JP2019049020A - ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、浸出液中の不純物を効果的に沈澱物として除去可能にするとともに、中和終液の濁度を低減しながら、ニッケル実収率の低下を極めて低い水準に抑えることができる方法を提供する。【解決手段】本発明は、ニッケル酸化鉱石に対して酸を添加して浸出処理を施し、得られた浸出液からニッケル及びコバルトの硫化物を得るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法であって、浸出処理を施して得られた浸出スラリーに対して固液分離処理を施し、浸出液と浸出残渣とを得る固液分離工程S2と、浸出液に中和剤を添加して中和処理を施し、不純物を含む中和澱物とニッケル及びコバルトを含む中和終液とを得る中和工程S3とを含み、中和工程S3では、固液分離工程S2で分離した浸出残渣のスラリーを、中和処理に供される浸出液の流量に対して5.0体積%〜8.0体積%の比率となる流量で、浸出液に添加する。【選択図】図1
Description
本発明は、ニッケル酸化鉱石に対して酸を添加して浸出処理を施し、得られた浸出液からニッケルを含む硫化物を得るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法であり、詳しくは、中和処理で浸出液中の不純物を効果的に沈澱物として除去可能とするとともに、中和終液の濁度を低減しながら、ニッケル実収率の低下を極めて低い水準に抑えることができる湿式製錬方法に関する。
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬法として、硫酸を用いた高圧酸浸出法がある。この方法は、従来の一般的なニッケル酸化鉱の製錬方法である乾式製錬法と異なり、還元及び乾燥工程を含まず、一貫した湿式工程からなるので、エネルギー的及びコスト的に有利であることとともに、ニッケル品位を50質量%程度まで上昇したニッケルを含む硫化物を得ることができるという利点を有している。
上記高圧酸浸出法は、例えば、下記工程を含む。すなわち、
(a)ニッケル酸化鉱石のスラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出し、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを得る浸出工程と、
(b)浸出スラリーを多段洗浄しながら浸出残渣を分離して、ニッケル及びコバルトとともに不純物元素を含む浸出液を得る固液分離工程と、
(c)浸出液に中和剤を添加してpHを調整することで不純物元素を含む中和澱物を分離して、ニッケル及びコバルトを含む中和終液を得る中和工程と、
(d)中和終液に亜鉛が多く含まれる場合に、硫化水素ガスを添加することで亜鉛を硫化物として取り除き脱亜鉛終液を得る脱亜鉛工程と、
(e)ニッケル回収用の母液(中和終液又は脱亜鉛終液)に硫化水素ガスを添加することでニッケルを含む硫化物(ニッケル・コバルト混合硫化物)を生成させ、その硫化物を他から分離するニッケル回収工程と、を含む。
(a)ニッケル酸化鉱石のスラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出し、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを得る浸出工程と、
(b)浸出スラリーを多段洗浄しながら浸出残渣を分離して、ニッケル及びコバルトとともに不純物元素を含む浸出液を得る固液分離工程と、
(c)浸出液に中和剤を添加してpHを調整することで不純物元素を含む中和澱物を分離して、ニッケル及びコバルトを含む中和終液を得る中和工程と、
(d)中和終液に亜鉛が多く含まれる場合に、硫化水素ガスを添加することで亜鉛を硫化物として取り除き脱亜鉛終液を得る脱亜鉛工程と、
(e)ニッケル回収用の母液(中和終液又は脱亜鉛終液)に硫化水素ガスを添加することでニッケルを含む硫化物(ニッケル・コバルト混合硫化物)を生成させ、その硫化物を他から分離するニッケル回収工程と、を含む。
具体的に、中和工程では、固液分離工程を経て回収された浸出液を中和槽に装入し、例えば炭酸カルシウムスラリー等の中和剤を添加して中和し、得られる水酸化物沈澱を固液分離することによって、中和澱物と中和終液とを得る。ところが、この固液分離処理は難しく、中和終液への微細な中和澱物の混入が避けられなかった。このように中和澱物が混入すると、中和終液は濁度が高くなるとともに、後工程へ不純物が持ち込まれてしまう。
さて、例えば特許文献1には、上述した中和工程において、浸出液中に浸出残渣を添加し、かつ中和終液のpHを特定の条件になるように調整するとともに、中和終液に含まれる亜鉛を除去するための脱亜鉛工程において、亜鉛を硫化物として固定し分離する処理の促進のために、その中和終液の濁度を高く維持して処理する技術が提案されている。これにより、中和澱物を亜鉛硫化物によって粗大化して濾過性を向上させ、またニッケル回収率を高めることが可能となる。
しかしながら、例えば特許文献1に記載の方法を用いた場合、不純物量に応じて中和工程と脱亜鉛工程の条件を適切に組み合わせないと、脱亜鉛工程を経て得られたニッケル回収用の母液には不純物が多く残存した状態となりやすく、このようなニッケル回収用母液(硫化反応始液)を用いて硫化処理によりニッケルの硫化物を生成させると、その硫化物には不純物が多く含まれてしまうという問題が生じる。
つまり、ニッケル回収工程での硫化反応の反応始液となる中和終液においては、その濁度が、得られる硫化物中の不純物含有量に影響する。そのため、中和工程では、浸出液中の不純物を効果的に析出させるとともに、次工程へ送る中和終液の濁度を安定的に低く維持することが求められる。
中和終液の濁度を低減させる方法として、本出願人により、浸出液に対する中和処理にあたり、浸出処理により生成した浸出スラリーを固液分離することで得られる浸出残渣のスラリーを浸出液(中和始液)に添加する方法が見出されている。このような中和処理方法を実施することで、浸出液中の不純物を沈澱物として有効に除去するとともに、得られる中和終液の濁度を効果的に低減することができる。
しかしながら、このような方法では、浸出残渣スラリーの添加により、中和処理を経て得られる中和澱物スラリーの量が増加する。浸出残渣には、浸出処理で浸出液中に移行されなかったニッケルが微量含まれており、中和処理によりその浸出残渣のスラリーを添加して処理すると、ニッケルを含む中和澱物スラリーの量が増加することになる。一般的に、回収した中和澱物は、浸出スラリーを多段洗浄により固液分離する固液分離工程に返送されるが、多段洗浄“前段”での澱物負荷を低減するために、ニッケル濃度が低い多段洗浄“後段”に中和澱物が移送される。すると、固液分離により分離される浸出残渣に移行するニッケル量が多くなり、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスを経て得られるニッケルの実収率が低下するという問題がある。
このように、中和工程における処理での中和澱物スラリーの増加は、その中和澱物スラリーの移送先である固液分離工程でのニッケルの分離に影響し、延いては、湿式製錬プロセスにて得られるニッケルの実収率を低下させる要因となる。
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、浸出液中の不純物を効果的に沈澱物として除去可能にするとともに、中和終液の濁度を低減しながら、ニッケル実収率の低下を極めて低い水準に抑えることができる方法を提供することを目的とする。
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、中和処理に供される浸出液に対して、固液分離工程で分離した浸出残渣のスラリーを特定の割合で添加することにより、上述した課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
(1)本発明の第1の発明は、ニッケル酸化鉱石に対して酸を添加して浸出処理を施し、得られた浸出液からニッケル及びコバルトの硫化物を得るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法であって、前記浸出処理を施して得られた浸出スラリーに対して固液分離処理を施し、浸出液と浸出残渣とを得る固液分離工程と、前記浸出液に中和剤を添加して中和処理を施し、不純物を含む中和澱物とニッケル及びコバルトを含む中和終液とを得る中和工程と、を含み、前記中和工程では、前記固液分離工程で分離した前記浸出残渣のスラリーを、中和処理に供される前記浸出液の流量に対して5.0体積%〜8.0体積%の比率となる流量で、該浸出液に添加する、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法である。
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記中和工程で得られた中和澱物のスラリーは、前記固液分離工程に繰り返される、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法である。
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記固液分離工程では、前記浸出スラリーを多段洗浄しながら固液分離する、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法である。
本発明によれば、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、浸出液中の不純物を効果的に沈澱物として除去可能とし、濁度を低減させた中和終液を得ることができるとともに、ニッケル実収率の低下を極めて低い水準に抑えることができる。また、濁度を低減させた中和終液が得られることから、その中和終液に基づいて硫化反応によりニッケルの硫化物を生成させることで、不純物含有量の極めて少ない硫化物を得ることができ、製品品質を向上させることができる。さらに、ニッケル実収率の低下を抑えることができることから、ニッケルの増産化を図ることが可能となり、その工業的価値は極めて高い。
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。本明細書において、「X〜Y」(X、Yは任意の数値)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」であることを意味する。
≪1.概要≫
本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、ニッケル酸化鉱石に対して酸を添加して浸出処理を施し、得られた浸出液からニッケルを含む硫化物を得る方法である。なお、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおいては、浸出液に基づいて硫化処理を施すことによって、ニッケルと共に浸出液中に浸出されたコバルトとを含む、ニッケル・コバルト混合硫化物が得られるが、「ニッケルを含む硫化物」とはそのニッケル・コバルト混合硫化物の意味を含む。
本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、ニッケル酸化鉱石に対して酸を添加して浸出処理を施し、得られた浸出液からニッケルを含む硫化物を得る方法である。なお、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおいては、浸出液に基づいて硫化処理を施すことによって、ニッケルと共に浸出液中に浸出されたコバルトとを含む、ニッケル・コバルト混合硫化物が得られるが、「ニッケルを含む硫化物」とはそのニッケル・コバルト混合硫化物の意味を含む。
具体的に、このニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、浸出処理を施して得られた浸出スラリーに対し固液分離処理を施して浸出液と浸出残渣とを得る固液分離工程と、浸出液に中和剤を添加し中和処理を施して不純物を含む中和澱物とニッケルを含む中和終液とを得る中和工程と、を含む。そして、中和工程においては、固液分離工程で分離した浸出残渣のスラリーを、中和処理に供される浸出液の流量に対して特定の割合、すなわち5.0体積%〜8.0体積%の比率となる流量で、その浸出液に添加することを特徴としている。なお、浸出液の流量に対する浸出残渣スラリーの添加割合を、「浸出残渣スラリーの流量比率」ともいう。
このような方法によれば、得られる中和終液の濁度を低い状態に維持することができ、湿式製錬プロセスの後工程の硫化工程において、不純物の少ないニッケルを含む硫化物を生成させることができる。また、中和処理において浸出液に添加される浸出残渣スラリーの流量比率を特定の範囲としていることにより、ニッケル実収率の低下を極めて低い水準に抑えることができる。
≪2.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法≫
以下、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の各工程について詳細に説明する。
以下、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の各工程について詳細に説明する。
図1は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの流れの一例を示す工程図である。図1に示すように、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスは、原料のニッケル酸化鉱石のスラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出処理を施す浸出工程S1と、浸出スラリーから浸出残渣を分離してニッケルを含む浸出液を得る固液分離工程S2と、浸出液のpHを調整して浸出液中の不純物を中和澱物として分離して中和終液を得る中和工程S3と、中和終液に硫化剤を添加することでニッケルの硫化物を生成させる硫化工程S4と、を有する。
(1)浸出工程
浸出工程S1では、オートクレーブ等の高温加圧反応槽を用い、ニッケル酸化鉱石のスラリー(以下、「鉱石スラリー」ともいう)に硫酸を添加して、例えば、温度230℃〜270℃程度、圧力3MPa〜5MPa程度の条件下で撹拌して浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを生成する。
浸出工程S1では、オートクレーブ等の高温加圧反応槽を用い、ニッケル酸化鉱石のスラリー(以下、「鉱石スラリー」ともいう)に硫酸を添加して、例えば、温度230℃〜270℃程度、圧力3MPa〜5MPa程度の条件下で撹拌して浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを生成する。
原料のニッケル酸化鉱石としては、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱が挙げられる。ラテライト鉱のニッケル含有量は、通常、0.8重量%〜2.5重量%であり、水酸化物又はケイ酸マグネシウム鉱物として含有される。また、鉄の含有量は10重量%〜50重量%であり、主として3価の水酸化物の形態であるが、一部2価の鉄がケイ苦土鉱物に含有される。また、浸出工程S1では、このようなラテライト鉱の他に、ニッケル、コバルト、マンガン、銅等の有価金属を含有する酸化鉱石、例えば深海底に賦存するマンガン瘤等を用いることができる。
浸出工程S1における浸出処理では、例えば下記式[1]〜[5]で表される浸出反応と高温加水分解反応が生じ、ニッケル、コバルト等の硫酸塩としての浸出と、浸出された硫酸鉄のヘマタイトとしての固定化が行われる。ただし、鉄イオンの固定化は完全には進行しないため、通常、得られる浸出スラリーの液部分には、ニッケル、コバルト等の他に2価と3価の鉄イオンが含まれる。なお、浸出工程S1では、次工程の固液分離工程S2で分離されるヘマタイトを含む浸出残渣の濾過性の観点から、得られる浸出液のpHが0.1〜1.0にとなるように調整することが好ましい。
・浸出反応
MO+H2SO4⇒MSO4+H2O ・・[1]
(なお、式中Mは、Ni、Co、Fe、Zn、Cu、Mg、Cr、Mn等を表す)
2Fe(OH)3+3H2SO4⇒Fe2(SO4)3+6H2O ・・[2]
FeO+H2SO4⇒FeSO4+H2O ・・[3]
・高温加水分解反応
2FeSO4+H2SO4+1/2O2⇒Fe2(SO4)3+H2O ・・[4]
Fe2(SO4)3+3H2O⇒Fe2O3+3H2SO4 ・・[5]
MO+H2SO4⇒MSO4+H2O ・・[1]
(なお、式中Mは、Ni、Co、Fe、Zn、Cu、Mg、Cr、Mn等を表す)
2Fe(OH)3+3H2SO4⇒Fe2(SO4)3+6H2O ・・[2]
FeO+H2SO4⇒FeSO4+H2O ・・[3]
・高温加水分解反応
2FeSO4+H2SO4+1/2O2⇒Fe2(SO4)3+H2O ・・[4]
Fe2(SO4)3+3H2O⇒Fe2O3+3H2SO4 ・・[5]
なお、鉱石スラリーを装入したオートクレーブへの硫酸の添加量としては、特に限定されないが、鉱石中の鉄が浸出されるような過剰量が用いられる。例えば、鉱石1トン当り300kg〜400kgの割合とする。
(2)固液分離工程
固液分離工程S2では、浸出工程S1で生成した浸出スラリーを多段洗浄して、ニッケルやコバルト等の有価金属を含む浸出液と浸出残渣とを分離する。
固液分離工程S2では、浸出工程S1で生成した浸出スラリーを多段洗浄して、ニッケルやコバルト等の有価金属を含む浸出液と浸出残渣とを分離する。
固液分離工程S2では、浸出スラリーを洗浄液と混合した後、シックナー等の固液分離装置を用いて固液分離処理を施す。具体的には、先ず、浸出スラリーが洗浄液により希釈され、次に、浸出スラリー中の浸出残渣がシックナーの沈降物として濃縮される。これにより、浸出残渣に付着するニッケル分をその希釈度合に応じて減少させることができる。また、このようにシックナーを多段に連結して用いて多段洗浄しながら固液分離することにより、洗浄液、すなわち浸出液へのニッケル及びコバルトの回収率の向上を図ることができる。
ここで、固液分離工程S2では、次工程の中和工程S3における処理で得られる中和澱物のスラリーが移送され、浸出スラリーと共に固液分離される。また、この中和澱物のスラリーは、多段洗浄の前段での澱物負荷を低減させる観点から、多段洗浄のうち後段側に移送されることが好ましい。
固液分離処理における多段洗浄方法として、ニッケルを含まない洗浄液で向流に接触させる連続向流洗浄法(CCD法)を用いる。これにより、系内に新たに導入する洗浄液を削減できるとともに、ニッケル及びコバルトの回収率を高めることができる。
洗浄液としては、特に限定されないが、ニッケルを含まず、工程に影響を及ぼさないものを用いることができる。その中でも、pHが1〜3の水溶液を用いることが好ましい。洗浄液のpHが高いと、浸出液中にアルミニウムが含まれる場合には嵩の高いアルミニウム水酸化物が生成され、シックナー内での浸出残渣の沈降不良の原因となる。洗浄液としては、好ましくは、後工程である硫化工程S4で得られる低pH(pHが1〜3程度)の貧液を繰り返して利用することができる。
固液分離装置として、例えば、周縁部に上澄み液を排出するオーバーフロー部と、中心部に垂直に配設された筒状のフィードウェルとを有する沈降分離槽と、撹拌槽とを備えたシックナーを用いることができる。このシックナーを多段に設けて、処理対象となる浸出スラリーを多段洗浄しながら固形分である浸出残渣を分離除去する。
このような固液分離処理により分離された浸出液は、次工程の中和工程における中和処理に供される。一方で、分離された浸出残渣のスラリーは、その一部が後工程の中和工程S3で中和処理に供される浸出液に添加され、残部は、適宜排水処理が施される。
(3)中和工程
中和工程S3では、浸出液の酸化を抑制しながら、得られた浸出液に中和剤を添加してpHを所定の範囲に調整し、不純物元素を含む中和澱物とニッケル回収用母液となる中和終液とを生成させる。このような中和処理を施すことで、得られる中和終液中の不純物含有量を低減させて、その中和終液に対して硫化処理(硫化工程S4)を施して得られるニッケルを含む硫化物(製品)の品質を高めることができる。
中和工程S3では、浸出液の酸化を抑制しながら、得られた浸出液に中和剤を添加してpHを所定の範囲に調整し、不純物元素を含む中和澱物とニッケル回収用母液となる中和終液とを生成させる。このような中和処理を施すことで、得られる中和終液中の不純物含有量を低減させて、その中和終液に対して硫化処理(硫化工程S4)を施して得られるニッケルを含む硫化物(製品)の品質を高めることができる。
具体的に、中和工程S3では、浸出液に中和剤を添加してpHを調整することで、中和終液と、不純物元素として例えば3価の鉄を含む中和澱物のスラリーとを生成する。中和工程S3では、このようにして浸出液に対する中和処理を施すことで、浸出工程S1での浸出処理で用いた過剰の酸を中和して中和終液を生成させるとともに、溶液中に残留する鉄イオンやアルミニウムイオン等の不純物元素を中和澱物として除去する。
ここで、本実施の形態では、この中和処理において、固液分離工程S2にて浸出スラリーを固液分離して得られた浸出残渣のスラリーを、中和処理に供される浸出液の流量に対して特定の比率となる流量で、その浸出液に添加している。このように、浸出液の流量に対して特定の割合となるように浸出残渣スラリーを添加することで、得られる中和終液の濁度を有効に低減させることができ、また、得られる中和澱物スラリーが過多になることを防ぐことができる。詳しくは後述する。
なお、中和処理により得られる中和澱物スラリーは、固液分離工程S2に繰り返される。このとき、本実施の形態においては、中和処理に供される浸出液に対して特定の流量の範囲で浸出残渣スラリーを添加していることから、中和澱物スラリーの過度な増加を防ぐことができ、ニッケル実収率の低下を抑えることができる。
(4)硫化工程
硫化工程S4では、ニッケル回収用母液である中和終液を硫化反応始液として、その硫化反応始液に対して硫化剤としての硫化水素ガスを吹き込むことによって硫化反応を生じさせ、不純物成分の少ないニッケルの硫化物と、ニッケルの濃度を低い水準で安定させた貧液である硫化反応終液とを生成させる。
硫化工程S4では、ニッケル回収用母液である中和終液を硫化反応始液として、その硫化反応始液に対して硫化剤としての硫化水素ガスを吹き込むことによって硫化反応を生じさせ、不純物成分の少ないニッケルの硫化物と、ニッケルの濃度を低い水準で安定させた貧液である硫化反応終液とを生成させる。
なお、中和終液に亜鉛が含まれる場合には、硫化物としてニッケルを分離するに先立って、亜鉛を硫化物として選択的に分離することができる。
硫化工程S4における硫化処理は、硫化反応槽等を用いて行うことができ、硫化反応槽に導入した硫化反応始液に対して、その反応槽内の気相部分に硫化水素ガスを吹き込み、溶液中に移動した硫化水素ガスによって緩やかに硫化反応を生じさせることができる。この硫化処理により、硫化反応始液中に含まれるニッケルを硫化物として固定化する。
硫化反応の終了後においては、得られたニッケルの硫化物を含むスラリーをフィルタープレス等の濾過装置に装入して濾過処理を施し、濾布上にその硫化物を捕集する。濾布を通過した水溶液成分は、貧液として回収する。濾過装置への通液量を低減するために、スラリーはあらかじめシックナー等の沈降濃縮装置に装入して、上澄み液を貧液として除去しておくのがよい。
≪3.中和工程における中和処理について≫
本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法では、中和工程S3の中和処理において、処理対象である浸出液に対して中和剤を添加して所定のpHに調整する。このとき、浸出スラリーを固液分離して得られた浸出残渣のスラリーを、その中和処理に供される浸出液の流量に対して特定の流量、具体的には、5.0体積%〜8.0体積%の比率となる流量で、その浸出液に添加する。
本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法では、中和工程S3の中和処理において、処理対象である浸出液に対して中和剤を添加して所定のpHに調整する。このとき、浸出スラリーを固液分離して得られた浸出残渣のスラリーを、その中和処理に供される浸出液の流量に対して特定の流量、具体的には、5.0体積%〜8.0体積%の比率となる流量で、その浸出液に添加する。
(pH調整について)
中和処理においては、浸出液に中和剤を添加することによって、得られる中和終液のpHが2.5〜3.5の範囲となるように調整することが好ましい。
中和処理においては、浸出液に中和剤を添加することによって、得られる中和終液のpHが2.5〜3.5の範囲となるように調整することが好ましい。
中和終液のpHが2.5未満となるように調整すると、浸出液中に含まれる不純物元素を十分に水酸化物等の沈澱物にすることができないことがある。そしてこれにより、得られる中和終液の不純物含有量が高まり、硫化工程S4にて生成するニッケルを含む硫化物の不純物量が上昇してしまう。一方で、中和終液のpHが3.5を超えるように調整すると、沈降性の悪い微粒子が発生して濁度が高くなりやすくなる。また、後工程で亜鉛を硫化物として除去する際に、ニッケル及びコバルトの一部も析出してしまう。
中和剤としては、特に限定されず、例えば水酸化マグネシウムや炭酸カルシウム等の水酸化アルカリ金属塩や炭酸アルカリ金属塩の水溶液あるいはスラリーを用いることができる。なお、工業的には、安価な炭酸カルシウムのスラリーを用いることが好ましい。
(浸出残渣スラリーの添加)
中和処理においては、中和剤を添加するとともに、浸出スラリーを固液分離して得られた浸出残渣のスラリーを添加する。これにより、得られる中和終液の濁度を有効に低減することができる。具体的には、中和終液の濁度が100NTU未満となるようにすることができる。これにより、その中和終液に対して硫化処理を施して得られるニッケルの硫化物に含まれる不純物含有量をより効果的に低減させることができ、ニッケルの硫化物の品質を向上させることができる。
中和処理においては、中和剤を添加するとともに、浸出スラリーを固液分離して得られた浸出残渣のスラリーを添加する。これにより、得られる中和終液の濁度を有効に低減することができる。具体的には、中和終液の濁度が100NTU未満となるようにすることができる。これにより、その中和終液に対して硫化処理を施して得られるニッケルの硫化物に含まれる不純物含有量をより効果的に低減させることができ、ニッケルの硫化物の品質を向上させることができる。
ここで、浸出残渣スラリーは、湿式製錬プロセスの浸出工程S1にて生成した浸出スラリーを、固液分離工程S2で固液分離して得られる浸出残渣のスラリーである。この浸出残渣は、ヘマタイト(Fe2O3)が主成分(通常50質量%〜70質量%)として含まれるものであり、比重が大きい。また。この浸出残渣には、浸出工程S1における浸出処理により、浸出液中に移行せずに沈殿物となったニッケルを微量含んでいる。
浸出液に対する中和処理において、浸出残渣スラリーを添加することによって、比重の大きな浸出残渣を核として中和澱物が凝集形成されるようになり、その結果として中和澱物の沈降性を高めることができ、得られる中和終液の濁度を低減させることができる。そして、濁度を有効に低減させた中和終液(ニッケル回収用母液)を、この硫化工程S4における硫化反応始液として用いることによって、極めて不純物含有量の少ないニッケル・コバルト混合硫化物を生成させることができる。
このとき、本実施の形態においては、浸出液に対して添加する浸出残渣スラリーの量を適切に制御することが重要となる。具体的には、中和処理に供される浸出液の流量に対して、5体積%以上、好ましくは6体積%以上の比率となる流量で添加する。また、浸出液の流量に対して8体積%以下、好ましくは7.5体積%以下の比率となる流量で添加する。このように、浸出液に対して上述した範囲の流量で浸出残渣スラリーを添加していくことで、得られる中和終液の濁度を、通常100NTU未満、好ましくは70NTU未満にまで低減させることができる。また一方で、中和澱物スラリーが過度に増加することを防ぐことができ、湿式製錬プロセスを経て得られるニッケルの実収率の低下を有効に抑えることができる。
浸出残渣スラリーの添加量に関して、中和処理に供される浸出液の流量に対して5体積%未満であると、中和澱物が析出可能な核が不足してしまい、濁度が高くなりやすく、後工程で不純物含有量が増えてしまう。一方で、浸出液の流量に対して8体積%を超えると、生成する中和澱物の量が過多となってしまい、ニッケル実収率の低下が生じる。すなわち、生成した中和澱物は、固液分離工程S2を実行する処理槽に移送され、浸出スラリーと共に固液分離処理が施されるが、中和澱物スラリーが過多となると、その中和澱物中のニッケルが固液分離により分離される浸出残渣に移行してしまい、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスを経て得られるニッケル実収率が低下する。
浸出残渣のスラリーとしては、固液分離工程S2において多段洗浄による固液分離で得られたものであることが好ましく、このように多段洗浄して得られた浸出残渣は、酸やアルカリの付着が少ない。このため、中和処理において浸出液全体のpH制御の妨げになることを防ぐことができる。また、添加した浸出残渣の近傍の局所的なpHもバルクのpHの変化に追随することから、中和澱物の析出速度や粒子径の制御が容易となる。さらに、多段洗浄による固液分離により得られた浸出残渣は、水との比重分離性や濾過分離性に優れており、このような性質の特に強い浸出残渣(例えば、シックナーの最底部や初期沈澱)を選んで使用することで、中和澱物をさらに容易に分離することができ、中和終液の濁度をより効果的に低減することができる。
浸出残渣のスラリーとしては、スラリー濃度が1.5t/m3〜1.7t/m3の範囲のものを用いることが好ましい。このようなスラリー濃度の浸出残渣スラリーを用いることで、中和終液の濁度をより効果的に低減することができる。
浸出液に浸出残渣スラリーを添加するに際しては、凝結剤を併せて添加することが好ましい。一般的に、水酸化物沈澱等の中和澱物は、沈降性が極めて悪いことが知られており、凝集の母体となる浸出残渣スラリーを添加するとともに凝結剤を添加することで、比重の大きな浸出残渣スラリーと水酸化物沈澱等の中和澱物とを凝結させて、より沈降性を促進させることができる。このように、浸出残渣スラリーという、水酸化物沈澱等の中和澱物と凝結する母体が存在することで、凝結剤の効果を高めることができる。
凝結剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリアミン、ポリダドマック、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド等を使用することができる。
なお、浸出液の流量が増減した場合、浸出残渣スラリーの添加量もそれに応じて増減させるのが好ましい。ただし、浸出残渣スラリーの添加流量を増加させる場合には、徐々に増加させていくことが望ましい。浸出残渣は、中和澱物と凝結してはじめて効果を奏するため、中和澱物の組成、凝結剤の添加量によっては、添加量を増加させても中和澱物の沈降が促進せず、滞留時間の観点では不利になる可能性があるためである。
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例1]
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおける中和工程において、浸出液に対して、中和剤として炭酸カルシウムのスラリーを添加して中和終液のpHが2.5〜3.5の範囲となるように調整するとともに、浸出残渣スラリーを中和処理始液(浸出液)の流量に対して5.9体積%の比率となる流量で添加して中和処理を行った。なお、中和処理においては、5倍に希釈したポリダドマックを凝結剤として使用し、中和処理の始液に対して0.047体積%〜0.051体積%の割合で添加した。
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおける中和工程において、浸出液に対して、中和剤として炭酸カルシウムのスラリーを添加して中和終液のpHが2.5〜3.5の範囲となるように調整するとともに、浸出残渣スラリーを中和処理始液(浸出液)の流量に対して5.9体積%の比率となる流量で添加して中和処理を行った。なお、中和処理においては、5倍に希釈したポリダドマックを凝結剤として使用し、中和処理の始液に対して0.047体積%〜0.051体積%の割合で添加した。
中和処理始液である浸出液としては、ニッケル濃度:3.7g/L〜4.4g/L、コバルト濃度:0.24g/L〜0.45g/L、鉄濃度:0.4g/L〜1.8g/L、亜鉛濃度:0.07g/L〜0.12g/Lの組成を有し、濁度が200NTU〜500NTU、pHが2.5〜3.0のものを用いた。
浸出残渣スラリーとしては、湿式製錬プロセスの浸出工程で得られた浸出スラリーを多段洗浄しながら固液分離して得られたものであって、浸出残渣スラリー濃度:1.6t/m3〜1.8t/m3、ニッケル品位:0.1質量%以下、コバルト品位:0.01質量%以下、鉄品位:50質量%以上、亜鉛品位:0.02質量%以下の組成のものを用いた。なお、固液分離工程において使用する洗浄液として、硫化工程を経て得られた貧液を用いた。貧液のニッケル濃度は、0.06〜0.07g/Lであった。また、固液分離工程での多段洗浄時の浸出残渣スラリー流量と洗浄液の流量比(洗浄比)は、1.5〜1.7とした。
上述した処理条件の下、中和処理の反応により得られた中和終液の濁度を測定したところ、82NTUであった。また、得られた中和澱物スラリーを固液分離工程へ移送させ、その固液分離処理により生成した浸出残渣スラリー、すなわち排水処理に供される浸出残渣スラリーのニッケル濃度は0.128g/Lであった。なお、中和終液の濁度と、排水処理される浸出残渣スラリーのニッケル濃度は、操業データの日平均値である。
[実施例2〜7、比較例1〜5]
実施例2〜7、比較例1〜5は、浸出残渣スラリー流量比率を表1に示すように調整したこと以外は、実施例1と同様にして処理し、中和終液の濁度と、排水処理される浸出残渣スラリーのニッケル濃度を測定した。表1に、その測定結果を併せて示す。また、図2に、その結果に基づいて、浸出残渣スラリー流量比率と排水処理される浸出残渣スラリー中のニッケル濃度との関係を示す。
実施例2〜7、比較例1〜5は、浸出残渣スラリー流量比率を表1に示すように調整したこと以外は、実施例1と同様にして処理し、中和終液の濁度と、排水処理される浸出残渣スラリーのニッケル濃度を測定した。表1に、その測定結果を併せて示す。また、図2に、その結果に基づいて、浸出残渣スラリー流量比率と排水処理される浸出残渣スラリー中のニッケル濃度との関係を示す。
表1に示す結果から、実施例1〜7及び比較例1〜5では、特定の流量比率以上で浸出残渣スラリーを添加したことから、得られる中和終液の濁度を有効に低減させることができた。このことは、浸出残渣スラリーを核として中和澱物を凝集させ、中和澱物の沈降性を高めることができたためと考えられる。
一方、比較例1〜5では、排水処理される浸出残渣スラリーのニッケル濃度が高くなってしまった。この浸出残渣スラリーのニッケル量は、ニッケルの回収ロス分を意味する。このことは、中和処理に供する浸出液に対する浸出残渣スラリーの流量比率を8体積%を超える量としたため、中和澱物スラリーが過多となり、結果としてニッケル実収率の低下をもたらしたと考えられる。
Claims (3)
- ニッケル酸化鉱石に対して酸を添加して浸出処理を施し、得られた浸出液からニッケル及びコバルトの硫化物を得るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法であって、
前記浸出処理を施して得られた浸出スラリーに対して固液分離処理を施し、浸出液と浸出残渣とを得る固液分離工程と、
前記浸出液に中和剤を添加して中和処理を施し、不純物を含む中和澱物とニッケル及びコバルトを含む中和終液とを得る中和工程と、を含み、
前記中和工程では、前記固液分離工程で分離した前記浸出残渣のスラリーを、中和処理に供される前記浸出液の流量に対して5.0体積%〜8.0体積%の比率となる流量で、該浸出液に添加する
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。 - 前記中和工程で得られた中和澱物のスラリーは、前記固液分離工程に繰り返される
請求項1に記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。 - 前記固液分離工程では、前記浸出スラリーを含む対象を多段洗浄しながら固液分離する
請求項1又は2に記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
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