JP6750698B2 - ニッケル高圧浸出残渣の固液分離方法 - Google Patents

ニッケル高圧浸出残渣の固液分離方法 Download PDF

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Description

本発明は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬におけるニッケル高圧浸出残渣の固液分離方法に関し、シックナーアンダーフロースラリー中の固形分濃度(solid%)を上昇させる技術に関する。
近年、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬法として、硫酸を用いた高圧酸浸出(High Pressure Acid Leaching)法が注目されている。この方法は、乾燥及び焙焼工程等の乾式処理工程を含まず、一貫した湿式工程からなるので、エネルギー的及びコスト的に有利であるとともに、ニッケル品位を50重量%程度まで向上させたニッケル・コバルト混合硫化物を得ることができるという利点を有している。
ニッケル・コバルト混合硫化物を得るための高圧酸浸出法によるニッケルの湿式製錬法においては、ニッケル酸化鉱石を高温加圧酸浸出して、浸出スラリーを得る浸出工程と、浸出工程で得られた浸出スラリーのpHを予備中和工程で調整した後、固液分離して、ニッケル及びコバルトのほかに不純物元素として亜鉛等を含有する粗硫酸ニッケル水溶液(浸出液)を得る固液分離工程が含まれる。
この湿式製錬方法における固液分離工程では、通常、浸出工程から得られた浸出スラリーをシックナーによって粗硫酸ニッケル水溶液と浸出残渣とに分離すると同時に、その浸出スラリーを多段洗浄する処理が行われる。具体的に、多段洗浄方法としては、シックナーを多段に連結させて、その浸出スラリーを有価金属を含まない洗浄液に向流で接触させて残渣に付着した有価金属を洗い流す連続向流洗浄法(CCD法:Counter Current Decantation法)が用いられ、これによって有価金属の回収率を向上させている。
固液分離工程のシックナーアンダーフローは最終中和工程へ送液されるため、シックナーアンダーフローに含まれるNiはすべてロスとなる。このため、浸出残渣の沈降性を上げてシックナーのアンダーフロースラリー中の液量を減少させ、固形分濃度を上昇させることができれば、Ni回収率を向上させることができる。
特許文献1には、ニッケルまたはコバルトの回収方法において、酸化鉱石を硫酸により浸出し、中和剤でpHを調整した後に、中和残渣を含む中和液に凝集剤を添加し、シックナーを用いて固液分離することで、中和液と中和残渣とを分離することが記載されている。
また、特許文献2には、固液分離処理方法並びにニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、スラリー中の固形分を凝集させるための凝集剤を添加する際に、所定割合の凝集剤を第1段目のシックナーにおけるフィードウェルに添加し、その残りの凝集剤を第2段目のシックナーにおけるオーバーフロー部に添加することが記載されている。
しかしながら、特許文献1及び2では、凝集剤使用量によるシックナーアンダーフロースラリー中の固形分濃度上昇への影響については検討されていない。このため、シックナーへの凝集剤の過剰添加を防ぎ、かつ浸出残渣の固液分離性が損なわれないよう凝集剤添加量を適正化することが求められていた。
国際公開第2005/116279号 特許第5692458号公報
本発明は、このような状況を解決するためになされたものであり、シックナーへの凝集剤の過剰添加を防ぎ、かつ浸出残渣の固液分離性を向上させて、固形分濃度を上昇させることのできるニッケル高圧浸出残渣の固液分離方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、単位残渣量当たりにどれくらいの凝集剤を添加することが最適化か調査し、(1)単位残渣量当たりの凝集剤を過剰に添加すると、シックナーアンダーフローの固形分濃度(solid%)が低下する、(2)単位残渣量当たりの凝集剤が不足すると、シックナーアンダーフローの固形分濃度(solid%)が低下する、(3)シックナーアンダーフローの固形分濃度(solid%)を最大化できる単位残渣量あたりの凝集剤量が存在することを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の一態様は、ニッケル酸化鉱石を高圧硫酸浸出した後の浸出残渣のスラリーを予備中和後に、シックナーを用いて固体分を凝集沈降させて固液分離するニッケル高圧浸出残渣の固液分離方法であって、シックナーに供給する浸出残渣量を見積り又は計測し、該浸出残渣量に応じて添加する凝集剤の量を、凝集剤使用量が単位浸出残渣量当たり0.60kg/t以下となるように調整し、シックナーは多段に設けられており、固液分離を連続向流洗浄法(CCD法)により行い、シックナーの最終段に、単位浸出残渣量当たり0.022kg/t以上0.034kg/t未満の添加量で凝集剤を添加する。
本発明の一態様によれば、シックナーに供給する浸出残渣量を見積り又は計測し、浸出残渣量に応じた所定値以下の適正量の凝集剤を添加することでシックナーへの凝集剤の過剰添加を防ぎ、かつ浸出残渣の固液分離性を向上させて、固形分濃度を上昇させることができる。
凝集剤の過剰添加は逆に固形分濃度(solid%)の低下につながるため、凝集剤の使用量は上記範囲内とすることが好ましい。
これにより、系内に新たに導入する洗浄液を削減できるとともに、ニッケル及びコバルトの回収率を向上させることができる。
シックナーの最終段に、上記添加量に調整した凝集剤を添加することで、浸出残渣の固液分離性を最も向上させて、固形分濃度(solid%)を上昇させることができる。
また、本発明の一態様では、凝集剤を0.22wt%以上0.29wt%以下の濃度で使用してもよい。
凝集剤濃度を上記範囲とすることで、凝集剤と浸出残渣との分散性が良くなり、効率的に凝集性が得られる。
また、本発明の一態様では、凝集剤は高分子凝集剤とすることができる。
浸出後のスラリーのような酸性水溶液と鉱泥とからなるスラリーでは、高分子凝集剤を用いることが好ましい。
また、本発明の一態様では、予備中和において、スラリーの液相部のpHが2.5〜3.4となるように調整することができる。
適正量の凝集剤を添加することによって、湿式製錬の操業に適したpH2.5〜3.4という高い値であっても、浸出残渣の沈降性を向上させることができる。
本発明によれば、シックナーへの凝集剤の過剰添加を防ぎ、かつ浸出残渣の固液分離性を向上させて、固形分濃度を上昇させることができる。
本発明の一実施形態に係るニッケル高圧浸出残渣の固液分離方法を含むニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法を示す工程図である。 本発明の一実施形態に係るニッケル高圧浸出残渣の固液分離方法においてシックナーを多段に連結させてCCD法を行う処理装置の構成図である。 本発明の一実施形態に係るニッケル高圧浸出残渣の固液分離方法におけるシックナー(1段のみ)の構成図である。 実施例及び比較例における凝集剤添加量とシックナーアンダーフローの固形分濃度(solid%)の関係を示した図である。
以下、本発明に係るニッケル高圧浸出残渣の固液分離方法について図面を参照しながら以下の順序で説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更可能である。
1.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法
2.ニッケル高圧浸出残渣の固液分離方法
2−1.固液分離方法の概要
2−2.固液分離処理装置の構成
<1.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法>
先ず、固液分離方法のより具体的な説明に先立ち、本発明の固液分離方法が用いられる固液分離工程を含むニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法について説明する。このニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、例えば高圧酸浸出法(HPAL法)を用いて、ニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルトを浸出させて回収する湿式製錬方法である。
図1に、ニッケル酸化鉱石の高圧酸浸出法による湿式製錬方法の工程(プロセス)図の一例を示す。図1に示すように、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、数種類のニッケル酸化鉱石を混合し、水と混合・分級して鉱石スラリーを調製するスラリー調製工程S1と、得られたニッケル酸化鉱石のスラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出処理を施す浸出工程S2と、浸出工程S2にて得られた浸出スラリーのpHを所定範囲に調整する予備中和工程S3と、pH調整をした浸出スラリーを多段洗浄しながら残渣を分離して、ニッケル及びコバルトと共に不純物元素を含む浸出液を得る固液分離工程S4を有する。本発明の一実施形態に係るニッケル高圧浸出残渣の固液分離方法は、主に固液分離工程S4に関するものである。
さらに、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法では、固液分離工程S4で固液分離した浸出液のpHを調整し、不純物元素を含む中和澱物を分離してニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を得る中和工程S5と、中和終液に硫化水素ガス等の硫化剤を添加することで亜鉛硫化物を生成させ、その亜鉛硫化物を分離除去してニッケル及びコバルトを含むニッケル回収用母液を得る浄液工程S6と、ニッケル回収用母液に硫化剤を添加することでニッケル及びコバルトを含む混合硫化物を形成する硫化工程S7と、固液分離工程S4から移送された遊離硫酸を含む浸出残渣と、硫化工程S7から移送されたマグネシウムやアルミニウム、鉄等の不純物を含むろ液(貧液)の中和を行う最終中和工程S8を有する。以下、各工程についての概要を説明する。
(1)スラリー調製工程
スラリー調製工程S1では、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石を用いて、数種類のニッケル酸化鉱石を所定のNi品位、不純物品位となるように混合し、それらを水と混合してスラリー化し、篩にかけて所定の分級点で分級してオーバーサイズの鉱石粒子を除去した後に、アンダーサイズの鉱石のみを使用する。
スラリー調製工程S1で用いるニッケル酸化鉱石は、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱である。ラテライト鉱のニッケル含有量は、通常、0.8〜2.5重量%であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含有される。また、鉄の含有量は、10〜50重量%であり、主として3価の水酸化物(ゲーサイト)の形態であるが、一部2価の鉄がケイ苦土鉱物に含有される。また、浸出工程S1では、このようなラテライト鉱の他に、ニッケル、コバルト、マンガン、銅等の有価金属を含有する酸化鉱石、例えば深海底に賦存するマンガン瘤等が用いられても良い。
ニッケル酸化鉱石の分級方法については、所望とする粒径に基づいて鉱石を分級できるものであれば特に限定されず、例えば、一般的な振動篩等を用いた篩分けによって行うことができる。さらに、その分級点についても、特に限定されず、所望とする粒径値以下の鉱石粒子からなる鉱石スラリーを得るための分級点を適宜設定することができる。
(2)浸出工程
浸出工程S2では、ニッケル酸化鉱石に対して、例えば高圧酸浸出法を用いた浸出処理を施す。具体的には、原料となるニッケル酸化鉱石を粉砕等して得られた鉱石スラリーに硫酸を添加し、例えば高温加圧容器(オートクレーブ)を用いて、220〜280℃の高い温度条件下で加圧することによって鉱石からニッケル、コバルト等を浸出し、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを形成する。
この浸出工程S2における浸出処理では、浸出反応と高温熱加水分解反応が生じ、ニッケル、コバルト等の硫酸塩としての浸出と、浸出された硫酸鉄のヘマタイトとしての固定化が行われる。ただし、鉄イオンの固定化は完全には進行しないため、通常、得られる浸出スラリーの液部分には、ニッケル、コバルト等の他に2価と3価の鉄イオンが含まれる。浸出工程S2における硫酸の添加量としては、特に限定されるものではなく、鉱石中の鉄が浸出されるような過剰量が用いられる。なお、浸出工程S2では、後工程の固液分離工程S4で生成されるヘマタイトを含む浸出残渣の固液分離性の観点から、得られる浸出液のpHが0.1〜1.0となるように調整することが好ましい。
(3)予備中和工程
予備中和工程S3では、浸出工程S2にて得られた浸出スラリーのpHを所定範囲に調整する。上述した高圧酸浸出法による浸出処理を行う浸出工程S2では、浸出率を向上させる観点から過剰の硫酸を加えるようにしている。そのため、得られた浸出スラリーには浸出反応に関与しなかった余剰の硫酸が含まれており、そのpHは非常に低い。このことから、予備中和工程S3では、次工程の固液分離工程S4における多段洗浄時に効率よく洗浄が行われるように、浸出スラリーのpHを所定の範囲に調整する。
具体的に、固液分離工程S4に供する浸出スラリーとしては、そのpHを2〜6程度に調整したものであることが好ましく、2.5〜3.4となるように調整することがより好ましい。予備中和工程S3では、後の中和工程S5でのpH変動幅の抑制、浄液工程S6や硫化工程S7での反応効率の向上を考えるとpHを高めにしておくことが良い。pHが2より低いと、後工程の設備を耐酸性とするためのコストが必要となる。一方で、pHが6より高いと、浸出液(スラリー)中に浸出したニッケルが、洗浄の過程で沈殿して、残渣として残るようになってニッケルの回収率が下がると共に、洗浄効率が低下する可能性がある。
pHの調整方法としては、特に限定されないが、例えば炭酸カルシウムスラリー等の中和剤を添加することによって所定の範囲に調整することができる。
(4)固液分離工程
固液分離工程S4では、予備中和工程S3にてpH調整された浸出スラリーを洗浄して、ニッケル及びコバルトのほか不純物元素として亜鉛を含む浸出液と浸出残渣とを得る。本発明の一実施形態に係るニッケル高圧浸出残渣の固液分離方法では、このときにシックナーに供給する浸出残渣量を見積り又は計測し、浸出残渣量に応じて添加する凝集剤の量を調整する。
この固液分離工程S4では、浸出スラリーを洗浄液と混合した後、固液分離装置としてシックナーを多段に設けて固液分離処理を施すことが好ましい。具体的には、先ず、浸出スラリーが洗浄液により希釈され、次に、スラリー中の浸出残渣がシックナーの沈降物として濃縮される。これにより、浸出残渣に付着するニッケル分をその希釈の度合いに応じて減少させることができる。また、このようにシックナーを多段に連結して用いることにより、ニッケル及びコバルトの回収率の向上を図ることができる。
固液分離工程S4における多段洗浄方法として、ニッケルを含まない洗浄液で向流に接触させる連続向流洗浄法(CCD法:Counter Current Decantation法)を用いることが好ましい。これにより、系内に新たに導入する洗浄液を削減できるとともに、ニッケル及びコバルトの回収率を向上させることができる。
洗浄液としては、特に限定されるものではないが、ニッケルを含まず、工程に影響を及ぼさないものを用いることができる。その中でも、pHが1〜3の水溶液を用いることが好ましい。洗浄液のpHが高いと、浸出液中にアルミニウムが含まれる場合には嵩の高いアルミニウム水酸化物が生成され、シックナー内での浸出残渣の沈降不良の原因となる。
このことから、洗浄液としては、好ましくは、後工程である硫化工程S7で得られる低pH(pHが1〜3程度)の貧液を繰り返して利用するとよい。
なお、本発明の一実施形態に係るニッケル高圧浸出残渣の固液分離方法については、シックナーの構成等を含めて後で詳述する。
(5)中和工程
中和工程S5では、固液分離工程S4にて分離された浸出液のpHを調整し、不純物元素を含む中和澱物を分離して、ニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を得る。
具体的に、中和工程S5では、分離された浸出液の酸化を抑制しながら、得られる中和終液のpHが4以下、好ましくは3.0〜3.5、より好ましくは3.1〜3.2になるように、その浸出液に炭酸カルシウム等の中和剤を添加し、ニッケル回収用の母液の元となる中和終液と、不純物元素として3価の鉄を含む中和澱物スラリーとを形成する。中和工程S5では、このようにして浸出液に対する中和処理を施すことで、高圧酸浸出法による浸出処理で用いた過剰の酸を中和してニッケル回収用の母液の元となる中和終液を生成するとともに、溶液中に残留する3価の鉄イオンやアルミニウムイオン等の不純物を中和澱物として除去する。この中和澱物は再度固液分離工程S4に戻し入れてもよい。
(6)浄液工程
浄液工程S6では、中和工程S5から得られた中和終液に硫化水素ガス等の硫化剤を添加して硫化処理を施すことにより亜鉛硫化物を生成させ、その亜鉛硫化物を分離除去してニッケル及びコバルトを含むニッケル回収用母液(脱亜鉛終液)を得る。
具体的には、例えば、加圧された容器内にニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を導入し、気相中へ硫化水素ガスを吹き込むことによって、亜鉛をニッケル及びコバルトに対して選択的に硫化し、亜鉛硫化物とニッケル回収用母液とを生成する。
(7)硫化工程
硫化工程S7では、ニッケル回収用母液である脱亜鉛終液を硫化反応始液として、その硫化反応始液に対して硫化剤としての硫化水素ガスを吹き込むことによって硫化反応を生じさせ、不純物成分の少ないニッケル及びコバルトの混合硫化物と、ニッケル及びコバルトの濃度を低い水準で安定させた貧液とを生成させる。
硫化工程S7における硫化処理は、硫化反応槽等を用いて行うことができ、硫化反応槽に装入した硫化反応始液に対して、その反応槽内の気相部分に硫化水素ガスを吹き込み、溶液中に硫化水素ガスを溶解させることで硫化反応を生じさせる。この硫化処理により、硫化反応始液中に含まれるニッケル及びコバルトを混合硫化物として固定化する。硫化反応の終了後、得られたニッケル及びコバルト混合硫化物を含むスラリーをシックナー等の固液分離装置に装入して沈降分離処理を施し、その混合硫化物のみをシックナーの底部より分離回収する。
なお、硫化工程S7を経て分離された水溶液成分は、シックナーの上部からオーバーフローさせて貧液として回収する。回収した貧液は、ニッケル等の有価金属濃度の極めて低い溶液であり、硫化されずに残留した鉄、マグネシウム、マンガン等の不純物元素を含む。この貧液は、最終中和工程S8に移送されて無害化処理される。あるいは、固液分離工程S4に戻して、再度ニッケルの回収に用いても良い。
(8)最終中和工程
最終中和工程S8は、上述した固液分離工程S4から移送された遊離硫酸を含む浸出残渣と、硫化工程S7から移送されたマグネシウムやアルミニウム、鉄等の不純物を含むろ液(貧液)の中和を行う。最終中和工程S8とは、湿式製錬プロセスから外部にスラリーを廃棄するために行う中和であり、湿式製錬プロセスの最後に行う中和工程のことをいう。浸出残渣やろ液は、中和剤によって所定のpH範囲に調整され、廃棄スラリー(テーリング)となる。この反応槽にて生成されたテーリングは、テーリングダム(廃棄物貯留場)に移送される。
具体的に、最終中和工程S8では、浸出残渣に含まれる遊離硫酸を完全に中和し、ろ液に含まれる不純物を水酸化物として固定し、不純物の水酸化物を含むスラリーをテーリングダムに排出する。
<2.ニッケル高圧浸出残渣の固液分離方法>
(2−1.固液分離方法の概要)
これまで、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法のフローを一通り説明してきたが、本発明の一実施形態は、主に、(4)固液分離工程において、シックナーへの凝集剤の過剰添加を防ぎ、かつ浸出残渣の固液分離性を向上させて、固形分濃度を上昇させることのできるニッケル高圧浸出残渣の固液分離方法である。すなわち、本発明の一態様は、ニッケル酸化鉱石を高圧硫酸浸出した後の浸出残渣のスラリーを予備中和後に、シックナーを用いて固体分を凝集沈降させて固液分離するニッケル高圧浸出残渣の固液分離方法であって、シックナーに供給する浸出残渣量を見積り又は計測し、浸出残渣量に応じて添加する凝集剤の量を、凝集剤使用量が所定値以下となるように調整する。
本発明の一実施形態に係るニッケル高圧浸出残渣の固液分離方法は、上述したニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法で得られた浸出残渣スラリーの固液分離処理の工程である。浸出残渣スラリーは、硫酸ニッケルなどの硫酸塩溶液に水酸化鉄などの水酸化物が懸濁した組成である。処理液の固体含有量は20%程度で変動は少なく、処理液のpHは2.5〜3.4程度である。浸出残渣スラリーを固液分離工程に送液し、凝集剤を添加してニッケル及びコバルトを含む浸出液と、浸出残渣との分離を行う。そして、最終段のシックナーアンダーフロー(浸出残渣)は最終中和工程へと払い出す。
固液分離工程S4のシックナーアンダーフローは最終中和工程S8へ送液されるため、シックナーアンダーフローに含まれるNiはすべてロスとなる。このため、シックナーのアンダーフロースラリー中の液量を減少させ、固形分濃度を上昇させることができれば、Ni回収率を向上させることができる。そのため、凝集剤の使用量を調整することで、特に最終段のシックナーアンダーフローの固形分濃度(solid%)を上昇させることが、本湿式製錬方法プロセスでの高い収率を実現するために最も重要となる。
固液分離工程S4ではスラリーに所定の凝集剤を添加することで効率よくシックナーで溶液と残渣を分離することができるが、このシックナーアンダーフローの抜き取り量は各シックナーのレーキのトルク見合いで決定している。つまり、シックナー内に浸出残渣が蓄積していけばシックナーのレーキにかかる力(トルク)が上昇し、シックナーアンダーフローの抜き取り量を増加させなければならない。
しかしながら、シックナーのトルクに影響を与えるパラメータは、シックナー内の浸出残渣量だけではなく、浸出残渣の特性も関係する。例えば、残渣スラリーの粘性や凝集した残渣の大きさなどがそうである。過剰な凝集剤の添加により残渣スラリーの粘性が上昇したり、凝集した残渣のサイズが大きくなれば、レーキが残渣を掻く際により大きな力が必要となりトルクが上昇する。つまり、残渣の蓄積以外でシックナーのトルクが上昇した場合、必要以上にシックナーアンダーフローの抜き取り量を増やしてしまうと、シックナー内の残渣量が減少し、シックナーアンダーフロースラリーの固形分濃度が低下するため、Niロス量の増加となる。
また一方で、凝集剤の添加が少なければ、残渣同士が凝集せず、残渣の沈降性が悪化するため、シックナーでの固液分離性は悪くなり、シックナーアンダーフロースラリーの固形分濃度が低下するため、Niロス量の増加となる。さらに、スラリーがシックナーからオーバーフローし、後工程に悪影響を及ぼすこともある。
そこで、本発明の一実施形態に係るニッケル高圧浸出残渣の固液分離方法では、シックナーに供給する浸出残渣量を見積り又は計測し、浸出残渣量に応じて添加する凝集剤の量を調整する。これにより、凝集剤の過剰添加による浸出残渣スラリーの粘性の上昇や凝集塊の粗大化を防止し、シックナーへの凝集剤の過剰添加を防ぎ、かつ浸出残渣の固液分離性を向上させて、固形分濃度を上昇させることができる。
浸出残渣量に関しては、例えば、予備中和工程S3後の浸出スラリーの流量を測定し、同時に浸出スラリーのスラリー濃度を測定して、浸出スラリーの流量にスラリー濃度を乗ずることによって、単位時間当たりの浸出残渣量を把握することができる。浸出スラリーの流量は、一般的な電磁式流量計や超音波式流量計等によって測定することができる。浸出スラリーのスラリー濃度は、一定時間毎に採取した浸出スラリーの体積を測定した後、浸出スラリーを濾紙等により濾別して、濾紙上に残った固形物を乾燥後、重量を測定して求めても良い。また、あらかじめ検量線を作成しておいて、浸出スラリーの比重を測定することによって求めても良い。もちろん、一般的な光透過式濃度計や超音波式濃度計等によって測定しても良い。
単位時間当たりの浸出残渣量が分かれば、単位時間当たりの最適な凝集剤量を決定することができる。通常は、浸出残渣量に対する凝集剤量を一定として添加する、すなわち浸出残渣量の増減に応じて凝集剤量を比例で増減させるが、これに限るものでは無い。凝集剤は一定濃度の水溶液とし、この凝集剤水溶液の流量を増減させるようにすれば良い。凝集剤の流量は、例えば、一般的な流量計と調節弁によって調整しても良いし、一般的なダイアフラム式の定量ポンプで調整しても良い。
凝集剤としては、スラリーの固体分を凝集させる効果が生じるものであれば特に限定はされないが、高分子凝集剤が好ましく、例えばアニオン系又はノニオン系(弱アニオン性)の高分子凝集剤が挙げられる。浸出後のスラリーのような酸性領域であって、浸出残渣のようにいわゆる鉱泥を対象とした場合には、このような高分子凝集剤を用いることが好ましい。高分子凝集剤としては、例えば、ポリアクリルアミド系や変性ポリアクリルアミド系の高分子凝集剤を用いることができる。
本発明の一実施形態に係るニッケル高圧浸出残渣の固液分離方法では、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法で得られた浸出スラリーの固液分離処理工程全体において、合計凝集剤使用量を単位浸出残渣量当たり0.60kg/t以下とすることが好ましく、0.38kg/t以上0.43kg/t以下とすることがより好ましい。すなわち、浸出残渣1t当たり、原料換算で0.60kg以下の凝集剤を添加するように調整する。なお、凝集剤は、上記必要量を適当な濃度に希釈したものを添加する。上記必要量は、凝集剤の過剰添加は逆に固形分濃度(solid%)の低下につながるとの知見のもと、固液分離処理の実施において見出されたものである。
本発明の一態様においては、固液分離工程の最終段に添加する凝集剤量を沈降させる浸出残渣に対して好ましくは単位浸出残渣量当たり0.022kg/t以上0.034kg/t未満、より好ましくは、0.022kg/t以上0.027kg/t以下になるように調整する。これによりシックナーアンダーフローの固形分濃度(solid%)を上昇させることができる。0.022kg/t未満では凝集剤量が不足するため固形分濃度(solid%)が低下してしまい、0.034kg/t以上だと凝集剤量が過剰で効果的な凝集効果が得られず固形分濃度(solid%)が低下する。また凝集剤使用量も増加しコストが悪化する。シックナーの最終段はスラリー中の固形分が沈殿凝集して分離される最後の段階であるため凝集剤の添加量を細かく調整することにより最終的なシックナーアンダーフローの固形分濃度(solid%)を上昇させることができる。また、後述するように実施例においても最終段の凝集剤添加量を調整することで最終中和工程に払い出すシックナーアンダーフローの固形分濃度(solid%)は大きく変化することが示されている。
また、使用する凝集剤の薬剤濃度は0.22wt%以上0.29wt%以下に制御することが好ましい。凝集剤濃度が低いほうが凝集剤と浸出残渣との分散性がよく効率的に凝集性が得られるが、一方で凝集剤溶解液の使用量が増加して、溶解設備および流送設備を大きくする必要があり初期投資が増大する。一方で凝集剤濃度が高ければ、同量の凝集剤を添加するのに必要な溶解設備および流送設備は小さくできるが、凝集剤と浸出残渣の分散性が悪化して凝集性が悪化してコストがかかる。
なお、本発明では、固液分離を行う際に、スラリーに凝集剤を添加し、更に、コロイド粒子間の電気的な斥力を弱める凝結剤を添加しても良い。
コロイド粒子はそれ自身が持っている電位により、周りに電気二重層が存在する。粒子同士が凝集する際には、その電気二重層によって斥力が働き、粒子の凝集を阻害する。凝結剤には、この電気的な反発を緩和する働きがあり、凝集剤と共にこの凝結剤を用いることによって、固液分離工程における浸出残渣の沈降性を向上させることができる。
凝結剤の種類としては、粒子間の電気的な斥力を弱める作用を有する物であれば特に限定はされないが、無機系凝結剤としては、硫酸バンド、PAC、塩化アルミ、塩化第二鉄等があり、有機系凝結剤としては、陽イオンポリアミン、アルキルアミンエピクロルヒドリン縮合物、エチレンイミン等が挙げられる。これらの中でも、陽イオンポリアミンは、無機系凝結剤と比べて添加量が少なくて済み、かつ後工程である中和工程において使用することがあるため、操業に悪影響を及ぼすことなく使用することができるという点から特に好ましい。特に、最適な凝集剤としてノニオン性高分子凝集剤が選定された場合、浸出後のスラリーのような酸性水溶液と鉱泥とからなるスラリーでは、元来コロイド粒子が持っている表面電荷が凝集剤によって打ち消されずに残留しているため、逆の電荷を持った凝結剤が有効に機能する。
また、凝結剤は、処理するスラリー流量に対して0.001〜0.010重量%の比率で添加することが好ましい。後述するように、固液分離工程では、主にシックナーを多段に設けた連続向流洗浄法(CCD法:Counter Current Decantation法)が用いられるため、添加比率は、例えば、シックナーの入り口流量に対する凝結剤の添加量比率となる。
凝結剤の添加量の比率が0.001重量%未満の場合は、凝結剤による効果を十分に得ることができない。また、一般的に有機系凝結剤は高価であるため、凝結剤の添加量の比率が0.010重量%を超える場合、費用対効果が良くない上に、後工程や最終製品に悪影響を及ぼす恐れがあるため好ましくない。また、凝結剤によってさらに凝集された粒子どうしが凝結剤そのものの余剰な電荷によって反発することになるので、沈降性が悪くなる。
(2−2.固液分離処理装置の構成)
次に、本発明の一実施形態に係るニッケル高圧浸出残渣の固液分離方法で用いる固液分離処理装置の構成について説明する。図2は、シックナーを多段に連結させてCCD法を行う処理装置の一例を示す構成図である。なお、この図2に示す処理装置1では、シックナーを5段連結させた構成例を示すが、連結段数としてはこれに限定されるものではない。
CCD法では、固液分離処理が行われる沈降分離槽と、撹拌槽との組合せからなるシックナーを1段として、このシックナーが複数段、例えば5〜8段、直列に連結させた処理装置を用いる。この処理装置1では、一端(図2中のA側)の第1段目のシックナーに浸出工程S2にて得られた浸出スラリーが装入され、他端(図2のB側)の最終段目(第5段目)のシックナーに例えば工業用水等の洗浄液が装入される。そして、その浸出スラリーと洗浄液とが処理装置1内で向流で接触し、同時にA端から装入される浸出スラリーに対して凝集剤や凝結剤を添加することで、スラリー中の固形分を凝集させ固液分離を促進させる。
ここで、図3に、図2に示した処理装置1の各段を構成するシックナー(1段のみ)の構成図を示す。上述したように、処理装置1は、複数のシックナーが多段に連結されたものであり、シックナー10は、撹拌槽11と、沈降分離槽12とから構成されている。
撹拌槽11は、その内部に撹拌軸や撹拌羽根等の撹拌部材を備えた槽である。この撹拌槽11では、前段のシックナーから流送された浸出スラリーと、後段のシックナーから流送されたオーバーフロー液とが、それぞれ装入されて撹拌混合される。なお、第1段目のシックナーの撹拌槽11には、前段のシックナーではなく浸出工程S2にて得られた浸出スラリーが装入され、最終段目(図2の例では第5段目(B側))のシックナーの撹拌槽11には、オーバーフロー液ではなく、新規の洗浄水が装入される。この撹拌槽11において、浸出スラリーとオーバーフロー液とが撹拌混合されることによって、浸出スラリーが洗浄され、固形分に付着した付着水が洗い流されるようになる。
沈降分離槽12は、例えば底部が円錐形状で上部が円筒形状の処理槽であり、その内部に浸出スラリーが装入されて、その浸出スラリー中の固形分を沈降分離させる。
沈降分離槽12には、その内部に垂直に配設された筒状のフィードウェル13が備えられている。フィードウェル13は、例えば沈降分離槽12が円筒形状の場合には、その沈降分離槽12と略同心円状に設けられている。このフィードウェル13は、撹拌槽11から供給された浸出スラリーを沈降分離槽12内に送り込む(フィードする)送路となっている。
また、沈降分離槽12には、その槽上部の周縁部に浸出スラリー中の固形分を沈降分離させて得られた上澄み液である浸出液をオーバーフロー(OF)させて排出するためのオーバーフロー部14が設けられている。このオーバーフロー部14は、例えば樋のような形状となっており、後段のシックナーからのオーバーフロー液を撹拌槽11に流送させるための流路が接続されている。なお、沈降分離槽12において、オーバーフローした溶液(以下、オーバーフロー液ともいう。)は、上述したように前段の撹拌槽11に流送され、一方で、それ以外の固形分を含めたスラリーは、沈降分離槽12の下部から取り出されて、ポンプ15によって後段の撹拌槽11にポンプ送液される。
次に、図3に示したような、撹拌槽11と沈降分離槽12とからなるシックナーを複数段連結させた処理装置1(図2)によって、浸出スラリーを多段洗浄する際の基本的な流れを説明する。なお、図2中の矢印は、浸出スラリーやオーバーフロー液の流れを示す。
先ず、第1段目のシックナーでは、その撹拌槽内に、浸出工程S2において得られた浸出スラリー(予備中和工程S3でpH調整されたもの)と、後段の第2段目のシックナーの沈降分離槽からのオーバーフロー液とが装入されて、それらが撹拌混合される。この撹拌槽内では、浸出スラリー中の固形分に付着している付着水がオーバーフロー液によって洗浄され、付着水中のニッケルイオン等が液側に回収される。その後、撹拌槽からフィードウェルを介して洗浄された浸出スラリーが沈降分離槽内に装入される。
このとき、例えば、第1段目のシックナーにおいては、フィードウェルを介して浸出スラリーと共に、スラリー中の固形分を凝集させるための凝集剤が添加される。そして、装入された沈降分離槽内で浸出スラリーと凝集剤とが混合され、スラリー中の固形分が凝集沈殿して分離される。凝集剤は各段のシックナーにおいても添加されるが、特に最終段のシックナーにおいて凝集剤の濃度を調整することが重要である。分離した固形分を含むスラリーは、沈降分離槽の下部から抜き出されてポンプを介して後段の第2段目のシックナーの撹拌槽に移送される。一方で、沈降分離槽からオーバーフロー部を経由してオーバーフローした上澄み液は、湿式製錬方法における次工程の中和工程S5に供給される。
次に、第2段目のシックナーでは、その撹拌槽内に、前段の第1段目のシックナーの沈降分離槽の下部から抜き出された固形分を含むスラリーが装入されるとともに、後段の第3段目のシックナーの沈降分離槽からのオーバーフロー液が装入されて、固形分に付着した水分中のニッケルイオン等がオーバーフロー液によって洗い流される。そして、撹拌槽内で洗浄されて得られたスラリーは、フィードウェルを介して沈降分離槽内に装入され、スラリー中の固形分が凝集沈殿して分離される。分離した固形分を含むスラリーは、沈降分離槽の下部から抜き出されてポンプを介して後段の第3段目のシックナーの撹拌槽に移送される。一方で、沈降分離槽からオーバーフロー部を経由してオーバーフローしたオーバーフロー液は、前段の第1段目のシックナーの撹拌槽に接続された配管等を経由して、その撹拌槽内に装入される。
以後、第3段目のシックナー、第4段目のシックナーにおいても、同様の手順によって固形分を含むスラリーがオーバーフロー液と向流で接触することで、多段洗浄される。
そして、最終段である第5段目のシックナーでは、その撹拌槽内に、前段の第4段目のシックナーの沈降分離槽の下部から抜き出された固形分を含むスラリーが装入されるとともに、新規の洗浄水(例えば、湿式製錬プロセスにおける低ニッケル濃度のプロセス液)が装入されて、固形分に付着した水分中のニッケルイオン等が洗浄水によって洗い流される。本発明の一態様では、固液分離工程の最終段(この場合は5段目)に添加する凝集剤量を沈降させる浸出残渣に対して好ましくは単位浸出残渣量当たり0.022kg/t以上0.034kg/t未満、より好ましくは、0.022kg/t以上0.027kg/t以下になるように調整する。最終段に添加する凝集剤の添加量を調整する意義については上述した通りである。そして、撹拌槽内で洗浄されて得られたスラリーは、フィードウェルを介して沈降分離槽内に装入され、スラリー中の固形分が凝集沈殿して分離される。分離した固形分を含むスラリーは、沈降分離槽の下部からポンプで抜き取られ、浸出残渣(CCD残渣)として残渣処理される。一方で、沈降分離槽からオーバーフロー部を経由してオーバーフローしたオーバーフロー液は、前段の第4段目のシックナーの撹拌槽に接続された配管等を経由して、その撹拌槽内に装入される。
なお、このようにして、浸出スラリーに対して多段洗浄を行いながら固液分離処理を施すことによって、新規の洗浄水としては最終段のシックナーのみに洗浄水を装入すればよいため、その最終段以外の各段のシックナーには新規の洗浄水が不要となる。これにより、洗浄水を大幅に節約することが可能となる。そのことにより、浸出液のニッケル、コバルト濃度の低下も防ぐことができ、中和工程S5以降の次工程の装置効率、処理効率が向上し、低設備コスト、低運転コストの効率的な操業を行うことができる。
本発明の一実施形態に係るニッケル高圧浸出残渣の固液分離方法では、凝集剤の必要量を各シックナーに分割して添加するようにしてもよい。すなわち、5段のシックナーで構成されている場合には、凝集剤を5等分して各シックナーに添加しても良い。この時、合計凝集剤使用量を単位浸出残渣量当たり0.60kg/t以下とすることが好ましく、0.38kg/t以上0.43kg/t以下とすることがより好ましい。または、各シックナーでのアンダーフロースラリーの固形分濃度の状況に応じて、濃度の異なる凝集剤を分けて添加しても良い。
このような固液分離処理方法によれば、沈降が生じるフィードウェルと、後段から供給されるオーバーフロー液のそれぞれに凝集剤が作用し、浸出スラリー中の固形分の凝集がより効果的に進行する。このため、少ないシックナー段数であっても、最終的に第1段目のシックナーから排出されるオーバーフロー液の浮遊物質(SS)濃度を低くすることができる。これにより、付随した効果として、シックナーの段数を減少させることも可能であり、固液分離装置の設置スペースを縮小させることができ、また初期の設備投資を大幅に削減することができるので、効率的な固液分離処理を行うことが可能となる。
以下、本発明について、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
(実施例1〜4)
実施例1〜4では、固液分離工程において、シックナーにノニオン性高分子凝集剤であるクリファーム(栗田工業株式会社製)を添加し、操業を行った。7段からなる固液分離工程の最終段(7段目)において、単位残渣量当たりの凝集剤添加量を0.022kg/t〜0.027kg/tの間で変化させながら、最終中和工程に払い出したシックナーアンダーフローの固形分濃度(solid%)を測定した。その結果を、表1と図4に示す。
(比較例1、2)
比較例1、2では、最終段(7段目)における単位残渣量当たりの凝集剤添加量を0.022kg/t未満(比較例1は0.019kg/t、比較例2は0.020kg/t)としたこと以外は、実施例と同様の条件で固液分離を行い、最終中和工程に払い出したシックナーアンダーフローの固形分濃度(solid%)を測定した。その結果を、表1と図4に示す。
(比較例3、4)
比較例3、4では、最終段(7段目)における単位残渣量当たりの凝集剤添加量を0.034kg/tとしたこと以外は、実施例と同様の条件で固液分離を行い、最終中和工程に払い出したシックナーアンダーフローの固形分濃度(solid%)を測定した。その結果を、表1と図4に示す。
表1の結果より、最終段の凝集剤添加量を0.022kg/t〜0.027kg/tの範囲した実施例1〜4のシックナーアンダーフローの固形分濃度の平均値が43.9%と最も高くなった。一方で、最終段の凝集剤添加量が0.022kg/tよりも少ない比較例1、2の平均値が40.3%、最終段の凝集剤添加量が0.034kg/tである比較例3、4の平均値が42.6%であり、実施例の平均値より低いものであった。したがって、凝集剤は添加不足でも添加過剰でも固形分濃度を上昇させることはできず、最終段の凝集剤添加量を0.022kg/t以上0.034kg/t未満とする最適な添加量が存在することが分かった。
なお、実施例2、比較例1、比較例2はいずれも固液分離工程の全凝集剤添加量が0.390kg/tと全く同じ量を添加しているにもかかわらず、最終段の凝集剤添加量を変えることでシックナーアンダーフローの固形分濃度が変化しており、最終段の凝集剤添加量を調整することが重要であることも分かった。
なお、上記のように本発明の一実施形態および各実施例について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
例えば、明細書または図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書または図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、ニッケル高圧浸出残渣の固液分離方法の構成も本発明の一実施形態および各実施例で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
1 処理装置、10 シックナー、11 撹拌槽、12 沈降分離槽、13 フィードウェル、14 オーバーフロー部、15 ポンプ

Claims (4)

  1. ニッケル酸化鉱石を高圧硫酸浸出した後の浸出残渣のスラリーを予備中和後に、シックナーを用いて固体分を凝集沈降させて固液分離するニッケル高圧浸出残渣の固液分離方法であって、
    前記シックナーに供給する前記浸出残渣量を見積り又は計測し、該浸出残渣量に応じて添加する凝集剤の量を、凝集剤使用量が単位浸出残渣量当たり0.60kg/t以下となるように調整し、
    前記シックナーは多段に設けられており、前記固液分離を連続向流洗浄法(CCD法)により行い、
    前記シックナーの最終段に、単位浸出残渣量当たり0.022kg/t以上0.034kg/t未満の添加量で前記凝集剤を添加することを特徴とするニッケル高圧浸出残渣の固液分離方法。
  2. 前記凝集剤を0.22wt%以上0.29wt%以下の濃度で使用することを特徴とす
    る請求項に記載のニッケル高圧浸出残渣の固液分離方法。
  3. 前記凝集剤は高分子凝集剤であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のニッケル高圧浸出残渣の固液分離方法。
  4. 前記予備中和において、前記スラリーの液相部のpHが2.5〜3.4となるように調
    整することを特徴とする請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載のニッケル高圧浸出
    残渣の固液分離方法。
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