以下に、本発明に係る運転支援装置の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
まず図1、2を参照して、本実施形態に係る運転支援装置1の構成について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る運転支援装置1の概略構成を示すブロック図であり、図2は、図1中の車速−残距離マップ41の一例を示す図である。
図1に示すように、運転支援装置1は、自車両としての車両2に搭載され、状態検出装置3と、ECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)4と、HMI(Human Machine Interface)装置5とを備える。運転支援装置1は、状態検出装置3により取得される情報に基づいて、ECU4がHMI装置5を制御し種々の運転支援情報を車両2の運転者に提示させることで、運転者による車両2の安全な運転を支援するものである。
特に本実施形態では、運転支援装置1は、車両2の走行経路の前方に車両2が停止する必要のある停止地点がある場合に、その停止地点から走行経路手前側の範囲に設定されたサービス提供区間内において、車両2を停止地点にて停止させる減速操作を運転者に促すための運転支援情報をHMI装置5に表示する。運転支援の対象としての減速操作は、アクセルペダルを戻しエンジンブレーキにより減速するアクセルオフ操作を含む。また、車両2が停止する必要のある停止地点としては、例えば、交差点、横断歩道地点、丁字路、店舗入口に面した地点、一時停止線などが挙げられる。
車両2は、駆動輪を回転駆動させるための走行用駆動源として、内燃機関としてのエンジンと、回転電機としてのモータジェネレータ6との両方を備えるハイブリッド車両である。車両2は、エンジンを可及的に効率の良い状態で運転する一方、動力やエンジンブレーキ力の過不足をモータジェネレータ6で補い、さらには減速時にエネルギの回生を行なうことにより、燃費の向上を図るように構成されたものである。なお、車両2は、駆動源として少なくとも1つのモータジェネレータ6を備える形式であればよく、例えばモータを備える一方でエンジンを備えないEV車両(電気自動車)などの形式であってもよい。
状態検出装置3は、車両2の状態や車両2の周囲の状態を検出するものであり、車両2の状態を表す種々の状態量や物理量、スイッチ類の作動状態等を検出するものである。状態検出装置3は、ECU4に電気的に接続され、このECU4に各種信号を出力する。本実施形態では、状態検出装置3は、車両2の進路前方の停止地点に関する情報を検出するものであり、例えば、カメラ、レーダ、カーナビゲーション装置、地図データベース、路車間通信機、車車間通信機、無線通信装置、車速センサ、アクセルペダルセンサ、ブレーキペダルセンサ、等を含んで構成される。
ECU4は、状態検出装置3から入力される各種情報に基づいて、車両2の各部の制御を行う。特に本実施形態では、ECU4は、車両2の進路前方の停止地点への接近度合いに応じて、車両2の運転者に対して減速操作(アクセルオフ操作)を促すための教示を行なう運転支援を実施する。
また、ECU4は、車両2の運転者がアクセルオフ操作を行なった後の惰性走行中に回生拡大制御を実行して、減速操作(アクセルオフ操作)中の車両2の減速度を一定に保持する運転支援を実施する。回生拡大制御とは、モータジェネレータ6を制御して回生発電量を増大させることで、安定して先に回生発電量としてエネルギを回収し、運転者による回生発電エネルギの取りこぼしの発生を抑える技術である。減速操作中に回生拡大制御を実行することによって、車両2の減速度を一定の規定値となるよう調整して安定化できるので、減速操作に伴う違和感を運転者に与えにくくすることができる。
ECU4は、これらのアクセルオフ操作の教示と回生拡大制御の実行という、減速操作のための運転支援を実施可能とすべく、車速−残距離マップ41(記憶手段)、アクセルオフ地点算出部42、減速支援制御部43(制御手段、情報提示手段)、及び支援中止判定部44(判定手段)の各機能を実現するよう構成されている。
車速−残距離マップ41は、車両2の車速と、停止地点Psへの残距離とを対応付けてなるマップである。車速−残距離マップ41には、アクセルオフ操作後に回生拡大制御を開始するのに最適な車速及び残距離の関係が記憶されており、この関係の一例が「支援実施ライン」として図2に例示されている。図2の支援実施ラインに示すように、回生拡大制御の運転支援を開始するのに最適な残距離は、車速に応じて変化し、基本的に車速が大きいほど大きくなるように設定されている。支援実施ラインは、図2に示す残距離−速度座標系において、この座標系の原点である停止地点Psから、高車速側(図2では右上方)に凸形状となる放物線状の軌跡をとるものである。この支援実施ラインは、後述するアクセルオフ地点算出部42によるアクセルオフ地点Paoffを決定する際に利用される。
支援実施ラインは、図2に示すように「アクセルオフ許容ライン」と「回生取りこぼし発生ライン」との間にて、両ラインと等距離をとるよう設定されている。アクセルオフ許容ライン及び回生取りこぼし発生ラインは、支援実施ラインと同様に、残距離−速度座標系の原点である停止地点Psから、高車速側(図2では右上方)に凸形状となる放物線状の軌跡をとるものであり、湾曲の度合いが支援実施ラインと異なるものである。
「アクセルオフ許容ライン」とは、ある車速でアクセルオフを開始して、その後に回生拡大制御を実行しながら停止地点にアプローチした際に、運転者がアクセルオフタイミングを早すぎると感じる残距離の許容限界として定義することができる。
すなわち、図2に示す残距離−速度座標系において、アクセルオフを開始した車速と残距離の座標が、アクセルオフ許容ラインより右上側(高車速側または残距離低減側)に配置される場合には、運転者は、妥当なタイミングでアクセルオフが提示されたと感じ、アクセルオフタイミングを許容できる。一方、アクセルオフを開始した車速と残距離の座標が、アクセルオフ許容ラインより左下側(低車速側または残距離増加側)に配置される場合には、運転者は、アクセルオフタイミングが早すぎて、このタイミングでアクセルオフ操作を行なうと停止地点Psより手前で停止し、停止地点に辿りつかないかもしれないとの違和感を生じる。この結果、運転者は、アクセルオフの情報通知を煩わしいと感じ、アクセルオフタイミングを許容できない。
つまり、アクセルオフ許容ラインより右上側の領域で運転者にアクセルオフ操作を教示すれば、運転者は、妥当なタイミングでアクセルオフが提示されたと感じ、運転者が情報通知を煩わしいと感じることなく支援を実行させることができる。図2の車速−残距離マップ41には、アクセルオフ許容ラインとして、運転者がアクセルオフ操作の実施を許容できる停止地点Psまでの距離情報と、車両2の車速とが、関連付けて記憶されている。図2にはアクセルオフ許容ラインより左下側の、運転者がタイミングを許容できない領域を「アクセルオフタイミング許容付加領域」として示している。アクセルオフ許容ラインは、例えば、運転者の官能評価や機械学習により設定することができる。
「回生取りこぼし発生ライン」とは、ある車速でアクセルオフをした後にブレーキを踏んでも、回生エネルギの取りこぼし量が規定値を超過しない残距離の限界として定義することができる。回生エネルギの取りこぼしは、例えば、摩擦ブレーキ作動等により運動エネルギの一部が熱などに変換されて捨てられる状況において発生する。
図2に示す残距離−速度座標系において、アクセルオフを開始した車速と残距離の座標が、回生取りこぼし発生ラインより左下側(低車速側または残距離増加側)に配置される場合には、アクセルオフ開始時の車両の運動エネルギを、アクセルオフ後の回生拡大制御の実行中に回生エネルギとして十分に回収できるので、回生エネルギの取りこぼし量は規定値以下に抑えられる。一方、アクセルオフを開始した車速と残距離の座標が、回生取りこぼし発生ラインより右上側(高車速側または残距離低減側)に配置される場合には、回生エネルギの取りこぼし量は規定値を超過する。
つまり、回生取りこぼし発生ラインより左下側の領域で運転者にアクセルオフ操作を教示すれば、回生エネルギの取りこぼし量が規定値を超過することなく、効果的に燃費向上を図ることができ、省エネルギ運転を好適に実行することができる。図2の車速−残距離マップ41には、回生取りこぼし発生ラインとして、アクセルオフ操作を実施しても回生エネルギの取りこぼし量が規定値を超過しない最小距離情報と、車両の車速とが、関連付けて記憶されている。図2には回生取りこぼし発生ラインより右上側の回生エネルギの取りこぼしが発生する領域を、「回生取りこぼし発生領域」として示している。
回生取りこぼし発生ラインは、例えば、以下の(1)式により導出できる。
L=V2/(2×Abrk) ・・・(1)
ここで、Lは残距離、Vは車速、Abrkは、バッテリで回生エネルギを取りきれる減速度である。なお、Abrkの値は、車両2のバッテリ容量に依存し、例えば0.15Gである。回生拡大制御では、このAbrkより小さい範囲で減速度の規定値を設定するのが好ましい。
アクセルオフ許容ラインと回生取りこぼし発生ラインは、後述する支援中止判定部44によるアクセルオフ操作に関する運転支援の中止判定に利用される。
本実施形態では、車速−残距離マップ41において、支援実施ラインをアクセルオフ許容ラインと回生取りこぼし発生ラインとの間の支援実施領域に設定することで、(1)運転者が情報通知を煩わしいと感じることなく支援を実行させることができる、というアクセルオフ許容ラインによる効果と、(2)精度良く省エネルギ運転を実行させることができる、という回生取りこぼし発生ラインによる効果とを両方享受することができる。さらに、支援実施ラインを、アクセルオフ許容ラインと回生取りこぼし発生ラインから等距離に設定することで、ロバスト性を最も大きく確保でき、アクセルオフ操作支援のタイミングが許容されないなど支援が失敗するリスクを最小限に抑えることができる。
なお、支援実施ラインは、図2に実線で示すように、アクセルオフ許容ラインと回生取りこぼし発生ラインから等距離の支援実施領域の中央ではなく、図2に一点鎖線に示すように、回生取りこぼし発生ライン側(停止地点Psに接近する側)に移動して配置してもよい。このときの支援実施ラインの設定基準は、例えば、任意の車速において「支援実施領域の中央位置」と、「アクセルオフ許容ラインから略同一の許容距離分だけ停止地点Ps側の位置」とのうち、停止地点に近い方(図2の右方向)とすることができる。
このように支援実施ラインを設定する理由は以下のとおりである。図2に示す車速−残距離マップ41は、平坦路の場合の一例であり、例えば勾配路になるとアクセルオフ許容ラインが回生取りこぼし発生ライン側に接近し、支援実施領域が狭くなる場合がある。アクセルオフ許容ラインや回生取りこぼし発生ラインの演算や、GPSによる位置判定、または道路勾配の精度など、様々な要因によって、導出する支援実施ラインに誤差が生じる。支援実施領域が狭い場合には、支援実施ラインとアクセルオフ許容ラインとの間の距離が小さいので、上記の誤差によって、実際には支援実施領域に入る走行状態でもアクセルオフタイミング許容不可領域に遷移しまい、運転支援が実施されず失敗するリスクが高い。そこで、支援実施ラインをできるだけアクセルオフ許容ラインから遠ざけるように設定することで、アクセルオフ許容不可領域に入ることを抑制する。これにより、勾配路においても支援失敗リスクを最小限に抑えて支援を実行することができる。
図1に戻り、アクセルオフ地点算出部42は、アクセルオフ操作を行ない回生拡大制御を開始するアクセルオフ地点Paoffの位置情報を算出する。
アクセルオフ地点算出部42は、車両2がサービス提供区間に進入したときの進入車速Vin(車速情報)に基づいて、車速−残距離マップ41を参照して、例えば図2の点線Aに示すように、このマップ41内の支援実施ライン上で、進入車速Vinと対応付けられている残距離情報を抽出し、この抽出した残距離情報をアクセルオフ地点Paoffの位置情報として設定する。アクセルオフ地点算出部42は、進入車速Vinの情報を状態検出装置3から取得することができる。
減速支援制御部43は、アクセルオフ地点算出部42により算出されたアクセルオフ地点Paoffの位置情報に基づき、車両2の運転者の減速操作のための運転支援動作を制御する。減速操作のための運転支援動作とは、上述のように、車両2の運転者にアクセルオフ操作を促すことと、アクセルオフ操作後にモータジェネレータ6を制御して回生拡大制御を実行することを含む。
減速支援制御部43は、例えば状態検出装置3から車両2の現在位置に関する情報を取得し、アクセルオフ地点算出部42にて設定されたアクセルオフ地点Paoffの位置情報と現在位置とを比較する。そして、車両2がアクセルオフ地点Paoffの手前の所定範囲内に到達したときに、アクセルオフ操作を促す運転支援情報を運転者に提示させるようHMI装置5を制御する。また、減速支援制御部43は、アクセルオフ操作の運転支援情報に応じて運転者がアクセルオフ操作を行なった後(例えば車両2がアクセルオフ地点Paoffに到達したとき)に、モータジェネレータ6を制御して回生拡大制御を実行し、アクセルオフ後の惰性走行中の車両2の減速度を一定の規定値になるよう調節する。
支援中止判定部44は、減速支援制御部43及びHMI装置5による運転支援情報の提示と、減速支援制御部43及びモータジェネレータ6による回生拡大制御と、を含む運転支援動作の中止を判定する。支援中止判定部44は、減速支援制御部43により、減速操作のための運転支援動作(アクセルオフ教示、回生拡大制御)が実施されているときに、この運転支援動作を中止するか否かを判定する。
支援中止判定部44は、状態検出装置3から車両2の現在の車速と停止地点までの残距離に関する情報を取得し、この車速及び残距離のデータが車速−残距離マップ41上のどの位置にプロットされるかを確認する。データのプロット位置が、支援実施領域から、アクセルオフタイミング許容ラインを超えてアクセルオフタイミング許容不可領域に遷移している場合、または、回生取りこぼし発生ラインを超えて回生取りこぼし発生領域に遷移している場合に、運転支援動作を中止することを決定し、減速支援制御部43にその旨の情報を出力する。具体的には、図2に点線Bで示すように、現在の車速Vに基づいて、アクセルオフ許容ライン上のアクセルオフ許容限界距離Laと、回生取りこぼしライン上の回生取りこぼし発生限界距離Lbを求め、これらの距離LaとLbと、現在の残距離Lとを比較して、アクセルオフタイミング許容不可領域または回生取りこぼし発生領域への遷移の有無を判定する。
ECU4は、物理的には、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)及びインターフェースなどを含む周知のマイクロコンピュータを主体とする電子回路である。上述したECU4の各機能は、ROMに保持されるアプリケーションプログラムをRAMにロードしてCPUで実行することによって、CPUの制御のもとで車両内の各種装置を動作させると共に、RAMやROMにおけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。
HMI装置5は、車両2の運転を支援する情報である運転支援情報を出力可能な支援装置であり、運転者に対する運転支援情報の提供等を行う装置である。HMI装置5は、車載機器であって、例えば、車両2の車室内に設けられたディスプレイ装置(視覚情報表示装置)やスピーカ(聴覚情報出力装置)等を有する。HMI装置5は、視覚情報(図形情報、文字情報)や聴覚情報(音声情報、音情報)等を出力することによって運転者に運転支援情報の提供を行い、運転者の運転操作を誘導する。HMI装置5は、こうした情報提供により運転者の運転操作による目標値の実現を支援する。HMI装置5は、ECU4に電気的に接続されこのECU4により制御される。
特に本実施形態では、HMI装置5は、減速支援制御部43により生成される減速操作に関する運転支援情報(アクセルオフ)を運転者に提示して、停止位置にて車両を停止させるような減速操作を促す。また、アクセルオフ操作の教示後に、支援中止判定部44により、アクセルオフ操作の運転支援の中止が決定されると、提示していた運転支援情報を消去して、運転者に対してアクセルオフ操作の中止を促す。なお、HMI装置5は、既存の装置、例えば、ナビゲーションシステムのディスプレイ装置やスピーカ等が流用されてもよいし、例えば、ハンドル振動、座席振動、ペダル反力などの触覚情報を出力する触覚情報出力装置等を含んで構成されてもよい。
ECU4の減速支援制御部43と、HMI装置5とが、停止地点にて車両2を停止させるためのアクセルオフ操作を車両2の運転者に促す運転支援情報を提示する情報提示手段として機能する。
次に、図3,4を参照して、本実施形態に係る運転支援装置1の動作について説明する。図3は、本実施形態の運転支援装置により実施される停止操作の運転支援処理のフローチャートであり、図4は、本実施形態の運転支援装置により実施される停止操作の運転支援中止処理のフローチャートである。
まず図3を参照して、停止操作の運転支援処理について説明する。
まず、車両2が運転支援サービスのサービス提供区間に進入したことが検出され(ステップS101)、当該サービス提供区間中に停止地点Psが検出されると(ステップS102)、アクセルオフ地点算出部42により、現在の車両2のサービス提供区間への進入車速Vinが、状態検出装置3から取得される(ステップS103)。なお、進入車速Vinは、車両2がサービス提供区間に進入した時点の瞬間速度、進入時前後の平均速度、停止地点Psから所定距離だけ走行経路手前側の地点における瞬間速度または平均速度などの速度情報を用いることができる。
ステップS103にて取得された進入車速Vinに基づいて、車速−残距離マップ41を参照してアクセルオフ地点Paoffが算出される(ステップS104)。アクセルオフ地点算出部42は、図2に点線Aで示すように、ステップS103で取得した進入車速Vinから、車速−残距離マップ41の支援実施ライン上の残距離情報を取得し、この残距離情報を、アクセルオフ地点Paoffの位置情報として設定する。アクセルオフ地点算出部42は、算出したアクセルオフ地点Paoffの位置情報を減速支援制御部43に出力する。
次に、減速支援制御部43により、車両2の運転者に対してアクセルオフ操作を教示するためのアクセルオフ教示条件が成立しているか否かが確認される(ステップS105)。アクセルオフ教示条件は、ステップS104で設定したアクセルオフ地点Paoffの位置情報に基づき設定することができ、例えば以下の条件(1)〜(3)のいずれかを設定することができる。
(1)車両2の現在位置が、アクセルオフ地点Paoffより所定距離だけ手前の位置に到達したときにアクセルオフ教示条件が成立する。
(2)現在時刻が、車両2のアクセルオフ地点Paoffへの到達予定時刻より所定時間前となったときにアクセルオフ教示条件が成立する。
(3)図2の車速−残距離マップ41上で、支援実施ラインより左側(アクセルオフ許容ライン側)に、アクセルオフ教示タイミングを決定するためのアクセルオフ教示用ラインを別途設定する。アクセルオフ教示用ラインは、例えば支援実施ラインと同様に、停止地点Psから高車速側に凸形状となる放物線状の軌跡をとるよう設定できる。このアクセルオフ教示用ラインを用いて、進入車速Vinに基づきアクセルオフの教示を行なう位置情報であるアクセルオフ教示地点を算出する。車両2の現在位置がこのアクセルオフ教示地点に到達したときにアクセルオフ教示条件が成立する。
減速支援制御部43は、アクセルオフ教示条件が成立していない場合には(S105のNo)、アクセルオフ教示条件が成立するまで待機する。一方、アクセルオフ教示条件が成立している場合には(S105のYes)、アクセルオフ操作を促す運転支援情報がHMI装置5から運転者に提供されるようHMI装置5が制御され、運転者に対してアクセルオフ操作が教示される(ステップS106)。
引き続き減速支援制御部43により、アクセルオフ後の惰性走行中に回生発電量を増大させて車両2の減速度を一定に保つ回生拡大制御の開始条件が成立しているか否かが確認される(S107)。回生拡大制御の開始条件は、運転者のアクセルオフ操作が完了したことを示すものであればよく、例えば以下の条件(4)〜(6)のいずれかを設定することができる。
(4)車両2の現在位置が、アクセルオフ地点Paoffに到達したこと。
(5)ステップS106のアクセルオフ教示後に、所定時間経過または所定距離移動したこと。
(6)アクセルペダルが基準位置に戻ったことを検知したこと。
減速支援制御部43は、例えば条件(4)を適用する場合、状態検出装置3から取得した現在の車両2の走行位置と、ステップS104で設定したアクセルオフ地点Paoffの位置情報とを比較して、車両2がアクセルオフ地点に到達したことを検出できる。
減速支援制御部43は、回生拡大制御の開始条件が成立していない場合には(S107のNo)、回生拡大制御の開始条件が成立するまで待機する。一方、回生拡大制御の開始条件が成立している場合には(S107のYes)、モータジェネレータ6を制御して、回生拡大制御が実行される(S108)。
次に、図4を参照して、停止操作の運転支援中止処理について説明する。図4に示す制御フローは、支援中止判定部44により例えば所定期間ごとに実施される。
まず、減速支援制御部43による停止操作のための運転支援(アクセルオフ操作の教示、回生拡大制御の実行)が実施中か否かが確認される(ステップS201)。停止操作の運転支援が実施中の場合には(S201のYes)、車両2の現在の車速Vと、停止地点Psまでの残距離Lが、状態検出装置3から取得される(ステップS202)。停止操作の運転支援が実施中でない場合には(S201のNo)、本制御フローの処理を終了する。
次に、現在の車速Vに基づいて、車速−残距離マップ41を参照して、アクセルオフ許容限界距離Laと、回生取りこぼし発生限界距離Lbが算出される(ステップS203)。支援中止判定部44は、車速−残距離マップ41において、図2の点線Bで示すように、ステップS202にて取得された車速Vに関連付けられている、アクセルオフ許容ライン上の残距離情報を求め、この求めた残距離情報をアクセルオフ許容限界距離Laとして設定する。同様に、車速Vに関連付けられている、回生取りこぼしライン上の残距離情報を求め、この求めた残距離情報を回生取りこぼし発生限界距離Lbとして設定する。
次に、ステップS202で取得した停止地点Psまでの現在の残距離Lが、ステップS203にて取得されたアクセルオフ許容限界距離Laより大きいか否かが確認される(ステップS204)。残距離Lがアクセルオフ許容限界距離Laより大きい(L>La)場合には(S204のYes)、現在の車両2の走行状態が、車速−残距離マップ41上で支援実施領域からアクセルオフタイミング許容不可領域に遷移したものと判断して、再び支援実施領域に戻すべく停止操作のための運転支援動作が中止される。つまり、アクセルオフ教示及び回生拡大制御が中止される(S206)。より詳細には、支援中止判定部44は、運転支援動作を中止する旨の情報を減速支援制御部43に出力する。これに応じて、減速支援制御部43は、HMI装置5に表示されていたアクセルオフ操作に関する運転支援情報の提示を中止して非表示とする。また、減速支援制御部43は、回生拡大制御を中止して、モータジェネレータ6による回生発電量を低減させ、車両2の減速度を通常の惰性走行時のレベルまで低減させる。
一方、残距離Lがアクセルオフ許容限界距離La以下(L≦La)の場合には(S204のNo)、引き続き、ステップS202で取得した残距離Lが、ステップS203にて取得された回生取りこぼし発生限界距離Lbより小さいか否かが確認される(ステップS205)。残距離Lが回生取りこぼし発生限界距離Lbより小さい(L<Lb)場合には(S205のYes)、現在の車両2の走行状態が、車速−残距離マップ41上で支援実施領域から回生取りこぼし発生領域に遷移したものと判断して、実施中の運転支援動作のうちアクセルオフ教示が中止される(S207)。なお、このとき、アクセルオフ操作に関する運転支援情報の提示を中止して非表示とするのと併せて、例えば「アクセルオフしても燃費効果が小さいですよ」などのメッセージをHMI装置5に表示して、アクセルオフ操作を推奨しないよう運転者に教示してもよい。残距離Lが回生取りこぼし発生限界距離Lb以上(L≧Lb)の場合には(S205のNo)、現在の車両2の走行状態が支援実施領域内にあるものと判断して、本制御フローを終了し、停止操作のための運転支援を継続する。
次に、本実施形態に係る運転支援装置1の効果について説明する。
本実施形態の運転支援装置1は、車両2の惰性走行中の回生発電量を増大させることで車両2の減速度を制御する回生拡大制御を実行する減速支援制御部43を備える。減速支援制御部43は、停止地点Psにて車両2を停止させるためのアクセルオフ操作を車両2の運転者が行なった後に、回生拡大制御を実行する。
この構成により、アクセルオフ操作後の惰性走行中には、回生拡大制御を実行することにより車両2の減速度を一定に保持することが可能となる。これにより、惰性走行中に車両2の走行条件や路面条件が変動した場合であっても、車両2の減速度に安定化することが可能となり、車両2の走行状態が運転者の感覚とずれるのを防止できる。この結果、運転者に減速操作のための運転支援を行なう際に、運転者に違和感を与えにくくすることができる。
また、本実施形態の運転支援装置1は、運転者がアクセルオフ操作の実施を許容できる停止地点Psまでの距離情報と、車両2の車速とを関連付けてアクセルオフ許容ラインとして記憶する車速−残距離マップ41と、減速支援制御部43による回生拡大制御の実行の中止を判定する支援中止判定部44と、を備える。支援中止判定部44は、回生拡大制御を実行した後に、車速−残距離マップ41から現在の車速Vに関連付けられたアクセルオフ許容ライン上のアクセルオフ許容限界距離Laを取得し、車両2の現在位置から停止地点Psまでの残距離Lが、取得したアクセルオフ許容限界距離Laより大きいとき、回生拡大制御の実行を中止させる。
アクセルオフ操作後の惰性走行中に、車両2の車速が予想以上に下がりすぎ、車両2の走行状態が、車速−残距離マップ41の支援実施領域から、アクセルオフ許容ラインを越えてアクセルオフタイミング許容不可領域に遷移する状況が発生する場合がある。本実施形態の運転支援装置1は上記構成により、この場合には、車両2の減速度を増大する回生拡大制御の実行を中止させることができる。これにより、モータジェネレータ6の回線発電に伴う負荷を無くして、車両2の減速度を通常の惰性走行中のレベルまで低減させることができるので、惰性走行中の車両2の減速を抑制することが可能となる。この結果、車両2が停止地点Psに接近するに伴い、車両2の走行状態を車速−残距離マップ41の支援実施領域に再び戻すことが可能となり、車両2の減速操作をスムーズに行なうことができる。
また、本実施形態の運転支援装置1は、停止地点Psにて車両2を停止させるためのアクセルオフ操作を車両2の運転者に促す運転支援情報を提示する情報提示手段としての減速支援制御部43及びHMI装置5を備える。支援中止判定部44は、減速支援制御部43及びHMI装置5により運転支援情報を提示された後に、車速−残距離マップ41から現在の車速Vに関連付けられたアクセルオフ許容ライン上のアクセルオフ許容限界距離Laを取得し、車両2の現在の停止地点までの残距離Lが、取得したアクセルオフ許容限界距離Laより大きいとき、減速支援制御部43及びHMI装置5による運転支援情報の提示を中止させる。
図2を参照して説明したように、図2に示す残距離−速度座標系において、アクセルオフ操作支援開始後の車速と残距離の座標が、アクセルオフ許容ラインより左下側(低車速側または残距離増加側)に配置される場合、すなわち、車両2の現在の停止地点までの残距離Lがアクセルオフ許容限界距離Laより大きくなる場合には、支援実施領域からアクセルオフタイミング許容不可領域に遷移する。このとき、運転者は、このタイミングでアクセルオフ操作を行なうと停止地点Psより手前で停止し、停止地点に辿りつかないかもしれないとの違和感を生じ、アクセルオフタイミングを許容できなくなる。そこで、このような状況では、減速支援制御部43及びHMI装置5によるアクセルオフ操作に関する運転支援情報の提示を中止することで、アクセルオフ操作に関する運転支援に対して運転者が違和感を生じる機会を低減させることができる。この結果、運転者に減速操作を教示する運転支援を行なう際に、運転者に違和感を与えにくくすることができる。
また、本実施形態の運転支援装置1では、車速−残距離マップ41は、アクセルオフ操作を実施しても回生エネルギの取りこぼし量が規定値を超過しない最小距離情報と、車両2の車速とを関連付けて回生取りこぼしラインとして記憶しており、支援中止判定部44は、減速支援制御部43及びHMI装置5により運転支援情報を提示された後に、車速−残距離マップ41から現在の車速Vに関連付けられた回生取りこぼしライン上の回生取りこぼし発生限界距離Lbを取得し、車両2の現在の停止地点までの残距離Lが、取得した回生取りこぼし発生限界距離Lbより小さいとき、減速支援制御部43及びHMI装置5による運転支援情報の提示を中止させる。
図2を参照して説明したように、図2に示す残距離−速度座標系において、アクセルオフ操作支援開始後の車速と残距離の座標が、回生取りこぼし発生ラインより右上側(高車速側または残距離低減側)に配置される場合、すなわち、車両2の現在の停止地点までの残距離Lが、取得した回生取りこぼし発生限界距離Lbより小さくなる場合には、支援実施領域から回生取りこぼし発生領域に遷移する。このとき、アクセルオフ開始時の車両2の運動エネルギを、アクセルオフ後の減速・停止時に回生エネルギとして回収する際に、回生エネルギの取りこぼし量が規定値を超過する。そこで、このような状況では、減速支援制御部43及びHMI装置5によるアクセルオフ操作に関する運転支援情報の提示を中止することで、運転者に対してアクセルオフ操作の中止を促し、回生取りこぼしを低減することができる。これにより、効果的に燃費向上を図ることができ、省エネルギ運転を好適に実行することができる。また、この構成により、車両2の車速Vと残距離Lが、支援実施領域から回生取りこぼし発生領域に遷移したときに、アクセルオフ操作に関する運転支援情報の提示が中止されるので、運転者に対して燃費向上に効果的な区間(支援実施領域)を効果的に教示することが可能となる。
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
上記実施形態では、車両2の車速Vと残距離Lが、車速−残距離マップ41の回生取りこぼしラインを超えて支援実施範囲から回生取りこぼし発生領域に遷移した場合には、減速支援制御部43及びHMI装置5による運転支援情報の提示を中止する構成を例示したが、回生取りこぼし発生領域に遷移した場合でも運転支援情報の提示を継続する構成としてもよい。この場合、図4のフローチャートでは、ステップS205の判定ブロックの処理を行なわず、ステップS204にて残距離Lがアクセルオフ許容限界距離La以下である場合には、そのまま制御フローを終了する。
また、上記実施形態では、車速−残距離マップ41からアクセルオフ地点Paoff、アクセルオフ許容限界距離La、回生取りこぼし発生限界距離Lbを取得する構成を例示したが、車速Vと残距離Lの情報が関連付けられて記憶されている記憶手段であれば、マップ以外の構成としてもよい。