以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合せることができる。
(第一実施形態)
図1に示すように、本発明の第一実施形態によるバルブ特性制御装置10は、車両の内燃機関1に搭載される。内燃機関1は、カム軸2の長手方向に沿って直列に並ぶ複数の気筒3を各別に開閉するために、各気筒3毎に一組ずつの吸気系エンジンバルブVi1,Vi2を有しており(図6も参照)、バルブ特性制御装置10は、それらエンジンバルブVi1,Vi2のバルブ特性を制御する。ここで、特に本実施形態の内燃機関1は、ピストン(図示しない)が往復駆動する各気筒3内において、吸気ポートへ噴射されたガソリン燃料を燃焼させる、所謂ポート噴射式レシプロガソリンエンジンである。そこで、バルブ特性制御装置10は、各気筒3におけるガソリン燃料の燃焼状態を、吸気系エンジンバルブVi1,Vi2のバルブ特性制御により最適化する。
図1〜5に示すようにバルブ特性制御装置10は、各気筒3毎に一組づつ設けられる個別調整機構20,30と、それら気筒3に共通に設けられる共通調整機構40とを、備えている。本実施形態の各機構20,30,40は特に、内燃機関1の運転に伴って図1のポンプ4から供給される「作動液」としての作動油により、作動する。尚、各組の個別調整機構20,30の構成については、互いに実質同一であるため、以下、図2〜4に示す組の個別調整機構20,30の構成のみを代表的に説明する。
図2〜4に示すように第一及び第二個別調整機構20,30は、それぞれ対応した第一又は第二エンジンバルブVi1,Vi2を個別に駆動する第一又は第二バルブカムC1,C2に、内蔵されている。具体的に第一及び第二個別調整機構20,30は、金属製のカム軸2と同軸上に一体形成される金属製の第一及び第二回転体21,31を、それぞれ有している。第一及び第二回転体21,31は、それぞれ対応した第一又は第二バルブカムC1,C2内に同軸上に収容されてカム軸2と一体回転する、所謂ベーンロータである。ここで第一及び第二バルブカムC1,C2は、互いに実質同一のカムプロフィールP(即ち、第一及び第二エンジンバルブVi1,Vi2の最大リフト量を互いに実質同一とするカムプロフィールP)を形成する金属製のカムロブLと、それぞれ対応した第一又は第二回転体21,31にシール部材Sを介して嵌合する金属製の円筒ハウジングHとを、一体に組み付けてなる。第一及び第二回転体21,31は、こうした第一又は第二バルブカムC1,C2のハウジングH内を回転方向に区画することで、図3,4に示すように、第一又は第二進角作動室23,33と第一又は第二遅角作動室24,34とをそれぞれ複数ずつ形成している。
以上の構成により第一個別調整機構20では、作動油の排出による第一進角作動室23の油圧低下と共に、作動油の導入による第一遅角作動室24の油圧上昇とが生じるのに応じて、内蔵先の第一バルブカムC1が第一回転体21及びカム軸2に対して遅角方向に相対回転する。その結果、カム軸2に対する第一バルブカムC1の回転位相である第一回転位相が遅角するので、当該カムC1の駆動する第一エンジンバルブVi1の開閉タイミングも遅角することになる。一方、作動油の導入による第一進角作動室23の油圧上昇と共に、作動油の排出による第一遅角作動室24の油圧低下とが生じるのに応じて第一個別調整機構20では、第一バルブカムC1が第一回転体21及びカム軸2に対して進角方向に相対回転する。その結果、カム軸2に対する第一バルブカムC1の第一回転位相が進角するので、第一エンジンバルブVi1の開閉タイミングも進角することになる。
また同様に、第二個別調整機構30では、作動油の排出による第二進角作動室33の油圧低下と共に、作動油の導入による第二遅角作動室34の油圧上昇とが生じるのに応じて、内蔵先の第二バルブカムC2が第二回転体31及びカム軸2に対して遅角方向に相対回転する。その結果、カム軸2に対する第二バルブカムC2の回転位相である第二回転位相が遅角するので、当該カムC2の駆動する第二エンジンバルブVi2の開閉タイミングも遅角することになる。一方、作動油の導入による第二進角作動室33の油圧上昇と共に、作動油の排出による第二遅角作動室34の油圧低下とが生じるのに応じて第二個別調整機構30では、第二バルブカムC2が第二回転体31及びカム軸2に対して進角方向に相対回転する。その結果、カム軸2に対する第二バルブカムC2の第二回転位相が進角するので、第二エンジンバルブVi2の開閉タイミングも進角することになる。
このように第一及び第二個別調整機構20,30は、第一及び第二回転位相を互いに独立してそれぞれ所定の範囲R1,R2内に調整することで、同一気筒3における第一及び第二エンジンバルブVi1,Vi2の開閉タイミングを変化させるのである(図7(a)〜(f)を参照)。ここで図7に示すように、第一個別調整機構20の第一回転位相の調整範囲である第一位相範囲R1に対して、第二個別調整機構30の第二回転位相の調整範囲である第二位相範囲R2は、進角側にずれて設定されている。それと共に、第一位相範囲R1の最進角位相と第二位相範囲R2の最遅角位相とは、カム軸2に対する実質同一位相に設定されている。これらの設定は、範囲R1の最進角位相に調整された第一バルブカムC1が第一エンジンバルブVi1を開き始めると同時に、範囲R2の最遅角位相に調整された第二バルブカムC2が第二エンジンバルブVi2を開き始める作動状態の現出を、図7(a)の如く可能にする。特に本実施形態において図7(a)の作動状態は、内燃機関1の始動を許容する状態であり、以下では、「デフォルト状態」というものとする。
さて、図2,5に示すように共通調整機構40は、カム軸2の長手方向の一端部2aに外付けされている。具体的に共通調整機構40は、共に金属製の駆動回転体41と従動回転体42とを、有している。駆動回転体41は、クランク軸との間にタイミングチェーン5が掛け渡されて内燃機関1の出力トルクが伝達されることで、当該クランク軸と連動して回転する、所謂スプロケットハウジングである。従動回転体42は、カム軸2の一端部2aに同軸上に固定されることで、当該カム軸2と連動して回転する、所謂ベーンロータである。従動回転体42は、駆動回転体41内に同軸上に収容されて、シール部材Sを介して駆動回転体41の内周部に嵌合している。かかる嵌合形態により従動回転体42は、駆動回転体41内を回転方向に区画することで、共通進角作動室43と共通遅角作動室44とをそれぞれ複数ずつ形成している。
以上の構成により共通調整機構40では、作動油の排出による共通進角作動室43の油圧低下と共に、作動油の導入による共通遅角作動室44の油圧上昇とが生じるのに応じて、従動回転体42及びカム軸2が駆動回転体41に対して遅角方向に相対回転する。その結果、全ての個別調整機構20,30における第一及び第二バルブカムC1,C2の各回転位相は、駆動回転体41と連動するクランク軸に対して同時に遅角する。故に各個別調整機構20,30では、カム軸2に対してのバルブカムC1,C2の位相調整範囲である位相範囲R1,R2が遅角側へ同量ずつずれることになるので、バルブカムC1,C2により駆動されるエンジンバルブVi1,Vi2の開閉タイミングも全て遅角する。
一方、作動油の導入による共通進角作動室43の油圧上昇と共に、作動油の排出による共通遅角作動室44の油圧低下とが生じるのに応じて共通調整機構40では、従動回転体42及びカム軸2が駆動回転体41に対して進角方向に相対回転する。その結果、全個別調整機構20,30における第一及び第二バルブカムC1,C2の各回転位相は、クランク軸に対して同時に進角する。故に各個別調整機構20,30では、カム軸2に対してのバルブカムC1,C2の位相調整範囲である位相範囲R1,R2が進角側へ同量ずつずれることになるので、エンジンバルブVi1,Vi2の開閉タイミングも全て進角する。
このように共通調整機構40は、クランク軸に対する全バルブカムC1,C2の各回転位相を共通に調整することで、各位相範囲R1,R2を同時にずらして、全エンジンバルブVi1,Vi2の開閉タイミングを変化させるのである(図7(a),(b)間及び図7(e),(f)間の変化を参照)。ここで、図7(a)のデフォルト状態においては、各気筒3内のピストンが上死点TDCに到達すると同時に全エンジンバルブVi1,Vi2が開き始めるように、クランク軸に対する全バルブカムC1,C2の各回転位相が調整されるようになっている。
尚、図7(a)のデフォルト状態において本実施形態では、各気筒3内ピストンの上死点TDCへの到達と同時に、それら各気筒3の排気系エンジンバルブVeが閉じられるように、当該バルブVeの開閉タイミングが固定されている。ここで、第一及びエンジンバルブVi1,Vi2と同一の気筒3を開閉する排気系のエンジンバルブVeについては、図6に示すように、それら吸気系のエンジンバルブVi1,Vi2に準じて、各気筒3毎に一組ずつ設けられている。
図1に示すようにバルブ特性制御装置10は、以上説明した機構20,30,40に加えて、さらに入出制御系50,52及び電子制御回路60を有している。
個別入出制御系50は、内燃機関1に付設されるポンプ4及びドレンパン6と、各個別調整機構20,30との間に設けられている。個別入出制御系50は、各個別調整機構20,30の作動室23,24,33,34に対して、ポンプ4との接続により作動油を導入する状態と、ドレンパン6との接続により作動油を排出させる状態と、ポンプ4及びドレンパン6との非接続により作動油を留める状態とを切り替える。このような個別入出制御系50については、第一個別調整機構20の全てに共通の電磁制御弁と、第二個別調整機構30の全てに共通の電磁制御弁とから構成してもよいし、各個別調整機構20,30毎に独立して設けられる複数の電磁制御弁から構成してもよい。また、図1〜4に示すように個別入出制御系50と各個別調整機構20,30の進角作動室23,33との間を連通する通路53については、それぞれ対応した個別調整機構20,30のハウジングHと共にカム軸2を軸受するカムジャーナルJから、当該ハウジングHに跨って形成される。さらに、図1〜4に示すように個別入出制御系50と各個別調整機構20,30の遅角作動室24,34との間を連通する通路54については、それぞれ対応した個別調整機構20,30のハウジングHと共にカム軸2を軸受するカムジャーナルJから、当該ハウジングHに跨って形成される。
図1に示すように共通入出制御系52は、ポンプ4及びドレンパン6と、共通調整機構40との間に設けられている。共通入出制御系52は、共通調整機構40の各作動室43,44に対して、ポンプ4との接続により作動油を導入する状態と、ドレンパン6との接続により作動油を排出させる状態と、ポンプ4及びドレンパン6との非接続により作動油を留める状態とを切り替える。このような共通入出制御系52については、個別入出制御系50とは独立した電磁制御弁により構成される。また、図1,2,5に示すように共通入出制御系52と共通調整機構の各作動室43,44との間をそれぞれ個別に連通する通路55,56については、カム軸2を軸受する直近のカムジャーナルJから、駆動回転体41に跨って形成される。
電子制御回路60は、マイクロコンピュータを主体に構成され、内燃機関1に付設されている。電子制御回路60は、各入出制御系50,52を構成する電磁制御弁と、内燃機関1の各種電装品とに接続されている。電子制御回路60は、各電装品からの信号に基づいて内燃機関1の運転状態を判断し、各入出制御系50,52の切り替え作動を当該運転状態に応じて制御する。
(作動)
次に、第一実施形態のバルブ特性制御装置10において電子制御回路60が各入出制御系50,52を制御することにより実行される作動を、詳細に説明する。
(1) 車両のエンジンスイッチのオン等により内燃機関1の始動条件が成立すると、各入出制御系50,52の制御に従う各機構20,30,40の位相調整作動により、内燃機関1が図7(a)のデフォルト状態にて始動し、アイドル回転状態となる。
(2) アイドル回転域の内燃機関1を冷機始動後、触媒を早期暖気させる運転へ切り替える条件が成立すると、各入出制御系50,52の制御に従う各機構20,30,40の位相調整作動により、内燃機関1が図7(a)の状態から図7(b)の状態へ移行する。具体的には、第一及び第二個別調整機構20,30と共通調整機構40との共同により、各気筒3内ピストンの上死点TDCへの到達前に第一及び第二エンジンバルブVi1,Vi2を開き始めるように、第一及び第二位相範囲R1,R2を同時に進角側へとずらす。
したがって、図7(b)の状態では、第一及び第二エンジンバルブVi1,Vi2の双方が各気筒3内ピストンの上死点TDC到達前のリフトアップ中に開き始める。これにより各気筒3では、進角側へずらされた第一位相範囲R1と第二位相範囲R2とのそれぞれ最進角位相と最遅角位相とにて、第一及び第二エンジンバルブVi1,Vi2が同時に開閉することになる。
(3) アイドル回転域の内燃機関1を設定回転数(例えば4000rpm等)超の高速回転域まで増速させて運転する条件が成立すると、各入出制御系50,52の制御に従う各機構20,30,40の位相調整作動により、内燃機関1が図7(a)の状態から図7(c)の状態へ移行する。具体的には、第一個別調整機構20と共通調整機構40との共同により、各気筒3内ピストンの上死点TDCへの到達と同時に第一エンジンバルブVi1を開き始めるように、第一回転位相を第一位相範囲R1の最進角位相のまま保持する。また一方、第二個別調整機構30と共通調整機構40との共同により、各気筒3内ピストンの上死点TDCへの到達前に、排気系エンジンバルブVeの開いた状態で第二エンジンバルブVi2を開き始めるように、第二回転位相を第二位相範囲R2の最遅角位相から最進角位相にまで進角させる。
したがって、図7(c)の状態では、第二回転位相が第一回転位相に対して相対的に進角することで、第二エンジンバルブVi2が開き始めた後に第一エンジンバルブVi1も開き始める。これにより、各気筒3毎にエンジンバルブVi1,Vi2の双方が開いている位相範囲、即ち各気筒3における見かけ上のバルブ作用角が、デフォルト状態よりも拡大することになる。
(4) 高速回転域の内燃機関1を高負荷で運転する条件が成立すると、入出制御系50,52の制御に従う各機構20,30,40の位相調整作動により、内燃機関1が図7(c)の状態から図7(e)の状態へ移行する。具体的には、第二個別調整機構30と共通調整機構40との共同により、各気筒3内ピストンの上死点TDCへの到達前に第二エンジンバルブVi2を開き始めるように、第二回転位相を第二位相範囲R2の最進角位相のまま保持する。また一方、第一個別調整機構20と共通調整機構40との共同により、各気筒3内ピストンの上死点TDCへの到達後に第一エンジンバルブVi1を開き始めるように、第一回転位相を第一位相範囲R1の最進角位相から最遅角位相にまで遅角させる。
したがって、図7(e)の状態では、第一回転位相に対する第二回転位相の相対的な進角量は増大して、第二エンジンバルブVi2の開き始めに対して第一エンジンバルブVi1の開き始めがさらに遅くなる。これにより、各気筒3における見かけ上のバルブ作用角のデフォルト状態に対する拡大量が、さらに増大することになる。
(5) 高速回転域の内燃機関1を設定回転数以下の中低速回転域まで減速させて運転する条件が成立すると、入出制御系50,52の制御に従う各機構20,30,40の位相調整作動により、内燃機関1が図7(e)の状態から図7(f)の状態へ移行する。具体的には、第一個別調整機構20と共通調整機構40との共同により、各気筒3内ピストンの上死点TDCへの到達と同時に第一エンジンバルブVi1を開き始めるように、第一位相範囲R1を進角側へとずらす。また同時に、第二個別調整機構30と共通調整機構40との共同により、各気筒3内ピストンの上死点TDCへの到達前における第二エンジンバルブVi2の開き始めタイミングをさらに早めるように、第二位相範囲R2を進角側へとずらす。
したがって、図7(f)の状態では、第一回転位相に対する第二回転位相の相対的な進角量が増大したまま、第二エンジンバルブVi2が第一エンジンバルブVi1よりも早く且つ各気筒3内ピストンのリフトアップ中の可及的に早期から開き始める。これにより各気筒3では、進角側へずれた範囲R2の最進角位相にて、排気系エンジンバルブVeが開いた状態で第二エンジンバルブVi2が開いた後、進角側へずれた範囲R1の最遅角位相にて、同バルブVeが閉じるのと同時に第一エンジンバルブVi1が開くことになる。
(6) アイドル回転域の内燃機関1を中低速回転域まで増速させて運転する条件が成立すると、各入出制御系50,52の制御に従う各機構20,30,40の位相調整作動により、内燃機関1が図7(a)の状態から図7(d)の状態へ移行する。具体的には、第二個別調整機構30と共通調整機構40との共同により、各気筒3内ピストンの上死点TDCへの到達と同時に第二エンジンバルブVi2を開き始めるように、第二回転位相を第二位相範囲R2の最遅角位相のまま保持する。また一方、第一個別調整機構20と共通調整機構40との共同により、各気筒3内ピストンの下死点BDCへの到達後に第一エンジンバルブVi1を閉じるように、第一回転位相を第一位相範囲R1の最進角位相から最遅角位相にまで遅角させる。
したがって、図7(d)の状態では、第一回転位相が第二回転位相に対して相対的に遅角して、第一エンジンバルブVi1が第二エンジンバルブVi2よりも遅いタイミングにて開き始める。これにより各気筒3では、第二エンジンバルブVi2の開くタイミングはそのままに、見かけ上のバルブ作用角がデフォルト状態よりも拡大して、ピストンの下死点BDC到達後のリフトアップ時にまで第一エンジンバルブVi1が開き続けることになる。
尚、図7(d)の状態については、高速回転域の内燃機関1を中負荷で運転する条件が成立した場合にも、図7(e)の状態から移行される。この場合、第一回転位相は保持したまま、第二回転位相を遅角させることにより、図7(d)の状態を実現することができる。また、上記(2)〜(6)により図7(b)〜(f)の作動状態へ移行された後においては、上記(2)〜(6)とは逆の位相調整作動を各機構20,30,40に実行させることで、図7の白抜矢印の如く移行元の状態へ戻ることは、勿論、可能である。
(作用効果)
次に、以上説明した第一実施形態のバルブ特性制御装置10による作用効果を、詳細に説明する。
第一実施形態において吸気系のエンジンバルブVi1,Vi2が開閉する各気筒3では、それらバルブを駆動するバルブカムC1,C2にそれぞれ内蔵の個別調整機構20,30により、第一及び第二回転位相がカム軸2に対して互いに独立して調整される。こうした独立調整の作用を受ける各気筒3では、第一エンジンバルブVi1の開閉タイミングと第二エンジンバルブVi2の開閉タイミングとを、それぞれの適時に且つ各別の量をもって図7の如く変化させ得る。しかも、第二回転位相の調整範囲である第二位相範囲R2は、第一回転位相の調整範囲である第一位相範囲R1とはずれているので、図7(c)〜(f)の如く第二回転位相と第一回転位相とを相異ならせて、各気筒3における見かけ上のバルブ作用角を変化させ得る。これらのことから、第一及び第二エンジンバルブVi1,Vi2の各開閉タイミングを個別に制御しながら、各気筒3における見かけ上のバルブ作用角を自由に制御して、内燃機関1の性能を高めることが可能である。
ここで特に、第一位相範囲R1に対して第二位相範囲R2が進角側にずれている第一実施形態では、第一回転位相に対して第二回転位相が相対的に進角され得る。故に内燃機関1の高速回転時には、図7(c),(e)の如く第二回転位相を第一回転位相に対して相対的に進角させて、各気筒3における見かけ上のバルブ作用角を拡大させることで、慣性吸気効果を利用したトルクアップを期待できる。したがって、内燃機関1の出力性能を高めることが可能となるのである。
また、図7(d)の如く第一実施形態では、第二回転位相が保持されるときに、第一回転位相が第一位相範囲R1の最進角位相よりも遅角することで、各気筒3内にてピストンが下死点BDCに到達するタイミング後に、第一エンジンバルブVi1が閉じられる。その結果、内燃機関1の中低速回転時の各気筒3内では、ピストンが下死点BDC到達後にリフトアップするのに応じて、第一エンジンバルブVi1により開かれたままの吸気ポートへ吸気ガスが吹き戻しされる。またこのとき、保持された第二回転位相に対して第一回転位相が相対的に遅角することで、第二エンジンバルブVi2の開くタイミングはそのままに、各気筒3における見かけ上のバルブ作用角が拡大するので、吸気抵抗が低下する。これらのことから、吸気ガスの吹き戻しと吸気抵抗の低下とによりポンピングロスを低減できるので、内燃機関1の性能を高めることが可能となるのである。
さらに第一実施形態では、駆動回転体41及び従動回転体42間の相対回転が共通調整機構40により生じさせられる。ここで、クランク軸から出力トルクが伝達されて回転する駆動回転体41と、カム軸2に固定されて回転する従動回転体42との間の相対回転によれば、各気筒3のエンジンバルブVi1,Vi2をそれぞれ駆動するバルブカムC1,C2の回転位相は、クランク軸に対して共通に調整されることになる。これにより、各気筒3のエンジンバルブVi1,Vi2の開閉タイミングを適時且つ各別量で変化させる個別調整と、それらバルブの開閉タイミングを同時且つ同量で変化させる共通調整とを、図7(a),(b)間の如く切り替えて、又は図7(a)から図7(f)に到るまでの如く組み合わせて実施し得る。故に、こうした二種類の調整の切り替え又は組み合わせの結果、内燃機関1の燃費性能や環境性能を最大限にまで高めることが可能となる。
ここで例えば、図7(f)に到るまでの個別調整及び共通調整の組み合わせによれば、内燃機関1の中低速回転時の各気筒3では、開き始めタイミングをピストンの上死点TDCへの到達前まで早められた第二エンジンバルブVi2により、吸気ポートが開かれる。その結果、各気筒3の吸気ポートには、排気系エンジンバルブVeにより開かれた排気ポートから排気ガスが、上死点TDCに向かうピストンのリフトアップに応じて流入する。こうした所謂内部EGRが発生することによれば、ポンピングロスの低減と排気ガス中の窒素酸化物の低減とを図ることができるので、内燃機関1の燃費性能と共に環境性能を最大限に高めることが可能となるのである。
またさらに、第一実施形態において各気筒3毎の第一個別調整機構20では、カム軸2と一体回転の第一回転体21が第一バルブカムC1内に区画する第一進角作動室23及び第一遅角作動室24に対し、それぞれ作動油の排出及び導入が行われることで、第一回転位相が遅角する。また一方、各気筒3毎の第二個別調整機構30では、カム軸2と一体回転の第二回転体31が第二バルブカムC2内に区画する第二進角作動室33及び第二遅角作動室34に対し、それぞれ作動油の導入及び排出が行われることで、第二回転位相が進角する。これら個別調整機構20,30によれば、互いに独立した第一回転位相の遅角調整と第二回転位相の進角調整とのうち少なくとも一方により、図7(c)〜(f)の如く、第一回転位相に対する第二回転位相の相対的な進角状態を確実に得ることができる。故に、各気筒3における見かけ上のバルブ作用角を適時に且つ正確に拡大して、上述した内燃機関1の各種性能を高めることが可能となるのである。
(第二実施形態)
図8に示すように、本発明の第二実施形態は第一実施形態の変形例である。第二実施形態のバルブ特性制御装置210には、共通調整機構40及び共通入出制御系52が設けられず、クランク軸との間にタイミングチェーン5が掛け渡されるタイミングスプロケット241がカム軸2の一端部2aに固定されている。これによりカム軸2は、タイミングスプロケット241を通じて内燃機関1の出力トルクを伝達されることにより、クランク軸と同期(具体的に、クランク軸の半回転と同期)して回転することになるので、カム軸2を基準とした位相範囲R1,R2は、クランク軸に対しては図9の如くずれない範囲となる。
このような第二実施形態では、第一実施形態における(1),(3),(4),(6)の各作動により、図9(a),(b),(c),(d)の各作動状態が、それぞれ図7(a),(c),(d),(e)と同様に実現される。したがって、第一実施形態で説明した作用効果のうち図7(a),(c),(d),(e)の作動状態に関連するものを、第二実施形態によっても発揮することができるのである。
(第三実施形態)
図10,11に示すように、本発明の第三実施形態は第一実施形態の変形例である。第三実施形態のバルブ特性制御装置310は、複数の気筒3を格別に開閉する排気系エンジンバルブVeとして第一エンジンバルブVe1と第二エンジンバルブVe2(図12も参照)との組を有した内燃機関301に搭載され、それらエンジンバルブVe1,Ve2のバルブ特性を制御する。ここで、特に第三実施形態の内燃機関301は、第一実施形態の場合と同様に各気筒3毎の吸気系エンジンバルブVi1,Vi2も備えたポート噴射式レシプロガソリンエンジンであるが、バルブ特性制御装置310は、当該内燃機関301の各気筒3におけるガソリン燃料の燃焼状態を、排気系エンジンバルブVe1,Ve2のバルブ特性制御により最適化する。
図11に示す第三実施形態において、バルブ特性制御装置310の第一又は第二個別調整機構20,30が内蔵される第一及び第二バルブカムC1,C2は、それぞれ対応した第一又は第二エンジンバルブVe1,Ve2を個別に駆動する。故に、第一実施形態に準じて第一及び第二個別調整機構20,30は、第一及び第二回転位相を互いに独立してそれぞれ所定の範囲R1,R2内に調整することで、同一気筒3における第一及び第二エンジンバルブVe1,Ve2の開閉タイミングを変化させる(図13(a)〜(f)を参照)。即ち、第一及び第二個別調整機構20,30は、第一又は第二進角作動室23,33からの作動油排出且つ第一又は第二遅角作動室24,34への作動油導入により、第一又は第二回転位相と共に第一又は第二エンジンバルブVe1,Ve2の開閉タイミングを遅角させる。また一方、第一及び第二個別調整機構20,30は、第一又は第二進角作動室23,33への作動油導入且つ第一又は第二遅角作動室24,34からの作動油排出により、第一又は第二回転位相と共に第一又は第二エンジンバルブVe1,Ve2の開閉タイミングを進角させる。
ここで、図13に示すように第三実施形態では、第一個別調整機構20の第一回転位相の調整範囲である第一位相範囲R1に対して、第二個別調整機構30の第二回転位相の調整範囲である第二位相範囲R2は、遅角側にずれて設定されている。それと共に、第一位相範囲R1の最遅角位相と第二位相範囲R2の最進角位相とは、カム軸2に対する実質同一位相に設定されている。これらの設定は、範囲R1の最遅角位相に調整された第一バルブカムC1が第一エンジンバルブVe1を開き始めると同時に、範囲R2の最進角位相に調整された第二バルブカムC2が第二エンジンバルブVe2を開き始める作動状態の現出を、図13(a)の如く可能にする。特に第三実施形態において図13(a)の作動状態は、内燃機関301の始動を許容する状態であり、以下では、この状態を「デフォルト状態」という。
また、図11に示す第三実施形態において、バルブ特性制御装置310の共通調整機構40は、上述の如き第一及び第二個別調整機構20,30の回転体21,31と一体回転するカム軸2に、外付けされている。故に、第一実施形態に準じて共通調整機構40は、クランク軸に対する全バルブカムC1,C2の各回転位相を共通に調整することで、各位相範囲R1,R2を同時にずらして、全エンジンバルブVe1,Ve2の開閉タイミングを変化させる(図13(a),(b)間及び図13(d),(e)間の変化を参照)。即ち、共通調整機構40は、共通進角作動室43からの作動油排出且つ共通遅角作動室44への作動油導入により、クランク軸に対する全バルブカムC1,C2の回転位相と共に、全エンジンバルブVe1,Ve2の開閉タイミングを遅角させる。また一方、共通調整機構40は、共通進角作動室43への作動油導入且つ共通遅角作動室44からの作動油排出により、クランク軸に対する全バルブカムC1,C2の回転位相と共に、全エンジンバルブVe1,Ve2の開閉タイミングを進角させる。
ここで第三実施形態では、図13(a)のデフォルト状態において、各気筒3内のピストンが上死点TDCに到達すると同時に全エンジンバルブVe1,Ve2が閉じるように、クランク軸に対する全バルブカムC1,C2の各回転位相が調整される。また、図13(a)のデフォルト状態において第三実施形態では、各気筒3内ピストンの上死点TDCへの到達と同時に、各気筒3の吸気系エンジンバルブVi1,Vi2が開き始めるように、それらバルブVi1,Vi2の開閉タイミングが固定されている。
尚、第三実施形態のバルブ特性制御装置310において入出制御系50,52及び電子制御回路60は、第一実施形態と同様に構成されている。
(作動)
次に、第三実施形態のバルブ特性制御装置310において電子制御回路60が各入出制御系50,52を制御することにより実行される作動を、詳細に説明する。
(1) 内燃機関301の始動条件が成立すると、各入出制御系50,52の制御に従う各機構20,30,40の位相調整作動により、内燃機関301が図13(a)のデフォルト状態にて始動し、アイドル回転状態となる。
(2) アイドル回転域の内燃機関301を、暖気後の排気ガスを再吸入させる運転へ切り替える条件が成立すると、各入出制御系50,52の制御に従う各機構20,30,40の位相調整作動により、内燃機関301が図13(a)の状態から図13(b)の状態へ移行する。具体的には、第一及び第二個別調整機構20,30と共通調整機構40との共同により、各気筒3内ピストンの上死点TDCへの到達後に第一及び第二エンジンバルブVe1,Ve2を閉じるように、第一及び第二位相範囲R2を同時に遅角側へとずらす。
したがって、図13(b)の状態では、第一及び第二エンジンバルブVe1,Ve2の双方が各気筒3内ピストンのリフトダウン時まで開き続ける。これにより各気筒3では、遅角側へずらされた第一位相範囲R1と第二位相範囲R1,R2とのそれぞれ最遅角位相と最進角位相とにて、第一及び第二エンジンバルブVe1,Ve2が同時に開閉することになる。
(3) アイドル回転域の内燃機関301を設定回転数(例えば4000rpm等)以下の中低速回転域まで増速させて運転する条件が成立すると、各入出制御系50,52の制御に従う各機構20,30,40の位相調整作動により、内燃機関301が図13(a)の状態から図13(c)の状態へ移行する。具体的には、第一個別調整機構20と共通調整機構40との共同により、各気筒3内ピストンの上死点TDCへの到達と同時に第一エンジンバルブVe1を閉じるように、第一回転位相を第一位相範囲R1の最遅角位相のまま保持する。また一方、第二個別調整機構30と共通調整機構40との共同により、各気筒3内ピストンの上死点TDCへの到達後に、吸気系エンジンバルブVi1,Vi2の開いた状態で第二エンジンバルブVe2を閉じるように、第二回転位相を第二位相範囲R2の最進角位相から最遅角位相にまで遅角させる。
したがって、図13(c)の状態では、第二回転位相が第一回転位相に対して相対的に遅角して、第二エンジンバルブVe2よりも先に第一エンジンバルブVe1が閉じる。これにより、各気筒3毎にエンジンバルブVe1,Ve2の双方が開いている位相範囲、即ち各気筒3における見かけ上のバルブ作用角が、デフォルト状態よりも拡大することになる。
(4) 中低速回転域の内燃機関301を中負荷で運転する条件が成立すると、入出制御系50,52の制御に従う各機構20,30,40の位相調整作動により、内燃機関301が図13(c)の状態から図13(e)の状態へ移行する。具体的には、第二個別調整機構30と共通調整機構40との共同により、各気筒3内ピストンの上死点TDCへの到達後に第二エンジンバルブVe2を閉じるように、第二回転位相を第二位相範囲R2の最遅角位相のまま保持する。また一方、第一個別調整機構20と共通調整機構40との共同により、各気筒3内ピストンの上死点TDCへの到達前に第一エンジンバルブVe1を閉じるように、第一回転位相を第一位相範囲R1の最遅角位相から最進角位相にまで進角させる。
したがって、図13(e)の状態では、第一回転位相に対する第二回転位相の相対的な遅角量は増大して、第二エンジンバルブVe2の閉じるタイミングに対して第一エンジンバルブVe1の閉じるタイミングがさらに早くなる。これにより、各気筒3における見かけ上のバルブ作用角のデフォルト状態に対する拡大量が、さらに増大することになる。
(5) 中低速回転域の内燃機関301を設定回転数超の高速回転域まで増速させて運転する条件が成立すると、入出制御系50,52の制御に従う各機構20,30,40の位相調整作動により、内燃機関301が図13(e)の状態から図13(f)の状態へ移行する。具体的には、第一個別調整機構20と共通調整機構40との共同により、各気筒3内ピストンの上死点TDCへの到達と同時に第一エンジンバルブVe1を閉じるように、第一位相範囲R1を遅角側へとずらす。また同時に、第二個別調整機構30と共通調整機構40との共同により、各気筒3内ピストンの上死点TDCへの到達後における第二エンジンバルブVe2の閉じタイミングがさらに遅くなるように、第二位相範囲R2を遅角側へとずらす。
したがって、図13(f)の状態では、第一回転位相に対する第二回転位相の相対的な遅角量が増大したまま、第二エンジンバルブVe2が第一エンジンバルブVe1よりも遅く且つ各気筒3内ピストンのリフトダウン中の可及的に遅くに閉じる。これにより各気筒3では、遅角側へずれた範囲R1の最進角位相にて、第一エンジンバルブVe1が閉じた後、遅角側へずれた範囲R2の最遅角位相にて、吸気系エンジンバルブVi1,Vi2が開いた状態で第二エンジンバルブVe2が閉じることになる。
(6) アイドル回転域の内燃機関301を始動直後の極低温(−30〜−20℃)にて運転する条件が成立すると、各入出制御系50,52の制御に従う各機構20,30,40の位相調整作動により、内燃機関301が図13(a)の状態から図13(d)の状態へ移行する。具体的には、第二個別調整機構30と共通調整機構40との共同により、各気筒3内ピストンの上死点TDCへの到達と同時に第二エンジンバルブVe2を閉じるように、第二回転位相を第二位相範囲R2の最進角位相のまま保持する。また一方、第一個別調整機構20と共通調整機構40との共同により、各気筒3内ピストンの上死点TDCへの到達前に第一エンジンバルブVe1を閉じるように、第一回転位相を第一位相範囲R1の最遅角位相から最進角位相にまで進角させる。
したがって、図13(d)の状態では、第一回転位相が第二回転位相に対して相対的に進角して、第一エンジンバルブVe1が第二エンジンバルブVe2よりも早いタイミングにて開き始める。これにより各気筒3では、見かけ上のバルブ作用角がデフォルト状態よりも拡大して、エンジンバルブVe1,Ve2の少なくとも一方が開いている間、排気系の触媒が暖められることになる。
尚、図13(d)の状態については、中低速回転域の内燃機関301を低負荷で運転する条件が成立した場合にも、図13(e)の状態から移行される。この場合、第一回転位相は保持したまま、第二回転位相を進角させることにより、図13(d)の状態を実現することができる。また、上記(2)〜(6)により図13(b)〜(f)の作動状態へ移行された後においては、上記(2)〜(6)とは逆の位相調整作動を各機構20,30,40に実行させることで、図13の白抜矢印の如く移行元の状態へ戻ることは、勿論、可能である。
(作用効果)
次に、以上説明した第三実施形態のバルブ特性制御装置310による作用効果を、詳細に説明する。
第三実施形態において排気系のエンジンバルブVe1,Ve2が開閉する各気筒3では、それらバルブを駆動するバルブカムC1,C2にそれぞれ内蔵の個別調整機構20,30により、第一及び第二回転位相がカム軸2に対して互いに独立して調整される。こうした独立調整の作用を受ける各気筒3では、第一エンジンバルブVe1の開閉タイミングと第二エンジンバルブVe2の開閉タイミングとを、それぞれの適時に且つ各別の量をもって図13の如く変化させ得る。しかも、第二回転位相の調整範囲である第二位相範囲R2は、第一回転位相の調整範囲である第一位相範囲R1とはずれているので、図13(c)〜(f)の如く第二回転位相と第一回転位相とを相異ならせて、各気筒3における見かけ上のバルブ作用角を変化させ得る。これらのことから、第一及び第二エンジンバルブVe1,Ve2の各開閉タイミングを個別に制御しながら、各気筒3における見かけ上のバルブ作用角を自由に制御して、内燃機関301の性能を高めることが可能である。
ここで特に、第一位相範囲R1に対して第二位相範囲R2が遅角側にずれている第三実施形態では、第一回転位相に対して第二回転位相が相対的に遅角され得る。故に内燃機関301の任意の回転域にて、図13(c)〜(f)の如く第二回転位相を第一回転位相に対して相対的に遅角させて、各気筒3における見かけ上のバルブ作用角を拡大させることで、排気効率の向上を期待できる。したがって、内燃機関301の出力性能を高めることが可能となるのである。
また、図13(e)の如く第三実施形態では、第二回転位相が第二位相範囲R2の最進角位相よりも遅角された状態が保持されることで、各気筒3内にてピストンが上死点TDCに到達するタイミング後に、第二エンジンバルブVe2が閉じられる。その結果、内燃機関301の中低速回転時の各気筒3内では、ピストンが上死点TDCへの到達後にリフトダウンするのに応じて、第二エンジンバルブVe2により開かれたままの排気ポートから排気ガスが戻される、所謂内部EGRが発生する。このとき、第一回転位相が進角して各気筒3における見かけ上のバルブ作用角が拡大することで、ピストンの上死点TDCへの到達までに排気ガス残存量が低減された状態下、排気ガスが各気筒3内へ戻されることになるので、強い内部EGRを発生し得る。これによれば、ポンピングロスの低減と排気ガス中の窒素酸化物の低減とを図ることができるので、内燃機関301の燃費性能と共に環境性能を高めることが可能となるのである。
さらに、図13(d)の如く第三実施形態では、第二回転位相が保持されるときに、第一回転位相が第一位相範囲R1の最遅角位相よりも進角することで、第一エンジンバルブVe1が第二エンジンバルブVe2よりも早く開くことになる。その結果、見かけ上のバルブ作用角が拡大して、エンジンバルブVe1,Ve2の少なくとも一方が開いている長い間、排気系の触媒が暖められる。これによれば、極低温の環境下において排気系触媒の早期暖気を実現できるので、内燃機関301の環境性能を高めることが可能となるのである。
加えて第三実施形態では、駆動回転体41及び従動回転体42間の相対回転が共通調整機構40により生じさせられる。ここで、クランク軸から出力トルクが伝達されて回転する駆動回転体41と、カム軸2に固定されて回転する従動回転体42との間の相対回転によれば、各気筒3のエンジンバルブVe1,Ve2をそれぞれ駆動するバルブカムC1,C2の回転位相は、クランク軸に対して共通に調整されることになる。これにより、各気筒3のエンジンバルブVe1,Ve2の開閉タイミングを適時且つ各別量で変化させる個別調整と、それらバルブの開閉タイミングを同時且つ同量で変化させる共通調整とを、図13(a),(b)間の如く切り替えて、又は図13(a)から図13(f)に到るまでの如く組み合わせて実施し得る。故に、こうした二種類の調整の切り替え又は組み合わせの結果、内燃機関301の出力性能を最大限にまで高めることが可能となる。
ここで例えば、図13(f)に到るまでの個別調整及び共通調整の組み合わせによれば、内燃機関301の高速回転時の各気筒3では、第一エンジンバルブVe1が閉じた後、吸気系エンジンバルブVi1,Vi2の開状態で第二エンジンバルブVe2が閉じる。その結果、各気筒3では、排気系エンジンバルブVe1,Ve2により開かれた排気ポートだけでなく、吸気系エンジンバルブVi1,Vi2により開かれた吸気ポートにも、排気ガスが排出される。これによれば、内燃機関301の高い回転数と相俟って、排気効率が一段と向上するので、内燃機関301の出力性能を最大限に高めることが可能となるのである。
さらに加えて、第三実施形態において各気筒3毎の第一個別調整機構20では、カム軸2と一体回転の第一回転体21が第一バルブカムC1内に区画する第一進角作動室23及び第一遅角作動室24に対し、それぞれ作動油の導入及び排出が行われることで、第一回転位相が進角する。また一方、各気筒3毎の第二個別調整機構30では、カム軸2と一体回転の第二回転体31が第二バルブカムC2内に区画する第二進角作動室33及び第二遅角作動室34に対し、それぞれ作動油の排出及び導入が行われることで、第二回転位相が遅角する。これら個別調整機構20,30によれば、互いに独立した第一回転位相の進角調整と第二回転位相の遅角調整とのうち少なくとも一方により、図13(c)〜(f)の如く、第一回転位相に対する第二回転位相の相対的な遅角状態を確実に得ることができる。故に、各気筒3における見かけ上のバルブ作用角を適時に且つ正確に拡大して、上述した内燃機関301の各種性能を高めることが可能となるのである。
(第四実施形態)
図14に示すように、本発明の第四実施形態は第三実施形態の変形例である。第四実施形態のバルブ特性制御装置410には、共通調整機構40及び共通入出制御系52が設けられず、クランク軸との間にタイミングチェーン5が掛け渡されるタイミングスプロケット441がカム軸2の一端部2aに固定されている。これによりカム軸2は、タイミングスプロケット441を通じて内燃機関301の出力トルクを伝達されることにより、クランク軸と同期(具体的に、クランク軸の半回転と同期)して回転することになるので、カム軸2を基準とした位相範囲R1,R2は、クランク軸に対しては図15の如くずれない範囲となる。
このような第四実施形態では、第三実施形態における(1),(3),(4),(6)の各作動により、図15(a),(b),(c),(d)の各作動状態が、それぞれ図13(a),(c),(d),(e)と同様に実現される。したがって、第三実施形態で説明した作用効果のうち図13(a),(c),(d),(e)の作動状態に関連するものを、第四実施形態によっても発揮することができるのである。
(他の実施形態)
以上、本発明の複数の実施形態について説明したが、本発明は、それらの実施形態に限定して解釈されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態及び組み合わせに適用することができる。
具体的には、第一及び第二実施形態において図7(a)〜(f)又は図9(a)〜(d)の各作動状態は、第一実施形態で説明した(1)〜(6)及びその補足形態(尚書き段落部分)の作動により実現する以外にも、例えば各作動状態を移行元及び移行先のいずれかとしたときに想定可能な組み合わせのいずれかにより実現してもよい。また、第一及び第二実施形態では、図7(a)〜(f)又は図9(a)〜(d)の各作動状態間にて実現される中間の作動状態を、実現してもよい。
同様に、第三及び第四実施形態において図13(a)〜(f)又は図15(a)〜(d)の各作動状態は、第三実施形態で説明した(1)〜(6)及びその補足形態(尚書き段落部分)の作動により実現する以外にも、例えば各作動状態を移行元及び移行先のいずれかとしたときに想定可能な組み合わせのいずれかにより実現してもよい。また、第三及び第四実施形態では、図13(a)〜(f)又は図15(a)〜(d)の各作動状態間にて実現される中間の作動状態を、実現してもよい。
さらに、第一及び第二実施形態の図7(a),(b)又は図9(a)の作動状態では、第一位相範囲R1の最進角位相と第二位相範囲R2の最遅角位相とにおいて、第一及び第二エンジンバルブVi1,Vi2が互いにずれたタイミングにて開くようにしてもよい。またさらに、第三及び第四実施形態の図13(a),(b)又は図15(a)の作動状態では、第一位相範囲R1の最遅角位相と第二位相範囲R2の最進角位相とにおいて、第一及び第二エンジンバルブVe1,Ve2が互いにずれたタイミングにて開くようにしてもよい。
加えて、第一及び第二実施形態において排気系のエンジンバルブVeについては、第三実施形態に準ずる構成の適用により、開閉タイミングを可変させてもよい。また逆に、第三及び第四実施形態において吸気系のエンジンバルブVi1,Vi2については、第一実施形態に準ずる構成の適用により、開閉タイミングを可変させてもよい。
また加えて、第一〜第四実施形態において個別調整機構20,30については、それぞれ個別のバルブカムC1,C2に内蔵されて、それら各バルブカムC1,C2のカム軸2に対する回転位相を独立して調整する構造であれば、各種の構造を採用できる。さらに加えて、第一〜第四実施形態において共通調整機構40については、クランク軸からの出力トルクの伝達により回転する駆動回転体41と、カム軸2に固定されて回転する従動回転体42との間に相対回転を生じさせる構造であれば、例えば電動バルブタイミング調整装置等の各種の構造を採用できる。
またさらに加えて、本発明は、第一〜第四実施形態の如く内燃機関1,301としてのポート噴射式レシプロガソリンエンジンに適用される以外にも、本発明の作用効果を得られる限りにおいて、例えば直噴式レシプロガソリンエンジンやレシプロディーゼルエンジン等の各種の内燃機関に適用できるのである。