JP5799534B2 - フラビンアデニンジヌクレオチド依存性グルコースデヒドロゲナーゼの安定性を向上するための方法 - Google Patents
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Description
本発明はまた、該改変型FADGDHをコードする遺伝子、該遺伝子を含むベクター、該ベクターで形質転換された形質転換体、および、該形質転換体を培養して改変型FADGDHを製造する方法に関する。
さらに本発明は、該改変型FADGDHの、グルコース測定試薬等への種々の適用に関する。
また、特許文献1にはAspergillus terreus(アスペルギルス・テレウス)由来FADGDHの物質特性およびFADGDHを用いたグルコースセンサについて記載されている。特許文献2にはAspergillus terreus遺伝子配列並びにアミノ酸配列が記載されている。特許文献3にはAspergillus oryzae由来FADGDHの遺伝子配列、アミノ酸配列並びに製造方法が記載されている。特許文献4にはAspergillus oryzae由来FADGDHのアミノ酸配列の一部を他のアミノ酸に置換することで得られる熱安定性が向上した改変型FADGDHが記載されている。特許文献5にはAspergillus oryzae由来FADGDHおよびAspergillus terreus由来FADGDHのアミノ酸配列を置換することで得られる熱安定性および、又はキシロース作用性を改善した改変型FADGDHが記載されている。
血糖センサ用ストリップの作製工程においては、FADGDHをストリップ上で加熱乾燥処理を施す場合がある。そのような場合、FADGDHの熱安定性が高いと、加熱処理時に酵素の失活が低減されるので有益である。特許文献4に記載の改変型FADGDHは改変前と比較して熱安定性が大幅に改善した。しかしながら加熱乾燥処理条件によっては、改変型FADGDHでも失活する危険性があり、耐熱性をさらに向上させる必要があった。
[項1]
以下の(a)〜(c)のいずれかで表されるタンパク質。
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、339位のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されているタンパク質。
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、339位のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されているタンパク質。
(c)配列番号1または配列番号2の少なくともいずれかと60%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするアミノ酸配列において、「配列番号1の339位」、または、「配列番号2の339位」と同等の位置のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されているタンパク質。
[項2]
項1に記載のタンパク質において、アミノ酸が置換された位置以外の位置において、さらに、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加(挿入)されたアミノ酸配列からなり、かつグルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質。
[項3]
項1に記載のタンパク質において、339位のPまたはそれと同等の位置におけるアミノ酸置換がA、C、I、L、Vであるタンパク質。
[項4]
項1記載のタンパク質において、339位のPをA、C、I、L、Vに置換することで得られる、安定性が向上したタンパク質。
[項5]
項1〜4のいずれかに記載のタンパク質をコードする遺伝子。
[項6]
項5に記載の遺伝子を含むベクター。
[項7]
項6に記載のベクターで形質転換された形質転換体。
[項8]
項7に記載の形質転換体を培養し、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質を採取することを特徴とする、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質を生産する方法。
[項9]
項1〜4のいずれかに記載のタンパク質を含むグルコースアッセイキット。
[項10]
項1〜4のいずれかに記載のタンパク質を含むグルコースセンサ。
[項11]
項1〜4のいずれかに記載のタンパク質を含むグルコース測定法。
なお、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4における、アミノ酸の表記はメチオニン(Met)を1として番号付けされている。
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、339位のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されているタンパク質。
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、339位のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されているタンパク質。
これらのアミノ酸配列は、特許文献3または特許文献4により公知である。
(c)配列番号1または配列番号2の少なくともいずれかと60%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするアミノ酸配列において、「配列番号1の339位」、または、「配列番号2の339位」と同等の位置のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されているタンパク質。
また、本願明細書において、例えばあるアミノ酸配列における配列番号2の339位と同等の位置は、GENETYXソフトで配列の一次構造(例えばアラインメント)を比較したとき、配列番号2の339位と対応する位置をもって同等と判断する。必要に応じてさらに立体構造の知見などを参照しても良い。
具体的には、アスペルギルス・オリゼ野生株由来のFADGDHのアミノ酸配列とアスペルギルス・テレウス野生株由来のFADGDHのアミノ酸配列とのアライメントの比較データより、本発明の339位と同等の位置とは、アスペルギルス・テレウス野生株由来のFADGDHの359位のPに相当する。
なお、GENETYXソフトは、GENETYX CORPORATIONから販売されているGENETYX WIN Version 6.1のものを使用した。
アスペルギルス・オリゼ野生株由来のFADGDHを構成するアミノ酸配列を改変する方法としては、通常行われる遺伝情報を改変する手法が用いられる。すなわち、タンパク質の遺伝情報を有するDNAの特定の塩基を変換することにより、或いは特定の塩基を挿入または欠失させることにより、改変タンパク質の遺伝情報を有するDNAが作成される。DNA中の塩基配列を変換する具体的な方法としては、例えば市販のキット(Transformer Mutagenesis Kit;Clonetech社, EXOIII/Mung Bean Deletion Kit;Stratagene製, Quick Change Site Directed Mutagenesis Kit;Stratagene製など)の使用、或いはポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)の利用が挙げられる。
Aspergillus oryzae由来のFADGDHとしては配列番号1、または配列番号2で表されるタンパク質が例示できる。
Aspergillus terreus由来のFADGDHとしては、配列番号3、または配列番号4で表されるタンパク質が例示できる。
(a)タンパク質実験プロトコール第1巻 機能解析編,第2巻 構造解析編 (秀潤社) 西村善文,大野茂男 監修
(b)改訂 タンパク質実験ノート 上 抽出と分離精製 (洋土社) 岡田雅人,宮崎香 編集
また、以下に例示する方法によって進めることもできる。
[試験例]
<試薬>
50mM PIPES緩衝液pH6.5(0.1% TritonX−100を含む)
24mM PMS溶液
2.0mM 2,6−ジクロロフェノールインドフェノール(DCPIP)溶液
1M D−グルコース溶液
上記PIPES緩衝液20.5ml、DCPIP溶液1.0ml、PMS溶液2.0ml、D―グルコース溶液5.9mlを混合して反応試薬とする。
反応試薬3mlを37℃で5分間予備加温する。FADGDH溶液0.1mlを添加しゆるやかに混和後、水を対照に37℃に制御された分光光度計で、600nmの吸光度変化を5分記録し、直線部分から1分間あたりの吸光度変化(ΔODTEST)を測定する。盲検はFADGDH溶液の代わりにFADGDHを溶解する溶媒を試薬混液に加えて同様に1分間あたりの吸光度変化(ΔODBLANK)を測定する。これらの値から次の式に従ってGDH活性を求める。ここでGDH活性における1単位(U)とは、濃度200mMのD−グルコース存在下で1分間に1マイクロモルのDCPIPを還元する酵素量として定義している。
活性(U/ml)=
{−(ΔODTEST−ΔODBLANK)×3.0×希釈倍率}/{16.3×0.1×1.0}
なお、式中の3.0は反応試薬+酵素溶液の液量(ml)、16.3は本活性測定条件におけるミリモル分子吸光係数(cm2/マイクロモル)、0.1は酵素溶液の液量(ml)、1.0はセルの光路長(cm)を示す。
残存率(%)=((熱処理後の活性値)/(熱処理前の活性値))×100
残存率(%)=((pH処理16時間後の活性値)/(pH処理直後の活性値))×100
本発明はまた、本発明に従う改変型FADGDHを含むグルコースアッセイキットを特徴とする。本発明のグルコースアッセイキットは、本発明に従う改変型FADGDHを少なくとも1回のアッセイに十分な量で含む。典型的には、キットは、本発明の改変型FADGDHに加えて、アッセイに必要な緩衝液、メディエーター、キャリブレーションカーブ作製のためのグルコース標準溶液、ならびに使用の指針を含む。本発明に従う改変型FADGDHは種々の形態で、例えば、凍結乾燥された試薬として、または適切な保存溶液中の溶液として提供することができる。
本発明はまた、本発明に従う改変型FADGDHを用いるグルコースセンサを特徴とする。電極としては、カーボン電極、金電極、白金電極などを用い、この電極上に本発明の酵素を固定化する。固定化方法としては、架橋試薬を用いる方法、高分子マトリックス中に封入する方法、透析膜で被覆する方法、光架橋性ポリマー、導電性ポリマー、酸化還元ポリマーなどがあり、あるいはフェロセンあるいはその誘導体に代表される電子メディエーターとともにポリマー中に固定あるいは電極上に吸着固定してもよく、またこれらを組み合わせて用いてもよい。典型的には、グルタルアルデヒドを用いて本発明の改変型FADGDHをカーボン電極上に固定化した後、アミン基を有する試薬で処理してグルタルアルデヒドをブロッキングする。
配列番号2の熱安定性が向上した改変型FADGDH(本明細書ではMut1と記載することもある。)をコードする遺伝子(配列番号6)を含む組み換えプラスミドpAOGDH−M76で市販の大腸菌コンピテントセル(E.coli DH5α・;TOYOBO社製)を形質転換し、アンピシリンを含んだLB寒天培地(1.0%ポリペプトン、0.5%酵母エキス、1.0%NaCl、1.5%寒天;pH7.3)に塗布した後、30℃で一晩培養した。得られた形質転換体をアンピシリン(50mg/ml;ナカライテスク社製)を含んだLB液体培地(1%ポリペプトン、0.5%酵母エキス、1.0%NaCl;pH6.5)を摂取し、30℃で一晩振とう培養した。得られた菌体から常法によりプラスミドを調整した。
実施例1で使用したpAOGDH−M76を鋳型として、339位のプロリンを他のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号9の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチドをQuickChangeTMSite−Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE製)を用いてPCRを行った。続いて、PCR産物で市販の大腸菌コンピテントセル(E.coli DH5α・;TOYOBO社製)を形質転換し、アンピシリンを含んだLB寒天培地で37℃、16時間培養した。その後、改変型FADGDHを有したシングルコロニーを、アンピシリンを含んだLB液体培地に摂取し、30℃で一晩振とう培養した。その後、1mlの培養液を摂取し、常法によりプラスミドを抽出した。抽出したプラスミドの当該部位をDNAシークエンサー(ABI PRISMTM 3700DNA Analyzer;Perkin−Elmer製)を用いて特定した。339位をLに置換した改変型FADGDHを有するプラスミドをpAOGDH−M76−P339L、339位をVに置換した改変型FADGDHを有するプラスミドをpAOGDH−M76−P339V、339位をAに置換した改変型FADGDHを有するプラスミドをpAOGDH−M76−P339A、339位をCに置換した改変型FADGDHを有するプラスミドをpAOGDH−M76−P339C、339位をIに置換した改変型FADGDHを有するプラスミドをpAOGDH−M76−P339Iと命名した。
実施例2で取得したpAOGDH−M76−P339L、pAOGDH−M76−P339V、pAOGDH−M76−P339A、pAOGDH−M76−P339C、pAOGDH−M76−P339Iで形質転換した大腸菌DH5α・をアンピシリンを含んだLB寒天培地で30℃、16時間培養しシングルコロニーを取得した。その後、改変型FADGDHのシングルコロニーをアンピシリンを含んだ5mlLB液体培地に摂取し、30℃で16時間振とう培養した。その培養液の一部から遠心分離によって得られた菌体を回収し、50mMのリン酸緩衝液(pH6.0)中でガラスビーズを用いて該菌体を破砕することにより粗酵素液を調製した。調製した粗酵素液を用いて、100U/mlに調整後、上述した活性測定法により熱安定性を測定した。表1にその結果を示す。50℃、15分処理後の残存率は、改変前のFADGDH(Mut1)が83%であったのに対して、P339Lの残存率は91%、P339Vの残存率は90%、P339Aの残存率は88%、P339Cの残存率は87%、P339Iの残存率は85%に向上した。
表1は、改変前のFADGDH(Mut1)とP339L、V、A、C、I改変体との熱安定性の比較である。
実施例3で作製した改変型FADGDHの培養液から培養菌体を遠心分離で集菌した後、50mMのリン酸バッファー(pH6.5)に懸濁し、除核酸処理後、遠心分離して上清を得た。これに硫酸アンモニウムを飽和量溶解させて目的タンパク質を沈殿させ、遠心分離で集めた沈殿を50mMのリン酸バッファー(pH6.5)に再溶解させた。そしてG−25セファロースカラムによるゲルろ過、Phenyl−セファロースカラムによる疎水クロマト(溶出条件は共に25%飽和〜0%の硫酸アンモニウム濃度勾配をかけてピークフラクションを抽出)を実施し、さらにG−25セファロースカラムによるゲルろ過で硫酸アンモニウムを除去し改変型FADGDHの標品とした。
表2は、様々な温度で15分間処理したときのFADGDH(Mut1)とP339L改変体との熱安定性の比較である。
表3は、50℃で様々な時間で処理したときのFADGDH(Mut1)とP339L改変体との熱安定性の比較である。
実施例4で得た標品についてpH安定性を測定した。pH4.5〜8.5の範囲の緩衝液(pH4.5〜5.5:0.1M 酢酸バッファー、pH5.5〜7.5:0.1M リン酸バッファー、pH7.5〜9.0:0.1M トリス塩酸バッファー)を調製し、これらを用いて各GDHを酵素濃度1U/mlとなるよう希釈した。希釈液を25℃で16時間インキュベートしてインキュベート前後の活性を測定値から、残存活性を評価した。インキュベート前の活性に対するインキュベート後の活性残存率を示したグラフを図2に示す。図2に示すようにP339L改変体はpH8での安定性が向上し、pH安定域が拡大していることが確認された。
図2は、改変前のFADGDH標品(Mut1)とP339L改変体標品とのpH安定性の比較である。
Claims (8)
- 以下の(a)または(b)で表されるタンパク質。
(a)配列番号1または配列番号2に記載のアミノ酸配列において、339位のアミノ酸がA、C、I、LおよびVからなる群のうちいずれかに置換されているタンパク質。
(b)前記(a)のタンパク質において、339位以外の位置において、さらに、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加(挿入)されたアミノ酸配列からなり、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有し、かつ、50mMのリン酸緩衝液のみからなる溶液に溶解させたときの50℃・15分加熱処理後の残存活性が85%以上であるタンパク質。 - 請求項1に記載のタンパク質をコードする遺伝子。
- 請求項2に記載の遺伝子を含むベクター。
- 請求項3記載のベクターで形質転換された形質転換体。
- 請求項4に記載の形質転換体を培養し、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタン
パク質を採取することを特徴とする、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク
質を生産する方法。 - 請求項1に記載のタンパク質を含むグルコースアッセイキット。
- 請求項1に記載のタンパク質を含むグルコースセンサ。
- 請求項1に記載のタンパク質を含むグルコース測定法。
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