JP5692458B1 - 固液分離処理方法、並びにニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】スラリーに対して多段洗浄を施しながら、スラリー中の固形分を分離除去する固液分離処理方法において、シックナーの連結段数を少なくした場合であっても、得られる上澄み液の透明度を向上させることができる方法を提供する。【解決手段】その周縁部に上澄み液を排出するオーバーフロー部と、その中心部に垂直に配設された筒状のフィードウェルとを有する沈降分離槽と、撹拌槽とを備えたシックナーを多段に設けて、スラリーを多段洗浄しながらスラリー中の固形分を分離し、その固形分が除去された溶液を得る固液分離処理方法において、スラリー中の固形分を凝集させるための凝集剤を添加する際に、所定割合の凝集剤を第1段目のシックナーにおけるフィードウェルに添加し、その残りの凝集剤を第2段目のシックナーにおけるオーバーフロー部に添加する。【選択図】図2
Description
本発明は、固液分離処理方法、並びにニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法に関する。
近年、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬法として、硫酸を用いた高圧酸浸出法(High Pressure Acid Leach)が注目されている。この方法は、乾燥及び焙焼工程等の乾式処理工程を含まず、一貫した湿式工程からなるので、エネルギー的及びコスト的に有利であるとともに、ニッケル品位を50重量%程度まで向上させたニッケル・コバルト混合硫化物を得ることができるという利点を有している。
具体的に、ニッケル・コバルト混合硫化物を得るための高圧酸浸出法によるニッケルの湿式製錬法としては、例えば以下の工程を含む。すなわち、
(1)ニッケル酸化鉱石を高温加圧酸浸出して、浸出スラリーを得る工程と、
(2)浸出スラリーを固液分離して、ニッケル及びコバルトのほかに不純物元素として亜鉛を含有する粗硫酸ニッケル水溶液(浸出液)を得る工程と、
(3)粗硫酸ニッケル水溶液を硫化反応槽内に導入し、硫化水素ガス等の硫化剤を添加して、粗硫酸ニッケル水溶液中に含有される亜鉛を硫化し、固液分離して亜鉛硫化物と脱亜鉛終液を得る工程と、
(4)脱亜鉛終液を硫化反応槽内に導入し、硫化水素ガス等の硫化剤を添加して、脱亜鉛終液中に含有されるニッケル及びコバルトを硫化し、固液分離してニッケル・コバルト混合硫化物と製錬廃液(貧液)を得る工程
とを含む。
(1)ニッケル酸化鉱石を高温加圧酸浸出して、浸出スラリーを得る工程と、
(2)浸出スラリーを固液分離して、ニッケル及びコバルトのほかに不純物元素として亜鉛を含有する粗硫酸ニッケル水溶液(浸出液)を得る工程と、
(3)粗硫酸ニッケル水溶液を硫化反応槽内に導入し、硫化水素ガス等の硫化剤を添加して、粗硫酸ニッケル水溶液中に含有される亜鉛を硫化し、固液分離して亜鉛硫化物と脱亜鉛終液を得る工程と、
(4)脱亜鉛終液を硫化反応槽内に導入し、硫化水素ガス等の硫化剤を添加して、脱亜鉛終液中に含有されるニッケル及びコバルトを硫化し、固液分離してニッケル・コバルト混合硫化物と製錬廃液(貧液)を得る工程
とを含む。
この湿式製錬方法において、工程(2)における固液分離工程では、通常、工程(1)から得られた浸出スラリーをシックナーによって粗硫酸ニッケル水溶液と浸出残渣とに分離すると同時に、その浸出スラリーを多段洗浄する処理が行われる。具体的に、多段洗浄方法としては、シックナーを多段に連結させて、その浸出スラリーを有価金属を含まない洗浄液に向流で接触させて残渣の付着水を洗い流す連続向流洗浄法(CCD法:Counter Current Decantation)が用いられ、これによって有価金属の回収率を向上させている。残渣を洗浄する方法としては、様々な方法が知られているが、このCCD法を用いることによって系内に新たに導入する洗浄液を削減するとともに、ニッケル及びコバルトの回収率を例えば95%以上とすることが可能となる(例えば、特許文献1〜3を参照。)。
ところで、粗硫酸ニッケル水溶液(浸出液)に基づいて回収されるニッケル及びコバルトの回収率は、その浸出液の濁度と相関関係があることが知られている。このことから、実操業におけるニッケル及びコバルトの回収率は、得られた粗硫酸ニッケル水溶液の濁度で管理されている。具体的に、その値としては、濁度計(例えば、HACH社製2100P型散乱光式濁度計)による測定数値で、200NTU以下である。このことは、粗硫酸ニッケル水溶液の透明度が高いほど(濁度が低いほど)、固形分の凝集が進行し、また付着水の洗浄が十分に行われていることを意味し、良好な相関関係が成立している。
CCD法によって多段洗浄する際には、その段数(シックナーの連結段数)が多ければ多いほど、固形分の凝集と、付着水の洗浄が進むため、粗硫酸ニッケル水溶液の透明度が高くなり、有価金属の回収率は向上することになる。しかしながら、設置スペースの制限や、初期投資の制限があるため、無制限に段数を増加させることはできない。逆に言えば、より少ない段数であっても従来と同様の回収率を実現することが望まれている。
従来、例えば特許文献1〜3による操業では、ニッケル及びコバルトの回収率を95%以上(濁度200NTU以下)とするためには、少なくとも5段による多段洗浄が必要となっており、6〜7段の多段洗浄を行うことが一般的であった。
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、シックナーを多段に連結させた装置を用い、スラリーに対して多段洗浄を施しながら、そのスラリー中の固形分を分離除去する固液分離処理方法において、シックナーの連結段数を少なくした場合であっても、スラリーの洗浄を効果的に行い、処理によって得られる上澄み液の透明度を向上させることができる固液分離処理方法、並びにその方法を適用したニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上述した目的を達成するために鋭意検討を重ねた。その結果、シックナーを多段に連結させて多段洗浄して固液分離処理を行う際に、スラリー中の固形分を凝集させる凝集剤を、第1段目のシックナーのフィードウェルに添加するとともに、第2段目のシックナーのオーバーフロー部にその一部を添加することで、得られる上澄み液の透明度が高くなることを見出した。
すなわち、本発明に係る固液分離処理方法は、その周縁部に上澄み液を排出するオーバーフロー部と、その中心部に垂直に配設された筒状のフィードウェルとを有する沈降分離槽と、撹拌槽とを備えたシックナーを多段に設けて、スラリーを多段洗浄しながらスラリー中の固形分を分離し、固形分が除去された溶液を得る固液分離処理方法であって、スラリーは、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法においてニッケル酸化鉱石に対して浸出処理を施して得られた浸出スラリーであり、スラリー中の固形分を凝集させるための凝集剤を添加する際に、所定割合の凝集剤を第1段目のシックナーにおけるフィードウェルに添加し、その残りの凝集剤を第2段目のシックナーにおけるオーバーフロー部に添加し、第1段目のシックナーでは、第1段目のシックナーの撹拌槽内に、浸出スラリーと、第2段目のシックナーからのオーバーフロー液が装入され、第1段目のシックナーからの固形分を含むスラリーは、第1段目のシックナーの沈降分離槽の下部から抜き出されて第2段目のシックナーの撹拌槽に装入され、第1段目のシックナーからのオーバーフロー液は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の中和工程に供給され、最終段のシックナーでは、最終段のシックナーの撹拌槽内に、直前のシックナーからの固形分を含むスラリーと洗浄液とが装入され、最終段のシックナーの沈降分離槽の下部から浸出残渣が抜き出され、最終段のシックナーからのオーバーフロー液は、直前のシックナーの撹拌槽内に装入され、多段のシックナーの第1段目及び最終段のシックナーを除くシックナーでは、シックナーの撹拌槽内に、直前のシックナーからの固形分を含むスラリーと直後のシックナーからのオーバーフロー液が装入され、シックナーからの固形分を含むスラリーは、シックナーの沈降分離槽の下部から抜き出されて直後のシックナーの撹拌槽に装入され、シックナーからのオーバーフロー液は、直前のシックナーの撹拌槽内に装入され、浸出スラリー中の浸出残渣を分離して、ニッケル及びコバルトと共に不純物元素を含む浸出液を得ることを特徴とする。
また、第1段目のシックナーのオーバーフロー液の濁度は、200NTU以下であることが好ましい。
また、洗浄液は、pHが1〜3の水溶液であることが好ましい。
また、洗浄液は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法のニッケル回収工程で得られる貧液であることが好ましい。
また、シックナーの段数は、5〜8段であることが好ましい。
また、第1段目のシックナーに添加する凝集剤量と、第2段目のシックナーに添加する凝集剤量の割合を90:10とすることが好ましい。
また、本発明に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、ニッケル酸化鉱石に硫酸を添加して高温高圧下で浸出して得られた浸出液からニッケル及びコバルトを回収するニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、その周縁部に上澄み液を排出するオーバーフロー部と、その中心部に垂直に配設された筒状のフィードウェルとを有する沈降分離槽と、撹拌槽とを備えたシックナーを多段に設けて、ニッケル酸化鉱石を浸出して得られた浸出スラリーを多段洗浄しながら浸出スラリー中の浸出残渣を分離する固液分離処理に際し、所定の割合の凝集剤を第1段目のシックナーにおけるフィードウェルに添加し、その残りの凝集剤を第2段目のシックナーにおけるオーバーフロー部に添加して、浸出スラリーを多段洗浄しながら固液分離処理を施す固液分離工程を含み、第1段目のシックナーでは、第1段目のシックナーの撹拌槽内に、浸出スラリーと、第2段目のシックナーからのオーバーフロー液が装入され、第1段目のシックナーからの固形分を含むスラリーは、第1段目のシックナーの沈降分離槽の下部から抜き出されて第2段目のシックナーの撹拌槽に装入され、第1段目のシックナーからのオーバーフロー液は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の中和工程に供給され、最終段のシックナーでは、最終段のシックナーの撹拌槽内に、直前のシックナーからの固形分を含むスラリーと洗浄液とが装入され、最終段のシックナーの沈降分離槽の下部から浸出残渣が抜き出され、最終段のシックナーからのオーバーフロー液は、直前のシックナーの撹拌槽内に装入され、多段のシックナーの第1段目及び最終段のシックナーを除くシックナーでは、シックナーの撹拌槽内に、直前のシックナーからの固形分を含むスラリーと直後のシックナーからのオーバーフロー液が装入され、シックナーからの固形分を含むスラリーは、シックナーの沈降分離槽の下部から抜き出されて直後のシックナーの撹拌槽に装入され、シックナーからのオーバーフロー液は、直前のシックナーの撹拌槽内に装入されることを特徴とする。
本発明によれば、多段洗浄に用いるシックナーの段数を、より少ない段数とした場合であっても、透明度の高い溶液(上澄み液)を得ることができる。これにより、固液分離装置の設置スペースを縮小させることができ、また初期の設備投資を大幅に削減することができるので、効率的な固液分離処理を行うことが可能となる。
また、この固液分離処理方法をニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法に適用することによって、従来に比べて少ないシックナー段数で多段洗浄を行った場合でも、ニッケル及びコバルトを高い回収率で回収することが可能な浸出液を得ることができる。
以下、本発明に係る固液分離処理方法、並びにその固液分離処理方法を適用したニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の具体的な実施形態について、図面を参照しながら以下の順で詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
1.固液分離処理方法の概要
2.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法について
3.湿式製錬方法における固液分離工程について
3−1.シックナーの構成と多段洗浄
3−2.固液分離処理の具体的な操作
4.実施例
1.固液分離処理方法の概要
2.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法について
3.湿式製錬方法における固液分離工程について
3−1.シックナーの構成と多段洗浄
3−2.固液分離処理の具体的な操作
4.実施例
≪1.固液分離処理方法の概要≫
本実施の形態に係る固液分離処理方法は、スラリーからそのスラリー中に含まれる沈殿物等の固形分を分離して、固液分が除去された上澄みを構成する溶液を得る固液分離処理の方法である。より詳しくは、固液分離装置として、その周縁部に上澄み液を排出するオーバーフロー部と、その中心部に垂直に配設された筒状のフィードウェルとを有する沈降分離槽と、撹拌槽とを備えたシックナーを用い、このシックナーを多段に設けて、処理対象となるスラリーを多段洗浄しながら固形分を分離除去する固液分離処理方法である。
本実施の形態に係る固液分離処理方法は、スラリーからそのスラリー中に含まれる沈殿物等の固形分を分離して、固液分が除去された上澄みを構成する溶液を得る固液分離処理の方法である。より詳しくは、固液分離装置として、その周縁部に上澄み液を排出するオーバーフロー部と、その中心部に垂直に配設された筒状のフィードウェルとを有する沈降分離槽と、撹拌槽とを備えたシックナーを用い、このシックナーを多段に設けて、処理対象となるスラリーを多段洗浄しながら固形分を分離除去する固液分離処理方法である。
具体的に、この固液分離処理方法は、スラリー中の固形分を凝集させるための凝集剤を添加する際に、所定量の凝集剤のうち、所定の割合の凝集剤を第1段目のシックナーにおけるフィードウェルに添加し、その残りの凝集剤を第2段目のシックナーにおけるオーバーフロー部に添加する。
このように、本実施の形態に係る固液分離処理方法は、固液分離に際して添加する凝集剤の添加方法に特徴を有するものである。この固液分離処理方法によれば、多段洗浄に用いるシックナーの段数を、より少ない段数とした場合であっても、従来と同様に透明度(清澄度)の高い溶液(上澄み液)を得ることができる。これにより、固液分離装置の設置スペースを縮小させることができ、また初期の設備投資を大幅に削減することができるので、効率的な固液分離処理を行うことが可能となる。
ここで、本実施の形態に係る固液分離処理方法を適用することができるスラリーとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、ニッケル酸化鉱石に対して浸出処理を施して得られた浸出スラリーを用いることができる。そして、浸出スラリーに対してこの固液分離処理方法を適用することによって、従来よりも少ない段数で以って、浸出スラリー中の浸出残渣を分離して、透明度の高い浸出液を得ることができる。以下では、スラリーとして、ニッケル酸化鉱石に対して浸出処理を施して得られた浸出スラリーを用いた例を具体例として、より具体的に説明する。
≪2.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法について≫
先ず、固液分離処理方法のより具体的な説明に先立ち、その固液分離処理方法が用いられる固液分離工程を含むニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法について説明する。このニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、例えば高圧酸浸出法(HPAL法)を用いて、ニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルトを浸出させて回収する湿式製錬方法である。
先ず、固液分離処理方法のより具体的な説明に先立ち、その固液分離処理方法が用いられる固液分離工程を含むニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法について説明する。このニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、例えば高圧酸浸出法(HPAL法)を用いて、ニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルトを浸出させて回収する湿式製錬方法である。
図1に、ニッケル酸化鉱石の高圧酸浸出法による湿式製錬方法の工程(プロセス)図の一例を示す。図1に示すように、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、ニッケル酸化鉱石のスラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出処理を施す浸出工程S1と、浸出スラリーを多段洗浄しながら残渣を分離して、ニッケル及びコバルトと共に不純物元素を含む浸出液を得る固液分離工程S2と、浸出液のpHを調整し、不純物元素を含む中和澱物を分離してニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を得る中和工程S3と、中和終液に硫化水素ガス等の硫化剤を添加することで亜鉛硫化物を生成させ、その亜鉛硫化物を分離除去してニッケル及びコバルトを含むニッケル回収用母液を得る脱亜鉛工程S4と、ニッケル回収用母液に硫化剤を添加することでニッケル及びコバルトを含む混合硫化物を形成するニッケル回収工程S5とを有する。
(1)浸出工程
浸出工程S1では、ニッケル酸化鉱石に対して、例えば高圧酸浸出法を用いた浸出処理を施す。具体的には、原料となるニッケル酸化鉱石を粉砕等して得られた鉱石スラリーに硫酸を添加し、例えば高温加圧容器(オートクレーブ)を用いて、220〜280℃の高い温度条件下で加圧することによって鉱石スラリーを攪拌し、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを形成する。
浸出工程S1では、ニッケル酸化鉱石に対して、例えば高圧酸浸出法を用いた浸出処理を施す。具体的には、原料となるニッケル酸化鉱石を粉砕等して得られた鉱石スラリーに硫酸を添加し、例えば高温加圧容器(オートクレーブ)を用いて、220〜280℃の高い温度条件下で加圧することによって鉱石スラリーを攪拌し、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを形成する。
浸出工程S1で用いるニッケル酸化鉱石としては、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱である。ラテライト鉱のニッケル含有量は、通常、0.8〜2.5重量%であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含有される。また、鉄の含有量は、10〜50重量%であり、主として3価の水酸化物(ゲーサイト)の形態であるが、一部2価の鉄がケイ苦土鉱物に含有される。また、浸出工程S1では、このようなラテライト鉱の他に、ニッケル、コバルト、マンガン、銅等の有価金属を含有する酸化鉱石、例えば深海底に賦存するマンガン瘤等が用いられる。
この浸出工程S1における浸出処理では、浸出反応と高温熱加水分解反応が生じ、ニッケル、コバルト等の硫酸塩としての浸出と、浸出された硫酸鉄のヘマタイトとしての固定化が行われる。ただし、鉄イオンの固定化は完全には進行しないため、通常、得られる浸出スラリーの液部分には、ニッケル、コバルト等の他に2価と3価の鉄イオンが含まれる。
浸出工程S1における硫酸の添加量としては、特に限定されるものではなく、鉱石中の鉄が浸出されるような過剰量が用いられる。例えば、鉱石1トン当り300〜400kgとする。鉱石1トン当りの硫酸添加量が400kgを超えると、硫酸コストが大きくなり好ましくない。なお、浸出工程S1では、次工程の固液分離工程S2で生成されるヘマタイトを含む浸出残渣の濾過性の観点から、得られる浸出液のpHが0.1〜1.0にとなるように調整することが好ましい。
(2)固液分離工程
固液分離工程S2では、浸出工程S1にて形成された浸出スラリーを多段洗浄して、ニッケル及びコバルトのほか不純物元素として亜鉛を含む浸出液と浸出残渣とを得る。
固液分離工程S2では、浸出工程S1にて形成された浸出スラリーを多段洗浄して、ニッケル及びコバルトのほか不純物元素として亜鉛を含む浸出液と浸出残渣とを得る。
この固液分離工程S2では、浸出スラリーを洗浄液と混合した後、固液分離装置としてシックナーを多段に設けて固液分離処理を施す。具体的には、先ず、浸出スラリーが洗浄液により希釈され、次に、スラリー中の浸出残渣がシックナーの沈降物として濃縮される。これにより、浸出残渣に付着するニッケル分をその希釈の度合いに応じて減少させることができる。また、このようにシックナーを多段に連結して用いることにより、ニッケル及びコバルトの回収率の向上を図ることができる。
固液分離工程S2における多段洗浄方法として、ニッケルを含まない洗浄液で向流に接触させる連続向流洗浄法(CCD法:Counter Current Decantation)を用いる。これにより、系内に新たに導入する洗浄液を削減できるとともに、ニッケル及びコバルトの回収率を95%以上とすることができる。
洗浄液としては、特に限定されるものではないが、ニッケルを含まず、工程に影響を及ぼさないものを用いることができる。その中でも、pHが1〜3の水溶液を用いることが好ましい。洗浄液のpHが高いと、浸出液中にアルミニウムが含まれる場合には嵩の高いアルミニウム水酸化物が生成され、シックナー内での浸出残渣の沈降不良の原因となる。このことから、洗浄液としては、好ましくは、後工程であるニッケル回収工程S5で得られる低pH(pHが1〜3程度)の貧液を繰り返して利用するとよい。
なお、この多段洗浄方法による固液分離処理については、シックナーの構成等を含めて後で詳述する。
(3)中和工程
中和工程S3では、固液分離工程S2にて分離された浸出液のpHを調整し、不純物元素を含む中和澱物を分離して、ニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を得る。
中和工程S3では、固液分離工程S2にて分離された浸出液のpHを調整し、不純物元素を含む中和澱物を分離して、ニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を得る。
具体的に、中和工程S3では、分離された浸出液の酸化を抑制しながら、得られる中和終液のpHが4以下、好ましくは3.0〜3.5、より好ましくは3.1〜3.2になるように、その浸出液に炭酸カルシウム等の中和剤を添加し、ニッケル回収用の母液の元となる中和終液と、不純物元素として3価の鉄を含む中和澱物スラリーとを形成する。中和工程S3では、このようにして浸出液に対する中和処理を施すことで、高圧酸浸出法による浸出処理で用いた過剰の酸を中和してニッケル回収用の母液の元となる中和終液を生成するとともに、溶液中に残留する3価の鉄イオンやアルミニウムイオン等の不純物を中和澱物として除去する。
(4)脱亜鉛工程
脱亜鉛工程S4では、中和工程S3から得られた中和終液に硫化水素ガス等の硫化剤を添加して硫化処理を施すことにより亜鉛硫化物を生成させ、その亜鉛硫化物を分離除去してニッケル及びコバルトを含むニッケル回収用母液(脱亜鉛終液)を得る。
脱亜鉛工程S4では、中和工程S3から得られた中和終液に硫化水素ガス等の硫化剤を添加して硫化処理を施すことにより亜鉛硫化物を生成させ、その亜鉛硫化物を分離除去してニッケル及びコバルトを含むニッケル回収用母液(脱亜鉛終液)を得る。
具体的には、例えば、加圧された容器内にニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を導入し、気相中へ硫化水素ガスを吹き込むことによって、亜鉛をニッケル及びコバルトに対して選択的に硫化し、亜鉛硫化物とニッケル回収用母液とを生成する。なお、図2の工程図では、硫化剤として硫化水素ガスを用いた例を示す。
(5)ニッケル回収工程
ニッケル回収工程S5では、脱亜鉛工程S4にて不純物元素である亜鉛を亜鉛硫化物として分離除去して得られたニッケル回収用母液に硫化水素ガス等の硫化剤を吹き込んで硫化反応を生じさせ、ニッケル及びコバルトを含む硫化物(ニッケルコバルト混合硫化物)と貧液とを生成する。
ニッケル回収工程S5では、脱亜鉛工程S4にて不純物元素である亜鉛を亜鉛硫化物として分離除去して得られたニッケル回収用母液に硫化水素ガス等の硫化剤を吹き込んで硫化反応を生じさせ、ニッケル及びコバルトを含む硫化物(ニッケルコバルト混合硫化物)と貧液とを生成する。
ニッケル回収用母液は、ニッケル酸化鉱石の浸出液から中和工程S3や脱亜鉛工程S4を経て不純物成分が低減された硫酸溶液であり、例えば、pHが3.2〜4.0で、ニッケル濃度が2〜5g/L、コバルト濃度が0.1〜1.0g/Lの溶液である。なお、このニッケル回収用母液には、不純物成分として鉄、マグネシウム、マンガン等が数g/L程度含まれている可能性があるが、これら不純物成分は、回収するニッケル及びコバルトに対して硫化物としての安定性が低く、生成する硫化物には含有されることはない。
ニッケル回収工程S5では、不純物成分の少ないニッケル・コバルト混合硫化物とニッケル濃度を低い水準で安定させた貧液とを生成して回収する。具体的には、硫化反応により得られたニッケル・コバルト混合硫化物のスラリーをシックナー等の沈降分離装置を用いて沈降分離処理を施すことによって、沈殿物であるニッケル・コバルト混合硫化物をシックナーの底部より分離回収する。一方で、水溶液成分はオーバーフローさせて貧液として回収する。なお、上述のように、この貧液には、硫化されずに含まれる鉄、マグネシウム、マンガン等の不純物元素を含んでいる。
≪3.湿式製錬方法における固液分離工程について≫
次に、上述したニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法における固液分離工程S2について、より詳しく説明する。上述したように、固液分離工程S2では、固液分離装置であるシックナーを多段に連結させ、浸出工程S1にて得られた浸出スラリーに対して、ニッケルを含まない洗浄液を向流で接触させる連続向流洗浄法(CCD法)による多段洗浄を行いながら、その浸出スラリーに含まれる固形分(浸出残渣)を分離し、固形分が除去された粗硫酸ニッケル水溶液を得る。
次に、上述したニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法における固液分離工程S2について、より詳しく説明する。上述したように、固液分離工程S2では、固液分離装置であるシックナーを多段に連結させ、浸出工程S1にて得られた浸出スラリーに対して、ニッケルを含まない洗浄液を向流で接触させる連続向流洗浄法(CCD法)による多段洗浄を行いながら、その浸出スラリーに含まれる固形分(浸出残渣)を分離し、固形分が除去された粗硫酸ニッケル水溶液を得る。
<3−1.シックナーの構成と多段洗浄>
図2は、シックナーを多段に連結させてCCD法を行う処理装置の一例を示す構成図である。なお、この図2に示す処理装置1では、シックナーを5段連結させた構成例を示すが、連結段数としてはこれに限定されるものではない。
図2は、シックナーを多段に連結させてCCD法を行う処理装置の一例を示す構成図である。なお、この図2に示す処理装置1では、シックナーを5段連結させた構成例を示すが、連結段数としてはこれに限定されるものではない。
CCD法では、固液分離処理が行われる沈降分離槽と、撹拌槽との組合せからなるシックナーを1段として、このシックナーが複数段、例えば5〜8段、直列に連結させた処理装置を用いる。この処理装置1では、一端(図2中のA側)の第1段目のシックナーに浸出工程S1にて得られた浸出スラリーが装入され、他端(図2のB側)の最終段目(第5段目)のシックナーに例えば工業用水等の洗浄液が装入される。そして、その浸出スラリーと洗浄液とが処理装置1内で向流で接触し、同時にA端から装入される浸出スラリーに対して凝集剤を添加することで、スラリー中の固形分を凝集させ固液分離を促進させる。
(各段のシックナー及び撹拌槽について)
ここで、図3に、図2に示した処理装置1の各段を構成するシックナー(1段のみ)の構成図を示す。上述したように、処理装置1は、複数のシックナーが多段に連結されたものであり、シックナー10は、撹拌槽11と、沈降分離槽12とから構成されている。
ここで、図3に、図2に示した処理装置1の各段を構成するシックナー(1段のみ)の構成図を示す。上述したように、処理装置1は、複数のシックナーが多段に連結されたものであり、シックナー10は、撹拌槽11と、沈降分離槽12とから構成されている。
撹拌槽11は、その内部に撹拌軸や撹拌羽根等の撹拌部材を備えた槽である。この撹拌槽11では、浸出スラリーと、後段のシックナーから流送されたオーバーフロー液とが、それぞれ装入されて撹拌混合される。なお、最終段目(図2の例では第5段目)のシックナーの撹拌槽11には、オーバーフロー液ではなく、新規の洗浄水が装入される。この撹拌槽11において、浸出スラリーとオーバーフロー液とが撹拌混合されることによって、浸出スラリーが洗浄され、固形分に付着した付着水が洗い流されるようになる。
沈降分離槽12は、例えば円筒形状の処理槽であり、その内部に浸出スラリーが装入されて、その浸出スラリー中の固形分を沈降分離させる。
沈降分離槽12には、その内部に垂直に配設された筒状のフィードウェル13が備えられている。フィードウェル13は、例えば沈降分離槽12が円筒形状の場合には、その沈降分離槽12と略同心円状に設けられている。このフィードウェル13は、撹拌槽11から供給された浸出スラリーを沈降分離槽12内に送り込む(フィードする)送路となっている。
また、沈降分離槽12には、その槽上部の周縁部に浸出スラリー中の固形分を沈降分離させて得られた上澄み液である浸出液をオーバーフロー(OF)させて排出するためのオーバーフロー部14が設けられている。このオーバーフロー部14は、例えば樋のような形状となっており、後段のシックナーからのオーバーフロー液を撹拌槽11に流送させるための流路が接続されている。なお、沈降分離槽12において、オーバーフローした溶液(以下、オーバーフロー液ともいう。)は、上述したように前段の撹拌槽11に流送され、一方で、それ以外の固形分を含めたスラリーは、沈降分離槽12の下部から取り出されて、ポンプ15によって後段の撹拌槽11にポンプ送液される。
(多段洗浄の基本的な流れ)
次に、図3に示したような、撹拌槽11と沈降分離槽12とからなるシックナーを複数段連結させた処理装置1(図2)によって、浸出スラリーを多段洗浄する際の基本的な流れを説明する。なお、図2中の矢印は、浸出スラリーやオーバーフロー液の流れを示す。
次に、図3に示したような、撹拌槽11と沈降分離槽12とからなるシックナーを複数段連結させた処理装置1(図2)によって、浸出スラリーを多段洗浄する際の基本的な流れを説明する。なお、図2中の矢印は、浸出スラリーやオーバーフロー液の流れを示す。
先ず、第1段目のシックナーでは、その撹拌槽内に、浸出工程S1において得られた浸出スラリーと、後段の第2段目のシックナーの沈降分離槽からのオーバーフロー液とが装入されて、それらが撹拌混合される。この撹拌槽内では、浸出スラリー中の固形分に付着している付着水がオーバーフロー液によって洗浄され、その後、撹拌槽からフィードウェルを介して洗浄された浸出スラリーが沈降分離槽内に装入する。
このとき、第1段目のシックナーにおいては、フィードウェルを介して浸出スラリーと共に、スラリー中の固形分を凝集させるための凝集剤が添加される。そして、装入された沈降分離槽内で浸出スラリーと凝集剤とが混合され、スラリー中の固形分が凝集沈殿して分離される。分離した固形分を含むスラリーは、沈降分離槽の下部から抜き出されてポンプを介して後段の第2段目のシックナーの撹拌槽に移送される。一方で、沈降分離槽からオーバーフロー部を経由してオーバーフローした上澄み液は、湿式製錬方法における次工程の中和工程S3に供給される。
次に、第2段目のシックナーでは、その撹拌槽内に、前段の第1段目のシックナーの沈降分離槽の下部から抜き出された固形分が装入されるとともに、後段の第3段目のシックナーの沈降分離槽からのオーバーフロー液が装入されて、固形分に付着した水分がオーバーフロー液によって洗い流される。そして、撹拌槽内で洗浄されて得られたスラリーは、フィードウェルを介して沈降分離槽内に装入され、スラリー中の固形分が凝集沈殿して分離される。分離した固形分を含むスラリーは、沈降分離槽の下部から抜き出されてポンプを介して後段の第3段目のシックナーの撹拌槽に移送される。一方で、沈降分離槽からオーバーフロー部を経由してオーバーフローしたオーバーフロー液は、前段の第1段目のシックナーの撹拌槽に接続された配管等を経由して、その撹拌槽内に装入される。
以後、第3段目のシックナー、第4段目のシックナーにおいても、同様の手順によって固形分を含むスラリーがオーバーフロー液と向流で接触することで、多段洗浄される。
そして、最終段である第5段目のシックナーでは、その撹拌槽内に、前段の第4段目のシックナーの沈降分離槽の下部から抜き出された固形分が装入されるとともに、新規の洗浄水(例えば、湿式製錬プロセスにおける低ニッケル濃度のプロセス液)が装入されて、固形分に付着した水分が洗浄水によって洗い流される。そして、撹拌槽内で洗浄されて得られたスラリーは、フィードウェルを介して沈降分離槽内に装入され、スラリー中の固形分が凝集沈殿して分離される。分離した固形分を含むスラリーは、沈降分離槽の下部からポンプで抜き取られ、浸出残渣(CCD残渣)として残渣処理される。一方で、沈降分離槽からオーバーフロー部を経由してオーバーフローしたオーバーフロー液は、前段の第4段目のシックナーの撹拌槽に接続された配管等を経由して、その撹拌槽内に装入される。
なお、このようにして、浸出スラリーに対して多段洗浄を行いながら固液分離処理を施すことによって、新規の洗浄水としては最終段のシックナーのみに装入すればよいため、その最終段以外の各段のシックナーには新規の洗浄水が不要となる。これにより、洗浄水を大幅に節約することが可能となる。
<3−2.固液分離処理の具体的な操作>
ここで、各段のシックナーからのオーバーフロー液について、ニッケル、コバルト等の有価金属の含有量としては、最終段(図2では第5段目)のシックナーからのオーバーフロー液が最も少ない。このことは、前々段(図2では第3段目)のシックナーの撹拌槽において、既に有価金属が洗浄されている点が一つの理由として挙げられる。また、前段(図2では第4段目)のシックナーで固液分離されたスラリーと新規の洗浄水とがオーバーフローし、さらにその前段(図2では第4段目)の撹拌槽に装入されて撹拌、洗浄されたスラリーが、最終段のシックナーに装入されるという点も理由として挙げられる。
ここで、各段のシックナーからのオーバーフロー液について、ニッケル、コバルト等の有価金属の含有量としては、最終段(図2では第5段目)のシックナーからのオーバーフロー液が最も少ない。このことは、前々段(図2では第3段目)のシックナーの撹拌槽において、既に有価金属が洗浄されている点が一つの理由として挙げられる。また、前段(図2では第4段目)のシックナーで固液分離されたスラリーと新規の洗浄水とがオーバーフローし、さらにその前段(図2では第4段目)の撹拌槽に装入されて撹拌、洗浄されたスラリーが、最終段のシックナーに装入されるという点も理由として挙げられる。
一方で、最終段の前段(図2では第4段目)からのオーバーフロー液は、最終段に比べて固形分に付着している付着水中に有価金属分が多く、順次、最終段から離れるに従って有価金属分は多くなり、第1段目のシックナーからのオーバーフロー液で有価金属含有量が最大となる。一般的には、ニッケル及びコバルトの回収率が95%以上となるようなオーバーフロー液である粗硫酸ニッケル水溶液を回収するように操業されている。
また、第1段目のシックナーからのオーバーフロー液は、各段のシックナーにおいて固液分離作用を受けており、微粒子の沈降も進んでいる。そのため、第1段目のシックナーからのオーバーフロー液は、その濁度が最も低く(透明度が最も高く)なっている。具体的に、その濁度としては、200NTU以下となるように操業されている。ここで、上述したように、オーバーフローした粗硫酸ニッケル水溶液(浸出液)に基づいて回収されるニッケル及びコバルトの回収率は、その浸出液の濁度と良好な相関関係があり、濁度を200NTU以下となるように操業することで、ニッケル及びコバルトの回収率が95%以上となる。
ところが、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬処理の実操業では、この固液分離工程S2において、シックナーの連結段数をより少なくした処理装置であっても、ニッケル及びコバルトの回収率が95%以上となるようにすることが望ましい。
そこで、本実施の形態に係る固液分離処理方法では、上述したシックナーを多段に設けて浸出スラリーを多段洗浄しながら固形分を分離する処理において、浸出スラリー中の固形分を凝集させるための凝集剤を添加するに際して、所定量の凝集剤を、第1段目のシックナーと第2段目のシックナーとに分けて添加する。具体的には、図2において示すように、所定量の凝集剤のうち、所定の割合の凝集剤を第1段目のシックナーのフィードウェルに添加し、その残りの凝集剤を第2段目のシックナーのオーバーフロー部に添加する。
このような固液分離処理方法によれば、浸出スラリー中の固形分の凝集がより効果的に進行し、少ないシックナー段数であっても、最終的に第1段目のシックナーから排出されるオーバーフロー液の濁度を低くすることができ、ニッケル及びコバルトの回収率が95%以上となる粗硫酸ニッケル水溶液を得ることができる。具体的には、例えば6〜7段のシックナーを連結させることが必要だった従来技術と比べ、5段のシックナーを連結させ処理した場合でも十分に従来と同様以上の効果を得ることができる。これにより、固液分離装置の設置スペースを縮小させることができ、また初期の設備投資を大幅に削減することができるので、効率的な固液分離処理を行うことが可能となる。
また、他の観点からすると、この固液分離処理方法を適用することによって、オーバーフロー液の濁度を効果的に低下させることができることから、得られた粗硫酸ニッケル水溶液からのニッケル及びコバルトの回収率を向上させることができる。
このような固液分離処理方法の作用メカニズムとしては、以下のように考えられる。すなわち、この固液分離処理方法においては、凝集剤の添加量(総量)は同じ(ある一定量)であっても、その凝集剤の一部を第2段目のシックナーのオーバーフロー部に添加することによって、その全量を第1段目のみに添加する場合に比べて、凝集剤濃度が薄められた状態で第1段目のシックナーのフィードウェルに添加されることになる。すると、第1段目のシックナーに塊で凝集剤が添加されることなく、第1段目のシックナーと第2段目のシックナーとに分散されて添加されるようになるので、浸出スラリー中の固形分に対して凝集剤を効率良く接触させることができる。その結果、より効果的に固液分離が進行し、第1段目のシックナーからのオーバーフロー液の濁度を効果的に低下させることができると考えられる。
また、特に、ニッケル酸化鉱石を浸出して得られた浸出スラリーにおいては、濃度の異なる凝集剤を分けて添加することによって、その凝集剤の効果がより高く発揮されるものと考えられる。
ここで、凝集剤の総添加量としては、特に限定されるものではなく、処理対象となる浸出スラリーに含まれる固形分量等に応じて、適宜設定することができる。
また、凝集剤の添加量の比率、すなわち、第1段目のシックナーへの凝集剤添加量と、第2段目のシックナーへの凝集剤添加量の比率(第1段目:第2段目)としては、特に限定されないが、95:5〜50:50であることが好ましく、90:10とすることが特に好ましい。凝集剤の添加量の比率が、上述した範囲外であると、オーバーフロー液の濁度の低下作用が十分に発揮されず、最終的に得られる粗硫酸ニッケル水溶液からのニッケルの回収率が95%未満となってしまう可能性がある。すなわち、粗硫酸ニッケル水溶液の濁度が200NTUよりも大きくなってしまう可能性がある。
≪4.実施例≫
次に、本発明を適用した実施例を説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
次に、本発明を適用した実施例を説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例1]
ニッケル酸化鉱の湿式製錬方法の固液分離工程において、浸出工程にて得られた浸出スラリーに対して、図2に示すようにしてシックナーを多段に連結させて多段洗浄(CCD法)を行いながら、浸出スラリー中の固液分(浸出残渣)を分離して、粗硫酸ニッケル水溶液(浸出液)を得る固液分離処理を行った。以下に、固液分離処理の条件を示す。
ニッケル酸化鉱の湿式製錬方法の固液分離工程において、浸出工程にて得られた浸出スラリーに対して、図2に示すようにしてシックナーを多段に連結させて多段洗浄(CCD法)を行いながら、浸出スラリー中の固液分(浸出残渣)を分離して、粗硫酸ニッケル水溶液(浸出液)を得る固液分離処理を行った。以下に、固液分離処理の条件を示す。
(処理条件)
浸出スラリーの固形分比率 :44.8重量%
浸出スラリーのpH :2.3
浸出スラリーの流量 :249m3/時
洗浄液 :低ニッケル濃度の工程水
洗浄液の流量 :225m3/時
CCD法の段数 :6段
シックナーの容積 :1500m3(各段で同じ)
浸出スラリーの固形分比率 :44.8重量%
浸出スラリーのpH :2.3
浸出スラリーの流量 :249m3/時
洗浄液 :低ニッケル濃度の工程水
洗浄液の流量 :225m3/時
CCD法の段数 :6段
シックナーの容積 :1500m3(各段で同じ)
上述した固液分離処理においては、浸出スラリー中の固形分を凝集させる所定量の凝集剤をシックナーに添加した。この実施例1では、その凝集剤を添加するに際して、第1段目のシックナーのフィードウェルに添加するとともに、第2段目のシックナーのオーバーフロー樋にその所定量の凝集剤の一部を添加した。第1段目のシックナーへの凝集剤添加量と、第2段目のシックナーへの凝集剤添加量の比率(以下、「第1段目:第2段目の比率」という。)としては、90:10となるように添加した。
[実施例2]
実施例2では、第1段目:第2段目の比率を、50:50としたこと以外は、実施例1と同様にして固液分離処理を行った。
実施例2では、第1段目:第2段目の比率を、50:50としたこと以外は、実施例1と同様にして固液分離処理を行った。
[実施例3]
実施例3では、第1段目:第2段目の比率を、95:5としたこと以外は、実施例1と同様にして固液分離処理を行った。
実施例3では、第1段目:第2段目の比率を、95:5としたこと以外は、実施例1と同様にして固液分離処理を行った。
[比較例1]
比較例1では、第1段目:第2段目の比率を、97:3としたこと以外は、実施例1と同様にして固液分離処理を行った。
比較例1では、第1段目:第2段目の比率を、97:3としたこと以外は、実施例1と同様にして固液分離処理を行った。
[比較例2]
比較例2では、第1段目:第2段目の比率を、45:65としたこと以外は、実施例1と同様にして固液分離処理を行った。
比較例2では、第1段目:第2段目の比率を、45:65としたこと以外は、実施例1と同様にして固液分離処理を行った。
下記表1に、各実施例、比較例における固液分離処理の処理結果をまとめて示す。表1において、「CCD工程から得られる粗硫酸ニッケル水溶液の濁度」とは、安定な操業に到達して8時間が経過した時点での、第1段目のシックナーのオーバーフロー樋からオーバーフローした粗硫酸ニッケル水溶液についての濁度の測定値である。なお、この濁度は、HACH社製2100P型散乱光式濁度計を用いて測定した。
表1に示すように、実施例1〜実施例3では、得られた粗硫酸ニッケル水溶液の濁度が200NTUよりも遥かに低くなり透明度の高い溶液が得られた。ここで、粗硫酸ニッケル水溶液(浸出液)に基づいて回収されるニッケル及びコバルトの回収率は、その浸出液の濁度と相関関係があり、濁度200NTU以下とすることによって回収率を95%以上とすることができる。このことから、実施例1〜実施例3で行った固液分離処理によれば、シックナーの段数をより少なくした場合であっても、回収率が95%以上となる粗硫酸ニッケル水溶液を得ることができると推測される。
一方で、比較例1及び比較例2では、得られた粗硫酸ニッケル水溶液の濁度が、それぞれ、236NTU、224NTUであり、透明度の低いものであった。このことは、固形分の凝集と、付着水の洗浄が十分に行われなったためであると考えられる。このような比較例1及び比較例2での固液分離処理では、ニッケル及びコバルトの回収率が95%以上となる浸出液を得るために、7段以上のシックナーを連結させることが必要になると推測される。
1 処理装置、10 シックナー、11 撹拌槽、12 沈降分離槽、13 フィードウェル、14 オーバーフロー部、15 ポンプ
Claims (12)
- その周縁部に上澄み液を排出するオーバーフロー部と、その中心部に垂直に配設された筒状のフィードウェルとを有する沈降分離槽と、撹拌槽とを備えたシックナーを多段に設けて、スラリーを多段洗浄しながら該スラリー中の固形分を分離し、該固形分が除去された溶液を得る固液分離処理方法であって、
上記スラリーは、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において該ニッケル酸化鉱石に対して浸出処理を施して得られた浸出スラリーであり、
上記スラリー中の固形分を凝集させるための凝集剤を添加する際に、所定割合の凝集剤を第1段目のシックナーにおけるフィードウェルに添加し、その残りの凝集剤を第2段目のシックナーにおけるオーバーフロー部に添加し、
上記第1段目のシックナーでは、該第1段目のシックナーの撹拌槽内に、上記浸出スラリーと、上記第2段目のシックナーからのオーバーフロー液が装入され、該第1段目のシックナーからの固形分を含むスラリーは、該第1段目のシックナーの沈降分離槽の下部から抜き出されて上記第2段目のシックナーの撹拌槽に装入され、該第1段目のシックナーからのオーバーフロー液は、上記ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の中和工程に供給され、
最終段のシックナーでは、該最終段のシックナーの撹拌槽内に、直前のシックナーからの固形分を含むスラリーと洗浄液とが装入され、該最終段のシックナーの沈降分離槽の下部から浸出残渣が抜き出され、該最終段のシックナーからのオーバーフロー液は、直前のシックナーの撹拌槽内に装入され、
上記多段のシックナーの上記第1段目及び上記最終段のシックナーを除くシックナーでは、該シックナーの撹拌槽内に、直前のシックナーからの固形分を含むスラリーと直後のシックナーからのオーバーフロー液が装入され、該シックナーからの固形分を含むスラリーは、該シックナーの沈降分離槽の下部から抜き出されて直後のシックナーの撹拌槽に装入され、該シックナーからのオーバーフロー液は、直前のシックナーの撹拌槽内に装入され、
上記浸出スラリー中の浸出残渣を分離して、ニッケル及びコバルトと共に不純物元素を含む浸出液を得ることを特徴とする固液分離処理方法。 - 上記第1段目のシックナーのオーバーフロー液の濁度は、200NTU以下であることを特徴とする請求項1に記載の固液分離処理方法。
- 上記洗浄液は、pHが1〜3の水溶液であることを特徴とする請求項1又は2に記載の固液分離処理方法。
- 上記洗浄液は、上記ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法のニッケル回収工程で得られる貧液であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の固液分離処理方法。
- 上記シックナーの段数は、5〜8段であることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の固液分離処理方法。
- 上記第1段目のシックナーに添加する凝集剤量と、上記第2段目のシックナーに添加する凝集剤量の割合を90:10とすることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の固液分離処理方法。
- ニッケル酸化鉱石に硫酸を添加して高温高圧下で浸出して得られた浸出液からニッケル及びコバルトを回収するニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、
その周縁部に上澄み液を排出するオーバーフロー部と、その中心部に垂直に配設された筒状のフィードウェルとを有する沈降分離槽と、撹拌槽とを備えたシックナーを多段に設けて、上記ニッケル酸化鉱石を浸出して得られた浸出スラリーを多段洗浄しながら該浸出スラリー中の浸出残渣を分離する固液分離処理に際し、
所定の割合の凝集剤を第1段目のシックナーにおけるフィードウェルに添加し、その残りの凝集剤を第2段目のシックナーにおけるオーバーフロー部に添加して、上記浸出スラリーを多段洗浄しながら固液分離処理を施す固液分離工程を含み、
上記第1段目のシックナーでは、該第1段目のシックナーの撹拌槽内に、上記浸出スラリーと、上記第2段目のシックナーからのオーバーフロー液が装入され、該第1段目のシックナーからの固形分を含むスラリーは、該第1段目のシックナーの沈降分離槽の下部から抜き出されて上記第2段目のシックナーの撹拌槽に装入され、該第1段目のシックナーからのオーバーフロー液は、当該ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の中和工程に供給され、
最終段のシックナーでは、該最終段のシックナーの撹拌槽内に、直前のシックナーからの固形分を含むスラリーと洗浄液とが装入され、該最終段のシックナーの沈降分離槽の下部から浸出残渣が抜き出され、該最終段のシックナーからのオーバーフロー液は、直前のシックナーの撹拌槽内に装入され、
上記多段のシックナーの上記第1段目及び上記最終段のシックナーを除くシックナーでは、該シックナーの撹拌槽内に、直前のシックナーからの固形分を含むスラリーと直後のシックナーからのオーバーフロー液が装入され、該シックナーからの固形分を含むスラリーは、該シックナーの沈降分離槽の下部から抜き出されて直後のシックナーの撹拌槽に装入され、該シックナーからのオーバーフロー液は、直前のシックナーの撹拌槽内に装入されることを特徴とするニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。 - 上記第1段目のシックナーのオーバーフロー液の濁度は、200NTU以下であることを特徴とする請求項7に記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
- 上記洗浄液は、pHが1〜3の水溶液であることを特徴とする請求項7又は8に記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
- 上記洗浄液は、当該ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法のニッケル回収工程で得られる貧液であることを特徴とする請求項7乃至9の何れかに記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
- 上記シックナーの段数は、5〜8段であることを特徴とする請求項7乃至10の何れかに記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
- 上記第1段目のシックナーに添加する凝集剤量と、上記第2段目のシックナーに添加する凝集剤量の割合を90:10とすることを特徴とする請求項7乃至11の何れかに記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
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