従来、鉄道車両の外板は、車両構体に必要とされる構造強度を確保するため、構造強度の一部を担うことが出来るビード付きの外板が採用されている。そのような例として、図9、図10、図11、図12、図13、図14、図15、図16及び図17を参照して、従来の車両の妻構体に使用されている外板(以降、「妻外板」)について説明する。先ず、図9〜図15を参照して、特許文献1に述べられているような第1及び第2の従来の妻構体について説明し、次に、図16〜図17を参照して、さらなる従来の妻構体について説明する。
(第1の従来の妻構体)
図9(a)に示す、第1の従来の妻外板Pegc1は、図9(b)に示す妻構体Sgc1にスポット溶接Wsにて取り付けられている。妻外板Pegc1では、板厚Tc1(図10)が1.5mmの外板Pec1に、車両の高さ方向(以降、車両高方向Dv)に平行に数本(本例では、12本)のビードBcvが外板Pec1の端部の近傍まで延在している。妻構体Sgc1では、中央部に、天井より高い位置から台枠Fuまで延在するH字状に構成された柱Ptが配設されている。柱Ptは、左右の垂直フレームFvr及びFvlが水平フレームFhで連結されている。
柱Ptの左右に、それぞれ4本(合計8本)の横骨Fmhが設けられている。最上段の横骨Fmh及び水平フレームFhと屋根との間にそれぞれ縦骨Fmvが設けられている。横骨Fmhと縦骨Fmvは、ハット状断面を有する鋼材で形成されている。一般にビードの延在方向に骨相当の剛性が得られるので、妻構体Sgc1においては、縦骨Fmvは上述の3本のみが配設されている。
図9(a)においてビードBcvを直線Xa−Xaで切断した横断面を図10(a)に示し、直線Xb−Xbで切断した縦断面を図10(b)に示す。図10(a)に示すように、ビードBcvの横断面形状は、中心を外板Pec1より上方に有する曲率半径Rfc1で規定される曲面で車両の長手方向(以降、車両長手方向Dl)/車両の幅方向(以降、車両幅方向Dw)に盛り上がり、途中から外板Pec1より下方に中心を有する曲率半径Rpc1で規定される曲面でさらに延在して、車両長手方向Dlでのピーク高さHbc1(以降、「ビード高Hbc1」)に達する。そして、ビードBcvの断面形状は、ピーク点を通り車両幅方向Dw及び車両高方向Dvの両方に対して垂直な中心面Cp1に対象な曲面を成して下降して外板Pec1に戻る。このように、ビードBcvの横断面形状は、麓領域から頂上領域、頂上領域から麓領域へと滑らかな曲面で連続的に形状が変化するように形成されている。外板Pec1の上面が盛り上がり始める、中心面Cp1に対して対象な2点間の距離をビード幅Wbc1と呼ぶ。
図10(b)に示すように、ビードBcvの縦断面形状は、中心を外板Pec1より上方に有する曲率半径Rec1で規定される曲面で車両高方向Dv/車両長手方向Dlに盛り上がり、途中から中心を外板Pec1より下方に有する曲率半径Resc1で規定される曲面でさらに延在して、ビード高Hbc1に達する。このように、ビードBcvの縦断面形状は、外板Pec1から下位麓領域へ、下位麓領域から上位麓領域へ、上位麓領域から頂上領域へと滑らかな曲面で連続的に形状が変化するように形成されている。車両高方向Dv方向のビードBcvの盛り上がり開始点と、盛り上がり終了点間の距離をビード長Lbc1と呼ぶ。曲率半径Rec1及び曲率半径Resc1で規定されるビードBcvの領域をそれぞれ、下位麓領域及び上位麓領域と呼ぶ。そして、下位麓領域及び上位麓領域の車両高方向Dv方向の長さを縦麓長Ls1と呼ぶ。
一般的なビードBcvにおいては、板厚Tc1は1.5mm、曲率半径Rfc1は10mm、曲率半径Rpc1は5mm、ビード高Hbc1は8mm、ビード幅Wbc1は26.53mm、曲率半径Rec1は30mm、曲率半径Resc1は30mm、そして縦麓長Ls1は15mmである。
(第2の従来の妻構体)
図11(a)に示す妻外板Pegc2は、図11(b)に示す妻構体Sgc2にスポット溶接Wsにて取り付けられている。妻外板Pegc2では、板厚Tc2(図12)が1.2mmの外板Pec2に、数本(本例では、26本)のビードBcwが車両幅方向Dwに平行にプレス出しされて延在している。妻構体Sgc2では、妻構体Sgc1と同様に、中央部に、天井より高い位置から台枠Fuまで延在するH字状に構成された柱Ptが配設されている。左右の垂直フレームFvr及びFvlの水平フレームFhの反対側から、それぞれ右水平フレームFhr及び左水平フレームFhlが左右に延在している。
右水平フレームFhr及び左水平フレームFhlと屋根との間にそれぞれ縦骨Fmvが設けられている。横骨Fmhは設けられていない。つまり、妻構体Sgc2は、妻構体Sgc1から中央の縦骨Fmvと、左右の6本の横骨Fmhとを削除すると共に、最上段の2本の横骨Fmhが右水平フレームFhr及び左水平フレームFhlに交換された構造を有している。これは、妻外板Pegc2においては、車両幅方向Dw方向に延在して複数本設けられたビードBcwにより横骨相当の強度を実現しているからである。つまり、ビードBcwによって、妻構体Sgc2における横骨を廃止しているものである。
図11(a)においてビードBcwを直線XIIa−XIIaで切断した横断面を図12(a)に示し、直線XIIb−XIIbで切断した縦断面を図12(b)に示す。図12(a)に示すように、ビードBcwの横断面形状は、中心を外板Pec2より上方に有する曲率半径Rfc2で規定される曲面で車両長手方向Dl/車両高方向Dvに盛り上がり、途中から外板Pec2より下方に中心を有する曲率半径Rpc2で規定される曲面でさらに延在して、車両長手方向Dlでのピーク高さHbc2(以降、「ビード高Hbc2」)に達する。そして、ビードBcwの断面形状は、ビード高Hbc2を保って所定の距離だけ、車両高方向Dv方向に延在する。そして、中心を外板Pec2より下方に有する曲率半径Rpc2で規定される曲面を成して下降し、途中で中心を外板Pec2より上方に有する曲率半径Rfc2で規定される曲面を成して下降して外板Pec2に戻る。
曲率半径Rfc2及び曲率半径Rpc2で規定されるビードBcwの領域を横麓領域および横頂上領域と呼ぶ。横麓領域と頂上領域とを結ぶ線がビード高Hbc2に至る点と、同点に対して中心面Cp2に対象な位置にある点との距離を頂上幅Wpc2と呼ぶ。そして、麓領域において、外板Pec2の下面が外板Pec2の上面の高さに在る、中心面Cp2に対して対象な2点間の距離を麓幅Wsc2と呼ぶ。さらに、麓領域において、外板Pec2の上面が盛り上がり始める、中心面Cp2に対して対象な2点間の距離をビード幅Wbc2と呼ぶ。このように、ビードBcwの横断面形状は、外板Pec2から麓領域まで車両高方向Dv方向に(Wbc2−Wsc2)/2の距離、麓領域から頂上領域まで車両高方向Dv方向に(Wsc2−Wpc2)/2の距離、そして麓領域間の車両高方向Dv方向の距離Wpc2にわたって、滑らかな曲面で連続的に形状が変化するように形成されている。
図12(b)に示すように、ビードBcwの縦断面形状は、中心を外板Pec2より上方に有する曲率半径Rec2で規定される曲面で車両幅方向Dw/車両長手方向Dlに盛り上がり、途中から中心を外板Pec2より下方に有する曲率半径Resc2で規定される曲面でさらに延在して、ビード高Hbc2に達する。なお、車両幅方向Dw方向のビードBcwの盛り上がり開始点と、盛り上がり終了点間の距離をビード長Lbc2と呼ぶ。曲率半径Rec2及び曲率半径Resc2で規定されるビードBcwの領域をそれぞれ、下位麓領域及び上位麓領域と呼ぶ。そして、下位麓領域及び上位麓領域の車両幅方向Dw方向の長さを縦麓長Ls2と呼ぶ。このように、ビードBcwの縦断面形状は、外板Pec2から下位麓領域へ、下位麓領域から上位麓領域へ、上位麓領域から頂上領域へと滑らかな曲面で連続的に形状が変化するように形成されている。
一般的なビードBcwにおいては、板厚Tc2は1.2mm、曲率半径Rfc2は7mm、曲率半径Rpc2は7mm、ビード高Hbc2は15mm、頂上幅Wpc2は18mm、麓幅Wsc2は30mm、ビード幅Wbc2は39.48mm、曲率半径Rec2は30mm、曲率半径Resc2は30mm、そして、縦麓長Ls2は20mmである。これより、ビードBcw(妻外板Pegc2)は、上述のビードBcv(妻外板Pegc1)に比べて、ビード高Hbc2がビード高Hbc1の約2倍(15/8)、ビード幅Wbc2がビード幅Wbc1の約1.5倍(39.48/26.53)と、ビードBcvに比べて、幅が広く且つ高いことが分かる。さらに、ビードBcwの先端の平坦部である頂上幅Wpc2が18mmであるのに対して、ビードBcvでは先端部も円弧状であり、その幅は強いて言えば曲率半径Rpc1(5mm)程度である。
つまり、妻外板Pegc2では、妻外板Pegc1のビードBcvに比べて、幅が広く高く矩形状断面を有するビードBcwを設けて、骨材に相当するような強度を実現している。結果、図11(b)に示すように、妻構体Sgc2から横骨を廃止することを可能にしている。
図13及び図14を参照して、一般的なビード出しのプレス成形方法(以降、「ビードプレス方法」)を外板に適用した場合のビード出し工程について説明する。図13(a)に、ビードプレスされた外板(以降、ビードプレス外板)の一例を示す。同図において、左側に車両に取り付けられる時の姿勢のビードプレス外板Pecを室内側正面から見た状態を示し、右側に同図において直線XIII(a)−XIII(a)で切った断面を示す。
本例においては、板厚がTbc(以降、「ビードプレス外板厚Tbc」)であるビードプレス外板Pecに、車両長手方向Dlに所定の高さHbc(以降、「ビード高Hbc」)だけ円弧状に張り出した4本のビードBcが車両高方向Dvに幅Wbc(以降、「ビード幅Wbc」)を有して、車両幅方向Dwに長さLbc(以降、「ビード長Lbc」)延在して形成されている。ビードBcの円弧状の張り出した面を凸面Spと呼び、凹んだ面を凹面Srと呼んで識別する。なお、ビード高Hbcは、上述のビード高Hbc1及びHbc2に相当し、ビードプレス外板厚Tbcは上述の板厚Tc1及びTc2に相当し、ビードプレス外板Pecは上述の外板Pec1及びPec2に相当する。
なお、ビードプレス外板Pecは、妻構体の一部として要求される構造強度を実現するために、以下に述べる要求を満たすように設定される。
ビードプレス外板厚Tbc=1.0〜1.5mm
ビード高Hbc=8〜15mm
ビード幅Wbc=25〜60mm
ビード高Hbc/ビード幅Wbc=0.2〜0.6
ビード高Hbc/ビードプレス外板厚Tbc=5〜15
ビード幅Wbc/ビードプレス外板厚Tbc=17〜40
ビードプレス外板Pecの構造強度は、ビードプレス外板厚Tbc及びビードBc(ビード高Hbc、ビード幅Wbc)によって決まる。つまり、外板Pecの構造強度をSとし、ビードプレス外板Pecの材質をMとすると、
S=f(Hbc,Wbc、Tbc、M)と一般式化できる。
ビードプレス外板Pecは通常、構体にスポット溶接されるので、ビードプレス外板Pecの材質Mは構体と同一の材料が選ばれる。鋼製車両の場合には、重量増加を抑えるために、外板を厚くすることなく骨の削減が可能なビードプレス外板Pecが多く採用されるが、アルミ合金製車両の場合にはヤング率が鋼の約1/3であることから、妻外板の厚さは鋼製の場合の約1.4倍が必要とされ、プレス加工性が低下することから、ビードプレス外板はほとんど採用されていない。
図13(b)に、上述のビードプレス外板Pecの成形に用いられる、プレス金型の雄型Dcm(以降、「プレス雄金型Dcm」)の一例を示す。同図において、左側にプレス工程におけるプレス雄金型Dcmを上から見た状態を示し、右側に同図において直線XIII(b)−XIII(b)で切った断面を示す。プレス雄金型Dcmの下面には、ビードBcの凹面Srに対応して、所定の長さHbcm(以降、「ビード型深さHbcm」)だけ円弧状に張り出した、4本の突起P(以降、「ビード型P」)が車両高方向Dvに幅Wbcm(以降、「ビード型幅Wbcm」)を有して、車両幅方向Dwに長さLbcm(以降、「ビード型長Lbcm」)だけ延在して形成されている。なお、ビード型長Lbcmはビード長Lbcより短く、ビード型幅Wbcmはビード幅Wbcより狭く、ビード型深さHbcmはビード高Hbcと同じである。
図13(c)に、上述のビードプレス外板Pecの成形に用いられる、プレス金型の雌型Dcf(以降、「プレス雌金型Dcf」)の一例を示す。同図において、左側にプレス工程におけるプレス雌金型Dcfを上から見た状態を示し、右側に同図において直線XIII(c)−XIII(c)で切った断面を示す。プレス雌金型Dcfの上面には、ビードBcの凸面Spに対応して、所定の長さHbcf(以降、「ビード型深さHbcf」)だけ円弧状に凹んだ、4本の溝R(以降、「ビード型溝R」)が車両高方向Dvに幅Wbcf(以降、「ビード型幅Wbcf」)を有して、車両幅方向Dwに長さLbcf(以降、「ビード型長Lbcf」)だけ延在して形成されている。なお、プレス雄金型Dcmとプレス雌金型Dcfを合わせて、プレス金型Dcと呼ぶ。
ビード高Hbcは、ビード型深さHbcf及びビード型深さHbcmと一致する。一方、ビード長Lbcはビード型長Lbcf及びビード型長Lbcmのいずれかと一致し、ビード幅Wbcもビード型幅Wbcf及びビード型幅Wbcmのいずれかと一致する。本実施の形態においては、説明の都合上、ビード長Lbc、ビード幅Wbcは、それぞれビード型長Lbcf及びビード型幅Wbcfに一致するものとする。つまり、次式(1)、(2)、及び(3)に示す関係が成立する。
Lbcf=Lbc>Lbcm ・・・・ (1)
Wbcf=Wbc>Wbcm ・・・・ (2)
Hbcf=Hbc=Hbcm ・・・・ (3)
図14(a)に、プレス雌金型Dcfの上に、外板Pcが載置され、その上方に、ビード型溝Rにビード型Pが対応するように、プレス雄金型Dcmが保持された状態で、車両幅方向Dw方向に見た状態を示す。この状態で、プレス機械(不図示)によってプレス雄金型Dcmがプレス雌金型Dcfに向かって(以降、「ビードプレス方向Dpb」)に下降されることにより、ビードプレス工程が開始する。
図14(b)に、プレス雄金型Dcmが下死点に達した時の状態を示す。外板Pcは、プレス雄金型Dcmとプレス雌金型Dcfとの間で圧迫されて、ビード型P及びビード型溝Rとによって延ばされて、ビードBcが形成される。なお、プレス機械に含まれる押え装置(不図示)によって、外板Pcの位置決め及び、ズレや跳ね上がりの防止が行われる。プレス雄金型Dcmが引き上げられると、プレス雌金型Dcf上に、ビードプレス外板Pecが完成される。
図14(c)に、図14(b)において円Aで囲まれたビードBcの断面形状を拡大して示す。同図に示すように、ビードプレス外板Pecは、凸面Sp側及び凹面Sr側の両面が連続的な面を保って変化している。これは、図10及び図12を参照して説明したとおりであるが、以下に金型によるプレス成形の観点から、さらに詳しく説明する。上述のように、ビードプレスでは外板Pcの延性を利用して成形しているため、屈曲部を設けると局部的な延びを生じてしまい、薄肉化による強度の低下や破断に至る危険性を伴う。そのため、プレス雄金型Dcm及びプレス雌金型Dcfのプレス面にはエッジ(角ばった箇所)の存在が許されないからである。また、プレス後のビードプレス外板Pecの離型時のスリ傷防止のために、ビードBcの輪郭形状(凸面Sp及び凹面Sr)は概ねハの字状にかつ緩やかに広がる曲面で形成される必要がある。
なお、説明の便宜上、図13及び図14を参照して、複数本(本例では、4本)のビードBcを同時にプレス成形する一般的なプレス金型Dc(以降、「複数ビードプレス金型Dc」)を例に、一般的なビードプレス成形方法について説明した。しかしながら、複数ビードプレス金型Dcは鋼材で作成されるので、金型作成及び保守に要する費用が大きい。また、複数本のビードを同時にプレス成形するために、ビード本数や長さやビードの配置パターンが異なる外板毎に専用に用意される必要があり、それぞれに金型作成及び保守費用が生じる。このような費用をできるだけ抑えるために、複数ビードプレス金型Dcの代わりに、1本ずつビードBcを成形する単数ビードプレス金型Dcsが通常用いられている。
図15を参照して、単数ビードプレス金型Dcsによるビードプレスについて説明する。図15(a)及び図15(b)はそれぞれ、プレス前の複数ビードプレス金型Dcを示す図14(a)及びプレス後のビードプレス外板Pecを示す図14(c)と対比して示されている。簡単に言えば、単数ビードプレス金型Dcsにおいては、複数のビード型溝Rが設けられたプレス雌金型Dcfが単数のビード型溝Rsが設けられたプレス雌金型Dcsfに交換され、複数のビード型Pが設けられたプレス雄金型Dcmが単数のビード型Psが設けられたプレス雄金型Dcsmに交換されている。
プレス雄金型Dcsmにおけるビード型Psは、ビード型Pがプレス方向により長く延在するように形成されている。プレス雌金型Dcsfにおけるビード型溝Rsは、外板Pc越しにビード型Psを受け入れるように形成されている。下降するプレス雄金型Dcsm(ビード型Ps)によって、外板Pcはプレス雌金型Dcsfのビード型溝Rsに押しつけられ、ビード型溝Rsの曲面に沿って変形してビードBcが形成される。そのために、プレス雄金型Dcsmには、ビードBcの平坦部から麓領域にかけて外板Pcをビード型溝Rsに押しつけるための部分が不要である。なお、本単数ビードプレス金型Dcsに関しても、外板の位置決めやズレ防止のための押え装置は、上述のプレス金型Dcと同様にプレス機械に含まれる。
上述のプレス雄金型Dcsm及びプレス雌金型Dcsfによるビード出しは以下のようにして行われる。例えば、外板Pcが車両長19.5mに渡って延在する側外板である場合に、側外板Pcの端から端まで通ったビードBcを成形する場合は、基準長さ(1〜2m程度)のビード型Psを用いて、側外板Pcを長手方向にずらしながら順番に送って、必要長さのビードBcを成形する。ビード型Ps長<ビード型溝Rs長であり、且つビード型溝Rsの少なくとも一端は開放状態に形成されている。これは、単数ビードプレス金型Dcsはプレス機械に固定された状態で、外板Pcを送りながらビード出しを行うためである。より詳しくは、ビード型Ps及びビード型溝Rsの金型長はほぼ同じであるが、外板Pcを送る際に、先に形成されたビードとズレないようにビードを形成するためのガイドの役目を果たすべくビード型溝Rsは少し長く構成されている。上述の動作を、すでに成形されたビードBcと平行に行うことにより、互いに平行な複数のビードBcを形成できる。これにより、プレス雄金型Dcsm及びプレス雌金型Dcsfという雄雌の金型に、その長さやピッチに汎用性を持たせている。
上述の妻外板Pegc1では、外板の剪断座屈による見栄えの悪化を避けるためにビード出しが採用されている。また、妻外板Pegc2のように妻構体の一部としての構造強度を担うために、外板Pecにビード出しを行なう車両も増えてきているがビード形状で高い剛性を得るためには、厚い鋼板に、広く且つ高いビードをプレス成形する必要があり、絞り加工の度合が大きくなる。そのための金型の作成及び保守コストが妻構体、ひいては車両のコストを押し上げる要因の一つになっている。
さらに、金型のコストに加えて、ビードプレス回数の問題もある。上述のように、単数ビードプレス金型Dcsを用いた場合には複数のビードを同時に成形することはできないので、ビードは1本ずつプレス成形、或いは長尺のビードは何回かに分けてプレス成形する必要がある。そのために、プレス回数が妻外板の加工コストの大部分を占める。また、妻外板Pegc2に関しても、実際には車両の妻部には、図示されていない設備が存在するため、図示されているように縦骨Fmvや横骨Fmhを完全に廃止できる車両は少ない。
しかしながら、近年の車両の構体構造の進歩により、妻外板に構造強度の一部を担わせせずに、妻構体を製作できるようになった。結果、現在では妻外板に対して、主に妻構体を人目に晒さない(妻の骨組を覆い隠す)という美観上の要求が強い。
図16を参照して、美観上の目的でビードを設けずに製作された妻外板について説明する。図16(a)に示す妻外板Pegc3は、図16(b)に示す妻構体Sgc3にスポット溶接Wsにて取り付けられている。妻外板Pegc3(外板Pec3)にはビードを設けていないので、単純に平面板として考えることができる。対剪断座屈性に関しては、妻外板Pegc3の板厚Tc3と骨ピッチによって構造強度は作られるので、板厚Tc3を薄くすれば骨ピッチは狭くする必要があり、板厚Tc3を厚くすれば骨ピッチは広くすることが出来る。
骨材を追加することは組立工数の増加を伴う。この観点より、出来るだけ骨材の追加を抑えるために、妻構体Sgc3では妻外板の板厚Tc3=2.0mmと厚くすることで、横骨のピッチを従来の妻構体Sgc1及びSgc2と同等とし、骨間の縦横比を1:1に近付けるために縦骨を追加している。この場合、追加される縦骨の本数は、縦骨を追加しない場合に必要とされる横骨の追加本数より少なく、全体として骨の追加本数を低減している。結果、妻外板の重量は増加するが、ビードプレスの工数を省略することが出来、結果として製作コストを下げることに寄与している。
なお、本発明の実施の形態を具体的に説明する前に、その技術思想について述べる。本発明においても、外板に歪みが発生するのを抑制するためにビードを設ける点においては従来と同様である。但し、従来のビードに比べてビード高が低い複数のビードを同時に設ける。さらに、従来のビードの麓部が外板から滑らかな曲面で連続的に形状が変化しているのに対して、本発明に係るビードはその麓部を外板から急峻(不連続的)に立ち上げている。ビード高さを低くしてビードプレス金型に対する品質要求を下げることにより金型に起因するコストを低減する。そして、急峻(不連続的)に立ち上げられた麓部と外板との境界(ビード輪郭)により、発生した歪みが外板上を伝播することを防止する。
以下に、図1、図2、図3、図4、図5、図6、図7、及び図8を参照して、本発明の実施の形態に係る外板の一例として妻外板について説明する。図1(a)に示す妻外板Pegは、図1(b)に示す妻構体Sgにスポット溶接Wsにて取り付けられている。図2に、図1において、直線II−IIで切断した妻外板Pegの横断面を示している。図1(a)に示すように、妻外板Pegは、外板Peに車両長手方向Dlに突出する複数(本例では、28本)のビードBが所定の間隔で車両幅方向Dwに延在して設けられている。図1(b)に示すように、妻構体Sgでは横骨Fmhが設けられていない。
図2に示すように、妻外板Pegでは、板厚Tが1.5mmの外板Peに、数本(本例では、28本)のビードBが車両幅方向Dwに平行にプレス出しされて延在している。なお、ビードBは、妻構体Sgの構造強度を担う役目は負っておらず、美観上の目的(外板Pe上で僅かな歪みの発生防止及び、発生した歪みを目立たなくする)で設けられている。ビードBの横断面形状は、外板Peに対してエッジCeを成して、所定の曲率半径Rbで規定される曲面で車両長手方向Dl/車両高方向Dvに盛り上がり、車両長手方向Dlでのピーク高さHb(以降、「ビード高Hb」)に達する。つまり、ビードBは幅広(ビード幅Wb=35mm)で、低い(ビード高Hb=6mm)アーチ状断面を有している。ビードBにおいては、その凸面Sp側で、ビードBの輪郭に沿ったエッジCeが生成される、つまりビードBの凸面Sp側の断面形状はエッジCeで急激/不連続的に変化する。一方、凹面Sr側の断面形状は滑らかに連続的に変化する。
図11に示した従来の妻外板Pegc2及び妻構体Sgc2と比較すると、本実施の形態に係る外板Peの板厚Tは1.5mmと0.3mm増加(板厚Tc2=1.2mm)されると共に、ビードBcwがビードBに置き換えられている。具体的には、ビードBcwは、板厚Tc2=1.2mmの外板Pec2にビードBより幅広(ビード幅Wbc2=39.48mm、麓幅Wsc2=30mm、頂上幅Wpc2=18mm/Wb=35mm)で高(Hbc2=15mm/Hb=6mm)く形成され、横骨Fmhに相当する強度を有している。このように、ビードBはビードBcwに比べると簡易版であり、ビードプレス金型に対する品質要求を下げることにより金型に起因するコストの低減を図っている。
また、ビードBは簡易ビードであるために、その構造強度はビードBcwのように横骨Fmhに相当するほど大きくない。そのために外板Peの板厚T(=1.5mm)を、板厚Tc2(=1.2mm)に比べて0.3mm増加させて、妻外板Pegとしての構造強度の確保を図っている。
また、図16に示した従来の妻外板Pegc3及び妻構体Sgc3と比較すると、本実施の形態における外板Peの板厚Tは1.5mmと0.5mm減少(板厚Tc3=2.0mm)されると共に、複数のビードBが追加されている。さらに、妻構体Sgは妻構体Sgc3から横骨Fmhを廃して構成されている。これは、外板Peにおいては、外板Pec3に比べて、追加されたビードBによって構造強度が増大しているので、板厚を0.5mm減少させる(板厚T=1.5mm)ことが可能になる。結果、外板Peの板厚の減少によるコスト減を実現すると共に、妻構体Sgにおいては、妻構体Sgcから横骨Fmhを廃止し、廃止された横骨Fmhに起因するコスト減を実現している。
また、ビードBの凸面Sp側の断面形状はエッジCeで急激/不連続的に変化する。従来のビードBcwが輪郭を有していないのに反して、ビードBではエッジCeにより外板Pe上の他の領域との間に境界が設けられている。この境界を、ビード輪郭Obと呼ぶ。つまり、ビードBは、妻外板Pegにおいて外部に向かって(車両長手方向Dl)に概ね円弧状(図2)に突出すると共に、外板Peの平坦部に対して急激に立ち上がるエッジCe(ビード輪郭Ob)によって不連続に形成されている。
ビードB(凸面Sp)は、妻外板Pegの表面に歪みDの発生を抑止するように働く。さらに、妻外板Pegの表面(ビードB或いはビードBを除く部分)に歪みが発生した場合にも、ビード輪郭Ob(エッジCe)によって歪みが妻外板Pegの表面を伝播することが防止される。また、ビードBにより妻外板Pegの表面に形成される陰影が、生じた歪みを目立たせない効果がある。なおさらに、ビード輪郭Obと概ね平行な方向に伸びるしわ(歪みD)は、ビード輪郭Obによって目立たないという効果もある。
次に、図3、図4、及び図5を参照して、本実施の形態にかかるビード出し工程について説明する。図3(a)に、ビードBがプレス出しされた外板Pe(以降、「ビードプレス外板Pe」の一例を示す。同図において、左側に車両に取り付けられる時の姿勢のビードプレス外板Peを車外側正面から見た状態を示し、右側に同図において直線IIIa−IIIaで切った断面を示す。
本例においては、ビードプレス外板厚Tを有するビードプレス外板Peに、車両長手方向Dlにビード高Hbだけ円弧状に張り出した4本のビードBが車両高方向Dvにビード幅Wbを有して、車両幅方向Dwに長さLb(以降、「ビード長Lb」)だけ延在して形成されている。ビードプレス外板Peにおいて、ビードB以外の部分は概ね平坦であり、この部分を、ビードプレス外板Peの平坦部と呼ぶ。ビードBの円弧状の張り出した面を凸面Spと呼び、凹んだ面を凹面Srと呼んで識別する。ビード高Hbは、上述の従来のビード高Hbcに相当し、ビードプレス外板厚Tは上述のビードプレス外板厚Tbcに相当し、ビードプレス外板Peは上述のビードプレス外板Pecに相当する。
なお、ビードプレス外板Peは、歪み発生の抑制及び発生した歪みの伝播防止、及び金型に対する品質要求を低減するために、以下に述べる要求を満たすように設定される。
ビードプレス外板厚T=1.0〜1.5mm
ビード高Hb=5〜8mm
ビード幅Wb=30〜60mm
ビード高Hb/ビード幅Wb=0.13〜0.17
ビード高Hb/ビードプレス外板厚T=3〜6
ビード幅Wb/ビードプレス外板厚T=20〜60
ビードプレス外板Peの構造強度は、ビードプレス外板厚T及びビードB(ビード高Hb、ビード幅Wb)によって決まる。つまり、外板Peの構造強度をSeとし、ビードプレス外板Peの材質をMとすると、
Se=f(Hb、Wb、T、M)と一般式化できる。
ビードプレス外板Peは通常、構体にスポット溶接されるので、ビードプレス外板Peの材質Mは構体と同一の材料が選ばれる。鋼製車両の場合には、重量増加を抑えるために、外板を厚くすることなく骨の削減が可能なビードプレス外板Peが多く採用されるが、アルミ合金製車両の場合にはヤング率が鋼の約1/3であることから、妻外板の厚さは鋼製の場合の約1.4倍が必要とされ、プレス加工性が低下することから、ビードプレス外板がほとんど採用されていないことは、上述の従来のビードプレス外板Pecと同様である。
図3(b)に、上述のビードプレス外板Peの成形に用いられる、プレス型の雄型Dm(以降、「プレス雄型Dm」)の一例を示す。同図において、左側にプレス工程におけるプレス雄型Dmを上から見た状態を示し、右側に同図において直線IIIb−IIIbで切った断面を示す。同図に示すようにプレス雄型Dmは、所定の厚みTbm(以降、「プレス雄型厚Tbm」)を有して、ビードプレス外板Pe(図3(a))に対応する矩形ブロック状に形成されている。プレス雄型Dmには、プレス雄金型Dcmにおいて成形されるビードBcに対応して設けていたビード型Pに相当する物は一切設けられていない。プレス雄型Dmは、力学的強度の観点よりウレタンゴムで作成される。なお、プレス雄型厚Tbm>ビード高Hbである。
図3(c)に、ビードプレス外板Peの成形に用いられる、プレス金型の雌型Df(以降、「プレス雌金型Df」)の一例を示す。同図において、左側にプレス工程におけるプレス雌金型Dfを上から見た状態を示し、右側に同図において直線IIIc−IIIcで切った断面を示す。プレス雌金型Dfは、所定の厚みTbf(以降、「プレス雌金型厚Tbf」)を有して、ビードプレス外板Pe(図3(a))に対応する矩形板状に形成されている。なお、プレス雌金型厚Tbf≧ビード高Hbである。プレス雌金型Dfには、その平行な2面に対して所定の角度θ(45°≦θ≦135°)を成すレーザービームLによって、ビード型穴Hが形成されている。ビード型穴Hは、車両高方向Dvに幅Wbf(以降、「ビード型穴幅Wbf」)を有して、車両幅方向Dwに長さLbf(以降、「ビード型穴長Lbf」)だけ延在している。
プレス雌金型Dfの上面St及び下面Sbのそれぞれにおけるビード型穴Hの開口幅Wht(以降、「上面開口幅Wht」)及びビード型穴Hの開口幅Whb(以降、「下面開口幅Whb」)は、後ほど図4を参照して説明するように、次式(4)及び次式(5)で表される。
Wht=Wbf ・・・・(4)
Whb=Wbf+2tan(θ−90°)・Tbf ・・・・(5)
図4に、図3のプレス雌金型Dfのビード型穴Hを拡大して示す。図4(a)は、プレス雌金型Dfの上面Stに対して、直角(θ=90°)を成すレーザービームLによって、矩形の断面形状を有するビード型穴Hが形成されることを示している。なお、ビード型穴Hの側面を形成するプレス雌金型Dfの上面St側には、レーザービームLに対して(180°−θ=90°)の角度を有する角部Cが形成される。
ビード型穴Hの側周部を形成するプレス雌金型Dfの厚み方向の部分が互いに平行であると共に、プレス雌金型Dfの上面St及び下面Sbのそれぞれに対して垂直である。結果、同図に示すように、ビード型穴幅Wbfはビード型穴Hの全域に渡って一定である。θ=90°より、tan(θ−90°)=0であるので、上式(5)は次式(6)で表現される。
Whb=Wbf+0=Wbf (6)
よって、上式(4)及び(6)より、次式(7)が得られる。
Wht=Wbf=Whb ・・・・(7)
図4(b)を参照して、プレス雌金型Dfの上面Stに対して、鈍角(90°<θ≦135°)を成すレーザービームLによって、上面Stから下面Sbに向かって広がる台形の断面形状を有するビード型穴Hが形成されることを説明する。ビード型穴Hの側面を形成するプレス雌金型Dfの上面St側にはレーザービームLに対して(180°−θ)の角度を有する角部Cが形成されている。なお、同図においては、代表例としてθ=135°であり、角部CのレーザービームLに対する角度は、45°である場合を示している。台形の上底及び下底には上面開口幅Whtおよび下面開口幅Whbがそれぞれ対応する。この場合、90°<θ≦135°であるので、0<tan(θ−90°)≦1である。つまり、上式(5)は次式(8)で表現できる。
Wbf<Whb≦Wbf+2Tbf ・・・・(8)
図4(c)を参照して、プレス雌金型Dfの上面Stに対して、鋭角(45°≦θ<90°)を成すレーザービームLによって、上面Stから下面Sbに向かって狭まる台形の断面形状を有するビード型穴Hが形成されることを説明する。なお、同図においては、代表例として、θ=45°であり、角部CのレーザービームLに対する角度は、135°である場合を示している。台形の上底及び下底には上面開口幅Whtおよび下面開口幅Whbがそれぞれ対応する。この場合、45°≦θ<90°であるので、−1≦tan(θ−90°)<0である。つまり、式(5)は次式(9)で表現できる。
Wbf−2Tbf≦Whb<Wbf ・・・・(9)
以上、図4を参照して、プレス雌金型Dfのビード型穴Hの車両高方向Dvの断面形状について説明した。しかしながら、ビード型穴Hの車両幅方向Dwの断面形状についても同様である。よって、プレス雌金型Dfの車両幅方向Dwの断面形状に関する説明を省く。なお、上述より、角部Cは45°〜135°の範囲を取り得る。
次に、図5及び図6を参照して、プレス雄型Dm及び図4(a)に例示したθ=90°のプレス雌金型Dfを用いて、ビードプレス外板PeにビードBをプレス成形して、妻外板Pegを作成するビードプレス方法について説明する。図5(a)に、プレス機械(不図示)のボルスタDB上に設置されたプレス雌金型Dfの上に外板Peが載置され、その上方にプレス雌金型Dfに対向するようにプレス雄型Dmが保持された状態で、車両幅方向Dw方向に見た状態を示す。この状態で、プレス機械のスライド(不図示)により、プレス雄型Dmがプレス雌金型Dfに向かってビードプレス方向Dpbに下降されることにより、ビードプレス工程が開始する。
図5(b)に、スライドが下死点に達した時のプレス雄型Dmと外板Peとの状態を示す。この時点で、図2を参照して説明した円弧状断面形状を有するビードBが、プレス雌金型Dfのビード型穴H中に形成されている。この後、プレス雄型Dmを上昇させ、外板Peをプレス雌金型Dfから取り出すことにより、図5(c)に示すように、妻外板Pegを得ることができる。
以下に、プレス雄型Dmがプレス雌金型Df上に載置された外板Peの上面に接した状態での1つのビード型穴Hの右半分部を拡大して示す図6を参照して、上述のビードプレス工程について説明する。図6(a)に示すように、プレス雄型Dmがプレス雌金型Df上に載置された外板Peの上面に接した状態で、プレス機のスライドがさらにビードプレス方向Dpbに下降すると、ゴム製のプレス雄型Dmは外板Peを介してプレス雌金型Dfに対して押しつけられる。この時、プレス雄型Dmはビードプレス方向Dpb方向に圧縮されて、外板Peをプレス雌金型Dfに押しつけるように弾性変形を始める。
プレス雄型Dmのビードプレス方向Dpb方向の弾性変形は、プレス雌金型Dfのビード型穴H以外の部分ではプレス雌金型Dfによって阻止される。しかし、ビード型穴Hの部分では抵抗を受けないので、プレス雄型Dmのビードプレス方向Dpb方向の弾性変形は、外板Peをビードプレス方向Dpb方向に変形させる圧力(変形圧力)として働く。スライドの下降に応じて変形圧力が増大して行くにつれて、ビード型穴Hの上部に位置する外板Peの部分はやがて、プレス雄型Dmの変形圧力に抗することができずに、ビード型穴Hの角部Cと接する箇所を基点として塑性変形し(延びを生じ)、図6(b)に示すように長手方向Dlに変形し始める。
この時点で、ビード型穴Hの角部Cと接する外板Peの下面には、上述のビードBの輪郭を規定するエッジCeが形成される。なお、プレス雌金型Dfの角部Cと、外板Peに形成されるエッジCeの形状については、後ほど図7を参照して説明する。
エッジCeが形成された後に、ビード型穴Hの上部に位置する外板Peの部分が変形し始めると、プレス雄型Dmは外板Peの変形部に集中して弾性的に突出して、外板Peをさらに変形させようとする力が働く。図6(b)に示すように、ビード型穴Hの上部に位置する外板Peの部分は両側のエッジCeを基点として、ビードプレス方向Dpbに対して、所定の傾斜角θi(図7)を成してビードプレス方向Dpb方向(車両長手方向Dl)に円弧状に変形する。なお、本例においては、ビードプレス方向Dpbはビード型穴Hの内周壁表面と一致する。
なお、プレス雄型Dmは、上述のように弾性材料(本例においては、ウレタンゴム)で構成されているので、少なくとも、外板Peの変形開始時には、外板Peをプレス雌金型Dfの非ビード型穴部に完全に押しつけることはできない。つまり、プレス雄型Dmの内で外板Peのビード型穴Hの中央部に位置する部分は、外板Peの変形抵抗を抑えてビードプレス方向Dpbに外板Peを押し込むと共に塑性変形させる。
一方、プレス雌金型Dfの上面と接する外板Peの部分は塑性変形させられず、略平面のままである。上述のように外板Peにおいて、塑性変形させられる部分と塑性変形させられない部分との境界にはエッジCeが形成されている。エッジCeがビード型穴Hの角部Cと密着しているので、塑性変形させられない部分の位置ずれが防止される。また、外板Peの一部の塑性変形に伴って、外板Peに歪みが発生することも防止される。ビード型穴Hの中央部は外板Peを妨げるものがないので、プレス雄型Dmの弾性変形部(膨出部)の形状及びそれによる外板Peの変形もなだらかである。
外板Peのビート゛プレス方向Dpbへの変形が進行すると、図6(c)に示すように、外板Peの変形部(膨出部)の頂部がボルスタDBに接する。この時点では、外板Peに形成されるビードBの断面形状は、図2に示したように円弧状である。これ以降は、スライドの下降量に応じて、プレス雄型Dmの変形部(膨出部)がボルスタDBに沿って車両高方向Dv方向に広がって、断面形状が円弧状から矩形状に変わっていく。言い換えれば、形成されるビードBがより横骨の断面形状に近づくことにより、その構造強度の増大を図ることができる。
以下に、図7を参照して、プレス雌金型Dfの角部Cと、外板Peに形成されるエッジCeの形状との関係について考察する。なお本考察においては、外板Pe及びプレス雄型Dmは共に、変形抵抗が限りなく小さく、しかしながら十分な機械強度を有して、容易に塑性変形できるという相反する性質を有するものを想定する。
図7は、図4(a)に示したプレス雌金型Df(θ=90°)のビード型穴Hの右角部Cの周辺部をそれぞれ異なる倍率で拡大している。より具体的に言えば、図7(a)は外板PeのビードBの輪郭を規定するエッジCeとプレス雌金型Dfの角部Cとを拡大して示し、図7(b)は、図7(a)において円O1で囲まれたエッジCeの部分を拡大して示し、図7(c)は図7(b)において円O2で囲まれたエッジCeの局部、つまり外板PeがビードBに変わる部分を拡大して示している。
図7(a)に示すように、外板Peの下面Sbp上に形成されたエッジCeは、外板Peの下面がプレス雌金型Dfの上面Stに密着した状態から、ビード型穴Hの開放端部の角部Cより不連続的にプレス雌金型厚Tbf方向に変形している。結果、角部Cの先端部付近でエッジCeが形成される。このように形成されるために、エッジCeの少なくとも中心部は角部Cの先端形状に倣って、外板Peから急峻に不連続的に変形している。
図7(b)に示すように、エッジCeの中央部に対応するプレス雌金型Dfの角部Cの先端部の断面形状は、外板Peの下面Sbpに対応する直線と、ビードBの凸面Spに対応する曲線とによって規定される。同図において、凸面Sp(曲面)に対する接線Ltが、下面Sbp(プレス雌金型Dfの上面St)に対して、所定の角度θi(以降、「傾斜角θi」)を成して交差する。傾斜角θiは、接線LtのビードBの凸面Spと接する位置が円弧状部先端の場合に0°であり、エッジCeに近づくにつれて増大してθに近づく。本例においては、θ=90°であるので、次式(10)が成立する。
0°≦θi≦90° ・・・・(10)
図7(c)に示すように、エッジCeの屈曲部(下面Sbpが凸面Spに変わる境界)の断面形状は、次式(11)で表される曲率半径Rcで規定できる。
0≦Rc≦T ・・・・(11)
上式(10)及び(11)より、エッジCeの屈曲部において、θiがθ(本例においては90°)に近づくと共に曲率半径Rcがゼロに近づき、凸面Spの接線Ltと下面Sbpとは角部Cの先端部の形状に限りなく近づく。なお曲率半径Rc=0の場合は、エッジCeは完全にプレス雌金型Dfの角部Cの形状と同一になる。
また、図7(a)では、エッジCeが下面Sbp及び角部Cの側面の両方から離反する形状を例示したが、下面Sbp及び角部Cのいずれか一方から離反する形状も取り得る。また、エッジCeが角部Cの側面から離反する形状の場合、凸面Spは角部Cの側面に当接することのない形状を取り得る。これらの何れの場合においても、面Spの接線Ltは、下面Sbpと共に角部Cの先端部形状に限りなく一致する。言い換えれば、θi≒90°である。ビードBの車両幅方向Dwの断面形状及びエッジCeによる輪郭形状(ビード輪郭Ob)についても、ビードBの車両高方向Dvの断面形状、主にエッジCeによるビードBの輪郭形状(ビード輪郭Ob)について説明したのと同様である。
図7を参照して説明した、プレス雌金型Dfの角部Cと、外板Peに形成されるエッジCeの形状との関係の考察は、外板Pe及びプレス雄型Dmが実際的には入手できない材質で構成されることを前提としている。つまり、現実には、外板Peは高抗張力材であるステンレス鋼が用いられ、プレス雄型Dmは高弾性材であるウレタンゴムが用いられるため、考察通りの結果を得ることはできない。
以下に、図4、図6、及び図8を参照して、外板Peにステンレス鋼を用い、プレス雄型Dmにウレタンゴムを用いた場合のプレス雌金型Dfの角部Cと、外板Peに形成されるエッジCeの形状との関係について説明する。なお、図4を参照して説明したように、プレス雌金型Dfのビード型穴Hの周囲の角部Cは、45°〜135°(好ましくは、90°)の範囲の任意の角度を取り得る。
図4(a)に示すように、プレス雌金型Dfの角部Cが90°(180°−θ)の場合に、図6(c)に示す断面形状を有するビードBの凸面Spの接線Ltの下面Sbpに対する傾斜角θiは、45°である。これは図7を参照して述べた考察結果(θi≒90°)とは異なる。この現象は、プレス雄型Dmの弾性変形性と外板Peの塑性変形性に起因する。つまり、ビードプレス工程において、外板Peのプレス雄型Dmによる変形は、プレス雄型Dmのウレタンゴムの弾性変形と、外板Peのステンレス鋼の塑性変形(延び)とのバランスで成立している。
θi=90°になるためには、凸面Spの接線LtがエッジCeの近傍で、ビード型穴Hの内周壁面(角部C)と限りなく一致する必要がある。但し、本例ではθ=90°であるので、外板Peは角部Cの頂点部より若干ビード型穴Hの中心寄りの位置から、ビードプレス方向Dpb方向に急激に直角に変形しないといけない。しかしながら、ステンレス鋼板材で構成されている外板Peをウレタンゴム(プレス雄型Dm)の弾性変形で直角に変形させることは不可能である。プレス雄型Dmに、より硬度の大きなウレタンゴムを用いることにより、外板Peの変形量を増すことは可能である。しかしながら、外板Peの変形量が大きくなると、外板Peに生じる張力も膨大になる。そのため、外板Peの最大変形量はθi=45°が限界である。言い換えると、ビードBは、傾斜角θiが次式(12)を満たす範囲で連続的に変化する断面形状を有する。
0°<|θi|≦45° ・・・・(12)
なお、エッジCeの屈曲部の曲率半径Rcは次式(13)で表される。
0<Rc≦T ・・・・(13)
つまり、エッジCeの屈曲部は、プレス雌金型Dfの角部Cの先端形状と同一になることはない。また、傾斜角θiはエッジCeにおいて、次式(14)を満たす範囲で連続的に変化する。
45°<|θi|≦90° ・・・・(14)
図4(b)に示すプレス雌金型Dfは、角部Cが45°〜90°の範囲であるので、ビード型穴Hの断面形状は、図4(a)の角部C(90°)に比べて急峻かつ下面Sbに向かうほど広がっている。そのために、外板Peの下面に形成されるエッジCeは非常に深くなり、さらにビードBの断面は図2に示すような円弧状ではなく上端から下端に向けて末広がりの円錐台形状になるように思われる。しかしながら、上述のように、外板Peはビードプレス方向Dpb方向に直角に変形することすらできないので、プレス雄型Dmが末広がり方向に変形して角部Cを回り込んで角部Cの下部の空間にまで膨出することはできない。つまり、角部Cが90°の場合と同様に、θi=45°が限界である。結果、図8(a)に示すように、図4(a)に示したプレス雌金型Dfによるのと同様に、円弧状(図2)断面を有するビードBが形成される。
図4(c)に示すプレス雌金型Dfは、角部Cが90°〜135°の範囲であるので、ビード型穴Hの断面形状は図4(a)の角部C(90°)に比べて急峻かつ下面Sbに向かうほど狭まっている。そのために、外板Peの下面に形成されるエッジCeは非常に浅くなり、さらにビードBの断面は図2に示すような円弧状ではなく上端から下端に向けて先細りの円錐台形状になりそうに思われる。しかしながら、上述のように、θi=45°である。結果、図8(b)に示すように、図4(a)に示したプレス雌金型Dfによるのと同様に、円弧状(図2)断面を有するビードBが形成される。
図6(c)、図8(a)、及び図8(b)を参照して説明したように、角部Cが45°〜135°の範囲であれば、θiは略45°であり、形成されるビードBの断面形状は略同じになる。
なお、プレス雌金型Dfは、図4(a)に示す角部Cが90°である物が製造上好ましい。つまり、角部Cが90°の場合は、外板Peに対してθ=90°を成して照射されるレーザービームLをビードBの形状に平行に移動させれば良いので、レーザービームLによる切断加工も容易であり、ビード型穴Hの形状精度の確保も容易である。但し、レーザービームLの照射角度はθ=90°に限定されるものではなく、θ=45°〜135°の範囲の任意の角度であってもよく、またレーザービームLを平行移動させなくとも、略同一の形状のビードBを形成できることは上述の通りである。
妻外板を例として上述したように、本発明に係る外板はより低コスト及び簡便な方法で、ビードBの輪郭を形成するエッジにより外板は立体的なビード(凸面、凹面)と平坦な非ビード部とに分離されている。ビード(凸面、凹面)は、妻外板の表面に歪みの発生を抑止するように働く。さらに、外板の表面(ビードB或いはビードBを除く部分)に歪みが発生した場合にも、ビード輪郭によって歪みが外板の表面を伝播することが防止される。また、ビードにより外板の表面に形成される陰影が、生じた歪みを目立たせない効果が得られる。なおさらに、ビード輪郭と概ね平行な方向に伸びるしわ(歪み)は、ビード輪郭によって目立たない。
このように、本発明は例示した妻外板に限らず、側外板や屋根外板などの鉄道車両構体用の外板に適用できる。また、ビード形状は、例示された単純な直線形状のみならず、社章等のマークを模した意匠形状で形成することも可能であることは言うまでもない。さらに、雄型が汎用型となるため、雌型のビード型穴を埋めることで、容易にビードの部分的な廃止や間引きを行うことができる。