一般に、光コネクタは、光ファイバの心線部を動かないように保持してファイバ端面を突き当てるためのフェルールを備えている。フェルールで保持された光ファイバの心線部は、双方のフェルールが調心された状態に位置合わせされ、双方の光ファイバのファイバ端面が突き合わされることにより、相互接続するようになっている。双方のフェルールを位置合わせする際には、高精度に成形された筒状のスリーブなどが用いられ、このスリーブの両側の開口端からフェルールが挿入されることで、双方のフェルールが調心された状態に位置合わせされるようになっている。フェルールは、コネクタ内で弾性部材により弾性支持されているため、コネクタ接続した際に弾性部材の弾性力でフェルール同士が突き当たり、双方の光ファイバの端面が接触するようになっている。
光ファイバの心線部をフェルールで保持するには、エポキシ系樹脂を主成分とする液性の接着剤を用いるのが一般的である。この方法は、例えば、工場などの屋内施設において、予め所定長さに切断された光ファイバを使用して光コネクタを組み立てる際に使用される方法である。しかし、光コネクタの組み立てを屋外のビルなどの現場で行う場合には、作成された接着剤を光ファイバの心線部とフェルールの間に塗布することが作業負担となったり、接着剤が硬化するまで待機したりすることが作業性を損なうものになっていた。また、光ファイバとフェルールとを接着剤で固定するため、作業ミスなどあっても作業のやり直しを行うことができないものであった。
光ファイバを保持する他の方法として、フェルールに接着して内蔵された光ファイバの心線部を、フェルールの延長部分で現場で挿入された光ファイバの心線部と接続して機械的にグリップする方法がある。この方法の一例として、特許文献1に記載されているものがある。特許文献1の段落番号0017には、光コネクタの構成を説明する記述があり、段落番号0018には、光コネクタのコネクタ本体を説明する記述がある。コネクタ本体の説明として、「コネクタ本体1は、接続用光ファイバ34が予め内装されたフェルール3と、前記接続用光ファイバ34のフェルール3後端から突出した部分34bと光ファイバFとの付き合わせ接続状態をグリップするグリップ部4と、前記フェルール3及びグリップ部4を収納するハウジング2とを備える。」と記載されている。接続用光ファイバ34はフェルール3に接着剤などで固定されているが、引留め具5に保持されている光ファイバFはフェルール3の突出部分で機械的にグリップされている。
また、段落番号0024の第1行目〜第4行目には、コネクタ本体のグリップ部の構成を説明する記述があり、「グリップ部4は、一対の半割り素子、すなわち素子31cと素子421との間で、他の光ファイバFをグリップする構造になっている。バネ422は軸方向中央部に形成されたスリット422aを備え、二つの蓋側素子421a、421bの間の境界付近に位置合わせされている。このためスリット422aを介して軸方向両側の各部分は、二つの蓋側素子421a、421bに別個に弾性力を作用させる独立したバネとして機能するようになっている。尚、バネ422の形状は、断面コ字形のものなど、各種採用可能である。」と記載されている。グリップ部で光ファイバFをグリップする際は、バネ422のバネ力に抗して、一対の半割り素子31c,421の間を押し広げるために、介挿部材9を備えたコネクタ用工具6が使用される。コネクタ用工具6は、コネクタとは別部品である。
段落番号0034及び0035には、コネクタ用工具6を説明する記述があり、段落番号0034の第1行目〜第4行目には、「コネクタ用工具6は、例えば工場において予めコネクタ本体1に着脱可能に取り付けられるものであって、コネクタ本体1に取り付けられた状態では前記バネ422に抗して素子31cと素子421とを押し開いた状態にし、光ファイバ同士の接続作業が終了した後コネクタ本体1から取り外されるものである。」と記載されている。
他の方法として、フェルールに予めファイバを内蔵せずに、光ファイバの心線部を現場でフェルール先端近傍までコネクタに挿入し、光ファイバの心線部をフェルールの延長部分で機械的にグリップするコネクタも知られている。この方法の一例として、特許文献2に記載されているものがある。段落番号0022には「本発明の光コネクタ及びその組立方法によれば、現地の光ファイバは、端面を切断処理した後、その新鮮な端面が保護状部材に弾性力を持って当接するまで、位置決め機構及びフェルールに挿通して、位置決め機構により位置決め固定されれば、光コネクタの組み立てが完了する。即ち、フェルールには、内蔵光ファイバを装備する必要がないため、挿入した現地の光ファイバの突き当てによって内蔵光ファイバの端面に欠け等の問題を発生することがない」と記載されている。このコネクタは、「フェルール3とこのフェルール3の後端に連結される位置決め機構5とを収容してコネクタプラグ組立体を形成するプラグハウジング7」を有し(0024段落)、「位置決め機構5は、所謂スプライス部材」であると記載されている(0027段落)。そして「フェルール3の後端と位置決め機構5の先端側との間に、挿通させた光ファイバ14を撓ませた状態で収容することで該光ファイバ14に保護状部材17側に向かう弾性力を持たせる撓み空間41が装備されている」と0029段落に記載があり、「撓み空間41内で撓み43が生じるように、現地の光ファイバ14を挿入するだけで、挿入した光ファイバ14の先端が所定の弾性力で保護状部材17に当接した状態を得ることができ、光ファイバ14の先端面が常時保護状部材17に当接している安定した接続状態を簡単に得ることができる。」と0040段落に記載されている。
本発明の光コネクタは、その使用形態が制限されるものではないが、一例として、建物内に外部から光ファイバを導入する場合など、屋外で光ファイバを接続する場合に適用することができる。本発明の光コネクタは、両端に開口部を有するフロントハウジングと、フロントハウジングの一方の開口部に嵌合するリヤハウジングと、を備え、リヤハウジングが、光ファイバの心線部が挿入される中心孔を有するフェルールと、光ファイバの心線部がフェルールの中心孔に所定の位置まで挿入された状態で、フェルールの延長部分で光ファイバの心線部を保持するファイバグリップユニットと、ファイバグリップユニットを収容する素子収容室と、を備えている。ファイバグリップユニットは、基部の両側から立ち上がり、光ファイバを挟む一対の挟持片を有するグリップ素子と、素子収容室に押し込まれた際にグリップ素子の一対の挟持片を両側から挟む一対の脚部を有する作動キャップと、グリップ素子を素子収容室で位置決めする位置決め部材と、を備えている。フロントハウジングには、作動キャップを素子収容室に押し込むために、壁部に固定される固定端と固定端に続き壁部に沿ってリヤハウジングの方へ延長する自由端とを有し、固定端を支点として自由端が撓む片持ち梁状の操作レバーを有している。また、本発明の光コネクタでは、光ファイバをグリップする位置を、フェルール、リヤハウジング、グリップ素子及び光ファイバの温度変化による膨張量又は収縮量に基づいて定めることで、光コネクタを使用する環境で温度変化を生じる場合であって、光伝送の接続損失や光伝送特性に変化を生じることなく使用することができる。
以下図面を参照しながら、本発明の光コネクタを説明する。図1には、本発明の一実施形態に係る光コネクタが示されている。図示するように、本実施形態の光コネクタ1は、図3に示す単芯型のプラグコネクタ(例えば、SCコネクタ)100と嵌合するレセプタクルコネクタであり、フェルール7を有するコネクタハウジング3と、スリーブ7をコネクタハウジング3に固定するスリーブホルダ50と、光ファイバ40のケーブル外被41を把持するケーブルホルダ60と、ケーブルホルダ60をコネクタハウジング3に枢動自在に連結させるホルダ連結部材70とを備えている。コネクタハウジング3は、別部品としてそれぞれ樹脂成形され、前後に合体するフロントハウジング5とリヤハウジング6とを備えている。フロントハウジング5は両端に開口部8,9を有しており、前方に位置する開口部8はプラグコネクタ100を受け入れるコネクタ嵌合部として形成され、後方に位置する開口部9はリヤハウジング6を受け入れるハウジング嵌合部として形成されている。
ここで、本実施形態の光コネクタの説明の都合上、本明細書では、「前後方向」を双方のコネクタを接続する方向と定め、前側を相手方のプラグコネクタ100が位置する側とし、後側を光ファイバ40がコネクタ1から導出する側とする。また、「上下方向」を操作レバー12が基部(固定端)13aを支点として撓みを生じる方向と定め、上側を操作レバー12が位置する側とし、下側を操作レバー12が位置する側の反対側をいうものとする。また、「左右方向」を前後方向及び上下方向に直交する方向又はフロントハウジング5の前方の開口部8内で、プラグコネクタ100を係止する一対のロックアーム15の対向する方向と定める。
フロントハウジング5の前後の開口部8,9の内側には、プラグコネクタ100やリヤハウジング6を係止するロック機構が設けられている。本実施形態では、プラグコネクタ100を受け入れる前方の開口部8の内側には、相対向する一対のロックアーム(ロック機構)15がスリーブホルダ50に設けられ、リヤハウジング6を受け入れる後方の開口部9の両側壁11cには、リヤハウジング6の両側壁21cに設けられた一対のロックアーム20の先端部20aに係合する係合部(ロック機構)16が設けられている。スリーブホルダ50は、両側壁51に突出形成された複数の爪片52がフロントハウジング5の両側壁11cに形成された孔部14に係合することにより、フロントハウジング5の内部に装着されるようになっている。フロントハウジング5の前後の開口部8,9にそれぞれ嵌入されるプラグコネクタ100及びリヤハウジング6が、それぞれのロック機構で係止されることで、フロントハウジング5からプラグコネクタ100及びリヤハウジング6が抜け出すことが防止され、光ファイバ40の接続した状態が維持されるようになっている。
前後の開口部8,9の間には、仕切壁10(図3参照)が形成されている。仕切壁10には、双方のフェルール7,101(図3参照)を調心した状態に保持して、フェルール端面を突き当てるスリーブ17がスリーブホルダ50を介して垂直に設けられている(図1では、スリーブ17が分離している状態が示されている)。フェルール7,101は、スリーブ17両端の開口端からそれぞれ挿入され、プラグコネクタ100の図示しない弾性部材の弾性力でフェルール端面の突き合わせた状態が維持され、ファイバ端面が弾性部材の弾性力に依存する所定の接触圧力で接触するようになっている。使用するスリーブの形態は制限されるものではないが、本実施形態では、フェルールと同じ材質のジルコニアセラミックス製の割りスリーブ17が用いられている。スリーブ17は、フェルール7の外径より僅かに小さいサイズの内径を有しているため、スリーブ17を押し広げるように挿入されたフェルール7はスリーブ17内周面からの半径方向内側に作用する弾性力を受けて、スリーブ17内で保持されるようになっている。
フロントハウジング5の上壁11aには、上壁11aに一体的に固定される基部(固定端)13aと、基部13aに続き上壁11aに沿ってリヤハウジング6の方へ延長する先端部(自由端)13bとを有する片持ち梁状の操作レバー12が突設されている。操作レバー12の先端部13bは、基部13aを支点として押し下げられるようになっている。操作レバー12の先端部13bを押し下げたときに、フロントハウジング5の後方の開口部9に嵌合しているリヤハウジング6の素子収容室22に収容されたファイバグリップユニット25の作動キャップ27が素子収容室22内に押し込まれることで、ファイバグリップユニット25のグリップ素子26に光ファイバ40の心線部43がグリップされるようになっている。ファイバグリップユニット25の構成については後述する。
ここで、光ファイバ40について説明する。光ファイバ40は、中心にガラス製の心線部(コア及びクラッド)43(図1参照)が位置し、心線部43の外表面がUV硬化樹脂42で被覆され、その外側がPVCなどのケーブル外被41で保護されている。したがって、グリップ素子26にグリップされる光ファイバ40の心線部43は、ケーブル外被41及びUV硬化樹脂42が皮剥きされた裸のガラスファイバである。
本実施形態のコネクタハウジング3では、リヤハウジング6がフロントハウジング5に対して着脱可能に構成されており、上下の向きを逆向きにして合体することもできる。リヤハウジング6をフロントハウジング5から外し、上下の向きを逆にしてリヤハウジング6をフロントハウジング5に取り付け、リヤハウジング6の素子収容室22の底壁23a(図4)に形成された一対の貫通孔23bより突出する作動キャップ27の突出端部27aを操作レバー12の先端部13bで押すことにより、作動キャップ27を素子収容室22から外すことも可能である。作動キャップ27を外すことにより、作業ミスがあった場合に組み立てのやり直しを行うことが可能となる。
リヤハウジング6は、L字状に樹脂成形され、フロントハウジング5に嵌合するハウジング嵌入部分19と、ファイバ導出方向を前後方向から左右方向に変えるファイバ導出部分18とを有している。ハウジング嵌入部分19の前壁23dには、別部品であるフェルール7が一体的に固定されている(図3参照)。ファイバ導出部分18には、光ファイバ40のケーブル外被41を把持するケーブルホルダ60が、リヤハウジング6に枢動自在に枢支されているホルダ連結部材70を介して装着される。
ケーブルホルダ60は、ホルダ連結部材70を前後方向に配置した状態でリヤハウジング6のファイバ導出部分18に取り付けられる。光ファイバ40の心線部43は、光ファイバ40の心線部43がフェルール7の中心孔7a内で所定の位置まで挿入されて、ファイバグリップユニット25で機械的にグリップされる。ホルダ連結部材70は、リヤハウジング6の軸孔に係合する枢動軸71の回りで約90゜旋回される。そして、ファイバ導出部分18に係止されるようになっている。ホルダ連結部材70を介してケーブルホルダ60を旋回させることで、リヤハウジング6後方にスペースがない場合であっても、本実施形態の光コネクタ1を使用することができる。本実施形態の光コネクタ1は、占有するスペースを広くとらないから、スペースの狭い場所にも取り付けることができる。なお、ホルダ連結部材70を約90゜旋回させることで、光ファイバ40の導出方向も約90゜変わることとなるが、ホルダ連結部材70には、枢動軸71の近傍にケーブルホルダ60から導出する光ファイバ40の心線部43をファイバグリップユニット25の方へ案内面72a(図9(a)など参照)に沿って案内する案内片72が設けられているから、光ファイバ40の心線部43の曲率半径が部分的に小さくなって、光伝送特性が損なわれることが未然に防止されるようにもなっている。
図2や図3に示すように、ケーブルホルダ60に保持される光ファイバ40の外形形状は制限されるものではないが、本実施形態のケーブルホルダ60には、外形が長方形のケーブル外被41が把持されるようになっている。ケーブルホルダ60にケーブル外被41が把持されると、ファイバ40の心線部43がケーブルホルダ60の前側から導出される(図3参照)。ケーブル外被41は、溝壁面に鋸歯状の複数の突起62を有する保持溝61内に押し込まれ、鋸歯状の複数の突起62がケーブル外被41に食い込むことにより、光ファイバ40がケーブルホルダ60に係止される。保持溝61の開口端は、ヒンジ66を介してケーブルホルダ60の壁部に連結されたカバー65(図1)で覆われ、保持溝61からケーブル外被41が外れないようになっている。
ケーブルホルダ60には、ホルダ連結部材70の対向する内壁に突設された一対の突条73(図1に一方の突条のみ図示する)に係合する一対のガイド溝64(図1に一方のガイド溝のみ図示する)が形成されているため、ホルダ連結部材70の一対の突条73にケーブルホルダ60の一対のガイド溝64を係合させて、ケーブルホルダ60をホルダ連結部材70に押し込むことにより、ケーブルホルダ60をホルダ連結部材70にスムーズに取り付けることができる。なお、一対のガイド溝64は、ケーブルホルダ60の互いに直交する外壁63に形成することができ、これにより、外形が長方形である光ファイバ40の向きを90°変えることができ、曲げに対して強い方向と弱い方向を有する長方形断面の光ファイバ40の取り扱い性が向上する。ホルダ連結部材70とリヤハウジング6は、ホルダ連結部材70の上下に対向する壁部に形成された係止爪74をリヤハウジング6の壁部に形成された係止孔24に係合させることにより、外れないように係止されるようになっている。
図3に示すように、リヤハウジング6のハウジング嵌入部分19の前端面には、フェルール7が垂直に突設されている。フェルール7には、光ファイバ40からケーブル外被41及びUV硬化樹脂42がストリップされた心線部43を挿通させるために貫通形成された中心孔7aを全長に渡り有している。フェルール7の中心孔7aには、ハウジング嵌入部分19の素子収容室22の前壁23dに貫通形成された孔23eが連通する。ファイバ心線部43は、フェルール7の中心孔7aに所定の長さだけ挿入され、ファイバ心線部43の先端がフェルール7の先端面と略同一の位置、あるいはファイバ心線部43の先端がフェルール7の先端面から所定の長さだけ突出した状態で、ファイバグリップユニット25のグリップ素子26で機械的にグリップされる(図4)。ファイバ心線部43をグリップ素子26で機械的にグリップした後、必要に応じて、ファイバ心線部43の先端部処理を行う。本実施形態においてはフロントハウジング5がリヤハウジング6から取り外し可能に構成されているので、フロントハウジング5をリヤハウジング6から取り外してフェルール7先端を露出させることができる。露出させたフェルール7端面を、例えば、研磨フィルムで研磨したり、フェルール7先端から突出しているファイバ心線部43の先端を光ファイバ用クリーバーで切除したりして、ファイバ心線部43の先端とフェルール7先端面に対して任意の先端処理を行うことができる。これによって、コネクタ1の接続損失や反射減衰量を低くすることができる。なお、ファイバ心線部43の先端に対して、公知の切断処理や加熱処理、研磨処理を行ってから、コネクタ1にファイバ心線部43を挿入することも可能である。
図3に示すように、ファイバグリップユニット25は、リヤハウジング6の素子収容室22に収容され、ファイバ心線部43を挟むグリップ素子26と、操作レバー12の先端部13bによって素子収容室22に押し込まれる作動キャップ27であって、グリップ素子26の一対の挟持片26aを両側から挟む一対の脚部27bを有する作動キャップ27と、グリップ素子26の後端面26cを収納室22の内壁面22aに当接させてグリップ素子26を位置決めする位置決め部材28を有している。グリップ素子26は、アルミニウムなどの延性を有する薄板材からプレスにて素子片を打ち抜いた後、基部の両側から一対の挟持片26aが立ち上がるように折り曲げることにより形成される。少なくとも一方の挟持片26aの内表面には、ファイバ心線部43を受け入れる受容溝26fが、基部と略並行に形成されている。グリップ素子26は、その非作動位置(一対の挟持片26aが開いた状態で、一対の挟持片26aと受容溝26fとが構成するファイバ受容通路の断面寸法がファイバ心線部43の外径よりも大きい状態)と、作動位置(非作動位置よりも一対の挟持片26aが互いに近づく方向に移動した状態で、一対の挟持片26aと受容溝26fとが構成するファイバ受容通路の断面寸法がファイバ心線部43の外径よりも小さくなる状態)との間を、移動可能となっている。グリップ素子26が素子収容室22に配置されたときに、ファイバ受容通路の中心がフェルール7の中心孔7aの中心と略一致するようになっている。挟持片26aの中間部分には位置決め部材28に係合する切欠部26eが形成されている。グリップ素子26は、グリップ素子26の長手方向(受容溝26fが延在する方向)がコネクタ1の前後方向と略一致するように、素子収容室22内に配置される。
位置決め部材28は、天板28a(図1参照)から略垂直方向に延在する一対の脚部28bと、天板28aから略垂直に延在して一対の脚部28bを脚部28bの一側面側で連結し、脚部28bよりも短い連結部28c(図3)とを有する。位置決め部材28は、そのコネクタ1後方側の端部に鳩尾状の蟻ほぞ部28d(図2、図8の蟻ほぞ部81d参照)を有し、リヤハウジング6の素子収容室22の蟻溝部22b(図2、図8参照)に挿入可能に構成されている。位置決め部材28は、一対の脚部28bがグリップ素子26の挟持片26aと略並行にされた状態で、連結部28cがグリップ素子26の切欠部26eに係合し、蟻ほぞ部28dが素子収容室22の蟻溝部22bに配置される。その配置で位置決め部材28を素子収容室22に向けて押し込むと、位置決め部材28の位置決め面である連結部28cの内面28eが、グリップ素子26の当接面である切欠部26eの垂直面に当接する。同時に、位置決め部材28の蟻ほぞ部28dが素子収容室22の蟻溝部22bに挿入されるので、位置決め部材28はコネクタ1の後方側に位置決めされ、グリップ素子26が後方に移動する。その結果、グリップ素子26の後端面26cが素子収納室22の基準面であるコネクタ後方側の内壁面22aに当接する(図3参照)。つまり、グリップ素子26を素子収容室22の後ろ側に位置決めされている。また、位置決め部材28は、グリップ素子26が素子収容室22から外れたり、素子収容室22内でグリップ素子26が動いてファイバ受容通路とフェルール7の中心孔7aとが位置ずれしたりすることも防止する。位置決め部材28が素子収容室22に押し込まれると、外されることなく、素子収容室22内に係止されるようになっている。位置決め部材28を押し込んだ状態では、グリップ素子26は非作動位置にあり、そのファイバ受容通路に後述するファイバ心線部43を受け入れることができる。位置決め部材28は、典型的には工場で予め素子収容室22に押し込まれた状態に組み込まれている。
作動キャップ27は、グリップ素子26の一対の挟持片26aを両側から挟む一対の脚部27bを有し、操作レバー12の先端部13bに押圧されることにより素子収容室22に押し込まれる。押し込まれた作動キャップ27は、係止手段により素子収容室22に係止されて外れないようになっているが、前述したように、素子収容室22の底壁23aに形成された一対の貫通孔23bから突出した一対の脚部27bの突出端部27aを、操作レバー12の先端部13bで押すことにより、作動キャップ27を素子収容室22から外すことができるようになっている。作動キャップ27の一対の脚部27aの対向する距離は、脚部27aの先端側で広く、根元側で狭くなるように構成されている。作動キャップ27は一対の脚部27aの先端側が、グリップ素子26の一対の挟持片26aの先端側(基部から最も離れた部分)と対向する第1の位置に予め配置されている。この状態では、作動キャップ27は、コネクタ1のリヤハウジング6の上面から突出している(図3参照)この状態でグリップ素子26は非作動位置にあり、ファイバ受容通路にファイバ心線部43を挿入できるスペースが設けられている。ファイバ心線部43をファイバ受容通路に挿入後、作動キャップ27が操作レバー12の先端部13bで素子収容室22に押し込んで第2の位置に配置すると、グリップ素子26の一対の挟持片26aは、脚部27aの根元側で挟持される(図4参照)。これによってグリップ素子26はその一対の挟持片26aが互いに近づく方向に移動し、非作動位置から作動位置に変位する。ファイバ心線部43はグリップ素子26によって機械的に固定される。なお、作動キャップ27と位置決め部材28との前後関係は図示のものに限られず、後述するグリップ位置Gによっては、位置決め部材28を作動キャップ27の前方に配置してもよい。
図5に示すように、作動キャップ27の一対の脚部27bの根本側の内面には、互いに対向する一対の凸部27cが突出形成されている。グリップ素子26の一対の挟持片26aが、作動位置において作動キャップ27の一対の脚部27bで挟まれたときに、一対の凸部27cの位置に対応するファイバ受容通路の位置(コネクタの長手方向に関して、凸部27cの位置と略同じファイバ受容通路の位置)において、ファイバ心線部43が受ける挟持力が最大となる。その結果、一対の凸部27cの位置が光ファイバ40を挟んでいるグリップ位置Gとして規定される。グリップ位置Gは、フェルール7、リヤハウジング6、ガラスファイバ及びグリップ素子26の温度変化による膨張量又は収縮量に基づいて定められている。作動キャップ27の一対の脚部27bの内面に一対の凸部27cが突出形成されない場合には、ファイバ心線部43を挟持しているグリップ素子26の長さの中心をグリップ位置Gとして規定することができるが、一対の凸部27cを突出形成することによりグリップ位置Gを任意の位置に形成することができる。
本実施形態の光コネクタ1では、上述のように光コネクタの一端から挿入されたファイバ心線部43が光コネクタの他端(フェルール7の先端)近傍に達した状態で、ファイバ心線部43が光コネクタ1に対して固定されている。つまり、ファイバ心線部43はフェルール7に対して接着固定されておらず、また、グリップ素子26の中でフェルール7に予め内蔵された短尺光ファイバとも接続されてもいない。そのため、光ファイバ40を固定したコネクタ1が、光ファイバ40を組み立てた温度と異なる温度下に置かれたとき、光ファイバ40と光ファイバコネクタ1とが、それぞれの部材が有する線膨張率に従って膨張・収縮する。その結果、ファイバ心線部43の先端の位置が、フェルール7の先端面の位置に対して、相対的に変化する恐れがある。本実施形態のコネクタで1は、使用する各部材の線膨張率、およびグリップ位置Gを後述のように選択することで、光ファイバ40の膨張収縮量と光コネクタ1の膨張収縮量とを略一致させ、所望の温度範囲においてファイバ心線部43の先端位置とフェルール7先端面との位置関係を略同じに保つことができる。
セラミックス製のフェルール7、プラスチック製のハウジング6、グリップ素子26、ガラスファイバの熱膨張係数(1/K)を、それぞれαferrule,,αhousing,αgrip,αglassとし、コネクタの使用環境での最大温度と最小温度との温度差をΔT、フェルール7先端面に対するファイバ心線部43先端の許容される位置ずれ量をΔLとすると、グリップ位置Gは、温度変化による膨張量又は収縮量をバランスさせた以下の式より求めることができる。図6に示すように、L1はセラミックスフェルールの長さ,L2は基準位置である素子収容室22の後方の内壁面22aからフェルール後端面までの長さ,L3は基準位置からグリップ位置Gまでの長さ、L4はグリップ位置Gからファイバ先端までの長さとする。基準位置は、グリップ素子26の後端面26cが素子収容室22の内壁面22aに当接している位置と定められている。
上式でグリップ位置Gを計算で求める際には、実際に使用する部材の熱膨張係数の値が使用されるが、ジルコニアフェルール7、プラスチックハウジング6、アルミニウム製グリップ素子26が使用される場合には、熱膨張係数(1/K)の値として、αferrule=11×10-6、αhousing=6×10-6、αgrip=19×10-6、αglass=7×10-7使用することができる。ΔTとして、例えば120K(外気温度が、−40゜〜80゜の範囲で変化するものとする)を使用することができる。また、グリップ素子26の線膨張係数は、グリップ素子26が位置決め部材28によって拘束されているため、グリップ素子26の材料の線膨張係数とは異なる線膨張係数を示す場合もある。
数式1は、温度変化によるフェルール7とハウジング6の長さ変化の合計が、グリップ位置Gまでの長さL3を有するグリップ素子26の長さ変化とファイバ心線部43の長さ変化の合計との差が、許容値ΔL以下と仮定するものである。温度変化を生じると、フェルール7とハウジング6は前後方向に長さ変化を生じるものとなるが、グリップ素子26も長さ変化を生じることで、フェルール端面とファイバ端面とのずれが相殺されることとなり、フェルール端面とファイバ端面との位置関係が略一定に保持されるものとなる。なお、略一定に保たれるとは、フェルール端面とファイバ端面との位置関係がコネクタの光学特性変化の程度を所定の許容範囲内に抑えられる程度に変化することも含むものである。例えば、許容されるコネクタの光学特性変化量としては、コネクタの挿入損失として0.5dB以下の変化量である。なお、コネクタの挿入損失変化量を所定の値以下にできるΔLの値は、前記のL4の長さを含むコネクタ各部の寸法および各部材の線膨張係数等によって依存する。
使用する部材の線膨張係数の大きさ、その符号、各部の長さによっては、素子収容室22のコネクタ前方側の内壁面を位置決め面とし、グリップ素子の前端面をコネクタ前方側の内壁面に対して押し付ける場合もありうる。つまり当接面や位置決め面の法線方向は、コネクタの前後方向に関して、上述の実施形態と逆方向を向くものも含まれる。
グリップ位置Gは、本実施形態のように作動キャップ27の脚部27bの内側に凸部27cを設けることで規定しても良いし、例えば、グリップ素子26の外側表面に突出部を設ける、グリップ素子26の厚みを連続的に変化させてグリップ位置Gで厚みが極大となるようにする、あるいはグリップ素子26内に設けられたファイバ心線部43を挟持する溝の幅や深さを連続的に変化させてグリップ位置Gで極大の力でファイバ心線部43が固定されるようにしても良い。あるいは、作動キャップ27を、凸部27cに対応する部分とそれ以外の部分とに分割し、それぞれの部分における対向する脚部間の距離および/あるいは材質を変化させてグリップ位置Gとその前後の位置とで作動キャップ27が生じる挟持力に差が生じるようにしても良い。
次に、本実施形態の光コネクタの変形例について、図7〜9を参照して説明する。変形例の光コネクタは、ファイバグリップユニットの構成が相違することを除いて、図1〜6に示す光コネクタ1と同じである。ファイバグリップユニット25Aは、光ファイバ40の心線部43を一対の挟持片27bで挟むグリップ素子26Aと、操作レバー12の先端部13bに押し込まれる作動キャップ27であって、グリップ素子26Aの一対の挟持片26bを両側から挟む一対の脚部27bを有する作動キャップ27と、グリップ素子26Aの後端面26cを収納室22の内壁面22aに当接させるための略直方体をなす位置決め部材80を有している。
図8には、位置決め部材80が素子収容室22内に押し込まれた状態が示されている。光ファイバ40の心線部43は、リヤハウジング19のファイバ導入端19aからグリップ素子26Aの一対の挟持片26aの間に構成されたファイバ受容通路に挿入される。位置決め部材80は、内部にグリップ素子26Aを収容する空間を有する略直方体の部材である。位置決め部材80は、コネクタ1Aに組みつけられたときにコネクタ1Aの上面となる面に第1の開口81aを有し、コネクタ1Aに組みつけられたときにファイバ挿入部19a側に面する端面に第2の開口81bを有する。第1の開口81aは作動キャップ27を受け入れられる大きさを有している。作動キャップ27は、本変形例においては位置決め部材80に対して、第1の位置と第2の位置との間を移動可能に組みつけられる。第2の開口81bはグリップ素子26Aを矢印Zの方向から挿入できる大きさを有している。位置決め部材80にグリップ素子26Aを予め挿入した状態で、位置決め部材80をリヤハウジング6に組付ける。位置決め部材80は、図1などに示される位置決め部材28の蟻ほぞ部28dと同様の蟻ほぞ部81dを有しているため、位置決め部材80をリヤハウジング6に組み付けると、蟻ほぞ部81dが素子収容室22の蟻溝部22bに係合して、位置決め部材80は素子収容室22内でコネクタ1A後方側に位置決めされる。グリップ素子26Aは、第2の開口81bを通して位置決め部材80の端面と略同一もしくは若干突出するようになっているため、グリップ素子26Aの当接面である前端面26dは、位置決め部材80の位置決め面である前方の内壁82aと当接し、グリップ素子26Aの後端面26cは素子収容室22の内壁面(基準面)22aに対して押し付けられて、位置決めされることとなる。位置決め部材80の第1の開口81aの大きさは、グリップ素子26Aが外れない大きさとなっているため、グリップ素子26Aがコネクタ1から脱落したり、素子収容室22内でグリップ素子26Aが動いてファイバ受容通路とフェルール7の中心孔7aとが位置ずれしたりすることも防止される。
位置決め部材80の底面にはさらに、第3の開口81c(図7参照)が設けられている。作動キャップ27がグリップ素子26Aを閉じる第2の位置に移動したとき、作動キャップ27の一対の脚部27bは第3の開口81cとリヤハウジング6の底面に設けられた一対の開口23bを通って、リヤハウジング6の底面から突出する。グリップ素子26Aの一対の挟持片26bは、コネクタ1Aの左右方向から見た側面視において、略矩形を有しており、上述の通り本変形例ではグリップ素子26Aの前端面26dが位置決め部材80の内壁82aと当接するため、図1などに示すグリップ素子26が有する切欠部26eは形成されていない。その他の点において、グリップ素子26Aは、グリップ素子26と同じである。また、グリップ素子26Aの一対の挟持片26aの間で光ファイバ40の心線部43を挟持するために、作動キャップ27を使用する点も上述したように同じである。
次に、光コネクタ1Aの組立方法について説明する。図9(a)に示すように、ケーブルホルダ60は、ホルダ連結部材70を前後方向に配置した状態でリヤハウジング6のファイバ導出部分18に取り付けられる。光ファイバ40は、施工現場において、端末処理により、ケーブル外被41及びUV硬化樹脂42がストリップされた心線部43のクリーニングを経て、所定長さに切断される。図9(b),(c)に示すように、光ファイバ040の心線部43をフェルール7の中心孔7a内で所定の位置まで挿入する。このとき、心線部43に撓み生じた状態とすることができる。撓みを形成した状態で、光ファイバ40の心線部43をグリップ要素26Aで機械的にグリップする。図9(d),(e),(f)に示すように、ホルダ連結部材70は、リヤハウジング6の軸孔に係合する枢動軸71(図2参照)の回りで約90゜旋回され、そして、ファイバ導出部分18に係止されるようになっている。
以上のように、本実施形態によれば、フロントハウジング5に操作レバー12が一体に設けられ、この操作レバー12でファイバグリップユニット25の作動キャップ27を素子収容室22に押し込むことにより、光ファイバ40の心線部43をグリップ素子26,26Aの一対の挟持片26aで挟むことができるため、別部品であるコネクタ用工具を使用する必要がなくなる。また、本発明では、光ファイバ40の心線部43を挟むグリップ位置Gが、フェルール7、リヤハウジング6、グリップ素子26及び光ファイバ40の温度変化による膨張量又は収縮量に基づいて定められているから、光コネクタ1の使用される環境で温度変化が生じても、光伝送の接続損失が生じたり、光伝送特性が変化したりすることを防止できる。
以上、本明細書では光コネクタについて説明したが、本発明は開示した実施形態に制限されるものではなく、実施形態の変更や改良が許容されるものである。本実施形態では、外形が長方形断面の光ファイバが使用されているが、外形が円形断面の光ファイバを使用することもでき、光ファイバの形態は制限されるものではない。また、本実施形態では、光コネクタの内部に光ファイバの接続点を有していないが、接続点を有する光コネクタにも適用することが可能である。また、本実施形態では、単芯コネクタを対象としているが、多芯コネクタに適用することも可能であり、コネクタの形態を制限するものではない。
フロントハウジングが工具の機能を有している発明については、特許文献1のように、フェルールに予め端尺ファイバが接着してあり、グリップ素子内で現場でコネクタ内部に挿入したファイバとの接続点が設けられるタイプのコネクタでも適用することができる。また、ファイバグリップユニット25,25Aは実施形態として記載したものに限られず、操作レバー12を押し込むことでファイバグリップユニット25,25A内でファイバ心線部43を固定できる公知のものが利用できる。操作レバー12は、リヤハウジング6から離れる方向に延在するように設けても良い。