JP5807339B2 - 撥水撥油性布帛の製造方法及びその布帛 - Google Patents

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Description

本発明は、基布本来の触感を維持し、かつ基布の汚染防止効果に優れる撥水撥油性布帛の製造方法及びその布帛に関する。
従来から、合成繊維や天然繊維の布帛に撥水性・撥油性等を付与して防汚機能を高める試みは、多数紹介されている。
例えば、特許文献1には、布帛とフッ素含有ポリマーとの間にフッ素含有ポリマー単量体、フッ素原子を含有しない共単量体および架橋剤とからなる共重合体皮膜を形成することが提案されている。
また、特許文献2には、分散染料で染色されたポリエステル系繊維布帛にポリウレタン樹脂またはポリアミノ酸ウレタン樹脂主体の合成重合体よりなるコーティング樹脂溶液を塗布してコーティング皮膜を形成せしめた後,該コーティング皮膜に酸素濃度500ppm以下の雰囲気中で電子線を照射するコーティング布帛の製造方法が開示されている。
特許文献3には、連続多孔質構造の気体透過性材料を基材とするフィルタの多孔質空間内を含む表面に撥油・撥水剤を紫外線照射により固定化する撥油・撥水性フィルタの製造方法が開示されている。
特許文献4には、布帛の繊維質基材の少なくとも片面を、有機溶剤を溶媒とした含フッ素撥水撥油剤とフッ素化合物を含有する消泡剤とからなる処理液で処理する撥水撥油性を有する布帛の製造方法が提案されている。
また、特許文献5には、繊維布帛に、フッ素系撥水剤と非ブロックタイプの水分散型ポリイソシアネート系架橋剤を付与してなる撥水撥油性布帛が提案されている。
特許文献6には、ポリエステル及び綿からなる布帛に制電性モノマーを付与し、反応、固着させる工程とフルオロアルキルアクリレート系ポリマー乳化物を布帛に付与する工程とを含むポリエステル/綿布帛の加工方法が開示されている。
特許文献7には、分子内にフッ素原子を含有するビニルモノマーのメタノール溶液に浸漬したポリエステル系布帛をフィルムで挟み、圧着し過剰なモノマー及び酸素を除去した後、電子線を照射し、引き続き40〜70℃の温度でグラフト重合させるポリエステル系布帛の製造方法が提案されている。
さらに、特許文献8には、アニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーとの間の複合体を含有する組成物を用いて、布に撥水性、撥油性、よごれ耐性、しわ耐性、帯電防止性、防汚性、疎水性、親水性、抗菌性、難燃性、温度調節及びUV耐性からなる群より選択される性能増強特性を与える方法が開示されている。
特開昭60−39482号公報 特開平7−11586号公報 特開平9−103662号公報 特開平9−302583号公報 特開2006−207060号公報 特開2007−9337号公報 特開2008−115492号公報 特開2008−508440号公報
しかしながら、上述の方法では、撥水撥油性布帛の製造に当たり、基布本来の触感を維持しながら基布の汚染防止効果を好適に高めることが困難であった。
本発明は、かかる状況下において、不織布を始めとする布帛である基布に撥水撥油性コートを施し、染料・血液等の液状汚染物をはじき流すことで基布の汚染防止効果に優れ、かつ基布本来の触感を維持した撥水撥油性布帛を提供することを課題とする。
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、基布に特定のコーティング塗液を塗布又は該基布を該コーティング塗液に浸漬して特定の表面粗さを撥水撥油性布帛に形成することにより、前記課題を解決し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1)電離放射線硬化型樹脂及びフッ素系化合物を含有する電離放射線硬化型樹脂組成物及び溶媒を少なくとも含むコーティング塗液を基布に塗布又は該基布を該コーティング塗液に浸漬して、該基布を構成する繊維表面にコーティング塗膜を形成する工程と、
該コーティング塗膜に電離放射線を照射して、該繊維表面に硬化膜を形成する工程とを含む撥水撥油性布帛の製造方法であって、
該撥水撥油性布帛の表面粗さZb(μm)が、塗布又は浸漬前の基布の表面粗さZa(μm)の1.5倍以上であることを特徴とする撥水撥油性布帛の製造方法、
[表面粗さの測定方法
非接触表面形状・粗さ測定器を用いて、布帛最表面からの深さ方向距離を測定する。500μm×500μmの範囲で10μmおきにn=2601測定した値から平均距離を算出して、表面粗さZb又はZaとする。]及び
(2)布帛の繊維表面に、少なくとも電離放射線硬化型樹脂及びフッ素系化合物を含有する電離放射線硬化型樹脂組成物の硬化膜を有し、該布帛の表面粗さZbが120〜600μmであることを特徴とする撥水撥油性布帛、
[表面粗さの測定方法
非接触表面形状・粗さ測定器を用いて、布帛最表面からの深さ方向距離を測定する。500μm×500μmの範囲で10μmおきにn=2601測定した値から平均距離を算出して、表面粗さZbとする。]
を提供するものである。
本発明によれば、染料・血液等の液状汚染物をはじき流すことで基布の汚染防止効果に優れ、かつ基布本来の触感を維持した撥水撥油性布帛を提供することができる。
本発明の撥水撥油性布帛の製造方法は、電離放射線硬化型樹脂及びフッ素系化合物を含有する電離放射線硬化型樹脂組成物及び溶媒を少なくとも含むコーティング塗液を基布に塗布又は該基布を該コーティング塗液に浸漬して、該基布を構成する繊維表面にコーティング塗膜を形成する工程(以下、「第1工程」ということがある。)と、該コーティング塗膜に電離放射線を照射して、該繊維表面に硬化膜を形成する工程(以下、「第2工程」ということがある。)とを含む撥水撥油性布帛の製造方法であって、該撥水撥油性布帛の表面粗さZb(μm)が、塗布又は浸漬前の基布の表面粗さZa(μm)の1.5倍以上であることを特徴とする。
ここで、表面粗さの測定方法は、非接触表面形状・粗さ測定器を用いて、布帛最表面からの深さ方向距離を測定する。500μm×500μmの範囲で10μmおきにn=2601測定した値から平均距離を相加平均により算出して、塗布又は浸漬前の基布の平均距離を表面粗さZa(μm)とし、撥水撥油性布帛の平均距離を表面粗さZb(μm)とする。
本発明の製造方法により得られる撥水撥油性布帛の表面粗さZbが120〜600μmの範囲であれば、撥水性及び撥油性の両方が向上し好ましい。
以下、第1工程と第2工程とを説明する。
[第1工程]
本発明の製造方法に係る第1工程は、電離放射線硬化型樹脂及びフッ素系化合物を含有する電離放射線硬化型樹脂組成物及び溶媒を少なくとも含むコーティング塗液を基布に塗布又は該基布を該コーティング塗液に浸漬して、該基布を構成する繊維表面にコーティング塗膜を形成する工程であり、コーティング塗液の溶媒量を調節することにより、コーティング塗膜(溶媒が除去された、乾燥後の塗膜)の厚さが制御されることとなる。撥水撥油性布帛の表面粗さZb(μm)を塗布又は浸漬前の基布の表面粗さZa(μm)の1.5倍以上に制御する観点から、コーティング塗液の溶媒の質量部が、電離放射線硬化型樹脂の質量部の2〜150倍であることが好ましく、5〜100倍であることがより好ましく、20〜50倍であることが更に好ましい。
コーティング塗液を基布に塗布する塗布方法としては、通常のコーティング方法、例えば、リバースコート、ナイフコート、コンマコート、グラビアコート、グラビアリバースコート、バーコート、ロールコート、リバースロールコート等が用いられる。また、該基布を該コーティング塗液に浸漬する浸漬方法としては、例えば、ディップコート等が用いられる。
コーティング塗膜を形成するための乾燥方法としては、通常の乾燥方法、例えば、加熱処理、減圧乾燥処理等が用いられる。加熱処理としては、例えば、60〜120℃のオーブン中に1〜10分間放置することが挙げられる。
[第2工程]
本発明の製造方法に係る第2工程は、第1工程で得られたコーティング塗膜に電離放射線を照射して、該繊維表面に硬化膜を形成する工程である。
水系樹脂コーティングのみでは水に溶解し易いが、電離放射線硬化の手法を用いることにより、硬化後には水に溶解しにくくなり、水分の多い環境下でも長期に渡り撥水撥油性能を持続可能となる。また、有機溶剤系樹脂コーティングのみでは撥油性が得られない場合があるが、電離放射線硬化の手法を用いることにより、硬化後には長期に渡り撥油性能を持続可能となる。
ここで電離放射線とは、電磁波又は荷電粒子線のうち、分子を重合あるいは架橋し得るエネルギー量子を有するものを意味し、通常紫外線(UV)又は電子線(EB)が用いられるが、その他、X線、γ線などの電磁波、α線、イオン線などの荷電粒子線も使用可能である。これらの電離放射線の内、電子線(EB)が、基布を構成する繊維表面全体にコーティング塗膜を固定化するための適切な強度を選定し易く、環境や健康の観点からも好ましい。電子線(EB)の照射条件は、基布本来の触感の維持と高い汚染防止効果の享受とを両立させる観点から、50〜200kV、20〜70kGyの範囲が好ましく、20〜40kGyの範囲がより好ましい。
電子線源としては、特に制限はなく、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、あるいは直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器を用いることができる。
[撥水撥油性布帛]
本発明の製造方法において、得られる撥水撥油性布帛の表面粗さZb(μm)を、塗布又は浸漬前の基布の表面粗さZa(μm)の1.5倍以上とすることで、基布表面の微細構造が強調され、表面凹部の占有面積が増加することにより、見かけの接触角を大きくすることができる。これにより、フッ素化合物のコーティングによる表面自由エネルギーの低下がもたらす効果以上の撥水撥油性を示すことができる。
このZb/Zaは、1.5〜5倍であることが好ましく、1.5〜4倍であることがより好ましく、2〜4倍であることが更に好ましい。1.5倍以上とすることにより、撥水性と撥油性との両方を好適に付与することができる。
表面粗さZb及びZaの測定に用いられる非接触表面形状・粗さ測定器として、例えば、通常では見えない試料表面の微小段差を光の偏光性と干渉性を利用して観察できる、測定顕微鏡が好適に用いられる。この測定顕微鏡としては、オリンパス(株)製、測定顕微鏡「STM6」(商品名)が好適に挙げられる。
また、基布を構成する繊維表面に硬化膜の総量を0.2〜50g/m2の範囲にすることにより、基布本来の触感により好適に近づけることができる。
以上のようにして得られる本発明の撥水撥油性布帛は、基布の繊維表面に、少なくとも電離放射線硬化型樹脂及びフッ素系化合物を含有する電離放射線硬化型樹脂組成物の硬化膜を有するものである。
[基布]
本発明の製造方法に用いられる基布は、特に限定されるものではなく、一般的な織物、編物、不織布等の全ての繊維布帛状製品を含む。また基布を構成する繊維としては、ポリエチレン等のポリオレフィン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維等の合成繊維、コットン、羊毛、絹等の天然繊維、レーヨン等の再生繊維、トリアセテート等の半合成繊維などが挙げられる。また、それらの混紡、交織、混繊品であっても良い。このように、本発明は、天然・再生・合成の各繊維から選択される全ての繊維布帛状製品を基布として用いることのできる汎用性の高い製造方法である。
基布として用いられる不織布として、ポリエチレン系不織布、コットン製不織布及びレーヨン製不織布が例示される。
不織布の結合工程としては、レジンボンド法、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、スパンボンド法、メルトブローン法、スパンレース法、エアレイド法、湿式法、エアースルー法等が挙げられる。表面粗さZa及びZb(μm)を適度に制御し易い点で、スパンレース法、エアースルー法により交絡せしめた不織布を用いるのが好ましい。
ここで、スパンボンド法とは、フィラメントと呼ばれる長繊維をシート状にして熱と圧力を加えることにより不織布として仕上げる製造方法である。スパンレース法とは、ウェブに高圧噴出流をあて繊維を絡み合せ機械的に結合させ乾燥後巻き取る製造方法である。エアースルー法は、水流により繊維を結合させた後に高温の乾燥空気を通して乾燥させる製造方法である。また、スパンボンド不織布とは、スパンボンド法により製造された不織布をいう。
[コーティング塗液]
本発明に係るコーティング塗液は、電離放射線硬化型樹脂及びフッ素系化合物を含有する電離放射線硬化型樹脂組成物及び溶媒を少なくとも含む。
(電離放射線硬化型樹脂)
電離放射線硬化性樹脂として、代表的には、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つ(メタ)アクリレート(モノマー又はオリゴマー)が好適であり、中でも多官能性(メタ)アクリレートが好ましい。なお、ここで「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート又はメタクリレート」を意味する。多官能性(メタ)アクリレートとしては、分子内にエチレン性不飽和結合を2個以上有する(メタ)アクリレートであれば良く、特に制限はない。具体的には、(メタ)アクリレートモノマーとして、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの多官能性(メタ)アクリレートは1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
次に、(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つオリゴマー、例えばウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエーテル(メタ)アクリレートオリゴマー等が挙げられる。ここで、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、例えば、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールとポリイソシアネートの反応によって得られるポリウレタンオリゴマーを、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマーは、例えば、比較的低分子量のビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂のオキシラン環に、(メタ)アクリル酸を反応しエステル化することにより得ることができる。また、このエポキシ(メタ)アクリレートオリゴマーを部分的に二塩基性カルボン酸無水物で変性したカルボキシル変性型のエポキシ(メタ)アクリレートオリゴマーも用いることができる。ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、例えば多価カルボン酸と多価アルコールの縮合によって得られる両末端に水酸基を有するポリエステルオリゴマーの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより、あるいは、多価カルボン酸にアルキレンオキシドを付加して得られるオリゴマーの末端の水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。ポリエーテル(メタ)アクリレートオリゴマーは、ポリエーテルポリオールの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
更に、(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、他にポリブタジエンオリゴマーの側鎖に(メタ)アクリレート基をもつ疎水性の高いポリブタジエン(メタ)アクリレートオリゴマー、小さな分子内に多くの反応性基をもつアミノプラスト樹脂を変性したアミノプラスト樹脂(メタ)アクリレートオリゴマー、あるいはノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、脂肪族ビニルエーテル、芳香族ビニルエーテル等の分子中にカチオン重合性官能基を有するオリゴマー、アクリルポリマー等がある。
上述の電離放射線硬化型樹脂としては、基布本来の触感の維持と高い汚染防止効果の享受とを両立させる観点からウレタン(メタ)アクリレートが好ましく、ウレタンアクリレートオリゴマーが特に好ましい。
本発明においては、前記多官能性(メタ)アクリレートとともに、その粘度を低下させる等の目的で、単官能性(メタ)アクリレートを、本発明の目的を損なわない範囲で適宜併用することができる。単官能性(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの単官能性(メタ)アクリレートは1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
上述の単官能性(メタ)アクリレートも電離放射線硬化型樹脂に包含される。
(フッ素系化合物)
本発明に係るフッ素系化合物は、フッ素を含有する化合物であれば良く、特に制限はないが、フッ素含有重合体及びフッ素含有ノニオン系界面活性剤から選ばれる少なくとも1種のフッ素系化合物が好ましい。撥水性と撥油性との両方を付与することができるからである。
これに対し、フッ素系化合物の替わりにシリコーン化合物や撥水処理シリカを用いると撥水性と撥油性との両方を付与することができず本発明の課題を解決し得ない。
本発明に係るフッ素含有重合体は、撥水性と撥油性とを向上し得るフッ素含有重合体であれば良く、特に制限されないが、フッ素含有(メタ)アクリレート重合体及びフッ化アルキル基含有アルコキシシラン重合体から選ばれる少なくとも一種の重合体であることが好ましい。
このフッ素含有重合体は、電離放射線硬化型樹脂組成物全量(溶媒は含まない。)中に0.5〜5質量%含まれることが好ましい。0.5質量%以上であれば、布帛の撥水性向上効果がより向上し、5質量%以下であれば、配合量の増加に比べて撥水性効果の向上が鈍化することがなく、経済性の点で有利となる。
上記のフッ素含有(メタ)アクリレート重合体としては、フルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートと、これらと共重合可能な他の単量体とを乳化重合して得られる共重合体であることが好ましい。ここで、(メタ)アクリレートとは、上述の通りである。
上記のフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートは、フルオロアルキル基の炭素数が3〜21であることが好ましく、フルオロアルキル基の炭素数が6〜18であることがより好ましい。このようなフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、下記の一般式(1)で表される化合物を挙げることができる。
Rf1−XOCOCR1=CH2 ・・・(1)
〔式中、Rf1 はフルオロアルキル基である。R1 は水素原子又はメチル基である。Xは炭素数1〜10、好ましくは1〜4の直鎖状又は分岐状のアルキレン基、一般式(2):−SO2NR3−R4− ・・・(2)
(式中、R3 は水素原子又は炭素数1〜10、好ましくは1〜4の直鎖状又は分岐状のアルキル基であり、R4 は炭素数1〜10、好ましくは1〜4の直鎖状又は分岐状のアルキレン基である)で表される基、及び一般式(3):−CH2CH(OR5)CH2− ・・・(3)
(式中、R5 は水素原子又は炭素数1〜10のアシル基である)からなる群から選ばれる二価の有機基である。〕
前記Rf1 で示されるフルオロアルキル基としては、例えば、CF3(CF24− 、CF3(CF25− 、CF3(CF26− 、CF3(CF27− 、CF3(CF28− 、CF3(CF29− 、(CF32CFCF2− 、(CF32CF(CF22− 、(CF32CF(CF23− 、(CF32CF(CF25− 、(CF32CF(CF26− 、(CF32CF(CF28− 、(CF32CF(CF210− 、H(CF210− 及び CF2Cl(CF210− が挙げられる。
前記Xで示される二価の有機基のうちのアルキレン基及びR4 で示されるアルキレン基としては、具体的にはメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、エチルエチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、2−メチルプロピレン基等が挙げられる。
前記R3 で示されるアルキル基は、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。
前記一般式(3)中のR5 は、具体的にはホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基等が挙げられる。
上記の一般式(1)で表されるフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、下記のような化合物を挙げることができる。
CF3(CF24CH2OCOC(CH3)=CH2
CF3(CF27(CH22OCOC(CH3)=CH2
CF3(CF27(CH22OCOCH=CH2
CF3(CF26CH2OCOC(CH3)=CH2
CF3(CF26CH2OCOCH=CH2
(CF32CF(CF24(CH22OCOCH=CH2
CF3(CF27SO2N(C37)(CH22OCOCH=CH2
CF3(CF27(CH24OCOCH=CH2
CF3(CF27SO2N(CH3)(CH22OCOC(CH3)=CH2
CF3(CF27SO2N(C25)(CH22OCOCH=CH2
CF3(CF27CONH(CH22OCOCH=CH2
(CF32CF(CF26(CH23OCOCH=CH2
(CF32CF(CF26CH2CH(OCOCH3)OCOC(CH3)=CH2
(CF32CF(CF26CH2CH(OH)CH2OCOCH=CH2
CF3(CF27(CH22OCOC(CH3)=CH2
CF3(CF27(CH22OCOCH=CH2
(CF32CF(CH28(CH22OCOC(CH3)=CH2
(CF32CF(CH28(CH22OCOCH=CH2
CF3(CF29(CH22OCOCH=CH2
CF3(CF29(CH22OCOC(CH3)=CH2
CF3(CF29CONH(CH22OCOC(CH3)=CH2
CF3CF(CF2Cl)(CF27CONH(CH22OCOCH=CH2
(CF32CF(CF)8CH2CH(OCOCH3)CH2OCOC(CH3)=CH2
(CF32CF(CF)8CH2CH(OCOCH3)CH2OCOCH=CH2
H(CF210CH2OCOCH=CH2
CF2Cl(CF210CH2OCOC(CH3)=CH2
CF3(CF25(CH22O(CH22OCOCH=CH2
CF3CF(CF2Cl)(CF27CONH(CH22OCOC(CH3)=CH2
CF3CF2CH2CH(OH)CH2OCH2CH2OCOCH=CH2
上記の一般式(1)で表されるフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートと共重合可能な他の単量体としては、例えば、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アジリジニル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、アルキレンジオール(メタ)アクリレート、等の(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、N−メチルロール(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、メチロール化ジアセトン(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド、マレイン酸ジブチル等のマレイン酸アルキルエステル、フタル酸アルキルエステル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、エチレン、酢酸ビニル、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、アルキルビニルエーテル、ハロゲン化アルキルビニルエーテル、アルキルビニルケトン、シクロへキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、無水マレイン酸、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等を挙げることができる。
本発明に係るフッ素含有(メタ)アクリレート重合体において、フルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートと、これらと共重合可能な他の単量体の量比は、共重合に用いる全単量体の中で、フルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートの合計が40質量%以上であることが好ましく、50〜80質量%であることがより好ましい。フルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートと、これらと共重合可能な他の単量体とは、通常、乳化重合により、共重合体であるフッ素含有(メタ)アクリレート重合体が得られる。
本発明に係るフッ素含有(メタ)アクリレート重合体として好適な共重合体は、常法に従った乳化重合、すなわち、前記フルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートと、これらと共重合可能な他の単量体とを、界面活性剤を用いて水性媒体中に乳化させ(好ましくは、撹拌しつつ超音波を伝達することにより単量体混合物を乳化分散させ)、重合開始剤を添加して撹拌しながら重合させる方法により得ることができる。前記界面活性剤としては、陰イオン性、陽イオン性又は非イオン性界面活性剤として公知のものを特に制限なく使用することができ、特に陽イオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤との併用が好ましい。前記重合開始剤としては、公知の重合開始剤を使用することができ、例えばジイソプロピルパーオキシジカーボネート等の過酸化物;アゾビスイソブチルアミジン二塩酸塩等のアゾ系化合物;並びに(NH4228 、K228 等の過硫酸系化合物が挙げられる。重合時の反応温度は、通常、10〜150℃でよく、好ましくは40〜100℃である。反応時間は、製造規模、界面活性剤及び重合開始剤の種類に応じて適宜決めればよい。
乳化重合する際の媒体に特に制限はないが、水に水溶性有機溶剤を添加した水性溶媒を用いることが好ましい。水に水溶性有機溶剤を添加した水性溶媒を用いると、単量体や共重合体が凝集しにくく、安定した乳化物を得ることができる。
本発明に係るフッ素含有重合体として好適なフッ化アルキル基含有アルコキシシラン重合体は、例えば、下記一般式(4)で示されるフッ化アルキル基含有アルコキシシラン化合物を、過剰の水中、又はフッ素含有系溶媒中で加水分解・縮合反応することにより得られる。
[式中、Rf2は、
(pは1〜20の整数、mは1以上、好ましくは1〜20、特に好ましくは1〜10の整数)で表されるエーテル結合を1個以上含んでいても良いポリフルオロアルキル基を示し、X1は−CH2−、−CH2O−、−NR8−、−COO−、−CONR8−、−S−、−SO3−又はSO2NR8−(R8 は水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基)の1種又は2種以上の結合基を示し、R6 は炭素数1〜4のアルキル基、R7 は炭素数1〜4のアルキル基を示す。aは0〜3の整数、bは1〜3の整数、cは0又は1である。]
上記一般式(4)のRf2 において、Cp2p+1としては、CF3−、C25−、C37−、C49−、C613−、C817−、C1021−、C1225−、C1429−、C1633−、C1837−、C2041−等が挙げられる。
上記一般式(4)で示されるフッ化アルキル基含有アルコキシシラン化合物としては、下記のものを例示することができる。
Rf2(CH22Si(OCH33
Rf2(CH22SiCH3(OCH32
Rf2(CH22Si(CH32(OCH3)、
Rf2(CH22Si(OCH2CH33
Rf2(CH22SiCH3(OCH2CH32
Rf2(CH22Si(CH32(OCH2CH3)、
Rf2(CH23Si(OCH33
Rf2(CH23SiCH3(OCH32
Rf2(CH23Si(CH32(OCH3)、
Rf2(CH23Si(OCH2CH33
Rf2(CH23SiCH3(OCH2CH32
Rf2(CH23Si(CH32(OCH2CH3)、
Rf2NH(CH22Si(OCH33
Rf2NH(CH22SiCH3(OCH32
Rf2NH(CH22Si(CH32(OCH3)、
Rf2NH(CH22Si(OCH2CH33
Rf2NH(CH22SiCH3(OCH2CH32
Rf2NH(CH22Si(CH32(OCH2CH3)、
Rf2NH(CH22NH(CH22Si(OCH33
Rf2NH(CH22NH(CH22SiCH3(OCH32
Rf2NH(CH22NH(CH22Si(CH32(OCH3)、
Rf2NH(CH22NH(CH22Si(OCH2CH33
Rf2NH(CH22NH(CH22SiCH3(OCH2CH32
Rf2NH(CH22NH(CH22Si(CH32(OCH2CH3)、
Rf2CONH(CH22Si(OCH33
Rf2CONH(CH22SiCH3(OCH32
Rf2CONH(CH22Si(CH32(OCH3)、
Rf2CONH(CH22Si(OCH2CH33
Rf2CONH(CH22SiCH3(OCH2CH32
Rf2CONH(CH22Si(CH32(OCH2CH3)、
Rf2SO2NH(CH22Si(OCH33
Rf2SO2NH(CH22SiCH3(OCH32
Rf2SO2NH(CH22Si(CH32(OCH3)、
Rf2SO2NH(CH22Si(OCH2CH33
Rf2SO2NH(CH22SiCH3(OCH2CH32
Rf2SO2NH(CH22Si(CH32(OCH2CH3
好ましいものとして下記のものが挙げられる。
CF3(CH22Si(OCH33
CF3(CH22SiCH3(OCH32
CF3(CH22Si(CH32(OCH3)、
CF3(CH22Si(OCH2CH33
CF3(CH22SiCH3(OCH2CH32
CF3(CH22Si(CH32(OCH2CH3)、
817(CH22Si(OCH33
817(CH22SiCH3(OCH32
817(CH22Si(CH32(OCH3)、
817(CH22Si(OCH2CH33
817(CH22SiCH3(OCH2CH32
817(CH22Si(CH32(OCH2CH3)、
37(CF(CF3)CF2O)3CF(CF3)CH2O(CH23Si(OCH33
これらのアルコキシシラン化合物は1種を単独で又は2種以上の混合物として使用することができる。
上記のフッ化アルキル基含有アルコキシシラン重合体は、上記一般式(4)で示されるフッ化アルキル基含有アルコキシシラン化合物と下記一般式(5)で示されるシラン化合物との混合物を、過剰の水中、又はフッ素含有系溶媒中で加水分解・縮合反応することにより得られるものであっても良い。
9 dSi(OR10 4-d ・・・(5)
(式中、R9 は炭素数1〜10のアルキル基、アリール基又はアルケニル基、又はエポキシ基、(メタ)アクリロイルオキシ基、メルカプト基、アミノ基もしくはシアノ基置換アルキル基、アリール基又はアルケニル基を示す。R10 は炭素数1〜10のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシアルキル基又はアシル基を示す。dは0〜3の整数、好ましくは0〜2の整数である。)
ここで、R9 は、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基、シクロヘキシル基等のアルキル基、フェニル基、フェネチル基等のアリール基、ビニル基、アリル基、9−デセニル基、p−ビニルベンジル基等のアルケニル基、3−グリシドキシプロピル基、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、9,10−エポキシデシル基等のエポキシ基含有有機基、γ−メタクリロイルオキシプロピル基、γ−アクリロイルオキシプロピル基等の(メタ)アクリロイルオキシ基含有有機基、γ−メルカプトプロピル基、p−メルカプトメチルフェニルエチル基等のメルカプト基含有有機基、γ−アミノプロピル基、(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピル基等のアミノ基含有有機基、β−シアノエチル基等のシアノ基含有有機基等を例示することができる。
また、R10 は、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、フェニル基、イソプロペニル基、メトキシエチル基、アセチル基等が例示される。
上記一般式(5)で示されるシラン化合物の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロペノキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリイソプロペノキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、β−シアノエチルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等のトリアルコキシ又はトリアシルオキシシラン類;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジ(2−メトキシエトキシ)シラン、ジメチルジアセトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジメチルジイソプロペノキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジアセトキシシラン、ビニルメチルジ(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジイソプロペノキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジアセトキシシラン、スチリルトリメトキシシラン、スチリルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、β−シアノエチルメチルジメトキシシラン等のジアルコキシシラン又はジアシルオキシシラン類;メチルシリケート、エチルシリケート、n−プロピルシリケート、n−ブチルシリケート、sec−ブチルシリケート及びt−ブチルシリケート等のテトラアルコキシシラン類等を挙げることができる。
上記のフッ化アルキル基含有アルコキシシラン重合体を電離放射線硬化性樹脂組成物に配合する場合は、フッ化アルキル基含有アルコキシシラン−(メタ)アクリロイル基含有シラン共重合体であることが好ましい。すなわち、上記一般式(5)で示されるシラン化合物として(メタ)アクリロイル基含有シラン化合物が好ましく、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。なお、これらのシラン化合物を部分加水分解したものを使用してもよい。
更にこれらのシラン化合物或いは部分加水分解物は1種を単独で又は2種以上の混合物として使用することができる。
本発明に係るフッ素含有重合体として好適なフッ化アルキル基含有アルコキシシラン重合体を、上記一般式(4)で示されるフッ化アルキル基含有アルコキシシラン化合物[以下、成分(M)と略称することがある。]と上記一般式(5)で示されるシラン化合物[以下、成分(N)と略称することがある。]との混合物により得る場合の配合比率は、成分(M)100質量部に対し、成分(N)0〜1,000質量部であることが好ましい。より好ましくは、成分(N)が0〜300質量部である。なお、成分(N)を配合する場合、その効果を有効に発揮させるためには、5質量部以上配合することが好ましい。
上記のフッ化アルキル基含有アルコキシシラン化合物単独、又はフッ化アルキル基含有アルコキシシラン化合物とシラン化合物との混合物を、過剰の水中、又はフッ素含有系溶媒中で加水分解・縮合反応する場合の条件(溶媒、触媒、温度、時間等)の詳細は、例えば、特開2002−53805、特開2007−9216に記載されている。
また、本発明に係るフッ素含有ノニオン系界面活性剤としては、パーフルオロアルキル基又はパーフルオロアルケニル基を含有するノニオン系界面活性剤が挙げられる。
パーフルオロアルキル基を含有するノニオン系界面活性剤としては、AGCセイミケミカル株式会社製、商品名「サーフロン S−611」、「サーフロン S−651」、「サーフロン S−420」等が例示され、パーフルオロアルケニル基を含有するノニオン系界面活性剤としては、株式会社ネオス製、商品名「フタージェント 222F」、「フタージェント 208G」等が例示される。
このフッ素含有ノニオン系界面活性剤は、フッ素含有重合体と同じように、電離放射線硬化型樹脂組成物全量(溶媒は含まない。)中に0.5〜5質量%含まれることが好ましい。0.5質量%以上であれば、布帛の撥水性向上効果がより向上し、5質量%以下であれば、配合量の増加に比べて撥水性効果の向上が鈍化することがなく、経済性の点で有利となる。
以上述べた本発明に係るフッ素系化合物の内、反応型フッ素系化合物として、フッ素含有(メタ)アクリレート重合体及びフッ化アルキル基含有アルコキシシラン−(メタ)アクリロイル基含有シラン共重合体が挙げられ、非反応型フッ素系化合物として、フッ素含有ノニオン系界面活性剤、フッ化アルキル基含有アルコキシシラン単独重合体及びフッ化アルキル基含有アルコキシシラン−他のシラン化合物共重合体が挙げられる。
本発明の布帛の撥水撥油性の経時安定性を高めるためには、反応型フッ素系化合物であるフッ素含有(メタ)アクリレート重合体及びフッ化アルキル基含有アルコキシシラン−(メタ)アクリロイル基含有シラン共重合体から選ばれる少なくとも1種であるフッ素系化合物がより好ましい。
(溶媒)
本発明に係る溶媒としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸−2−メトキシエチル、酢酸−2−エトキシエチル等のエステル系有機溶剤;メチルアルコール、エチルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール系有機溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系有機溶剤;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系有機溶剤;水;等が挙げられる。塗布適性や速乾性に優れるという上で,酢酸エチルやメチルエチルケトンが好ましい。また環境面や衛生面に優れるという上で水が好ましい。
電離放射線として紫外線を用いる場合には、波長190〜380nmの紫外線を含むものを放射する。紫外線源としては特に制限はなく、例えば高圧水銀燈、低圧水銀燈、メタルハライドランプ、カーボンアーク燈等が用いられる。
電離放射線硬化性樹脂を紫外線硬化する場合は、光重合用開始剤を電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して、0.1〜10質量部程度、好ましくは0.1〜5質量部添加することが望ましい。光重合用開始剤としては、従来慣用されているものから適宜選択することができ、特に限定されず、例えば、分子中にラジカル重合性不飽和基を有する重合性モノマーや重合性オリゴマーに対しては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトフェノン、ジメチルアミノアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−2(ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、ベンゾフェノン、p−フェニルベンゾフェノン、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン、ジクロロベンゾフェノン、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−ターシャリーブチルアントラキノン、2−アミノアントラキノン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジメチルケタール等が挙げられる。
また、光増感剤としては、例えばp−ジメチル安息香酸エステル、第三級アミン類、チオール系増感剤等を用いることができる。
また、本発明におけるコーティング塗液に用いる電離放射線硬化型樹脂組成物には、所望により、各種添加剤を配合することができる。この添加剤としては、例えば耐候性改善剤、耐摩耗性向上剤、重合禁止剤、架橋剤、赤外線吸収剤、帯電防止剤、接着性向上剤、レベリング剤、チクソ性付与剤、カップリング剤、可塑剤、消泡剤、着色剤等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、例えば、トリアジン系UVA、ベンゾトリアゾール系UVA、ベンゾフェノン系UVA等が挙げられる。また、光安定剤としては、例えば、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)が挙げられる。
以上述べた本発明の製造方法により、布帛の繊維表面に、少なくとも電離放射線硬化型樹脂及びフッ素系化合物を含有する電離放射線硬化型樹脂組成物の硬化膜を有し、該布帛の表面粗さZbが120〜600μmであることを特徴とする撥水撥油性布帛が得られる。
次に、本発明を実施例により、更に詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。
(評価方法)
各実施例及び比較例で得られた撥水撥油性布帛について、以下の方法で評価した。
(1)触感
以下の基準により、手で触った時の触感を評価した。
4: 手触り、折り曲げ硬さ共に、コーティング前の基布と同等である。
3: 手触りはコーティング前の基布と同等であるが、折り曲げ硬さではコーティング前の基布と比較してコシがある。
2: 手触りにおいて、ザラザラとした触感が残る。
1: 基布の布帛としての手触りは残らず、硬い。
(2)表面粗さ
非接触表面形状・粗さ測定器として、オリンパス(株)製、測定顕微鏡STM6を用いて、布帛最表面からの深さ方向距離を測定した。500μm×500μmの範囲で10μmおきにn=2601測定した値から平均距離を相加平均により算出して、塗布又は浸漬前の基布の平均距離を表面粗さZa(μm)とし、撥水撥油性布帛の平均距離を表面粗さZb(μm)とした。これらの比Zb/Zaを算出し、その値が1.5以上のものを「良」、1.5未満のものを「不良」と評価した。
(3)撥水性及び撥油性
(3−1)外観
布帛を水平から30度に傾け、上方10cmの高さから試験液(撥水性評価の場合は純水を、撥油性評価の場合はオレイン酸を用いる。)50mLを滴下した際の試験液の挙動を以下の基準により評価した。
4: 試験液が布帛表面を滑走し、布帛表面に付着しない。
3: 試験液が布帛表面を流れ落ちるが、布帛表面に試験液の液滴が微量に残留する。
2: 試験液が布帛に染み込まずにはじいている。
1: 試験液が布帛に染み込む。
(3−2)接触角
布帛表面に試験液(撥水性評価の場合は純水を、撥油性評価の場合はオレイン酸を用いる。)25mLを直接滴下し、布帛表面との接触角を測定した。N=5の相加平均値を算出した。
合成例1 (フッ化アルキル基含有アルコキシシラン−アクリロイル基含有シラン共重合体の合成)
撹拌機、コンデンサー及び温度計を備えた0.5リットルフラスコに、
817(CH22Si(OCH33
で示されるヘプタデカフロロオクチルエチルトリメトキシシラン50g(0.088モル)、γ−アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン41.2g(0.176モル)、m−キシレンヘキサフロライド(MXHF)30g及びペルフルオロ−2−ブチルテトラヒドロフラン(PBTF)70gを仕込み、撹拌しているところに、0.25規定の酢酸水溶液7.1gを仕込んだ滴下ロートにより5分間で滴下した。そのまま3時間室温下に反応させ、引き続き80℃で2時間反応させた。反応後、反応液は2層分離していた。これを分液し、上層をボウ硝により乾燥させた。これを濾過し、減圧下MXHF、PBTFを揮発させ、透明液状樹脂67gを得た。このもののGPCによる分子量は約2,200であった。また、屈折率は1.3733であった。
製造例1
宇部日東化成株式会社製、商品名「ハイプレシカTS」を平均粒径3μmになるように分級して得られたシリカを150℃にて3時間乾燥処して、吸着水分量を0.23質量%に調節した。この調節後のシリカ微粉体200gを振動流動層(中央化工機株式会社製振動流動相装置)に仕込み、水分量0.38質量%に除湿された空気によって、振動流動させながらn−オクチルトリエトキシシラン12gを噴霧した後、更にジメチルシリコーンオイル15gを噴霧し30分間流動混合した。その後、速やかに、温度25℃、湿度90%に保持された恒温恒湿槽中に入れ、72時間保持して疎水化シリカを製造した。
参考例1〜4、実施例〜6及び比較例1〜7
第1表に記載された基布を第1表に記載されたコーティング塗液に浸漬(ディップコート)した後、60℃オーブン中に2分間放置して乾燥した。次に、165kV、50kGyの条件で電子線を照射してコーティング塗膜を基布の繊維表面に固定化した。なお、比較例1〜3は、コーティング処理をしなかった。得られた13種類の布帛の触感、表面粗さ並びに撥水性及び撥油性を上記の方法で評価した。結果を第1表に示す。
(注)
*1: ポリエチレン系スパンボンド不織布(シンワ株式会社製、商品名「ハイボン」)*2: コットン製スパンレース不織布(丸三産業株式会社製、商品名「セレナ」)
*3: レーヨン製スパンレース不織布(株式会社クラレ製、商品名「クラフレックス」)
*4: 3官能ウレタンアクリレートオリゴマー、(DICグラフィックス株式会社製、固形樹脂分70質量%)
*5: 合成例1で得られたフッ化アルキル基含有アルコキシシラン−アクリロイル基含有シラン共重合体
*6: パーフルオロアルキル基を含有するノニオン系界面活性剤(AGCセイミケミカル株式会社製、商品名「サーフロン S−611」)
*7: 製造例1で得られた撥水処理シリカ
*8: シリコーン系化合物(三菱化学株式会社製、商品名「ユピマーUV H5000」)
*9: 酢酸エチル
第1表から明らかなように、参考例1〜4、及び実施例〜6の布帛は、比較例1〜7の布帛と比較して、触感が良好で、撥水性及び撥油性のいずれにおいても優れていた。
本発明の製造方法で得られた布帛は、衣類、おむつ、生理用品、産業資材、その他の広範囲の布製品に用いられ、特に耐汚染性の性能改善を必要とする各種部材に好適に用いられる。

Claims (4)

  1. 電離放射線硬化型樹脂及びフッ素系化合物を含有する電離放射線硬化型樹脂組成物及び溶媒を少なくとも含むコーティング塗液を基布に塗布又は該基布を該コーティング塗液に浸漬して、該基布を構成する繊維表面にコーティング塗膜を形成する工程と、
    該コーティング塗膜に電離放射線を照射して、該繊維表面に硬化膜を形成する工程とを含む撥水撥油性布帛の製造方法であって、
    該基布はスパンレース法又はエアースルー法により製造された不織布であり、
    該撥水撥油性布帛の表面粗さZb(μm)が、塗布又は浸漬前の基布の表面粗さZa(μm)の1.5倍以上であることを特徴とする撥水撥油性布帛の製造方法。
    [表面粗さの測定方法
    非接触表面形状・粗さ測定器を用いて、布帛最表面からの深さ方向距離を測定する。500μm×500μmの範囲で10μmおきにn=2601測定した値から平均距離を算出して、表面粗さZb又はZaとする。]
  2. 前記フッ素系化合物が、フッ素含有重合体及びフッ素含有ノニオン系界面活性剤から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の撥水撥油性布帛の製造方法。
  3. 前記不織布を構成する繊維が、ポリエチレン、コットン及びレーヨンから選ばれる何れかである請求項1又は2に記載の撥水撥油性布帛の製造方法。
  4. スパンレース法又はエアースルー法により製造された不織布からなる布帛の繊維表面に、少なくとも電離放射線硬化型樹脂及びフッ素系化合物を含有する電離放射線硬化型樹脂組成物の硬化膜を有し、該布帛の表面粗さZbが120〜600μmであることを特徴とする撥水撥油性布帛。
    [表面粗さの測定方法
    非接触表面形状・粗さ測定器を用いて、布帛最表面からの深さ方向距離を測定する。500μm×500μmの範囲で10μmおきにn=2601測定した値から平均距離を算出して、表面粗さZbとする。]
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