以下、本発明に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬プラント、並びにその操業方法について、図面を参照しながら以下の順で詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
1.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プラントの概要
2.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬について
3.湿式製錬プラントの構成、並びに湿式製錬プラントの操業方法
3−1.基本構成、並びに通常操業時の操業フロー
3−2.自己循環用の構成、並びに自己循環時の操業フロー
3−3.最終中和設備への移送構成、並びに最終中和設備への移送時の操業フロー
3−4.固液分離槽への移送構成、並びに固液分離槽への移送時の操業フロー
3−5.非通常時操業から通常操業への移行
3−6.まとめ
4.実施例
≪1.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プラントの概要≫
本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬プラント(以下、単に「湿式製錬プラント」ともいう。)は、例えば、高圧酸浸出法による浸出工程と、予備中和工程と、固液分離工程(CCD工程)と、中和工程と、脱亜鉛工程と、硫化工程と、最終中和工程(無害化工程)とからなるニッケル酸化鉱石の湿式製錬操業を実行するためのものである。
具体的に、図1の湿式製錬プラントの構成図に示すように、本実施の形態に係る湿式製錬プラント10は、少なくとも、ニッケル酸化鉱石に対する浸出処理を施す浸出処理槽11(1〜n)を複数(n)系列備える浸出設備11と、2段の中和処理槽を備え、浸出処理槽11(1〜n)から排出された浸出スラリーのpHを所定範囲に調整する予備中和を行う予備中和設備12と、単一の系列からなり、pH調整されて予備中和設備12から排出された浸出スラリーを固液分離槽にて固液分離する固液分離設備13とを具備するものである。
そして、この湿式製錬プラント10では、上述の予備中和設備12において、第1段目の中和処理槽12A(1〜n)が、浸出設備に備えられた浸出処理槽11(1〜n)の各系列に対応するように複数(n)系列備えられ、その第1段目を構成する各系列の中和処理槽12A(1〜n)にてpH調整された浸出スラリーが単一の系列からなる第2段目の中和処理槽12Bに合流するように構成されている。そして、その第2段目の中和処理槽12Bに合流した浸出スラリーは、固液分離設備13に移送されるようになっている。
なお、図1のプラント構成図では、浸出処理槽11(1〜n)と第1段目の中和処理槽12A(1〜n)を、2系列(n=2)備える場合を具体例として示すものであるが、系列数は2系列に限定されるものではない。
この湿式製錬プラント10は、上述のように、予備中和工程以前の工程(以下、「上工程」ともいう。)では、一連の処理設備において2系列以上の反応槽を備えるようにし、予備中和工程以後の工程(以下、「下工程」ともいう。)では、一連の処理設備において単一の系列(1系列)の反応槽から構成されるようにしている。このようにすることで、従来操業実績のあるサイズの浸出処理設備を用いて、部品点数を低減させて設備コストを抑制しながら、ニッケル酸化鉱石の処理量を増加させることができ、ニッケル・コバルト混合硫化物(製品)の生産量を安定的に増加させることができる。
また、湿式製錬プラント10によれば、複数系列の処理設備から得られる各浸出スラリーにpH等のバラつきが生じた場合でも、第2段目の中和処理槽12Bにて合流させるようにしているので、そのバラつきを解消することができ、均一な浸出スラリーとして固液分離設備13において固液分離処理を行うことができる。
さらに、湿式製錬プラント10によれば、第1段目の中和処理槽12A(1〜n)と他の工程における処理設備の反応槽とを接続させる配管を適宜設けることによって、例えばプラント操業開始直後等の浸出処理が十分に進行していない段階の浸出スラリーが、固液分離工程やそれよりも後の工程に移送されることを防止することができる。これにより、各工程における反応不良や操業効率の低下等の発生を効果的に抑制することができる。
以下、より具体的に、本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬プラント及びその湿式製錬プラントの操業方法について説明する。
≪2.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬について≫
先ず、本実施の形態に係る湿式製錬プラント10が実行するニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法について説明する。このニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、例えば高圧酸浸出法(HPAL法)を用いて、ニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルトを浸出させて回収する湿式製錬方法である。
図2に、ニッケル酸化鉱石の高圧酸浸出法による湿式製錬方法の工程(プロセス)図の一例を示す。図2に示すように、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、ニッケル酸化鉱石のスラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出処理を施す浸出工程S1と、得られた浸出スラリーのpHを所定範囲に調整する予備中和を行う予備中和工程S2と、pH調整された浸出スラリーを多段洗浄しながら残渣を分離して、ニッケル及びコバルトと共に不純物元素を含む浸出液を得る固液分離工程S3と、浸出液のpHを調整し、不純物元素を含む中和澱物を分離してニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を得る中和工程S4と、中和終液に硫化剤を添加することで亜鉛硫化物を生成させ、その亜鉛硫化物を分離除去してニッケル及びコバルトを含むニッケル回収用母液を得る脱亜鉛工程S5と、ニッケル回収用母液に硫化剤を添加することでニッケル及びコバルトを含む混合硫化物を形成するニッケル回収工程S6とを有する。さらに、この湿式製錬方法では、固液分離工程S3にて分離された浸出残渣やニッケル回収工程S6にて排出された貧液を回収して無害化する最終中和工程S7を有する。
(1)浸出工程
(1−1)浸出処理について
浸出工程S1では、ニッケル酸化鉱石に対して、例えば高圧酸浸出法を用いた浸出処理を施す。具体的には、原料となるニッケル酸化鉱石を粉砕等して得られた鉱石スラリーに硫酸を添加し、220〜280℃の高い温度条件下で加圧することによって鉱石スラリーを攪拌し、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを形成する。
浸出工程S1で用いるニッケル酸化鉱としては、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱である。ラテライト鉱のニッケル含有量は、通常、0.8〜2.5重量%であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含有される。また、鉄の含有量は、10〜50重量%であり、主として3価の水酸化物(ゲーサイト)の形態であるが、一部2価の鉄がケイ苦土鉱物に含有される。また、浸出工程S1では、このようなラテライト鉱の他に、ニッケル、コバルト、マンガン、銅等の有価金属を含有する酸化鉱石、例えば深海底に賦存するマンガン瘤等が用いられる。
この浸出工程S1における浸出処理では、下記式(1)〜(3)で表される浸出反応と下記式(4)及び(5)で表される高温熱加水分解反応が生じ、ニッケル、コバルト等の硫酸塩としての浸出と、浸出された硫酸鉄のヘマタイトとしての固定化が行われる。ただし、鉄イオンの固定化は完全には進行しないため、通常、得られる浸出スラリーの液部分には、ニッケル、コバルト等の他に2価と3価の鉄イオンが含まれる。
・浸出反応
MO+H2SO4→MSO4+H2O ・・・(1)
(なお、式中Mは、Ni、Co、Fe、Zn、Cu、Mg、Cr、Mn等を表す。)
2Fe(OH)3+3H2SO4→Fe2(SO4)3+6H2O ・・・(2)
FeO+H2SO4→FeSO4+H2O ・・・(3)
・高温熱加水分解反応
2FeSO4+H2SO4+1/2O2→Fe2(SO4)3+H2O ・・・(4)
Fe2(SO4)3+3H2O→Fe2O3+3H2SO4 ・・・(5)
浸出工程S1における硫酸の添加量としては、特に限定されるものではなく、鉱石中の鉄が浸出されるような過剰量が用いられる。例えば、鉱石1トン当り300〜400kgとする。鉱石1トン当りの硫酸添加量が400kgを超えると、硫酸コストが大きくなり好ましくない。なお、浸出工程S1では、後工程の固液分離工程S3で生成されるヘマタイトを含む浸出残渣の濾過性の観点から、得られる浸出液のpHが0.1〜1.0となるように調整することが好ましい。
(1−2)浸出設備について
本実施の形態に係る湿式製錬プラント10では、浸出設備(高圧酸浸出設備)11にて、上述した浸出工程S1における浸出処理が実行される。
具体的に、この湿式製錬プラント10における浸出設備11は、図1に示すように、ニッケル酸化鉱石に対する浸出処理を施す浸出処理槽11(1〜n)を複数(n)系列(例えば図1に示すようにn=2系列)備えている。なお、以下、浸出処理槽については、系列数を特定しない場合は「浸出処理槽11(n)」と表記する。また、後述する第1段目の中和処理槽12A(1〜n)についても同様に「中和処理槽12A(n)」と表記する。
浸出設備11を構成する各系列の浸出処理槽11(n)としては、例えば高温加圧容器(オートクレーブ)が用いられる。浸出処理槽11(n)には、それぞれの装入部から、例えば鉱石処理工程から移送された鉱石スラリー、すなわち所定の粒径に鉱石が粉砕等されて得られた所定量の鉱石スラリーが装入される。
オートクレーブ等からなる浸出処理槽11(n)の大きさとしては、特に限定されないが、従来操業に用いられてきたものと同程度の大きさのものを用いることができる。例えば、浸出スラリーの生産量がニッケル量換算で1.0万トン/年〜2.0万トン/年のものを用いることができる。このように、従来用いられてきた浸出処理槽を複数系列備えた浸出設備とすることで、ニッケル酸化鉱石の処理量を増加させることができ、後工程を経て得られるニッケル・コバルト混合硫化物の生産量を増加させることができる。
ここで、詳しくは後述するが、浸出処理槽11(n)の装入部には、その浸出処理槽11(n)と予備中和設備12を構成する第1段目の中和処理槽12A(n)とをつなげる配管21(n)を接続させることができる。この配管21(n)は、浸出処理槽11(n)と第1段目の中和処理槽12A(n)とを同一系列同士で接続する配管である。この配管21(n)は、移送ポンプ31によって、第1の中和処理槽12A(n)から排出される浸出スラリーを同系列の浸出処理槽11(n)に循環(自己循環)移送させることを可能にする、いわゆる自己循環用配管である。なお、自己循環させる操業については、後で詳述する。
(2)予備中和工程
(2−1)予備中和処理について
予備中和工程S2では、浸出工程S1にて得られた浸出スラリーのpHを所定範囲に調整する。上述した高圧酸浸出法による浸出処理を行う浸出工程S1では、浸出率を向上させる観点から過剰の硫酸を加えるようにしている。そのため、得られた浸出スラリーにはフリー硫酸(浸出反応に関与しなかった余剰の硫酸)が含まれており、そのpHは非常に低い。このことから、予備中和工程S2では、次工程の固液分離工程S3における多段洗浄時に効率よく洗浄が行われるように、浸出スラリーのpHを所定の範囲に調整する。
具体的に、洗浄処理に供する浸出スラリーとしては、そのpHを2〜6程度に調整したものであることが好ましい。pHが2より低いと、後工程の設備を耐酸性とするためのコストが必要となる。一方で、pHが6より高いと、浸出液(スラリー)中に浸出したニッケルが、洗浄の過程で(沈殿して)残渣として残るようになって洗浄効率が低下する可能性がある。なお、実操業においては、上述したpH範囲のうち、浸出工程S1における浸出処理の操業状況や、固液分離工程S3において用いる洗浄水のpH(酸性雨だと5程度)等の条件により適切な設定値を選択すればよい。
pHの調整方法としては、特に限定されないが、例えば炭酸カルシウムスラリー等の中和剤を添加することによって所定の範囲に調整することができる。
(2−2)予備中和設備について
本実施の形態に係る湿式製錬プラント10では、予備中和設備12にて、上述した予備中和工程S2における予備中和処理が実行される。
具体的に、この湿式製錬プラント10における予備中和設備12は、図1に示すように、2段の中和処理槽12A,12Bを備えている。そして、2段の中和処理槽12A,12Bのうち、第1段目の中和処理槽12A(n)は、上述した浸出設備11に備えられた浸出処理槽11(n)の各系列に対応するように複数(n)系列備えられている。また、第2段目の中和処理槽12Bは、単一の系列からなり、第1段目の各中和処理槽12A(n)から排出された浸出スラリーが第2段目の中和処理槽12Bに合流するように構成されている。
例えば、浸出設備11が2系列の浸出処理槽(浸出処理槽11(1)、浸出処理槽11(2))を備える場合には、その各浸出処理槽11(1)、11(2)に対応するように、第1段目の中和処理槽12Aとして中和処理槽12A(1)及び中和処理槽12A(2)を備える。そして、第2段目の中和処理槽12Bは、単一の系列の処理槽からなっており、第1段目を構成する中和処理槽12A(1)及び中和処理槽12A(2)からそれぞれ排出された浸出スラリーが第2の中和処理槽12Bに合流するようになっている。
ここで、通常の操業においては、複数系列の中和処理槽によって浸出スラリーを予備中和して得られる予備中和後のスラリーは、例えばpH等の点でバラつきが生じ易く、それぞれの系列の中和処理槽から得られる浸出スラリーは不均一なものとなる。このような各系列間で不均一な性状の浸出スラリーを用いて、以降の工程における処理を行った場合、反応のバラつき等が生じて、効率的な操業ができなくなる。
そこで、本実施の形態では、上述のように、予備中和設備12において2段の中和処理槽12A,12Bを設け、この第1段目と第2段目の間で上工程と下工程とを分けるようにし、第1段目の中和処理槽12A(n)までを複数系列とし、第2段目の中和処理槽12Bにて各系列を統合させるようにする。このように構成することにより、第2段目の中和処理槽12Bにて浸出スラリーが合流するためバラつきが解消されるようになり、均一な浸出スラリーとして次工程の固液分離工程S3に移送させることができる。また、この第2段目の中和処理槽12Bを滞留槽(バッファー)として機能させることもできるので、浸出スラリーの流量を的確に調整して安定的に固液分離工程S3に移送させることができる。
さらに、浸出工程S1における浸出処理槽11(n)を複数系列とすることでニッケル酸化鉱石の処理量を増加させるようにし、その次の工程である予備中和工程S2にて複数系列を統合(合流)させることによって、浸出処理後の早い段階で合流させることができ、プラントを構成する設備の部品点数を削減することができる。このように、本実施の形態に係る湿式製錬プラント10では、部品点数を削減して設備コストを効果的に低減させながら、ニッケル酸化鉱石の処理量を効果的に増加させることができる。
この予備中和設備12における具体的な中和方法としては、各系列の浸出処理槽11(n)から得られたpHの低い浸出スラリーを、各系列に対応する第1段目の中和処理槽12A(n)に装入し、例えば炭酸カルシウムスラリー等の中和剤を添加することによって浸出スラリーを中和する。その後、第1段目を構成する各系列の中和処理槽12A(n)にて中和された浸出スラリーを第2段目の中和処理槽12Bに合流させて、予備中和後の浸出スラリーを得る。なお、第2段目の中和処理槽12Bにおいても、損出スラリーのpHの微調整を行うために中和剤を添加してもよい。これにより、より安定的に、pH調整された浸出スラリーを固液分離処理に供することができる。
ここで、予備中和設備12における第1段目の中和処理槽12A(n)には、その中和処理槽12A(n)と浸出設備11における浸出処理槽11(n)とをつなげる配管21(n)を接続させることができる。この配管21(n)は、第1段目の中和処理槽12A(n)と浸出処理槽11(n)の装入部とを同一系列同士で接続する配管である。この配管21(n)は、浸出スラリーを、移送ポンプ31によって、第1段目の中和処理槽12A(n)から同系列の浸出処理槽11(n)に循環(自己循環)移送させることを可能にする、いわゆる自己循環用配管である。なお、配管21(n)の配置構成や、自己循環させる操業については、後で詳述する。
また、予備中和設備12における第1段目の中和処理槽12A(n)には、その中和処理槽12A(n)と最終中和工程(無害化工程)S7における最終中和設備14とをつなげる配管22を接続させることができる。この配管22は、第1段目の中和処理槽12A(n)の各系列からそれぞれ単独で、若しくは、各系列から所定の箇所で統合されて、最終中和設備14の装入部に接続されており、その配管22に設けられた移送ポンプ31により、第1段目の中和処理槽12A(n)から排出される浸出スラリーを最終中和設備14に移送させることを可能にする。なお、配管22の配置構成や、第1段目の中和処理槽12A(n)から最終中和設備14に浸出スラリーを移送させる操業については、後で詳述する。
また、予備中和設備12における第1段目の中和処理槽12A(n)には、その中和処理槽12A(n)と固液分離工程S3における固液分離設備13に多段に設けられた各固液分離槽とをつなげる配管23を接続させることができる。この配管23は、第1段目の中和処理槽12A(n)の各系列からそれぞれ単独で、若しくは、各系列から所定の箇所で統合されて、多段に設けられた各固液分離槽の装入部に接続されており、その配管23に設けられた移送ポンプ31により、第1段目の中和処理槽12A(n)から排出される浸出スラリーを所定の固液分離槽に移送させることを可能にする。なお、配管23の配置構成や、第1段目の中和処理槽12A(n)から所定の固液分離槽に浸出スラリーを移送させる操業については、後で詳述する。
なお、図1においては、上述した配管21,22,23を一部で共用配管とし、また浸出スラリーを移送させるための移送ポンプも共通としている態様を示しているが、これに限定されるものではない。各配管21,22,23をそれぞれ個別に単独に設け、それぞれの配管21,22,23に移送ポンプを設置するようにしてもよい。
(3)固液分離工程
(3−1)固液分離処理について
固液分離工程S3では、予備中和工程S2にて得られたpH調整後の浸出スラリーを多段で洗浄しながら、ニッケル及びコバルトのほか不純物元素として亜鉛を含む浸出液(粗硫酸ニッケル水溶液)と浸出残渣とを分離する。
固液分離工程S3では、例えば、浸出スラリーを洗浄液と混合した後、凝集剤供給設備等から供給される凝集剤を用いて、シックナー等の固液分離設備により固液分離処理を施す。具体的には、先ず、浸出スラリーが洗浄液により希釈され、次に、スラリー中の浸出残渣がシックナーの沈降物として濃縮される。これにより、浸出残渣に付着するニッケル分をその希釈の度合いに応じて減少させることができる。
この固液分離工程S3では、シックナー等の固液分離槽を多段に連結させて用い、浸出スラリーを多段洗浄しながら固液分離をすることが好ましい。具体的に、多段洗浄方法としては、例えば、浸出スラリーに対して洗浄液を向流に接触させる連続向流洗浄法(CCD法:Counter Current Decantation)を用いることができる。これにより、系内に新たに導入する洗浄液を削減できるとともに、ニッケル及びコバルトの回収率を95%以上に向上させることができる。
洗浄液(洗浄水)としては、特に限定されないが、ニッケルを含まず、工程に影響を及ぼさないものを用いることが好ましい。その中でも、pHが1〜3の水溶液を用いることが好ましい。洗浄液のpHが高いと、浸出液中にアルミニウムが含まれる場合には嵩の高いアルミニウム水酸化物が生成され、浸出残渣の沈降不良の原因となる。このことから、洗浄液としては、好ましくは、後工程であるニッケル回収工程S6で得られる低pH(pHが1〜3程度)の貧液を繰り返して利用するとよい。
使用する凝集剤としては、特に限定されるものではなく、例えばアニオン系の凝集剤を用いることができる。
(3−2)固液分離設備について
本実施の形態に係る湿式製錬プラント10では、固液分離設備13にて、上述した固液分離工程S3における固液分離処理が実行される。
具体的に、この湿式製錬プラント10における固液分離設備13は、図1に示すように、例えば6段のシックナー(固液分離槽)(CCD1〜CCD6)を連結させて構成される。この固液分離設備13には、予備中和工程S2における予備中和後の(pH調整された)浸出スラリーが移送ポンプにより移送されて第1段目のシックナー(CCD1)に装入される。一方で、洗浄液(洗浄水)は、図示しない配管を介して、最終段の第6段目のシックナー(CCD6)に装入される。
この固液分離設備13では、CCD1に装入された浸出スラリーが、CCD1から順にCCD2、CCD3、・・・CCD6へと移送される過程で、CCD6に装入した洗浄液との向流接触と、浸出スラリー中の残渣の凝集とが繰り返し行われ、残渣に付着した浸出液が洗い流されていく。この操作により、最終段目のCCD6からは、ニッケル等の有価金属を含む、浸出液が殆ど無くなった残渣が排出される。具体的に、残渣に付着した水分中のニッケル濃度としては、ほぼ0g/Lであり、最大でも0.5g/L程度に洗浄された残渣が排出される。排出された残渣は、最終中和工程S7に移送されて無害化処理される。
一方で、最終段のCCD6に装入された洗浄液は、CCD6から順にCCD5、CCD4、・・・CCD1へと移送される過程で、浸出スラリー中の残渣に付着した水分を取り込んでいく。これにより、洗浄液中のニッケル等の有価金属の濃度が上昇していき、最終的にCCD1から浸出液として排出され、次工程の中和工程S4に移送される。具体的に、CCD6に装入された洗浄液中の有価金属の濃度としては、例えばニッケル濃度では、装入時点でほぼ0g/Lであったものが、CCD6からCCD5への移送過程で0.5g/L程度、CCD5からCCD4への移送過程で1g/L程度と順次上昇していき、最終的にCCD1から排出される浸出液としては、3g/L程度のニッケル濃度となる。
なお、上述の例では、シックナー等の固液分離槽を6段連結させて設けた例を示したが、連結段数としてはこれに限定されるものではなく、湿式製錬プラントにおける設置スペースや、製品規格、次工程以降の処理能力等を勘案して適宜設定することができる。また、回収する浸出液中の有価金属の所望とする濃度についても、同様にして適宜設定することが好ましい。また、固液分離設備13を構成する各シックナー(CCD)の液相におけるニッケル濃度も、上述した濃度に限定されるものではない。
ここで、上述したように、多段に設けたシックナー等の固液分離槽のそれぞれの装入部には、その各固液分離槽と予備中和設備12を構成する第1段目の中和処理槽12A(n)とをつなげる配管23を接続させることができる。この配管23は、第1段目の中和処理槽12A(n)の各系列からそれぞれ単独で、若しくは、各系列から所定の箇所で統合されて、多段に設けられた各固液分離槽の装入部に接続されており、その配管23に設けられた移送ポンプ31により、第1段目の中和処理槽12A(n)から排出される浸出スラリーを所定の固液分離槽に移送させることを可能にする。なお、配管23の配置構成や、第1段目の中和処理槽12A(n)から所定の固液分離槽に浸出スラリーを移送させる操業については、後で詳述する。
(4)中和工程
中和工程S4では、固液分離工程S3にて分離された浸出液(粗硫酸ニッケル水溶液)のpHを調整し、不純物元素を含む中和澱物を分離して、ニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を得る。
具体的に、中和工程S4では、分離された浸出液の酸化を抑制しながら、得られる中和終液のpHが4以下、好ましくは3.0〜3.5、より好ましくは3.1〜3.2になるように、その浸出液に炭酸カルシウム等の中和剤を添加して、中和終液と不純物元素として3価の鉄を含む中和澱物スラリーとを形成する。中和工程S4では、このようにして溶液中に残留する3価の鉄イオンやアルミニウムイオン等の不純物を中和澱物として除去し、ニッケル回収用母液の元となる中和終液と生成する。
中和工程S4における中和処理は、中和設備にて実行される。中和設備としては、例えば、中和反応を行う中和反応槽と、中和反応により得られた中和澱物と中和終液とを分離するシックナー等の分離処理槽とを備える。この中和設備は、単一の系列からなる。中和設備における中和反応槽では、上述した固液分離設備13におけるCCD1から排出された浸出液(粗硫酸ニッケル水溶液)が装入されるとともに、炭酸カルシウム等の中和剤が投入されて中和反応が生じる。また、分離処理槽では、中和反応後のスラリーが装入され、そのスラリーをニッケル回収用の母液となる中和終液と不純物元素として3価の鉄を含む中和澱物スラリーとに分離する。この分離処理槽においては、中和澱物スラリーが分離処理槽の底部から抜き出される。また、中和澱物が分離された中和終液はオーバーフローして貯留槽等に貯留された後、次工程の脱亜鉛工程S5に移送される。
(5)脱亜鉛工程
脱亜鉛工程S5では、中和工程S4から得られた中和終液に硫化水素ガス等の硫化剤を添加して硫化処理を施すことにより亜鉛硫化物を生成させ、その亜鉛硫化物を分離除去してニッケル及びコバルトを含むニッケル回収用母液(脱亜鉛終液)を得る。
具体的には、例えば、加圧された容器内にニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を導入し、気相中へ硫化水素ガス等を吹き込むことによって、亜鉛をニッケル及びコバルトに対して選択的に硫化し、亜鉛硫化物とニッケル回収用母液とを生成する。
脱亜鉛工程S5における脱亜鉛処理は、脱亜鉛設備にて実行される。脱亜鉛設備としては、例えば、中和終液に対し硫化水素ガス等を吹き込んで硫化反応を行う硫化反応槽と、硫化反応後液から亜鉛硫化物を分離除去するフィルター装置とを備える。この脱亜鉛設備は、単一の系列からなる。脱亜鉛設備における硫化反応槽では、上述した中和工程S4を経て移送された中和終液が装入されるとともに、硫化水素ガス等の硫化剤が吹き込まれて硫化反応が生じる。また、フィルター装置は、ろ布(フィルタークロス)等によって構成され、亜鉛硫化物を含んだ硫化反応後液から亜鉛硫化物を分離してニッケル回収用母液を生成する。得られたニッケル回収用母液は、次のニッケル回収工程S6に移送される。
(6)ニッケル回収工程
ニッケル回収工程S6では、脱亜鉛工程S5にて不純物元素である亜鉛を亜鉛硫化物として分離除去して得られたニッケル回収用母液に硫化水素ガス等の硫化剤を吹き込んで硫化反応を生じさせ、ニッケル及びコバルトを含む硫化物(ニッケル・コバルト混合硫化物)と貧液とを生成する。
ニッケル回収用母液は、ニッケル酸化鉱石の浸出液から中和工程S4や脱亜鉛工程S5を経て不純物成分が低減された硫酸溶液である。なお、このニッケル回収用母液には、不純物成分として鉄、マグネシウム、マンガン等が数g/L程度含まれている可能性があるが、これら不純物成分は、回収するニッケル及びコバルトに対して硫化物としての安定性が低く、生成する硫化物には含有されることはない。
ニッケル回収工程S6におけるニッケル回収処理は、ニッケル回収設備にて実行される。ニッケル回収設備は、例えば、ニッケル回収用母液に対し硫化水素ガス等を吹き込んで硫化反応を行う硫化反応槽と、硫化反応後液からニッケル・コバルト混合硫化物を分離回収する固液分離槽とを備える。このニッケル回収設備は、単一の系列からなる。ニッケル回収設備における硫化反応槽では、上述した脱亜鉛工程S5を経て移送されたニッケル回収用母液が装入されるとともに、硫化水素ガス等の硫化剤が吹き込まれて硫化反応が生じ、ニッケル・コバルト混合硫化物が生成する。また、固液分離槽は、例えばシックナー等によって構成され、ニッケル・コバルト混合硫化物を含んだ硫化反応後のスラリーに対して沈降分離処理を施すことで、沈殿物であるニッケル・コバルト混合硫化物をシックナーの底部より分離回収する。一方で、水溶液成分はオーバーフローさせて貧液として回収する。なお、回収した貧液は、ニッケル等の有価金属濃度の極めて低い溶液であり、硫化されずに残留した鉄、マグネシウム、マンガン等の不純物元素を含む。この貧液は、最終中和工程S7に移送されて無害化処理される。
(7)最終中和工程
(7−1)最終中和処理について
最終中和工程S7では、上述した固液分離工程S3における固液分離処理で多段に設けた固液分離槽の最終段(例えばCCD6)から排出された浸出残渣や、ニッケル回収工程S6にて回収された、鉄、マグネシウム、マンガン等の不純物元素を含む貧液等に対して、排出基準を満たす所定のpH範囲に調整する中和処理(無害化処理)が施される。
pHの調整方法としては、特に限定されないが、例えば炭酸カルシウムスラリー等の中和剤を添加することによって所定の範囲に調整することができる。
(7−2)最終中和設備について
本実施の形態に係る湿式製錬プラント10では、最終中和設備14にて、上述した最終中和工程S7における中和処理が実行される。
具体的に、この湿式製錬プラント10における最終中和設備14としては、例えば最終中和処理槽が単一の系列で設けられている。具体的に、最終中和設備14には、上述した固液分離工程S3から移送された浸出残渣と、ニッケル回収工程S6から移送された貧液とが装入される。そして、その反応槽内で、浸出残渣と貧液とが混合されながら、中和剤によって所定のpH範囲に調整され、廃棄スラリー(テーリング)となる。この反応槽にて生成されたテーリングは、テーリングダム(廃棄物貯留場)に移送される。
ここで、上述したように、最終中和設備14の装入部には、その最終中和設備14と予備中和設備12を構成する第1段目の中和処理槽12A(n)とをつなげる配管22を接続させることができる。この配管22は、第1段目の中和処理槽12A(n)の各系列からそれぞれ単独で、若しくは、各系列から所定の箇所で統合されて、最終中和設備14の装入部に接続されており、その配管22に設けられた移送ポンプ31により、第1段目の中和処理槽12A(n)から排出される浸出スラリーを最終中和設備14に移送させることを可能にする。なお、この配管22の配置構成や、第1段目の中和処理槽12A(n)から最終中和設備14に浸出スラリーを移送させる操業については、後で詳述する。
≪3.湿式製錬プラントの構成、並びに湿式製錬プラントの操業方法≫
<3−1.基本構成、並びに通常操業時の操業フロー>
<3−1−1.基本構成>
上述したように、本実施の形態に係る湿式製錬プラント10は、少なくとも、ニッケル酸化鉱石に対する浸出処理を施す浸出処理槽11(n)を複数(n)系列備える浸出設備11と、2段の中和処理槽12A,12Bを備え、浸出処理槽11(n)から排出された浸出スラリーのpHを所定範囲に調整する予備中和を行う予備中和設備12と、単一の系列からなり、pH調整されて予備中和設備12から排出された浸出スラリーを固液分離槽で固液分離する固液分離設備13とを具備するものである(図1)。
そして、図1に示したように、湿式製錬プラント10では、予備中和設備12において、第1段目の中和処理槽12A(n)が、浸出設備11に備えられた浸出処理槽11(n)の各系列に対応するように複数系列備えられ、その第1段目を構成する各系列の中和処理槽12A(n)にてpH調整された浸出スラリーが単一の系列からなる第2段目の中和処理槽12Bに合流するように構成されており、その第2段目の中和処理槽に合流した浸出液が固液分離設備に移送されるようになっている。
このようにして構成された湿式製錬プラント10によれば、従来操業実績のあるサイズの浸出処理設備(例えば、浸出液生産量としてニッケル換算で1〜2万トン/年)を複数系列用いることにより、ニッケル酸化鉱石の処理量を増加させることができる。また、それ以降の工程、すなわち予備中和工程より以降の工程からは1系列に統合させるようにしているので、プラント全体として部品点数を減少させることができ、設備コストを低減させることができる。
また、この湿式製錬プラント10によれば、複数系列の処理設備(浸出処理槽11(n)、第1段目の中和処理槽12A(n))から得られる各浸出スラリーにpH等の性状のバラつきが生じた場合でも、その各系列から排出された浸出スラリーを第2段目の中和処理槽12Bにて合流させるようにしているので、そのバラつきを解消することができ、均一な浸出スラリーとして固液分離処理を施すことができる。
また、この湿式製錬プラント10によれば、詳しくは後述するが、第1段目の中和処理槽12A(n)と他の工程における処理設備における反応槽とを接続させる配管21,22,23を適宜設けるようにすることができる。これにより、例えばプラント操業開始直後等の浸出処理が十分に進行していない段階の浸出スラリーが、固液分離工程S3やそれよりも後の工程に移送されることを防止することができ、各工程における反応不良や操業効率の低下等の発生を効果的に抑制することができる。
<3−1−2.通常操業時の操業フロー>
ここで、上述した湿式製錬プラント10の通常操業時の操業方法について説明する。図3に通常操業時の操業の流れを説明するための図を示す。なお、ここでは、複数系列備える処理設備においては、図1及び図3に示すように、「第1系列(1)」と「第2系列(2)」の2系列(n=2)備える場合を例に挙げて説明する。
図3において黒塗り矢印で示すように、この湿式製錬プラント10では、例えば鉱石処理工程等において所定の大きさに粉砕等されたニッケル酸化鉱石のスラリー(鉱石スラリー)を、浸出処理設備11に備えられた第1系列の浸出処理槽11(1)と第2系列の浸出処理槽11(2)とに装入して、各系列の浸出処理槽11(1),11(2)において鉱石スラリーに対する浸出処理を施す。
次に、浸出処理槽11(1),11(2)における浸出処理により得られた浸出スラリーを、予備中和設備12に移送する。具体的には、浸出処理槽11(1),11(2)から排出された浸出スラリーを、その浸出処理槽11(1),11(2)の各系列に対応する第1段目の中和処理槽12A(1),12A(2)にそれぞれ装入する。そして、各系列の中和処理槽12A(1),12A(2)では、装入された浸出スラリーに対して中和剤を添加して、そのpHを所定のpH範囲に調整する。
次に、第1段目の中和処理槽12A(1),12A(2)にてpH調整された浸出スラリーを、第2段目の中和処理槽12Bに移送して装入する。すなわち、第1系列、第2系列の中和処理槽12A(1),12A(2)のそれぞれにおいてpH調整された浸出スラリーを、単一の系列からなる第2段目の中和処理槽12Bに合流させる。このように、第2段目の中和処理槽12Bにおいて、各系列からの浸出スラリーを合流させることで、pH等の性状のバラつきを解消することができ、均一な浸出スラリーを後工程に移送することができる。なお、この第2段目の中和処理槽12Bにおいても、合流させた浸出スラリーに対して中和剤を添加して、そのpHを微調整するようにしてもよい。
この第2段目の中和処理槽12Bへの浸出スラリーの移送に際しては、第1段目の中和処理槽12A(1),12A(2)のそれぞれと第2段目の中和処理槽12Bとを接続する配管24(1),24(2)を介して、浸出スラリーをオーバーフローさせることにより移送する。
続いて、第2段目の中和処理槽12Bから浸出スラリーを排出させて、その浸出スラリーを固液分離設備13に移送する。固液分離設備13は、例えば図3に示すように、6段のシックナー(CCD1〜CCD6)を連結させた設備とすることができ、移送された浸出スラリーを第1段目のシックナー(CCD1)に装入する。固液分離設備13への浸出スラリーの移送に際しては、第2段目の中和処理槽12Bの排出部と第1段目のシックナー(CCD1)に装入部とを接続する配管25を介して、その配管25に設けられた移送ポンプ32を用いて移送させる。
その後、固液分離設備13においては、装入された浸出スラリーがCCD1から順にCCD6の方へと移送される過程で、最終段目のCCD6に装入された洗浄液と向流で接触するとともに、スラリー中の残渣が凝集していく。そして最終的に、ニッケル等の有価金属濃度の高い浸出液(粗硫酸ニッケル水溶液)がCCD1から排出される。一方で、ニッケル等の有価金属濃度の低い浸出残渣は、最終段目のCCD6から排出されて、最終中和設備14に移送され、無害化処理される。
<3−2.自己循環用の構成、並びに自己循環時の操業フロー>
<3−2−1.自己循環用の構成>
ところで、定期点検後や2系列のうちの一方又は両方の停止後における湿式製錬プラント10の立ち上げ時(操業開始時、スタートアップ時)では、浸出設備11での浸出処理が通常(定常)操業時のレベルまで到達するのに所定の時間を要する。具体的には、浸出設備11では、高温高圧下で浸出処理が行われるため、所定の温度まで昇温させることが必要となる。そのため、操業開始直後等の初期段階においては、鉱石スラリーから有価金属を浸出させる処理がほとんど始まっておらず、浸出設備11を構成する浸出処理槽11(1),11(2)から、浸出処理が不十分な状態の浸出スラリーが排出されることになる。
このような浸出スラリーを、そのまま予備中和工程S2や固液分離工程S3が実行される処理設備に移送すると、得られる浸出液中の有価金属濃度が著しく低下し、ニッケル回収工程S6等における硫化反応の反応不良や操業効率の低下を齎す。このような有価金属濃度低下は、特に、浸出処理槽11(1),11(2)における浸出処理開始後の初期段階に排出される浸出スラリーや、一方の系列が正常に運転している状況下で他方の系列をスタートアップさせる場合に浸出設備11から排出される昇温用の排水等が原因となる。
そこで、本実施の形態に係る湿式製錬プラント10においては、図4に示すように、予備中和設備12における第1段目の中和処理槽12A(1),12A(2)と、浸出設備11における浸出処理槽11(1),11(2)とをつなげる配管21(1),21(2)を接続させる。この配管21(1),21(2)は、第1段目の中和処理槽12A(1),12A(2)と浸出処理槽11(1),11(2)の装入部とを同一系列同士で接続する配管である。すなわち、例えば、第2系列の浸出処理槽11(2)と第2系列の中和処理槽12A(2)とを接続する配管21(2)である。
この配管21(1),21(2)は、上述したような操業開始後の立ち上げ時において、浸出処理槽11(1),11(2)を昇温等するための工程液(昇温液)や浸出処理槽11(1),11(2)から排出された低ニッケル濃度の浸出スラリーを、浸出処理槽11(1),11(2)と中和処理槽12A(1),12A(2)との間で循環させることが可能となっている。このように、配管21(1),21(2)は、第1段目の中和処理槽12A(1),12A(2)から排出される浸出スラリーや工程液を同系列の浸出処理槽11(1),11(2)に自己循環させることが可能な自己循環用配管となっている。
この配管21(1),21(2)は、図4に示すように、第1段目の中和処理槽12A(1),12A(2)のそれぞれから延びた後に、所定の箇所(図1及び図4では移送ポンプ31の設置箇所)で合流し、再度分岐して、それぞれの浸出処理槽11(1),11(2)に接続させるようにしてもよく、または系列毎にそれぞれ完全に別個の配管としてもよい。また、この配管21(1),21(2)には、移送ポンプ31が設けられており、中和処理槽12A(1),12A(2)から排出される浸出スラリーを、その移送ポンプ31によって浸出処理槽11(1),11(2)に移送する。
また、この配管21(1),21(2)の内部には、例えば中和処理槽12A(1),12A(2)と上述の移送ポンプ31との間に、浸出スラリーの移送を制御するON/OFFバルブ42(1),42(2)が設けられている。そして、後で詳述するが、第1段目の中和処理槽12A(1),12A(2)から浸出処理槽11(1),11(2)に浸出スラリーを自己循環させる際には、そのON/OFFバルブ42(1),42(2)をON状態(「開」状態)として、排出された浸出スラリーを移送可能とする。なお、上述した通常操業時においては、この自己循環用の配管21(1),21(2)に設けられたON/OFFバルブ42(1),42(2)はOFF状態(「閉」状態)となっている。
<3−2−2.自己循環時の操業フロー>
次に、湿式製錬プラント10において、上述した自己循環用の配管21(1),21(2)を用いた自己循環時の操業方法について、図4の自己循環時の操業の流れを示す図を用いて説明する。なお、図4に示すように、第1系列と第2系列の複数系列のうちの第2系列の処理設備において、自己循環操業を行う場合を例に挙げて説明する。以下、同様にして、第2系列の処理設備を立ち上げた後の操業を例に挙げて説明する。
例えば、第2系列の処理設備のみを立ち上げた段階、すなわち操業開始直後等の初期段階においては、浸出設備11における浸出処理槽11(2)にて鉱石スラリーに対する浸出処理を施したとしても、例えば浸出処理槽11(2)の昇温が不十分なために、得られる浸出スラリーは浸出状態が不十分なものとなっている。また、この操業開始直後においては、浸出処理設備11(2)を昇温させるために温水等の工程液(昇温液)を装入して昇温処理が施される。
そこで、このような段階においては、図4の白抜き矢印で示す流れのように、先ず、浸出処理槽11(2)から浸出スラリー又は工程液を排出させ、同系列の第1段目の中和処理槽12A(2)に移送させる。その後、その中和処理槽12A(2)と浸出処理槽11(2)とを接続する配管21(2)を介し、第1段目の中和処理槽12A(2)から浸出処理槽11(2)に対して浸出スラリー又は工程液を自己循環させる。
具体的に、浸出スラリー又は工程液の自己循環に際しては、第1段目の中和処理槽12A(2)と浸出処理槽11(2)とを接続する自己循環用の配管21(2)に設けられたON/OFFバルブ42(2)をON状態(「開」状態)とする。そして、その自己循環用の配管21(2)に設けられた移送ポンプ31により、中和処理槽12A(2)から浸出処理槽11(2)へ浸出スラリー又は工程液を循環させる。
この自己循環操業は、例えば浸出処理槽11(2)が十分に昇温されるまで行う。なお、この自己循環時には、浸出処理槽11(2)への鉱石スラリーの供給や硫酸の供給は停止されている。そのため、浸出スラリーを循環させる場合には、その浸出スラリーの有価金属濃度はニッケル換算で実質的にほぼ0g/Lである。
以上のように、本実施の形態に係る湿式製錬プラント10では、第1段目の中和処理槽12A(1),12A(2)と浸出処理槽11(1),11(2)とをつなげる配管21(1),21(2)を設けることで、操業開始直後等の初期段階における浸出スラリー又は昇温用の工程液の自己循環を可能にしている。これにより、ニッケルを殆ど含まない浸出スラリーや工程液が後工程の固液分離工程S3等に移送されることを防止することができる。
<3−3.最終中和設備への移送構成、並びに最終中和設備への移送時の操業フロー>
<3−3−1.最終中和設備への移送構成>
また、操業開始後の立ち上げ操作で、例えば浸出処理槽11(2)の昇温が終了し、鉱石スラリーや硫酸の供給が開始された状況においても、その浸出処理槽11(2)では未だ十分な浸出処理が行われず、所望とするニッケル濃度の浸出スラリーが排出されない。そのような浸出開始直後の殆どニッケル等が浸出していない浸出スラリーは、やはり次工程に移送することはできない。
そこで、本実施の形態に係る湿式製錬プラント10においては、図5に示すように、予備中和設備12における第1段目の中和処理槽12A(1),12A(2)と、浸出設備11における浸出処理槽11(1),11(2)と最終中和設備14とをつなげる配管22を接続させる。この配管22は、第1段目の中和処理槽12A(1),12A(2)の各系列からそれぞれ単独で、若しくは、各系列から所定の箇所で統合されて、最終中和設備14の装入部に接続されている。
この配管22には、移送ポンプ31が設けられており、第1段目の中和処理槽12A(1),12A(2)から排出される浸出スラリーを、その移送ポンプ31によって最終中和設備14に移送する。
また、この配管22の内部には、例えば中和処理槽12A(1),12A(2)と上述の移送ポンプとの間に、浸出スラリーの移送を制御するON/OFFバルブ42(1),42(2)が設けられている。そして、後で詳述するが、第1段目の中和処理槽12A(1),12A(2)から最終中和設備14に浸出スラリーを移送させる際には、そのON/OFFバルブ42(1),42(2)をON状態(「開」状態)として、排出された浸出スラリーを移送可能とする。なお、上述した通常操業時においては、この最終中和設備14に移送するための配管に設けられたON/OFFバルブ42(1),42(2)はOFF状態(「閉」状態)となっている。
<3−3−2.最終中和設備への移送時の操業フロー>
次に、湿式製錬プラント10において、上述した配管22を用いた、最終中和設備14への移送時の操業方法について、図5の操業の流れを示す図を用いて説明する。なお、図5に示すように、第1系列と第2系列の複数系列のうちの第2系列の処理設備において、浸出スラリーを最終中和設備14へ移送する操業を例に挙げて説明する。
例えば、第2系列の処理設備のみの立ち上げ操作を行った後、浸出処理槽11(2)の昇温が終了した段階では、その浸出処理槽11(2)にて少しずつ浸出処理が進行しているものの、未だ不十分な状態であるため、排出される浸出スラリー中のニッケル濃度は低いものとなっている。
そこで、このような段階においては、図5の白抜き矢印で示す流れのように、先ず、浸出処理槽11(2)から浸出スラリーを排出させ、同系列の第1段目の中和処理槽12A(2)に移送させる。その後、その中和処理槽12A(2)と最終中和設備14とを接続する配管22を介し、中和処理槽12A(2)から最終中和設備14へ浸出スラリーを移送させる。
具体的に、浸出スラリーを最終中和設備14に移送させるに際しては、上述した自己循環用の配管(第1段目の中和処理槽12A(2)と浸出処理槽11(2)とを接続する配管)21(2)に設けられたON/OFFバルブ43をOFF状態(「閉」状態)とする。次に、第1段目の中和処理槽12A(2)と最終中和設備14とを接続する配管22に設けられたON/OFFバルブ42(2)をON状態(「開」状態)とする。そして、その配管22に設けられた移送ポンプ31により、中和処理槽12A(2)から最終中和設備14へ浸出スラリーを移送させる。
この最終中和設備14への浸出スラリーの移送操業は、例えば、浸出処理槽11(2)から排出される浸出スラリーのニッケル濃度が、固液分離設備13において多段に設けたシックナーのうちの最終段目のシックナー(CCD6)における液相のニッケル濃度よりも低い場合に行うようにする。なお、この段階、すなわち最終中和設備14への移送操業を行う段階における浸出スラリーの有価金属濃度としては、例えばニッケル換算で0〜5g/L程度である。
以上のように、本実施の形態に係る湿式製錬プラント10では、第1段目の中和処理槽12A(1),12A(2)と最終中和設備14とをつなげる配管22を設けることで、操業開始の十分に浸出処理が進行していない段階で排出された浸出スラリーを、最終中和設備14に移送させることを可能にしている。これにより、ニッケル濃度の低い浸出スラリーを後工程における固液分離工程S3等に移送されることを防止することができる。
<3−4.固液分離槽への移送構成、並びに固液分離槽への移送時の操業フロー>
<3−4−1.固液分離槽への移送構成>
さらに、操業開始後から徐々に浸出処理が進行し、浸出処理槽11(2)から排出される浸出スラリーのニッケル濃度が固液分離設備の最終段目のシックナー(CCD6)における浸出液のニッケル濃度より高くなった場合でも、未だニッケル濃度が十分ではない場合には、次工程に移送することができない。すなわち、第2段目の中和処理槽12Bに移送すべき浸出スラリーの所望とするニッケル濃度よりも低い場合には、次工程に移送することができない。
そこで、本実施の形態に係る湿式製錬プラント10においては、図6に示すように、予備中和設備12における第1段目の中和処理槽12A(1),12A(2)と、固液分離設備13において多段に設けた各固液分離槽(シックナー)とをつなげる配管23を接続させる。この配管23は、第1段目の中和処理槽12A(1),12A(2)の各系列からそれぞれ単独で、または、各系列から所定の箇所で統合されて、各固液分離槽の装入部に接続されている。より具体的には、この配管23は、第1段目の中和処理槽12A(1),12A(2)から固液分離設備13の方向へ延び、固液分離設備13を構成する多段に連結されたそれぞれの固液分離槽(CCD1、CCD2、・・・CCD6)に連結されるように分岐している。
この配管23には、移送ポンプ31が設けられており、第1段目の中和処理槽12A(1),12A(2)から排出される浸出スラリーを、その移送ポンプ31によって固液分離設備13における所定の固液分離槽に移送する。
また、この配管23の内部には、例えば中和処理槽12A(1),12A(2)と上述の移送ポンプ31との間に、浸出スラリーの移送を制御するON/OFFバルブ42(1),42(2)が設けられている。そして、後で詳述するが、中和処理槽12A(1),12A(2)から固液分離設備13における所定の固液分離槽に浸出スラリーを移送させる際には、そのON/OFFバルブ42(1),42(2)をON状態(「開」状態)として、排出された浸出スラリーを移送可能とする。なお、上述した通常操業時においては、所定の固液分離槽に移送するための配管23に設けられたON/OFFバルブ42(1),42(2)はOFF状態(「閉」状態)となっている。
さらに、この配管23には、多段に連結されたそれぞれ固液分離槽へ向かう各分岐点において、浸出スラリーの移送を制御するON/OFFバルブ44が設けられている。これにより、移送する浸出スラリー中のニッケル濃度に応じて、適切な移送先である固液分離槽に移送制御することが可能となっている。なお、移送先を制御する方法としては、所定の分岐点に移送先を切り替える切替バルブを設けて、その切替バルブの切替制御によって行うようにしてもよい。
<3−4−2.固液分離槽への移送時の操業フロー>
次に、湿式製錬プラント10において、上述した配管23を用いた、固液分離設備13を構成する固液分離槽への移送時の操業方法について、図6の操業の流れを示す図を用いて説明する。なお、図6に示すように、第1系列と第2系列の複数系列のうちの第2系列の処理設備において、浸出スラリーを固液分離設備13における第2段目の固液分離槽(CCD2)へ移送する操業を例に挙げて説明する。
例えば、第2系列の処理設備の立ち上げ操作を行った後に浸出処理が徐々に進行している状況においても、通常操業のレベルほどに浸出処理が十分ではない場合には、浸出処理槽11(2)から排出される浸出スラリーのニッケル濃度が低いため、次工程に移送することができない。具体的には、例えば、浸出処理が進行して浸出スラリー中の有価金属濃度がニッケル換算で5g/Lを超えるようなときでも、第2段目の中和処理槽12Bに移送すべき浸出スラリーの所望とするニッケル濃度よりも低い場合には、次工程に移送することができない。
そこで、このような段階においては、図6の白抜き矢印で示す流れのように、先ず、浸出処理槽11(2)から浸出スラリーを排出させ、同系列の第1段目の中和処理槽12A(2)に移送させる。その後、その中和処理槽12A(2)と固液分離設備13とを接続する配管23を介し、中和処理槽12A(2)から固液分離設備13へ浸出スラリーを移送させる。
このとき、浸出スラリー中の有価金属濃度に応じて、その濃度に見合った固液分離槽に送るようにする。例えば、浸出スラリー中の有価金属濃度がニッケル換算で2.5g/Lであった場合には、通常操業(定常)時における液相のニッケル換算濃度が約2.5g/Lである第2段目の固液分離槽(CCD2)に移送させるようにする。このように、その浸出スラリー中の有価金属濃度に応じて移送先を適切に制御することにより、通常操業中の第1系列に影響を与えることを防止することができ、効率的な操業を可能にする。
具体的に、浸出スラリーを固液分離設備13におけるCCD2に移送させるに際しては、上述した自己循環用の配管(第1段目の中和処理槽12A(2)と浸出処理槽11(2)とを接続する配管)21(2)に設けられたON/OFFバルブ43をOFF状態(「閉」状態)とする。さらに、上述した最終中和設備14へ浸出スラリーを移送するため配管(第1段目の中和処理槽12A(2)と最終中和設備14とを接続する配管)22に設けられたON/OFFバルブ45をOFF状態(「閉」状態)とする。
次に、第1段目の中和処理槽12A(2)と固液分離設備13とを接続する配管23に設けられたON/OFFバルブ42(2)をON状態(「開」状態)とする。そして、その配管23に設けられた移送ポンプ31により、第1段目の中和処理槽12A(2)から固液分離設備13へ浸出スラリーを移送させる。このとき、固液分離設備13における各固液分離槽へ分岐させる各分岐点に設けられたON/OFFバルブ44を制御して、CCD2に浸出スラリーが移送されるようにする。具体的には、CCD2への分岐点におけるON/OFFバルブ44をON状態(「開」状態)とし、それ以外のCCD1、CCD3〜CCD6への分岐点のON/OFFバルブ44をOFF状態(「閉」状態)とする。
以上のように、本実施の形態に係る湿式製錬プラント10では、第1段目の中和処理槽12A(1),12A(2)と固液分離設備13とをつなげる配管23を設けることで、操業開始後の未だ浸出処理が十分ではなくニッケル濃度の低い浸出スラリーを、所定の固液分離槽に移送させることを可能にしている。これにより、ニッケル濃度の低い浸出スラリーが、通常操業を継続している系列から排出された浸出スラリーと混じって移送されることを防止し、後工程における反応不良や操業効率の低下を防止することができる。
<3−5.非通常時操業から通常操業への移行>
そして、操業開始から所定の時間が経過し、浸出処理槽11(2)から排出される浸出スラリー中の有価金属濃度や送液流量等の操業条件が通常操業時のレベルに復帰したときには、上述したそれぞれの非通常時操業のルートを閉じて、通常操業時のルートにて通常操業を行うようにする。
すなわち、浸出処理槽11(2)から排出された浸出スラリーを第1段目の中和処理槽12A(2)に移送した後、第1段目の中和処理槽12A(2)と第2段目の中和処理槽12Bとをつなぐ配管24(2)を通じて、浸出スラリーを第2段目の中和処理槽12Bにオーバーフローさせる。そして、第2段目の中和処理槽12Bから、固液分離設備13におけるCCD1に浸出スラリーを移送して固液分離処理を施すようにする。
<3−6.まとめ>
以上のように、本実施の形態に係る湿式製錬プラント10によれば、設備コストを低減させながら、ニッケル酸化鉱石の処理量を増加させてニッケル・コバルト混合硫化物の生産量を向上させることができる。また、複数系列の処理設備から得られる各浸出スラリーにpH等の性状のバラつきが生じた場合でも、その各系列から排出された浸出スラリーを第2段目の中和処理槽12Bにて合流させるようにしているので、そのバラつきを解消することができ、均一な浸出スラリーとして固液分離処理を施すことができる。
また、この湿式製錬プラント10では、上述したような配管21,22,23を備えることによって、処理設備の立ち上げ時等の非通常時において、ニッケル濃度の低い浸出スラリーが後工程に移送させることを防止することができる。これにより、後工程における反応不良や操業効率の低下を抑制することができる。
そして、この湿式製錬プラント10では、上述した配管21,22,23を、2段の中和処理槽で構成した予備中和設備12のうちの第1段目の中和処理槽12A(1),12A(2)から接続させるようにしている。このことから、通常操業を継続している一方の系列における操業に影響を与えることがない。つまり、図4〜6の例で示したように、立ち上げ操業中の第2系列においては、浸出スラリーを自己循環、または最終中和設備14や固液分離設備13に移送させている一方で、第1系列においては、黒塗り矢印で示す流れのように、通常通りの操業を行うことが可能となっている。このように、湿式製錬プラント10では、2段の中和処理槽を設けるようにし、第1段目の中和処理槽のみを複数系列とすることによって、一方の系列に影響を与えることなく、操業開始時の立ち上げ操作(非通常時操業)を行うことができる。
なお、一方の系列(例えば第2系列)において非通常時の操業を行った場合には、両系列共に通常操業を行った場合に比べて、第2段目の中和処理槽12Bに移送される浸出スラリーの液量が少なくなる。そのため、その液量に見合う程度に、通常操業時用のポンプの能力や後工程における処理能力を低下させて、操業を継続することになる。しかしながら、上述したように、他方の系列(例えば第1系列)において、運転を停止させることなく通常操業が可能となっているため、製品の品質等には何ら影響は出ない。
また、図1、図3〜6では、非通常時操業にて使用する配管21,22,23の一部を共用配管とした構成を示している。また、浸出スラリーをそれら配管21,22,23を介して移送するための移送ポンプ31も共通としている。しかしながら、これに限られるものではなく、それぞれの配管21,22,23を完全に個別に設けるようにしてもよく、それぞれに移送ポンプを設けるようにしてもよいことは言うまでもない。また、この湿式製錬プラント10においては、移送経路等を考慮して適宜配管の設置方法を決定すればよい。なお、配管において、共用可能な部分については共用とすることによって設備点数やコストを削減することができ、好ましい。
また、図1、図3〜6では、非通常時操業にて使用する配管21,22,23のすべてを備えた態様を示しているが、何れか1つ又は2つの配管を備えるものであってもよい。
≪4.実施例≫
次に、本発明を適用した実施例を説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
<湿式製錬プラントの操業>
(操業例1)
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プラントにおいて、図1に示すように各処理設備を構成させ、30日間の湿式製錬操業を実施した。
すなわち、2系列の浸出処理槽11(1),11(2)を有する浸出設備11と、2段の中和処理槽を備え、第1段目の中和処理槽12A(1),12A(2)を浸出処理槽と対応するように2系列とし、第2段目の中和処理槽12Bを単一の系列とした予備中和設備12とを具備する湿式製錬プラント10により操業を行った。なお、固液分離設備13では、図1に示すように、シックナーを6段連結(CCD1〜CCD6)させて多段洗浄を行うようにした。
その結果、30日の期間に、高圧酸浸出を行った浸出設備での浸出不良等は発生せず、2系列のいずれの系においても、操業が停止することはなかった。また、この操業にて得られたニッケル・コバルト混合硫化物の生産量は、ニッケル換算量で2500トンであり、その製品品質にも何ら問題はなかった。
なお、固液分離設備13における各段のCCDの液相における有価金属の設定値は、ニッケル換算濃度で、CCD1:3g/L、CCD2:2.5g/L、CCD3:2g/L、CCD4:1.5g/L、CCD5:1g/L、CCD6:0.5g/L以下となるようにした。
(操業例2)
操業例1において使用した湿式製錬プラント10と同様のプラントを用いて、30日間の湿式製錬操業を実施した。なお、固液分離設備13における各段のCCDの液相における有価金属の設定値は、操業例1と同様となるようにした。
この操業例2の操業では、その操業期間中に、第1系列又は第2系列における浸出処理槽11(1),11(2)での設備トラブルによる停止が5回発生した。そのため、設備トラブルが生じた系列の停止と立ち上げ操業を5回実施した。このとき、立ち上げ操業に際しては、図4〜図6に示したように、浸出処理槽11(1),11(2)から排出される浸出スラリーのニッケル濃度に応じて、非通常時の操業を行うようにした。なお、そのような立ち上げ操業において、停止から復帰までの平均所要時間は1日であった。
30日間の操業の結果、得られたニッケル・コバルト混合硫化物の生産量は、2075トン(操業例1の約83%)であり、製品品質にも何ら問題はなかった。
(操業例3)
操業例1において使用した湿式製錬プラント10と同様のプラントを用いて、30日間の湿式製錬操業を実施した。なお、固液分離設備13における各段のCCDの液相における有価金属の設定値は、操業例1と同様となるようにした。
この操業例3においても、操業例2と同様に、その操業期間中に、第1系列又は第2系列における浸出処理槽11(1),11(2)での浸出不良が5回発生した。そのため、浸出不良が生じた系列の停止と立ち上げ操業を5回実施した。このとき、操業例3においては、湿式製錬プラント10全体を停止させた。なお、そのような立ち上げ操業において、停止から復帰までの平均時間は2日であった。
30日間の操業の結果、得られたニッケル・コバルト混合硫化物の製品品質には問題はなかったものの、その生産量が、1300トン(操業例1の約52%)と非常に少なくなり十分な量を生産できなかった。
理論上の単純計算では、操業例1の67%程度の生産量を見込めたものの、1300トンとなってしまった理由としては、浸出不良が生じた際に、湿式製錬プラント10全体を停止させるようにしたことに依ると考えられる。すなわち、プラント全体を停止させたために、例えば脱亜鉛工程S5やニッケル回収工程S6等における操業の停止及び再立ち上げを行う必要が生じ、またプラントにおける各処理設備の操業開始のタイミングを合わせたために、余分な停止時間が必要となってしまったと考えられる。
(操業例4)
操業例1において使用した湿式製錬プラント10と同様のプラントを用いて、30日間の湿式製錬操業を実施した。
この操業例4においても、操業例2と同様に、その操業期間中に、第1系列又は第2系列における浸出処理槽11(1),11(2)での浸出不良が5回発生した。そのため、浸出不良が生じた系列の停止と立ち上げ操業を5回実施した。このとき、操業例4においては、立ち上げ中の浸出処理槽11(1),11(2)から排出された浸出スラリー、すなわち浸出処理が十分ではなくニッケル濃度の低い浸出スラリーを、そのまま第1段目の中和処理槽12A(1),12A(2)を経由して第2段目の中和処理槽12Bに移送させた。なお、そのような立ち上げ操業において、停止から復帰までの平均時間は2日であった。
30日間の操業の結果、得られたニッケル・コバルト混合硫化物の生産量は、2250トン(操業例1の約90%)であったものの、その製品品質が悪化してしまった。具体的には、ニッケル・コバルト混合硫化物中の有価金属比率が低下し、またバラついて、製品として出荷できない不良品となってしまい、廃棄処分をせざるを得なかった。
このことは、立ち上げ操業(非通常時操業)においても、浸出処理が不十分な段階で得られた浸出スラリーをそのまま後工程に移送させるようにしたことに依ると考えられる。すなわち、ニッケル濃度の低い浸出スラリーが後工程に移送されて固液分離され、得られた低ニッケル濃度の浸出液によってニッケル回収工程S6における硫化処理が行われたため、その硫化反応に反応不良が生じ、その結果として製品品質が悪化したものと考えられる。
なお、固液分離設備13における各段のCCDの液相における有価金属の設定値は、操業例1と同様となるようにしたものの、度々、濃度の低い浸出スラリーを受け入れたために、固液分離槽(CCD)における濃度の振れ幅が大きくなり、安定した操業を実施することができなかった。
<オーバーフロー液中のニッケル濃度の推移について>
次に、片系列(第1系列又は第2系列)の浸出工程S1における浸出処理槽11(1),11(2)が設備トラブルによって停止し、その後の立ち上げ操業を実施したケースにおいて、下記の操業例5、操業例6での第1段目の固液分離槽(CCD1)におけるオーバーフロー液中のニッケル濃度の推移を調べた。
(操業例5)
操業例5では、上述の操業例2と同様に、停止した系列のみ、系内の昇温時には浸出処理槽に循環し、その後、酸浸出を開始して、ニッケル濃度が規定の濃度に達するまでは、ニッケル濃度に従って最終中和設備14(最終中和工程S7)、又は適正なニッケル濃度の固液分離槽に送液する操業を行った(図4〜図6)。
下記表1に、上述したように操業した場合の第1段目の固液分離槽(CCD1)からのオーバーフロー液中のニッケル濃度(g/L)の推移を示す。表1に示されるように、この操業例5では、操業開始から極めて安定的に同程度のニッケル濃度となっていることが分かる。そして、このオーバーフロー液を処理対象とした後工程の硫化工程における硫化反応では、反応不良等を生じさせることなく安定的に反応が生じた。
(操業例6)
操業例6では、上述の操業例4と同様に、停止した系列の昇温時の液、及び酸浸出開始直後のニッケル濃度が規定の濃度に達していない浸出液すべてを、通常操業を継続する系列と同様に、第2段目の予備中和槽12Bに移送させた。
下記表1に、上述のように操業した場合の第1段目の固液分離槽(CCD1)からのオーバーフロー液中のニッケル濃度(g/L)の推移を示す。表1に示されるように、ニッケル濃度は、操業開始から約半日間に亘って極端に低下したことが分かる。これにより、後工程の硫化工程においては、その極端なニッケル濃度の低下に起因して、硫化反応の調整が非常に困難となり、硫化反応不良及び硫化反応過剰を引き起こすこととなった。