以下、本発明に係る中和処理方法及び中和処理プラントについて説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.本発明の概要
2.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法について
3.湿式製錬方法の各工程について
3−1.浸出工程
3−2.固液分離工程
3−3.中和工程
3−3−1.中和処理プラント
3−3−2.中和処理方法
3−3−3.中和終液の流量制御
3−4.脱亜鉛工程
3−4−1.脱亜鉛処理プラント
3−4−2.脱亜鉛処理プラントの操業方法
3−5.ニッケル回収工程(ニッケル・コバルト混合硫化物形成工程)
4.実施例
[1.本発明の概要]
本発明に係る中和処理プラントは、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、ニッケル酸化鉱石を浸出して得られた浸出液を中和して、中和澱物と中和終液とを得るものである。
この中和処理プラントによれば、湿式製錬方法における中和工程に続く脱亜鉛工程にて形成される脱亜鉛硫化物を固液分離するに際してのろ過性を向上させることができ、分離に際して用いるろ布の目詰まりを抑制して、その寿命を向上させることを可能にする。また、ろ布の目詰まり抑制できるので、ろ布の洗浄等の処理回数を大幅に低減できるので、効率的な製錬操業を行うことが可能となり、その工業的な価値は極めて高い。
具体的に、本発明は、ニッケル酸化鉱石の浸出液を中和し、不純物元素を含む澱物と分離して得られた中和終液の粘度を測定するとともにその中和終液を一時的に貯留し、中和終液を中和工程に続く脱亜鉛工程に移送するにあたって、中和終液の粘度の測定結果に応じて、脱亜鉛工程に移送する中和終液の流量を制御し、所定の割合の中和終液を中和反応に繰り返し供するようにする。中和工程における中和処理に際し、このようにして中和終液の流送を制御することにより、粘度の高い中和終液が次工程の脱亜鉛工程に移送されることを抑制することができ、脱亜鉛工程におけるろ過性をより効果的に向上させることができる。
以下、本発明を適用した具体的な実施形態について、図面を参照しながらより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
[2.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法について]
先ず、本実施の形態に係る中和処理プラントの説明に先立ち、その中和処理方法が実行される中和工程を有するニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法について説明する。このニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、ニッケル酸化鉱石のスラリーから、例えば高温高圧浸出法(HPAL法)を用いて、ニッケル及びコバルトを回収する湿式製錬方法である。
図1に、ニッケル酸化鉱石の高温加圧酸浸出法による湿式製錬方法の工程図の一例を示す。図1に示すように、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、ニッケル酸化鉱石のスラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出する浸出工程S1と、浸出スラリーを多段洗浄しながら残渣を分離して、ニッケル及びコバルトと共に不純物元素を含む浸出液を得る固液分離工程S2と、浸出液のpHを調整し、不純物元素を含む中和澱物を分離してニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を得る中和工程S3と、中和終液に対し硫化処理を施して亜鉛硫化物を形成し、その亜鉛硫化物を分離してニッケル及びコバルトを含むニッケル回収用母液を得る脱亜鉛工程S4と、ニッケル回収用母液に対し硫化処理を施してニッケル及びコバルトを含む混合硫化物を形成するニッケル回収工程S5とを有する。以下、各工程について具体的に説明する。
[3.湿式製錬方法の各工程について]
≪3−1.浸出工程≫
浸出工程S1では、例えば高温高圧浸出法を用いて原料となるニッケル酸化鉱石を粉砕等して得られた鉱石スラリーに硫酸を添加して浸出スラリーを得る。具体的には、例えば高温加圧容器(オートクレーブ)を用い、220〜280℃の高い温度条件下で加圧することによって鉱石スラリーを攪拌処理し、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを形成する。
浸出工程S1で用いるニッケル酸化鉱石としては、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱である。ラテライト鉱のニッケル含有量は、通常、0.8〜2.5重量%であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含有される。また、鉄の含有量は、10〜50重量%であり、主として3価の水酸化物(ゲーサイト)の形態であるが、一部2価の鉄がケイ苦土鉱物に含有される。また、浸出工程S1では、このようなラテライト鉱の他に、ニッケル、コバルト、マンガン、銅等の有価金属を含有する酸化鉱石、例えば深海底に賦存するマンガン瘤等が用いられる。
具体的に、浸出工程S1においては、下記の式(1)〜(5)で表される浸出反応と高温熱加水分解反応が生じ、ニッケル、コバルト等の硫酸塩としての浸出と、浸出された硫酸鉄のヘマタイトとしての固定化が行われる。ただし、鉄イオンの固定化は完全には進行しないため、通常、得られる浸出スラリーの液部分には、ニッケル、コバルト等の他に2価と3価の鉄イオンが含まれる。
・浸出反応
MO+H2SO4 ⇒ MSO4+H2O ・・・(1)
(なお、式中Mは、Ni、Co、Fe、Zn、Cu、Mg、Cr、Mn等を表す。)
2Fe(OH)3+3H2SO4 ⇒ Fe2(SO4)3+6H2O ・・・(2)
FeO+H2SO4 ⇒ FeSO4+H2O ・・・(3)
・高温熱加水分解反応
2FeSO4+H2SO4+1/2O2 ⇒ Fe2(SO4)3+H2O ・・・(4)
Fe2(SO4)3+3H2O⇒ Fe2O3+3H2SO4 ・・・(5)
浸出工程S1における硫酸の添加量は、特に限定されるものではなく、鉱石中の鉄が浸出されるような過剰量が用いられる。例えば、鉱石1トン当り300〜400kgとする。鉱石1トン当りの硫酸添加量が400kgを超えると、硫酸コストが大きくなり好ましくない。
なお、浸出工程S1では、次工程の固液分離工程S2で生成されるヘマタイトを含む浸出残渣のろ過性の観点から、得られる浸出液のpHが0.1〜1.0にとなるように調整することが好ましい。
≪3−2.固液分離工程≫
固液分離工程S2では、浸出工程S1で形成される浸出スラリーを多段洗浄して、ニッケル及びコバルトのほか不純物元素として亜鉛を含む浸出液と浸出残渣とを得る。
具体的に、固液分離工程S2では、浸出スラリーを洗浄液と混合した後、シックナー等の固液分離装置を用いて固液分離を行う。先ず、スラリーは洗浄液により希釈され、次に、浸出残渣はシックナーの沈降物として濃縮される。これにより、浸出残渣に付着するニッケル分をその希釈の度合に応じて減少させることができる。実操業では、このような機能を持つシックナーを多段に連結して用い、回収率の向上を図る。
固液分離工程S2における多段洗浄方法としては、特に限定されるものではないが、ニッケルを含まない洗浄液で向流に接触させる連続交流洗浄法(CCD法:Counter Current Decantation)を用いることが好ましい。これによって、系内に新たに導入する洗浄液を削減できるとともに、ニッケル及びコバルトの回収率を95%以上とすることができる。
洗浄液としては、特に限定されるものではなく、ニッケルを含まず、工程に影響を及ぼさないものを用いることができる。その中でも、pHが1〜3であるものが好ましい。すなわち、洗浄液のpHの上昇は、浸出液中にアルミニウムが含まれる場合、嵩の高いアルミニウム水酸化物が生成され、シックナー内で浸出残渣の沈降不良の原因となるからである。このことから、洗浄液としては、好ましくは、後工程であるニッケル回収工程S5で得られる低pH(pHが1〜3程度)の貧液を繰返して利用するとよい。
≪3−3.中和工程≫
中和工程S3では、固液分離工程S2にて分離された浸出液のpHを調整し、不純物元素を含む中和澱物を分離して、ニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を得る。
具体的に、中和工程S3では、分離された浸出液の酸化を抑制しながら、得られる中和終液のpHが4以下となるようにその浸出液に炭酸カルシウム等の中和剤を添加し、ニッケル回収用の母液となる中和終液と不純物元素として3価の鉄を含む中和澱物スラリーとを形成する。中和工程S3では、このようにして浸出液の中和処理を行うことで、高温加圧酸浸出による浸出工程S1で用いた過剰の酸の中和し、ニッケル回収用の母液となる中和終液と生成するとともに、溶液中に残留する3価の鉄イオンやアルミニウムイオン等を中和澱物として除去する。
<3−3−1.中和処理プラント>
より具体的に、中和工程S3において行われる中和処理方法及びその中和処理方法を実行する中和処理プラントについて説明する。
先ず、中和工程S3にて用いられる中和処理プラントについて説明する。図2は、中和処理プラントの構成を示す概略図である。この図2に示すように、中和処理プラント10は、中和反応を行う中和反応槽11と、中和澱物と中和終液とに分離する分離処理槽12と、分離された中和終液を一時的に貯留する貯留槽13と、中和終液の粘度を測定する粘度測定部14とを備えている。
中和反応槽11では、上述した固液分離工程S2にて分離された浸出液が装入され、その浸出液に中和剤を添加して中和反応を行う。
分離処理槽12は、例えばシックナー等の固液分離装置である。この分離処理槽12には、中和反応槽11における浸出液の中和反応により形成された中和反応後のスラリーが装入移送され、そのスラリーを、ニッケル回収用の母液となる中和終液と不純物元素として3価の鉄を含む中和澱物スラリーとに分離する。この分離処理槽12においては、固液分離して得られた中和終液がオーバーフローして貯留槽に移送され、一方で中和澱物スラリーが分離処理槽12の底部から抜き出される。なお、分離処理槽12の底部から抜き出された中和澱物スラリーは、適宜、固液分離工程S2に繰り返し戻し入れるようにすることができる。
貯留槽13は、分離処理槽12において分離され移送された中和終液が装入されるように構成されており、中和終液を中和工程S3に続く脱亜鉛工程S4に送る前に一時的に貯留する。この貯留槽13は、詳しくは後述するが、分離処理槽12にて固液分離して得られた中和終液の粘度を低下させることが可能な粘度調整バッファーとして作用する。
また、貯留槽13としては、特に限定されないが、中和終液の流量に対して3時間以上の貯留量に相当する容積を有するものであることが好ましい。これにより、貯留槽13内における中和終液の滞留時間を多くすることができ、中和終液を効果的に滞留させることができる。
また、貯留槽13には、貯留した中和終液を当該中和工程S3に続く脱亜鉛工程S4に送るための流送配管15が設けられている。流送配管15は、流送ポンプ16により貯留槽13に貯留された中和終液を流送する。この流送配管15は、所定の箇所17で分岐しており、貯留槽13に貯留している中和終液を次工程の脱亜鉛処理における脱亜鉛反応槽31に移送するための移送配管18と、その中和終液を中和反応槽11に繰り返し戻し入れて循環させる循環配管19とが、それぞれ連結されている。さらに、その移送配管18と循環配管19とが連結された分岐箇所17には、切替バルブ20が設けられており、流送配管15を介して移送される中和終液の割合を切替調整することが可能となっている。この貯留槽13から流送配管15を介した中和終液の流送方法については、後で詳述する。
また、流送配管15に連結された循環配管19には、図示しない熱交換器が設けられており、詳しくは後述するが、中和反応槽11に循環させた所定の割合の中和終液を加温できるようになっている。
粘度測定部14は、分離処理槽12にて分離されて貯留槽13に移送される中和終液の粘度を測定する。この粘度測定部14としては、特に限定されないが、分離処理槽12からオーバーフローして貯留槽13に移される途中の配管や流路等に設けてもよく、また分離処理槽12に設けて分離処理槽12における固液分離後の上澄み液となる中和終液の粘度を測定するようにしてもよい。また、この粘度測定部14は、貯留槽13にて一時的に貯留された中和終液の粘度を測定するようにしてもよい。
<3−3−2.中和処理方法>
次に、このような構成を有する中和処理プラント10を用いて行う、中和工程S3における中和処理方法について説明する。
図3には、中和工程S3における中和処理方法の工程図の一例を示す。図3に示すように、中和処理方法は、固液分離工程S2を経て得られた浸出液に対する中和反応を中和反応槽11にて行う中和反応工程S31と、分離処理槽12にて中和反応後のスラリーに凝集剤を添加して中和澱物と中和終液とに分離する分離工程S32と、分離工程S32を経て得られた中和終液の粘度を粘度測定部14にて測定する粘度測定工程S33と、中和終液を一時的に貯留槽13にて貯留する貯留工程S34と、貯留された中和終液を流送する流送工程S35とを有する。
(中和反応工程)
中和反応工程S31では、上述した中和処理プラント10の中和反応槽11において、装入された浸出液に対して中和剤を添加して中和反応を行う。具体的に、中和反応工程S31では、浸出液の酸化を抑制しながら、得られる中和終液のpHが4以下となるようにその浸出液に炭酸カルシウム等の中和剤を添加して、ニッケル回収用の母液となる中和終液と不純物元素として3価の鉄を含む中和澱物スラリーとを形成する。
中和反応工程S31においては、上述のように、中和終液のpHが4以下、好ましくは3.0〜3.5、より好ましくは3.1〜3.2になるように、浸出液に中和剤を添加して調整する。中和終液のpHが4を超えるような場合には、ニッケルの水酸化物の発生が多くなる。
また、中和反応工程S31においては、中和工程S3に続く脱亜鉛工程S4に際して、脱亜鉛工程S4の脱亜鉛反応槽31に移送する中和終液(硫化処理始液)の濁度が100〜400NTUとなるように、その中和終液中に中和澱物及び浸出工程S1で得られた浸出残渣からなる懸濁物を残留させることが好ましい。このようにして、懸濁物を残留させて中和終液の濁度を上記範囲とすることによって、次工程の脱亜鉛工程S4にて形成される脱亜鉛硫化物のろ過性をより一層に向上させることができる。
また、中和反応工程S31における中和反応では、溶液中に残留する3価の鉄イオンの除去に際し、溶液中に2価として存在する鉄イオンを酸化させないことが好ましい。そのため、例えば空気の吹込み等による溶液の酸化を極力防止することが好ましい。これにより、2価の鉄の除去に伴う炭酸カルシウム消費量と中和澱物スラリーの生成量の増加を抑制することができる。すなわち、中和澱物スラリー量の増加による澱物へのニッケル回収ロスを抑えることができる。
また、中和反応工程S31における中和反応温度としては、50〜80℃程度とすることが好ましい。反応温度が50℃未満では、形成される3価の鉄イオンを含む中和澱物が微細となり、必要に応じてその中和澱物を循環させた固液分離工程S2における処理に悪影響を及ぼす。一方、反応温度が80℃を超えると、中和反応槽11を構成する装置材料の耐食性の低下や加熱のためのエネルギーコストの増大を招く。
(分離工程)
分離工程S32では、上述した中和処理プラント10の分離処理槽12において、中和反応工程S31を経て得られた中和反応後のスラリーから、ニッケル回収用の母液となる中和終液と不純物元素を含む中和澱物とを分離する。
この分離工程S32では、中和反応後のスラリーに凝集剤が添加されて中和終液と中和澱物とが分離される。具体的に、凝集剤としては、例えばアニオン系の凝集剤が用いられる。このように凝集剤を添加して分離することにより、形成される不純物元素からなる沈殿物の沈降性が促進され、微細な浮遊沈殿物(以下、「SS」ともいう)がオーバーフロー液中に含まれることを抑制でき、中和終液と中和澱物とを効果的に分離できる。
また、分離工程S32においては、分離した中和澱物スラリーを、必要に応じて上述の固液分離工程S2に繰り返し移送することができる。これにより、中和澱物スラリーに含まれるニッケルを効果的に回収することができる。具体的には、中和澱物スラリーを、低いpH条件で操業される固液分離工程S2へ繰り返すことによって、浸出残渣の洗浄と同時に中和澱物の付着水と中和澱物表面での局所反応により生成した水酸化ニッケルの溶解を促進させ、回収ロスとなるニッケル分を低減することができる。
また、詳しくは後述するが、分離した中和澱物スラリーを固液分離工程S2に繰り返し移送する操作を、中和終液の粘度が所定値よりも大きいと判断された場合に行うようにすることができる。これにより、粘度が高い中和終液が次工程の脱亜鉛工程S4において用いられる脱亜鉛処理プラント30に移送されることを防止することができ、脱亜鉛工程S4での固液分離処理におけるろ過性を向上させることができる。
(粘度測定工程)
粘度測定工程S33では、上述した中和処理プラント10の粘度測定部14において、分離工程S32を経て得られた中和終液の粘度を測定する。中和終液の粘度測定は、上述したように、例えば分離処理槽12の上澄み液(オーバーフロー液)の粘度を測定するようにすればよい。なお、他の実施態様として、この粘度測定工程を、後述する貯留工程の後工程として、貯留槽13により一時的に貯留された中和終液の粘度を測定するようにしてもよい。
また、粘度測定工程S33における粘度測定方法としては、流体である中和終液の粘度を測定できるものであれば特に限定されず、公知の方法を用いることができるが、操業管理の観点も考慮すると、所要時間が短くて簡便な方法であることが好ましい。また、具体的な中和終液の粘度値として算出しなくてもよく、粘度の代替特性を算出することによって粘度を分析するようにしてもよい。具体的には、例えば、中和終液が所定のフィルターを通過する時間で測定し、この通過時間を粘度の代替特性として把握し管理する方法等を用いることができる。
その中でも、本実施の形態においては、その粘度評価として、目開き0.45μmのメンブレンフィルターを中和終液(上澄み液)50mLが通過する時間(秒/cm2・mL)を粘度測定に用いる。
本実施の形態においては、この粘度測定工程S33にて測定された中和終液の粘度が0.10秒/cm2・mLより大きいか否かを判断する。そして、その粘度の測定結果に基づいて、中和終液の移送を制御する。詳細は後述する。
(貯留工程)
貯留工程S34では、上述した中和処理プラント10の貯留槽13において、分離工程S32において分離されて得られ、粘度測定工程S33にて粘度測定された中和終液を一時的に貯留する。
(流送工程)
流送工程S35では、貯留工程S34にて貯留槽13に貯留した中和終液を流送する。この流送工程S35では、主として、貯留槽13に貯留した中和終液を当該中和工程S3に続く脱亜鉛工程S4における脱亜鉛反応槽31に移送する。脱亜鉛反応槽31への中和終液の移送は、具体的に貯留槽13に設けられた流送配管15を介し、さらに流送配管15に連結された移送配管18を通過させて行う。
また、この流送工程S35では、粘度測定工程S33における中和終液の粘度測定の結果に応じて、流送配管15とその流送配管15に連結された移送配管18を介して移送する中和終液の流量を制御し、所定の割合の中和終液を、流送配管15から分岐して連結された循環配管19を介して中和反応槽11に戻し入れて循環させる。
<3−3−3.中和終液の流量制御>
ここで、従来、当該中和工程S3においては、浸出液を中和させて得られたスラリーを中和終液と中和澱物とに固液分離するに際して、スラリー中に凝集剤を添加するようにしている。これにより、SS量を低減させるとともに中和終液と中和澱物とを効果的に分離させることが可能となる。
しかしながら、このように凝集剤を添加して分離させた場合、その凝集剤の影響により、得られる中和終液の粘度が非常に高くなってしまう。次工程の脱亜鉛工程S4においては、中和工程S3から移送された中和終液に対して硫化処理が施されるが、粘度の高い中和終液を用いた場合、硫化処理により形成された脱亜鉛硫化物の澱物とニッケル回収用母液との固液分離に際して、ろ布の目詰まりが発生し、ろ過速度が著しく低下してしまう。また、そのろ布の目詰まりにより、洗浄等の作業回数が増えて操業効率が低下するとともにろ布の寿命を低下させる。
そこで、この中和処理方法においては、粘度測定工程S33にて中和処理を経て得られた中和終液の粘度を測定し、測定された粘度が所定より大きいか否かを判断する。具体的には、中和終液の粘度の評価基準として、目開き0.45μmのメンブレンフィルターをその中和終液50mLが通過する時間として0.10秒/cm2・mLより大きいか否かを判断する。そして、0.1秒/cm2・mLより大きいと判断された場合、流送工程S35においては、脱亜鉛工程S4における脱亜鉛反応槽31に移送する中和終液の流量を制御し、所定の割合の中和終液を中和反応槽11に戻し入れて循環させるようにする。
中和終液の粘度が、上述した粘度評価基準において0.10秒/cm2・mLより大きい場合に、流送工程S35において制御する中和終液の流量の割合については、特に限定されるものではない。具体的な流量割合については、粘度測定工程S33にて測定された中和終液の粘度の大きさ等に応じて決めればよいが、流送配管15を介し移送配管18を通過させて脱亜鉛反応槽31に移送させる中和終液の流量を全流量の60〜80%とし、流送配管15を介し循環配管19を通過させて中和反応槽に戻し入れて循環させる中和終液の流量を全流量の20〜40%とすることが好ましい。脱亜鉛反応槽31に移送する流量を60%未満とした場合、プラント全体としての操業効率が低下してしまう可能性があり、一方で80%を超えて粘度の高い中和終液を移送すると、ろ布の寿命延長に対する効果が十分に得られない可能性がある。
このように、中和終液の粘度測定の結果に基づいて次工程における脱亜鉛反応槽31に移送させる中和終液の流量を制御し、所定の割合の中和終液を繰り返し中和反応槽11に戻し入れて循環させることにより、粘度の高い中和終液が脱亜鉛反応槽31に移送されることを防止することができる。
そして、この中和処理方法においては、分離工程S32を経て分離処理槽12から得られた中和終液を、貯留工程S34において一時的に貯留槽13に貯留するようにしている。このように、分離された中和終液を直接次工程の脱亜鉛反応槽31に移送せず、貯留槽13にて一時的に貯留させることで、貯留槽13内において中和終液を滞留させることができる。そして、粘度が高く所定の割合で中和反応槽11に戻し入れられて循環してきた中和終液は、貯留槽13内において滞留して、その滞留時間に比例して中和終液が混合されるようになるので、その粘度が効果的に低下していく。すなわち、貯留工程S34にて中和終液を貯留させる貯留槽13は、粘度の観点におけるバッファーとして作用する。
特に、流送工程S35において所定の割合の中和終液を中和反応槽11に戻し入れて循環させる場合には、分離工程S32における凝集剤の添加を停止することが好ましい。このように、粘度の高い所定の割合の中和終液を循環させるにあたって、分離工程S32における凝集剤の添加を停止することにより、中和反応工程S31及び分離工程S32を経て得られた中和終液には、戻し入れられた中和終液に由来する凝集剤のみが含まれることになる。すると、貯留槽13には、このような凝集剤の少ない中和終液が分離処理槽12からオーバーフローして移送されるとともに、その貯留槽13内にて滞留されることになるので、中和終液が効果的に混合され、より効果的にその粘度を低下させることができる。
一方、所定の割合の中和終液を中和反応槽11に戻し入れて循環させる場合に、分離工程S32における凝集剤の添加を停止すると、中和澱物の凝集効果が低下することになる。これにより、中和終液となるオーバーフロー液中には、十分に凝集しきれなかった中和澱物が混入し、オーバーフロー液が濁ることになる。そして、その濁りを有するオーバーフロー液である中和終液が脱亜鉛工程S4に移送されると、亜鉛硫化物とニッケル回収用母液の分離に際してろ布の目詰まりが生じ、却ってろ布の寿命を短くするという不具合が生じるとも考えられる。しかしながら、本実施の形態では、貯留工程S34により貯留槽13を用いて中和終液を一時的に貯留し、貯留槽13内にて中和終液を滞留させる時間を設けているために、濁りのもとになる中和澱物の大部分が貯留槽13の底部に沈殿する。そのため、濁りの原因である中和澱物が脱亜鉛工程S4に移送されることを防止でき、上述のような不具合は発生しない。
また、所定の割合の中和終液を中和反応槽11に戻し入れて循環させる場合に、分離工程S32における凝集剤の添加を停止させるのではなく、その循環させる中和終液の流量に基づいて凝集剤の添加量を調整するようにしてもよい。凝集剤の添加を停止させない場合には、中和終液に含まれる凝集剤の総量は、「新たに添加する凝集剤の量+循環される中和終液中に凝集剤の量」となる。例えば、循環される中和終液に含まれる凝集剤の量が少ない場合には、この循環させる中和終液の流量を勘案して、新たに添加する凝集剤の量を通常の1/2又は1/3に相当する量等に調節してもよい。これにより、分離工程S32における凝集効果の低下を抑制できるとともに、中和終液の粘度も低下させることができる。なお、このような凝集剤の添加量の調整は、循環される中和終液に含まれる凝集剤の量を算出することにより容易に可能となる。
なお、所定の割合の中和終液を中和反応槽11に戻し入れて循環させる場合に、分離工程S32における凝集剤の添加を停止するか、又は、添加量を調節するかについては、貯留槽13の容積に応じて稼げる滞留時間の多寡によって選択すればよい。すなわち、貯留槽13の容積が大きく滞留時間を十分に稼げる場合には、凝集剤の添加量を調整する方法を選択すればよい。一方で、貯留槽13の容積が十分ではない場合には、操業上の操作の簡便性(フェールセーフの観点)も考慮して、中和終液の粘度が所定値よりも大きくなった場合は凝集剤の添加量を停止するという一律の操業ルールを決めておくことが、添加剤の調整量の算出の手間が省け、添加ミス等の操作上の人為的ミスが防げるという点で好ましい。
以上のように、中和終液の粘度測定の結果に基づいて中和終液の粘度が所定値よりも大きいと判断される場合には、流送工程S35において脱亜鉛反応槽31に移送する中和終液の流量を制御し、所定の割合の中和終液を中和反応槽11に戻し入れて循環させるようにする。これにより、分離工程S32にて分離処理槽12をオーバーフローする中和終液の粘度を徐々に低下させることができる。
そして、その後も、同様にして貯留槽13に貯留される中和終液の粘度測定を継続し、十分に粘度が低下して所定の粘度以下となったときに、流送工程S35において、流送配管15に設けられた切替バルブ20を調整し、貯留槽13に貯留された中和終液を次工程の脱亜鉛工程S4における脱亜鉛反応槽31に移送する。このとき、同時に、分離工程S32における凝集剤の添加量を通常時の量に戻す。
このようにして中和工程S3における中和処理を制御することによって、粘度の高い中和終液が次工程の脱亜鉛工程S4に移送されることを防止することができ、その脱亜鉛工程S4にて形成される亜鉛硫化物の分離に際してのろ過性を向上させることができる。そして、これにより、ろ布の目詰まりが抑制され、ろ布の寿命を延ばすことができる。また、ろ布の目詰まりが抑制されることにより、ろ布の洗浄作業の頻度を効果的に低減させることができ、コストを含めた効率的な操業が可能となる。具体的には、従来に比して、ろ布の洗浄作業の発生頻度は約半分に低減させることができ、ろ布の寿命は約4倍に延ばすことができる。
なお、中和終液の粘度が所定値以上となった場合に、上述のように中和終液を所定の割合を中和反応槽11に戻し入れて循環させる操作に併せて、分離処理槽12の底部から抜き出され排出される中和澱物スラリーを、中和工程S3の前工程である固液分離工程S2に繰り返すようにしてもよい。特に、測定した中和終液の粘度が、上述した粘度評価基準において0.5秒/cm2・mLよりも大きい場合は、その中和終液は過度に高い粘度となっている。このような中和終液を、そのまま脱亜鉛処理プラント31に移送して脱亜鉛工程S4を行うと、固液分離に際してのろ過性が著しく損なわれる。したがって、測定した中和終液の粘度が上述した粘度評価基準において0.5秒/cm2・mLよりも大きい場合には、中和終液の循環制御に併せて、中和澱物スラリーを固液分離工程S2に繰り返す操作を行うようにする。これにより、より効果的に中和終液の粘度を低減させることができる。
ところで、実操業においてはヒューマンエラー(人為的な誤操作)等により、貯留工程S34において中和終液を所定時間滞留させても十分に粘度が低下しないほどに多量の凝集剤が投入されてしまう場合がある。例えば、中和終液が滞留して十分に粘度が低下する前に、貯留槽13の容量に対して貯留する中和終液が多くなり、それ以上に粘度の低下が望めない場合がある。
このような場合には、中和工程S3における分離工程S32にて分離された中和澱物を、固液分離工程S2における多段洗浄ステップに繰り返し装入する量を増加させるようにする。すると、固液分離工程S2における多段洗浄ステップには、その中和澱物と一緒に粘度が高くなり過ぎた液相成分が繰り返し装入されるようになる。中和澱物と共に固液分離工程S2に装入された液相成分は、多段洗浄によって希釈されるため、これにより粘度を低下させることが可能になる。
≪3−4.脱亜鉛工程≫
脱亜鉛工程S4では、中和工程S3から得られた中和終液に硫化処理ガスを添加して硫化処理を施すことにより亜鉛硫化物を形成し、その亜鉛硫化物を分離してニッケル及びコバルトを含むニッケル回収用母液(脱亜鉛終液)を得る。
具体的には、例えば、加圧された容器内にニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を導入し、気相中へ硫化水素ガスを吹き込むことによって、亜鉛をニッケル及びコバルトに対して選択的に硫化し、亜鉛硫化物とニッケル回収用母液とを生成する。
<3−4−1.脱亜鉛処理プラント>
ここで、脱亜鉛工程S4において用いられる脱亜鉛処理プラントについて説明する。図4は、脱亜鉛処理プラントの構成を示す概略構成図である。この図4に示すように、脱亜鉛処理プラント30は、中和終液に対し硫化水素ガスを吹き込んで硫化反応を行う脱亜鉛反応槽31と、生成した亜鉛の硫化物と硫化反応終液であるニッケル回収用母液とを一時的に貯留する貯留槽32と、亜鉛硫化物を分離除去するフィルター装置33とを備えている。
脱亜鉛反応槽31では、上述した中和工程S3にて得られ移送された中和終液が装入され、その中和終液に硫化水素ガスを添加して硫化反応を行う。この脱亜鉛反応槽31においては、硫化水素ガスの添加により中和終液に含まれる亜鉛に基づく亜鉛硫化物が生成される。そして、この脱亜鉛反応槽31における硫化処理後の終液は、亜鉛が含まれない溶液であり、ニッケル回収用の母液となる。
なお、脱亜鉛反応槽31において生成した亜鉛硫化物とニッケル回収用母液とは、そのまま次の貯留槽32に移送される。
貯留槽32は、脱亜鉛反応槽31において得られた亜鉛硫化物と硫化処理終液であるニッケル回収用母液が装入されるように構成されている。この貯留槽32では、これら亜鉛硫化物とニッケル回収用母液とを分離してニッケル回収用母液を脱亜鉛工程S4に続くニッケル回収工程S5に送る前に一時的に貯留する。また、詳しくは後述するが、脱亜鉛処理プラント30の立ち上げ時には、貯留槽32において、脱亜鉛反応槽31にて硫化処理が施されずに流送された中和終液が貯留される。
また、貯留槽32には、貯留した亜鉛硫化物とニッケル回収用母液とを流送する流送配管34が設けられている。この流送配管34は、貯留槽32に貯留した亜鉛硫化物とニッケル回収用母液とを流送ポンプ35によってフィルター装置33に流送する。また、この流送配管34は、所定の箇所36で分岐しており、貯留槽32に貯留した亜鉛硫化物を含んだニッケル回収用母液をフィルター装置33に移送するための移送配管37と、脱亜鉛処理プラント30の立ち上げ時に貯留槽32に貯留された中和終液を脱亜鉛反応槽31に繰り返し戻し入れて循環させる循環配管38とが、それぞれ連結されている。さらに、その移送配管37と循環配管38とが連結された分岐箇所36(連結部)には、切替バルブ39が設けられており、流送配管34を介してフィルター装置33又は脱亜鉛反応槽31への移送割合や移送タイミングを切替調整することが可能となっている。またさらに、流送配管34には、流送される亜鉛硫化物を含むニッケル回収用母液や、循環される中和終液の流量及び/又は温度を測定することが可能な測定部40が設けられている。
フィルター装置33は、所定の目開きのろ布(フィルタークロス)等によって構成されており、流送配管34を介し移送配管37を通過して流送された亜鉛硫化物を含んだニッケル回収用母液から、亜鉛硫化物とニッケル回収用母液とを分離する。
上述したように、中和工程S3における中和処理プラント10では、得られる中和終液の粘度に応じて当該脱亜鉛処理プラント30の脱亜鉛反応槽31に移送する中和終液の流量を制御しているので、脱亜鉛処理プラント30では、粘度の高い中和終液が移送されることを効果的に防止している。そのため、この脱亜鉛処理プラント30におけるフィルター装置33では、ろ布の目詰まりが低減され、高いろ過性でもって亜鉛硫化物を分離除去できる。また、このフィルター装置33では、ろ布の目詰まりが低減されていることにより、そのろ布の寿命が延び、湿式製錬の操業効率を向上させることが可能となっている。
<3−4−2.脱亜鉛処理プラントの操業方法>
ところで、上述した脱亜鉛処理プラント30を含め湿式製錬の操業に用いられるプラントでは、定期的な設備点検が行われる。その定期点検では、反応槽や貯留槽等の工程水を溜めるタンク全般や、配管やフィルター等の底部に滞留したスラッジの除去や清掃、破損部品の交換等を実施する。したがって、定期点検時には、少なくとも点検対象の設備から、中和終液や脱亜鉛終液等の工程水が全て抜き出されて空の状態にされる。そのため、定期点検が終了した後のプラント立ち上げ時には、設備や工程水の温度は、ほぼ気温程度(例えば30℃程度)まで低下している。また、その工程水の流量も非常の少なくなっている。
従来、定期点検の終了後、プラントの立ち上げを行ったとき、ニッケル酸化鉱石のスラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出する浸出工程S1が100%の稼動状態になるまでには、約1日(24時間程度)が必要となっていた。そのため、完全な稼働状態(通常の操業レベル)になるまでの間の工程水の流量や温度は非常に不安定になる。そして、このような不安定な状態である場合に特に大きな影響を受けるのは、当該脱亜鉛工程S4であり、流量も温度も不安定な状態の工程水、すなわち硫化処理対象である中和終液に対して、硫化水素ガスを吹き込み、また種晶としての懸濁物を同時に添加することは非常に困難となる。このことは、硫化処理による脱亜鉛反応後に得られる終液(ニッケル回収用母液)中に不純物である亜鉛が高濃度に混入してしまうことを意味する。
したがって、これまでは、定期点検終了後の立ち上げに際しての約1日という期間に、脱亜鉛工程S4で生じるニッケル回収用母液に亜鉛が残らないようにするために、過剰の硫化水素ガスを添加するという措置がとられていた。しかしながら、その場合、生成する亜鉛硫化物の粒度が非常に微細になってしまい、上述したフィルター装置33に大きな負荷が掛かかり、フィルター装置33を構成するろ布の寿命を短くするという不具合があった。また、ろ布の交換による時間の浪費や、その交換に伴って廃棄されるニッケル回収用母液中の有価金属の回収ロスを招いていた。
そこで、この脱亜鉛工程S4にて用いられる脱亜鉛処理プラント30においては、脱亜鉛処理プラントの定期点検終了後の立ち上げに際し、立ち上げ開始時には、脱亜鉛反応槽31にて中和終液に対する硫化処理を行わずに、貯留槽32に設けられた流送配管34内の切替バルブ39を調整して、移送された中和終液を循環配管38を介して脱亜鉛反応槽31に戻し入れて循環させるように制御する。
そして、この脱亜鉛処理プラント30では、循環する中和終液の流量及び/又は温度を、流送配管34に備えられた測定部40にて測定し、その中和終液の流量及び/又は温度が所定値以上になったときに、脱亜鉛反応槽31にて硫化処理を施して亜鉛硫化物を形成させ、その亜鉛硫化物を含んだニッケル回収用母液(脱亜鉛終液)を、切替バルブ39の調整により移送配管37を介してフィルター装置33に移送するようにする。
ここで、測定部40にて測定される循環中和終液の流量の基準所定値としては、特に限定されず、脱亜鉛反応槽31における硫化反応を効果的に進行させることができる流量であるか否かを基準とすればよく、例えば通常操業時の流量値とすることができる。また、測定部40にて測定される循環中和終液の温度の基準所定値についても、特に限定されず、脱亜鉛反応槽31における硫化反応が効果的に進行させることができる温度であるか否かを基準とすればよく、例えば50℃程度とすることができる。
このように、脱亜鉛処理プラント30では、プラント立ち上げ時に、中和終液を循環させるように制御し、その中和終液の流量や温度が、例えば通常操業時の流量や50℃程度の温度以上になったか否かを判断する。そして、流量や温度が所定値以上になったことを確認した上で、中和終液に対して硫化処理を施し、亜鉛硫化物を含んだニッケル回収用母液をフィルター装置33に移送するようにする。
脱亜鉛工程S4における脱亜鉛処理プラント30では、以上のようにして定期点検終了後の立ち上げ操業を行うことにより、工程水である中和終液の流量や温度を安定化させることができ、安定化した中和終液に対して脱亜鉛反応槽31にて硫化処理を施して、フィルター装置33に移送することができる。
これらにより、過剰の硫化水素ガスを添加しなくても亜鉛を効果的に亜鉛硫化物とすることができ、ニッケル回収用母液(脱亜鉛終液)中の亜鉛濃度を1mg/L以下にまで効果的に低下させることができる。また、フィルター装置33のろ布に大きな負荷を掛けることなくろ布の寿命を延ばすことができる。さらに、従来、通常稼働まで約1日の期間を要していた立ち上げ処理を、より効率的にかつ迅速に行うことが可能となり、短時間で通所の操業レベルに安定化させることでき、操業効率を高めることができる。
また、この定期点検終了後の立ち上げにおいては、脱亜鉛処理プラント30における上述した中和終液の循環による制御に併せて、中和工程S3で用いられる中和処理プラント10における中和終液の流量制御も行うことが、より好ましい。
具体的には、中和工程S3では、脱亜鉛処理プラント30の定期点検終了後の立ち上げに際して、立ち上げ開始時には、中和処理プラント10の流送配管15に設けられた切替バルブ20を調整して中和終液を中和反応槽11に戻し入れて循環させるように制御する。すなわち、中和終液を脱亜鉛処理プラント30に移送せずに、中和処理プラント10内で循環させるようにする。そして、上述した脱亜鉛処理プラント30の流送配管34内に備えられた測定部40にて測定される中和終液の流量及び/又は温度が所定値以上になったときに、切替バルブ20を調整して中和終液を移送配管18を介して脱亜鉛反応槽31に移送するようにする。
このとき、中和処理プラント10にて中和反応槽11に戻し入れられて循環する中和終液を、加温しながら循環することが好ましい。加温方法としては、中和処理プラント10の循環配管19に設けられた熱交換器により加温することができる。
このように、脱亜鉛処理プラント30における上述した制御に併せて中和処理プラント10における中和終液の流量制御を行うことにより、立ち上げ開始後に、より短時間で、プラントの操業を安定化させることができる。これにより、脱亜鉛処理プラント30における硫化処理が効果的に進行するようになり、ニッケル回収用母液中の亜鉛濃度をより効果的に低減させることができる。また、上述のように、中和処理プラント10にて循環させる中和終液を加温しながら循環させることにより、中和処理プラント10内の中和終液の温度が高くなり、脱亜鉛反応槽31に移送する中和終液をより効率的に昇温させることができる。これによっても、より一層短時間で操業の安定化を図ることができ、ニッケル回収用母液中の亜鉛濃度を効果的に低減させることができる。
≪3−5.ニッケル回収工程≫
ニッケル回収工程S5では、脱亜鉛工程S4にて不純物元素である亜鉛を亜鉛硫化物として分離除去して得られたニッケル回収用母液に硫化水素ガスを吹き込んで硫化反応を生じさせ、ニッケル及びコバルトを含む硫化物(ニッケル・コバルト混合硫化物)と貧液とを生成する。
ニッケル回収用母液は、ニッケル酸化鉱石の浸出液から中和工程S3や脱亜鉛工程S4を経て不純物成分が低減された硫酸溶液であり、例えば、pHが3.2〜4.0で、ニッケル濃度が2〜5g/L、コバルト濃度が0.1〜1.0g/Lである。なお、このニッケル回収用母液には、不純物成分として鉄、マグネシウム、マンガン等が数g/L程度含まれている可能性があるが、これら不純物成分は、回収するニッケル及びコバルトに対して硫化物としての安定性が低く、生成する硫化物には含有されることはない。
ニッケル回収工程S5では、不純物成分の少ないニッケル・コバルト混合硫化物とニッケル濃度を低い水準で安定させた貧液とを生成して回収する。具体的には、硫化反応により得られたニッケル・コバルト混合硫化物のスラリーをシックナー等の沈降分離装置を用いて沈降分離処理することによって、沈殿物であるニッケル・コバルト混合硫化物をシックナーの底部より分離回収する。一方で、水溶液成分はオーバーフローさせて貧液として回収する。なお、上述のように、この貧液には、硫化されずに含まれる鉄、マグネシウム、マンガン等の不純物元素を含んでいる。
[4.実施例]
以下に、本発明についての実施例を説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
ニッケル酸化鉱石の鉱石スラリーを高温高圧浸出法を用いて浸出して得られた浸出液に対して、中和工程において中和処理を行った。中和工程では、浸出液に対して中和剤である炭酸カルシウムを添加しpH3.3に調整して中和反応を生じさせ、中和反応後のスラリーに凝集剤を添加して、生成した中和澱物と中和終液とをシックナーを用いて分離した。
なお、中和工程における中和処理では、特許文献3に記載された方法に従い、濾液中の中和澱物及び浸出工程から得られた浸出残渣からなる懸濁物の量を、凝集剤の添加量を調節することにより、濁度を112NTUに調整した中和終液(硫化反応始液)を得た。
次に、シックナーの上澄み液の粘度を60分毎に測定することにより、生成した中和終液の粘度測定を行った。粘度測定方法は、目開き0.45μmのメンブレンフィルター(17cm2)を、上澄み液50ccが通過する時間に基づいて測定した。そして、得られた中和終液の流量を360〜450m3/hrとして、次工程の脱亜鉛工程における脱亜鉛反応槽(硫化反応槽)に移送させる操業を行った。
中和終液の粘度測定において、中和終液の粘度が0.10秒/cm2・mLより大きい場合を、中和終液の粘度異常(オーバー)と判断し、中和処理プラントにおける貯留槽に設けられた流送配管内の切替バルブを調整し、中和工程に続く脱亜鉛工程における脱亜鉛反応槽に移送される中和終液の流量を70%とし、中和反応槽に戻し入れられる中和終液の流量を30%として、1年間の操業を実施した。
次いで、脱亜鉛工程においては、中和工程にて得られた中和終液を用いて、脱亜鉛反応槽に、その容器圧力を0.02MPaに保持するように硫化用ガスを気相部に挿入し、亜鉛硫化物を生成させ、次いでフィルタープレスにより、亜鉛硫化物を分離した。ここで、脱亜鉛反応槽には、中和終液を連続的に挿入し、液温度を55℃に保持しながら攪拌しつつ反応させた。その後、脱亜鉛工程にて得られた亜鉛硫化物のろ過性の評価を行った。
その結果、亜鉛硫化物のろ過性としては、ろ過速度が23m3/m2・hを超え、非常に良好なろ過性を示した。また、実施例1の操業において、脱亜鉛工程における固液分離に用いたフィルタープレスを構成するろ布の洗浄作業発生頻度及びろ布の寿命を調査したところ、洗浄作業発生頻度は1回/2週間程度であり、ろ布の寿命は平均で4ヶ月であった。
なお、上述した実施例1の操業を行い、脱亜鉛工程における脱亜鉛反応槽に移送された中和終液の粘度を、目開き0.45μmのメンブレンフィルター(17cm2)を中和終液50ccが通過する時間に基づいて測定したところ、0.008秒/cm2・mLであり、効果的に粘度は低下していた。
(実施例2)
実施例2では、中和工程において炭酸カルシウムを添加しpH3.2に調整して中和反応を生じさせたとともに、凝集剤の添加量を調節することにより中和終液(硫化反応始液)の濁度を232NTUに調整したこと以外は、実施例1と同様にして1年間の操業を実施した。
その結果、亜鉛硫化物のろ過性としては、ろ過速度が18〜23m3/m2・hとなり、良好なろ過性を示した。
(実施例3)
実施例2では、凝集剤の添加量を調節することにより中和終液(硫化反応始液)の濁度を354NTUに調整したこと以外は、実施例1と同様にして1年間の操業を実施した。
その結果、亜鉛硫化物のろ過性としては、ろ過速度が18〜23m3/m2・hとなり、良好なろ過性を示した。
(比較例1)
比較例1では、中和終液の粘度測定を行わず、また得られた中和終液の全量を直接脱亜鉛工程における脱亜鉛反応槽に移送させたこと以外は、実施例1と同様にして1年間の操業を行った。
その結果、亜鉛硫化物のろ過性としては、ろ過速度が10〜18m3/m2・hとなり、効果的にろ過性を高めることができたものの、上記実施例1〜3における操業に比べると低下した。また、比較例1の操業において、脱亜鉛工程における固液分離に用いたフィルタープレスを構成するろ布の洗浄作業発生頻度及びろ布の寿命を調査したところ、洗浄作業発生頻度は平均すると1回/3日となり頻繁に洗浄作業しなければならず、さらにそのろ布も平均1ヶ月での交換を余儀なくされた。
なお、上述した比較例1の操業を行い、脱亜鉛工程における脱亜鉛反応槽に移送された中和終液の粘度を、目開き0.45μmのメンブレンフィルター(17cm2)を中和終液50ccが通過する時間に基づいて測定したところ、0.163秒/cm2・mLであり、粘度の高い中和終液が移送していることが確認された。
(比較例2)
比較例2では、中和終液の粘度測定を行わず、また得られた中和終液の全量を直接脱亜鉛工程における脱亜鉛反応槽に移送させた。また、特許文献3に記載の方法に従わず、中和工程においてpH2.9に調整して中和反応を行った。それ以外は、実施例1と同様にして1年間の操業を行った。
その結果、亜鉛硫化物のろ過性としては、ろ過速度が10m3/m2・h未満となり、ろ過性は著しく悪かった。また、フィルタープレスを構成するろ布の交換後、操業開始1日目で強度の目詰まりが発生した。さらに、そのろ布の洗浄の効果はほとんど無く、ろ布は1日で寿命となり、交換作業を余儀なくされた。
(比較例3)
比較例3では、中和終液の粘度測定を行わず、また得られた中和終液の全量を直接脱亜鉛工程における脱亜鉛反応槽に移送させた。また、特許文献3に記載の方法に従わず、ニッケル浸出残渣を添加しなかった。それ以外は、実施例1と同様にして1年間の操業を行った。
その結果、亜鉛硫化物のろ過性としては、ろ過速度が10m3/m2・h未満となり、ろ過性は著しく悪かった。また、フィルタープレスを構成するろ布の交換後、操業開始1日目で強度の目詰まりが発生した。さらに、そのろ布の洗浄の効果はほとんど無く、ろ布は1日で寿命となり、交換作業を余儀なくされた。
(比較例4)
比較例4では、中和終液の粘度測定を行わず、また得られた中和終液の全量を直接脱亜鉛工程における脱亜鉛反応槽に移送させた。また、特許文献3に記載の方法に従わず、中和終液の濁度を521NTUに調整した。それ以外は、実施例1と同様にして1年間の操業を行った。
その結果、亜鉛硫化物のろ過性としては、ろ過速度が10m3/m2・h未満となり、ろ過性は著しく悪かった。また、フィルタープレスを構成するろ布の交換後、操業開始1日目で強度の目詰まりが発生した。さらに、そのろ布の洗浄の効果はほとんど無く、ろ布は1日で寿命となり、交換作業を余儀なくされた。
下記表1に、各実施例及び比較例の結果をまとめて示す。なお、この表1の亜鉛硫化物のろ過性の評価において、ろ過速度が23m3/m2・hを超える場合を「◎」とし、ろ過速度が18〜23m3/m2・hの場合を「〇」とし、ろ過速度が10〜18m3/m2・hの場合を「△」とし、ろ過速度が10m3/m2・h未満の場合を「×」とした。
また、下記表2に、実施例1及び比較例1におけるろ布洗浄作業発生頻度、並びに、そのろ布の寿命の調査結果をまとめて示す。
この表1にまとめた結果から、中和工程にて生成した中和終液の粘度測定を行い、その中和終液の粘度が0.10秒/cm2・mLより大きい場合に中和終液の粘度異常と判断して、中和工程に続く脱亜鉛工程における脱亜鉛反応槽に移送される中和終液の流量を制御して、所定の割合の中和終液を中和反応槽に戻し入れるようにすることによって、脱亜鉛工程にて形成される脱亜鉛硫化物のろ過性を向上させることができることが分かった。これにより、ろ布の目詰まりを抑制して、ろ布の洗浄作業の回数を低減できるとともにろ布の寿命を効果的に延ばすことができる。