JP7200698B2 - ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法 - Google Patents

ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法 Download PDF

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Description

本発明は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法に関し、特に製品としての混合硫化物中の不純物品位を制御することが可能なニッケル回収工程を有する湿式製錬方法に関する。
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬法として、HPAL法(High Pressure Acid Leaching)とも称する高温高圧下で硫酸により浸出処理を行う高圧酸浸出法が知られている。この高圧酸浸出法は、従来の一般的なニッケル酸化鉱石の製錬方法である乾式製錬法と異なり、還元処理や乾燥処理を経ることなく、原料としての低品位ニッケル酸化鉱に対して一貫した湿式処理によりニッケル品位を50~60質量%まで高めてニッケル及びコバルトを含む混合硫化物(以下、ニッケルコバルト混合硫化物とも称する)を生成できるので、エネルギー的及びコスト的に優れたプロセスである。
上記の高圧酸浸出法は、一般的にはニッケル酸化鉱石に水を加えて調製した鉱石スラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出処理する浸出工程と、該浸出工程で得た浸出スラリーを多段洗浄しながら浸出残渣を分離除去することでニッケル及びコバルトと共に不純物元素を含む浸出液を得る固液分離工程と、該浸出液のpHを調整すると共に、上記浸出残渣の一部と凝結剤や凝集剤とを添加することで不純物元素を含む中和澱物を生成した後、これを分離除去してニッケル及びコバルトを含む中和終液を得る中和工程と、該中和終液を硫化水素ガスで硫化処理することにより亜鉛及び銅を含む混合硫化物を生成した後、これを分離除去して脱亜鉛終液を得る脱亜鉛工程と、該脱亜鉛終液を硫化水素ガスで硫化処理することによりニッケルコバルト混合硫化物を生成した後、これを固液分離により回収するニッケル回収工程とから構成される。
上記の硫化処理においては、硫化水素ガスによる硫化反応を効率よく行わせるため、反応槽内の圧力、反応時間、反応溶液のpH、種晶の添加等を調整する様々な技術が提案されている。例えば特許文献1には、ニッケル硫化物の生成を行う硫化工程において、硫酸酸性溶液に含まれるニッケル量に対して、粒径を調整したニッケル硫化物を種晶として特定の割合で添加し、この種晶が添加された硫酸酸性溶液に、特定の吹き込み量で硫化水素ガスを吹き込んで硫化反応を生じさせる技術が提案されており、これにより粒径が所定の範囲内に制御されたニッケルコバルト混合硫化物を安定的に生成できると記載されている。
また、例えば特許文献2には、硫化反応の反応効率を改善させるため、反応槽に水硫化ナトリウムを添加する技術が開示されている。具体的には、この技術は、反応槽に硫化水素ガスを過剰に吹き込むことで該反応槽から排出される未反応の硫化水素ガスを水酸化ナトリウム水溶液で吸収し、これにより得られる水硫化ナトリウム水溶液を該反応槽に添加するものである。これにより、硫化反応の進行に伴う反応溶液のpH低下が抑制されるので、生成した硫化物の再溶解が抑制され、よって反応終液におけるニッケルやコバルトの濃度を低く維持できるので、有価金属であるニッケルやコバルトを高効率で回収することができると記載されている。
近年、上記のニッケル酸化鉱石を湿式製錬することで製造されるニッケルコバルト混合硫化物は、更に精製工程を経ることで、電気ニッケル、硫酸ニッケル、又は塩化ニッケル等の形態のニッケル中間製品や、電気コバルト、硫酸コバルト、又は塩化コバルト等の形態のコバルト中間製品に作製された後、車載用電池の材料として最終加工される場合が増加している。上記の車載用電池に代表される電池材料の用途では、最終加工後の電池材料に含まれるマグネシウムの品位を低く抑えることが求められている。
そのため、上記精製工程の上流工程であるニッケル酸化鉱石の湿式製錬においても、ニッケルコバルト混合硫化物のマグネシウム品位を低く制御することが求められている。このニッケルコバルト混合硫化物のマグネシウム品位を制御する方法について、従来様々な方法が提案されている。例えば特許文献3には、ニッケル酸化鉱石を酸浸出して得た酸性溶液に対して、溶媒抽出法を用いてマグネシウム品位の低い硫酸ニッケルを得る方法が開示されている。
特開2016-160526号公報 特開2010-126778号公報 特開2013-100204号公報
しかしながら、上記特許文献3に開示されているような溶媒抽出法を用いてマグネシウム品位を制御する場合は、引火性の高い有機溶媒を用いるため、環境保全や安全性への配慮が必要になり、設備コスト等がその分高くなる。また、既存の湿式製錬設備に溶媒抽出法を適用すると、該湿式製錬の工程自体を変更することが必要になる場合があるため、容易に採用することはできなかった。従って、現状の工程を大きく変更することなくマグネシウム品位を制御可能な、溶媒抽出法に代わる技術が求められている。
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、既存の高圧酸浸出プロセスを特に変更することなく、ニッケルコバルト混合硫化物中のマグネシウム品位を効率的に制御する方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、ニッケル酸化鉱石を硫酸溶液と共に加圧容器に入れて高圧下で酸浸出する浸出工程と、該浸出工程で得た浸出スラリーを洗浄しながら浸出残渣を分離除去してニッケル及び不純物元素を含む浸出液を得る固液分離工程と、該浸出液に中和剤を添加してpH調整すると共に凝集剤を添加して不純物元素を含む中和澱物を生成した後、該中和澱物を分離除去してニッケルを含む中和終液を得る中和工程と、該中和終液に硫化剤を添加して亜鉛硫化物を生成した後、該亜鉛硫化物を分離除去してニッケル回収母液を得る脱亜鉛工程と、該ニッケル回収母液に硫化剤として水硫化ナトリウムと過剰の硫化水素ガスとを添加してニッケルを含む混合硫化物を生成した後、該混合硫化物を固液分離により回収するニッケル回収工程とからなるニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法であって、前記ニッケル回収母液におけるニッケル濃度に対するマグネシウム濃度の濃度比に応じて前記水硫化ナトリウムの添加量を調整することを特徴とする。
本発明によれば、ニッケルコバルト混合硫化物中のマグネシウム品位を効率的に制御することができる。
本発明のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の実施形態のプロセスフロー図である。 図2のニッケル回収工程おける不純物品位の制御方法の一具体例を示すフロー図である。 本発明の実施例の湿式製錬法で生成したニッケル回収母液のニッケル濃度(g/L)に対するマグネシウム濃度(g/L)の濃度比をパラメータとして、水酸化ナトリウムの添加量とニッケルコバルト混合硫化物中のマグネシウム品位との関係をプロットしたグラフである。
1. ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法
以下、本発明に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。本発明の実施形態の湿式製錬方法(以下、単に「湿式製錬プロセス」とも称する)は、図1に示す高圧酸浸出法(HPAL法)のプロセスフローに沿って原料のニッケル酸化鉱石を処理してニッケルコバルト混合硫化物を作製するものであり、そのニッケル回収工程において不純物品位の制御が行われる。なお、本明細書においては、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、特にことわらない限り「X以上Y以下」を意味している。
具体的には、原料としてのニッケル酸化鉱石に水を加えて調製した鉱石スラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出処理を施す浸出工程S1と、該浸出工程S1で得た浸出スラリーに中和剤を添加してpHを所定範囲に調整する予備中和工程S2と、該予備中和工程S2でpH調整された浸出スラリーを多段洗浄しながら浸出残渣を分離除去することでニッケル及びコバルトと共に不純物元素を含む浸出液を得る固液分離工程S3と、該浸出液にpH調整剤を添加することで不純物元素を含む中和澱物を生成し、該中和澱物を分離除去してニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を得る中和工程S4と、該中和終液に硫化剤を添加することで亜鉛硫化物を生成し、該亜鉛硫化物を分離除去してニッケル及びコバルトを含むニッケル回収母液を得る脱亜鉛工程S5と、該ニッケル回収母液に硫化剤として水硫化ナトリウム及び過剰の硫化水素を添加することでニッケル及びコバルトを含む混合硫化物を生成した後、該混合硫化物をニッケル回収終液から固液分離するニッケル回収工程S6と、該ニッケル回収終液に酸化性スラリーを所定量添加して硫化剤の分解処理を行う硫化剤除去工程S7と、該硫化剤除去工程S7での処理により排出される貧液を上記固液分離工程S3から排出される浸出残渣と共に無害化処理する最終中和工程S8とを有している。以下、これら工程の各々について説明する。
(1)浸出工程
浸出工程S1では、原料としてのコバルトを含むニッケル酸化鉱石を所定の粒度に粉砕した後、水を加えて所定のスラリー濃度に調製した鉱石スラリーをオートクレーブと称する圧力容器に硫酸と共に装入し、該鉱石スラリーに対して攪拌しながら、圧力3~4.5MPaG程度、温度220~280℃程度の高温高圧条件下で高圧酸浸出処理を施すことによって、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを生成する。
この浸出工程S1で処理されるニッケル酸化鉱石は、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱である。ラテライト鉱のニッケル含有量は、一般に0.8~2.5質量%であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含まれている。このニッケル酸化鉱石は、鉄の含有量が10~50質量%であり、これは主として3価の水酸化物(ゲーサイト)の形態を有しており、一部2価の鉄がケイ苦土鉱物に含まれている。浸出工程S1の原料には、上記のラテライト鉱のほか、ニッケル、コバルト、マンガン、銅等の有価金属を含有する例えば深海底に賦存するマンガン瘤等の酸化鉱石が用いられることがある。
この浸出工程S1における高圧酸浸出処理では、下記式1~3で表される浸出反応と下記式4及び5で表される高温熱加水分解反応とが生じ、ニッケル、コバルト等の硫酸塩としての浸出と、浸出された硫酸鉄のヘマタイトとしての固定化が行われる。ただし、鉄イオンの固定化は完全には進行しないため、得られる浸出スラリーの液部分には、ニッケル、コバルト等のほかに通常は2価と3価の鉄イオンが含まれる。
[式1]
MO+HSO→MSO+H
(式中、Mは、Ni、Co、Fe、Zn、Cu、Mg、Cr、Mn等を表す)
[式2]
2Fe(OH)+3HSO→Fe(SO)+6H
[式3]
FeO+HSO→FeSO+H
[式4]
2FeSO+HSO+1/2O→Fe(SO)+H
[式5]
Fe(SO)+3HO→Fe+3HSO
浸出工程S1において上記オートクレーブに装入する硫酸の添加量には特に限定はないが、上記原料の鉱石中の鉄が効率よく浸出されるように過剰に添加するのが好ましい。なお、浸出工程S1では、生成したヘマタイトを含む浸出残渣が後工程の固液分離工程S3においてろ過性を低下させることがないように、浸出液のpHを0.1~1.0に調整することが好ましい。
(2)予備中和工程
予備中和工程S2では、上記浸出工程S1にて得た浸出スラリーのpHを所定の範囲に調整する。すなわち、前述したように上記浸出工程S1の高圧酸浸出処理では、浸出率を向上させる観点から過剰の硫酸が添加されるため、オートクレーブから抜き出される浸出スラリーにはフリー硫酸(浸出反応に関与しなかった余剰の硫酸であり、遊離硫酸とも称する)が含まれており、そのpHは非常に低い。そこで、予備中和工程S2では、次工程の固液分離工程S3における多段洗浄の際に効率よく洗浄が行われるように、浸出スラリーのpHを好ましくは2~6程度の範囲内に調整する。
この浸出スラリーのpHが2より低いと、後工程の装置の接液部の腐食対策にかなりのコストがかかるので好ましくない。逆に浸出スラリーのpHが6より高いと、浸出液(スラリー)中に浸出したニッケルが、洗浄の過程で析出して残渣として沈殿し、洗浄効率を低下させるおそれがあるので好ましくない。上記のpHの調整方法としては特に限定はないが、例えば炭酸カルシウム等の中和剤をスラリーの形態で添加することによって好適に調整することができる。
(3)固液分離工程
固液分離工程S3では、上記予備中和工程S2にてpH調整された浸出スラリーを洗浄液と共にシックナー等の沈降分離設備に導入し、更に凝集剤供給設備等から供給される好適にはアニオン系の凝集剤を添加することで、浸出残渣を洗浄しながら凝集させて効率的に沈降分離を行う。これにより、ニッケル及びコバルトのほか亜鉛等の不純物元素を含む浸出液(粗硫酸ニッケル水溶液)が得られる。上記のようにシックナーを用いる場合は、浸出スラリー中の浸出残渣が沈降物として濃縮され、その際、洗浄液による浸出スラリーの希釈の度合いに応じて、浸出残渣に付着するニッケル分を減少させることができる。濃縮スラリーの形態でシックナーの底部から抜き出される浸出残渣は、後述する最終中和工程S8において中和処理が施されることで重金属が除去された後、テーリングダムに移送される。
この固液分離工程S3では、連続向流洗浄法(CCD法:Counter Current Decantation)を採用することが好ましい。この洗浄法は、複数基のシックナーを直列に連結し、それらのうち、先頭のシックナーに浸出スラリーを導入すると共に末端のシックナーに洗浄液を導入することで、各シックナーの底部から抜き出される濃縮スラリーを順次隣接する後段のシックナーに移送しながら、各シックナーからオーバーフローにより排出される上澄液を順次隣接する前段のシックナーに移送するものである。これにより、浸出スラリーを多段洗浄できるので、系内に新たに導入する洗浄液の量を少量に抑えながらニッケル及びコバルトの回収率を95%以上確保することが可能になる。
上記の洗浄液の種類には特に限定はないが、ニッケルをほとんど含んでおらず、固液分離工程の際に浸出スラリーに悪影響を及ぼさないものが好ましい。特に、洗浄液にはpHが1~3の水溶液を用いることが好ましい。洗浄液のpHが3よりも高いと、浸出液中にアルミニウムが含まれる場合には嵩の高いアルミニウム水酸化物が生成され、浸出残渣の沈降性が悪化するおそれがあるからである。このようなpH1~3程度の洗浄液としては、後工程のニッケル回収工程S6における混合硫化物の固液分離による回収時に液相側として排出される低pHのニッケル回収終液か、これを硫化剤除去工程S7で処理した後の貧液が適しているので、これを繰り返して利用するのが好ましい。
(4)中和工程
中和工程S4では、上記固液分離工程S3において浸出残渣から分離された粗硫酸ニッケル水溶液からなる浸出液に炭酸カルシウム等のpH調整剤を添加し、これによりpH調整することで、該浸出液の酸化を抑制しながら不純物元素を含む中和澱物を生成する。この中和澱物を固液分離により除去することで、ニッケル及びコバルトと共に主に亜鉛からなる不純物元素を含む中和終液が得られる。この中和工程S4では、中和終液のpHが4以下、好ましくは3.0~3.5、より好ましくは3.1~3.2になるように上記pH調整を行うのが好ましく、これにより浸出液中に残留する主に3価の鉄イオンやアルミニウムイオンを中和澱物として効果的に除去することができる。
(5)脱亜鉛工程
脱亜鉛工程S5では、例えば微加圧された脱亜鉛反応槽に上記中和工程S4で処理された中和終液を導入し、更に該反応槽の気相中に硫化水素ガスなどの硫化剤を吹き込むことにより硫化処理を施す。これにより、ニッケル及びコバルトに対して亜鉛が選択的に硫化され、亜鉛硫化物が生成される。この亜鉛硫化物を分離除去することにより、ニッケル及びコバルトを含む硫酸溶液からなるニッケル回収母液(脱亜鉛終液)が得られる。なお、このニッケル回収母液は、通常は不純物成分としての鉄、マグネシウム、マンガン等を各々数g/L程度含んでいる。
(6)ニッケル回収工程
ニッケル回収工程S6では、上記脱亜鉛反応槽よりも高い圧力に加圧された硫化反応槽に上記ニッケル回収母液を導入し、更に硫化剤として硫化水素ガス及び水硫化ナトリウムを添加する。これにより、硫化反応を生じさせてニッケル及びコバルトを含む硫化物(ニッケルコバルト混合硫化物)を生成する。このニッケルコバルト混合硫化物は、ろ過などの固液分離により固形分として回収され、液側にはニッケル回収終液が排出される。
なお、このニッケル回収工程S6で処理されるニッケル回収母液は前述したようにFe、Mg、Mn等の不純物を含んでいるが、これら不純物成分はニッケル及びコバルトに比べて硫化物としての安定性が低いため、上記ニッケルコバルト混合硫化物には分配されにくい。一般的にはニッケルコバルト混合硫化物中の不純物成分の含有量は10~500質量ppm程度であるが、このニッケルコバルト混合硫化物を車載用電池向け用途に供される場合は、マグネシウム品位を100質量ppm以下に管理することが求められる。
上記硫化反応槽には、直列に連結した複数の反応槽を用いることが好ましく、限定するものではないが、それら硫化反応槽の基数は3基が好ましく、4基がより好ましい。このように複数の硫化反応槽で構成する場合は、最も上流に位置する反応槽(第1の反応槽)に、ニッケルを含む硫酸酸性溶液からなる硫化反応始液(ニッケル回収母液)が供給され、更に硫化水素ガス及び水硫化ナトリウムが添加されて硫化処理が行われる。
この第1の反応槽で硫化処理されたニッケル回収母液は、直ぐ後段に位置する反応槽(第2の反応槽)に移送され、引き続き硫化処理が行われる。同様にして最も下流側に位置する反応槽で硫化処理されるまで順次後段の反応槽に移送されて連続的に硫化処理が行われる。本発明の実施形態の湿式製錬方法においては、このニッケル回収工程S6において、不純物であるマグネシウムの濃度が制御される。このマグネシウムの濃度の制御については後で詳細に説明する。
(7)硫化剤除去工程
上記のニッケル回収工程S6においてニッケルコバルト混合硫化物の回収時に液相側として排出されるニッケル回収終液には、脱亜鉛工程S5やニッケル回収工程S6において添加した硫化水素などの硫化剤のうち未反応のものが溶存している。そのため、硫化剤除去工程S7では該ニッケル回収終液に対して空気を吹き込むと共に、後述する最終中和工程S8で生成した酸化性スラリーを添加し、該ニッケル回収終液に含まれる硫化剤に起因する溶存硫化水素を硫黄として固定化して除去する。これにより貧液が得られる。
(8)最終中和工程
上記硫化剤除去工程S7での処理により得られる貧液は、鉄のほか、マグネシウム、マンガン、アルミニウム等の不純物成分を含み得るため、最終中和工程S8では上記貧液及び上記固液分離工程S3からスラリーの形態で排出される浸出残渣に対して石灰石などの中和剤を添加して所定のpH範囲に調整する中和処理(無害化処理)を施す。これにより、これら貧液や浸出残渣スラリーに含まれる3価の鉄から水酸化鉄を析出させる。なお、この最終中和工程S8では、上記の無害化処理によりマンガン等の不純物成分も排出基準を満たすまで除去することができ、系外に放出可能な排水終液が得られる。
上記無害化処理は、例えば石灰石などの第1の中和剤を添加してpH5~6で中和処理を行う第1の最終中和処理と、消石灰などの第2の中和剤を添加してpH8.5~9.5で中和処理を行う第2の最終中和処理とからなる2段階での処理が好ましい。このように段階的に中和処理を行うことで、不純物成分の濃度を系外に放出可能なレベルまで効率よく除去することができる。
2.マグネシウム品位の制御方法
本発明の実施形態に係る湿式製錬方法では、上記ニッケル回収工程S6において、硫化反応槽内の硫化反応始液に添加する水硫化ナトリウムの添加量を調整することにより、不純物であるマグネシウムの濃度を制御している。硫化反応槽が直列に連結する4基の反応槽で構成される場合について具体的に説明すると、図2に示すように、4基の反応槽のうちの最も上流側に位置する第1の反応槽1に、硫化反応始液であるニッケル回収母液が供給されると共に、ガス吹き込み口から第1の反応槽1内の気相部分に化学量論量の1.5~2.5倍程度の過剰の硫化水素ガスが吹き込まれる。
更に、この第1の反応槽1には、後述するように、硫化反応槽から排出される未反応の硫化水素ガスを水酸化ナトリウムで吸収することで生成される水硫化ナトリウムが添加される。これにより、ニッケル回収母液は、この第1の反応槽1内において所定の滞留時間に亘り滞留する間に硫化反応が生じてニッケル硫化物が生成する。この生成したニッケル硫化物を含む溶液は、次に第2の反応槽2に移送され、引き続き硫化反応が進行する。同様に、第3の反応槽3及び第4の反応槽4に順次移送され、硫化反応が進行する。このように、複数の反応槽で硫化処理を行う場合は、最上流の反応槽において主としてニッケル硫化物粒子の生成反応が生じ、2番目以降の反応槽において、上記最上流の反応槽で生成したニッケル硫化物粒子のいわゆる成長が生じる。
反応後のスラリー(反応終液)は、最も下流側に位置する反応槽である第4の反応槽4の底部から排出され、シックナー等の固液分離装置5に導入され、ここでニッケル硫化物が回収されると共に、液相側として反応終液である貧液が排出される。一方、この第4の反応槽4の気相部からは、硫化剤として第1の反応槽1に過剰に添加した硫化水素のうち、硫化反応に関与しなかった未反応のものが排出される。この未反応の硫化水素を含むガスは、充填塔6の塔底に導入され、ここで塔頂から供給される水酸化ナトリウム水溶液と向流気液接触し、該水酸化ナトリウム水溶液に吸収される。これにより水硫化ナトリウムが生成する。この水硫化ナトリウムを含む水溶液は、充填塔6の塔底から抜き出され、ポンプ7で昇圧された後、第1の反応槽1に供給される。
上記の水酸化ナトリウムによる吸収反応では、理論上は1モルの水酸化ナトリウムから1モルの水硫化ナトリウムが生成されるため、ニッケル回収母液中のニッケル含有量に対する水硫化ナトリウムの添加量の制御を、水硫化ナトリウムの添加量(mol-NaSH)による制御に代えて水酸化ナトリウムの添加量(mol-NaOH)により制御することができる。すなわち、本発明の実施形態の湿式製錬方法においては、ニッケル回収母液中のニッケルの1モルに対して添加する水酸化ナトリウムのモル量(mol-NaOH/mol-Ni)を操作変数として間接的に制御を行う。
更に、本発明の実施形態の湿式製錬方法においては、硫化反応始液であるニッケル回収母液のニッケル濃度(g/L)に対するマグネシウム濃度(g/L)の濃度比に応じて上記のニッケル1モルに対して添加する水酸化ナトリウムのモル量を調整する。これにより、硫化反応槽内の圧力や液レベルに悪影響を及ぼすことなく、効率よく安定的にニッケルコバルト混合硫化物のマグネシウム品位を制御することができる。
具体的には、ニッケル回収母液のニッケル濃度(g/L)に対するマグネシウム濃度(g/L)の濃度比が2.5以上の場合は、ニッケル回収母液中のニッケル1モルに対して添加する水酸化ナトリウムのモル量(mol-NaOH/mol-Ni)を0.23以上0.35以下の範囲内で制御し、ニッケル回収母液のニッケル濃度(g/L)に対するマグネシウム濃度(g/L)の濃度比が2.0以上2.5未満の場合は、上記ニッケル回収母液中のニッケル1モルに対して添加する水酸化ナトリウムのモル量(mol-NaOH/mol-Ni)を0.20以上0.40以下の範囲内で制御し、ニッケル回収母液のニッケル濃度(g/L)に対するマグネシウム濃度(g/L)の濃度比が1.2以上2.0未満の場合は、上記ニッケル回収母液中のニッケル1モルに対して添加する水酸化ナトリウムのモル量(mol-NaOH/mol-Ni)を0.05以上0.45以下の範囲内で制御する。これにより、ニッケルコバルト混合硫化物中のマグネシウム品位を100質量ppm以下の範囲内で調整することができる。
上記の制御は、図2に示すように、ニッケル回収母液のニッケル濃度及びマグネシウム濃度を分析し、それら分析結果をCPU(Central Processing Unit)などの演算手段に入力して、上記のニッケル濃度に対するマグネシウム濃度の濃度比をパラメータとする水酸化ナトリウムの添加量とマグネシウム品位との関係から上記分析により得たニッケル濃度を有するニッケル回収母液を硫化処理して得られるニッケルコバルト混合硫化物のマグネシウム品位を所定の値にするために必要な水酸化ナトリウムの量を演算し、この演算結果に基づいて、充填塔6に供給される水酸化ナトリウム水溶液の供給ラインに設けた調節弁の開度を調整すればよい。なお、上記のニッケル濃度及びマグネシウム濃度の分析は、例えば誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置により分析するのが好ましい。
なお、ニッケル回収工程S6において、ニッケル回収母液に水硫化ナトリウムを添加することでニッケルコバルト混合硫化物のマグネシウム品位が下がる理由は、水硫化ナトリウム添加量がニッケルコバルト混合硫化物の粒子径に影響を及ぼすことが原因と考えられる。すなわち、水硫化ナトリウムの添加量が減少すると、ニッケルコバルト混合硫化物粒子の核発生量が低下するので、ニッケルコバルト混合硫化物粒子が大きく成長しやすくなり、この成長の際に、ニッケルコバルト混合硫化物粒子の内部にマグネシウムがトラップされる機会が増えるので、マグネシウム品位が高くなると考えられる。
逆に、水硫化ナトリウムの添加量が増加すると、ニッケルコバルト混合硫化物粒子の核発生量が増加するので、ニッケルコバルト混合硫化物粒子が小さいまま成長しにくくなるので、マグネシウムがトラップされる機会が減るうえ、ニッケルコバルト混合硫化物粒子全体としての表面積が大きくなるため、ニッケル回収工程S6の硫化処理後の例えばフィルタープレスによる固液分離において、効率的に洗浄や脱水が行われ、ニッケルコバルト混合硫化物粒子の表面に付着したマグネシウムがより洗浄により除去されるためと考えられる。
以上、本発明のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法について実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更例や代替例を含みうるものである。すなわち、本発明の権利範囲は特許請求の範囲及びその均等の範囲に及ぶものである。次に、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
図1に示す湿式製錬プロセスのプロセスフローに沿ってニッケル酸化鉱石を処理してニッケルコバルト混合硫化物を作製した。その際、ニッケル回収工程S6の硫化処理を行う硫化反応槽には、図2に示すような直列に連結された4基の反応槽を使用し、ニッケルを含む硫酸酸性溶液からなる硫化反応始液としてのニッケル回収母液を、硫化剤としての硫化水素ガス及び水硫化ナトリウムと共に第1の反応槽1に導入し、順次後段の反応槽に移送することで硫化処理を行った。
第1の反応槽1に供給した硫化水素ガスは、該硫化反応始液に含まれるニッケル及びコバルトからニッケルコバルト混合硫化物を生成するのに必要な化学量論量の1.5倍の過剰量を供給した。これにより、第4の反応槽4から排出される未反応の硫化水素を含むガスを充填塔6に導入し、ここで濃度20~30質量%の水酸化ナトリウム水溶液に吸収させて水硫化ナトリウムを生成した。そして、この充填塔6の塔底から液位制御により抜き出される水硫化ナトリウム水溶液を第1の反応槽1に供給した。この運転の際、硫化反応始液のニッケル濃度(g/L)に対するマグネシウム濃度(g/L)を様々に変えながら、また、水硫化ナトリウムの添加量も様々に変えながら硫化処理を行い、各条件の下で生成されたニッケルコバルト混合硫化物のマグネシウム品位を蛍光X線分析装置により測定した。その結果を図3に示す。
この図3のグラフは、ニッケル回収母液のニッケル1モルに対して添加した水酸化ナトリウムのモル量とマグネシウム品位(ppm)との関係を該ニッケル回収母液のニッケル濃度に対するマグネシウム濃度の濃度比をパラメータとしてプロットしたものである。なお、図3のグラフ中に示されている3本の線は、それぞれ対応するプロット群を最小2乗法で近似させて得た1次関数式である。
この図3から、ニッケル回収母液のニッケル濃度(g/L)に対するマグネシウム濃度(g/L)の濃度比が2.5以上の場合は、硫化反応始液のニッケル1モルに対して添加する水酸化ナトリウムのモル量を0.23以上0.35以下で管理することにより、ニッケルコバルト混合硫化物中のマグネシウム品位を100ppm以下の範囲内で制御できることが分かる。
また、ニッケル回収母液のニッケル濃度(g/L)に対するマグネシウム濃度(g/L)の濃度比が2.0以上2.5未満の場合は、硫化反応始液のニッケル1モルに対して添加する水酸化ナトリウムのモル量を0.20以上0.40以下で管理することにより、ニッケルコバルト混合硫化物中のマグネシウム品位を100ppm以下の範囲内で制御できることが分かる。
更に、ニッケル回収母液のニッケル濃度(g/L)に対するマグネシウム濃度(g/L)の濃度比が1.2以上2.0未満の場合は、硫化反応始液のニッケル1モルに対して添加する水酸化ナトリウムのモル量を0.05以上0.45以下で管理することにより、ニッケルコバルト混合硫化物中のマグネシウム品位を100ppm以下の範囲内で制御できることが分かる。
S1 浸出工程
S2 予備中和工程
S3 固液分離工程
S4 中和工程
S5 脱亜鉛工程
S6 ニッケル回収工程
S7 硫化剤除去工程
S8 最終中和工程
1 第1の反応槽
2 第2の反応槽
3 第3の反応槽
4 第4の反応槽
5 固液分離装置
6 充填塔
7 演算手段

Claims (4)

  1. ニッケル酸化鉱石を硫酸溶液と共に加圧容器に入れて高圧下で酸浸出する浸出工程と、該浸出工程で得た浸出スラリーを洗浄しながら浸出残渣を分離除去してニッケル及び不純物元素を含む浸出液を得る固液分離工程と、該浸出液に中和剤を添加してpH調整すると共に凝集剤を添加して不純物元素を含む中和澱物を生成した後、該中和澱物を分離除去してニッケルを含む中和終液を得る中和工程と、該中和終液に硫化剤を添加して亜鉛硫化物を生成した後、該亜鉛硫化物を分離除去してニッケル回収母液を得る脱亜鉛工程と、該ニッケル回収母液に硫化剤として水硫化ナトリウムと過剰の硫化水素ガスとを添加してニッケルを含む混合硫化物を生成した後、該混合硫化物を固液分離により回収するニッケル回収工程とからなるニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法であって、
    前記ニッケル回収母液におけるニッケル濃度に対するマグネシウム濃度の濃度比に応じて前記水硫化ナトリウムの添加量を調整することを特徴とするニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
  2. 前記水硫化ナトリウムは、前記過剰に添加した硫化水素ガスのうち、未反応ガスとして放出されるものを水酸化ナトリウム水溶液で吸収することで生成することを特徴とする、請求項1に記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
  3. 前記水硫化ナトリウムの添加量の調整は、前記水酸化ナトリウム水溶液の添加量で間接的に調整されることを特徴とする、請求項2に記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
  4. 前記ニッケル回収母液のニッケル濃度に対するマグネシウム濃度の濃度比が2.5を超える場合は、前記ニッケル回収母液中のニッケル1モルに対して添加する水酸化ナトリウムのモル量を0.17以上0.27以下で制御し、前記ニッケル回収母液のニッケル濃度に対するマグネシウム濃度の濃度比が2.0を超え2.5以下の場合は、前記ニッケル回収母液中のニッケル1モルに対して添加する水酸化ナトリウムのモル量を0.20以上0.40以下で制御し、前記ニッケル回収母液のニッケル濃度に対するマグネシウム濃度の濃度比が1.2を超え2.0以下の場合は、前記ニッケル回収母液中のニッケル1モルに対して添加する水酸化ナトリウムのモル量を0.24以上0.40以下で制御することを特徴とする、請求項に記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
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