近頃、異常気象の影響で、一度に多量の降雨が来襲することが頻繁にあり、このような状況においては急激に気圧配置が変化することから台風などと同様に強風が伴うことが多い。そして、このような台風や強風時に傘をさすと、傘は傘布が大きな風圧を受けることになり、大きな風圧で使用者が転倒したり、傘が飛翔したりして身体に損傷を受けることになる。また、従来の傘は内側から風圧を受けるといわゆるロート状に反転し、外側から受けると内側に向けて湾曲変形してしまうという事態が生じる。
特に、近頃は低価格商品の需要が多く、親骨の材質も十分なものでなく少し強い風が吹くと容易に親骨が折曲、反転するケースが増えており、その際に長尺な親骨が大きく反転して周囲の人を傷つけたりするなど危険であり、特に、親骨は金属製にあっては断面がU形に屈曲形成されて強度を保っていることからいったん折曲してしまうと元に戻すことは困難であり、廃棄処分されることになり、更にごみ箱、廃棄場所の負担など経済的にも問題があり、合成樹脂製の親骨についても強度の限界を超えると副骨や、親骨と副骨の連結部分が折損してしまう。
また、風圧を受ける傘布は親骨の先端に付設した露先により固定されているが従来の廉価な傘では露先は縫いつけることなく単に差し込んだものが多く、傘布が反転したときに露先と一体の傘布が反転した親骨から分離するという事態が生じ、そのため親骨の尖った先端が露出するというきわめて危険な事態も想定される。
そこで、例えば、傘布に当たった風を外側へ通過させる手段を設けた傘が例えば特開2010−124883号公報などに提示されているが、これらの公報に提示されている風を通過させる手段を有する傘は構造が複雑となり、廉価な構成の傘には適用できない。
また、例えば特開2011−87887号公報には切断した親骨を連結するとともに連結部をばねの付勢力により直線状に保持させた傘が提示されているが、傘は開いたときに親骨のテンションと親骨に張設された傘布のテンションにより開いた状態を維持しているのであるが、この傘は強風時にばねの付勢力により風圧を緩衝するものであり、コイルバネが弱ければ親骨を連結した状態に維持できず、強ければ風圧を必要以上に強く受けるという矛盾が生じ実用的でない。特に、ばねが強い場合、傘に対し設定を超えた風圧とその反動が作用するので、使用者にとってもきわめて危険な事態が生じることなる。
このことは前記公報に提示されている構造と類似の構造を有している従来の折り畳み傘の中には開いたときに連結部に前記親骨と傘布により生じるテンションを超える延伸力を付与したものがあり、この場合は大きな風圧が作用したときには突然延伸力を超え連結部が屈曲し、破損してしまうことにもなる。
また、折り畳み傘の中には、折り畳むために親骨が所定の位置で少なくとも一箇所以上折れる構造となっているが、その位置は、親骨の副骨との連結位置よりも先端方向に位置しているため、減圧効果が十分でなく、親骨と副骨との連結部の損傷を免れることが出来なかった。
一方、強風により反転するのであれば、反転を逆手にとって予め強風があったときには親骨を反転させて親骨の損傷を防ぐという手段を有する傘が例えば実開平6−132号公報、実用新案登録第3132596号公報に提示されている。
しかしながら、この公報に提示されている強風により反転して損傷を防ぐ傘は、親骨の基端部を基軸として反転するものであり、反転時に親骨が大きく反転するので周囲への危険性が高まり、また、大きな反動が手に伝わり把持し続けることができずに離してしまい、飛翔する傘により周りの人を傷つけてしまうという安全上の問題を解決することができない。
また、前記公知の反転する傘は、内側から風が吹き込む場合に有効になるような構成であるが、外側からの強風には対処できず、親骨が内側方向に屈曲してしまうという問題もある。
以下に、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
図1は本発明の好ましい実施の形態を示すものであり、基本的には、一端に取手1が取り付けられているとともに他端に石突き2を介して上ろくろ3が取り付けられている中棒4に下ろくろ5がスライド可能に装着されており、複数の親骨6が上ろくろ3の周囲に開閉可能にそれらの基端において周方向間隔を有して軸支され、各親骨6と下ろくろ5との間に副骨7が両端を軸支して配置されて形成され、前記複数の親骨6にわたって傘布8が露先601を介して張設された傘である。
そして、本実施の形態では、親骨6が副骨7の軸支位置よりも先端側の所定位置に、常時は先端部61と基端部62とに分断した親骨6を直線状に保持して傘を開いた使用状態において傘布8に内側方向から所定圧以上の風圧を受けたときに図2に示すように親骨6の先端部61を外側に反転可能とした外側方向反転ヒンジ9が親骨6の軸線方向に並設されている。
そして、例えば本発明に係る外側方向反転ヒンジ9を用いて、親骨6と副骨7を接合している場合には、傘布8に内側方向から所定圧以上の風圧を受けたとき副骨7と親骨6との接合が損傷する前に外側方向反転ヒンジ9が外側へ折れ曲がり、傘布8にかかる風圧を逃がすことができる構成とした。
図3は本発明において用いられる外側方向反転ヒンジ9の好ましい実施の形態を示すものであり、弾性を有する素材により形成された筒状で反転方向に少なくとも直径よりも幅狭の差し込み溝条91が形成された断面が平行する直線の両先端を開口した鍵穴状の基部92と基部92に軸着されて基部92に形成された前記差し込み溝条91を所定の押圧力により通過可能な径を有する円柱状の反転部材93とから形成され、基部92の基端95および反転部材93の基端96に分断された親骨6の基端部62および先端部61をそれぞれ差し込み固定するものであり製造もきわめて容易である。
本実施の形態では、基部92に形成した差し込み溝条91と反転部材93が係脱機構10を構成するものであり、通常は図3(a)および(c)に示すように、反転部材93が差し込み溝条91軸線方向に嵌挿して係脱機構10係止状態にあって両者を直線状に保持し、前記反転部材93に外側方向の押圧力が掛かると図3(b)に示すように前記反転部材93が軸支部94を中心として差し込み溝条91を超えて係脱機構10が解除されて反転部材93が回転する構成であり、本実施の形態では図1に示したように傘が開かれている状態においては、前記外側方向反転ヒンジ9は反転部材93が半筒状の基部に嵌合状態で保持されて係脱機構10が係止状態にあり親骨6は略直線状態を維持して、通常の傘と同様に使用することができ、図2に示したように傘布8に内側から風圧が作用した場合には、親骨6は前記外側方向反転ヒンジ9の作用により反転部材93が前記差し込み溝条91を超えて外側に反転することにより、係脱機構10が解除されて外側に折れ曲がり傘布8への風圧が減少して親骨6または傘布8の損傷を防ぐことができるものである。
このように、親骨6の所定の位置に外側方向反転ヒンジ9は傘布8に掛かるテンションを超えると親骨6が風圧に対して無理に耐えることなく反転するので傘を保持している人に過大な負荷がかかる心配がなく手が引かれたり転倒することもなく傘自体も飛ばされたりせず、きわめて安全である。
特に、本実施の形態では前記係脱機構10の係止の度合い、即ち、基部92の弾性、基部92に形成した差し込み溝条91の幅や壁の高さ、更には基部92ならびに反転部材93の径などにより反転部材93の抵抗力、即ち、親骨6の先端部61と基端部62を直線上に保持する力を適度に調整することができるが、本実施の形態では、傘を開いた際、親骨6および傘布8による傘布8を張設するテンションを前記係脱機構10の係止の度合いに設定してあり、これを超えた風圧が内側から外側方向反転ヒンジ9に加わったとき、過剰な耐圧を発揮させずにその時点で親骨の先端部を外側方向に反転させて傘の損傷を防ぎ、併せて、外側方向反転ヒンジ9に掛かった過剰な耐圧に伴って生じる人体への衝撃も防止した安全な傘を提供するとともに、一旦反転した親骨6については、一度前記傘を閉じて再度開くことにより親骨6と傘布8のテンションにより係脱機構10が再び元の係止状態に容易に復帰し、さらに収納時は係止部により親骨を本来の直線状に保持することを可能としている。
更に、図4は本発明において用いられる外側方向反転ヒンジ9の異なる実施の形態を示すものであり、適宜の弾性を有する硬質合成樹脂材により形成され基端96に親骨6の基端部62を差込み固定するとともに上面に差し込み溝条91が形成された断面が頂面開口のU字形を呈する基部92と基部92に軸支部94により軸着されて基部92に形成された前記差し込み溝条91を通過可能で基端95に親骨6の先端部61を挿入固着した柱状の反転部材93とから形成されたものであり、特に、本実施の形態では前記基部92に形成された差し込み溝条91を介して互いに対向する内側面の所定位置に一対の係止突起921,921が突設されているとともに前記反転部材93の両側面の前記係止突起921と重なる位置に前記反転部材93が倒されて前記基部92の差し込み溝条91に挿入され、親骨6の基端部61および反転部材93方向の親骨6の基端部62と先端部61とを同軸とする場合に前記基部92の差し込み溝条91に突設した係止突起921,921を乗り越えて相互に係止する係止突起931,931が反転部材93の両側面に突設されて、前記係止突起921,921と係止突起931,931が係脱機構10を構成している。
従って、通常は図4(a)に示すように親骨6の基端部62と先端部61とを同軸として係脱機構10が係止して使用状態を形成し、例えば内側から前記係脱機構10の係止度合いを超えた風圧が作用した際に、係止突起931が係止突起921を乗り越えて係止状態が解除されて反転部材93が反転して風圧を逃がすことで親骨6が損傷するのを防ぐものである。
特に、本実施の形態では、前記係止突起921と係止突起931との係止度合いは傘を開いたときの親骨6と前記傘布8のテンション近傍に設定することにより前記テンションを超えた風圧が傘の内側から作用すると係止突起921と係止突起931との係合が解除される構造とした。
従って、従来の例えば折り畳み傘のように折れ曲がり部の延伸強度を開いたときの親骨6と傘布8により形成されるテンション以上に強固な風圧に対抗する構造にすると設定値を超えたときに折れ曲がり部が急激に折れて損傷し再生困難になるが、本実施の形態では傘自身が有しているテンションを超えると直ちに反転部材93が反転して風圧を逃がすので親骨6に過度の負担を強いることなく傘が再生不能に損傷することもない。
また、外側方向反転ヒンジ9は前述のように前記係止突起921と係止突起931との係止度合いは傘を開いたときの親骨6と前記傘布8のテンションと同等かより低くに設定されることにより図4(b)に示すように一旦反転した反転部材93は再び傘を開くだけで、図4(a)に示す状態に簡単に再係合がなされ、傘収納後も親骨6は本来の位置に保持される。再使用に際してもいつも通りに傘を開くだけでよく、きわめて便利である。
尚、このテンションと反転部材93の反転するための風圧の関係は本発明における別の実施の形態についても同様である。
図5は本発明における外側方向反転ヒンジ9の異なる実施の形態を示すものであり、前記外側方向反転ヒンジ9は、それぞれ適宜の弾性を有する硬質合成樹脂製で親骨6の装着口11を形成した有底の一対の筒体12,13を連結体14により連結して形成され、一方の筒体12の底面に形成された係止孔121にもう一方の筒体13の底面に形成された段付き突起122を挿脱可能に連結されており、前記係止孔121と段付き突起122により係脱機構10を形成している。
そして、通常の使用状態では図5(b)に示すように、前記一方の筒体13の段付き突起122をもう一方の筒体12の係止孔121に嵌めて係脱機構10を係止状態として両筒体12,13を直線状として装着口11,11に装着した親骨6の先端部61と基端部62を略直線状に保持して通常の使用状態とし、例えば内側から所定圧以上の風圧が作用した場合には両筒体12,13の段付き突起122が係止孔121から抜けて係脱機構10が解除されて連結体14を中心として一対の筒体12,13が折れ曲がることにより、親骨6の損傷が防止される。
また、折れ曲がった状態から、再び、筒体13の段付き突起122をもう一方の筒体12の係止孔121に嵌めることにより、係脱機構10が係止状態に復帰して親骨6は元の略直線上に復帰する。
本実施の形態で示した、外側方向反転ヒンジ9および内側方向反転ヒンジ10は、きわめて簡単な構成で、且つ、一体的な成形も可能で多量生産により廉価に提供することが可能であり、耐久性にも優れている。
加えて、図6は前記図5に示した実施の形態についての外側方向反転ヒンジ9と同素材により親骨6の先端部61と基端部62と一体に成形したものであり、本実施の形態によると傘の親骨6が一体的に成形できるので組み立て作業が不要であり、生産性、強度や耐久性でも有利である。