ガス設備における減圧下での脱炭精錬を施してマンガン含有低炭素鋼を溶製するにあたり、酸素ガスを用いて減圧下での脱炭反応を効率的に進行させると同時に、フェロマンガンなどの合金鉄のマンガン歩留りを高く維持し、且つ、安価なマンガン源の使用量を増大させることのできる、マンガン含有低炭素鋼の溶製方法を提供することである。
上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]転炉から出鋼された取鍋内の未脱酸の溶鋼を真空脱ガス設備で精錬してマンガン含有低炭素鋼を溶製するにあたり、真空脱ガス設備では、先ず、真空槽内の前記未脱酸の溶鋼に上吹きランスを介して酸素ガスを供給して減圧下での脱炭精錬を施し、その後、上吹きランスからの酸素ガスの供給を停止し、真空槽内の未脱酸の溶鋼にフェロマンガンとマンガン鉱石とを、フェロマンガンに含有される炭素量をマンガン鉱石に含有される酸素量で除した値が0.5〜1.0となる割合で添加し、マンガン鉱石に含有される酸素を使用して溶鋼中炭素濃度が溶製対象のマンガン含有低炭素鋼の炭素濃度の範囲内となるまで減圧下での脱炭精錬を行い、その後、溶鋼をAl脱酸することを特徴とする、マンガン含有低炭素鋼の溶製方法。
[2]前記フェロマンガンと前記マンガン鉱石とを、真空槽内の雰囲気圧力を13.3kPa以下とした条件下で溶鋼に添加することを特徴とする、上記[1]に記載のマンガン含有低炭素鋼の溶製方法。
[3]溶鋼中炭素濃度が0.01質量%以下となるまで、上吹きランスから酸素ガスを供給して行う、減圧下での脱炭精錬を行うことを特徴とする、上記[1]または上記[2]に記載のマンガン含有低炭素鋼の溶製方法。
[4]前記溶鋼には、真空脱ガス設備で精錬されるまで、フェロマンガン、シリコマンガン、金属マンガンのうちのいずれのマンガン源を添加しないことを特徴とする、上記[1]ないし上記[3]のいずれか1項に記載のマンガン含有低炭素鋼の溶製方法。
本発明によれば、真空脱ガス設備を用いてマンガン含有低炭素鋼を溶製する際に、上吹きランスから酸素ガスを供給して、溶鋼中の炭素濃度が所定の濃度、例えば0.01質量%以下となるまで真空脱炭精錬し、その後、上吹きランスからの酸素ガスの供給を停止して、フェロマンガンとマンガン鉱石とを所定の割合で添加し、マンガン鉱石中の酸素を利用して真空脱炭精錬を行うので、フェロマンガンに含有される炭素はマンガン鉱石に含有される酸素で脱炭され、高炭素フェロマンガンなどの安価なマンガン源の使用量を増加させることができるのみならず、マンガン鉱石中のマンガンを溶鋼中に回収することができる。また、フェロマンガンを、酸素ガスの供給を停止した以降の真空脱炭精錬時に溶鋼に添加するので、フェロマンガン中のマンガンの酸化が抑制され、フェロマンガンを高い歩留りで添加することができる。その結果、高価な金属マンガンの使用量を削減することが可能となり、マンガン含有低炭素鋼の製造コストを大幅に削減することが実現される。
フェロマンガンとマンガン鉱石との添加量比がマンガン歩留りに及ぼす影響について調査した結果を示す図である。 本発明を実施する際に用いるRH真空脱ガス装置の概略縦断面図である。
以下、本発明を具体的に説明する。先ず、本発明に至った経緯について説明する。
高炭素フェロマンガンなどの炭素を含有する安価マンガン源を使用してマンガン含有低炭素鋼を溶製する際には、大気圧下での脱炭精錬に比較してマンガンの酸化反応を抑制しながら脱炭反応を促進させることができることから、真空脱ガス設備における減圧下での脱炭精錬(真空脱炭精錬)を施すことが必須である。そこで、本発明者らは、真空脱ガス設備における減圧下での脱炭精錬において、マンガン鉱石に含有される酸素によってフェロマンガン中の炭素を脱炭させるのみならず、フェロマンガン中及びマンガン鉱石中のマンガンを高い歩留りで溶鋼中に回収することを目的とし、真空脱ガス設備にて真空脱炭精錬を施してマンガン含有低炭素鋼を溶製する際に、フェロマンガン及びマンガン鉱石の添加時期及び添加量を変化させた試験を行い、溶鋼中の炭素及びマンガンの挙動を調査した。尚、本発明において、マンガン含有低炭素鋼とは、前述したように、炭素濃度が0.05質量%以下で、マンガン濃度が0.5質量%以上の鋼のことである。
その結果、上吹きランスから酸素ガスを供給して行う真空脱炭精錬では、マンガンの酸化が増加することから、上吹きランスから酸素ガスを供給して行う真空脱炭精錬時には、高炭素フェロマンガンなどのマンガン源を添加しないことが必要であることがわかった。但し、上吹きランスから酸素ガスを供給して行う真空脱炭精錬は、溶存酸素のみを酸素源とする真空脱炭精錬に比較して脱炭速度が速いことから、精錬時間を短縮するためには、上吹きランスから酸素ガスを供給して行う真空脱炭精錬が必要であることがわかった。そこで、本発明では、最初に上吹きランスから酸素ガスを供給して行う真空脱炭精錬を実施し、溶鋼中の炭素濃度が或る程度低下した時点で、上吹きランスからの酸素ガスの供給を停止し、次いで、高炭素フェロマンガンなどのマンガン源とマンガン鉱石とを添加し、それ以降は、マンガン鉱石中の酸素と溶存酸素とを酸素源として用いて真空脱炭精錬を行うこととした。
また、フェロマンガンとマンガン鉱石との添加量比がフェロマンガン中及びマンガン鉱石中のマンガン歩留りに及ぼす影響について調査した。図1に、横軸を、フェロマンガンに含有される炭素量をマンガン鉱石に含有される酸素量で除した値とし、縦軸を、フェロマンガン及びマンガン鉱石に含有されるマンガンの溶鋼中への歩留りとし、フェロマンガンとマンガン鉱石との添加量比がフェロマンガン中及びマンガン鉱石中のマンガン歩留りに及ぼす影響について調査した結果を示す。
図1に示すように、フェロマンガンに含有される炭素量をマンガン鉱石に含有される酸素量で除した値が0.5以上であれば、フェロマンガン中の炭素によってマンガン鉱石が還元され、フェロマンガン中及びマンガン鉱石中のマンガンの溶鋼への添加歩留りが増加することが確認された。換言すれば、この場合は、フェロマンガン中の炭素はマンガン鉱石中の酸素で効率良く脱炭される。尚、マンガンの溶鋼中への歩留りは下記の(1)式で定義した。
Mn歩留り(%)=(脱炭精錬後の溶鋼中Mn量−脱炭精錬前の溶鋼中Mn量)×100/(フェロマンガンによるMn添加量+マンガン鉱石によるMn添加量) …(1)
ここで、フェロマンガンに含有される炭素量は、「炭素量(kg)=[フェロマンガンの炭素濃度(質量%)]×[フェロマンガンの添加量(kg)]/100」で計算され、マンガン鉱石中に含有される酸素量は、「酸素量(kg)=[マンガン鉱石の酸素濃度(質量%)]×[マンガン鉱石の添加量(kg)]/100」で計算される。
一方、フェロマンガンに含有される炭素量をマンガン鉱石に含有される酸素量で除した値が1.0を超えると、フェロマンガン中の炭素に対してマンガン鉱石から供給される酸素が不足し、脱炭反応は溶存酸素に依存するために、脱炭速度が低下し、結果として図1に示すように目標の脱炭処理時間に対して5分以上余分に費やした試験も認められた。
これらの結果から、フェロマンガン及びマンガン鉱石を、フェロマンガンに含有される炭素量をマンガン鉱石に含有される酸素量で除した値が0.5〜1.0となる割合で溶鋼に添加することで、脱炭速度を低下させずに添加したマンガン源の歩留りを向上させることが実現できることを知見した。
また、フェロマンガン及びマンガン鉱石を添加する際の真空槽内の雰囲気圧力が13.3kPa(100torr)以下であると、フェロマンガンに含有される炭素の脱炭反応が進行し、結果としてフェロマンガン中及びマンガン鉱石中のマンガンの溶鋼への添加歩留りが向上することを知見した。
本発明は上記知見に基づいてなされたものであり、本発明に係るマンガン含有低炭素鋼の溶製方法は、転炉から出鋼された取鍋内の未脱酸の溶鋼を真空脱ガス設備で精錬してマンガン含有低炭素鋼を溶製するにあたり、真空脱ガス設備では、先ず、真空槽内の前記未脱酸の溶鋼に上吹きランスを介して酸素ガスを供給して減圧下での脱炭精錬を施し、その後、上吹きランスからの酸素ガスの供給を停止し、真空槽内の未脱酸の溶鋼にフェロマンガンとマンガン鉱石とを、フェロマンガンに含有される炭素量をマンガン鉱石に含有される酸素量で除した値が0.5〜1.0となる割合で添加し、マンガン鉱石に含有される酸素を使用して溶鋼中炭素濃度が溶製対象のマンガン含有低炭素鋼の炭素濃度の範囲内となるまで減圧下での脱炭精錬を行い、その後、溶鋼をAl脱酸することを特徴とする。
以下、本発明の実施の形態を説明する。
高炉から出銑された溶銑を溶銑鍋やトピードカーなどの溶銑搬送用容器で受銑し、次工程の脱炭精錬を行う転炉に搬送する。通常、この搬送途中で、溶銑に対して脱硫処理や脱燐処理などの溶銑予備処理が施されており、本発明においては、マンガン含有低炭素鋼の成分規格上からは溶銑予備処理が必要でない場合でも、安価なマンガン源としてマンガン鉱石を転炉内に添加し、転炉脱炭精錬におけるマンガン鉱石の歩留りを上昇させるために、溶銑予備処理、特に脱燐処理を実施することが好ましい。
転炉精錬は、転炉精錬中に安価なマンガン源としてマンガン鉱石を投入し、必要に応じて少量の生石灰などを造滓剤として用い、酸素ガスを上吹きまたは底吹きして大気圧下で溶銑の脱炭精錬を行う。添加したマンガン鉱石を、転炉内で還元してマンガン濃度が0.1質量%程度の低マンガン溶鋼を溶製する。転炉脱炭精錬終了時の溶鋼の炭素濃度は0.2質量%以下にするのが好ましい。溶鋼の炭素濃度が0.2質量%を超えると、次工程の真空脱ガス設備における真空脱炭精錬に長時間を費やし、真空脱ガス設備の生産性の低下のみならず、真空脱炭処理時間の延長による温度補償として出鋼時の溶鋼温度を高くする必要が生じ、これに起因する鉄歩留りの低下や耐火物損耗量の増加により製造コストが上昇するので好ましくない。
また、出鋼時及び出鋼中に金属系マンガン源(合金鉄や金属マンガン)を添加しても、次工程の真空脱ガス設備における上吹き送酸による真空脱炭精錬において、添加したマンガンの酸化ロスが大きくなり、無駄になることから、出鋼時或いは出鋼中に金属系マンガン源は添加しないことが好ましい。尚、次工程は、真空脱ガス設備での真空脱炭精錬であるので、出鋼時、溶鋼にはAl、Si及びその他の強脱酸剤を添加せず、つまり、Al、Si及びその他の強脱酸剤による脱酸を実施せずに、溶鋼を未脱酸状態のまま真空脱ガス設備に搬送する。
次いで、この溶鋼をRH真空脱ガス装置またはDH真空脱ガス装置、VOD炉などの真空脱ガス設備に搬送し、溶鋼に対して真空脱ガス精錬を実施する。この真空脱ガス設備の代表的な設備はRH真空脱ガス装置であり、以下、真空脱ガス設備としてRH真空脱ガス装置を用いた例で説明する。図2に、本発明を実施する際に用いるRH真空脱ガス装置の概略縦断面図を示す。
図2において、1はRH真空脱ガス装置、2は取鍋、3は溶鋼、4はスラグ、5は真空槽、6は上部槽、7は下部槽、8は上昇側浸漬管、9は下降側浸漬管、10は環流用ガス吹き込み管、11はダクト、12は原料投入口、13は上吹きランスであり、真空槽5は上部槽6と下部槽7とから構成され、また、上吹きランス13は真空槽5の内部を上下移動が可能となっており、この上吹きランス13の先端(下端)から、酸素ガスが真空槽5の内部の溶鋼3の湯面に向けて吹き付けられるようになっている。
RH真空脱ガス装置1では、取鍋2を昇降装置(図示せず)にて上昇させ、上昇側浸漬管8及び下降側浸漬管9を取鍋内の溶鋼3に浸漬させる。そして、環流用ガス吹き込み管10から上昇側浸漬管8の内部に環流用Arガスを吹き込むとともに、真空槽5の内部をダクト11に連結される排気装置(図示せず)にて排気して真空槽5の内部を減圧する。真空槽5の内部が減圧されると、取鍋内の溶鋼3は、環流用ガス吹き込み管10から吹き込まれるArガスによるガスリフト効果によって、Arガスとともに上昇側浸漬管8を上昇して真空槽5の内部に流入し、その後、下降側浸漬管9を経由して取鍋2に戻る流れ、所謂、環流を形成してRH真空脱ガス精錬が施される。
溶鋼3の環流が形成されて溶鋼3が真空槽5の内部に流れ込むと、真空槽5の内部は減圧された状態であり、且つ、溶鋼3は未脱酸状態で溶存酸素を含有するので、溶鋼中の溶存酸素と溶鋼中の炭素との反応(C+O→CO)、つまり脱炭反応が起こり、溶鋼3に含まれる炭素はCOガスとなって排ガスとともに真空槽5からダクト11を介して排出され、溶鋼3に真空脱炭精錬が施される。但し、脱炭反応が起こると、溶鋼中の溶存酸素が低下し、それに伴って脱炭反応が遅くなる。
本発明においては、溶鋼3の環流が形成されたなら、上吹きランス13から真空槽内の溶鋼3に6〜10Nm3/(t−溶鋼・hr)程度の酸素ガスを供給し、溶鋼中の溶存酸素の減少を補いながら、真空脱炭精錬を行う。脱炭反応が進行し、溶鋼3の炭素濃度が例えば0.01質量%以下の任意の値になったなら、上吹きランス13からの酸素ガスの供給を停止して、更に、真空脱炭精錬を継続する。この上吹き送酸による真空脱炭精錬は、大気中で行う転炉での脱炭精錬では容易に到達できない範囲まで迅速に脱炭することを目的としており、それ以降に添加するフェロマンガンから持ち込まれる炭素量と、溶製対象のマンガン含有低炭素鋼の炭素濃度の規格とに応じて、上吹き送酸による真空脱炭精錬終了時の溶鋼炭素濃度を決めればよい。
上吹きランス13からの酸素ガスの供給を停止したなら、フェロマンガン及びマンガン鉱石を、フェロマンガンに含有される炭素量をマンガン鉱石に含有される酸素量で除した値が0.5〜1.0となる割合で、原料投入口12を介して真空槽内の溶鋼3に添加する。但し、このフェロマンガン及びマンガン鉱石を添加する際には、真空槽内の雰囲気圧力を13.3kPa以下とすることが好ましく、上吹き送酸による真空脱炭精錬終了時の真空槽内の雰囲気圧力が13.3kPaを超える場合には、排気装置による排気によって真空槽内の雰囲気圧力が13.3kPa以下になるまで待ち、その後に添加することが好ましい。
添加するフェロマンガンは、高炭素フェロマンガン、中炭素フェロマンガン、低炭素フェロマンガンのいずれであっても構わないが、安価であることから、高炭素フェロマンガンを使用することが好ましい。
フェロマンガン及びマンガン鉱石の添加後、マンガン鉱石中の酸素及び溶存酸素を酸素源とする真空脱炭精錬を、溶鋼3の炭素濃度が溶製対象のマンガン含有低炭素鋼の炭素濃度の範囲内となるまで続ける。溶鋼3の炭素濃度が溶製対象のマンガン含有低炭素鋼の炭素濃度の範囲内となったなら、原料投入口12から溶鋼3にAlなどの強脱酸剤を添加して溶鋼3を脱酸処理する。Alなどの強脱酸剤の添加により溶鋼3の溶存酸素濃度は急激に低下して、真空脱炭精錬が終了する。
その後、更に、数分間程度の環流を継続し、必要に応じて、Al、Si、Mn、Ni、Cr、Cu、Nb、Tiなどの成分調整剤を原料投入口12から溶鋼3に投入して溶鋼3の成分を調整する。この成分調整は、溶鋼3の炭素濃度が上昇しないように、炭素含有量の少ないまたは炭素を含有しない金属または合金鉄を使用する。マンガン成分の調整には、金属マンガン(電解マンガン)を使用する。その後、真空槽5の内部を大気圧に戻してRH真空脱ガス精錬を終了し、マンガン含有低炭素鋼を溶製する。
以上説明したように、本発明によれば、真空脱ガス設備を用いてマンガン含有低炭素鋼を溶製する際に、上吹きランスから酸素ガスを供給して、溶鋼中の炭素濃度が所定の濃度、例えば0.01質量%以下となるまで真空脱炭精錬し、その後、上吹きランスからの酸素ガスの供給を停止して、フェロマンガンとマンガン鉱石とを所定の割合で添加し、マンガン鉱石中の酸素を利用して真空脱炭精錬を行うので、フェロマンガンに含有される炭素はマンガン鉱石に含有される酸素で脱炭され、高炭素フェロマンガンなどの安価なマンガン源の使用量を増加させることができるのみならず、マンガン鉱石中のマンガンを溶鋼中に回収することができる。また、フェロマンガンを、酸素ガスの供給を停止した以降の真空脱炭精錬時に溶鋼に添加するので、フェロマンガン中のマンガンの酸化が抑制され、フェロマンガンを高い歩留りで添加することができる。
尚、上記説明では真空脱ガス設備としてRH真空脱ガス装置1を例として説明したが、上記に準じて実施することにより、DH真空脱ガス装置やVOD炉などの他の真空脱ガス設備にも本発明を適用することができる。また、上記説明では上吹きランス13から酸素ガスを供給して真空脱炭精錬を行ったが、酸素ガスに替えて酸化鉄などの固体酸素源を使用することも可能である。
転炉にてマンガン源としてマンガン鉱石を添加して高炉溶銑を脱炭精錬し、この転炉より出鋼された250トンの未脱酸溶鋼を、RH真空脱ガス装置を用いてマンガン含有低炭素鋼(炭素濃度規格:0.018〜0.033質量%、マンガン濃度規格:1.70〜1.85質量%)を溶製する試験を実施した。
この試験操業において、転炉出鋼時の溶鋼の炭素濃度を0.03〜0.04質量%の範囲とし、マンガン濃度は0.11〜0.14質量%の範囲であった。出鋼時、金属Alなどの脱酸剤を溶鋼に添加せず、溶鋼は未脱酸のままとした。また。出鋼時及び出鋼中、溶鋼には金属系のマンガン源を添加しないで、RH真空脱ガス装置に搬送した。RH真空脱ガス装置では、上吹きランスから酸素ガスを供給して溶鋼中炭素濃度が0.01質量%以下になるまで真空脱炭精錬した。上吹きランスからの酸素ガスの供給を停止した後、真空槽内の未脱酸の溶鋼にフェロマンガン及びマンガン鉱石を添加した。フェロマンガンは高炭素フェロマンガン(HC−FeMn)を使用した。高炭素フェロマンガンの炭素濃度は6.72質量%、マンガン鉱石の酸素濃度は22.75質量%であった。表1に実験条件及び実験結果を示す。
Figure 0005831194
試験番号1〜7では、高炭素フェロマンガンに含有される炭素量をマンガン鉱石に含有される酸素量で除した値が0.53〜0.94となるように、高炭素フェロマンガンの添加量に応じてマンガン鉱石の添加量を調整した(本発明例)。そのうちの試験番号1〜4は、高炭素フェロマンガン及びマンガン鉱石の添加時の真空槽内の圧力が13.3kPaを超えた試験であり、試験番号5〜7は、高炭素フェロマンガン及びマンガン鉱石の添加時の真空槽内の圧力が13.3kPa以下の試験である。
試験番号8は、高炭素フェロマンガンのみを添加してマンガン鉱石を添加しない試験(比較例)であり、試験番号9、10は、高炭素フェロマンガン及びマンガン鉱石を添加したものの、高炭素フェロマンガンに含有される炭素量をマンガン鉱石に含有される酸素量で除した値が本発明の範囲を外れた試験(比較例)である。
表1に示すように、マンガン鉱石を使用しない試験番号8では、マンガン歩留りは71.6%と高いが、脱炭速度が0.0044質量%/minと低かった。高炭素フェロマンガンに含有される炭素量をマンガン鉱石に含有される酸素量で除した値が本発明の範囲未満である試験番号9では、脱炭速度が0.0056質量%/minと高いが、マンガン歩留りは43.1%と低かった。また、高炭素フェロマンガンに含有される炭素量をマンガン鉱石に含有される酸素量で除した値が本発明の範囲を超えた試験番号10では、マンガン歩留りは75.3%と高いが、脱炭速度は0.0043質量%/minと低かった。
これに対して本発明例の試験番号1〜4では、マンガン歩留りが79%以上と高く、脱炭速度も0.0041〜0.0055質量%/minと高い。更に、真空槽内の圧力が13.3kPa以下の状態で高炭素フェロマンガン及びマンガン鉱石を添加した本発明例の試験番号5〜7では、脱炭反応の促進によりマンガン歩留りが84.6%以上で、且つ、脱炭速度も0.0052質量%/min以上と更に向上した。
1 RH真空脱ガス装置
2 取鍋
3 溶鋼
4 スラグ
5 真空槽
6 上部槽
7 下部槽
8 上昇側浸漬管
9 下降側浸漬管
10 環流用ガス吹き込み管
11 ダクト
12 原料投入口
13 上吹きランス

Claims (4)

  1. 転炉から出鋼された取鍋内の未脱酸の溶鋼を真空脱ガス設備で精錬してマンガン含有低炭素鋼を溶製するにあたり、真空脱ガス設備では、先ず、真空槽内の前記未脱酸の溶鋼に上吹きランスを介して酸素ガスを供給して減圧下での脱炭精錬を施し、その後、上吹きランスからの酸素ガスの供給を停止し、真空槽内の未脱酸の溶鋼にフェロマンガンとマンガン鉱石とを、フェロマンガンに含有される炭素量をマンガン鉱石に含有される酸素量で除した値が0.5〜1.0となる割合で添加し、マンガン鉱石に含有される酸素を使用して溶鋼中炭素濃度が溶製対象のマンガン含有低炭素鋼の炭素濃度の範囲内となるまで減圧下での脱炭精錬を行い、その後、溶鋼をAl脱酸することを特徴とする、マンガン含有低炭素鋼の溶製方法。
  2. 前記フェロマンガンと前記マンガン鉱石とを、真空槽内の雰囲気圧力を13.3kPa以下とした条件下で溶鋼に添加することを特徴とする、請求項1に記載のマンガン含有低炭素鋼の溶製方法。
  3. 溶鋼中炭素濃度が0.01質量%以下となるまで、上吹きランスから酸素ガスを供給して行う、減圧下での脱炭精錬を行うことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のマンガン含有低炭素鋼の溶製方法。
  4. 前記溶鋼には、真空脱ガス設備で精錬されるまで、フェロマンガン、シリコマンガン、金属マンガンのうちのいずれのマンガン源を添加しないことを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のマンガン含有低炭素鋼の溶製方法。
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